「セラ海域冒険録 〜イルマ古代遺跡〜」

ゲームマスター:大木 リツ

 キビート連合勢力から任を受けた学者組織は調査団「テラスマ」を結成した。調査団テラスマを率いるのは学者組織幹部の息子で総団長のトルカ・ウィシャードと協力者に名乗り出た副団長の考古学者メイリ・バルテイロス。未知の土地での冒険の経験が無ければ、戦う力も無い二人と調査団員。彼らを守り調査協力・護衛を担うのは、不思議な姿や力を持った異世界からの協力者達だ。

Scene.1 未開拓海洋地域の航海
「そ、総団長!う、海から…海から伝説の人魚が現れました!総団長と話がしたいと、かかか…看板にっ!」
「人魚、だと?分かった私が行こう」
 出航を前日に控えた早朝、調査船サンテール号に海の伝説が突如現れ調査団員達は驚愕した。総団長であるトルカはその知らせを受け、半信半疑のまま看板に上がる。そこには、超ロングストレートの銀髪、腕輪や髪飾り等の多様な装身具を身に付け、腰から鱗で覆われ尾になっている人魚姫がいた。その人魚姫は、調査団員に出された豪華な椅子に笑みを浮かべて座る。
「異世界にありますネプチュニア連邦王国9人目の王女でもありますマニフィカ・ストラサローネと申しますわ。わたくしは善意の人魚姫として調査団テラスマに全面協力する為に参りました」
「異世界?…この世界以外からの訪問者という訳か。これはお初にお目にかかる。自分は調査団テラスマ総団長を務めさせて頂くトルカ・ウィシャードと言う」
 上品な丁寧口調でマニフィカが挨拶をすると、次いでトルカが膝を付き頭を下げて返答した。人魚はキビートで古代の伝説として長く言い伝えられ人々の空想の憧れでもある。丁重に持て成すトルカは、二足歩行に変化したマニフィカを総団長室に迎え入れた。マニフィカは席に付くと腰の装飾品にぶら下げていた袋二つを差し出してくる。
「活動資金不足でお困りと聞いておりまして、こちらの金銭と真珠をどうぞ調査団の活動資金兼人員動員にお役立てくださいませ」
「こ、これは…これほどの大金を受け取るわけには…マニフィカが困るのでは?それに我々は資金援助に答えられる報酬も無い」
「お困りの方を見て王族としてあるべき行動を行ったまでに過ぎません。それに報酬に物質的な物は求めません、あえて言わせて頂くと…わたくしの旺盛な好奇心を満たしてくれるような冒険でしょうか?」
 一つの袋には200万エルという大金と、もう一つの匂い袋には両手に一杯の真珠が詰め込まれていた。予測していなかった事だけにトルカは戸惑うが、マニフィカは堂々とした態度で使ってくれるよう話を進める。やがてマニフィカの強い押しにトルカが折れた。
こうしてマニフィカの資金援助を受け、急ぎ人員増強と物資の手配を始める。人魚姫からの真珠を提示すると、興味を引かれていた考古学者が集まる。さらに、賃金の高い航海に腕の立つ船乗りや乗組員たち。そして彼らの健康を維持する為に、経験豊富な料理人や医者が調査団に臨時という形で乗船した。資金不足で航海に必要な最低限の人員しか集められなかったが、マニフィカの資金援助で頼もしい調査団に変わり港町ヨークテリスから無事出航した。

 未開拓海洋地域セラ海域、そこはキビートの者は航海したことの無い海。新しい航路には様々な未知なる危険が潜んでいる筈だった。腕の立つ船乗りがいても不安がつきものの航海を支えるのは、海の知識が豊富な人魚姫のマニフィカ。
「わたくしにお任せください。フィリが海の中から安全な航路を選び先導役になりますわ」
 目的地のイルマ島まで調査船が安全に航海できるよう最善を尽すマニフィカが機転を利かせる。船の先でペットイルカのフィリポス六世が海中に危険な暗礁や海流、または海獣の有無を確認しながら避けるように先導していくのだ。すると驚くほど順調にサンテール号は進んでいく。もう一つの不安要素でもある航海を左右する天候にもマニフィカは対応策を持ち合わせていた。
「わたくしの持つ天空魔法を使用すれば天空予想で嵐を避け、天空願を行えば安全な航海に出来るかもしれませんわ。それに水の精霊ウネお姉さまのお力があれば短時間天候を変える事も出来ましてよ」

 異世界からやってきた人魚姫はこの世界ではとても希少な魔法の力を持ち合わせている事を知ると、トルカと調査団員はまた驚く。周りが騒ぐ中、マニフィカは落ち着いた雰囲気でサンテール号の船首の近くに立つと祈り捧げる。神秘的な姿と祈りに誰もが見惚れていると祈りが天に通じ、祈りに天が答えるかのように曇りがちだった空から光がマニフィカに降り注いだ。
「祈りが通じて良かったですわ。これからの天空の予想なのですが嵐は起こらないようですし暫く良い天候が続くそうです。イルマ島まで良い船旅が出来そうですわ」
 天空魔法は上手く通じこの先の安全な航海が約束された。調査団員や乗組員は異世界からやってきたマニフィカに盛大な歓声と拍手を送り、喜びの声を上げる。すると、先導役のフィリポス六世が嬉しそうに水面に飛び上がり「キュィー」と泣き声を上げた。
「お陰で安全な航海が出来そうだ、感謝する。十分過ぎるほどの援助を受け、とても心強く…足りないものはないくらいだ」
「いいえ、当然の事をしたまでですわ。それに足りないものはもう一つ…勇気くらいかしら?」
 トルカが感謝を示すように手を差し伸べるとマニフィカは握手を交わす。足りないものはない、とトルカが言葉を漏らすとマニフィカは悪戯っぽい表情を浮かべ人差し指を口元で立てた。

Scene.2 上陸開始
 一面に広がる青い海と青い空、晴天に恵まれた大海原に吹き付ける程よい潮風、調査団テラスマの調査船サンテール号はフィリポス六世の先導を受け、帆を膨らませセラ海域の東側に存在するイルマ島を目指す。
「わぁ、見て見てぇトリスティア!島が見えてきたよぉ!こんなに広い海なのに一つの島にたどり着けるなんてイルカって不思議よねぇ」
「アメリア、そんなに身を乗り出したら危ないよ!砂漠出身だから海が珍しいの分かるけど」
 見えてきたイルマ島に指を差し、目を輝かせるのはアメリア・イシアーファ。砂漠出身で精霊の力を行使するのが得意な光の巫女。そのアメリアが潮風に緩やかな金髪のウェーブヘアをなびかせ親友のトリスティアに話しかけると、危ないからと乗り出した身を引っ張られる。親友のトリスティアは数多くの冒険を乗り越えてきた少女。ハニーブロンドのショートカットを揺らし半袖のパーカーとミニスカートが似合う元気娘だ。そんな好奇心と元気が一杯の少女達に見て微笑むのは、背広にソフト帽とコートを羽織った骨と皮ばかりの髭を生やした老人のエルンスト・ハウアー。周りの者には老人にしか見えないが、実は自らの意思でアンデッド化した魔術学博士である。
「ほっほぅ、好奇心は良いことじゃ罪はないぞ。それに賑やかになる事じゃし良いことじゃ」
「エルンストの言う通りだね!ボクも二人と一緒に島を見てくる!」
 看板に座り込むエルンストの隣を一つのぬいぐるみが元気良く駆けて行く。名はラサ・ハイラル。一度死んでしまい精神体となったラサは、精神体の維持負担を軽くする為体長30cm程で二足歩行の可愛いネコのぬいぐるみに憑依していた。青いリュックを背負い、島を眺める少女ラサ。突然ラハの体が浮く。
「こら、自分勝手に行動したら駄目だって言っただろ?危ないし周りに迷惑が掛かるぞ」
「ぶー、ジニアスのケチケチ、ケチンボ!ジニアスだって冒険好きだからボクの気持ち分かるはずだよ!」
 青いリュックを掴んだのはラサの保護者でもあるジニアス・ギルツ。赤髪を後ろで束ね丈の長いTシャツにフード付きベスト、ジーンズを履いた冒険者だ。掴れながら暴れるラサに強くジニアスが言い聞かせている。そんな賑やかな集団とは少し離れた位置でウェーブがかかったダークグリーンのロングヘアを潮風になびかせ、若草色のワンピースとタンポポ色の幅広帽子が特徴なリュリュミアが船首に立っていた。
「潮風が気持ちいいですぅ、船に乗った甲斐がありましたぁ」
「リュリュミア、そんなところに立っていると風に大事な帽子が飛ばされたり、風で転んじゃうよ」
「あぁ、お気遣いありがとうございますぅ。でも、大丈夫ですぅ…帽子はわたしの体の一部なのでぇ」
 潮風を体で受け止め、か弱く見えるリュリュミアを心配してシェリル・フォガティが声をかけてきた。茶色の超ロングストレートを首辺りで三つ編みし、軽装する服の下からは細かい傷跡が見え隠れする。レンジャー活動をしているシェリルは、リュリュミアとは対照的な女性だ。のんびりとしたリュリュミアが笑顔を向け返答をするが、シェリルには分からない話だった。それぞれの異世界人達が上陸まで交流を深める中、調査団や乗組員から未だ受け入れられていないメイリは物影でひっそりと座り込み誰かと話をしていた。
「すっごーい!異世界人って魔法が使えるんだね!絵本とか小説の話だけだと思ってたよ!」
『…声が大きいぞ。早速だが、古代文明の研究としてイルマ古代遺跡の調査がしたい、回収した資料は適切な代価で俺があんたに引き渡す…変わりに今あんたがイルマ古代遺跡について知りえている事を教えて欲しい。どうだ、条件として悪くない話だと思うが』
 武神鈴が使用する式神符に驚き、歓喜の声を上げるメイリ。そのメイリとは対照的に鈴は離れた所から落ち着いて交渉を進める。古代文明に興味を持っている鈴は、不足していたイルマ古代遺跡の情報を得、より多くの資料を的確に回収しようと考えていた。
『無論、こちらの集めたデータから導き出された答えもすべてそちらに提供しよう。お互いの研究のためにもこれが一番いい方法だとは思うが』
「それは良い話ね、もちろん協力は惜しまないよ。ある程度、私の仮説を含めて教えるわ。こう見えてもあのトルカよりも詳しいのよ!」
『…だから、声が大きいと言っている』
 鈴の話にメイリは頷き小さな声で話し始めた。
「塔は下から作業区、住居区、商業区に分かれて人々は塔に住んでいたみたい。資料の回収は作業区と商業区がいいわ、その区の階の部屋を調べれば古代文明に関する物が出てくるはず。それと調査団に資金援助があって人数が増えているから見つからないように気をつけて」
『人が生活していたのか、不思議な力を発動するだけの塔ではないのだな』
「えぇ、イルマを支える為に人が沢山出入りしていたみたいだから。大昔魔物からバリアでキビートを守る為に長期滞在が必要だったらしいわ。だから塔の内部に住めるように建築したのね」
 メイリはトルカのみならず学者組織も知り得ない詳細なイルマ古代遺跡の内部の構造や仮説を交えて鈴に伝える。
「ここからは私の仮説ね。人々は元素水晶をエネルギー源として機械文明が発展させていたと思うの、だから今回の不思議な力もそれに近い存在だと私は思っているのよ!」
『ほぅ、機械文明か…それは興味をそそられるな。それがもし本当だとしたら国の主張がどう変化するか見物だ。それと…メイリ、声が大きい』
 メイリが元素水晶を調査し続けている理由は昔元素水晶で機械文明が発展していたかもしれないからという仮説を証明したいからだ。その話に鈴は興味を引かれつつも再三度声を上げるメイリに注意をする。二人がこっそり交渉を進めていたとき、一人の男がやってきた。上半身はカジュアルな服装を纏い、下半身にはいつでも自分の仕事が出来るようにつなぎを履き、腰にヘルメットとゴーグルをぶら下げた黒髪ベリーショートのレイナルフ・モリシタがやってきたのだ。
「よぅ、お嬢ちゃん機械文明に興味があるんだって?オレはレイナルフ・モリシタ、異世界でエンジニアっつー機械や電気の技術者やってんだ」
「…異世界の技術者なのっ!?」
 レイナルフが機械の技術者と聞きメイリが目を輝かす。
「あぁ、そうだぜ。今のキミを見ていると俺様にも昔そんな時があったなって思ってんだ、懐かしくなってな…暫く話でもしねぇか?」
 気さくに手を挙げたレイナルフはメイリの隣に座る。そのレイナルフが両手を頭の後ろに置き話す態勢を取った時、「上陸を開始する!」とのトルカの声が響いたのだった。

 トルカは乗組員に指示を出し、島から離れた所にサンテール号の錨を降ろす。そして積んでいた小船を浮かべる。
「先に力、経験のある者が上陸し危険が無いか安全を確認してほしい。それから我々が上陸をしよう」
「あたしが行くよ、レンジャー活動で重ねてきた経験があるからね」
「おっと、俺も付いていくぜ。冒険の事なら俺に任せな」
 レンジャー活動をしているシェリルと冒険者のジニアスが名乗り出ると、二人は小船に乗り込む。するとマニフィカが「フィリが小船を引っ張りますわ」と気を利かせ、小船は直ぐに海岸にたどり着いた。二人は注意深く周囲を見渡し、直ぐ目の前に広がっている森に近づき危険なものはないか警戒する。けれど、聞こえてくるのは綺麗な鳥の鳴き声だけだった。危険は今はないと判断すると二人は手を大きく振り合図を送る。フィリポス六世がそれを調査団に伝える為高くジャンプをしてアピールをした。
「これよりイルマ島に上陸を開始し、イルマ古代遺跡と採石場を目指す!」
 小船に協力者達や調査団員が乗り込み、イルマ島に向かっていく。そんな調査団を見送るように海面からフィリポス六世が「キュィー」と声を上げ飛び上がる。と、それに答えるように調査団は手を振った。

Scene.3 熱帯林
 上陸を終えた調査団は「大地の子」と呼ばれる危険生物がいる熱帯林に入る。先頭で調査団を率いるのは知識と経験が豊富なシェリルとジニアスだ。ジニアスが危険な箇所をその経験から予測し調査団を確実に安全な道を選択する。猟師で生計を立てていたシェリルは調査団が歩きやすいように道を作るため、突き出した木や草をダガーで切り落としていく。心強い先導があるのだが、熱帯林の中は予想以上に熱く体力を奪ってゆく。また見知らぬ土地で調査を行うという不安が負い目となり、次第に調査団の列は乱れ始めていた。すると、マニフィカは得意の水術を使い冷たい水を調査団にかける。
「これで暑さは少し防げると思いますわ、疲労は可愛いお嬢さんの応援でも受けて癒すのがいいでしょう」
「ちょっ、ちょっとマニフィカ!ボク達に何をさせる気!?」
「え、私ですかぁ?えーっと、み…皆さん頑張りましょぅ!私も頑張りますからぁ!」
 トリスティアとアメリアの背中を押すとトリスティアは戸惑い、アメリアはとりあえず調査団を励ました。マニフィカのさり気ない冗談は、二人を巻き込んだものの調査団の不安な心を和ませる。そうして疲労の色が浮かんでいた皆の顔に笑みが戻ってくる。
「若いのはいいのぉ、ワシも励まされたいわい。のぅ、ノーム?」
『ワシは疲れておらん。それに励まされたくも無い』
「相変わらず厳しいのぅ、どれ…折角出てきたのじゃ、能力の弱い力で皆の体力を回復してくれるじゃろうか?」
 賑やかな一団を見てエルンストは身長10cmの髭を生やしとんがり帽が特徴な土の精霊ノームを呼び出し調査団に体力が回復する魔法をかける。疲労が堪った調査団に生気が戻り、列は元通りに直った。それを見たトルカは感謝を伝える為に近づいていく。
「エルンストは魔法が使えるのか、感謝する。何分、冒険慣れしていない者達ばかりだ」
「いいんじゃよ。ところでワシは今回の不思議な力を魔術に関する物だと思っておる。調査に参加したのも魔術学な要素、文化が背景にあるとワシの頭がそう言うのじゃ」
 調査団が目指す不思議な力にエルンストは魔術的背景を感じていた。髭を擦りながらエルンストは言葉を並べていく。
「ワシは、他愛もない装飾、仕掛け等で製作した文明の魔術的志向や軸となる思想なんぞが読み取れるものじゃて。今の自然崇拝の文化を考えると精霊か何かの力を借りた遺物や魔術じゃなかろうかと思うておる」
「精霊…するとイルマは精霊を仕えさせていたかもしれないと言う事か。なるほど、魔術師説が濃厚かと思っていたが精霊説も十分ありえる」
「一つの考えに縛られたりしておったら真実など見えてこんぞ、柔軟に物事を推測する事が真実に繋がる唯一の近道じゃ。…少々、説教臭くなってしまったかのぅ?」
 教職にあったせいで、つい年下に説教臭く話をしてしまったエルンストは苦笑いを浮かべる。が、トルカは嫌な顔せず感心したようにエルンストの話を聞いていた。二人の近くで歩いていたラサは難しい話に首を傾げ、近くに居たリュリュミアに話しかける。
「んー、ボクは難しい話は分からないなー。リュリュミア、分かった?」
「いいえぇ、分かりませんでしたぁ。それにしても長年人の手が加えられていない熱帯林は素晴らしいですぅ、皆さん元気に育っていて私も嬉しいですぅ」
 首を横に振るリュリュミアは話よりも熱帯林の植物に興味津々だ。見上げるほどの高い木々に向かって嬉しそうな表情を浮かべて話しかけている。そんなリュリュミアを見て、ラサは理解出来なくて更に首を傾げる。
『うーん。世界にはわらないことがいっぱいだね!』

 調査団が順調に目的地に向かう。その一方、学生服の上に白衣を羽織り、伊達眼鏡が特徴な黒髪を後ろで束ねている鈴は別行動をとっていた。鈴は、使用者の望んだものに変換させる変換符を使い、大量のメカを製造していたのだ。
「ふぅ…借金が減らない所為で材料が買えず変換符を沢山使用してしまった。少し疲れたな…後は任せた」
『サー、イェッサー!』
『スッパイダーッ!』
鈴の指令に、人間大の小型メカの遺跡探索用ゾロメカと蜘蛛型メカの『発掘スパイだ〜君』が反応する。変換符を沢山使い疲労が溜まった鈴は、航海中に制作した個人用アンコウ型潜水艇で少しの休憩を取る。この間に、ゾロメカ達は熱帯林の中を規則正しい行進で突き進む。熱帯林を人間大の小型メカと本物の蜘蛛に近い姿をした蜘蛛型メカが行進する様は異様であり、そこに住む動物達は怖がって離れていく。しかし、その中で怖がらず傍で動く何かがいた。土や木、草が混じりあったような物体が人の形をして歩いている。それはメカに興味を示さず、賑やかな声が聞こえる方向へと進んでいった。

「くそっ!なんなんだ、こいつらっ!蹴っても平気で起き上がってきやがる!」
「き、きっとこれが大地の子なんだよ!」
 土や木等が混じり合っている1m程の人型をした大地の子が、駆け出してきては飛びつき襲ってきた。レイナルフが背後にいるメイリを庇いながら一体一体力任せに蹴り飛ばしても絶え間なく襲ってくる。誰も予想していなかった大地の子の姿に調査団は戸惑い混乱し始めた。それを纏め上げるのは、かつて傭兵家業をしていたシェリルだ。
「落ち着いて!四方八方から敵がいる時、バラバラになったら駄目よ!一塊になって頂戴!」
「うわぁ、沢山いるな。大地の子って自然の力だと思っていたけど違ったな。こりゃ、遺跡に着くの遅れそうだ」
「ちょっと、笑って状況を流さないでくれる!?私は調査団が落ち着くまで護衛しているから、早く撃退してよね!」
「あぁ、すまない。でも、諦めたわけじゃないぜ」
 シェリルは調査団を纏め上げる為に動くと、ジニアスは大地の子の撃退に向かった。近づき襲い掛かってくる小型の大地の子に、持ち前の軽業と我流の剣術を生かし一撃で仕留めていく。止まる事無く流れるような動きで小型の大地の子を斬り落としていくが、斬れた部分が繋がり倒れても起き上がってきた。
「大して強くないが、しつこく起き上がってくると大変だな。殆ど土で出来ている体に雷撃が効くかどうか分からないが、やってみるか!」
 離れた位置には中型の大地の子が今にも物を投げてくる態勢を取る中、サンダーソードに意識を集中させ雷の力を呼び覚ます!音を立て電撃が刃を纏うと再びジニアスは駆け出していく!遠くから土や石、木を投げてくるがそれを物ともせずかわすと身軽さを生かしサンダーソードを振り下ろす!
「はぁっ!…これでどうだ!」
 一撃、二撃、三撃…止まらぬ剣技に大地の子達は体に剣撃と雷撃を同時に受け、突然胸が破裂し大地の子は脆くも崩れ去っていった。
『なんだ、今…爆発したような音が聞こえてきた』
 予想しない出来事に驚くが、考えている暇はなく首を横に振ると再び駆け出して行く。その頃調査団を守るシェリルの所にも小型の大地の子が襲い掛かってくる。ショートソードで撃退するもののその度に大地の子達は斬られた部分を修復し何度でも襲い掛かってきた。調査団は今まで体験したことの無い出来事に困惑し、誰もが死の恐怖を抱いてくる。すると、逃げ出そうとする者やパニックを起こす者達が出始めシェリル一人で大地の子と混乱する調査団の対処が出来なくなる。
「皆、落ち着いて!大丈夫、こいつらはあたし達が必ず撃退するから!」
『シェリル、我を忘れてはいないか?』
「ザイダーク…そうか!お願いザイダーク、力を貸して頂戴!」
 調査団を宥めていると黒髪黒瞳で手のひらに乗る程小さく、30代の男性に見える闇の精霊ザイダークが現れた。シェリルは周囲の人間数人の『負の感情』を吸い取り鎮静化させることが出来るザイダークの能力を思い出す。シェリルの頼みに、ザイダークが答え逃げ出そうとする者、パニックを起こす者に力を使用する。すると、騒ぎ立っていた調査団が落ち着きを取り戻し一塊に戻っていく。
「ザイダーク、ありがとう。助かっちゃったわ」
『容易い事だ、今度は我を呼ぶが良い』
 再びシェリルが襲ってくる大地の子の撃退に力を注ぐ。そんな中、調査団に紛れていたエルンストがノームを呼び出し大地の子から精霊的な力が無いか調べさせる。
『ふむ、こいつらにワシと同じ力を感じられないぞ。もっと別な力が働いているようじゃ』
「ほぅ、精霊の力でこやつらが動いていないというわけか…はてさて、どうしたものか。お前さんなら何か分かると思ったが、そう簡単にはいかなそうじゃ」
 大地の子に関して情報が無く、謎は深まるばかりだ。次々と迫ってくる大地の子をシェリルが撃退するがとてもじゃないが、いつ大地の子が流れ込んでくるか分からない状況…調査団に混じっていたラサも撃退の援護が出来る魔銃を持っているが調査団やトルカの前で機械は使わないと決めていた。
「うぅ、ボクにも何か出来れば良いのに…」
「ぬいぐるみさん、落ち込まないで下さいぃ。私の力がお役に立てばいいのですがぁ、ちょっと待っててくださいねぇ」
 ラサを励ましたリュリュミアは笑顔を向けながら手を組み意識を集中すると、持っていた蔦が動き大地の子に絡みつく。シェリルだけでは対応出来なかった大量の大地の子を捕まえる事が出来た。
「ふぅ、これで如何ですかぁ?足止め程度しか出来ませんがぁ、今の内に対策を考えるのもありかと思いますぅ」
 リュリュミアの咄嗟の機転に周りは喜びの声を上げる。だが、その時地面が揺れ3mは越す大地の子が音を立てて近づいてきた。ジニアスは他の大地の子を蹴散らし、シェリルは調査団を守っているので手が離せない。その時、地道に大地の子を蹴散らしていたトリスティアとアメリアが勇敢にその前に立ちはだかる!
「アメリア、ここはボク達の出番だよ!」
「えぇ、一緒に行きましょぅ!」
二人が全力で助走をして大型の大地の子に向かって飛び上がった!
「「ダブル流星キーーーーック!!」」
 相手の防御力、特殊防御技能を受け付けない必殺技が流星の如く落ちる!ビルをも破壊する超破壊力技の合わせ技に、大型の大地の子は瞬間粉砕されてしまった。
PL0003Wオーダー/担当さのや

 大地の子の強襲に合いながらも調査団は誰一人欠ける事なく古代遺跡と採石場の分岐路に到着した。ここで二手に分かれる筈なのだが採石場へ向かう調査団員は誰一人居なかった。寂しそうに肩を落とすメイリに近づいてきたのはレイナルフとトリスティアだ。
「何ウジウジしてんだ、俺様が付いて行ってやるよ!」
「ボク機械文明が発展した所に長く滞在していたから、何か出来るかもしれない!メイリに協力するよ!」
「二人共、ありがとうっ!」
 頼もしい二人を目の前にメイリは嬉しそうな顔をして礼を言う。それを遠巻きから見ていたジニアスはラサにある話を持ちかけた。
「古代遺跡の最上階にある不思議な力を手に入れる為には、子を纏って大地の子に導いて貰う必要があると古文書に書いてあったじゃないか。俺は纏う子が元素水晶だと考えているんだ」
 纏う子の正体が分からず考古学者達に尋ねたが誰も首を横に振るだけで明確な答えをジニアスは得られなかった。
「最上階へ続く螺旋階段には近づくにつれて強い風が吹いている、その風を元素水晶で吸収しながら進めば最上階に行けるだろう?」
「へー、分かった!ボク、メイリさんに着いて行って元素水晶貰ってくるね!一緒に行けないのは残念だけど、ボク頑張ってくるよ!」
「あぁ、頼む。くれぐれも自分勝手な行動はするなよ」
「何度も言わなくても分かってるって!」
 ジニアスから頼み事を受けたラサは、メイリ達と合流し採石場へと向かった。そして、残りの者達は古代遺跡へと足を運ぶ。

Scene.4 空からの来訪者
 晴天の青空にイルマ島へ向かう一つの飛行艇が飛んでいた。全長125m、全幅28m、全高41mの大型の飛行艇は一人の空賊が操っていた。
「聞いたか、キキちゃん?塔の最上階に凄いお宝が有るらしいぞ」
「キキッ(どうせデマだぜ)」
「そうか!!キキちゃんも欲しいのか!!よっしゃ、早速取りに行くぜ!!」
「キッキーッ!!(ヒトの話を聞いてんのかよっ!?)」
 飛空挺レッツラ号を操る男はアリマ・リバーシュア、その肩にはペット白いテナガザルのキキが暴れていた。金色の短髪を青いバンダナで覆い、胸元を開け青い襟の付いた服を着た髭と量の多いもみ上げが特徴な大柄なアリマ。アリマは舵を取り、全速前進で飛空挺を飛ばし続ける。風を切り、鳥よりも速く飛ぶ飛空挺の目の前にようやくイルマ島が見えてきた。
「キキちゃん!早速、人間大砲の準備をするぜ!付いて来い!」
「キーッ!キキッ!(付いていきたくないわーっ!)」
 イルマ島が見えてくるとアリマは親指を立ててキキに合図を送る、だがキキは嫌そうに顔を歪め暴れる。それでもアリマに捕獲されたキキは成すすべなく、人間大砲に入る準備を見せ付けられた。空を翔る飛空挺の中から一匹のサルの悲鳴に近い鳴き声が響いたという。

Scene.5 採石場
 明かりの無い採石場内は先の見えない闇に覆われ、内部へ進む事を躊躇わせる。誰も灯火を持ってこなかったが、メイリが事前の持ち込んでいた火の元素水晶を取り出し棒に括りつけ軽く衝撃を与えると30cm程の炎が灯る。
「元素水晶って本体体積の何百倍もの元素を吸収出来るものなの。吸収した元素が無くなっても同じ元素を吸収させれば半永久的に使えるものよ」
 久しぶりに話し相手が居て嬉しそうに元素水晶についてメイリが説明するが、レイナルフがある事に気がついた。
「で、その元素水晶ってどうやって探すんだ?こんな広い迷路みたいなトンネルじゃ、迷子になっちまって死んじまうじゃねぇか」
「ボ、ボク達迷ったら白骨化しちゃうのー!?」
「ラサはぬいるぐみだから骨がねぇだろうが!ってか、死んでんじゃねぇか!?」
 大ボケをかましたラサにレイナルフが大声で突っ込む。だが、ラサの言葉を間に受けたメイリがとても慌てていると、傍にいたトリスティアが「ふっふっふっ」と意味深な笑いを浮かべる。
「その事ならボクに任せて!ボクにはサイ・フォースっていう超能力があるんだ!その中のサイ・サーチっていう目で見えない物を感知する超能力がある!」
 説明しよう!サイ・サーチとは生命体、無機質を包んでいるフォースの流れを読み取り目的の物の位置を察知する超能力だ!
「これで目的の物なら簡単にボクが見つけ出すことが出来るよ!」
 自信気に胸を叩くトリスティアを見てラサとメイリが拍手を送り、レイナルフが少し不機嫌そうな表情をした。
「だったら大きい元素水晶ある所探して!ボク、元素水晶をジニアスに早く持っていかなきゃいけないんだ!お願い、トリスティア!」
「わ、私は!ここに機械文明の痕跡があるか調べてほしいよ!出来れば地底の機械文明の都市とか!お願い、トリスティア!」
「え、えぇっ!?ちょっと二人共、一度に言われても困るよ!落ち着いてぇ!」
 二人がトリスティアに無理強いをしている脇で、メイリの前で大人のお兄ちゃんの余裕をかましたかったレイナルフがガンつけてくる。思わずトリスティアは苦笑いを浮かべながらも、意識を集中させサイ・サーチで採石場内部にあるという元素水晶や遺産、宝がどこにあるか調べる。
「うん、ボクについてきて。少し離れているけど一番近くに元素水晶のフォースを感じるよ」
 トリスティアが先導役を買って出ると一行はその後を追う。
「そうだ、メイリは飛行機っていう機械を知ってる?」
「…飛行機っ!?え、それってどんな機械なの!?」
「空を飛ぶ事が出来る機械なんだよ。ボクが知っているのはオーニソプターっていう翼の羽ばたきによって飛ぶ事の出来る飛行機なんだ」
 知らない機械技術に目を輝かせメイリはトリスティアの話に聞き入った。トリスティアは別世界で製造したオーニソプターという飛行機の製作技術を事細かにメイリに説明する。今まで見たことも聞いたことも無い技術にメイリは夢心地になりうっとりと笑みを零す。
「トリスティアって冒険者な上に凄い技術を持ってるんだね。今まで機械の話をしたこと無いから凄く楽しかったよ!ありがとう、トリスティア」
「ううん、いいんだよ!今度ボクの機械見せて上げられたらいいな!」
 トリスティアの手を握りメイリが感謝の言葉を述べていると、ラサがメイリのズボンを引っ張り尋ねてきた。
「ねぇ、元素水晶ってどんな便利な事が出来るの?」
「元素水晶は自然の力を蓄えられる石なんだけど、それをエネルギーにして利用する事が出来るんだよ。例えば機械のエネルギーにも応用出来るわ」
「そうなんだ!メイリさんはその元素水晶を使ってどんな事がしたいの?」
「もちろん機械を動かすエネルギーよ!ここの人達は機械を使えば自然が汚染されたり壊れたりする事を恐れているから機械をずっと嫌っているのよ」
 ラサの質問にメイリは自分の気持ちを吐き出した。
「便利な物に頼らず自分達の力で生活するのは立派よ、でもね不便な生活は子供や大人の自由な時間を削っていくの。もし、その自由な時間が多ければ人は豊かにもなるし子供達は色んな事を学ぶ事が出来る…多いんだ、自由な時間が少ない子供達が」
 メイリは少し悲しそうに顔を伏せる。メイリが機械文明に興味を持った一つの要因として不便な生活で自由な時間が住民達に少ないと言う事だ。その中でも未来を築く子供達の自由な時間が少ない事に心を痛める。メイリが顔を伏せていると、その頭にレイナルフの手が乗り撫でた。
「メイリも技術は人間の幸せになるべきものだと考えているのか、オレも同じだぜ。昔も今でも技術はそうあるべきだと信じている」
「レイナルフも?」
「もちろんだ。だがな、知識又は技術を手に入れたからと言って幸福が約束されるものじゃねぇ。大きな期待は禁物だぜ」
 レイナルフはメイリの考えと似たようなものを信じていた。少し嬉しそうにしたメイリだが、レイナルフは釘を刺すことを忘れない。途端、また顔を伏せるメイリを見てトリスティアとラサがジト目でレイナルフに視線を向ける。
「一番大事なのはよぉ、それで自分が何をしたいのかが見えてるかどうかだぜ、お嬢ちゃん。今のメイリはそれをちゃんと見えているから、大丈夫だと思うぜ」
「…うん!そうだね!」
 先の世代の者として後の世代に技術、知識を伝えるのは責任だと思うレイナルフは工学知識を生かした話を昔話を交えて語り出し、その場にいた者は耳を傾けた。

「流星キーーック!!」
 元気なトリスティアの声が響いた次の瞬間岩が砕かれる音と砂埃が充満する。サイ・サーチを使いトリスティアは元素水晶のある空洞の壁を自慢の超破壊技で壊し中へと入ることが出来た。
「あ!あれが、元素水晶よ!透明なのがまだ元素を吸っていないもので、色が付いているのが既に何かしらの元素を吸ったものよ!」
 広い空洞内部に透明な水晶が岩壁に生え辺りに色の付いた水晶が落ちている。メイリは早速調査を開始、空洞や周りの状況をメモ張に記入し始めた。
「ねぇねぇ、ボク達も調査のお手伝いするよ」
「何するか指示をくれ」
「そうだね、元素水晶を集めて欲しいな。後、気に入った元素水晶があれば持っていっても構わないよ」
 率先して調査の手伝いをラサとレイナルフが動くと、後にトリスティアも付いて行く。ラハはジニアスに頼まれた元素水晶を集め、レイナルフは注意深く辺りを探索しながら元素水晶を集めていく。
「ん?この大岩、綺麗に断面が切られているぞ…」
「きっと、ここは昔の人が元素水晶の発掘を行っていた場所だと思うよ。あちこちに人が居たような痕跡があるし。その時の作業で割れたんじゃない?」
 注意深く探索をしたレイナルフが見つけたのは、断面が綺麗に切られていた大岩だ。メイリは昔の作業の痕跡だと言うのだが、工学知識のあるレイナルフはそれが機械的な物で切られたものだと直感的に感じた。もう少しレイナルフが地面を調べてみると土の中から金属片を見つけた。
「加工されている金属片か…ひょっとしてメイリが唱える昔に機械文明が発展している話は本当か?」
「あっ!皆、気をつけて!大地の子が現れたよ!」
 レイナルフが考え事をしているとトリスティアの声が響く。空洞に開いていた無数の穴から大地の子が現れる。調査を中止したラサは、弾の代わりに魔力を発射することができる小型の『魔銃』を構える。そして大地の子の足元を狙い撃つのだが、大地の子は再び繋ぎ合わせ起き上がってきた。
「確かジニアスが胸辺りに何かあるって言ってたな、よし!ボクの精密射撃で狙い撃ちすれば!」
 熱帯林の戦闘で大地の子の胸辺りで何かが破裂した事をラサは聞いていた。そのラサは、狙った場所を正確に射撃する精密射撃で大地の子の胸を魔銃で撃った。すると、撃たれた大地の子の胸が破裂し土へと還る。
「ラサ、ぬいぐるみなのに凄いね!」
「でも、次々と穴から湧いてくるからキリがないよ!ボクが流星キックで穴を塞ぐからラサ、援護をお願い!」
「へへっ、ボクにまっかせて!」
 メイリがラサに感心しているが大地の子は増え続けるばかり。トリスティアは穴を塞ぎに走ると、その後ろからラサが魔銃で援護をする。トリスティアは穴目掛けて流星キックで岩壁を崩し、大地の子が出てくる穴を塞いだ。
「これで暫く大丈夫だと思うよ!」
「オレ達が来た穴も塞がったじゃねぇか!」
「あっ…大丈夫大丈夫!ボクが後で脱出用の穴を開けてあげるよ!」
 誤って穴を全部埋めてしまったが、またトリスティアは穴を空けると約束をする。それからメイリ達は元素水晶を集めながら、元素水晶が生まれる地質や地形を事細かに書き残していった。

Scene.6 イルマ古代遺跡
 蔦の絡まった高い塔が聳え立つ、そこが調査団が目指すべき不思議な力があると言われているイルマ古代遺跡だ。内部に入ると塔の中心に螺旋階段が天井まで続き、周りには幾つもの部屋が点在した。
「中に入ると結構大きいのぅ、30階以上ありそうじゃ。ふぅ、老いた体には最上階まで上るのは大変だわい。ワシは周囲を探索しておるぞ」
「わたしはぁ、内部よりも外の蔦や自然が気になりますぅ。わたしはぁ外にいってますのでぇ、何かあったらぁこの蔦を使って下さいねぇ」
「ちょ、ちょっと!個人行動は危ないわよ!何時大地の子が現れるか分からないよ!」
 調査団が一塊に成る中エルンストとリュリュミアが歩き出す。その二人にシェリルが危険性を示唆するが、まったりとしているエルンストとのんびりなリュリュミアは平気そうな顔をして調査団と少し離れた。
「大丈夫ですわ、もし何かあった場合はわたくしの水術で撃退致しますよ」
「そうか、マニフィカ何かあったら後は頼むよ」
 マニフィカが入り口のある広間に待機をして見張っていると、安心したようにシェリルは調査団の輪に入っていく。
「これより最上階へ向かう。最上階組みは私に付いて来て欲しい。他は部屋等を調査、探索して欲しい」
「調査方法は考古学者一人に対して4人程の調査団員が付き添うのがいいわ、何かあった時少数だと危ないわ」
「それと、部屋に入る時罠があったら危ないから注意して扉を開けたほうが良いぞ」
 トルカの言葉に続くのはシェリルとジニアスの調査、探索についての助言だ。二人の助言を受け5人以上の少数グループが出来ると古代遺跡内部を調査し始めた。
「問題は螺旋階段から吹き付ける風ですねぇ。上に行くほど風が強くなっていると言う事ですがぁ、私の魔法を使えば最上階にいけるかもしれません」 
 皆が風の吹く螺旋階段を見上げているとアメリアが太陽の光を蓄え所持者の魔力に変換することができる太陽の宝珠を取り出した。
「沢山太陽の光を浴びたのでぇ魔力も十分ありますぅ。この魔力を風系竜巻精霊魔法に使用しようと思いますぅ」
 竜巻を起こすほどの風力を発生させることができる精霊魔法で、アメリアは吹き付けてくる風を相殺しようと考えていた。
「うーん、でも最上階に行くには子を纏うが必要だろう?」
「古文書にはそう書いてありましたがぁ、実力行使で開かれる道もあると思いますぅ」
 ジニアスは元素水晶がなければ最上階までいけないと思っていたが、アメリアは最上階から吹き付ける風を相殺すれば行けると思っていた。
「試してみる価値はありそうだ、最上階組はアメリアの後に続くぞ」
 トルカの言葉に先頭をアメリアに任せ最上階組は螺旋階段を上って行った。ジニアスは今は螺旋階段の攻略をアメリアに任せ調査を続ける他の調査団の護衛に回る。そんな中シェリルは螺旋階段の風について試したいことがあった。
「上から風が吹いているのだったら、下から火を起こして上昇気流を起こせば最上階に行けると思うんだけど。あたしも万が一に備えてやってみるよ」
 シェリルは火を起こすために燃やす材料を取りに出て行った。

 調査団が分かれて探索、調査を行っている時姿を隠しながら鈴の蜘蛛型メカの発掘スパイだ〜君が人間大の小型メカの遺跡探索用ゾロメカを背負い、糸を高い位置に吐き出すと塔を覆っている蔦を踏み場に上っていく。ある一定の位置にたどり着くとゾロメカは蔦を掻き分けるとその奥から塔の部屋へ続く仕切りのない窓が現れ、次々と中へ入っていく。
『タンサクカイシッ!』
『ミツカルナッ!』
『ミツカッタラ、ニゲロ!』
『スッパイダーッ』
 声を掛け合うとゾロメカ達が部屋の内部を探索し、必要なものだとしたら蜘蛛型メカの胴体にある収納スペースに入れていく。まだ調査団はメカ達がいる部屋にたどり着いていないのか人の声は近くから聞こえない。
『…聞こえるか?』
『サー、イェッサー!』
『メイリの話だと重要なのは書籍や金属関連の物らしい、それを中心に集めれば歴史の証明になると言っていた。どんなものでもいい、積み込んで見つからないように運んで来い』
『スッパイダーッ』
 鈴の通信が入ってくるとメカ達は手を止め命令を聞く。指示を受けたメカ達は出来る限り物音を立てずに言われた通りの物を見つけては蜘蛛型メカの収納スペースに運んでいく。

「…ん?な、なんだあれはっ!?」
 船で留守番をしていた船乗りが空を見上げると見たこの無い物が空を飛んでいた。それはアリマが操縦する飛空艇レッツラ号であり、その操縦者であるアリマは外部についている砲台の隣に居た。
「砲台の方向よーしっ!風の向きよーしっ!俺弾の準備よーしっ!!」
「キッキー!(てめぇが一人で乗れー!)」
 眩しい太陽の光がアリマに差し込み濃い影を作る。その影は放送出来ない部分を隠し、日光が当る個所は張り裂けんばかりの筋肉を強く主張させた。一糸纏わぬ立派な体にはナイフをぶら下げ、背中にはカノン砲を担いでいた。暴れるキキを手で掴んだままアリマは胸を張って口を開く。
「ここの奴らは機械が嫌いだ!という事は大地の子も嫌いな筈だ!」
「キーッ!(その根拠はねぇ!)」
「機械は文化的なものだ、文化的な物が嫌いだとすれば…それは服だぜ!」
「キー…(だ、駄目だコイツ…)」
 親指を立てて白い歯をむき出しにすると、キランっと太陽の光を浴びて光る。その光を受けたキキは心底呆れたように頭を抱える。
「俺は裸族になる!行くぞ、キキちゃん!俺達に奪えねぇ宝はねぇぜ!」
「キッキー!(やめてくれぇ!)」
 アリマはキキを連れて砲台の中へ入ると、導火線に火をつけた。暫くの静寂の後、大気を揺るがすほどの衝撃が広がりアリマは全裸で発射された!両腕を前に出しながら弾の速さでイルマ古代遺跡の最上階へ向かっていく!風の抵抗となる服もなく鍛えられた体は弾丸になった!
「がはははははっ!!突撃だぜー!!」
 気絶しているキキを握り締めアリマは飛び続ける!空に飛ぶカモメ達を弾き飛ばしながらアリマは最上階の壁に到達、大きな破壊音が響く!
「おぅ!到着したぜぇー!!」
 勢い良く最上階に到着したアリマ、その体は頑丈で傷一つ付いていない。だが、それには一つ欠点が…
「止まらねぇぜ!がはははははっ!!」
 体が頑丈すぎて止まるきっかけがなかった。そんなアリマは螺旋階段に風を送っていた巨大な風の元素水晶にぶつかると軌道を変えて最上階の床を突き抜ける!弾丸になったアリマは止まる術が無い!

 アリマが全裸発射された同時刻、アメリアは風系竜巻精霊魔法で風を起こし最上階から吹き付ける風を相殺しながら上る。
「皆さん大丈夫ですかぁ?後、5階程上れば最上階ですぅ」
 スカートを抑えながら進むアメリアの後をトルカ率いる調査団が後を付いていく。その調査団は全員リュリュミアから貰った長い一本の蔦を握り締め、万が一に備え飛ばされないように連結を組んでいた。順調に進むアメリア達だが、残り5階に差し掛かった時風が突風と変化し襲ってくる。それでも溜めていた魔力のお陰で難なく対処出来ていたが、風が相殺する時に発生する衝撃の力が大きくなり階段を襲う。
「あっ!階段にヒビがぁっ!」
 衝撃に耐え切れず階段に一つのヒビが入るとアメリアは精霊魔法を緩めてしまった。その時だ!バサァっと音を立ててアメリアのスカートが全開してしまう!思わず連れ添っていた調査団から「おぉっ!」という歓声が上がるがアメリアはそんな歓声など欲しくは無い。
「い、い、い…いやぁぁぁぁぁっ!!」
 顔を真っ赤にさせたアメリアは咄嗟に近くに居たトルカに蹴りを喰らわせようとした時だ!
「止まらねぇぜ!がはははははっ!!」
 最上階からアリマが落ちてきた!そのアリマはグットタイミングにアメリアが振り下ろした足に蹴られ後方にいたトルカと調査団に飛ばされ、悲鳴を上げながら20階以上の階段から転げ落ちていく。その状況に気を取られたアメリアは風に飛ばされ、階段を転ばないように勢い良く下って行った。

「はぁ、自然に囲まれて幸せですぅ。少し暑いですがぁ、良い空気ですぅ」
 塔の内部で調査が続行されている中、リュリュミアは自然に囲まれる塔の周りを散歩していた。幸せそうに顔を緩ませ植物達に声をかけていると、生い茂った大きな葉が揺れ小型と中型の大地の子が姿を現した。
「あらぁ、大地の子ですねぇ。どうしましょぅ、皆さんにお伝えした方が宜しいですかねぇ」
 困ったように考えていると大地の子はリュリュミアに襲い掛からず調査団のいる塔にゆっくりと歩いていく。不思議な大地の子の行動にリュリュミアは首を傾げるが、大地の子よりも駆け足で塔の内部に戻る。
「皆さーん、大地の子がぁ御出でになりましたよぉ」
「あー、ちょっとあたしは手が離せないからジニアスとマニフィカに後を頼むよ」
 シェリルは先に行った調査団が失敗した事を考え上昇気流を作るために階段の下で大きな火を起こしていた。シェリルの言葉にジニアスとマニフィカは大地の子に対応しにやってくる。騒がしくなった広間に気づいたエルンストは部屋から出てきた。
「なんじゃ、騒がしいぞ。おっと、大地の子がお出ましか…」
 調査の邪魔をされて少し不機嫌なエルンストの目の前に大地の子が現れた。戦闘はしないつもりだったエルンストだったが、大地の子はエルンストを襲わずわざわざ遠くにいる調査団や協力者達に向かっていく。
「ふむ、じぃさんには興味がないのか?失礼な奴らじゃ…」
「あ、わたしにも興味が無い感じでしたよぉ。なんででしょうかぁ?」
 呑気な二人がのんびりと干渉している間にマニフィカの水術、ジニアスのサンダーソードの雷撃の合わせ技で大地の子達は胸辺りを破裂させ次々と倒れていった。その時だ、螺旋階段の上から騒音が響き何かが転がる音が聞こえる。すると、今まで流れてこなかった風がシェリルの所にまで流れてきた。
「で、出来た!上昇気流が生まれたよ!これで最上階まで簡単に行けるわ!!」
 温めていた空気のお陰で風の流れが変わる、シェリルは嬉しそうに立ち上がり螺旋階段の上に視線を向けると階段を転がり落ちる調査団が見えた。全員の体に蔦が絡まり一塊になって落ちてきた調査団はシェリルの起こした火の中に飛び込んでしまう。
「あ…」
 シェリルが気づいた時には既に遅く一塊に火が付き激しく燃えた。蔦が絡まっていて逃げ出すに逃げ出せない一塊は必死に暴れる。
「あら、これはこれで面白いですわね」
「おいおい、のんびり見ないで助けてやれよ。なんか、一人見慣れない奴がいるけどなぁ」
「マニフィカ、のんびり干渉しないでよ!ジニアスも笑って流さないで!あーもう、早く行動しなさーい!!」
 マイペースなマニフィカとジニアスにシェリルは怒鳴った。

 マニフィカの水術で火を消し、階段から降りてきたアメリアが調査団に一所懸命に謝りながら精霊魔法の水系回復精霊魔法で火傷を治療する。その中で裸のアリマは頭に火がまだ残っているが全く気にしないのか豪快に笑っていた。
「ん?風が止まったぞ?今なら最上階にいけるのじゃないかのぅ?」
 ようやく周囲が落ち着いた頃最上階から大きな音が響いた後、階段を吹き抜けていた風が止まる。エルンストは気づき声をかけると、調査団をその場に残しトルカと協力者達は階段を上って行く。暫く上っていると最上階が見えるほどの大きな穴に気づく、とそれと同時に最上階に続く階段がアリマの突撃によって崩れていた。
「あ、わたしにお任せ下さいぃ。蔦を伸ばしてぇ、皆さんで最上階に向かいましょぅ」
 皆が頭を悩ませている時のんびりとした口調のリュリュミアが提案してくる。その案に皆が頷き蔦を最上階と階段で何十本と張り巡らせると蔦の梯子が完成した。
「でも、どこから大量の蔦が…」
「それはぁ、企業秘密ですぅ」
 何故リュリュミアから蔦が沢山出てくるか不思議と首を傾げるシェリルにリュリュミアは人差し指を口元に置くと秘密だとしか言わない。何はともあれトルカ達は荒行事になってしまったが最上階にたどり着く事が出来た。
「…こ、これは!?どう言う事だっ!?」
 最上階に上ったトルカは目を疑う光景に戸惑った。他の部屋や塔の外面、内部とは違い最上階は金属の固まりで出来た巨大な機械が所狭しと設置されている。今も動いているのか、機械音が聞こえ何かの処理作業を行っているようだった。
「これはぁ、どうみても機械ですよねぇ?」
「どう言う事でしょうかぁ?」
 アメリアとリュリュミアが首を傾げる中、何かの動作音が聞こえ今まで動いていなかった人型の機械が動きだしトルカ達の前にやってきた。周りが騒ぎ出す中その人型の機械はお辞儀をする。
「初メマシテ、私ハ機術士イルマ様ニオ仕エシテオリマシタ…イーギスト申シマス」
「驚いても仕方なかろう、これが現実だわい。ところでイーギスとやら、ワシらはこの古代遺跡を調査しに来たのじゃが…歴史も含め教えてはくれんかのぅ?ワシらは歴史も何も知らんのじゃ」
 イーギスにエルンストは落ち着いた様子で話しかけると、イーギスは語り始めた。
「検索中…検索完了。魔物デ支配サレテイタ2000年前、魔物カラ国ヲ守ル為に太陽エネルギーヲ利用シタバリア製造機械『サンバリー』ヲ機術士イルマ様ガ発明。ソノ後、バリアニ守ラレタ国ノ技術者達ハ5年ノ歳月ヲ経テ広範囲粒子状細胞破壊ウイルス爆弾ヲ完成。バリアノ外ヘ発射後、魔物達ハ殲滅」
「嘘だ!そんな歴史…今まで聞いた事がない!」
「落ち着けって!話はまだ終わっちゃいねぇ!」
 イーギスの話に信じられないとトルカは声を上げイーギスに詰め寄る。それをジニアスが止めるとイーギスは話を続ける。
「バリアデ防ゲナカッタ微量ナ広範囲粒子状細胞破壊ウイルスハ、植物ニ悪影響を及ボシ自然破壊進行。自然破壊ヤ技術ヲ巡リ自然派ト技術派ガ争イ、10年戦争開始サレル。機術士イルマ様ハ自然派ニ付キマシタガ、結果技術派ノ勝利ニ終ワリ戦争終結。デスガ、自然破壊ガ進ミ微量ニ残ッタウイスルに空気ガ汚染サレルト原因不明ノ伝染病流行…後、キビート全域ノ人々ハホボ全滅トサレル」
「歴史を紡ぐ者がいなかったのか、それとも歴史を隠したかったのか…良く分からんが、少なくとも昔は今よりも機械文明が進んでいたようじゃな」
「お笑い話にもならない過去ね、じゃぁ今残った人達は辛うじて生き残った技術派の子孫っていうことかしら?だったら本当に笑えないわ、技術を持った人達は状況が一変すると自然を崇拝するように変わっちゃうんだから」
 エルンストが落ち着きながら歴史を受け入れるとシェリルは肩を竦める。今の話が本当なら今キビートで暮らしている人々は技術で自然破壊と人類の滅亡寸前に陥らせた子孫達の可能性が強いと言葉を漏らす。呆れた過去と現実にそれぞれが複雑な表情を浮かべていると、イーギスは顔を上げてアメリアに近づいた。
「貴方ニ太陽ノエネルギーヲ感ジマス。モシヤ、イルマ様ノ御子息様デゴザイマスカ?」
「えぇ?わ、わたしは違いますよぉ…確かに太陽の光の力を蓄える事が出来る杖と宝珠はありますがぁ」
「デスガ、同ジ力ヲ感ジマス。イルマ様ガ言ッテオリマシタ、自然ノ力ヲ持ツ者ニイルマ様ガ残シタ技術ヲ渡シテ欲シイト。同ジ過チヲ繰リ返サナイ為ニ力ヲ生キテイル者ニ言イ伝エテルヨウ、言ワレテオリマス」
 イーギスはアメリアの持つ陽光の杖と太陽の宝珠の力に気づき、イルマが残した命をイーギスは成し遂げようとしていた。イーギスは一つのコンピュータに近づき操作をすると、最上階にある部屋が重苦しく開く。
「アチラニハソノ昔、イルマ様ガオ作リニナラレタ『サンバリー』ト呼バレル太陽ノエネルギーヲバリアニ変換スル小型ノ機械ガアリマス。ソノ他ニハイルマ様が残サレタ遺品ガゴザイマス。ゴ自由ニオ持チ下サイ」
 トルカが未だ落胆し床に座り込んでいる間に協力者達はその部屋に入っていく。すると、中央に拳大の金属で出来た機械が十数個乗っている台がありその壁側の棚にはイルマの遺品が飾られていた。
「中央ノ機械ハ『サンバリー』ヲ小型化シタ物デス」
「なんだ、金ぴかの宝はないのか?ちょっと残念だったな、キキちゃん!」
「キキーッ!(股間を俺で隠すなぁ!!)」
「なんじゃ、魔術的な物はないのじゃな…残念じゃ、ワシは魔術的な物が欲しかったのにのぅ。仕方が無い、機械っぽい杖でも頂くかな」
「わたしぁ、この指輪がいいですぅ!宝石が太陽の色をしていてぇ、可愛いですぅ!」
「わたくしは宝物の報酬はいりませんわ。楽しませて頂けただけで十分ですわ」
 一部の協力者達が遺品等を物色していると、一部の協力者達はイーギスに詰め寄った。
「なぁ、イーギス。古文書には『子を纏いし者は大地の子が導くであろう』って書いてあったんだが」
「ハイ、子ト言イマスノハ大地カラ生マレル物質デス。木、草、土ガソレニ当テハマリマス。デスノデ、ソレラデ体ヲ覆エバ宜シカッタノデス」
「あのぅ、その大地の子はぁエルンストとわたしに襲い掛からなかったのですがぁ…それはどうしてですかぁ?」
「ハイ、大地ノ子ハ人間ヲ襲ウヨウ胸ノ中央ニ専用ノ機械ヲ埋メ込ミ設定シテオリマス。人間以外ハ襲イマセン」
 協力者達の質問にイーギスは答えていると、シェリルは今も落胆しているトルカに近づいく。
「あーもう、じれったいわね!事実は事実なんだから仕方ないでしょ!ほら、何時までも落ち込んでないで立ちなさいよ!」
 さっぱりとした性格のシェリルは何時までも落ち込んでいるトルカを見ていられず力一杯に背中を叩いた。それでも反応を示さないトルカにシェリルが不機嫌そうに顔を上げた時、蔦を昇り大地の子が現れた。
「ちょっと、イーギス!あんたであいつら制御出来ないの!?襲ってくるわよ!」
「少々オ時間ガカカリマス。一日下サイ」
「それじゃ間に合わねぇな!!俺様が直ぐに友好関係築いてやるぜ!」
「キー!(無茶だぁ!)」
 シェリルとイーギスのやり取りが聞こえていたアリマが放送出来ない部分をキキで隠しながら大地の子に駆け出していく!
「がはははは!!友達にならないか?」
 両手を広げ駆け寄っていくと中型の大地の子が物を投げ抵抗を示す。大地の子が好戦的な態度を示すと、友好関係を築こうとしていたアリマの行動は一変する。
「…てめぇら!俺様の歩み寄りを無視する気か!バンバンのエンブレム…カノン砲の威力、喰らいやがれぇぇ!!」
 バンバンのエンブレムというエネルギー弾でカノン砲を連射させることが可能になる魔法のエンブレムをカノン砲に貼り付けると、アリマはエネルギー弾を大地の子に向けて放つ!巨大なエネルギー弾が大地の子へと向かうが、そのエネルギー弾は大地の子を突き抜け塔の壁を破壊する。大きな音を立てて壁が崩れていくが、アリマは遠慮せずに次ぎから次へとエネルギー弾を発射する。塔の最上階から光を放ちながらエネルギー弾が放たれる時、地面から大きな衝撃が塔に響いてきた。
「超破壊力技…流星キーーーーック!!!」
 なんと地面からトリスティアが流星キックで飛び出してきた!大地を破壊し飛び上がった流星キックは止まる事無く塔にまで到達し、塔に大きな亀裂が走る!

 塔はアリマのカノン砲とトリスティアの流星キックで崩れ去った。調査をしていた者達は外に出て無事だったが、最上階にいた協力者達はイーギスが発動したサンバリーのバリアの効果でアリマ以外難を逃れた。
「がははははっ!良く熱帯林が見えるぜ!」
「あの…変態どうにかしてよっ」
 瓦礫の中から全裸のアリマは全くダメージを受けていないように平然と笑っていると、シェリルは頭を抱える。この状況を一体どうしてくれるんだと…溜息を吐いている。
「まぁ、歴史も遺品も不思議な力も手にはいった事だし…いいんじゃねぇ?あははははっ」
「そうじゃ、何も無かったよりはましじゃわい」
「笑って流さないで頂戴っ!!…もう、こんな一団嫌ぁぁぁあああっ!!」
 ジニアスとエルンストの笑い声よりもシェリルの叫び声が熱帯林に響き渡った。

Scene.7 イルマ古代遺跡崩壊後
 塔が崩れ去り過去を証明する遺品は瓦礫の中に消えた。肝心のイーギスは協力者達を守る為にサンバリーの力を発動させたがイーギス自身はバリアの範囲外で瓦礫の中に消えてしまう。トルカと協力者達の手元に残ったのは目的の不思議な力サンバリーと数少ないイルマの遺品だった。また、トリスティアの開けた穴からメイリと協力者達が現れ調査団と合流を果たす。これからどうするべきか調査団内で話し合いが行われていた時、メイリは調査団と離れる。そして誰にも見つからないように鈴と初めて顔を合わせていた。
「待っていたぞ、これがイルマ古代遺跡に残されていた物だ」
「こ、こんなに?凄いわ、これだったら…歴史が解明、証明できる!」
 海中で個人用アンコウ型潜水艇に乗り姿を隠していた鈴がメカによって運び出された品をメイリの目の前に差し出すと、メイリは嬉しそうに手を叩いた。
「書物は昔の文字で書かれている為俺には解読できない。だが、部屋に所々に置かれていた何かに使われていた金属の精度は俺の目から見てもかなり高い。部屋に置かれてあった家具や物は軽く1000年は越えている物ばかりだ…それなのに殆ど機械類に劣化が見当たらない。いいや、他の物も形を失うほどの強い劣化が見当たらなかった」
「そう…それだけ昔は繁栄していたのね」
 鈴が回収した物の分析を聞くメイリは神妙な面持ちで顎に手を当てる。
「調査団は過去の歴史を知ったとさっき聞いたよ、それを聞いてから色々考えたほうが良さそうね」
 顔を上げ鈴に声をかけると、調査団がいる場所から大声が聞こえてきた。二人は顔を見合わせてその場所へ駆け出して行く。

 遺跡という証拠がなくなり悩んだ挙句トルカが出した答えは、ここで知った歴史を封印し遺跡は無かった事にする事だ。
「なんで!?このまま歴史を封印するって!やっと正しい歴史が分かったのに、何で内緒にしちゃうの!」
「ふざけんじゃねぇ!てめぇがただ単に歴史を受け入れられないだけじゃねぇか!技術は使い方によって人を幸せに出来るものだぜ!」
「機械のどこがそんなに嫌い!?メイリさんも可哀想だよ…なんで受け入れないんだよ!」
 声を上げるのはトリスティア、レイナルフ、ラサだ。怒り心頭な三人がトルカに詰め寄るがトルカは背を向け思いを口にした。
「遺跡は崩れた、過去を証明出来るものは僅かに残った物だけだ…とてもキビートの人達を納得出来る様な調査結果ではなかった。僅かな調査結果、遺品を差し出したところで異世界の物だろうと言われるのが末だ…100%確定出来ない証拠は人々を不安に陥らせる要因にしかならない」
「わたくしが援助をしたのはそんな事を望んだ訳じゃありませんわ、貴方は総団長としてここで起こった事実を伝えなくてはいけません。それが総団長としての責務です」
「責務か…なら私も言わせて頂こう。この歴史は今の人々に重荷になりすぎる、平穏な暮らしが崩れる可能性がある…今まで信じてきたものが突然崩される絶望、虚無感は人々にとって耐え難いものだ。だったら、無き物にしてしまったほうがいい。君達は真実を伝えた後、人々が絶望に陥る責任を取れるのか?」
 歴史を隠す事、すなわちそれはキビートに住む人々の為になる…歴史への歩み寄りを拒絶したトルカに厳しいマニフィカの言葉が降りかかるが、トルカも調査団もそれを受け入れない。真実を伝えても人々は信じてきたものが失われ絶望するだけだ、軽々と真実は伝えられない…トルカの強い言葉に誰もが口を噤む。
「ちょっと待って!トルカ…前々から最低な奴だって思ってたけど、今のあんたはもっと最低よ!皆がこんなにも協力してくれたのに、調査結果や歴史を伝えないですって?…いい加減、甘ったれた考えから離れなさいよ!そんなに変わることが怖いの!?」
「メイリか…変わり者の君には分からんだろう。私達がどれだけ自然を信じ生きてきたか…それが全てだ。今までずっと、そしてこれからもずっと変わらない…私達は文明を受け入れない」
「…このっ、分からず屋!!これを見ても、そんな事言えるのっ!?」
 ぶつかり合う二人は声を上げ言い争いをするとメイリは指を差す。その先には鈴が蜘蛛型メカで移動させてきたイルマ古代遺跡内部にあった過去の遺物が山積みにされてあった。
「こ、これは…何時の間に!?」
「俺がメカを使って運ばせた。機械を使ってはいけないなどという、言い分をいちいち聞いていても仕方ないのでな…好き勝手に使わせて貰った。機械文明を拒絶するとは愚かな方針だとは思うがまあ主義主張は人、国それぞれだ。無意味に引っ掻き回すつもりは無いが研究の対象としては興味をそそられるものがあったのでな。成り行きを見守るのは俺の流儀ではない。表に出て騒ぎを起こすのもなんだし、裏からこっそりと奪わせてもらった」
 トルカと調査団が驚いていると鈴が現れ自分の経緯を語った。鈴のような人が出るとは思っても見なかったトルカと調査団は驚き、力が抜けたように地面に座り込む。これだけの物証があれば十分すぎた。
「これ全て私が買い取ったよ。これらを研究し広めるのは私の勝手…でもそれじゃ貴方方に不都合じゃない?」
「何が言いたいっ…」
「一部、調査団に売って上げるって言ってるのよ。でも、ちゃんと研究し人々にそれらの結果を包み隠さず伝えるのが条件ね」
 メイリの取引に顔を歪めるトルカ、顔を伏せ暫く黙り込んだトルカは…
「…分かった約束しよう。だが、時間をくれ…直ぐには出来ない」
「それだけで結構よ、私達には過去を知り過去と共に生きる責任があるわ」
 トルカは鈴が遺跡から持ち出した品の数々の研究をし、歴史の解明が出来た暁には、キビートに住む人々に歴史を伝える事を約束した。だが、鈴は欲しがっていた研究資料を嫌っていたトルカに売ったのか良く分からない。
「何故、売るような真似をした」
「これは私一人が解決する問題じゃない、皆で乗り越えなきゃいけない事よ。それに痛みが伴ってもそれでも諦めない、批判批難は慣れてるから平気よ…変わらないよりはまし。それに借金王さんに助けて貰ったしね、調査団から巻き上げる取引金があれば少しは足しになるんじゃない?」
「…案外、あくどいのだな。だが有難く頂戴しておく…」
「そりゃ、良い人じゃ生きていけなかったからね!それに礼もしたかったし、これを上げるわ…役に立てばいいけどね」
 メイリから礼として鈴が遺跡から見つけ出した一つの品が手渡され、鈴はそれを受け取った。

 こうしてテラスマ調査団の初航海は幕を閉じた。遺跡は崩れその中から発掘するのは困難でトルカはそのまま証拠を隠滅し歴史を隠そうとしたが、武神鈴が遺跡から持ち出した品々によって歴史を封印される事を防げる事が出来た。サンテール号に戻ったトルカ達は一度住み慣れた土地に戻って行く、協力者達によってたどり着けた歴史の真実をその胸に秘めて。次の航海がどんなものになるのか、それはまた別の話である。


大木リツマスタートップPへ