「誰がための物語」

第二回

ゲームマスター:秋月雅哉


●ドラグニール、城下町
 龍人界ドラスの中の大国、神龍国ドラグニールの国有林で、セレンという少女を救った『記憶を持たない落ち人たち』は、セレンの義兄であるランスに、国有林は無断侵入したことを知られると死刑になる、と言われてひとまず最も近い街へと向かった。
 城塞都市とでもいうべき城下町は広大で、歴史ある建築物に見える。そらを飛竜が飛び交い、街を馬車が走る。多くの民は黒い髪に黒い瞳、仕事で日に焼けた肌をしていた。
 目的地は同じだったため道を共にしていた一行だが、城下町についてからは取り立てて行動を共にする理由もない。
 そして落ち人の彼らは城下町になじむには、すこし髪や目の色、服装などで特異すぎたため、自然と噴水広場のあたりで解散となった。
「あそこは草や木がたくさんあって落ち着いたんですけどねぇ。ここが城下町ですかぁ。なんだか、閑散としていますねぇ。建物も少し、荒れているような……?」
 リュリュミアは特に何か目的があったわけではなく、移動してほしいといわれたから城下町にきただけだったので、自身の落ち着くと感じる場所である、緑豊かな公園を探しながら、ランスから報酬として受け取った銀貨で食べ物を購入した。
「何をすると決めなくてもぉ、お腹は減るんですよねぇ」
 ダークグリーンのウェーブのかかったロングヘアを指でいじりながら改めてドラグニールの町並みを見回す。
 髪に比べると格段に明るい色をした緑の瞳は、まるで日差しに煌めく木漏れ日のように美しい。
「これから、どうしましょうかねぇ」
 今がちょうどいい季節なのか、それとも一年を通してこの気温なのか、外に出ていて気持ちのいい日差しと風だ。ただ、風の中には確かに荒廃の匂いがした。
 若草色のワンピースをふわりと翻してベンチに腰掛け、空を仰ぐ。国有林の樹木ほどではないが、公園の木々もまた太くたくましい。
「珍しい目と髪の色だね。ひょっとして落ち人かい?」
 農夫だろうか、色のさめた服に身を包み、麦わら帽子をかぶった壮年の、屈強な男性がリュリュミアに話しかける。
「あぁ、なんだかそんな呼ばれ方を、した気がしますぅ」
「そうか、やっぱりな。最近はよく落ち人を見かけるよ。国王陛下に見つからないように気をつけたほうがいい。……殺されてしまうかもしれないから」
「……どうして、落ち人を殺すんですかぁ? 不幸を呼ぶとか、そういう言い伝えでも?」
「……いや。わしも詳しいことはわからないが。落ち人が見つかると、役人が連れて行くんだ。帰ってくるともこないともわからない。あんたはまだ若いお嬢さんだからね、殺されてしまうとなったら、放っておくのは目覚めが悪い」
「わざわざありがとうございますぅ。できるだけ、気を付けますねぇ」
「あぁ、命あっての物種だからな。大事になさい」
 そういって離れていく農夫を見送り、でもまぁ、もうすこしだけのんびりと、とリュリュミアはたんぽぽの色をした幅広の帽子と、樹木に縁どられた木々をぼんやりとながめていた。

 萬智禽・サンチェックは外見的に目を引くことを憂慮し、ボロボロのマントを頭からすっぽりとかぶって裾を引きずった状態で街を歩いていた。
 全身を隠し、地上五十センチに浮けば貧民街では小男としてみてもらえる。
「情報が少なすぎるのである」
 酒場を渡り歩き、落ち人について酔客やオーナーから情報を集めようとする。
 わかったことはどうやら落ち人を見つけて通報すると多大な報奨金が与えられるということで、落ち人を探している野心家が一定数いるということ。逆にただ世界の境界を渡ってしまった落ち人が、何らかの特殊な力で荒廃した都を滅ぼさないか心配した国民が、国王の狂気から彼らをかくまっているケースもあるということ。
 かくまわれた落ち人は時としてレジスタンスとして国王に反逆する組織に身を置くことになることなど。
(この世界は……何をさせたいのであるか?)
 国王が凶行に手を染めるようになってから落ち人は増え、王は大切な誰かを喪った後で豹変した。そして落ち人は王によってとらえられる。
「私たちは革命を起こすために『世界』に呼ばれたのであろうか?」
 ランスなら、詳しいことを知っているかもしれない。死ぬ覚悟ができてから訪ねて来いとは言われたが、もしセレンを助けるために抑止力として自分が呼ばれたのなら、彼女や彼女の義兄であるランスに手を貸すことが道理だと、サンチェックは判断した。
 マントの下で巨大な浮遊する眼球は施行する。そして彼はゆっくりとランスが指定した酒場、火と赤銅亭へとふわふわと漂って移動を開始した。

「あたしたちは落ち人、王の配下は落ち人を殺す。ただし場合によっては見逃したり、レジスタンスがかくまったり。ランスは立ち場を強調していたわ。本心は立ち場的に行わなければいけない行動以外だと告白しているようなものね」
 シェリル・フォガティはそう判断しながらこの世界で初めて出会った少女との縁を大事にしたいと思った。
「必要とされているっていったい何の目的なのかしら? あたしたちを使って、何かしたいのよね」
 近衛騎士団の詰め所ではなく、貴族がわざわざ貧民街の酒場を指定したことにも、ランスの本心からとりたい行動は落ち人との余計な軋轢ではないということが感じられる。近衛騎士団の詰め所は、つまり公の機関。ランスはそこではなくプライベートで会おう、そう暗に示したのだろう。
 少しだけ、本当に少しだけかもしれないけれど、王族としてではなく一人の男として、譲れない何かを護るために。彼は動いているのだろう。
「見慣れない客で会っても、怪しまれない場所だといいけど……」
 とても長い茶色の髪は、幸いドラグニールではそこまでは目立たない。ざっくりと編んだ三つ編みをおともに、シェリルは歩きだす。

 マニフィカ・ストラサローネは神龍のアミュレット、と助けた少女が口にした単語を頭の中で繰り返していた。
 彼女の義兄であるランスは、王が落ち人を狙っていると警告した。
 この世界に対する知識が圧倒的に足りない、そして自分自身の記憶の欠落は不安を招く。
 だからこそ、土地勘もコネもない、役人に突き出されるかもしれない中、彼女は情報を集める。
 外見を隠すためのマントを購入し、目指すのは火と赤銅亭。
 今は、セレンやランスと行き会った幸運を生かすべきだと、情に流されることになっても仕方ない。そう判断したのだった。

 姫柳 未来はなぜランスが火と赤銅亭を教えたのかを、考えていた。役目として動くなら、彼は自分たちをとらえるべきだったのに、詰め所ではなく酒場を指定した。
 縁あってたすけたセレンや、セレンを大事に思っていることがわかるランスと争うほど明確には、未来は二人を敵と認識できなかった。
「……まずはいってみるしかない、かな? この世界で何をしたらいいかもわからないし」
 あれこれ考えるよりも、話し合った方が有意義だ。そう考えてミニスカートのすそを揺らしながら未来は酒場を探して歩きだす。

 アンナ・ラクシミリアは変わってしまったという国王、カインについての情報を集めていた。
 その一環として火と赤銅亭を目指すことに。柄を握っていると落ち着く、自分の所持品のモップをおともに、貧民街を歩く。
 とにかくまずは、知ることからだと。

●火と赤銅亭
 折角出会ったセレンやランスと敵対したくない、そう考えた未来、変わってしまったという王について聞くならば従兄だというランスが最適だと考えた、アンナ。いつかセレンから結界術を学びたいと考えているマニフィカ。そしてサンチェックとシェリルは示し合わせたように同じ時間に、火と赤銅亭のドアをくぐった。
 古びた酒場だ。とても近衛騎士団長が知っているような店とは思えない。小さくて、店全体が傾いている。だが常連客達は変に落ち人たちに絡んだり、酔って醜態をさらすような真似はしない。ただ気の合う者同士で狭いテーブルを囲み、静かに酒を楽しんでいる。
 無秩序のはびこる貧民街の中で、ここだけは不思議と秩序の香りがした。
 そして落ち人たちはカウンターに、大柄な男の姿を見る。ピジョンブラッドルビーの長い髪は邪魔にならないように首の後ろでくくっているためわかりにくいが、実は肘のあたりまで長さがあり、武骨そうな外見のわりにきちんと手入れされていた。
「物好きは意外と多いもんだなぁ」
 琥珀色の酒の入ったグラスをからりと揺らし、ランスは薄く笑った。
「死ぬ覚悟を決めてからこい、そういったつもりだったんだがね。まぁ、その無謀さは嫌いじゃねぇ。俺も腹を割って話すとしようか」
「私たちが共通して持っていたものを、神龍のアミュレット、と申しましたけれど……落ち人は全員それを持っているのですか?」
 セレンと協力して結界の修復を行ったマニフィカは、神龍のアミュレットに秘められた強大な力を知っていたためか、確認するようにそこから切り出した。
「いや、実物を見るのは俺も初めてだ。……だが、神龍の気配自体は知ってたのさ。……届かない場所へ行って、世界を救ったかわりに兄を絶望させた、王弟のもの」
 重い息をついたランスは、気配の由縁を突き動かされるかのように語りだす。自分が、国王カインが、義妹セレンが背負うもの。今この国を覆う狂騒の、そもそもの原因となった一人の人物について。
「カインは、喪ったそいつを取り返すために世界を滅ぼすこともいとわない。あいつが……フィリエルが望んだのは『誰もが当たり前に、笑顔で過ごせる明日』だった。そこにフィリエル自身がかけらもいなくても、それだけを望んで天界へ幽閉されることを選んだ。世界の請われる要素を、身代わりとして背負うために」
『たとえ世界が滅んでもフィリエルの幸せだけを、本当は願っていた』カイン。カインは、弟を失い、その自分にとって最大の犠牲を「当然のことだ」「龍人界にあるまじき男の神龍主が消えて清々する」、と陰で口さがなく平和の犠牲の犠牲となった弟をけなす声を、決して許さなかった。
 死体は土に還り命をはぐくみ、次へとゆずり葉のように受け継がれていくとするドラグニールの中では、最も重い刑罰である火刑に処してまで、彼は弟の尊厳を護ろうとしたのだという。誰よりも、弟はそんなことを望んでいないと知りながら、自分の命より大切なものを貶められることを、国王は望まなかった。
「……神龍のアミュレットを持つ落ち人は、天の国への門を開く。そうカインは信じてる。フィリエルと同じく神龍の加護を受け、神龍に選ばれ、世界に選ばれ、自分が呼んだ。その落ち人たちを生贄にしてフィリエルを取り戻そうとしてる。そんな王の狂気に歯向かって火刑にされる罪人をさらったり、落ち人をかくまうのがレジスタンス」
「……だからわたくしたちに、死ぬ覚悟ができたら、とおっしゃったのですね」
 誰もが思わず息をのんでいた。それほどまでに国王カインの想いはまっすぐで、まっすぐな癖に歪んでいた。
 誰かの幸せを願いながら、その人自身が望まなくても自分が望むことをやり遂げようとするカイン。
 当たり前の幸せを護ることを選びながらも、その幸せを兄が壊すことを知っていて、それでも自分を犠牲にしたフィリエル。
 国の中枢にいた二人が願った幸せは、紡ごうとした幸せな物語は、果たして『誰』のために編まれたものなのだろう?
 困っている人を放っておくことができない未来は、国王が見放した国民を助けたいとも思うし、それほどまでに大切なものを喪い、それが当たり前だといわれたカインの無念さも、断片くらいは理解できたので一概にどちらを救う、とは言えなかった。
 栗色の髪の下の、黒い髪が愁いを帯びて伏せられる。
「わたしたちにできることって、何かないのかな? なにもないのかな? このままじゃ、誰も報われないよ。フィリエルが望んだのは当たり前に幸せな世界なんでしょう? わたし、この国の人たちが幸せだなんて思えない。カインも、望んで狂ったわけじゃないなら、だれもが不幸になってるもの」
「ごもっとも。だがな、フィリエルはいずれ世界を滅ぼすという予言を受けて生まれた。そして実際世界を砕きかけた。だからこそ……自分が災厄の形代となることを選んだ。フィリエルが幽閉されてるところから出てくるってことは、この世界の破滅の始まり。あいつは絶対にそれを認めねぇよ。還れない、自分の居場所はここじゃないって出て行ったんだ」
 俺とセレンに、カインを頼む。そう言い残してな。ラピスラズリの、切れ長の瞳が遠くを見た。思い出すのは――兄弟がともに立っていたころだろうか?
「命を捨てる気はさらさらありませんけど、ランスと敵対する気にもなれませんし……かといってカインを全面的に支持するほど、民に対して無情にもなれませんわ。生活をしながら情報収集をして、もう少し判断を伸ばしてもよろしくて?」
 アンナは荷物を調べたらモップが出てきたから、清掃業に従事していたのかもしれない、肌でこの世界を感じるためにどこかで住み込みで働くことはできないだろうか、とランスに問う。
「レジスタンスの言い分も聞かなくては、平等ではありませんもの。町で生活していれば、少しは聞こえてくるのではないかしら」
「わたしも、こんな格好だけど戦えるから……何か協力できることがあればしたいかな。暴徒を鎮める手助けとか、用心棒とか」
「わたくしは初志貫徹。今は無理でも、いつかセレン嬢に結界術を学びたいですわ」
「……もしかして、クーデーターをランスが起こさないのって、カインだけが悪いわけじゃないって割り切れてないからだったりする? でも、王から逃がそうとする程度にはあたしたちが死ぬのを当然の犠牲とは思えてない、ってこと?」
 シェリルの問いにランスは苦虫をかみつぶしたような顔をする。どうやら図星らしい。
「完全なる善も、完全なる悪もねぇよ。どっちも譲れないものがあって、それの妥協点を見つけられねぇまま内乱になりつつあるのが今のドラグニールだ。主に非があれば諫めるのは臣下の務めだ。だが、死んでもこうするって決めた主に、ついていけるとしたら。それは、俺だけなんだよ」
 かといってもう一人の従弟も、無碍にしていいわけじゃねぇしなぁ、と赤毛の男はグラスをテーブルに置いた。
「俺が望むのは、笑いと涙が半々で、楽しい時は笑い合って、きついときは支え合える。そんな世の中だ。そういう意味じゃ、フィリエルにもカインにも、共感はできねぇな」
 何かのために他の何かを切り捨てるのではなく。何かを得るために他をあきらめるのでもなく。中間を選ぶように、もっと他に何かなかったのだろうか、というのが二人を見ていたランスとセレンの想いなのだろう。
「私たちはフィリエル殿という御仁を取り戻すために王が呼んだのであるか。しかし、戻ってくれば国は滅びる、と」
「あぁ。カインが荒れてるのも、いっそ世界が滅びてしまえばフィリエルが幽閉され続ける理由はない、壊れきる寸前の世界で、瞬きよりも短い時間に思えても隣にあいつにいてほしい。そんなところだろうよ」
 火と赤銅亭に集まった落ち人たちの間に沈黙が落ちる。バーテンは静かにグラスを磨いていた。
「ま、いきなり詰め込みすぎたな。アンタらの腕なら賞金稼ぎも手を出せねぇだろうし、礼として渡した金でしばらくは暮らせる。レジスタンスに接触するのも、王に謁見を求めるのも自由だ。なんかあったらここのバーテンに言伝を頼んでくれりゃ、俺には届く」
 アンタたち自身の目で見て、手で触れて、耳に届く声を聞いて。じっくり悩んで、行く先を決めてくれ。
 そういってそろそろ城に戻らなくては、とランスは酒場を後にしたのだった。

●レジスタンス
 ジェルモン・クレーエンの望みはシンプルだ。生き延びること。そこに誰かのためは存在せず、自分は一人だと定義する。
 王が狂気に染まったきっかけを聞けば、おぼろげながらに見えてくるものがある。それは王を非難しながらも、自分たちが完全に正義だとは自らをだましきれない、ドラグニールの民の卑小な正義だ。
 もっと良くなるはずだった、災厄の種がいなくなれば幸せになれるはずだった。王弟とはいえ必要な犠牲だった。自分たちは当たり前を求めただけだ、世界が続いていくことを願っただけだ。
 そんなセリフを唱える民と、それを掲げるレジスタンス。
「必要な犠牲の、認識のすれ違いか」
 だが、レジスタンスは生きるために抵抗している。王の座にありながら破滅を振りまいてはいない。
 王とは国を護るものだ。自身の責務を果たさず、むしろ真逆の行いをするカインへの反感はある。
「暴力で王に歯向かうならば、死が報復に来る。それでも立ち上がるか。……暴力だけが解決の術ではないだろうに」
 ただし、死にたくはない。何もわからないまま、誰かのために死ぬなどジェルモンにはあり得ない選択肢だった。記憶を失っているからこそ、今が大事だった。
 そうして彼はレジスタンスと接触する。彼らが謳うのは圧政からの民の解放と、カインの退位。
「……わたしも、死にたくはない。利害が一致する間、敵の敵は味方となれないだろうか」
 その一言と、武器の扱いをテストする試験を経て。神龍のアミュレットを持つ『救世主になりえる器』としてジェルモンは迎え入れられた。
 あくまで自分が生き延びるためだ、という主張は、生きるために生きるのが、レジスタンスだ、と、認められないから壊すのではなく、認められないから立ち上がるのだ、だから貴方も貴方の正義を掲げろ。そんな言葉で打ち消された。

「うーん、こらアカンわ。空気がケタクソに悪いやんけ」
 人々の暗い表情を見て、ビリー・クェンデスは眉を顰める。
 想像していた以上に悲惨な状況らしい、と無意識に足の裏をかきながら情報を収集する。
 ビリーが注目したのはレジスタンスという単語。抵抗を意味し、生きようとしている気配を感じる響きだ。
 比較的安全な場所の確保は大事だ、そして辛気臭いのは性に合わない
 滅ぼすために躍起になっているという国王よりも、生きるために戦うことを選んだレジスタンスのほうがビリーには協力する理由を見出しやすかった。
 愛想をふるまった結果の反応が目をそらされることでも、ビリーはめげない。
 人々に笑顔を与えることが自分にとっては大事で、人々が笑えないのは、笑うだけの余裕がないからだ。
 ビリーの胸にともる、使命感の灯。どんな結末が待っていようと、一つでも多くの笑顔をこの世界に。それがきっと、呼ばれた理由だ、と。

 ビリーとジェルモンはレジスタンスの同胞として迎え入れられ、再会を果たす。
 戦力として二人が、一般市民の集まりであるレジスタンスの既存メンバーよりもすぐれていたことと、神龍のアミュレットを持っていることから二人はレジスタンスの中枢に位置付けられた。
 当たり前を、当たり前に取り戻す。あきらめない。
 そんなレジスタンスのありようは、皮肉なことに国王カインが絶対に譲れない、それ故に喪失により狂気に走った原因である王弟、フィリエルが掲げたものと、ありようは一番良く似ていた。

 自分のためを謳い、人を思う。人を思いながらも、自分を譲れない。
 これは譲れない何かの物語。その人の誇りの物語。
 誰かのための、物語。もしかしたら、自分のわがままだけの、自分のための、物語。
 まだ、幕は下りない。