「英雄復活リベンジ・オブ・ジャスティス」

第2部「ハルマゲドン編」第1回

サブタイトル「日本解放! 大破壊の旅」

執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま

1.第1部隊、また壊滅

 福岡。
 九州の北、博多湾に面する100万都市である。
 その都市はいま、デッドクラッシャーズの超甲人たちによって支配されている。
「ヒャッヒャッヒャ、死ね〜」
「た、助けてくれー!」
 ズドーン、バタッ
 市内をところせましと闊歩し、暇つぶしに市民を抹殺してほくそ笑む超甲人たち。
 そんな超甲人たちを束ねる超甲人機が、デッドカンガルーだ。
「デッド、デッド、デッドカンガルー!」
 巨大なカンガルーの姿をしたデッドカンガルーが市街を飛び跳ねる。
 大きく跳躍したデッドカンガルーが着地した道路は大きく凹み、深いくぼみが生じた。
 超甲人機の強力な足蹴りをくらったビル群が、次々にくずおれてゆく。
 デッドカンガルーが向かうのは、福岡タワー。
 高さ234メートル。
 日本で一番高い海浜タワーであり、福岡市のシンボルともいえる超弩級建築物だ。
 その福岡タワーに、デッドカンガルーは向かっていた。
 気まぐれに飛び跳ね、あちこちを破壊しながら。
「やめろー! 福岡のシンボル、福岡タワーに何をするつもりだ〜!」
 危機を感じた福岡市民たちがタワーの周囲に集い、超甲人機の侵攻を阻止すべく、バリケードを形成した。
「フハハハハハハ! 福岡タワーを改造して、デッドクラッシャーズの有害電波を流す殺人塔に変えてやる!」
 デッドカンガルーは笑いながら市民たちのバリケードに突入。
 悲鳴が上がり、蹴り飛ばされた市民たちが宙を舞う。
 デッドカンガルーに続いて、自動小銃を構えた超甲人たちが現れ、邪魔する者を次々に蜂の巣へと変えてゆく。
「そこまでだ!」
 タワーがあともう少しで占拠されようというとき、レッドクロスを装着したアーマードピジョンのガーディアンたちが現れ、デッドカンガルーと超甲人たちに攻撃を開始した。
 激しい戦闘の中で、超甲人たちが次々に破壊されてゆく。
「フン、ピジョンのコワッパどもが! 地方にまでご苦労なことだな、すぐ楽にしてやろう!」
 デッドカンガルーはせせら笑いながら、空高く跳躍。
 ドシーン
 着地の際に踏みつぶされたガーディアンたちのレッドクロスが炎をあげ、次々に砕け散ってゆく。
「う、うわー!」
 クロスを失ったガーディアンたちは呆気なく絶命した。
 仲間の死を目のあたりにしたガーディアンたちは、茫然としながらもカンガルーに襲いかかる。
「ハハハハハハハ! 何人かかろうと同じことだ!」
 カンガルーは笑いながら強靭な蹴りを放ち、ガーディアンたちを宙に舞い上げてゆく。
 一人、また一人。
 クロスを破壊されたガーディアンたちが息絶えていった。
「ふ、福岡解放作戦の第1部隊、全滅です!」
 戦闘の様子をモニターしていたピジョンのスタッフが悲鳴をあげる。
「全滅だと、まさか!?」
「うん、でも、一人だけまだ無事な者が……こいつだけ隊から離れてるけど、何でだろ?」
 モニターに光る点をひとつ確認しながら、スタッフは首をかしげた。
「ハハハハハハハ!」
 倒れたガーディアンたちを踏みつけ、たからかに笑うデッドカンガルー。
「ハハハハハハハ!」
「ハハハハハハハ!」
「……うん?」
 頭上から自分と同じように笑い声をあげる存在に、カンガルーは眉をひそめた。
「ハハハハハハハ! アッハッハ〜」
 いまやその笑い声はありえないほどのテンションに達していた。
「な、何者だ!?」
 カンガルーが頭上をみあげると、そこには。
 福岡タワーの頂上に立つ、一人の少女の姿が。
 下からなのでパンツがみえそうだが、タワーが高すぎてみえない。
「ボクがなぜ笑っているか知りたいかな? お前たちがあまりにも愚かだからだ! 聞け、ボクはお前たちデッドクラッシャーズを絶対許さない!」
 笑いから一転、トリスティアは眼下のカンガルーをきっと睨みつけて怒鳴りつける。
 そんな彼女の脳裏には、国会議事堂にて哀しい最期を遂げた、ネコ男爵の姿があった。
「愚か? フン、どっちが愚かだ。高いところに行ってかっこつけたつもりか? 何とかと煙は高いところに行くというがな〜」
 カンガルーは嘲笑を浮かべた。
「ほざけ! おしゃべりはもう終わりだ! 行くぞ、とおっ」
 タワーの頂上から、少女は飛び降りた。
 普通の人間がその光景をみたら、飛び降り自殺をするのだと勘違いするだろう。
 だが、違った。
 少女は飛び降りながら、ボール状のレッドクロスを振りかざしたのだ!
「ボクを甘くみると痛い目にあうぞ! うお〜ぐい〜んどか〜ん!」
 最後の方は声にならない叫びと化していた。
 レッドクロスが光を放ち、地上に落下する少女の身体を包み込む。
「弾き飛ばしてやる! デッドアクション、レディー!」
 デッドカンガルーはトリスティアの襲撃に備えてかがみこみ、筋肉隆々の後脚を宙に向けた。
「とあ〜」
 レッドクロスを装着したトリスティアが、きりもみキックをデッドカンガルーに放つ。
「くらえ、デッドカンガルー反射キック!」
 どごーん
 キックとキックが激突し、すさまじい爆発が起こる。
 ビリビリビリ
 デッドカンガルー周辺の路面に放射状にひびが走った。
「ふっ、お前もキックを使うのか。面白い」
 着地したトリスティアに、デッドカンガルーが不敵な笑みをみせる。
「ふん、ボクのキックの方が強いぞ!」
 トリスティアはデッドカンガルーにまわし蹴りを放った。
「なに、かかと落としか!? だが……」
 カンガルーは器用に身をひねると、後脚の力で空高く跳躍。
「デッド、踏みつぶしー!」
「うわー」
 ドゴーン
 巨大な体重の下敷きになったトリスティアは、仰向けの姿勢で地中にめりこんだ。
 路面に人型の穴が空く。
「あ、あうう〜」
 紙のように薄っぺらくなった姿でピクピクと震えるトリスティア。
「ふっ、口ほどにもない」
 カンガルーはトリスティアを引き起こすと、その身体の特徴である、お腹の袋に頭から抱え入れてしまった!
「も、もがもが。何をする! 出せ〜」
 カンガルーの袋の中で暴れるトリスティア。
「いくぞ、必殺! デッド袋詰め〜」
 トリスティアをお腹の袋に入れたまま、カンガルーは辺りを激しく飛びまわった。
 ズシーン、ズシーン
 カンガルーが着地するたびに、袋の中に逆さまに入っているトリスティアの頭部に大きな衝撃がはしる。
「う、うわ〜頭が痛い! 助けて〜」
 カンガルーの子供になった気分を味わいながら、トリスティアは悲鳴をあげる。
 このままでは、トリスティアが死んでしまう!
 そのとき。
「トリックスター!」
 トリスティアの叫びにこたえるかのように、福岡市街からすさまじい勢いで無人のエアバイクが走り寄ってきて、カンガルーに激突した。
「うおっ」
 ひるんだカンガルーの袋から、トリスティアが脱出。
 ごろごろごろ
 路面を転がって、真っ黒けの姿でトリスティアは起き上がる。
「トリックスター、みつけたかい?」
 ブン、ブーン
 トリスティアの呼びかけにエンジンを唸らせて答えるエアバイク。
 ズシーン、ズシーン
 福岡市街から、巨大な足音が響く。
「あれは!?」
 デッドカンガルーの目が大きく見開かれた。
「フクオカノーン!」
 ビル群の影からぬっと姿を現したのは、肩に巨大なキャノン砲を装着したロボットの姿だった。
「どうだ、あれはフクオカノン! 福岡の守護神だ! トリックスターが封印石をみつけて、破壊してきてくれたんだ!」
 トリスティアは得意顔でまくしたてる。
「福岡の守護神? ちょっと待て、あんな守護神がいるなんて俺たちは聞いたことがないぞ!」
 周囲で闘いをみていた福岡市民から激しい突っ込みが入るが、にも関わらずフクオカノンは確かに存在するのである。
「フクオカノーン、発射!」
 フクオカノンは前かがみの姿勢になると、肩のキャノン砲から弾丸を発射。
 ちゅどーん
 デッドカンガルー周辺に弾丸が炸裂、激しい爆発が巻き起こる。
「う、うお〜げほっげほっ」
 せきこむデッドカンガルーに、トリスティアが突進。
「とおっ」
 空高く跳躍したトリスティアのかかとから、赤い光が放たれる。
 光はデッドカンガルーの胴体に当たり、照準をセットしたような状態となった。
「いくぞ、クリムゾンフラッシュ!」
 適当に技の名前を叫んでトリスティアはキックをカンガルーの胴体にぶち当てた。
「ぐわー! き、貴様、さっきから何かのパクリのような技ばかり使いおって! さっきのかかと落としもコピーだろうが〜」
 攻撃を受けたカンガルーはもがき苦しみながらわめく。
「ほざけ! ヒーローは偉大なんだ!」
 トリスティアは再び突進。
「これでとどめだ! ハイパー流星キ〜ック!!」
 レッドクロスが光を放ち、トリスティアの全身を包み込む。
 トリスティアの右足に巨大なエネルギーが集積され、ひときわまばゆい光を放った。
「フクオカノーン!」
 フクオカノンもキャノン砲を再発射。
 キャノン砲がカンガルーを直撃した瞬間、トリスティアのキックも同時にカンガルーを貫いていた。
「おのれ〜あ、あがああああああ!」
 絶叫をあげながらデッドカンガルーは大爆発を起こした。
「お、おお〜やったぞ! フクオカノンばんざい、ばんざ〜い!」
 すがすがしい勝利を確認して、福岡市民は先ほどの疑問を忘れたかのように大喜びし、口々にフクオカノンを讃えあげた。
「よし、これで福岡はもう大丈夫だ! 後はフクオカノンがやってくれるぞ! ボクも残りの超甲人たちをやっつけなきゃ!」
 トリスティアはエアバイクにまたがると、福岡完全解放のため、市街に突入していくのだった。
「さすがだな、トリスティア。ホウユウ・シャモンと同じく、彼女もクラス4に該当するとみて間違いないようだ」
 電脳空間で戦闘をモニターしていた、アーマードピジョンのスタッフたちが口々に囁く。
「まだ『発動』を体験していないが、じきにそうなるはずだ、な」
「しかし、なぜトリスティアは、わざわざ仲間がやられた後で出てきたんだ?」
 その疑問には、どのスタッフも首をかしげるばかりだった。
「うーん、やはり『演出』というやつだろうか」
「うーん、第1部隊壊滅しちゃったよな〜」
 スタッフたちは複雑な思いでトリスティアの勇姿をみつめるのだった。

2.地底の対決

 仙台。
 宮城県の中部、仙台平野に位置する東北最大の都市である。
 その仙台の街が、揺れていた。
 街中に、小山のように盛り上がった土くれが巨大なみみずばれのようなラインを描いている。
 仙台市を現在占拠している、超甲人機デッドモグラが市街地の下を掘り進んだ跡だ。
 土くれのラインのおかげで交通は分断され、仙台市民は徒歩での移動を余儀なくされていた。
「くそっ、デッドクラッシャーズめ。俺たちの街を踏みにじりやがって! 超甲人をぶっ殺して街を解放し……ああ〜」
 道ばたで悪態をついていた男性が、超甲人たちに反乱分子とみなされ、自動小銃で蜂の巣にされてゆく。
 人々は青い顔で、ただ支配を受け入れるしかなかった。
「デッド、デッド、デッドモグラァ!」
 どこからか、超甲人機の叫びが響く。
 デッドモグラはずっと地中に潜んでいるため、誰もその姿をみた者はいない。
 ただ、声が地中から響くのみだ。
 ときどき、デッドモグラの餌として選ばれた人々が地中に飲み込まれ、悲鳴をあげることがある。
 まさに恐怖の街と化した仙台。
 仙台の街を見下ろす仙台城、別名青葉城には、伊達政宗の像が静かに立っている。
 そして、像の下にはデッドクラッシャーズの封印石が置かれているのだった。
「やれやれ。やりたい放題だね。あいつら、許すわけにはいかない」
 サイドカーに乗ったグレイズ・ガーナーが仙台市街で愛機を止める。
 行く手には、デッドモグラの掘り進んだ跡の、土くれの山が。
 これ以上、バイクで進むことはできない。
 グレイズがサイドカーを降りると、脇に乗っていたレベッカもまた地上に降り立った。
「僕は一度不覚をとってしまった。この借りは返さなきゃいけないよ」
 グレイズの脳裏に、首相官邸地下で目撃した、首相の最期の姿がよみがえる。
 予告なく襲撃をかけたデッドモグラ。
 その卑劣なやり方に、グレイズは怒りを禁じえなかった。
「グレイズ〜? 物騒な歓迎のご挨拶らしいですわ」
 辺りを珍しそうにきょろきょろとみまわしていたレベッカが、グレイズに声をかける。
 自動小銃を構えた超甲人機たちが二人を取り囲んでいた。
「貴様、何者だ? アーマードピジョンのガーディアンか?」
「ガーディアンではないよ。あの連中から、仙台には誰もきてないみたいだ」
 グレイズの顔が次第にこわばったものとなってきていた。
 口調は依然として穏やかだが、凶相は隠しえない。
「ガーディアンではないなら、何者だ?」
「もうすぐ死ぬ連中に、明かす必要はないさ」
「なにぃ!? なめるなよ、若いの!」
 超甲人たちはいっせいに自動小銃を乱射した。
「誰が若いって?」
 グレイズは華麗な身のこなしで弾丸を避けると、超甲人の後頭部にチョップを炸裂。
 ドゴーン
 超甲人は自動小銃を乱射しながら頭部から煙をあげて爆発。
「やる気だな!」
 残りの超甲人たちがいっせいにグレイズに襲いかかる。
「レベッカ!」
 グレイズがいまや険をおびた声で叫ぶ。
「オーホホホホ、ライトニングブライド召着ですわ〜!」
 レベッカのヘアバンドが光を放ち、強化ドレスを展開。
 黒を基調としたドレスをまとい、二挺の大型拳銃を両手に構えたレベッカが、超甲人の群れに突進する。
 ズキューン!
 ガズーン!
 銃弾が飛びかい、次々に倒れ爆発する超甲人たち。
「ザコは退場しろ! 本命はどこにいる?」
 グレイズは仙台中に響き渡る大声で呼びかけた。
 と。
「挑発に乗ったみたいですわね。感じますわ、地中の波動を!」
 暴れまわっていたレベッカがはたと立ち止まり、目を閉じて、静かに足下から伝わる波動に神経を集中させている。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ
 やがて、波動はグレイズの耳にもはっきり聞こえる轟音となった。
「デッド、デッド、デッドモグラァ!」
「!? 予想以上に早い!」
 突如二人の足下の地面がバリバリと盛り上がったかと思うと、ポッカリと空いた巨大な空洞に二人は飲み込まれていた。
「デッド、デッド、デッド生き埋めぇ! ハハハハハハハ!」
 モグラの笑い声がとどろく。
「く、暗いですわね〜」
 モグラの前脚に身体をつかまれ、地中の奥深くまで沈められてゆく、グレイズとレベッカ。
「この先は……マグマか!」
 地中のマグマが渦巻く地点にまで沈められていくと知って、グレイズは戦慄する。
「グレネードを爆発させる! レベッカ、頼んだぞ」
 ちゅどーん
 グレイズたちはグレネードを爆発させ、モグラの拘束から逃れる。
「うおおっ」
 土くれが次々に振りかかり、グレイズたちの動きを封じる。
「ハハハハハハ! ここは私の王国だ。お前たちは勝てない!」
 モグラの笑い声がとどろく。
「それはどうかな? レベッカ、シークレットアーツだ!」
 グレイズの叫びが地中に響く。。
「わかりましたわ!」
 地中で、レベッカの身体が光を放つ。
 精神を集中させ、デッドモグラが潜むと思われる地点を感知。
「はああああああああああ、ピースメーカー!!」
 ドゴドゴドゴドゴドゴドゴ
 レベッカは両手の大型拳銃を感知した方向に突き出すと、一瞬にして全弾を放出。
 弾丸は熱い土の壁を貫通し、ターゲットに正確に、次々に炸裂する。
「ガアッ、なに!?」
 モグラの悲鳴が響く。
「首相の仇だ、滅びろ!」
 グレイズは絶叫。
「うお、うお〜!!」
 デッドモグラの身体が第爆発を起こし、地中に激震が走った。
「しまった、いまの爆発でマグマが!」
 グレイズは舌打ちする。
「脱出しますわ」
 レベッカはグレイズを抱えて、地上に向かって高速で地中を掘り進む。
 グレイズたちが掘り進む後から、デッドモグラの爆発によって岩盤を割られ、噴出を開始したマグマがほとばしる。
「脱出!」
 グレイズたちは地上に出て、サイドカーに乗った。
 ゴゴゴゴゴゴゴ、しゅごーん!
 グレイズたちの脱出口から、灼熱のマグマが吹き上がる。
「勝ったが、代償は高くついたな」
 グレイズたちは舌打ちして、仙台から走り出てゆく。
「大丈夫かしら? あのマグマで、街は……」
「大丈夫だ。ほら」
 グレイズは後方の、仙台城の方角を指し示した。
 伊達政宗の像の下にあった封印石が、東北大学の学生たちによって割られていた。
「じきに、この街の守護神が復活する。マグマはそいつにどうにかしてもらうとしよう。しかし、これではアーマードピジョンのガーディアンたちの『破壊同伴の勝利』と同じかな。ははっ」
 グレイズは自嘲気味に笑いながら、サイドカーを走らせる。
 その方向は、東京へ。
「センバイン〜!!」
 グレイズたちが仙台から消え去った後、仙台城の地下から復活した仙台の守護神・センバインは街を襲うマグマを聖なる剣で宙に巻き上げ、海に投下したという。
 東北大学の学生たちは「なぜセンダインじゃないんだ!?」と素朴な疑問を抱きながらも、守護神の復活と、仙台解放を喜ぶのだった。
 誰も、グレイズたちの活躍を知ることはなかった。

3.殺人フラッシュの恐怖

 名古屋市。
 愛知県の南部、濃尾平野のただ中に位置する中京地区最大の都市である。
 その名古屋に、いま、恐怖の殺人光線が閃いていた。
「デッド、デッド、デッドフラッシュ〜!!」
 一日に三回、名古屋城の天守閣に鎮座する金のシャチホコの目が光り、強烈な殺人光線を名古屋市中にまき散らす。
 その時間に外出していて光を直視した者はたちまち身体が腐って息絶えるという、恐るべき殺戮の儀式であった。
 殺人光線を何とかしようと名古屋市民の有志が名古屋城に近づこうとしても、日本刀で武装した超甲人たちが行く手を遮り、誰も、どうすることもできない。
 名古屋はまさにデッドシャチホコに占拠されており、人々はその影に脅える毎日であった。
「あれが名古屋城。そして、金のシャチホコですね」
 イングリット・リードは蠅たちに運ばれて名古屋に到着すると、さっそく名古屋城周辺を確認した。
「デッドフラッシュは恐るべき技。ですが、蠅の女王にとっては何でもないこと。……ヴァネッサ、聞いてますか?」
「はい〜聞いてるよ〜」
 イングリットにつき従う義体ハニーブライドに宿る人工寄生体ヴァネッサは、眠たげな声で応答する。
「名古屋を解放します。準備はよろしくて?」
「うん〜まあ〜できてるかも」
 イングリットはヴァネッサの反応にいちいち突っ込むことはやめ、蠅たちを呼び寄せた。
「さあ、召着なさい」
「了解。ハニーブライド、召着だよ〜」
 間の抜けた声でヴァネッサが呟くと、ヘアバンドから強化ドレスが展開。
 強化金属製ロングスカートウエディングドレスとヴェールを身にまとったヴァネッサが浮き上がった。
 と、そこに。
「ギ〜ッ」
 と呻き声をあげながら、真っ黒焦げの姿の異形の存在が転がりこんできた。
「おや? これは、先に放っておいた貴族ですね。気づかれて、焼かれてしまったようですね」
 イングリッドはさして動揺した風もなく、蠅たちに運ばれて浮上し、ヴァネッサとともに名古屋城の天守閣に近づいてゆく。
「フン、結社の蠅か。お前たちの思惑通りにいくと思うな。いくぞ、デッドフラッシュゥ!」
 デッドシャチホコは巨大な瞳でギロリとイングリッドたちを睨むと、殺人光線を放った。
 しゅばああ
 空全体がまばゆい光に埋め尽くされる。
「お、おわあ! いまはフラッシュが出る時間じゃないはずだぞぉぉ」
 思いがけない瞬間にほとばしった光を目撃した住民たちが次々に倒れてゆく。
「しもべたちよ!」
 イングリッドの呼びかけに応じて、空いっぱいを埋め尽くすほどの蠅の大群が地の底からわき上がり、名古屋城とイングリッドたちとの間に障壁を形成する。
 じゅうじゅう
 デッドフラッシュの盾となった蠅たちが、次々に焼かれて塵と化す。
「フハハハハハハ! 無駄なことだ!」
 デッドシャチホコは笑い声をあげて、フラッシュを何度も放射する。
 焼け焦げた蠅たちの死骸が、小高い山を築きつつあった。
「シークレットアーツを使います! ヴァネッサ!」
「はい〜」
 ヴァネッサの身体が光を放ち、イングリッドと融合する。
 むくむくむく
 融合した二人は巨大な蠅の女王、ベルゼブブへと変貌を遂げた。
「名古屋城ごと破壊させてもらうわ!」
 ベルゼブブは巨大な羽をはばたかせて飛翔し、名古屋城に接近。
「フン、焼け死ぬがいい!」
 デッドフラッシュが再び放たれ、ベルゼブブの羽を焼く。
「くっ!」
 地上に落ちたベルゼブブは両の手で名古屋城をがしっと捕えた。
「無駄だ無駄だ!」
 デッドフラッシュの攻撃はやむことなく、ベルゼブブを守らんとする蠅の群れの盾は徐々にくずおれてゆく。
「急がなければ」
 ベルゼブブが焦りだしたころ、名古屋城の中にはモップを担いだ一人の少女の姿が。
 アンナ・ラクシミリアだ。
「あらあら、まあまあ。汚れていますわねえ」
 のんきに呟きながらモップで城内を掃除するアンナ。
 デッドフラッシュの攻撃も、一度城内に入ってしまえば怖くない。
 何かのきっかけで城内に入ってしまったアンナは、徐々に階をのぼりつめ、ついに最上階にまで達していた。
「この上は、天守閣ですわねえ」
 アンナは屋根の上にあがってゆく。
「うん? 何だお前は! 死ね!」
 デッドシャチホコがデッドフラッシュを放ったとき、アンナはモップを正面に構えた。
「ハイパーウォッシャー!」
 回転するモップの先端から渦巻状に水を噴出させ、フラッシュを防いでしまう。
「シャチホコさんもお掃除しなきゃダメダメですわ。あら? こっちのシャチホコに、不思議な石がついてますわ」
 アンナは、デッドシャチホコと対になっているもうひとつのシャチホコの側面に、デッドクラッシャーズの封印石をみつけた。
「な!? そ、それに触れるな!」
 デッドシャチホコが悲鳴をあげるが、とき既に遅し。
 アンナはモップを叩きつけて、石を割ってしまった。
「お掃除、お掃除〜」
 ゴゴゴゴゴ
 名古屋城全体が揺れ動き始めた。
「何かしら?」
 ベルゼブブは名古屋城を捕えていた手を放す。
「ナゴーン! ナゴーン!」
 封印石がついていたシャチホコの目が光り輝き、不思議な叫び声をあげる。
「く、くそっ! 至近距離で私が監視していれば安全と思ったのだが」
 デッドシャチホコは明らかに狼狽していた。
「あれは、伝説に聞く名古屋の守護神、ナゴン!? バカな、もうひとつのシャチホコがそうだったというのか!?」
 住民たちは目を丸くした。
 ナゴン。
 太古の昔地球を支配していた先住民族の生き残りであり、名古屋湾の海底にある宮殿で眠りについていたところを、江戸幕府が引き上げ、名古屋の守護神として名古屋城にまつっていたものらしい。
 勝手に守護神とされていたわけだが、果たしてナゴンは名古屋を救うつもりがあるのか!?
「ナゴーン! ナゴーン!」
 ナゴンは名古屋城の天守から宙に浮上し、デッドシャチホコに接近してゆく。
「やめろ、くるなー!」
 デッドシャチホコは慌ててフラッシュを連発するが、ナゴンには通じない。
「ナゴンは、封印石で自分を封じたデッドクラッシャーズに怒っているんだ!」
 住民たちはナゴンの意向を察した。
「ナゴーン!」
 ナゴンの体当たりを受けて、デッドシャチホコは天守から落下。
「う、うわー!」
 パリーン!
 石垣に激突したデッドシャチホコはこなごなに砕け散った。
「あら〜? もしかして、デッドシャチホコって自分で動くことができない置き物みたいなものだったのかしら?」
 アンナは首をかしげる。
「くそっ! フラッシュを防ぎながら攻撃を仕掛けるのに手間取っていたら、先を越されてしまったようだ」
 ベルゼブブは舌打ちして、イングリッドとヴァネッサの姿に戻る。
「ナゴーン! これからも名古屋を守ってくれ!」
「守ってくれー!」
 住民たちの呼び声が通じたのかそうでないのか、ナゴンは再び天守の一角に鎮座して、動きを止め、眠りについた。
「守護神が超甲人機を倒してしまいましたわ。賞金をもらえませんわね。あーあ」
 アンナはため息をついて、城を降りてゆく。
「まあ、いいですわ。名古屋城を傷つけなくてすんだのですから。ヴァネッサ、東京に向かいますよ」
「はあ、仕事が終わったぁ。すやすや……」
「寝てるんじゃないの!」
 イングリットはヴァネッサを叱りつけ、無理やり引きずって東京に向かうのだった。

4.大阪城崩壊

 大阪市。
 近畿地方の中心に位置し、大阪湾に面する関西一の大都市である。
 その大阪に、ムササビが飛んでいた!
「デッド、デッド、デッドムササビィ!」
 デッドクラッシャーズ大阪占拠部隊のリーダーである超甲人機デッドムササビは、大阪城(大坂城)の天守から今日も大坂上空に飛びたっていく。
「くらえ、愚民ども! デッド落下傘!!」
 デッドムササビが大空いっぱいに広げた飛膜から、大量のミサイルが投下される。
 しゅるるるる
 どかーん!
 ウワー!
 キャー!
 ミサイルの爆発で焼かれる大阪の街。悲鳴をあげ逃げ惑う人々。
 デッドムササビの支配に、秩序だった側面はない。
 ただひたすら、無作為に人々を殺戮する。
 それが、デッドムササビのやり方だった。
「ひ、ひどい! 日本の地方都市の中でここが一番悲惨やで! 許さへんで!」
 大阪に到着したアオイ・シャモンは火炎地獄と化した街なみに戦慄を禁じえなかった。
「ムササビィ! グライダー! ぐいーん」
 デッドムササビは大阪を周回し、通天閣につかまってちょっと休んでから、再び大阪城に戻ってゆく。
「ひゃははははは! お前らはアホや! 死ぬべきなんや〜」
 爆発による火災が広がる市街地に、ムチを構えた超甲人の部隊が現れ、逃げ惑う人々を情け容赦なく打ちのめす。
「くっ! お前らこそ、死ぬべきや〜!」
 アオイは怒りをおさえきれず、大阪上空を滑空して、対装甲散弾銃を超甲人たちにお見舞いする。
 がーん!
 ごーん!
「うおおおお〜ピジョンめ〜」
 超甲人たちは悲鳴をあげながら次々に爆発、炎上してゆく。
「はっはっは、きたな〜」
 大阪城から、再びデッドムササビが飛翔を開始。
「ムササビの化け物め〜、大阪から出てけ〜!」
 アオイもデッドムササビに向かって飛翔し、散弾銃を放つ。
「そんなものに当たるか〜!」
 ムササビは空中で器用に身をくねらせ、弾丸を避けてゆく。
「来るのが遅かったな! もう大阪は壊滅だ! それ、デッド落下傘〜」
 ムササビは再び飛膜を広げ、ミサイルを投下してゆく。
「ああ〜! やめろ、やめるんや〜!」
 アオイの悲鳴が大阪上空にとどろいた、そのとき。
「きましたね」
 地上には、ミズキ・シャモンの姿が。
「精神集中、陰陽五行、木行の力! 竜巻発生です!」
 ミズキが目を閉じ、両手を大きく振りあげると、たちまち大きな竜巻が発生し、降下してきたデッド落下傘を巻き上げてゆく。
「お、おのれ〜! お前から殺してやる!」
 デッドムササビは怒りをあらわにして、地上のミズキめがけて滑空していった。
「そうはさせへんで〜」
 アオイもまた滑空してデッドムササビに体当たりを仕掛け、散弾銃を乱射する。
 激しい空中戦が始まった。
「さあ、いまのうちです」
 ミズキに促されて、クレハ・シャモンが目を閉じ、霊力を集中させる。
「いきますよ、必殺! 夢想結界!!」
 クレハのレッドクロスが光を放ち、半径100メートル以内の空間内を浄化する結界を張る。
「これなら、デッド落下傘も、超甲人たちの攻撃も防ぐことができますね」
 ミズキはホッとひと息つくと、いつの間にか周囲に集っていた大阪市民たちを振り返った。
「みなさんに、お聞きしたいことがあります。みなさんは、知りませんか? 大阪の守護神のことを? デッドクラッシャーズに封印されているはずなのですが?」
 ミズキの問いに、市民たちは首をかしげた。
「大阪の守護神やて? うーん、やっぱりタイガーかな」
「そうや、タイガーや! きっとそうや!」
 市民たちはタイガータイガーと叫び始めた。
「タイガー? それ、本当に守護神なんですか?」
 ミズキは目をぱちぱちする。
「よし、みんなでタイガーを呼ぼう!
「合点や!」
 大阪市民たちは不思議な歌を歌い始めた。
「この歌は……おろし!? わさびかしら?」
 ミズキは違和感を感じながら、守護神の封印石がみつからないかと周囲をみまわす。
「みつからないわ! ああ、アオイが!」
 上空を見上げたミズキは悲鳴をあげる。
 デッドムササビが巨大な口をパックリ開けて、空中のアオイの肩に噛みついたのだ!
「きゃ、きゃあああ! アーマーが!」
 アオイの肩から煙があがる。
 そのとき。
 ガオー!
 地上から巨大な影が飛びあがり、デッドムササビの胴体に噛みついた!
「う、うおお!? こ、これは?」
 激痛のあまり悲鳴をあげて、ムササビはアオイの肩から離れる。
「ト、トラですよ!」
 クレハがびっくりしたような声をあげる。
 デッドムササビに噛みついた巨大なトラは地上に降り立つと、どこかへ消えてしまった。
「おお、タイガーや!」
「タイガー、タイガー!」
 大阪市民たちは熱狂して大騒ぎを始める。
「さあ、逆転やで!」
 アオイは激痛に喘ぐデッドムササビを追い詰める。
「くっ、形成不利か! ならば、篭城だ!」
 デッドムササビは大阪城に舞い戻ると、城内に閉じこもってしまった。
「無駄やー!」
 アオイは叫び声をあげ、大阪城に接近。
「うおお、クロスの力解放や!」
 アオイの闘争本能がメラメラと燃え上がり、レッドクロスが光を放つ。
 ガガガッ
 アオイの全身から砲門が突き出し、大阪城に向けられた。
「ア,アオイ!? 何を……」
 驚いたミズキが制止しようとしたが、遅かった。
「ゆけ、怒りの弾丸よ! 正義の炎を燃えあがらせろ! 必殺フルバースト・フォーメーション!!」
 アオイの全身の砲門からいっせいに火を吹き、無数の弾丸を大阪城に叩き込む。
 ちゅどどどどどど
 どごーん!
 大阪城の天守が大爆発を起こし、篭城していたデッドムササビは宙に放りだされた。
「う、うわわ〜」
 目を丸くして空中をひらひら舞うデッドムササビ。
「いまや! 姉ちゃん!」
 アオイの叫びに、ミズキははっと我に返る。
「もうここまできたらやるしかないですね」
 両手を振り上げたミズキのクロスが光を放つ。
「大きいのをかませましょう! 式神バックスクリーン3連発!」
 ミズキが撒いた紙切れが巨大な3人の鬼の姿に変わる。
 鬼たちは、それぞれが巨大なバットを背負っていた。
「さあ、ピッチャー、振りかぶってー、投げました!」
 どこからか、野球のボールが鬼たちの一人に向かって投げつけられる。
「バッター、大きく構えてー、打ちました!」
 どこからか流れるアナウンスの声にあわせて、鬼たちの一人がバットを大きく振って真芯でボールをとらえる。
 カキーン!
「お〜っと、これは大きい、大きい! 伸びる、伸びる、ホームランだ、ホームランだぁ!」
 どごっ
 超高速で宙を飛んだボールがムササビに炸裂。
「ああ〜!」
 ムササビの悲鳴がまた宙に響く。
 カキーン!
 カキーン!」
 ほかの2人の鬼も次々にボールをバットで打ち飛ばし、大きなホームランの玉をムササビに激突させた。
「ぐわっ、ぐわ〜! おのれ〜!」
 悲鳴をあげながら、デッドムササビは落下し、道頓堀に沈む。
 どぼーん!
 ちゅどーん!
 ムササビが道頓堀に沈むと同時に、大爆発が起こった。
「おお〜、やった! やったぞ〜!」
「タイガー、タイガーのおかげや!」
 大阪市民たちは万歳して、勝利を喜びあった。
「ミズキ、これを」
 クレハが、地面に置いてある封印石をミズキに示した。
「これは!?」
 さっそくミズキが石を割ると、地の震える音が。
 ゴゴゴゴゴ
「ナンバンジー!」
 でっぷりと太った巨人が大阪に現れ、空に向かって絶叫する。
「あれが大阪の守護神、ナンバンジーですね。では、さっきのタイガーはいったい? 大阪人の妄想が生み出した幻獣だったのかしら」
 ミズキは首をかしげる。
 大阪市民たちは、ナンバンジーになど目もくれず、飲めや歌えやの大騒ぎを始めている。
「姉ちゃーん、やったでー!」
 アオイが笑顔を浮かべながら、ミズキたちのいる地点に降りてくる。
「やりましたね。では、この地をこっそり立ち去るとしましょう」
「えっ? 何でこっそりするんや?」
 アオイは不思議な顔。
「いいから、いいから。大阪市民が浮かれてるうちに、早く、早く!」
 ミズキはクレハ、アオイとともに急いで大阪を去ってゆく。
 3人の背後には、破壊された大阪城の姿があった……。

5.デッドの扉

 富士の樹海。
 フルメタルが一時的に駐留して以降、樹海には人の気配がないかに思えた。
 だが、いまは、デッドナイトが超甲人たちに命じて、ひそかに暗黒の城をつくらせている。
「大いなる主が解放されてから、この城を拠点とできるようにしよう」
 デッドナイトはそう考えていた。
「う〜む、あれがデッドナイトの築いているという暗黒の城か。真っ黒な石で構築されているようだのう」
 エルンスト・ハウアーは樹木の影から築城の様子を眺めながら、樹海の奥へと進んでゆく。
「あのときフルメタルが感知した、太古のエネルギーが渦巻く地点は、この先じゃったかな」
 エルンストは、不思議と身震いするものを感じた。
「何じゃろう? このわしが身震いするなど。禍々しい気が満ちているのは感じるがのう。あの城が発するものではないようだのう」
 首をかしげながら、エルンストは樹海の深奥、狂気の地点へと進んでゆく。
 やがて、霧が濃くなってきた。
 霧の中で、エルンストは不思議な光景が周囲に浮かんでは消えるのに気づいた。
 ナウマン象を追って大陸から日本にやってくる、原始人の集団。
 風林火山の旗を掲げて合戦にのぞむ、戦国時代の武将たち。
「これは? 時間の流れが混濁しておる……気の流れが歪んでいるのじゃな。このままいくと太古の昔、この地で起こったことをみられるかもしれんのう」
 エルンストはどこかゾクゾクするものを感じながら、先へと進む。
 そしてそれは、姿をみせた。
 空間に巨大な亀裂がはしり、亀裂の合間にどこまでも深い空洞をのぞかせる、不思議な地点に。
「うん? あれは……光の射さない空間? 闇への扉かのう? 闇の世界のことなら、ワシも詳しいのじゃが……何か、違うのう」
 エルンストは、自分の知識の中に含まれない何かを、目の前の「扉」に感じていた。
 よくみると、「扉」の付近の地面に、白くてまん丸いかたちの石がいくつか、置かれている。
 その石が何を意味するのかは、エルンストにもわかった。
「封印、じゃな。この『扉』は、かつては大きく開いておったのじゃ。強い力で閉じられているはずのいまも、『扉』は何とかして開こうとして、こうして亀裂のようなものをのぞかせているのじゃな。おお、この封印の石は、ワシでも触れられそうにないわい。これほど強い封印を施すのは、人間には無理じゃのう。では、人間でなければ何が、この『扉』を封じたのかのう」
 その答えは、エルンストにはだいたい見当がついていた。
 封印に使われている石は、エルンストの知識の中にあるもの。
 日本古来の神々の力が宿る石だ。
 そのとき。
 周囲の霧がひときわ暗くなったかと思うと、歴史にない光景をうつしだした。
 太古の昔、目の前の『扉』が大きく開いている状態。
 富士の樹海に巨大な悪魔が君臨し、世界を闇に飲み込もうとしている。
「これは!?」
 その悪魔の姿を目にしたとき、エルンストは直感した。
 これは、この星の生物ではない!
「何ということじゃ。暗黒魔術の世界でも、このような太古の悪夢は語り継がれていないのじゃが? 歴史の中に埋もれたのか、あるいは古の人々はあえてこの記録を葬りさったのか?」
 エルンストはなおも霧の中の光景を観察しようとしたが、霧はまた流れて、太古の記憶をかき消してしまった。
 そのとき。
「うん!? 『扉』が、開いてきている? 封印の力は変わらないが、この『扉』を開けようとする力が増大しておるようじゃのう? 日本中から、恐るべき力がこの地点に集っているようじゃ」
 戦慄するエルンストの眼前で、『扉』の存在を示す、空間の亀裂が徐々に開いてゆく。
 そして。
 その中から、何かが出てこようとしていた。
 エルンストは、はっと気づいた。
 『扉』の向こうにいる何かが、ずっとこの世界を、そしてこの自分をみつめていたのだということに。
 エルンストはすぐにも逃げ出したい衝動に駆られたが、金縛りにあったようになおもふみとどまって、眼前のものを把握しようとした。
 『扉』がぶるっと震え、一瞬だけ亀裂を広げて、もやもやとした何かを樹海の中に吐き出した。
 吐き出した後で、『扉』はまた封印の力でおさえられ、亀裂を狭くしてしまう。
「おお、これは!?」
 『扉』から出てきたものをみて、エルンストは悲鳴をあげそうになった。
「い、いかん。逃げるのじゃ! ワシでも勝てるかどうかわからんわい!」
 エルンストは急いで樹海の中へ引き返してゆく。
「くっ、追ってくるわい!」
 邪悪な生命体が自分を追ってくる気配に、エルンストは息がつまりそうになった。

「むっ? いまの気配、『扉』が一時的に開いた、いや開こうとしたか? ゲソ部長が計画を急ごうとしているようだな」
 城の建築を監督していたデッドナイトが呟く。
 と、そのとき。
「あれがデッドナイトの築いている城か!」
 ホウユウ・シャモンが樹海の上空から城へと突進してゆく。
「おや、またあの男か。懲りない奴だ」
 ホウユウの姿に気づいたデッドナイトも宙に浮上。
「気づかれたか。デッドナイト、何を企んでいる?」
 ホウユウの振り下ろした剣がデッドナイトの剣とかち合い、激しい火花を散らす。
「お前に話す必要はない。ここで成敗してくれる!」
 デッドナイトは剣を巧みに振り回してホウユウを押してゆく。
「くっ、お前の正体は何だ?」
「詮索する暇があったら攻撃するんだな!」
 ホウユウはデッドナイトにただならぬ気迫を感じた。
 だが、負けてはいられない。
「話す気がないなら、話させてやる! うおお〜」
 ホウユウが闘志を燃やすと、レッドクロスが光を放つ。
「そうだ、せいぜいあがくんだな。ノーマルの状態では私に勝てないぞ」
 デッドナイトは笑って、ホウユウを挑発する。
「何を企んでいる? 俺は、俺はお前を!」
 ホウユウの斬神刀が光を放つ。
「もっと力を引き出せ。そうすれば、お前は味方からも追放されることになる」
 デッドナイトの言葉は、ホウユウの耳に入らない。
 ワーン
 ホウユウの脳裏に耳鳴りの音がはしる。
「どれ、試してやろう。音速剣!」
 すううううううう
 デッドナイトは剣・デッドソードを構えると、人間の目では決してとらえられないスピードでホウユウに突進し、斬りつけた。
「はあっ」
 ホウユウもまた、人間の目ではとらえられないスピードで身をひねらせ、音速剣を避けてデッドナイトに斬りつける。
「おお!? よし、その調子だ。容赦なくいくぞ」
 デッドナイトはひるまず、さらに音速剣を二度、三度と続けて放つ。
 放つたびに、音速剣のスピードはますます上がってゆく。
「来るならこい。七ノ秘剣・夢想華! ふうう」
 ホウユウは目をつぶって、大きく息を吸い込んだ。
 あのとき聞こえた声は、こういっていた。
 熱くなるな、と。
 ホウユウは気を鎮め、目の前の敵をうち倒したいとはやる気持ちを取り払い、ひたすら無の境地に埋没していった。
「みえる、みえるぞ!」
 ホウユウの心眼がナイトの音速剣をとらえる。
 ひゅうん、ひゅうん
 繰り出される音速剣を次々と避けるホウユウ。
 もはや神業であった。
「どうした? 避けるだけか? かかってこい」
 ナイトの言葉に、ホウユウは目を開いた。
 ぶあああああ
 ホウユウのレッドクロスはいまや黄金に光り輝き、巨大な光の輪を宙に描いていた。
「いくぞ、たああああああああ!」
 ホウユウは天高く舞い上がる。
(奴には隙がない。やれるか?)
 舞い上がりながら、ホウユウが自分で自分に問うたとき。
(相手は君を誘っている。それでも敢えてやるのか?)
 誰かの声が、ホウユウの脳裏に聞こえてきた。
(誰だ? この前も俺に囁いてきた、お前、いやお前たちはいったい?)
(やるというなら、肝に銘じろ。相手に対して、お前が主になるのだ)
 別の声がホウユウに囁く。
(俺が主になる? どういうことだ?)
(いまはお前が有利なようにみえながら、相手の呼吸に乗せられている。それを、お前が相手を乗せるようにするのだ)
 また別の声が響く。
(いったい何なんだ? 俺が主に? 相手を乗せる? くっ……そうか!)
 ホウユウは、大きく斬神刀を振り上げた。
「くらえ! 剛ノ秘剣・雲燿ノ太刀!」
 ごおおおおおおお
 ものすごい速度でホウユウは降下し、剣を振り下ろして、デッドナイトを一刀両断にせんという勢いだ。
「無駄だ。お前は私の身体を傷つけることはできない。傷つけたとしても、私は死なない」
 デッドナイトは巧みに身をひねって、攻撃を避けようとした。
 避けながら、ナイトはホウユウに必殺の一撃を放つつもりでいた。
 ホウユウが全力でかかってきた、その瞬間こそチャンスなのだから。
 だが。
 デッドナイトは確かに身をひねったはずだったが、ホウユウの一撃は、最初からナイトを狙っていなかった。
 カキイイイイイイン!
 ホウユウの斬神刀がとらえたのは、デッドナイトの剣、デッドソードだった!
「なに!? 私ではなく、剣を狙っていたのか?」
 意表をつかれて、デッドナイトは思わず叫びをあげる。
 斬神刀の渾身の一撃はデッドソードを砕き、ちりぢりの破片に変える。
「まさかこの剣が砕けるとは! この男、闘い方のレベルが上がっている!? 例の力のようだな」
 相手の身体ではなく、剣を砕くことに集中する。
 だからこそ、ホウユウは相手に対しては無のままでいられたのだ。
 真剣勝負の最大の焦点で根本的な発想の転換をとっさに行うなど、剣の道を極めに極めた真の達人でなければできないことだ。
 なぜ、ホウユウはその境地まで達することができたのか?
「ナイト、ひけ。俺の勝ちだ」
 相手の剣を砕き、どこか放心した心境のホウユウが、抑揚のない口調で呼びかける。
「まだだ。いくぞ」
 デッドナイトが自身の胸甲に手を当てたとき。
(耳をすませ。樹海を走る暗黒魔術の達人がいるぞ)
(そいつを、救え。邪悪なものに……追われている)
 ホウユウの脳裏に再びあの『声』が響きわたる。
「うん? 邪悪なもの? よし、行ってみよう」
 ホウユウはクラクラした心境で、城から離れてゆく。
「どうした? この気配、眷属の一部が出てきたようだが」
 デッドナイトは胸甲から手を放し、去ってゆくホウユウの背中を黙ってみつめていた。

「くっ、くるな! はあああああ」
 エルンスト・ハウアーは『扉』から出てきた邪悪な存在に、暗黒魔術で攻撃を行った。
 だが、暗黒よりもなお暗いその存在は、攻撃を飲み込んで無力化してしまう。
「何ということじゃ! わしはここで死ぬのか? も、もうダメじゃ!」
 エルンストが、観念したとき。
「六ノ秘剣・流星天舞!」
 ホウユウ・シャモンが剣で巻き起こした衝撃波が、暗黒の生命体を切り刻む。
 じゅううううううううううううう
 謎の生命体はぶるぶるっと震えると、消滅した。
「むう。借りができたようじゃの。なぜここに?」
「わからない。声に導かれてきたんだ」
「声に?」
 エルンストはホウユウの顔をしげしげとみつめた。
「それより、俺も聞きたい。いまの化け物は、何だ?」
「おそらく、外宇宙からきた存在じゃな。だんだん察しがついてきたわい。デッドクラッシャーズのルーツはもともと、この地球ではない別の星にあるのじゃ。そして、あの『扉』はその星へと通じるゲートなのじゃな。太古の昔、あのゲートは開いていて、異星の生命体が地球に侵入してきた。そして……いままた、あのゲートは開こうとしている。この日本中に闇の力が満ち、その力があのゲートに注がれているのじゃ。対抗する封印の力が突破されるのは時間の問題、じゃな」
 エルンストは肩をすくめた。
「あんたの攻撃は通じなかったけど、俺の攻撃は通じた。それはなぜだろう?」
「おそらく、その剣じゃな。斬神刀というのか? 不思議なオーラを感じるのう。奴らに対抗できる霊的な力を持っているようじゃ」
 エルンストは、ホウユウの武器が『普通』でないことに気づいていた。
「これから、どうするのじゃ?」
 エルンストの問いに、ホウユウは首をかしげた。
「さあ。ナイトの武器を砕くことはできたが、奴はアンデッドだ。どうやって倒せばいい? 少し考える必要がある。妹たちのことも心配だし、一度戻ることにするよ」
「ふむ。デッドナイトと闘ったのか。おぬしには借りができたことだし、ヒントを教えてやろう。武器を砕いたなら、次は鎧じゃ。だが、気をつけるのじゃな。あの鎧には秘密がある」
 そういって、エルンストは樹海の中に消えていった。
「デッドナイトか。奴は、何をするつもりなのじゃ? 奴はデッドクラッシャーズのルーツとは関係ない存在だという気がするわい。あの城は、日本中から闇の力をかき集める集積点の役割を果たしているようじゃのう。『扉』を開いて、奴はどうするのじゃ? なぜデッドクラッシャーズに協力しているのじゃ、奴は?」
 さすがのエルンストにも、デッドナイトの意向は読めなかった。

6.十九の伝説

 新宿の街。
「デッド、デッド、デッドジャイアントォ!」
 3体のデッドジャイアントが我が物顔に市街を練り歩き、ビル群を蹴散らしてゆく。
 ぎゃあああああ
 うわあああああ
 崩壊するビル群の下敷きになった一般市民たちから、断末魔の叫び声があがる。
 新宿はまさに壊滅寸前だった。
「やりたい放題やっているな」
 佐々木甚八とカミッラ・ロッシーニは、いまいましげにデッドジャイアントたちを見上げている。
「甚八さん! ネコ男爵を倒したあなたと闘えるなんて光栄だよ〜。今度はあいつらをやっつけようね!」
 カミッラは子供っぽい口調で甚八に話しかける。
「ありがとう。でも、ネコ男爵は俺が倒したわけじゃない」
「何で? みんな、あなたが倒したっていってるよ! だから、日本愛猫家連盟もあなたをリンチしようってキャンペーンを張ってるんでしょ」
 カミッラはキャッキャとはしゃぎながら、先に立って歩く甚八と、その側を歩く、甚八の義体であるソラを追いかけてゆく。
「あまりはしゃぐな」
「そうだよ、これから闘いなんだから」
 甚八とソラがカミッラをたしなめる。
「え〜、つまんな〜い。ねえ、アリア」
 カミッラは口をとがらせて、自分の側を歩いている義体のアリアに声をかける。
「そうだね〜、やっぱり闘いは〜闘いだから〜」
 アリアはよくわからない答えを返した。
「よし、仕掛けるぞ」
 甚八はデッドジャイアントたちの直近にまできて、ソラに声をかける。
「あいよ! 召着変身! ブルーブライド!」
 ソラは強化ドレスを装着し、デッドジャイアントアルファの足もとに駆け寄っていった。
「うん? 女か?」
 デッドジャイアントアルファはソラを発見して唸る。
「女かー!」
 ベータとガンマもアルファとともに唸った。
「うらー!」
 ジャイアントたちはいっせいに腰布を取り去る。
「通じるもんか!」
 ジャイアントたちの露になったブツを目にしても、ソラは動揺する気配をみせない。
「よし、義眼から視力機能を取り去って正解だったようだな」
 甚八はウンウンとうなずく。
「あたしたちも、もともと見えないから平気だよ〜」
「だよ〜」
 カミッラとアリアが両手を振りあげ、ばんざいして歓声をあげる。
 二人とも、本来視力がない存在だからこそ、結社に派遣されてきたのだ。
「とあ〜、シャイニングトゥルー!」
 ソラはジャイアントアルファの足を駆けあがり、腰の一物に拳を叩きつける。
 ちゅどーん!
「ぐわ〜」
 爆発が起こり、アルファが悲鳴をあげる。
「やったか?」
 甚八は目を凝らしたが、舞い上がる塵の中で、女性向け精神兵器の破壊を確認できない。
「あたしたちもいくよ! アリア〜!」
「うん! 召着変身、ハミングブライドだよっ!」
 カミッラのかけ声にこたえて、アリアも強化ドレスを装着。
「とあ〜、断ち斬るアリア!」
 アリアはアルファの背後に飛び上がって、口から放たれる音撃の剣で相手の背中に斬りつけた。
「ぐおおおおおおおおお〜がっ、ああああああ〜、ぐ、ぐへへへへへへ」
 背中に傷を負い、悲鳴をあげながらも、アルファは笑い声をあげる。
「なに!?」
 甚八が目を大きく見開く。
 ソラが攻撃を加えたはずの一物が、アルファの股間に依然として付着していた。
 いまやその姿は「垂れ下がり」から「屹立」へと態様を変えている。
「いや〜、きれいな姉ちゃんだな〜、と思ったら興奮しちまってよ〜」
 アルファは、下品な笑い声をあげた。
「か、かたい! 拳が痛いわ」
 ソラは痛む拳を振りながら地上に駆け降りる。
「え〜? もしかしてぼっきんきん〜? やだ〜不潔だよ〜あははははは」
 カミッラがまたしてもキャッキャとはしゃいでいる。
「はしゃいでいる場合か! おのれ、あのブツはあんな風になると極めて硬くなるようだ。くそっ、かくなるうえは! あいつらを誘導するぞ、ソラ!」
 甚八はソラに声をかけると、ジャイアントたちに背を向けて走り始める。
「逃げるのかー!」
 ジャイアントたちは甚八たちを追跡。
「ふふふ、頭は悪いようだな。何も疑わずについてくるぞ」
 甚八は微笑を浮かべる。
 甚八たちは、十九神社の側を走り抜けていった。
「待てー!」
 追跡するジャイアントたちが、巨大な足で神社を破壊する。
「やったな、バチ当たりども!」
 甚八が吠えたとき。
 ゴゴゴゴゴゴ
 破壊された神社周辺の地面が揺れ動く。
「あがっ!? しまった、封印の石を割ってしまった!」
 ジャイアントたちが呻き声をあげる。
「みなさんお待ちかねー! スーパージューク!」
 新宿の大地が割れ、七色の光ととともに、巨大なステージがせりあがる。
 新宿の守護神、スーパージューク。
 その姿は、ネオンを全身に散りばめ、七色に光り輝く巨大ロボットであった。
「じゃじゃーん、いやー、はーっ!」
 奇声をあげるスーパージューク。
「た、対抗せねば!」
 焦るデッドジャイアントたちは合体機能を発動。
「ウガー! デッドジャイアント、デラックスゥ!」
 雲つく巨人、デッドジャイアントデラックス(DGD)が現れた!

7.自爆レンジャー

「スーパージュークは覚醒したが、DGDが現れてしまった。次の作戦に移行するときだ」
 甚八が動こうとした、そのとき。
「そこまでだ、佐々木甚八」
 黒マントに身体を隠し、ネコの仮面をつけた怪しい集団が甚八を取り囲んだ。
「む!? 何者だ?」
「我らは、日本愛猫家連盟。甚八、自らの犯した罪を忘れたとはいわせんぞ」
 ネコ仮面集団はナイフを抜くと、甚八を囲む輪を徐々に狭めてゆく。
「ネコ男爵のことか? 奴は大勢の人間を殺してきた。代償として奴自身が生命を断たれても仕方ないと思うが?」
「黙れ、黙れ黙れ!」
 愛猫家連盟の会員たちは激昂した。
「ネコ男爵は、一匹の哀れなネコに過ぎなかった。デッドクラッシャーズに洗脳され、罪を犯すよう仕向けられていたのだ。甚八、お前はそのことを直前に知りながら、男爵にとどめをさしたのだ!」
「あのとき、とどめをさしたのは俺ではない、といっても信じなさそうだな」
「当り前だ! 下らん言い逃れをするな! 甚八、ネコを殺したお前も死ぬべきなのだ!」
 会員たちはいっせいに切りかかった。
「お前たちの相手をしている暇はない!」
 甚八は跳躍すると、DGDに向かってゆく。
 だが。
 ひゅうううう、ひゅううううう
 闘おうとする甚八に、無数の投石が襲いかかる。
 連盟の会員だけではない、一般的なネコ好きに過ぎない人々も、連盟の意見に共感して、甚八に投石を行っているのだ!
「ネコ殺し! ネコ殺し!」
 人々は連呼する。
「ちょっとあんたら、いい加減にせんと痛い目みるわよ!?」
「やめろ、ソラ」
 殺気だったソラを、甚八が止める。
「甚八、でも……」
「俺たちは、歴史に埋もれて生きるのが定め。表舞台に姿をみせたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。俺たちのような存在は、一般市民には受け入れられないんだ」
 甚八はそういうが、投石を受けながら闘うことなどできるはずがない。
「デッド、デッドォ! ウラ、死ね、ジエンド!」
 DGDの投げつけた巨大なコンクリート塊が、甚八を襲う。
「む!? 避けられない、直撃か!?」
「甚八ぃ!」
 とっさに、ソラは甚八をかばおうとする。
 どどーん
 コンクリート塊が甚八の頭上で爆発。
 煙がたちのぼる。
「あやや〜、甚八さ〜ん、甚八さ〜ん!」
 カミッラが慌てて呼びかけるが、返事はない。
「お、おい、空をみろ!」
 市民たちが、口々に叫ぶ。
 新宿上空に、超未来型AI搭載マシン、フルメタルが姿をみせていた。
 ぐいーん
 戦闘モードに移行、ロボットの姿になるフルメタル。
 スーパージュークの隣に降下し、DGDに対峙する構えとなった。
「守護神とフルメタルが連携か!?」
 市民は熱い拳を握りしめた。
「デッド、デッドォ! 死ね!」
 DGDはコンクリート塊を次々に投げつける。
 スーパージュークとフルメタルは、なかなかに相手に近づけない。
 そのとき。
「待てーい! ピジョンロボの存在を忘れちゃ困るぜ!」
 颯爽たるかけ声とともに、武神鈴のピジョンロボが登場。
「今回はレッドとブルーがいないからちょっと弱体化だが、だからといって負けるつもりはない! いくぜ〜」
 ピジョンロボは、素体粒子放射砲をDGDに放った。
 どごーん、どごーん
 爆発が起き、DGDがよろける。
「よし、いっきに! ライト・ブランド!」
 ピジョンロボがDGDに接近、つかみかかると同時に、武神はスペシャルテクニックを発動。
 空中に巨大な「封」の字が4つ浮かびあがり、逆三角錐形の結界を形成して、DGDを包み込む。
「勝つためには、こうするしかない! 俺の、魔導科学者としての誇りにかけて、お前を倒す!」
 武神は悲痛な叫びをあげながら、結界内でピジョンロボをDGDに抱きつかせ、そして……。
「爆裂刻印、ボムブランド『爆』!!」
 「爆」の字がDGDの体内に刻印され、大爆発が巻き起こった。
 ちゅどーん!
「ぐおおおおお〜」
 悲鳴をあげるDGD。
「うわあああああ」
 武神も悲鳴をあげる。
「ま、まさか、自爆か!? 武神!!」
 戦場をモニターしていたアーマードピジョンのスタッフが驚愕の叫びをあげる。
「今日は武神一人で操縦だから無理だろうと思っていたら、こんな!」
 思わず本音をもらしながら、スタッフの目はモニターに釘づけとなる。
 武神は、死んだのか!?
「デ、デッドォ〜」
 ボムブランドにより合体機構を破壊されたDGDは、もとのデッドジャイアント3体の姿に戻った。
 3体とも、苦しそうに頭を抱えている。
 ちゅど、ちゅどーん
 結界内にいたピジョンロボも大爆発を起こしていた。
 コクピットが、炎に包まれる。
「あ、熱い! もうすぐ死ぬ……エリカ……」
 死を間近に感じて、武神はなぜかエリカの顔を脳裏に浮かべていた。
 そのとき。
「あやつの頭脳、死なすには惜しい。はあああああ!」
 デッドクラッシャーズの女幹部レディ・ミスト(アクア・マナ)が新宿の街に現れ、天高く跳躍。
 爆発するピジョンロボ内部に入り込んだ!
「護りの水! アンチ・ブレイズ・ウォーター!!」
 叫びとともに、アクアの周囲に高密度に凝縮された水のフィールドが発生。
 コクピット内の武神を抱きかかえたアクアは、外に脱出。
 水のフィールドが二人を包み込み、爆発の炎から身を守ってくれる。
「あ……あ?」
「気がついたか」
 異様な冷気に、失神していた武神は目を開く。
「お前は……レディ・ミスト! なぜ俺を助けた?」
「さあ、なぜかな。ピジョンの狗であるお前を助ける義理など私にはないのだが、自らの生命と引き換えに敵を倒そうとする、その心意気に同じ戦士として敬意を表したくなったのかもしれぬ」
 そう言いながら、アクアの視線は武神の下半身にいってしまう。
「うん? あっ!」
 武神は赤面する。
 爆発の際に、武神の衣服はボロボロに焼けこげ、全身の肌が露になっていたのだ。
 当然、下半身もすっぽんぽんの状態であった。
「ジャイアントどものと違って、精神ダメージは少ないな。ふふ」
 アクアは笑って立ち上がる。
「うるさい! 俺のが小さいってか!?」
 武神も股間を隠しながら慌てて立ち上がる。
「そうはいっておらぬ。そこは、大きさで決まるものでもあるまい。のう?」
 微笑するアクアの周囲に、筋肉質の男たちが姿をみせた。
「な、何だ、そいつらは!?」
 えたいのしれぬ恐怖を感じて、武神はあとじさる。
「ああ、こやつらは、男性ガーディアンばかりこの地に集まるのに備えて私が招集しておいた、デッドクラッシャーズ『ホモ性犯罪者部隊』じゃ。まだ役にたってはおらぬが……こやつら、おぬしをみて興奮しているようだぞえ?」
 笑いながらアクアは去ってゆくが、ホモ部隊は徐々に武神ににじり寄ってゆく。
「わあっ、やめろ、変な目で俺をみるな、うわ〜」
「生命が助かっただけでもありがたいと思うがよい。私とお前は敵同士。ホモ部隊には少し餌をやる必要がある。では、さらばじゃ」
 アクアは消えた。
「た、助けてくれ〜!」
 ある意味、死よりも恐ろしい目にあうことになった武神が悲鳴をあげる。
 ホモ部隊がいっせいに武神につかみかかった。
「う〜む、しかし私は、本当に、何であんなのを助けてしまったのであろうな? 口では敬意を表するなどといってみたが、自分でもピンとこぬ。う〜ん、我ながら愚かなことをしたか? もう少し格好のよい男なら助けたくなるのもわかるのだが」
 アクアは武神を振り返ることはなく、ただブツブツとひとりごとを呟いていた。

8.クリスタル解放

「や、やめろ〜!」
 ホモ部隊にのしかかられ、貞操のピンチとなった武神。
「ああ〜、そこに触れるな〜! なぜ俺がこんな目に?」
 人肌のぬくもりにひかれるものを感じつつも、武神は必死で理性を維持しようとする。
 たった、たったらー♪ たった、たったらー♪
 肉地獄と化した新宿上空に、不思議なメロディが鳴り響く。
「人命第一・医療第一・救助第一! アーマードピジョンの最後の良心、泣く子も笑うエリカのレスキューチーム見参〜!!」
 エリカと、彼女をリーダーとするレスキューチームが、空から新宿に到着したのだ!
 エリカ自身はクロスの力で自ら空を飛んでいるが、他のガーディアン等は高田澪の救助ヘリに搭乗している。
「まあっ、あれは……武神さん! 大変です、武神さんの貞操が! 何が何でも救助します!」
 自分自身性犯罪の被害を受けたことのあるエリカは、ホモ部隊にもてあそばれる武神を黙ってみてはいられなかった。
「わかりました。消化弾、発射!」
 高田澪はヘリの消化弾を投下。
 ひゅるるるるる、どごっ、しゅうううううう
 消化弾から発生する煙が、ホモ部隊と武神を襲う。
「げほっ、げほっ、げほっ」
 武神は咳こみ、涙を流した。
「とおっ」
 澪は、ヘリから地上に飛び降りた。
「サイコキネシス発動! ぐい〜ん」
 澪が精神を集中させると、その身体が若干宙に浮きあがり、真紅のオーラを放った。
「う、うわ〜!」
 ホモ部隊の隊員たちは超能力の力でみな宙に浮きあがり、大空の彼方に飛ばされてゆく。
「高田さん、ありがとう。さあ、これで大丈夫です。ああっ」
 澪に礼をいい、武神に駆け寄ったエリカは、顔を真っ赤にして悲鳴をあげる。
「うっ、まあ、みるなよ……ありがとう」
 武神は慌てて股間を隠し、エリカ同様赤い顔で礼をいう。
「武神さん、可哀相に……そんな姿にされて。これ、私のですけど、履いて下さい」
 エリカは着替え用のショーツを取り出すと、武神に渡そうとした。
「おいおい、女性用のを履けるかよ」
 武神はびっくりしてショーツを返そうとする。
「これをどうぞ」
 澪は、男性用のブリーフを武神に渡した。
「ありがとう。でも、何でブリーフなんだろ?」
 首をかしげなら、武神はいそいそとブリーフを履く。
「と、ところで、武神さん、その……いまの部隊に、貞操を奪われてしまったのでしょうか?」
 エリカは、おずおずと切り出す。
「うん、いや、それは……」
「エリカさん、そういうことを聞くのはよくないですよ。逆セクハラになりえます」
 澪がエリカをたしなめる。
「そうでしたね。すみません。でも、私、何だか、武神さんの貞操とか、すごく気になるんです。さっきは初めて生殖器をみてしまいましたし……」
 エリカは再び顔を赤らめてうつむく。
 もともとエリカは男性のモノなど、デッドクラッシャーズに捕まっていたときに見慣れているはずだが、なぜか武神のをみたときはドキドキしてしまったのだ。
「いや、俺のことなんか心配しなくていい。それより、また、きみに逢えて、う、嬉しい……」
 武神は口ごもりながら、エリカの肩に手を置こうとする。
「何だあれは? なぜか知らんが、妙に腹が立つぞえ。男はみんなああなのか?」
 ものかげから様子を見守っていたアクア・マナが舌打ちする。
 ごごごごごごご
 大地が揺れ動く。
「デッドォ!」
 合体機構を破壊されたデッドジャイアント3体が、再び暴れ始めたのだ!
「お二人とも、取り込み中のところすみませんが、攻撃が始まりましたので」
 澪はエリカと武神を促す。
「そうですね。さあ、レスキュー活動を始めましょう。武神さんはヘリの中で休んでいて下さい」
 エリカは力強くいった。
「ああ。じゃあ、また……」
 ヘリの中に入る武神。
「ところでエリカさん、こんなときになんですが、これを」
 澪は、5,000万円の札束をエリカに差し出した。
「ええっ、これは?」
「詳しくは、私の発生器官が再生する、佐々木甚八さんのメッセージで確認して下さい」
 義体・イノセントブライドの体内に存在する高田澪の精神は、ブライドの発声器官を調整して、他人の音声を再現することができる。
「エリカ、聞こえるか? この金は、受け取れない。ネコ男爵との闘いでの最大の貢献者はきみだ。俺はアーマードピジョン所属ではないし、きみが金を受け取るべきだ。自分のために使いたくないなら、別の誰かのために使えばいい。受け取らないなら、焼き捨てるつもりだ。この前は、生命を顧みないきみに怒ってしまって、すまなかった。もう無茶はよせよ。きみには、受け入れてくれる故郷があるのだから」
 澪は、甚八の音声を再現した。
「甚八さん……ありがとうございます。でも、私はお金って興味ないんです。誰かのため、といわれてもやはり甚八さんのお金ですし、額が額です。でも焼き捨てられちゃうのもよくないので、私がいったんお預かりして、甚八さんが欲しいときにいつでもお渡しできるようにしましょう。そう、私を銀行だと思って下さい。エリカが銀行だと」
 エリカは札束を受け取ると、大切にしまいこんだ。
「なるほど、銀行ですね。伝えておきます」
 澪は、本来の声に戻って言った。
「デッドォ!」
「スーパージューク!」
 ジャイアントと守護神、フルメタルの闘いは続いていた。
「守護神たちも苦戦しているようですな。もうひと押しなければ、あやつらは倒せませんね」
 リーフェ・シャルマールが言う。
「これを使えば、どうにか……と思ったのですが、使い方がわかりませんものね」
 エリカは光のクリスタルを取り出して、しげしげとみつめてみた。
「そのクリスタルですが、これまでに2度発動が確認されています。その2度の発動に関わっているのは、武神鈴と、そしてエリカ、キミなのです。今回も発動があれば、武神とエリカ、双方のレッドクロス等においてどんなエネルギーの変化があったか、是非データをとらせて頂きたいのですが」
 リーフェは語った。
「私と、武神さんの? でも、これは特定の個人に対して発動するものではないはず。亜細亜博士はいってましたわ、これは、役にたつときとたたないときがある、と。闇のクリスタルとは反対の性質だから、といってましたけど」
 エリカは首をかしげた。
「闇のクリスタルは、レッドクロスと同じ構造でありながら、人間の心の持つ闇の部分、残忍な衝動、破壊的衝動に強く反応して、その者の力を強化するもの。では、光のクリスタルは? 闇と反対だとすれば、どのような?」
「亜細亜博士がいうには、闇のクリスタルは比較的簡単につくることができたそうです。なぜなら、人の心の闇の部分というのはとらえやすく、強化しやすいものだからだそうです。ところが、その反対の光のクリスタルとなると、極めてつくりにくいものとなるそうなんです。光のクリスタルの発動のもとになるものは、他の感情と比べて、確認しにくいとか、何とかいってましたけど」
「むう。そんなことを言っていたのですね。なるほど」
 リーフェは、熱心にメモをとった。
「で、その確認しにくい感情というのが、特にエリカの場合はよく発現するものなのですね。それは何でしょう?」
「さあ」
 エリカは首をかしげた。
 そのとき。
 どごーん!
 スーパージュークとフルメタルが吹き飛ばされ、デッドジャイアントたちがエリカたちの方にやってきた。
 ジャイアントたちの巨大な足が、武神がぐったりしている救助ヘリに迫る!
「ダ、ダメです! ヘリには誰も乗ってないんですか? 武神さんが、武神さんがー!」
 エリカは、駆け出していた。
「うん? わー! ダメだ、もう身体に力が入らない」
 ヘリ内の武神は逃げようとしたが、自爆時のダメージは激しく、思うように動けない。
「デッド、踏みつぶし!」
「武神さーん!」
 エリカは大地を蹴って、宙に飛び出した。
 エリカの首からペンダントのように下がっていたクリスタルが、光を放つ。
 ぐわああああん
 巨大な光のフィールドが現れ、ヘリを踏みつぶそうとしたデッドジャイアントを弾き飛ばした!
「デッド、なに!? デッド、デッドォ!」
 ジャイアントたちは驚きながらも、コンクリート塊を投げつけ始める。
 きーん、きーん
 光のフィールドは、コンクリート塊も全て弾いてしまう。
「これは!? いま、何が起きて、発動したのだ?」
 リーフェはもっとよくみようとした。
「武神さん、いまのうちに逃げて下さい! 私はこの隙に攻撃してみます!」
 エリカはデッドジャイアントに攻撃を仕掛けようとした。
 すると。
 しゅううううううう
 光のフィールドは一瞬で消滅してしまう。
「むう!? 光のクリスタルとは、まさか!? 私の考えが正しければ、確かに役にたたないときがあるが」
 リーフェは額の汗をぬぐった。
「あなたたち、もう帰って下さい! 新宿は、あなたたちの遊び場ではありません! もうこれ以上、新宿の街を破壊させません!」
 攻撃があまり通じなかったエリカが、力強い口調でジャイアントに呼びかける。
 すると、光のフィールドが再び発生し、ジャイアントたちの前に巨大な壁となってたちはだかる。
「相手を攻撃しようという気持ちを感知すれば発動が停止し、大切な何かを守るという気持ちが強く働けば再び発動する。そうか、闇のクリスタルとは全く逆だ。そしてこれは、防御にしか使えないものなのだ!」
 リーフェは論文のアイデアを思いついて、叫び声をあげた。
「へ〜、つまり、リーフェが使っても、あまり発動しないものなんだ」
 姫柳未来が、意地悪な口調で話しかける。
「なに!? わ、私にも当然使える! まあ純粋な人間というわけではないが、私にも平和を守り、人々の暮らしを守りたいという気持ちが……」
「それはいいけど、いまいち抽象的で、切実じゃないよね。エリカとか、春音とかなら、よく使えると思うんだけど」
「そうか? 切実ではないか、私は。そんなことはないと思うが」
 リーフェはブツブツ言い始めた。
「それより、春音を知らない? せっかく新しいクロスを渡してやったっていうのに、あいつ、どこかに消えちゃって」
 姫柳はきょろきょろ辺りをみまわした。
「クロスを新調だと? キミ自身のクロスは変わらないのか?」
「ううん、こっちも新しくなってるよ。ほら、サイキックブレード!」
 姫柳がブレザー制服型のレッドクロスの胸をこすると、光の剣が胸元から飛び出してきた。
「おお! し、しかし何だか妙な場所に格納されているのだな」
「かっこいいでしょ。でも、電車の中で痴漢されて胸さわられると、すぐにこれが出てきちゃうかな〜、なんて」
 姫柳は舌を出して笑いながら、春音の姿を探し求めた。
「春音〜! 春音〜! どこにいるの? わっ」
 突如現れたグリーンベレー部隊が、姫柳を拘束した!
「きみ、ちょっときてもらおうか」
「ちょ、ちょっと何なの? きゃ〜」
 部隊は、新宿の外れにある軍事用トラックの荷台の中に姫柳を連れ込んだ。
「在日米軍の人たち? ひどいよ、何なの?」
 姫柳は手かせと足かせをはめられ、X線を照射される。
「よし、きみのデータはとれたぞ」
 ローリー・コンドラチェフ司令官が姿をみせた。
「あなた、東京湾にいるはずじゃ?」
「聞け。レッドクロスのデータをもとに、米軍は代替兵器を開発している。闘いが終われば、これまで法に抵触して平気な顔だったガーディアンたちはみな拘禁される運命だ。抵抗すれば、軍が彼らを抹消することもありうるだろう。既に、終戦後のシナリオは描かれているのだ」
「偉そうにいわないで! ガーディアンたちに平和を取り戻してもらって、拘禁するなんて本当に考えてるの? 大人はこれだから嫌いなの!」
 姫柳は手かせをガチャガチャいわせた。
「まあ、最後まで聞け。だが、私は何人かのガーディアンたちは、許そうと思っている。特に、きみだ。きみは、美しい。いまとったデータも、実に素晴らしいものだった。そこで取引だ。私の女になるなら、きみの将来の安全を約束しよう。どうだ?」
 ローリーは、姫柳に近寄って、その手から肘にかけてさすろうとした。
「やだ、触んないで、エッチ! 私のデータって、もしかして身体をみたの? 許せない! あなたの女になるですって? 冗談じゃないよ、もう!」
 姫柳の怒りが爆発した。
 レッドクロスが光を放つ。
 ブチッ
 姫柳を拘束していた手かせと足かせが破壊された。
「おお、なんと元気な。素晴らしい」
 ローリーは両手を広げると、姫柳に抱きつこうとした。
「さ・わ・る・なー!」
 姫柳が絶叫すると同時に、軍事用トラックは大爆発を起こす。
「おお、強烈だ。素晴らしい」
 ボロボロになっても、ローリーはなお瓦礫の中に立ち尽くしている。
「もう二度と私に近寄らないで! 本当に、殺しちゃうからね! 乙女をなめないで!」
 姫柳はプンプンしながらその場を離脱し、再び新宿の市街に戻ってゆく。
「ふふふ。美しいガーディアンは、私のコレクションに入れさせてもらう。姫柳、きみはいつか、私の前にひざまずくときがくるだろう」
 ローリーは汚れた顔をハンカチで拭きながら、ほくそ笑むのだった。

「は〜、姫柳さん、新しいクロスをくれたけど、これも、何だか恥ずかしいですね〜」
 坂本春音は顔を真っ赤にしながら、新宿の街を歩いている。
 春音の新しいレッドクロスは、白い翼のついた、ナース服だ。
 しかも、スカートは以前と同様の超ミニである。
「救助活動をしていると、いろんな人にまるみえになってしまいますね。どうしましょう、本当に恥ずかしくて」
 春音はますます顔が赤くなるのを覚えた。
「ああ〜もう歩けないですわ! みえてしまうかと思うと!」
 ついに彼女は、身悶えして立ち止まった。
「ここで始めましょう。は〜、神気召還術!」
 春音が立ち止まったのは、新宿の一画。
 小さな社が、脇にある。
「産土(うぶすな)様〜、おいでなすって〜、私に全てを!」
 春音が祈りを捧げると、レッドクロスが光を放ち、ナース服の背中に突き出ている翼が、ひょこひょこと動く。
 しかし、何も起こらない。
「あら、困りましたね。日本の神々に、昔デッドクラッシャーズと何があったのか聞こうと思っていましたのに」
 春音は困惑して、大地にもう一度呼びかける。
「ああ、脳裏に浮かんできましたわ! この記憶は?」
 不思議な力が春音の脳裏に作用し、太古の昔に日本であった壮絶な闘いの記憶がよみがえってきた。
「日本の神々は、突然異星から襲来した邪悪な生命体と、激しい闘いを繰り広げたのですね。そして、ついに敵をねじ伏せ、異星と地球とをつなぐ『扉』を封印した。だが、敵は完全に滅びたわけではなかった。太古の昔の戦争の生き残りが、デッドクラッシャーズのルーツなのでしょうか?」
 そこで、脳裏に浮かぶ景色は消えた。
 気力を使い果たした春音はぐったりして、しばしたたずむ。
 と、そこに。
「もしもし、そこのあなた」
 白装束に身を包み、不思議なかたちに髪の毛を丸めた男性が、春音に声をかけた。
「はい、何でしょう?」
 相手の外見に驚きながらも、春音は答える。
「……の命を受けてきました。これをお使い下さい」
 男性は、ひどく古びてはいるが高貴な雰囲気の、大きな鞘に入った剣を春音に渡した。
「これは?」
 春音が問いかけたときには、男はどこかに姿を消していた。
「誰の命を受けてきたのか、よく聞こえませんでしたね。この剣は、何でしょう?」
「春音〜、春音〜!」
 姫柳がやってきた。
「やっとみつけたよ。その剣は?」
「さあ。白装束の人がくれたんです」
 春音は首をかしげて、剣をためつすがめつした。

「デッドォ! デッドォ! 死ね、バカ!」
 デッドジャイアントアルファ、ベータ、ガンマの3体は、光のクリスタルが生み出したフィールドを突破しようと体当たりをしかけるが、巨大な壁はびくともしない。
「さあ、いまのうちに。大丈夫ですか?」
 エリカは、瓦礫の中から佐々木甚八とソラをみつけてひっぱりだした。
「うう、すまない。またキミに助けてもらうとは」
 甚八は頭を振って、何とか起き上がる。
「お金は、私が銀行になって預かっておきます」
「そうか。俺が受け取りに行くことはない。銀行なら、その金を好きなように投資して使え」
「まだ闘うんですか?」
「当り前だ。闘う以外に、俺の道はない」
 甚八は、デッドジャイアントに向かっていく。
「待って下さ〜い!」
 姫柳未来と坂本春音が駆け寄ってきた。
「この剣、不思議な人にもらったんです。使ってみてはどうですか?」
「うん? これは……草薙の剣だ! バカな。本物じゃないか。誰にこれを?」
 甚八は目を丸くしながら剣を抜き放つ。
 草薙の剣は、ぼうっと青白い光を放つ、不思議な大剣だった。
「よし、使わせてもらおう。ソラ、お前は損傷が激しいようだから休んでいろ」
 甚八は駆け出した。
 そして。
「ジューク、スーパージューク、ネオンサインでゴー!」
 新宿の守護神スーパージュークが全身から七色の光を放ち、アルファに照射する。
「……!」
 超未来型AI搭載ロボ、フルメタルも、胸の赤く塗ってある部分から灼熱の光線を放ち、ベータに照射する。
「いくぞ、古の力! クサナギ・ブレード・アターック!」
 天高く跳躍した甚八が、草薙の剣をガンマに振りおろす。
 新宿を守るため、二体と一人の戦士が、力を合わせてジャイアントに同時に攻撃を放ったのである!
「うごわー!」
「ぬぼわー!」
「だぼわー!」
 デッドジャイアントたちは、それぞれ悲鳴をあげて爆発する。
「やったぞ、勝った!」
「ばんざーい!」
 着地した甚八に、ソラと、カミッラ、アリアが駆け寄ってくる。
「それにしても、この草薙の剣は?」
 甚八が言ったとき、剣はリーフェに奪われた。
「すみませんが、これはアーマードピジョン本部で分析させてもらいます」
「何をする! まあ、いい。もとはガーディアンに渡されたものだ」
 甚八はちょっと眉をひそめたが、了承。

 アーマードピジョンのスタッフたちが集う、電脳チャット空間。
「新宿、解放! デッドジャイアントは消滅! 佐々木甚八が草薙の剣を使いました!」
「草薙の剣? 坂本春音さんが白装束の使者にもらったというのですか? まさか、あの方が!? ガーディアンに直接コンタクトしたというのですか」
 グレイト・リーダーは事態に驚きを禁じえない。
「どうやら、伝説の三大剣が解禁になるようですね。それにしても、なぜ? こちらが劣勢のように思えたのでしょうか。確かに新宿のジャイアントたちには手こずりましたが。あの方は、何を恐れているのか?」
 グレイト・リーダーは深い疑問を覚えた。
 首相官邸の、ゲソ部長。そして、富士の樹海のデッドナイト。
 おそらく、『あの方』はどちらかを恐れているのだ。
 どちらかが、『あの方』の計算にはなかった存在なのだ。
 しかし、どっちがそうなのか?

9.海の女王

 広島。
 かつて原爆が投下されたことで知られるこの街は、いまはなぜか、海の怪獣によって支配されていた。
「デッド、デッド、デッドホエール!」
 今日も、広島湾をデッドホエールが回遊する。
「デッドシャワー!」
 ホエールが背中から潮を吹くと、海は濁り、周辺の海洋生物は死滅。
 広島湾で養殖されている、カキや真珠は大打撃を受けた。
「くっそー、やめろー!」
 怒る漁師たちが漁船でホエールに特攻をかけても、沈められるだけであった。
「広島は私のものだ! わははははは」
 デッドホエールはたからかにわらった。
 そこに。
「待てーい!」
 不思議なメロディを拡声器で流しながら、小舟に乗ったフレア・マナが登場。
 フレアは頭に赤ヘルをかぶり、両手のしゃもじをカチャカチャ打ち合わせている。
「何じゃ、その姿は? 死ねーい!」
 ホエールは死の潮を吹いた。
「うわー」
 フレアは慌てて船の舵をとり、シャワーを避ける。
「いくぞ、とあー」
 態勢をたてなおして、フレアは小舟から跳躍、デッドホエールの背中に飛び乗って、銛をつきたてる。
 ぐさっ
「いてー!」
 ホエールは身体を揺らし、フレアは海中へ。
「もがもが。ボンベ装着!」
 酸素ボンベを装着し、フレアは浮上。
「いくぞ、灼熱の海! ボイル・オーシャン!」
 レッドクロスが光を放ち、周囲の海水の沸騰した。
「ああ〜、あち〜! おのれ!」
 デッドホエールは海中深く沈み込んだ。
「ああ、あれ?」
 フレアは狼狽する。
 ごごごごごごごご
 海の底から水のうなりがとどろき、周囲の海面が波立つ。
「こ、これは、渦潮!? うわー」
 デッドホエールの巻き起こしたデッド渦潮に巻き込まれて、フレアは気を失った。
「ふっふっふ。海をなめるからこうなるのだ!」
 ホエールはたからかにわらった。
 そのとき。
「ぴぎゃ〜! ぴぎゃ〜!」
 ギルマンたちの鳴き声。
 海の一族に抱きかかえられたフレアが海面に顔を出す。
「む!? きさまらは!」
「海をなめているのはお前ぞえ〜」
 海底から、マニフィカ・ストラサローネの声がとどろく。
「くっ、海の女王か! 面白い」
 ホエールはぶしゅうと潮を吹いて敵を待ち構える。
 ざばああああああ
 海面がせりあがり、ギガンティック・モードで巨大化したマニフィカがホエールの側に姿をみせた。
「うっ、でかい!」
 ホエールはびびりながらもデッドシャワーを発射。
「おお、痛いぞえ。けしからぬわ」
 デッドシャワーに皮膚を焼かれたマニフィカは激怒し、三叉槍を振り上げる。
 ぐさっ
 デッドホエールの背中に三叉槍が突き刺さる。
「ぐぎゃああああ」
 ホエールは身悶えした。
「海はわらわの領域じゃ! 思い上がりおって、滅びるがよい!」
 マニフィカはホエールに抱きつくと、めきめきと腕に力を入れる。
「ぎゃあ、骨が折れる! おのれ!」
 ホエールはマニフィカの肩に噛みつく。
 双方、組み合ったまま、海底に沈んでいった。
 そして。
「わらわの勝ちじゃ〜」
 マニフィカが海面に顔を出し、ぷはあっと息を吐いた。
「ぴぎゃ〜、ぴぎゃ〜」
 ギルマンたちは歓声をあげ、女王の勝利をほめたたえるのだった。

10.沈むジュディ

 札幌。
 北海道で最大の都市である。
「デッド、デッド、デッドベアー!」
 巨大なクマが、札幌の街をのしのしと歩く。
「札幌は、デッドベアーが占拠した。うらー、サーモン投げ!」
 デッドベアーは巨大なサーモン(どこで捕獲したのかは謎だが)を放り投げた。
 どかーん!
 びちびち
 いきのいいサーモンは、ビルを薙ぎ倒してびちびちとはねた。
「デッド、デッド、デッドベアー、おりゃー、どすこい!」
 札幌はデッドベアーによって蹂躙されていた。
「じゃじゃーん! マチナサーイ!」
 ジュディ・バーガーがベアーの前に立ちはだかる。
「むう? ガーディアンか? いくぞ!」
 デッドベアーは突進。
「カモーン、装着!」
 ジュディはレッドクロスを装着。
 アメフト選手のような外観で、片手を突き出し、中指をたてる。
 がしっ
 双方は札幌の北海道大学キャンパスで組み合った。
 ぎりぎりぎり
 筋肉と筋肉がきしみ音をあげる。
「ウガー、デッドハグ!」
「カモーン、スーパーウルトラデラックス、ハイパーハグ!」
 デッドベアーが豪腕で締めつけると同時に、ジュディのレッドクロスが光り輝き、ジュディの締めつける力も強化する。
「死ね!」
「シネ!」
 ぎりぎりぎり
 双方の力は互角だった。
「ふんがー! うん?」
 踏ん張るデッドベアーの片足が、クラーク像の近くにあった封印の石を割ってしまう。
 ごごごごごご
 札幌の大地が揺れ、巨大な戦士が現れる。
「札幌の守護神、サッポロッキーただいま参上! ビー・アンビシャス!」
 サッポロッキーは大空の一画を指さしてビシッと決める。
「おっ、結着がつかないようだな。よし、喧嘩両成敗だ!」
 サッポロッキーは組み合っているジュディとベアーを、巨大な腕で軽々と抱えあげた。
「さよなら、ばびゅーん、バビロニア〜」
 サッポロッキーはジュディとベアーを空の彼方に投げ飛ばしてしまう。
「おわああああ」
「ノォォォォォ」
 ジュディとベアーは、石狩湾に落下。
 互いに力を緩めないまま、海の底に沈んでゆく。

 そして、一週間後。
 東京湾に、デッドベアーの姿が。
「ウガー! 潮の流れに乗ってここまできてしまった!」
「潮の流れにどう乗れば、石狩湾からここに着くのだ? それより、お前と組み合っていたガーディアンは?」
 ゲソ部長が尋ねる。
「わからん! おそらく、海の底に沈んだままだと思う。腹減ったー、メシくれー!」
「ええーい、役立たずが!」
 ゲソ部長は舌打ちした。
「せっかく日本中を占拠したというのに、主要都市がことごとく解放されてしまったわい。計画を急がねばならん。お前も、こい!」
「ウガー!」
 ゲソ部長は闇のクリスタルをかざした。
「かくなるうえは、私がやらせてもらう! ガーディアンどもよ、首相官邸にくるなら来い!」
 ゲソ部長は邪悪な雄叫びをあげるのだった。

 電脳チャット空間。
「ジュディさんは、海中に沈んだままですね。大丈夫なのでしょうか? マニフィカさんに回収してもらいましょう」
「札幌は一応解放されたと考えてよろしいでしょうか?」
「はい。デッドベアーは倒せなかったようですが」
 スタッフの問いに、グレイト・リーダーが答える。
「間もなく、首相官邸奪還作戦を開始します。在日米軍も出動するようですね。協力要請が出ているので、連携しましょう。まあ、信用できない連中ですが」
 グレイト・リーダーは日本解放後に何が起きるのかを、考えた。
 アーマードピジョン、そしてガーディアンは排斥されるかもしれない。
 それでも、平和を守らなければならないのだ。


(第2部第1話・完)

【報酬一覧】

トリスティア 1、000万円(デッドカンガルーを倒す)
グレイズ・ガーナー 1、000万円(デッドモグラを倒す)
アオイ・シャモン 1、000万円(デッドムササビを倒す。3人を代表して受賞)
リーフェ・シャルマール 2、000万円(クリスタルの秘密を解明する)
佐々木甚八 1、000万円(デッドジャイアントガンマを倒す)
マニフィカ・ストラサローネ 1、000万円(デッドホエールを倒す)

特別功労賞
武神鈴 500万円(自爆によりDGDの合体機構を破壊する)

【マスターより】

 今回は遅れてしまってすみませんでした。日本の各都市の闘いを描こうとしたら大変濃い内容になって、書くのが大変になってしまいました。あまり壮大すぎる話をやるものじゃないですね。日本の主要都市は全て解放されてしまいました。次回は首相官邸奪還ですが、果たして!? みなさんのご健闘をお祈りします。

メルマガは、10/16付けにて発信致しました。