『……の残照……』  〜異世界への階段 

出演:アリューシャ・カプラート     
アルヴァート・シルバーフェーダ

 まだ幼いがどことなく気品のある顔立ちをしていた少女が気づくと階段の上に立っていた。
「……ここって、どこでしょうぅ?」
 無機質な空間に浮かぶ階段の上で、澄んだ美しい声を響かせる少女はアリューシャ・カプラート。少女の藍色の瞳で辺りを見渡すと、自分の立つ階段は直線的に進んでは曲がりくねり、さらに踊り場から四方に伸びて続いてゆく。
 その時、闇の中に響き渡る音がある。
 ドォン……ドォン……
 響きは、アリューシャに「何か」を思い出させる。それは、アリューシャが母の胎内にいたときには、絶えず聞こえていたであろう心音。生まれてからは自ら耳を傾けない限り、自分以外の心音を聴く ことはない音に、アリューシャは思いをはせる。
「……この音に近づこうとすることは、他人の心、気持ちを汲み取ろうとすることにも繋がるかなぁ……」
 そう考えてみたアリューシャが音の方向へと向かって歩くことをきめた。

 大人びた印象を与える顔だちの青年アルヴァート・シルバーフェーダもまた、気づくと闇に浮かぶ階段の上に立っていた。
「……よくわからないけど、ここにいちゃいけない気だけはするんだよ ね」
 なんにでもすぐ首を突っ込みたがるアルヴァートは、実年は14歳の少年である。好奇心旺盛なアルヴァートが進み始め ようとする時、闇の中に響き渡る音がある。
「……なんだろうこの音……道の壁に反響してるから相対的には“ドォン”と聞こえるけど……」
 絶対音階を有するアルヴァートは、響く音を反響による音のずれまでも想定する。そして、アルヴァートの知覚する音は「ドォン」ではなかっ た。
「よく耳を澄ませば……“ドクン”……っていってるように聞こえるな ……まるで心臓の音のように……」
 そうしてアルヴァートはとりあえず音の正体が何なのかを突き止めるべく音のする方向へ歩き出すことに決めた。

 心音と思われる音の響く方向につながる階段を選んで進むアリューシャとアルヴァート。
 同じ音に惹かれて同じ場所に向かっている二人は、やがて階段の踊り場で出会う。
「あ、あの……こんにちはですぅ!」
 どこか不安げなアリューシャが、始めて階段で出会った青年に挨拶すると、アリューシャに負けない美しいテノールの声と笑顔がかえってきた。
「やぁ、きれいな声だね。もしかして君もこの心音みたいな音の方向に向かってるの?」
「そ、そうですぅ。心に直接響いてくるようなあの音の正体が分かれば、なぜか今よりもっとうまく歌えるような気がしますのでぇ」
「そっか。目的地が同じなら一緒に行かないか?」
 明るく誘うアルヴァートに、アリョーシャが喜んで頷いた。

 闇の中、白く浮かぶ階段の流れ。
 無機質な空間に響く低音。
 そこに、透き通る二つの響きが加わった。

 心音に導かれる階段の中、聞こえてくる音に対するアルヴァートは自分の音に対する見解を打ち明ける。そしてア リューシャの意見を聞かせてもらいながら二人は階段を進んでゆく。
「どことなく太鼓の音に似た、規則正しく発せられる音みたいですよね ぇ」
「打楽器による原始音楽ね……なるほど、そう言う解釈も出来るね……まあ、実際見てみればはっきりするよ」
 同じ音楽の道を進み何事にも前向きなアルヴァートに、歌姫を目指しているアリューシャは信頼感を抱きはじめていた。

 やがて二人の辿り着く場所。
 階段の消えるその先は、さらに深い闇が広がるばかりの空間だった。
 顔を見合わせた二人は、迷わず闇の中へと飛び込んでゆく。
 階段の続く先には何かがある確信があったのだ。
 そさらに二人には、階段の中で築いた互いへの信頼感がある。
 不安を抱かせるものは何もなかった。
「飛び込むかい?」
「もちろん、飛び込みますぅ!」
 二人が消える。闇の空間。
 消え行く二人の姿の後も、響き渡る音にまぎれて囁く声が、ある。
「スベテハオモイノママニ……」
 存在する世界はすべてが二人のものであった。


 深い闇に包まれた場所。
 けれどそこは暖かい水に包まれた場所だった。
 まだ光の生まれていない闇の中、今も響くのはさらに力強く響く規則的な音。
 この空間で育まれる生命の息吹をアリョーシャとアルヴァートとが知覚する。
 その生命を育む存在こそが音源であったのだ。

「音……アンダンテ……歩く速さ……ですねぇ」
 暖かい水にたゆたいながら懐かしい音に耳を傾けるアリューシャ。一方、「音の根源」に触れたアルヴァートがその荘厳な 響きに聞きほれ、耳と心を一心不乱に傾けつづけます。
「……今まで、俺って音楽って自分が楽しくて人を楽しませればそれ だけでいい……そう思っていた。でも、それだけじゃただ音楽の表面をなぞっているだけなんだなって思い知ったよ。……きちんと自分の心を乗せて、相手の心に響かせる……それが出来てこそ……はじめて音楽って言えるんだってわかったよ……」
 そのアルヴァートの言葉に、アリューシャは今まで音楽に対して行き詰まっていた自分を見つける。自らの世界では音楽的技術を高めることに一生懸命になっていて、自分でも何か足りないと思いつつも、ただがむしゃらになっていた状態だったのだ。
「……そうですねぇ。自分の心を伝えるだけでなくて、聴いている人の気持ちも汲み取って、楽しみを共有するってことも大事かな」
 アルヴァートから音楽の心を学んだアリューシャが、可憐な笑顔を見せる。その姿は、暗闇の中にあってさえ、アルヴァートには輝いて見えた。そして、アリューシャの手を取って、自分の胸に当てる。
「……ね、伝わるかな……俺の気持ち……」
「ん〜、ちょっと待ってくださいねぇ……今はまだ音に耳を澄ましてますからぁ」
 まだ音に聞き入っていたアリューシャが、思考を切り替えられず至極まじめな顔で応じる。そのことを確認したアルヴァートが慌てて手を離す。
「いや……じっくり考えてくれていいよ。急がないからさ」
 そうして二人は、よりそうように生命を育む音に聞き入ったという。

 やがてその闇の世界からは、聞く者に安らぎをもたらす美しきデェエットが奏でられる。
 そんな二人の音楽を他の世界でも聞くことができる日は、いつかくることだろう。


【世界共通取得アイテム】

心の指輪:互いの気持ちが伝えられる銀のピンキーリング。二人が同じ世界にいる時に、“互いを思う気持ちが通じ合う時だけ”小指に現れる。


【マスターより】

 やってほしい♪と思っていた世界を、的確にアクションにしていただけて感激です! これからぜひまた二人の世界を進展させていってください♪

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