「今昔・異説竹取物語」 第1回

ゲームマスター:烏谷光陽

 むかーしむかし。

 ではなく、今現在のおはなし。
 あるところに今昔(こんじゃく)という、昔話の法則に縛られた不思議な世界があった。鶴やお地蔵さんを助けりゃ恩返しされるし、スズメのお宿で欲を出せば大きなオバケ入りつづらをゲットしてしまう、メルヘンかつ因果応報な世界である。

 さて、そんな今昔のとある村の上空を、ぴかぴかに光る銀色の未確認飛行物体がふよふよと浮遊していた。形状はなんとなく銀色のタケノコに見えなくもない。おりしも、時刻は草木も眠る丑三つ時。おばけが出てもおかしくはない時間帯だが、いくらなんでも銀色の未確認飛行タケノコはないべとツッコミが有りそうなものである。だが、そこはそれ、深夜なので規則正しい生活の村人達はみんな寝ていて誰もツッコまない(そもそもツッコめない)のであった。

"サクヤ様、今のうちなら村人に気づかれず着陸できるかと"

 銀色の飛行タケノコの内部。
 木の板に上記のように筆で書いた文字を、後部座席の人物に見せたのは一匹のウサギだった。身長は1mほど。前足で操縦桿らしきものを器用に操作してはいるが、ぴんと伸びた長い耳と真っ赤な目、操縦席のコンソールの光に照らされた白い体毛はまさしくウサギである。

「ふーん、ここが例の村ねぇ。しけた所だこと」
 村を見下ろし、ウサギの言葉に答えたのは一人の少女。豪奢な椅子にどっかりと偉そうに座り、優雅な手つきでに扇子なんぞをあおいでいる。こちらは人間のようだが、暗くて表情はうかがえない。

"下手に目立つような所よりは良いと思うんですよ"
「そうね、現地の田舎者に騒がれてもつまらないし。せいぜい"今昔の暮らし"とやらを楽しませてもらいましょ」
 器用にいつの間にか書き直されたウサギの言葉に、少女は楽しそうに答えた。

 そうして、銀色の飛行タケノコはゆっくりと着陸態勢に入っていく。その後、この飛行タケノコとその乗組員が一つの騒動を起こすことになるとは、すやすやと眠っている村人達には知るよしもなかった。

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 "今昔"の朝は早い。おじいさんは山に柴刈りへ、おばあさんは川へ洗濯へ……と、そればかりではないが、村人達のほとんどが夜明けと共に起き、その日の仕事を始める。山からのぞいた朝日が村を照らし、澄んだ空気と相まってとてもすがすがしい。

 そんな爽やかな朝の村を、アゼルリーゼ・シルバーフェーダと姫柳未来は連れ立って歩いていた。桃から生まれた桃太郎こと太郎少年をがっつりと鍛える為である。

 今、この村では一つの騒動が起こっている。数日前に、かぐや姫がお婿さんの募集を始めたのである。可愛くて優しい娘と評判のかぐや姫のこと。候補者は村中のみならず、各地から集まったが、かぐや姫の出した条件は"自分が言った宝を持ってくること"であった。かぐや姫の提示した幻のお宝の数々を、ある者は手に入れようとして失敗し、ある者は偽モノでごまかそうとして見破られ、ある者はどうせ自分には無理ですよと最初から諦めていた。太郎少年は3番目のタイプである。その噂を聞きつけた2人は、いまいち地味な太郎を鍛えてどうにかしてあげることにしたのである。

「あ、いたいた。あれが太郎さんかな?」
 愛用の聖剣"イーサ"を背負い、先を歩いていたアゼルリーゼが太郎の家を発見する。太郎はかぐや姫の家=竹取の翁宅の隣に住んでいた。家の前のつつましやかな畑仕事の手を時折休めては、かぐや姫の家の方向を見てわかりやすくため息なぞをついている。見た目は童話の桃太郎とは違い、なんというかともかく地味である。これでは鬼退治どころか、まず犬・猿・キジを集めるのも無理かもしれない。

「うーん、私が知ってる桃太郎のイメージと違うなぁ。でもまあ、その方が鍛えがいがあるよね!かぐや姫ばかりチヤホヤされていたら、日本昔話を代表するヒーロー"桃太郎"の名がすたってかわいそうだもん」
 こちらは現地で調達した丈の短い着物を装備済みの姫柳未来。元々日本人で"今昔"の住人と似た容姿のせいか、すっかり村の雰囲気に溶け込んでいる。

 2人は顔を見合わせてひとつうなづくと、畑にいる太郎に近づいた。

「太郎さん、こんにちは!」
「話は全部聞いたよ!わたし達があなたを鍛えてあげるね!」

「だ、誰ですか、あなた達は?」
 急に現れた少女2人組に気づき、いぶかしげな様子で太郎が答えた。

「あたしはアゼルリーゼ・シルバーフェーダ、こっちは姫柳未来。あなた、隣の家のかぐやちゃんが好きなんでしょ?それならこんなとこでため息ついてても始まらないわ。思い切ってかぐやちゃんのお婿さんに立候補しちゃいなさい!」
 びしっ!と桃太郎に人差し指をつきつけるアゼルリーゼ。
「な、何故そのことを!?ていうか無理だよ!僕は地味だし、特技もないし……」
 怯んで後ずさる桃太郎に、今度は未来が言う。

「大丈夫、わたし達が鍛えてあげるから!さ、まずはマサカリを担いだまま42195kmのマラソンと、その後はちょっぴり凶暴な熊さんにまたがっての乗馬訓練ね!」
「それって金太郎じゃなかった?」
「気にしない、気にしない!」
「じゃあ、そのコースについでに鬼ヶ島も入れときましょ。金銀財宝を手に入れてかぐやちゃんの気を引いて、っと。うーん、時間が惜しいし、家来はあたしと未来とあたしのペットのシャオで良いわよね?」
 呆然としている太郎を置いておいて、次々と恐ろしいトレーニング計画を立てる2人。
 
「あ、あの、えーと、質問いいでしょうか?」
 おずおずと太郎が手を上げた。

「何?」「やっぱり犬・猿・キジのがいいの?」
 くるりと振り向く2人におそるおそる切り出す。
「マラソンって、普通42.195kmじゃないんですか?」

「……」

「時間が惜しいわね。早速出発しましょう」
「ゴールは遠いからね。慣れてないとどれくらいかかるかわからないし」
「やっぱり42195kmなんですか!?どこまで行くんですかそれ!!」
「もー、42195kmくらい、その気になれば一瞬で移動できるわよ!テレポートで!!」
「いやいやいや!普通の人はテレポートできませんから!」
「あんまりワガママ言うとウォーハンマーで殴るわよ!」
「……すみません」

 こうして太郎こと桃太郎は、親切心からスパルタ式で彼を鍛えようとするアゼルリーゼ・シルバーフェーダと姫柳未来と共に、否応なしに修行の旅に出ることになったのだった。

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 その頃。太郎の近所のとしぞうさん(82)の家ではけたたましい犬の鳴き声が響いていた。

「わんわん!わんわんわんわん!」

「ばあさん、ポチが桜の木の下でよーけ鳴いてるきに、木の下になんぞあるんかもしれんのぅ」
「おじいさん、うちには犬はいないじゃないですか」
 縁側でのん気に会話する老夫婦。その目の前の畑にいるのはシエラ・シルバーテイルだった。ちなみにシエラは犬ではなく、狼の獣人である。そこの所間違えないように。

「何かおかしいわ。犬のふりして媚びたら吉備団子が貰えるって聞いたけど……もしかしてガセネタ!?ていうかここ、気づいたらもしかして隣の花咲かじいさんの家!?」
 一通り犬っぽく鳴いた後、きょろきょろと周囲を見回してみる。ちょうどその時、少女2人に連行……ではなく、少女2人と修行の旅に出る太郎が通りかかった。

「あれか!えー、こほん。わんわん。桃太郎さん桃太郎さん、お腰につけた吉備団子、ひとつわたしにくださいな」
「え?吉備団子?ごめんね、持ってないんだ」
「何ですってー!!?」
 期待を込めて声をかけてみたが、間髪おかず予想外の返事が返ってきた。シエラは物語の根幹を揺るがす驚愕の事実に驚きを隠せない。

「なんで!どうして!桃太郎なのに吉備団子を持ってないのよ!」
「ご、ごめんなさい……」
 シエラに詰め寄られ、思わず謝る太郎。

「じゃあ、吉備団子の調達も特訓の内容に入れときましょ」
「いいね!じゃあ鬼ヶ島でお台所借りよう!」
 シエラの言葉を聞き、地獄の特訓メニューの項目を増やすアゼルリーゼと未来。鬼ヶ島に台所があるのか、という問題はこの際置いておく。


「へぇ、この地味な太郎を特訓ねぇ」
 "特訓"という言葉を聞き、シエラが興味深げにつぶやいた。

「確かに今の様子じゃ、今後続々登場予定のナントカ太郎の間にますます沈んでしまいそうだし。いいわ、鬼退治くらい出来るように鍛えてあげようじゃないの!吉備団子の為に!」
「名案ね!コーチは多いほうがいいだろうし」
「よーし、じゃあ鬼ヶ島まで分担で特訓の内容を決めておく?ちょっと内容が薄いかなって思ってたんだ」
「ええっ!?さ、更に増えるんですかー!!!?」

 太郎の抗議とは裏腹に乗り気のアゼルリーゼと未来、そしてシエラ。こうして太郎特訓班は長き修行の旅へと出発したのだった。

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「今日もいい天気ですね〜」

 梨須野ちとせは、気持ち良さそうにひとつ伸びをした。場所は村のはずれにある"影鈴"という店。ちとせが営業している茶屋の名前である。薄皮にたっぷりの餡が入った薄皮饅頭と、近所の茶畑から直接仕入れている緑茶が人気で、旅人だけではなく、村人の憩いの場としても人気があった。最近ではかぐや姫目当てでやってきたらしき旅人も立ち寄る為店は繁盛しているが、さすがに朝イチに茶屋で休憩しようという考えの者はいないらしく、開店準備をしているちとせの他には人っ子ひとり見当たらない。

 また、この"影鈴"はただの茶屋ではなく、裏の顔があった。かぐや姫が月の住人であるのは様々なおとぎ話でも語られている通り。この今昔でも例外ではない。ちとせはかぐや姫の故郷である月の王国から依頼を受けて、王女であるかぐや姫がどんな娘に育っているかを調べていたのである。しばらく観察した限りでは、また、リスの姿で直接訪ねてみた時は、かぐや姫は素直で心優しく、王女としても申し分ないように見えた。だが、数日前にお婿さんを募集し始めた頃から、性格が激変してしまったのである。わがままで自分勝手になり、竹取の翁達を困らせているとか。

「何かあったのでしょうか……月からの連絡がないのも気になります」
 そう言ってちとせは、店の奥に隠してある、茶屋にはそぐわない未来的な銀色の部品でごてごてと造られた通信機をちらりと見た。月の王国とは定期的に連絡を取り合っていたのだが、数日前に「そろそろ迎えを送る」という連絡が来たっきり、通信が途絶えているのである。こちらからの通信も試みたが、ノイズが聞こえるばかりで一向に繋がらないのだった。

 そして茶屋に来る村人や旅人達が話している"山に銀色の未確認飛行物体が着陸した"という噂。現に未確認飛行物体を調査しに山へと向かったものもいるという。時折、未確認飛行物体が複数飛んでいたという話も聞いたが、尾ひれがついた噂なのかもしれない。

 ともかく、あーだこーだと考えているだけでは仕方ないと一息つき、ちとせが店の前の掃除を始めた時だった。山の方から奇妙なものがやってくるのに気付く。
 やってきたのは二足歩行のウサギだった。ぺたぺたと足音を立てて、茶屋の前を横切っていく。

「……カチカチ山のウサギさんでしょうか?」
 ちとせは首を傾げつつウサギを見送ると、また茶屋"影鈴"の掃除へと戻ったのだった。

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「ふーむ、やはり宇宙船、か」
 一方こちらはかぐや姫の生まれた"竹"を調べに来たエルンスト・ハウアー。銀色の竹は宇宙船で、かぐや姫は"人に擬態した何か"ではないかと考えたエルンストは、手がかりを探しに山へと柴刈り……ではなく、竹調査に来たのである。
 竹取の翁宅からそれほど遠くない山の中に、その竹とやらはそのまま残されていた。大きさと銀色に光る金属のようなものでできたことを除けば、確かにギリギリ竹に見えなくもない。宇宙船を知らない"今昔"の村人達が見れば、不思議な竹が生えているように見えたかもしれない。
 だが、開いたままの扉から内部を見れば、十六年経った今もなおピコピコ光っているコンソールやら、生命維持装置らしいものやら、機械であることは一目瞭然である。

「船自体は生きとるらしいが、持ち運べそうなものはないのぅ。うーむ、この世界を征服に来たエイリアンの手がかりでもあるかと思ったんじゃが」
 一通り船を調べ終わり、エルンストは残念そうにため息をつく。

 ふと気配を感じ、後ろを振り向くと銀色の竹の近くにいつの間にやら現れたものに気がついた。白くてふわふわした体毛を持った二足歩行のウサギである。
「なんじゃ?イナバのシロウサギかのぅ?」

"違います"

 さっと文字の書かれた木の板を見せるウサギ。準備していたのかお前。という具合の早業である。

「そういえば変なウサギがうろついとると聞いたのぅ。まさか、このウサギ、かぐや姫の仲間では……」

 一人と一匹の間に妙な緊張感が走ったその時、竹林の竹をなぎ倒し、爆音を響かせながら一人の少女が飛び出してきた。
「違ーう!うろついている謎のウサギとはあたいのことやーっ!!」
 何故かバニーガールの姿のアオイ・シャモンである。飛び出しざまにばばばばば、とバスターライフルとガンランチャーの弾をあたりに撒き散らし、竹がばっさばっさと倒されていく。

「な、なんじゃなんじゃ!?」

"STOP!竹林破壊"

 エルンストが銀色の竹の影に隠れ、同じく素早く隠れて弾幕を避けたウサギがおずおずと板を掲げてみるが、アオイには効果はゼロキログラムである。その最中にも、ロングレンジバスターライフル、対装甲散弾砲と装備を変えては、どかーん!ちゅどーん!と竹林を破壊していく。

「弾幕ウサギ娘アオイ・シャモン、月に代わってお仕置きやっ!!」
 しばらくの後。何を仕置きしたかはわからないが、なぎ倒された大量の竹を背景に、アオイの決めポーズがびしっと決まったのだった。



「えー!おっちゃんら、宝探ししてたんと違うの?」
 竹林を破壊しつくした後、エルンストからここにいる理由を聞いたアオイは不満げに言った。

「なんでそう思ったんじゃ。わしはかぐや姫の生まれた竹を調べに来ただけじゃい」
 そもそも弾幕で仕置きされる理由は何もない。とばかりにきっぱりと返す。
「なんだ、宝探ししとんならちょっと邪魔したろと思ったんやけどなぁ。拍子抜けや」
「宝探しなら村の外じゃろ。例えば鬼ヶ島とかには金銀財宝がつきものじゃからな」
「なるほど、それや!おっちゃん、おおきにー!!待ってろよ、鬼ヶ島ー!!!」
 エルンストの言葉を聞いたアオイは、それこそ弾丸のように走り去っていく。後には呆れ顔のエルンストだけが残された。

「……なんだったんじゃろうな。おや、さっきのイナバのシロウサギがおらんのぅ」
 ふと周囲を見てみると、先ほどのウサギがいつの間にやら消えていた。
「手がかりになりそうだったんじゃが」
 そう言って銀色の竹に見える宇宙船を見上げる。銀色の竹は不思議なことに先ほどの弾幕にも傷一つつかず、そのままの形で元竹林に残っていたのだった。


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 日もだいぶ高くなった頃。リーフェ・シャルマールは村の茶屋"影鈴"で情報収集に勤しんでいた。村の外れで目撃された未確認飛行物体が一体どのようなものかを調査する為である。人々に悪影響を与えるようなものであれば排除するべきだろうし、逆に友好的な異星人などであれば援助をする心積もりだ。

 はじめは今昔の村人とだいぶ違った格好のリーフェをやや警戒していた村人達だったが、得意の錬金術で歌って踊るお茶汲み人形やら、エレキテルで動く全自動ウチワ扇ぎマシーンやら(いわゆる扇風機である)、ちょっとしたアイテムを作り出すと、たちまちリーフェの周りには人が集まってきた。

「……で、こうするとプロペラが回って涼しい風が送られてくるわけ」
「へぇ〜、大したもんだなぁ」「便利そうねぇ」
 村人も口々に感心している。

「そういえば……最近、この辺に現れるっていう未確認飛行物体についてを聞きたいんだけど……何か変わったものを見なかったかしら?」
 何気なくリーフェが聞いてみると、周囲に集まっていた村人がざわついた。内、心当たりがあるらしい数人が進み出る。

「あんたの探しているものかどうか知らんが、5日くらい前の明け方に、うちのじいさまが厠に起きたら山の方にぴかぴか光るなんかが降りてったって言ってたぞ」
「あたしも昨日、畑から家に帰る途中で空を飛ぶ船みたいなものを見たよ。かぐやちゃんちの家の近くを飛んでたねぇ」
 ちなみに山とかぐや姫の家は村をはさんで大体対角線上にある。

「移動したってことかしら……?」
 首を傾げるリーフェ。とりあえず村人達にお礼を言い、情報の新しいかぐや姫の家の方角に行ってみることにした。


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 その頃。村から遠く離れた鬼ヶ島では、今まさに島のトップを決めようと激闘が行われていた。戦っているのはグラント・ウィンクラックとテネシー・ドーラーである。

「変身!グラント、バーニングソードフォーム!」
 炎の精霊・ファイルを破軍刀に憑依させ、光翼鎧にペットの飛紅を纏わせたグラント。炎を纏った巨大な刀がテネシーに振るわれるが、その一撃を黒いドレスをひるがえしてひらりとかわす。穿たれた地面には爆音と共に大穴が開いた。

「破壊力は見事ですが、当たらなければ意味はありません。……そちらが炎なら、こちらは氷でお相手しましょう」
 グラントの炎の剣とは対称的に、テネシーのウィップソードに氷が纏い始める。テネシーの使うアーツの力である。ウィップソードが鞭のようにじゃらりと伸び、氷のトゲを纏ったままグラントに向かう。

「その程度じゃ俺の炎は……ッ!?なんだと!?」
 前方のテネシーに気を取られていたグラントは、テネシーが岩陰に潜ませていたペットのケルベロスに気がつかなかった。ウィップソードを破軍刀で弾き返すが、ケルベロスの高熱波に押され、後退させられる。

「くっ、テネシーは……!?」
 周囲を見渡すと、いつの間にか近くに移動してきたテネシーと目が合った。額に表出した第三の目と。
「しまった……ッ!!」
 慌てて目を逸らし、精神を集中するが、腕や足に痺れが残る。テネシーの"魔眼"は相手の目を見つめることで麻痺させることができるのである。

「これで終わりです」
 いつもと変わらぬ淡々とした調子で言い、氷のトゲに覆われたウィップソードを振り下ろす。ひゅん、と風を斬る音がし、そして。

「あぶねぇあぶねぇ。まさか魔眼まで使って来るとはな」
 間一髪、グラントは破軍刀でウィップソードを弾いていた。
「……動けないはずだったのでは?」
 落ち着いた口調だが、テネシーは驚きを隠せない。ウィップソードを構えなおし、距離を取る。

「俺は治癒功も使えるのさ、剣ほど得意じゃないけどな。今度は俺から行くぜ!破軍彗星ッ!!」
 グラントは振りかぶると、破軍刀を力の限りにテネシーに投げつけた。
「くっ……!!」
 さすがに正面からの直撃を受けるテネシーではないが、巨大な剣の衝撃波で体勢を崩す。そこに、走りざまに地面をえぐった剣を引き抜き、グラントが迫る。

「うおおおっ!!」
「全く、その有り余る体力は羨ましい限りですね」
 テネシーも負けてはいない。ケルベロスの吐く高熱波を壁にして、すぐに自身は体勢を立て直す。それと同時に、高熱波の壁の後ろからウィップソードでグラントに斬りかかった。



「お二人ともふぁいとれすよ〜。赤勝て〜、青勝て〜」
 さて、激闘を繰り広げる二人とは別に、ちょっと離れた場所には何故か設けられた宴席ですっかりできあがっているのはマニフィカ・ストラサローネ。周囲では同じく、この激しい戦いを肴に、鬼ヶ島の鬼達が宴会を繰り広げている。

「さて、どっちが勝つかねぇ」
 杯に手酌で酒を注ぎつつ言ったのは頭に角のある少女。鬼ヶ島の鬼の一人である、鬼子(おにこ)だ。名前がそのまんまだとか言ってはいけない。

「大体、親父が一寸法師とやらに殺られて死んじまうからいけないのさ。他の奴らは根性がないし、あたしは頭領なんて器じゃないしね。ちょうどいい時にあんた達が来てくれて助かったよ。島の奴らも強い頭領なら文句ないだろ」
 そう言いつつ、かなり度が強いであろう酒をくいっと一息に飲み干す。

 何故こんな騒動になってしまったのかと言うと。

 鬼ヶ島の頭領が一寸法師に倒されてしまい、鬼達は困っていた。これからは人と共存し平和にやっていくべきだという者もいたが、今までの悪事で人間達には恨みを買っているし、骨董が趣味の頭領が集めまくった珍しい宝を狙って度々人間が侵入してきていた。宝だけを狙うならいいが、大抵はついでに鬼を退治するつもりで来るので始末が悪い。特にここ数日は、かぐや姫とやらにそそのかされた人間達がちょくちょく島に来るようになっていた。

 そんな鬼ヶ島に現れたのはグラント・ウィンクラックである。この島にはいずれ桃太郎という強い奴が来るはず、と考えたグラントは、鬼ヶ島で桃太郎を待つ為に殴りこみにやってきたのだった。

 鬼ヶ島仕様に何故か某ヒーロー物風の外見に改造されたエアバイク"凄嵐"の上で仁王立ちになり、破軍刀を抜くと島にいる鬼達に言い放つ。

「やあやあやあ、遠からん者は音にも聞け、近くば寄って目にも見よ!我が名はグラント・ウィンクラック!都を騒がす鬼ども!おとなしくしなくていいからいざ尋常に勝負しろ!この俺を楽しませるためにな!」
 妙に世界観にノリが合っていた。

「わたしのいるこの島に堂々と乗り込んで来るとは命知らずですね。宝が目当てですか?」
 鬼達の報告を聞き、そこへ出てきたのがテネシー・ドーラー。グラントより一足早く島にやってきたテネシーは、既に力で鬼ヶ島を牛耳り始めていた。

「ふん、そいつもいいが、鬼ヶ島には桃太郎って強い奴が来るらしいからな。そいつと戦う為にここで待たせてもらう。鬼退治はついでだ。アンタこそ、鬼ヶ島で頭でもやってるのか?」
 言ってグラントは破軍刀を構える。
「いいえ、まだですが。でも、この時点で邪魔が入るのは嬉しくありませんね」
 テネシーもウイップソードを構えた。二人の間に緊張が走る。

 その時、そこへ通りかかった前頭領の娘・鬼子が2人にのん気に声をかけてきたのだ。
「取り込み中のとこ悪いけど、あんたら何やってんのさ」
 空気の読めない娘である。グラントとテネシーは構えを解かず、短くかいつまんで事情を説明した。

「なーんだ、そんな事か」
 事情を聞くと鬼子はあっさりそう言った。なんだとはなんだ、とばかりに思わず2人は鬼子を見る。
「そんな事って……俺に取っては大事なことだが」
「わたしも、そう言われるのは心外です」

「あー、悪い悪い。まあ、簡単にまとめると、そっちの兄さんは強い奴と戦いたい。テネシーはこの島を支配したい。そんならさ、頭領の娘公認で戦ってみないかい?」
「公認で……」
「……戦う?」
 鬼子の突飛な提案に今度は二人で顔を見合わせる。

「そ、勝ったやつが次のこの島の頭領ってことで。頭領になりゃ強い奴と戦い放題だよ。なんせ宝を狙って、腕に覚えのある人間がちょくちょく来るんだから。もちろんずっとってわけじゃなくていいし、辞退してもいいよ。その後は次に頭領になってくれそうな強い奴探すからさ」
 えらく簡単な頭領である。

「いやー、最近、頭領は死ぬわ侵入者が多いわで島の雰囲気が沈みがちだしさぁ。宴会でもやろうかと思ってたんだけど、いい出し物がなくてさぁ。何かないかなーって思ってたんだよねぇ」
「「…………」」
 明るく笑う鬼子。出し物って、自分らは見世物か。と、思えなくもなかったが、グラントもテネシーもそこは堪える。

「ちょうどさっき、島の裏側でも珍しいお客が来たらしいしね。せっかくだから歓迎会も兼ねてまとめて宴会ってことで。島の中央の広場で、準備出来次第始めるからよろしく〜」
 言いたいことを言うだけ言うと、鬼子はさっさと去っていった。

「……どうする?」
「まあ、頭領の娘が認めた上で支配者になれるのなら、越したことはないですが」
 戦いの場を変えない理由も特にない。グラントとテネシーの勝負は持ち越されることとなった。



 話は宴会真っ最中の鬼ヶ島に戻る。

 ということで、鬼子の一存で次期頭領選出大会兼宴会が行われることとなった。メインはもちろん宴会である。宴会好きの鬼達には反対する者はいない。

 その宴会に客人として招かれているマニフィカ・ストラサローネは、海から今昔世界へとやってきた。ペットのイルカ"フィリポス六世"と共に海を泳いでいると、前方に島が見えたので、その島に上陸してみたわけである。上陸してみると住人の頭には角。それでここが鬼ヶ島だとわかったものの、人間以外には警戒度がゆるい鬼達とすっかり仲良くなり、宴会に招待されたわけである。

「もう飲めません。飲めませんよ〜」
「マニフィカ、言いながら杯にお酒を注ぐのはやめた方が……」
 鬼達に勧められた酒でかなり酔っているマニフィカ。心配して出てきた水の精霊ウネの言葉も、あまり効果がない。
「ウネお姉さま、大丈夫れすって。わたくしはしっかりしてますから〜」
 ふらふらと立ち上がると三叉槍を振るってみせる。見事な槍さばきに「よっ!今昔一!」とあちこちの鬼から声がかかる。

「うんうん、平和だねぇ」
 マニフィカの隣に座る鬼子が、満足げに杯を傾けつつ呟いた。こちらはだいぶ飲んでいるのに顔色がほとんど変わっていない。ちなみに、目の前で今もなおグラントとテネシーの激しい戦いが繰り広げられている最中に平和も何もあったものではないが、それは置いておく。
「平和……」
 三叉槍の演舞を披露していたマニフィカは、鬼子の言葉で振り向いた。動いて更に酒がまわったのか、目が据わっている。
「いけません……こんなコトでは駄目なのれす!平和で穏やかなんて、そんなの鬼じゃありません!」
 どん!と槍の柄で地面を叩くと、客人用に用意された上座から、鬼達の宴会場のど真ん中へずかずかと歩いていく。酔った鬼達も、なんだなんだといった感じでマニフィカに注目した。

「むかしむかしの時代から、"鬼"の存在は昔話に欠かせない構成要素れす!ちゃんと役割を果たさなければ、桃太郎や一寸法師の立場が無くなってしまいます!鬼あっての主人公なのれすから!」
 酒の為に多少ろれつが回っていないが、自分に注目する鬼達に向かってきっぱりと言う。

「役割って何するのさ?」「頭領は悪さしてその一寸法師に退治されちまったしなぁ」
 口々に言う鬼達を、槍の柄でドン!と地面を叩いて黙らせ、更に続ける。

「皆さんにはわからないのれすか!頭領さんが正しい鬼の姿を、身をもって示そうとしたことを!」
「そう……なのか?」「そうだったのか……俺達は頭領の気持ちも知らずに……」「うおおお!頭領、すまねぇ!!」
 酒の勢いもあってか、鬼達の思考もマニフィカに釣られ始めた。

「さあ皆さん!正しい"鬼"の姿を取り戻すのれす!いざ起たん!鬼ヶ島万歳!!!……ぐぅ……」
 それだけ言うと、マニフィカはばたーん!と倒れて、安らかに寝息を立て始めた。
「おおお、鬼ヶ島万歳ー!」「ばんざーい!!」「今日からこの島は変わるんだー!!!」
 あとにはすっかりできあがった上に盛り上がってしまった鬼達が残される。

「……なんかあっちで話がまとまってないか?」
「漁夫の利を持っていかれてしまいましたね」
 それを見て、未だ激闘を続けていたグラントとテネシーは、これ以上戦いを続けても仕方がないことをさとったのだった。

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 リーフェ・シャルマールと梨須野ちとせは、かぐや姫のいる竹取の翁の家に向かっていた。リーフェはかぐや姫の家の近くを飛んでいたという未確認飛行物体を探す為、ちとせはかぐや姫の様子を見に行く為である。リスの姿になったちとせは、リーフェの肩に乗せてもらっている。そのリーフェはというと、四頭立ての馬車を改造した"移動ラボ"に乗り、時折止まっては道の途中途中に小型の映像記録装置を仕掛けていた。

「リーフェさん、さっきから何をしてるんですか?」
 肩に乗ったちとせが尋ねる。
「あぁ……これは映像記録装置よ。件の未確認飛行物体が現れたら録画できるように、村中に設置してあるわ。……これが仕掛け終わったら私のゴーレムを総動員して村の警戒にあたるつもりよ」
 淡々と答えるリーフェ。ちとせはリーフェのメタルゴーレムが村を徘徊する様子を想像してみる。のどかな田舎の山村を闊歩するメタルゴーレム。……シュールかもしれない。
「え、えーと……あまり村の人を驚かせないようにしてあげてくださいね」
「大丈夫よ……さっきもいくつか発明品やちょっとしたゴーレムを見せたけど、嫌がってはいないようだったし」
 淡々と答えるリーフェ。

 と、馬車で進む二人の前に白い影が現れた。ぴんと伸びた耳、真っ赤な目、白い体毛……二足歩行のウサギである。
「あ、さっきのウサギさん!」
「最近この辺りをうろついてるっていう?……何してるのかしら」
 ウサギに気づき、リーフェが馬車を停める。ウサギはぽかーんと上空を見ていた。二人もつられて上を見上げる。そこにはいつの間にやら飛行艇が浮かんでいた。

「これって……未確認飛行物体……ですか?」
「いえ、確認したから確認飛行物体……かしら」
 思わずよくわからない問答をしてしまう二人だった。


 飛行艇の内部。噂の確認飛行物体こと、飛行艇"レッツラ号"の持ち主であるアリマ・リバーシュアは上機嫌である。

「がはははは!やっと見つけたぞ、かぐや姫の家!」
 豪快に笑い、道の先に見えるかぐや姫の家へ向けて舵を取る。
「キキキッ!(この狭い村で迷うからだろーが)」
 その近くではペットの白いテナガザルのキキちゃんが辛らつな言葉を発しているが、猿語のわからないアリマにはその意味までは届かない。
「そうかそうか、キキちゃんも嬉しいか!良かったなぁ!がはははは!!」
 嫌がるキキちゃんを捕まえ、その頭をぐりぐりと乱暴になでる。
「キーッ!キキッ!!(痛いっての!さわんな!!)」
「はははは、嬉しいんだな!うんうん。 ところでキキちゃん、噂のかぐや姫は別名"ムーンプリンセス"と言ってな、"幻の銀水晶"とやらを持っているらしいんだ」
 急にきりっと表情を引き締めるアリマ。でも情報が某アニメ調である。
「キキー……(……何か勘違いしてないか?)」
 呆れ顔のキキちゃん。だがそのツッコミはやはりアリマには届かない。
「そうかそうか、キキちゃんも"幻の銀水晶"が欲しいのか!俺も欲しい!!」
「キッキ!!(俺の話を聞いてないだろ!!)」
「とりあえず相手は月の姫だからな。護衛がいるだろうし、こういう作戦を考えてみたんだが……」
「キキッ!(話を聞け!)」
 マイペースに話を進めるアリマと、お怒りのキキちゃん。どうにもわかり合えない2人であった。

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「かぐや姫、かぐや姫や。いい加減に出てきて顔を見せておくれ」
 竹取の翁宅では、かぐや姫の部屋の前で竹取の翁ことおじいさんとおばあさんが困り果てていた。急にお婿さんを募集する!と無茶なことを言い出してから、かぐや姫は部屋からほとんど出てこなくなってきてしまったのだ。

「おじいさん、おばあさん、ごめんなさい。私の探している宝を持ってきてくれた人以外には会いたくありません」
 部屋の中からはしおらしい少女の声が聞こえてきた。
「そうかい。お前がそう言うなら仕方ないが……」「かぐやが言うならしょうがないねぇ……もうちょっと待ってみましょう、おじいさん」
 心配ではあるものの、本人がこうかたくなではどうしようもない。おじいさんとおばあさんは部屋の前から立ち去っていった。

 その部屋の中。巻物に書かれたお宝リストを熱心にチェックしている少女が一人。
「ったく、娘がほっといてって言ってるんだからほっときなさいっての。 えーっと、仏の御石の鉢も、蓬莱の玉の枝も、火鼠の裘(かわごろも)も、ぜーんぶ鬼ヶ島か……一つの所に集まってるのはいいけど、守りが堅そうね」
 巻物には、お婿さん候補に名乗りを上げて失敗した人々から聞いた宝の情報が書き込まれている。

 と、部屋の畳ががばっと開き、そこからぴょこりと二足歩行のウサギが顔を出した。

「あら、早かったじゃないの。村の様子はどうだったの?」
 さして驚いた様子もなく、少女はウサギに問う。

"サクヤ様、何か来ます"

 ぴっ、と文字の書かれた板を出すウサギ。サクヤと呼ばれた少女は巻物に目を戻し、ぞんざいに答える。

「何が?宝じゃないなら別に知らせに来なくてもいいわよ」

"何か来ますってば"
 ぐいぐい、と板を見せるウサギ。

「はいはい。うーん、人任せってのも退屈ねぇ。他に何か面白いことないかしら……」
 聞く気のない少女に、ウサギはがっくりと肩を落としたのだった。



「芝刈り機〜、最新の芝刈り機はいらんかね〜。NASAで開発!インド人もびっくり!とくらぁ」
 竹取の翁の家の前にのん気な声が響く。芝刈り機を抱えてやってきたのはレイナルフ・モリシタ。

 今昔の資料に"おじいさんは山へ芝刈りに……"と有ったのを見たレイナルフは、竹取の翁宅には日課的に芝刈りが必要なくらい立派なゴルフ場があるのではないかと考えたのである。だが、竹取の翁宅はそこそこ大きいものの、ゴルフ場のゴの字も見つからない一軒家だった。

「おっかしいなぁ……家の近くじゃなくて山の方にあんのかな。"山へ芝刈りに"って書いてあったもんな。とりあえず聞いてみるか。すいませーん!」
 どんどん、と家の扉を叩いてみる。しばらくすると、人の良さそうなおじいさんが出てきた。
「はいはい、うちに何か用ですかのぅ」

「あ、もしかしてオーナーか!?最新の芝刈り機やらゴルフ場に必要なもんやらの商売に来たんだが、どうだい?安くしとくぜ!」
 おじいさんに全自動メカ式芝刈り機やら持参したカタログやらを見せるレイナルフ。だが、おじいさんは首を傾げる。
「はぁ、でもうちには芝を刈るようなとこはありませんでなぁ」
「何ッ!?でもほら、この資料に書いてあるじゃねぇか!」
 びしっ!と何かをプリントアウトした紙を見せる。そこには確かに"芝刈り"とあった。

「これ、間違っとるなぁ。なぁ、ばあさん」
 資料を受け取ると、いつの間にやらやってきたおばあさんに見せる。
「あらまあ、間違ってますねぇ、おじいさん。正しくは"柴"ですから」
 おばあさんはちょいちょい、とどこからか取り出した筆で資料を添削すると、ほい、とレイナルフに返してくれた。

「ちくしょー、なんだよ、間違いかよ!芝だと思って各種芝刈り機やらゴルフ用品やらわんさか持ってきたってのに!芝生を刈るのに、便利な三輪足踏み自転車型芝刈り機だって持ってきたんだぞ!」
 がっくりと肩を落とすレイナルフ。だが、持ってきたものを無駄にする気は一切ないらしく、すぐに立ち直って商品の説明をし始める。

「まあいいや、ともかく商品の説明だけでも聞いてくれよ。ちなみに三輪足踏み自転車型芝刈り機はラフとグリーンとの切り分けの刈り分けができて、ラフの深さも高さ調整機能つけてばっちし!ってシロモノだ。始動前に、スタンド立てたまま多少ペダルこいで、電気ためなきゃいけねえけどな。あとは刈りながら走る時に発生する電気を刃を動かすのと推進力補助に回すから、じーちゃんくらいの年寄りから運動不足のお父さんにも適度な運動のできるエクササイズ用品としてオススメの一品で……」

「いやぁ、買っても使わないじゃろうしなぁ」
「使わない?馬鹿だなぁ、じいさん。この近所、見た所ゴルフ場ゼロじゃねぇか。作ったら皆遊びに来るし、じいさんも収入増えるわ、この村での娯楽も増えるわ、オレの商品もじいさんに買ってもらえて無駄にならなくて済むわ、みんなでハッピーでいいこと尽くめじゃねぇか」
「しかしのぅ……」
 迷っている様子のおじいさん。レイナルフは更に続ける。

「そっか、ないなら作っちまえばいいんだもんな。……よし、作っちまおう!!そうと決まれば測量して設計して……必要な資材やらも準備しないといけないな。忙しくなってきたぜ!」
「いや、まだ作ると決めたわけではないんじゃが……」
「じゃあな、じいさん!とびっきりのゴルフ場作ってやるからよ!楽しみにしてろよな!」
 困惑顔のおじいさんをその場に残し、意気揚々と竹取の翁宅の周辺の測量に向かうレイナルフだった。
 
「ばあさん、どうしようなぁ」
「とりあえずお願いしたらどうですかねぇ、親切そうな方ですし」
「そうじゃのぅ、村の皆も喜ぶじゃろうし」
 こちらはこちらで、おじいさんとおばあさんは二人とものん気である。



 と、その竹取の翁の家の周囲がふと暗くなった。上空に現れたのは飛行艇"レッツラ号"。その操縦席ではアリマ・リバーシュアが豪快に笑っていた。

「がはははは!どうだ、キキちゃん!俺様はこういう格好も似合うだろう!なぁ!?」
「キー……(いや、どうだろうコレ……)」

 いつもの動きやすい服装と違い、その姿はタキシード姿にシルクハット、目元には仮面、胸元には何故か真っ赤なバラまでさしてある姿である。ちなみにアリマの体型は筋肉質でがっしりとしており、フォーマルな服装をするとかなり窮屈そうだ。

「そうかそうか、似合ってるか!ふふん、こういうのは形から入らないとな!!」
 世界が世界なら警官に呼び止められてしまいそうな姿で得意げに胸をはる。

「さて、と。それじゃあ始めるとするか!カノン砲、発射!!!」
 レッツラ号の砲台から発射された砲撃が、どっかーん!!と竹取の翁宅の屋根を吹っ飛ばした。

「な、なんじゃなんじゃ!?」
「あらまあ、屋根に穴が開きましたよ、おじいさん」
 家の前にいた竹取の翁らが呆然と屋根を見上げる。砲撃を受けた屋根には大穴が開いてしまっていた。ちょうどかぐや姫の部屋のあたりである。

「お?なんだありゃ。あーあー、あんだけ壊したら一から屋根ふきなおした方がいいな。じいさん、修理する時はオレに声かけてくれよー。安くしとくからさ。……って聞いてないな」
 近くで測量をしていたレイナルフが竹取の翁らに声をかけるが、2人はそれどころではない。

 更に、屋根を崩したカノン砲は煙幕を撒き、周囲にもわもわとした濃い煙が立ちこめる。そこにたどり着いたのは先ほどレッツラ号を目撃したリーフェとちとせだった。飛行艇がかぐや姫宅に向かうのを見て追ってきたのだ。

「……何事かしら、これは」
「か、かぐや姫さんの家が大変なことになってます!」
 移動式ラボから降り、慌てて家に駆け寄ってくる。

「がはははは!行くぞキキちゃん!とぅっ!大海賊・アリマ・リバーシュア見参!」
「キッキー(はいはい)」
 そこへ飛行艇からロープで降下してきたのはタキシード姿のアリマ(とキキちゃん)。すたっ!と屋根に降り立ったアリマを見てリーフェとちとせは思わず固まった。

「……何、アレは」
「わー……」
 2人とも絶句している。なんかすごい人が来た。

「がははははは!!"幻の銀水晶"ゲットだぜ!!」
「キキーッ!(さっさといただいてずらかるぞ!)」
 アリマらはそのまま家の中へと侵入し、同じく突然のことにびっくりしている様子の少女をがしっと抱え上げる。

「きゃーっ!!何すんのよ!離しなさいよっ!!!ていうか"幻の銀水晶"って何よ!」
 じたばた暴れるが効果はない。と、アリマは部屋にもう一匹、奇妙なものを発見した。二足歩行のウサギである。

"暴力反対"
 文字の書かれた木の板を持ち、赤い瞳でじっと訴えている。どうする、アリマ。

「む、なんだ?そうか、お前も一緒に来たいんだな!」
 ウサギの訴えを勘違いしたアリマはついでにとばかりにウサギの首根っこをつかんだ。

"違います"
 とっさに出した板もむなしく、ウサギはぷらーんと吊るされた格好になる。

「あんた何あっさり捕まってるのよ!もうちょっと役に立ちなさいよ!!」
 じたばた暴れる少女に、ウサギは"面目ないです"と板を見せる。やっぱりこの板、事前に用意してるのかもしれない。

「では、さらばだ諸君!がはははは!!」
「キキッ(さらばだ!)」
 目的の少女と、ついでにウサギを捕まえたアリマは、降下用のロープをつかむ。もちろん、脱出する前にギャラリーの気を逸らす為、薔薇の花を一輪投げるのも忘れない。こうして飛行艇"レッツラ号"は煙幕に紛れ、ふわりとその場を離脱する。

「ど、どうしましょう……かぐや姫さんがさらわれてしまいました……」
「……と、とりあえず、村に設置した映像記録装置で追えるはずだから、追いかけてみましょ」
 竹取の翁達と共に残されたリーフェとちとせは、移動ラボに乗り込むとすぐに飛行艇の追跡を開始したのだった。



 一方、飛行艇"レッツラ号"では、さらわれたかぐや姫が大いにお怒り中だった。
「さっきから何よ、"幻の銀水晶"って!じゃあ、私が目当てでさらったりしたわけじゃないわけ!?」
「そりゃそうだ、俺は宝を追い求める大海賊様だからな。お子様には興味もないし。がはははは!……てことでさっさと"幻の銀水晶"を俺様にくれ」
「だからないって言ってるでしょ!ていうか私はお子様じゃないし!あんたもそう思うでしょ!?」
 ウサギに振るかぐや姫。ウサギは珍しくあたふたしながら板を出す。

"お子様……かも"

「あんたはどっちの味方なのよー!!!」
 その板でべっしんべっしんとウサギを叩くかぐや姫。ウサギの掲げる"暴力反対"の板が痛々しい。ちなみにシャレではない。

「……なんか俺の知ってるかぐや姫のイメージと違うなぁ。なぁ、キキちゃん?」
「キキッ(確かにな)」
 暴れまくるかぐや姫を見てつぶやくアリマ。かぐや姫はそれにぎくっと反応する。

「そ、そそそそんなことないわよ!私はかぐや姫よ!見ればわかるでしょ!?」
 動揺しまくっている。明らかに怪しい。
「そ、そーだ、あんた、私の為に働いてみる気はない?私、お宝の場所をいくつか知ってるのよ!」
 と、かぐや姫は話題を逸らすように宝の話を持ちかけきた。
「何っ!?本当か、ソレ?」
「キキッ(ガセじゃないだろうな?)」
 身を乗り出した一人と一匹。そんなアリマらを見てニヤリと笑ってかぐや姫は言った。
「もちろん本当ですとも。実はね……」


 今昔のとある村の騒動は、この後さらに加速していく。かぐや姫を名乗るこの少女と、謎のウサギの正体とは?

 そして太郎こと桃太郎の訓練の成果は?鬼ヶ島の鬼達は決起するのか?未確認飛行物体(UFO)って確認したらなんて呼べばいいの?FO?っていうか物体てことでOなの?

 様々な謎を秘めて、物語は次回に続くのだった。


烏谷マスタートップP