混沌の街ロスティ

 トリスティアより一足早く東トーバを出ていたのは、リクという名の少女であった。
 周囲の警備の薄い場所を選んで、東トーバから出るリク。一歩外に出ると、リクの前に広がるのは見渡す限りの荒野であった。その荒野の上空を東トーバに向けて飛び込む二つの機体がある。
「! あれは、拓哉の世界の……! って、事は君主マハの奪還に成功したんだね!これは何としても街の様子を確かめなくちゃ!」
 懇意の神官たちから渡された地図を片手に、一番近い街を目指すリク。幸い東トーバを囲む警備は、鷲塚拓哉(わしづかたくや)の探査戦闘機やエアカーに集中していた為、リクは怪しまれる事なく目指す街へと到達していた。

 ざわめく街中。どこか不安な瞳をする人々が行き交う街ロスティ。かつて、隠密行動をする神官たちの中継地点となっていた街は今、不穏な雰囲気に包まれていた。
「……どうしたのかな」
 警戒しつつも街の様子を観察するリクに、一人の男が近付く。
「……きょろきょろするな……正面だけを見ろ……」
 リクにだけ聞こえるようにささやかれる声。その声に、従って正面だけを見るリクの視界に、凄惨な光景が広がる。
「キヒヒ。夢魔ごとき下等な魔の夢から覚めた奴はいねぇかィ?」
 盛り上がる筋肉をあらわにした魔が、辺りを歩く人間を捕まえてぐにゃりとつぶす。
「夢から覚めてもらわにゃ、ちィっとも楽しくねぇからよォ。キヒヒヒ」
 この様子に幾人からか悲鳴が上がると、魔は喜んだようにその人間たちの逃げ出す先に踊り出る。
「ほぅォ、よおやくお目覚めかィ? この街は、このからはこの修羅族様の物サ。従う気がなけりゃ、いつでもこんなモノになるって、サ!」
 肉片を人間の顔に投げかける修羅族と呼ばれる魔。恐怖に震え上がる人間の反応がよほど楽しいらしい。その一人の首に手をかけると、にやりと笑った。
「おおっと、いけねェ! ちっと手が滑って首をもいじまう事もあるからョ。これからは気をつけるんだ、ナ!」
 わざとバランスを崩して見せる修羅族の側に、先まで生きていた人の首が転がった。

『く、このまま見逃す事なんて……!』
 無闇に危険なところへ突っ込む気はなかったリク。気持ちを必死で落ち着けているリクに、声をかけた男が続ける。
「……街の雰囲気が変わった……多分、夢魔の影響がなくなって来たせいだろう……夢が終われば、人は恐怖に支配されるのだろう……これ以上は危険だ……私は東トーバに戻るがおまえはどうする……?」
 リクに声をかけたのは、連絡役として東トーバを出ていた神官だった。神官の声に、リクはしばし考え込んでいた。


続ける