「今昔・異説竹取物語」 第3回

ゲームマスター:烏谷光陽

 偽かぐや姫――サクヤという少女は、鬼ヶ島を消し去った後、かぐや姫のいる村の方へと銀色のタケノコ型の船で飛び去った。後に残されたのは島の残骸と、島に居た者たち、そして巻き込まれた鬼たち。

「あのかぐや姫は偽物だったのかーっ!?くっそーっ!!騙された!!!」
「キキッキー……(俺の話をちゃんと聞かないからこうなるんだ……)」
 ぷかぷかと波間に漂う流木につかまりつつ怒るアリマ・リバーシュア。そして呆れ顔のキキちゃん。

「村の方に向かったようだし……一刻も早く追った方が良さそうね」
 リーフェ・シャルマールもサクヤを追うべく、"ドラグーン"を呼び寄せる。
「それにしても……あの小型船で島を消し去るほどの攻撃……何だったのかしら」
 ぽつりとつぶやいたリーフェの言葉に、アリマが元気良く挙手をした。
「はーい、先生!はーい!」
「……はい、そこの鬼もどきの格好をした海賊さん。何か知ってるの?」
 やや呆れ顔で続きを促す。先生(リーフェ)にさされたアリマは、きりっとした真面目顔で語りだす。
「昔、俺の爺さんが黒歴史として語ってくれたことがある。サクヤとかいうあの偽かぐや姫が放ったあの光は……サ○ライトキャノンだ!!」
「サ○ライトキャノン?」
「うむ。月のマイクロウェーブ送信施設からマイクロウェーブ(厳密にはスーパーマイクロウェーブ)を受信、稼働エネルギーとするサ○ライトシステムのエネルギーを直接ビームに変換して砲撃する武装がとある人型兵器に搭載されていてだな……」
「……ともかく、危険な兵器だということはわかったわ」
 あんまり詳しく書いてしまうといろいろ問題がありそうなのでリーフェは聞かなかったことにした。

 ともあれ、偽かぐや姫ことサクヤと名乗る少女と、彼女の持つ飛行物体(もう未確認でもなんでもない)が今昔に甚大な被害を与える事がわかった以上、放っておくわけにはいかない。呼び寄せた"ドラグーン"に乗り込むと、急ぎ村へと向かう。
 ふと、周囲を見渡して、梨須野ちとせがいない事に気が付いた。そういえば、サクヤの船が攻撃する直前にサクヤの方に近づいていったのを見たような……。
「……まあ、大丈夫だとは思うけれど、やっぱり急いだ方が良さそうね」
 ぽつりとつぶやき、リーフェはドラグーンでサクヤたちの後を追ったのだった。


「親父が生き返ったのはいいけど、島がなくなっちゃあねぇ」
 かろうじて残った岩場に腰掛けてのん気につぶやいたのは、鬼族の頭領の娘・鬼子である。

「ま、なくなっちまったもんはしょうがない。またどこか新しい島でも探すとするか」
 豪気に答えたのは前回蘇った鬼の頭領。一回死んだ為に顔色が多少悪いが、島が無くなっても動じていない。この親にしてこの子有り。
 ちなみに鬼達も残った岩場やら浮いた流木やらにつかまってどうにか無事の様子。今昔の鬼は、太郎と名の付く人間に直接退治されない限りはしぶといのである。


「とりあえず、いつまでもこんな所にいてもしょうがない。サクヤとやらは村の方に向かったみたいだし、俺たちも行ってみるか!な、キキちゃん!」
「キキッ!(そうだな、宝もまだ手に入れてないし)」
 そう言うとアリマはペットのキキちゃんと共に、近くにぷかぷかと浮いている"レッツラ号"の方へと泳ぎだす。砂浜近くの海岸に停めていた為、ほぼ無傷だったのだ。

「元はと言えば、貴方が彼女を連れてきたからこんなことになったのでは?」
 と、恨めしげな目でアリマを睨むテネシー・ドーラー。従えたケルベロスは今にも高熱波のブレスでレッツラ号を燃やし尽くしそうである。

「だー!!待て待て!島もなくなっちまったし、まずは鬼たちを助けないといけないだろーが!!俺のレッツラ号なしでどうやって助ける気だ!?」
 対して、珍しく(?)正論で反論するアリマ。これにはテネシーも押し黙る。
「……わかりました。それでは鬼の皆様を陸地まで運んで下さい。わたしも一緒に行きます。陸地に着いたらその飛行船は破壊させていただきます」
 ずばっと言い放つ。容赦がない。
「本当は大きなつづらのオバケを仲間にしたかったんだがなぁ……」
「キキー……(オバケが乗組員になっても役に立たないだろうが……)」
 一方アリマは遠い目で夢を語ってみたりする。"破壊"の二文字など聞いちゃいない。

「ま、乗せてくれるんなら助かるけど」
「すまんな、アリマとやら。よろしく頼む」
 鬼の親娘もあっさり同意する。

「よーし、俺の船に乗る奴は乗組員になってもらう!まずはそこの鬼の頭領が副キャプテンで、その他21世紀っ子の鬼たちは平の船員だ!ついでに陸につくまでに昔懐かしの童謡を全部覚えてもらうからな!」
「キッキ!(童謡なんて教えてる場合じゃないだろーが!)」
 張り切るアリマとツッコむキキちゃん。傍らではテネシーがため息をついた。陸地につくまでしばらくバタバタしそうである。


 一方、グラント・ウィンクラックはエアバイク"凄嵐"でサクヤを追おうとしていた。
「俺は"凄嵐"で先に向かう。力を持って宝を強奪……これはまあ今昔の世界の習いであるらしいからまだ許そう。だが、何の罪もないかぐや姫の名を騙り、あまつさえ鬼たちの住むべき場所である鬼が島を完膚なきまでに破壊する所業、断じて許しがたし!……それに、あれだけの戦闘力があるなら喧嘩の相手としては十分だしな」
 桃太郎が予想外のへっぽこぶりであったことは置いておいて、グラントはサクヤを倒すべき敵と認識したのである。あっという間に海上から走り去る。エアバイクの高速の風にあおられ、大きな波が立った。



 ざぶーん。ひときわ大きな波をかぶって遅ればせながら目を覚ましたのはマニフィカ・ストラサローネ。
「う、うーん……どざえもんが沢山です、大変です……はっ!!なんですかこれは!」
 酔っ払っていた為よく覚えてはいないが、確か謎の銀色のタケノコに攻撃されて島が消し飛んだような。そのあたりで意識がなくなったのでよくは覚えていないが。

「やっと目を覚まされましたか。実はかくかくしかじかでして」
 海上のマニフィカへ状況を説明するテネシー。自身はちゃっかりレッツラ号の上に乗っている。
「な、なんですって!あ、あの世で後悔せずに済みましたけれど……なんて大迷惑な!冗談じゃありません!」
 サクヤの所業にぷんすかと腹を立てる。と、現在の状況をなんとかしないといけないことに気が付いた。
「わたくしは泳ぎは得意ですけれど、鬼さんたちに陸まで泳いでいただくわけにはいきませんよね。それに、アリマさんの飛行船1つでは運ぶのも大変でしょうし……そうだ、フィル、手伝ってちょうだい!」
 マニフィカは大量に浮かんでいる浮遊物を集めて、即製のイカダを作り始めた。これで船に乗り切れない鬼たちもまとめて陸地へ運んであげることができるはず。
「あとは鬼さんたちの今後の身の振り方も考えなくてはいけませんね……」
 イカダの材料を縄で括りつつ思案する。人里を離れた山奥などがロケーションとしては悪くないかも。でもまた討伐されたらかわいそうだし……と、あーでもないこーでもないと考える。
「鬼さんたちさえ良ければ、近衛兵として都の帝さんに仕えてもらうのもいいかもしれません。ね、フィル?」
 と、ペットのフィリポス六世に意見を聞こうと身を乗り出すと、海からざばっ!と海座頭……ではなく、エルンスト・ハウアーが現れた。


「きゃあっ!?」
 思わずのけぞる。驚いているマニフィカには構わず、できたてのイカダに乗り込んだエルンストは一息ついた。
「ふう、半幽体のワシもさすがに死ぬかと思ったわい。まさかエイリアンが実力行使に出るとは……」
「え、えいりあん?」
 思いがけない単語に首を傾げるマニフィカ。前回は酔っ払っていた為、かぐや姫=エイリアン説やらその辺の記憶もない。
「そう、エイリアンじゃ。このままでは宇宙からの脅威により、人類はおろかすべての知的生命体は滅亡する!」
「な、なんですってー!……ほ、本当ですか、それ!?」
 エルンストの断言に身を乗り出す。
「うむ。見たであろう、鬼が島を吹き飛ばしたあの兵器を。たかだか宝探しでここまでする者が存在する以上、圧倒的な力で略奪や虐殺を楽しむやからが現れても不思議ではない。かぐや姫も今頃は卵を産み付けられ、ウサギが腹を食い破っているころかもしれん」
「えええ!?ウサギさんが!!?」
「もう、この星はエイリアンに知られてしまった。今後は、手ごろな星として凶悪なエイリアンが大挙して襲来してくるじゃろう。ウサギ型のエイリアンが!!」
「えええ!?ウサギさんが大挙して!!?」
 ウサギ型エイリアンに侵略される今昔の図を想像してみるマニフィカ。……おどろおどろしい内容ではあるのだが、"ウサギ"で軽減されている気がして仕方がない。むしろちょっとほのぼのした図が浮かんだりした。


「まあ、冗談はさておき」
「冗談だったのですか!?」
 すとん、と急に話題を変えるエルンスト。マニフィカは思わずつんのめりそうになる。
「先ほどマニフィカ君が言っておった帝に頼むという案、良いかもしれんのぅ。確か帝とやらもかぐや姫の婿に名乗りを上げ、村の近くまで来ておったはずじゃ」
「そういえばそうでしたね。すっかり忘れてましたけど」
 今まで名前しか出てないんだからしょうがない。筆者も忘れかけていた。

「ワシは帝に現状を話し、エイリアンに対抗するための組織として……」
「ふむふむ、それはいい考えですね!」
 筏の上の2人は帝に何かを提案する考えらしい。こうしてひとまず、鬼ヶ島の鬼たちは陸地へと運ばれることになった。

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「まったく、かぐや姫が偽者で、島をまるごと消そうとするなんて。わたしたちの考えた作戦が台無しになっちゃったじゃない!」
 鬼ヶ島近くの海の上。乗ってきた船に揺られながら、姫柳未来がつぶやいた。鬼ヶ島をサクヤが攻撃した時、とっさにテレポーテーションでアゼルリーゼ・シルバーフェーダと太郎こと桃太郎を連れ、難を逃れたのである。
「まあ、ここは昔話の世界だし、多分他の人たちも無事だと思うけど……」
 アゼルリーゼが未来の言葉に答える。島の事は他の者や鬼たちに任せておいて、2人は当初の予定通り、太郎プロデュース大作戦を続行するつもりだった。

「で、太郎はこれからどうするつもりなの?予定が大きく狂っちゃったけど、あなたが本物のかぐや姫を助けるって言うならわたしたちも手伝うわよ」
 未来が太郎に尋ねる。太郎はしばらく黙りこくるが、意を決したように2人に向かってこう言った。
「まさかかぐやが偽者にすり変わってたなんて気づかなかった。……僕にできるかわからないけど、かぐやがどこかで困ってるなら、助けに行かなきゃ」

 答えを聞いて、アゼルリーゼと未来は嬉しそうに顔を見合わせる。
「よく言ったわ!そうと決まったらさっそく村へ向かいましょ!偽者もそっちに向かったみたいだし」
「もし逃げようとしたら、コレで殴るからね!」
 笑顔で言うアゼルリーゼとウォーハンマーを見せる未来。まさに飴と鞭。
「死にたくないので逃げません……ていうか逃げられません……」
 早々に弱気になった太郎こと桃太郎はちょっぴり後悔しつつ、未来・アゼルリーゼと共にかぐや姫の救出へと向かったのだった。

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 一方こちらはうって変わって平和な今昔の村。茶屋"影鈴"の前には雅な牛車が停められていた。

 通りに面した茶屋の席には小さな女童(めわらし)。上等な着物を着て、周囲をSPよろしく従者に固められているところを見ると、やんごとなき血筋の貴族の子どもなのかもしれない。その貴族らしいちびっこは、片手にはわらしべに結んだ虻(あぶ)を持ち、幸せそうに三食団子を頬張っている。なんとも無邪気そうなお子様である。

「うーむ……帝を探しにきたわけじゃが、ありゃ関係なさそうじゃの」
「でもでも、村の近くで立派な牛車が停まってるのってここだけですよ。あんなに厳重に従者さんに守られてますし」
 物陰から様子を伺うのはエルンストとマニフィカの2人。近くの陸地=かぐや姫の住む村の近くへと鬼たちを送り届け、急ぎ帝を探しに来たわけなのだが。見つけたのは上記のお子様だった。
「もしかしたら帝さんの関係者かもしれません。とりあえず話を聞いてみましょう」

「何奴!」
 団子を頬張るお子様の前に現れたマニフィカらの前に従者の群れが立ちはだかる。
「ワシらは怪しいものではない。今、村で大変なことが起きておるので、この近くに来ているという帝の力を借りたいと思ってのぅ」
「大変なことー?」
 エルンストの言葉に子どもが顔を上げた。ぽわ〜としたお子さんである。何にも考えてなさそうである。
「主上!このような下賎な者と言葉を交わしては……」
「いいんだよー。民の声を聞くのも帝の役割だものー」
 従者をやんわり退け、ぽわぽわと答えるお子様。

「帝?」
「こ、この子がですか?」
 思わず顔を見合わせる、エルンストとマニフィカ。

「余は、世にも不思議な、竹から生まれたかぐや姫ちゃんを見てみたくて都からここまではるばるやってきたのー」
「あ、あのー……噂ではかぐや姫さんのお婿さんに立候補したとか……」
 本気ですか?と言いたいのを堪えてマニフィカが問う。
「うん。会うのにそれが一番手っ取り早そうだからー」
 ぽわぽわ〜とした調子で答える帝。マニフィカは言い辛そうに言葉を続けた。
「で、でも……女の子はお婿さんにはなれません、よ?」

 ………

 沈黙が続いた。ほーほけきょ、とどこかでうぐいすが鳴いた頃、帝が口を開く。
「えー。そうなのー?」
「だからなれませんと、都を出る前から合計100回ほど申し上げております」
 慣れた口調でお付きらしい女官がきっぱりと言う。


 ……この帝でこの国は大丈夫なんだろうか。そう言いたいのを堪え、2人は用件を切り出した。

「ま、まあ……婿云々は置いておいて。現在、サクヤと名乗る極悪宇宙人がこの村に来ているはずじゃ。鬼ヶ島から来た鬼たちも村の近くまで来ておる。エイリアンに対抗する為の組織として、鬼や人間が種族を問わず参加できる"御伽特捜隊"を作らせていただきたい。今は鬼だ人間だと争っている場合ではないからのぅ」
「ええと……エイリアン云々は別にしても、近衛兵として鬼さんたちを雇ってみていかがでしょう?まつろはぬ民であり、強さの象徴でもある鬼さんを従わせる事で帝の威光も高まりますし、住む所のなくなってしまった鬼さんたちも、お仕事と住む所ができますし」

 2人の言葉にわかっているのかいないのか、ぽわわんとした様子の帝は首を傾げた。

「余はいいと思うけどー。ツクヨミはどう思うー?」
 傍らの女官に意見を問う。
「民が困っているならば、助けるのが帝の務め。有事にしっかりとした対応をしておけば、支持率がアップして次期選挙でも有利になります。鬼族に選挙権は今のところ有りませんが、国民として迎え入れるのであれば恩を売っておいて損はないでしょう」
 ぱちぱち、と算盤よろしく占い盤に並んだ石を弾きつつ、ツクヨミと呼ばれた女官の1人が答える。どうやらこの女官は帝の秘書のようなポジションらしい。今昔に選挙があるかは謎であるが。

「じゃあ決まりー。鬼と協力してえいりあんをやっつけよー」
 こうして、エルンスト・マニフィカの2名の言葉で帝もサクヤ退治に乗り出すこととなった。

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 時刻は帝が村の街道に現れるより少し前。レイナルフ・モリシタは銀色のタケノコ内部に閉じ込められたかぐや姫を救出していた。

「え、何?キミがかぐやちゃん?村にいる方は偽者ってことかい?」
「はい。村にいるのは……月より私を迎えに来た使者、私の妹のサクヤです」
 かぐや姫によると、月よりの使者を名乗って現れたサクヤは"月に帰る前に地球の村の生活が体験してみたいから"と、姉であるかぐや姫との入れ替わりを提案してきたらしい。人の良いかぐや姫はそれを快く承諾。そっくりな2人のこと、育ての親であるおじいさんやおばあさんも、入れ替わったのに気が付かない。だが、かぐや姫と入れ替わったサクヤは珍しい宝を持ってきた者を婿にするなど勝手に言い出す始末。かぐや姫がそれに抗議すると、彼女をここに閉じ込めてどこかへと行ってしまったという。

「こんな困ったことをするなんて……あの子、反抗期なのでしょうか」
 かぐや姫がおっとりとつぶやく。どこかズレている。
「いや、なんか違うと思うけど……」
 レイナルフが困ったように頭を掻いた。
「私、村へと戻ります。おじいさん、おばあさんや、村の人たちに迷惑をかけてしまいましたし、謝らなくては。この度は助けていただきまして、本当にありがとうございました」
 ぺこり、と一礼するとその場を去ろうとする。それをレイナルフが止めた。
「ちょい待ち!閉じ込められてたってことは、助かったのばれたら逆に危険かもな。すぐじーちゃんばーちゃんのとこには、戻らない方がいいぜ」
「でも……」
 迷ったように村の方を見やるかぐや姫。
「大切な人だろ、あのじーちゃんばーちゃん。こんなに大きく、べっぴんさんになるまで、大切に育ててくれたんならよ」
 レイナルフのその言葉に、かぐや姫は、はっとしたように顔を向ける。
「えぇ、とても大切な人たちです。……私が戻ることでおじいさんとおばあさんや村の人たちに危険が及ぶというのなら、しばらくは身を隠していた方が良いのでしょうね」
「そういうことだ。……あ、そうだ。今、じーちゃんばーちゃんに頼まれて、ゴルフ場作る準備してんだ。あんただって、二人の喜ぶ顔、見たら嬉しいだろ? 測量とか、一人でもできねぇことはないけど、手伝ってくれるとはかどるなぁ。やってくれるかい?」
 にかっと笑って測量器具を手渡すレイナルフ。
「……はい!」
 それを受け取り、かぐや姫もにっこりと微笑む。

 ……と、かぐや姫が閉じ込められていた銀色のタケノコがレイナルフの目に留まる。
「そういやコレ、測量の邪魔だよなぁ。……そうだ!」
 がちゃがちゃと工具箱を開ける。じゃじゃん!と取り出したのはレンチにドライバー、その他工具各種。
「ラッキーだなぁ、俺!こんな所に金属資材の山ってかタケノコ、これこそお宝ってもんだ。カート作ったりカート用のレール作ったりするのに、ちょうどいいや」
 そう言うとレイナルフは銀色タケノコの解体に取り掛かったのだった。

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「ふっふっふ……ほーっほっほっほ!いい気味だわ、地球人!私を馬鹿にするからこうなるのよっ!!」
 村へと向かうタケノコ型の銀色の船の内部で、偽かぐや姫ことサクヤは上機嫌だった。
"鬼ヶ島の宝も手に入れましたしね"
 と、傍らのウサギが文字を書かれた板を見せ、抱えていたつづらを開けた。大きなつづらに入っていたのはおばけ……ではなく、金銀財宝その他もろもろ。かぐや姫の振りをしていたサクヤが探していた財宝の数々である。島に上陸した際に、鬼たちの目を盗んでウサギに集めさせていたのだった。

「地球なんてどうでもいいけど、宝は別。全く、地球の男ときたら役立たずばっかり。最初からこうして自分で手に入れた方が良かったわ」
 満足げにつづらに入った財宝を手に取る。


 つづらの中に入っていたのは、仏の御石の鉢、蓬莱の玉の枝、火鼠の裘(かわごろも)、龍の首の珠、燕の子安貝etc.聞いたことのあるような宝の数々である。鬼の頭領はかなりのコレクターだったらしい。

"これでまたサクヤ様の財宝コレクションが増えますね"
 ウサギの言葉(板)に、サクヤが答える。
「そうね。姉上には悪いけれど、父上と母上には"姉上は地球での暮らしの方がいいんですって"とでも伝えておきましょうか。、宝だけは月に持って帰るとするわ。ほーっほっほっほ!!」
「ほーっほっほっほ!!」
 
 ……と。笑い声がステレオで聞こえた。いつの間にかサクヤの肩の上に現れたのは梨須野ちとせ。前回、あの状況で島を撃つという事は、サクヤも無事にはすまないはず/そうでなければやり過ごす手段があるはず、と考えたちとせは、サクヤにしがみついてその場をやり過ごすことにした。案の定銀色のタケノコ型の船から放たれたレーザーはサクヤたちを避けるように島に直撃。そのままサクヤにしがみついたちとせは、船内に侵入したのだった。

「げげっ、あんたはさっきの小憎らしいリス女!!」
 鬼ヶ島で散々言葉で刺されたサクヤは飛びのいた。すたっ!と床へ着地し、ちとせはサクヤに指をつきつける。
「あなたが考えなしでなければ、あなたの側が一番安全だと思いましたのでしがみつかせていただきました」
「だ、だからなんだって言うのよ!あんた1人で助かった所で、どうにかできるわけ?」
 うろたえつつも言い返すサクヤ。
「確かに、私一人では力不足かもしれませんが、ここは"今昔"です。ほら、皆さんあのように無事ですよ」
 ちとせが言うと同時に、船が衝撃で揺れる。

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 船外には船に追いついた、リーフェの駆るメタルゴーレム"ドラグーン"。
「邪魔すんじゃないわよっ!!」
 サクヤがコンソールにある黄色と黒の縞模様に囲まれ"危険"と書かれたあからさまなボタンを押した。するとタケノコの頭部分に、鬼ヶ島を消した時ほどではないものの、白熱の光が収束していく。だが放たれた光は、リーフェの"ドラグーン"の手前で逸らされ、あらぬ方向へと飛んでいった。
「……無駄よ。風空魔術とバリアの障壁を張らせてもらったわ。それに、さっきの攻撃でエネルギー不足みたいね」
「くっ!じゃあこれはどう!?」
 サクヤがコンソールの別のボタンをぽちぽちっと押すと、今度は外壁から様々な重火器とマジックハンドのようなアームが無数に飛び出した。どこにこんだけ収納されてたんだ、という量である。

「待て!」
 そこへ飛び込んで来たのは、エアバイクに乗ったグラント。
「やい、偽かぐやことサクヤ!罪のない鬼たちの住処を完膚なきまでに破壊する所業……断じて許しがたし!新月の異名である朔の名の表すとおり情けも胸もない輝夜の偽者め……この俺が成敗してやるからかかってこい!このまな板が!」
「なんですってぇ!?まな板とか言うなっ!!」
 サクヤがそう言ってコンソールに拳を叩きつける。それに呼応するかのようにグラントに向けて火器が放たれ、金属製のマジックアームがエアバイクを叩き落とそうと振り下ろされる。
「剛剣術奥伝……大振空刃・光断!」
 エアバイクで火線を避け、避けざまに空間ごと相手を切り裂く"大振空刃"を振るう。まるで紙のように次々と切り裂かれるアーム。
「なんでよ、なんで地球の人間如きに私の船の武装が効かないのっ!!?」
"サクヤ様" "サクヤ様ってば"
 ヒステリックに叫ぶサクヤの後ろで、両手に板をそれぞれ持ちぴょんぴょこ跳ねるウサギ。どうやらさっきから呼んでいたらしい。
「何よ!今忙しいのっ!!」
 ぎっ!とサクヤが振り返ると、恐る恐るウサギは3枚目の板を取り出した。
"外壁が損傷してます。このままでは船が落ちます"
「はぁ!?まだダメージは受けてないはずよ!!」
 サクヤがモニターを確認するとダメージの警告と共に、船の後方に船影の表示。後方にいつの間にかもう1つ船が現れていた。

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「後方の警戒を怠るとは……愚か過ぎるにも程があります」
 言葉と共に振るわれたテネシーのウィップソードが、船のアームを絡め取る。後方に現れたのは、アリマの操縦する"レッツラ号”。その船上にはテネシー、そして頭領を始めとする鬼たち。一方ではテネシーの従えるケルベロスが高熱波のブレスをサクヤの船に浴びせる。

"防御用バリアの出力低下、外壁の損傷も30%を超えました"
 警報音が響く中、おろおろとして板を見せるウサギ。
「くっ……!さっき島でエネルギーを使い過ぎたから主砲は使えないし……どーしろっていうのよ!!」
 イライラとするサクヤ、そしてびー!びー!びー!とうるさく鳴り響く警報音。
 
 と、ちとせがコンソールの上へと飛び乗った。
「どうします?抵抗を止めて大人しく宝を返してくだされば、船が落ちる前に攻撃を止めてくれるように私から言うこともできますが」
「なんで私がそんなことしなくちゃいけないのよ!宝は私のものよ!!」
 サクヤの言葉にちとせがため息をつく。
「はぁ……往生際の悪い人ですね。私にとってはあなたが誰かとか、宝がどうのとかは正直どーでもよいのです。かぐやさんの安全が一番なのですわ。そんな訳で、かぐやさんはどこです?正直に言って下さるなら、偽者云々は吹聴しないでおきますわ。今更遅いかもしれませんけれど」
「ふん、本物のかぐや姫……姉上は村の山の宇宙船の中よ。でも、ここにいるあんたに今から助けることができるかしら?」
 そう言ったサクヤが着物の袖から取り出したのは、ドクロマーク付のボタンが1つだけあるわかりやすいリモコン。
「姉上のいる船には爆弾を仕掛けさせてもらったわ!私の船を壊してごらんなさい。姉上も道連れに木っ端微塵にしてやるから!!」
"サクヤ様"
 切り札を出して形勢逆転を計ろうとするサクヤの肩を、ウサギがそっと叩いた。
「何よ、今、取り込み中なのよ」
 振り向くサクヤに、ウサギがモニターを示す。
"かぐや姫様を閉じ込めた宇宙船が解体されています"
「はぁ!?」

 "LIVE"と表示されたモニターの一画面には、こぶとりじいさんの家の裏山の映像。そこには宇宙船解体作業に励むレイナルフとかぐや姫。
「レイナルフさーん。オーライでーす」
 "安全第一"と書かれたヘルメットをかぶった、ニッカボッカ姿のかぐや姫。首にはタオル、手には軍手。なんか現場に馴染んでしまっている。
「見た目の割りに部品あるんだなぁ、コレ。あー、かぐやちゃん、終わったらステンレスとアルミに分類しといて」
「わかりましたー」

………

 しばしの沈黙。ちとせが可哀想な人を見る目でつぶやいた。
「切り札、役に立たなかったみたいですね」
「なんで船が解体されてんのよ!ていうかどうして船に閉じ込めといたはずの姉上が外にいんのよ!」
"そういえば鍵をかけていませんでした"
 キレるサクヤに、板を見せるウサギ。
「この阿呆ウサギ!役立たず!!あんたなんて毛をむしって海に放り込んでやるから!!!」
 板を奪い取ってべしべしウサギを殴るサクヤ。動物虐待である。よいこは真似をしてはいけません。

「それじゃあ、かぐやさんの安全が確認できましたし、私はこれで。準備も整ったようですし」
 いつの間にかパラシュート(リスサイズ)をちゃっかり背負ったちとせが言った。言うと同時に、ぴぽぱとコンソールを勝手にいじり、非常口マークのついた扉からさっさと撤退する。
「あ、こら!待ちなさいよリス女っ!!」
 サクヤが捕まえようとするが、するりと扉の外に消える。と、船内に響き渡る再度の警報音。
"サクヤ様、大変です!"
 またも板を掲げるウサギ。
「あー、もー!!今度は何よっ!!」
"前方の船が接近してきます"
 ウサギが先ほどのリーフェの"ドラグーン"を示す。モニターを見ると、ドラグーンが船へと突撃してきたではないか。

「……戦闘中におしゃべりが過ぎるわよ」
 隙を見つけたリーフェは(元々隙だらけだろうが、とか言ってはいけない)、最大加速で"ドラグーン"突撃させる作戦に出た。十分に近づいていたサクヤの船を射程内に捕らえ、機首にはエーテルドライブのエネルギーを向けて衝角代わりに。自身は"風霊ジェット"を使い、船から退避する。

「がはははは!やっときたな!コレを使う時が!!」
 同時に後方では、アリマが"レッツラ号"の甲板に設置された巨大な大砲を発射しようとしていた。もとい、発射しようとしていたのはキキちゃんで、弾丸はアリマ自身である。
「キキー……(どうなっても知らないからな……)」
 やや呆れ顔のキキちゃんが大砲の導火線に着火する。ばちばちばち……と導火線が燃え、どっかーん!!と人間弾丸・アリマが発射された。
「見よ!俺は(太陽エネルギーで)赤く燃えている!!」
 太陽の光をバリアに変換するサンバリーを装備し、音速(推定)で飛ぶアリマ。
「う、ウソでしょおおぉ!!?」
 メタルゴーレムと人間弾丸の二重特攻にサクヤが叫ぶ。リーフェの突撃させた"ドラグーン"と、神風特攻人間弾丸・アリマがサクヤの船にぶつかったのはほぼ同時だった。

 かろうじて保たれていたサクヤの船のバリアが消え去り、外壁が抉られる。数多の攻撃で揺れに揺れる船内で"おさない/かけない/しゃべらない"(=避難三原則)の板を持って右往左往するウサギ。そして成すすべがなくなり悔しそうにモニターを睨むサクヤ。船には大穴が空き、みるみる高度が落ちていく。追い討ちとばかりにグラントが"レッツラ号"上の鬼たちに声をかける。
「今だ!訓練の成果を見せてやれ!!」
「そうか、とうとうアレを使う時が!」「うおー!やってやるぜー!!」 口々に言い、めいめいに武器を手に取る鬼たち。

「剛剣術初伝軍式・破軍流星雨を食らわせろ!失われた故郷の仇を討て!」
 グラントの掛け声で、鬼たちが剛剣術で船を攻撃する。防御のバリアを失った船に、力の有り余っている鬼たち。ほとんどの武装を失い、へろへろの船にとっては致命打である。


「待て待てー!あたいを忘れてもらっちゃ困るで!!!」
 そこに現れたのは魔白翼を装備したハイレグTバックのレオタード姿のアオイ・シャモン。キャッ○アイとかそういう怪盗を連想していただけるとわかりやすいかもしれない。鬼ヶ島への攻撃を上手いこと避けたアオイは、こっそりサクヤらを追ってきていたのだ。
「宇宙人は弱っとるようやし、お宝を手に入れるチャンスや!」
 がちゃりとバスターライフルを構え、だだだだだだだ!!と容赦なく船に向かって弾丸をぶっ放す。それがトドメだった。閃光が走り、ちゅどーん!!とひときわ大きな音を立て、爆発する船。
「ち、地球人ごときに私の船が壊されるなんてー!!!」
"絶体絶命です"
 宙に放り出されるサクヤ達、バラまかれる船内の金銀財宝。
 バスターライフルを放ったアオイの手にも何かが落ちてきた。それは宝の1つの蓬莱の玉の枝。
「ラッキー!これ欲しかったんやー!」
 落ちてきたお宝をちゃっかりゲットし、アオイはその場から飛び去ったのだった。

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 アゼルリーゼは上空から"魔白翼"で本物のかぐや姫の行方を捜していた。かぐや姫の家の裏山にはそれらしいものは見つからず、村の茶屋の方を見ると、何故か茶屋の方角から牛車とエルンスト・マニフィカら、それに鬼ヶ島の鬼たちがこぶとりじいさん宅方面へと向かうのを発見。
「あっちに何か有るのかしら?」
 と、首を傾げると前方で轟音。見れば1つの山の頭上で、サクヤの船と"ドラグーン"らが空中戦を繰り広げていた。
「うわ、あの辺にかぐや姫がいたら大変じゃない!!」
 きびすを返して、急ぎ未来と太郎のもとへ向かう。その場から飛び去るアゼルリーゼの背後では、サクヤの船が大爆発を起こしていた。

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「なんか上が騒がしいなぁ。何か有……ぶっ!?」
 上空での騒ぎに顔を上げたレイナルフは、空から降ってきた人影、そしてついでに兎影とまともに衝突した。通常ならグロテスクな大惨事になる所であるが、ここは今昔。地面にめり込むだけで無事である。

「痛ったぁ……なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないのよっ!!」
"それはやはり悪さをするからでは"
 上空から落ちてきたのはサクヤとウサギであった。爆発に巻き込まれてボロボロではあるがほとんど無傷である。恐るべし月の民。

「……サクヤ?」
 空から降ってきた2人の目の前にはかぐや姫。サクヤたちが落ちてきたのは、ちょうどレイナルフとかぐや姫が船の解体作業を行っていた場所だった。
「こうなったのも……あんたのせいよ!姉上!」
 自分の悪行は棚に上げ、サクヤがかぐや姫ににじり寄る。そこへ駆けつけたのはちとせだった。
「止めなさい!往生際が悪い人ですね!!」
 はっ!と振り返ったサクヤはかぐや姫を盾にする。片手にはとっさに耳を引っつかんだウサギ。
「動くんじゃないわよ!ちょっとでも動いたら姉上の喉をがぶりと行くわ!このウサギがね!!」
 んなことしません、とばかりに首を横に振るウサギ。凶器がウサギというのもシュールな画だが、本人たちは緊迫していた。
「くっ……卑怯な!」
「サクヤ、もうこんなことは止めて!」
 歯噛みするちとせ、弱々しく抵抗するかぐや姫。


「そうはさせないわ!!」
 そこへテレポートで現れたのは未来・アゼルリーゼ、そして桃太郎こと太郎。空中に現れた3人の落下点にはちょうどサクヤとウサギがいた。

 どかどかどかっ!
「きゃあああっ!?」
 ちょうど下敷きになる。きゅう、とのびるサクヤとウサギ。

「うわ!!潰しちゃった……!だ、大丈夫かなぁ……」
 と、おろおろする太郎と、
「あ、あれ?かっこよく登場した後、太郎に偽かぐや姫を退治させる予定だったのに……」
「まあ、いいんじゃない?太郎が偽かぐや姫にトドメをさした、ってことで」
 結果オーライの2人。
「た、太郎?どうしてここに?」
 かぐや姫が不思議そうに尋ねる。
「はっ!理由聞かれてるわよ、太郎!」
「ほら、早く!ちゃんと言わないと!」
 アゼルリーゼと未来が、太郎を前に押し出す。

「えーと、その、僕は……かぐやを助けに来たんだ」
 いつも通りの弱気ながらも、太郎はかぐや姫をまっすぐ見つめてそう言った。
「まあ……私を助けに来てくれたの?」
 幼馴染の少年の言葉に、かぐや姫が驚いた顔をする。そして、嬉しそうに微笑んだ。

「よし!いい雰囲気!今よ、今こそアレを渡すのよ!!」
「ええっ!?本当にアレ渡すの?」
 アゼルリーゼがびしっと太郎の持つ包みを指差す。未来が渋い顔をした。何か嫌な予感。

「あ、そうだ、プレゼントを用意してきたんだ。逆チョコって言うものらしいんだけど」
「ぎゃくちょこ?何かしら、開けてみていい?」
 太郎が、アゼルリーゼが用意したかぐや姫へのプレゼントを渡す。

 かぐや姫がプレゼントの包みを開け、太郎がそれを覗き込む。と、2人が中身を見て固まった。

 かわいらしい箱の中に入っていたのは黒と茶色のまだらでがちがちに固まった塊ひとつ。アゼルリーゼお手製のそれは、チョコを湯煎ではなく直接湯に放り込み、ぐつぐつ煮詰めた上に力でがちがちに丸めて固められた物体だった。

「ごめん!今のは忘れて!!」
 太郎が振りかぶって暗黒おにぎり……もとい、逆チョコを投げ捨てる。
「ああー!!あたしの最高傑作!!」
「かぐや姫にアレを食べさせなくて良かった……」
 悲しそうに山の斜面を転がり落ちていく逆チョコを見送るアゼルリーゼ。その後ろでこっそり安堵のため息をつく未来。ちなみにころころころりんと斜面を転がり落ちていった逆チョコがネズミの穴に落ちて、それが「逆チョコころりん」という怪談話として語り継がれるのはまた別のおはなし。

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 一方、潰されたサクヤが目を覚ましてみると、いつの間にやらロープで縛り上げられていた。側にはウサギも同じく縛り上げられて転がされている。
「何よこれは!あんたたち、この私にこんなことしてただで済むと思ってるの!?」
 ぎゃーぎゃーと騒ぐが、誰も聞いちゃいない。

「多少出遅れてしまったが、どうにか宇宙人を捕獲できたのぅ。これでいい。だがしかし、いつか第二・第三の宇宙人が……」
「無事、かぐや姫さんも救出されたみたいですね。良かったです」
 締めに入るエルンストと、ほっと胸をなでおろすマニフィカ。後ろには2人が連れてきた帝や従者らと、2人が即席イカダで連れてきた鬼たち。エルンスト・マニフィカの説得で、近衛兵として帝に仕えることになったのだ。先ほど空中戦に参加したリーフェらも地上に降り、サクヤを取り囲んでいる。

「宇宙人退治が見られなくて残念だったのー」
 ちびっこ帝は牛車に座り、つまらなそうに足をぱたぱたと。


「未知の文明機械を壊しちゃったのは惜しいけど……犯人も捕まえられたし、良しとしようかしら」
 ぎゅっとロープの端を握ったリーフェが言う。ちとせは未だぎゃーぎゃー騒ぐサクヤの頭の上にぴょんと飛び乗ると、びしっと一喝。
「お黙りなさい!元はと言えば、あなたがかぐやさんに成り代わり、悪さをするからいけないのです!」
 全く正論である。サクヤも半ば諦めたのか、頭上のちとせを睨みつけた。
「それにしてもご無事でよかったですわ。かぐやさん」
 側で太郎と成り行きを見守っていたかぐや姫に声をかける。かぐや姫もそれに応え、にっこり微笑んだ。
「ちーちゃん……ありがとう。今回は妹が皆さんに迷惑をおかけしてしまって……どうお詫びしていいのか」

「家族といえど、悪いのはこの偽者でしょう。貴方が謝る必要はないのでは?鬼ヶ島を破壊した罪を償っていただきたいところですが……この性根が今後そう簡単に治るとは思えません。まあ、全ての責任を死をもって償ってもらうという方法も有りますが」
 テネシーがウィップソードの先端をサクヤの喉につきつける。目が本気である。ひっ、とサクヤが息を呑んだ。それをグラントがやんわりと止めた。
「待て待て。罪を憎んで、人を憎まずって奴だ……性根が治るかは知らないが、お前さんには生きて鬼たちに故郷を奪った罪を償う義務があるからな。死なせたりはしねぇよ、まな板の偽かぐや」
「だからまな板って言うなっ!!!」
 サクヤが唯一自由な足をじたばたさせて反論した。

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「そういえば、かぐやさんはこれからどうします?改めて月の使者さんに連絡を取って、迎えに来てもらうこともできますが……」
 かぐや姫にちとせが尋ねる。本来ならばかぐや姫は月に帰るのが物語の正しい有り様である。
「私は……」
 かぐやは側の太郎と、周囲の皆を、そして山の下に広がる、生まれ育った村を見た。
「……私は月へは帰りません。今回、いえ、今までも私は、いろいろな方に助けていただいたり守られているだけでした。帰るとしても、自分で何かを成すことができるようにならなければ、故郷の父上と母上にも顔向けができません」


「だから、私は都に行って不動産の勉強をしてきます!」
「「「はい?」」」
 かぐや姫の突然の宣言に、その場の皆の目が点になる。不動産て。いきなり何を言い出すのかこの子は。
「先ほどそちらのレイナルフさんに教えていただきました。この山にごるふ場とやらができると、おじいさんやおばあさんや、村の皆も喜んでくださるのでしょう?」
「へ、俺?」
 サクヤとウサギの激突でめりこんだ人型の穴からやっと這い出てきたレイナルフが聞き返す。
「そりゃあ、まあ、有名なリゾート地ともなれば地元に金が落ちるようになるし、人口も増えるし、ゆくゆくは高速道路だって……」
 今昔の話である。念の為。

「でしたらこの村を立派な"りぞーと"にできるよう、私は都で学びたいのです。おじいさんやおばあさんに、育ててくださったせめてもの恩返しができるように」
「じゃあ、月の方たちにはそう伝えておきましょう。サクヤさんについても知らせなければいけませんしね」
 そのかぐや姫の答えを聞いて、ちとせもにっこりと微笑んだのだ。

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 それからしばらくの後。故郷を失くした鬼たちは村の山に住むことになった。一部のものは近衛兵として都で帝へと仕え、残りのものも今昔ゴルフリゾート(仮称)の作業を手伝ったり、村人の仕事を手伝っている。元々、人口の少ない村のこと、人手、もとい鬼手が増えるのは村人たちも大歓迎だった。

「宝はなくなっちまったが、元々他人様の物だしな。新たにわしたちが住む場所もできたし、他の者も村に馴染んどるようだし、いやぁ、良かった良かった!」
「親父がいりゃあ、あたしはまだしばらく遊び歩いてても大丈夫そうだし。あんた達のおかげだね。あ、そういえば、あのサクヤとか言う娘が盗んでった宝を山でいくつか見つけたんだ。礼代わりと言っちゃなんだけど、それはあんた達で分けちまっていいよ」
 がははは、と豪快に笑う鬼の頭領と、礼を言う鬼子。働ける場所と新たな住居を得て死んだ頭領も戻ってきた。鬼たちも落ち着く所に落ち着いたようである。



「それれは〜、今昔ゴルフリゾートの完成と〜、ついでに桃太郎こと太郎さんの旅立ちを祝して、乾杯れすよ〜」
 既に酒が入って酔っぱらったマニフィカが酒が入った碗を片手に言った。月夜の晩。今回の事件に関わったものたち、それに村人や鬼たちが集まり、大宴会が行われることとなったのだ。
「かんぱーい!っかー!ホンマこの為に生きてるわー!」
 場を度々混乱させたアオイもちゃっかり混ざっている。ちなみに11歳なので碗の中身はジュースである。兄さん姉さんも安心。(?)

「それにしても、太郎も都に行くなんてねー」
「やっぱりかぐや姫に会いに行くわけ?」
 アゼルリーゼと未来がにやりと笑って太郎に絡む。
「べ、別にそういうつもりじゃあ……」
 顔を真っ赤にして反論する太郎。図星だったらしい。
「……ただ、僕ももっと強くなりたいなと思って」
 先日の事件の後、太郎こと桃太郎も都へと旅立つことになった。鬼たちや帝の計らいで、都へ行って、強くなる為に武術を学ぶのだと言う。

「筋は悪くない。鍛錬を怠らなければいい使い手になれるだろう」
 酒の碗を片手にグラントが言う。グラントは村に残った鬼たちの訓練を手伝いがてら、太郎にも武術を教えていた。
「もし都から帰ってきて、鬼退治の続きをするというのなら、いつでもお相手いたしますよ」
 こちらは酒を飲んでも顔色ひとつ変わらないテネシー。淡々とした口調だが、彼女なりに太郎の旅立ちを祝ってくれているのかもしれない。

「ワシがかつて読んだ古文書によれば、"桃より生まれたるものの子孫"にはこんな能力があるらしい。
一.巨大化する 
一.目から破壊光線を出す
一.ざわざわと髪の毛が伸びる
一.飛行能力がある
一.その血液は濃硫酸で、骨が非常にモロく、殴られたりすると簡単に複雑骨折を起こす
もしそれが本当であれば"御伽特捜隊"の調査対象として十二分の能力を持っておる。どうかね?もし都で挫折したらUMAとして研究対象になってみるというのは」
 不穏な発言をするエルンスト。すかさず太郎に反論される。
「できませんよそんなこと!ていうか出発前から挫折とか言わないでください!」
「チッ、できんのか。つまらんのぅ」
 桃太郎=UMA説が否定され、残念そうである。

「うーん……すごいわ、コレ。月の船についてのデータがほとんど揃ってる。これがこーなってあーなって、エーテルドライブと組み合わせれば"ガルガンチュア"や"ドラグーン"の強化ができそうだわ!」
 酒の席には似つかわしくない錬金術用の道具を持ち込み、宴会そっちのけで何やら怪しげな黒い立方体を調べているのはリーフェ。黒い立方体はサクヤの船の残骸から回収されたブラックボックスである。そこには月の船やその武装のデータが内蔵されていた。
「リーフェさん、宴会の最中ですし、その辺にしておいては……」
 側にちょこりと座ったちとせが諭すが、リーフェは聞いていない。何に使うのか不明だが、大げさなヤットコやらカナヅチを取り出し、ブラックボックスの解析に夢中である。
「はぁ……あ、そういえば、都に行ったかぐやさんは元気にしているでしょうか?」
「あぁ、帝んとこでいろいろ勉強してるらしいぜ」
 ちとせの問いに答えたのはレイナルフ。手には都のかぐや姫から送られてきた、ゴルフ場に続く次の開発計画案。
「ふむふむ、この近くの弘法大師の温泉を引いてきて、老人や病人には湯治を、若者向けには大規模な温水プールのあるリゾート施設を……なるほど。こりゃいいや、明日からまた忙しくなるぞ!」
 リゾート施設が増え、村も今後ますます賑わいそうである。



 さて、この事件の残りの関係者はというと。

 サクヤとウサギは宴会場からやや離れた場所に陣取っていた。かぐや姫が乗ってきた船もサクヤが乗ってきた船も壊れてしまった為、1人と1匹は帰ることができなかったのだ。また、事件が解決した後、ちとせによって月の使者に洗いざらいを伝えられたサクヤは"悪事の詫びとして村で働くこと"を両親から言いつけられ、竹取の翁宅へと預けられることになってしまったのである。

「この私がなんであんな辛気くさい家に預けられなきゃならないのよ!あー、もう!屈辱だわ!!」
"でもいい人たちですよ。毎日ニンジンもくれますし"
 ウサギはすでに馴染んでいるのか、竹取の翁たちからもらった採れたてニンジンを嬉しそうにかじっている。
「あー、あんたはいいわね!ニンジンがあれば幸せなんだからっ!!」
 ぷりぷり怒りつつあたりを歩いていると、ぼんやりとした明かりが目に入った。見れば、アリマとキキちゃんがレッツラ号の近くで何かごそごそと箱のようなものを開けようとしているではないか。

「がははは!幻の銀水晶(※第1回参照)は手に入らなかったが、こんなものを手に入れたぞ、キキちゃん!」
 アリマは上機嫌だった。サクヤの船と共に飛散してしまった宝を山で探していると、何故かスズメばかりのいる宿を見つけたのだ。スズメたちにもてなされ、帰り際に差し出されたのは大きなつづらと小さなつづら。どちらかをお土産にくれるというのでもちろん大きいほうをもらってきたのである。その大きなつづらはサクヤが鬼ヶ島から宝を盗み出すのに使ったものにそっくりだった。

「あぁー!あれは私の(宝が入った)つづら!ちょっと!返しなさいよ!!」
 それを見て思わずサクヤが物陰から飛び出し、アリマに詰め寄る。
「む!違うぞ!これは俺がスズメたちから土産としてもらったんだ!」
 アリマが言い返すが、サクヤも負けていない。
「じゃあ中身を見せてみなさいよ!中身が鬼ヶ島の宝だったら私のものよ!」
「わかった、じゃあ違ったらこれは俺のものだな!」

「キキー……(なにか嫌〜な予感がするんだよな……)」
 騒ぐ二人をよそに、何かを察して2人から離れるキキちゃん。ウサギもとてとてとそれに習う。

 賢い動物2匹の心配をよそに、2人が大きなつづらを開けた。そこから出てきたのは……

「うおおお!?なんじゃこりゃああ!!」
「きゃあああ!何よこれー!!!」
 欲張り者は損を見る。今昔はまこと、因果応報の世界なのでありました。とっぴんぱらりんのぷぅ。


烏谷マスタートップP