「誰がための物語」

ゲームマスター:秋月雅哉

【シナリオ参加募集案内】(第1回/全5回)


●襲われる少女

 エメラルドグリーンの長い髪を自由気ままに外に跳ねさせた少女は森の中を歩いていた。少女の名はセレン。攻撃するための術は持たないが結界を張り、人々の傷をいやす術にたけている。

 魔獣除けの結界にほころびができているとうわさを聞いてセレンは結界の修繕のために森に来ていた。攻撃の術を持たないのだから本来なら近衛騎士団の誰かについてきてもらった方がよかっ たのかもしれない。

 ただ、近衛騎士についてきてもらった場合魔獣を見れば討伐の流れになる可能性が高くなる。むやみに攻撃して双方が傷つくよりは魔獣除けの結界を張って街に侵入できないようにした方がいいと考えたセレンは一人でやってきたのだ。

 魔獣にだって家族や仲間がいるんだ、自分たちと違う生き物だからって殺していいという理由にはならない。それがセレンの考えだった。

 今のところ魔獣たちは出現して周辺を歩いているだけで人々に危害を与えていないというのも大きな理由になっていた。

龍人を食らって肉の味を覚えた魔獣や野獣は危険だから討伐隊が編成されて義兄が率いる近衛騎士団が定期的に巡回しているが、野生の生き物にとって飢えは大きな問題だ。
実りが少ない冬や、冬を超えた春はどうしても飢餓から人を襲う獣が増える。

 そういう獣の被害も、どうにかできたらいいんだけど、とセレンはため息をつく。

 魔獣除けの結界を樹木や土と同化させる術式を編んで広範囲をつないでいく。一度発動させれば龍脈から必要な魔力を吸い上げてほころびが出ない限りここから先に立ち入ることができない結界を作り上げてくれるはずだ。

 早く帰らないと義兄が心配する。義兄は、義妹であるセレンにに対しては結構過保護だ。戦う能力を持ってればもう少し心配をかけずに済んだのだろうか、と思うがないものねだりをしたって仕方ない。早く終わらせて帰ろうと修繕に集中するもののまた思考がそれた。

「ねぇ、君は今どうしている? もっとボクたちを頼ってくれればよかったのに」

 それがどんな存在に対しての呼びかけだったのかは誰もわからないだろう。そもそもセレンは独り言だからこそそんな言葉を漏らしたのであって、人前では決して言わない本音だったから。

 届かない言葉を繰り返しても意味がない、そう頭を振って思考を切り替え、術に集中する。

 魔獣による被害を避けるためだときちんと理由を説明すれば、渋い顔はされるだろうけど雷が落ちることはないはずだ。

 はやく、はやく。そう考えてばかりいたからひそやかな足音に気づかなかった。否、気づけなかった。

 セレンの周囲を取り囲む、ユキヒョウに似た巨大な魔獣たちに彼女は聞こえる人なんて周囲にいるはずがないのに思わず悲鳴を上げた。魔獣たちが格好の獲物を見つけたといわんばかりに舌なめずりをしている。

 あぁ、やっぱり手間をかけちゃうけど騎士さんについてきてもらうべき、だったな。大多数の魔獣を目にしてセレンはそんなことを思うのだった。

●記憶のない人々

 気づけば森の中にいた。自分がどうしてここにいるのか、自分の名前以外は何もわからない。家族はどこにいるのだろう。それとも一人で生きていたのだろうか。友人はどこだろう。それとも友人もいなかったのだろうか。

 わからないことだらけだ。ごっそり、自分を形成する記憶が消えている。首元から何かが下がっていてそれに気を取られて服の下から革ひもで下げられたそれを引っ張り出す。

 とても強く、神々しい力を感じた。アミュレット か、タリスマンといわれるお守りのようだ。それもかなり力の強いものだろう。 なぜ自分はこんなものを持っているのか。

 よく見ると銀色の、大きな鱗に何かの模様が刻み込まれているようだ。鱗が力を持っているのか、それともこの文様が魔術式となっているか、両方なのかはわからない。

 さて、どちらへ行こうか、悩んでいると女性の悲鳴が聞こえた。
 ――龍の国での冒険はここから始まる。


【アクション案内】

m1.魔獣に襲われているセレンを助ける
m2.魔獣に自分の力を試す
m3.結界のほころび修復を試みる
m4.その他

【アクション選択解説】


m1は、ユキヒョウに似た魔獣に襲われているセレンを助ける、一番王道の選択肢になります。

m2は、自分の力がどの程度通じるかを試すために魔獣を倒す選択肢です。結果的にセレンを助けることにもつながりますがこの場合は他人(セレン)よりまず自分の現状を把握するという色が濃くなります。

m3は、結界のほころびを直すことを試みて魔獣の増加を防ぐ選択肢です。戦いが激しくなれば魔獣の増援が来ることも想定されます。それを防ぐのも一つの救助活動となることでしょう。

m4のその他を選択する場合は、こういった性格なのでこういう行動をとらせたいという理由をアクションフォームに入力ください。

【マスターより】


この作品は実は中学時代には大本が出来上がっていて、リメイクや改稿、続編を書いたり前日譚を書いたりととても長い付き合いをしている作品の「IF」です。

自分一人でしかたどり着けなかった答えと、皆様と共同で編むことによって紡がれる「あったかもしれない答え」がどれくらい違うものになり、どちらがより多くの人を幸せにするのか興味が尽きません。

灰汁の強いキャラクター達かもしれませんし基本唯我独尊なキャラが目立ちます。自分がよければ他の人の都合なんて知ったことじゃない。という思考も見え隠れします。

それでもNPCたちが願うのは、純粋だったり歪んでいたり押しつけがましかったりしますが「大切な誰かの幸せ」です。

それが「人のためを謳いながら自分が幸せになるための手段」なのか「自分のためを謳いながら実際は人のための願い」なのかを問うために本作は「誰がための物語」と命名しました。

マスターとして至らない点もありますが楽しんでいただければ幸いです。