「今昔・異説竹取物語」 第2回

ゲームマスター:烏谷光陽


 村はずれの茶屋"影鈴"の前。リーフェ・シャルマールと梨須野ちとせは、アリマにさらわれたかぐや姫を追うべく、準備を進めていた。

「稲葉ちゃん、鈴川ちゃん、遊々子ちゃん、ちょっと出てきますのでお店の方お願いしますね!」
 手早く準備を整え、ちとせがバイトの子らに声をかける。
「は〜い。いってらっしゃい、店長〜」
 と、にこやかに見送るバイトの娘さんたち。

「未確認飛行物体の正体を探ろうと思ってたのに……まったく、厄介なことになったわね」
 一方、ぶつくさと言いつつもリーフェは"移動式ラボ"からいくつかの道具を取り出し、呼び寄せた"ドラグーン"を起動させる。さすがに目の前でさらわれた少女を放っておくわけにはいかないと思ったわけである。

「魔力リンクシステム正常、エーテルドライブ出力90%、ブーストシステムALL GREEN……ドラグーン、起動。……どうやら行き先には興味深いものもあるみたいね」
 ドラグーンを操作するリーフェの片手には、かぐや姫の部屋で見つけた数枚の紙切れ。そこには鬼ヶ島についてと、珍しい宝の数々が島に有ることが記されていた。

「宝は後回しです!まずはかぐやさんを助けないと!」
 準備を整えたちとせが、リーフェの肩に飛び乗る。
「わかってるわ……とりあえずあの海賊さんの後を追いましょう」

 こうして2人は、"ドラグーン"でアリマらの後を追ったのだった。

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 一方その頃。追われている当の本人たちはというと。

「がはははは!似合うじゃないか、かぐや姫!!」
 アリマ・リバーシュアは今日も上機嫌だった。しかしその姿はいつもの服装ではなく、虎柄のパンツをはき、偽モノの角をつけた"なんちゃって鬼"風である。

「なんで私がこんな格好を……」
 そしてかぐや姫も同じく、虎柄のビキニと、頭には偽物の角。その姿はなんとなくとある漫画のヒロインを連想してしまうが気にしない。

「宝は鬼ヶ島とやらにあるんだろう?なら鬼の格好をして潜入するのが得策ってもんだ!」
 がははは、と笑うアリマ。
「キッキ〜(こんなんで鬼が騙せるのか?)」
 同じく鬼の格好をさせられているが、一人(一匹?)、キキちゃんは冷静である。


「ふーん、そうかしら?で、この角みたいのは何よ?」
 と、かぐや姫が自身の頭につけられた小さな角のようなものを指す。見た目はどう見てもスナック菓子である。

「と○がりコーンだ。非常食にもなるぞ」
 きっぱり言い切るアリマ。
「いらないわよ、そんな非常食」
 かぐや姫もきっぱりと返す。

"あっさりとした塩味が口の中で広がりますね"
 そして、ぽりぽりと余った菓子を食べつつ、グルメリポーターの感想のような言葉を書いた板を掲げるウサギ。ちなみにウサギも虎柄のワンショルダーを着て角もどきをひとつおでこにつけている。ウサギなんだか鬼なんだかすでによくわからない。
「あんたも食べてんじゃないわよ!」
 ウサギが次に出そうとしていたらしい"味の宝石箱やー"という板で、ぺしーん!とかぐや姫がツッコむ。

「キキ〜(うーん、話に聞いてたかぐや姫とイメージが違うんだが)」
 噂とだいぶ違うかぐや姫を見て、キキちゃんは一人考え込んだ。
「どうした、キキちゃん?難しい顔をして」
 それに気づいたアリマが声をかける。
「キキ……ウッキー!!(聞いてた性格と違うし、あからさまに怪しいし……アリマっ!!このかぐや姫は偽物かもしれないぞ!!)」
 びしっと核心に迫るキキちゃん。名探偵のようである。キキちゃんの指摘を聞いたアリマは……

「お?……あぁ、もう鬼ヶ島に有るというお宝の使い道を考えているのか!流石だな、キキちゃん!!」
 やっぱりわかっていなかった。
「キィ〜……(ダメだこりゃ)」



「行き先は鬼ヶ島、か……予想通りのようね」
 アリマとキキちゃん、そしてかぐや姫らの乗っている飛行艇"レッツラ号"の死角に位置する"ドラグーン"にて。飛行艇の会話を盗聴していたリーフェはぽつりとつぶやいた。

 リーフェが船を追うにあたって用意したのは細いワイヤーと超強力接着剤。事前に村に設置していたカメラで飛行艇を追っていたリーフェは、"ドラグーン"で"レッツラ号"の船底部からこっそり近づくと、船を自動操縦にし、自身は風霊ジェットを使って船底に細工を施したのである。

 細工をした船と"ドラグーン"の間は、ワイヤーがピンと張る程度の距離に保ってある。要は巨大な糸電話の原理だ。

「おかしいです。かぐやさんはウサギさんを叩いたり、あんな風に喋る人じゃありません。声はそっくりですけど、まるで別の人みたい……」
 同じく会話を聞いていたちとせが言う。
「……もしかしたら、別人なんじゃないかしら?」
 リーフェの言葉に、ちとせもうなづく。
「多分。会ってみないことにはなんとも言えませんけど……」
「島に近づいたらそっちに注意が逸れるはず……そうしたら"かぐや姫"を救出して、本人かどうか確認してみる必要がありそうね」

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「あのー……やっぱり止めませんか?鬼退治なんて無理ですよ……」
 弱々しく太郎が抗議したのは鬼ヶ島の浜辺。太郎を連れ、船で上陸した姫柳未来、アゼルリーゼ・シルバーフェーダ、シエラ・シルバーテイルの3人は、実戦で桃太郎を鍛える気満々だった。
「ここまで来て何言ってるの!てっとり早く強くなるには、やっぱり実戦が一番よ。さ、これで直接鍛えられたくなかったら突撃突撃!」
 元気良く言ってウォーハンマーを振り回す未来。えらいプレッシャーである。

「そうよ、強くなりたいんでしょ?……あ、そういえば、鬼ヶ島って"太郎ふぁいと"の開催地じゃない!」
 思い出したように言うシエラ。太郎が首を傾げる。
「なんですか、それ?」
「四年に一度開催される、世界中の太郎が集って太郎の中の太郎を決める武闘会よ。漢字が苦手な麻○太郎とか、芸術が爆発する岡○太郎とか、ワンマンな都知事の石○慎太郎とか、J○貨物最大の機関車、ECO-P○WER金太郎とか、あ、あと、勝新太郎とかが集う夢の祭典よ!!」
 力強く答えるシエラ。ちなみに出てきた太郎たちは実在の人物と一切関係はございません。
「聞いたことないですよ、そんなの……」
 力なく答える太郎。こっちの太郎はどの太郎にも勝てなそうである。

「まあまあ、二人とも。厳しくするばっかりじゃ太郎もやる気がなくなっちゃうでしょ」
「……アゼルリーゼさん」
 場を取り成すアゼルリーゼに、太郎もほっとした顔をする

「腹が減っては戦はできぬ!ってことで、途中の宿で台所を借りてきび団子を作ってみたの!」
 じゃじゃん!とアゼルリーゼが取り出したのは団子が入ってるらしい包みだった。
「なんですって!?念願のきび団子〜!!」
「わ、そうなんですか?ありがとうございます!」
 嬉しそうなシエラと意外そうな太郎。一人、未来が渋い顔をする。
「えーっと……お弁当にするなら周囲が安全か確認しなくっちゃね。わたし、ちょっと見てくる!太郎は食い倒れ太郎になってていいから!」
 いやに慌てた様子でその場を後にする。

「未来さん、どうしたんでしょう?急に慌てて……」
「ま、いいじゃない。それよりきび団子きび団子〜!」
 不思議そうに見送る太郎と、うきうきした様子で包みを開けるシエラ。

「「……」」
 現れたのはでろ〜んと溶けかけた、原色の団子もどきだった。

「どう?緑はビタミンたっぷりの青汁、赤は非常食の定番の梅干、黄色は筋肉を作るためのプロテイン入り!健康にも良さそうでしょ?」
 えっへん、と胸をはるアゼルリーゼ。
「あ、あー。そういえばここって超危険な鬼ヶ島じゃない!未来一人じゃ危ないわ!私も様子を見に行ってくるわね!!」
 しゅばッ!!と砂を蹴り、脱兎のごとく走り出すシエラ。いや、狼ですけども。
「に、逃げられた……!!」
 目の前であっさり裏切られ、驚きを隠せない太郎。原色の団子を見、そしてにこにことこちらを見るアゼルリーゼを見る。

「あの、僕、おなかいっぱいで……」
 太郎の言葉の途中でアゼルリーゼが聖剣"イーサ"をしゃらん、と抜く。
「好き嫌い言ったら強くなれないわよね?」
 笑顔である。
「わ、わーい!美味しそうだなー!!」
 雲ひとつない快晴の空の下、涙目の太郎の言葉が鬼ヶ島の海岸に響いた。南無。

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 そのような惨事が繰り広げられているのとはまた別の海岸で、マニフィカ・ストラサローネは二日酔いでずきずきと痛む頭を抱えつつ、顔を洗っていた。

「あーうー……昨日は飲み過ぎてしまいました……」
「だから申しましたのに。マニフィカが酔いつぶれた後も大変だったのですよ」
「キュキュ〜ン!」
 呆れ顔の水の精霊・ウネがマニフィカに手ぬぐいを差し出す。海岸の浅瀬にやってきたペットのフィポリス六世も、ウネに同意するように鳴き声を上げた。
「うぅ……高い声で鳴かないで、フィル。頭にガンガン響くから」
 手ぬぐいで顔を拭きつつ、こめかみを押さえる。

「ところでマニフィカ、頭領を引き受けたけれど、本当に決起するのですか?」
 ウネが首を傾げて聞く。
「はい?」
 マニフィカはわけのわからない様子で聞き返す。本人には昨夜の記憶なぞ、キレイさっぱり残っていなかった。二日酔いで回らない頭をフル回転し、ようやっとウネに訊ねる。
「ウネお姉様、今なんて……」

「よっ!調子はどうだい、頭領!」
 と、振り向いたマニフィカの背を遠慮なくばん!と叩いたのは前頭領の娘の鬼子である。
「い、いたた……お、鬼子さん?頭領って、わたくしが!?」
「そうだよ、昨日ノリノリで引き受けたじゃん。やだなー、忘れたの?」
 驚いていると、わはははと笑いつつばんばん背中を叩かれる。ちょっと痛い。

「いえ、あのですね、やっぱりわたくしが頭領などお引き受けするのは……」
 おずおず切り出すマニフィカの言葉など、鬼子は聞いちゃいない。
「そういやさ、改めて島の皆にあんたが頭領だって顔見せしようと思ってさ。もうあっちで皆そろって待ってんだよ。さ、これ着て!」
「あ、あの、ですからわたくしは……!」
 抵抗むなしく、マニフィカはゴージャスな毛皮のマントを羽織らされた。派手派手の虎柄である。
「うーん、よしよし、結構似合うじゃん。じゃ、これで挨拶に行ってみよー」
「挨拶!?ど、どうしよう……ウネお姉様〜!」
「はぁ……あなたも王女なら、きちんと責任は取りなさい」
 ぐいぐいと強引に鬼子に連れて行かれるマニフィカを見送り、ウネはため息をついたのだった。

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 鬼ヶ島の集落ではグラント・ウィンクラックとテネシー・ドーラーによる、鬼の戦闘訓練が行われていた。鬼ヶ島の宝を狙ってやってくる侵入者を防ぐためでもあり、もう鬼がやられ役の時代を終わらせるため、とはテネシーの談である。また、グラントは戦いの無い時には女子どもに手を出さないことを条件に、鬼たちに剛剣術を伝授することにした。元々身体能力の高い鬼たちは筋が良い。これなら数日で多少は様になるだろう。

「まあ、別に鬼たちを支配したかったわけじゃないし……誰が鬼ヶ島でトップを取ってようと関係はないしな。俺は当初の予定通り、桃太郎とやらを待ち受けるだけだ」
 訓練が一息つき、グラントはそう言って、訓練を続ける鬼たちを眺める。まさかその桃太郎こと太郎が別の海岸で原色きび団子にべそをかいている最中だとは知る由もない。

「その桃太郎ですが、海岸に来ているようですよ。物語のようなお供ではなく、他の人間も数人一緒のようですが」
 "魔眼"を使い、島の警備をしていたテネシーがグラントに伝える。

「何!本当か!?」
「人数は4人……今は4人とも海岸にいるようですね。まだ動く気配はないようですが、一応鬼子様たちに報告しておいた方が良いでしょう」

 と、そこへ虎柄マントを着せられたマニフィカを連れ、鬼子が戻ってきた。マニフィカ本人は困惑顔である。
「さ、早く早く!皆お待ちかねだよ!」
「ど、どうしようどうしよう……」
 笑顔で岩の壇上へと引っ張る鬼子と、なすすべのないマニフィカ。

「……すごく困ってるみたいだな。そりゃそうか、酔って寝て起きたら鬼の頭領になってたんだもんな」
 マニフィカを見て苦笑するグラントと、
「まあ、昨日今日で周囲が盛り上がってしまっている最中ですし、しばらくは様子を見るしかないでしょう。鬼の方々も落ち着けば彼女を解放するのでは?」
 こちらは冷静なテネシー。テネシーは最終的に鬼ヶ島の頭領になるのはやはり鬼子であろうと考え、しばらく鬼子に仕えることにしたのである。

「みんな、これがあたしたちの新しい頭領だ!」
 鬼子が、訓練の手を止めマニフィカと鬼子に注目する鬼たちに向かって高らかに宣言する。

「おお〜!」「あれが俺たちの新しい頭領か!」「かっこいいぜ、頭領ー!!」 鬼たちが口々に叫ぶ。

「ど、どうもー……」
 苦笑いで手を振り返すマニフィカ。「やっぱり止めます」と言い出せる雰囲気ではない。

 と、用意された壇上に、透明な液体の入った杯が目に入った。緊張して喉もカラカラだ。えいっとばかりに中身を飲み込む。

「あ、あれ……み、水じゃない?」
 飲んでから気づくが後の祭り。強い酒が二日酔いの身体に染み込んでいく。
「あぁ、それ、乾杯用の酒だったんだけど。まいいか、まだあるし」
 あっけらかんと鬼子は笑う。隣にいるマニフィカの目がみるみる据わっていくが、そんなことには気づいていない。

「鬼子様、ちょっとご報告が」
 壇上にいる鬼子にテネシーが海岸にいる太郎らについてを報告する。

「なんだって、桃太郎が海岸に来てるって?」
 それを聞くとアルコールの入ったマニフィカに何かのスイッチが入った。かちっ。

「なんれすって!鬼の天敵、桃太郎が海岸にいるれすか!!」
 既にろれつも怪しくなってきている。危険である。
「おにょれ桃太郎……罪もない鬼さんたちを倒して宝を奪いにきたのれすね!皆さん、そんなことを許していいと思うれすか!?今こそ立ち上がる時れすよ!!」

「おー!!」「やってやるぜー!」「桃太郎がなんぼのもんじゃーい!!」 力説するマニフィカに同意する鬼たち。

「侵入者は排除せねばなりませんね。この島に来たことを後悔させて差し上げましょう」
「こっちから攻め入るってのは趣味じゃなかったが……向こうから攻めてきたなら話は別だ。しかも桃太郎なら相手に取って不足はないな」
 テネシーとグラントもやる気満々である。

 こうして、桃太郎と鬼たちの戦いの火蓋は切って落とされた。

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「……で、なんであの桃太郎は泣きながら毒々しい色のきび団子を食べてんだ?」
 海岸についたグラントが呆れたようにつぶやく。海岸に居たのはアゼルリーゼと太郎。そして桃太郎は鬼ヶ島での最初の敵(原色きび団子)をまだやっつけられずにいた。
「うぅ……まずいよ〜。食べても食べても減らないよ〜」
 まるっきり、嫌いな給食を食べられずに居残りさせられてる小学生である。

「それにしても未来たち遅いなぁ……何してるんだろ?」
 剣を持ったまま首を傾げるアゼルリーゼ。

「ごめんね、太郎……」
「あなたの尊い犠牲は忘れないわ……」
 岩陰から惨事を見守る未来とシエラ。そこへマニフィカの声が響いた。

「見つけましたよ、桃太郎!さあ、鬼さんたち、やっておしまいなさーい!!」
「まずは皆のお手並み拝見といこうかね」
 目の据わった状態のマニフィカの合図で、武器を構えたグラントとテネシー、そして武器を持った鬼たちがぞろぞろ現れる。鬼子は観戦するつもりらしい。

「わ、早速出たわね!さあ、桃太郎!戦って鬼を倒すのよ!」
「頑張ってね!!」
 それに便乗し、どさくさに紛れてちゃっかり戻ってくる未来とシエラ。

「未来さんたち、今までどこ行ってたんですか!?ていうか無理ですよ、あんなに沢山いるのに!」
「大丈夫よ、怪我した時の為に"ぽーしょん"も用意してあるし!」
 太郎の抗議にアゼルリーゼが力強く水筒を取り出した。中身は見えないが、どうにも通常の飲み物ではないオーラがはんぱなく出ているわけで。

「……何が入ってるんですか、それ」
「身体にいいっていう青汁とか梅干とかプロテインとか……その他もろもろよ!」
 アゼルリーゼがそう言い、水筒の蓋をぱかっと開けると暗黒色の液体がでろりーんと入っていた。とりあえず確実に飲み物ではない。
「さっきのきび団子とほとんど同じじゃないですか!むしろ全部混ざって余計悪くなってる!!……って、うわぁっ!?」

 言い合っている最中に鬼の一人に斬りかかられ、慌てて避ける太郎。

「逃げるなー!行けー!!」「太郎ー、後ろ後ろー!!」
「無理ですってばー!!!」
 アゼルリーゼやシエラが応援するが、元からへっぽこな太郎に、鬼と戦うような度胸はない。わらわら現れた鬼たちに追いかけられ、逃げているだけである。

「うーん、さすがに実戦経験のない初心者にあの数は辛いかなぁ……しょうがないな、手伝ってあげる!だから太郎もちゃんと頑張るのよ!!」
 このままでは埒があかないと思った未来は、超能力を使い、鬼たちの武器を取り上げることにした。更に、事前に船に用意しておいた、鬼ヶ島に来る道すがら集めた獰猛な野犬を放って鬼たちを撹乱する。

「うわっ!?武器が!!?」「なんだ、この犬ー!!?」 目論見通り、鬼たちのほとんどが浮き足立った。

「テレキネシスですか……厄介な」
「野犬か……大した敵じゃないが数が多いな」
 こちらはテネシーとグラント。迫る野犬を軽く避けていなし、予想外の攻撃にも慌てず鬼たちをまとめるが、未来の超能力や野犬のせいで戦場はだいぶ混乱していた。

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「ちょっと待てーっ!!あたいを忘れてもらっちゃ困る!!」
 と、その混乱に更に追い討ちをかけるように、上空から煙玉がバラまかれた。たちまち辺りに煙が立ちこめ、何故かバニーガール姿で対装甲散弾砲を構えたアオイ・シャモンが現れる。

「な、なんだなんだ!?」「げほっ!ごほっ!!」 武器を奪われた上に野犬に追われている鬼達は、さらに煙玉で視界を失い右往左往するしかない。

「やっぱ昔話は鬼と桃太郎の対決やな!てことで、あたいも手伝ったるわ!」
 そう言うと、がちゃりと対装甲散弾砲を構え、容赦なく煙幕のど真ん中に発射する。

 どかーん。わー!おかーさーん!!(鬼達の断末魔)

「わー、なんか大変なことになってるぞ」
「くっ……な、なんれすか一体!!」
 のん気に戦場を見やる鬼子と、後方でどうにか一撃を避けたマニフィカ。

「いきなりやってきてなんれすかあなたはー!!」
 ろれつの回らない口調で抗議するが、そんなことをアオイは聞いちゃいない。

「ふっふっふ……これで終わりと思ったら大間違い!お次はロングレンジバスターライフルやっ!!」
 混乱真っ只中の海岸を離れ、"魔白翼"で上空へと。未だ煙幕が残る海岸に、今度はロングレンジバスターライフルで射撃を加える。

 どどどどど。わー!死にたくないよー!!(鬼達の断末魔)

「これで仕上げやっ!!」
 アオイが最後にバラまいたのは弾丸ではなく、紙ふぶきだった。名刺大のカードにウサギのマークと「お宝を頂く byかぐや姫」といった文が書かれている。

「実は可愛らしいバニーガールは仮の姿!あたいはかぐや姫の尖兵だったんや!!ふっふっふ、お宝には気をつけるんやなー!」
 言うだけ言うと当人は"魔白翼"で飛び去る。後には混乱だけが残った。

「かぐや姫の仕業だったのか!」「な、なんだってー!!?」 とざわめく鬼の皆さん。

「挨拶もなしに現れて攻撃たぁ、やってくれるじゃないか」
「なんて酷いことを……有名人のかぐや姫さんと言えど、許せません!」
 鬼子とマニフィカもかぐや姫とやらに怒り心頭である。


「た、助かったんですかね……?」
 一方、こちらはどうにか先ほどの惨劇から逃げ切った桃太郎たち。
「今のでぽーしょん入り水筒が粉々になっちゃったわよ!もう!」
「道理でなんか辺り一面に何ともいえないニオイがするはずだわ……」
 憤るアゼルリーゼ。狼の獣人であるシエラは特製"ぽーしょん"のニオイに鼻を両手で押さえている。犬……もとい狼にはかなり辛いのかもしれない。暗黒色だし。

「さっきので鬼たちもほとんど逃げちゃったみたいだしね……でも、かぐや姫が宝を狙ってるって本当かしら?もうちょっと待っててくれれば、わたしたちが持って帰る予定だったのに」
 せっかくお膳立てした桃太郎VS鬼の戦いを中断されて面白くない未来が口を尖らせた。


 憤る鬼たちを見て、グラントがぽつりとつぶやく。
「本当にかぐや姫の関係者か……?」
 それにそっけなく答えるテネシー。
「さぁ、でも今本人が現れたら大変でしょうね」

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「海岸の方が騒がしいのぅ。ここまで鬼に遭わんとは予想外じゃったが」
 鬼ヶ島にある鬼たちの集落にて。エルンスト・ハウアーは一人つぶやいた。まさか島の住人が総出で集まった海岸で惨劇が繰り広げられているとは夢にも思わない。村を調査し、あることを思いついたエルンストは単身、鬼ヶ島へとやってきたのである。

「先日のウサギでハッキリした。かぐや姫は人間の皮を被ったウサギ型エイリアンだったのじゃあああああーッ!!!」

"な、なんだってー!!"

 エルンストの大胆すぎる仮説に驚きを示したのは一枚の板……ではなく、そのウサギ当人だった。いつの間に現れたのか。何故か今日は鬼のような虎柄のワンショルダーを着て、角のようなものをおでこにくっつけている。鬼ヶ島だからか。

「む、早速現れおったな、エイリアン!目的はわかっておる!財宝を狙うのは、その宝が古代文明の兵器だからじゃろう。きっと過去にそれを使って世界征服をしたに違いない。その兵器を蘇らせ、この世界をまた支配するつもりなのじゃろう!!」

"違います"
 びしッ!と指摘するエルンストに対し、ウサギは板を掲げ、ふるふると慌てて首を横に振るが聞いてはもらえない。


「しかも、かぐや姫にそそのかされた、金でしかモノの価値も分からん輩もうろついている有様では、例えエイリアンに宝が渡らずとも、何が起こる分かったものではない。こうなったら、非常手段じゃ。世界の破滅よりはマシじゃろう」

 そう言うとエルンストは、目的の場所に立つ。この鬼ヶ島の元頭領が眠る墓の前である。

「聞こえるか、鬼の王よ!お前さんが愛した骨董品が、空からの侵略者やモノを金額でしか図れない者どもに辱められようとしておる。悔しいか。口惜しいか。ならば一身に願え。自分の体にしがみ付け。その妄念をワシの術で増幅させ、朽ちた肉体にもう一度立ち上がる力を与えてやるわい!」

 そう、エルンストが鬼ヶ島に来たのは、鬼の頭領を蘇らせる為だったのだ。晴れていた空ににわかに暗雲が立ち込め、雷鳴が轟く。そして……

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「だから俺は小太りじいさんってのを探してるんだって。え?あんたがこぶとりじいさん?嘘付け、全然太ってねぇじゃんかよ。ったく、隣の嘘つきじいさん、嘘教えたんじゃないだろうな?」
 鬼ヶ島でなんやかんやが事件が起こっている頃。村ではレイナルフ・モリシタがこぶとりじいさんと交渉真っ最中であった。何の交渉かというと、いわゆる地上げの交渉である。

 ゴルフ場に必要なものはまず、コースである。その点、この村には山はあるし川はあるし、山有り谷有り川有りのコースが作れそうであった。また、クラブハウス用の温泉も、杖で地面を打てばそこから温泉が湧き出すという弘法(こうぼう)大師というありがたいお坊さんを拝み倒してお願いした上、花咲かじいさんの所から借りてきたポチを預けてきたから抜かりはない。
 上記に必要なものといえば、まずは土地である。ゴルフ場建設予定地にはこぶとりじいさんという老人が住んでおり、その老人と土地の交渉する為にレイナルフは酒と肴を持って出向いたのだ。

 すれ違う会話が続くこと数時間。こぶとり=小太りではないことがわかった頃。山から顔を出したばかりのお日様はすっかり真上まで昇っていた。

「じゃ、これで交渉成立ってコトで。いやー、本人確認に時間がかからなきゃもっと早く終わったんだけどな。長居して悪かったな、じいさん」
 契約用の書類をまとめ、立ち上がる。と、レイナルフはこぶとりじいさんに呼び止められた。
「いやいや、わしも何を言われてるか最初はわからんかったからのぅ。そういえば、これから裏山を見に行くんじゃろ?いつの間にかうちの裏山に誰ぞが大きなゴミを捨ておってなぁ。年寄り一人じゃ動かせなくて困っとるんだわ」
 裏山はゴルフ場のメインコース(予定地)である。

「大きなゴミ?不法投棄か?わかった、じゃあそれも下見ついでに片付けられるようだったら片付けとくからさ」
 ふたつ返事で引き受け、裏山に向かうレイナルフだった。

 こぶとりじいさん宅の裏山は竹林になっていた。光る竹が有りそうな場所である。というか、あった。

 レイナルフが竹林に入ってみると、ど真ん中に銀色の巨大なタケノコのようなものが鎮座していたのである。

「こ、これは……不法投棄のゴミというか、金属でできた巨大タケノコ、か?」

 ごん。

 と、金属でできた銀色のタケノコの中から鈍い音が響く。不思議に思ったレイナルフが覗き込んでみると……

「あぁ、良かった!どなたか存じませぬが助けてください!」
「……かぐや姫?」

 中にはかぐや姫がおったそうな。

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「♪鬼のパ○ツは いいパ○ツ〜、つよいぞ つよいぞ〜、トラの毛皮で できている つよいぞ〜」
「キキ〜……(潜入するってのにこんなに鬼がいるとこに出てきていいのか……?)」
 知っている人は知っている替え歌を口ずさみ、混乱さめやらぬ鬼ヶ島の海岸へとやってきたのは鬼の格好をしたアリマとキキちゃんであった。カノン砲を背中に背負い、堂々の登場である。だが、海岸にいる人々の視線はアリマと一緒に居る少女の方へと向けられている。なんというか、恨みのこもった視線である。


「む、せっかく登場したのに注目されてない!負けてるぞキキちゃん!!」
「キキッ(何か様子がおかしいぞ?)」

「な、何よ!ジロジロ見るんじゃないわよ!!」
 その少女こと、今は鬼の格好をしたかぐや姫が言った。

「お前が宝を狙ってきたのは知っている。お前の尖兵とやらがさっき大々的にコレをばら撒いてったからな」
「まあ、本当に関係者かは存じませんが」
 鬼の一団から歩み出たグラントとテネシーが言う。グラントが見せたのは、先ほどアオイがばら撒いていったカードである。

「うっ、何故それを……!ていうか何そのカード!私は知らないわよ!!」
 知らないとだけ言っておけば良かったものを、言葉に詰まったのが運の尽き。先の攻撃で怒りの溜まっていた鬼たちにじりじりと取り囲まれるかぐや姫とアリマたち。

「やっぱり宝を狙ってきたのか!」「にしても無差別攻撃はないだろう!」「鬼への過剰攻撃はんたーい!!」etc.
 
「これは……ヤバいな。だが安心しろ!こういう時の為に用意しておいたものがある!!」
 アリマがぽちっと手元の謎のスイッチを押す。と、島の近くに停めた"レッツラ号"から、"赤鬼と青鬼のタ○ゴ"が大音響で流れ出した。
「がははは!どうだ!コレを聞くと鬼は踊りだすはず!」

「知ってる?」「いんや、知らない」「何この歌?」 度重なる人間の襲撃で数が減ってしまったこの島の鬼たちは主に若年層が中心だった。若い子達は上記の歌を知らなかったのである。これを世間一般では"ジェネレーションギャップ"という。

「うおぉ!21世紀っ子めー!!!」
「キキー……(だからやめとけって言ったのに……)」
 頭を抱えるアリマ。今昔が21世紀か?という疑問は置いておく。


「これは……困ったわ」
「困りましたね……」
 その様子を近くの岩陰から覗き見るリーフェとちとせ。アリマたちの後を追い、かぐや姫を奪還する機会を狙っていたのだが、鬼に囲まれてしまっていては手が出せない。

「キキ〜(ていうかさっき飛行艇でウサギに聞いたんだが、そのかぐや姫は……)」
 と、キキちゃんが何かを言いかけたその時。集落の方から鬼の格好をしたウサギがぴょんぴょこ駆けてきた。まさに脱兎の勢いである。

"サクヤ様、宝は回収しました"
 さっ!と板を掲げる。その背中には大きなつづらがくくりつけられている。舌切り雀なら中身はオバケのはずだが、がっちゃがっちゃと金属音がするのを見ると、中身はどうも違うらしい。

「待たんか、ウサギ型エイリアン!古代文明の兵器は渡さんぞ!!」
 ずしーん、ずしーん!と大きな足音を立てて動く"何か"に乗って現れたエルンスト。今度は鬼たちがその"何か"に驚く。

「お、親父!?」「頭領!?死んだはずじゃあ……」
 顔色がちょっと悪かったり動きがちょっと鈍かったりするが、それは鬼ヶ島の主、頭領その人であった。
「いや〜、その人に起こしてもらったんだが……どうも寝起きは頭が働かなくていかんな。で、何が有ったんだ?」

「え、えーと、こないだ親父が一寸法師に倒されて……」
「そうそう、頭領が死んでから新しい頭領を決めたり……」
「何ィ?わしはまだ生きてるだろうが!!」
「生きてるというのは間違っとるな。この鬼はワシがさっき魔術で蘇らせて……」
「あの〜、じゃあわたくしは頭領を辞退しても大丈夫でしょうか?頭領さんが蘇ったのなら頭領さんに任せたほうが……」
 突然の出来事を受け入れきれない鬼子たちと、状況を良くわかっていない頭領。エルンストも状況説明に口を挟む。酔いがさめてきたマニフィカもこっそり新・頭領の辞退を申し出る。

 十分後。鬼側での話し合いはやっと終わったようだった。

「ということでそこにいるかぐや姫とウサギは、今昔に眠る古代文明の兵器を狙うウサギ型エイリアンなのじゃ!!」
「な、なんだってー!!?」
"違います"
 改めてびしッと推理を披露するエルンスト。
 そして驚くギャラリーと、先ほどと同じく板を掲げて否定するウサギ。

「ふん、大した推理ね。全部当たってるとは言わないけれど、地球人のくせになかなか考えてるんじゃない?そうよ、私はこの星の宝をいただきにきたの。目ぼしい物がほとんど鬼ヶ島に集まってて、手間が省けたわ」
 それに不敵に答えたのはかぐや姫だった。なんだか堂に入った悪役っぷりである。

「ま、待ってよ、かぐや!君、そんなことする子じゃなかったじゃないか!!それに、宝が欲しいからって無関係の鬼さん達を攻撃するなんて酷すぎるよ!」
 そのかぐや姫の言葉に反論したのは岩陰から現れた桃太郎こと太郎。鬼をかばう桃太郎ってどうなんだろうという疑問もあるが置いておく。

「おー、やればできるじゃない」
「ナイス反論ー」
「さっき鬼相手にも堂々とできれば良かったんだけどねー」
 ぱちぱちぱち。後ろの未来たちから小さな拍手が起こる。子どもの発表会を見守るママさんのような気分なのかもしれない。違うかもしれないが。

「宝をいただきに来たのは事実だけど鬼に攻撃とかそんなの知らないし。……ていうかあんた誰?」
「……はい?」
 かぐや姫の言葉に太郎の目が点になる。

「ちょっと待ってください!!」
 その時、その場にちょこん、と現れたのはちとせだった。

「かぐやさん、私です、小栗鼠です。太郎さんはあなたの幼馴染じゃないですか。まさか忘れちゃったんですか?」
「あ、あぁ、小栗鼠に太郎ね。も、もちろん知ってるわよ!忘れるわけないじゃない!!」
 慌てて取り繕うかぐや姫に、ちとせがきっぱり言い放つ。

「やっぱり、あなたは本物のかぐやさんではないですね?本物は私の事を"ちーちゃん"と呼ぶのです。それよりなにより、本物はそんなに薄っぺらくないのです、胸が!」
 ずばっ。
「うっ!」
 ちとせの言葉によろめくかぐや姫。ちょっと気にしてるのかもしれない。

「だ、だから何よっ!薄着だからそう見えるだけなの!大体、なんであんたがそんなこと知ってるのよ!!」
「かぐやさんは時々私をだっこしてくれたのです。着物の上からでもたゆんってしてて、ふかふかで気持ちよいのですよ。なのにあなたには、どー見ても胸があるように見えません!」
 ちとせの一言は剣より強かった。
「ううっ!!」
 よろめき、ばったり倒れ伏すかぐや姫。

「それに……さっきそこのウサギがキミのことを"サクヤ"と呼んでたわね。それがキミの本当の名前ではないの?」
 リーフェがダメ押しをする。

「ふ……ふふ……ふふふふふ」
 と、倒れ伏したかぐや姫が笑い出す。ちょっと……いや、かなり怖い。

「キッキ!(なんかヤバそうだぞ、アレ)」
 アリマの肩に乗ったキキちゃんが騒ぎ出す。
「どうした、キキちゃん?ご飯の時間ならまだだぞ」
「キキーッ!!キキ……(ちがーう!!さっき船でウサギに聞いたんだ!そのかぐや姫はな……)」
 のん気に返すアリマと、緊迫した様子のキキちゃん。

「……ウサギ」
"はい、サクヤ様"
 立ち上がったかぐや姫に呼ばれ、ウサギが駆け寄る。その手には謎のリモコンが。

「そうよ、私の名前はサクヤ。偽者だということがバレてしまったのは仕方がないわ。でも、私が偽者だと気づいた人間は、今この島に集まっているのよね……それならこの島ごと消してしまえばいいのよ!!」
 胸のことを言われてキレたのか、据わった目で迷わずリモコンのボタンを押す。

 ぽちっとな。と言いたくなるような動作でリモコンのボタンが押されると、轟音を響かせて上空から何かが現れた。現れたのは、なんというか、巨大な銀色の竹に似た物体だった。

「私を怒らせたことを後悔するといいわ。あの世でね!!」

 銀色の竹に光が収束していく。目を開けていられないくらいに収束した光が放たれ、そして……

 その日、今昔から鬼ヶ島が消えた。


烏谷マスタートップP