「英雄復活リベンジ・オブ・ジャスティス」

第1部「アジア編」第2回

サブタイトル「悪魔の巨大ロボ! 合体変形ダダダッダーン!!」

執筆:燃えるいたちゅう
出演者:熱きガーディアンのみなさま

1.燃える横浜

 満珍桜。
 超高級中華レストランがたちならぶことで知られる横浜中華街でも、名店中の名店とされる店である。
 その満珍桜の本館VIPルームで幻の宮廷料理「満漢全席」に舌鼓を打つ、ブロンドのアメリカンヤンキーガールがいた。
 ジュディ・バーガーである。
「オ〜、デリシャス! チャイニーズハクッキングノエキスパートネ!」
 サイズがないため特注した真紅のチャイナドレスに身を包み、ご満悦の表情だ。
 チャイナドレスからはみだすウェスタンブーツはミスマッチだが、いまのジュディにはそんなことはどうでもよかった。
「エビチリファイヤーバ〜ン! バ〜ン! バ〜ン! ジュディタベマス〜」
 巨大な、子牛の頭ほどの大きさのエビチリをむさぼるジュディ。
 満漢全席を食べ始めて既に3日が経過している。
 あとは豪華絢爛なデザートを残すのみだ。
 そのとき。
 どごーん!
 突如大砲の音が鳴り響き、巨大な爆発音が。
 店外から悲鳴が聞こえる。
「オ〜、ナンデスカ? ジャパニーズ・オマツリ?」
 ジュディは首をかしげる。
 どごーん、どごーん!
 大砲の音はなおも鳴り響き、爆発とともに建物の倒壊する音、人々の逃げまわる足音が響く。
「お客さま、大変です。デッドクラッシャーズの戦車部隊が横浜を襲撃してきました! 早くご避難下さい」
 店長が血相を変えてVIPルームに駆け込んできた。
「ホワット? デザートハコナイノデスカ?」
「申し訳ございませんが、いまは避難することが先決です、お客様、さあ早く」
 店長はジュディの肩をつかんで席から動かそうとしたが、アメリカンフットボールで鍛えた鉄の女体はびくともしない。
「オ〜、クレイジーデス。ナニガオキテルノデスカ? ノ〜!」
 ジュディは絶叫した。
 そのとき。
 ジャンジャカジャーン! ジャジャジャーン!
 ジュディの携帯端末がハードロックな着信メロディを奏でる。
「オ〜、ガッデム! ソウイウコトダッタノデスネ。ヨクワカリマシタ!」
 携帯端末を開き、アーマードピジョン本部からの指令を解読したジュディは、拳を握りしめて立ち上がる。
「やっとわかって頂けたのですね。ああ、私も中国出身で英語は苦手でして」
 ホッとしたような笑みをもらして店長が額の汗をぬぐった。
「デザートガアブナイデスネ! シュツゲキデス! アナタハクッキングシテイテクダサイ!」
 そう言い捨て、ジュディはダッシュして店の窓ガラスにタックル。
 ガチャーン!
 ガラスの破片をまき散らしながら道路に飛び降りる。
「えっ? お客さま、お客さま〜!」
 店長の叫びが燃える空に響き渡る。
 ジュディの眼前にある中華街は、いまや炎の街と化していた。
「デッド、デッド、デッドタートルゥ!」
 遠くから、カメ型超甲人機のあげる雄叫びが聞こえる。
「マテロヨ! イマイクカラナ、コノヤロウ! ゴー、コンボイ!」
 ジュディは止めてあった大型18輪トレーラーに乗り込むと、力いっぱいアクセルを踏みこんだ。
 トレーラーが向かうのは、逃げ惑う人々とは逆の方向。
 恐るべき砲弾が放たれてくる現場を目指していた。

「撃てー! 破壊しろ、砕けー!」
 超甲人の乗り込む戦車部隊が、恐るべきキャタピラーでアスファルトを削りながら進む。
「オラオラオラオラオラァ! お前ら全員みなごろしぃ!」
 超甲人たちの気合は半端ではなかった。
「た、助けてくれー!」
 人々はなすすべもなく、砲弾に倒壊した建物の下敷きになり、キャタピラーによってまな板状に身体を引き伸ばされてゆく。
「ハハハハハハ! ハハハハハハハ!」
 人が死ぬたびに笑い声をあげる超甲人たちの目は鬼のような険に満ち、口からはよだれを垂らしていた。
 犯罪者の中からデッドクラッシャーズによってスカウトされ、心身ともに強化・改造手術を施されたサイボーグ・超甲人たちは、もはや人間ではないのだ。
「この調子で、この国は俺たちが征服する! 霞ヶ関も永田町もいずれ俺たちのものになるんだ! そうなったら国民は全員奴隷にして、死ぬまでこきつかってやるぜぇ!」
 超甲人たちの夢は大きかった。
 司令によって吹き込まれた夢である。
 デッドクラッシャーズは、日本については明確な「征服プラン」を打ち出していた。
 このまま、日本はデッドクラッシャーズの支配下に置かれてしまうのであろうか?
 そのとき。
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
 すさまじい唸り声とともに、ジュディの運転する大型18輪トレーラーが戦車部隊に突っ込んできた。
「アナタタチ、ユルセマセン! イキマスヨ〜!!」
 ジュディは戦車部隊が眼前に迫っても全くスピードをゆるめる気配がない。
「何だあれは? 撃て、撃てー!」
 戦車部隊は砲弾をトレーラーに向けていっせいに放った。
 どごん、どごーん!
 爆炎の中をかいくぐってジュディのトレーラーが突き進む。
「ホアタ〜!!」
 ジュディはハンドルを切って、トレーラーを90度回転させた。
 トレーラーは頭を横に振り向けながら戦車部隊に激突し、超甲人ごと数台を吹き飛ばす。
 どかーん!
 吹っ飛ばされた戦車がすさまじい爆音とともに砕け散る。
「ヒノマルナメンナヨ、ウラ〜!」
 道を塞いだ格好のトレーラーから飛び降りて、ジュディは駆ける。
 怒りに燃えるヤンキーガールの筋肉が人間離れした隆起をみせ、チャイナドレスが引き裂かれる。
 お色気サービス中? 違う! こんなに怪しいアメリカ人はみたことがないぜ!
「レッドクロス、セットア〜ップ!」
 ジュディが天に向かってボール状のレッドクロスをかざして絶叫すると、レッドクロスが光を放ち、ジュディの身体が装甲に覆われる。
 アメリカンフットボーラーそっくりな形状のレッドクロスに、ジュディがかつて所属していたチーム「ニューアラモ・ハイウェイスターズ」のエンブレムである蒼い流星が派手にマーキングされている。
「おお、あれはアーマードピジョンのガーディアン、ジュディだ! ジュディ〜! がんばれ〜!」
 逃げ遅れた人々はテレビなどでジュディの姿をみて知っているのか、声援を送る。
「ハ〜、ジュディ・パ〜ンチ!」
 ジュディが力いっぱい拳を突き出す。
 どごーん!
 戦車の装甲に大穴が穿たれ、すさまじい爆発が巻き起こる。
「うおお、さすがジュディだ! 拳で戦車を破壊しているぜ!」
 現場に駆けつけてきた他のガーディアンたちがジュディの活躍に目をみはる。
 レッドクロスで強化されているとはいえ、拳ひとつで戦車を破壊するのはなかなかできないことだ。
 ジュディの精神が拳で戦車を砕けると本気で思い込み、レッドクロスがその精神に反応して力を高めるからこそできる芸当だった。
「く、くそ〜! 撃て、撃て、撃って撃ちまくれ〜!」
 焦り気味の超甲人たちが怒号をあげる。
 ジュディは降り注ぐ砲弾の雨を素早い身のこなしでかいくぐってゆく!
「オ〜、ジャパ〜ン!!」
 ジュディの叫びが、横浜の赤い空に響きわたった。

 一方、前回の闘いで多大な犠牲が出たとされる悪鬼ヶ原の街では。
「よし、種を植えたぞ。プラント・グロウ!」
 ディック・プラトックが破壊された街に植物の種をばらまき、レッドクロスの力で急速成長させ、巨大な植物園をつくりだしているところだった。
 むくむくむく
 悪鬼ヶ原の街一帯に植物が生い茂り、緑に包みこんだ。
「らっしゃーい! パーツが安いよー!」
 植物に囲まれた雑居ビルの1階で、パソコンパーツショップのオヤジが威勢のいい呼び込みの声をあげる。
 ボロボロになった悪鬼ヶ原だが、実は闘いが終わったその夜から商店の営業は再会され、客も多数訪れていたのだ。
「メイド喫茶、ミエミエ! ノーパン・シースルーでご奉仕中で〜す」
 メイド喫茶の呼び込みをするメイドたちが、悩ましい太ももをみせながら客をつかまえている。
 ディックのつくりだした植物の群れは、そんな復興途上の悪鬼ヶ原を優しく包み込んだ。
「フンガー、ダイアッキー、フンガー!」
 悪鬼ヶ原の守護神・ダイアッキもその巨大ロボな外見を植物の繁茂の中に現し、ディックの行為を暖かく見守っているようだった。
「よし、悪鬼ヶ原はこれで大丈夫だ。でも、まだ安心できない。デッドクラッシャーズがこの世にある限り!」
 だだだだだっ
 ディックはひと息つく間もなく、悪鬼ヶ原から駆け出した。
 横浜に向かって。
「大地の平和を守るためだ! いくぞ、デッドクラッシャーズ!」
 京浜東北線よりも早く街を走るディックは、一瞬にして炎の港湾都市にたどり着いた。
「どこだ、姿をみせろ!」
 ディックの怒鳴り声に、ズンズンと歩み寄る巨大な影。
「デッドタートルゥ! 一人で乗り込んでくるとはいい度胸だ!」
 巨大なカメにしかみえない、甲羅に砲門を備えた超甲人機が、ディックをにらみつけていた。
「うおお、お前らにまた大地を汚させはしない! いくぞ!」
 ディックはデッドタートルに向かって駆けた。
「いくぞ、ミサイル発射!」
 デッドタートルの甲羅にある砲門からミサイルが放たれる。
 デッドクラッシャーズが開発した超距離弾道ミサイル、デッドンだ!
 しかも改良版のデッドン2である。
 その距離で超距離弾道ミサイルを撃つ必要があるのかどうかは謎だが、すごい威力を持った武器であることは間違いない。
「うおお、アジアの平和〜!」
 ディックは叫びながらデッドンを避けようとする。
 ところが、デッドン2は発射されて間もなく自ら空中爆発、ディックの場所にまでは至らなかった。
 どうやら、2段式のうちの1段目の新型ブースターの燃焼に問題があったようである。
「デッドン2、実験失敗。うがー、注目されてる中でちょっと恥ずかしい!」
 デッドタートルはよくわからない叫びをあげた。
「うおお、制裁発動!」」
 ディックはデッドタートルに飛びかかり、その甲羅にしがみついた。
「愚かな。デッドタートル、バイブレーション!」
 デッドタートルがその甲羅をブルブルと激しく振動させる。
「う、うわ〜!」
 甲羅から振り飛ばされたディックは大空に弧を描き、戦車部隊と闘うジュディの間近に墜落した。
「オ〜、キャッチ!」
 ジュディはアメフトの要領でディックの身体を全身でキャッチする。
「ジュディか。ありがとう!」
 ディックは礼をいう。
 どごーん、どごーん!
 戦車部隊の砲弾が、そんな二人に情け容赦なく振り注ぐ。
「悪鬼ヶ原は俺が緑に包み、復興させた。だから!」
「オ〜、ワカッタネ!」
 何がわかったのかは不明だがジュディは大きくうなずくと、ディックとともに駆け出した。
「撃てー、撃てー!」
 戦車部隊の砲弾をかいくぐり、二人は走った。
「デッドタートル、ノーマル発射!」
 超距離弾道ミサイルを諦めたデッドタートルが、通常弾を放ってくる。
 どごーん、どごーん!
 巧みに逃げまわる二人のやり方が功を奏し、デッドタートルの弾丸は超甲人の戦車部隊に炸裂、味方を炎上させることになった。
「う、うわー、勘弁して下さい、タートル様!」
 超甲人はわめき声をあげながら戦車とともに塵と化す。
「むう、ちょこまかと!」
 苛立つデッドタートルにジュディが組みついた。
「イックネー!」
 レッドクロスが光を放ち、ジュディの力を限界まで引き上げる。
「ヨッコラセ〜ノ〜」
 ジュディは力を振り絞ってデッドタートルを持ち上げようと試みた。
 だが、ダメだ。デッドタートルは重すぎる!
「アウウ〜」
 ジュディはガクッとなって倒れ、カメの足に踏んづけられてしまう。
「ハッハッハ! 愚かだ、バカだ、お前らは!」
 デッドタートルは勝ち誇った笑い声をあげた。
「くっそー!」
 ディックは歯ぎしりすると、デッドタートルの口に巨大な種をいくつも投げつけた。
「フン、そんなもの!」
 デッドタートルは大口を開けて、種を全て飲み込んでしまう。
「ひっかかったな。プラント・グロウ!」
 ディックは大ガメの甲羅に両の拳をうちつけて叫んだ。
 レッドクロスが光を放ち、甲羅の内部、大ガメの胃袋に収まった種に力を送りこむ。
「う、うがー!」
 デッドタートルは悲鳴をあげた。
 種から芽が出て急速成長を開始し、大ガメ体内の水分、体液等を吸収してみるみる伸びていったのだ。
「やったぞ」
 ディックは歓声をあげたが、そのとき。
「ナメるな〜!」
 デッドタートルの全身が赤く光り輝いたかと思うと、体内に超高熱の火炎が精製され、巨大な植物を燃やし尽くしてしまう。
「うがー!」
 デッドタートルが体内の火炎を口から放出。
 直撃をくらったディックの身体が炎に包まれた。
「うわ〜」
 ディックは倒れ、カメに踏んづけられる。
「オ〜、ディック、コノテードデネヲアゲテハイケマセ〜ン!」
 何とかカメの下から這い出したジュディがディックの身体を引いて、頬に平手うちをくらわせ、失神から回復させようとした。
「う、うわ〜、痛い、痛いよ!」
 ディックは悲鳴をあげながらジュディに肩を借りて立ち上がる。
 二人をよそに、デッドタートルはさらに前進、横浜の港に向かって進んでいった。
 燃えあがる横浜に、もはや大都市の面影はなかった。

2.アンデッドの騎士

 全身黒ずくめの甲冑に身を包み、真黒な馬に乗って横浜上空を駆け、突如出現した謎の超巨大戦闘機に接近するデッドナイト。
 だが、そんな彼が暗い空間に引きずりこまれる。
「うん? ここは?」
 同じ横浜の街に立っているはずだが、あまりにも暗い。
 破壊された建物の影から、何かがのっそりと起き上がる。
「死者……蘇生させられたのか?」
 デッドナイトは剣を抜いた。
 デッドクラッシャーズによって殺された人々の死体が次々に起き上がり、無表情のままナイトに近寄ってくる。
「フハハハハハハ! フハハハハハハハ!」
 どこからか笑い声が巻き起こる。
「誰だ?」
「ソッカァ、ソッカァ、ア、ソッカァ〜」
 しわがれた声をもらしながら、エルンスト・ハウアーが宙に浮かんだ状態で現れた。
「ガーディアンではないな? 暗黒魔術を使うようだが。この空間は、負の力を増大させてつくりだしたものだな」
 デッドナイトは鉄のような落ち着きを示して、エルンストをみていた。
「あー、あー、秘密結社ソッカァは、無政府状態に陥ったこの国を征服し、法と秩序を取り戻す。デッドクラッシャーズもアーマードピジョンも敵じゃな。滅びるがよい」
 エルンストが指を鳴らすと、ゾンビたちがいっせいにデッドナイトにつかみかかった。
「愚かな。はあっ」
 デッドナイトが剣を一閃させると、ゾンビたちの身体がまっぷたつに切り裂かれる。切り裂かれた身体から長い腸がはみ出し、ブルブルとのたくった。
「無駄じゃ。このシャドー空間では、負の力が一段と強くはたらく」
 エルンストが再び指を鳴らすと、切り裂かれたゾンビたちの身体が融合して再び蘇生させられ、デッドナイトに襲いかかってくる。
「なるほどな。だが、この空間をつくりだしたお前が傷つけばどうなる?」
 デッドナイトは黒い馬を駆って宙に浮き上がり、エルンストに斬りつけてきた。
「ふんっ」
 エルンストは危ういところで攻撃をかわし、宙で一回転。
「私を甘くみないことだ。これをみろ」
 デッドナイトの身体が黒いオーラを放ち、ごうごうという音をたてた。
「うん? これは……まさか、お前もアンデッドか? この空間にきて、お前自身の力も強められているというのか」
 エルンストは目を見張った。
「私は一度死んだ。だが、死にきれないのだ」
 デッドナイトの剣、デッドソードが光を放つ。
「はあっ、デッド一閃!」
 デッドナイトが剣を水平に構えて、馬を猛烈な勢いで駆り立て、エルンストに襲いかかる。
「くっ、速い! 何と速い動きを!」
 さすがのエルンストも冷や汗をかきながら辛うじて避ける。
 エルンストには触れられなかったものの、デッドナイトの剣はシャドー空間を切り裂き、いびつな穴を開けた。
「いまはお前の相手をしている暇はない。さらばだ。また逢おう!」
 デッドナイトは空間に開いた穴をとおって、通常空間に復帰。再びフルメタルを目指して駆けていく。
「予想以上に手強い相手じゃ。面白くなってきたわい」
 エルンストはものすごい笑いをみせていたが、ふと眉をひそめる。
「むっ、この街の霊気が凝集しておる。守護神が出るようじゃな」
 デッドクラッシャーズの存在が日本古来の神々をひどく刺激しているという事実に、エルンストは奇異の念を覚えた。
「普段はめったに姿を現さないこの国の神々が、なぜ? 奴らの正体と関係がありそうじゃな」
 エルンストは上空に浮き上がり、戦闘の様子を見極めに入った。

3.日本平和主義連盟の実態

「うおお〜、アーマードピジョン、お前たちは間違っている! ただちに破壊活動をやめろ〜!」
 日本平和主義連盟(愛称:日平連)の旗を掲げる市民たちは、戦場と化した横浜に居座って、アーマードピジョンへの抗議運動を展開していた。
「あなたたち、ちょっと待ちなさ〜い!」
 姫柳未来が現れ、市民団体に呼びかける。
「うん、何だ君は? ここは危ないから帰るんだ」
 市民たちは姫柳がレッドクロスをまだ着用していないため、普通の女の子だと思って驚いていた。
「あなたたちこそ、何でこんなところにいるの? 戦車は目の前に迫ってるよ」
 どごーん!
 姫柳が呼びかける合間にも、戦車部隊の砲弾が近くの建物を直撃、倒壊させた。
「子供にはわからないことだ。デッドクラッシャーズは危険だが、アーマードピジョンの力で退けるには問題がある。我々はそれを訴えるためにここにいるのだ」
「訴えるって、何でそんなことしかできないの? この市内には病院や老人ホームがたくさんあるんだよ。そこの人たちはまだ完全に避難できないでいる。さあ、力を貸して。私と一緒に人々を避難させ、救助しにいこう」
 市民たちは、ますます眉をひそめた。
「君こそ、何をいってるんだ。危険なことは警察や消防の人たちに任せて、君のような女の子こそすぐに安全な場所に避難した方がいい」
「デモをやめないっていうの? バカッ!」
 ばちーん
 姫柳の平手打ちが、市民を打った。
「な、何をする? 優しく接していたら、図に乗って」
 市民たちは一様に怒りの表情を浮かべて姫柳を睨んだ。
「わからないの? 目の前で危険にさらされている人たちを放っておくことが、いかにひどいことか」
 姫柳はプンスカしながらレッドクロスを掲げ、変身しようとした。
 そのとき。
「わかる、わかるぜ。あんたたちの主張!」
 佐々木甚八がものかげから現れ、にこやかに市民たちに歩み寄ったのだ。
「じ、甚八! わたし、聞いたよ。あなた、ネコ男爵を動揺させるために、ネコを目の前で殺したでしょう?」
「うん? ああ、あれはこいつさ」
 甚八は謎の袋を取り出すと、地面に放り投げた。
 ニャ〜、ニャ〜。
 袋から、ネコの声が漏れる。
「こ、これは、おもちゃ!? じゃあ、血が出たっていうのも……」
「わかったか。俺は無闇な殺生は行わない」
 甚八は市民団体に向き直った。
「俺は、あんたたちの理念に共感している。俺もアーマードピジョンのやり方には反対なんだ。なあ、一緒にこないか? ピジョンによる大規模破壊作戦が計画されてるんだ」
「そんな作戦、聞いたこ……」
 言いかけた姫柳の口を、甚八が連れて歩いてる義体、ブルーブライドの手がふさぐ。
(何をするの?)
(まあ、黙ってみていろ。こいつらを誘導して、保護するつもりだ)
 甚八は姫柳の耳に囁いてニッと笑うと、市民団体に手を差し伸べる。
「さあ、全世界に向けてピジョンの悪を糾弾してくれ。記録のビデオは持ってるな?」
「ガーディアンの中にも君のような人がいるとは。ホッとさせられることだな」
 市民団体は甚八についていこうとした。
 そのとき。
「おい〜、お前ら〜、女を俺に寄越せ〜」
 赤外線マスクを着用し、ジーンズにTシャツ姿の男たちの集団、甚八たちの前に現れた。
 すえた匂いが鼻をつく。男たちは何日も身体を洗っていないようだ。
「な、何なんだろう、あの人たち」
 姫柳は何ともいえない不吉な予感が背筋を駆け上がるのを覚えた。
「むう、これは、噂に聞くデッドクラッシャーズ性犯罪者部隊『レイプメン』だ」
 甚八はブルーブライドに合図。戦闘態勢に入る。
「せ、性犯罪者って、まさか、こいつらも超甲人!?」
 姫柳は真っ青になった。
「痴漢や強姦、セクハラといった性犯罪の常習者たちが大量に誘拐され、デッドクラッシャーズに改造されているというのは有名な話だ。君は隠れて」
 甚八は姫柳の身体を突いてものかげに押し込もうとする。
「あっ、もうどこ触ってるんだよ!」
 突きどころが悪かったのか姫柳がプンスカし始める。
「怒ってる場合じゃないぞ。あいつらの赤外線マスクがさっきから君の身体ばかりみている意味がわからないのか?」
「えっ?」
 甚八の声に姫柳は再び真っ青に。
「へっへっへ、いい身体だな〜その身体欲しいな〜」
 レイプメンのメンバーたちは赤外線マスクで姫柳の服を透かしてその身体を鑑賞し、ハァハァしていたのだ。
 よだれを垂らし、カクカクと不気味に腰を揺らすレイプメンの面々。
「や、やだ! エロい〜助けて〜」
 姫柳は手近にいた市民にしがみついた。
 バシッ
 その市民が姫柳の身体を突き飛ばす。
「えっ?」
 姫柳はびっくりして市民団体の人たちをみた。
 彼らの顔は、恐怖に歪んでいた。
「あっ、ああ、こいつらは、テレビや新聞に何度も報道されている! 若い女性を集団で襲い、恋人や友人が抵抗すればあっという間に切り刻まれて惨殺されてしまうんだ。おい、まずいぜ」
 市民たちは互いの顔を見合わせる。
「どういうことなの?」
 姫柳は茫然とする。
「その女を寄越せ〜。寄越さないと、お前たちの生命はないぞ〜!」
 よだれを垂らしながら、レイプメンはいっせいにナイフを抜き放ち、市民団体に詰めよってくる。
「くっ、抗議活動はもう限界か。完全平和主義を貫くため、我々は武装していないのだ。撤退するぞ!」
 市民団体の人たちはいっせいに背中を向けて駆け出した。
「な、何だよ、わたしを見捨てるっていうの? ひどい、これが日本平和主義連盟?」
 姫柳はあまりのことに、愕然とした。
 その傍らでは、甚八も呆れたというように口をぽかんと開けている。
 もし、姫柳が普通の女の子だったなら、いまごろレイプメンたちの慰みものにされていただろう。
 そう、普通の女の子だったなら。
 だが、姫柳は違った。
「あんたたち、絶対許さない! 大勢の女性の身体をもてあそんで、踏みにじって!」
 姫柳はボール状のレッドクロスを振りかざした。
「変身! ミニスカスパーク!!」
 かけ声をあげると、レッドクロスが光を放ち、姫柳の身体がブレザーの制服姿になる。
 ミニスカートからのぞく太ももが炎に包まれる街にあって異様にまぶしかった。
「おお〜、お、おっぱいみえなくなったよ! あがが」
 赤外線でレッドクロスを透かして肉体を鑑賞することはできないので、レイプメンはいっせいに残念そうな声をあげる。
「コラー! おっぱいなんて、みえなくていいんだ! とあー」
 姫柳はパンチやキックでレイプメンを次々に叩きのめしてゆく。
「くそ、この女、ガーディアンだったとは。逃げろー!」
 レイプメンは両手を振りあげて後ろを向き、ぞろぞろと撤退していった。
「俺の出番はなかったか。さすがだな」
 甚八は姫柳をほめた。
「もう、いいんだから。わたしは、予定どおり春音と救助活動をするよ! 甚八はどうするの?」
「俺はまだやることがある」
 甚八は姫柳と別れて、燃える横浜を歩いた。
「やはりここにいたか」
 比較的安全そうな場所に数人のガーディアンがだべっているのをみて、甚八は足を止めた。
「あ〜、全く、すげーよな、ジュディは。あの大ガメの下敷きになっても元気いっぱいなんだからな〜」
「おい、聞いたか? 街の一部で殺されたばかりの死人がよみがえってるらしいぜ。ゾンビになってて危険だから俺たちの仲間が処分してるらしいけど、エルンストとかいう暗黒魔術の使い手が一人で組織を名乗って自称レスキュー活動をやり始めたらしい」
「マジかよ。デッドクラッシャーズだけでも苦労してるのに、このうえまた新しい敵が出てくるなんてな〜」
 直接戦闘には参加せずだべっているガーディアンたちに、甚八は怒りを禁じえなかった。
「おい、お前ら。もう闘うのはやめて、俺の指揮下に入れ」
 甚八の呼びかけに、ガーディアンたちはびっくりしたようだ。
「何だ、お前? いきなり指揮下に入れって、俺たちは個人個人とグレイト・リーダーと直接契約をかわしたことになっていて、賞金のために一人一人バラバラに動くのが基本で、誰かの指揮下に入る義務なんてないんだ。知らないのか?」
「そんなことはわかっている。だが、お前らは自由にやらせてもただだべっているだけだろう? だから俺についてこいといってるんだ」
「ざけんなよ。そんなこといって、自分が賞金を一人じめしたいだけなんじゃないか?」
「ついてくるのは嫌か。それなら」
 甚八の合図で、ブルーブライドが歩み出る。
「うっ、義体を使うのか!?」
 ガーディアンたちの間で動揺がはしる。
「力ずくでもいうことを聞いてもらうぞ。俺は組織を変える。闘わない役立たずはまとめて編成し直すぞ」
「ちっ、こいつと本気でぶつかったらやばいな。おい、みんな」
「おう!」
 ガーディアンたちはいっせいに顔を見合わせ、そして。
 だだだだだっ
 いっせいに、その場から逃走していった!
「な! なんてやつらだ。まともにやりあうことさえできないのか。本当に見捨てたくなってきたぜ」
 さすがの甚八もため息をついた。
「甚八、まずいで。あいつら、あんたのやったことを本部に報告する気やで」
 ブルーブライド、ソラが忠告。
「ふん、やるならやれ。俺は俺でいかせてもらう」
 甚八は姫柳が向かうつもりだといった病院に足を向けた。

「はあはあ。ここまで逃げれば大丈夫かな?」
 レイプメンの脅威にびびって姫柳を置いて逃げ出した市民団体の構成員たちは、ようやくひと息つく気になった。
「あの子は可哀相だったけど、でもこんなところに女の子が一人でくるっていうのがそもそもいけないんだ。全く、警察がちゃんと機能してくれれば、俺たちがこんな辛い目にあわなくてもすむっていうのに」
「ああ、警察や自衛隊には失望させられっぱなしだな。何でも、うかつにデッドクラッシャーズに抵抗すると警察官やその家族が次々に暗殺されるので、すっかり及び腰になってるらしい。自衛隊は自衛隊で、秘密兵器を破壊されてからすっかりやる気をなくしたようだし」
「あの噂は、やはり本当なのかな? 日本政府がひそかに『対デッドクラッシャーズ法』を制定し、アーマードピジョンを平和維持受託機関とみなして、公的資金による援助をはかっているというのは」
「何でそんなまわりくどいやり方をとる? アメリカなんか、ペンタゴンを破壊されたものの、最近は持ち直して、デッドクラッシャーズと全面戦争に突入してるというじゃないか」
「そうだな。まあ、アメリカの場合、デッドクラッシャーズのアメリカでの活動を支えていた大幹部級の戦士が突然姿を消したことが、逆転につながったようだが」
「大幹部級の戦士? 何だそれは? そいつが急に消えたというのか?」
「ああ、よくわからないけど、アメリカ軍はその戦士に全く対抗策をみつけられず、徒に翻弄されていたらしい」
「ところで、これからどうやって帰る?」
 市民団体は、途方に暮れた。
 ぎりぎりまで粘って抗議活動を行うつもりだったが、行く手の街なみは早くも炎に包まれており、これ以上は進むこともままならない状態だった。
 そこに。
「ほら、あなたたち、何をやってるんですか〜?」
 モップを肩に担いだアンナ・ラクシミリアが現れた。
「あっ、またガーディアンか。全く、俺たちが何をいってもお前たちは聞く耳を持たないんだな? 反省するどころか、したり顔で俺たちに語りかけてきやがる」
 市民たちは嘆息した。
「ふーん、でもわたしは知ってますわ。あなたたちが、性犯罪者に襲われかけていた女の子を捨てて逃げてきたということを」
 アンナの指摘に、市民たちはぎくっとした。
「だ、だから偉そうにいうのはやめろというんだ! 俺たちには何もしてやれない状況だったんだ。抵抗すれば全員殺されていたんだぞ。お前たちならあの状況で武器を使って超甲人たちを倒していただろうが、でもそれは人殺しなんだ、要するに」
「ダメですわ! わたしは、聞く耳持ちません。女の子を見捨てた、お仕置きですわ! エア・トルネード!」
 アンナのかかげるモップが高速回転し、竜巻を巻き起こす。
「や、やめろ。うわー!」
 市民たちは次々に竜巻に巻きこまれて大空に吹っ飛ばされ、遥か彼方の地点に消えていった。
「お仕置きだけど、一応感謝して欲しいですわ。だって、結果的に街の外に飛ばされて、避難できたんですもの。これで賞金もらえちゃうかしら? もっとがんばりたいと思いますわ」
 アンナはニッコリ笑いながらつつましく歩いていった。

4.アーマードベース、出撃!

 デッドタートル率いる戦車部隊によって破壊される横浜だが、もう一つの脅威はデッドサンダーMk.IIだった。
「デッド、デッド、デッドサンダー!」
 身長50メートルの巨人として生まれ変わったデッドサンダー(クワガタ)が頭部から突き出ているハサミから超高圧電流を照射、次々にビルを破壊してゆく。
 デッドサンダーの行く先には、医療器具の大手メーカー、ホビー・デルタ社が。
 社では病院も運営しており、中にはまだ患者たちがいるのだ。
 そして、天才医学博士ドクター・リスキーも。
「このホビデも、ついに崩壊のときがきたか。10年前のあのとき、『可愛い女の子のフィギュアつきギプス』を大量に製作して売り出したらほとんど売れず、経営がゆきづまったことがあった。それ以前からいくつものブランドを生み出して同時並行でシリーズ商品を展開させていくという、買い手の数を考えればいささか無理のある方針を打ち出していたが……」
 ホビー・デルタ社のビルから窓ガラスをとおしてデッドサンダーをみつめるドクター・リスキーに、動揺の色はみえない。
「あのとき、夜逃げした社長に代わって、一時的に私が取締役に就任し、巨額の借金をあらたにして、私のアイデアで製作した医療器具を売り出したら世界的な大ヒットを記録し、この会社は立ち直ったのだ。もともと『おもちゃつきの医療器具』というよくわからないコンセプトの商品を売る会社ではあったが」
 リスキーがホビー・デルタ社の復興に力を貸したのは、自由が欲しかったからだった。
 設備の整っている大病院でなければできない手術もある。だが、大病院は仕事をするうえでの制約も大きく、リスキーの意見がとおらないことも多かった。
 天才タイプのリスキーは、周囲の人と意見が合わず、反発されることも多い。だから、自由を求めて自立を考えていた。
 そんなとき、ホビー・デルタ社の施設と販売網を使って商品を売り出すことを考えたのだ。
「会社が立ち直った段階ですぐに私は社長の座をひき、社内で自由に研究できる身分にしてもらった。自分のいる場所は、自分で生み出す。それが私のやり方だ。だが、しょせんは諸行無常の世の中。築きあげたものも、いつかは滅びてゆく」
 ホビー・デルタ社の事務所は、もともとはこのビルの1階の一部に間借りしているに過ぎなかった。2階から上は普通のマンションだったのだ。
 それが、いまやビル全体が自社所有になり、病院まで内部に持つようになった。
「デッドクラッシャーズよ、やるならやるがよい。お前たちに対抗する手段は、あの男に託した。私と同じ天才だが、自分の居場所を築くことのできなかったあの男に」
 リスキーはデッドサンダーをじっとみていた。

「デッドォ! デッドォ! うん、あれは?」
 ズンズン歩いてゆくデッドサンダーMk.IIが、足を止める。
 全長100メートルの巨大母艦が横浜上空を突っ切ってデッドサンダーに猛接近していた。
「くそっ、やらせるか!」
 巨大母艦の操縦席には武神鈴の姿があった。
 全身包帯に覆われ、痛々しい外見である。
 きっと、病院を抜け出してきたに違いない。
 さっきから、アーマードピジョンからの通信がしきりに入っているが、全て無視している。
「アーマードベース、聞こえますか。貴艦の出撃はまだ検討中なのです。撤退して下さい。繰り返します、アーマードベース……」
「いまの俺にできる最大限のことをやる! 寝ている場合じゃないんだ!」
 武神は折れた肋骨が痛むのに顔をしかめながら、必死で母艦を操縦していた。
 ゴゴゴゴゴ
 アーマードベースの前半部が切り離され、変形して巨大ロボットの姿になる。
「完成! ピジョンロボ! って、一人でやるのは寂しいな」
 操縦席でビシッとポーズを決めながら、武神は恥ずかしそうにいう。
 本来は5人で操縦するピジョンロボだが、メンバーのいないいまは、武神が一人で動かすしかない。 武神はスペシャルテクニック「ライト・ブランド」で「倍」の字を4つ自身に刻印して、無理やり5人分の力を発揮していたのだ。
「頼むぞ、キャリーベース!」
 アーマードベースの後半部は自動操縦でそのままホビー・デルタ社に向かっていく。
 患者たちとリスキーを収容し、避難させるために。
 おそらく、病院には他のガーディアンが向かっているはずだ。
 武神はエリカの顔を思い浮かべる。
 リスキーなら、エリカを治療できるかもしれないのだ。
「いくぞ、ピジョンロボ! アターック!」
 ピジョンロボはデッドサンダーにしがみつき、ガクガクとその巨体を揺らした。
「デッドォ! 邪魔するな!」
 デッドサンダーはピジョンロボを突き飛ばし、高圧電流を放つ。
 どか、どかーん!
「うわ〜」
 ピジョンロボの身体に爆発が数回起こり、武神は悲鳴をあげた。
 みれば、倒れたピジョンロボの下敷きになっていくつかの建物が崩壊し、炎をあげている。
「くっ、普通の住民は避難が終わってるから、大丈夫だとは思うが」
 武神は歯ぎしりした。

「春音、春音! やっぱりいたんだね〜」
「未来さん、わ〜」
 姫柳未来と坂本春音はホビー・デルタ社前でようやくゆきあって、互いをひしと抱きしめあった。
「未来さん、変な匂いがしますけど?」
「うん、性犯罪者に襲われてたんだ。この匂い、本当に身体を洗ってない匂いなのかな? 別の変な匂いじゃなきゃいいんだけど」
「せ、性犯罪者に!? あうう」
 春音は絶句した。
「春音、いまは一刻も早く患者さんを避難させないと」
「そうですね。行きましょう」
 二人はホビー・デルタ社内に入り込んだ。
 病院の廊下には、患者を乗せた担架が行列をつくっていた。
 看護婦たちは、患者たちの面倒をみるのに必死だ。
「春音、武神のアーマードベースが! 自動操縦でキャリーベースになってるようだけど」
 未来が窓ガラスから外をみあげて叫んだ。
「未来さん、それではテレポートでみなさんを飛ばしてあげて下さい。私はリスキーさんを探しに行きます」
 春音はそういって、エレベーターに乗り込んだ。
「わかったよ、春音!」
 未来は患者の担架に手を触れると目を閉じ、レッドクロスの力を解放する。
「うーん、うーん!」
 未来がもともと持っている超能力が増幅され、患者が次々にキャリーベース内部へとテレポートさせられてゆく。患者さんと一緒に看護婦もテレポートさせた。
「キャリーベースには医療室があって器具も揃ってるから大丈夫なはず。春音、早く!」
 未来は春音を追った。
「君たちは何だね? 患者を助けた見返りに、私にアーマードピジョンに協力しろというのか?」
 春音はリスキーを説得しているところだった。
「お願いです、エリカさんを治して欲しいんです!」
「なぜ、そのエリカという女性にそこまでこだわる? デッドクラッシャーズの攻撃を受け、苦しみながら死んでいった者はほかにも数多くいるはずだ。君たちはいままでそういう犠牲者たちを見殺しにしてきたではないか。なぜ、いまになって一人の女性の生命にこだわる?」
 リスキーの口調は冷ややかだった。
「こ、これが世界最高の医療技術を持つといわれる天才博士? 何だか感じ悪いなあ」
 未来は思わず口走りながら春音の脇にたった。
「春音、患者たちは避難させたよ。さあ、早く」
 そのとき。
「そうはさせないよ〜!」
 窓ガラスを割って飛びこんできたのは、アクア・マナだ。
「ああ、これが噂のレディ・ミスト! デッドクラッシャーズの女幹部ね」
 未来は突然のことにおろおろした。
「未来さん、ここは私がくいとめますから、早く」
 春音はレッドクロスの力を解放し、癒しの結界を張った。
「そんな結界が何だというのか? たあっ、南京珠すだれ!」
 アクアのふるった珠すだれが春音の手を打つ。
「ああっ」
 春音が悲鳴をあげると同時に、結界が消えた。
「ゆ、許さない! 春音を、よくも!」
 姫柳はアクアにうちかかった。
「よせ。私に勝てるとでも?」
 アクアは姫柳の手をとると、ぐいっとひねりあげた。
「うっ、痛い!」
 すさまじい力にとらえられて、姫柳は悲鳴をあげる。
「ドクター・リスキー、ついてくるんだ。デッドクラッシャーズは、あなたの頭脳を必要としている。アーマードピジョンに協力されても困る話だからな」
「お前たちについていく理由も私にない。とっとと去れ!」
 リスキーはあくまで冷淡だ。
「いいのかい? あなたの患者がどうなっても」
 アクアの瞳が不気味な光を放つ。
 その光をみた、リスキーがいった。
「その目の不自然な光は、そうか。どうやら、記憶をつくりかえられているようだな」
「な!? 何を言い出す?」
 リスキーの突然の言葉にアクアは動揺し、姫柳を放してしまった。
「よくみれば、お前のその武装のかたち、似ているな。この子の仲間たちに」
 リスキーは姫柳と春音を示していった。
「似ている? 何をいいたい?」
「そういえば、レディ・ミストの外見って、誰かに似ているような」
 姫柳がポロリという。
「あっ、私もそう思ってました! 誰でしたっけ」
 春音も同調するが、誰に似ているのかどうしても思い出せない。
「た、たわけたことをいって戸惑わせるな! リスキー、ついてこないなら、死んでもらう! うっ」
 激痛が頭に走り、アクアはうずくまった。
 リスキーの言葉を聞き、姫柳と春音のやりとりを聞いたせいで、記憶の奥底に眠っている何かがうずきだしていた。
「あっ、ああっ、くそっ、これは? うう」
 アクアは両手で頭を抱えて悲鳴をあげた。
「いまだ、テレポート!」
 姫柳は春音とリスキーを抱えこみ、全身の力を振り絞ってテレポートを実行。キャリーベース内部へと瞬間移動した。
「くっ、ひとまず撤退だ。この次はこうはいかんぞ」
 誰もいなくなったホビデ社内から、アクアは舌打ちしながら撤退していった。

5.王女と横浜守護神

「ホビデ社からは全員撤退したな? よし、これで心おきなく闘える」
 武神の乗るピジョンロボが、デッドサンダーと本格的に対決を開始。
 だが、決定的な武器を持たないピジョンロボは苦戦する一方だ。
「ぐ、ぐわー!」
 デッドサンダーのハサミに身体を挟まれ、ピジョンロボに再び爆炎があがる。
 武神は悲鳴をあげた。
「デッド、デッド、至近距離から高圧電流を浴びせたらどうなるかな?」
 デッドサンダーは勝ち誇った状態だ。
 そのとき。
 それまで横浜上空で一連の戦闘を見守っているかにみえた超巨大戦闘機が、巨大デッドサンダーのいる地点に向かって移動を開始した。
 しゅるるるるるるるる、どかーん!
 戦闘機の放ったミサイルがデッドサンダーに炸裂。
「う、うぐぉ」
 デッドサンダーはうめき声をあげてピジョンロボを放した。
「よし、いまだ!」
 反撃しようとしたピジョンロボに、今度は別の影が上空から襲いかかる。
「デッド、デッド、デッドコンドルゥ!」
 巨大なコンドル、デッドコンドルだ。
 デッドコンドルのサイズは翼を広げても4メートルほどだが、超高速で突っ込み、ピジョンロボの要所を破壊してゆく。
 小さくてすばしこいだけにロボは対処できず、もたもたとした。
「くそっ、ああっ」
 武神はロボを操縦してパンチを繰り出すが、そのパンチはホビデ社のビルを破壊してしまう。
 ガラガラガラ
 崩れ落ちるビル。
「巨大兵器はいろいろ問題だな。でも、俺はやるぜ」
 気力を振り絞る武神。
「デッドォ! 死ね!」
 そんなピジョンロボに、デッドサンダーはまたも電流を放とうとする。
 そこに再び謎の戦闘機が迫り、今度は空中で機首を天に向けて垂直に直立した姿勢で地面に降りたってゆく。
 降り立ちながら戦闘機の細部が複雑な機構を示して変形し、巨大なロボットの姿になった。
「やっぱりあれはフルメタルだ! ロイド博士は奴の電子頭脳を完成させていたんだな」
 武神はロボット工学の天才である博士の名を口に出した。
 武神も科学者だから、フルメタルの開発に関わった人たちのことはある程度知っているのだ。
 しゅばばばばば
 巨大なロボットが大きく両腕を振りあげると、胸の赤く塗られた部分からビームが放たれる。
「ぐあああ」
 ビームをくらったデッドサンダーが悲鳴をあげて吹っ飛んだ。
「デッドコンドルゥ!」
 コンドルがフルメタルの頭部に突進し、くちばしを突き立てようとした。
 ういーん、どごっ
 フルメタルは驚くほど素早い動きを示し、首をひねってくちばしをかわしたかと思うと、次の瞬間には拳を振り上げてデッドコンドルを吹っ飛ばしていた。
「よし、ありがとう、フルメタル! いくぞ」
 武神はピジョンロボを操ってデッドサンダーにとどめを(どうやって?)刺そうとする。
 ところが、そのとき。
 不意に、フルメタルはピジョンロボに身体を向けたかと思うと、指先からミサイルを放って攻撃したのだ!
 どご、どごーん!
 ピジョンロボがもう何十回目かの爆炎をあげる。
「うわ〜、何をする!? フルメタルからみれば、アーマードピジョンのこのロボットも破壊者の一員なのか?」
 武神はちっと舌打ちする。
 さっき、パンチに失敗してホビデ社を倒壊させた光景を、フルメタルはみていたのだろう。
「ロイド博士、あんたはあれを繊細につくりすぎてるよ」
 ある程度相手の電子頭脳の構造がみえる武神は、厄介なことになったと感じた。

「やれやれ。また騒ぎが起こっているぞえ」
 マニフィカ・ストラサローネはジーパラダイスのイルカショーを指揮しながら、中華街からあがる煙をみて眉をひそめた。
 半魚人の奉仕種族、ギルマンたちとともに始めたイルカショーのバイトだったが、予想以上に好評だった。
 もともとイルカの言葉がわかるマニフィカだから、芸を仕込むのにそれほど苦労はない。観客は連日のように詰めかけ、入場券を売りさばくダフ屋が出現するほどだった。
 だが、そんなショーも、デッドクラッシャーズの攻撃が始まればそれまでだ。
 客たちは街からあがる炎に驚き、次々にジーパラダイスから撤退していく。
「仕方ないのう。ひと仕事あるぞえ」
 マニフィカはショーを中断し、ギルマンたちの用意した御輿に乗って、中華街に出発。
 えんやーとっと、えんやーとっと。
 ギルマンたちはほどなく燃えあがる中華街にマニフィカを運ぶことができた。
「いくぞ、全て清めさせてもらうぞえ」
 マニフィカは気品のある声でそういうと、レッドクロスを装着。
「発動、海の力、母の力よ、悪を消し去り原始に還したまえ!」
 鈍い銀色の装甲がマニフィカの全身を覆う。
「はあ〜」
 マニフィカを目をつぶり、レッドクロスの力を解放。
 自分の生まれた宮殿が、脳裏に浮かぶ。
 太古の地球。
 はじめて生命がはぐくまれた、海の中。
 何億、何万年ものときの流れが自分をいかしていると、マニフィカは感じた。
 生命は、進化していく。
 その究極の形態は?
「私の力は、限りなく高く、澄んだ青空にそびえる! 覚醒、ギガンティックモード!」
 マニフィカはスペシャルテクニックに覚醒。
 みるみるうちに、その身体が大きくなる。
 身長57メートルほどになった巨大マニフィカが、中華街に降臨した。
「いくぞえ、清めの聖なる水のシャワー、全ての罪を洗い流したまえ〜」
 マニフィカの両の掌から水流のシャワーが吹き出し、燃える中華街を鎮火してゆく。
 そんなマニフィカを、港から現れた一体のロボットがみつめていた。
「横浜の危機だ。俺は目覚める!」
 ケーン
 そのロボットが宙をあおぐと、燃え盛る炎を身にまとった巨大な戦闘機が宙を滑ってきた。
「いくぞ、チェェェェェェェンジ! ハマキィィィィィィィィング!!」
 ロボットは港を駆けると、跳躍。
 空中で、戦闘機と合体し、さらに巨大な姿のロボットへと変貌を遂げる。
「おお、あれは、伝説に聞く横浜の守護神、ハマキングだ!」
 人々は口々に叫んだ。
 ハマキング。
 横浜の街がかつて「夜古破魔」と表記されていた大昔に、横浜で動乱あるときどこからともなく現れ、港を守ったといわれる戦士である。
「むう。やはり目覚めおったか。しかし何でロボットの姿をしてるんじゃろうな? それに、あの燃えている戦闘機は何だったんじゃ? ただの演出かのう」
 上空から監視していたエルンスト・ハウアーはいろいろ首をかしげていた。
 だだだっ
 横浜を救うために現れた正義の超人ハマキングは、その巨大な身体で街を駆け抜けて、マニフィカのもとへと向かう。
「ありがとう!」
 ハマキングは、鎮火を続けるマニフィカに手を差し出す。
「む? おお、異世界での友好関係成立じゃ」
 マニフィカもためらわず手を出し、一人と一体は熱い握手をかわす。
「さあ、鎮火を続けよう!」
 ハマキングは巨大なバケツを取り出すと、海の水を救って中華街にまき散らし始めた。
「デッド、デッド、デッドコンドルゥ!」
 そんな彼らに、デッドコンドルが襲いかかってくる。
「む、無粋な。邪魔するなら容赦はせぬ」
 マニフィカの戦闘本能が、デッドコンドルに向かうときがきたのだ。

6.武装メイド誕生

 ネコ男爵に重傷を負わされたエリカが収容されている、東京都心のスーパーメディカルセンター。
 集中治療室で酸素マスクを着用して昏睡状態のエリカには、一向に回復の兆しがみられない。
「全身にデッドクラッシャーズの開発した毒物質『ぶっ殺し菌』がまわっています。現代医学の最先端をゆく治療を行っても、現状維持が精一杯ですね」
 担当の医師がリーフェ・シャルマールに説明を行っている。
「これがぶっ殺し菌!? 確かに厄介ね」
 電子顕微鏡でぶっ殺し菌の活動を観察したシャルマールは、ため息をついた。
 ぶっ殺し菌は、まさに人の身体を蝕む菌だ。
 血液中の栄養素を吸収して肥大化し、対抗手段として投入されたあらゆるワクチンを分解して自身の中にとりこんでしまう。
「何を送り込んでも分解してしまう、か。邪悪な意志を感じるね、この菌には」
 さすがのリーフェも、戦慄を禁じ得ない。
 と、そこにパピリオ・パリオールが現れた。
「は〜い、あたちが分析しまちゅ〜」
 パピリオは魔書毒薬大事典を開いて分析を開始。
「ぶっ殺し菌はここ! 最強の毒薬と書いてありまちゅね。よーし、あたちが治療してあげまちょう〜!!」
 パピリオは医師の制止もきかず、集中治療室に飛び込んでゆく。
「キャー!」
 次の瞬間、パピリオの悲鳴があがる。
「どうしたの!?」
 リーフェは治療室に駆け込んだ。
「カマキリが、カマキリが〜」
 治療室の床をびっしりと埋め尽くして、無数のカマキリがうごめいていた。
「こ、これは!? どこから入ってきたの?」
 リーフェはボール状のレッドクロスを取り出した。
「そ、それは?」
「私の賭けよ。レッドクロスには毒を中和する力があるんだよね? だから」
「やめたまえ、危険だ」
 医師が治療室に入って警告する。
「レッドクロスには、装着できるか否かの適性がある。その人間の精神がレッドクロスになじまない場合、装着時に激しい気力・体力の消耗を経験し、耐えられなくて心身に異常をきたすことがあるのだ」
「だから賭けなんだよ。やってみなければわからないし、ほかに手段はない」
「でも、リスキーしゃまがくるまで待ってみてはどうでしゅ?」
 パピリオの問いに、リーフェはかぶりを振った。
「その時間は、もうない。このカマキリは、おそらく超甲人機の接近を意味するから」
 リーフェの言葉が終わるか終わらないかのうちに、警報のブザーが鳴り響く。
「どうした? 何、デッドクラッシャーズがこの病院を襲撃!?」
 内線で話す医師の顔が蒼ざめる。
「私がこの装置でエリカの精神に呼びかける。パピリオは超甲人機をくいとめてね」
「はーい。結局、魔書毒薬大事典には『治療不可能』と書いてありましたちね〜」
 パピリオは治療室を退出。
 リーフェはシンクロダイブマシン「シンクロニウム」から多数のケーブルをエリカと自分の頭部に装着、互いの脳波が同調するように機械を調節し、エリカの精神に呼びかけた。
「エリカ、私の声が聞こえる?」
「あ、うう……」
 瀕死の重傷を追っているエリカの意識の奥底に、リーフェの声は届いた。
「超甲人機がこの病院を襲っている。一刻も早くキミを覚醒しなきゃいけない」
「わたしは……なぜ、生きるの? わたしは、もう」
「エリカ、このレッドクロスはキミ用に調節されている。キミにもし適性があるなら、念じて。そうすれば装着できる」
「何で、そこまで? わたしは……両親に逢いたいけど、でも、もうもとの生活には戻れない」
 そのとき。
「う、うわー!」
 悲鳴とともに治療室のドアが破られ、レッドクロスを装着したパピリオが吹っ飛ばされてきた。
「き、きた、きたでちゅよ〜」
 パピリオの指さす先には、巨大なカマキリが。
「カーマ、カマ、カマ。デッドカマキリ〜!」
 超甲人機は巨大なカマキリを振り上げてリーフェを威嚇。
「来たな。くそ、こうなれば闘うまでだ」
 リーフェはレッドクロスを装着。
 緑を基調にした装甲が治療室の蛍光灯を反射して光る。
「無駄、無駄。カマー!」
 デッドカマキリは羽をはばたかせてリーフェとパピリオに突進。
 巨大なカマで二人をつかまえ、めきめきと締めあげる。
「う、うわー! 計算外だ、ここにデッドクラッシャーズが現れるとは!」
 悲鳴をあげるリーフェたち。
「この女は知りすぎている。我が組織が刺客を送るのは当然」
「みんな、やられかけている!? そんな……」
 稼動中のシンクロダイブマシンが撮影している映像を脳内で受信したエリカは、事態の進展に愕然とした。

「リスキーさん、もうすぐ着きますよ」
 スーパーメディカルセンターに向かうキャリーベースの中で、坂本春音はドクター・リスキーに声をかける。
「うむ、だが、着いたところで、私のやることはほとんどない」
「どういうこと? まだブツブツいって協力しないの?」
 姫柳未来が詰め寄る。
「そうではない。私はもう、ヒントを与えてあるのだ。グレイト・リーダーは知らないようだが、レッドクロスに備わっている毒物質の中和機能には、私のアイデアが使われているのだ」
「えっ、どういうことですか? それをグレイト・リーダーが知らないなんて?」
 春音はびっくりして尋ねた。
「彼は亜細亜くんから大量のレッドクロスを受け取っただけだ。その製造方法も、使われている技術も全く見当がつかないはず。いや、知らない方がいいのだ」
「亜細亜って、誰なの?」
 姫柳の問いに、リスキーはかぶりを振った。
「君たちは知らなくていいことだ。レッドクロスには、恐るべき力が秘められている。君たちもいずれ知るだろう。だが、その力に飲み込まれてはならない」
「リスキーさん、でも、毒を中和する技術っていうのは?」
「英雄菌だよ。各種の菌を配合し、私が開発したもの。超ナノサイズの剣と盾で武装し、悪性の菌を発見するとただちに襲いかかって撃滅する、非常に攻撃的だが、人間の身体にはいい菌だ。そう、ガーディアンのウィルス版だといってもいいかな。レッドクロスを装着すると、英雄菌が身体にまわるようになっているのだ」
「その英雄菌を使えば、いろんな病気が治りますね。一般の人向けに実用化はできないんですか?」
「実用化は難しいのだよ。英雄菌は、特殊な培養装置で常に栄養を補充されなければたちまち滅びてしまう。レッドクロスは、英雄菌の培養装置としての役割を果たしているのだ。そう、レッドクロスは人の精神のもつ不思議な力を蓄積しているのだから。私にもレッドクロスの製造法などはわからない。そもそも亜細亜くんがあれをどうやって開発したのか、全くの謎なのだ」
「天才のリスキーさんにもわからないんですね」
「そうだ、なぜなら、おそらくあれは……いや、これ以上話す必要はない」
 リスキーは急に顔をしかめて、無言になった。
 春音と姫柳は互いに顔を見合わせ、首をかしげる。

「う、うわ〜!」
 額から血を流しながら、リーフェとパピリオが壁にうちつけられる。
「カーマ、カマ、カマ! まずは邪魔するお前たちを殺してやる!」
 デッドカマキリが二人にとどめを刺そうと迫る。
「ダメ……やめて、また、人が殺される……イヤ!」
 意識の奥底で、エリカは激しい動揺を感じた。
「もう誰かが傷つくのはみたくない!」
 エリカの意識が叫びをあげたとき。
 シンクロダイブマシンの近くに置かれてあったレッドクロスが光を放ち、エリカの全身にまとわりつく。
 英雄菌がエリカの体内に流通し、ぶっ殺し菌を次々に壊滅させてゆく。
 エリカの身体はたちまちのうちに回復した。
 そして。
 ドゴーン!
 爆発が巻き起こり、病院の壁が吹っ飛んだ。
「カ、カマ〜!」
 衝撃を受けたデッドカマキリは驚いてベッドを振り返る。
 そこに立っていたのは……。
「メ、メイドでしゅ!」
 パピリオが叫ぶ。
「な、何でよりによってその姿に?」
 リーフェも唖然としている。
「この二人は、やらせません!」
 エリカのまとうレッドクロスは、メイドの衣装状の形態となっていた。
「し、死ね〜!」
 デッドカマキリはやけくそになってエリカに突進。
「はあ! はあ〜はあ!」
 エリカは巨大なカマを受け止めると、勢いよく身体をひねった。
「お空の果てで! 反省しなさ〜い!」
 デッドカマキリを背負い投げで、病院の壁に空いた穴から外に投げ飛ばすエリカ。
「うわ〜」
 デッドカマキリは悲鳴をあげて、どこまでも遠くに消えていった。
「やった、ついに……やりとげたぞ」
 そこまでいって、リーフェは失神。
 エリカはパピリオとともにリーフェの身体を抱き起こした。
「早く治療を!」
「わかりまちた〜」

7.ぎゃくてんトリスティア、ききいっぱつ!

「コンドルゥ!」
「高貴なる意志によりおぬしを成敗するぞえ!」
 中華街で、巨大マニフィカとデッドコンドルは激しいぶつかり合いを示していた。
「いくぞ、デッドソニック!」
 デッドコンドルは超高速で突進。マニフィカは危ういところで避けるが、装甲にひびが入る。
「うっ、これは、衝撃波!?」
 デッドソニックの真の脅威は直撃ではなく、通りすぎたものを次々に切り裂く衝撃波にあったのだ。
「わたくしに対する侮辱であるな、これは〜」
 コンドルのかぎ爪によって傷つけられた額から血を流しながら、マニフィカは叫ぶ。

「ところで、トリスティアさんはどうしたんですか?」
 キャリーベースから戦闘を見守っていた坂本春音が姫柳未来に尋ねる。
 二人はドクター・リスキーをスーパーメディカルセンターに送り届け、エリカはもう回復したという話だったので再び戦場に戻ってきたのだ。
「そういえば、どこに行ったのかな?」
 姫柳もやっと気づいたという風に首をかしげる。
「まさか、遊んでるなんてことは……ありうるけど」
 キャリーベースの自動センサーでトリスティアを捜索する姫柳。
「あっ、いた! やっぱり遊んでるよ! ああ〜」
 姫柳は頭を抱えた。
 キャリーベースのセンサーがとらえたのは、山下公園の一区画。
 そこでは、トリスティアがナイフのジャグリングショーを披露していた。
 観客はデッドクラッシャーズの襲撃も忘れて、ジャグリングに見入っている。
「さあ、お立ち会〜い!! ほっ、ほっ」
 地面に寝かせた観客のお腹の上で、トリスティアは得意のジャグリングを披露していた。
「こ、怖い〜きゃ〜」
 寝ている観客はハラハラしながらもトリスティアのジャグリング芸に感嘆の念を禁じえない。
 と、そこにデッドクラッシャーズの超甲人が!
「のんきに遊びやがって! 死ね〜!」
 草やぶから現れた超甲人はスペツナズナイフを抜き放ってトリスティアに襲いかかる。
「はっ、殺気! とあー」
 トリスティアは超甲人のナイフを持った手をつかんでひねりあげると、威勢よく相手の身体を地面に叩きつけた。
「あ、あが〜」
 無理やり地面に寝かされた超甲人は呻き声をあげる。
「さあ、お立ち会〜い!!」
 超甲人のお腹の上でジャグリングを始めるトリスティア。
 と、その手が滑って、ナイフの一本が超甲人のお腹に突き刺さる!
 ぐさっ
「ぐ、ぐわ〜」
「あっ、ミスっちゃった〜えへへ」
 恥ずかしげに舌を出すトリスティア。
 ちゅどーん!
 ナイフの当たりどころが悪かったのか、超甲人は炎をあげて爆発、四散した。
「さあ、次の方、寝そべって! あれ、どうしたの?」
 観客が誰も進み出てこないので、トリスティアはいぶかった。
 その理由は推して知るべしだったが、トリスティアはもっと重要なことに気づいた。
「あっ、みんな! お空に煙が上がってるよ! デッドクラッシャーズが横浜を襲撃してるんだ!」
 トリスティアは観客を避難させようと動き始める。
「気づくのが遅〜い!」
 遥か上空から叫び声がとどろいたかと思うと、パラシュートで姫柳が降下してきた。
「よっと」
 着地する姫柳。
「あっ、未来! すごいね、お空から降ってくるなんて!」
 トリスティアは大はしゃぎ。
「さあ、トリスティアも闘って。ほら、あそこでコンドルがマニフィカを苦しめている! 行かなくちゃ」
 姫柳はトリスティアの手を取った。
「ねーんりーき、しゅーちゅー、さいきっく〜!!」
 姫柳はトリスティアをデッドコンドル付近へとテレポートさせた。
「さあ、一般市民の方々はキャリーベースに乗って! みんなで避難するよ」
 姫柳は春音にベースを降下させるよう指示する。

「うわー、てれぽーと!」
 ちょうど巨大マニフィカがデッドコンドルを何とかとらえてわしづかみにしたときに、トリスティアはその上空にテレポートで出現した。
「へんしーん、トリスティア!」
 トリスティアの身体が光に包まれ、レッドクロスを装着する。
「おお、やっと援軍がきたか。よきことかな」
 マニフィカはトリスティアを頼もしそうにみつめた。
「デッド、デッドォ!」
 そんなマニフィカの掌の中でデッドコンドルは身体を高速回転させ、虚空に脱出する。
「あ〜ああ〜ああ〜いぇい!」
 トリスティアはターザンのような雄叫びをあげながらデッドコンドルの背中に組みついた。
「げげっ。は、離れろ!」
 デッドコンドルは何とか振り落とそうと身体を揺らす。
「超甲人機め、これでもくらえ!」
 ぐさっ
 トリスティアはコールドナイフをコンドルの背に突き立てた。
「ぎゃああああ〜冷える〜しみる〜」
 コンドルの身体が激痛とともに凍りつき、動きを失って落下し始める。
「さあ、いくよ! トリスティアパワー、大爆発ぅ!」
 トリスティアのレッドクロスが光を放つ。
 トリスティアはデッドコンドルの頭を両足の間に挟んで、下に向けた。
 ぐるぐるぐる
 トリスティアはデッドコンドルを抱えたまま、高速回転。
「はああああああ〜必殺・トリスティアドライバー!!」
 回転速度は光速に達し、すさまじい衝撃波を巻き起こしながらコンドルの頭部が地面に叩きつけられる。
「ぐ、ぐわああああああああ!!」
 絶叫をあげ、デッドコンドルは大爆発を起こした。
「やったぁ!!」
 トリスティアは跳躍して巨大マニフィカの掌の上に降り立つと、にっこり笑ってピースサイン。
「うむうむ。満足満足じゃ」
 マニフィカもご満悦。
「ハマキーング! 見事な活躍!」
 ハマキングも一連のトリスティアの活躍を認めたようだった。
 中華街の鎮火も終わり、ハマキングと巨大マニフィカは肩を組んでエイエイオウと気合をあげる。
「日本の平和、横浜の平和、世界の平和、バンザーイ!」
 バンザーイ!
 地上からその光景をみていた逃げ遅れの市民たちもともにバンザイを始める。

8.スーパー戦隊ピジョンレンジャー

「何だあいつら、まだ戦闘は終わったわけじゃないのにもうバンザイしているぞ!? 何であんなに元気なんだ?」
 一人でピジョンロボを駆りたて、デッドサンダーと死闘を繰り広げている武神には、トリスティアたちの元気さは理解を超えるものであった。
「どうでもいいけど、あっちの闘いが終わったならこっちを助けてくれてもよさそうなものだが? うわー!」
 デッドサンダーの電流を再び浮け、武神は悲鳴をあげる。
「し、しかしさっきから何度も攻撃をくらってるわりには丈夫だな、このロボ?
 だが、ロボより先に俺の方がダウンしそうだぜ」
 武神は意識が次第に消えゆくのを感じとっていた。
 フルメタルは相変わらず、デッドサンダーとピジョンロボ双方に攻撃を放っている。
「くそっ、人命第一でやってるはずなのに、フルメタルに敵と認識されるなんて! も、もうダメだ……精神的にもちそうにない……俺は、理性的すぎるのか?
 あいつらみたいにバカにはなれないのか〜」
 武神は絶対絶命。
 うずくまったピジョンロボに、デッドサンダーの情け容赦ない蹴りが入る。
「オラオラ、死ねや〜!」
 ついにピジョンロボは仰向けに倒れ、動かなくなった。
「動力切れ……操縦者のエネルギー切れが主な原因……ううっ」
 すっかり焦燥した武神の身体から、レッドクロスが消失。
 装着者の気力切れにより、もとのボール状の姿に戻ったのだ。
 危うし、武神!!

 そのころ、地上では。
「デッド、デッド、デッドタートルゥ!!」
 デッドクラッシャーズ戦車部隊を率いるデッドタートルが、ひたすら西へ行進を始めようとしていた。
「これ以上戦火を広げさせちゃいけない! 何としても阻止するんだ! プラント・グロウ!」
 ディック・プラトックはスペシャルテクニックを発動し、地中に眠っていたツタの種子を発芽させ、急速に成長させる。
 伸び出したツタが戦車部隊に絡まり、緑のオブジェにしてゆく。
「あらあら〜大変ですわ、大変ですわ〜」
 アンナ・ラクシミリアは戦車の砲門に蓋をしたり、戦車の上部から顔を出した超甲人をモップでぶっ叩いたりしていた。
「オー、ハッケヨイ〜ノコッタノコッタ〜!!」
 ジュディは再びデッドタートルに組みつき、全力で押し戻そうとしている。
「何をしても無駄だ! うん?」
 デッドタートルに大空に不吉な気配を感じ取った。
「やっと補給が終わったで〜」
 アオイ・シャモンがショルダーアーマーから反重力フィールドを形成して飛行してくるところだった。
「オー、アオイ、ヤトキタネ!」
「すまんな〜、あたいは重装備やから、補給に時間がかかるんや!」
 ジュディの歓声にアオイは答え、ガンランチャーを地上に向けて構え。
「さあ、雑魚はお掃除タイムやで。対装甲散弾銃、発射!」
 ちゅどーん、ちゅどーん!
 アオイの放った散弾銃が戦車を次々に破壊。
「あ〜、やっぱりこれが一番効率ええわ〜。こんなことやっとったらまた破壊活動呼ばわりされそうやけど」
 だが、アオイはためらわない。
「ライフル、ロックオン。いくで、カメ吉!」
 アオイのライフルが火を吹き、デッドタートルの甲羅に弾丸が炸裂、砲門を破壊した。
「ぐ、ぐわわ〜」
 炎に包まれ、カメが吠える。
「姿勢制御、降下!」
 アオイはデッドタートルめがけて急降下。
「ジュディ、頼むで!」
「オーケー!」
 ジュディはデッドタートルにヘッドロックをかますと、その口を無理やりこじ開けた。
 カチッ
 降下したアオイが、その口にロングレンジバスターライフルをさしこむ。
「挿入完了。充填率100パーセント、圧力最高! レディ・ファイヤー!!」
 アオイはライフルの砲芯をデッドタートルの口にさしこんだまま、引き金を引いた。
「ぐ、ぐおおおおお!」
 デッドタートルの内部から、激しい爆発音がもれ、その身体が赤くなってひび割れる。
「撤収!!」
 アオイは素早くライフルをひっこめると、くるりと背を向けて飛び立つ。
「お、おわあああああああ!」
 デッドタートルの身体が大爆発を起こした。
「ミッション・コンプリート!」
 爆風を背中で受けながら、アオイは敬礼。
「只今より、友軍の援助攻撃に移る!」
 ショルダーアーマーを操作し、アオイは向きを変えて飛行する。
 その先には、武神のピジョンロボがあった。

「武神、大丈夫か? 武神ー!!」
 アオイはピジョンロボの武神に呼びかける。
「うう、アオイか……もっと早くきてくれれば……」
「しっかりするんや! エリカは息を吹き返したらしいで!」
「なに、そうか!」
 武神は、やっと気力が回復するのを覚えた。
「あたいもこれに乗るさかい、元気になるんや!」
 アオイはピジョンロボに乗り込む。
「すまん。こ、これを」
 武神はブレスレットをアオイに手渡した。
「このピジョンブレスで、ピジョンロボをコントロールすることができる。しかしまだ二人だ。あと、もう一人いれば」
 そのとき。
 ジャーン!
 中華街のどこからか、銅鑼を打ち鳴らす音が響き渡る。
「この音響効果は、まさか!」
 武神はある人物を想い浮かべた。
 中華街の入り口、真っ赤な門の上に、一人たたずむ影。
「鎮火は終わった。後は奴を倒すのみだ」
 フレア・マナがデッドサンダーMk.IIを睨みつけていた。
「デッドォ! デッドォ!」
 デッドサンダーは巨体を揺らし、なおも街を破壊している。
「いくぞ!」
 だだだっ
 フレアは地上に飛び降りると、駆けた。
 しゅるるるっ
 フレアの放ったアース線がデッドサンダーの足に絡みつき、その動きをとる。
「うごっ?」
「とあー!!」
 フレアは戸惑うデッドサンダーの足に、特殊警棒で攻撃をくらわせた。
 びしっ、どごっ
「おのれ、ちょこまかと!」
 デッドサンダーは拳を振上げてフレアに叩きつける。
「とおっ」
 フレアは跳躍した。
「よし、俺たちも援助だ」
 武神とアオイはピジョンロボを起き上がらせ、デッドサンダーに絡みつく。
「デッドォ! ふざけんなあ!」
 デッドサンダーは逆にピジョンロボを羽交い締めにした。
「ぐ、ぐわああ」
 回路がショートし、武神、アオイは悲鳴をあげる。
「どうだ、ワシにこれ以上攻撃してみろ、このロボと、中の連中の生命はないぞ!」
 デッドサンダーはフレアを睨んで叫んだ。
「ふっ、仕方ありませんね」
 フレアはピジョンロボの肩に飛び乗る。
「フレア!」
 操縦席にフレアが乗り込んだのをみて、武神は思わず声をあげた。
「武神の動かし方は生ぬるい。僕に舵を任せなさい」
「おおっ、頼む! このブレスを。お前がレッドだ!」
 フレアはブレスを受け取ると、メインコクピットに搭乗。
「悪霊切り裂く正義の剣、ピジョン、レッド!」
「大空駆ける義憤の雷、ピジョン、ブルー!」
「暗闇に光をもたらす叡智の光、ピジョン、イエロー!」
 フレアがレッド、アオイがブルー、そして武神は何となくイエロー。
 ピジョンロボを動かす正義のユニット、ピジョンレンジャーの成立である。
 3人がポーズを消めると同時に、ピジョンロボの目が光を放ち、全身にハイパワーがみなぎる。
「ピ・ジョーン!!」
 ロボは咆哮をあげると、デッドサンダーの拘束を振りほどく。
「ぬう」
 デッドサンダーも動こうとするが、アース線が絡まっていて思うようにいかない。
「いくぞ、燃えあがれ、正義の炎!」
 フレアがピジョンブレスを振りかざして一念発起すると、キャリーベースが自動操縦で飛んでくる。
「きゃ〜、なに、なに〜?」
 操縦席の姫柳と春音は急に舵がきかなくなり、びっくりしておろおろ。
 ぷわああ
 キャリーベースから素体粒子が散布され、巨大な剣をつくりあげる。
 ピジョンロボはその剣をとって、振り上げた。
「これは、フレアの武器を再現している! ブレスからの念動力で搭乗者のイメージにあった武器をその都度精製する、マテリアルウェポンシステムだな」
 地上から動きを見守っていた佐々木甚八が唸り声をあげる。
「なかなかやるな、武神。だが自分一人ではあそこまでの力を発揮できなかったわけだが」
 甚八は、アーマードピジョンの正体を見極めるつもりで、闘いの行方を見守っていた。

「いくぞ、デッドサンダー!」
 フレアはピジョンロボを操作し、剣で敵を斬りつけようとした。
 そのとき。
 ちゅどーん!
 側面からミサイルの攻撃を受け、ピジョンレンジャーは悲鳴をあげる。
「うわー、フルメタル、まだ俺たちの邪魔を!」
 武神は苛立った。
「邪魔だな。斬る」
 フレアはピジョンロボをフルメタルに向けた。
「よせ、レッド! フルメタルは自衛隊が開発した対デッドクラッシャーズ用の秘密兵器なんだ! 破壊するのはまずい!」
「こちらを攻撃してくる兵器は障害になるだけだ。取り除く」
 フレアは冷淡な口調で武神にいった。
「あっ、みてみて! あれ!」
 アオイが、レーダーに不思議な影を発見して叫ぶ。
 アーマードベースに匹敵する大型戦闘母艦が、横浜上空に接近していた。
「は〜はっはっは! 待たせたなガーディアンの諸君! 私の開発した魔導巨兵3機に乗って合体して魔導王エーテリオンになりたまえ!」
 魔導空母エクセリオン。
 その操縦席に座る五芒寿限無が声高に通信を全方位に送り届ける。
 空母の艦首の上には、武骨な外観の魔導巨兵3体が鎮座している。
「さあ、魔導巨兵よ、それぞれの適性にあったガーディアンたちの脳波をキャッチするのだ!」
 魔導巨兵の人工頭脳が、周辺のガーディアン脳波を検索、とりこんでゆく。
「えっ、この感触、まさか俺たち?」
 甚八にすごまれて逃走した一部のガーディアンたちが、驚いたように空を仰ぐ。
「動かすのだ、ガーディアンたちよ、心をひとつにして!」
「よし、いっちょやってやるか」
 ガーディアンたちは魔導巨兵に念を送りこむ。
「ガガガガ、ウオー!」
 魔導巨兵3体は次々に覚醒、母艦の艦首から地上へと飛び降りた。
「三神融合・魔導王エクセリオーン!!」
 3体は変形しつつ融合、魔王のような姿のロボットへと姿を変える。
「さあ、私がフルメタルを抑えている間に早く!」
 エクセリオンはフルメタルの前に立ちはだかると、ピジョンロボを促した。
「ふむ、そうか。では」
 フレアは納得して、ピジョンロボをデッドサンダーに向ける。
「くっ、結着をつけるときがきたようだな」
 デッドサンダーは超高圧電流をハサミに蓄積し始める。
 その身体が、まばゆい光を放つ。
「いくぞ、ブルー、イエロー、僕たちの心をひとつに!」
「おう!」
 フレアのかけ声に、アオイと武神も威勢よく気合をあげる。
 いつの間にか、武神のレッドクロスが復活して、再び装着状態になっていた。
「ピジョンブレス、解放! 必殺データリンク、オールフュージョン!」
 ピジョンロボの戦闘プログラムが全解放され、エネルギーが剣に集約されてゆく。
「ターゲット、デッドサンダーMk.II。体格アナライズ、コンプリート!」
 ピジョンロボの振りあげる剣が炎を吹き上げ始めた。
「いくぞ!」
 ピジョンロボが大地を駆ける。
「デッドサンダァ!」
 デッドサンダーが超高圧電流をほとばしらせた。
 電流はピジョンロボが包み込むが、ロボの巨体はびくともしない。
「はあああああああ、一刀両断、メルティングスラッシャーウルトラインパクト!」
 ピジョンロボの剣が、デッドサンダーをまっぷたつに切り裂いた。
「あっ、ああああああ〜!!」
 大絶叫とともにデッドサンダーが爆発。
「ほう。あいつらの精神が魔導巨兵を動かし、ピジョンロボを助けるとは。面白い展開になってきたな」
 甚八はエクセリオンとピジョンロボの連携に感心せずにはいられなかった。

9.シャモン家の逆襲

「おのれ、あちこち動きおって。だが、これでようやく捕捉できる」
 デッドナイトはようやくフルメタルに追いつくと、一直線にその頭部へ駆けていった。
「ちょっと待ったぁ!」
 フルメタルの頭部に降り立ったデッドナイトに、どこからか声が響く。
「む? 今度は何者だ?」
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ!」
 ホウユウ・シャモンがフルメタルの頭部の逆側に姿をみせた。
「その姿、侍か」
 デッドナイトは抜刀した。
「我はホウユウ。悪を断つ剣なり!」
 ホウユウは巨大な斬神刀を抜き放ち、大上段に振りかぶった。

「ホウユウが、デッドナイトと接触、交戦になる模様です」
 アーマードピジョンのスタッフは超極秘チャット空間で次々に戦闘の模様を解析していた。
「デッドナイトと闘うときがついにきましたか。奴は、アメリカのペンタゴンを一体で壊滅させています。極めて危険な存在であることは間違いない」
 グレイト・リーダーは緊張した声だ。
「現時点の我々が、どこまで奴に対抗できるかはわからない。だが精一杯やってもらわないと」
 デッドナイトとホウユウの決戦を、みんなが固唾をのんで見守った。

「いくぞ、六ノ秘剣、流星天舞!」
 ホウユウは斬神刀の切っ先を揺らめかせ、さっそうと振り下ろす。
「はあっ」
 デッドナイトは剣を下から突き上げ、斬神刀とかち合わせた。
 カキーン!
 激しい火花が散る。
「くっ、三ノ秘剣・血風乱華!」
 ホウユウは踏み込んで、さらに斬神刀で薙ぎ払う。
「ふんっ!」
 デッドナイトは剣で斬神刀の一撃を受け止め、押し返す。
「斬神刀をものともしないとは!」
 ホウユウの額に汗がにじむ。
「いくぞ、デッドソード一閃!」
 デッドナイトは剣を水平に構え、黒馬を駆りたてる。
 すうううううううう
「速い。だが!」
 ホウユウは跳躍して攻撃を避ける。
「来い、赤兎!」
 ホウユウのかけ声に、空中からいななきが漏れ、馬の姿をしたサポートメカが宙を駆けてくる。
「搭乗、ケンタウロスモード!」
 ホウユウは赤兎にまたがって一体化。そのままデッドナイトに突進する。
「はああああ」
 デッドナイトもまた、黒馬を駆って突進。
 空中で、両者は激突した。
「ぐおっ!」
 デッドナイトが剣を片手に持ち、もう片手でホウユウの兜をつかんだ姿勢になった。
 ホウユウの斬神刀はその手を離れ、宙を落下してゆく。
「これで終わりだ。瞬殺!」
 デッドナイトのデッドソードが鮮やかに閃き、ホウユウの胴を一刀両断に切り裂くかにみえた。
 その瞬間。
「う、うおおおおお!」
 ホウユウの戦闘本能が全開となり、レッドクロスが光を放った。
「まだだ、まだ終わらないぜ!」
 ホウユウは上体を後ろに反らし、一体化している赤兎の前足を大きくはねあげ、ひづめでデッドナイトの手甲を弾いた。
「なに!?」
 デッドソードは勢いを狂わされ、大きく外れたかたちでホウユウの鎧をかする。
 ホウユウはバックして急降下、落下していた斬神刀をキャッチして再び浮き上がった。
「いくぞ、一ノ秘剣・天壊怒龍撃滅破ぁ!」
 ホウユウは猛突進。斬神刀の切っ先をデッドナイトの胸にまっすぐ突き出した。
 ずぶっ
 刀はデッドナイトの胸を見事に貫く。
「やったか!」
 ホウユウが歓声をあげかけたとき。
 デッドナイトの口元が、笑みを浮かべた。
「やるな。通常の相手なら、ここで倒れているだろう」
「な、馬鹿な!」
 驚くホウユウの眼前で、デッドナイトは胸に刺さった刀をつかんで、引き抜いてゆく。
 ゴゴゴゴゴ
「うん?」
 デッドナイトはフルメタルの動きに目をすがめた。
 デッドサンダーが爆発して以降、急に動きを止めていたフルメタルが再び戦闘機に変形し、横浜から離れようとしていた。
「ちっ、続きはまた今度にしよう。さらばだ、ホウユウ!」
 デッドナイトはフルメタルを追って宙を駆ける。
「待て、くっ、力が」
 ホウユウは地上にゆるやかに降下してゆく。
 いまの闘いで、身体がかなり消耗していた。

「解析結果が出ました。いまの戦闘で、ホウユウの生存率は0.01%だったとのことです」
 アーマードピジョンはホウユウとデッドナイトとの戦闘を映像に記録し、解析にかけていた。
「0.01%? ほとんどありえないということですか。しかし現実にホウユウは生きていますが?」
 グレイト・リーダーの問いに、スタッフも戸惑い気味だ。
「0.01%の確率での超ラッキーにあたったというより、スーパーコンピュータでも解析しえない現象が起きたと考えた方がよさそうですね。ただ、それが何なのかはよくわかりません。戦闘中にレッドクロスが光を放ったことと関係がありそうですが」
「ふむ。レッドクロスの力が極限まで引き出されたとき、何が起きるか。そこに私たちの勝利の鍵があるのかもしれない。だが、その方向はあまりにも危険ですね。亜細亜博士があの研究所で起こした事故と関係があるのかもしれない」
 グレイト・リーダーはどこか不吉な予感を覚えていた。

10.沈黙のフルメタル

 戦闘機の形態に戻ったフルメタルは猛スピードで横浜上空を飛び去ってゆき、富士の樹海上空にまできて、ようやく止まった。
 そのまま、フルメタルは翼を折りたたみながら着地する。
 形態が、いつの間にか戦車のモードに変わっていた。
「くっ、またひきこもったか」
 樹海上空まで追ってきたデッドナイトが舌打ちする。
 そこに、司令からの通信が入った。
「例の作戦を開始する。そこは別働隊に任せてもらえないか」
「やれやれ、司令は本当に急いでいますね。いいでしょう、私なりの仕方でサポートさせてもらう」
 デッドナイトはきびすを返して、再び東京の方に戻っていった。
「ふっふっふ。あれは、機械にしては面白いものじゃのう。気になってきたわい」
 デッドナイトが去った後、富士の樹海上空にはエルンスト・ハウアーが出現。沈黙しているフルメタルを興味深そうに見守っていた。

「ふう、フルメタルは行ってくれたか。デッドサンダーを倒した後、奴を倒さなければいけないのかと冷や冷やしたぜ」
 ピジョンロボから降りながら、武神は汗を拭う。
「不安定な兵器だね。やはり、今後も僕たちを邪魔するなら破壊した方がいいかもしれない」
 フレアは武神に続いてロボを降りる。
「まあ、正体をよく見極めてから破壊せんようにせんと、また叩かれることになるで」
 アオイがフレアを牽制。
 みれば、魔導巨兵たちも姿を消し、巨大マニフィカは元の姿に戻り、ハマキングも港の中に帰っていったようだ。
 ガーディアンたちはそれぞれ帰途についている。
「連盟には本当に失望したな。そうかといってアーマードピジョンに正義があるわけでもない。今後の出方は、グレイト・リーダーの動向をみたうえで考えさせてもらう」
 佐々木甚八はそう捨てゼリフを残して消えていったそうだ。

 スーパーメディカルセンター。
 回復したエリカの前に、不知火鈴が現れた。
「これを聞いて欲しいでござる」
 不知火の渡したテープには、亜細亜博士の最後の言葉が残されていた。
「博士……死んだのかしら、本当に」
 テープを聞き終えたエリカは、暗い表情でうつむいた。
「それはわからないでござる。いろいろ情報を教えて欲しいところであるが」
 不知火の求めに、エリカはかぶりを振った。
「私は、たいしたことを知らないし、それに、思い出したくないんです」
 エリカは病院の玄関から外へ出ていく。
「エリカ殿、どこへ?」
「私は、みんなの近くにいない方がいい。私は、狙われてるから。また戦闘があれば、人々の救助活動を細々としようと思います。こうした力を、得られたものですから」
 エリカはボール状のレッドクロスを示していった。
「アーマードピジョンには、参加しないのでござるか?」
「私はグレイト・リーダーという人が何となく信用できないんです。何を考えてるかわからないし、みんなを利用してるみたいで。さようなら、また逢いましょう」
 エリカはレッドクロスを装着、メイドの姿になると、空に浮き上がった。
「メイドは、仕えるべき主人が必要なもの。違うでござるか?」
「そうですね。でも、私は、私の主人を探しにいきます」
 そのまま、エリカは大空の彼方に消えていった。
 そこに、グレイト・リーダーからの通信が入った。
「不知火さん、エリカをマークして下さい。彼女の情報はどうしても必要です。それに、アーマードピジョンには今後、彼女のようなキャラクターも必要になる。彼女はおそらく、自分の両親に逢いに行くはず。住所を送信しておきます」
「リーダー、拙者の質問の答えが欲しいでござるが? デッドナイトとは何者でござる?」
「私もよくは知らないんです。ただ、特定の支部に属さない大幹部級の戦士であるとしか。超甲人機とは違うし、サイボーグでもないようです。自分独自の目的を持って動いているようですが、現段階ではデッドクラッシャーズの極東支部に協力しているようですね」
「むう。ところで、ドクター・リスキーはどうなったでござる?」
「結局彼の力を借りないでもエリカは助けられたわけですが、彼の力は今後も必要です。デッドクラッシャーズに狙われていることもありますし、とりあえず私たちで監禁している状態にあります」
「監禁、でござるか?」
「私たちの言う事も聞こうとしないし、博士の身の安全のためには仕方ない処置です。私は、光のクリスタルを彼に分析してもらおうと思っています。ところで不知火さん、あなたには今後もいろいろと動いてもらいたいので教えましたが、リスキーの監禁のことは他のガーディアンに決してもらさないで下さい。不必要に情報をもらせば、あなた自身が消されるかもしれない。くれぐれも注意して下さい」
 そういって、通信は切れた。
「むう。グレイト・リーダーは、何を考えているのか。拙者には見当がつきかねるでござる」
 不知火はエリカの消えていった方角をじっとみつめていた。

「リーダー、日本愛猫家連盟(にほんあいびょうかれんめい)から通信が入っています。先日の悪鬼ヶ原でネコ男爵を殺そうとしたことに抗議しているようです」
「やれやれ、いろんな団体から圧力がきますね。何といってるのですか?」
「ネコ男爵は、無責任な人間によって心を歪まされた可愛そうなネコであり、彼に罪はない。殺すのではなく、捕獲して、デッドクラッシャーズによる洗脳を解除すべきだ、と」
「罪はない? 本当にそういえるのでしょうか? ネコを愛する気持ちはわかりますが」
 グレイト・リーダーは通信に対する返事を簡単に伝えると、スタッフのチャットルームから姿を消した。
 その返事の内容はこうだ。
「善処します」
 と……。

(第1部第2話・完)

【報酬一覧】

トリスティア 1、000万円(デッドコンドルを倒す)
アオイ・シャモン 1、000万円(デッドタートルを倒す)
リーフェ・シャルマール 1、000万円(エリカを回復させる)
フレア・マナ 1、000万円(デッドサンダーMk.IIを倒す。ピジョンレンジャーの代表として支給)
アンナ・ラクシミリア 1、000万円(日本平和主義連盟を撤退させる)

【マスターより】

ちょうど本業の仕事が忙しい時期でピンチでしたが、急ピッチで書き上げました。いつも以上に内容粗いかもしれませんが(汗)ご容赦下さい。何でエリカがメイドの姿になるかというと、やはり心の奥底でああいうものに憧れていたのではないでしょうか。レッドクロスはその人の本性を暴きますからね。

メルマガは、6/10付けにて発信しました。
本文が途中の方は、「oowadacaplico@infoseek.jp 」までご連絡ください。