「技能訓練@現代魔術研究所」(技能講座編)

第2回

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


A「ブルーローズ」の講座を受講する


A−1 ステップ1 青いバラを生成しよう!

A−2 ステップ2 青いバラをロープやムチとして使おう!

A−3 ステップ3 青いバラで花粉をばらまこう!

A−4 ステップ4 青いバラでバリケードを造ろう!

B「スキル・ブレイカー」の講座を受講する

B−1 ステップ1 心を無に還す訓練

B−2 ステップ2 敵のスキルの威力を半減まで削ぐ訓練

B−3 ステップ3 敵のスキルを25%の威力で反射する訓練

B−4 ステップ4 敵のスキルを完全に無効化する訓練

C「ブリンク・ファルコン」の講座を受講する

C−1 ステップ1 若者よ、走れ!

C−2 ステップ2 バッティング、ラット100本!

C−3 ステップ3 巨大体育館で大乱闘!

D「コピーイング」の講座を受講する

D−1 ステップ1 スライムになろうぜ!

D−2 ステップ2 吸血コウモリになろうぜ!

D−3 ステップ3 ゴーレムになろうぜ!

D−4 ステップ4 プチドラゴンになろうぜ!

D−5 ステップ5 俺(コピーマン先生)に思いの丈をぶつけようぜ!



A「ブルーローズ」の講座を受講する


A−1 ステップ1 青いバラを生成しよう!


 とある昼時の日の錬金術教室……。
 担当講師であるアガサ・マープル老教授は、化学式や術式を黒板に描きながら、「青いバラ」の召喚について講義をしていた。

「……と、いうわけなのよ。では、今から各自で実際に調合をしてちょうだいね。調合の材料や器具は机に置いてあるから……」

 10人の受講生たちは、元気よく返事をすると、各自、さっそく実験に取り組むのであった。

「へぇぇ……。錬金術って難しいなぁ……。でも、青いバラは楽しみねぇ〜。わたしでも青いバラを育てられるかなぁ〜?」

 実験器具をがちゃがちゃといじりだし、調合に取り掛かろうとしているのは、受講生のリュリュミア(PC0015)だ。彼女はどうやら、研究所の庭園でかいだ青いバラの美しい香りに呼び込まれ、ついに受講するまでに至ったようだ。ウェーブのロングヘアはダークグリーン、瞳の色はライトグリーン、若草色のワンピースにタンポポ色の幅広帽子……と、まるで彼女自身が植物そのもののような女性である。だからこそ、同類と思われる青いバラに関心を寄せたのであろうか。

「えぇとぉ〜。手順では、まず、この赤いバラの種をフラスコに入れてぇ〜。フラスコは、魔界と開通できる符がぁ、液体になったものだったよねぇ〜?」

 リュリュミアは、8ミリほどの赤い種をつまみ、透明な液体が入っているフラスコの中に、ぽとりと入れた。

 すると、しゅわしゅわぁぁぁ!
 炭酸が弾けた。

「そのあとぉ〜。酵素で活性化するのよねぇ〜。この試験管の液をフラスコへ入れてぇ〜」

 続けて、彼女は立てかけられていた試験管(魔界植物活性化酵素)をひょい、と持ち上げる。試験管から青い液体が、泡立っているフラスコへ注がれて……。

 ちゅどん☆

 軽くスモッグを放ち、フラスコの内部は青々とした液体になり、ぐつぐつと煮えている。

「ふぅ〜。ちょっと驚いたわねぇ〜。最後は、金粉を、ふりふりっとぉ〜」

 リュリュミアは、マッチ箱状の箱から、世界霊魂の祈りが込められているという金粉を開封し、ふりふりっと、フラスコへふりかけた。

 さて、ここまで実験が進むと……。
 フラスコの底で踊っていた赤い種がみるみると青くなって行くではないか!?

「おぉ〜、青くなってきたわよぉ!!」

 感激したリュリュミアは、ピンセットをフラスコの中へ入れて、種を取り出した。
 実験は成功したようで、赤い種は青い種に変身していた。

「おや? リュリュミアさん……だったかしら? 実験に成功したようね?」

 受講生たちの調合具合を確かめに巡回していたマープル先生がやって来た。
 リュリュミアの実験成功を嬉しく思い、にこにこしているようだ。

 そこでリュリュミア、マープル先生に特技を披露。

「普通の赤いバラは咲かせられるんですけどねぇ、ほらほらぁ〜」

 植物使いの彼女の手の平に握られていた赤い種に、ちょっとだけ「力」を注ぐだけで、種はみるみると成長し、赤いバラの花を咲かせた。

「あら? お上手ね、お嬢さん。その分だと、もしかして青いバラも咲かせられるのかしら?」

 マープル先生は意外な特技を披露されても、にこやかに応答を続ける。

「ん〜? 青いバラは無理ですねぇ〜。わたし、魔界とは通じていないので、魔界の花を呼び出すのはちょっとぉ〜。でも、この講座を受けてぇ、青いバラを咲かせられるだけでわたしは満足ですよぉ〜」

 唇に指を当てて答えるリュリュミアに、マープルは笑いかけた。

「うふふ、素敵な特技をお持ちで羨ましいわ。今日はよろしくね」

「はぁ〜い、せんせぇ〜、ありがとうございま〜すぅ!!」


A−2 ステップ2 青いバラをロープやムチとして使おう!


 ほとんどの受講生たちが実験に成功し、クラスは一度、敷地内の森林部で授業の続きをすることになった。

 森林部ではマイナスイオンが流れ、どこまで続く緑色の景色が受講生たちを出迎えてくれた。

「ううんと……。この辺かしらね? では皆さん、先ほど練成した青いバラの種をお持ちね? その種を使って蔦を出してみてくれるかしら? 今、私たちの目の前にトンネルがあるでしょう? 蔦を使って、このトンネルの下へ行くから、着いてきてほしいわ」

 マープルは、青いバラの種に軽く魔力を注ぎ込み、一気に成長させて蔦を召喚。
 蔦の先端を太い木に引っかけて、ロープと化し、しゅるしゅるとトンネルを下っていった。

 最初は戸惑っていた受講生たちであったが、先生の真似をして、各自、活動開始!

 もちろん、リュリュミアも行動に取り掛かった。

「へぇ〜。『腐食循環』のスキルなしでも青いバラって成長するのねぇ〜!? ええとぉ、魔力を注ぐってぇ!? う〜ん、それぇ〜!!」

 リュリュミアが手元で魔力を注ぐと、青いバラの種は青白く発光し、一気に加速成長!
 あっという間に蔦へと変身。

「それぇ〜!! いーはー!!」

 カウボーイみたいに、蔦をぐるぐる回して、大木にひっかけ、バラ使いの彼女は、しゅるしゅるとトンネルを降りて行くのであった。

***

 トンネルを下ると、マープル先生が光の魔術を使って、トンネル内を明るくしていた。
 そして、彼女の足元には水色のスライムがぷにょぷにょと動いていた。

「では皆さん、おそろいね? 今から、ここにいるスライム相手に蔦をムチとして使う練習をしてもらうわ。さっそくだけれど、最初にやってみたい人っていないかしら?」

 老教授が呼びかけると、リュリュミアは率先して手を挙げた。

「はぁ〜い!! やりたいでぇ〜す!! ムチの使い方ならお手の物ですぅ〜」

 特に反対する人は誰もいなかったので、彼女が第1号となった。

 植物使いの彼女は、青いバラの蔦を、右手でひゅっと伸ばし、スライム目がけて解き放った。
 すると、しゅしゅるっと、といった具合にスライムの全身を巻きつけて……。
 ムチを引き寄せた頃には、スライムが空中を高く舞い、リュリュミアが差し出した左手にぽとり、と落下。

「はい、手乗りスライムですぅ」

 おおっ!!
 と、観衆はどよめき、拍手を浴びるリュリュミアであった。
 マープル先生も満足げににこにこしていた。


A−3 ステップ3 青いバラで花粉をばらまこう!


 トンネルでのレッスンをクリアした受講生たちは、再びトンネルを上がり、森林部で講習の続きを受けることになった。

「次は、青いバラで花粉をばらまく訓練をするわね。今からラットを放つわ。ラットにやられないように、ラットを花粉症状態にするのよ。なお、ラットは倒さなくても、花粉症状態にできた時点でステップはクリアとするわ」

 マープル先生の解説後、研究所の魔術師たちが疑似生命体のラットたちを連れて来て、檻から次々と放った。

 ラットたちが、チー、チーと森林中を駆け回る!!

(わたしの花粉を飛ばした方が早いんですけどぉ、ここは我慢して頑張りますぅ〜)

 リュリュミアは、青いバラの種から再び召喚し、蔦に続々と花を咲かせた。
 開いた青い花びらは、青い粉を黙々と発生させる。

「それぇ〜!! ラットたちぃ〜!! 青いバラの花粉よぉ〜!!」

 彼女がムチをびゅんびゅんと振り回すと、花びらから放たれた青い花粉は、走り回っているラットの大群に付着。

 すると、元気に動き回っていたはずのラットたちが、くしゃん、くしゃん、と咳き込み、鼻汁を垂らして、地面をもがき始めたではないか!?

 しかも、毒まで回ったらしく、顔が真っ青になり、じたばたとうごめいている。

「ふぅ〜。大成功〜!!」(でもちょっとかわいそうねぇ〜)

 リュリュミアがステップクリアすると同時に、研究所の魔術師たちがラットたちの花粉&毒を魔術で解除してあげた。だが、この後、ラットたちはリサイクルされて、再び、同じ目に遭うのだが……。


A−4 ステップ4 青いバラでバリケードを造ろう!


 ひとまず、ステップ3が終わり、ラットたちは撤収された。
 その後、研究所員たちが今度は、ゴーレムを連れて来くるのであった。

「皆さん、とても良い出来だったわ。いよいよ最終ステップね。これがクリアできたら卒業よ。最後は、ゴーレムを放つから、ゴーレムの攻撃を青いバラのバリケードで防いでほしいわね。今回は失敗するとちょっと痛いから気を付けるのよ?」

 ゴーレムというと……。
「ゴーレムパンチ」や「サンドボール」といった強力な技能を持っているモンスターだ。
 失敗すると「ちょっと痛い」では済まされないのでは?
 と、受講生たちは疑念を抱えながらも最終ステップに臨んだ。

 さて、いよいよ戦闘シーン突入!


 リュリュミアは、青いバラの種、そして赤いバラの種を手元に取り出し、召喚開始。

「青いバラの種」の方は、覚えたての「ブルーローズ」の魔術を使い、蔦を召喚。
 蔦からは妖しくも美しい青々としたバラの花が続々と咲き誇る!

「赤いバラの種」の方は、持ち前の「腐食循環」のスキルを駆使し、蔦を発生。
 蔦からは燃える情熱のように赤々としたバラの花が次々と咲き乱れる!

 やがて急加速でみるみると成長した青いバラと赤いバラは、混在しながらも、使い手の周囲3メートルで鉄壁のバリケードを張り巡らせた。

 一方、向かって来たゴーレムの方も、上空から「ゴーレムパンチ」を勢いよく振り落とす!

「グゴゴゴォォォ!!」

「負けないわよぉ〜!!」

 ガキン!!
 砂で固められたパンチが、青と赤のバリケードに激突!!

 バリケードは破られてしまったのだろうか……。
 いや、敗れたのはゴーレムの方だ。
 砂の拳がみるみると崩れて行く……。

(ふぅ〜。危なかったわぁ〜。これなら今後も、青と赤のバリケードでぇ、魔術攻撃も物理攻撃もこんな具合に防げちゃうわねぇ〜!!)

「ブルーローズ」の講座を卒業したリュリュミア。
 錬金術仕込みの青いバラの技能も身に着け、今後も植物系技能の道をより一層、精進して行くことだろう……。


B「スキル・ブレイカー」の講座を受講する


B−1 ステップ1 心を無に還す訓練


 ここは現代魔術研究所の奥地に存在する異教の寺院……。
 マギ・ジスタン世界の中でも極東の島に位置するイースタ国家には秘教があるという。
 どうやら、この寺は東洋の秘教を元にして建立された禅寺であるらしい。

 本日、寺の本堂では、「スキル・ブレイカー」の講座を受講する者たちが、瞑想をしに集うのだが……。

 授業開始の少し前の時間に集まっていたある2人は、ばったりと出会ってしまった。

「おっ!? ええと、ジュディだったか!?」
「オウ!? ユーは、リシェル!?」

 対面したのは、シールド魔術師・リシェル・アーキス(PC0093)と怪力のスーパーレディ・ジュディ・バーガー(PC0032)であった。

 どちらも、典型的な魔術師らしくなく、リシェルは筋肉質でジュディは巨体である。だが、2人とも、それぞれ得意な魔術領域を持っている者たちだ。

「このまえはウマドラの洞窟(エリアB)で色々とありがとよ! そういや、あれ以来だな!?」

「いえいえ、ドウモドウモ。リシェルの方こそ、ナイス・ファイトだったネ! リシェルもZENに興味がアリマス!?」

「おう、まあな。相手の攻撃を無効化できるとは便利なスキルじゃねえか。覚えて損はない。得意な防御系スキルの強化を目指し、講座に参加しようと思ったわけさ。で、ジュディは?」

「ウフフ……。アメリカンはカウンターカルチャーがダイスキネ! ZENをスタディするのデスよ、ジュディは!! モアオーバー(そして)、前回の研究所のレッスンでジュディは、ガンファイターになったノデ、今回のレッスンで防御をパワーアップ、シマース!!」

 何やら、色々な事情でわくわくしているジュディ。
 あはは、そうかよ、と頭に手を置いて笑うリシェル。

 数分後、僧侶講師のウラジミール・ブレイコフが入って来て、受講生も集まり、講座が開始されるのであった。

***

「では、『スキル・ブレイカー』の講座を始めたいと思う。担当は、ブレイコフ、私だ。この講座は相手のスキルの無効化を狙うことを第一義とする。さて、さっそくだが、君たちに瞑想をしてもらう。3時間だ。3時間、何も考えず、心を無へと還してもらう。なお、3時間の瞑想に耐えられない者は失格とし、リタイアしてもらう。以上、各自、位置につけ!!」

 何やら、厳しそうな先生だ。
 受講生たちがぞろぞろと本堂で席に着き、ブレイコフは出席を取り始めた。

(ふぅ……。さっそく先生がきつそうだな……。だが、瞑想は集中力を高めるため、魔術の基本ではある。ま、いつもやっている頃をいつも通りにやるまでさ!!)

 などと、リシェルが席に着き、禅を組もうとしていたとき……。

「わお! コレが噂に聞く東洋の神秘……The ZENデスネ♪ う〜ん、マーベラス!(すてきね!)」

 ジュディは、東洋の神秘に興奮してしまったらしく、席できゃっきゃっと、はしゃいでいた。

「ならん、ならーん!! 心を無にするのだ!!」

 ブレイコフがやってきて、ジュディの肩を、警策(きょうさく)で、ぴしゃり、ぴしゃり、と叩いた。
 そこまでダメージはないのだが、いきなり叩かれたショックで、ジュディは、思わず、「アウチ!(痛い!)」と叫んでしまった。

「訓練は既に始まっている! 浮かれてはダメだ! 心を沈めよ! これはイースタのことわざだが、『心頭滅却すれば火もまた涼し』だ!!」

(心頭を滅却? フムフム……メディテーション(瞑想)で重要なのは、エンプティ・イン・マインド(心を空に)という訳ネ? アイシー(わかったわ)♪)

 ジュディは叩かれながらも、何気なくアドヴァイスしてくれたブレイコフの言葉を彼女なりに咀嚼(そしゃく)したようだ。
 一方、リシェルの方は、既に目を閉じて、集中に入っていた。

***

 そして、3時間後……。
 ブレイコフが、「止め」と合図すると、瞑想の時間は終わった。

「ふはー!! やっとフィニッシュ、ネ!! もうフットが……!!」

 ジュディは瞑想中、たまに集中力が途切れそうになり、何度か警策で叩かれてしまった。だが、警策で叩かれた痛みよりも、彼女の場合は足のしびれが強烈だったようだ。ジュディは、瞑想が終わるや否や、足をリラックスさせて、必死にさするのであった。

「ん!? 終わりか? まあ、こんなもんか?」

 一方、リシェルの方は、けろりとしている。というのも、元が熱心な魔術師であるので、3時間ぐらいの瞑想なら普通にやっていることだったのだ。現に彼、心を無にしている間は、ブレイコフに一度も警策で叩かれていなかったという。


B−2 ステップ2 敵のスキルの威力を半減まで削ぐ訓練


 さて、禅寺での瞑想が終わり、受講生たちは研究所敷地内の廃墟スペースへ連れて来られた。
 いったいこの廃墟でこれから何が行われようというのだろうか?

「では、今から本格的に訓練を始める。廃墟には、今から、サンドスネーク、ドラゴンリーフ、吸血コウモリを放つ。モンスターたちに攻撃されようが、状態異常になろうが、ひたすら耐えろ。そして、奴らの攻撃をスキル・ブレイクし、威力を半減まで削げたらこのステップは合格とする!」

 ブレイコフが、淡々と説明をした後……。
 は、なんだよ、それ!?
 といった具合に、反発する受講生たちが何人かいた。

「なお、文句がある者は、リタイアされてかまわない。この講座は今回のレッスンから死の危険性がある。言わば、やるなら死ぬ気でかかってこい、というわけだ」

 ひとまず、ざわつき出した受講生たちが静まり……。
 所員たちがモンスターたちを放ち、レッスンが始まる……。

(ちっ、わざと攻撃を喰らうってのは、性に合わねぇが……訓練なら仕方ねぇか!)

 リシェルのもとへ、サンドスネークと吸血コウモリが、同時にかかってきた!

 ガブリ!
 と、一撃をくらうところで……。

「オラァ!!」

 シールド魔法を展開し、ヘビとコウモリを吹き飛ばしてしまったではないか!?

「こら! 何をしている!!」

 慌てて、ブレイコフが止めに入って来た。
 リシェルは特に悪びれた節はなく、先生をじっと見ていた。

「今のは反則だ。シールド魔術の使用を禁止する。次、やった場合は、リタイアだ。いいな?」

「は? なんでだよ? 自分の魔術を使ったらいけねえのか? 攻撃相殺の訓練だろう?」

「うむ。飽くまで『スキル・ブレイカー』を体得するために君は今、ここにいる。そして、このレッスンは『攻撃相殺』ではなく、『攻撃を半減にする』レッスンだ。なので、レッスンを素直に受けられないなら、帰ってもらう」

 きつい一言だったが、ともかく、ここに来た理由を思い出し、しぶしぶ承諾するリシェルであった。

 こうして、禅寺にいたときのように座禅を組み、各受講生は、ヘビ、コウモリ、リーフの攻撃を続々と喰らいながらも、耐える訓練に入るのであった……。

***

 ジュディは、ひたすら攻撃を受け続けていた。
 サンドスネークに腕をかまれ、毒が回り始め……。
 吸血コウモリに首から血を吸われ、HPが削られ……。
 ドラゴンリーフの花粉が入り、くしゃみとかゆみが止まらない……。

(くぅぅ〜。ハードワークよネ! でもここは我慢ネ! タフに我慢ネ!!)

 まるで我慢比べのような展開だ。
 しかし、頑強な肉体の持ち主である彼女は、先祖伝来のフロンティア・スピリッツ(開拓者魂)を存分に発揮し、何とか持ち堪えていた。

 必死で耐えるジュディの一方、他の受講生たちは続々とリタイア。
 最初は30人いた受講生であったが、ここまでで5人が減った。

 他方、リシェルもひたすら耐えていた。
 サンドスネークの毒が足から回り、吸血コウモリが腕に吸い付き、ドラゴンリーフの花粉でひどい花粉症に悩まされていた。

 横目で他の受講生やジュディをたまにちらりと見ていたが、続々とリタイアが出て、さすがのリシェルも焦り始める。
 もちろん、ここでシールド魔法を展開しようなんてものなら、今度こそ退場なので、それはできない。

「よし、アドヴァイスをやろう。実は今、君たちが受けている攻撃は無意味だ。君たちが受けている痛覚、状態異常、すべてが世界から無だとしよう。君たちは受けている痛みの果てにあるものへと解脱(げだつ)するのだ……」

(は!? 解脱しろと!? このまま死ねと!? いや、待てよ……。そういや、最初は痛かったが、攻撃に慣れてくると段々と痛みに慣れて来たな……。そうか、神経の回路と筋肉に魔力を流せば……さらにダメージ半減のイメージ操作を固めれば……)

 リシェルは、先ほどの瞑想のときのように、集中力を高め、魔力を充実させる。
 そして、痛みの元となる箇所を中心として、神経や筋肉に魔力を回した。
 すると……。

 今まで受けていた攻撃と状態異常の痛みが……半分に!?

 同時期に、ジュディは……。

(ワッツ!? ニルバーナ(解脱)しろネ!? バット、ハウ?(しかし、どうやって?)まだまだ理解が至りマセンが……『リメンバー・ニューアラモ』ネ!! 故郷のニューアラモ直伝の、ど根性ヨ!!)

 ジュディは、筋力を膨張させ、スーパーマンのごとく怪力で、敵の攻撃と状態異常を跳ね返した。根性の一撃が肉体の限界を超えた瞬間であった!
 どうやら、ジュディの方も、敵の攻撃を半減まで削ぐことに成功したようだ……。

 そんなリシェルとジュディのもとへ、ブレイコフがのそのそとやって来た。

「うむ。リシェルとジュディは合格。また明日も訓練に来なさい。では、他の者は引き続き、攻撃が半減できるまで取り組むこと。リタイアする者は、手を挙げろ!!」


B−3 ステップ3 敵のスキルを25%の威力で反射する訓練


 翌日の朝……。
 研究所の廃墟スペースで、「スキル・ブレイカー」の訓練が再び開始された。
 受講生は30人で開始したが、今では15人と半減していた。

「ふむ。集まったのはこれで全員か。昨日のレッスンぐらいでこれだけ減るとは情けない。さて、それはそうと。今日は、敵のスキルを25%の威力で反射する訓練を行う。今から、所員の魔術師たちが魔術を放つので、それを君たちは受けること。ただ受けるだけでなく、反射するように!」

 昨日の厳しい試練を経て、もはや指示に反論する者は誰もいなかった。
 研究所の魔術師たちが登場し、受講生は皆、黙々と定位置についた。

(さて、本日はどうしたものか……。魔術をわざと受けるわけだが、失敗したときのことを考えるとダメージが少ない方がいい……。「ウィンドボール」あたりがいいな。吹き飛ばされるだけだし)

 リシェルは、風の魔術師を指定し、さっそく訓練に入った。

「よし、行くぞ、リシェルさん! 用意はいいな?」
「おう! いつでも来てくれ!」

 風の魔術師がタクトを振り、「ウィンドボール」が発生する。
 巨大な風の弾は、リシェルめがけて猛回転で飛んでいく!

 目の前に迫る風圧のボールを前にして、リシェルは……。

「それ、そこだ!!」(イメージとしては、風の魔力の発動源の中心はこの辺りとして……)

 前面に押し出したリシェルの両手から、淡白い光が発光!
 発光と同時に、まるで鏡面反射でも起こったように「ウィンドボール」が跳ね返る。
 跳ね返った風の弾は、使役者めがけて吹っ飛んで行った。
 そして、使役者は、「スキル・ブレイカー」でかき消した。

「よし、いいぞ! その調子だ! 今のは、計測すると、15%程度での反射となる。25%になるまで続けて行くぞ!」

「おう!」

(へへ……思った通りだ……。反射のやり方は、シールド魔法と似ているんだな。相手の攻撃を「見切り」、「特性」を理解した上で、その特性を「弾く」ように魔力の盾を作れば、一通りの魔術なら反射は可能。ま、25%の威力を狙うっていうのが逆に難しいが。何なら、50%以上の反射でもできるぜ、ブレイコフさんよ!)

***

「ふうむ……。ジュディは、『ウォーターボール』にするネ! これなら当たっても水浴びぐらいで済むネ!」

 ジュディは、水の魔術師を指名し、定位置に着いた。

「行くわよ、ジュディさん、いいかしら!?」
「イエス! いつでもカモーン!!」

 だが、ジュディ、昨日と同じで「根性論」なので、対策なんてもちろんない!
 結果は、見事に、スプラッシュ!! ゴールイン!!

 水圧の弾に弾かれたジュディは後方へ吹き飛んだ。
 そして、水が弾け、びしょ濡れに……。

(ガッデム! やってしまいましたネ! バット、ワンス・アゲイン(しかし、もう1回!))

「大丈夫かしらー!?」

 水の魔術師が心配してジュディの元まで駆け寄ってきた。
 ジュディは水浸しになりながらも、すくっと、起き上がる。

「アイム・オーケー!(大丈夫よ!)もう1回、お願いシマース!!」

***

 こうして、何度も「ウォーターボール」を受けるジュディであったが、さすがに根性論では何回やっても玉砕するだけであった。

 見かねたブレイコフがアドヴァイスに来た。

「ジュディよ……。昨日の訓練を思い出せ。なぜ、禅寺で君は心を無にしたのか? なぜ、廃墟で君はモンスターから攻撃を受けても耐えられたのか? 特に今回は魔術攻撃を反射という話だ。君も魔術が使えるなら、魔術の特異点を探すことぐらいわかるな!?」

 ジュディが答えを返す間もなく、それだけ言うと、僧侶は他の受講生のところへ去って行ってしまった。
 あんぐりと口を開けていたジュディだったが……。
 何かを思い出したようだ。

(そうヨ……。それ、ヨ。ジュディはファイア、ウォーター、アイスといったマジックが使えマース。そして、マジックのマスター(師匠)が言っていマシタ。マジックは異世界の力。マジックは、ワールドを構成する特異点から発生するもの……特異点の中心部を突くと、マジックは発生も消去もデキマース……と)

「OK! もう1回、やって頂けマスカ!?」
「うん、わかったわ!」

 さて、今度こそ!!
 水の魔術師が「ウォーターボール」を放ち、ジュディは……。

 魔力の流れに気を集中させ……。
 水の魔術が構成されている特異点を探り……。
 自分も水使いなので、水の魔術が異世界から発生するときの特異点は……。

(メイビー(たぶん)、ヒア!!(ここね!!))

 ジュディは両腕を前に出して、水の弾に向かい、魔力の盾を作る。
 淡く白く輝く魔法の盾は、「ウォーターボール」を弾き飛ばす!!
 返ってきた水の弾を、魔術師は「スキル・ブレイカー」で打ち消した。

「うん、今のいいね! 測定すると……25%ぴったり!! すごい、できたじゃん!! おめでとう!!」

「いえいえ……。ミスター・ブレイコフのアドヴァイスのおかげデース!!」

 こうして、リシェルとジュディはステップ3もクリアしたのであった。


B−4 ステップ4 敵のスキルを完全に無効化する訓練


 その翌日の朝……。
 受講生たちは、再び、廃墟スペースに集められた。
 最初30人いた受講生たちも、今では10人と、1/3まで減ってしまった。

「ふむ。いよいよ本日は最後の試練だ。10人、残ったか。この中で1人だけでも卒業できる者がいれば上出来だ。ところで、本日の訓練は死ぬほど厳しい。死ぬと思ったら即座にリタイアすること。リタイアすれば命は助ける。だが、リタイアしない場合は、本気で死ぬこともあるので覚悟すること!」

 授業が開始されるや否や、「今日はマジで死ぬぞ」的な口調で受講生たちに語りかけるブレイコフ。
 さすがのリシェルとジュディも引いていた。

「では、本日の訓練だが……。私自らが、魔術を放つので、君たちはいよいよ『スキル・ブレイカー』の本質である『あらゆるスキルを一度だけ全て無効にする』という奥義を行ってもらう。もちろん、私は手加減をしない。しつこく言うが、最強クラスの魔術を放つので、耐えられない者は死ぬ前に即座にリタイアすること!!」

 さて、と周囲を見渡すブレイコフ。

「立候補者はいるか!? いない場合はランダムで順番を決める」

 そこで、魔術師風の青年、マッチョな僧侶の中年、戦士風の若い女が手を挙げた。

「ほう、良い度胸だな。では、3人とも、覚悟はいいな!?」

(あぶねえ……。勢いで手を挙げちまうところだったぜ……。最初は、様子見だ。ブレイコフさんがどんなあぶねえ魔術を持っているかわからねえから、最初に突っ込んで行くのは無謀だしな)

 と、リシェルは内心思っていた。

(ひとまず……ここは様子見ネ。前回までみたいに根性ばかりでかかっていっても、今日はマジでデッド(死ぬ)かもしれマセーン!)

 同じく、ジュディもまずは様子を伺おうと考えていた。

***

 ブレイコフは、廃墟の中心部で、呪文を唱え出した。
 最初の呪文では、火炎の大爆発を召喚する呪文を……。
 次の呪文は、神の拳を召喚する呪文を……。
 最後の呪文は、悪魔の呪いを召喚する呪文を……。


 ブレイコフが3連続魔術攻撃を放つと……。

 魔術師風の青年は、爆発系必殺魔術である「フレア・キャノン」の火薬の餌食にされた。青年は魔術の結界を張るまでもなく、猛爆撃を連続に浴びて弾け飛んだ。

 マッチョな僧侶は、神秘系必殺魔術である「ゴッド・プレッシャー」という巨大な神の拳の一撃を脳天から浴びせられて、ノックアウト。根性で持ち堪えるつもりだったが、あっけなく直撃を受けて負けた。

 戦士風の若い女は、神秘系必殺魔術である「テビルワーズ」という悪魔の呪いを受け、HPがじわじわと削られて行き……。そして、毒、麻痺、暗闇、混乱といった状態異常の中で苦しみながら、這いつくばっていた。もはや、魔術を防ぎきれるだけのタイミングすらなかったのだろう。

 こうして、最初の3人はリタイアし、即座に所員たちが医務室へと運んで行った。

「さて、次は誰だ!? 手を挙げろ! 手を挙げないとランダムで行くぞ!」

 そこで、元遺跡警備隊の筋肉質な男がそっと手を挙げる。
 同時に、アメリカン・スーパーレディも、元気よく手を挙げた。

「俺が行く!」
「ジュディがやりマース!!」

 ふはは、と不気味に笑い出すブレイコフ。

「いいだろう……。定位置で構えろ!」

 開始を促すブレイコフの前で……。
 リシェルがさりげなく質問をした。

「ひとつ質問。これから受ける魔術は選ぶことはできるのか!?」
「あ、それジュディも知りたいデース!!」

 受講生たちの質問に、僧侶は静かに答える。

「うむ。いいぞ。好きなのを選べ。さきほどの3つの必殺魔術のどれかを選ばせてやろう」

 ニヤリ、と笑うリシェル。
 彼の思惑は……。

「『デビル・ワーズ』にしてくれ!」
「ジュディは、『ゴッド・プレッシャー』!!」

「よかろう! 特と受けよ!!」

 ブレイコフは、行動開始と同時に、怪しい雰囲気の呪文をもそもそと唱え出した。
 2連続魔術攻撃が炸裂!!

 リシェルの周囲には、悪魔の呪いである真っ黒な気体が渦を巻いて取り巻いた。
 彼の身体と精神は、暗黒の気配で段々と支配されて行く……。

 一方、ジュディの上空からは、巨大な神の拳が降って来た。
 偉大なる神の裁きが、彼女の脳天へ直撃して行く……。

(ぐはぁ……。さすがにきついぜ、必殺魔術!! HPがじわじわと……。しかもなんだこれ、眼が見えねえ! 頭がくらくらする! 体が動かねえ! ぐ……毒か、舌の感覚がおかしい……)

 必殺魔術を受けるや否や、リシェルはじたばたと地面を転がり出した。
 どうやら、悪魔の呪いは彼を蝕(むしば)んでいるようだ。

(ガッデム!! さすがはゴッドのパンチ、ネ!! ヘビー、スーパーヘビー級ネ!! バット(だが)、ジュディは、負けマセーン!!)

 神の拳が振り落とされるや否や、ジュディは両腕を掲げて、巨大なパンチを受け止めた。
 しかし、拳の重さと威力は半端ではなく、スーパーレディはじりじりと押されていた。

(ちっ、なんだよ、この魔術!? HPがなくなる速度が……こんなに速いなんて!? しかも、状態異常が半端ねえから、集中して魔術を……唱えられねえ……しくじったか!? 『デビル・ワーズ』だったら、魔術の詠唱時間があると踏んだが……やべえ……そろそろ意識が……)

 やがてリシェルは転がるのを止め、ぴたりと動かなくなった。
 そして、真っ青で真っ白な表情になり、眼が虚ろだ……。
 毒の回りもひどく、突然、血を吐き出した。

(ノー!! なんてパンチなの、コレ!? ジュディの怪力が通用しないナンテ!? ジュディはどうすれば……!?)

 神の拳は、もはや怪力という域を遥か遠くまで超えていた。
 怪力自慢のはずのジュディさえ、もはや持ち堪えられない威力だ。
 やがてジュディは、地面の足場さえ圧力でえぐられ、地盤落下して行く……。

 そこで、ブレイコフが止めに入った。

「おい、君たち! リタイアしろ! リタイアなら命は助ける!!」

 2人はリタイアなんてする気は最初からなかった。
 もっとも、ダメージが深刻な2人にブレイコフの声は届かなかったが……。

「なんだよ、この講座!? こんなの普通じゃねえよ!」
「ひえええええええええええ! 助けてええええええええええええ!」
「逃げろ、ここにいたら殺されるぞおおおおおおおおおおお!」

 死を意識した受講生たちは、臆病風を吹かせて、次々とリタイアして行った。
 もはや、残るはリシェルとジュディのみであった……。

***

 ここはどこだろう?
 俺は誰だろう?

 俺の分身たちの映像が目に映った。
 ある俺は、ウマウマドラゴンの巣窟で戦っていた。
 別の俺は、赤い沙漠で植林をしていた。

 そのもっと前にいた俺は、魔剣を持つ赤い髪の青年や魔銃を持つ精神体の幼女と一緒に冒険者ギルドで働いていた。

 さらにその前は、遺跡警備隊で働いていたな……。

 ある日、遺跡で仲間を庇うために大けがをして……。

 それで、剣が使えなくなって、シールド魔術を身につけたんだったか……。

 そう、俺は、シールドの魔術師……。
 盾の魔術なら誰にも負けない……。

「いいか、リシェル? あらゆる魔術は世界に発生するときに必ず特異点を持って発生するんだ。魔術の正体は、いわば『ゼロ』という数字の概念に等しい。魔術はこの世界に『ある』ものと同時に『ない』ものだ。どんな魔術であっても構成原理の原点をゼロへ返してしまえばもはや発生することはできない。シールド魔法という魔導技術が目指すところは最終的にそこなんだよ……」

 シールド魔法の師匠の声だ……。
 そう、あれは俺がまだ師匠のもとで修行をしていた頃……。
 あのときの師匠の言葉、とても難しくて今ではすっかり忘れていたが……。

 そうか……。
 そういうことなのか……。
 見えてきたぞ。

***

 リシェルは死ぬぎりぎりのところで目を醒ました。
 どうやら、近くにいるブレイコフが、何かを耳元で言っているが、さっぱり聞こえない。
 だが、彼にはその言葉(リタイア)に耳を傾ける必要は全くなかった。
 なぜなら……。

(ち、あぶねえ。「あっち」に行ってたか……。だが……。そう、あらゆる魔術はゼロ・ポイントを持つ! 魔術はゼロ・ポイントさえ破壊されれば発生することも効果を出すことも何もできない! シールドの魔力が魔術として機能するのは、まさに魔術を無へ相殺することができるから……ならば、答えは……!?)

 リシェルの全身が眩い閃光と共にキラキラと輝いた。
 禍々しい色をしている悪魔の呪いは、まるで最初から何も存在していなかったかのように、跡形もなく無へと帰って行った。

「うむ。リシェル・アーキス、君は合格!! よくぞ境地までたどり着けた!」

 ぼろぼろになったリシェルは、グーのポーズで微笑していたが……。
 体力と魔力を使い果たし、しばしの眠りにつくのであった。

***

 ここはどこ?
 ワタシは……ジュディ?……ん、誰!?

 ジュディは、牧場にイマシタ。
 カウ、チキン、シープなんかが、楽しそうにプレイしているヨ。

 グランマがスクランブルエッグを焼いてくれて……。
 グランパがアニマルのお世話をしているヨ。

 そう、ジュディは、バーガー牧場の娘。
 今日もバーガー牧場でジュディは働くヨネ。

 トコトコ、とやって来たのは、ネイティブのシャーマンのおじいさんネ。
 あのおじいさん、ジュディたちのところへよく来るネ。

「ハロー! インディゴ!(シャーマンの名前) ハウ・ア・ユー?」

「むふふ、ジュディちゃん。私は元気だよ。今日はいいことを教えてあげよう。『今日はいい死に日和だ』って言葉を知っているかい? ネイティブ・シャーマンの世界では、死を死として受け入れ、生を生として受け入れるからこそ、一日一日を大事に生きられるのさ。この言葉は俺たちの合言葉みたいなもんだな!」

「へぇ〜。アイシー。ネイティブ・シャーマンのワールドもオク深いネ!!」

***

(ガッドブレス! デンジャラスね、ジュディ、今、「あっち」へ行っていたネ! だけれど……。思い出したワ……。ネイティブ・シャーマンのワード……。『今日はいい死に日和だ』と笑った彼。レット・イット・ビー(あるがままに)……全てを受け入れてクリアする、ソレ大切ネ! ビコーズ(なぜなら)、偉大なマスターサムライの教え『肉を切らせて骨を断つ』とイコールかもしれないデス……)

 ジュディは、「ゴッド・プレッシャー」という名の神の拳に押され、一度は、怪力が破られた。
 地盤へ落下したジュディは、地下うん十メートルまで落ち、拳に押しつぶされて死ぬ間際だったのだ。

 だが、窮地で悟りを啓いたジュディは……。

「ジュディは……。あるがままに生きる!! もう迷わない!! こんなアタック、すべてナッシング、ヨ!! ライブ&デッドの全てを受け入れたジュディのフルパワー怪力は、ゴッドも恐れるネ!!」

 怪力の限界を超え、己の限界を超え、魔術の限界を超え……。
 今まさに、ジュディは神の怪力すら破ろうとしていた……。
 ジュディが神の拳を再び押し戻し、地上へ、いや、空高くまで、巨大なパンチを投げ飛ばしたのだ!

(やったネ!! ゴッドのパンチすらナッシングにしてやったヨネ!)

***

 ジュディが、地上に這い上がる頃、周囲にはブレイコフ以外誰もいなかった。
 リシェルの安否は気にかかるものの……。
 無愛想なブレイコフが、ジュディに向かってにこりと笑った。

「ジュディ・バーガー、君を合格とする。今後も精進したまえ」

 ブレイコフの厳しい試練を卒業したジュディは、安堵から力が抜けて、その場に倒れてしまうのであった。


C「ブリンク・ファルコン」の講座を受講する


C−1 ステップ1 若者よ、走れ!


 若者たちは、ひたすらグラウンドを走っていた。
 一昔前のスポコン・アニメみたいに、胴にロープを巻き、タイヤを引きずりながら……。

「ヘイ、ユーたち、走れ、走れ!! ハヤブサになれないぞ!!」

 竹刀を振り回し、ハヤブサのマスクにプロレスラー姿で激を飛ばしているは、変●仮面ではなく……「ブリンク・ファルコン」講座の担当者・リーダー・ファルコンだ。

「ふう、ふう……。まだグラウンド5周目か……折り返し地点だね……。さあ、あと5周、がんばるぞ!!」

 50人いる受講生の先頭を走っているのは、赤髪の冒険者青年・ジニアス・ギルツ(PC0025)だ。Tシャツにジーンズ姿というラフな格好だが、元々が魔剣士なので、体力はそれなりにあるようだ。現に彼は汗をかいているが、まだまだ余裕という表情だ。

「はあ、はあ……。絶対に負けないんだからね!」

 ひとりの少女が、そう叫びながら、ジニアスの背後から猛速度で走り、追い抜いて行った。先頭交代の瞬間だ。

 今、ジニアスを追い抜いた女の子の名前は、姫柳 未来(PC0023)という。エスパー少女の女子高生であり、今日はあえて体操服でも魔法少女服でもなく、学院の超ミニスカートの制服で走っている。大人しそうな彼女だが、何気に運動は得意な学科であるようだ。

「ほっ、ほっ……。わたくしも負けてられませんわね!!」

 先頭の未来、それに続くジニアス、その後には人魚姫。マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)が黙々と走っていた。貫頭衣姿だが、二本足が生えているモードでもこなれた走りをしている。トライデントの達人なだけあり、運動はお手の物である。

 そしてトップグループよりも少し後から、受講生たちがぞろぞろと続き、ひたすらグラウンドを5、6、7周……と走り続けている。

***

 やがてグラウンド10周が終わると、受講生たちはその場から、研究所の奥地にある寺院まで走って行くことになった。寺院は、イースタ国家仕込みの異教の禅寺である。「スキル・ブレイカー」などの別のクラスが講座の場として使用している場所だ。

「ふう、ふう、ふう……!! 負けない!!」

 未来は、寺院の1000段の階段をひたすら本気で走り続けている。超ミニスカートが……と気にしている場合ではないようだ。今日の彼女は特別気合が入っている。「ブリンク・ファルコン」を体得し、より俊敏な魔法少女になるための特訓のつもりで来ているのだ。

(はあ、はあ、はあ……!! お? 寺院が見えてきたね? リシェルは元気にやっているかな!?)

 1000段の走り込みのきつさを体感しながらも、仲間がうまくやっているだろうか、と気が回るのはさすがなお人よしのジニアスだ。汗を拭いながらも、未来のスカートを見ないように気を配り、ひたすら走り続けている。

「ふう……。1000段とは……またまた求道者向けの……レッスンですこと!!」

 流派ネプチュニアの達人・マニフィカは1000段階段で疲れるどころか、逆に燃えてしまったようだ。階段を全速力で駆け上がり、「お先に失礼!」と、華麗にジニアスを追い抜いて行った。

 追い抜かれたジニアスの後は、後続の受講生たちが続けて駆け上って来た。
 ジニアスもこれ以上追い抜かれまいと、気を引き締めて、速度を上昇。
 最後尾ではファルコン先生が竹刀を振り回しながら、速度の落ちているビリグループをどついていた。

***

 寺院を抜け、受講生たちは、森林部へ出る。
 森林部では「ブルーローズ」講座の人たちが何やら魔物相手に演習をしている最中だ。
 だが、受講生たちが走っているコースからは距離が離れているので、両者がぶつかることはない。

「にゃにゃにゃにゃ……!! 森林を抜ければ……わたしが……1番乗り!!」

 未来はそろそろ体力的に限界を感じながらも、ラストスパートを目がけて、必死に走行。どんなに苦しくてもつらくても、弱音を吐かず、泣き言を言わず、やると決めた目標に向かって全力疾走!!

「はっ、はっ、はっ……。未来さん……。わたくしも……武人として……負けるわけには!!」

 未来を追い抜いたか、未来に追い抜かれたか、といった微妙な距離で同じくトップを走るのはマニフィカだ。そろそろゴールが見えてきた時点で、人魚姫も負けずにスパートを決める。流派ネプチュニアをスピード重視へ昇華させるため、ここは師範としても負けられない!

 一方、ジニアスはトップグループから速度を落として外れ、後続の受講生グループと一緒に走っていた。

「声出してこー!」

 元気が限界にきている周囲に向かって、檄を飛ばしながら、とにかくがんばって走っていた。

(まあ、今回の講座、順位は関係ないし……。未来とマニフィカの素早い走りは十分に参考にできたから……あとはみんなでゴールできるように応援しながら俺も走ろう!!)

 なんというお人よし!
 ジニアスはトップ争いから外れて、他の受講生たちを励ましながら走っているという。

 そして、最後尾は、そろそろリタイアする受講生たちも出て来て、ファルコン先生に励まされながら走っているようであった。

***

 やがて、受講生たちはリタイアを5人出したものの、45人はステップクリアができた。
 順位は、未来とマニフィカが同時で1位、ジニアスが2位……、といった具合であった。
 未来、マニフィカ、ジニアスの3人は、重りを抱えながらひたすら長距離をスポコンのごとく走り抜けたことで、敏捷性の何たるかを体で覚えることができたようだ。


C−2 ステップ2 バッティング、ラット100本!


 そして、翌日の朝……。
 昨日のハードなマラソンに続き、本日もハードなレッスンは続く。

 受講生たちは、敷地内の森林部へ集められた。
 45人いる受講生たちが全員集まったところで、ファルコンが弟子たちとラットたちを引き連れて登場した。

「昨日は、なかなかのナイス・マラソンだったぜ、ユーたち!! 本日は、バッティングの訓練なんかしちゃうぜ! 見ての通り、ユーたちは、本日、ここにいるラット100匹と戦ってもらう! 研究所が用意した疑似生命体のラットだが、本物と同等の性能を持っているから弱くても注意が必要だぜ! さて、質問は!?」

 ファルコンが質問を促すと、ジニアスが挙手した。

「ラット100匹と戦うというのは……ここにいるみんなで力を合わせて100匹を倒す、ということですか?」

 ワハハ、と豪快にタイ●ーマスク、いや、ファルコンマスクは笑い出した。

「ノー、ノー!! 1人につき100匹!! つまり、ユーたちは、45人いるから、合計で4,500匹のラットと今から乱闘して頂くわけだぜ!! というわけで、ラットはジャンジャカ追加でどんどんここに来るぜ!! しかも仲間を呼ぶスキルなんかも持っていちゃったりなんかもするから、そこんとこよろしく!! あ、ちなみにカウントはこちらでやってやるぜ! 魔導カメラが森林部には設置されているから、100匹クリアした時点で教えるぜ!」

 受講生たちはもはや真っ青だ。
 ラットは弱いモンスターだが、数がそろえばかなりの強敵だ。
 それを1人で100匹も撃破とは……何たるハードワークだろう!

(くっ……予想以上にきつい展開だな……。だが、やるしかない!!)

 ジニアスは闘志に燃えた。

(ここで負けるわけにはいかない、わたし、ファイト!!)

 未来もめらめらと燃える。

(ラット100匹を撃破……「千人長」の称号が武者震いしますわね!)

 マニフィカも気合を入れ直した。

 やがて、ラットたちも数がそろい、受講生たちは誰もリタイアせず、それぞれが戦地に臨むのであった。

 ファルコンは、竹刀を掲げ、叫び出す。

『はい、戦闘開始だぜ!!』

 開始の合図とともに、森林部へ解き放たれたラットたちは行進をするかのように、ぞろぞろと恐ろしい数で攻め寄って来た。

 ラットの行進になだれ込んで行く者……。
 敵の強襲に敗れ、餌食になる者……。
 もはやパニックで逃げ回る者……。

 それぞれがスタートを切り、森林部は乱闘状態になった!
 大木の頂上に飛び上がったファルコンは、怪鳥のごとく奇声を上げて、絶好調のようだ。

***

(ぬおお!! さすがにすごい数だな……。倒しても倒しても次が来て、きりがない!!)

 ジニアスは、サンダーサードを振り回しながら、向かって来るラットたちをひたすら撃退していた。

 あるラットには斬撃で、別のラットには雷光弾で、ときには麻痺攻撃なども織り交ぜ、ひたすら応戦していた。

 そろそろ疲れが出始める頃、魔剣士青年の背後から……。

 ラットが前歯を輝かせかかってきたところで、カウンターの一撃で撃破!!

(ん? そういや、ラットたちって、攻撃前に特徴があるよな? 歯や牙を掲げてから飛び込んで来る習性がある……よし、それを参考にして取り入れてみよう!!)

 ジニアスの思惑とおり、攻撃開始パターンを把握されたラットたちは次々と効率よく倒されて行った。さすがにザコ敵なので、ワンパターンだ。

 一方、魔剣士がテンポよく戦っている最中、ラットに倒される者たちも続出!
 戦士系の受講生1人が倒れ、続いて2人、3人、と倒れると、ラットたちが群がり、毒牙攻撃でグサグサとトドメを刺しに来た!!

(む!? あれはやばい!! ここで倒れたら最後だ……。って、助けよう!!)

 ジニアスは倒れている受講生たちのところに駆け寄り、ラットたちを撃退。
 そこでファルコンの弟子が割り込んで来た。弟子の侍は、「ブリンク・ファルコン」のスキルを発動し、眼に止まらない剣技で、片っ端からラットをすけてくれた。

「君、今のはありがとう! だが、今は自分のことをしていなさい!!」

 それだけ言うと、弟子は高速で去って行った。

(ああ……怒られちゃったよ……。でも今の動き、参考になった!!)

 ジニアスはサンダーソードを上段に構え直した。
 そして、次々と向かって来るラットたちに、習性を見切った上で、今さっき見た弟子の連撃を真似てみた!!

「それ、『ブリンク・ファルコン』!! ハヤブサ斬り!!」

 上段から振り下した面への攻撃が1撃!
 振り落としたサンダーソードから、中段に切り替えて胴への1撃!
 2連続攻撃をジニアスは4倍速で動いて炸裂!

 ラットは一瞬にして撃退されたのだ!
 魔剣士は、覚えたての剣技を駆使し、次々と撃破を続けた。

(コツをつかんだぞ!! あと、25匹ぐらいでクリアかな……。最後まで気を抜かずにがんばるぞ!!)

 コツを把握したジニアスは、残り25匹もハヤブサのごとく倒し、ステップクリア!

***

 マニフィカは、トライデントをくるくると回転させては、突きを何度も何度も繰り出して、ひたすらラットを撃破していた。

 だが、ラットは倒しても倒しても、次から次と出て来る始末だ。
 しかも、「仲間を呼ぶ」といったスキルまで持っているので、1匹倒したところで2匹増えて、2匹倒したところで4匹増えて……とまるで地獄の連鎖状態である。

(ふう、ふう……。まだ20匹程度しか倒していないようですわ……。あと80匹もいるだなんて……一体、どうやって……!?)

 マニフィカは体勢を立て直そうとして、森林部の奥地へ向かって走り出した。
 ラットたちも人魚姫を追って、ぞろぞろと走り出す。

 ここで、マニフィカはひとつのミスを犯したかもしれない。
 森林部の木々が立ち込めている奥地というのは、死角へ来たということだ。
 ラットたちはマニフィカを囲み、四方八方からギロリとにらんでいる。
 人魚姫、まさに四面楚歌!

(ふふ……。さすがにラットは低級動物で頭が悪いですわ!! これだけの数が1カ所へ密集したということは、「あること」ができますわね!!)

 マニフィカはトライデントの柄の先端を両手で持ち替えて、ぐるぐると大回転を始める。
 やがて回転はトルネードとなり、水圧の刃が三又槍から発生し、斬撃の嵐へと変貌!

「チー!!」
「チー、チー!!」
「チチチチ、チー!!」

 形勢が逆転し、今度はラットたちが一気にピンチになった。
 流派ネプチュニアの秘儀である槍術+水術が発動した瞬間だ。
 水の刃に切り刻まれながら、50匹ほどのラットが一挙に屍と化した。

「はあ、はあ……。またつまらぬものを斬ってしまった……というやつですわね!」

 さすがに秘儀を使うと体力も魔力も消費が激しい。
 多少、息が荒くなり、人魚姫は一休みをすることにした……。

 が、ラットの増援が追加で参上!

「ふう……。懲りない魔物どもですわね!! 当講座の趣旨通り……次は連撃で行きますわ!!」

 1、2、3!
 それ、1、2、3!!

 と、マニフィカは呼吸を整えて、諸手突きの連打を決めてみた。
 1で引き、2で突き、3でまた引く。
 この動作を繰り返し、突きの連打で次々とラットたちを撃破!
 やがて攻撃パターンに慣れて来ると、今度は速度を上げて、4倍速で猛攻撃!

 マニフィカはこのまま100匹まで撃破し、どうやらコツを得たようだ……。

***

 戦闘開始と同時に、未来は魔法少女へ変身をしていた。

 緑色の旋風に包まれ、萌葱色のカチューシャ、同色のオーバーオールの超ミニスカート、白いハイソに魔馬皮のシューズ……といった、魔法少女の姿に一瞬で変身!!

 本日は格闘技編なので、両手に「魔石のナイフ」も構えて参上!

 さっそく、魔法少女を見るや否や、無礼なラットたちが飛び掛かって来た!
 魔石のナイフを逆手に構え、左右から連続攻撃!
 チー、と断末魔の悲鳴を上げたラットを撃退!

「さあ、どこからでもかかってきなさい!」(って、やつだね、これ!!)

 未来はちょうど両手に武器を持っていて、しかも小手回りが効くサイズなので、次々と連撃を出すことができた。あとは、4倍速まで至れば、このステップで要求されているスキルに到達だ!

 だが、魔法少女は、同じ動作で10匹まで倒した時点で、そろそろ飽きてきた。

(う〜ん……。もっと上手い手段はないかな? これじゃあ、らちが明かない……。ん、そうだ!?)

「エル・オーブ……ブーストォォォ・アップゥゥゥ!!」

 未来がエル・オーブの出力を上げると、萌葱色の旋風が巻き起こった。
 優しい風は未来のスカートをひらひらさせ、髪を浮かせ、彼女の全身をぐるぐる巻いた。

「行っけぇぇぇ、ストーム・ブーーーーーーーーーーーースト!!!!」

 風の出力が上がったエル・オーブからは竜巻が発生!
 未来は竜巻に乗って、両手に構えるナイフをぐるぐると回転させながら、ラットの群れに突っ込んで行く!!

 右往左往に飛び回り、跳ね上がり、くるくると回転しつつ、未来はナイフの連撃をお見舞い! 5倍速モードは伊達じゃない!!

 ラットたちは成す術もなく、次々と撃破!!

(この調子なら……100匹なんてあっという間だね!!)

 未来は、オーブの出力が切れるまで、ひたすら連続攻撃を繰り広げ……。
 やがて、100匹倒した時点で、魔法少女は、体力と魔力が切れて、連撃を終えて倒れた。

(ふう……。危ない……ぎりぎりセーフ!! 100匹倒す前に切れたらどうしようかと思ったよ!!)

 ともかく、未来は100匹撃破という目標は達成できたので、ステップクリアとなった!


C−3 ステップ3 巨大体育館で大乱闘!


 その翌日の朝……。
 いよいよ技能講座は最終日だ。

 最初は50人いたはずの受講生も昨日のラット戦で数が激減し、今では20人となった。

 本日のステップは、研究所所有の巨大体育館で乱戦をするそうだ。
 だが、人対人の戦いになるので、武器は練習用の武器が無償で貸し出されることになる。
 また、希望者には防具も練習用のものが貸し出されるのだそうだ。

 ジニアスはいつも通りの冒険者スタイルに、サンダーソードの代わりに竹刀を持ち替えて、体育館へ入って行った。

 まだ先生たちは着ていない。受講生がぽつぽつと集まっていた。
 そこに、マニフィカが入って来た。

「お、マニフィカじゃないか? おはよう! ここまでおつかれ! そして、このまえは合同演習おつかれっした!!……ん、その姿は!?」

 ジニアスが驚くのも無理はない。
 本日のマニフィカは、竹槍、鉢巻、袴、といったスタイルでのご入場だ。

「ええ、先日は合同演習で学ばせて頂きありがとうございましたわ。ふふ、そうですわよ、ジニアスさん、今日のわたくしは武人として一段と気合が入っていますわ!!」

 そもそも、と人魚武人は語り出す。

「異世界のヤーパンでは、竹槍の達人が飛空要塞を撃ち落とした伝説さえあるのです! わたくしも負けないよう精進に努めねば!」

 マニフィカに釣られて、ジニアスも明るく笑顔で返す。

「はは、そうだね、マニフィカ! 俺もハヤブサになろうと思ってさ!『世界一速い鳥であるハヤブサのごとく、まばたきをする一瞬で攻撃が終わる』っていう講座のキャッチコピーに引かれてここまで来たんだ!!」

 あはは、と朝一番に元気よく笑い合う2人だった。

 そこで、未来が体育館へ現れ、2人のもとへ歩いてきた。

「おはよう、ジニアスにマニフィカ!! わたしも最速の魔法少女目指して、今日もがんばるよ!!」

 朝から気合がばっちり入っている未来の声で、ジニアスとマニフィカはますます頼もしくなったようだ。
 ちなみに今日の未来は、最初から魔法少女衣装でやって来ている。
 戦闘開始と同時の変身の手間が省けるためだ。
 そして、「魔石のナイフ」は使えないので、竹の小刀を両手に持っている。

 さて、3人が仲良く話し始めていた頃……受講生も全員集合し、ファルコンも現れた。

「ヘイ、ユーたち!! よくぞここまで来たね! 本日は、最終段階である!! 俺様、直々が相手してやるぜ! この俺様から1本取ってみろ! 俺様の『ブリンク・ファルコン』を見切ってみろ! それが試練だ! しかも強い弟子を5人も連れてきたから、それも覚悟しろ! 弟子を倒して、俺のところまで来てみろ!!」

 どうやら、ファルコンたちは既に陣形を組んでいるようだ。
 リーダー・ファルコンが体育館1階のちょうどど真ん中にいて、まるで五芒星でも描くかのように、星の先端とも言える部分に弟子の剣客たち5人が陣取っていた。

『というわけで、さっそく戦闘開始!!』

 ついに技能講座の最終決戦のときが来た!
 受講生たちは、ファルコンめがけて、勢いよく走り出す!!

 同時に、五芒星の先端にいた弟子の2人が左右から挟み撃ちをするかのように走って来た。

「ふはは、愚か者どもめ!! ファルコン先生のところまで生きてたどり着けるとは思うなよ!!」

 まるまると肥えているが、素早い動きをするメガネの侍が掛かってきた。
 さっそく、「ブリンク・ファルコン」3連撃を放ち、ヘビーな連打で受講生を切り崩していく!

「ふふ、君たち、僕相手にどこまで出来るかな!?」

 もう一人は、小柄だが筋肉質で少年のようなロンゲ侍が斬り込んで来た。
 同じく、「ブリンク・ファルコン」3連撃を次々と炸裂し、すさまじい速さで受講生をばっさりと倒していく!

***

(くっ……。ファルコン先生も強いだろうが、弟子たちも侮れない!! 正面から突破してあの2人を倒すのは少し無理があるかな……)

 ジニアスは迂回することにした。
 守りが手薄そうな背後を狙い……。
 一度、2階へ上がり、2階から反対側の1階へ降り、1階のステージから攻めて行くことにした。
 同じ考えに至った受講生の何人かもジニアスの後に続いた。

 だが、彼が2階へ上がり、2階の体育館を潜り抜けようと走っていたら……。

「ここは行き止まりだ!!」

 2メートルの巨体はある無骨なスキンヘッドの侍が待機していた。
 おそらく、ジニアスらが2階へ駆け上がっていくところが視界に入り、急いで逆方向から追いかけて来たのだろう。

「悪いけれど……。俺も今日は負けるわけにはいかない!! いざ勝負!!」

 魔剣士青年は、竹刀を中段に構え、昨日マスターした「ブリンク・ファルコン」(30%)を発動!

 すばやい身のこなしで、4倍速の2連続攻撃がスキンヘッド侍を襲う!!

「ふん、その程度の速さか!!」

 決まった!!
 と思ったはずだったが……。

 ジニアスの2連撃は相殺され、スキンヘッドのもう1連撃のカウンターが入った!
 魔剣士青年は胴を思いっきり竹刀で斬られ、吹き飛ばされてしまう。

(ぐはぁ……。速い……。)

 だがここであきらめるわけにもいかず……。
 青年は竹刀を握り直して体勢を立て直す。

 ジニアスが一度倒されたと同時に、受講生の3人が一気に巨体侍へ掛かって行った。

「うおおおおおおおお、勝負だあああああああ!!」

 3人分の2連続攻撃が炸裂し、6連続攻撃が浴びせられるはずだったが……。

「我が師範の名の下に!! 『ブリンク・ファルコン』の下に散れ!!」

 スキンヘッドの連続攻撃は容赦がなかった。
 高確率で先手を取り、5倍速で3連続攻撃を3回繰り返した。
 たったの一瞬の攻撃だったが、反撃をクリティカルで受けた受講生たちは、一人残らず、その場で倒れてリタイアとなった。

(な、なんという速さだ!! だが……。今ので奴の攻撃がなんとなく読めたぞ!! あんなに巨大な体でマッチョな男であるものの……攻撃を繰り出すときは恐ろしく素早い……ということは、つまり……)

 体勢を直したジニアスは、突きの構えで侍に飛び込んで行った。
 侍の方も、また来たか、と冷笑し、同じく突きでカウンターに臨んだ。

(「ブリンク・ファルコン」は……一見して力任せに素早い動きをしているようだが……実は、力技じゃないんだ! 魔力の流れを使っている魔術技術なんだ!! サンダーソードを使うときと同じ要領で……竹刀に魔力を流し込み、竹刀と身体を同調させ、敏捷性を高め、集中し神経を研ぎ澄まし、最少の動きで最大の攻撃を繰り出す……)

 魔剣士ジニアスの「ブリンク・ファルコン」が炸裂!!
 まず、ジニアスの突きがスキンヘッドの繰り出すカウンターの突きと激突し、相殺!
 竹刀を振り被ったジニアスの一撃が敵の面に落ちるや否や、スキンヘッドは弾いて相殺!
 だが、3連撃目にジニアスは小手を繰り出し、敵の竹刀を弾き落とそうと狙う。
 一方で、スキンヘッドは、ジニアスの面を狙うのだが……。

 両者、5倍速の動きの中、紙一重の差でジニアスの小手が速かった!!
 スキンヘッドの竹刀は弾かれ、明後日の方向へ飛んで行ってしまった。

「勝負、ありましたね! 行かせてもらいます!」

「ふ、なかなかやりおるな、青年よ! 師匠はもっと強いぞ、がんばれ!!」

 弟子の1人を倒したジニアスは、ファルコンがいる1階へと急ぐのであった。

***

 時間を少し巻き戻そう。
 ジニアスが2階で戦闘をしていると同時期に……。
 1階では、乱戦が繰り広げられていた。

「近衛イルカ騎士団『千人長』マニフィカ・ストラサローネ、いざ参りますわ!!」

 マニフィカは、『千人長』の名誉階級が伊達ではない証を立てるかのごとく、正面で暴れている弟子2人に竹槍で斬り込んで行ったのだ!!

「ん? 僕と勝負するのかな、お姉さん!?」

 少年剣士は受講生を5人倒したところで、標的をマニフィカに切り替えた。

「がはは! 勢いがいいぞ、おまえ!!」

 デブ剣士も受講生を3人倒した直後、マニフィカに竹刀を向けた。

「流派ネプチュニアの実力、とくと見なさい!!」

 マニフィカの諸手突きは水術の属性を帯び、水色に発光しながら、水圧の連撃を発動!
「ブリンク・ファルコン」2連撃が、少年剣士を襲う!

「甘い!!」

 少年剣士は、マニフィカの槍を2連続で弾き、最後の3連撃で小手をお見舞いした。
 人魚姫は、槍を落としそうになり、一度、後退する。

 後退の直後、デブ剣士がかかってくる。
 肥えた侍の3連撃を受け、マニフィカは面、胴、小手を打たれ、さらに後退。

(くっ……。なんていう速さですの! こんな強い侍2人を一気に相手にするのは無謀でしたわね!!)

 少年剣士がトドメを刺しに来たところで……。

「とう!! 助太刀に参ったあ!!」

 空中から回転してきた未来が、小刀の2連撃、そしてキックを加えて、少年剣士に突撃!

 奇襲を受けた少年は、体勢を崩し、その場でお尻から倒れてしまった。

「君、やるね!!」

 少年剣士は笑いながら、未来へ竹刀を構えた。
 そして、「ブリンク・ファルコン」を放つ!!

(ふふ……少年よ、わたしは見切った!! 小刀は竹刀よりリーチで劣るけれど、竹刀より小回りが効くから先手が打てる!!)

 未来は彼女なりに理解した「ブリンク・ファルコン」3連続攻撃を放つ。
 素早い小手先の技術で相手の先手を上回り、5倍速で二刀流の面攻撃に、回転キック!!

(むっ……。やったかな!?)

 魔法少女の猛攻を受け、少年剣士は、一度は弾き飛ばされたものの……。
 床に着地するや否や、体勢を即座に立て直す。
 その場から「ブリンク・ファルコン」を再度放ち、未来へ向けて3連続攻撃!

 まさか相手が体勢を直してすぐにカウンター攻撃が来るとは思えず、(勝ったつもりだったので)未来は小手に3連撃を受けて、思わず小刀を1本、落としてしまった。

(まずい……。明らかに強いよ、彼……。ならば、切り札を使おう!!)

「エル・オーブ……ブースト、アップゥゥゥ!!」

 魔法少女は「ストーム・ブースト」を発動させ、5、6、7……10倍まで出力を高めた。
 そして小刀を拾い、二刀流を構え、竜巻の発動と共にいざ、突撃!!

「ふん、エル・オーブごときに負けはしない!!」

 弟子の方も、「ブリンク・ファルコン」を50%以上発動させ、(本来の講座は50%までだが相手がエル・オーブなのでちょっとだけ反則技)猛速度の勢いで突撃!!

 さて、勝敗が決まった……!?

 と、思いきや、未来のエル・オーブが大暴走☆

 出力10倍の竜巻旋風は、ハヤブサを超え、ロケットさえも超える勢いで、怒り狂った台風をすさまじく発生!!

(え? 何、これ!? コントロールがあああああああああああああ!?)

 ときに、未来の「ストーム・ブースト」はなぜ暴走したのか?
 それは、魔力10倍の消費量を未来がコントロールできないためである。
 未来はもともと魔術師タイプではなく魔力はそんなに高くない。
 そして、エル・オーブの使い方はまだ初心者。
 なので、出力調整と魔力調整が上手く行かず……。

「きゃあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 ぶん、ぶん、ぶん、ぐるん、ぐるん、ぐるん、ぎゅいいいいいいいいいいん!!!!

 まるで魔球の変化球にでもなった勢いで魔法少女が大回転☆
 少年剣士はまさかの攻撃に対応できず、体育館の果てまで飛ばされる!!
 しかも暴走が収まらず、未来は明後日の方向へ飛んで行ってしまうのであった。

***

 弟子が3人倒された。

 ひとりはジニアスが2階で。
 もうひとりは未来が1階で。
 3人目は他の受講生たちがファルコンの付近で倒してしまった。

 残り2人の弟子たちは焦っていた。

 肥えた侍は未だにマニフィカとつばぜり合いをしている。
 最後の弟子、眼帯をした細身の男は、ファルコン付近まで来た受講生たち(3人目の弟子を倒した奴ら)と戦っていた。

 そこに、ジニアスが作戦通り、2階から下りて来て、ステージに出て、ファルコンの背後へと回った。

 気が付いたファルコンは、竹刀を上段に構え、ジニアスと対峙する。

「ヘイ、ユー、ジニアス……だったか!? ここまで来たということは、俺様の弟子を倒したですか!? だが、断る!! ユーはここでデッド・エンドだぜ!」

「ファルコン先生、タマは頂きます!!」

 両者が同時に「ブリンク・ファルコン」を発動させ、突撃する最中……!!

「きゃああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 未だにエル・オーブの暴走が止まらず、大回転していた台風未来が割り込んで来た!!

「うわあああああ!!」

 ジニアスはとっさの判断で、攻撃を引いて、頭を伏せた。
 一方、ファルコンの方は何が起こったかわからない突撃で、鳩に豆鉄砲状態だ!!

 ガチコオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!

 未来の変化球の小刀の一撃が、ファルコンの脳天に直撃!!
 ファルコンは思わず頭を抱えてしゃがんでしまった。

 そして暴走が止まった直後、未来は体力・魔力を使い果たし、ばったりと倒れてしまう。

 そこで、眼帯の男が駆け寄ってきた。
 彼は竹刀を未来ののど元に向けた。

「そこまでだ!」

 起き上がったファルコンが、のそのそとやってきた。

「ヘイ、弟子! 竹刀を下げろ。それと未来、ユーは合格! 奇襲戦法も立派な作戦だ。今のは俺様が1本取られたよ。だが、その分だともう動けないだろうから、医務室へ行ってくれ。死ぬな!!」

 こうしてぐったりと動かなくなってしまった未来は、先ほどジニアスが2階で倒したマッチョな弟子に抱えられて、医務室へ連れて行かれたのであった。

「さて、ジニアスとやら。気を取り直して、もう1戦、行くぞ!!」

「望むところです、ファルコン先生!!」

***

 どうやら、差が付けられてしまったようだ。
 未来は既にファルコンから1本を取り、ジニアスは今、ファルコンと対決している。

 だが、マニフィカは……。
 肥えた剣士となかなか勝負がつかない。

(そろそろ決めないと、最後の戦いまで体力が持ちませんわね……。こちらの切り札である流派ネプチュニアの攻撃もスピードでは圧倒的に敵わない……。そもそもうちの流派は、力技が優先される海での戦闘に特化した流派ですから、端から「ブリンク・ファルコン」とは水と油でしたわね……。しかし、ここであきらめるわけには……!!)

「どうしたお嬢さん!? そろそろ限界か? 何ならリタイアしてもらってもいいぜ!」

(今までの技が通用しない……何をやっても相殺か反撃される……ならば、己の限界を超えて、120%の力でブレイクスルーをするしかないですわね……あの赤い沙漠で戦闘をした日……極限状態の暑さの中、槍術で沙漠の魔物を撃破したあのときのように……)

 マニフィカは、竹槍を頭上でフル回転させて、魔力を集中させる。
 なぜ、目の前の太った剣士は「ブリンク・ファルコン」を使うとあんなに素早く動けるのか?
 それは、魔力を集中させているから。
 通常ならば体格差で明らかに攻撃が遅い目の前の男も、魔力の流れを操っているから、あんなに速く動けるのではないか……。

 その点に思いが至ったマニフィカは、水術の魔術を発動するときのように、槍に魔力を集め、眼を閉じ、集中する……。

「ははは、懲りねえな! また水術槍かよ!!」

 あきれた弟子、もとい勘違いしている弟子は、そのまま「ブリンク・ファルコン」で突っ込んで来たのだが……。

(魔力、120%に集中完了!! 行きますわよ、「ブリンク・ファルコン」!!)

 マニフィカの動きはまるで流水を泳ぐ水龍のようだった。
 しなやかな槍の連続技が、水の魔力を帯びて、鮮やかにクリーンヒット!!
 のど、胴、面、と3打撃が決まり、弟子は後部へ弾け飛んだ。

「くっ……。やるな、あんた! いいよ、合格だ! ファルコン先生のところへ行って来い!!」

「ありがとうございましたわ! 武人として礼を言わせて頂きます。またいつか勝負しましょう!!」

***

 ジニアスとファルコンは激しいつばぜり合いをしていた。
 魔剣士青年は、先ほどのマッチョな弟子との一戦で「ブリンク・ファルコン」をマスターしたと思ったのだが、どうやら本家にはなかなか敵わない。
 本家ファルコンは、紙一重のところでジニアスを上回り、まるでレッスンをしてあげているかのごとく、ジニアスに軽い打撃の連撃を何度も浴びせるのだった。

(くっ……。力量が違い過ぎる!! さっきから何度も挑んでいるのに、1回も攻撃が当たらないなんて!!)

 じりじりと焦るジニアス……。
 そこに、槍の一撃が飛び込んで来た。

「むっ!! 来たな、槍使いのマーメイドめ!!」

 マニフィカの一撃を弾き、ファルコンは体勢を立て直す。

「ジニアスさん、助太刀しますわ!!」

「おっ、それは心強い!!」

 こうして、マニフィカとジニアスがタグを組んで、ファルコンに挑むこととなった。

 ところで、もう1人、眼帯の男も残っていたが……。
 彼がちょうど受講生たちを倒し終え、体力が尽きかけていたところ……。
 マニフィカが「ブリンク・ファルコン」で突っ込んで来て、あえなく一撃でのされてしまったのであった。

「ふはは!! 弟子を全て倒し、受講生がユーたちを除き全て倒れ、今、俺様のもとへユーたちが挑みに来たとは、実に愉快爽快!! 久々に燃える、いや、萌えるぜ、これ!!」

 リーダー・ファルコンは渾身(こんしん)の速度で掛かってきた。
 その速度は技能の50%のはずなのに、元の体力・魔力・敏捷性が半端ないので、まるで本物のハヤブサが本気の速度でびゅんびゅんと飛び回っているかのようだ。

(くっ、まずい……。本当に見えない!? 先生はどこだ!?)

 ジニアスは必死で動体視力を凝らすが、ファルコンの姿を捉えることすらできない。

(なんという速さ!! どうやってこれに1本を!!)

 マニフィカであっても、彼女の肉眼でキャッチできないほど、ハヤブサは高速度で回転していた。

「マニフィカ……。ここは無謀かもしれないけれど、一緒に攻撃をしかけよう! ここまで来られたということは、3連続攻撃と敏捷5倍のスキル(50%)までならできるね?」

「はい、ジニアスさん。同時の連続攻撃、お供しますわ!!」

 こうしてジニアスは竹刀に魔力を集中させ、必死の勢いで速度を上げ、連続攻撃に挑む。
 また、マニフィカも竹槍に水の魔力をまとわせ、水龍のごとき速度で連打撃を放つ。

 もっとも、ジニアスとマニフィカがどれだけ一生懸命に連続攻撃を繰り出しても、ハヤブサの化身と化したリーダー・ファルコンは全ての攻撃を弾いてしまう。

 だが、2人はあきらめない。
 いや、あきらめきれないのだ。
 せっかくここまできて、あと少しで技能習得が卒業のところまで来て、投げ出すことなんてできないのだ。

 だから、無謀にも、ひたすら「ブリンク・ファルコン」で連撃を繰り返す。
 どんなに攻撃が当たらなくても、どれだけ反撃で打撃を受けても、いつ終わるかわからなくても、2人は執念深く、何度も何度も攻撃を繰り広げた。

 やがて体力の限界がやってきたジニアスがふらふらとふらつきだした。
 足元がややまともではないが、それでもあきらめずに高速度で竹刀を振る。

 一方のマニフィカも魔力が尽きそうになり、速度と打撃数が落ちる。
 50%の技能が30%、10%に下がろうとも、竹槍を突くことを止めない。

(本当にまずい……。ここで終わるのか!? 次の一撃が決まらないと……俺は、俺は……!!)

(うう……危険ですわね……。まさか、負けてしまうの!? 次が最後の一撃になるかしら……)

 ジニアスとマニフィカから会心の一撃が放たれ、ファルコンへ撃ち込まれるが……。
 ファルコンはあっけなく弾いてしまった!!

「ふう……。終わりだぜ。ユーたちの負けだ……。だが、よくやったよ、ここまで、うんうん……」

 勝利を確信して余裕をこいていたファルコンだったが……。

 弾いた直後に、カウンターの連撃が決まった!
 ジニアスの竹刀は面へ。
 マニフィカの竹槍は小手へ。

 2人は、「カウンター」を「最期の一撃」にしたのである。
 執念のカウンターは、ハヤブサを捕らえたのだ!

「くっ……。ハハハ、やるぜ、ユーたち!! どちらも合格!!」

 ファルコンに一撃を浴びせた直後、ジニアスとマニフィカは床に倒れ、動かなくなってしまった。

 体育館に残っていた弟子たちが、2人を医務室へ担いで行き、こうして本日の講座は無事に終了したのであった。

 弟子たちに運ばれながらも、最後の一撃で勝利を勝ち取ったジニアスとマニフィカの寝顔は、とても満足そうに笑っていたという……。

 ちなみに後日、マニフィカはファルコンへ武人として礼を述べに行ったそうだ。その後、しっかりと稽古をつけてもらうことになるのだが、これはまた別の話。


D「コピーイング」の講座を受講する


D−1 ステップ1 スライムになろうぜ!


「おまえたち、モンスターのスキルをコピーしてーかー!? おまえたち、スライムになりてーかー!? 熱く激しく、モンスターになろうぜー!!」

 道場が開講されるや一番に、担当講師の無駄に熱い中年・マードック・コピーマンは受講生たちへ向かって怪しく叫び出した。

 30人の受講生たちも講師の突然の叫びに答え、「コピーしたーい! スライムになりたーい!」と叫び返すのであった。

(ムム!? さっそく怪しいのだ!? 広告では『あなたにも眼から怪光線が撃てる!』とあったが、どうやら本当にそういうノリのクラスであるのだなあ……)

 赤い目玉、もとい巨大目玉だけの身体をぎょっとさせながら、怪しい講座にさっそく感想を抱いているのは萬智禽・サンチェック(PC0097)だ。

「おまえらー!! さっそくだが、講座を開始するぞー!! 質問ある奴とかいるかー!? 質問あればガンガン受け付けるぞー!!」

 叫ぶコピーマン先生に3人の受講生が手を挙げた。

「よし、まずはそこのヘルメットをかぶった茶髪の女の子!!」

 挙手したうちのひとりで指名されたのは、フランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)だ。前回で魔法少女に変身を遂げたアンナだが、今日は演劇少女を目指してやって来たのだ。

「この講座って……。演劇の講座でもあるのかしら? 変身するときに雰囲気を出すため、衣装や小道具などはお借りできますの?」

 ワハハ、と豪快に笑い出すコピーマン。

「おう! もちろん、貸し出すぜ! 衣装、小道具、食材、たくさんあるぜ! 弟子たち、持ってこーい!!」

 コピーマンの弟子たちが、がらがらと衣装の乗った荷台を運んできた。別の弟子たちは、小道具や食材を手持ちで持って来てくれた。

「他は!? よし、そこの白衣で頬に傷があるあんちゃん!!」

 次に指名されたのは、魔導科学者青年の武神 鈴(PC0019)だ。どうやら今日の鈴は、伊達眼鏡ではなく、コンタクトレンズのようだ。いつもは講義をする立場だが、本日は学生たちにまざり受講中。どうやら新しい学問を修めるのもお好きなようだ。

「講座を受けるにあたり……。魔導具の持ち込みは可能か? 例えば、視覚情報の補助器材として、今、眼にはめているコンタクトレンズとサテライトンボという機械がある。もし可能であれば、使いたいのだが?」

 ガハハと、コピーマンは再び豪快に笑い出した。

「おう、いいぜ! 視覚情報の補助ぐらいなら可とする。だが、ステップ5で俺とやりあうことになるが、そんときは、武器は貸し出し用のを使ってくれよ。例えば、剣を使う奴は竹刀で、銃を使う奴はソフトエアガンな!」

 さて、先生が受講生たちを見まわすと、最後にキューピー姿の幼い人物が手を挙げていることに気が付いた。コピーマンは、彼を指で差し、質問を促した。

「受講というのは……。手下たち……ペットやカプセルモンスターも一緒にできまっか? もしできるんなら、1人2万マギンの受講料を……ええと、3匹だから、追加でもう6万マギン払うんかいな?」

 受講料の確認を取っているこの座敷童子は、ビリー・クェンデス(PC0096)という。実は彼、今日、「どうしても」というお願いを受けて、ペットである金の鶏「ランマル」、カプセルモンスターのサンドスネーク「ボーマル」、同じくお化けハイランダケの「リキマル」の3匹を連れて来てしまったのだ。

「おう……熱い質問だぜ! 仲間思いなのは良いが、結論から言うと、料金は受け取れない! というのは、ペットやカプセルモンスターは『コピーイング』を習得できないからな。だが、見学までなら良しとしよう。だから、料金は頂かない。おまえの分の受講料だけでOK!!」

 ほっ、と胸をなでおろすビリーであった。
 ところで、とコピーマンが逆に質問をする。

「そういやおまえ、ここらで見たことあるな? シルフィー隊長とよく一緒にいるよな?」

 えへへ、と少し赤くなってビリーは笑う。

「実は今日、隊長にアドヴァイスされてここに来たというのもあるねん。購買部の補欠業務が終わったんで、少しは鍛錬しなさい、とのことでな」

「あはは、そうかよ、相変わらずシルフィーはきついぜ!」
「あはは、ほんまにな!」

 世間話で盛り上がり、大笑いするコピーマンとビリーだった。

***

「っと、まあ……。質問はこれぐらいで。では、弟子たちがモンスターたちを連れて来たので、実物を見ながら真似てみようぜ! ここ、マギ・ジスタンでは、『動物磁気』という魔術の空気が流れているから、変身を心から強く願い、魔力の流れをコントロールすることで、モンスターのスキルをコピーできたりマジでできるぜ! ステップ1は、スライムになってとろけるぜ! まず俺が見本を見せよう!」

 コピーマンは、目の前の水色スライムをじっくりと観察し、体をくねらせ、にゅるにゅると踊り出した。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!! 俺は、スライム、スライム、ス・ラ・イ・ムだあああああああああああああああああああああ!!!!」

 怒涛の叫びと怪しいくねりで、コピーマンの身体はみるみるととろけていく。
 やがてぐにょぐにょになった先生は、ガハハと笑い出す。

「さあ、やってみろ、おまえら!! 心からスライムになってみろ!!」

***

「スライムですわね!? よーし、やってみましょう! わたくしは、スライム、スライム。すらいむうううううううううううううううううう!!!!」

 アンナは叫びながら、しゃがんでよちよちと歩いてみた。
 よちよち歩きをしながら、徐々に体をくねくねと曲げてみる。
 用意してもらったサンドバッグに向かって、体当たりをしてみた。
 その後、床ですりすりするかのように転がり、体を平らにぐーん、と伸ばしてみた。

「うふふ!! できましたわ! わたくしは、今、スライムですわ!!」

***

「さあ、やるで、手下たち!! ボクはスライム、スライム、スライムやでー!!」

 芸人魂に火が点いたビリーは、めらめらと燃える勢いで、スライムの真似を始めた。
 やがて、ぐちょぐちょに溶けた彼は、水たまりの沼みたいになり、ぶよぶよ動く。

 沼と化したビリーの上を、ランマル、ボーマル、リキマルが、次々と乗って来た。
 ぴちゃ、ぴちゃと、跳ねてまるで水浴びだ。

「うおおおおおおおおおおん!! なぜか、気持ちええやんけええええええええええ!!」

***

「ふむ……。視覚情報をまずは確認……」

 鈴は、特殊コンタクトとサテライトンボを使って、周辺の情報を確認。

(ええと、157・40・88・F・55・85……。160・50・70・A・58・80……。168・55・83・C・59・82……。ん!? うお、まずい!! ぶはあ!!)

 視覚情報の機能が意外にも強烈!!
 どうやら情報器具は、目の前の女受講生たちのサイズを的確にとらえてしまったようだ!
 ちなみに上記の数値と記号は、左から、身長・体重・バスト・カップ・ウェスト・ヒップだ。
 興奮した鈴は、鼻血を吹き出してしまった。

(くっ、俺としたことが!! こんなところで体力を消耗するわけにはいかない!! それよりも、今は、スライムだ……)

 スライムになろう、なろう、と観察しつつ、自我を幾分か残した割合で取り掛かるのだが、鈴はなかなかスライムになれない。

 そこにコピーマンがやって来た。

「青年よ! 変身とは変態になることに等しい!! 恥を捨て、プライドを捨て、自分を捨てろ!! 俺は、スライム、スライム、ス・ラ・イ・ムだああ!! と、心から変態になれれば、変化(へんげ)は可能だぞ!!」

(そうか、変身とは変態のことなのか!? 心から変態になれれば俺もスライムになれるのか!?)

 アドヴァイスを受け、鈴は、心を変態にするよう努めてみた。

(なあに、これも新しい学問を修得する上では必須のこと!! 俺は、す・ら・い・む、べろべろべろ〜ん、うへへぇ〜!!)

 漢・武神鈴、キャラ崩壊!!
 すべてを捨てる勢いで一心にスライムとなる!!

 鈴は見事にとろけて、ぐにょぐにょになった。
 だが、やはり恥ずかしいので、彼の自我は彼の変態を規制したようだ。

***

 さて、鈴が苦戦していた頃、同時期に思いっきり変態と化している受講生もいた。

「うへへ、ぐはは……。ぬめぬめぬめ〜!!」

 萬智禽はあっさりとスライムになり、とろけて他の受講生にまとわりついていた。
 もともと目玉だけの彼は、モンスターっぽいので、モンスターに変身するのはそんなに苦労がなかったようだ。
 そして、真面目な性格も一度、タカが外れると、あとは滑り坂を急降下中☆

「そなたを脱がして、ぬめぬめにしてやるのだああああああ!!」

「きゃあああああああああああああ!!」

 冒険者風の少女受講者にまとわりついた萬智禽は、粘液で彼女の服を溶かしていた。
 それも一気に溶かすのではなく、選択的に急所を残してどろどろと溶解。
 少女の布が一枚一枚はだけ、みるみると裸に……。

「そこ、ストオオオップ!! 展開が美少女ゲームだが、このゲーム18禁じゃないんで、そこんとこ頼むな!!」

 こうして、先生に止められて正気に戻った萬智禽は、服を溶かしてしまった女性に真っ青で謝ったそうな……。


D−2 ステップ2 吸血コウモリになろうぜ!


「さて、おまえたち、お次は吸血コウモリになるぜ! 吸血コウモリの実物を連れて来たが、ご存知のとおり、このモンスターの主なスキルは吸血攻撃だ。敵のHPを吸って、自分のHPにするっていうあのお決まりのやつな! それ今からやってみよう!」

 説明を軽く終え、コピーマンは再び、変身にとりかかる。

「うへへぇ〜!! 俺は、吸血コウモリ……血を吸う魔物……ヴァンパイアだあああああ!! ぐへへえええええええ、血をくれえええええええええええええ!!!!」

 先生はあっという間に、吸血コウモリに変身!
 翼をはやして、ばさばさと飛び上がった。

***

 アンナは衣装を借りることにした。
 ヴァンパイアの衣装である黒いマント衣装を拝借し、さっそくまとってみた。

「うん、これで気分は吸血鬼伯爵ですわね!! では、わたくしも、さっそく変身しますわ! わたくしは、吸血鬼、吸血コウモリ、血に飢えた魔物ですわああああああああああああああああ!!!!」

 アンナの口からみるみると牙が出て、背中には翼が生え、目玉が赤く発光!!
 吸血少女と化した彼女は、マントを翻して、吸血コウモリに飛び掛かった!

「ちゅう、ちゅう、ちゅうですわあああああああ!!」

 吸血少女ががぶり、と牙の一撃を吸血コウモリに浴びせ、吸血!!
 アンナは敵のHPを奪い去ることに成功!!

***

「次は吸血コウモリかいな!? 合点やで! ほな、吸血しまっせえええええええええ、ぐはは、うへへ、うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 ビリーは手をばさばさと羽ばたかせ、翼をつくり、飛び上がった。
 彼の上にはボーマルとリキマルも乗っかり、ランマルは一緒に羽ばたいた。

「ぐっ……。ボーマル、リキマル、重いやん!! そら、ええこと考えたで! 血を吸って軽くするねん!!」

 ガブリ、ガブリ、とビリーはヘビとシイタケにかぶりつく!!

「しゃああああああああああ!!」
「べろべろべえええええええ!!」

 ボーマルとリキマルはHPが吸われ、ビリーが回復☆

***

「さて、吸血コウモリになるのか……。まずは、コウモリたちの視覚情報をゲットして……」

 鈴は視覚補助コンタクトを使って、吸血コウモリの動きを観察。

(なるほど……。コウモリとは、あんなふうに羽ばたいたり、牙を光らせたりするのか……)

 そして、「変態」になるため、ぬおおおおおおおおおおおおお、うはああああああああああああ、と鈴がうめきだす。

(はあ、はあ……。俺は、コウモリ、吸血コウモリだああああああ!!)

 吸血コウモリと化した鈴は、飛び上がり、吸血コウモリを捕獲!
 さっそく血を吸い、HPをごくごくと奪う!!

(う……。血の味って……意外と美味いかも!? いかん、このまま本当の変態になってしまう!!)

 何かに目覚めを感じた鈴であった。

***

「フムン。ちょっと困ったなのだ。私は肉食をしないので、血をすするわけにはいかないのだ。だが、吸血コウモリにならないとステップがクリアできないのであるし……。ん? そうだ、いいことを思いついたのだ!!」

 ともかく、さっそく吸血コウモリになるため、怪しい叫びを上げる萬智禽であった。
 もともと牙があるので、牙はそのまま、そして目玉の両端から翼が生えて来た!

「ちゅ〜、ちゅ〜、ちゅ〜!! 美味いのだー!!」

 萬智禽は「吸血コウモリに」ではなく、「トマト」にかぶりついた。
 トマト果汁を血に見立てて、吸い出した。

 そこにコピーマンがやってくる。

「おう、それは良い判断だ! 血が苦手ならトマトを使う! 実はそのために、さっき演劇用の食材を用意していたんだぜ!!」


D−3 ステップ3 ゴーレムになろうぜ!


「さあ、いよいよゴーレムに変身してもらおう!! ゴーレムといえば、鉄壁の装甲を誇る魔物だ! 一方で、攻撃力もそこそこある。『ゴーレムパンチ』、『サンドボール』、『ゴーレムバリア』、好きな奴をやってみてくれよ!!」

 指示を出すと、コピーマンはさっそくゴーレムに変身!

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお! 鉄壁のおおおおおおおおおおお、ゴオオオオオオオオオオオオレムウウウウウウウウウウ、バリアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア、ビリビリビリイイイイイイイイイイイイイイ!!!!」

***

 アンナはゴーレムに変身するにあたり、先日の演習を思い出していた。

(「ゴーレムパンチ」という技は、大地のエル・オーブでもありましたわね。たしか、わたくしがこうやってパンチを繰り出すと、土属性の気がまとい、ゴーレムの手になって、強烈なパンチを繰り出せて、と……)

 アンナは、「ゴーレムパンチ」を思い出しながら、拳で素振りをして、感触を確かめる。

(わたくしは、ゴオオオオオオオオオオレム!! はあああああああああああ、大地の気よおおおおおおおおおおおおお、わたくしの拳に、集まりたまええええええええええええええ!!!!)

 アンナの拳がゴーレムと化した。
 付近にいる練習用のゴーレムに向かって、アンナは打撃の連打を放つ!!

「それ、それ、ジャブですわ!! マシンガン・ジャブですわよー!!」

***

「『ゴーレムパンチ』もええけれど、ボクは、『サンドボール』がええな〜!!」

 ビリーはでんぐり返しをしながら、ごろごろと転がった。

(ボクは、ボールやああああああ、、砂のボールやあああああああああ、サンドボールやでえええええええええええええ!!!!)

 ごろごろ、ついにビリーがサンドボールに変身!!
 彼がボールになったとたん、リキマルが、その上にボーマルが、さらにその上にランマルがご搭乗!

「ぬわあああああああああ!!!! 転がっているやんけえええええええええ!!!!」

 サンドボール・ビリーは、子分たち3匹によって玉乗りのボールと化してしまった!

***

「ひとまず、だ。『ゴーレムバリア』というのをやってみるか……」

 鈴はサンプルのゴーレムの視覚情報を計り、ゴーレムがバリアを張る様を観察していた。

(なるほど……。こうやるのか!?)

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、俺は、ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオレム!! 鉄壁の装甲、超合金のごとく、スー●ーロボットだああああああああああああああああ!!!!!」

 鈴の体格が巨大化し、マッチョになった。
 マッチョになった鈴は、胸を張ったポーズを決め、鉄壁の巨人に変身!!

「さあ、かかってこい!!」

 ゴーレム本家が鈴に向かって何度も打撃を浴びせるが、完成したバリアは敵の攻撃をたやすく弾いていた。

***

 萬智禽は楽しそうに、にたにたしていた。

(むふふ……。ゴーレムというのは、つまり、アレなのだ!!)

「ふああああああああああああああああああ!!!! ゴーレムなのだああああああああああああああああ!!!!」

 萬智禽が赤くなり、角がめきめきと生えて、パワーがみなぎり巨大化した。

「完成なのだ!! ゴーレムというのは、燃えるような赤さで、鹿のような角を生やし、マッチョでパワー3倍なのだあああああああああああ!! きゃおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 挙句の果てには、火炎まで吐いてしまう。

 慌ててコピーマンが走って来た。

「おい、萬智禽! それはゴーレムじゃない!! 今から変身を解くんだ! いいか、深呼吸をして、息を吸って、吐いて、スー・スー・ハー・ハー、と呼吸をしてみよう!」

 ラマーズ法みたいな呼吸法を実践しつつ、萬智禽は元の姿へと戻って行った。


D−4 ステップ4 プチドラゴンになろうぜ!


「次のステップでモンスター変化は最後だ。最後を飾るのは、やはり大物、ドラゴンだぜ! だが、プチドラゴンといった比較的弱めの奴を使うから心配はいらないぜ! さあ、おまえたち、ドラゴンになって、明日へ羽ばたき、火炎を噴き荒らすのだああああああああああ!!!!」

 指示を出し終え、コピーマン自身もドラゴン変化。
 きゃおおおおおおおおおおおおおおおおおお、と怪しい奇声を上げ、みるみると緑色の小さなドラゴンへと変身して行った。

***

 アンナは、きゃおおおおおおおおお、と叫びながら竜変化!
 身体が緑色になり、尻尾が生え、翼も生えて来た。

「ドラゴン系の得意技といえば……『ヒット&アウェイ』なんかいいですわね! さあ、本家ドラゴン、いざ勝負ですわ!!」

 竜少女アンナは、ドラゴン化して脚力と敏捷性が増した姿で、本家に向かって突っ込んで行った。

「それ、まずは一撃!!」

 アンナは素早い「クロー攻撃」の一撃をドラゴンの顔面に浴びせる!

「きゃおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 さらに敵の耳元で黄色い声を使って「咆哮」!

「きゃあああああああああああああああ!!」

 直後に、再び敵の顔面をかきむしる!

 本家ドラゴンは、アンナの連続攻撃でぶっ飛んだ。
 さて、敵が体勢を変えて反撃しようとしたそのとき……。

「ふふん、遅いですわ!!」

 ドラゴンアンナは既に戦線から離脱。

 道場の天井付近まで急飛行し、ぱたぱたと羽ばたいていた。

(ドラゴンになるって……こんなに爽快ですのね♪)

***

「最後はドラゴンかいな……。ドラゴンというと、アレやねん!!」

 きゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、と雄叫びをあげ、ビリーが変身!

 ビリーは全身が緑色になり、尻尾と翼が生え、巨大化した。

「子分たち! ボクに乗るねん! そして、飛び立つねん!」


「コケー!!」
「シャー!!」
「べろー!!」

 子分たちは、次々とビリーに搭乗!
 3匹が乗り終えたことを確認したら、ビリーは道場の窓から天空へ飛びだった。

 まだ昼頃だが、白い月が薄らと見えていた。

「みんな、あの月を目指すねん!!」

 とあるSF映画みたいに、子分たちを乗せたビリードラゴンは、月を背景にして、シルエットになって、どこまでもどこまでも飛んでいくのだった……。

 しかし、コピーマン先生は慌てて飛び出し、ビリーたちを追いかける!!

「おまえたち、気持ちはわかる!! だが、そのネタをここでやるのはちょっと無理が多すぎるぞ!!」

 いや、突っ込むのはそこじゃなくて、道場を飛び出した奴らを止めに行け、という話なんだが……。

***

 月へ行ってしまったビリーたちを鈴は手を振って見送っていた。

(達者でな、ビリー! 今まで、ありがとう!!)

「さて、先生もいなくなったので自習か? それはそうと、ドラゴンねえ……。どうしよう? とりあえず、炎でも吐くか……」

 鈴は小道具からアルコールを取り出した。
 そして、ボトルを傾け、アルコールを口に含み、ライターを手に持つ。

(それ、「ファイアブレス」だああああああああああああ!!!!)

 まるで大道芸人みたいに、鈴は、口に含んだアルコールを噴きだして、火に引火させ、炎を吐き出す!!

 道場は防炎装置もついているので、この程度の火災で燃え移ることはない。
 だが、隣で見ていた萬智禽の心には火が点いたようだ。

(ムム!? 武神殿、なかなかやるのだな!? 負けてられないのだ!! 私も参戦しよう!!)

 巨大目玉は、食材のところから、唐辛子を念力でたくさん取り出した。
 そして巨大な口のなかへ、唐辛子をしこたま貯め込み、噛み砕く!

(うおおおおおおおおおおおおお、ファイアなのだあああああああああああああ!!!!)

 辛さの勢いで、萬智禽は口の中が炎上し、ついに火炎を吐いてしまったのだ!!

 巨大目玉が火を噴く様を見受けて、今後は鈴の闘争心が燃えて来た。

「勝負だ、目玉!! きゃおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「やるのだな!? 負けないのだ! ぎゃああああああああああああああす!!」

 2人の火炎対決で、道場は火の海と化した。
 防炎装置はあったが、さすがに非常ランプが作動し、天井からスプリンクラーが水を大放出!!

 ビリーたちを捕まえて、道場に返ってきた先生は大慌てで……。

「こらああああああああああ! おまえたちいいいいいいいいいい! 何してる!!!! ストップ、ストップ、ストップ・ザ・火炎(かえええええええええええええええん)!!」


D−5 ステップ5 俺(コピーマン先生)に思いの丈をぶつけようぜ!


「……と、まあ、今まで色々あったが……。この講座もいよいよ今回のステップで最終回となる。最終回では卒業してもらうので、おまえたちは俺と直に戦ってもらう。ステップ1から4まで学んだモンスターの技能をコピーし、俺に思いの丈をぶつけてみてくれ! おっと、俺を倒そうだなんて少しでも思っちゃいけないぜ! 俺から1本でも取れたら、合格としよう! さあ、どこからでもかかってこい!!」

 ついに講座も最終回……。
 先生は、きゃおおおおおおおお、と雄叫びを上げ、ドラゴンへと変化(へんげ)した。

 プチドラゴンになったコピーマンは、さっそく飛翔し、強大な「ファイアブレス」を放ち、受講生たちに容赦のない火炎攻撃!!

 火炎に呑まれ、数名の受講生が脱落した。

「なんの、負けないのだ!! こういうときは……『ゴーレムバリア』!!」

 ゴーレム化した萬智禽は、胸(眼球)を張り、マッチョのポーズで踏ん張る。
 鉄壁の装甲で防御した巨大目玉は、「ファイアブレス」の一撃を見事に凌いだ。

「『サンドボール』やで〜!!」

 ゴーレムバリアの背後から、サンドボール・ビリーが登場!
 くるくると回転しながら、先生ドラゴンの顔面に直撃だ!

「そらあ!!」

 しかし、先生は「クロー攻撃」の一撃で、サンドボールを弾き返した。
 吹っ飛んだビリーは、道場の壁に叩き付けられる!

「うおおおおおおおおおおおお、血をくれえええええええ!!」

 吸血鬼伯爵と化した鈴は、マントを翻しながら、ゴーレム目玉をステップ台にして飛び上がり、コピーマンのもとへ飛び込む!

「きゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 紙一重の差で、先生の「咆哮」が決まった!
 受講生たちは恐怖で一歩も動けない。

「そろそろ、次の変身と行くか!?」

 先生は、ドラゴンからゴーレムへと変化(へんげ)する。
 ゴーレムの巨体になりながら、『サンドボール』をがんがん噴射!!

 超速球の魔球にクリーンヒットし、受講生たちがばたばたとリタイアだ!

(ううむ……。避けるだけで精一杯なのだ!! 逃げるのだ!!)

 萬智禽は吸血コウモリになり、ばたばたと翼をはためかせ、高速度で回避中。

 鈴はゴーレムになりバリア、ビリーはドラゴンとなって逃げ回る。

(ふふ……。このときを待っていましたわ!!)

 猛攻から身を潜めていたアンナであったが、実はタイミングを計っていたのである。

 アンナは即座にスライムへ変身して、うねうねと進む。
 向かって来る『サンドボール』もにょろにょろと回避しながら突撃!

 やがて先生の至近距離まで来たアンナは、ゴーレム先生に『アタック』攻撃!

「おらあ、『ゴーレムパンチ』だ!!」

 パンチの一撃がアンナに当たると、スライム少女はぐにゃり、ととろけた。
 そしてとろけながら、先生にまとわりつく!!

「ぬぬ!? そう来たか!!」

 コピーマンは『ゴーレムバリア』で攻撃を防ごうとするが……。
 アンナは攻撃がしたいのではなく……。

「それ、ぺろぺろですわ!!」

 コピーマンの首にまきついたスライム少女は、耳たぶを甘噛みし、ぺろぺろと舐めだす!

「ぎゃああああああああ! ぎゃはははは! うはははは、やめてくれええええええええええええ!!!!」

 必死でたじろぐゴーレム・コピーマン!!

 アンナはその場でドラゴンへ変身!!

「ぎゃあああああああああああああああああああああす!!!!」

 耳元で「咆哮」を上げ、威嚇(いかく)攻撃。
 スタン状態になったコピーマンに向かって……。

「アッパーカットで、フィニッシュですわああああああああああ!!」

 ドラゴンアンナの「クロー」アッパーがコピーマンのアゴにクリーンヒット!
 先生は、打撃の衝撃で宙に舞った。

 しかし、さすがに最強クラスの魔術師なので、空中で回転し、無事に着地。
 即座に体勢を立て直した。

「よし、アンナは合格!! はい、次!!」

 先生は、次は、スライムへ変身。
 ぬめぬめしながら、体積を広め、受講生たちを取り込む。
 先生スライムに取り込まれ、窒息死しそうになった受講生たちは、次々とリタイアして行く……。

(くっ……。しまった、不覚にも取り込まれたのだ!! だが、これはチャンスでもあるのだ!!)

 プチドラゴンへ変身した萬智禽は、その場で「ファイアブレス」を思いっきり吹いた。
 火炎放射でスライムの身体の粘液を溶かしてしまうのだ!
 もちろん、先生は大火事で大惨事!

「ふはは、萬智禽よ! おまえは合格だ! はい、次!!」

 先生は燃やされながらも不敵に笑っていた。
 いったいこの男は、不死身なのだろうか!?

 アンナと萬智禽がアガリ、焦るビリーと鈴。
 先生は吸血コウモリに変身し、鈴とビリーはスライムになった。

(おい、ビリー!! ここは協力しよう!)
(了解やで!! 合体するねん!!)

 超神合体、ビリーレンジャー!!

 がちゃこん、がちゃんこん、がちゃーん!!
 などといった派手なロボットものの効果音は響かなかったが……。

 鈴とビリーのスライムが合体して巨大化!
 さらにランマル、ボーマル、リキマルも一緒にスライムに取り込まれた!

「行くぞ、コピーマン!! 合体した俺たち、ビリーレンジャーの底力を見せてやるぜえええええええええええええ!!!!」

「いきまっせええええええええええ、ぬめぬめダブル攻撃やでええええええええええええええええ!!!!」

「な、なんだそれは!? うおおおおおおおおお!!」

 先生は羽ばたく間もなく、巨大スライムに取り込まれてしまった。
 巨大な水色のゼリーに取り込まれながらも、中でビリーと鈴が攻撃開始!
 ぐにょぐにょ、ぬめぬめとまとわりつく!
 しかも3匹の手下たちも、コンボ攻撃を炸裂!!

「ぐはあ……、はあ、はあ……。やるな、おまえたち! よし、ビリーも武神も合格!!」

 合格後、解放された先生は再び、プチドラゴンに変身。
 残りの受講生たちを相手にするため、再び暴れるのであった……。

***

 ともかく、こうしてアンナ、萬智禽、ビリー、鈴の4人は無事に「コピーイング」講座を卒業することができた。

 だが、今回の技能習得は50%までなので、その道を究め果てるまでは、まだまだ遠い。

 目指せ、変態の道!
 いや、変化(へんげ)の道!

<終わり>