「英雄復活リベンジ・オブ・ジャスティス」

第2部「ハルマゲドン編」第2回

サブタイトル「史上最大の作戦・東京イカスミ計画!!」

執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま

1.よみがえる悪意

 デッドクラッシャーズによって占領された首相官邸。
「デッド、デッド、デッドイカスミィ!」
 極東支部の支部長であるゲソ部長が天に向かって吠え、真っ黒なイカスミを吹き出す。
 暗黒に染まる東京の空。
「司令、首相官邸前に特殊部隊到着! 只今より官邸奪還作戦を開始します!」
 在日米軍の兵士たちが官邸前に集合し、ゲソ部長を睨みつけながら基地に連絡を入れている。
「ゴー、ファイトだ。ゆけ!」
 ローリー・コンドラチェフ総司令からの号令が入る。
「攻撃開始!」
 迷彩服に身を包み、頬にペイントを塗った兵たちがバズーカ砲やミサイルランチャーでゲソ部長に攻撃を始める。
「ぎぃぃぃぃぃぃ!」
 ゲソ部長はゆらりと身体をうごめかし、触手をうねらせて弾丸をはねかえしてしまう。
 どごーん! どごーん!
 落ちた弾丸が次々に爆発。
「あらら、お掃除大変ですわ〜」
 アンナ・ラクシミリアがいそいそと粉塵を掃き清める。
 アンナは、在日米軍との共同作戦に参加している、数少ないガーディアンの一人だった。
「あれがアーマードピジョンのガーディアン、そして彼女が装着しているあれが、レッドクロスか」
 米兵たちはアンナの言動を興味深げに見守っていた。
「お掃除、お掃除〜」
 熱心に戦場を清めるアンナ。
「噂には聞いていたが、ガーディアンとは不思議な動きをするんだな。いまいち作戦に貢献していないように思えるが?」
「いいんじゃないか。ローリー司令が気に入りそうな女だ」
 米兵の一人が嘲笑とも微笑ともつかぬ笑みを浮かべていう。
 そんな米兵たちの周囲に、複数の巨大な影が現れた。
「デッド、デッド、デッドグリズリー!」
 取り囲むように現れたそれらの影を代表するかのように、デッドグリズリーが首相官邸の入り口前に現れる。
「うわっ、撃て〜!」
 米兵たちは慌てて攻撃をグリズリーに集中させる。
「無駄だ! お前たちはもう包囲されている!」
 グリズリーが吠えると同時に。
「デッド、デッド、デッドサンダー!」
 巨大な影のひとつが、そのクワガタのような外観を揺らして吠える。
 デッドサンダーMk.IIIだ。
 さらにその隣の影が、剣を抜き放って叫ぶ。
「デッド、デッド、デッドソード!」
 デッドソードMk.IIだ。
 さらに、これまでガーディアンに倒されてきた超甲人機たちが、次々に姿をみせる。
「デッド、デッド、デッドライオン!!」
 デッドライオンMk.IIが身体を丸くして雄叫びをあげる。
「ペーン、ペンペン! デッドペンギン!!」
 デッドペンギンMk.IIがあちこちにテレポートしながらはしゃぎ声をあげる。
「デッド、デッド、デッドタートル!!」
 デッドタートルMk.IIが甲羅についているキャノン砲を米兵たちに向けた。
「デッド、デッド、デッドコンドル!!」
 デッドコンドルMk.IIがばさばさっと宙を舞う。
「デッド、デッド、デッドカマキリ〜!!」
 デッドカマキリMk.IIが背中の羽を広げて両手のカマを振りあげ、威嚇のポーズをとった。
「デッド、デッド、デッドコング!!」
 デッドコングMk.IIが咆哮をあげながら両の拳で胸板を叩いている。
 再生超甲人機軍団。
 まさに恐るべき、悪夢のような集団であった。
「くっ、くそっ、こいつらを突破しなければゲソ部長まではいきつけない、か」
 米兵たちは総毛立つ思いだった。
「死ね! 愚かな人間ども、そしてガーディアンよ!」
 デッドグリズリーの合図とともに、デッドタートルがキャノン砲を発射。
「ガー! 今度は核実験やるぞ! ガー!」
 どごーん!
 爆発が起こり、米兵たちの身体が宙に巻きあげる。
「うわー!」
 悲鳴をあげながら銃を乱射する米兵たち。
「ガー!」
 再生超甲人機たちがいっせいに襲いかかってきた。
 米兵たちは必死に応戦するが、超甲人機の集団にたいしたダメージを与えられるものではない。
「ぎゃー!」
「ぐわー!」
 悲鳴をあげながら、次々に米兵が倒れてゆく。
「お掃除、お掃除〜あら?」
 すさまじい戦闘をよそに、戦場にモップをかけるのに懸命だったアンナがふと空を見上げる。
「まあ、ひどいですわ! お空があんなに真っ黒に!」
 ゲソ部長のイカスミによって汚れた空。
 その空に、きれい好きのアンナは怒りを覚えた。
「許せませんわ! あんなお空にした奴を、わたくしは〜」
 頬を膨らませて、アンナはモップを振りあげる。
「成敗しますわ!」
 ちゅどーん!
 デッドタートルのキャノン砲がアンナ付近に発射され、爆発が巻き起こる。
「あらら〜」
 爆発の中で、アンナの姿は見えなくなった。

 首相官邸周辺では、平和を愛する市民団体、日本平和主義連盟の会員たちが、危険も顧みず抗議活動を行っていた。
「アーマードピジョンは、この闘いに参加するなー!」
「破壊者でしかないガーディアンは去れー!」
 懸命に旗を振り、戦場にかけ声を送る会員たち。
 そこに、高田澪の姿が。
「みなさん、私は対話のためにきました」
 高田澪が呼びかける。
 同時に、澪の本体を収納している義体イノセントブライドの義眼が、一連のやりとりの記録を始める。
「対話のため? 何だお前は、ガーディアンか?」
「いえ、私はガーディアンではありませんし、アーマードピジョン所属でもありません」
 澪は首を振って答えた。
「では、何者だ?」
「みなさんの理念に共感する者であって、この場での活動には反対する者、ですね」
 澪は静かな口調でいった。
「我々の同志だというのか? それなのにここから撤退しろと? 余計なお世話をいうつもりかな」
 会員たちの口調は冷ややかだ。
「みなさん、私も、アーマードピジョンの活動は許されないものと考えています。目的のためなら手段は正当化されるという考えをいつしか身につけてしまった、ゆきすぎた団体ですね、彼らは」
「そうだ、その主張は正しい。だが、俺たちが本当に許せないのは、奴らの武力行使なんだ」
「わかっています。ですが、デッドクラッシャーズとの闘いが終われば、彼らは自然と社会から孤立し、ガーディアンたちはこれまでの罪を清算させられることになります。ここで徒に危険に身をさらすよりも、みなさんの活動を継続するため、撤退した方がよいかと思うのですが」
「俺たちがこうしたスタンドプレーをせざるをえないのは、悔しいことに、アーマードピジョンがいまだに一般市民の支持をかちえているからだ。奴らを社会の敵として認識させるのは、なみたいていのことではない。きみはその現実を理解しているかな?」
「アーマードピジョンがいまだに多数市民の支持を? 確かに、組織への寄付金はいまだに減る気配をみせていませんが」
「それだけじゃない! 奴らは日本政府とどこかでつながっているんだ。だから、奴らの活動は黙認されてきた。俺たちは、あんな連中が政府と裏で結託するという事実にも耐えられないんだ」
「アーマードピジョンが日本政府と? それは考えすぎです」
 いいながら、澪は首をかしげる。
 この連中が現実と呼ぶものには、妄想も多く入っているのではないか?
「ただ金がある、技術があるというだけで、アーマードピジョンがこれまでその活動を継続してこられたと思うのか? 日本政府とつながっている、あるいは、何らかの政治的な後ろ盾が存在すると考える方が自然だ。だいたい、奴らが使っているあのレッドクロスというのは何なんだ? あんなものを、民間のボランティア組織が単独で開発できるわけがない。そう思わないか?」
 聞きながら、澪は彼らの説を無視することもできないように感じた。
 結社なら、アーマードピジョンの背後にあるものについて、何か知っているかもしれない。
 あるいは、甚八が知っているだろうか?
 だが、いまは。
 澪は、大きく息を吸った。
「戦時中だからこそ、アーマードピジョンも一定の支持を得られるのかもしれません。ですが、時間の問題です。戦後、人々は冷静な頭でガーディアンたちの行動を検証し、深い拒絶を示すことでしょう。ですから、いまは」
「破壊活動が行われているその瞬間に、ただ指をくわえてときが過ぎるのを待っている? そんなことをすれば、俺たちは笑われるだろう。その場で抗議しないで後にとっておくなんてやり方じゃ、それこそ一般市民の支持はえられない!」
 会員たちはもう去れという風に、澪に手を振った。
 そのとき。
「ハッハッハ! さっきから聞いてれば、お前たちは本当に口だけは達者だな!」
 高らかな笑い声とともに、黒服に身を包んだ男たちが現れた。
「お前たちは!?」
 日本平和主義連盟の会員たちが、顔をひきつらせる。
「日本英雄教会は、アーマードピジョンの活動を断固として支持する。お前たち、自分の家族をデッドクラッシャーズに殺された人間の気持ちを考えたことがあるか? 政府が何もしてくれない中で、アーマードピジョンは人々の仇を討ってくれているんだ。正義とは、きれいごとだけで成立するものではないし、完全平和主義とイコールでは絶対にない。歯が浮くようなきれいごとばかり唱えて、挙げ句の果てに三流陰謀論か? 裏に政治的な陰謀ありと唱えれば、自分たちの主張にリアリティがつくとでも? アホか。もう、聞いてられん!」
「日本英雄教会といえば、あの、アーマードピジョン以上にカルトな、感情でしかものを考えられない連中か!」
 平和主義連盟の会員たちもまた、深い嘲りの表情を英雄教会の会員たちにみせる。
「感情でしかものを考えられないだと? 本当にそう思うかな? お前たちは在日米軍のような公的権力が武力行使を行うことには反対しないようだが、在日米軍、いや、アメリカがレッドクロスを分析して、あらたな兵器を生み出そうとしている話を知っているか? 結局奴らは日本のこの闘いを自分たちのために利用するつもりなんだ。公的権力には、常に腐った思惑がつきまとっているんだよ。ガーディアンの方がよほど純粋だ。そうだろう?」
「ガーディアンが純粋だと? バカが! 今回のように首相官邸が悪の組織に占領されるという緊急事態においてなら、公的権力がある程度武力行使を行うことも、我々はしぶしぶ是認せざるをえない。だが、武力行使とは、最後の最後、ぎりぎりの状況ではじめて、最低限の範囲での使用が許されるというものだ。ガーディアンたちのように、衝動的かつ過剰な行使が認められるわけないだろう」
「政府がやらないから、弱いから、ガーディアンが代わりに闘っているのだ。では、ガーディアンがいなかったら我々はどうなっていたか? 在日米軍が助けてくれるまで、殺されるのを待つのか? お前たちの信条は、奥底では常に自滅とつながっているのだ」
「お前たちは、要するにガーディアンを英雄視して、神と同列に扱いたいという一種の宗教団体だな。とても、理性的な話し合いなどはできそうにない」
 日本平和主義連盟の会員たちは、呆れたように肩をすくめてみせる。
「確かに、ガーディアンは英雄だ。俺たちは、彼らに限りない感謝こそするが、しかめ面をして唾を吐きかけるような恩知らずな真似は絶対にしない! 彼らに罪があったとしても、もともとは日本政府が悪いのだ!」
 日本英雄教会の会員たちは、興奮のあまり顔を紅潮させながら、日本平和主義連盟の会員たちに詰めよっていく。
「さあ、英雄を中傷するような真似はもうやめろ! 何もせずにきれいごとだけ並べるような連中は、戦場には不要だ!」
「俺たちはぎりぎりまで抗議活動を続ける! 邪魔するな!」
 対立する双方の団体。
 その様を、高田澪は、ぽかんと口を開けてみていた。
「は〜、いまのやりとりも記録してしまいましたよ。いろんな考えを持った人がいるのですね」
 そのとき。
 ひゅるるるるるる
 デッドタートルの放った弾丸が、市民団体同士が争っている場に落下してきた。
「あ、危ない! シークレットアーツ!」
 澪は、超能力を発動した。
「みなさん、議論は戦場外で! テレポート!!」
 市民団体の人々と、澪の身体とが光に包まれ、消え失せる。
 ちゅどーん!
 直後に、デッドタートルの弾丸が落下、大爆発を起こす。
「うおおおお〜、みろ、ガーディアンは、自分たちを批判しているお前たちでさえも、こうして助けてくれるのだ! 彼らの功績に全く感謝しないお前たちに、彼らの言動を論じる資格などないんだ!」
「ガーディアンが助けてくれた? バカをいうな。あの女は、ガーディアンではないらしいぞ。我々を人非人扱いするそういう発言が、感情的だというのだ!」
 異次元空間を移動しながら、対立する市民団体はなおも激論を展開するのだった。

2.業火の刃

「再生超甲人機軍団め。好き勝手やってくれているようだな」
 フレア・マナは先行している在日米軍の部隊に続いて、首相官邸前に突入する態勢を整えていた。
 フレアのすぐ近くには、武神鈴の姿が。
 だが、武神は何やらひとりごとを呟いている。
「くっそう、あいつら、俺を、よくも、よくも! こうなったら……やってやる、フフフ」
 暗い顔で恨みのこもった愚痴を吐き捨てていたかと思うと、一転して邪悪な笑みを浮かべる武神。
「どうした? いつものお前らしくないな」
 フレアはどこか不吉なものを感じながら、武神に話しかける。
「いや、何でもないさ」
 武神はフレアの方をみようともせずに呟く。
「前回の闘いで、ピジョンロボは大破したが、お前のおかげでデッドジャイアントデラックスは合体機構を破壊され、ガーディアンの勝利への道が開けた。特別功労賞が支給されたと聞いている。今回も同様の戦果を期待したいが」
「やめろ! 特別功労賞が何だというのだ? 俺は、あのまま死んでもよかった。だが、あの女、レディ・ミストは興味半分に俺を助けて、そして……」
(まっする、まっする−!)
(ほー、ほー、はー!)
 武神の脳裏に男たちの野太い叫びがとどろく。
「うっ、頭が! ああっ」
 武神は悲鳴をあげてうずくまった。
「大丈夫か? 私の姉が何かしたか? お前は科学者であって戦士ではない。私たちより頭がよい分、思い悩むことも多く、プライドも高いようだ。戦場には力のルールしかない。生き残りたければ、あまり考え込まないようにすることだな」
「うるさい! 偉そうに説教しないでくれ! そうさ、あの女は俺をもてあそんだ。惜しい男だといいながら、俺を野獣の餌にしたんだ! 俺のプライドが高い? そんなことはないが、少なくとも、あの屈辱には耐えられないんだ! この身を焼き焦がすような、あの屈辱! あぁ、くそぉ〜おおおお」
 武神はうめきながら、拳を握りしめる。
「フレア、力のルールといったな? 俺が力を持ったとしたらどうする? なあ、ガーディアンのすることは相変わらず無駄な破壊を伴っている。俺はアーマードピジョンの中で自分なりに理想を貫こうとがんばったが、結局、ピエロでしかなかったんじゃないかと感じているんだ、いまは。その俺が何かを変えられるとしたら、それは、力だ……」
「武神、もう話すな。今回は静養しろ。ドクター・リスキーにみてもらえ」
 フレアは武神の話をそれ以上聞こうとせず、一人で戦場に歩み入ってゆく。
「静養する? バカなことをいうな。この屈辱の思いから抜け出すため、俺は動かなければならない。俺は力を持たなければならない……そして、俺は……」
 武神の呟きの後半は、戦場の喧噪にのまれて聞こえなくなってしまった。

 武神に背を向けて歩き出したフレアは、懐からハーモニカを取り出して、吹き鳴らし始めた。
 奏でられるは、もの哀しいレクイエム。
 まるで、武神の心情をいたわろうとするかのようだ。
「武神、お前の理性こそ、お前の力ではなかったか? 自分を取り戻して、もう一度私の前に姿をみせるのだ、武神……」
 フレアは一心不乱にハーモニカを奏でながら、死の戦場の奥へと進んでゆく。
「ギーガー!」
 首相官邸前に足を踏み入れたフレアを、再生超甲人機たちが睨みつける。
「フフフ、自ら死に身を落とす心やいかに? フレア・マナ」
 デッドグリズリーが勝ち誇った笑みを浮かべてフレアに語りかける。
「虎穴に入らずんば何とやら、だ」
 口からハーモニカを放して、フレアがいった。
「自信過剰もいい加減にしろ! この再生超甲人機軍団を前に、どう闘うつもりだ? どうやって生き残るというのだ?」
 デッドグリズリーの言葉に呼応するかのように、再生超甲人機軍団がじわりじわりとフレアに詰め寄ってくる。
「私は負けるつもりはない。お前たちが全員地獄にゆく、そういうことだ」
 フレアは特殊警棒を伸長させると、大きく振りかざした。
「はああ〜」
 フレアのレッドクロスが光を放つ。
 特殊警棒が炎のオーラをまとい、剣の形状となった。
「やれ! このガーディアンを生かして帰すな!」
 デッドグリズリーの指令で、超甲人機たちが動き出す。
 フレアは炎の剣で天を指して叫ぶ。
「秘奥義! 炎帝の無慈悲なる魔刃プロミネンス・ザンバー!」
 炎の剣がみるみる膨張して、数十倍のサイズへと発展を遂げた。
「ギー!」
 襲いかかる超甲人機たち。
「たぁぁあああ!」
 フレアは剣を構えて走り出す。
 ずばっ、ずばっ
「ぐわー!」
 炎の剣、いや「業火の刃」とでもいうべきそれで超甲人機たちを斬り払いながら、フレアは進んでゆく。
「くそっ、やるか!」
 デッドグリズリーが腰を落としてフレアに向かって身構える。
「消えよ、悪!」
 フレアは業火の刃を振りおろす。
 だが。
「はあー、南京玉すだれー! うなる氷の刃!」
 カキイイイイイン
 デッドグリズリーの前に突然出現したレディ・ミスト(アクア・マナ)が、南京玉すだれを変質させた「氷の刃」で業火の刃を弾いた!
「な!? 姉さん!」
 フレアは思わず後じさって叫ぶ。
「姉さんだと? 私はそんなものではない。死ね!」
 アクア・マナは激しくかぶりを振りながら、氷の剣を振りまわす。
「姉さん、やめてくれないか! うっ、すごい剣戟だ」
 さすがのフレアも、アクアの必死の攻撃を前にたじろいだ。
「お前は、不快だ! 私はお前をみるたびに頭痛に悩まされる! お前は、消えるべきだ! 私の、私の前から永遠に!」
 アクアは無我夢中で氷の剣を振りおろし、フレアのレッドクロスに無数の傷をつけてゆく。
「ダメだ、このままでは! う、うわー」
 フレアは負けじと叫び声をあげ、業火の剣を構えたままアクアに体当たり。
 よろけた姉を剣の切っ先ですくいあげるように切り裂こうとする。
「がああっ」
 アクアの鎧が、剣の一撃を受けて震え、女戦士が悲鳴をあげる。
 そのとき。
「フフフ、面白い」
 ゲソ部長のかざした闇のクリスタルから光が放たれ、アクアを包み込んだ。
「う、うごおおお」
 アクアの目が裏返り、全身が黒いオーラの炎をあげる。
 アクアの氷の刃がみるみる膨張する。
「姉さん! 闇のクリスタルは危険だ!」
「死ぃぃぃぃぃねぇえええええ」
 アクアは悪鬼のような形相でフレアに襲いかかり、氷の刃を打ちつける。
「ぐ、ぐわあああ」
 フレアは悲鳴をあげる。
「とどめだ!」
 アクアは氷の刃をもとの南京玉すだれの形状にすると、今度はすだれを弓のかたちに反らした。
「残酷無念、暗黒パワー凝縮! むうあああ」
 アクアの鎧が黒い光を放ち、弓に氷柱の矢がセットされる。
「秘奥義! 氷皇の冷酷なる魔弾アブソリュートゼロ・シャワー!」
 天に打ちあげられた氷柱の矢が、空中で幾千幾万もの破片に分裂し、無数の氷の槍となってフレアに振り注ぐ。
 ザクザクザクッ!
 フレアは悲鳴をあげて氷の槍に身体を貫かれる、かに思えた。
 だが。
「姉さん、狂戦士化して、力押ししかできなくなっているね?」
 フレアは炎の剣の切っ先から炎を渦巻き状に噴射して、振りかかる氷の槍を一瞬で溶かしてしまう。
「いくよ!」
 フレアは駆けた。
 斬りつけるかと思いきや、炎の剣を伸縮させ、特殊警棒に戻して脇に構える。
「とあーっ」
 警棒は、アクアのみぞおちに突き入れられた。
「う! ぐ……」
 アクアは顔をしかめて倒れる。
 その身体を受け止め、フレアは手を伸ばして、レディ・ミスト、またの名はアクア・マナの仮面を剥ぎ取る。
「あっ、あああああああ! ここは……フレア? うっ」
 アクアの目に一瞬理性の光がともる。
 だが、次の瞬間アクアは失神していた。
「姉さん、これで記憶が戻るかもしれない」
 フレアは姉の身体をしっかり抱きかかえながら戦場を離脱した。

3.セカンドバトル

「フン、レディ・ミストめ、口ほどにもない!」
 デッドグリズリーはガシガシと両の拳を互いにうちつけながら、在日米軍の残存兵力に突進してゆく。
 どごーん!
 ぐわー!
 グリズリーの怪力の前に、なすすべもなく蹂躙される米兵たち。
 骨の折れる音、肉が路面に打ちつけられる音が響きわたる。
「闇のクリスタルに強化されたオレは無敵だ! 誰もオレに勝つことはできない! アメリカなんてちゃちいもんだ!」
 デッドグリズリーは笑った。
 そのとき。
「オー、シット! ムカツキマスネ〜アメリカノチカラハ、コンナモノデハアリマセ〜ン!」
 ジュディ・バーカーが突進してきて、グリズリーにタックルをお見舞いした!
「うっ、お前はぁ!」
 グリズリーは吠えた。
「ケッチャクヲツケマショウ!」
 ジュディは中指をたててグリズリーを挑発。
「オー、アメリカ人だ!」
「ジュディ、ジュディ!」
 米兵たちから歓声があがる。
「ミナサンハサガッテテクダサ〜イ、ココハミーダケデオールライト、レディーゴーデス!」
 ジュディは米兵たちにウインクしてから、グリズリーを振り返って、力いっぱいパンチを叩きつけた。
「うぐぉっ!」
 顔面に強烈な一撃をモロにくらって、グリズリーの身体がひしぐ。
「何だが知らねえが、お前もこの前より強くなってるな。面白い。オレの必殺技をくらえ!」
 ペッと血のりを吐き出してから、グリズリーが天をあおいで、咆哮する。
「ウガー! デッド百裂拳!」
 デッドグリズリーは超高速で拳を乱打する。
「オー! キョーレツ!」
 ジュディの、アメフト選手のような外観のレッドクロスにグリズリーの拳がめりこみ、ぴしぴしと音をたてる。
 だが。
「ホシガリマセン、カツマデハ!」
 拳の雨の中、ジュディはガッツポーズをとって、くわっと歯を剥き出す。
 ごおおおおっ
 ジュディのレッドクロスが光を放つ。
「死ねー!」
 グリズリーの拳がジュディの頬にめりこんだ。
 ぶしゅっ
 ジュディの顔面から血がしぶく。
 だが、ジュディはたじろがない。
「ハイスイノジン! クワッ!」
 ジュディが両腕を広げると、レッドクロスからたちのぼる光が両の拳に濃くまとわりつき、光の輪郭が、天使が翼を広げたようなかたちになった。
「スーパーウルトラデラックス、ハイパワー百裂拳!」
 唇から血を流しながら、ジュディが叫ぶ。
 ジュディの拳が無数の残像を残しながら高速でうごめき、熱い拳の火花をデッドグリズリーに叩きつける。
「ぐ、ぐわっ」
 ジュディの猛反撃を前に、デッドグリズリーの巨体がよろめく。
「ま、負けん! 負けんぞ、オレは!」
 ゆら〜
 デッドグリズリーの全身から闇のオーラがたちのぼる。
「くらえー!」
 グリズリーが渾身の力をこめてふるった拳が、ジュディの拳とかち合う。
 ズズーン!
 ビシッ!
 すさまじい轟音とともに、グリズリーの拳が砕けた!
「う、うぐ〜」
 うめくグリズリーに、さらにジュディの百裂拳が降り注ぐ。
「イクトキハイッショヨ〜!」
 ジュディは叫びながら突進し、グリズリーの顎に豪快なアッパーを放った。
 それが最後だった。
 グリズリーの巨体が顎を天に向けた姿勢で宙を舞い、ゆっくりと路面に落ちる。
 ず、ずうん
「あ、あう……母ちゃん……ぐはっ」
 デッドグリズリーは息絶えた。
 カンカンカン!
 米兵たちがなぜかゴングを鳴らしている。
「オー、ビクトリー! ヨッシャー、ビールカケ!」
 額から流れる血がしみるのか、ジュディは目をつぶって絶叫する。
「ワー、ワー!」
 米兵が歓声をあげる。

「ふっ、装着者の闘志が燃え上がれば上がるほど、その精神の高まりに呼応して肉体を、攻撃力を強化する、これがレッドクロスの特徴だ。そして、力の高まりがあるラインを超えたとき、今度は逆に、レッドクロスの側から、装着者の精神に影響を及ぼすようになっていく」
 在日米軍の総司令、ローリー・コンドラチェフは、米兵の撮影する画像を基地内で見守りながら、不吉な言葉を呟いていた。
「やはり、レッドクロスはROJ計画と関係があるとみて間違いない、な。この私でさえ詳しい情報を得ることは許されていない、悪名高いROJ計画と」
 ローリーは、ワインを口に含んだ。
 って、仕事中に酒飲むなよ!

4.闇の鈴

 ついにデッドグリズリーを倒したジュディ。
 だが、ジュディの周囲を即座に取り囲む再生超甲人機たち。
「貴様、一体倒しただけでもう虫の息のようだな? これからじっくりなぶり殺してくれる、フフフ」
 笑う超甲人機たち。
 再生された存在のくせに、生意気だね!
 ジュディは、スペシャルテクニック使用の影響で身体が一時的な衰弱状態となり、ノーガードの状態となっていた。
「オー、マッシロニモエツキマシタ〜」
 ぽかんとした目で、敵をみつめるジュディ。
「ジュディ、いまいくで!」
 アオイ・シャモンが、首相官邸上空に現れた。
「くらえ、ロングレンジバスターライフル!」
 アオイが上空から長い砲身を超甲人機たちに向け、弾丸を発射する。
 ちゅど、ちゅどーん!
「ぐ、ぐおおお」
 うめき声をあげる超甲人機たち。
「デッドカノン、発射!」
 デッドタートルが甲羅から突き出ている砲口から弾丸を上空に向けて発射。
「おっと、当たるかいな!」
 アオイはさっそうと身をひるがえして攻撃をかわす。
「ぎー、デッドコンドルー!!」
 デッドコンドルが宙を舞ってアオイに襲いかかってきた。
「させるか、斬空砲や!」
 アオイの砲口がコンドルに向かって火を吹く。
「フフフ。愚かな!」
 指導者を失った再生超甲人機たちを指揮するかのようにゲソ部長が現れ、アオイに向かってイカスミを吐きかける。
「うわ〜」
 あやうくイカスミをかぶりそうになったアオイが、バランスを失って地上に降下。
「死ね!」
 アオイが着地するかしないかというタイミングで、デッドソードが斬りかかってくる。
「ノー!」
 真っ白になっていたジュディはようやく瞳に火を取り戻し、アオイを斬り裂こうとしたデッドソードの剣を両の掌で挟んでひねりあげる。
「ウガー!」
 デッドコングがジュディにつかみかかり、剣から手を放させた。
 大混戦となってきた地上。
「ハッハッハ! お前たちは終わりだ! どうすることもできない!」
 ゲソ部長は笑った。
「それはどうかな、ってもんや!」
 アオイが弾丸をゲソ部長の口に向けて発射。
 ズボッ!
 弾丸は部長の口の奥深くに入り込んだ。
「む!? これは」
 トリモチ。
 アオイが放ったのはトリモチ弾であった。
「どうや、これでイカスミを吐くことはもうできんやろ!」
「ぬう、おのれ!」
 イカスミを封じられたゲソ部長の顔が赤くなる。
「闇のクリスタルよ、私に力を!」
 部長は真っ黒なクリスタルを振りかざした。
 もや〜
 クリスタルから不吉なオーラがたちのぼる。
 そのとき。
「フフフ、ネタをあらわにしたな」
 ゲソ部長の背後に武神鈴が現れた!
「武神、いままでどこに?」
「穏身符で姿を消していたんだ。力を得るチャンスを狙ってね」
 アオイの問いに答える武神。
「う……武神!?」
 アオイはその口調に、いつもの武神にはない冷ややかなものを感じ取っていた。
「ライト・ブランド!」
 武神がスペシャルテクニックを発動すると、右手に装着された小手にある、中央のレンズを囲む5つの玉の中心に『奪』の字が浮かび上がる。
 そのまま武神は右手を伸ばし、ゲソ部長の白い後頭部にペタッと触った。
「うっ!」
 部長のうめき。
 闇のクリスタルが部長の頭上から消滅し、武神の手の中におさまっていた!
「武神、クリスタルを奪ったんやな!」
 アオイは歓声をあげる。
「そうだ。この暗黒のゆらめき、俺は心のどこかでこれを求めていたんだ……これでデッドクラッシャーズなんかはいちころだ……あいつらだって……フフフ、フフフ」
 邪悪な笑みを浮かべる武神の目が、怪しく光る。
「たけがみ、たけがみ……」
 そんな武神の精神に、何者かの声が響いた。
「誰だ?」
 武神の問いに、その声は答えない。
「たけがみ……お前は、こちら側にくる素質がある……。お前の心の中にあるその闇、光の側に置いておくには惜しい……」
「俺の心の中に闇が? 俺は別に聖人君子じゃない。否定はしないさ……否定は……むしろいま、俺は……」
 眼光がいよいよ鋭く光る中、武神の身体が宙に浮き上がる。
「武神、どうしたんや?」
 アオイはいまやはっきりとした不吉な感覚を覚えながら、武神に呼びかける。
 だが、その声は武神に聞こえない。
「おおおおお、力が、力が俺の中に満ちている。はうお〜」
 闇のクリスタルから供給される、強烈な闇のエネルギー。
 武神の心の中にあるマイナスの感情、恨みや、破壊願望などといったものが増強され、心を闇に染めあげてゆく。
「武神、そのクリスタルを捨てるんや!」
「うるさい!」
 アオイに向かって武神が手を振ると、真っ黒な闇のエネルギーがほとばしる。
「オー、ピンチ!」
 ジュディはアオイをかばって闇のエネルギーにうたれた。
「ノオオオオオオオ」
 ジュディの身体が闇に染まり、絶叫がほとばしる。
「ジュディ! 武神、なぜあたいを、そしてジュディを!」
「邪魔するからだ、俺の、俺の道を……!」
 武神は目をつぶって叫んだ。
「俺の、俺の生き方にお前たちが干渉することはないんだ!」
「何をいってるんや!?」
 唖然とするアオイ。
「ハハハハハハ、ハハハハハハハハ!」
 ゲソ部長が高らかな笑い声をあげる。
「愚かな、仲間割れとは。この男は、じきに我々の仲間になる。闇のクリスタルを手にした人間は、心を闇に染めあげられ、悪の軍勢に味方することになるのだ」
 ゲソ部長はアオイとジュディを襲う構えをみせた。
「さあ、生存を数分間延長してもらったことを神に感謝するんだな。死ね!」

5.トリスティアは声を聞いた!

「よし、いまだ!」
 首相官邸の屋上からその光景をみていたトリスティアが、エアバイク・トリックスターに乗って発進する。
 ブオン、ブオン!
 突如鳴り響くエンジンの鼓動に、誰もが驚いて天をあおいだ。
「む、何やつだ!? この神聖なる戦場を汚す者はー!」
 ゲソ部長は触手をうねらせて吠える。
「トリスティア、けんざーん! イカは食べるとおいしいんだぞ! おとなしく食卓に持っていかれなさい! 必殺、愛と友情のメテオストライク!! 決まりだね〜」
 ブオー!
 エアバイクが首相官邸の屋上から滑りだし、ゲソ部長の白くてツルツルした頭部に前輪をめりこませる。
 ぶにゅっ
 柔らかな頭部が前輪を弾くように震えた。
「なにっ、バウンド〜」
 エアバイクは空中で不安定な螺旋運動を示した。
 トリスティアは座席から投げ出されて、着地。
「イカめ、イカしたことしてくれるじゃねえか! うわっ、かっこいい〜」
 思わず自分のセリフに感動するトリスティア。
「うおおおおおおおお、ア、アホか〜! あんな奴ばかりだ、アーマードピジョンには……」
 空中で闇の力をためていた武神は思わず目を開いて叫ぶ。
「トリスティア、あたいが焼いている間に、早く!」
 アオイは気を取り直して空中に上昇。
「力の解放や! あんたは闇のクリスタルを失ってもう弱体化しとるんや!」
 アオイのレッドクロスが光を放つ。
 アオイの全身を覆うアーマーから、無数の砲口がガガッと突き出す。
「いてまえや! さらばや! フルバースト・フォーション!」
 無数の砲口から、いっせいに弾丸が発射される。
 ガガガガガガガガ!
 爆発が次々に起こり、ゲソ部長の身体が炎に包まれた。
「う、うおおおおおおおお〜!」
「予想以上にきいてるで! 勝ったんか?」
 アオイはドキドキしながら見守る。
 ふしゅううううう
 炎の中から、白い煙が吹きあがる。
「お、おのれ〜、この私がそう簡単に滅びると思うなよ〜」
 煙を吹きあげながら、よろよろとうごめくそれは。
 巨大な、イカの甲であった。
「こ、これは! イカの甲が宙に浮いてて、しゃべるなんて! これがゲソ部長の正体?」
 イカの甲にもいろいろあるが、ゲソ部長の場合は、かなり大きな楕円形をしていた。
 つまり、ゲソ部長はイカとしてはコウイカの仲間だといえるだろう。
「許せん〜死ね〜!」
 ゲソ部長の成れの果てである、巨大なイカの甲(以下、デッドボーンと呼ぶ)は空中を滑るように移動し、アオイに覆いかぶさってきた。
「う、うわ〜、つぶされる〜!」
 アオイはパニックに陥った。
「とおっ!」
 トリスティアはデッドボーンにパンチを放って、アオイの頭上から弾き飛ばす。
「甲だけになったお前は、弾力を失ったんだ!」
 トリスティアは迫りくるデッドボーンに次の攻撃を仕掛けようとする。
 と、そこで。
「フハハハハハハ! 充電完了だ!」
 空中でじっと静止していた武神がひときわ高い笑い声をあげる。
「みろ、この力を! ダークフォース!」
 武神の呼び声に応じるかのように、巨大なメカの部品が続々と宙を飛んで首相官邸前に集まってくる。
「あれは、破壊されたピジョンロボの部品!?」
 アオイは目を丸くした。
 新宿の闘いで爆発したピジョンロボの各パーツは、いまだ回収されないまま放置されているはずだった。
 ガシガシッ
 バラバラだったピジョンロボの部品が次々に集合、互いに組み合わさってロボの外観となる。
「よみがえれ、ピジョンロボ! 闇の波動!」
 武神がピジョンロボに向かって手をかざし、帯状となってほとばしる闇のエネルギーがピジョンロボの全身に振り注ぐ。
 ドクドクッ
 ピジョンロボの傷が修復され、エネルギーが全身を駆け巡る。
 ぶわっ
 闇のオーラにロボが包まれ、真っ黒に塗られたダークピジョンロボとなった!
「フハハハハハハ!」
 武神はダークピジョンロボの肩に降り立つ。
「力を持った俺は、あらゆる場所をきれいにできるんだ! まずはこのゴチャゴチャした戦場から!」
 武神が指を鳴らすと、ダークピジョンロボがその巨大な足を持ちあげ、超甲人機・ガーディアンもろとも踏みつぶそうとする。
「う、うわー!」
 トリスティアはとっさに両腕を振り上げ、ロボの足の裏をガシッと受け止めた。
「ヘイ、チカラカシマス!」
 ジュディもまた、トリスティアとともに巨大な足を腕で受け止める。
 だが、ロボの力は強力だ。
 ぎりぎりと足に力をこめ、踏みつぶしの圧力を強める。
「く、くそー! 負けるもんか!」
 トリスティアは気炎をあげた。
「ハハハハハハハハ! いまだ、死ね!」
 デッドボーンがこれ幸いと宙を滑り、両腕を使っているトリスティアに背後からアタックを仕掛けようとした!
 トリスティア、まさに絶対絶命のピンチだ。
 そのとき。
「ヒーローにはピンチがつきものだ! そして、常にピンチを切り抜けるのがヒーローなんだー!」
 頭の中でヒーロー番組のクライマックスシーンをリピートさせながらトリスティアが叫ぶ。
 同時に、トリスティアのレッドクロスがこれまでよりもいっそう強く光を放った。
 きーん。
 トリスティアは、意識が遠くなるのを感じた。
(……を使え)
 え?
 トリスティアは、誰かの囁きを耳にした。
(水氷の術を、使え)
(ちょうどこの地下に、水道管が通っている)
 別の声が囁く。
 誰なの? きみたち。
 だが、トリスティアに考えている暇はなかった。
「お水さま、ほとばしって、氷の柱となれー!」
 トリスティアの声に応じて、路面がピシピシと裂け、地下の水道管から吹き出した高圧の水流が吹き上がる。
 と、吹き上がると同時にその水流はカチカチに凍りついて、巨大な柱となった。
 氷の柱は踏みつぶしをかけてくるロボの足の裏を支える。
 さらにトリスティアは魔力を解放。
 足の裏に巻き起こった冷気があっという間にロボの全身を包みこみ、カチカチに凍らせて、身動きをとれなくさせてしまう。
「なに!? この力は」
 闇の力に心を奪われた武神も、トリスティアの機転には驚いたようだ。
 そして。
 トリスティア、迫りくるデッドボーンを振り返った!
「うおお〜!」
 駆けるトリスティア。
 両足が光を放っている。
「お前だけは許さん! 死ね、死ね、あの世へ逝け! 地獄鉄道に乗るのだー!」
 フリスビーのように高速で宙を飛んでくるデッドボーン。
「ハイパー流星キーック!」
 トリスティアは右足を振り上げ、デッドボーンにつま先をめりこませた。
 どごーん!
 すさまじい爆発が起こる。
 いつもならここで相手がやられるところだが。
「うおお〜、それがどうした! そんなキックで私のこの甲が砕けると思うか〜!!」
 デッドボーンはすさまじい叫び声をあげて、その巨体を傾け、キックを押し返そうとする。
(……飛ぶんだ)
 その声にいわれなくても、トリスティアはわかっていた。
「はああああああああ!」
 トリスティアは右足をデッドボーンに突き立てながら、さらに左足を振り上げる。
 トリスティアの身体が宙に浮き上がり、空中で身をひねるような動きになった。
「ダブル・ハイパー流星キック!」
 トリスティアの左足のキックが、デッドボーンを上空へと打ち上げるように炸裂した。
 どごーん!
 流星キックを矢継ぎ早に2発くらったデッドボーンの巨体がものすごいスピードで雲の上にまで打ち上げられ、大爆発を起こす。
「う、うわー! だがただではやられん、私の魂よ、『扉』を開ける最後の力となれ!」
 ゲソ部長の最後の言葉とともに、無数のイカの甲の破片が降ってきた。
「やったで!」
 アオイが歓声をあげる。
「くっ、力だけではない、闘い方のレベルも上がっている! トリスティアにも、ホウユウに起こったのと同じことが起きたのか?」
 武神は凍りついたロボをもとの状態に戻しながら、舌打ちする。
「武神ー!!」
 トリスティアは、よくわからない闘争本能に駆られるまま、武神に向かって跳躍する。
「やられるもんか。ダークバリアー!」
 武神は闇の力で強固なフィールドを築いて、トリスティアの攻撃を弾いた。
(……その男は、光に徹することができず、闇にとりつかれている)
(だが彼は、闇に徹することもできないだろう)
「さっきから話しかけているきみたちは、いったい何なの?」
 やっと余裕のできたトリスティアが問いかけたとき、もうそれらの声は聞こえなくなっていた。
 そのとき。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴ
 大地がゆらめき、西の方角の空に、不吉な暗雲がたちこめる。
 まがまがしい気が、その方角から押し寄せてきた。
 はっきりと、身体に感じられるくらいに。
「あれは、富士の樹海がある方向? では、デッドナイトの企みが成功したのか?」
 リーフェ・シャルマールが現れて、蒼白な顔で叫ぶ。
「リーフェ、いままで何してたんや?」
「光のクリスタルを使った装置を作成していたんだが、うまくいかなくてな。それより、大変なことになるぞ。扉が開いたということになれば……この気配は、最悪なものの登場を意味している」
 アオイに答えながら、リーフェは真っ暗な西の空に目が釘づけだ。
「感じる……この力、俺は、もっと上に行けるかもしれない……もっともっと、世界を変えられるほどに……」
 武神はダークピジョンロボに乗り込むと、ロボを浮上させ、西に向かって飛ばしてゆく。
「武神、聞こえるか? キミは科学者ではなかったか? 科学者であるキミが、なぜ理性を喪失して闇にのまれる?」
 武神がコクピットに乗り込む寸前、リーフェは声をかけていた。
 それに対して、武神はこういったものだ。
「俺は、理性を喪失していない。もちろん、俺はいまでも科学者だ。科学者だから力を持っちゃいけないなんてことはないだろう? 力がなかったから、俺はろくな目にあわなかったんだ! 俺は、俺自身の頭脳でこの道を選んでいる。そうだ、間違いはないんだ!」
「武神……キミは実戦に出るべきではなかったのかもしれない」
 リーフェは、茫然とピジョンロボを見送るのだった。
 そして。
「わーい、勝った勝ったー!」
 ひと息ついたのか、トリスティアが大はしゃぎを始める。
「やれやれ、のんきなものだな。さっき、キミもラインを越えてしまったというのに、トリスティア。キミも私の研究対象になるだろう」
 リーフェは、天高く飛びあがるトリスティアを、ジュディやアオイとともに複雑な気持ちで見守るのだった。

6.渦巻く陰謀

「ROJは、その発動の予兆として、英霊の囁きが聞こえるようになる、か」
 モニターを通してトリスティアとデッドボーン、そして武神・ダークピジョンロボとの闘いをみながら、在日米軍総司令ローリー・コンドラチェフは呟いていた。
「奴らはまだ、究極の状態にまで至っていない。その前に奴らを止める必要があるかもしれんな」
 相変わらず、グラスのワインをすするローリー司令。
 そこに、通信が入る。
「司令! 本国政府から連絡が入りました。ペンタゴン壊滅の際に採集されたデッドナイトの装甲や武器の破片を分析結果がついに出たのですが、古代アトランティス帝国で使用されていた金属、オリハルコンとの類似性が認められたとのことです」
「アトランティス? やはりそうか」
 ローリーは腕組みをする。
「日本政府はろくに情報収集もできておらんようだが、我々はデッドクラッシャーズ、そしてデッドナイトについても相当量の情報を収集し、スーパーコンピュータで分析にかけている。現在のところ、デッドナイトはデッドクラッシャーズの組織にもともと所属していたわけではなく、組織のルーツとも関係のない存在だということが判明している。つまり奴の身体を活動させているのは、レッドクロス、光のクリスタル、闇のクリスタルのどれにも属さない力なのだ。大統領が一番心配しているのは、デッドクラッシャーズではなくデッドナイトの動向だった。というのも、これまでの世界史の中で、デッドナイトとみられる存在が暗躍したと思われる痕跡があるのだ。我々がデッドナイト分析にさらに力をさこうとしたとき、ペンタゴンが襲撃された。奴は我々の視点に気づいたというわけだ。だがようやく、奴の正体がわかりそうだ」
 ローリーは世界地図を広げると、アトランティス帝国、そしてアトランティス大陸が存在したとされる大西洋の区画をなぞってみた。
「アトランティスといえば、超古代の文明を研究する、未知文明研究所でも主な研究対象だった。だが研究所ではいまでも真相がわからない悲劇的な事件が起こり、代表的な研究者であった亜細亜博士が失踪して、閉鎖に追い込まれた。ROJと同じく、研究所の件もアメリカ政府の最高機密だ。亜細亜博士については、その存在自体なかったかのように、記録が徹底して消されたのだ」
 ローリーは、身震いするものを感じた。
「この私も、自分に知らされている以上のことを知ろうとすれば、消されるかもしれない。だが、興味があるのだよ、果てしなく、ね」
 大西洋から離した指を、今度は南太平洋上の一点に置いてローリーは何事かを考えこんでいる。
 そのとき。
「ふーん、好奇心は身を滅ぼすってやつかしら?」
 突如部屋の真ん中に少女が出現した!
「むっ、きみは。テレポートか」
 ローリーは目を丸くして、少女をみつめる。
 その目に、欲望の輝きが。
「どうだね、私の女になる決心はついたか、姫柳未来。いや、未来と呼んでいいか?」
「キモイこといわないで!」
 未来は顔をしかめて叫ぶ。
「私の超能力で、この基地にある情報を集めさせてもらったわ。在日米軍がレッドクロスを分析して、同じような兵器をつくろうとしてるってね。そのためにガーディアンの生け捕りを考えている。でも、気になることがあったの。レッドクロスを分析する前から、米軍はレッドクロスに類似した兵器データを既に所有していたようなのね。もともと情報がある程度あったから、現物の分析を容易に進めることができた。でも、もともとあったその情報って何なのかしら?」
「ほう。知ってるだけで消される理由になるだけのことは知ってしまったようだな。きみのいまの質問にはもちろん答えられない。だが、信じて欲しい。我々は、いまのレッドクロスのように危険な兵器をつくるつもりはない。多少性能は低下するかもしれないが、レッドクロスと違っていつまでも安全に使える兵器をつくるつもりだ。もちろん、装着者にとって安全、ということだがね」
「その、レッドクロスの危険性というのは何なのかしら?」
「それも、きみは知らない方がいい。もともと、我々はレッドクロスとそっくり同じものをつくることなどできないのだ。何しろあれは……いや、何でもない」
 ローリーは言葉を濁した。
「レッドクロスも科学兵器なんでしょう? だったら米軍がしっかり分析すれば同じものをつくれるんじゃ……」
 言葉の途中で、未来は口を閉じる。
 ローリーの目に何かいいたげな光が宿ったのをみたからだ。
 だが、ローリーは何もいわない。
 しばらくの間の後、彼はいった。
「レッドクロスは危険だ。きみはクロスを脱いで、普通の女子高生に戻るべきだ。さあ……」
 ローリーは夢をみているような目つきになりながら、未来に手を差し伸べる。
 得体の知れない嫌悪感を感じて、未来はあとじさる。
「いますぐ、脱ぎ捨てるんだ。そしてきみ本来の、美しい姿を……」
「やめて。この、ロリコン!」
 吐き捨てて、未来はテレポートで消え失せた。
 ローリーは、急に一人に戻った部屋の中で、拳を握りしめた。
 その拳が、プルプルと震える。
「あ、あの女、いってはならないことをいってしまったな!」
 ローリーの顔がいまや噛みつかんばかりの、凶悪な相をみせていた。
「許せん、許せんぞ、今度逢ったときは必ずお返しをさせてもらう! あー! うわー!」
 ローリーは顔を紅潮させて、すさまじいうなり声をあげた。

「ああ、全く。あの人と話していると、私のイメージ崩れちゃうかも? 嫌になっちゃうな〜、もう」
 基地の外にテレポートした未来が、はあっとため息をつく。
「でも、レッドクロスがもし米軍の機密と関係があるなら、ガーディアンたちは機密に近づいた存在として、消される可能性もあるってことかしら? 闘いが終わった後でガーディアンが粛正されるっていう話には、米軍の思惑も絡んでいるというわけね」
 未来は、どこまでグレイト・リーダーに報告すべきか、考えこむのだった。
 もしかしたら、リーダーはもう知っているのかもしれない。
 でも、どこまで?

 日本愛猫家連盟本部。
「ここか。しかし、何と奇抜な建物か」
 巨大なネコの頭を模したデザインの建築物に、佐々木甚八は戦慄を禁じえない。
 ネコの口にあたる部分にある扉を開け、建物に入り込む甚八。
 ソラも甚八の後に従っている。
 本部内には、世界各地の愛らしいネコたちの写真がところせましと飾ってあり、また、廊下には本物のネコたちが普通に歩いているのだった。
「これは!? ネコたちが、俺に敵意を示している。ずいぶん嫌われたものだな」
 甚八をみてフーッとなり、牙を剥き出しにして威嚇するネコたち。
 甚八は、苦笑せざるをえない。
 本部の事務員たちも、甚八には冷ややかな視線を向けている。
「これだけの施設をつくれるとは、カルト集団かと思ったがなかなか侮れないな」
 甚八は会議室の扉を開けた。
 そこには、ネコの仮面をかぶった連盟の幹部たちの姿が。
「我々に追われるお前自らここに出向いてくるとは、たいした度胸だな」
 会長と思われる、太った男がいった。
「俺は、話し合いにきた。闘うつもりはない」
「いまさら何を話し合う? お前がネコを惨殺したことは明らかだ」
 幹部たちが席をたって、甚八を取り囲んだ。
「お前たちは、ネコと人間の生命と、どちらが大事なんだ? さあ答えろ」
「論点をすりかえるつもりか? 我々がいってるのはそんなことじゃない」
 幹部たちはいっせいにナイフを抜き放つ。
「そうか。なら、お前たちの主張を聞いてみよう」
「もう何度も話しただろうが。改心の気配がみえたネコ男爵を殺さずに、生かしておくことだってできたはずだ。洗脳を解除されれば、ネコ男爵は普通のネコとして、幸せに生きていけたはずなのだ」
 会長がビシッと甚八を指さしてまくしたてる。
「ネコ男爵はあまりにも多くの人間を殺してきた。そのことについては?」
「だから、わかってないな、お前は」
 会長のテンションが上がってくる。
「重要なのは、ネコ男爵を殺す選択肢をとるべきだったかどうかということだ。そして、殺さなくてもいい方法があるなら、そちらを選択すべきだったということだ。罪がどうとかいう話ではないだろう」
「ネコ男爵には罪がないと?」
「だから罪の話では……まあいい。ネコ男爵は、デッドクラッシャーズに洗脳されて人間の殺害を行ってきたのだ。彼には罪はない。こういえばお前にもわかるのか?」
「いや、さっぱりわからないな」
 甚八はかぶりを振った。
「俺は、戦場においてネコ男爵と闘った。なるほど、百歩譲って、ネコ男爵は本来罪のない存在だったかもしれない。だが彼が実際に多くの罪のない人たちを殺してきたのは事実だし、誰かが彼を止めなければならなかった。俺は生け捕りということも、まあ選択肢には入れていたが、戦場でのことだ。結果的に彼が死んでもやむをえないと思いながら闘った。そして、彼は死んだ。それでお前たちは、俺が残虐行為をしたと?」
「戦場でなら全てが許されると思うのかね? 本来、生物の生命を奪うということ自体が残虐行為だ。我々はネコ殺しを残虐行為として特に糾弾しているが、戦場のことだからといって大目にみるつもりはない」
「生命を奪うこと自体が残虐行為なら、人間を殺すのももちろん許されないことだし、ネコ男爵は多くの人命を奪ってきたわけだが? お前たちは、人間とネコでは、ネコの権利の方を尊重すると、そういうことだな、要するに」
「だから、あんた、本当にわからない男だな」
 会長はばーんと机を叩いた。
「話を合わせてやっていれば、調子にのりおって! 何で人間とネコの比較の話になるんだ? 重要なのは、俺たちはネコを愛していて、お前がネコを殺したということだ。自分の罪を言い逃れようと、俺たちの言葉をいちいちとらえて、違う方に話を持っていくとは! 全く、潔く罪を認めるならまだしも、救いようのない奴だな、こいつは」
 ううっ
 甚八は頭を抱えた。
「どうした? 少しは良心が痛んだか?」
「違う。頭が痛くなってきたんだ。さすがの俺も……」
 甚八は無性に暴れたくなる気持ちをこらえていた。
「甚八、こいつらはダメだよ。話がわかるような顔をしながら、実際は自分の主張を通すことしか考えていない」
 ソラが耳打ちしてくる。
「まあ俺もろくな連中ではないと思っていたが、それでも敢えてきたんだ! 何しろ、この連盟は日本中のネコ好きたちの支持を得ているらしいからな。もちろん、支持者たちは実態を知らずにいるんだろうが」
 ネコ好きは、どこの世界にも無数に存在する。
 ネコを愛し、ネコのために働く組織というだけで、かなりの支持を、容易にとりつけることができる。
 だが、日本愛猫家連盟が組織として崩壊するのは目前だ。
 少なくとも、この幹部たちが全部入れ代わらないことには。
「最後に、戦士としていわせてもらおう。俺がネコ男爵と対決したとき、ちょっとでも気を抜けば俺の方が殺されていたわけだが、お前たちは、俺の生命を必要以上に危険にさらしてでも、ネコを助けるべきだったというわけか?」
「ふん、いわずもがなだ。ネコのためなら生命を賭けるなんていうのは、我々からすれば当然のこと。お前、考えたことがあるか? もし、自分の飼っているネコがむごたらしく殺されたとしたらどう思う? まあ、お前はネコ好きではないかもしれないが。ネコが死ぬのをみれば、ネコ好きたちはみな心にダメージを受ける。そして、お前がネコ男爵を殺したとき、我々はみな心に傷を負ったのだ。もう、話はいいだろう。お前を、断罪する!」
 会長と幹部たちは、いっせいにナイフを突き出した。
 ナイフは甚八の胸に次々に突き刺さり、こぼれた血が床にしたたる。
「ぐっ!」
 うめく甚八。
「あんたら、ついに……」
 ソラは拳を握りしめる。
「ここに、神聖なる処刑が遂行された。我々は、今後もネコを愛し、ネコを守るために闘い、ネコを傷つけた者を決して許さないだろう。連盟、ばんざーい! ばんざーい!」
 ばんざーい!
 会員たちはいっせいに万歳を始めた。
 あまりの興奮に包まれたせいか、ソラが退室したことにも気づかない。

「甚八、クローンはやられちゃったよ」
 本部の外に出て、待っていた甚八にソラはいった。
「やっぱりそうか。話の通じない連中だとは思っていたが。クローンは哀れだったな。墓はつくるつもりだ」
 甚八は淡々といった。
「一連のやりとりは、全部あたしの義眼で撮影して、リアルタイムでネットに映像を流しといたわ。これで全部すむのね?」
「ああ、これで奴らは、世間の支持を失うだろう。それに、奴らは俺を殺したと思い込んでるから、もう狙われることもないわけだ。こういう結末は、結社も気に入るはずだ」
 甚八はソラとともに歩き出した。
「映像は、テレビ局にも持ち込もう。俺が殺されるところも、ばっちり映っているわけだしな。しかし、奴らほどの狂気はないにせよ、アーマードピジョンもいずれ世間の支持を失うことになるだろう。ガーディアンたちの暴走を止めることができなければ、な」
「甚八、グレイト・リーダーって何者なんだろうね? 結社からは、アーマードピジョンの背後についても調べるよういわれてるけど」
「そうだな。少なくともリーダー自身は破壊主義者ではないようだが、レッドクロス開発の経緯など、謎が多いし、ガーディアンにも組織内部の詳しい情報を与えようとしないのは怪しい。俺は、あのリーダーのうえにさらに誰かがいるんじゃないかと思っているんだ」
 グレイト・リーダー。
 日本愛猫家連盟の実質的崩壊が決まったいま、甚八の興味はアーマードピジョンに動いていた。
 一度、リーダーと話してみたい。
 甚八は、そんな気持ちをふと感じているのだった。

7.ついに魔王は降臨した!

 富士の樹海。
 トリスティアがゲソ部長の正体であるデッドボーンを倒すよりも前の時点のことである。
 デッドナイトが樹海の奥に築いた暗黒の城に、忍び寄る影があった。
 マリアルージュ・ローゼンベルグである。
「あれが暗黒城。そして、扉を開く闇の力の集積場、か」
 マリアルージュの後に続くは、義体メアリィ。
 ブラッディソードを構えて、用心深く進んでゆく。
「結社の者か」
 そのマリアルージュの前に、デッドナイトの姿が!
「現れたな。お前は結社のことを知っているのか?」
「知っているさ。聞かされていないのか? 私はこれまでも、人類の歴史の影で、結社の者と闘ってきた。今回も、きっとくるだろうと思っていた」
「デッドナイト、何を企んでいる?」
「今回の作戦で、私は何千年も前から抱いてきた目標を達成できるかもしれないのだ。邪魔する者は、容赦なく息の根を止める」
 デッドナイトは巨大な槍を構えた。
「このグングニルに、お前も貫かれるがいい」
「死ぬのは、お前の方だ!」
 マリアルージュの叫びと同時に、メアリィがブラッディソードでデッドナイトに斬りかかる。
 応じて、デッドナイトが槍を振りまわす。
 カキン、カキン!
「むっ、二刀流か?」
 デッドナイトは、メアリィがブラッディソードを右手に持ち、左手にマンゴーシュを持っていることに気づいた。
「貴方の命運もこれまでよ!」
 メアリィは槍の攻撃を巧みに避けながら攻撃する。
「無駄だ!」
 デッドナイトはまたがっている馬を巧みに操って、急激にバックさせた。
 勢いあまったメアリィが前につんのめる。
「くらえ! 神槍の一撃を!」
 バックから一転、デッドナイトは急激に身を前に乗り出し、渾身の力をこめてグングニルを突き出した。
 グングニルの先端が、つんのめったメアリィの頭部を貫くかに思えた。
 だが。
「待っていたわ。ブラッディースラッシュ!」
 身体を横に開き、グングニルの先端を巧みにかわして、メアリィがいっきに間合いを詰める。
 横に開いた身体の、片腕をすっと伸ばして、ブラッディソードの切っ先でデッドナイトを突こうとした。
 だが。
「なに!?」
 馬上にあったはずのナイトの姿はそこになく、メアリィの攻撃は空間をすぎるのみ。
 ナイトは、槍を突き出すと同時に、自身の身体も前方に大きく移動させていたのだ。
 いまやナイトは、メアリィが武器を突き出したのとは逆の方向にたっている。
「メアリィ!?」
 マリアルージュが叫んだ。
 だがナイトは、槍を使っているがゆえに、すぐに切り返した攻撃はできない。
 メアリィはナイトを振り向きざま、すぐに次の攻撃を仕掛けようとした。
 そのとき。
「はいは〜い。マリー、攻撃準備完了だよ。すぐに離脱してね」
 マリアルージュに、カミッラ・ロッシーニから通信が入る。
「いくよ、メアリィ!」
 マリアルージュはメアリィに合図を送る。
「はい!」
 メアリィはマリアルージュとともに、暗黒城から遠ざかるように駆け出した。
「うん? まさか、これまでの攻撃は陽動か?」
 デッドナイトが胸騒ぎを覚えたとき。
「音速爆撃・ルーインレクイエム!」
 叫び声とともに、暗黒城を挟んで、マリアルージュたちとは反対の方向からカミッラの義体アリアが長距離攻撃を放った。
 アリアの音撃。
 ハミングブライドとして、強化声帯をふるわせて発する、音波の衝撃による攻撃だ。
 どごーん!
 轟音とともに、暗黒城の一角が吹っ飛ぶ。
「よし、さらに続けて!」
 カミッラの指示で、アリアがさらに音撃を何発も放つ。
「ちっ、味な真似を」
 デッドナイトが舌打ちしたとき。
 ひゅうううううううう
 空の彼方から、巨大な魂のようなものが暗黒城に飛来した。
 暗黒城に到達した瞬間、ピカピカと周囲が光り、次の瞬間、城全体から強力なエネルギーの光が発生し、樹海の奥に向けて放たれていく。
「あれは!? ゲソ部長がやられたのか!」
 そして。
 最後のエネルギーを放ち尽くした直後に、アリアの音撃が次々に炸裂。
 ガラガラガラ
 ついに暗黒城は轟音をたてて崩壊した。
「やるな。だが、ゲソ部長の最後の執念が『扉』を開けた可能性がある。確認しなければ」
 デッドナイトは黒い馬にまたがって、宙を駆けた。
 そんなデッドナイトの前に、樹海に潜伏していたマニフィカ・ストラサローネが姿を現した。
「待っていたぞえ。ここから先へいかせぬ!」
「海の王族、か。なぜ地上に現れた? 私を追うようにいわれたか?」
「なぜわたくしのことがわかる?」
「さあな」
 ナイトはグングニルを構える。
 と、マニフィカは、ナイトの全身を覆っている漆黒の鎧に、どこか見覚えがあるような気がした。
 どこか、そう海の中で……。
「思い出したぞえ! あの遺跡にあったものと同じぞえ! では、おぬしはあの国の末裔?」
「それ以上はいうな」
 ナイトはグングニルを突き出した。
「があっ」
 マニフィカは危ういところで槍をかわす。
「おぬしも犠牲者だったのか。大いなる力の……」
 マニフィカは、ナイトへの戦意が不思議と喪失するのを感じた。
「お前たち海の王族は、海底でのんびり暮らすうちに闘いの勘が鈍ったようだな! 闘いの最中に感傷にひたる余裕があるか?」
 ナイトはマニフィカを置いて先に行こうとする。
「待て! ギガンティックモード!」
 マニフィカは巨大化してナイトを追いかける。
「富士五湖の精霊よ、力を! ナイトを押しつぶせ!」
 マニフィカの指先から巨大な水流がほとばしり、ナイトの身体をたちまちのうちに包みこんだ。
 だが。
「私がこの程度の水圧で死ぬことはないと、わかっているだろう?」
 ナイトは、何事もなかったかのように、水流の表面から、馬にまたがったまま浮上してきた。
「やはりそうだな。おぬしは、海の底にいた!」
「お前と闘っていると、昔のことを思い出してしまう。さらばだ」
 ナイトは、驚くべき速度で駆け去っていった。
 マニフィカは、もう追う気力をなくしていた。
「あの国は、不幸だった。我ら海の王族は、生存者がいれば救い出して、海の民として迎えたいと思ったものぞえ。おぬしも、もしかしたら同じ海で、私と肩を並べる存在になれたかもしれぬのに。それだけの器量があるのだから」
 これが、力の犠牲なのか。
 ナイトは、巨大な力によって人生を変えられてしまったのだ。
 レッドクロスが光をなくし、もとの大きさに戻ってポツンと樹海の奥にたたずみながら、マニフィカはしばしの追憶にふけっていた。

 『扉』の近くまできて、デッドナイトは馬を止めた。
 ホウユウ・シャモンが追ってきたのに気づいたのだ。
「デッドナイト! 今日こそは!」
 ホウユウは斬神刀を振り上げる。
「お兄様、がんばって……」
 地上では、クレハ・シャモンが熱心に祈りを捧げていた。
 クレハは、斬神刀をあらかじめ清めるなど、ホウユウの出陣の準備に努めていたのだった。
「お前の相手をしている場合ではないが」
 デッドナイトはホウユウに槍を繰り出す。
「たあああ」
 ホウユウは攻撃を避け、斬神刀で斬りつける。
「さあ、また例の力を出せ。何度も発動することで、お前は後戻りできない状態になる」
 デッドナイトは、どこかホウユウを誘っているようにもみえた。
「うおおおおおおおおおお!」
 ホウユウが闘志を燃やすと同時に、彼のレッドクロスが光を放つ。
「ひひーん〜」
 ホウユウの愛馬、赤兎も勇ましい雄叫びをあげる。
 ホウユウとデッドナイトは、平行して走り出した.
 互いに、相手の隙をうかがおうとしながら。
「お前がここで死んでも、私には特に問題ないのだ!」
 ナイトがグングニルをホウユウに向かって突き出す。
「はあ〜」
 ホウユウは刹那の見切りで槍を避ける。
「いくぞ。雲燿ノ太刀!」
 ホウユウは天高く駆け上がったかと思うと、急降下してナイトに斬りつける。
 ナイトは刹那の見切りで攻撃を避け、さらに反撃に移ろうとした。
 そこで。
「かかったな。雲燿ノ太刀・霞!」
 ホウユウはすかさずナイトに振り向き、反撃を入れようとする騎士の胴に向けて剣をふるった。
 カキイン!
 ナイトの鎧の一部が砕け、内部が露になる。
「なに!?」
 ホウユウは目を見張った。
 ナイトの鎧の内部、本体があるはずのところには、何もなかったのだ。
 みえるのはただ、寒々とした空洞。
「どういうことだ? ナイト、お前は!」
「私はお前たちの認識の範囲外で生きている!」
 動揺しているホウユウに、ナイトはグングニルを突き出した。
「うおおおおお〜!」
 グングニルは、ホウユウの胴を直撃するかに思えた。
「きゃああ、お兄様〜」
 クレハは両手で顔を覆った。
 だが。
 グングニルを握るナイトの手甲が、ボロボロと音をたてて崩れ落ちる。
「なに!? 貴様、その剣は……」
 グングニルを取り落としたナイト。
 その鎧に、次々にひびが入る。
 パリーン!
 鎧が砕けた。
 宙に、ナイトの兜だけ浮いているようにみえたが、すぐにその兜も落ちてしまう。
 あるのは、ただ、黒い霧のような存在。
「ナイト、お前は本来肉体を持っていないのか?」
「私はとっくの昔に、精神だけの存在になっている!」
 どこからか、ホウユウの中に響く声。
「私に鎧をまとわせておけばよいものを、わざわざ解放するとは! もう体裁をつくろう余裕はないようだ。死ね!」
 黒い霧のようなものが、ホウユウにまとわりついてくる。
「うわっ、あの鎧は、お前に実体を持たせる役割を果たしていたんだな、ナイト?」
「かくなるうえは、お前の精神を破壊させてもらうぞ」
 ホウユウの中に、純粋な精神体であるナイトが入り込んでくる。
「うわー、くそっ! 肉体には勝ったが精神には負けた? そんな風にはなりたくない!」
 ホウユウは吠えた。
 レッドクロスが光を放ち、彼の意識が急激に高いレベルにまであがってゆく。
 キーン
 耳鳴りがした。
「お前たちは!? 邪魔をするか」
 デッドナイトの声が戸惑いをおびている。
(やめるんだ。もう勝負はついているんじゃないのか?)
(時代を担う若者の心を奪わせるわけにはいかない!)
「これは……」
 ホウユウは、不思議な光景をみているようだった。
 ナイトを現す黒い霧の周囲に、いくつもの光の塊がまとわりついているような気が、何となくしたのだ。
 幻覚?
 あるいは、そうかもしれない。
 だが、耳に聞こえる声はあまりにもリアルだった。
(なぜ物質の世界にいまだにこだわる?)
「私にはまだやることがある! それを達成するまではこの地上を去るつもりはない!」
(有限にこだわりを持つ限り、お前は未熟だ!)
 これも幻覚かもしれない。
 だが、ホウユウにはいくつもの光がナイトの精神と激しく言い争っているように思えた。
「これは……英霊の声だわ!」
 霊感のあるクレハも、ホウユウが聞いているのと同じ声を聞くことができた。
 そして、声の正体を知ったのだ。
 これまでの歴史の影には、人々の平和を守るために勇敢に闘い、散っていった無数の英雄たちが存在する。
 そんな英雄たちは、死して後もなお、英霊となって人々を見守っているという。
 通常は、その英霊たちの声が聞こえることはない。
 だが、レッドクロスによって知覚を極限まで高められれば、可能になるのだ。
 生前にいくつもの修羅場を体験していた英霊たちは、確かな技量と経験から、戦士たちに闘いの助言を与えることができる。
 その助言によって、戦士は闘いの中で猛烈な成果を示せるのだ。
「お兄様、大丈夫かしら? 英霊の声が聞こえるということは、意識が極限の状態にきているということ。通常なら、精神が崩壊するところだわ。もし、そこからさらに先にいったら……ああ!」
 クレハは卒倒しそうになるのをこらえながら、兄に祈りを捧げる。
 霊感のあるクレハでさえ、英霊の声を知覚するのは大変なことで、彼女にはもう声を聞くことはできなくなっていた。
「あ……あ、あ……」
 宙に浮いたホウユウの目がとろんとして、口がだらしなく開かれた。
「ダメ! お兄様、『戻って』!」
 クレハが叫ぶ。
 この感覚は、何だ?
 すごく自由だ……どこにでも飛んでいける気がする……。
 ホウユウは、解放を感じた。
 だが、そこまでだった。
 ホウユウのレッドクロスが光を失い、意識のレベルが急激に下がってゆく。
「はっ、ここは! うわーっ」
 現実に戻った瞬間、ホウユウは地上に落ちていった。
「お兄様ぁ!」
 駆けつけたクレハがホウユウに抱きつく。
「ハッハッハ! 『扉』はやはり開いたようだぞ! みろ、お前たちの世界はもう終わりだ!」
 デッドナイトの声がホウユウにとどろく。
「なに!? この邪悪な気配は!?」
 猛烈な寒気に、ホウユウはうめき声をあげる。
 樹海の奥から、真っ黒い、不気味な巨大な影が現れていた。
「あのとき、出たのと同じ? でも、遥かに大きい!」
 ホウユウは思わずクレハをきつく抱きしめる。
「きゃあっ」
 悲鳴をあげるクレハ。
「クレハ、ここにいては危険だ!」
「お、お兄様〜」
 ホウユウはクレハを連れて赤兎に乗り、暗黒城があった方面へ戻ってゆく。
 最後に樹海の奥を振り返ったとき、ホウユウはみた。
 デッドナイトの精神を表す黒い霧が、巨大な空間に広がった闇の亀裂の中に飛び込んでゆくのを。
「ハッハッハ! さらばだ! この地球という空間!」
 デッドナイトの精神があげる最後の声が、ホウユウの耳にこだました。
 ふおおおおおおおおお
 デッドナイトの精神が地上から消え失せた後、残された巨大な闇の塊が、大きく吠える。
 闇の塊を吐き出した、『扉』を表す亀裂は、デッドナイトを飲み込んでから、徐々に閉じられていった。
 暗黒城が破壊されたことにより、もう『扉』を開けるエネルギーは注がれてこないのだ。
 闇の塊は、徐々に、暗黒城のあった方角へと移動してゆく。
 その姿は、いくつもの足を持ち、いくつもの目を持ち、いくつもの翼を持つもの、だった。
 不定形で、すぐにかたちを変え、うごめきながら、それは移動してゆく。

8.三大剣の伝説

 崩壊した暗黒城。
 その瓦礫の中に、ミズキ・シャモンの姿があった。
 ミズキは瓦礫のひとつに腰かけて、持ってきていた大量の古文書を広げて、次々に目をとおしていた。
「おーい、ミズキー!」
 ホウユウとクレハが、そんなミズキに声をかけて、樹海の奥から駆けてくる。
「兄さん!」
 ミズキは古文書を閉じた。
「どうしたんですか?」
「どうしたんですか、ミズキこそこんなところで何をしてるんだ?」
 ホウユウが不思議そうに尋ねる。
「私は、ここで古文書を解読して、例の三大剣について調べていたんです。何かわかったらすぐ兄さんに知らせようと思って」
「それで、何かわかったのか?」
「三大剣って、正確には三霊剣のことらしいですね。草薙の剣と、十拳(とつか)の剣、そして布都御魂(ふつのみたま)の剣があるようです。兄さんの斬神刀も、もしかしたら三霊剣のひとつじゃないかと思ったんですが」
「この剣が!? そんなバカな。これはシャモン家に代々伝わる剣だ。日本古来の伝説とは関わりがないはず」
 ホウユウは驚いて剣を眺めた。
「お兄様! そんな話をしている場合じゃありませんわ。闇の、闇の王が近づいてきます!」
 クレハが焦った口調でいう。
「闇の王?」
 ミズキが尋ねる。
「『扉』が開いたんです! それで、すごい闇の塊が出てきて……こっちに向かっているところです!」
 クレハはまくしたてた。
 ミズキも、すぐに感じた。
 樹海の奥から、ぞっとする気配を放つ者が近づいてくる。
「どうしましょう?」
「すぐに撤退しよう。お前たちを危険にあわせるわけにはいかない」
 ホウユウはクレハとミズキの肩を両手でつかんで、揺さぶる。
 そのとき。
「おーい!」
 リーフェ・シャルマールがやってきた。
「みなさーん、無事でしたか?」
 その後から、エリカも駆けてくる。
「どうした?」
「ゲソ部長を倒した直後に、この方角から黒い気配が漂ってきて……何が起きたのか確認しにきた」
 ホウユウの問いに答え、リーフェは目をこらし、迫りくる闇の存在を観察する。
「あれは、ただの邪悪な存在ではないな。この地球にはもともと存在しない、異星の生物だ。おそらく、デッド星の」
 リーフェはすぐに、迫りくる存在に対してある程度の見当をつけた。
「デッド星って?」
 ホウユウがまた尋ねる。
「デッドクラッシャーズが開けようとしていた『扉』は、異世界への連絡通路だった可能性が高い。太古の昔から存在していたことを考えると、かつてその『扉』からやってきた存在が、デッドクラッシャーズのルーツなのではないかな。太古の昔、地球を支配しようとしたその存在は、何らかの対抗勢力によって滅びた。だが、いくつかの残存勢力が生き残り、いつか『扉』を開けるため、世界中から闇の力を集めるチャンスを狙っていたのだ」
「対抗勢力って、日本古来の神々のことかしら?」
 クレハが尋ねる。
「そうかもしれないな。デッド星というのは、私がとりあえずつけた名前だ。『扉』は、デッドクラッシャーズの先祖がもともと暮らしていた異星、つまりデッド星に通じていると思うのだ。『扉』が開かれたことで、デッド星の生物が再び地球に襲来してきたわけだ」
 クレハはエリカを振り返った。
「光のクリスタルで、どうにかできないか?」
「やってみます。クレハさん、力を貸して下さい」
「はい?」
 エリカの差し出しだ光のクリスタルに、クレハは手を乗せた。
「目をつぶって、祈るんです。そう、あなたのお兄さんを思い浮かべて」
「お兄様を……? お兄様!! お兄様のいるこの世界が、無事でありますように!!」
「クリスタルよ、邪悪な存在をしばしとどめたまえ! 世界の平和のために!」
 エリカとクレハ、二人の想いに光のクリスタルは反応した。
 巨大な光のフィールドが発生し、迫りくる闇の塊とぶつかった。
 ふんぐるおおおおおおお
 闇の塊は、すさまじい吠え声をあげて、後退していく。
「ショックを与えることに成功したようだな。だが、『扉』はもう閉じている。奴は故郷に帰ることができないから、また樹海から外に出ようとするぞ」
 リーフェの冷静なコメント。
「グレイト・リーダーに報告しなければ! もっと応援がきてくれないと!」
 ホウユウたちは樹海から撤退を始めた。

9.謎は南太平洋に

「以上です。グレイト・リーダー、指示を」
 東京に帰還したリーフェ・シャルマールは、自ら電脳チャット空間に接続し、グレイト・リーダーに報告を送った。
「ご苦労様でした。ゲソ部長は倒れ、首相官邸は奪還されました。リーフェさんは、光のクリスタルのコピーをつくろうとしていたようですが、残念でしたね」
 グレイト・リーダーがチャット空間に現れ、リーフェに話しかける。
「失敗したのは仕方ありませんよ。光のクリスタルの構造は予想以上に複雑でした。亜細亜博士が開発に一番手間取ったというのもわかります。実に複雑なバランスで、人間の感情から守る気持ちを選別するようになっている。これなら、米軍がやってるという、レッドクロスのコピーの方がまだつくりやすいですね。まあ、コピーといってもデッドコピーになりますが。とても、レッドクロスやクリスタルとそっくり同じものはつくれそうにない。今回の、ホウユウさんの件を聞いてわかりましたよ。レッドクロスの根本が何なのか、だいたいね」
「その件ですが、在日米軍の巨大空母が、南太平洋に向かったそうです」
「南太平洋に? なぜ?」
「おそらく、閉鎖されている未知文明研究所に向かったと思われます。南太平洋の孤島に、その研究所はあるんです。いまから5年前、不幸な事故が起きて、研究所の人々は一人を除いて全員が死亡しました」
「その一人が、亜細亜博士というわけですか」
「もうその研究所には何も残されていないと思ったのですが、米軍が向かったところをみると、まだ何かが眠っているようです。米軍が、知ってはならないことを知ることは阻止しなければなりません」
「研究所はもともとアメリカ政府が開設していたのでは? 米軍はいってみれば自分たちに属する知識を得たがってると思うのですが? いけないことなのですか?」
「レッドクロスの提供を受けたとき、私は亜細亜博士と約束しました。クロスの由来、開発、技術についてのいっさいの情報を極秘にすること。もし、クロスの秘密に近づく者があれば、ただちに阻止すること。もし秘密を知られたなら、そのものを破壊すること……。それが、クロス使用を許可されるにあたっての条件だったのです」
「約束だから、というだけではないですね? グレイト・リーダー、あなた自身もクロスの秘密が洩れるのを恐れている」
「そうですね。私は、あなたにも全てを話すつもりはない。まあ、私自身が知ってることはわずかなんですが。もしかしたら、デッドクラッシャーズも研究所に向かっているかもしれません。あそこには、まだ、私たちの知らない力が眠っているのかもしれませんね」
 グレイト・リーダーは、言葉を切った。
 リーフェも、しばらく沈黙を守る。
「『扉』から出てきた、闇の王はどうするんですか? 放っておけば大変なことになる」
「正直いって、私もどうすればいいかわかりません。ガーディアンのみなさんに、持てる力の全てを結集して立ち向かってもらうしかないですね」
「おやおや。リーダーも困ってしまうとは。武神さんは、闇の王にひかれて移動しているようですね」
「はい。できれば、武神さんの力が欲しいところですが、闇のクリスタルに心を奪われてしまった」
「そういえば、デッドナイトは消滅したと考えていいのでしょうか? 精神体になってから、『扉』をくぐって向こうに行ってしまったそうですが」
「はい。デッドナイトが何を考えていたのかは知りませんが、『扉』の向こうのデッド星に行けば、地球上では決して得られない、強烈な闇の力を浴びることになります。デッドナイトの精神はその、強すぎる闇の力に耐えられず、崩壊することでしょう」
「なるほど。あまりに強い闇の力に押しつぶされてしまうと」
 そういったとき、リーフェは一抹の疑問を感じた。
 もしそうならなかったら?
「グレイト・リーダー、私には、デッドナイトが最初から自分が『扉』の向こうに行くために動いてきたように思えるのですが? 気のせいでしょうか? 彼は、デッドクラッシャーズと考えることが違うように思うのです」
「さあ。デッドナイトはもう私たちの前には姿をみせないでしょう。私は現在のこの地球の脅威について考えていきたいと思います」
 そこまでいって、グレイト・リーダーはチャット空間から姿を消した。

10.謎の通信

「リーダー、グレイト・リーダーよ……」
 電脳空間を漂うグレイト・リーダーの精神に、何者かが語りかける。
「誰です? 私が潜むこの場所を探りあて、しかもアクセスに成功するとは!」
 リーダーは姿のみえない相手に語る。
「一週間ほど前から、我々は警告を続けている。この地球で、君の率いるアーマードピジョンという組織、そしてレッドクロス、ガーディアンという存在は、実に興味深いものだ」
 謎の声は、グレイト・リーダーに語り続ける。
「警告とは、何ですか?」
「地球からデッド星への通信回線が開かれようとしていることを、我々は感知した。だが、警告するのが遅かった。回線が開かれ、デッド星の生物が地球上に現れた。それだけではない。回線を通った何かが、デッド星に救援信号を送ったと思われるのだ」
「救援信号?」
「デッド星人たちは、自分たちの仲間がとっくの昔に地球支配に成功したと思っていた。だが、今回の通信で、地球上のデッド星人の末裔が苦戦していることがわかった。だからこれから、デッド星から地球に、直接救援部隊がくることが考えられる。通信回線はまた閉じられたので、彼らは直接宇宙空間を航行してやってくるだろう。太古の昔には実現できなかった、恐るべき速度でね」
「あなたは、いったい誰なんです?」
「デッド星人は、危険な、宇宙のおたずね者だ。いくつもの星の住民が、デッド星人によって滅ぼされている」
「私たちは、どうすればいいというのです?」
「それは、また連絡する。今回は、きみ自身について警告したい。グレイト・リーダーよ、きみはいつまでも自分が安全だと思ってはいけない。きみは、自分が倒れたときのことを考えたことがあるか?」
「私が? 私は倒れることはない」
「それがいけないんだ。もしきみがいなくなったら、アーマードピジョンはどうなる? きみたちが使っているレッドクロスの構成物質は、宇宙的にも極めて珍しく、また危険なものだ。だが、監督者であるきみがいなくなれば、ガーディアンたちはレッドクロスの使用をエスカレートさせるかもしれない」
 そこまでいって、謎の声はもう語りかけなくなった。
「何者だったのでしょう? そして、いまの存在がいったことは本当なのか? あの方に伝えた方がいいでしょうか?」
 グレイト・リーダーは、静かに考え始めていた。

 デッドクラッシャーズの極東基地。
 ゲソ部長が倒れ、極東支部の部員たちは混迷を極めていた。
 と、そこに。
「今日をもって極東支部に就任が決まった。ホンコン支部のドラゴン総統だ!」
 巨大な龍の頭を持ち、銀の鎧に身を固めた男が司令部に姿をみせた。
「ははー! 総統に敬礼!」
 部員たちはみな、新支部長の前にひざまずく。
「さっそくだが、このウィルスを使え」
「ウィルス?」
 総統の差し出したディスクに、部員たちの好奇の目が集まる。
「そうだ。フフフ、グレイト・リーダーめ、もうじき貴様は消える……」
 ドラゴン総統は不気味な笑い声を浮かべた。

「は〜、さてさて。東京の空をお掃除、お掃除ですね〜」
 首相官邸前の瓦礫から姿をみせたアンナ・ラクシミリアが、イカスミで汚れた空に向かってモップを振り上げる。
「スペシャルテクニック、プラズマイオンミストシャワー!」
 モップの先端からプラズマでイオン化した霧が発生し、東京の空を浄化していく。
「いろいろあったけど、日本政府を、そして東京の空を守れてよかったと思いますね〜」
 アンナは熱心に、空を掃除していく。
 だが、富士の樹海付近の上空は、相変わらずどす黒いままだ。
 そこに、巨大な闇色のロボットが向かっていた。
「あそこだ。あそこに、何かがある……俺は……」
 武神鈴は、無意識に闇の力にひかれていた。

(第2部第2回・完)

【報酬一覧】

ジュディ・バーガー 1、000万円(デッドグリズリーを倒す)
トリスティア 5、000万円(ゲソ部長を倒す)
ホウユウ・シャモン 5、000万円(デッドナイトを倒したとみなされるため)

【マスターより】

 今回も遅れてしまって申し訳ありません。全体のターニングポイントにあたる回ですね。でも、前回の方が書くのは大変でしたね。意外にも、再生超甲人機たちはいまだ倒されず、健在であるようです。次回も登場して邪魔してくることでしょう。次回は闇の王、南太平洋の研究所、そして電脳空間と3つの要素を中心に物語が進行する予定です。

メルマガは、11/13発行予定です。