ゲームマスター:大木 リツ
コーリア島を目前にした調査団テラスマ。調査船サンテール号が、岩の間に挟まれこれ以上進む事が困難となる。総団長トルカ・ウィシャードは、サンテール号を副団長メイリ・バルテイロスに任せ、動ける調査団員や傭兵と一緒に小舟に乗りコーリア島に上陸した。二手に別れ目的を果たそうとするのだが、目の前に大きな問題が立ちふさがる。その時、トルカとメイリは助けが欲しいと心から求め祈った。救いを求める声は遠くの異空間の店「バウム」まで届く。緑の窓からその世界を覗いていた異世界の協力者達が今、その声に応えようと世界に飛び込んでいった。 Scene.1 海竜との戦い 空が厚い雲に覆われ強い風が吹く。海は荒れ、高波が調査船サンテール号に襲いかかる。穏やかだった海が突然荒々しい姿に変えた原因は、ここに住む海竜の仕業だ。突然現れた海竜は戦いを調査団に要求するが、それに応えられる者は誰もいなかった。乗っていたメイリ・バルテイロスは両手を組んで強く願う。 「お願い、誰か助けてっ!」 「その声を待っていましたわ!」 メイリの声に答える声が一つ現れる。その声は遠く、雲の向こうから聞こえてきた。一瞬、雲の一部がフラッシュのように光り輝くとその光の中からアンナ・ラクシミリアが現れる。学校の制服を身に纏い、ローラースケートと安全ヘルメットを装着したお嬢様だ。 「アンナ・ラクシミリア…レッドクロス装着、ですわっ!」 両手を広げ落下するアンナは突然眩く光り出す!光に包まれるアンナの頭部にはアイシールド付きのヘルメット。光に包まれた手と足には、白い手袋とブーツがはじけるように現れた。そして腰にはピンクのスカートが装着される。変身したアンナは甲板に降り立ち、海竜に向けて指を差す! 「このわたくしが来たからには心配は御無用ですわよ!調査団に変わり、わたくしが成敗致します!」 レッドクロスの影響で茶色からピンク色に変わったセミロングの髪を揺らしながら、アンナは海竜の申し出を受けた。だが、協力者はアンナだけではない。 「ジュディもユーとサム、ネ」 突然、甲板にモンスターバイクの上に仁王立ちしたダイナマイトバディが現れる。頭に被ったテンガロハットからゴージャスなブロンド下ろし、アメフトのプロテクターを装備したジュディ・バーガーだ。鼻歌を歌いながら、つま先で床を叩く。右手に持った小型フォースブラスターを軽快に回し、グリップを握ると銃口でテンガロンハットのつばを持ち上げた。 「Hey!そこのMrシードラゴン、ジュディの話が聞こえますカ?このシップに乗っているのはファイターでもシーフでもないヨ。勘違い困るデスネ。どうしてもファイトしたいなら……このジュディが相手するヨ!ドゥユーアンダスタン?」 見たことのない力や物を目の前に調査団はどよめいた。一体何が起こったか分からないが、自分達を助けてくれる存在に一人また一人と戸惑いながら歓声を上げる。 「あ、あの…貴方達は?」 「わたくし達は異世界から来た者です。この状況を見過ごせなくて、飛んできましたわ」 「スーパーヒーローはヘルプの声を無視出来ないネ」 メイリは突然現れた見慣れない格好のアンナとジュディに話しかけると、アンナとジュディは笑みを浮かべて答えた。メイリは自分の声が届いたと安心した表情を浮かべる。そこに様子を見ていた海竜が話しかけてきた。 「ほぅ、異世界から人が来るとはな…お前達が相手をしてくれるというのか?」 「そこの海竜!抵抗出来ない調査団を襲うとは何事です!その行い、見過ごせませんわ!」 「そうネ。ファイトしたいなら、パワーのある人に挑戦することネ!」 サンテール号よりも大きな海竜が見降ろすと調査団は震えあがったが、アンナとジュディは勇ましく海竜と対峙する。両者が睨み合うと、突然頭上から声がかかった。 「ちょっと待って!」 「まずは話をさせてくれ!」 空中に現れたのは赤髪を後ろで束ね、Tシャツの上にフード付きのベストを羽織ったジニアス・ギルツ。フードの中には、体長30cm程の白いネコのぬいぐるみに憑依したラサ・ハイラルが入っていた。二人が降下中、空が一瞬光り近くに雷が落ちてきたが、ジニアスは華麗に雷を体を捻り避けると甲板に降り立つ。 「海竜は何かを守っていて、それを奪いに来たって勘違いしてるみたいだ。だから、まずは誤解を解く方が先決だ!」 ジニアスは何かを守る為に海竜が現れて怒っていると仮説を立てた。ジニアスの話にアンナとジュディが一旦交戦体制を解くと、ジニアスの話に賛同する協力者達が現れる。 「ボクもそう思うよ!きっと大切な何かを守る為に襲いかかってきたんだよ!まずは話をさせて!」 「私はいきなり自分より小さいものに襲いかかってきた、海竜の根性が気に入らない!戦う前に少し言わせてもらうよ!」 甲板から1m程の位置でフワリと現れたのは、トリスティアとシェリル・フォガティ。トリスティアは紺色のスクール水着とハニーブロンドのショートカットに海中ゴーグルをつけている。シェリルは茶色ロングの三つ編みと軽装をしていた。その中で先に海竜に物申したのは、シェリルだ。 「ちょっと待ちなさい、そこの大きいの!戦う必要があるのかどうか、はっきりさせてからでもいいでしょ!?」 「何を言い出すかと思えば戦う必要だと?それなら条件は満たしているではないか。我がここにいて貴様達がここにいる、それだけだ」 シェリルの問いに海竜は鼻で笑う。海竜にとって人がこの場にいる事が戦う条件のようだ。海竜の訳の分からない話にシェリルが首を捻っていると、船首にオレンジ色したぬいぐるみがぽとんっと落ちてきた。一体どこから落ちてきたのか?調査団は不思議そうな顔をしていると、そのぬいぐるみは動き出し船首に立つ。 「まぁまぁ、シェリルちゃん落ち着いて。ボクがお話してみるよ」 落ちてきたのは90cmのオレンジ色したテディベア、テオドール・レンツだ。テオドールは怒りに満ちた子供の気配を感じ取りここに降り立つ。小さなテオドールは自分よりも何百倍も大きな海竜を見上げて尋ねる。 「どうしたの?なにを怒っているの?どうして怒らないといけないほどのことなの?」 テオドールの裏表もない優しい声が海竜に届く。海竜は考えてもみないテオドールの言葉と優しい雰囲気に少し困惑する。 「我が怒る?これは怒りではない、これは歓喜なり。我はこの時をずっと待っていたのだから!さぁ、戦え!」 「あれー?可笑しいなぁ。何か感じたんだけどなー」 「テオドール、もういいよ!もしかしたら、見栄張ってそう言っているかもしれない。ザイダーク、貴方の力で怒りを鎮めてみて!」 腕を組んで首を傾げるテオドールにシェリルが代わり、怒りを鎮める為闇の精霊ザイダークを呼んだ。シェリルの声に手の平に乗るほど小さな30代程の男性が現れた。ザイダークは力を使うため海竜に意識を集中させるが、すぐにシェリルに向き直る。 「シェリル、こいつから怒りという負の感情は感じられない。それに我の力は人間に対する力だ、海竜に効果は期待できないな」 「そう、分かったよ。どうやら、本当に奴はこの時を待ちわびていたみたいね」 ザイダークの話にシェリルは、海竜が怒りに任せて襲ってきたのではないと納得した。しかし、まだこの事態に納得もいかない協力者達もいる。 「だが、戦う意志も力もない相手に大して問答無用に戦い仕掛けるってのは…見過ごせないよな」 「こっちは戦うつもりなんかないのに、いきなり攻撃してくるなんてひどいよ!しかも皆戦える状況じゃないのに」 「ボクも同じ考えだよ!戦いは嫌いじゃないけど、大した理由もなく戦うのは好きじゃない!」 一方的に戦いを挑み襲ってきた海竜にジニアス、ラサ、トリスティアは許せなかった。トリスティアは説得の為に大声を上げる。 「ボク達は島の調査に来ただけなんだ!海竜にとってどうでもいいものは持ち帰るけど、海竜にとって大切なものは調べるだけにするから!」 「ほぅ、貴様達は島の調査に来たという事か…海底に沈んでいるアレではなくて」 「そうだ!俺達はお前が守ってるものが何かは知らない。座礁してここにいるだけで俺達に戦う意志はないんだ!」 トリスティアの説明に海竜が耳を傾けると、ジニアスが一緒に説得を試みた。暫く海竜は黙ったが、突然笑い出す。 「我はアレを守る為にいるのではない。我はアレを欲する人間達が群がるこの海域に住みついているだけに過ぎない。アレを餌にして我はここで人間との戦いを待ち望んでいるだけよ」 「え、それじゃ…本当に戦うだけに襲ってきているの?」 「そうと言っている。島の調査に来たのであれば、行えばいい。だが、無事この海域を脱する事が出来ればだがなっ!」 海竜は沈んでいるものを目当てに集まってくる人間を待っていたようだ。ラサの問いに簡潔に答えると、海竜は咆哮を上げ海中に勢いよく潜る。荒れていた海のうねりが大きくなり、サンテール号の周りに大きな潮渦が出来た。 「どうやら、交渉は無意味らしい。俺は船と団員を守る!」 「戦うしかないんだね。ボク、海竜と戦うよ!」 説得失敗となったジニアスはサンダーソードを手に取り、ラサは魔銃を手にした。再び海中から現れた海竜を目の前にして、協力者達は戦闘態勢を取る。 ▽ 荒れた海の上、対峙する海竜と協力者達。強い風が吹き付けると、今度は雨も降ってきた。時々雷が鳴り響き、近くに落ちるが誰もが海竜に集中している。その中で一番手に飛びだして行ったのは、アンナだ。 「わたくしがお相手致します!」 甲板をローラースケートで滑ったアンナはモップを手に持ち、海竜目掛けて飛んだ。このまま海竜の体に飛び移るつもりだったが、海竜が黙ってそれを許す筈がなかった。突然、海の水が柱のように噴き出るとそれがアンナに直撃する。その衝撃でアンナは甲板に戻ってしまった。 「くぅ、油断しましたわっ!ですが、諦めませんわよ!」 「アンナ、ストップ!相手はシードラゴンネ。一人でファイトしても、勝ち目がローヨ!ここは、コンラッドと協力するデスネ!」 頭を抱えて起き上ったアンナにジュディは協力して海竜と戦う事を進言した。しかし、アンナは人の話を聞かないためそれが心配する言葉として受け取ってしまう。 「ジュディ、心配ご無用ですわ!わたくしにはこのレッドクロスがあります!」 「OH…そういう事ではありませんネ」 話がかみ合わずジュディは両手を上げ肩をすくめた。その間にも海竜は大きな尻尾の尾で振り、津波を起こす。それがサンテール号に直撃し、座礁しているサンテール号は大きく揺れた。 「きゃぁぁっ!?」 「メイリっ!?」 衝撃でメイリが船から落ちてしまう。シェリルが気づいた時には、メイリの姿は甲板にはなかった。その時、船の近くで空間が切り裂かれその中から白い何かが飛び出してくる。それは落ちるメイリを抱きかかえると、甲板まで上がってきた。学生服の上に白い反重力白衣を纏い、黒髪を後ろで束ね伊達眼鏡をかけた武神鈴だ。 「鈴?ありがとう、助かったわ」 「構わないさ。助けが必要なようだな…安心していいぞ。この俺が力を貸してやるんだから、それこそサンテール号より大船に乗った気持ちでいていいぞ」 突然現れた鈴にメイリは驚いたが、鈴の自信満々な言葉に安心した。鈴はそのまま甲板にメイリを降ろすと、鈴が気づいたように口を開く。 「そういえば、助ける時に胸を掴んでしまったようだ。すまん、さわり応えがなかったので気付かなかった…」 「っ!?い、いやぁっ!」 淡々と話した鈴の言葉にメイリは顔を赤くして、思い切り鈴の頬を平手打ちした。鈴の頬には大きな赤い紅葉が出来、近くにいた女性陣に冷たい目で見られる。それでも鈴は平常心を崩さず、伊達眼鏡を直し船首に立つと海竜を挑発した。 「ティアマトなどの神級の龍ならともかく、ただの海竜など役不足もはだはだしいが…こい、相手をしてやる」 「随分と自信がある人間だ。我に勝てると思うか!?力の差を思い知らせてやろう!」 海竜が空に向けて咆哮を上げると、雨と風は激しく強くなり雷が雲の中を走る。海竜を観察していたラサが協力者達に助言を叫ぶ。 「海竜は咆哮で天候を操るようだよ!咆哮を抑えれば天候を操る事を遮れるかもしれないけど、あんなに大きいんじゃ無理かもしれない」 「無理だったら俺達がちゃんと対応出来ていれば大丈夫だ!皆、気をつけろよ!風に飛ばされて海に落ちたらおしまいだ!」 観察したお陰で海竜が咆哮で天候を操る事が出来る事は分かったが、海竜が巨大な為それを抑える術がない。悔しそうにラサが俯くと、ジニアスが明るい声でラサを励まし船に乗っている者達に注意を促す。 「ボクは海中にいって岩を壊してくるよ!このままじゃ、波の圧力で岩が船を壊してしまうかもしれない!」 トリスティアは荒れる海を恐れずに果敢にも海中に潜る事を宣言した。その手には水中を高速移動できる装置、水中すくりゅ〜ロケットがある。トリスティアは海中メガネをセットして荒れ狂う海に飛び込んでいった。飛び込んだ海中は強い波の影響で流れが強くなっているが、水中すくりゅ〜ロケットのお陰で真っ直ぐ進む事が出来る。それでも流れの影響はトリスティアの体を強く揺さぶり、圧迫となってトリスティアを苦しめる。 『くっ…早くしないとボクの体が持たないや』 トリスティアは岩から少し離れた位置まで移動すると、岩目掛けて全速力で水中すくりゅ〜ロケットを起動させた。高速で水中を進むトリスティアは右足を突き出し、流星のように素早く力強いキック…流星キックの構えを取る。 『くらえっ!流星キッーーーーークッ!!』 高速で水中を移動するトリスティアは流星キックを岩に直撃させる!瞬間、岩は跡形もなく粉砕されサンテール号は海の上に浮かんだ。任務を終え、トリスティアは水中すくりゅ〜ロケットの力で海面から勢いよく飛び出ると甲板に戻ってくる。 「これでサンテール号は大丈夫だよ!」 「ありがとうトリスティア!また君に助けて貰っちゃったわ」 メイリはスクール水着姿のトリスティアに自分のベストをかけ渡した。一つ心配事は消えたが、根本的な心配事…海竜は未だ解決出来ていない。海に浮かんだサンテール号が大きく揺れ、強い風で立っていられない調査団が物にしがみ付く。その中でジニアスは魔黄翼で空を飛ぶ。フードに入っていたラサは風を吸収、放出出来る緑の元素結晶を使いジニアスの飛行を手助けをしていた。 「元素水晶か…まさか貴様らがそんなモノを持っているとはな。だが、我が操る天候はそれを凌駕するぞ!」 激しい風が吹く空を飛ぶジニアス達を見て海竜は再度咆哮を上げようとした。その時、空から大きなエレキギターの音が聞こえてくる。見上げると厚い雲の間から出てきたのは大きな飛行艇、レッツラ号が現れた。レッツラ号には船長の姿はいなく、その代りにキリギリスの触覚と羽を生やした吟遊詩人がいる。渋いグリーン基調のスーツにロングスカーフと帽子を被り、銀色のセミロングを揺らしながらその人はリュートを奏でていた。 「人呼んでさすらいの吟遊詩人アストル・ウィント、篤き声援に応え只今見参!いざ、吟じます!」 アストルは雷の精霊の力の宿った、雷精のリュートで華やかなで独特の音色を奏でる。それはエレキギターの音を出し、大音量で鳴らし続けた。空で奏でるその音の所為で海竜の咆哮の効果はかき消され、次第に風と雨が弱まっていく。 「どうだい、俺の演奏と歌は?海竜の声よりもよく響くだろう?」 「ぬぅ…空から音を奏でる奴がいるとは。ぬかったわ」 アストルが天候を操る咆哮を抑えたお陰で、ジニアス達は風を吸収しなくても飛べるようになった。 「俺の歌と演奏を聞いて友達になろうぜ!シェケナベイベー!カモン、ロケンロー!」 空で雷精のリュートを奏でアストルは歌い出した。その声と音は空に響く。同じ属性の雷が雲の中を大量に走り、雷が海やサンテール号の周りに落ち始める。どうやら、アストルの雷精のリュートは海竜の咆哮の効果を和らげるが、代わりに雷を呼んでしまったようだ。 「こりゃ、もろ刃の剣か?仕方ない、俺が雷の相手をしてやるぜ!」 魔黄翼で空を飛んでいたジニアスは困ったように頬をかく。気を取り直して雷がサンテール号に当たらないように、サンダーソードを手に取り空を旋回する。雲が光り雷が少し離れた所に落ちると、ジニアスはサンダーソードの刀身から雷撃を発生させその雷を相殺した。大きな爆発があるがサンテール号から離れている為、大きな被害はない。 「あ、ジニアス!真上からくるよ!」 「任せておけ!ついでにこれを海竜にお見舞いしてやるぞ!」 ラサの声に空を見上げると、サンテール号の真上から雷が落ちる。ジニアスは両手でサンダーソードを握ると、渾身の力を込めて雷を弾き飛ばした。雷は軌道を変え、海竜の角目掛けて飛び直撃する。 「ぐあぁぁぁっ!…くっ、今のは効いたわ。だが、これしきの事で倒れる我ではないっ」 「自信がおおありだな?そんなに負けない自信があるんだったら、こっちが勝ったら言うう事聞いてもらうからな!」 「ふん、我に勝てる筈がないのに何をほざくっ!」 首を大きく振る海竜はジニアスに咆哮を浴びせると、ジニアスはその衝撃で少し飛ばされてしまう。 「今のは声による衝撃波だったよ!風だったら元素水晶で吸いとれたのに残念」 アストルの歌や演奏は辺りに響いても、咆哮の衝撃は変化はないらしい。ラサがその事を皆に伝える。 「OKネ!これを使えばヒットする確率がロー、デスヨ!」 ジュディは煙玉を出し、それを海竜に向けて投げた。煙玉は大量の煙を吐き出し、あっという間に海竜を煙幕で包んでしまう。 「周りが見えぬっ!くっ、どこにいるっ!?」 「ジュディがスカイフライして海竜の気を逸らしマス!」 「分かりました!後はお任せ下さい!」 ジュディはアンナに声をかけると、飛行アイテムのバーナーロケットを背中に背負い空を飛んだ。出力を弱めた小型フォースブラスターで、海竜の体を掠るように熱線を何度も放つ。煙で見えない攻撃を受け、海竜がたじろいでいるとサンテール号からアンナがモップを片手に飛び出してきた。 「よっと…あら、随分と硬い鱗ですわね」 「なっ!?誰だ、我の体に乗っているのはっ!?」 「わたくしですか?わたくしは、アンナ・ラクシミリアですわよ!」 飛んだアンナは海面の上に出ている海竜の背中に飛び乗る。突然の事で驚く海竜だが、その暇を与えないままアンナは海竜の背中を頭に向かってローラースケートで滑った。手に持ったモップを背中に押しつけながら、鱗を逆向きに擦り上げる。レッドクロスの力でローラースケートは自動車並みの速度を保ち、難なく高い位置にある海竜の頭部目掛けて滑れた。 「ぐぅぅっ!貴様、体から離れよっ!」 鱗を逆の方向から擦りあげられた海竜は、痛みにたまらず体を捻り咆哮を上げる。アンナは海竜の体を滑り、あっという間に海竜の頭の上まで来た。 「煙がなければ景色が良さそうですわね。ねぇ、あなたは船を沈める気はなくて、遊び相手が欲しいと思うのだけれど?」 「遊び、だと?それは戦う事ではないかっ!」 アンナは海竜が遊び相手が欲しかったと思い、本気で攻撃はしなかった。しかし、海竜は戦う事が遊びだと考えているようだ。その時、サンテール号の船首に立っていたテオドールが海竜に遊びというものを教える。 「戦うのが遊びなの?うーん、ここ海だから面子じゃ勝負できないね。ええと…ビー玉?ボクの手もキミの手も、ビー玉向きじゃないや。じゃんけんにしようか。狐拳?あみだくじで、勝負しちゃだめ?」 テオドールは戦うのが遊びだと聞くと、遊びで勝負する事を思いついて海竜に遊びを説明した。だが、どの話をしても海竜は良く分からないのか怪訝そうな顔をしている。少し戦闘が止まったところでシェリルはメイリに訪ねた。 「そういえば、トルカは?」 「え、トルカなら今頃島で調査を行っているわ。船の事を任されて私がここに残されたんだけど、まさかこんな事になるとはね」 「調査だけに来たのに厄介な奴に目を付けられたものね。戦う必要はないと思うけど、海竜がそんな雰囲気じゃないし…説得もお手上げよ」 シェリルとメイリが話をしていると、大きな水しぶきの音が聞こえてきた。海竜が海中に潜ってしまったらしい。頭に乗っていたアンナをジュディがキャッチすると、甲板に降りた。 「海中に逃げ込まれてはどうしようもありませんわ」 「ボクが海中に入って海面に誘導出来ればいいんだけど、相手の方が海中では強いし危険だね」 少し怒ったようにアンナが愚痴を零すと、トリスティアは海竜を海面に引きずり出す方法を考え始める。海竜は海中に身を隠したが、直ぐに浮上しサンテール号目掛けて海水を勢いよく吐き出す。その時、船首に立っていた鈴が反重力白衣で飛んだ。次元を切り裂く力のあるカッター、次元カッターを使い空間を切り裂き、海水を違う次元に送り込んだ。攻撃が外れ、海竜は悔しそうに唸ると再び海中に潜る。 「不意打ちとは卑怯な。今度出てきた時に改造した風銃を当ててやろう。俺が天災科学者だという事を、その体に刻みこんでやる」 鈴は岩を砕ける程の風圧を発射する風弾の散弾銃、風銃を収束させるオプションを付けピンポイント射撃が出来るよう改造していた。鈴はサンテール号の上空から海面を見つめる。すると、船首付近の海面が突然盛り上がってきた。 「そこか!」 鈴は直ぐに風銃を撃ったが、盛り上がってきた海水に海竜の姿は見当たらなかった。フェイントをしかけた海竜はサンテール号の横に浮上すると、甲板目掛けて海水を勢いよく吐き出す。 「いけない!これをっ!」 ジニアスは素早く水を吸収出来る青の元素水晶を投げた。投げた青の元素水晶は、吐き出された海水の前に到達すると一瞬で海水を吸収してしまう。だが、吸収されなかった海水が甲板に襲いかかる。シェリルは咄嗟にサンバリーで、太陽エネルギーから発生させた盾のバリアを作った。バリアは海水を受け止め、そして跳ね返す。 「くぅ…今のは効いた。バリアを張ってても、体に少し衝撃がかかっちゃったみたい」 「シェリル、大丈夫!?」 「えぇ、大丈夫よ。でも、相手が海中に身を隠しているのは厄介ね…テオドール!ちょっときて!」 甲板に膝をつくシェリルをメイリが心配するが、シェリルは大丈夫だと笑って答える。しかし、海竜が海中にいると何も手を出せないとすぐに難しい顔をした。そんなシェリルはある事を思いついたのか、テオドールを呼び寄せる。 「なーに、シェリルちゃん?ボク、海竜とお話をしていてるんだけど」 「でも、相手にされてないでしょうが。ちっちゃいモノは、話相手にならないらしいから、テオ頑張って!!」 「えぇ?な、何々ー?」 ぽてぽてと可愛らしく近寄ってきたテオドールの顔をシェリルは鷲掴みすると、全力でテオドールを海に向かって投げた。 「わー。濡れちゃう…あとでちゃんと陰干しで乾かしてねー。絞っちゃやだよ、形が崩れちゃうー」 テオドールは声を上げながら、荒れた海に落ちる。それを見ていたジュディは両手で頭を抱え、声を上げた。 「オーマイガッ!フレンドを何故海に投げるのデスカ!?」 「まぁ、見てなさい。面白いものが見れるわよ」 戸惑う周囲に対して、シェリルは慌てることなく笑みを浮かべる。海に落ちたテオドールに気づいた海竜が水しぶきを上げ海面に現れると、そこには海水を吸い大きくなっていくテオドールがいた。 「何っ!?大きくなっただと!?」 「大きくなって海竜と視線が合うようになったね。これで色々遊べるけど、何する?そうだ、相撲やろう!これだったら出来るよね。誰か、土俵引いといてね〜」 海竜の大きさに近づくほど巨大化したテオドールはそのまま海竜を掴む。その時、海底に足が付かずバランスを崩し、テオドールは海竜に向かって倒れた。倒れた拍子にテオドールの頭が海竜のあご下の首に当たり、思わず海竜は唸る。それを見ていたのは、ずっと海竜の特徴の把握に専念していたラサだ。 「そうか、海竜は鱗が固いから鱗の無いところが弱いんだ!あそこを狙い撃ちすればきっと海竜も大人しくなるよ!」 「狙い撃ちか…あまり得意ではないがやってみるか」 「ジュディも協力するデース!バット、強い熱線は撃たないデスヨ!」 ラサの声に名乗り出たのは鈴とジュディだ。それぞれが銃を構え海竜が起き上がってくるのを待つ。倒されていた海竜は体を起こすと、すかさず鈴とジュディがあご下の首を目掛けて銃を撃つ。だが、射撃技術がないため直撃はせず海竜の体を掠めていった。 「後はボクに任せて!」 ラサは精密射撃で魔銃を乱射した。魔力の弾で集中攻撃をされた海竜は、唸り声を上げて海面に倒れる。ようやく、海竜は大人しくなり調査団は歓喜の声を上げた。 Scene.2 海竜の疑問 戦いが終わった頃、アストルがサンテール号の甲板に降りてきて主張を始めた。 「喧嘩はいけないぜ!きっと海竜とは喧嘩しちゃダメなんだよ。古文書にあるように友達になるのが正解なんじゃね?」 「わたくしもそう思いましたが、あの時は仕方なかったのですわ」 「喧嘩をふっかけてきてるのは、友達が欲しいのに素直にアプローチできない系じゃないか。海竜君ったらツンデレなんだから♪」 アストルは歌と演奏で海竜の心を開かせて友達になりたかった。だが、殆ど協力者達と戦っておりその歌と演奏はあまり海竜に届かなかったようだ。落ち着いた頃降りてきたアストルはもう一度歌を歌い、演奏を始める。海竜が気絶している時に、大音量で歌い奏でると海竜が起きるのでは?そう思った調査団は慌てて止めようとしたが、それは遅かった。海竜はその音に意識を取り戻すと、再び起き上がってきたのだ。 「ぬぅぅっ…まさか我が気絶させられるとはな。だが、次はこうはいかないぞ」 起き上った海竜が顔を横に振ると、その場を去ろうとする。そこに言いたい事があったシェリルが大声を上げた。 「ちょっと!大きいものが、小さいものをいじめるのは、卑怯ってものよ!今度こんな事あったら承知しないわよ!」 「…卑怯か。だったら問おう。我一体を勝ち倒すために、小さき者が無数に襲いかかってくるのは…それは卑怯ではないのか?小さき者であれば、なんでも許されるのか?」 シェリルの言葉に昔を思い出した海竜が逆に問いかける。昔、自分に挑んできた人間は無数の数を引き連れ、強力な武器を使い襲いかかってきた。それが卑怯ではないかと問いかけると、明確な答えがないシェリルは難しい顔をして黙り込んでしまう。 「我に挑んできた者達は数知れず…物好きで何度も挑戦してきた輩がいた。それが、人間ではないのか?我の姿を見ると直ぐに人間達は襲いかってきた。我はそれに答え、今もそれが当たり前だと思い貴様らに襲いかかったのだよ」 海竜は昔から人間と戦って来ていた。それはこちらが姿を現すと、直ぐに人間達が襲いかかってきていたため海竜もそれに答える。人間と会うと戦う事が全てだと海竜は考えていた。だから、今回も人間を見つけるとその考えしかなかった海竜は戦いを挑んだのだ。 「昔、好き好んで我に挑戦し続けた輩がいてな。その輩は戦うのが楽しいと言い、我も戦うのが楽しいと思った。戦うのが人間の一種の交流ではないのか?」 人間と会えばずっと戦い、そしてそれを好む人間達が挑み続けてきた所為で海竜は戦う事が人間との交流だと思っていた。ずっと、それが正しいと思っている海竜の事を知ったシェリルは声を上げる。 「戦う事が交流じゃないよ!戦う事はその人の命を奪ってしまうの…殺してしまうかもしれないのよ!それはいけない事なの!」 シェリルは過去の経験から、命ある者を殺す行為は避けたいと思っていた。それがどれだけ辛いものか海竜に訴えるが、海竜は良く分からないと首を傾げる。海竜にとってそれがどれだけ辛い事なのか理解出来ていなかった。そこにアストルが助言を加える。 「そんなに交流したけりゃ、一緒に歌を歌うといいじゃん!歌はいいぜぇ、聞いている奴らと一体化出来る程に心が通うんだぜ!」 「うん、それもいいね。あと、遊びもいいよ。遊びはね戦いじゃないんだよ?色んな遊びがあるんだけど、どれも皆と仲良くなれるんだ!」 「歌う…遊ぶ?それが人間の交流という事なのか?」 アストルとテオドールの教えに海竜は耳を傾ける。今まで自分の前で歌を歌ったり、見たことのない遊びをしてくる人間がいない。その所為で人間とは戦う事が交流なのだと勘違いをしていた。 「では、貴様らにとって戦いとは何だ?何故、今までの輩は我に戦いを挑んできたのだ…」 「それは、あなたが襲いかかってきたから…」 「初めに襲いかかってきたのは貴様ら人間だ!姿を現し、攻撃してきたのは貴様ら人間だ!何故、あいつらは戦いを望んだのだ…何故、死ぬまで戦い続けたのだ…」 海竜は話を聞き混乱したように、言葉を残し海中に戻っていった。海竜にとって戦いが人間との交流だと思い、人間が現れると戦いを挑んでいたようだ。それは初めて姿を現し、出会った人間が戦いを挑んできたからである。その次も、その次もそうだった為戦う事が交流なのだと思い込んでしまっていた。その場は静まり返り、海竜がいなくなったのに空はまだ厚い雲で覆われていた。 Scene.3 機械への確執 戦いが落ち着き、ようやくコーリア島の近くに錨を下ろしたサンテール号では協力者達が機械についてメイリと談笑していた。 「これがジュディのヴァリエヴォーな愛車モンスターバイクネ」 「凄いっ!こんな荒々しい機械見た事無いわ!どんな風に走るのかしらね、見てみたいわ」 「ハッピーな言葉聞けてジュディもハッピーデスネ!このフレンドはラッキーセブン、言うネ!」 ジュディが自慢の大型バイクをメイリに紹介すると、メイリは目を輝かせて嬉しそうな顔をしてモンスターバイクを見つめる。メイリの喜びようが嬉しかったのか、ジュディはご機嫌になりニシキヘビのペット、ラッキーセブンを紹介した。それを見た瞬間メイリは怖くて硬直したが、穏和な性格だと分かると恐る恐る触る。大人しくしているラッキーセブンにメイリも恐怖が薄くなった。 「わたくしのレッドクロスは如何?っていっても、これは機械と少し違いますが。超科学で出来たモノですけどね」 「超科学!?え、そのレッドクロスの動力源はどこから来ているの!?こんなに小さいのに、どこから力がきているのかしらね!」 アンナはレッドクロスもメイリに紹介すると、メイリはまた嬉しそうにレッドクロスを観察した。未知の機械や技術を目の前にメイリは嬉しそうにするが、他の調査団は違う。不機嫌そうな顔をしてひそひそ話をしているが、それはメイリには届かない。そんな中で鈴が一つ提案をしてきた。 「そうだ。この間はかなり儲けさせて貰って、おかげで借金も完済とまではいかなかったがかなり減らすことが出来たしな…アフターサービスの一つもしておくのが礼儀というものであろう」 そう言って鈴は、半属性式対消滅迎撃装置の設置を提案してくる。船体に致命的な攻撃がくわえられそうになった時発動し、攻撃と正反対の属性の迎撃をすることで攻撃を対消滅させ船体を守る。また、装置が発動することで鈴本人に次元を超えて連絡を入れる装置であることを伝えた。 「それはいいわ!それを付ければ、この先の航海が」 「お、俺達は反対だ!そんな恐ろしい機械を調査団の船に付けるなんてやめてくれ!」 「そうだ!元々、我らキビートに住む者は機械と共に生きる事を捨てたのだ!そんな事をしてみろ、我らが戻った時にキビートの人達は我らを見捨てる!」 メイリは鈴の話に賛成したが、調査団がそうはいかなかった。皆が反対の声を上げ、自分達の意見を主張する。彼らは海竜をも退けた力を持つ機械の力を前に怯えていた。あんな力の強い機械は恐怖の対象でしかない。それに掟から背けば待っているのは、裏切り者の烙印だ。そんな彼らを説得するのは、機械の発展を願うメイリだ。 「でも、機械のお陰で私達は助かったじゃない!機械は私達を助けてくれる、きっとこれから必要になって私達を助けてくれる!」 「それを悪用する奴らが現れるではないか!それこそ本末転倒だ!」 「機械で幸せになった話など聞いたことがない!」 メイリは必死に訴えるが、調査団は考えを譲らなかった。皆が皆、反対意見を出しメイリと敵対している。暫く両者が睨み合っていると、今までの緊張の糸が途切れたのか調査団が次々と倒れていった。まだ体調が万全ではなく、精神的な疲労も重なっている。慌てて指示を出したのはトリスティアだ。 「早く上陸して体を休ませよう!?動ける人は動けない人を手助けしてあげて!」 「そ、そうね…今は言い争っている場合じゃないわね」 トリスティアの言葉にメイリは我に戻ると、倒れた調査団に手を差し伸べた。だが、調査団は差し伸べられた手を拒絶するように叩く。それに驚いたメイリが固まっていると、調査団はメイリに視線を向けず一人一人上陸の準備を始めた。両者の確執の溝は簡単には埋まらない。 Scene.4 事前調査 「心強い協力者がいれば…」 トルカは悔しそうに呟いた。調査団員、傭兵達が夜に聞こえる謎の声に怯え調査の続行が危ぶまれている。昼間、石碑の前でうな垂れていると森の中から人が歩いてくる足音が聞こえてきた。 「あ、臭いモノには蓋をしちまえにーちゃんじゃねぇか。元気してたかい?」 「き、君は…レイナルフ・モリシタ。何故ここにいる」 森から現れたのは嘗て航海で協力者として名乗り出た異世界のエンジニアだ。ベリーショートの黒髪を揺らし、日焼けした肌とカジュアルな格好をしている。レイナルフはベルトを締めながらトルカに近づいていった。 「おー、光栄だねぇオレの名前を覚えていてくれるなんてな。なんたってオレはトルカが気に入らない機械技術者なんだからよ。っと、ところでメイリお嬢ちゃんは?」 「…ここにはいない。残念だったな、君の気に入らない私がいて」 出会って直ぐに互いが尊重する主義の違いから険悪な雰囲気が流れた。これは互いに人間関係を上手く結べないがのゆえんだろう。それでもレイナルフは再度情報を仕入れる為に話しかける。 「では、そんな気に入らないトルカに質問してやるぜ!今困っている事はなんだ!?俺様が聞いてやるって言ってんだから、有り難く答えろっ!」 ビシッ!っと人差し指でトルカを差し、問いかけると一瞬だけ指先が太陽の逆光で霞む。トルカは眉間に皺を寄せながら状況の説明をする。 「気に入らない私から説明しよう。団員達は人の姿が見えないのに夜に聞こえる声に怯えて森に入ろうとはしない。調査を進めたくとも、この有様では続行できない」 レイナルフのテンションと明るさの高さに、トルカは流されないように淡々と答えた。夜、森の中から聞こえる声に怯え、森に入り調査を続行したくないと皆が口を揃えている。調査は島にいた人達がその時代どんな文化を持ち生活し、どのような知識や技術を習得し発展していったのか。その痕跡を見つめる為に人が住んでいたと思われる場所で、物的調査を行おうとしていたとトルカは付け加えた。レイナルフは話を聞き一つの仮説を出す。 「それってさ、再生機を使って録音した声を流すようにしてんじゃねぇか?昔の奴らってかなり機械技術が発達してたんだろ?」 「そうか、我々の恐怖心をあおる為に機械を使っているのか。しかし、何故そのような間接的な事をするのだろうか?もし、我々を拒絶するのであれば直接的な方法で行った方が早いのでは?」 「あー…それはオレは分からねぇよ。そこまで考えてねぇし、調査出来ればいいんじゃねぇ?」 大昔、高度な機械技術が発展していたと以前の航海で判明している。それらを知っていたレイナルフは謎の声が再生機の仕業だと話した。トルカはその話の疑問点を指摘するが、レイナルフは調子良く太陽の逆光を浴び親指を立てて陽気に声を上げる。種類の違う明るさを振る舞うレイナルフを目の前に調査団員、傭兵達は口を開けたまま動かない。トルカは疲れたように頭を抱え横に振っていた。 「原因はお前らの嫌う機械だと思うぜ。オレは調査に興味があるから来たんだからな、早く調査にいこうじゃねぇか」 レイナルフの活気に満ちた明るい声にようやく調査団員と傭兵達は立ち上がりトルカの指示の下歩き出す。歩いている途中機械への憎まれ口を聞いたが、これも彼らがいつもの調子に戻った事を意味していた。無事に調査を再開した調査団を目の前にその後をレイナルフが付いていこうとする。その足元に甲羅が28cmもあるペットのミドリガメラくんがいる事にようやく気づく。 「お、わりぃわりぃ。お前を忘れてたぜ。俺が脇で抱えて連れてってやるよ」 一緒にやってきたミドリガメラくんに気づき、持って歩こうと手を差し伸べるが…ミドリガメラくんはゆっくりと後方に下がり首を横に振った。一体何故拒絶するのか?それを考えたレイナルフは一つの答えを導き出す。 「そうだった、オレってば用足した後手洗ってなかったんだっけな!」 レイナルフは用を足し終えズボンを上げたところでこの世界に降り立ったのだ。明るく笑うレイナルフだったが、少しだけ焦った心の中ではこんな事を思っている。 「(…良かった、ズボンを上げた後で)」 ▽ 集落にたどり着いた調査団は建物の調査し始めた。その周囲では危険な生き物が襲っては来ないかと、傭兵達が周囲に神経を向けている。そんな中レイナルフは謎の声の問題となった再生機がないか、声を聞いた調査団に場所を聞き探し回る。しかし、どこを探しても再生機を見つける事が出来なかった。 「見当たらねぇなー。仕方ねぇ、いっちょ占いで声の発生源にはどうすれば会えるか占ってみるか!」 レイナルフは声の発生源を特定、接触する為に占いを始めた。ダイス占術セットを使い、取得した能力の予知で声の事を占う。目を閉じ意識を集中して占うと、頭の中でぼんやりと言葉が浮かんできた。 「建物と闇…光が無くなった集落にいれば声の発生源に出会えるのか。よし、そうと決まればっ…オレも調査に加わろうっと!」 出会える時と場所が分かったレイナルフは、興味をそそられていた調査に身を乗り出した。上機嫌で歌を歌いながら、調査団に加わり調査を始める。地面に少し盛り上がったところがあったのでレイナルフが手で掘ってみると、中から変色した人間の骸骨の頭部が現れた。 「♪〜」 レイナルフは歌いながら土を戻す。見なかった事にしてみた。それからレイナルフは調査対象を壊れかけの建物に変更する。レイナルフが建物の壁を調べようと軽く叩くと、その部分がボロボロと崩れ壊れてしまう。 「♪〜…っつ、壊しちまった…」 崩れた部分を見て一瞬真顔になってしまったが、気にせずにレイナルフは調査に没頭していく。暫く調査を続けていると、明るかった空が次第に赤みを帯びてくる。夕暮れが迫ってきた。 Scene.5 謎の声を追え 「調査で分かった事はここに居た者達の職業は一つに限定されていない事。様々な職を持つ者が何かを目的に集まり、コーリア島に住みついたと思ってもいいだろう」 「生き残った機械も形を残した遺物はなかったぜ。折角、機械を直せるオレがいるのにな!残念だなー」 「その話はやめて貰おう。機械について我々はまだ完全に認めた訳ではない。ところで君が言っていた再生機はどうしたのだ?」 「見つからなかったぜ。…まぁ、人の骨も埋まってたな。幽霊説の方が濃厚か?こりゃ、オレの世界にあるあの歌を歌うしかねぇかな!」 夕暮れ、調査報告をトルカとレイナルフ、調査団で行っていた。レイナルフが謎の声が機械ではなく幽霊なのではと、話しを明るく変える。途端に調査団が恐怖を感じ騒ぎ出し、困惑し始めた。そんな時近くから今までその場にいなかった女性の声が聞こえてくる。 「あぁ、皆落ち着いてぇ。きっとぉ、幽霊さんはいい人達だよぉ。ちゃんとぉ、話をきけば理解出来ると思うよぉ」 「なっ!?き、君はいつの間にっ!」 「うーん。ポン!って感じで来ちゃったよぉ」 緩いウェーブがかった金髪に、細身の体に白を基調とした巫女装束を纏った少女アメリア・イシアーファが当然の如く会話に参加していた。周囲の調査団もトルカも驚き声を上げるが、違和感なく現れたアメリアはマイペースに話し始める。 「あ、名乗りが後になってしまいましたねぇ。私はアメリア・イシアーファですぅ。皆さんが怖かったらぁ、私が幽霊さんにぃお話聞きますよぉ」 「そうそう!もし邪魔するようなら、オレのミドリガメラくんをけしかけるから心配すんなって!こーみえても、ミドリガメラくんは…やるぜぇ、超やるぜぇ!」 「いや、だから…話を広げないでくれ」 のんびりと自己紹介を始め深々とお辞儀をするアメリア。思い出したように先ほどの話の続きをし始めた。それに便乗するのはレイナルフだ。自信気に親指を立てて片目を瞑り白い歯を光らせる。話しが広がりを見せる中、トルカがちょっと待ったと手を上げると。とそこに、また新たな協力者が現れた。強靭な肉体を露出し、大事な部分を太長いケースで覆い隠す。もみあげの多いショートの金髪に青いバンダナを巻いている酔っているアリマ・リバーシュアが現れてしまった! 「がっはっはっ!!お宝が有ると聞いてこの島に来たが、先客(お仲間)がいたとはなー!!」 「キキッ…!?(おい、誰と喋っているんだ!?)」 気前よく片手を上げ挨拶を向けるが、その方向には誰もいなかった。どんなに強い酒を飲んでも悪酔いしない、仏の御石の鉢を使用しているが酔っているには違いない。思わずケースに縛り付けられていたペットのキキちゃんが突っ込むが、アリマに声は届かなかった。そのまま誰もいない空間に話し続けるアリマを、トルカ達が唖然とした表情で見守っている。暫くアリマの笑い声が響くが、突然近くの墓地から怪しい声が聞こえてきた。 『…誰だ。…ワシ…を、呼ぶのはぁぁぁ…』 「おぉっ!?邪魔する奴が来たのかっ!?よーし、ミドリガメラくん!出動の準備だ!」 『こぉの、死霊の王たる、ワシを呼ぶのはぁ…何者かぁぁぁ…』 「あぁ、幽霊さん来たねぇ。待ってたんだよぉ」 身が竦みそうになるほどに怖い低い声が響き調査団が怯える。だが、レイナルフとアメリアはこの時を待ってました、と言わんばかりに目を輝かさせた。レイナルフは邪魔者排除の為にミドリガメラくんを差し向け、アメリアは幽霊から話を聞く為に身構える。 『…ほぉう…、脆弱なる生者よぉ。貴様らぁであるかぁぁぁ…』 「お、早速海賊の幽霊か?俺と一緒に飲まねぇか?がははははっ!」 「キッキキー!(ぜってぇ、幽霊じゃねぇよ!止めろ、近づいていくなー!)」 聞こえてくる怪しげな声にアリマが反応し近づいていくと、キキちゃんは身の危険を感じ体を揺らしてアピールするが、アリマは気付かない。 『何用だぁ…差ぁし出すぅ生贄によってはぁ…話をぉ聞いてやらんでもないぃ…』 怪しい声が途切れた時、墓の傍の土が盛り上がり両腕が飛びだした!その人物は土の中から体を起こすと、周囲にいる者達を見て溜息をつく。 「…って、なーんじゃ、いつぞやの連中ではないか。ワシもついに召喚魔術でその筋の者に呼び出される身分になったか、とか思ってそれっぽい台詞考えたのに…」 土の中から現れたのは背広にソフト帽とコートを羽織り、ヒゲを生やしたエルンスト・ハウアーだ。以前の航海の時に出会った異世界の協力者を見ると、少し残念そうに可愛く口を尖らせ「よっこいしょ」っと土の中から這い出てきた。 「畜生、ミドリガメラくんの活躍がお預けになっちまったぜー!」 「あ、エルンストもぉ元気そうで良かったよぉ」 エルンストの勘違いに流されないマイペースなレイナルフとアメリアが言葉を交わす。そこにアルマが両手を広げて近づくと、エルンストが気づき声をかけた。 「おーい、そこのいい身体した若い幽霊。今日は随分にぎやかじゃのー」 「キッキー!(お前、それは違うだろう!)」 「がははははっ!俺と一緒に飲まなねぇか?」 「おー、酒を飲ませてくれるのか?それはいいのぅ、一緒に飲みながら話を聞かせて貰いたいものじゃな」 話がかみ合っていない二人は、互いに相手が幽霊だと勘違いしているのだろうか?お互いを疑いの言葉を向けず、呑気に話し始める。トルカは話し合う二人を見て、頭を抱えて一言呟いた。 「頼む…話を進めさせてくれ」 ▽ レイナルフから幽霊と出会うには光のない夜に集落に行く必要がある。と説明された調査団は道中、松明を装備し集落を目指していた。 「石碑に書いてあった文字が読めるのは、その時代に生きてきた者しかいない。もし、謎の声がその時代に生きていた者達であれば聞いて貰いたい」 「ふむ、それで幽霊から話しを聞きたいという訳じゃな」 「どれだけお手伝い出来るか分からないけどぉ、出来る限り幽霊さんからお話沢山聞くよぉ」 トルカがエルンストとアメリアに謎の声から情報を掴んで欲しいと頼むと、二人は承諾する。その近くではアリマが上機嫌に歩きながら酒を飲み、レイナルフは幽霊に怯える調査団にとある歌を教えていた。 「なむたいしーへんじょーこんごー…おめぇらも、覚えて歌うといいぜ!これで幽霊が近づいてこねぇよ!」 その話に謎の声に怯えていた調査団は、歌が長くとも必死で覚えようとした。震える声でレイナルフに続いて歌を歌い続け、レイナルフも景気付けに声をかける。 「おー、その調子だ!もっと歌え、そしたら幽霊も現れねぇよ!」 「幽霊さん、現われなかったらお話聞けないよぉ…」 「怖い話を話すと幽霊が寄ってくるかもしれんぞ。ワシがとっておきの話をしてやろうかのぅ?」 暗い熱帯林の中、周囲の雰囲気に全く怖がらない協力者達は少しだけ調査団の心の支えとなった。そのまましばらく熱帯林を進んでいくと、集落から男達が騒ぎ出す楽しそうな声と楽器を鳴らす音が響く。音に調査団は怯え出し、レイナルフから教えて貰った歌を大きな声で歌い始めた。だが、音に吸い寄せられるように酔っぱらっているアリマが、声が聞こえる場所に向かう。そこでは怪しい青白い火が灯る中、体の透けた男達が楽しそうに騒いでいた。 「俺と一緒に飲まねぇか!?」 「キッキー!(それで受け入れられるわけねぇー!)」 アリマは状況を全く気にせず、友好関係を築く為に近づいていった。体の透けた男達はアリマの姿を見ると、騒ぎを止め驚いた声を上げる。 「…人間か?おーい、可笑しな格好した人間が来たぜー!」 「本当か!?人間なんて何千年振りだ!」 「キッキキー!?(なんでこいつら、こんなに友好的なんだー!?)」 アリマの姿を見て驚いた幽霊達だったが、陽気な幽霊達はキキちゃんの突っ込みも届かない。生身の人間が珍しく、集まりだした幽霊達を目の前に調査団は恐怖で怯える。幽霊達が調査団に近づこうとすると、調査団は恐怖に耐えきれず、レイナルフから教えて貰った歌を叫びながらその場から全力で離れて行く。 「どこへ行く!?…すまない、私は逃げた調査団をまとめてくる。後を頼まれてくれるか?」 「任せてぇ、ちゃんと話聞いてくるよぉ」 トルカは後の事は協力者に任せ、逃げてしまった調査団を追っていった。残された協力者達はあっという間に大勢の幽霊達に囲まれ、物珍しそうに観察される。幽霊達の間からひそひそ話が聞こえると、エルンストが口を開く。 「今日は随分にぎやかじゃのー。噂の海竜退治でも始まるのかね?」 「海竜退治?死んでも海竜退治を目指してる奴は俺達じゃないぜ。っと言っても昔は俺達も海竜退治してたけどな。まさか、お前達も海竜を退治する為に来たのか?」 「ワシは演劇の演出家じゃ。風の噂で、ここに海竜に挑み続ける勇者達がいると聞いてのぅ。その戦いを演劇にしようとはるばる旅してきたんじゃが」 「へー、そんなに俺達って有名なのか?面白そうだな、ちょっと俺達の話聞いてくれよ」 エルンストの話に少し首を傾げた幽霊達だったが、演劇の話を聞くと上機嫌になった。幽霊達は仲間内で少し話し合うと、協力者達に向けて語り出す。 「昔、このコーリア島の煙突山を目印にセラ海域を出て行こうとする船が沢山いたんだ。だけどな、ここに住む海竜に船を次々と沈められしまったんだよ」 「その船の積み荷に高価な物や機械が沢山積まれてて、それに目をつけた海賊が海竜に挑んだ事が始まりよ」 「何度挑んでも負け続けたけどな。だけどいつか、噂を聞いて他の海賊達や海竜に挑もうとする輩が次々と現れたんだが…それでも勝てなかった」 「初めに戦ってから数年が経った頃、俺達が謎の病にかかっちまってな。この通り、死んじまったって訳よ」 童話に書かれていたものとは違う歴史だが、エルンストが予想していた海竜退治は的中していた。昔を思い出した幽霊達が少ししんみりしていると、アリマが明るい声をかける。 「がっはっはっ!さっきの騒がしさはどこにいったんだ?一緒に飲んで、騒ぐぞー!」 「可笑しなお前の言うとおりだ!騒ぐぞ、歌うぞ!」 アリマが景気をつけると、うな垂れていた幽霊達が活気を取り戻した。また騒ぎだす幽霊達にエルンストは話しかける。 「そうじゃ、そうじゃ!できれば参考として君らの英雄譚やら、大道具連中のためにこの辺の文化とか聞かせてもらえんかのー」 「じいさんもノリがいいぜ!俺達の武勇伝を聞いてくれ!」 アリマの友好的な態度のお陰で幽霊達は警戒心を解いた。幽霊達がまた騒ぎだすと、エルンストも便乗して輪に加わり幽霊達から話を聞いていく。 「ここに船長はいないかー!?俺と飲み比べするぞー!」 アリマは友好関係を築くために幽霊船長と一緒に飲み比べをしようと誘う。だが、誰も名乗り出す者は出ない。代わりに近くにいた海賊の幽霊が教える。 「ここには船長はいないぜ。船長全員、最期の海竜との戦いで海で死んだと思うからな」 「この集落にいる幽霊は全員、集落にいる時に病で死んじまった奴らばかりさ」 「俺達がこうしているのも、未練が残っているから天国にいけねぇんだよ。だから、俺達はこの場から離れられねぇんだけどな」 どうやらここにいる幽霊は病によって集落で命を落とした者達ばかりのようだ。その話を聞いたアリマは気落ちせずに、話を変えて尋ねる。 「そうか、ここに船長がいなかったら仕方ねぇな!ところでお前達が戦っていた海竜ってどんな奴だ?お前達が欲しがっていたお宝ってどんなものなんだ?」 「あの海竜は俺達と戦う事を待ち望んでいたようだったし、俺達もいつの間にかそれを待ち望んでいたような気がしたな。お宝は船に積んでいた、高価な貴金属類とか高度な機械兵器さ。その当時、国の中で大きな戦争があってな。物資を輸送する途中で海竜に襲われた話だ。なんでも高度な機械兵器は、海中でも起動する優れ物だったらしい。それを手に入れて売って、一攫千金を目指そうとしてたんだぜ」 「そうか!なら同じ海賊のよしみだ!一緒に戦ってお宝を手に入れるぞ!俺様の飛行艇レッツラ号に乗せてやるぜっ!」 海賊の幽霊の話を聞き、アリマは同じ海賊のよしみとして飛行艇レッツラ号に幽霊を乗らせて海竜と一緒に戦おうと誘う。その言葉に海賊の幽霊達は盛り上がったが、何かを思い出したように静まった。 「ん、どうした?空を飛ぶ船が怖いのか?」 「あー、そういう訳ではないんだ。俺達は船長の帰りをここで待っているんだよ。それが俺達の未練だ。それに俺ら、この場から離れられねぇんだ」 「後な、船長以外の船に乗って海賊するのは船長に申し訳ねぇ」 海賊の幽霊達はアリマの話を断った。彼らは死んでも尚、船長の帰りをこの場で待っているらしい。それに海賊は船長が乗る船以外には、海賊の誇りにかけて乗れないようだ。アリマも同じ海賊として彼らの話を受け入れた。その時だ、少し離れた場所から勇ましい男達の声と歩く声が突然聞こえてくる。声が聞こえた場所には先ほどまでいなかった海賊の幽霊達が、武器を片手に集落から出ようとしていた。 「ほぅ、彼らが海賊退治にいく連中じゃろうか?」 「あぁ、海賊退治もそうなんだが…一番の理由は船長を探しに行っているんだよ。俺達のように死んだ場所に船長がいるってずっと思ってんだ」 「俺達も出来る事なら船長を探しに行きたいんだが、俺達は死んだ場所から遠く離れられない。あいつらもそれを分かっているんだが、どうしても諦めたくねーんだとよ」 エルンストの問いに物悲しい表情をしながら海賊の幽霊は話した。それを聞いたエルンストは少し考え込む様に髭をなぞる。 『ふむ、考え方に差はあるが共通の未練があるようじゃな。海賊達は船長への未練があり、この場所に居座り続けている。じゃが、海賊ではない者達はどんな未練があるというのじゃろうか?』 一つの疑問が浮かんだエルンストが尋ねようとすると、雲で遮られた月の光が集落を照らした。瞬間、月の光に照らされた幽霊達は音もなく全員月の光に溶けるように消えてしまう。その場に残されたのは協力者達だけだった。 「あれ?あいつらどこに行きやがった?」 「おじちゃん達は日の光や月の光を浴びると眠っちゃうんだよ。もちろん、私もだけどね」 アリマは不思議そうな顔をして見渡すが、先ほどの幽霊達はいない。代わりに暗い影が出来ている木の根元に、10歳位の少女が座っていた。その少女に話しかけるのは、同性のアメリアだ。 「あれぇ、あなたは誰ぇ?」 「私はパルっていうの!お姉ちゃん達はどうしてここに来たの?」 少女パルは元気良く答えると質問を返した。アメリアは調査団が古文書に載っていた童話がきっかけで、コーリア島と海竜の調査に来た事。自分達はその協力する為に異世界から来たのだと教える。話しを聞いたパルは嬉しそうな顔をして、ある事を話し始めた。 「もしかして、童話の題名は『コーリア島の泣き虫海竜』じゃなかった?」 「えぇ、そうだけどぉ」 「本当にっ!?それ、私が書いた童話なんだよー」 パルは嬉しそうに生きていた頃に自分が書いた童話だと教える。パルは海賊船長の娘で、いつも海竜退治の時はコーリア島で留守番をしていた。パルはその退屈しのぎに童話を考え紙に書く。だが、それを誰かに読んで欲しくてコーリア島にやってきた渡り鳥に括り付けていたと話す。 「あれぇ?でも幽霊さんから聞いた話とはぁ、話が違っていたと思うけどぉ?」 「だって海竜とお父さん達ずっと戦ってばかりだったんだもん。楽しいから戦うって良く分からないし…嫌だったの」 あの童話はパルの願いが込められた童話だった。海竜と挑んだ者達は戦うのが楽しい、という理由も含めこの場所でずっと海竜に挑んでいたようだ。幽霊達は全部は語らなかったらしい。 「そうだったのねぇ。童話は途中で終わっていたけどぉ、どうしてぇ?」 「…うん、書き終わる前に病気にかかって死んじゃったの」 悲しそうに顔を伏せるパル、アメリアが慰めようと手を伸ばすがその体は透けて触れる事が出来なかった。慰めようとしてくれたアメリアにパルは大丈夫だと笑う。 「ずっと続きを考えているんだけど、ずっと思い付かなくて」 「心残りがあったのねぇ。パルはぁ、それが書けたら未練がなくなるのぉ?」 「そうだと思うけど…だけどね、一番は海竜とお父さん達が仲良くなって欲しいの!海竜もお父さん達も、本当はそうなんだって私思うんだ!ただ勘違いしているだけなんだよ!」 アメリアの穏やかで優しい笑顔を向けられたパルは縋るように声を上げた。パルの願いはもう一度海竜と船長達を合わせ、誤解を解く事。戦う事が全てだと思っていた両者には、大きなすれ違いがあった可能性がある事を伝える。 「お父さん達はきっと私達と同じ、幽霊になって海にいると思うの。だけど私達はこの場から離れることが出来なくて…」 「そうねぇ、もう一度会わせる事が出来ればぁいいんだけどぉ」 「お父さん達の事は分からないけど、海竜の居場所なら私知っているよ!秘密の入り江。私しか知らない場所に、海竜は体を癒すためにいつもそこにいるの!」 パル達は未練がある為にこの熱帯林から離れる事が出来ない。代わりにパルはいるかも分からない幽霊の船長達と、海竜を会わせて両者の誤解を解いてほしいと願った。 Scene.6 合流前 サンテール号からコーリア島に上陸した調査団はその体を休めていた。体調の悪い調査団は協力者達の介抱される。調査団が体を休めているその横では、水を吸い大きくなりすぎたテオドールが横たわり水分が抜け乾くのを夜空を見上げながら待っていた。 「乾かすって言っても、こんな巨体じゃ中々乾かないわね」 「ジュディの火炎系魔術のファイヤーでドライしマスカ?」 「ボクの緑の元素水晶の風も何か役に立つ?」 「助かるよ。こんなに大きかったら、一人じゃ無理だったしね」 シェリルがテオドールの横で悩んでいると、ジュディとラサが協力してきた。シェリルはそれを快く受け、手伝って貰う。と、そこにアストルがリュートを手に持ち現れた。 「だったら景気付けに一曲いかが?俺の歌と曲を聞けば、作業もはかどるんじゃね!?」 「いや、体調の悪い調査団が起きるから止めた方が…」 リュートを激しく鳴らすが、ジニアスがそれを止める。調査団をゆっくりと休ませてあげたいというと、アストルは音を下げて静かにリュートを奏でた。微かに聞こえるリュートを音を聞きながら、トリスティアは今後の事をメイリに尋ねる。 「これからどうするの?調査だったらボクが手伝うよ」 「そうね…とりあえずトルカが戻ってから決めましょう。きっと明日には戻ってくるわ」 トリスティアの質問にメイリは少し考えながら答えた。このまま調査を開始するよりもトルカ達の調査を聞いてからの方が効率がいいだろう。話し合いようやく落ち着いた時にアンナがメイリに尋ねた。 「それにしてもここの人達は機械に対して、かなりの抵抗がありますわ。少し驚きましたし、なんだか悲しいですわね」 「…まぁ、本当は良い人達ばかりだけどね。ずっと信じてきた考え方を直ぐに変える事なんて出来ないわ。ごめんね、嫌な思いさせちゃって。でも、いつか分かってくれる時が来るって私、信じてる!それまで根気良く理解してもらうしかないわ、私はその時まで負けないわよ!」 機械への強い抵抗を目の当たりにしたアンナは少し悲しげに顔を伏せる。メイリはその事に否定はしなかったが、受け入れられる日まで根気よく説明していくと両手を握った。機械を受け入れられるその時まで、諦めないメイリの姿勢を黙って見ていた鈴が口を開く。 「周囲の無理解に負けず、自己の研究と貫くメイリのやり方には共感と好感を覚えるな」 「ありがとう、そう言って貰えると嬉しいわ」 鈴の言葉に少し照れたようにはにかむメイリ。星空の下、リュートの音を聞きながらそれぞれが夢の中へと落ちていった。 ▽ 幽霊達から話を聞いた協力者達は一度調査団がいる石碑の前に戻ってくる。そこには逃げていた調査団を纏めるトルカがいた。トルカは戻ってきた協力者達を見かけると、駆け寄り話を聞く。 「そうか、あの童話は少女の書いた話なのか。本当の歴史とは違うが、お陰でその当時の出来事が分かった」 「そういえば、この石碑には今まで海竜と戦った奴らを称える物だって幽霊の海賊が言ってたぞ!」 アリマは幽霊の海賊に石碑に書かれている事を教えて貰っていた。石碑には今まで海竜と戦った者達の事が書かれている。セラ海域中から集まった兵の事や、海竜を調べにきた学者の事も書いてあるが…主に書かれているのは3つの海賊の事だ。サーベルや銃を主に戦力とする「ゼリルダ海賊団」。元素水晶をエネルギーとした様々な機械を主力とした「キペル海賊団」。飛び道具や鎖の付いた鉄球で戦う「ガガーホン海賊団」。 「そんな大昔に海賊がいたとはな。よし、朝が空けるのを待って一度サンテール号に戻る。調査結果を検討し、これからの予定を立てようと思う」 トルカは一度サンテール号に戻り、調査結果に基づいてこれからの予定を立てる事を決めた。その日は調査団と協力者達はその場で夜を明かす。 「どれ、ワシがそれまで怖い話でもしてやろうかね?この話を聞けば、夜は寝れないじゃろ〜…」 「むっ!だったら俺は祖代々御大師さんから聞いた、とびっきりの話をしてやるぜ!夜、漏らしてもしらねぇぜ!」 「もうぅ、驚かせないでよぉ。それよりぃ、こんなに夜空が綺麗だからぁ見ていたいなぁ。トリスティアと一緒に見たかったなぁ」 夜になっても賑やかな協力者達を見て、トルカは頭を抱える。 「全く、君達は静かに夜も過ごせないのか…あの幽霊達よりも騒がしいな」 困ったように溜息を吐くトルカだったが、その顔は少し穏やかに笑っていた。 |