ゲームマスター:夜神鉱刃
もくじ A−1 アンナのお買い物 A−2 アンナの演習 B−1 未来のお買い物 B−2 未来の演習 C−1 ジュディのお買い物 C−2 ジュディの演習 D−1 萬智禽のお買い物 D−2 萬智禽の演習 E ビリーの購買部物語 F 鈴の魔改造物語 G−1 マニフィカのお買い物 G−2 ジニアスチームのお買い物 G−3−1 ジニアスチームの合同演習(+マニフィカやNPCたち) G−3−2 1時間目 2人ペア(×3)で G−3−3 2時間目 3人チーム(×2)で A−1 アンナのお買い物 多種多様な品ぞろえで魔術師たちの生活をサポートする現代魔術研究所の購買部……。 中でもエル・オーブという魔術戦闘着は人気商品のひとつだ。 本日、聖アスラ学院の留学生であるお掃除好きな少女・アンナ・ラクシミリア(PC0046)は購買部を訪れている。彼女なりに考えたところ、魔術的技能も多少は身に着けようと、アイテム購入を検討しに来たのだ。 (そもそもレッドクロスが100%機能しないこの世界……。魔術のひとつやふたつも身に着けていた方が何かと便利ですわね! それにしても……。エル・オーブって、四大元素に分かれていてまず4種類あって、しかもデザインもたくさんあって迷いますわね……) 購買部に来て早くも1時間が経過。 アンナは目移りするオーブ(四大元素の色ごとに、たまゆらがフワフワしている)たちを眺めては、デザインのカタログにも気を配りつつ、じっくりと検討していた。 (どちらかですわ……。「風」の方は、移動力と敏捷性が魅力ですわね……。しかし、わたくしに足りないものは……攻撃力ですわ! 白兵戦で最大の攻撃力を誇る「大地」は大変、魅力的ですわね。それに装甲の厚さもレッドクロスに似ている仕様で使いやすいでしょうし……。うん、「大地」にしますわ!) その後、アンナは、可愛らしい魔法少女風デザインの「大地のエル・オーブ」を買い物カゴに入れて、売り場を立ち去った。 (あとは……。「魔石のナイフ」もお掃除キットとしても使えそうだから買いたいですわね。それから……。新年祭のときに買いそびれた「お守り」もこの機会に買っておきましょう……) A−2 アンナの演習 アンナはさっそく購入した「オーブ」の効果を確かめようと、研究所内に設備されているトレーニングルームへ向かった。 トレーニングルームの外観は、まるで原子の構造みたいな形状だ。 核となる部分に扉で閉ざされた大きな出入口がある。 ルーム前には、入場券(1時間1枚のチケット)を挿入する機械があり、隣にあるパネルは演習相手のモンスターと戦闘場所を入力する仕様になっている。 (ええと……。チケットは……さっき購買で買ってきたこれですわね! 2枚で2時間ですわ……。前半は攻撃力テスト、後半は防御力テストに使うとしまして……。モンスターは……。ゴーレム1体にしますわ! ゴーレムは頑丈だからビシバシ行けますわね!! 場所は……デフォルトの闘技場にしましょう) *** 上空は雲ひとつない清々しい青空だ。 そして巨大なアーチ状の半円を描くかのようなコロシアム。 地上には、コンクリート造りの格闘技場が広々と展開されていた。 しかし、今日は、観客は誰ひとりといない貸し切りの場である。 どかん!! と、爆発音が轟(とどろ)き、もくもくと煙が上がる……。 煙が晴れた後には、全長5mの巨大なゴーレムが1体、マッチョのポーズで出現した! 「現れましたわね、ゴーレム!! では、わたくしも変身させて頂きますわ!!」 アンナは、土色に輝く「大地のエル・オーブ」を天空に向かって放り投げた。 大空へ放たれたオーブは、眩い土色の光を放ち、無数の土球が放り主をキラキラと包み込む……。 煌めき終えたオーブの中から出て来たのは……。 魔法少女と化したアンナ嬢だ。 土色を基調としたポンチョにティアードスカートがひらひらと舞い……。 同じく土色で彩られたシュシュは、セミロングの髪をツインテールへ結い……。 脚部も黒ニーソに魔牛皮のスニーカーという姿で、変身完了! さあ、戦闘開始だ。 オーブの魔力を装填させ、魔法少女の土色のコスチュームから、黄金の魔力が燃え上がる。 「最初は……。『ゴーレムパンチ』をやってみたいですわね……。行きますわよ、ゴーレム!!」 アンナは地面を蹴りあげ、全速力で土の化け物へ向かって行った。 巨人は即座に防御体制に入る。 「大地の魔術の一撃をお見舞いしますわ……! 申し訳ないですが、その頑丈な装甲、破らせてもらいますわよ!!」 アンナは左手でゴーレムの胸部へ狙いを定め、右手を腰にそえて構える。 そして、次の瞬間、左手をひっこめ、右手をターゲットの胸部へ思い切り、パンチを打ち込む……。 魔法少女の右手は巨大なゴーレムの右手と化し、超ヘビー級のパンチの一撃が炸裂!! 一方、ゴーレムの方は、両手で胸部をガードするが……。 ゴーレムがゴーレムの技を受け、同程度の強度なので、ダメージが相殺。 しかし、攻撃を受けたゴーレムの方は、腕に軽くヒビが入ってしまった。 「まあ、最初の1発目はこんなものでしょうか……。次は連続攻撃をお見舞いしますわ!!」 アンナは一度、後退し、距離を取って、再び構え直す。 その直後、パンチングスタイルを整え、再度、標的に向かって走り出す。 「行きますわよ……。アン・ドゥ・トロワ(1、2、3)!!」 魔法少女はカウントと同時に、鋭いパンチを次から次へと繰り出す。 右、左、右、左、右、左……。 といった具合に、ジャブをマシンガンのようにゴーレムへ浴びせるのだ。 この連続攻撃には、防御しているさすがのゴーレムでも後ずさりをしてしまった。 アンナのパンチがヒットする度に、ゴーレムは一歩ずつ、後ろへ下がる。 「トドメですわ!!」 魔法少女は体勢を変更。 一度、しゃがみ込んだ後、思いっきり上空へ跳躍。 鋭く重い土の右アッパーがゴーレムのアゴを砕く!! ゴーレムは、機械音の悲鳴を、ギギギと立てて、ノックアウト。 完全に消滅させたわけではないが、一時、戦闘不能になってしまった。 「ふう……。こんなものでしょうか。さて、休憩に入りましょう……」 アンナは赤くなった顔に、ハンカチを取り出して、汗を拭うのであった。 *** 軽く休憩をした後、次の1時間のトレーニングに入る。 場所は同じく闘技場で相手はゴーレム1体。 「次は……。防御力を試しますわ! さあ、いらっしゃいまし!!」 アンナはさっそく防御体制に入り、両腕をクロスして前傾に構える。 魔法衣装が黄金に点滅し、土色の服が硬くなっていくが……重さは感じられない。 「グゴゴゴ!!」 一方、ゴーレムの方は、「ゴーレムパンチ」を上空から振り落として来た! アンナも負けまいと、上空に向かって両手を広げ、カチカチに固まった土のバリアを張り巡らす! 「ゴーレムパンチ」の一撃は、「グランドクロス」のバリアががっちりと受け止めた。 威力は相殺し、ゴーレムはパンチごと弾かれた。 「ふう……。まずは1発、弾きましたわね。」 次にアンナはあえてバリアを張らず、衣装の硬さでどこまで防げるか実験することにした。 続けて、ゴーレムも懲りずに高速度のパンチを繰り出してくる。 強烈な右アッパーがアンナの腹部を襲い……。 すると、魔法少女の衣装が腹部から黄金の光が放たれて……。 ガチリ、と腹部でパンチが止まった。 そして、アンナは緊張のあまり、目を閉じてしまい……。 攻撃のあと、やられたお腹を右手で押さえてしまった。 (あれ!? 大丈夫ですわね!? ダメージがないですわ!!) 「ともかく……。防御力テストもできましたし……。これにて演習終了としますわ! おつかれさまでしたわ!」 アンナは入場ゲートまで走って行き、演習のストップサインを出した。 ゴーレムも追ってくることはなく、演習終了と共に一瞬で消えてしまった。 演習が無事に終わり、魔法少女にもなったアンナは満足そうな笑みを浮かべ、汗を拭った。 アンナは、新しい力を手に入れたことで、また一歩、前進ができたようだ。 次回から新シリーズ・魔法少女アンナに乞うご期待! B−1 未来のお買い物 現代魔術研究所で売られているエル・オーブには本当に多様なデザインがあるものだ。 しかもカタログに載っているもの以外にも、自分で作れるオーダーメイドまであるぐらいだ。 魔法少女を目指すマギ・ジスタンの少女たちは、四大元素の種類よりも、デザインをどうするかでまず迷うらしい。 大人気のエル・オーブ売り場に、超ミニスカートな制服姿の小柄な女子高生が現れた。 用意周到な彼女は、事前にどれを買うか決めて来たようだ。 目的のブツが目に入ると、光る目でターゲットまでスタスタと歩いて行く。 「あったよ! これ、これ! 『風のエル・オーブ』のこのデザインがいいのよね!」 萌葱色に輝くたまゆらの前で、思わず、叫んでしまった。 彼女の名前は、姫柳 未来(PC0023)。 本来はエスパー少女なのだが、近ごろは魔法少女にもなりたいそうだ。 過去何度かのマジ・ジスタン世界での戦闘依頼を経て、魔術の実用性にも注目しているらしい。 (あとは……。超能力の技能を補完するアイテムももう少し欲しいよね……) オーブを買い物カゴに入れたあと、武器売場にも向かった。 過酷なマギ・ジスタン世界で人々が生き抜くために、この世界は常時、武器の販売もしているのだ。 武器売場で、エスパー少女は、キラリと輝くナイフ、そして彼女の手に収まる小型の拳銃を手に取ってみた。 (よし、まずは「魔石のナイフ」(5本セット)を……。へえ……。「聖アスラ像」の建立にも使われたあの魔石が使われているんだ……。某教授と戦ったあの事件が懐かしいね……。それと……。「マギジック・レボルバー」も買っておこう。四大元素の弾が撃てると、色んな属性の敵と戦うときに便利かも!!) 未来は、「魔石のナイフ」と「マギジック・レボルバー」もカゴに入れて、レジに向かうのであった。 B−2 未来の演習 巨大な原子の構造を思わせる精神世界のような大部屋の前で……。 未来は、トレーニングルーム出入口前にある機械へ入場のチケットを1枚入れた。 すると、パネルから、モンスターと訓練場所の選択肢が出て来た。 (ええと……。敵は、ウィンドドラゴンがいいね。同じ属性でどこまで戦えるか試そう! それと場所は……デフォルトの闘技場でいいかも) *** 上空は青空、地上はコンクリートの格闘技場が広々と広がるコロシアム。 大空から、魔物の鋭い鳴き声と共に、大翼を羽ばたかせたエメラルド色のドラゴンが現れた。 この厳ついドラゴンこそ、ウィンドドラゴンだ。 「ふふん、現れたね! こっちも行かせてもらうね!!」 未来は、萌葱色に輝くオーブを空中へ放り投げた。 そして、眩い緑系の光と風で、キラキラと彼女の全身が包まれる……。 エスパー少女は、魔法少女に変身!! 眩い光と風が晴れて、いよいよ未来の晴れ姿が現れる。 全体が萌葱色を基調とする、オーバーオールの超ミニスカート姿の魔法衣装で登場。 頭上には、カチューシャをさしていて……。 脚部は、白いハイソに魔馬皮のシューズだ! 「さあ、始めようか、ウィンドドラゴン!!」 魔法少女は、さっそく、スカートの中から、「マギジック・レボルバー」を取り出した。 超ミニスカの中はまるでブラックホールと繋がっているホワイトホールでもあるかのように、いとも簡単に拳銃がひょいと出現したのだ! 未来が風の気を装填して、銃を放とうとしたその瞬間……。 ウィンドドラゴンの方が数秒早く、「ウィンドブレス」を放つ!! 強力な風の圧力に押され、未来の超ミニスカートがめくれあがりそうだ! 「いやああああああああああん!!!!」 魔法少女は、急いでスカートを抑えて、パンチラはぎりぎり免れた。 しかし、風の勢いで闘技場のリングの端まで飛ばされ、落下。 (ううん……。さすがにドラゴンは強敵だね。でも……こちらも作戦が……) 起き上がった未来は、ドラゴンに向かって走り出した。 一方のドラゴンものそのそと未来の方まで歩いてくる。 (うん……20mぐらいの距離まで詰めて……) 「それ、これでどう!?」 未来は手元から萌葱色のたまゆらを発光させ使役し、ドラゴンに向かって投げつける。 たまゆらは風の鋭い刃となり、高速度でドラゴンめがけて直進! アイテム特殊技能の「ウィンドカッター」が放たれた瞬間である。 頭部に「ウィンドカッター」のダメージを直撃されたドラゴンは、思わず頭を押さえてバタバタする。 「スキあり!!」 超ミニスカートから「マギジック・レボルバー」を抜き出して、発砲! 周辺の風の気を装填し、拳銃からは緑色の風の弾丸が解き放たれた! ズキュン、ズキュン、ズキュン!! 未来に頭部を射撃され、ドラゴン、ますますたじろぐ。 だが、このドラゴン、さすがに強敵なだけあり、まだまだ倒れない。 体勢を立て直し、上空へ飛翔! そして、「クロー攻撃」でグライディング! 未来、ピンチ!! 「きゃああああああああああ!!」 未来は紙一重で避けたものの、「クロー攻撃」を浴びたコンクリートの地面はえぐれていた。 (危ない……。あんなのに当たったら……ぞっとする!!) 「こっちも速度を出すね!!」 魔法少女は、オーブのスピードレンジを心の中で調整中……。 ひとまず、スピード5倍で移動!! 再びドラゴンが「クロー攻撃」を仕掛けて来る前に……。 萌葱色に輝く未来の衣装は、猛速度の風をまとい、ドラゴンの背後へ高速移動。 標的が目の前から消え、目を丸くして驚くドラゴンだが……。 空中から、ナイフの雨が!! ズバズバと、ウィンドドラゴンの頭上に落下して、まさに血の雨に!? 「グギャアアアアアアアアアア!!」 もちろん、その「魔石のナイフ」を放ったのは未来だ。 (ふふん、どんなものよ!? ナイフはサイコキネシスで動かしたのよ!!) うち4本使用したナイフの最後の1本を未来は、スカートから取り出した。 そして、念力で変化球のように投げつけ、ドラゴンの目の前で泳がせた。 「ギャアアアアアス!!」 怒ったドラゴンは、ナイフを追いかけようとするが……。 「とうっ!!」 エスパー少女は、テレポートでドラゴンの頭上に出現! そして、スカートから「ごついウォーハンマー」を取り出し、急降下攻撃! 敵の頭上にハンマーが直撃し、ドラゴン、ついにノックアウト!! ドラゴンはその場にバタリと倒れ、頭上ではヒヨコがピヨピヨと踊っていた。 魔法&エスパー少女・未来の勝利だ。 「ふう……演習終了!! おつかれさま! ドラゴン、ありがとう!!」 演習が終わると同時に、ドラゴンはデータが消えるかのように消えて行った。 超能力のみならず、魔術の力も手に入れた未来の今後に期待! 今回の演習を経て、未来はますます強くなったのだ。 C−1 ジュディのお買い物 現代魔術研究所の武器売場は充実している。 銃コーナーに関して言えば、魔法銃を始めとする、あらゆる銃器が取り揃えられているのだ。 そんな銃器に囲まれて、あれか、これか、と銃を探している巨体の乙女・ジュディ・バーガー(PC0032)がいた。 (ウウム……。マイ怪力は常にユースフルではないデスネ……。今まではナントカやって来られましたが、マギ・ジスタン・ワールドで今後、強いエネミーが現れるカモしれないネエ……。魔術はリトルビットできマスガ、現状、ノット・イナフ(不十分)……何かグッドなガンでもアレば……!!) ガチャガチャ、と色々な銃をいじってみるジュディだが、いまいち決まらない。 実は彼女、もともとの出身世界が銃社会のアメリカなので、銃にはちょいとうるさいのだ。 (ん!? わお、ティンときたネ!!) 1時間ぐらいかけて、ジュディはやっとお目当てのブツに巡りあえたらしい。 その銃の名は、「マギジック・レボルバー」と「マギジック・ライフル」である。 どうやら説明文によれば、これらの銃器は、周辺の四大元素の気を吸収して弾丸を生成する魔法銃のようだ。 しかもレボルバーの方が近距離・中距離用で、ライフルの方が長距離用ということらしい。 さらに使い手の大きさに合わせて銃そのものの大きさも選べるときた。 ジュディは大柄な彼女の身体に合わせて、大きめの拳銃とライフルを選ぶことにした。 (レボルバーは……2丁、バイ(買う)よネ!! ダブル・レボルバーで、ガンファイターになりマース!! ウフフ…………) 彼女はレボルバーが大そう気に入ってしまったので、まるで素敵な玩具を見つけた子どもみたいに、銃を頬でスリスリしてうっとりしていた。 果たして、3万マギンのこの買い物は、彼女にとっては、安いものだったのだろうか? それとも、高くつくことになるのだろうか……。 C−2 ジュディの演習 トレーニングルームに着くと、まずは更衣室へ移動。 ジュディはガンファイターの衣装に着替えるのであった。 頭部にはゴーグル。 服装は、黒い革ジャンにジーンズ。 脚部は、拍車が付いたウェスタンブーツ。 まさにカウボーイ(カウガール?)だ。 おまけに、ペットのラッキーちゃん(ヘビ)が首に巻かれている。 (さあて……レッツ・ゴー! トレーニングルームは……ウェスタンにシマース! エネミーは……射撃用のラット×10にシマース!) 入場券を入れ、タッチパネルに、ぴっ、ぴっ、と入力し、ジュディはいよいよ射撃訓練に入るのであった……。 *** 舞台は、まるで西部劇のワンシーンだ。 西部開拓時代の建物に囲まれ……。 地面は砂地で、サボテンまで咲いている。 時間帯は真昼で気温は初夏。 もちろん、演習場なので住民はいず、いるのはジュディとラットたちのみ! 「チュウ、チュウ、チュウ……」 ラットたちは、酒場の裏地で、ごみ箱を荒らしていた。 一方、ジュディは……100m離れた屋根の上にいた。 そして、スナイパースコープからラットたちを狙っている……。 ジュディの魔法ライフルは、強い日差しから炎の気を吸収し始める。 ライフルの中では、真っ赤な炎の弾丸が生成されていく……。 「ファイア!! そこネ!!」 ガンファイターが引き金を引くと、炎の弾丸が屋根の上から、100m先のごみ箱にいるラットへ向かって、直進!! ドカアアアアアン! と、派手に爆発音を立てて、ラットの1匹にヒットした火炎玉が炸裂!! 火事になったごみ捨て場から、ラットたちが方々へ散って行った。 (わお! ドカンときたネ!!) ジュディはライフルの威力にご満悦なようだ。 *** 次にジュディは、レボルバーを試してみることにした。 ところで、西部劇でレボルバーといえば、やはり決闘である。 そこで、ジュディとラットたちは決闘をすることにした。 ジュディたちは、街の中心部に集まった。 そして、ジュディと、9匹のラットを代表したラットの大将が、互いに背を向けている。 今から3歩前進して、振り返ったときに、引き金を引いて、早撃ちした方が勝ち、というあの決闘だ。 両者、互いに譲ることなく、1歩ずつ、緊張感を持って前に進む。 (ワン・トゥ・スリー……) ジュディは1歩進むごとに、心の中でカウントし、息を潜める。 ついに、3歩、徒歩が完了!! 「ファイア!!」 ジュディは、歩みを進めながら装填していた炎の弾丸を放つレボルバー2丁を乱射! 火炎玉の連続攻撃は猛速度でラットを襲う!! 一方、ラットの方は、毒牙を光らせ、ジュディに突撃。 しかし、ガンファイターの猛攻撃と猛スピードの前に、ラットは火炎玉に焼かれ、燃え上がる! 大将がやられたと同時に、潜んでいた残り8匹のラットたちも次々と出現。 皆、一斉に、毒牙を剥(む)き出して、ジュディに突進して来たのだ! 「ヘイ、ラッツ(ねずみたち)!! ノウ・ユア・セルフ(自分自身(の実力)を知りなさい)ネ!」 まるで、怪力スーパーレディからガンナーにジョブチェンジしたかのようなジュディ。 ウェスタン衣装に包まれた巨体の乙女は、猛連打で炎の弾丸を連射。 8匹のラットたちは、目にも止まらない銃の威嚇、乱射、制圧でみるみると蜂の巣に! そして火炎の威力が発火し、爆発し、燃え上がり、燃焼して行ったのだ……。 猛烈な爆発音を立て、花火となり散って行くラットを背景にして、ジュディは2丁の拳銃をくるりと回してホルスターに収めた。 (イエス! アイ・ウィン(ジュディの勝ち)、ミッション・コンプリート!!) こうして、ジュディは魔法銃の感触を覚え、怪力、魔術、に次ぐ第3の戦闘技法を手に入れた。もはや向かうところ敵なし……にまた1歩、近づいて行くスーパーレディであった。 D−1 萬智禽のお買い物 ここは現代魔術研究所購買部の倉庫……。 様々な魔導具が詰まった箱が所せましと並んでいる。 広々としている大きな倉庫の中で、1体の巨大目玉が「念力」で荷物運びをしていた。 なお、その目玉は、オーバーオールのエプロンをかけて、(胸に当たる部分がメッシュの覗き穴となっている)作業をしている。 (フフン、『念力』で整理整頓も楽勝なのだ♪) さて、その目玉の名だが、萬智禽(まんちきん)・サンチェック(PC0097)という。 古代魔法種族ゾットスルー族の生き残りであり、貴族出身の世捨て人である。 彼は彼が必要とされる戦場を求めて、異世界から異世界へと放浪していた。 そして、近年、マギ・ジスタンにたどり着き、特異な魔術能力を評価され、現代魔術研究所にスカウトされたのだ。(もっとも、彼は研究者というよりは、購買のお兄さんだが) ところで、なぜ、倉庫などの裏方を担当しているのか、というと……。 マギ・ジスタンは多数のモンスターが生息しているものの、ゾットスルー族は珍しいらしく、たまに客を恐れさせてしまうことがあるからだ。 最初はレジにいたのだが、どうも接客をしていてお客が逃げ出すこともあったので、今では倉庫担当になっている。 そんなこんなで仕事に取り組んでいた萬智禽であるが、休憩の時間に入るので、従業員休憩スペースへ移動。 休憩スペースでは、バイトの若い女の子たち4人がキャフキャフと騒ぎながらお弁当を食べていた。 (フフ……。私にもあんな若い頃があったのだなあ……) 巨大目玉は、バイトで青春を謳歌している若者たちを温かな眼差しで眺めていた。 「……でさあ、私、『魔法少女検定』を受けようと思うんだけれど……」 「うん、いいよ、それ! 将来のためにも、今のうちに絶対受けるべきよ!」 「そうよね! ところで、検定を受ける際に、オーブを買うでしょう? あのオーブ、魔法少女風のデザインでかわいいわよね! しかも色々なデザインがあって、気に入ったデザインがない場合はオーダーメイドもできるんでしょ!?」 「でもあれ、ちょっと高いよね? う〜ん、あたしも検定を受ける口実で、オーブを親に買ってもらおうかな〜」 といった、具合に、バイトの子たちは「魔法少女検定」の話題で盛り上がっていた。 傍で聴いていた萬智禽は、牙のある口を開けて、ニヤニヤしていた。 (フムン。資格試験であるか。そういえば、この検定の話題、このまえ研究者たちの間でも話題に上がっていた話であったな。ところで、マギ・ジスタンの魔法体系というものは面白そうであるな……。よし、私も後学の為に『魔法少女検定』というものにチャレンジするのである) こうして、萬智禽は仕事が終わった後、購買部のオーブ・コーナーへ足を運んでみることにしたのであった。 *** オーブ・コーナーには、四大元素のたまゆらたちが、それぞれの元素の光を放ち輝いていた。 たまゆらの下には、デザインの表示が文章と写真で説明されていた。 (ウムン。色々あるが……。使い道のバランスからして、「風」が良いであろう!) 萬智禽は「風のエル・オーブ」を「念力」で動かし、カゴの中に入れようとしたが……。 一点だけ、気がかりなことがあった。 それは、彼に合うデザインがない、ということだ。 (ウウム……。参ったである。デザインは、男性用の戦闘服か女性用の魔法少女服か……) 頭(目玉)を抱えて迷っている萬智禽のもとへ、購買のおばちゃんがやってきた。 「おや、目玉さん、どうしたの? お困りかしら?」 このおばちゃん、実は萬智禽の知り合いである。 購買部の商品陳列をよくやっている正社員だ。 「お? 商品係のおばちゃんであるか。実は、私に合うデザインがないのである……」 「あら、それなら、オーダーメイドしたら?」 「え? オーダーメイド? ああ、それもできたであるな? よし、この目玉に取り付けてもちゃんと機能する服に変えてもらうのだ!!」 こうして、萬智禽はオーブ係の店員を呼び出し、事情を説明し、サイズを量ってもらった。 そして、目玉の彼でも着られる「マント風デザイン」にしたのであった。 (さて、オーダーメイドの服ができるまで、買い物を続けるのである。そうであるなあ……。オーブ以外にも、「マギジック・レボルバー」や「カプセルモンスター」(サンドスネーク)も気になっていたのである。今後の戦闘のことも考えて、あの辺の商品もちょっくら見に行くのである!) 巨大目玉はふわふわと飛びながら、武器売場やモンスター売り場へと浮遊して行くのであった。 D−2 萬智禽の演習 注文したオーダーメイドのオーブは完成したが、少し夜遅くなってしまった。 さて、萬智禽は戦いたい気持ちでいっぱいだ。 トレーニングルームは24時間営業であり、まだ使えるようなので、使わせてもらうことにした。 巨大原子の核の前にて浮いている巨大目玉は、出入口前の機械を「念力」でピコピコと操作する。 (ええと、まずは入場券であるな。1枚と。で、敵はゴーレム1体……。場所は、巨大チェス盤に設定するのである……) *** 地面には、白と黒の巨大なチェス盤が敷き詰められていた。 周囲の空間は亜空間だ。 まるでチェスの試合でも始まるかのように、盤上には白と黒の駒各種が空から降って来た。 白い駒の陣地には、萬智禽が陣取り……。 黒い駒の陣地には、爆発音や煙と共に出現したゴーレムが陣取っていた。 「さて、試合を開始するのである。いでよ、我がオーブ!!」 巨大目玉は、「念力」でオーブを亜空間の上部へと放り投げた。 すると、どろどろした薄暗い緑色の風に包まれて、萬智禽が変身! 萬智禽は巨大目玉でも羽織れるモス・グリーンのマントを装着していた。 このマントこそが、オーダーメイドした「風のエル・オーブ」である。 「さあ、勝負である、ゴーレム殿!!」 萬智禽は緑色に輝きながら、旋風を放つモス・グリーンのマントを翻し、敵陣へ突撃! 「ストームブースト」は5倍速度で機能中! 巨大目玉は、盤上の駒を交わしながら、すいすいと進む。 一方、ゴーレムの方も、盤上の駒を除けながら、突っ走る。 萬智禽の姿を確認すると、胸部から「サンドボール」を発射! 「ムムム! 危ないのだ!!」 オーブの機能で、移動力と敏捷性が圧倒的に上昇している萬智禽は、難なく「サンドボール」を回避。 まるで闘牛でもするかのように、ひらり、とマントを返して、ボールを避ける。 「フフフ……。そなたを無力化して差し上げるのだ!!」 萬智禽は巨大なランタンを召喚し、直線距離20m先にいるゴーレムを不気味な光で照らし出す。 ランタンから発光された薄暗い灯りは、ゴーレムの全体をとらえた。 ランタンの光を全身に浴びるや否や、敵の動きはぴたりと静止。 「これぞ我が技能、『魔法封じのランタン』である。魔力が封じられれば、そなたはもはや何もできまい! さらばだ!!」 萬智禽がランタンの光の威力を増加させると、ゴーレムは、ギギギと機械音を立って、苦しそうだ。 しかし、敵の動きが停止したものの、魔力源が破壊されて、ゴーレムそのものが破壊されることはなかった。 (フウム。さすがは現代魔術研究所が技術を結集させて製造したゴーレムである。私ひとりの魔力では、魔術的疑似生命体の魔力すべてを無効化して破壊するまでは行かないであるな……。だが、動きが止まるだけでも上等であるな!!) 一度、ランタンの攻撃の手を緩めた萬智禽は、「ストームブースト」の力で、大幅に後退。 次の一手に出る用意を整える。 自軍のキャッスル(お城)とポーン(兵士)を念力で操り、城の中に囲まれた萬智禽は「兵法」の技能を発動する。 その頭脳の中に刻まれた数々の「兵法」の知識が、百科事典的に、めぐるましい勢いで脳裏を駆け巡った。 (フムン。この手で行くであるか……) 萬智禽は、『人形使いのジュエル』という血液のような色で発光する宝石を取り出した。 そして、不気味に輝く宝石からは、「傀儡術」が発動し、周辺にいるナイト(騎士)の駒が動き出す。 「行くのだ、我がナイト!!」 ナイトの2駒は、まるで本物の馬が突進するかのように、ぱっぱか、ぱっぱか、とゴーレムめがけて直進!! 向かって来るナイトたちを認識すると、ゴーレムは「ゴーレムパンチ」をぶんぶんと振り回しながら、追いかけっこを始めた。 (よし、ナイトたちよ……。その地点まで誘導するのである!!) やがて、ナイトは盤上の中央でストップ。 ゴーレムは、敵を追い詰めたとでも言わんばかりに、「ゴーレムパンチ」でナイトたちを撃破した。 「引っかかったであるな! そいつはおとりである!! さあ、行くのだ、我が兵士たちよ!! 突撃!!」 気が付けば、ゴーレムはポーンの駒たちに包囲されていた。 砂の巨人は、敵陣の真っ只中にはめられたのである。 兵士の駒たちは、萬智禽に命令された通り、集団兵力を総じて、ゴーレムに突進! 砂の巨人は、巨大な兵士の駒たちに次々と激突され、崩壊して行ったのだ……。 (よし、今日の演習はこれにて終了である! 1回の実戦は100回の演習に勝るが、やはり演習はおろそかにするべきではないのだな!) マギ・ジスタン世界での新キャラ・萬智禽・サンチェック。 彼のデビュー戦は、華麗に技能とアイテムを駆使し、ゴーレムを見事に撃破した。 今後の巨大目玉の行く末に乞うご期待! E ビリーの購買部物語 現代魔術研究所では様々な者たちが働いている。 人間もいれば、エルフ、ドワーフ、妖精もいるし、先ほど登場した巨大目玉なんかもいて、さらには座敷童子すらもいるのだ。 キューピー姿の座敷童子ことビリー・クェンデス(PC0096)は在庫の整理や商品の棚だしを手伝っていた。実は彼、ここの研究所の調査部隊隊長シルフィー・ラビットフード(NPC)直々の命令で動いている子分なのだ。病欠者が出るたびに、ボランティアで購買部の仕事に回されているらしい。しかし、シルフィーの性格を考慮すると、ビリーは、『働くのは嫌でゴザル!』とは言えなかったようだ。 さて、所変わり、倉庫からの棚だしを手伝うビリーであるが……。 「むむ……。あの棚の上にある箱、取れないねん! どないしましょ!?」 そこに、萬智禽が現れ、特技の「念力」でふわふわ浮かせて取ってくれた。 「まあ、これぐらいはたいしたことはないのである。必要ならば、いつでも私を呼ぶのだ、ビリー殿!」 「おおきに! 助かりまっせ!」 実はこの2人、何気に購買部での仕事仲間だ。 今、萬智禽が取ってくれたのは、バランス栄養食「マギジスメイト」の箱だ。 ビリーは、この箱を1箱、棚へ出すところなのである。 台車に箱を積み、店頭へと彼は急いだ……。 *** ビリーが店頭で「マギジスメイト」を並べていると……。 (はあ……。タダ働き、ホンマ、かなわんで……) 「すみませーん! 『マギジスメイト』が品切れみたいですけれど……。あ、今、商品を並べているところですか? それ1ケース、頂けます?」 客に話しかけられ、愛想笑いを浮かべ、ビリーは1ケース差し出した。 「あ、まいど! お客さん、『マギジスメイト』でっか? お役に立ちまっせ〜」 「わあ! キューピーさん、どうもありがとう!」 内心では愚痴ることがあるものの、愛想が良いビリーは実は客ウケが良い。 何気にすっかりと職場に溶け込みつつあるようだ……。 休憩でも、おばちゃん連中相手に、『打ち出の小槌F&D専用』でお菓子やジュースを配ることなんかもあり、地味に人気が出ているらしい……。 *** さて、本日の棚だしが終わった。 ビリーは特にやることもないので、売り場を巡回することにした。 (あかんなあ……。すっかり染まってますやん……。そもそも、幸福とは何やろ? 救済とはいかにあるべきやろ? 座敷童子として、ここマギ・ジスタンで修行に来てはいるもの、毎日毎日、こんな職場でボクは何してんやろ……) 実はちょっとブルーな悩みを抱えているビリーである。 ビリーは世間の波にもまれて、自分の存在理由に疑問を抱きつつある今日だ。 そんな日々を送っていたら……巡回中、まさにレヴィゼル神のお導き……かもしれない出会いに遭遇! 「ん? なんやろ、これ……お化けハイランダケ? こっちはサンドスネークかいな?」 どうやら、モンスター売り場に来ていたビリーは、「カプセルモンスター」が目に入ったようだ。そして、説明文を読んだところ……。 「つまり……使い魔みたいなモンやろ。なるほど……自前の戦闘力を持たないボクには使い勝手が良いかもなあ……。ほな、ボクが買っちゃるで♪」 こうして「お化けハイランダケ」と「サンドスネーク」の2匹は、座敷童子に購入されることになるのであった。 *** 所変わり、ビリーは研究所の倉庫の隅っこまでやって来た。 手元には、「カプセルモンスター」2匹と「マギジスメイト」を抱えている。 前者は使い魔として使うために、後者は魔力切れに備えて。 彼なりの戦闘パターンをシミュレーションしたところ、「やはりサポートに徹するべきだ」という結論に至り、このようなお買い物となったのだ。 「ほな、やりまっせ! 出でよ、我が下僕、ランマル、ボーマル、リキマル!!」 実はビリー、「カプセルモンスター」たちを既に命名していたようだ。 疑似生命体であっても、名前を付ければ愛着がわくものらしい……。 ランマルこと、ペットの金の鶏は……呼び出されると、ぽん、と軽い爆発音と煙に包まれて出現した。 「コケ、コケ♪」 ボーマルこと、サンドスネークは……カプセルが地面に叩き付けられると、カプセルが真っ二つに空き、中から砂色のガラガラヘビがみるみると大きくなって飛び出した。 「シャアアアアアアアアア!!」 リキマルこと、お化けハイランダケは……同じく、カプセルが地面へ叩き付けられることで、カプセルが開き、中からキノコの化け物がみるみると拡大して姿を現した。 「ベロン、ベロン!!」 「うむ……。あんさんらは、ボクの使い魔として今後共に働いてもらうねん! ボクが戦場でピンチのときには呼ぶさかい! そないときは、助けてもらいまっせ!!」 「コケー!!」 「シャアアアアア!!」 「ベロベロベー!!」 こうして、ビリーは下僕たちにひとまずポーズを取らせることにした。 ビリーが中心に立ち、頭上にランマル、右にボーマル、左にリキマル。 我ら、マギ・ジス戦隊、ビリー・レンジャー、ここに見参!! ともかく、お供を引き連れて、戦力強化をしたビリーであるが……。 戦闘パターンが増えた彼の今後の戦いぶりは、いかに変容し行くのであろうか……。 F 鈴の魔改造物語 とある日の、聖アスラ学院・魔導科学研究室……。 箱詰めされた荷物を運ぶ業者さんがやって来た。 「すんませーん! 武神先生はいらっしゃいますか? 現代魔術研究所からお荷物が届きました!」 研究室の扉を、ガチャリと、開け、中からマッドサイエンティスト風の白衣姿の青年が出て来た。そう、彼がその武神先生こと武神 鈴(PC0019)である。 「ああ、頼んでいた荷物か。すまないな。金は既に払っているから……。ハンコがあればいいかな?」 「はい、ここにハンコをお願いします!」 実は鈴、現代魔術研究所から、とあるものを通販で購入していたのである。 そして今日、通販で手に入れたブツを使って、実験をするのであった……。 *** (ふふ……。魔牛の本とか魔法少女の試験とやらには興味はないが……購買で売っている魔法具(おもちゃ)は使い方次第では、いろいろと面白いことができそうじゃないか……) 鈴は、箱の中身を開けて、中から注文した品々を取り出す。 ひとつは、「水のエル・オーブ」で、もうひとつは、「マギジック・ライフル」だ。 (さて、3万マギンも借金して買ってきたブツだが……。さっそく計画通りに改造を施そう……) 鈴は、研究室の戸棚から、「万能工具セット」を取り出して、仕事に取り掛かるのであった。 (まずは、ライフルの方……。能書きでは、四大元素の気を吸収して4属性もの弾丸を撃てるようになるそうだが……。水以外の機能はオミット!!) マッド博士は、ライフルを分解してばらし、内部にある四大元素を吸収する装置を取り外した。 (そして、ここのエネルギー源に変えて導入するのが、こいつ……) 今度は、箱から取り出した「水のエル・オーブ」に万能工具を使って、霊体を操作した。この操作により、オーブからは変身機能がオミットされた。 (ただの水のたまゆらになったこいつを……。ライフルのエネルギー源に組み替えて……) スッキリとした気持ちになるような謎の効果音と共に、2つのアイテムが合体! (ライフルそのものの基本能力も強化しておこう……) 鈴は、万能工具から、スピナ、ハンマー、ドライバー、ドリルなどを取り出して……。 ぎゅん、ぎゅん、かちん、かちん、どかん、どかんと効果音を立てながら、パーツを足しあわせ、次々と強化加工! 銃は、「スマートガンシステム」(銃口を向けた先の着弾予想地点をモノクル(片眼鏡)のレンズに投影し、命中精度を上げるシステム)と「ガスベントシステム」(銃口と逆方向にガスを噴射し、銃の反動を抑えるシステム)を組み込むことに成功! (よし! この調子でがんがん改造するぞ!!) 鈴は、引き出しからカスタムパーツをぞろぞろと取り出した。 ライフルそのものが戦闘状況に応じて変形できる機能を取り付けるためだ。 魔導科学者は、がちゃがちゃと、様々な機械パーツや符術パーツを万能工具で装着し、大改造に取り組むのであった。 (まずは……「サブマシンガン」機能だな。このライフルがマシンガンに変形することで、フルオートで引き金を引いている間は、弾をばら撒き続けることができるようになる……。多数のザコ敵を相手にするときや威嚇射撃にはもってこいだな……) さらにもう1機能、鈴は追加の改造を続けて取り組んだ。 「なぜここでこのパーツが必要なのか?」と魔導科学を知らない者ならば疑問を抱くパーツすらも、鈴にかかれば、ちょちょいのちょい、と難なく筋道通りに改造をしてしまうのだ。 (そして……。「アサルトライフル+グレネード」機能だな。こちらはライフルがアサルトライフルに特化し、グレネード弾を撃てるようになる。そうだな……1トリガーを引いて、3発発射ができて……ソフトボール大の水の弾(たまゆら)を放物線で撃ち出すことができるだろう。さらに、着弾した場所で水のたまゆらが炸裂し、周囲に弾をばら撒く攻撃ができるようになるはずだ……) 数時間に渡る大改造を終え、魔導科学青年はマッドな笑みを浮かべて笑い出した。 (よし、完成だ! そうだな……。この銃は、「ウォーター・オーブ・ライフル」とでも名付けるか!? では、さっそく演習に移ろう!!) *** 所変わって、演習場……。 ではなく、学院の裏山に来た魔導科学者であった。 (まあ、一応、学院側の許可は取ったし、人気(ひとけ)がないこの場で演習をしよう。ったく、仕方ねえよな……こっちは金がないのに現代魔術研究所だとトレーニングルームで金を取られるしよ……野山ならタダだしな……) ブツブツ言いながらも、鈴は学院の食堂からもらってきた「空き缶」を地面や石の上に並べ始めるのであった。 演習モンスターを雇う金もないので、「空き缶」相手に演習をすることにしたのだ。 (さて、気を取り直して……。まずは、サブマシンガンを試そう!!) 魔導科学青年は、20m離れた場所から、サブマシンガンを構えた。 もともとが「水のエル・オーブ」と「マギジック・ライフル」だっただけあり……。 発射する際には、ライフルが水色の気に包まれながら、弾丸を弾き始める! 彼がフルオートで引き金を引いている最中、水の弾丸が乾いた音を立てつつ無数に乱射して標的を襲った! まさに計算通りの展開である。 やがて空き缶らは、咲き乱れる水のたまゆらの弾丸の餌食になり、ぼこぼこに弾かれながら全滅した。 (よし……。空き缶相手なので、さすがにこんなもんだろう。では、次に移ろう……) 鈴は、一度、破壊された空き缶の具合を確認しながらも片して、別の新しい空き缶を同じような位置に並べた。 そして次は、アサルトライフル+グレネードだ。 サブマシンガンだった銃は、水色の気に包まれつつ、機械音を立ながら、変形! 鈴は、スコープを覗き、100m先の空き缶に標準を合わせる。 (それ、発射!!) 鈴が引き金を引くと、1回分のトリガーで、3発もの水のたまゆらが発射された。 ソフトボールほどの大きさのたまゆらは放物線を描いて、空き缶の群れに着弾! 着弾するや否や、玉が大音量で炸裂し、周辺の空き缶すべてを水圧の弾丸で壊滅させた。 (ふう……すげえ威力だ。空き缶相手にはもったいないぐらいだな……。ひとまず、実験は成功……でいいだろう……) 現代魔術研究所のアイテムを魔改造し、新たなる武力を手に入れた鈴。 魔改造の名人である彼は、今後もどんなアイテムを発明して行くのか楽しみである……。 G−1 マニフィカのお買い物 現代魔術研究所は書籍コーナーも充実している。 古今東西の様々な魔術書があることはもちろん、最近ではラノベや漫画も置いてあるようだ。壁際の本棚にずらりと並ぶ書籍の数々、店前やレジ前で積まれた特集コーナー、ワゴン車に詰まっている特売セール、コーヒーを飲む休憩スペース……本好きにはたまらない場所であることだろう。 さて、本日のレジ前に展開されている特集コーナーは『魔導動物概論』(魔牛編)だ。 著者が最近流行りの学者・バードマン准教授であること、聖アスラ学院やマギ・ジス大学の授業で指定の教科書になっていること、割と新種の魔物モガモガオックスの生体や能力が研究尽くされた研究書であること……などから現在、話題沸騰中の人気書籍である。 そんな人気本のコーナーへ、ひとりの女子大生がやって来た。 彼女の名前は、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)。 ネプチュニア連邦の人魚姫であり、現在は聖アスラ学院に留学し、魔術博物学を専攻中である。 「あら!? バードマン先生のご本が特集コーナーで売られていますわ! これはぜひ購入しなくてはなりませんわね! しかもあの魔牛の生体や能力が研究されているなんて、研究意欲を大変そそりますわ!」 マニフィカは、さっそく、積まれている本を1冊、手に取ってみた。 かなりどしり、とした重量だ。 中身をめくると、豊富な写真や図式と共に、専門的な理論がびっしりと記されている。 そして、「注意書き」に、この本の魔力が発動すると魔牛の力が暴走するので、扱いに気を付けること、とあった。 「ふうむ……。なかなか面白いですわね。1万5千マギンはちょっと高いですが……この量と内容なら悪くもないですわね」 人魚姫が本をカゴに入れて購入を決意した頃、そこに聖アスラ学院・風紀委員会副委員長のコーテス・ローゼンベルク(NPC)がやって来た。 「あら、コーテスさんではありませんか? あなたもバードマン先生のご本を買いに来たのかしら?」 マニフィカに話しかけられ、にこりと笑いながら、コーテスが応対する。 「おや? マニフィカさん? いつぞやは……魔導動物の事件で……お世話になりました ……。はい……そうです……『魔導動物概論』(魔牛編)を買いに来たところです……。バードマン先生の授業を取っているので……期末レポートにはその本の感想を……実戦データ付きで提出するん……です」 いつもながら、たどたどしい会話の仕方で、コーテスが本の購買動機を教えてくれた。 お人よしな人魚姫は、「よし、それならば」と思いつく。 「それは奇遇ですわね! 実はわたくしもこの本を買ってトレーニングでもしようかと思っていましたわ。よろしかったら、一緒にトレーニングしませんか? わたくしも実戦データの採取、お手伝いしますわよ!」 マニフィカの親切な申し入れに、ぴかりと表情が明るくなるコーテス。 「わ、わ!! ありがとう……ございます。実はレポート……難しそうで……困っていたんです……マニフィカさんが手伝ってくれれば……好成績を取れるかも!!」 それはそうと、ところで、とマニフィカは尋ねる。 「スノウ委員長は一緒でないのかしら?」 コーテスはだいたいいつも、風紀委員長スノウ・ブロッサム(NPC)と一緒にいるので、ふと疑問に思ったマニフィカは質問してみた。 「スノウ委員長は……エル・オーブのコーナーへ行かれました……よろしかったら……一緒に来ますか? 今から、僕も委員長のところへ……行くので……」 「はい、喜んで!」 本をカゴに入れた2人は、一度、スノウのもとへ向かうことにした。 *** 一方、エル・オーブ売り場では……。 「ねえ、スノウ! これもいいよー! 炎のビキニ、水のレオタード、風のチアリーダー衣装、大地のすけすけ民族衣装……! どれもスノウにはお似合いだよ!!」 と、スノウにそうしつこく色物衣装を勧めるのは、調査部隊隊長でありながら、なぜか購買部の手伝いをしているシルフィー・ラビットフードであった。 「じゃかましい、このボケ妖精!! 私はこれがいいの!!」 半ばキレているスノウ委員長は、妖精を払いのけて、とあるエル・オーブを手にしていた。 ちなみにそのオーブは、水タイプで、衣装はスノウの普段着とほとんど変わらない魔術師のローブだ。 「スノウ! あなたは色気も何もないのね!!」 「ふん、ちびっ子の妖精なんぞに言われる筋合いはないわよ!!」 何気に仲間割れしている2人のもとに、マニフィカとコーテスがやって来た。 「あはは……。スノウ委員長……いつもながら……激しいですね……」 コーテスは苦笑いしながら近づいて来た。 「スノウさん、シルフィーさん、こんにちは。お久しぶりです。お取込み中のところ申し訳ありません。ところで、スノウ委員長は、今日はどんなご用件でいらしたのですか? それは最近、学院でも話題によく上がるエル・オーブですわね? 風紀委員会の戦力強化といったところかしら?」 マニフィカの至極まともな質問に対して、スノウはいつもの委員長モードに戻り、にこやかに応対する。 「まあ……風紀委員会の強化というよりは、自己啓発といったところね。『魔法少女検定』という試験があって、それでも受けてみようかと思ったのよ。その検定を受けるには、エル・オーブが必要だから、購入しに来たってところかしら」 おや、まあ……と、表情を明るくするマニフィカ。 彼女の向上心を刺激したようだ。 「それは面白そうですわね! わたくしも受けてみようかしら!」 マニフィカの前向きな応答に、シルフィーが反応した。 「よし、マニフィカ、では萌えな水着にしよう!!」 そして、人魚姫は、「水のエル・オーブ」(パレオ衣装)と書かれたオーブをひょい、と取り上げてカゴに入れた。 「そうですわね、シルフィーさん! わたくし、水色のパレオがいいですわね! 属性的にも水がいいですわ」 マニフィカの天然な反応にNPCたちは沈黙! スノウとコーテスは恥ずかしそうにしていて、シルフィーは真に受けられたのがちょっとショックだったようだ。 「あ、ところで……。スノウ委員長……。今から……僕、マニフィカさんと一緒にトレーニングルームへ……行こうと思っていたんですが……。よかったら……3人で、行きませんか?」 コーテスは思い出したかのように、用件を委員長へ伝えた。 「いいわね! オーブでさっそくトレーニングをしたいと思っていたわ。マニフィカさんさえ良ければ、ぜひ3人でグループ演習をしたいわね!」 もちろん、スノウの回答に対して、マニフィカは断る理由がなかった。 こうして、3人でトレーニングルームへ向かうことになったのである。 ともかく、こうしてマニフィカは魔牛の本とエル・オーブを購入するのであった。 あとは、留学の記念にと、「聖アスラバッジ」も1個、購入しておいたのである。 G−2 ジニアスチームのお買い物 エル・オーブ売り場に、戦力強化を求めて、賑やかな若者たちがやって来た。 青年らは、旅の冒険者風ではあるが、現在はマギ・ジスタン世界に活動の拠点を移している住民たちだ。 「へえ〜。このエル・オーブとかいう衣装って面白いね。魔法使いじゃない人もこの衣装の力で魔法使いになれるのか。例えば、電気系統の魔法剣が使える俺の場合でも、オーブがあれば、炎とか自分の専門じゃない魔術も使えるってことかな?」 「炎のエル・オーブ」コーナーの前でじっくりと商品を見比べているのは、魔剣士青年のジニアス・ギルツ(PC0025)だ。彼のフードの中から、猫のぬいぐるみが、ひょっこりと顔を出した。 「炎のオーブか……。確かに、熱い性格をしているジニアスにはお似合いの衣装だね。ボクは……水がいいね! 機能的にも、目くらましができるタイプはボクに向いているかな……」 今、フードの中から話しかけた猫は、ジニアスの相棒であるラサ・ハイラル(PC0060)だ。彼女は精神体の幼女であるが、普段は猫のぬいぐるみに憑依して行動している。魔銃の使い手ではあるが、「水のエル・オーブ」という魔導具にも興味を示したようだ。 「ふうむ……。エル・オーブか……。ジニアスの言う通り、自分が使えない魔術も使えるようになるとは何かと便利なアイテムだな。ま、しばらくこの世界で厄介になる予定だし、この機会にこういったアイテムもそろえておくといいかもしれねえぞ」 ジニアスの隣で、同じくオーブをじっくりと眺めているのは、遺跡警備隊のリシェル・アーキス(PC0093)だ。彼はシールド魔法の使い手だが、この際に新しい魔術も身に着けておくのも良いだろうと考え、今日もジニアスたちと行動を共にしている。 「しかし、色々な衣装のデザインがあって迷うなあ……。そうだなあ……これにしよう! 俺は魔法剣士なので魔法剣士風衣装がいいや!」 ジニアスは、カタログに記載されているとあるデザインの「炎のエル・オーブ」をカゴに入れた。 「え? あまりいつもと変わらないんじゃない?」 ちょっと驚いているラサの質問に、ジニアスはにこやかに返す。 「うん……。あまり変わらない方が動き易いかなと思って……。ところで、ラサはどれにするの?」 ラサは、目の前の「猫型魔物でも着られる魔法少女衣装」というカタログ表記がある「水のエル・オーブ」をジニアスのカゴにひょいと入れた。 「ボクは……これかな? ちょっとこれカワイイよね?」 ジニアスはラサが持って来たオーブのデザイン表記を見て、思わず笑ってしまった。 「あはは! いいね、これ! ラサらしくていいんじゃない!?」 「ん? ホントに? 何、その笑い方! 気になる!!」 ちょっと内輪ゲンカ気味になりそうな2人をよそに、リシェルは「大地のエル・オーブ」のとあるデザインを自分のカゴに入れた。 「俺はこれだ! 強そうだろう? 東洋風というのも変わったデザインでいいぜ!」 リシェルの選んだオーブに対して、ジニアスも閃いたかのような表情でコメントをする。 「お!? リシェルは大地か? 『グランドクロス』……という付属技能はシールド魔法に似ているけれど?」 ジニアスの問いかけに、リシェルは、ふふん、と答える。 「ま、シールド魔法の修行の一環さ。それに『ゴーレムパンチ』とかいう攻撃力のある魔術が使えるのも魅力だぜ?」 「そうだな。リシェルらしくていいかも! 仲間のピンチなときには期待させてもらうよ!」 「おいおい、俺はおまえの用心棒か!!」 ちょっとした漫才になりそうなジニアスとリシェルのやり取りではあったが……。 ともかくオーブの選択では、各自の属性や性格にあったものを購入することにしたのであった。 「ところで、ジニアス。俺はこの後、お守り売り場へ行くが、来るか?」 エル・オーブのコーナーを出て、リシェルは、お守り売り場へ足を運ぼうとしていた。 「ねえ、ジニアス! 武器売り場へ行かない? ボク、新しい銃が欲しいよ。ジニアスも新しい武器は必要でしょう?」 フードの中から出て来たラサは、武器売り場への移動を促す。 「う〜ん。どっちも行きたい! でもお守りは『レヴィゼルのお守り』って決めているけれど……武器は自分で実物をみたいな。ということで、リシェル、頼む! 俺はラサと一緒に武器売り場へ行くので、俺の分のお守りも買ってきてくれないか! お金は後で払うから」 手を合わせて頼む込む友人のお願いを、リシェルという男は聞かないわけにはいかなかった。 「ちっ! わーったよ! ジニアスの分も買って来てやるよ。だが、金は絶対に後でちゃんと払えよ。それは約束だぞ?」 「ああ、もちろんさ!」 即答するジニアスだったが、とあることを思い出し、慌てて2人に呼び掛けた。 「ねえ、2人とも! 買い物が済んだあと、トレーニングをぜひやっておかないか? 新しいアイテムの効果を試す必要もあるし、連携プレイの演習もこの機会にやっておきたいんだけれど」 相棒と用心棒(?)は、ニヤリと笑った。 「もちろんだよ、ジニアス! ボクもそのつもりさ!」 「ああ、俺もそのつもりだったぜ!」 「OK。全員一致で演習参加、と。では、買い物が終わったら、トレーニングルーム前で再会、ということでいかな?」 ジニアスがそうまとめると、ラサとリシェルはもちろん反対することなく、グーサインを出して応答してくれた。 こうして、2つの約束を交わし、リシェルはお守り売り場へ歩いて行った。 ラサも、ジニアスの肩の上に上がり、肉球で武器売り場を指した。 「さあ、ジニアス、武器を買いに行こう!!」 「うん!」 *** 武器売り場に着くや否や、ラサは「マギジック・レボルバー」と「マギジック・ライフル」を一目見て気に入ってしまったらしい。眼をキラリと光らせ、銃をなでなでしていた。それを見ていたジニアスが銃をカゴに入れてあげた。(もちろんラサは後で、自分で払うのだが) 一方、ジニアスの方は、「魔石のナイフ」(5本セット)を購入。硬度が自慢のナイフであるが、どちらにしても今後の戦闘や冒険で手頃なナイフが欲しいと思っていた時期だった。なので、特に迷わずこのナイフセットをカゴに入れたのであった。 なお、お守り売り場へ向かったリシェルは、特に迷うこともなく「レヴィゼルのお守り」(自分の分とジニアスの分)と「聖アスラバッジ」を購入しておいた。彼は信仰が深い人間だから……というよりは、どうやらお守りが持っている戦闘時の効果を期待しての購入だったらしい。 G−3−1 ジニアスチームの合同演習(+マニフィカやNPCたち) さて、所変わって、ここはトレーニングルーム前……。 原子の構造みたいな外観の不思議な精神世界への入口前で、若者たちはばったりと会ってしまった。 「おや、あんたは……マニフィカじゃないか? 今からトレーニングをするのかな? それと……後ろにいる方たちは……仲間?」 ちょうどトレーニングルーム前で入力をしようとしていたジニアスは、道の片側からやってきたマニフィカに話しかけた。 「あら、あなたは……ジニアスさん? ええ、そうですわ、ちょうど今からトレーニングをするところですわ。それと……わたくしの後ろにいる方は、以前にある事件でお世話になった聖アスラ学院の風紀委員会の方たちですわ……まあ、仲間ですわね」 人魚姫から紹介され、スノウとコーテスは、軽く会釈をして自己紹介を始める。 「はじめまして。私は、スノウ・ブロッサム。風紀委員会の委員長を務めています」 「ええと……はじめまして……。僕は、コーテス・ローゼンベルク……。副委員長……です」 風紀委員会の者たちの自己紹介を受けて、ジニアスたちもそれぞれ自己紹介を始めた。 「こちらこそはじめまして。俺は、ジニアス・ギルツです。冒険者をやっていて……今は、冒険者ギルドワスプに雇われています」 「はじめまして。僕は、ラサ・ハイラル! 同じく、ジニアスと一緒にワスプで働いているよ!」 「おう、よろしく! 俺は、リシェル・アーキス。最近、聖アスラ学院の方で学ぶことになった留学生だ。元は、ジニアスたちみたいな冒険者をサポートする遺跡警備隊の者だぜ」 こういった感じで、それぞれが自己紹介をし、握手を交わすのであった。 さて、これからどうしたものか、と6人は互いの顔を見て、しばらく考え込む。 「あの……。もしよかったら、マニフィカたちのグループも含めて、一緒に演習やらないか? 6人いたらけっこう色んなグループ演習ができると思うけれど?」 ジニアスの申し入れに、スノウとコーテスはちょっと驚いていたが、マニフィカは笑顔で答えてくれた。 「ええ、それはぜひ! ちょうど今、こちらから同じことをお願いしようと思っていたところですわ!」 ジニアスとマニフィカの2人は同じことを考えていたものの……。 しかし、他のメンバーたちは……。 「スノウ委員長? どうします……? 僕は、委員長さえ良ければ……話に乗りますが?」 コーテスの問いかけに、スノウはメガネをかけ直して答える。 「まあ、いいわよ……。マニフィカさんのお知り合いみたいだから、信頼はできると思うし、腕も立ちそうね。未知の相手と一緒に演習をするのも、いい訓練になると思うわ!」 スノウの方も反対はしていない。 一方、リシェルとラサは……。 「そこの委員長の言うとおりだ。未知の相手と一緒に戦闘をする経験は良い経験値になると思うぜ? 俺も異論はない」 「うん、ボクもいいよ。マニフィカの学院での仲間たちともぜひお手合わせ願いたいね!」 そういうわけで、満場一致で合同演習が決行されることになった。 「では、さっそくだけれど……。6人いるから、チーム分けしたらどうかな? 例えばだけれど……最初の1時間は2人ペアを3組作って、それぞれがゴーレム1体相手に演習。次の1時間は3人チームを2組作って、各チームがゴーレム1体相手に演習。と、いうのは?」 リーダーが慣れているジニアスは、さっそく思いついた演習計画をみんなに聞いてみた。 「いいですわね、それ! では、せっかくですし、最初の1時間のときのペアはできるだけ慣れている者同士でのレギュラーな演習として……最後の1時間でのチームはできるだけ慣れていない者同士でのイレギュラーな演習……というのは、いかがでしょう?」 ジニアスの思いつきにさらなる案を付け足して、マニフィカがみんなに問いかける。 「うん、いいよ、それで! じゃあ、最初の1時間でボクはジニアスと組むかな?」 提案を受けたラサはまずジニアスを指名した。 「うん、俺もそれでいい。ではラサ、最初の1時間はよろしく!」 ジニアスもちょうどラサを指名しようと思っていたところだ。 「では……僕はスノウ委員長と……」 「コーテス、よろしくね!」 風紀委員会ペアも互いを指名した。 「そうなると……。慣れているわけではありませんが、残るペアはわたくしとリシェルさんになりますわね!」 「おう、余り者同士、よろしく頼むぜ!」 最後に、残ったマニフィカとリシェルがペアを組むことになった。 G−3−2 1時間目 2人ペア(×3)で 蒼色が晴れ晴れと広がる曇りない空。 そんな心地良い天気の真下、無機質に広がるのは灰色のコンクリート闘技場だ。 闘技場のど真ん中では、どかん、という爆発音や煙と共に、ゴーレムが3体出現! 「いよいよ演習が始まるね! ジニアス、今日はよろしく頼むよ!」 ジニアスのフードの中から、ラサ猫がひょっこり出て来て、闘技場の地面に着地。 「うん、ドキドキするなあ! ラサ、いつも通りお願い!」 ジニアスも気張りながらも、軽く準備体操をする。 「それ、水のオーブでメイク・アップ!!」 ラサは「水のエル・オーブ」を空中高くへ放り投げた。 「こっちも、炎のオーブで、ラ●ダーチェンジ!(は、ちょっと違うかな?)」 ジニアスの方は、「炎のエル・オーブ」を青空へ向かってぶん投げた。 青白い無数の水の泡が弾け飛び、ラサの衣装はキラキラと発光する……。 泡ぶくと閃光の中から飛び出て来た彼女は……。 魔法猫少女に変身!! ラサ猫は、全体的に青と白を基調とした衣装で登場だ! 青地に白いフリルスカートをひらひらとさせて、萌えて参上! 一方、ジニアスは、全身に真っ赤な炎をまとい、空高く火炎が炎上! 人体発火したのか、と思いきや……。 炎の舞が晴れる頃に出て来た彼は……。 紅の魔法剣士に変身! ジニアスは、白地に赤い紋様(火属性の紋章)が施された上衣が特徴的な魔法剣士の衣装をまとい凛々しく参上! 「さて、ジニアス、今回はどう攻める?」 ラサは「マギジック・レボルバー」をカチャリ、と構えながら相棒に尋ねる。 「うん……。こちらは2人で頑丈なゴーレム1体を仕留めないといけない。なるべく火力を最大限に使う方向でやってみよう。そうだな……。俺がゴーレムの懐に突っ込んで行って、炎上させるから、そこに至るまでの道をサポートしてくれるかな? あと火炎の援護射撃も! 土属性の魔物は火属性に弱いからね」 魔剣士の的確な指揮に、魔法少女は、任せて! と応答。 戦闘開始だ!! ジニアスは予定通り、衣装を火炎で炎上させながらも、ゴーレム1体へ向かって突っ走って行った。 もちろん、向かって来る敵をゴーレムは返り撃たないわけにはいかない。 ゴーレムは胸元から「サンドボール」を高速度で発射! 「甘い!!」 爆撃音と共に火炎玉がジニアスの背後から猛スピードで飛んで来た。 サッカーボールほどの大きさの弾丸は、ジニアスの頭上を通り抜け、彼に向かって来る「サンドボール」を破壊して相殺! (サンキュ、ラサ!!) 敵の一手を封じてくれたラサに感謝し、ジニアスは再び、突き進む。 もう2回ほど敵は同じ手を使って来たが、「サンドボール」が来る度に遠方にいるラサが銃撃で相殺してくれた。 やがて魔剣士はゴーレムの近距離攻撃の射程範囲内に入って行くが……。 侵入者を目がけて、敵は猛攻に出る! 頭上から巨大な「ゴーレムパンチ」が振り落とされたそのとき……。 遠方から火炎玉が飛び交い、パンチの拳を狙撃する!! 爆撃音と機械音が混ざる雑音と共に、ゴーレムの拳がひび割れた。 さすがに弱点属性の直撃を受けたのはきつかったのであろう。 突然の狙撃にうろたえたゴーレムが混乱しているすきに……。 紅の魔剣士は燃え上がっていた!! (「ファイアクロス」で焼き潰す!) ジニアスの魔術衣装は真っ赤に炎上し、炎の鎧をまとっていた。 彼はその勢いと共に、ゴーレムの腹部へ突進! 火炎は砂の巨人にも燃え移り、1000℃の炎がゴーレムを焦がす。 敵を炎上させた魔剣士は、ヒット&アウェイのごとく、戦線一時離脱を図り逃走。 彼が敵元を離れたそのとき、遠方から火炎の弾丸が容赦なく降り注がれ……。 炎上している巨人は見事に爆撃され、大破! (ふう……。こっちはアガリだ! ラサ、いつもながらありがとう! 素晴らしいサポートだ) (よ〜し……倒したね! さすがはジニアス、頼もしい連携プレイだね!) 燃え崩れる敵を遠目で眺めながら、2人は相方の連携プレイに感謝をするのであった。 *** ジニアスとラサが戦闘を開始すると同時期……。 闘技場にゴーレムが現れるやな否や、マニフィカとリシェルも戦闘態勢に入っていた。 「リシェルさん、今日はよろしくお願いしますわ!」 人魚姫は、隣にいる本日のパートナーにぺこりとおじきをした。 「おう、こちらこそ頼むぜ! ま、気軽にやろうや!」 遺跡警部隊員の彼も、軽く右手をあげて答える。 「行っきますわよ! それ、アタックですわ!!」 マニフィカは「水のエル・オーブ」を空ではなく地面に叩き付けてしまった! しかし、ふわふわしている水色のたまゆらは壊れることなく、その場で発光!! まるで滝が逆流したかのように、凄まじい水飛沫が人魚姫を襲う。 激流の滝に上下から打たれ、マニフィカが変身! 滝が晴れあがる頃、人魚姫は魔法人魚になってキラキラと飛び出して来た。 マニフィカが、水柄のパレオを巻いて登場! 「『水のエル・オーブ』にて、魔法人魚マニフィカ参上ですわ!!」 トライデントをくるくると回し、水着の人魚姫が水を得て現れたポーズを決めた。 一方、リシェルの方は……。 「おらあ! 変身してやるぜ!! かかってこいや!!」 シールド魔法使いは、まるで野球でもするかのように、青空へ向かってオーブを超速球のストレートで投げつけた。 すると、頭上から巨大な泥が降って来た! 球を投げた主は、泥沼に呑みこまれるが、やがて泥は彼の衣装となるように変形! 泥が干上がる頃、黒地に黄色い紋様(大地の属性)が施された中華風の長衣をまとった魔術師……リシェルが現れた。 「大地のリシェル、只今参上! 四六死苦! (で、いいのか、これ!?)」 シールド魔法を軽く光らせ、大地のオーブをまとったリシェルが拳法を構えてみた。 「さて、リシェルさん。いかが致しましょうか?」 人魚姫は特に良いアイデアがなかったので、シールド魔術師に指示を求めた。 「そうだな……。俺の戦法は基本的にカウンターを狙うから……マニフィカは敵にすきを作ってくれねえか?」 リシェルも特にこれといった戦略が思い浮かばないので、とりあえず自分のいつもの戦い方に合わせてくれ、と提案。 「了解ですわ! では、オーブの力で敵に目くらましをお見舞いしますわ!」 作戦を合意すると、マニフィカはトライデントを構えて、ゴーレムの元へ走って行った。 続いて、少し歩調を遅らせながら、リシェルも人魚姫の後ろで走り出した。 ギギギ、と機械音を慣らしながら、ゴーレムは「サンドボール」を高速で発射! 「それ、ガードしとくぜ!!」 マニフィカの後方にいたリシェルは、オーブの射程圏内である前方3mの地点に鉄壁の土バリアを発生させる。 「グランドクロス」から発生した土の防壁は「サンドボール」を弾き返し相殺! 「助かりますわ!!」 マニフィカは崩れて行く土の防壁を除け、そのままゴーレムのもとへ直進。 ゴーレムがパンチを繰り出すその瞬間に……。 「ウフフ、しゃぼん玉でもくらいなさい!!」 魔法人魚の手元から無数の巨大しゃぼんが発生した! そして、しゃぼん玉が吹かれたかのように、無数の泡の大群がゴーレムを襲う!! ギギギ、と音を立てて、ゴーレムはとりついて来た泡に呑まれ、視界が悪くなり停止。 「そら、そこだ!!」 マニフィカの背後からリシェルが飛び出し、オーブから「ゴーレムパンチ」の一撃を放つ! アッパーの構えをしたリシェルの拳は、そのままゴーレムの拳となり、標的の腹部を思い切り弾き上げた! やがて、「バブルミスト」が晴れ……。 ゴーレムは自分の足元にいるリシェルを高速の「ゴーレムパンチ」で反撃! しかし、敵が上空からのパンチを繰り出すと同時に、大地の魔術師も下方からアッパーでカウンターを狙う。 リシェルのカウンターは、本家ゴーレムのパンチと拳がかち合い、相殺。 下方にいた魔術師は衝撃で地面に叩き付けられ、上方から攻めた巨人は反動でひっくり返った。 (ふう、危ねえ……。だが……やれる!!) 起き上がったゴーレムは、今度こそ仕留めるつもりでリシェルに拳の一撃を振り落とした! 一方、立ちあがったリシェルの方も、次で撃破するつもりで、「ゴーレムパンチ」の正拳突きをお見舞いだ! (へっ……。実は、今のは様子見だったんだ……。同じ技で力が五分であるなら……こいつで!!) リシェルの胸元で、「聖アスラバッジ」がキラリと光った。 魔術系スキル×2倍の効力が発動!! 「くらえええええええええええ! 2倍のゴーレム、パアアアアアアアアアアアンチ!!」 倍数を高めた大地の拳を放ち、大空に向かって叫ぶリシェル……。 本家ゴーレムは、大地の魔術師の拳に弾き飛ばされ、体の一部が破壊されて行く……。 そして、今受けた攻撃の損傷で魔力の動力源が切れたゴーレムは、停止してしまったのだ! (よっしゃあ! 俺たちの勝ちだ……) (やりましわたね、リシェルさん! おめでとうございます!!) 勝利を確信し、汗を拭いながらほっとしているリシェルとマニフィカの元へ……。 ギギギ、という機械音と共に、「ゴーレムパンチ」の一撃が降って来た。 (え? マジかよ!? たった今、倒しただろう!?) とっさの判断で、リシェルは、「グランドクロス」を発動。 鉄壁の土の防壁は、ぎりぎりのところで攻撃を弾いた。 *** 何かがおかしい、と周囲を見渡すリシェルとマニフィカの横で……。 まるで魔牛に呪われたかのような勢いであちらこちらを飛び回っているコーテスがいた。 そのコーテスを追い回して、めちゃくちゃに動き回り、破壊活動をしているゴーレムの姿があった。 一方、スノウは身動きが取れないものの、タクトを振り回して通常の魔術攻撃を巨人に仕掛けていた。 どうやら、先ほどの一撃は、風紀委員会たちが相手にしていたゴーレムかららしい。 「おい……おまえら……これは、一体、全体!?」 焦るリシェルのところへ、スノウが駆け寄ってきた。 「アクシデントよ! コーテスの魔術書が暴走したの! 早く彼を止めないと!!」 暴れ回るコーテスとゴーレムの様子を察したジニアスとラサも駆け寄ってきた。 「まずいなこれ……。係の人に連絡を!! ひとまず演習を中止して、ゴーレムは消した方がいい!!」 ジニアスの判断は冷静で正しい。 自分が行く、と言い出して、彼は出入口の連絡機械のところまで走って行った。 「コーテスさんは……わたくしが仕留めますわ!!」 マニフィカは、『魔導動物概論』(魔牛編)をひもとき、高速度でぱらぱらとページをめくり発光させる……。 すると、背後からモガモガオックスの霊体がマニフィカに乗り移り、魔術が発動!! 「おい、マニフィカ……! コーテスをどうすると!?」 慌てるリシェルに彼女はさらりと説明をする。 「同じ魔牛の力とスピードなら追いつけるはずですわ」 なるほど、とリシェル、ラサ、スノウは納得して頷いた。 「わかったよ、マニフィカ! ボクたちで援護するから彼を頼むね!!」 ラサも行動をけん制する必要もあるだろう、と銃を構える。 『行きますわよ、コーテスさん!! わたくしが受け止めてあげますわあああああああああああああ!!!』 『うおおおおおおおおおおおおおおお!! 僕は……牛だあああああああああああ!! 魔牛だあああああああああああああ! ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!』 こうして、15分に渡る壮大な追いかけっこをした後、コーテスの魔牛の力が切れて、彼はバタリと倒れた。 倒れたコーテスを、マニフィカが「クリアランス」で呪いを解除し、リシェルが「回復球」で治療した。なおスノウは、コーテスに「マギジスメイト」を食べさせて魔力を回復させておいた。 ひとまず、騒動は治まったようだが……。 1時間目終了後の休憩&反省会にて、コーテスがスノウとリシェルからきつく説教されたことはもはや書くまでもないことだろう……。(一方、マニフィカはコーテスをかばい、ジニアスが仲裁し、ラサはため息をついて黙って見ていた) しかし、コーテスのアクシデント以外は割と良好な感触の演習であった。 2時間目のチームでは、ジニアス・リシェル・スノウのチームと、ラサ・マニフィカ・コーテスのチームに分けて演習をすることになったのである。 G−3−3 2時間目 3人チーム(×2)で 2時間目が開始され、ゴーレム2体が闘技場のど真ん中に出現した。 まずは、ジニアス、リシェル、スノウのチームが作戦会議をする。 「では、リシェルにスノウ、改めてよろしく! さて、今回の演習だけれど……。実は前回の演習では、『ゴーレムバリア』がなかったよね。それで、今回は敵が防御体制メインで戦うようにパネルで設定して来たよ。みんなで一斉攻撃の演習をするのはどうかな?」 ジニアスの問いかけに、リシェルとスノウは特に異論がない表情で同意した。 「おう、それでいいぜ! だが俺は相変わらず、仲間の防御に気を配るな!」 「ええ、かまわないわよ、ジニアスさん! 私は攻撃魔術が得意だから、『バブルミスト』を使いつつも、通常の魔術で援護するわ!」 こうして意見がそろい、3人は行動を開始した。 ジニアスたちが走って向かって来たところで、ゴーレムは「サンドボール」を連射!! 「ええと……『ファイアボール』はこうかな!?」 紅の魔剣士の手元に火炎玉が生成。 やがて火の玉は1000℃近くに燃え上がり……。 ジニアスは、膨れ上がった熱いボールを投げつけた! 「サンドボール」の1発は、「ファイアボール」の1発で相殺! 砂の弾は炎の弾の一撃で焼きつくされた。 「なんの、これしき!!」 リシェルは、シールド魔法を前面にて盾状で展開した。 「グランドクロス」は1戦闘時に3回まで、という制限があるので、貴重な1回をむだにしないために。 もっとも、彼はシールド魔法に手慣れているので、砂の弾の一撃など軽々と弾き返せた。 「ふん、その程度!」 スノウは、タクトから、土球を生成して投げ飛ばした。 土属性の弾同士、互いにぶつかり合うと、相殺して弾け飛んだ。 ちなみに今の魔術はスノウのデフォルトの魔術である。 「サンドボール」が軽々とかわされたゴーレムは、やっきになってパンチを繰り出す。 ゴーレムがパンチを連打する直前、スノウが「バブルミスト」をお見舞いして、巨人の視界と行動を遮った。 「さあ、今よ!!」 スノウは、仲間たちに呼びかけ、タクトを握り直す。 もっとも、ゴーレムの方も、一斉攻撃に備えて、「ゴーレムバリア」を張り巡らせた。 砂の巨人が黄金に発光し、黄金色のバリアに守られて行く……。 「うおおおおおおおおおおおおおお、燃え尽きろおおおおおおおおおお!!」 ジニアスは火炎玉を生成し、連射し、ゴーレムにひたすら放射する。 「行くぜ、この野郎おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 リシェルは「ゴーレムパンチ」のマシンガンジャブを繰り広げ、拳の連打をゴーレムに浴びせる。 「地へ帰りなさい、砂の巨人よおおおおおおおおおおおお!!」 スノウはタクトから、「フレアキャノン」を詠唱し、爆発系の魔術をゴーレムに発火させ、爆撃を繰り広げた。 いかに強靭な「ゴーレムバリア」であろうとも、強度な攻撃魔術を誇る3人の合体攻撃を前にしては無力だ。 バリアの防壁ごと破壊されたゴーレムは、大爆発を起こし、砂へと戻って行った……。 (ふう……。演習終了! リシェルとスノウ、ありがとう!! 大変だったけれど、楽しい一日だったな。俺、ちょっとは強くなれたかな?) (ま、俺たちにかかればこんなもんだろう! 今後もこの調子でなんとかなりそうだな) (あの2人、なかなかやるわね。今度、風紀委員会へスカウトしてみようかしら?) こうして、ジニアスたちの組の演習は無事に終わった。 それぞれが本日の感想を胸に抱き、礼を言い、演習場を後にするのであった。 もともとが魔剣士のジニアスにシールド魔法使いのリシェル……。 今回のエル・オーブを中心とした訓練で、より一層、魔術の腕が向上したことだろう。 魔術の道の終わりはない、という教訓を胸に、2人はこれからも進んでいくのであろうか。 *** ジニアスたちの組が訓練を開始する頃……。 ラサ・マニフィカ・コーテスの組も作戦会議をしていた。 「さて……。前半は色々あったけれど、後半はどうしよう? マニフィカ、何か良い案はある?」 ラサの問いかけに、マニフィカは何かが閃いたかのように応答する。 「攻撃力テストをやりたいですわ! 実はわたくし、コーテスさんの魔牛の課題を手伝うことになっていて……」 マニフィカは、コーテスのレポートを手伝う約束をしていたことをラサに説明した。だが、魔銃士の反応は……。 「え? 魔牛って……。さっきあんな、ひどい目にあったのに……」 ちょっと気が引けているラサであった。 「ふええええん!! ラサさああああん、お願い……でえええええす!! あの本の実戦データが取れないと……僕、単位を落として……留年するかも……しれないんです!!」 これは一大事だ、とでも言わんばかりにコーテスがお願いする。 「う、そうなの……!? 単位なんたらの都合はわからないけれど……。まあ、いいよ。ボクも手伝うよ。それでさ、マニフィカ。具体的にどうするの?」 ラサの疑問に、マニフィカがさらりと返す。 「ゴーレムに防御体勢を取ってもらいますわ! わたくしとコーテスさんが魔牛の力を解放して攻めますので、ラサさんは援護をやって頂きたいかと?」 「うん……。了解!」 こうして、それぞれが陣形の位置に着いて、戦闘が開始された。 魔牛の書をひもとき、マニフィカとコーテスにモガモガオックスの霊体が降臨した。 まるでこれから闘牛の試合でも起こるかのように、2人は魔牛のごとく力が沸き大興奮! 「コーテスさん……。力の加減に気を付けて……。もう少し、肩の力を抜いて……リラックスですわ……。魔牛の霊と心を交わすように、ゆっくりと優しく……」 マニフィカの親切なアドヴァイスを受け、コーテスも扱いを彼なりに理解してみた。 「う、牛……。魔牛の霊が……僕には、見える!! う……見えるぞ、これが魔牛というものか!? 魔牛様……僕に力を……!!」 要領を得たようで、コーテスにも次第に魔牛の力が自然に宿って来た。 一方、マニフィカの方はこの手の魔術が得意なようで、既に扱いこなしているようだ。 ラサは、「飛翼靴」で空中に上昇していた。 空高く、ゴーレムの位置から20m上空で「バブルミスト」を落下させ、視界を妨害。 さらに50m以上の地点へ舞い上がり、狙撃を行うようだ……。 『それ、突撃ですわ!!』 『はい……行きます!!』 トライデントを諸手突きで構えたマニフィカは、魔牛のごとく猛スピードで直進して行った。 コーテスもマニフィカに習い、ロッドを諸手突きで構えて、同じく魔牛になって突進して行く……。 魔牛と化した魔術師たちが向かって来るところ、ゴーレムは「サンドボール」を何発も連射して撃退を試みた。だが、「バブルミスト」で視界が悪いため、ボールは明後日の方向へ飛んで行く。 しかも空中のどこかにいる猫のスナイパーが、地中へ向かって、炎の弾丸を連射して、次々と流れ弾を撃ち落としていくのだ。 やがて敵が至近距離に迫り、もはや攻撃のしようがないとわかった砂の巨人は、「ゴーレムバリア」を張り巡らせた。はたして、マニフィカたちの突撃は、黄金の防壁を打ち破ることができるのであろうか……!? 『それえええええええええええええ!! 突きですわああああああああああああ!!』 『うおおおおおおおおおおおおおお!! 僕も……やってやるぞおおおおおおおおおおおおお!!』 『ボクも援護するねえええええええええええええええええええええええ!!』 地上からは、マニフィカとコーテスが槍と杖で諸手突きの直撃を! 魔牛が吠え、牛の化け物の鋭利な角が輝き、ゴーレムを一思いに刺し殺す! 頭上からは、ラサがライフルで火炎弾を連射! 真っ赤に燃え上がる弾丸は爆撃が止むことを知らないかのようだ! いかに鉄壁の防御であろうとも、物理攻撃「特大ダメージ」と化した槍と杖の一撃、そして弱点属性である火炎弾による連続射撃を受け……。 砂の巨人は大爆発を起こして崩壊する以外、他に道はなかった……。 (やりましたわ……!! 魔牛の力ってすごいですわ!! 連携してくださったラサさんとコーテスさん、どうもありがとう!!) (よっしゃあ!! これで……実戦データが……取れた!! 単位はばっちりだ!! マニフィカさん、ラサさん、ありがとう!!) (ふう……やり遂げたね! 慣れないメンバー同士だったけれど、上出来きな連携だったね!!) 演習を無事に終わった。 3人はそれぞれの感想を抱き、お互いに礼を言って解散するのであった。 オーブの力と魔牛の力を得た人魚姫マニフィカは、今後もこの世界でどんなお転婆な冒険をして行くのであろうか。新しい水の魔術と槍の攻撃手段を得た彼女は、まさに水を得た魚状態になったことだろう。 同じく、オーブの力と新しい魔法銃という二重の武力を手にしたラサも、ますますやんちゃな冒険をして行くことだろう。フルアーマー・魔法猫少女と化したラサが、今後もマギ・ジスタンの戦場で大暴れする展開に期待されるところである。 <第2回へ続く> 注意:当シナリオの第1回と第2回に物語の連続性はありません。第2回では「技能講座」が展開されます。第2回でアイテム購入やトレーニングルームでの演習はありません。 |
【マスターより】
このたびは、当シナリオ第1回目にご参加くださりありがとうございました。今回、第1回と第2回が物語的につながっていなため、第2回とは別に、第1回の総括をお伝えしたく思い、この時点で「あとがき」の「マスターより」を掲載している次第です。 第1回において、皆さん、とてもよく訓練をこなしていました。それぞれ、ご希望の「アイテム」が3つずつ配布されていますのでご確認ください。(改造された方だけアイテムが合成版の1つのみ配布になっています)また、今回、訓練内容に鑑みて、何名かの方たちに「称号」も配布させて頂きました。それぞれの実情に即した称号となりますので、お楽しみくだされば幸いです。(称号を配布されていない方で、購買員の方たちには「お駄賃」が出ています) さて、今回、他にお伝えしたいこととして、「字数」に関することもあります。なるべく全員、1PCごとに平均3,000字で書くつもりでしたが、若干の個人差が出てしまいました。なぜなら、「アクション内容」、「トレーニングルームの使用時間(払ったマギンの値段)」、「連携アクションか否か」、の3つの違いにより字数に差が出てしまったからです。あらかじめご了承願えれば幸いです。では、よろしかったら第2回の方でもまたお会いしましょう。 |