ゲームマスター:夜神鉱刃
もくじ サイドA ワスプブース奮闘編 A−1 集合と事前の打ち合わせ A−1−1 集合編 A−1−2 販売編 A−1−3 裏方編 A−1−4 客寄せ編 A−2 お祭り開始 A−2−1 いよいよ開場 A−2−2 タコで客寄せ A−2−3 タコ解体ショー A−2−4 たこ焼きの王子様 A−3 それぞれの休憩時間 A−3−1 ビリーの休憩 A−3−2 ラサの休憩 A−3−3 ジニアスの休憩 A−3−4 リシェルの休憩 A−3−5 アンナの休憩 A−4 うれしい来客 A−4−1 マニフィカがブースに来客 A−4−2 ジュディがブースに来客 A−4−3 革命じいさんたちがブースに来客 A−5 最終決戦 A−5−1 閉場、いよいよ集計タイム A−5−2 ワスプブースの勝敗はいかに!? サイドB 一般客参加編 B−1 ジュディとコーテスのお祭り参加 B−2 リュリュミアのお祭り参加 B−3 マニフィカとジェニーのお祭り参加 B−4 萬智禽のお祭り参加 サイドA ワスプブース奮闘編 A−1 集合と事前の打ち合わせ A−1−1 集合編 いよいよジャンクフード祭り当日がやって来た。 今、会場は、出店側入場の午前8時前である。 出店者たちは忙しく準備に取り掛かっていた。 ワスプブースも本日は、ジャイアント・インパクト・たこ焼きで出店するため、そろそろ店の準備を始めるところだ。ちなみに、屋台の場所はワスプの店の真ん前の位置である。 「ナイトさん、おはようございます!! お? 俺たち1番乗りかな?」 「いえーい、やったね!!」 出店の簡単なテントが立っているワスプブースの出入口を冒険者青年と猫のぬいぐるみのペアが潜り抜けた。 青年の名は、ジニアス・ギルツ(PC0025)。元々は流浪の冒険者だったが、今では当ワスプのメインスタッフのひとりである。ぬいぐるみの方は、ラサ・ハイラル(PC0060)。ジニアスの相棒であり、同じく当ギルドのメンバーだ。今のところ、猫のぬいぐるみに憑依しているが、今日は別の何かにも憑依する予定だ。 「おっす! ジニアスにラサ! お早いねえ? 8時になったら点呼取るんで、それまで好きにしていていいぜい!」 テント内で簡単な準備をしているのは、ナイト・ウィング(NPC)だ。当ギルドのバーテンダー&コックだが、今日はお祭り担当の責任者というポジションである。ちなみにジニアスとラサの直属の上司でもある。 「おう、おはよう! くっ、ジニアスたちの方が早かったか!!」 軽く悪態をつきながらテントに入って来たのは、リシェル・アーキス(PC0093)だ。彼はジニアスとラサの古くからの友人であるものの、ワスプスタッフではない。本日、ジニアスからの決死のお願いとあって、わざわざ出向いてくれた「友達思いの熱い奴」だ。(報酬上乗せの取引もあったらしいが……) 「おっす、リシェルさんもおはよう! 3番乗りと言っても早い方だぜい? ま、時間まで好きにしていてくれ」 リシェルがやって来て、ジニアスとラサが周囲の簡単な準備を手伝い始めると、そこでさらに当日のメンバー3人が登場だ。 「まいど! もうかりまっか? 今日はもうけるで! おはようさんやで!」 どこからかわいてきた座敷童子が突然、テントの中に現れた。 彼は、ビリー・クェンデス(PC0096)。キューピー姿の幸せを招く妖精。 本日は、ワスプをハッピーな結末に導くためにやって来た。 (実際は、ソウルフードのたこ焼きをガツガツ行くでい! という本心もあるが) 「ボンマタン!(おはようございますわ!) 皆さん、お早いですわね?」 大通りからテントの方へとことことやって来たのは、フランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)だ。時間通りに到着したはずだが、みんながいつもりより早くて少し驚いていた。本日、アンナは引き続き、ワスプでアルバイトをさせてもらうことになっている。捕って来たタコをお客さんたちが直に食べるところを見たいらしい。 「おはようございます! わわ、時間通りとは言え、スタッフの僕が最後の方に来てすみません……」 アンナのすぐ後に現れたのは、ワスプのバイト少年のティム・バトン(NPC)だ。ティムも本日、ナイトを補佐し、お祭りを手伝うため、ブース入りをしたのである。今日は客寄せの指揮をするらしい。 その後、ブースを手伝ってくれる他のワスプスタッフたち(要するにモブのNPCたち)もぞろぞろとやって来た。これで、本日、ブースでたこ焼きを売るスタッフ全員がそろった。全員がそろうと、ビーハイブ厨房長が、こほん、とせきをして、ナイトに号令を促した。 「よっしゃあ、全員そろったぜい! では、さっそく、各自、担当箇所に分かれて、準備を始めるぜい!! あ、そうそう、ワスプのハチさんエプロンは、今日は全員、ガチで着用だぜい!」 こうして、ナイトの号令と共に、ワスプのエプロンをメンバー全員が着用し、それぞれの担当箇所へ散って行くのであった。 A−1−2 販売編 本日の販売担当は、リシェル、アンナ、他ワスプスタッフ3名である。 このチームは、さっそく、本日の販売方針などについて話し合うのであった。 「お、そうだ。忘れねえうちにみんなに渡したい物があるんだ。昨日、売り上げ計算用の簡単なチェックシートを作ってきたんだ。これだけれどな……。こっちに販売個数を記入して、その隣には、売れた金額を記入して……販売個数と売り上げた金額に誤差が出ないようにするためのシートなんだ。ま、お金を扱うので慎重にやらねえとな!」 リシェルは、人数分のチェックシートを持って来ていたので、自身の分の他、アンナや他のスタッフたちにも分けてあげた。 「わ、これは便利ですわね、メルシー(ありがとうですわ)! そうそう、わたくしの方からもありましてよ。お釣りの準備も必要でなくて? ブース内に置く小さな金庫をちゃんと用意して来ましたわ。今朝、中の細かいお釣りを銀行で両替して来ましたの!」 シートを受け取り、礼を言ったアンナは、手提げから小型金庫を取り出した。会計の準備に取り掛かろうというわけだ。ちなみにこの金庫は、昨日、ワスプから借りてきたもので、アンナの私物ではない。また両替のお金もワスプから立て替えてもらっていた。 「おう、ありがとな、アンナ! さて、販売の指針だが、『明るく爽やかにこやかに!』という方向性で行こう、と昨日、ジニアスとも相談していたんだが……。どうかな?」 他のスタッフ3人は、アンナから金庫を受け取り、軽く礼を言ってくれた。 リシェルの方針にも異論はないので、今日はその方向性で行くことにした。 「あとは……。あら、いけないわ! わたくし、単純なことを見逃すところでしたわ! ブースのお掃除ですわよ! 屋台を磨くことや、テントにほころびがあったら修繕するなど、さっそくやりたいですわね!」 キレイ好き令嬢は、大事なことを思い出したかのように、手をぽん、と打って声をあげた。 「そうだな! 裏方の奴らが今頃、屋台関係の設置は終えた頃だろうから……。俺たちも開店前まで掃除を手伝ってやろうぜ!」 リシェルもアンナに異論はなく、掃除を一緒に手伝うことにした。 他のスタッフ3人も同じく、掃除に取り掛かるのであった。 A−1−3 裏方編 本日の裏方スタッフは、ビーハイブ厨房長、ジニアス、ビリー、他ワスプフタッフ3名である。 しかし、厨房長は、他のブース店にあいさつ回りをすることや、本店の方の様子もときおり見に行くので、屋台には積極的に参加ができないらしい。 なので、当店スタッフでもあるジニアスに裏方の指揮を任せていた。 裏方チームは、さっそく、屋台テントの中身を造り上げて行くのだった。 ジニアスも職業柄、こういった設置は慣れたものである。たこ焼きを焼く為に使う器材から、素材の準備などテキパキと仕事に取り組んでいた。 「タコ、取ってきまーす!!」 ジニアスは巨大な台車をがらがらと引いて、ワスプ店の裏倉庫までやって来た。 この倉庫には、あのジャイアント・インパクト・タコが冷凍保存魔法で保管されているのだ。 今思えば、かなり苦労した漁ではあったが、本日はきっと大活躍してくれることだろう。 魔剣士青年は、ソードではなく、出刃包丁を取り出して、大タコの足を1本、すぱりと斬り抜いた。 全長20mのタコなので、足1本だけでも、10メートルはあるだろう。 10メートルのまま運ぶことはできないので、ここでまた切り分けて行くことにした。 だが、今、全て解体するわけではない。 なぜならば、今日、ジニアスは……。 (ふふ……。タコの解体ショー、楽しみだ! ワクワクしてきたぞ!) *** ジニアスがタコの調達をしていた頃……。 ビリーは素材の準備を手伝っていた。 屋台のテント内では、ちょうど「調理」グループのナイト率いる他スタッフ2名もいた。 調理グループは、たこ焼き器の調整をしているところだった。 「ナイトさん……。良いアイデアがあるで……」 「ん? なんだい、ビリー君?」 ビリーはたこ焼きが大好きだ。大好きゆえに、本日、ワスプで売る予定のジャイアント・インパクト・たこ焼きをもう一工夫、美味くできないかどうか思い悩んでいたのだ。 「たこ焼き作る際に……。薄力粉を溶く段階あるわな? そこでな、昆布と鰹節(かつおぶし)の一番出汁を使いたいねん。でも、今から、一番出汁、間に合うかいな?」 ビリーの提案に、ナイトはキラリと笑った。 「おう、いいですぜい! さっそくスタッフのひとりにやらせやしょう! な〜に、厨房にはちょっとした魔法のキッチンアイテムもあるんで、間に合うぜい!」 ほっと、胸をなでお下ろすビリー。 そこで、もう1点、提案を追加する。 「卵を溶く段階あるわな? そこでだけれど……。卵の他、ツナギとして、すりおろした山芋も入れたらどうかいな? 昆布に鰹節、山芋、とくれば、だいぶオオサカの本場の味に近づくと思うねん! 味の方もグンと良くなるで!」 「なるほど……。オオサカねえ……。俺も昔、オオサカという異世界に旅行したとき、あっちのたこ焼き食いやしたぜい! うめかったなあ……。いいねえ、ぜひそうしようかい?」 ナイトはさらに別のスタッフに指示を出して、山芋のすりおろしを依頼した。 ひとまず、たこ焼きを試しに作ってみることにした。 ちょうど、ジニアスがタコの足を台車に入れて、引いて帰ってきたところでもあった。 *** じゅわじゅわじゅわ……。 ジャイアント・インパクト・たこ焼きが調理中の器いっぱいに盛大に焼き上がる。 ビリーの案も加わり、本場のソウルフードが香ばしい匂いを醸し出している。 たこ焼きの匂いに釣られて、屋台をピカピカに掃除していたアンナとリシェルもやって来た。 ナイトは、たこ焼き返しをくるりと高速で翻し、次々とたこ焼きを完成させて行く。 プラスチックの皿に盛られた6個のタコ焼き(1人前)が出来上がった。 さっそく、その場にいるスタッフ全員で食べてみることにした。 「アンナちゃんやリシェルさんもどうですかい? これが今日、自分たちが販売する現物ですぜい!」 アンナとリシェルも一度、掃除を切り上げて、ナイトからたこ焼きを1串もらった。 「そうですわね! 実はたこ焼きって食べ慣れていないので、あのヌメヌメのタコが本当に美味しいかどうか一概に信じられないものですが……。でも、試し焼きのたこ焼きを味見させてもらえば、自信を持って販売できますし、昼過ぎまでお腹も持ちますわね!」 「おう、俺もひとつ頂くぜ! どんな味のブツを売るのか、気になるしな!」 販売係にとってもたこ焼きの味の確認は大事である。 なぜなら、本日、1日かけて売る商品であるのだから、自分たちが売る品物の味と価値を理解していないといけないからだ。 「はふはふ……。まあ……。これぞ、トレビアン! 口の中でタコが踊っていますわ!!」 「ふうふう……。おう……こりゃあ、インパクトが、がつりと、しびれる味だぜ!」 たこ焼きに感動している販売係たちに続いて、ビリーとジニアスもパクりと試食する。 「はふはふ、ふう……。むむ……。ええやん、これ!! 本場、オオサカや! タコもええけれど、オオサカ風に味付けされていけるねん!!」 「ふう、ふう、ふはあ……。うん……絶好調の味だ! 通常のたこ焼きに比べて、やっぱりタコが格段に……違う!! なんというか……食べると口の中で爆発しそうな勢いの味だね!!」 ビリーとジニアスも同じくご満足だ。 4人は、ナイトからもらった1串に刺さっているたこ焼きを大事にはふはふと食べ切った。 実際、ナイト自身も試食してみた。 これは……これは、行ける!! 今日は、勝てる!! と、キラリと笑うのであった。 A−1−4 客寄せ編 販売チームや裏方チームが準備仕事を開始している頃……。 客寄せチームは、ワスプ倉庫の前に来て、コスプレ衣装を拝借していた。 このチームには、ティムとラサがいる。他3名のワスプスタッフも一緒だ。 本日、彼らのやることは、コスプレをしながら、屋台前でお客さんを引き寄せて、販売につなげることである。 「ええと、では、皆さん……。今から、全員でコスプレ衣装を着ましょう! 基本的には、大タコの真似をして、販売に貢献しましょう!」 ティムが軽く指揮を伝えると、それぞれがタコの衣装に着替え始めた。 ちなみにコスプレの倉庫は大きく、倉庫内には着替えのボックスも入っている。 (さすがに男子スタッフと女子スタッフは同じ場では着替えない) 「うん、タコね、タコ!! ボクは、これがいいな☆」 ラサは巨大タコの着ぐるみに憑依することにした。 現物の全長20メートルとまではいかなくても、この着ぐるみは、全長2メートルはあるだろう。 猫のぬいぐるみから離脱して、精神体のラサは、タコぐるみに即憑依! 魂がひゅるり、とタコぐるみに入り、8本の足がうねうねと動き出した。 「わーい、わーい! 大タコだー! ボクはタコだー!!」 「あはは、ラサちゃん、すごいね!!」 さっそくタコになったラサが踊っている。 ティムも手を叩いてはしゃいでいた。 他のスタッフたちもわー、わーと騒いでいる。 何を隠そう、このチームは、年少者グループで構成されている。 「ねえ、みんな! いいこと考えたんだけれど……」 ラサが閃いた名案を皆に伝える。 それは……。 じゃじゃん!! ラサ……ジャイアント・インパクト・タコの役。 ティム……タコを狩る冒険者。ナイトの役。 ジョン(モブスタッフ1)……冒険者2。ジニアスの役。 セイラ(モブスタッフ2)……冒険者3。ラサの役。 ローラ(モブスタッフ3)……ブルーカモメの役。 といった、キャスティングで演劇をするのだという。 ターゲットは主に子どもを狙うらしい。 本日、ラサのチームは、店前でたこ狩りの劇をデモストレーションするのである。 A−2 お祭り開始 A−2−1 いよいよ開場 ビリーは、アイテム袋から、『ミニチュア通天閣』をさっと、取り出した。 そして、ブースのインテリアとして、屋台の裏方にある高い位置へ設置した。 本日の商売を祈願した、運を上昇するおまじないである。 「あ、商売繁盛ぉ♪ 笹もって〜こいっ♪」 幸福を招く妖精は、ぱんぱん、と手を叩いた後、通天閣に向かって深くお辞儀をした。 *** 『本日は、聖アスラ学院地区商店街のジャンクフード祭りにお越し頂き、誠にありがとうございます。ただいまより、ゲートを開放いたします。本日は、世界各地のジャンクフードをごゆっくりお楽しみください……』 コングの鐘は、無常にも鳴り響く。 午前9時を迎え、いよいよジャンクフード祭りが開催! 花火も数発上がり、華々しいBGMと共に、ゲートが開場! 交通整理をしている警備員たちも押され気味で、我さきにと、勢いづく一般客たちがゲートへ一斉に流れ込んでくる……。 その様子を中継している放映スタッフたちがいた……。 「おお〜と、これは、すごい、すごいよお〜! ジャンクフード祭りが開始されたと同時に、一般のお客様方、マグマみたいな勢いで突撃だ〜!! さあ、わたしたち、取材スタッフも負けずに、一緒に突撃開始〜!!」 元気よくテレビ中継をしているのは、聖アスラ学院広報部のアイドル・姫柳 未来(PC0023)である。今日は聖アスラ学院高等部の制服をまとい、「広報部」と記された腕章も着けている。お馴染みの超ミニスカートも健在だ。ゲートへ突撃する猛者たちの風にびゅうびゅう吹かれながら、スカートを片手で押さえていた。 さて、いよいよゲートが一般客へ開かれ、取材班もやって来て、お祭りは盛大にスタートした! A−2−2 タコで客寄せ お祭りが本格的に開始され、ワスプブースの通りにも大勢の客がぞろぞろと歩いて来た。 どのブースも素通りされないようにするため、客引きは必死だ。 (よ〜し、ティム、そろそろボクたちの出番だ!) (うん! がんばろう!!) じゃじゃん!! ワスプブース前にコスプレ部隊が現れた。 大タコのラサ、冒険者のティム、他スタッフの子3名。 みんなで楽しく客引きを開始! 「ワスプのたこ焼きには、あのジャイアント・インパクト・タコが入ってるよ! ボクたちが現地調達してきた新鮮なタコだよー。美味しさ折り紙付き! お1ついかがですかー♪」 タコぐるみで、にょろにょろと動いているラサは、足を振りながら、必死でアピール中! 「たこ焼き、1パック1,000マギンですよー! あの伝説の珍味、ジャイアント・インパクト・タコが入っている本物のたこ焼きですよー! 他店ではなかなか食べられません! ぜひこの機会にどうぞ!」 冒険者衣装のティムも、必死に行き交う客たちに呼び掛ける。 他の3名も、冒険者衣装やカモメ衣装で、同じく、がんばって客引きしていた。 その成果もあってか、ワスプブース周辺には人だかりができて、客たちがぞろぞろと並び出した。 (ティム……。今こそ、劇を!!) 足を振って、ラサはティムに合図を送った。 (うん、やろう!!) ティムも手を振り返し、劇を開始するため、周辺の仲間たち3人を集めた。 「皆さーん!! 本日、ワスプで販売されているこのたこ焼きだけれど、どうやってジャイアント・インパクト・タコを仕入れたか、ご存知かなー!? 今からボクたちが、デモンストレーションするね!」 ラサが劇を開始する合図を客に向かって叫ぶと、周辺には子どもたちが寄って来た。 大通りは混んでいるが、それでもラサたちが寸劇をするぐらいの小スペースの円が出来上がった。 そこで、取材スタッフたちもやって来た。 「テレビの前のみんな、こんにちはー!! こちら、聖アスラ学院広報部の未来だよ! 今、取材に来ているワスプブースだけれど、なんと、販売しているたこ焼きのタコである大タコの劇をやるみたい!! さあ、注目! お茶の間のみんなも一緒に応援しよー!!」 未来は、ラサたちの劇を実況しながら、撮影スタッフたちにカメラを回させた。 広報部のアイドルの指揮により、今、ラサたちの劇はテレビ中継されている……。 *** では、アクト、開始!! 「がおおお!! ボクは大タコだー! サウザンランドの伝説の魔物だー! このシーフード海域の王様だぞー!」 ラサが8本の足をくねらせながら、くるくると回る。 「おうおう、大タコ!! おまえさんの命は今日までですぜい! 俺たちワスプがたこ焼きを作るために、死んでもらいますぜい!」 ナイトに扮したティムが、おもちゃのナイフを振り回し、ラサタコに宣告した。 「とう、サンダーソード!! シャイン・スパーク!!」 今度は、ジニアス扮したジョンが飛び出して来て、ラサタコに襲い掛かる。 おもちゃの光る剣を振り上げたところで、ジョンはタコ足にひっかかり、こけた。 「おい、ジニアス! 大丈夫? おのれー、タコめー、ボクの魔銃で倒してやるー!」 ジョンの撤退後、ラサに扮したセイラがおもちゃの銃を、ぱんぱんと撃ち放つ。 そこに手をぱたぱたさせながら、青いカモメのコスプレをしているローラが現れた。 「みゃー、みゃー、手下のブルーカモメよー! 邪魔はさせないわよー!」 ローラがコスプレのくちばしで、ラサ役のセイラを突っつき、食べる仕草をする。 「くらえ、タイダルウェーブ!!」 ラサタコが、くねくねと踊りながら、波を流す動作をする。 「うわー」(ティム=ナイトの悲鳴) 「ひえー」(ジョン=ジニアスの悲鳴) 「きゃー」(セイラ=ラサの悲鳴) 「だが、俺たちは……ワスプの明日のためにも、お客様方のためにも、負けないぜい!! 大タコと優勝は俺たちが頂くぜい!! とう、タマ、もらったー!!」 ティム=ナイトが、ナイフをラサタコに投げる。 「俺は……最強の冒険者、ジニアス!! じっちゃんの名に賭けて!! ここで負けてたまるかー!!」 ジョン=ジニアスが、サンダーソードでラサタコに斬りかかる。 「させるものかー!! カモメのストライクよー!!」 ローラ=カモメが、ぱたぱたと立ちはだかる。 「マギ・ジスタンのみんな、ボクに元気をわけてくれ!! くらえ、出力最大、ツイン・バスター・マギジック・ライフル!!」 セイラ=ラサは、魔銃をかちゃかちゃと連射し、カモメを撃ち落とし、タコに大打撃を与えた。(と、いう劇だ) 「うわー、さすがはラサだなー!! 強い、強すぎるー!! ぐわー、今日のところは、ボクの負けだー!!」 ばたり、とタコぐるみが倒れた。 敵を倒した冒険者たちは、わー、わー、と手を挙げて勝利を叫ぶ。 「以上が、ワスプ主催の寸劇、ジャイアント・インパクト・タコの劇でしたー!! 皆さん、ありがとうございましたー!」 ティムが舞台の前の良い子たちに笑顔で説明をする。 最後に拍手喝采が起こって、ひとまずハッピーエンドだ。 「みんなー、ありがとうー! このあとは、ぜひ、たこ焼き買ってってねー!!」 倒されて起き上がったタコは、足8本を振りながら、笑顔で子どもたちのラブコールに応えた。 「ママー、あれ、かってー!!」 「パパー、タコたべたいー!!」 「よし、兄ちゃんがたこ焼き買ってやるぞ!!」 「わーい、兄ちゃんあんがとー!!」 劇を観ていた子どもたちが、親や兄弟にだだをこね始め、わんやわんやと大騒ぎになる。 劇の全てを撮影し、放映していた取材スタッフの未来たちも、良い物が撮れた、と大盛況ぶりにご満悦だ。 この劇の成果もあってか、ワスプブース周辺に子どもたちがさらに集まり、屋台には行列が出来た。 ラサとティムは、手をぱちん、と合わせて大成功に絶好調! もっとも、ブース内で見ていたナイトとジニアスは苦笑いしていたのだが……。 A−2−3 タコ解体ショー たこ焼きの販売は順調だ。 さて、最初の運送で持って来ていたタコ足の残りも少なくなって来たところ……。 (ラサたちの劇も終わったし、タコもなくなりかけているし……そろそろ頃合いかな?) ジニアスは、巨大な台車をがらがら引いて、大タコが保管されている倉庫へやってきた。 出刃包丁で、すぱり、すぱり、と新しいたこ足を調達する……。 *** 「さあ、皆さん、よってらっしゃい、観てらっしゃい!! 今からワスプ名物、大タコの解体ショーが始まるよー!!」 ブース前のスペースでは、大タコの足1本が1メートルほどの大きさに解体されて、テーブルの上に巨大な皿ごと乗っていた。 もちろん、設置したのは、今、ショーの呼びかけをしているジニアスだ。 「さて、ここにあります大タコの足。これを今から、木端微塵(こっぱみじん)にしてみせましょう! そして、たこ焼きに使う1.5cmほどの角に一瞬で切り分けますよー!!」 冒険者青年が高らかにそう宣言すると、ギャラリーが集まり出した。 中には、そんなこと本当にできるのか? と野次を飛ばす人たちや、やれやれー!と大騒ぎする人たちまで集まっていた。 そこに我らが広報部も突如出現!! 「やっほー、みんなー!! 次のワスプブースの出し物は、大タコの解体ショーをやるんだってー!! さあ、ジニアス青年によるタコの解体は無事に終わるのでしょうか!? どきどきと緊張の瞬間が始まるよー!!」 続けて、ワスプを取材している未来は、今度は解体ショーにカメラを向けさせる。 はたして、ジニアスのパフォーマンスから良い映像は撮れるのだろうか? (よし……。客寄せはこのぐらいでいいだろう……。さあ、アレをやるか……) ジニアスは、まず、大タコの足を両手で持ち上げ、抱きかかえる。 そして、勢いよく、空高く、空中へタコ足をぶん投げる。 タコ足は、5メートルほど上空に上がっただろうか……。 そこで、手元から特製の出刃包丁を取り出し、サンダーソードを構えるかのように、包丁を構えた。 (それ、そこだ!! 「ブリンク・ファルコン」の連撃で、タコを砕く!!) ジニアスの包丁さばきは、迅速を極めた。 青年は、空高く、跳躍。 鋭利で巨大な銀色は、太陽光を浴びてきらりと輝いた。 一瞬、輝いたかと思うと、次の瞬間、青年の凄まじく素早い包丁の連続斬撃によって、タコ足は木端微塵に砕け散った。 この瞬間、ジニアスは「ブリンク・ファルコン」で3連撃を超える、「みじん切り」をタコ足に放ち、瞬時にバラバラにしたのである。 空中からは1.5cmほどの大きさに切り分けられた角の大群が、勢いよくバラけながら大皿の上に落下して行った。 着地したジニアスは、包丁を光らせたあと、涼しく帯刀。 「よ、兄ちゃん、見事だ!!」 「すごいわよ、今の!!」 「あはは、やるねえ! よし、たこ焼き、買ってやるぞ!!」 「俺も、俺も!!」 今の解体ショーで、ギャラリーは大賑わいだ。 ジニアスは拍手喝采を浴び、少し照れくさそうであった。 広報部のビデオカメラにも映され、手を振ったものの、赤い顔をしていた。 もちろん、今のアピール効果で、少し衰えだしていたワスプの列が再活性化したのだ。 たこ焼きを買い求めに来る新しい客たちの列が続々と出来上がって行く。 (ふう……。まあ、こんなものだろうか? それにしても、戦闘で使う予定で習ったファルコン先生の奥義がここで役立ったとは!? 人生、何が起こるかわからないね……) 一仕事終えて、ジニアスは再びブース内の裏方に引っ込んだ。 すれ違いざまに、ナイトが缶ジュースを1杯、ごちそうしてくれた。 A−2−4 たこ焼きの王子様 (ふむ……。ここまでは好調だ。さて、そろそろ俺の出番だな? 久しぶりにマジ、本気出すしかねえな、これは!!) ジニアスの解体ショーも終わり、列が出来ていた客足もそろそろ鈍くなって来ていた頃……。 ひとりの男が次のパフォーマンスに向けて、めらめらと燃えていた。 ハチさんエプロンの爽やかな好青年が、突然、ワスプブース前に出現した! まるで少女マンガの美青年でもあるかのようなキラキラした表情で微笑んでいる。 片手にはたこ焼きパックを持ち、もう片方の手は、軽やかに振っていた。 |
「いらっしゃいませ〜(ハート)。外はカリカリ、中はトロトロ。熱々のワスプ特製ジャイアント・インパクトたこ焼きいかがですか〜?」 いったい、この謎の青年は何者なのだろうか? この男、決して怪しい部外者ではない。 何を隠そう、彼はあのリシェル・アーキスの裏の姿なのだ。 「きゃー!! すてきー!!」 「わ、美青年がたこ焼きを売っているわー!!」 「買うと……握手とかできるのかしら!?」 「あはは〜!! お嬢さんたち、試食はいかがですか〜」 美青年モードのリシェルは、試食のたこ焼きをお嬢さん方に分け与えた。 女性客たちは、はふはふとたこ焼きを食べながら、目をハートにさせている。 裏リシェルにハートを撃ち抜かれた女性客たちは、我さきに、と次々とワスプブースへ押しかけた。まるで津波の勢いだ。 「いらっしゃいませー! 販売はこちらになりますわー!! 1パック1,000マギンですわよー!!」 アンナ他、他の販売スタッフは、誘導係を務めている。 リシェルがまず客を目で殺し、アンナたちが誘導するという役割分担のようだ。 そして、女性のお客さんが、たこ焼きを買ってくれたら……。 「お買い上げありがとうございました〜☆」 爽やかスマイルのリシェルが見送ってくれるサービスも付き、お客様方、大変ご満足らしい。 さあ、そこで我らが広報部も突撃!! 「みんなー、次のワスプのパフォーマンスは、たこ焼きの王子様だよー!! せっかく盛り上がっているところだから、我ら広報部もインタビューして来るねー!!」 未来は、映像スタッフを連れて、混んでいるリシェル付近までがんばってやって来た。 美青年オーラが放出されている彼の近辺には、女性たちが群がっていた。 「こんにちは、たこ焼きの王子様!! ワスプブース、盛り上がってるね! 聖アスラ学院広報部とお茶の間のみんなに何か一言、お願いします!!」 未来が、リシェルにカメラとマイクを向けると、美青年はキラリと笑い出した。 「広報部の皆様、おつかれさまです。よろしければ、たこ焼きの試食はいかがでしょうか? 私たちワスプ一同が苦労して捕って来たタコは、あの伝説の珍味、ジャイアント・インパクト・タコです! ぜひ、お茶の間の前のお美しいお嬢様・お姉さま方に食べて頂きたい絶品ですよ!!」 と、まあ……。 限界を超えたリシェルのがんばりにより、ワスプブースは女性客を中心にして、大変な盛り上がりを見せた。 そして、ひと段落がつき、解放されたリシェルはブースの裏方へと帰って行った……。 (ふう、たり〜な、これ。ま、ワスプの報酬に加え、ジニアスから追加報酬5,000マギンももらったし、これぐらいのことはしてやらんとな。だが、俺のスマイルは15,000マギンなのか!? う……なんか、微妙に安い気もするが……まあ、結果オーライか……) A−3 それぞれの休憩時間 A−3−1 ビリーの休憩 ワスプブース前でパフォーマンスをしていた一同であったが……。 話は、午前11時頃まで遡(さかのぼ)る。 ビリーが最初の休憩に入っていた。 (ふむふむ、いろいろあるなあー……) ブース裏に引っ込んだビリーは、お祭りのカタログを眺めながら、休憩中に行く店を決めていた。何しろ500ブースあるお祭りなので、行くところも選り取り見取りである。どこに行くか迷わないわけがないだろう。 (よし、ここに決めたで!!) ビリーはある考えを思いつき、そのブースへと急ぐのであった。 *** と、言っても、実は隣のブースである。 冒険者ギルド・スパイダーネストがやっている「いか焼きそばパン」の店だ。 どうやら、海賊船長イカという伝説の珍味を使っているらしい。 まさに、ワスプのジャイアント・インパクト・タコに対抗しているギルドだ。 それにしても、ソースや海鮮がとてもいい匂いだ。 ブースでは、鉄板でじゅうじゅうと焼きそばパンの焼きそば部分をイカと共に焼いているコックの姿がある。外見は頭が蜘蛛みたいな蜘蛛男だが、その道では、有名なバーテンダー&コックだ。 「すんませーん!! イカ焼きそばパン、1個頂きましょかー!」 ビリーは、お財布から1,000マギンを出して、販売員に渡した。 「まいどありー!!」 販売員もビリーがワスプ側の人間だとは気が付かなかったのだろうか、普段通りの接客態度で接してくれた。 さあ、蜘蛛男に見つからないうちに、撤退だ。 これは、偵察でもあるのだ! *** 焼きそばパンを購入し、無事にブースについたビリー。 調理チームも、ナイトが軽めの休憩に入ったようで、別のコックがたこ焼きを焼いていた。 (ナイトさんにも報告やで!!) ブースの奥では、ナイトが麦茶を飲んで待機していた。 まかないのたこ焼きを食べている最中でもあった。 「ナイトさん! この焼きそばパン、一緒に食わんかいな?」 ビリーがそのブツを差し出すと、ナイトは一瞬で察知したようだ。 目元がキラリと光った。 「おう……。それはまさしく……スパイダーネストの焼きそばパンですぜい! ビリー君、どうしたんですか、それ?」 「買ったんや! 一緒に食って、敵の実力を計ろうと思ってな。だが、売り上げに貢献するのはまずいんで、1個だけにしたんや」 ともかく、ビリーは焼きそばパンを半分切って、ナイトに渡した。 2人は、同じタイミングで、パクリ、とパンを口に入れる……。 「う……うまいやん、これ!! 普通に美味いで! 焼きそばのソースも麺も申し分なく、パンもふわふわで、なんにせよ、このイカ、歯ごたえと染み出る味がたまりまへんな〜!!」 思わず正直に感想を言ってしまったビリーだが……。 ナイトの方も……。 「ああ、最高に美味いぜ、この焼きそばパン。何しろ、マギ・ジスタン世界の中でも屈指のギルドと言われているうちと張り合える対抗馬のギルドが作った飯だ。不味いはずがない……。だが、俺たちは、この戦に負けるわけにはいかないぜい! コックとして、ワスプとしてな……」 どうやらナイトは、スパイダーネストや蜘蛛男をあまり快く思ってはいないようだが、実力は認めているらしい。それゆえに、厄介な相手なのだろう。 「ま、んなことよりも、ビリー君、休憩中なんだろう? せっかく作ったまかないのたこ焼きも一緒に食おうぜい! ドリンクもサービスしてやるぜ!」 「わわっ!! ええんかい!? ナイトさん、ほんまおおきに!!」 ビリーは、ナイトからたこ焼きと缶ジュースを指し出され、ありがたそうに受け取ることにした。 仲間たちと苦労して捕って来たタコ……。そして今、こうして仲間たちと共に食のお祭りで熱く戦っている……。 その感動を胸に、座敷童子は、ワスプのたこ焼きの味をかみしめるのであった。 A−3−2 ラサの休憩 ビリーの休憩が終わり、正午になった頃、今度はラサが休憩に入ることになった。 ラサはティムたちに持ち場を離れることを伝えた後、タコぐるみを着て、プラカードを持ったまま、休憩に出た。 ちなみにプラカードには「ワスプ ジャイアント・インパクト・たこ焼き 1パック 1,000マギン」と、いった宣伝が書かれている。 「ワスプのたこ焼きはいかがかなー!! 新鮮なジャイアント・インパクト・タコがあつあつで食べれるよー!!」 「きゃー、なにあれ、すごーい!!」 「たこだー、たこ、おもしろーい!!」 しかしこの格好、なかなかおもしろいのだろう。 タコぐるみの姿でいると、子どもたちがたくさん寄ってくる。 行く先々で、子どもとその親や兄弟を相手に、ラサは、ワスプのたこ焼きをオススメするのであった。 (よし、歩きながらの宣伝はこのへんでいいかな……。ボクも実は、気になっていた店があったんだよね……) *** 「空中魔法テーブル!! 大・回・転☆ どかああああああああああああん!!!!」 そのブース前では、テーブル業者が爆発していた。 業者は、テーブルごと空中に舞い上がり、大回転して無害な特殊花火を散らしていた。 (これこれ!! 前から気になっていたんだよね……。) ラサは、空中魔法テーブルブースの列に並んだ。 ここはお菓子の詰め合わせパックが売っているので、比較的、子どもや女性の客が多いようだ。 さあ、ラサの番が来て……。 「お菓子の詰め合わせパック、1袋くださーい!!」 「わっ!? 大タコ!? ああ、ワスプの人かな?」 最初は驚いていたものの……。 業者さんはワスプの店員がコスプレをしたまま来たものだと思い、普通に接客してくれた。 ラサが2,000マギンを渡すと、無事にお菓子のパックを買うことができた。 さて、ラサは、店から少し離れたベンチへ向かった。 パックを開けてみると……。 パワーラムネ、防御力チップス、スピードキャンディ、知能ガム、ラッキーチョコの豪華詰め合わせのお菓子が盛りだくさん! (わあ……。すごいなあ……。お菓子の詰め合わせパックって、こんな楽しそうなものがいっぱい入っているのか……。ボク、食べられないけれど、見ているだけでもなんか幸せだなあ……。うふふ、ボクぐらいの年の子たちって、こういうの食べているんだね……) 精神体の身分では、なかなかこういったお菓子は食べられないので、少し可愛そうな気もするが……。ラサ自身は、お菓子パックを買うという行為そのものを楽しんでいたようだ。 A−3−3 ジニアスの休憩 ともかく、午前の部は無事に終わったようだ。 ワスプブースも絶好調な売れ行きだったことだろう。 午後1時を回った頃、そろそろ頃合いかと、ジニアスは休憩に出ることにした。 まるで冒険にでも出るかのように、青年はカタログをぺらぺらとめくっていた。 (よし、ここにしよう!!) ジニアスが向かった先は……。 サウザンランドのフルーツで作った「トロピカルジャムサンド」のブースだ。 しかし、あちらも人気店なだけあり、なかなかの混雑具合。 仕方なしに、ジニアスは列に並んで待つことにした。 *** さてさて、購入して来た出来立てのサンドイッチをワスプブースへと持ち帰るジニアス。 ブースの奥では、さっそくサンドイッチを広げるのだった。 (わわ!! これはすごい……。南国フルーツがオンパレードだね。マンゴー、ココナッツ、パイナップル、パパイヤ、ザクロといった具材が惜しげもなく……ジャムと果肉で彩られている……。これで1,000マギンは安いかもしれない……) 一方で、今、もらって来たまかないのたこ焼きも広げるのだった。 (おお!! こちらも改めて見るとすごいなあ……。あつあつかりかりで、中はふわふわのとろとろ……。試し焼きで食べた大タコのインパクトも去ることながら、オオサカ風のアレンジも効いているし……) 「よしっ!! では、いただきまーす!!」 さあ、冒険の開始だ。 まずは、大タコをがっついてやろう。 はふはふしながら、たこ焼きの会心の一撃をがつりと喰らう! そして、口中がソースやたこやスパイスでしょっぱくなって来たところ……。 南国フルーツの追撃で相殺! 見事にしょっぱさが甘さで中和された。 サウザンランドのタコとフルーツがジニアスの中で共演された瞬間だった。 (ぷはー、美味い!! やっぱり合うな、この組み合わせ!! 新しい発見ができてよかった!!) A−3−4 リシェルの休憩 午後2時を回り、周辺ブースは落ち着きを取戻しつつあるようだ。 ワスプブースは順調に客たちをさばいていた。 リシェルはここら辺が休憩の取り時かと判断し、一度、ブースを抜けることにした。 (さて、休憩を取ったものの……。今からお祭り騒ぎで他ブースへジャンクを買いに行くのもなんか、たりーな。ま、ブース奥でゆっくりするか……) リシェルは、営業モードを解いて、ブース奥へ引っ込む。 まかないのたこ焼きと麦茶をもらい、ごろごろすることにした。 (さーて、適当にやるか!) 客目がもはやないブース裏、あるいは従業員休憩スペース……。 リシェルは寝転がりながら、たこ焼きを串でつつき、もぐもぐと食べ出す。 大タコのぷりぷりの身をかみしめつつ、ソースやオオサカ風味を堪能し、麦茶をのどへ流すのであった。 (ぷはー、やっぱりうめーな、これ! ま、あの裏モードでの大変な販売のあとの1杯もいかすぜ! でも贅沢言えば、ビールが欲しい……。しかし、まだ仕事中だし、ビールはいけねえ……) 慣れないことをして、疲れが出て来た頃であろうか……。 リシェルは、ごろごろしながら、休憩時間終わりまで、昼寝をするのであった。 A−3−5 アンナの休憩 販売係のアンナはテキパキと働いていた。 ワスプブースは目玉である珍味のたこ焼きを売っているので、やはり人気ブースだ。 彼女は時間を忘れるほど仕事に没頭していたが、気が付けば午後3時を回っていた。 「アンナちゃん、そろそろ休憩したらどう? 店は私たちが見ておくわよ」 販売係のお姉さんにそう言われてみると、確かにそろそろ休憩が必要かも、と思い立つアンナであった。 (まあ、店は混雑時に比べたら、今はまだ空(す)いている方かしら? 行くなら今ですわね) さて、アンナが休憩で向かったブース先は……。 「萌え萌え〜!! 萌えはいらんかね〜!!」 怪しい萌え親父がメガフォン越しに叫んでいた。 「努力、友情、勝利☆ それが私たち魔法少女♪ 萌え萌えビームであなたのハートをビビビビ♪」 店頭では、魔法少女衣装の女の子たちが、振り付けをしながら歌っていた。 何を隠そう、これぞ、「魔法少女萌え萌え委員会」のブースである。 (おお、トレビアン……。やってますわね! わたくしも変身して混ぜてもらいたいところですが……。今日はお買い物に来ましたの!) こうして、アンナは萌えなお友達や子どもたちがたくさんいる列を並ぶのであった……。 ブースに数十分並んだ後、やっとアンナの番が来た。 萌えオヤジは、人形焼を燃えながら焼いていた。 じゅわじゅわと、カスタードケーキ系の美味しい匂いが広がり、可愛らしいきつね色の魔法少女たちが、続々と出来上がって行く。 「1袋お願いしますわ!」 アンナは、1,000マギンを財布から取り出して払う。 「毎度あり〜!!」 オヤジさんから萌えの1袋を渡され、アンナは嬉しそうに受け取った。 *** アンナがワスプブースに帰ると、帰り際に、販売係のお姉さんが、まかないでたこ焼きをくれた。彼女はたこ焼きも受け取り、ブース奥の休憩スペースへと急いだ。 「さあ、開封ですわね!」 同じく魔法少女の彼女は、魔法少女を萌え袋から開けて、1個(1人?)取り出す。 (うふふ……。可愛らしくて食べるのがもったいない気もしますが……。ここは!!) ぱくり、と口の中に入れて、あつあつ、とほお張る少女。 魔法少女の共食い? の結果は……!! (う〜ん、トレボン!(美味しいですわね!) 魔法少女のふわふわケーキとカスタードクリームのとろみが、たまりませんわね!) 魔法少女をほふほふと味わった彼女であったが、たこ焼きがあったことも思い出す。先日、なかなかの苦労の末、手に入れた大タコだ。試食でも美味しかったが、こうして改めて昼食になると、お腹がぐ〜、と減ってくる。 (ふうふう、はふはふ……。魔法少女も美味しかったですけれど、大タコの歯ごたえとオオサカの味付けも粋な味覚ですわね……) A−4 うれしい来客 A−4−1 マニフィカがブースに来客 さて、物語はワスプブース諸君たちの休憩がそれぞれ終わったところだが、時間を少し巻き戻そう。 正午過ぎ、ワスプブースにはうれしい来客が現れていたのだ。 「うふふ☆ いらっしゃいませ〜(ハート)」 キラキラしたリシェルが接客したその人は……。 「おや? リシェルさんではありませんか? 今日はやたらとキラキラしていますのね?」 「あはは! おにいさんおもしろーい!」 列の最前列から、人魚姫・マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)が現れた。今日の彼女は、子どもを連れてワスプブースへ訪れてくれたのだ。ちなみに、「子ども」というのは、彼女の実子という意味ではなくて、ティムの妹、ジェニー・バトン(NPC)のことだ。本日、とある理由があって、お祭りに連れて来ているのである。 「うお!? マニフィカ!!」(くっ、しまった……。恥ずかしいところを見られてしまったぜ!!) 一瞬、顔がタコみたいに赤くなったリシェルだが……。 それでも今は、販売係をやっている最中なので、即座に営業へ切り替える。 「お、おう、マニフィカ、いらっしゃい! たこ焼きだな? いくつ欲しい?」 「2パック頂きますわ!」 リシェルに促され、マニフィカは、2,000マギンを支払い、2パックを受け取った。 「それにしても、繁盛していますわね! これなら優勝もいけるのではないかしら? 本当ならわたくしもお店を手伝いたかったのですが、今日はこの子のおもりもあるので……。では、がんばってくださいね、リシェルさんとワスプの皆さん!!」 「おう、マニフィカも子どものおもり、がんばれ!!」 こうして、接客してくれたリシェルに別れを告げ、マニフィカはジェニーと休憩スペースへ急ぐのであった。 *** 休憩スペースでは、テーブルがたくさんあり、自由に飲食ができるのだ。 マニフィカとジェニーはテーブルの一角に座り、さっそくたこ焼きを開けてみた。 「うわー。たこさんすごーい。いいにおーい。あつそー」 ジェニーはたこ焼きに目がらんらんだ。 兄が以前に作ってくれたこともあるが、さすがにジャイアント・インパクト・タコは初めてらしい。 「では、ジェニーさん、わたくしが切り分けて差し上げますわね……」 マニフィカはプラスチックのナイフとフォークでたこ焼き1個を4等分に切ってあげた。 この方が、熱が冷めるし、子どものジェニーが食べやすいからだ。 「はふはふ……。わー、あつーい!! う〜ん、たこさん、しゃきしゃきー!!」 ジェニーは絶好調で喜んでいる。 連れて来たかいがあったですわね、と微笑むマニフィカ。 (では、わたくしも頂きましょう! 苦労して捕って来たタコですし、ワスプの皆さんが調理したたこ焼きです……きっと美味しいはずですわ!!) 『全ての人魚の母にして、最も深遠に坐す偉大な海神様……頂きますわ!!』 マニフィカは、祈りを捧げてから、大タコに串を指し伸ばし……。 串で突きながら、ゆっくりと口元へ運び……。 あちち、と目を白黒させながらも、上品にゆっくりと味わいながら食べるのであった。 A−4−2 ジュディがブースに来客 さて、マニフィカがブースへやって来てから、時刻はそのまま1時過ぎまで飛ぶ。 お次に、ブースへ来てくれたのは……。 「いらっしゃいませですわ!」 接客したアンナは、よく知っている2人の客の姿が目に映ると、喜びの表情を浮かべた。 「ヘイ、アンナ! ハウ・アー・ユー?(元気かしら?)17タコヤーキス・プリーズ!!(たこ焼き17パックお願いね!)」 「え? ジュディさん!! あんなに……食べたのに、まだ17パックも……食べるんですか!?」 今、たこ焼きを豪勢にオーダーしたのは、豪快なアメリカン・レディであるジュディ・バーガー(PC0032)だ。そのお供に連れているのは、聖アスラ学院風紀委員会のコーテス・ローゼンベルク(NPC)である。今日は2人で食道楽巡りをしているようだ。 「ええと……。17パックですわね! かしこまりましたわ!」 アンナはたこ焼きを焼いているナイトに伝え、素早く17パックを用意してもらった。 既に出来上がっているたこ焼きを出し、そして数パックを急いで焼いて追加した。それでなんとかテンポを乱さずに、瞬時に注文分の数を用意することができた。 「17,000マギンになりますわ!」 「オーライ!!」 ジュディから代金を受け取り、アンナは彼女にたこ焼き17パックを次々と渡していく。途中で、見かねたコーテスが手伝ってくれて、2人で8パック分ずつ持つことにした。(端数のもう1パックはジュディが持ったようだ) ともかく、たった今、ワスプブースから17パックが一気に売れてしまい……。 売れ行きに多大な貢献をしてくれたジュディに、ワスプ一同は心から感謝する次第であった。 *** さて、休憩スペースに行くのか、と思いきや……。 ジュディは、「警備員の休憩スペース」へと足を運んだ。 コーテスも疑問に思いながらもついて来た。 「はろー、えぶりばでぃ!(皆さん、こんにちは!)タコヤーキ、差し入れデース!!」 ジュディが運んで来たたこ焼きの山を休憩スペースのテーブルにどかっと、置いた。 コーテスも真似して、一緒に、どかっと、追加した。 「おっ、ジュディさん、差し入れありがとう!!」 「わー、ワスプのたこ焼きじゃないか、これ!! やったー!!」 「うーん、いい匂い! ソースの匂いがたまりません!」 実はジュディ、警備員のアルバイトをやっているのだ。 それで、今回みたいな警備員がたくさんいる場所へ行くと、バイト先の仲間たちとよく出くわすことがあるらしい。 本日のお祭りの警備では、仲間が10人いるとわかっていた。なので、たこ焼きを10人分、差し入れに来たのである。 仲間たちがたこ焼きをうれしそうにガツガツ食べている表情を確認して、ジュディは太陽みたいににこにこと明るい表情を浮かべていた。 ところで、もう7人分あるが……。 コーテスが疑問を視線で追っていると……。 「6パックスは、ジュディの分デース! 1パックはコーテスの分デース!!」 「ああ、なるほど!! でも、おごりは……悪いので……1,000マギン、返します」 さて、2人が移動しよう、としていたとき……。 「あ、もしよかったら、ジュディちゃんたちもここで食べて行く? 飲み物ぐらい出すよ!」 「勤務中なので、酒はないけれど、ジュースやお茶ぐらいなら出せるぜ!」 警備員たちに誘われて、ジュディとコーテスは一緒にたこ焼きを食べることにした。 飲み物も振る舞われて、みんなでわいわい、まるでたこ焼きパーティだ。 「ん〜♪ でりーしゃすデスネ!」 ジャイアント・アメリカン・レディは、たこ焼きのパックを開け、はふはふしてほお張っていたかと思うと……。一瞬で、6人分をペロリと食べ切ってしまった! 味わい方も豪快だ。ジャイアント・インパクト・タコを最後は担いで船へ投げ入れた彼女なだけあり……食べて倒すときも、一瞬でノックアウトしてしまったようだ。 「え!? ジュディさん、うそ、もう食べたの? 僕なんて……まだ1パックも食べてないのに!!」 慌てふためくコーテスを見て、その場にいる全員がゲラゲラと笑い出した。 ジュディとコーテスは、警備員室でも楽しいひと時を過ごしたようである。 A−4−3 革命じいさんたちがブースに来客 そろそろお祭りが終わる頃だろう。 午後4時を回ったところだ。 ラストの午後5時で店は終わりなので、最後の駆け込みどころとでも言わんばかりに、各店舗は必死で集客をしていた。 (ふう……。あと1時間でこの祭りも終わりですかい……。なんか最後にもう1発、すげえことやりてーな……) たこ焼きを焼きながら、ナイトは心の中でぼやいていた。 そろそろ今先ほど出来たこの列も終わる頃だ……。 そのとき、事件は起きた!! 「おう、すまんな! ビリーはいねえか?」 ボロボロの白衣を着た怪しい老人たちが現れた。 何を隠そう、科学的革命残党分子の登場だ! いかついボスのヴァイス、のっぽ老人ケント、太った老人ザック、インテリメガネ老人トミー、小さな老人ジョニーの5人が、ジャンクフード祭りに何かをしに来たらしい。 (お!? 久しぶりにけっこー柄の悪いお客様方が来やしたね……) たこ焼きを焼きながら、怪しい集団の登場にナイトは内心、どきりとした。 ここでトラブルが起きたら、責任者の自分が責任を取らないといけないからだ……。 「ええと……。ビリーさんですわね?」 アンナが接客に応じたが、どうも、このお客、何かがすごく怪しい……、と首を傾げていた。 ともかく、ビリーに用があるらしいので、アンナは彼を呼びに行った。 裏方で、材料の手伝いをしているビリーを見つけ、すぐにブース外へ連れて行った。 「ん? 分子のじっちゃんたちやないかい!?」 「おう、久しいなビリー! おまえが招待してくれたんで、はるばるこうして来てやったぜ!」 ヴァイスが代表してビリーと会話を始める。 「ま、ま、じっちゃんたち。たこ焼き、食うねん! 5人分の5パックでいいかいな?」 「うむ、それで頼むぜ!」 ひとまず、客は怪しいが、客は客である。 アンナの注文伝達を受け、ナイトは5人分、すぐに用意してあげた。 アンナから5パック分を受け取ると、分子たちは、ニヤリとうす気味悪く笑っていた。 お代はもちろん、払ってくれた。 「ところで、ビリー。この前の新年祭でのこともそうだが……俺たちはおまえに礼が言いたいんだ……」 「お礼? いらんよ、そんなもん! 見返りは要求しないで!!」 いやいや、受け取れよ、いやいや、まずいねん、と2人はブース前で押し問答をしていた。 結局、分子たちの熱意に負けて、ビリーはお礼を受け取ることにした。 さて、そのお礼とは……!! 『ジャイアント・インパクト・たこ焼き、バンザーイ!!』 『ワスプブース、優勝必勝!!』 「おい、おまえら、声が小せーぞ! もっと声あげて行こうぜー!!」 分子たちは、ちょうど革命集会の帰りでもあったので、持っていた旗をぶんぶん振りながら、シュプレヒコールをあげていた。 『聖アスラはんたーい!!』 『科学的革命さいこー!!』 『魔術打破、4649(よろしく)!!』 「さあ、じゃんじゃか行くぞ、おまえら!! 科学的革命残党分子、ここにて見参!!」 結局、こうなってしまうのか……。 だから、ビリーは遠慮していたのに……。 「警備員さん、ここです! ここ!! 変な奴らが叫んで集会しています!!」 「むむ、こいつらか!! 怪しい奴め! おまえら、ここで集会するな!!」 「オーマイガッツ!! リボルーション・オールドメン!?(革命じいさんたち!?) ヘイ、ストップ!!(こら、止めなさい!!) ノー・シュプレヒコール・プリーズ!!(シュプレヒコールをしないでください!!)」 警備員たちが駆けつけ、その中には非番だったジュディも一緒にいた。 集まった警備員たちは、革命老人たちを注意し、コールを止めさせようする。 素直に謝ればいいものを、分子たちはいつもの調子で、逃走することにした。 「じゃあな、ビリー!! 後は任せた!!」 ヴァイスに引き連れられて、老人4人も一斉に逃げ出した。 こうして、ジュディたち警備員と革命分子たちの追い駆けっこが始まってしまったのだ。 一方、大騒ぎを起こしたので、ワスプブース前には人だかりが出来てしまい……。 (ちっ、余計なことしやがって!! だが、ピンチをチャンスに変えられれば!!) 販売員のリシェルは、とっさの思いつきで、叫び出す。 「こほん、今のは、余興です!! 当店の演劇でしたー!! ささ、お集まりになった皆さん、たこ焼きはいかがですかー!? 美味しいたこ焼きがあつあつでありますよー! 余興のあとの腹ごしらえにぜひどうぞー!」 リシェルの機転にアンナとビリーも加勢する。 「そうですわ! 今のは余興ですわ!! いらっしゃいませー! たこ焼きいかがですかー!?」 「めちゃ美味いたこ焼きあるでー! ジャイアント・インパクト・タコがオオサカ風味に味付られたたこ焼きやでー!」 そして、少し遠出して宣伝していたラサとティムが帰ってきたところ、店先は騒ぎになっていた。年少者の2人もなんだか訳がわからないが、一緒に声をあげて客引きを手伝うことになったようだ。 ともかく、一時期はどうなるかと冷や冷やしていたナイトたちであったが……。 余興? ととっさの機転のおかげで、ブース前にまた列が出来上がり……。 なぜか繁盛したので結果オーライ!! ではないだろうか、たぶん……。 A−5 最終決戦 A−5−1 閉場、いよいよ集計タイム 寂しげなBGMと共にアナウンスが流れた。 『午後5時になりました。お客様方は退場のお時間です。本日は、聖アスラ学院地区商店街・ジャンクフード祭りにご参加くださり、誠にありがとうございました……』 さてさて、ついに決戦の時が来た。 お待ちかねの集計時である。 ワスプブースのメンバーたちもわんやわんや、と忙(せわ)しくしていた。 「よし、集計だ! チェックシートはちゃんと付けていたな? さあ、集めるぞ!」 リシェルは、今日、1日分の売り上げのチェックシートをそれぞれの販売員たちから集め出した。集めたシートを使って、売り上げ個数と金額がちゃんとそろっているかどうかチェックしないといけない。 「リシェルさん、計算はわたくしにお任せください! お金の勘定は得意なので……」 アンナは、従業員スペースのテーブルで、正しい姿勢で座り、お祭り用の金庫を開いて、お金を数え始めた。 「アンナありがとう! 念のため、俺が監査やるから! 一度、計算が終わったら俺にも再計算させてくれ!」 「はい、かしこまりました!」 *** 「さて、販売係はお金の計算やってくれているし……。俺たちもぼちぼちと屋台のあと片付けでもやろうか? 疲れているけれど、皆、がんばろう!」 ジニアスは、裏方チームと客寄せチームのみんなに話しかけ、率先して片付けを始める。 「そうやな。もう素材や容器とか使わんだろうし、やれるところから片づけましょか」 ビリーもカタコトと、その辺の容器を集めて、本店へと運んで行った。 「ふー、客寄せって初めてやったけれど、楽しかったー! じゃあ、ボクたちも衣装を片付けようか?」 「うん、早いところやってしまいましょう!」 ラサ、ティム、その他の客寄せチームの子たちは、倉庫へと向かった。 ラサは、憑依を解き、タコから猫に戻った。 他のメンバーたちも、更衣室ボックスで衣装を着替えだす。 *** 一方、調理チームは店前で……。 「おい、蜂のナイト! 優勝は俺たち、スパイダーネストがもらった! そもそも今日の勝負、俺たちの方に分があるな! 海賊船長イカがおもしろいぐらい売れまくったぜ!! ハハハ!」 「やい、蜘蛛男! 悪いが、優勝は俺たちワスプだ! 素材の味が互角なら、パフォーマンスからしてうちの勝ちだ! 大タコの演劇、大タコの解体ショー、たこ焼きの王子様、革命老人劇……うちの方がおもしろかったぜい!!」 「いやいや、俺たちの方が……」 「なんだと、この野郎!? 俺たちだってなあ……」 などと言い合いをしつつ、大乱闘になってしまった。 そこに広報部、現る!! 「おおっと、ワスプのナイトとネストの蜘蛛男がまたまた乱闘してるよ! 今日、お祭りであれだけ働いたのに、まだまだ元気があるみたい!?」 スカートがひらひらして現れたのは未来だ。 映像スタッフたちは、乱闘の模様にカメラを回していた。 だが、大事な集計時だというのに、なかなか乱闘が終わらず……。 見かねた未来は……。 「とうっ!!」 「ブリンク・ファルコン」の3連続キックがコンボで炸裂。 ナイトの腹に1発、蜘蛛男の足とアゴに1発ずつ、キーック!! 「ぐはあ!!」(ナイトの悲鳴) 「うぎゃあ!!」(蜘蛛男の悲鳴) カメラは、未来の華麗なキック模様と倒れる男たちをしっかりと中継していた。 この過激シーン? で視聴率はまた上がるのだろうか!? A−5−2 ワスプブースの勝敗はいかに!? ともかく、集計も終わり、あと片付けもだいたい片付いた。 いよいよ、結果発表……。 全500ブースのうち、売り上げトップ10が発表されていく……。 ドラゴネス・バーガー、ウシグルマ、トロピカルアイランド、スノウフレーク、魔法少女萌え萌え委員会といった猛者たちの店名も出て来て……。 ワスプが呼ばれるのは、今か、今か、とワスプブース一同は固唾(かたず)を飲んで、集計結果会場を見守っていた。 さて、トップ3は……。 『お菓子詰め合わせパックの大人気店、株式会社空中魔法テーブルが3位です! 売り上げは、1,000マギン換算で、2,288人分!!』 気になる、トップ2は……。 『海賊船長イカを圧倒的に売りさばいた冒険者ギルド・スパイダーネストが2位です! 売り上げは、1,000マギン換算で、2,361人分!!』 これはどういうことだろう!? ワスプはネストに負けたのか!? そもそもランキング上位にも届かなかったのであろうか!? 最後の1位は……。 『トップに輝くのは……。ジャイアント・インパクト・たこ焼きで死ぬほど弾けまくっていた冒険者ギルド・ワスプです!! 売り上げは、1,000マギン換算で、2,363人分!! 実に2位とは僅差で、ワスプの優勝だー!!』 1位の発表が終わった途端、会場と露店からは盛大な拍手と歓声の声が沸き上がった。 ワスプブースの優勝発表と同時に、ブース内では、炭酸水の掛け合いが始まった!! 「おめでとー、みんな、マジ、おめでとー!」 ナイトが率先して、炭酸水を振って開けた。 「ナイトさん、おめでとう!!」 ジニアスは、炭酸水をナイトの顔面にぶっかけた。 「わー!! やった、やったよー!!」 ラサは、炭酸水が飛び交う滝をぴょんぴょん飛んでいた。 「おめでとうー!」 ティムもラサに頭上から炭酸水をぶっかける。 「おめでたいねん!!」 ビリーは、炭酸水を一気飲みしていた。 「おめでとう、販売係!!」 リシェルは、炭酸水を販売係の仲間たちにぶっかける。 「きゃ!! おめでとうですわ!!」 炭酸水をかけられたアンナも、負けずにと、かけ返した。 「おめでとうございます!! ワスプ、優勝、なんと優勝だ〜!! さあ、カメラさん、ばっちり撮ってね!!」 未来も一緒になって炭酸水を方々に駆け回って飛び跳ねている。 もっとも、彼女は、相変わらず、超ミニスカートを片手で押さえているが……。 カメラさんたちも、ワスプの優勝模様を映像に収めるべく、このお祭り騒ぎを放映する。 こうして、ワスプブースがめでたく優勝を収め、ジャンクフード祭りの熱い1日は無事に終わりを遂げたのであった。 サイドB 一般客参加編 B−1 ジュディとコーテスのお祭り参加 サイドAは、ワスプブース本編の物語であったが、ここからはサイドBでサブストーリーをご紹介させて頂く。このお祭りでは、屋台出店で参加していなかったものの、一般客としてそれぞれの参加者もジャンクフードを楽しんでいたようだ。 *** ジャンクフード祭りもいよいよ開催! 午前9時入場のラッシュを避けて、午前10時過ぎ、2人の食通がゲートに現れた。 「イエーイ!! ジャンクフード・フェスティバルに来ましたネー!! ヘイ、コーテス!! レッツ・ハブ・ア・ランチ、ネー!!(さっそくご飯にしましょう!)」 「ひえ〜!! 待ってください、よ……。魔術師タイプの僕では……ジュディさんの……足取りに全く追いつけませーん!!」 テンガロンハット、皮ジャン、ジーンズ、ブーツといったウェスタン衣装で現れたのは、ジュディである。 駆け上がるジュディの背後から息を切らせて追っかけてくるのは、コーテスだ。 実は2人は、新年祭やウマドラの卵料理作りといったイベントを経て、食通のお仲間になっていたのだ。それで今日は、ジャンクフード祭りに2人仲良くやって来たのである。(もっとも、ジュディは、先日、ジャイアント・インパクト・タコを冒険者仲間たちと共に狩って来たので、その成果を確認しに来たという名目もあるのだが……) まず、最初に2人が向かったのは、ドラゴネス・バーガーである。 あのウマドラの肉が、養殖ではあるものの、ハンバーガーで食べられるお店である。 さすがにウマドラは珍味としても名高く、行列が出来ている。 2人はお腹の虫を鳴かせながらも、がまんして列に並ぶことにした。 列の最前列付近では、ウマドラのコスプレをしている人たちがウマウマ言いながら客引きをしていた。 *** さて、ジュディは2人前を買って、コーテスは1人前を買った。 無事に買い終えた一同は、休憩スペースで食べることにした。 「う〜ん……。ナイス・スメル(いい匂い!) ウマドラのよく焼けたビーフに……フレッシュサラダ、濃厚なハイランダーズ・チーズ……!! うふふ、2人前だから、ダブルバーガーでいただきネ!!」 「わー! 懐かしー!! 故郷の味……ですね!!」 ウマドラの肉を初めて食べるジュディと、故郷に本店がある店で食べたことがあり懐かしいコーテス。実はジュディ、ウマドラは卵までしか食べたことがなかったので、ぜひとも食べたいと興味津々であった。 2人はひと思いに、豪勢な肉にかぶりついた。 口の中でジューシーが噛みごたえと、じゅわりと広がる肉汁がたまらなかった。 そして、肉の濃さを浄化するような新鮮野菜、味わいを深めるとろりとしたチーズ……。 食通たちは、新世界の始まりかのように幸せそうにバーガーを食べていた……。 *** 「で、次は、どうされます……?」 「ネクスト? モチロン、ビーフ、ネ!!」 「え、またビーフ!?」 焦るコーテスの手を引いて、ジュディはビーフシチュー店・ウシグルマへと急ぐ。 牧場育ちの彼女としては、牛肉に強い関心がある。 「こだわりの逸品」と聞くと、がまんができない何かを感じていた。 「ムー、ムー!!」(いらっしゃいませー!!) 屋台では、牛にコスプレした店員たちが客引きをしていた。 モガモガオックスがモデルなだけに、なかなか巨大な牛だ。 「さあ、この長い列を並ぶネ、コーテス!」 「あいあいさー!!」 *** ジュディは、特盛でビーフシチューを注文した。 コーテスの方は、普通盛りだ。 シチューを手に入れた2人は、再び、休憩スペースへ向かった。 「う〜ん!! 濃厚なシチューね……。ベジタブルとビーフで煮込んだまったりシチュー……。具のビーフも、なんて厚くてディープな味ネ!!」 「おお〜!! モガモガビーフシチューって、初めて……食べましたが……なかなかにパンチのある味ですね……」 ふうふうしながら、熱いシチューを2人は冷めないうちに平らげた。 そこで、ひとりの女子高生が撮影スタッフを連れてやって来た。 「こんにちはー!! 聖アスラ学院広報部の未来だよー! 今日は、ジャンクフード祭りを楽しんでいる一般客に突撃インタビューしているよ!」 未来がマイク越しにそう言いながら、映像のスタッフたちはジュディとコーテスがシチューを食べる様子を映していた。 「わわ!! テレビ!? って、未来さん……!!」 一応、コーテスも未来とは「お化け退治事件」の時以来、面識があるのだ。 「ヘイ、未来、何です、コレ!?」 ジュディも未来が広報部をやっていたことに驚いたらしい。 「ビーフシチューはどんな味? そもそもお2人は恋仲? もしかしてデートでシチューを食べているのかな?」 ぶっ、とシチューを吹き出すコーテス。 ジュディも、げほん、げほん、とむせた。 「ノー!! 違うヨ! コーテスは、フードのパートナー、ネ! ラブのパートナーではないネ!!」 「そ、そうですとも! 滅相(めっそう)も……ありません! 食通仲間……です!!」 未来に軽く冷やかされたものの、2人は違う、違う、と赤くなって言い張っていた。(実はジュディには彼氏がいるらしい……) *** 「ふう……。突撃取材は……勘弁ですよ、マジで……。さて、次はどうしましょうか、ジュディさん?」 「へへへ、もちろん、ワスプ、ヨ!! ジャイアント・インパクト・タコヤーキをイートしマース!! コーテスもジュディたちが捕ったタコを食すデース!!」 「へえ、そうなんですか? それは……楽しみです!!」 本日、最後のお店として、2人はワスプへと向かった。 このときのお話は、本編の「A−4−2 ジュディがブースに来客」へ飛ぶ。 B−2 リュリュミアのお祭り参加 時刻はお昼時……。 ジャンクフード祭りはより一層の盛り上がりを見せていた。 どこのお店へ行くにしても行列は必須だ。 「わぁ、色とりどりのお店がいっぱいで、目移りしちゃいますぅ。どれもおいしそうだけど、あんまり辛いのは苦手かなぁ」 緑基調の植物系美女・リュリュミア(PC0015)は、真昼の淡い日差しの中、右手をおでこに当てて、きょろきょろと露店を眺めていた。 彼女はお祭りに目がないらしく、お祭りと聞けばその場へ出発だ。 今日もどこかで聞きつけたジャンクフード祭りの会場に、気が付いたら発生していたのである。 「伝説の冷やしラーメンはいかがー? 伝説はいらんかねー? イースタの伝説の男が作ったラーメンだ!!」 ラーメン●ン姿の男たちが、客引きをしていた。 どうやら、イースタ国家最大レベルの冷やしラーメンがここに上陸したらしい。 気になったリュリュミアは、さっそく並ぶことにした。 *** 無事に冷やしラーメンを1杯買えると、リュリュミアは飲食の休憩スペースへ向かった。 テーブルの一角に腰を下し、割箸をぱちん、と割る。 伝説の1杯は、まるで気合を発するかのように心が熱い冷たいラーメンであった。 「う〜ん……。麺は、つるつるシコシコねぇ〜。チャーシューも分厚くてジューシー……。野菜のキュウリとモヤシも、かみごたえがいいしぃ〜。スープの豚骨醤油も冷えててまろやかぁ〜」 至極の1杯を食べ終えるリュリュミア。 (う〜ん。でもぉ、おいしかったけどぉ、屋台サイズなので、ちょっと物足りないかなぁ……) リュリュミアは、ハシゴすることにした。 *** 続いて、リュリュミアは、トロピカルジャムサンドを求め、サンドイッチ店にやって来た。 さすがに女性人気のスイーツ店なだけあり、並ぶのには苦労するものだ。 ちなみにコックはイケメンで、コスプレはフルーツ衣装の女子たちだ。 あらゆる意味で女性向けに抜かりのない店である。 お昼ご飯のデザートをゲットするべく、リュリュミアは気長に並ぶことにした。 やがて、リュリュミアは、キラリとしたイケメンが作ったジャムサンドを、いちごコスプレのお姉さんから受け取った。用事が済んだ彼女は、人ごみからささっと、退避。 休憩スペースにやってくると、お昼ご飯の続きを始めた。 「うふふぅ〜。南国フルーツでいっぱいだわぁ〜。マンゴー、ココナッツ、パイナップル、パパイヤ、ザクロ〜。どこからどう見ても、南国のムードねぇ〜」 南国雰囲気が気に入ったお姉さんは、ぱくり、とさっそくサンドをかじってみた。 やさしいパン生地に、フルーツの具材ととろけたジャムが口中を癒してくれた。 続いてパクパク食べて、空腹が満たされたようだ。 「やっほー!! 突撃取材の未来だよ! お姉さん、何食べているの〜!?」 「ん? 何かしらぁ〜!?」 ここで広報部未来が、取材スタッフを連れてやって来た。 今、カメラは、スイーツを美味しそうに食べているリュリュミアを映している。 「あら、未来さん? お久しぶりぃ〜。そうねぇ。これは、トロピカルジャムサンドよぉ〜。南国フルーツがイケてるのよぉ〜」 リュリュミアは未来の取材に丁寧に答えてくれた。 未来は、マイクを緑色系の美女へ向ける。 「ずばり、スイーツについて一言どうぞ!!」 「う〜ん、とねぇ〜。トロピカルジャムサンドは、甘くて、切なくて、とろとろして、美味しいわよぉ〜。ぜひ女子のみんなも食べてみてねぇ〜」 和やかな雰囲気でインタビューが取れたようだ。 リュリュミアはにこやかにカメラと未来に向けて手を振っていた。 *** さて、美味しい冷やしラーメンも、甘いデザートも食べたことであり……。 リュリュミアはそろそろ帰ろうかと思った。 だが、せっかくお祭りに来たのだ。 最後にお土産もあった方がいいかもしれない、と思い直した。 またきょろきょろと店を探し回り……。 チョコレートの甘くて香ばしい匂いに釣られ、クレープ屋スノウフレークのところへやって来た。 クレープ屋でも、コックはイケメンだ。どうもこの業界は、スイーツ系のコックはイケメンと相場が決まっているらしい。そして、客引きのコスプレでは、お姉さんたちが、クレープ衣装に身を包んで、対応していた。 さっそく列に並び、リュリュミアは、クレープを買うことにした。 「はい、お待ちどうさま! クレープ、1,000マギンね!」 「は〜い!」 出来立てアツアツのチョコ、トッピングの冷たく甘いアイス、ボリュームと歯ごたえのあるバナナ、ぱりっともちっとしたクレープ皮……。 クレープのどの部分もきっと絶品なのだろう。 食べたいところだが、お腹がまだまだいっぱいなので、泣く泣く、魔法(長期保存可)のお持ち帰り用にするとした。 (うふふぅ〜。でも、今日のお夜食でぇ、このクレープ、食べちゃおうかなぁ〜♪) ラーメンとサンドでお腹がいっぱいになり、クレープのお土産も買えたことで、リュリュミアはうれしい気持ちで満たされたのであった。 彼女は、クレープの紙袋を手に下げながら、満足げな表情で会場を後にするのであった。 B−3 マニフィカとジェニーのお祭り参加 ジャイアント・インパクト・タコを捕まえ、ジャンクフード祭りの日程が近づきつつある、とある日の夜……。 マニフィカは、夢を見ていた。 人魚姫は、海中の泡の中にいた。 (さて、そろそろジャンクフード祭りですわね! わたくしはどうしようかしら? 引き続き、ワスプブースをお手伝いしてもいいですし……。しかし、せっかくのお祭りの機会ですわ! 食は文化、異文化コミュニケーションとも言いますし、フィールドワーク的にお祭りを調査してみるのもまたおもしろいですし……) ピカリ!! 海中に稲妻が発生したかのように、周囲が鋭く輝きだした。 (マニフィカよ……。あんさんに使命を授けるためにやって参ったさかい……。我が名は、ビリー菩薩(ぼさつ)であるねん……) (あら、ビリーさんじゃないの? いらっしゃい、どうしましたの?) (マニフィカよ……。ボクはビリーではない、ビリー菩薩やんけ! さて、使命であるが……。ジェニー・バトンを救うねん……ジャンクフード祭りに連れて行き、祭りの楽しさを子どもに教え、ジャンクフードで救済へ導くねん……) (うふふ、ビリー菩薩ですって? でも……おっしゃる通りかもしれませんわね。フィールドワークだなんだと研究するよりも、ジェニーさんと一緒にお祭りに行った方が楽しいかもしれませんわ! わかりました、ぜひそうします!) (あんさんならきっとやり遂げられるで……。期待しちょるさかい……。ほな、達者でな!) *** と、いうことがあり、本日、マニフィカはジェニーと一緒にお祭りに来ているのだ。 「さあ、ジェニーさん、ちょうどお昼時ですわね。お昼は何を食べたいのかしら?」 「う〜ん、とね……。ワスプがいい! にいさんが、たこやきをつくるんだって! わたし、たこやきがいいわ!」 「そうですわね! どちらにしても、わたくしも行く予定でしたし、ぜひそうしましょう!」 こうして、2人はまず、ワスプブースへ向かうのであった。 このお話は、「A−4−1 マニフィカがブースに来客」へ続く。 *** さて、たこ焼きを食べ終えた2人は、次は何にしようか、と相談をする。 「つぎは、あまいものがいい!!」 「甘いもの? はて、何がいいでしょう?」 マニフィカは休憩スペースから、周囲をぐるぐると見渡してみた。 すると、チョコクレープ店が目に留まった。 ちょうどお店の前には、クレープのコスプレをした店員もいて、ジェニーも喜びそうだ。 「クレープにしましょう、ジェニーさん!」 「うん!」 マニフィカたちはクレープ屋・スノウフレークの長い列に並んだ。 案の定、クレープコスプレの店員を見て、ジェニーは、はしゃいで喜んでくれた。 このご様子に、マニフィカもうっとりしていた。 さあ、アツアツの本場クレープを手に入れた2人。 女性から圧倒的な支持を集める人気店、しかも本店はスイーツの本場であるノーザンランドであるという。 いったい、どんな美味がするのであろうか。 高まる気持ちを抱えながら、2人は休憩スペースへと急いだ。 「むむっ!? こ、これは……。チョコとバナナとアイスが絶妙に混ざり合い、クレープ皮もぱりぱりもちもちでたまらない食感!! なんていうハーモニーですこと!!」 マニフィカは、ジェニーのお世話や姫君であることを一瞬忘れたかのように、クレープを食べる速度が加速し止まらなかった。 「うわー、おいちー! これ、さいこー!」 ジェニーの方も、チョコバナナやアイスをがつがつくらいつき、口の周りをチョコとアイスでべたべたにしてしまった。 (うふふ……美味しいですわ……!!) (うふふ……おいしい……!!) こうして、マニフィカとジェニーは、究極のクレープをほお張りながら、心がシンクロしていたのであった。 *** さて、次で最後となるだろう。 自分はともかく、子どもの胃袋ではもうこれ以上、食べるのは厳しいのではないか。 そう踏んだマニフィカは、お土産を買ってあげることにした。 2人が向かった先は……。 『空中☆魔法テーブル!! では、い・く・ぜ!! ドッカアアアアアアアアアアアアアン!!』 空中魔法テーブル業者は、今日も元気に青空で弾けていた。 花火も同時に上がっている。 「あわわ! さすがは人気店ですわね! 子どもも大人もたくさん並んでいますわ!」 「うわー、すごい! ひとがいっぱいだねー」 ジェニーの手を引いて、マニフィカがやって来たのは、お菓子詰め合わせパックが販売されている空中魔法テーブル業者のところであった。 ともかく、急いで並び、待つこと数十分……。 2人は無事にお菓子のパックを買うことが出来た。 パックの手提げを手に、2人は休憩スペースへやって来た。 テーブルの一角に座り、さっそくジェニーは、がさごそと袋を漁った。 マニフィカはその様子をまるで保護者のように微笑ましく眺めている。 「わー! すごーい! ラムネでしょ、チップスでしょ、あめ、ガム、チョコだー!」 ジェニーの目にはそう見えるらしい。 実際にそういうお菓子なのだが、それぞれ効用があるものの、幼いジェニーにはまだわからないようだ。 (ええと……。戦闘時のステータスアップのアイテムですわね! このラムネが攻撃力で、こちらのチップスが防御力で……) マニフィカは、注意書きを読みながら、ふむふむと納得していた。 「じゃじゃん! レポート突撃、聖アスラ学院広報部の未来だよ! 今日は、親子でお祭りにやって来たのかな?」 突然出現したレポーターに、2人は袋から顔を離して、驚いていた。 「え? 未来さん? 今日はレポーターですの?」 背後に映像スタッフを連れている人物が現れたが、未来は、知った顔だ。 人魚姫は、ほっとして微笑した。 「おや? マニフィカ、子どもいたんだー?」 「へ? この子? 違います! ティムさんの妹のジェニーさんです! 今日だけ、わたくしがお預かりしているのですわ!」 「ふ〜ん。そうなのね〜」 いつだったか、ウマドラの卵料理依頼で、オムライスを作ってあげて、手品をしてあげた子がいたけれど……。と記憶をたぐる未来。そうだ、彼女、あのときの女の子か、とぱっと思い出した。 「さて、ではお菓子詰め合わせパックについて一言どうぞ!」 未来が、しゃがんでジェニーにマイクを向けた。 カメラもジェニーとマニフィカをじっくりと映し出す。 「おかし、さいこー! おいちー!」 「ですわね! お祭り関係者の皆様、今日は最高の1日をありがとうございました!」 ジェニーはカメラの前ではしゃぎ、マニフィカは品よく、お辞儀をして、礼を述べるのであった。 B−4 萬智禽のお祭り参加 時刻は午後3時……。 世間一般では、俗に「おやつタイム」と呼ばれている時間。 そこに、1匹の巨大目玉が、にょきっといった感じに出現した! アイボリーな皮色に、真っ赤な瞳のモンスターこと、萬智禽・サンチェック(PC0097)である。 (さて、本日はマギ・ジスタンのおやつを食すであるな……。しかし、肉類は食べたくないので食べられる物が限られてくるであるな……。自分が獲ったたこ焼きも食べられないし、豚骨スープの冷やしラーメンも遠慮したい。……やはり、次の3品にするであるか) ぴぴぴ……。 念力で取り出したメモ用紙には、今日の予定が書いてある。 *トロピカルジャムサンド *ノーザンランド・チョコクレープ *お菓子詰め合わせパック (むふふ……。これなら私でも身体に気遣うことなく、がっつり食えるのだ!) *** まず1軒目……。 萬智禽はサンドイッチ店、トロピカルアイランドに並ぼうとするが……。 見慣れない魔物であるためか、彼の姿にぎょっとして、逃げる客がいて……。 (お、空(す)いたのだ、ラッキー! しかし、何かが悲しいような……) 割と順番は早く来た。 代金を払い、サンドイッチのコスプレをした店員から、トロピカルジャムサンドを受け取ろうとするが……。 「あ、ちょっと待つのだ! 私は手がないのだ! 今、念力を使うので、そのまま持っていて欲しいのだ」 ぷかぷか……。 ジャムサンドは、空を浮いた。 そして……。 ぐしゃり!! 萬智禽は大口を開けて、サンドイッチを一気に放り込み、一口で食べ切ってしまった。 「ウムン。これが南国フルーツのジャムであるか……。マンゴー、ココナッツ、パイナップル、パパイヤ、ザクロと、色んな味がいっぺんにしたのだ。やはりこの手の食物は、一気食いが好ましいのであるな!」 ご満悦の萬智禽は、サンドイッチ店を後にした。 今の一気食いを恐れた子どもたちの中には、泣き出す者もいたらしい……。 *** 次に2軒目……。 お次は、ノーザンランド・チョコクレープだ。 萬智禽は再び、列に並ぼうとするが……。 ここでも怪奇現象、発生! 突如現れた巨大目玉を避け、列が割れるが……。 しかし、この後、不幸が萬智禽を襲う! 「あの、そこのあなた、すみません……。ちょっとお伺いしたいことがあるのですが……」 ガーン! 警備員に呼び止められてしまった。 「え? ちょっと、警備さん! そりゃあないのだ! 私、こう見えても全然怪しい者ではないのだよ!」 職務質問を受け、10分が経過してしまった……。 ともかく、解放された目玉さんは、再び、列に並ぶことに。 事の終始を見ていた店員が、萬智禽に配慮してくれて、最前列に案内してくれた。 (ふう、助かったのだ……。いい人もいるものだなあ……) こうして、萬智禽は、スノウフレークで、あの有名なノーザンランド・チョコクレープを無事に購入できたのだ。 ぷかぷかぷか……。 チョコクレープが空を飛んでいる。 周囲の人たちは、この不思議な光景を眺めていた。 そして再び……。 ぐしゃり!! 巨大目玉の牙の中で、まるで獲物が喰われたかのように、一瞬でチョコクレープは姿を消してしまった。 「ウムン。これもまた美味なのだ。チョコ、バナナ、アイス、クレープ皮が一撃にしてかみ砕かれる味は絶妙なのだな!」 チョコクレープを満喫した萬智禽は、店員に礼を言い、別ブースへとまた移動するのであった。 *** 『空・中・魔・法・テーブル☆ 今日も張り切って行こうぜ! ドッカアアアアアアアアアアアアアアアアン!!』 大空では空中魔法テーブル業者が弾けていた。 しかも、魔法少女の狙撃兵までご同行していた。 「おお……。やっているのだな! 前から気になっていたが……さっそく私もお菓子を買うのだ!」 萬智禽が列に並ぼうとすると……。 子どもが、警備員が、逃げる人が!! それを見かねた店員が、個別に対応してくれた。 「テーブル業者さん……。なんかご迷惑をおかけしてすまんのだ……」 「いえいえ、この世界は異世界から来た方にはまだ不慣れなところもありまして……。周囲の人たちも巨大目玉の生き物には慣れていないのでしょう。ま、そういう私らも、実は異世界から来た業者でね……」 どうりで変人かと思ったら、やはりここの業者さん、異世界人らしい。 立ち話をしたところ、どうやら彼らはテーブルが空中を飛んでいる世界の出身者らしかった。 「お互いに苦労が絶えないであるな……」 「はい、全くで……」 ともかく、萬智禽はおもしろい話も聞けたし、お土産のお菓子パックも手に入れたので、そろそろ帰ろうとしていた。せっかくなので、このお菓子は、この場で一撃にて食するのではなく、夜食にしようと思い至った。そういうわけで、念力を使い、ぷかぷか浮かせながら持ち帰ることにしたのだ。 *** (やはり、というか……私の姿はこの場で目立つのであるな。……なんか子供が泣いていたし、逃げる人もいて、警備員にも不審がられて職務質問を受ける始末だったのだ。さて、買い食いが終わったので、さっさと退散するのであるかな?) 萬智禽が帰宅しようと、出入口ゲートへ向かっていたその時……。 「……む、あれはもしかして『テレビカメラ』という奴ではないだろうか? さらにもしかして『全国生放送』とかしているのではないのか? ……私が映るとお茶の間がパニックになる気がするのだが……なぜか興味を惹かれてしまうのである!」 どうやら萬智禽は、聖アスラ学院広報部の取材光景に遭遇してしまったようだ。 ちょうど広報部の未来もインタビューを終え、目があった萬智禽の方へとことことやって来てくれた。 「こんにちは! 聖アスラ学院広報部の未来だよ! では、ここで巨大目玉に突撃取材開始! さて、今日1日のジャンクフード祭りの感想をずばり言うと!?」 マイクとカメラを向けられて、萬智禽はしどろもどろしていた。 (ええと……。カメラに映るのはこうするのが作法だと聞いたことがあるな……) 萬智禽は、おもいっきりカメラの前にやってきて、にかりと笑いポーズを決めた。 「イエー、イエー! ブイサイン! ブイサイン! ブ・イ・なのだー!!」 実際にVサインできる手がないので……。 大口を開け、牙を剥(む)き出して笑いながら、「ブイサイン」をコールする萬智禽であった。 「ありがとうございましたー! おかげさまで良い映像が取れたよ!」 広報部未来は軽くお辞儀をして礼を言い、そろそろ集計時間が始まる会場へと急ぐのであった。萬智禽の方も、最後はおもしろいテレビ取材まで受けてしまい、今日は楽しい1日であったようだ。 *** こうして、出店側で働いていた者たちも、一般客としてお祭りに参加した者たちも、取材に来ていた広報部も、それぞれが思い思いにお祭りを満喫できたのであった。 聖アスラ学院商店街のジャンクフード祭りは、マギ・ジスの民らに爽やかな癒しを与える清涼剤のような祝祭である。今後も、マギ・ジスのジャンクフード祭りが、毎年開催されることを願って、今日のところはここで物語を閉じるとしよう。 <終わり> |