『Velle Historia・第3章〜固き地の意志』 第4回
ゲームマスター:碧野早希子
| グロウヴネストの二つ名を持つ、大統領官邸。 誰もいない廊下を、一人の男が歩いている。 外務特別顧問官ツァイト・マグネシア・ヴェレは、大統領執務室に向かうまでの間、神妙な面持ちをしていた。 否――どちらかといえば、痛みを感じているのだ。 見た目で分かる痛覚より、見えぬ痛覚のほうが大きいともいえる。 (今頃になって、何故痛みが……?) マイ・スペルビア秘書官は口には出していなかったが、SDSの人間である事は間違いない。 彼女……もとい、彼は何故ナーガ・アクアマーレ・ミズノエを囮にして、自分を呼び出したのか。 目的は自分だけなのか、それともナーガも含めてなのか。 それよりも、鈍い痛みが背中から湧き上がってくる。 同時に、思い出したくない過去までも脳裏に浮かび上がる。 (今は……この時点で何をやるべきかを理解しなくてはいかんな) 痛みや余計な事を振り払うように頭を動かし、執務室の前まで来る。 「ツァイト」 聴き慣れた機械音声で呼ばれて後ろを向くと、時の賢者ザルドズ・クロノが立っていた。 無論、キャエルム政府アスール担当外務長官の立場ではなく。 「……早いな」 「公式でない限り、船に乗る訳には行かないだろう?」 「それはそうだが、ここにいる時点で格好のネタにされるぞ」 それ以前に、誰も彼がここへ入ってくるところを見ていないのだろうなと、ツァイトは呟く。 「プライベートだと言えば、非公式で訪れてもバチはあたらない。で、顔色が優れないが……?」 「いや、ちょっとな。それよりも……他に誰かいるようだが」 「みたいだな」 「我慢できなくて、既にスタンバイしているというわけか」 二人は上の天井を見やる。 「いつかは通用しなくなるかも知れんな、あの方法は」 「感づかれていなければの話だな。陛下には二度と通用しないと思う」 「ティーマも俺と同様――いや、それ以上の力を持っている……俺以上の魔導も」 「まずは目先の事象を片付ける事が先決。違うか?」 「そうだな」 Scene.1 レゾン・テートル(存在理由) 「師匠、ちょっと待った」 グラント・ウィンクラックに呼び止められるツァイト。 「どうした、何か作戦でもあるのか?」 「これを食べてくれ。食べた人が近距離にいる相手に意志を伝えられるんだ。俺も食べるけどな」 グラントの手に持っているのは『意思の実』。 「つまり、精神遠隔感応(テレパシー)みたいなものを使えるって事か。しかし、一つしかないが」 「半分に分けても大丈夫じゃねえかな」 しかし、ツァイトは首を横に振る。 「いや、遠慮しておこう。食べなくとも俺はその能力はあるとはいえ、魔導も体力がいる。余程の事がない限り控えているが今回は緊急だ、ザルドズを介してやるしかない」 「そう言われると受信機みたいだ。それに……」 ザルドズも続けて言う。 「ここで実を使ったら、今後何かが起きた時にもっと必要になるのではないかな。この時点で使用するよりも、お前自身の危機が生じた際に使う必要がくるまでとっておいたほうがいい」 そう言われて、少し残念がるグラント。 「他のSPに連絡とって、盗聴器や盗撮カメラが設置してないか探し出してもらおうかと思ってたんだがなあ。あと、大統領執務室への繋がる外部カメラや集音マイクも全て遮断してもらわねえと……」 「後者だったら、俺が今やれる」 ザルドズが進み出て、扉に手をかざす。 波紋のようなものが見えたと思えば、すぐに消える。 「『フォースフィールド』。空気震のような視覚はあえて見せている。通常は見えないんだ。こうでもしないと疑うだろう?」 時空魔導の一つ、上級魔導に属するフォースフィールド。これもウォール系の一つであるが、時空魔導自体、使用者が限られている為に一般は使用する事ができない。その中の一人がザルドズだ。 「何故八賢者は一般人に正体や名前を明かさないか、分かるか?」 ツァイトからいきなり問われるグラント。 「さあ……?」 「こういう能力があるから、例え些細な事物であろうと人から頼られてしまうのを恐れている。何でも出来ると思われるのは御免だし、使いっ走りではないんだ。やれるところは他人に頼らず自らの力で行う事。今回のような緊急時や自らの限度以上による行動の場合だけ力を貸す。言っておかないと誤解されかねないからな」 「念の為心に留めておくよ……で、それでカメラやマイクの遮断が出来るのか?」 「一応は。気休め程度にしかならないかもしれん」 自信無さげに伝えるザルドズ。ツァイトは携帯を出す。 「SPへの指示に関してはこれで。L・Iインダストリー製の次世代携帯電話、名称は未定のままだが行政用の試作機だ。ただ、これは貸出用だから返してもらうぞ」 「何処にでもある電話に見えるな」 「ここ最近、音声の聞き取り辛さなど一部の電波障害が起きているらしい。原因は不明だが、恒星ソラリスの活発な太陽風やアスールのマグナストーンによる影響とも言われている。既に別の携帯電話会社も他のルートで開発を開始したと聞くが……汎用ではないらしいしな」 「L・Iのは汎用って事か。しゃあねえな」 グラントは借りた携帯電話で、SPに指示を出す。 ついでに、グロウヴネスト周辺に非常線を張り、道路封鎖も頼む事にする。 「こっちの情報を秘匿する事、それと相手の情報を制限するのは基礎中の基礎だからな」 「分かってらっしゃる……誰かこっちに来るな」 エアバイク『ラリー』に乗って、マリー・ラファルがやって来た。 「ツァイト……官邸内に乗り物で入ってくるのは違法ではなかったか?」と、ザルドズ。 「黙認しているんだ。持ってくるという事は、何かをやらせるという事だな」 「勿論。突入に備えての待機といったところかな。先程、ここのコンピュータにハッキングを行なって、セキュリティ掌握とちとせの侵入ルートを割り出させたんだよ」 「ああ、どうりで揺らぎが……」 上を見上げるツァイトとザルドズ。 天井には梨須野ちとせが待機しているのだ。 「他世界ので簡単にアクセスされるとは……再構築を考えんとな」 「いや、それが……手間取っちゃってね。結構慌ててたんだよ」 「それでなくとも現実はこうなったのだ、あとで保安部と再検討せねばならん」 ハッキングされたらセキュリティの意味が無い。 ツァイトは頭を手でおさえる。ワイト・シュリーヴ大統領が戻ってきたら検討してみようと思った。 マリーは眼鏡型のARM『フィールドシーカー』に内蔵されているセンサーのチェックをしながら、 「ちとせの準備とかあるから、マイと話している間ばれない様に時間稼ぎを頼んだよ。あと、かなりの悪戯と無茶な突入も考えてるから、何が起ころうと堂々とする事」 「それは言われなくとも、ツァイトは余程の事がない限り大丈夫だ」 ザルドズの言う『余程の事』とは、感情になりやすい時点の事なのだろうか。 「俺も天井から突入と考えてる。ちとせとは少し離れたところからかかるのが良いかな」 ちとせのいる通風孔とは別のルートから突入する事にするグラント。 「しかしあの御仁もそういう運命なのかねえ……男のヒロイン属性付与ってのは微妙だし、まあ、さらわれたなら奪い返すってのが、あたしなりのやり方さね。気合入れていくよ」 マリーは拳を強く握る。 ツァイトは彼女の言葉を思い出しながら、手を顎に当てる。 「セキュリティを掌握したと言っていたな。マイクやカメラは全て遮断されているから、影響は出ないとしても……俺のほうも急がないとならんな」 と、別の方向から、また誰かが走ってくる。 「ま、間に合ったー」 「トリスティア、何故ここに? 未だ演習場にいるものかと――」 彼女本人は相当慌てていたらしく、息が未だ少し荒い。 とはいえ、エアバイク『トリックスター』で駆けつけてきたのには訳がある。 「ジョー・アヴァリティアが、大統領誘拐に関わってるんなら、軍のデータベースから詳細に調べたくて、ツァイトに閲覧許可を求めたいんだけど……まずはこの事態を何とかしなくちゃと思って」 「協力していい?」というような目でツァイトを見る。 「別に構わないが……マリーが無茶な突入を考えていると言っている」 「それの前に、私が先に行っていいかな? 交渉を装って、武装解除に見せかけるんだよ。その隙に隠し武器で……というわけ」 ツァイトは何も言わず、マリーを見やる。彼女は少し考えて、ため息をつく。 「そのほうがやり易いのかもしれないね。ツァイトの合図がどのようなのかは分からないけど、トリスティアのその行動が最終的な合図になりそうなら、あたしは構わないよ」 「何とかまとまった様だな。では、今度こそ行ってくるか」 扉に手をかけ、ツァイトは執務室へ入っていった。 ○ その頃の、通風孔にいるちとせ。 ツァイトが既に気付いている事を知る良しもない。 (前にもありましたけど、ナーガさんって本当に捕まるのがお好きですね。私より彼のほうが余程捕らわれのヒロインっぽいですわ) ため息をつくちとせ。 外見が女性に見られがちなのだから、仕方がないのかもしれないが。 おまけに、救出に向かうのは本当の『元』王子であるツァイトだ。 (でも気になりますね……話もそうですけど、マイさんはすぐにナーがさんに何かしようという訳ではないですし。っと、入ってきましたわね、本当の王子が) ちとせは暫く、上から様子を見る事にする。 ○ 「遅かったわね。何か外で話し合ってるような声が聞こえたんだけど?」 「色々と。どうせ想像はついているだろう?」 「何となくだけど、賑やかなのは確かね」 「本当にツァイトだけ来たんですね。誰かが無理してでも入ってくるのではないかと――」 「寸前のところに来てはいるがな。ところで名字は別として、マイという名前も偽名なのだろう?」 「まあね。本当は『マイケル』とか『マイク』とかにしようかなと思ってたけど、やっぱり女性っぽいほうがいいかなあなんて」 「それとSDS――おそらく、『七つの大罪』を意味しているのだろう? その頭文字がそれだと思われるが」 「当たり。『Seven Deadly Sins』が正式名称よ」 「じゃあ、やはり名前の通り7人だけの組織という事になるのですね」 「7人プラス1人よ、ナーガ」 「別に一人いるのか?」 「私達を作った人。『親』と呼んでるけどね」 「母体から生まれたわけではないという事か。作ったという事は、どのくらい経つんだ?」 「約2年よ。SDSでは私が最後かな」 「親って……父か母って事ですよね? 作ったというのなら、男性ですかね……博士タイプの」 「その根拠は?」 マイの問いに、一応思った事を言ってみるナーガ。 「何ていうか……話の内容からして、結局利用されるだけの捨て駒に見えるんですが」 「捨て駒……ね。理解してはいるつもりなんだけど、やっぱり人の生活に慣れると、『人』として生きたい意志が出来るじゃない」 「誰かの細胞や遺体から作られたのか?」 ツァイトは言いながら床や壁を調べる。 「半分は人をベースにしてるけど、残りは違うわ。後で教えるかどうかは分からないけど」 「確か、その大罪には象徴的な動物が当てられている。嫉妬は蛇、憤怒はユニコーン、怠情は熊、強欲は狐、暴食は豚、色欲はサソリ、そして傲慢はライオン……だった筈だが。まさか動物ではあるまいな?」 「どうかしらね。でも例えるならば、私は臆病な獅子よ。或いはヤル気のない獅子」 「ライオンは狩をするのが主に雌だからな」 「あのツァイト……何をやってるのでしょうか?」 ナーガはツァイトの行動がどうしても気になる。 「ちょっとな。大統領が留守の間に掃除してなさそうな気がしたから」 確かにツァイトは角の辺りで人差し指で床をなぞり、指先を見つめている動作ではある。が、他に何か書いている様にも見えなくはない。 マイはその事に気付かないらしい。 「そんなに潔癖症だっけ?」 「塵が積もっていては、気分的にも呼吸にも支障が出る。話は変わるが……お前の目的は俺か? 或いはナーガか? それとも両方なのか?」 ツァイトはマイの顔を見ず、問いながら別の角へ向かう。 ナーガは彼が立ち去ったその場所を見やると、小さな水晶柱が置いてあった。 (一体何を……?) 考えても分からず、ただ首を傾げるだけ。話はその間に進めている。 「『親』はナーガの奪取を私に命じていたの。ついでにツァイトも捕らえちゃおうかなーと思って」 「ついでというのが引っかかるが……後者は完全に個人的理由だな」 「だって興味あるんだもの。貴方の存在理由が」 「俺の……レゾン・テートル?」 「そう。私は傲慢の名を持って誕生したけれど、実のところ分からないの。命令もどうでもよくなったわ。私にとって本当の存在理由って何だろうって考えちゃってね」 「命令を実行する事もある意味存在理由になるが……それをやり遂げたり、途中で放棄する時点で理由は失われる。人生としてのレゾン・テートルは人それぞれだ、この世に生まれた時点では理由は無いが、親にとっては理由付けできる」 「生まれる事を待ち望んでいたというのが、肉親としての子に対する本当の理由付けだと思います。ただ、作られた場合、付加された機能と共に作られた理由がそれになってしまう」 「我々人類も動物も植物も……生命ある者は皆、一種の永久機能として戦う事を植えつけられているという。切り捨てる事は永久に無理かもしれんが、それは人を殺しあったり土地等価値あるものを略奪する為の機能ではない。生きる為であり、未来の為ではないだろうか」 「それが顧問官の存在理由?」 ツァイトは黙っていた。マイは仕方なくナーガに話を振る。 「ナーガは?」 「ツァイトの手伝いが出来れば、それが私の存在理由になるのではないかと」 「ナーガ……25年前の事、憶えてるか?」 「え?」 ツァイトが突然話に割り込んでくる。 「あの時俺はお前に言った約束の言葉だ――『俺はお前の為に生きる。だから、お前も俺の為に生きてくれないか』と」 「ああ、あの時ですか……ええ、憶えていますよ」 「王族出身にしては、お願い事のように聞こえるわね。それに、何かプロポーズっぽい――」 「それ以上言うなよ」 ピッとマイに指すツァイト。警告のつもりらしい。 それでなくとも、誤解されそうな台詞である事は間違いない。 膝をついて床を調べるように水晶柱を置いていたツァイトが立ち上がり、言葉を呟く。 「――『フォルティアーレア』、発動……」 「何か言った?」 「いや、独り言だよ。大統領が戻ってくるまでの一仕事が出来たなと」 ある意味間違ってない言い方だ。 マイは感じなかったが、ナーガは空気震に似た気を感じ取る。 (これ……結界ですよね?) ツァイトは目を瞑り、考えるような仕草をしながらザルドズにテレパシーで連絡を取る。 天井や扉前にいる4人にも伝わるようにしてはいるが、はっきり言って精神力を多く使う。 (ザルドズ、完了した。話した通りトリスティアを先に入れてくれ) ○ 「――トリスティア、準備は?」 「いつでも! それじゃ行くよ」 彼女が手に持っているのはレーザーキャノン。 執務室からの視界を避けるように、マリーとザルドズが隠れる。 トリスティアは扉を思いきり開ける。 「いきなりでごめんね、そこのキミと交渉がしたいんだけど」 「初めて見る顔ね」 今まで武器開発で勤しんでいたトリスティア。実はマイとは初対面になる。 「ボクは色々と忙しいからね」 「未成年で武器を持つなんて、昔のヴェレ王国時代みたいね……本でしか見た事ないけど」 「少年兵は他惑星でも未だ存在している。ただ、原則としては成長時に悪影響を及ぼさないよう禁止されている。彼女は少年兵ではないよ」 「ツァイトの言う通り。ボクは理由があるから武器を持ってる。でも、今は交渉優先だからこれは不要かな」 トリスティアがレーザーキャノンを投げ捨てる。言葉通りの武装解除。 (それにしては何か余裕があるように見えるんですけど……) 不思議に思うナーガ。 「おもしろいわね」 ニコニコしているマイ。放り投げた武器を見る気配はない。 「貴方もプライドという言葉に当てはまるかもしれないけど、傲慢ではなさそうね……自尊心に近いかな」 「そういうキミは?」 「傲慢の名でありながら、それのように生きる事なんて出来ないわ。返上するだけよ。もうすぐいなくなるしね」 「マイさん、時間が無いと言いましたよね。いなくなるといっても、どうやってここを出ようと考えてるのですか?」 ナーガはどうしても気になる事をマイに聞きたい。 「この姿で出るという意味ではないわ。そのままの意味よ」 目を伏せるマイ。トリスティアはその瞬間を逃さなかった。 スカートの内側に隠してあるL・Iインダストリー製拳銃『LI−2500』を取り出し、急所を外して発砲する。 銃弾はマイに当たった――筈だった。 しかし、傷が見当たらない。血も出ていない。 肝心の弾は、後ろの壁に当たっている。 「うそ……体を通過した!?」 2〜3発撃っても同じように通過して壁に当たった。 上から見ていたグラントは眉をしかめる。 (何だあの緑の蛍光色みたいなものは……?) マイの身体を弾が通過する際、その軌跡として表れたらしい。 ちとせもそれを見ている。 (人間ではないのでしょうか?) 通過した部分に手を当てるマイ。何か行動を起こそうとする仕草を見せている。 「そうはさせません、フェイタルアロー!」 通風孔から手を狙って矢を放つちとせ。 しかし、これも通過してしまう。 「これでは血液やら細胞をサンプルとして取る事ができませんね」 「ちっ、仕方ねえ!」 マイからちょうど死角の位置にいるグラントは、不意を突くべく天井から飛び降り、ナーガとマイの間に立つ。 「よう……随分と好き放題してくれたな。秘書官とはいえ代価は安くねえぞ。俺は女には手加減しても、オカマには容赦する気は微塵も無え!」 マイが死なぬ程度に刃を反して叩きのめそうとしたグラントだったが、 「な……これも素通りしちまう」 本気で斬ろうとしても、何処にも引っ掛からないかもしれない。 (不死なのか、こいつは……?) 柄を握り体勢を整えるグラント。 「だったら、これはどうさね!」 マリーの声と同時にスプリンクラーから水を放出。警報を鳴らす。 水分ならマイの身体に影響が出るのではないかと思ったからだ。 警報は彼を混乱させる為の手段に過ぎないのだが。 バイクで突入し、マイに目掛けて飛び降りてタックルを仕掛ける。 「観念したほうが身の為だよ!」 ところが、マイの身体を素通りして、マリーは壁に激突。 「いーったたたたた……何だい、あの体の構造は?」 マリーは元より、ナーガ達も驚きを隠せない。 「皆さんが攻撃しても素通りするほどの成分って……軌跡は綺麗なんだけど」 「何あれ……血じゃないよね?」 ちとせも降りてきた。 「私は作られた者。人間であって人間ではないわ。私を形作っているものに過ぎない」 「どういう事だよ、さっぱりわかんねーぞ!」 「だが、この世に生まれた以上、生命あるものである事に変わりない。何か細胞がかい離しているようにも見えたが」 そう言いながら、ツァイトはザルドズに軌跡のデータ検出を命じている。 「核となっている心臓の部分――これが磁石となって、何かをくっつけているだけ。聞いた話だから実際は分からないし。作った『親』本人でないと」 気がつけば、少しずつであるが粉薬が上へ溶け出すように、マイの身体から緑の蛍光物体らしきものが出ている。 「なるほど……固着機能という訳だな」 納得するかのように、ザルドズがサングラスのツル部分のボタンを押し、分析を終える。 「酸素や炭素、水素、窒素、カルシウム、リン等が検出。人体の原子レベルと同等だ。それらを固着しているのが心臓部分にある核という事になる。血液は残念ながら反応無し。現在の状態で既に無くなっていたのか、或いは元から無いのか――」 「顧問官、頼まれてくれるかしら?」 「珍しいな。何だ?」 「エンジュ・ケストレルに、『別れの挨拶代わりに私の机のもの全部あげる』と伝えてくれる? 私自らじゃもう言えないから……」 冷静さを装ってはいるが、よく見るとツァイトの表情は曇っている。 「いなくなるという事は、消えるという事なのですね」 困惑顔のナーガ。 「自らの意志で消えるんじゃないわ。『親』が何処かで私固有の消滅信号を発信したから」 「え? カメラやマイクは遮断している筈だよな? 他の機械は確かマリーが掌握――」 「セキュリティはあたしが掌握してるから、別……つまりそれ以外って事じゃないのかい?」 「顧問官を呼び出す前から受信したの。やはり私は失敗作なんだなって。『傲慢のスペルビア』になりきれなかったって。普通の人間として生まれてたら、どんなに楽しい人生なんだろうって思っていたけれど」 自分の人生は、遠くにいる『親』によってここで終わる。マイは右手を胸に入れ、中から掌大の赤い球体を掴んで取り出す。 「それと私の事を調べたいんでしょ? なら、これしかないけどね……何か出るかもしれないし、逆かもしれない。終わったら、核もエンジュに渡しても良いわよ」 急にマイの身体が消滅するスピードが速くなった。 「マイさん!」 「透明な部分があるけど……そこから見えるのは、私の元となったもの」 赤い球体の内側は、上部にだけ細かい電子部品が備え付けられている。 それ以外に親指の爪ぐらいの白い球体と、茶系の毛が少し入っていた。 「他の6人は……私より厄介かもしれないわ。ツァファの外れに……いると聞いた」 「大統領が捕らえられている場所も含めてか? しかし何故話す気になったんだ」 「せめてもの……罪滅ぼしかな……消えたら……遺体の無い葬儀に……なっちゃうわね……『親』にも気をつけて」 「その『親』は誰だ? 俺を知っているらしい人物がそうなのか? 何処にいる?」 ツァイトの知る人物を知りたい。しかし、マイは力なく首を横に振る。 「ごめんね……ヴェレスティアには……いないって聞いた事が……名前も知らないもの……何とも言えないわね……顧問官、やはり貴方は……次期大統領を継ぐべきよ。自然・人工を問わず……全てのものをまとめる事ができる者は……王族の生き残りである顧問官しかいな……い……私は……そう……思ってる……」 そう言い残して、マイは消滅した。 ナーガの手には、彼の核が残されている。 「誰かの複製人間なら、細胞劣化から極短命種なのではと思っていましたけれど……」 数ヶ月前似たような人物がいたのを思い出すちとせ。 「事態を沈静化できたのは幸いだけど……何か心残りしそうだよね」 床に投げたままのレーザーキャノンを拾うトリスティア。 周囲が何も言えぬ沈黙の中、ツァイトが口を開く。 「……フォースフィールドを解除しろ」 ザルドズは言われたままに解除する。通常見えないのだが、これもあえて視覚的に解除を見せている。 ツァイトもフォルティアーレアを解除し、机の上にあるインターホンをつける。 相手はマクシミリアン・フィンスタイン副大統領。今までの経緯を話すと、彼は驚いていた。 「まさか彼女が……いや、彼がSDSの関係者だったなんて……」 「誰も見抜けなかった事は過ぎた事だ……仕方がない。それと、エンジュにマイの遺言を伝えてくれないか」 「分かりました……」 「話は変わるが副大統領、陸軍の第1陸上兵士団26部隊を現時点をもって一時凍結して欲しい」 「26部隊――確か、フェ・アルマ部隊ですよね。それが?」 「部隊長のジョー・アヴァリティア曹長もSDSに関与している可能性が高い。その部隊全員が彼の正体を知っていたかどうかは分からんが……他の傭兵部隊も一部行動を制限してくれないか」 「やってみます」 話の途中でトリスティアが割り込んでくる。 「ツァイト、軍のデータベース使いたいので閲覧許可をお願いしたいなあ」 「そうだったな。わかった……ただ、何か出るかもしれないし、逆に出ないかもしれない」 「有難う!」 トリスティアは喜び勇んで、情報分析室(IAR)へ向かう。 ツァイトは再びマクシミリアンと話をする。 「後を頼みたい。これからツァファへ行ってくる」 「え? そんないきなり」 「現在の大統領代理はお前だ。それに次期大統領として、ここを離れる訳には行かないだろう? 俺は、自分の目で確かめるべきなんだ。責任もあるが、動かなければ気がすまないんでな」 ツァイトはマクシミリアンが次期大統領に相応しいと思っている。 ワイトの側で見聞きしている彼ならば、この国を任せられるのではないかという期待感を。 「了解しました。念の為、司法公安局を通じて犯人捕獲と大統領保護の準備をさせておきます。お気をつけて」 インターホンを終わらせ、下の引き出しを開ける。 「私も一緒に行っていいですか?」 ナーガが同行を求めている。眉をしかめるツァイトだったが、 「どうせ止めても隠れて付いて来るつもりだろう? どちらにしろ、援護としては役に立つかもしれんな」 「役に立ちますよ……って、それは」 ツァイトが赤い小さな箱を取り出し、中を確認する。 正方形を多くかたどった様な黄水晶の増幅器が一つ入っている。 細長い筒状ではあるが、片方の耳に取り付けるタイプのようだ。 「地の賢者の証であるアクセサリーだ。この前のビデオメールで、ワイトが言っていただろう?」 「私に預かった『あれ』、もうそろそろ本人に返すべきだと思うのですが。それとも、貴方が持っていますか? どちらにしろ、近いうちに必要な気がしてなりません。願わくば、その時が来ない事を願いますよ……」 「『あれ』が、このアクセサリーだ。持ち主本人である賢者は多分近くにいる。隠居時に魔導をセーブしているからな、その解除を行わなければならない……」 「封印したのはツァイトでしたね」 「面倒臭いが、今は緊急事態だからな。さて、誰か一緒に来てもらいたい。調査を続けたい場合は止めはしない――行くぞ、時間が惜しい」 黄水晶のアクセサリーを懐にしまいこみ、ツァイト達は執務室を出る。 ナーガは出る前に軽くお辞儀をする。 「マイさん……お疲れ様でした」 例え作られた存在で敵だったとしても、行政の秘書官として礼の一つしても良いのではないだろうか。 生まれてからたった二年で消えてしまった者に、生まれ変わる時は普通の人間として生きる事を、ナーガは祈らずにはいられなかった。 Scene.2 追跡 姫柳未来とラウリウム・イグニスは、ジョー・アヴァリティアの追跡調査を行なっている。 「ごめんね、つき合わせちゃって」 「別に構わないわ」 「わたしはテレポート出来るけど、ラウリウムを背負うわけにはいかないしね」 「車で後からついて来てるから大丈夫よ。今何処なの?」 「もうすぐミツパ州に入るよ。それにしても別件って何かな?」 向こうで云々考えている未来の声が聞こえる。 「ジョーの尾行と聞いた時は、未成年1人で大丈夫なのかと今でも心配してるんだけど」 「大丈夫だよ、いざとなったらパパッと離れるから」 未来がジョーを尾行している理由。 それは、彼が大統領誘拐事件に関わっている証拠を押さえる事。 得意のテレポートで人目を避けながら尾行しているのだ。 (隠しカメラと盗聴器で絶対に証拠を押さえてやるもんね) 「ところで未来、トリスティアからの連絡はまだなの?」 「……らしいね。時間かかってるのかなあ。向こうもバタバタしてるし」 ○ 一方、情報分析室では。 「ジョーに関する情報はこれだけ……」 トリスティアが腕を組んで考え事をしている。表示された画面とにらめっこをしているかのようだ。 不真面目で強欲な性格が難有りだが、気さくである事、部隊長としては訓練時・派遣活動時共にまとめている事が書かれている。 他は特徴的な事は見つける事がなかった。 「うーん……難しいね。なかなか尻尾を出さないってか。それとも嘘の事も混ぜてるのかなあ」 先程の事も含めて、未来に連絡する事にした。 ○ 「え? マイって人消えちゃったの!?」 驚くのも無理はない。 実際に見ていなければ信じようが無いからだ。 「という事は、ジョーも他の仲間らしき人もそうなるって事なの?」 「今の状態がどうなってるかわからないけど……『親』って人が消滅信号を送っていない限り、普通の人間と変わらない状態になるんじゃないのかなあって」 「トリスティア、ジョーの事は? 何か掴めた?」 「まったく。普通に書かれているっぽくて。もう一度調査してみるね。何か見つけたら報告するから」 通信が終わり、ふうと未来のため息が聞こえる。 「早々簡単に見つかるわけないよね。こっちで何とかしなくちゃいけない事態になっちゃうかな」 「ジョーの居場所を見つける事が先決よ」 「わかってるよ。今ミツパ州に入ったから。ツァファとかツォアルとか……この州に何かあるのは間違いないね」 「急ぎましょう」 依然としてジョーの姿を捉える事ができない。 が、見つけ出すのに時間がかかりそうだ。 Scene.3 別れと再会 スナックバー『バブルアイル』。 情報収集の際に楽しそうな理由で付いてきたリュリュミアだが、昨日あれだけ酒を飲みすぎた挙句、そこにいた客は元より店員に迷惑をかけた筈なのだが、こりもせずやって来た。 これくらいのお金は必要だろうと、今日は一応500ウィルを用意してきた。 この店では高級ワインが多くあり、一杯30ウィルと高め。一般的に出回っている酒やビールは、それでも一杯15ウィルだ。 ただ従業員達は、騒がれて店の恥と思われたくない一心で、彼女に対して注意深く監視体制をとる事にした。 注文数も2杯までとし、アルコール度数の低いものしか出さないようにした。 こうまでしないと、店を廃業にされてしまうくらいの騒動事件に発展しかねないからだ。 「あのぉ、何で3杯以上は駄目なんですかぁ?」 「自分の胸に聞いて御覧なさい……といいたいところだけど、憶えてないのかもね。飲酒は2杯程度が適度なの。それ以上飲むと、腎臓とかがおかしくなるわ。アルコール依存症になったら、もっと大変よ」 マリアンは接してくれているが、これも仕事上の付き合いだけで、本心はどうだか分からない。 男性客には受けが良いリュリュミアだが、中には静かに飲みたい御堅い客もおり、怒りを抑えているのが見える。 「そういえばぁ……あのジョーって人と恋人同士なんかじゃなかったんでしてっけぇ?」 「何処でそれを聞いたの? 盗み聞きはいけないわね」 「見た目の雰囲気が恋人って感じに見えたんだけどぉ、違うんですかぁ」 「あの人は強欲だからね、ついていけない部分はあるわ」 「ふうん」と、リュリュミアは一口つけて、別の話をする。 「ダンディってどんな感じの人を言うのかなぁ。ナガヒサの事ですかぁ?」 「ナガヒサ? ああ、L・Iインダストリーの元社長さんね。確か……2ヶ月前の交通事故に巻き込まれて、結局身体損傷が激しく治療は困難だからアンドロイドの中に脳を移植した――という報道が」 「え、そうなんですかぁ? わたしよくわかんないなぁ」 実際ナーガが若返った為にアンドロイドのナガヒサがそのまま引き継いだに過ぎないのだが、世間一般はこの報道以外何も知らされていない。もし真実を知ったら、ナーガの身が危ない事は確実だ。 「確かにナガヒサって人も良さげだけど、あの赤髪の人のほうが好きね。何か影がありそうで」 「ツァイトの事ですかぁ? でも誰にでも影は出来るよぉ」 「実際に見える影ではないわ。見えない影もあるのよ」 「ナガヒサとツァイトに会ってみたいなら、今度一緒に連れてくるけどぉ」 「せっかくの申し出、遠慮させていただくわ」 「二人が忙しいからっていうなら、今度休みの日を聞いてきてあげますよぉ」 「違うの。私、今日でこの店を辞める事になったから」 突然のマリアン退職宣言。 「え……そうなんですかぁ? 未だここに通ってから2日しか経ってないんですよぉ。何で辞めるんですかぁ? 別の所で働くんですかぁ? それとも好きな人が別にいて結婚するんですかぁ?」 「それは個人的な事で、貴方には関係のない事だから話せないわ」 水商売に勤める者達は、わけあって働く理由がある。話したくない事だってあるのだ。 店長が大きな花束を抱えて近づく。 「マリアンさん、もうそろそろ店閉めます……それと、お疲れ様でした」 「あ、ありがと……でも、こんな気遣いしなくても良いのに」 「会えなくなるのは寂しいですぅ。わたしも一応プレゼントしたいですぅ」 「だからいいわよ、2日目で無理にプレゼントしなくても。その気持ちだけでも十分だわ」 「え、そうですかぁ? でも種からすぐに花を咲かせるのになぁ」 「あらそうなの? じゃあ、そこのポットに一粒だけやってみて」 土だけの入った植木鉢がある。どうやら前に咲かせてあった植物が枯れて、処分してからあまり時間が経っていないようだ。 「それじゃあ、咲かせるよぉ」 種を植えてから数分で一輪の花を咲かせるリュリュミア。 「本当に凄いわね……でも、受け取るわけにはいかないわ。ポッドは店の所有物だから、ここに置かせてもらいましょ」 カウンターに置かれた鉢を見、マリアンは従業員に礼を述べる。 「皆さんには約3年間、お世話になって有難う。世間の事は何となく分かってきたつもりよ」 別れを惜しみ、すすり泣く従業員。 「リュリュミアも短い間だけど来てくれてどうもね。それと、お願いがあるんだけど」 「なんですかぁ?」 「またここに来る時は、従業員さんの言う事はちゃんと聞く事。飲み物は2杯までとかも含まれるわ。それと、お客さんに迷惑をかけない事。貴方が初めて来た時、他のお客さんから苦情が沢山来てたからね、本来なら貴方は入店禁止になっているけど、皆渋々許可したんだから、それを忘れないで。もし同じように騒ぎを起こしたら、今度こそ入れなくなるから気をつけて」 「マリアンがそう言うんなら、仕方ないかなぁ」 「じゃ、後は宜しくね」 リュリュミアと従業員が見送る中、マリアンは夜の街へ消えていった。 ○ L・Iインダストリー、運輸課車両研究部。 ここは、自動車及びバイクといった運輸に関わるものを研究する機関。 アノール3台も、ここでデザインされた。 そこに、テツト・レイアイルが社員と話をしている。 「次世代の車両のデザイン、まだ決まっていないのですが……」 「仕方ないですよ。皆さんは夜遅くまで働いている。なかなか難しいですね」 「申し訳ありません、それではもう少し考えてきますね」 ガックリと気落ちしている社員を見送るテツト。 「ちゅこちでも、ながーくてもいーから、あいちてほちーなー」 アホ……もとい、犬のジョリィがちょこんと側で座っている。 何か社員の心を代弁しているようでならない気が。 「……何かあったでしょ?」 「なんもないぢょ。ただいってみただけー! ちょれより、てっちんてっちん」 「まだ『てっちん』って……社長が『ちゃちょー』となってしまうよりマシか。もしかして、お腹がすいたのかい?」 「ちがうぢょー、おきゃくちゃんだにょー」 「客?」 テツトが遠くに目をやると、そこに一人の壮年男性が。 「貴方は……確か、ケイン・セヴン博士」 「よく憶えていましたね。忘れ去られるかと思いました」 「忘れるも何も、アノール製造に携わっていたセヴンさんが、5年前に突然行方不明と聞いた時は驚きましたが」 「私を死亡扱いさせないで下さい」 苦笑いのケイン。 「最近、会社が動物園化してませんか? 前の時も動物はいたとはいえ」 「それを言われるとちょっと辛いなあ……」 「うわーい、よーちえんよーちえん」 ジョリィは喜んでいる。にこやかな表情のケインはさらりとツッコミを入れる。 「誰も幼稚園とは言ってませんよ。そういえば、この子もヴェレ生まれの――」 「いえ、3世代目です。ヴェレ生まれで今も生きている動物なんて、殆どいないでしょう。それらは人間の為に実験素材にされた犠牲者です。今の時代は、パートナーであり家族や友人の存在ですからね」 テツトはジョリィの頭を撫でながら、話を変える。 「アルカス共和国にも帰っていなかったようですが……一体何をしてたんですか?」 「申し訳ないが、それは個人情報によりお教えするわけにはいきません、というわけにもいかないでしょう。長い事、知人のところでお世話になっていて、世界中をあちこち回っていたのです」 「では、ここに来た理由は?」 「ちょっと顔出しに。今日の夜、ここを発ちます」 「また急ですね。何処か、協力要請をされているんですか?」 ケインは暫く考えるが、 「ええまあ、皇和国に。内容は極秘ですが」 「皇和……」 「確か、貴方のお父上であるナガヒサ前社長がそこの出身地でしたね。故郷に帰ってないと聞きますが?」 「それは、父に聞いてみたほうが早いですよ」 「そうでしたな。で、久しぶりに彼の顔を見たいのですが、今何処に?」 「多分……遺跡のほうに。地下のほうを何人か一緒に調査しているようです」 「あの天宮遺跡(ヴァーヌスヴェレ・ルイン)にか。しかし、あの地下は政府から許可が下りないことには……」 「許可はされているそうですよ。顔出しだけなら、行っても大丈夫なんじゃないでしょうか。ちょっと待って下さい、エストに遺跡に連れて行ってもらうよう同行させますから」 テツトはエスト・ルークスに連絡を取る。1秒後、彼女が次世代の携帯電話(一般用の試作機ではあるが)を持ちながら入ってきた。 「早っ」 「ちょうどこっちに来る時にタイミングよく鳴ったからね。私は全然OKよ」 「無理にそうさせなくとも――」と、ケインが丁重に断ろうとした。 「いえ、ここ最近天空階級の一部が不穏な行動をとってるらしくて……何が起きて何に巻き込まれるか分かりません。国際空港まで警護という形で同行させてもらいます」 「探偵でも、元警察官なのでご安心を。では参りましょうか」 ○ 天空遺跡、海水の溜まっている地下14階。別名、実験体用捕虜保管区域。 シャル・ヴァルナードはアーマードエアバイクに搭載されている雷のアーツにケーブルを接続して、開かずの扉と化している場所を開けようと試みている。 (無理は承知の上。非常電源が入ればいいんですが……) しかし、反応がない。 (水に浸かっていたせいもあるのでしょうか、漏電してしまったのかもしれませんね) 開かずの扉の中には、少し曲がっているものもある。大地革命時に墜落の衝撃かなにかでそうなってしまったのだろう。 「他の部屋と同様、白骨死体や割れたケースがあるかもしれませんし――」 物理現象たる電気は、どの世界でも共通というわけにはいかないようだ。 「もしかしたら、マグナエネルギーが緊急用の『レクトロン』を兼ねているかもしれませんよ」 ナガヒサ・レイアイルがデータ収集しながらやって来る。 「マグナエネルギー……ですか? レクトロンというのは、電気の事を指すみたいですが?」 「この巨大なヴェレ王国――浮遊力の強い、巨大なマグナストーンを使用していましたからね。このソラリス太陽系ではマグナエネルギーが主な電力です。水や風、火、太陽光も利用しますがね。因みに、レクトロンというのは学者しか使用していない言葉なのですが、本来『琥珀』を意味します。それ同士をこすり合わせると、静電気を生ずる事からそう言われています」 「つまり、ここは雷系統のは効かないという事ですか?」 「どちらかというと、シャルさんの世界で使用している電気とは合わないのかもしれません。或いは、大量のマグナストーンが必要なのかもしれませんし。ストーンの採掘量はある意味貴重で限定されていますからね、どちらにしても政府や民間の企業は貸与しないでしょう」 「そうですか……」 腕を組み考え込んでしまうシャル。扉を強行破壊するしか他になさそうだが、振動によって、この階どころか遺跡全体が崩壊の事態になりかねない。 「地下15階以降の移動手段が潜水以外出来ない以上、上の13階まで戻るしかありませんね」 「ところでシャルさん。頼まれたものですが――」 ナガヒサはシンスと書かれていた紙に記されている七つの単語に関して、アヴァリティアとスペルビア以外の苗字として使用されているものがないか調べていた。 「ヴェレスティアで該当するのは一人だけでした。えーと、『ルクスリア』というのが該当します」 「ルクスリア? ルクリアではなく?」 「ルクスリアです。この方は自由業の女性らしいですね。いわゆる水商売で働いています」 「一人だけという事は、他は見当たらないという事ですね」 「ヴェレスティアではいませんね。他国にいる可能性が高いです」 シャルがルクスリアの名前を聞こうとした時、エルンスト・ハウアーが戻ってきた。 「……何か、動物のように水面にひょっこり現れましたね」 「雰囲気をぶち壊してしまったかの? それは申し訳ない事をしたなんだ」 「いえいえ、海底まで行ってきたようですね。お疲れ様でした」 エルンストは海水から上がり、一枚の紙切れを渡す。 「収穫はとりあえずこれだけじゃ。幸い、耐水性らしいから原形を留めておったわい」 「次世代胎児出産計画……そういえば、データに該当しますね」 美形揃いのヴァナー人と、魔導能力が一番高いキャエルム人。この二惑星人の女性にヴェレ王国の男性と結んで混血児を生み出すという計画を、ナーガがツァイトから聞いた事がある。 ティーマはその事は言わない性質だ。興味のある事しか口に出さないのだろう。 キャエルム人に関しては、性別は一切関係無い為、外見が女性っぽいのを連れてきた事が挙げられる。 「ただ、ヴァナー人はともかく……キャエルム人は同じ人種同士でないと、魔導能力は劣ってしまうんですよ」 「それでも魅力的な事ではあったというわけじゃな。何とも嘆かわしいわい」 「人の意思を無視してまでやるような感じですね。見た目や能力にこだわるのは、場合によっては嫌なものに変わってしまう」 三人は考え込んでしまう。静まり返る中、エルンストが口を出す。 「もう一つ話さねばならん事がある。ずっとワシは気になっておったんじゃ」 「何をですか?」 「大地革命によって、皇帝と天宮に住む人々を倒して終結した――という話がのう。綺麗にまとまり過ぎてるんじゃが」 「まとまり過ぎ……ですか?」 ナガヒサの問いに頷くエルンスト。 「ここまで高度な文明の国家が、降伏もせず逃げ場もなく滅亡した……というのは、何かのジョークに見えてならん。普通は生き残りの王族やら抗戦派が脱出して、今みたいに長らく政情不安の元になったりするもんじゃが」 「確かに。今でも天空階級の一部――ノヴス・キャエサルが色々と行動を起こしているようですけど」 「ワシはこんな施設ならば、多分一部のブロックをパージする脱出機構が備わってる筈だと考えておったのじゃよ。じゃが、そんな話を今まで聞いておらんしな」 「そう言われてみれば、そうですよね……」 考え込むナガヒサ。それはつまり、ナーガも知り得ていないという事になる。知る必要がなかったかもしれないが、ティーマが故意に話していない可能性も否定できない。むしろ、その件に関しては興味の対象外なのかもしれないが。 「ワシが調べた限りでは、地下35階から下がスッパリ無くなっておるんじゃ。恐らく、パージして脱出した跡じゃろうな。この意味が分かるかの?」 エルンストが言うには、これほど巨大な施設を誰にも分からないように分離させて、それ以降に何年もの時間をかけて一人も暴走する者や脱落者も出さず計画を遂行しているらしいと思っている。今までの雑魚とは比較的にならない程、相当な規模の訓練を受けた集団が高度な施設と装備を保ったまま現在も潜伏――しかも、統率している者はかなり優れた統率力を持っていると見てよいのだろうと。 「統率者に相応しい者ですか……」 さすが予測力だなとシャルがしている中、ナガヒサが割り込む。 「ティーマはヴェレ王国の頂点に立っていた御方でしたからね。政治にはあまり関与がなかったらしいですし、統率力があったかどうかは私でも図り知りえませんが……どちらかといえば、ツァイトのほうが若干あるんじゃないのでしょうか。他で統率者として考えられるとなると、八賢者を除けばIGKぐらいでしょうか」 久しぶりに聞く名――近衛騎士団(エンペリアル・ガーズ・ナイツ)。 八賢者と同じ皇帝直属の組織の一つであり、八賢者がツァイト側ならば、IGKはティーマ側に近い。 「策士がいてもおかしくない筈ですが、全員把握しているわけではないですからね。そういえば、数ヶ月前にナーガが未だ『ナガヒサ』の姿だった時、IGKの一人と接触したとか」 「ああ、いましたね……アール・エス・フェルクリンゲンでしたっけ。今も彼は樹脂凍結のまま、市の地下深くにある凍結安置所に管理されているんですよね」 「『今のナガヒサ』として、一度も会った事の無い私が言うのも何なのですが」と、付け加えるナガヒサ。 「現時点では、彼に関する動きは全く見られないようですね。仲間が奪取したとかという噂すら出てきません」 「とりあえず安心という事じゃな。ともかく……これは下手をすれば、今起こっているテロ等とは比較にならん程の騒乱が起こる可能性もあるという事じゃ。ワシは早く政府に知らせる事を提案するぞい」 「一応仮定の段階とはいえ、言うべきでしょうね。でも、今は大統領が……」 「副大統領には知らせるべきですね。大統領不在中は、彼が代行を務めるわけですから」 「そうじゃな。無事に救出できたら、改めて言うべきじゃろう」 「でも」と、ナガヒサはパージの件で疑問を口にする。 「もしパージして脱出したのでしたら、あんな多くの階の部分は地上にいた多くの人が見ていた筈ですよ。誰もそれが脱出したところは見ていませんし。海に墜落する寸前まで下の部分があったのは報告されています。大掛かりな爆発があった事も報告されているようですから、その煙を隠れ蓑にして脱出した可能性は高いにしても、失われた部分は一体何処にあるのか……」 「他の場所に堕ちたという可能性は否定できないにしても、そんな情報聞いてないのでしょうか?」と、シャル。 「多分……自信はありませんが」 「こっちは聞いてないですねえ」 階段から別の声がする。 三人はその方向に顔を向けると、エストとケインがやって来た。 「立ち聞きするわけではなかったんだが……割り込んだら申し訳ないかなと思って」 「こんな地下まで調査なんて……お邪魔してごめんね。博士、ケイン・セヴン博士を連れてきたけど」 「改めてレイアイル社長……ではなくて、もう引退された身でしたね」 「セヴン博士……! 音沙汰がないから、てっきり事故にでも遭ってしまわれてしまったのかと」 「勝手に想像しないで下さいますか。息子さんにも言われましたよ」 「テツトに会われましたか。でも元気そうで何よりです」 実際、ナガヒサはアンドロイドとしては初対面であるが、ナーガの『ナガヒサとしての記憶』が共有されている為、すぐに対応する事ができた。お互い握手を交わす。 「顔見せという事で、久しぶりに会いに来たのですが……もうそろそろ空港へ行かないといけませんのでね」 「それは残念です。で、何処へ?」 「貴方の故郷ですよ」 「――皇和国ですか。精密機械に関しては、1〜2位を争う国ですからね」 「ついでに想像力とデザイン性に関してもね。アニメーションやマンガの分野でも皇和製のが良いと言う人もいますから」 困惑顔のナガヒサ。ナーガならば、少し悲しげにすべきなのだろうが。 電子音が鳴り響く。「ちょっと失礼」と言って、ケインは携帯電話を取る。 「地下でも電波は届いてるんですね」 「最新のは障害にならないよう改善を務めているんだもの。水中は故障の原因になるから無理だけど」 「……ああ、そうですか。それならば仕方がありませんね。破棄せざるを得ないでしょう。すみませんが、時間がないので続きは皇和国に行ってから連絡下さい……では失礼します」 通話を終了し、携帯電話を軽く小突くケイン。 「破棄って……?」 「ああ、これは失礼。機械作成の勉強にと色々歩き回ってたので、整理した書類が不要になってしまいまして。秘密保持の為にと処分をお願いしたのですよ」 「まさか、アノールの事も書いてあるのでは?」 「いつかアノールを越えるような車を造りたいですからね。新しいシステムを開発したら特許をとりたいと思っていますが。それに、機密事項箇所は処分しておかないといけない決まりでしょう? 頭の中に憶え込ませるだけで十分なのでは」 几帳面だなと、ナガヒサは改めてケインの性格を知る。 「ライバル出現って感じね。ところで、もうそろそろ空港に行かないと乗り遅れてしまうのでは?」 「そうでしたね……探偵さん、ここまで付き合ってすみません。それではレイアイル博士、これで失礼します。もし皇和国に行く事がありましたらまた会いたいですね」 「いつ行けるか分かりませんが……お元気で」 エストと共に去っていくケイン。ナガヒサは右手を見つめながら苦笑いする。 「私が本物のナガヒサではないという事を、いつか近い将来セヴン博士が知る日が来るでしょうね」 Scene.4 美女と畜生 次の日。ミツパ州の州都ツァファ。 ルシエラ・アクティアは今日もマントを被った男の子を見張っている。 (ビデオで映っている小柄で太っている人物、それとあの子……体形的には似てるかもしれませんね) 出入りする者がいたら、見つからない場所から写真を撮っている。 既に撮ったものを確認すると、出入りは何人かはいるが皆嫌な顔をする。 気分の悪そうな表情、暴言を吐いているような口元、鼻をつまむ女性まで……。 「臭いが凄いって事なのかしら? 関係者であってもなくても、こんな顔をさせるのはどんな暮らしを……?」 こんな所に住んでいるから『変わり者』といわれているのだろうか。 ともかく、本部での今後の対策に役立つかもしれない。或いは無駄になってしまうのかもしれない。 ペットのレイスには、消えている状態で中の調査を行なってもらっている。 もしかしたら、天井裏等にワイトが監禁されているのかもしれないからだ。 「どうでしたか?」 レイスからは、彼以外誰もおらず、そして何もない事を告げる。 何もないとはいえ、最低限の生活道具はあるのだが。因みに、地下室はなかった。 突然、家の中から電話音が鳴り響く。 「はいはい、待っててズラブー」 電話に話しかけるようにかけ込み、受話器をとる男の子。 (レイス、頼みましたよ) 中の探索ついでに、見えないところから盗聴器をしかけるようレイスに頼んでいた。 ルシエラは録音ボタンを押す。 「しもしも」 「元気そうね……変わりない?」 若そうな女性の声だった。しかし、名乗らないところを見ると、お互い誰かは分かっているから省略しているのだろうか。それとも、かけてくる相手はこの女性だけなのだろうか。 「全然ズラブー。そっちは仕事順調ズラブか?」 「予定通り辞めてきたわ。タイミングよく熱心な――しつこそうな気もするけど、お客さんの接待もあきたしね」 「えーっ、それじゃお土産のおいしい物が食べられないズラブか? 残念ズラブー」 「大丈夫よ。貴方の好みかどうか分からないけど、向こうから来てくれればありつけるんじゃなくて?」 「そうズラブね。でも、来るズラブかねえ……」 「じゃ、もうすぐそっちに行くから。いつもの場所で落ち合いましょ。それとあれ、いるわよね?」 「うん、いるズラブよ。じゃ、ブイブイー」 男の子は通話を終わらせ、受話器を置く。 「では、行くズラブか」 手にキャンディーを持ちながら、男の子は扉を開けて出かける。 「レイス、これを対策本部へ届けてくれますか?」 ルシエラは先程録音したデータを渡すと、レイスはヴェレシティの方向へ飛び去っていく。 「ではハンター、行きましょうか」 シャルから借りているハンターと共に、ルシエラは男の子の後を追い始めた。 ○ 歩いている間、周囲は家が数えるぐらいしかなく、岩肌の目立つ荒野につく頃には、たった一軒の家しか目に付かない。 歩いた時間が長く感じられる。ただ歩くだけであったが、何事もなくというのが怪しく思われてならない。 (他に家がないという事は……) ここにワイトが捕らわれているとみて間違いない。 確かに人影も無く、隠れ家にしては最適の場所だ。
「やっとついたズラブー。お疲れ様だったズラブね、そこのおねいさん」 「……気づいてたって訳ですか」 「だって、ボクの鼻は結構においを嗅げるズラブよ」 男の子がくるりと振り向いてフードをとると、ルシエラは驚く。 顔が豚そのものだったからだ。 「豚の……亜人だったわけですか。どうりで顔が隠れっぱなしだと思ってました」 怪訝な表情の人達が写った写真を思い出す。一部でも人ならざる者の顔が見えれば、誰だって驚く筈だ。 しかも、目つきがまるで猫のよう。 「連れて来たズラブよ」 「お疲れ様、『グーラ』。あちこち嗅ぎ回ってる人達の一人かしらね。好奇心は時に身を滅ぼす――誰かに教わらなかったかしら?」 待ち伏せるように、一人の女性が出てきた。胸と背が思い切り開けている黒いドレスに身を包み、片目が隠れる黒いロングヘアが妖艶さを醸し出す。 その声は、先程盗聴したあの女性のと一致する。 「さあ、わかりかねますね……」 「私と同じ、人を騙すような気を感じるわね。ダンディな男性だったらもう少し時間をかけたいのだけれど」 「それは残念でした。どちらにせよ、あなた方が大統領誘拐に関わっている事は間違いないでしょうね」 「ありつけるものがまた増えて嬉しいズラブー。ねーねー、犬もいるしこの人も喰っていいズラブか? 」 グーラという名の豚顔少年がルシエラを指す。 「駄目よ。この人、何か素早いような気がするから」 「もう一人はいつ来るズラブか?」 「さあね……私に未だ興味があるのなら、追いかけてくるでしょうけれど。おもしろいわよ、花を一瞬で咲かせる事ができるみたいだから」 「花も一緒に喰ってみたいズラブー」 二人の会話を聞いているうちに、ルシエラは額に手を当てる。 「そこのグーラという子は、カニバリズムというわけですか……酷い事ですね」 「何でも喰うズラブー。そういうのを雑食というズラブね」 雑食とはいえ人を喰うというのはいかがなものか。何処の世界でも殺人罪に値するのは間違いないのだが。 「まさかとは思いますが、大統領を食べてしまったわけではないでしょうね?」 「全然ズラブー。食べてみたい気もするけど、何か硬そうズラブね。しかも、ボク達をじっと見ている時に怖そうな意志を感じるズラブー」 無事のように聞こえるが、真実とは限らない。この目で確かめるまでは。 ただ、最後の言葉が意味不明だが。 「あなた方もSDSですね。しかも、7つの大罪から名を付けられているようですが……グーラは『暴食』とみて間違いないようですね……では、そちらは姿からして『色欲』といったところですか」 「ご名答。私はマリアン――マリアン・ルクスリア」 マリアンがムチを取り出す。ルシエラも身を構える。ハンターも唸り声をあげて威嚇。 (誰か来るまで攻撃を避けるか、こちらも仕掛けるか、それとも一時撤退して様子を見るか……判断に迷いますね) ○ 「……見つけた!」 近くを通った未来が、ジョーの姿を確認する。 と、向こうから何かを放ってきた。 「え、ちょ――!」 とっさに避ける未来。 大きい銃弾がかすめていき、爆発した。 地上に目を向けると、相手はニッと歯を見せるように笑っている。 「やー、外れたなー」 「な、何で気付かれちゃったのかな?」 「俺は戦場で戦ってきたんだぜ。敵の気配ぐらい、すぐに分かる」 何か自ら敵だと認めるような言い方だ。 実際、SDSは大統領誘拐に関与している。敵である事は間違いない。 「勘以上に鋭いのかな……それよりも危ないよ!」 これではカメラや盗聴器を仕掛ける余裕すら与えられない気がする。 「そこの嬢ちゃん、退屈してたんだ。俺と一緒に遊ばねえかってな!」 未来に向かってジャンプしてくるジョー。 足蹴を交わし少し離れた位置へテレポートする未来。 (凄い跳躍力だね。SDSって、人によって能力的に何処か特化してるのかな……?) ラウリウムに連絡を入れ、未来は目の前の大男に対してどうするかを判断しなければならなかった。 ○ ツァイトの運転する赤のテスト・アノールが、寂しい感じのする場所を走っている。 風景には似つかわしくないが、乗り物で思い出したのがこれだけだから仕方がない。 「ツァファに入りましたよ」 「分かった……マイの言ってた通りにワイトがいるのか分からんが、大統領不在のままではいかない」 ナーガは助手席で苦笑いしている。 「乗る気になりましたね。あんなに嫌がっていたのに」 「この色は目立ちすぎる。それに若者向けだろう」 「そういえば何歳でしたっけ?」 「知らんでいい。どうやら戦闘が始まったみたいだな、急ぐぞ」 ツァイトはスピードを上げて目的の場所へ向かっていった。 |