「魔女の特急便」(配達編)

第1回

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


●パートA 基本陣形の確認

参考画像A

A−1 雪道を行軍する調査部隊

●パートB ルート1攻略編

参考画像B

B−1 魔術書運送係+αの上昇飛行

B−2 前衛班の突撃

B−3 中衛1班の攻防

B−4 中衛2班の攻防

B−5 後衛の務め

B−6 ルート1、突破なるか!?

●パートC ルート2攻略編

参考画像C

C−1 フェンリルで氷水対策

C−2 魔術書運送係+αの進撃

C−3 前衛班が先陣を切る!

C−4 中衛1班、北側(左端)の人面ツリーと交戦

C−5 中衛2班、南側(右端)の人面ツリーと交戦

C−6 後衛班の行軍

C−7 ルート2は突破できるか!?

●パートD ルート3攻略編

参考画像D

D−1 全班の合流、陣形再編成

D−2 前衛班VS精霊たち

D−3 中衛1班VS精霊たち

D−4 中衛2班VS精霊たち

D−5 後衛班の援護

D−6 精霊戦の最終決戦




●パートA 基本陣形の確認


参考画像A



A−1 雪道を行軍する調査部隊


 こんこんと降り注がれる粉雪の中、ウィッチクラフト地区の雪原に入る一行がいた。
 彼らは、魔術書『モンストロギア』を抱えた調査部隊の精鋭たちである。
 本日、現代魔術研究所のシルフィー・ラビットフード(NPC)隊長の部隊は、マープル先生の依頼を受け、北の魔女ドロシアのところまで「特急便」を届けに来たのだ。

 では、まずは読者諸君に本日の勇者たちをご紹介しよう。

 最初にご紹介に預かるのは、巨大目玉のモンスターこと萬智禽・サンチェック(PC0097)である。なぜ彼がトップバッターかと言えば、それは彼こそが魔術書『モンストロギア』の運送係に志願したからである。

 今日の萬智禽は、防寒対策もばっちりだ。身体(目玉)全体に黒いマフラーをぐるぐると巻きつけ、その上に風のエル・オーブ(巨大なモス・グリーンのマント)まで羽織っているのだ。肝心の魔術書だが、これは白いショルダーバッグを背負っていて、マフラーとマントの中間的な位置で固定してある。しかも今回、何かと灯りが必要な戦闘も見込まれているので、松明も装備済みなのだ。

「むむ! そろそろルート1という雪原に入るようなのだな。いよいよ気を引き締めていくのだ!」

 ところで、萬智禽の上をぴょこぴょこと飛び回っている子猫もいる。こちらの猫、いや猫のぬいぐるみに憑依している精神体の幼女こと、ラサ・ハイラル(PC0060)である。ラサはいつもだったら相棒・ジニアス・ギルツ(PC0025)のフードの中が定位置なのだが、本日は依頼の都合により萬智禽の頭上に乗っているのだ。なお、ラサは精神体なので寒さは感じないため、防寒着は着込んでいない。

「おお〜! この先がルート1だね! ワクワクする! 今日は萬智禽の上で暴れるぞ〜!!」

 ここまでが魔術書運送係+αの紹介であったが、本日は彼らを護送するため、前衛、中衛、後衛といったポジションも存在している。

 さて、前衛(パーティの先頭ポジション)を務める人物は、本日、2人いるのだ。

 ひとりが、ラサの本来の相棒である魔法剣士ジニアスである。今回の戦闘は、ルート1で土属性の敵が出没すると予測されているため、彼はさっそく炎のエル・オーブ姿(火は土に強い)になっている。白地に赤い紋章が特徴的な魔法剣士衣装だが、冬服ヴァージョンでは、長袖・長ズボンのヒートテック仕様だ。さらに念のため、赤いマフラー、ニット帽子、手袋を防寒対策として追加で着込んでいる。

「よ〜し! ルート1へ入るのか! みんな、元気出して行こう!!」

 もうひとりの前衛を務めるのは、寒くても元気なヤンキー娘・ジュディ・バーガー(PC0032)である。本日のジュディは、防寒対策もばっちりで、新雪のように白いスキーウェア(ノーザンランドのスポーツメーカー作)を着込んでいる。しかも彼女の身体サイズに合うように、特大サイズだ。(防水性、保温性、伸縮性も優れている良品!)

「オウ、ここから、ルート1デスネ! ヘイ、ヴァンガード・チーム(前衛チーム)、ファイト、デース!(やってやりますよ!)」

 続いては、中衛陣を紹介して行こう。基本陣形の構成上、中衛は2班いる。中衛1班は、羅針盤から見て、北側のサイドから、魔術書運送係を守っている。一方、中衛2班は、同じく羅針盤から見て、南側のサイドから運送係を護衛している。中衛1・2班が、要するに両サイドの守備を固めているのだ。

 そして、中衛1班は、本日、2人の女性が守備を務めている。

 ひとりは、植物系・天然お姉さんであるリュリュミア(PC0015)である。本日の衣装も、若草色のワンピースにタンポポ色の幅広帽子だ。もともとが人外であるというが、あまり寒くはないのだろうか。いつもながらの服装で涼しい顔をして、るんるん気分で歌いながら歩行している。

「ふん、ふふぅ〜、ふん♪ 森のクマさんる・る・るぅ〜♪ アイスをパクり、ら・ら・らぁ〜♪」

 もうひとりは、エスパー女子高生(たまに魔法少女)の姫柳 未来(PC0023)である。いつもならば、超ミニスカートの制服でふりふりと歩いているのだが、今日は何と言ってもノーザンランドの雪原でのお仕事だ。そこでさすがの彼女も、珍しく、防寒着を着込んでいる。アルパカの毛がモコモコしているジャケットを着て、防水・保温加工付きの分厚いジーンズにブーツをはいている。

「リュリュミア、寒くないのかな〜? ふう、そろそろルート1ね! みんなでがんばろう!」

 ところで、中衛1班は2名だが、中衛2班は3名いる。

 中衛2班の最初のひとりは、お掃除の達人であり魔法少女なアンナ・ラクシミリア(PC0046)である。本日は、大地のエル・オーブを冬服ヴァージョンで着込んで、ツインテールをふりふりとしながら、護衛中だ。茶色基調のポンチョは全身を包み、ティアードスカートや黒ニーソも防寒仕様。魔牛皮の靴は防水作用もある。

「魔法少女衣装の冬服って、けっこう暖かいですわね〜! さあ、今日も魔物たちをお掃除してやりますわよ!」

 中衛2班のもうひとりの女性は、人魚姫・マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)だ。彼女自身、割と大柄な方ではあるが、そんな彼女を覆うかのように、本日は巨大なバックパックも背負っている。中には、「クリアランス」(状態異常解除スキル)の聖水入りである魔法のスキットルが、10個ばかり、詰め込まれているのだ。本日の戦闘予測によると、魔物たちの中には状態異常攻撃をする者もいるようなので、マニフィカは事前に対策を立てて来たのである。それにしても人魚は深海が出身なため、防寒には強いのだろうか。本日の彼女はいつも通り、貫頭衣の衣装である。

「ふう〜。荷物、さすがのわたくしでも少々重いですわね! しかし、ここからがルート1とのこと! 気合入れて行きますわよ!」

 中衛2班の黒一点こと、盾の魔術師・リシェル・アーキス(PC0093)もこの班で本日の守備を務めている。本日は防衛がメインとのことで、盾の魔術などの防御手段は特に必要とされることだろう。リシェルは抜かりなく、既に大地のエル・オーブ衣装(冬服ヴァージョン)だ。黒地に土属性の紋章が入った中華拳法着だが、中身は土系魔術の保温効果が施されている。念のため、黄色いニット帽子、マフラー、手袋も着用済み。

「あ〜、だるい! ばーさん、人使い荒いぜ! って、ここからが本番のルート1かよ! ま、先が長くなりそうだが、やるしかねえな!」

 最後に、後衛を固めるのは、妖精2人である。

 ひとりは、浪速の座敷童子こと、キューピーさん・ビリー・クェンデス(PC0096)である。本日の彼も、防寒装備は抜かりない。子どもサイズの綿入りドテラを着込み、頭部には、古風な蓑(みの)の笠を被っている。まさに笠地蔵ルックスである。しかも面白いことに、今日の彼は浮遊しながら歩いている。「飛翼靴」のおかげで、地面から30cmほど上を飛行しながら歩いている状態だ。身長の低い彼なりに、歩行対策もしたのである。

「う〜ん、ぬくいねん! 『マギ・カイロ』、あったまるでー! 隊長もどないですか? ルート1に入る前に、仲間たち全員にもカイロを渡すといいねん!」

 最後のひとりは、100歳を超える小学生ルックスの妖精&召喚魔術師のシルフィー・ラビットフードである。いつもはロリイタ衣装だが、本日は防寒加工のロリイタ衣装である。ゴシック・ヒートテック・ロリイタという斬新なファッションらしい。彼女はこの部隊の引率者であり、最高責任者なので、最後尾から部隊を見守りつつ、歩いているのだ。

「うむ、ビリーよ、『マギ・カイロ』、しかと、頂いた! うふふ、ぬくぬく〜! って、こら、あたし! もうルート1の入口じゃない!?」

 こんな感じで、本日、魔術書を運送する勇者たちは、雪原で、魔物たちとドンパチやることになるのである。一行は、無事に全ルートを潜り抜けられるのだろうか!?


●パートB ルート1攻略編


参考画像B





B−1 魔術書運送係+αの上昇飛行

「では、作戦とおり、行かせてもらうのだ! いざ、上昇!!」

 萬智禽は、エル・オーブのマントをひらりと翻し、空中へ上がろうとする……。
 最初は、「念力」でぷかぷかと上がるものの……。
 ルート1に入った時点で既に『モンストロギア』のパッシブスキルは発動しているので、周囲にいるノーザンデビルベアたちは、唸(うな)りながら近寄ってくる。
 北から2匹、南から2匹、凶暴なクマたちがのそのそと向かって来る。

「させるか!」

 ジニアスは、オーブの力で、手元に火炎玉を生成。
 サッカーボールほどの大きさになったところで、近くまで来たクマに目がけて投球!

「ヘイ、ベア! フリーズ、ネ!(こら、クマ、止まりなさい!)」

 ジュディもマギジック拳銃を2丁、腰元のフォルスターから引き抜いて、連射攻撃!
 雪原で火炎の気から弾丸を生成するのは難しいが、近くにいるジニアスから火炎の気を分けてもらい、なんとか生成。
 称号「ガンファイター・ジュディ」が発動したので、生成の遅れによる時間差はひとまず相殺。

 前衛2人による、火炎玉と、火炎弾丸の猛攻で、襲って来たクマ2匹は、後方へ消し飛んだ。

「ねえ、萬智禽まだ〜?」
「うぬぬ、ラサ殿、念力でもう少し、浮上すれば何とか!!」

 上昇すること2メートル。
 前衛班の攻撃を回避した別のクマ2匹は、萬智禽めがけて左右(南北)から飛び掛かって来た。

「こらぁ〜! 邪魔するのは悪い子よぉ〜!!」

 北側では、リュリュミアが、『ブルーローズ』を召喚し、青いバラのバリケードを展開。
 蒼々とした茨の壁が、飛び掛かって来たクマを弾き返す。

「おらぁ!! させねえぞ!!」

 南側では、リシェルが、『グランドクロス』を発動し、土の壁を生成。
 硬度の高い焦げ茶色の壁に阻まれ、飛んで来たクマは反射的にぶっ飛んだ。

 だが、魔術書の効力は半端なく、次々とデビルベアの増援がやって来る。
 先ほど、前衛が弾き飛ばしたクマ2匹に加えて、さらに別のクマの陣が前方から6匹も襲い掛かってくるではないか!

「くっ、防ぎきれるか!?」

 ジニアスは、「サンダーソード」を抜き出し、中段で構える。
 向かって来るクマの群れに対して、『ブリンク・ファルコン』の3連続攻撃を仕掛ける。

「ファイア、ファイア!!」

 ジュディも、2丁拳銃を乱射して、突進してくるクマたちを狙撃するが……。

「みんな、ごめん! 何匹かやり損ねた!!」
「ソーリー、そっち行ったヨ!!」

 前衛を潜り抜けたのは、8匹のうち4匹。
 うち最初に攻撃を仕掛けた2匹は既に戦闘不能だ。

「おい、シールド張れる奴は、全力で阻止しろ!!」

 リシェルも、『グランドクロス』を再展開し、クマの侵入を急いで防ぐ。
 彼の隣から、同じ種類のオーブを持つアンナも、『グランドクロス』で援護する。

「ふうぅ、すごい悪い子ねぇ〜!! バシバシ行くわよぉ〜!!」

 リュリュミアは、『ブルーローズ』を再展開し、茨のバリケードで運送係を守る。

「援護するね!」

 未来は、「ごついウォーハンマー」を両手で抱え、茨のバリケードの中で暴れているクマの頭にごちんと一発、お見舞いする。

 中衛1班のリュリュミアと未来は、クマ2匹と対戦し、手こずっている。
 中衛2班のアンナ、リシェル、マニフィカは、もう2匹のクマの攻撃を必死で阻止していた。

 後衛班は、出方を窺っていた。
 念のため、ビリーは、クマの耐性属性を『コピーイング』し、シルフィーは、『ノーム』の召喚準備をしていた。

 だが、クマの方も魔術書を奪いたいと必死であり、新たな増援が!
 さらに前方から4匹もやってくる!

「ふう、あと少しで、上昇完了なのだ!」
「よし、ボクも援護射撃するね!」

 群がってくるクマたち相手に、仲間たちの攻防の死角となるところへ、ラサが狙撃する。
「マギジック・ライフル」の火炎弾丸が鮮烈に火を噴いた。

「よし、では、一気に……」
「うん……」

 ちょうど運送班が5メートル上がり、いよいよ「念力」から風のオーブの力に切り替えて、急上昇するときになって……。

「グオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 デビルベアの1匹が、力を貯め、猛烈な速度で飛び上がってくる。
 クロー攻撃の一撃が、巨大目玉のど真ん中にクリーンヒット……。

 ガキィィィン!!
 三又槍が鉤爪(かぎつめ)の攻撃を相殺!

「おお……。すまないのだ、マニフィカ殿!」

「魔竜翼」で飛行していた人魚姫は、最後の上昇の瞬間を守りに来たのだ。

 しかし、喜んでいたのも束の間であった。
 下方から、同じ行動を繰り返すクマたちの連撃が!?

「とうっ、ですわ!!」

 格闘人魚から、『ブリンク・ファルコン』3連撃の突き攻撃が炸裂!
 デビルベアたちは、再び地に落下した。
 落下したところで、今度はシルフィーの『ノーム』たちの餌食になり、爆破。

「上がって来たものの……。地上の陣形から外れてしまいますが……。このまま随伴飛行してもよろしいでしょうか?」

「うん、マニフィカも一緒に行こう!」

 と、女性2人が話していたところ……。

「しかし、今から『ストームブースト』5倍速でルート1の目的地まで飛ぶのだ。マニフィカ殿の高度と速度では難しいのでは?」

「ご心配なく。遅れて低飛行で着いて行きますわ! 万が一、地上に降りる際や、何かで落下される際に、わたくしが下を飛んでいれば安心でしょう? 着地する際にも護衛しますわ!」

 うむ、なるほど……と、巨大目玉は考え直した。

「了解なのだ! では、マニフィカ殿も頼むのだ!」

 こうして、運送係が敵の射程から外れる上空90メートルへの上昇に成功し……。
『ストームブースト』5倍速で、一気にルート1のゴールへと突き進むのであった。
 運送係たちの下方では、人魚姫が速度を落とし随伴飛行していた。


B−2 前衛班の突撃


『モンストロギア』を抱えた萬智禽たちの上昇に伴い、地上では早くも乱戦になっていた。
 入り乱れるところ、現在、戦闘継続中のデビルベアは14匹。(うち6匹は既に戦闘不能)後方では、ボスのデビルベアも待機していた。

 ところで、この魔術書、魔物を引き寄せる効果は空を飛んでいてももちろん抜群だ。
 地上のクマたちは、空を仰いで、吠えていた。
 そこにスキが!?

「よ〜し! 運送係らは無事上昇&飛行中! ん? 敵の注意が!? 俺たちは、このまままっすぐ、地上からゴール目指すぞー!」

 ジニアスは前衛らしく、「サンダーソード」を振り回しながら、先陣を切り、疾走!
 注意力が削げながらも向かって来る4匹のクマたちを3連続攻撃で払い倒す。さらに『ファイアクロス』のタックルで、魔物たちを燃やして行く!

「オーライ! オール・オッケーって、ところネ! ジュディもガンガン行きマース!」

 ジニアスに続き、ジュディも前衛が対戦している4匹のクマめがけて、火炎拳銃を乱射。
「称号」で反応速度を補いつつ、魔法剣士の死角からガード&ガンファイト!


B−3 中衛1班の攻防


 先ほどの運送係上昇の件で、クマたちの陣形は乱れていた。
 中衛1班の周辺で、4匹のクマがグルグルと唸りながら、飛び掛かってくる。

「しつこい子は嫌いになっちゃうわよぉ〜!!」

 リュリュミアは、ここぞとばかりに、『ブルーローズ』をビシバシと振り回す。
 鞭(むち)の連続打撃に加え、花粉も同時にまき散らし、デビルベアたちを猛攻撃!
 クマたちは、次々と花粉症になり、茨のダメージに悶(もだ)える……。

「お〜い!! ここだよ〜!!」

 未来は、リュリュミアの攻撃から逃れたクマ1匹の前に突如現れた!
 突然現れたと同時に、デビルベアは強烈な一撃を浴びせようとするが……。
 瞬時に『テレポート』した未来は、敵の背後から「ごついウォーハンマー」の重い打撃をくらわせる!
 強烈な一撃に、クマは、ばたりとひっくり返った。


B−4 中衛2班の攻防


 中衛2班は、先ほどの戦いで1人減ってしまったものの、アンナとリシェルのコンビはまだまだ健在だ。

 デビルベア4匹が2人を襲う!

「グルルル!!」
「そこですわね!!」

 デビルベアが、クローの一撃でアンナを仕留めようと掛かって来たとき……。
 アンナの『ゴーレムパンチ』がカウンターで決まり、ベアが顔面から吹き飛んだ。
 強烈なヘビー級ボクサーパンチの一撃はカウントダウンを許さない。

 アンナがクマ2匹を相手していると同時に、リシェルももう2匹と戦っていた。

「グオオオオオオオオオオオ!!」

 デビルベアが、威嚇攻撃を放つ……。
 そのとき、同時に……。

「そらよ!!」

 リシェルが投げつけた「炎貝」が、威嚇途中のクマの頭上で火を噴いた!

「グオ!?」

 頭が火事になり、慌てるクマ。
 火が飛び火し、隣のクマもパニック!

「おら、おら、おらあ!!」

 リシェルは、シールド魔法の連続パンチで、クマたちを弾き飛ばした。


B−5 後衛の務め


 前衛班や中衛班ががんばっている頃……。
 前衛と中衛の対戦から逃げて来た2匹のクマが後衛班を襲ってきた。

「しっ、しっ!! あっち行くんや!!」

 もともと戦闘用ではないビリーは、クマににらまれて震えていた。
 だが、彼も今日は、攻撃手段を用意していて……。

「それ、これでどうや!!」

 シュールストレミング(世界一臭い塩漬けニシンの缶詰)を「小づち」から取り出し、開封した中身を、クマ相手に投げつけていた。

「グエエエエエエエエ!?」

 さすがのクマたちにも効いたらしく、臭さで踊っていた。

「一気に倒すよ〜!!」

 シルフィーは、召喚術式を終え、彼女の隣には甲冑(かっちゅう)武装の「光の騎士」がいた。

「行け〜、シャインクロス!! 光の制裁の一撃を!!」

 妖精に命令され、光輝く騎士の精霊は、大剣を振り被り、直線攻撃のクリティカル+弱点属性攻撃を炸裂!
 直線上で踊っていたクマたちは、輝く大剣の一撃で成敗!

「ふう……。やるやん、隊長! ぎりぎりセーフやで!」
「ふん、朝飯前よ!」(でも、お腹減ったよ〜)


B−6 ルート1、突破なるか!?


「ふう、『ストームブースト』5倍速はやはり速いのだな! もう到着である!」
「うん、ボクたちの作戦勝ちだね!」

 と、ゴール付近に着いた萬智禽とラサは上空90メートルで話し合っていたのだ……。

 しかし……。

「だが、ラサ殿。私たちだけで勝手に先へ進むわけには行かないのであるな?」
「そうだね。2人だけでルート2へ入るのはキツイし……。でも、今、地上に降りたら、間違いなくボスベアと戦闘になるね」

「どうすればいいのだ?」
「ひとまず、様子を見よう……。地上の仲間たちがボスベアを倒した頃を見計らって、降りよう。まあ、いざとなったらマニフィカもいるし、その辺は気楽に行こう♪」

***

 各班が必死で攻防しながら前進して行くことで、クマたちの数は徐々に減って行った。
 残るは、ボスの片目デビルベアと、彼の付近にいる2匹の手下だけである。

「グルルルル……」

「くっ、手ごわそうだな……」
「こいつ、なかなかヤルみたいヨ……」

 ボスベアと前衛の2人はにらみあいになった。
 お互いをけん制し合う駆け引きが始まり、なかなかどちらも譲らない。

 だが、ある瞬間、ボスベアが、闇の火炎を突然、吐き出す。
 しかも、前衛班へ向けて、ではなく、上空へ……。

「きゃあああ!!」

 ちょうど上空で待機していたマニフィカに「デビルブレス」のどろどろとした火炎が!
 暗い火炎でダメージを受けた人魚姫は、高度を落としてしまった。

「ああ、マニフィカ殿!!」
「マニフィカー!!」

 そして、マニフィカを超え、さらに上空へ炎が上がる。
 ボスの「遠距離攻撃」の射程は伊達ではなく……。
 下降して人魚姫を助けに来ていた萬智禽とラサにも炎上!

「ぐわっ、炎が!! しまったのだ!!」
「くう〜!! なんのこれぐらい!!」

 反射的にラサが反撃し、「マギジック・ライフル」の火炎弾丸がボスベアを狙撃!
 しかし、火炎弾丸の一撃も弱点属性であるはずなのに、体力自慢のボスは、ものともしなかったようだ。

「まずい、運送係やマニフィカが!? 俺が注意をそらす!!」

 ジニアスは、「魔黄翼」で飛び出し、低空飛行でボスベアへ剣で斬り込んでいく。
 ジュディはジニアスを援護するべき、「マギジック・ライフル」の火炎弾丸をボスへ狙撃。

 一方、最後の部下2匹も、同時に飛び出した。
 部下たちは、落っこちて来そうな魔術書を奪おうと、強襲体勢に出る!!

「させないわよぉ〜!」
「やらせない!!」

 中衛1班のリュリュミアと未来が、2匹のクマめがけて、走り出した。

「そうはさせませんわ!」
 中衛2班のアンナも、陣形がやや乱れるが、かまっていられないので走り出した。

「魔術書! それに仲間たちがピンチや!!」

 ビリーは『神足通』で上空へテレポートし、仲間たちの介抱に向かう。
 手元から『指圧神術』の派生アイテムである「鍼灸(はり・きゅう)セット」を取り出し、即座に治療。
 チクリ、チクリ、チクリと3連続の鍼の一撃を2人分も繰り返し、萬智禽とマニフィカの2人を援護。(ラサは精神体なので鍼が打てない)

 体力の秘孔が突かれ、2人は何とか動ける程度に回復し、再び上空へ逃げた。
 マニフィカが萬智禽を抱えて「翼」で上昇し、萬智禽が『ストームブースト』で再加速!
 ラサは、萬智禽の上から、下方へ威嚇射撃でけん制。

 一方、後衛では……。

「おい、シルフィー!! 俺に考えが!!」
「……うん、わかったよ、リシェル!!」

***

「おい、クマ野郎!! 俺はこっちだ! こっちで俺と決闘しろ!!」

 リシェルが、シールド魔法で加速し、走り出した。
 ジニアスとジュディが戦闘している大クマのもとへ、リシェルが全力でやって来た。

(え、リシェル!? ん? 待てよ、何か考えがあるのか!?)

 長年の付き合いで、ジニアスは、リシェルがやろうとしていることをそれとなく察した。

「ジュディ! リシェルの援護を!!」
「ワッツ?(え、何?)オウ……オーライ!!」

 盾の魔術師は自らおとりになり、デビルベア・ボスにシールド反転の一撃をくらわせては、「見切り」で回避し、逃げ回る。

 逃げ回るリシェルの死角から、ジニアスは『ファイアボール』を、ジュディは火炎弾を撃ち込み、援護に回る。

 だが、何ターンも続かないうちに……。

(シルフィー……。そろそろ頼む!! 俺も限界が!!)

 ボスベアの反応速度は、この雪原地区でもトップレベルだ。
 どんなにリシェルが日々、鍛えていたにしても、身体スペックの違いで追いつかれた!

 ボスが繰り出すクローの一撃がリシェルのみぞおちに決まり、跳ね飛ばされる!

「ぐはっ……やっちまった……」

 同時に、ボスは、周囲にいたジニアスにも連続でクローの打撃を打ち込んだ!

「くっ……間に合え、カウンター!!」

 だが、ジニアスすらも、カウンターが間に合わず、腹を打たれ、後方へ吹き飛ばされてしまう。

 2人を蹴散らしたボスベアは、今度はジュディを目指して猛速度で走って来た。
 ジュディも負けまいと、2丁で連射して応戦するが、追いつかれる……。

 前方で3人がやられる……。
 と、思われた、その最後の瞬間……。

 甲冑姿の「光の騎士」である精霊が、大剣を振りかざして、猛速度で突っ込んで来た。
 巨大な聖剣は大クマに、クリティカルヒットの大打撃をお見舞いする。
 しかも、敵の闇属性に対する弱点の光属性なので、効果は絶大だ。

 今までのPC陣によるダメージの蓄積、そして今の決め手となる召喚魔術の一撃……。
 デビルベアは完全にノックアウトされ、後方へ弾け飛んだ……。

 一方、リュリュミア、未来、アンナと敵対していたクマ2匹は、ボスが倒されると同時にどこかへ逃走してしまった。

「ふう〜、何とかなったねえ〜」
 強力な召喚魔術の一撃を放ち終えたシルフィーは、反動で動けなくなり、座り込んでしまった。

「隊長! 介抱しまっせ!」
 ビリーが鍼でチクリ、と肩のツボを刺す。

「ありがとー、ビリー!! 持つべきものは子分ね!」
 シルフィーは、元気を取り戻し起き上がった。

 こうして、ルート1の敵全体を倒してしまった調査部隊は、ルート2へと進むのであった。


●パートC ルート2攻略編


参考画像C



C−1 フェンリルで氷水対策


 ルート2へやって来た調査部隊たち。
 まず、ルートを進行するまえに、やっておきたいことがあるようだ。

「さて、このルートは氷水系の術を使う奴ばかりだという情報がある。なあ、シルフィー、できるだけ全員に『フェンリル』をかけてくれねえか?」

 リシェルが後ろにいるシルフィーへ問いかける。

「うん、いいよ。でもね、召喚魔術を使うと、1ターン使うよ。ここにいるメンバーは、既に空を飛んでいる運送係たち3人を除けば、8人だね。8ターン、時間稼ぎしてくれたら、全員に行き渡るかも」

 隊長の答えに、リシェルがグーのポーズで笑う。

「よし! ならば、俺らで時間を稼ぐから、それ頼む!」

 と、2人が受け応えをしているところに、葉っぱのカッターや、雪玉が北南どちらからの方角からも飛んでくる!

「それ!」
「ファイア!」

 北側のカッターを、ジニアスは「サンダーソード」で弾き返した。
 南川の雪玉は、ジュディが風の弾丸で相殺した。

「おう、ジニアスにジュディ、わりい! すまんが、そのまま、前衛の位置で踏ん張っていてくれねえか? 俺は後衛を守るからよ!」

「わかった、リシェル! なんとかやってみる!」

 そう答えたジニアスは、ジュディと共に、再び、固定砲台とも言える人面ツリーの遠隔攻撃を防ぐためにがんばるのであった。

 一方、中衛班たちも手抜かりはしていない。
 中衛1班のリュリュミアは、『ブルーローズ』のバリケードで防いでいる。
 中衛2班はアンナが『グランドクロス』で守り、詠唱中のシルフィーはリシェルが『グランドクロス』で守護している。

 そして、たまに上空から、炎の弾丸が、下にいるツリーの頭を目がけて落ちて来ていた。
 おそらく、ラサがライフルで、ツリーの葉部分を焼いているのである。

「……出でよ、氷の精霊・銀色狼の王フェンリルよ! 我に氷水魔術の吸収能力を与え給え!!」

 シルフィーの詠唱が終わり、まずは、ジニアスに『フェンリル』の加護がかかる。
 前衛の猛攻が続く中、続いて、ジュディにも『フェンリル』がかかった。

「よっしゃあ、これで雪玉に当たっても魔力が回復できる!」
「かもーん! ガンガン、来るデース!!」

 前衛2人は、ツリーが投げる雪玉にわざとぶつかり、回復を試みた。

***

「うう〜ん! バリケード、持つかなぁ〜」
「え、ちょっとリュリュミア、大丈夫!?」

 中衛1班は、リュリュミアが蒼い茨を張っているが、だんだんと猛攻で削られていく。
 未来はシールド系のスキルを持っていないので、茨のバリケードの中に身を隠している。
 だが、同じ班の相棒に頼ってばかりもいられないので、「魔石のナイフ」を駆使し応戦。

 そこに、銀の狼の洗礼が、2人へ順番にかかっていく。
 リュリュミアと未来は、氷と水の魔術を吸収できる体質に一時的にだが、なった。

「は〜い、バリケード、終わりぃ〜!」
「うん、閉まって大丈夫かな? 雪合戦でもしよう!」

 女子2人も、雪玉にわざと当たり、魔力を回復。
 一方で、上空にいるラサが北側のスタート付近のツリーの葉を焼き切ったらしく、もはや『リーフカッター』は飛んで来ないようだ。

***

「ふう……。『グランドクロス』って、何回も続けて出すと、魔力消費が激しいですわね! わたくし、もともとが魔法使いじゃないので、そろそろ……」

 汗を浮かべながら、アンナは中衛2班の位置から防衛していた。
 下手をすると、そろそろ土の壁を出せなくなるかもしれない……。

 そこに、『フェンリル』が舞い降り、魔法少女にも氷と水の加護が付与された。

「では、解きますわ!」
 土の防壁を解除し、アンナはわざと雪玉に当たってみる。
 すると、雪玉が、彼女の身体に溶け込んだ。

「う〜ん、リフレッシュですわね!」

***

「おい、シルフィー、『フェンリル』まだかー! 俺もそろそろキツイぞ!」

 後衛を守っているリシェルは、「グランドクロス」を張り巡らせ、シルフィーとビリーを守っていた。

「えらすんまへん、隊長はちょうど今、中衛班へ魔術をかけ終えたところやねん。そやな、リシェルさんのツボ、打ちまっせ!」

 ビリーは、鍼を取り出し、リシェルの両肩とみぞおちに、チクリ、と刺していく。

「魔力のツボ突いたんで、もうちょい行けまっせ! あと、さっきクマにやられたみぞおちの方もツボ突いといたんで、体力もじわじわ回復しまっせ!」

「おお、すまねえ、ビリー!」

 2人がこういうやり取りをしていたとき、まずリシェルへ、そしてビリーへ、『フェンリル』の加護が授けられ、氷と水を吸収できる力がついた。

「いいぞ、シルフィー、最後のひとりだ!」
 リシェルは、シルフィーを守るため、シールドを展開している。
 ビリーは、わざと雪玉にあたり、回復をしていた。

 ところで、スタート地点付近のツリーは、北南どちらの側の木も頭が禿げていた。ラサが火炎弾丸で焼き切ったためである。なので、彼らはもう『リーフカッター』が打てないのだ!

「はあ、はあ……。これで最後……ね……」
 8回目の『フェンリル』召喚が終わり、銀の狼はシルフィーにも乗り移った。
 これで妖精隊長も氷と水の吸収能力が備わったのだが……。

「うう〜。魔力の使い過ぎでくらくらする〜!!」
 倒れそうなシルフィーを、ビリーが支えた。

「隊長、これ食うねん! 『マギジス・メイト』で魔力回復や! それと魔力の首のツボ、刺しとくで!」

 ビリーは、シルフィーを介抱し、隊長は魔力切れの一命を取り留めたのであった。


C−2 魔術書運送係+αの進撃


 地上で、仲間たちが『フェンリル』の加護を受けるため、防衛戦をしていた頃……。
 ルート1から引き続き、萬智禽とラサは高度90メートルで行軍しようとしていた。
 少し高度を落としたところで、マニフィカも引き続き、一緒に飛んでいる。

「ふう、先ほどの戦闘は大変だったであるな。危うく撃墜されるところだったのだ。さて、まずは体力回復!」

 巨大目玉は、「念力」で「ワスプ特製ハチミツ」の瓶を取り出し、ゴクゴクと甘い蜜を飲み干した。これで体力は全快だ。

 そして、萬智禽はあることを思いつき、真下にいるツリーに『コピーイング』を試みてみた。

「ピピピ、ピピ、と。コピー完了である。これで、氷・水・土の魔術を50%の威力で反射できるであるな!」

「なるほどね。地上班が召喚魔術で氷と水の魔術を対策しているように、萬智禽の方は反射能力を得ておくんだね?」

 今回の依頼の相棒の行動に納得し、ラサは、にこにこしていた。

「そうだな〜。どうせ先へ進んでも、さっきのクマ戦みたいに最後に酷い目に遭いかねないし……。ボクたちも行く前に援護しよう!」

「そうであるな! よし、みんなを手伝うのである!」

 ラサは萬智禽の上から、ライフルの火炎弾で、真下にいるツリーめがけて狙撃するのであった。事前調査によると、人面スノウツリーの土系の攻撃手段は『リーフカッター』だ。なので、葉っぱを焼いてしまえば、あとは氷水系のスキルしかないため、『フェンリル』の加護を受けた地上班は回復し放題であろう。

 そういうわけで、2人は、スタート地点付近に生えている北南のツリーの頭を、上空から焼いて行くのであった。


C−3 前衛班が先陣を切る!


 ともかく、地上班全員に『フェンリル』が行き渡ったようだ。
 最初に『フェンリル』をかけてもらったジニアスとジュディは、前方のツリーたちの頭を焼いていた。
 スタート地点最寄にいたツリーの隣にいるツリーまで、北・南どちらも、既に禿げ頭にしてしまった。

 だが、すべての敵を完璧に相手にしていたのでは、らちが明かない。
『フェンリル』が全員に届いたのを合図に、前衛班は歩みを進めた。

「よし、では焼いていくぞ! どっからでも来い!」
「やってやりマース!!」

 ジニアスは、「魔黄翼」で飛び回りながら、火炎玉を放って行く。
 周辺の木々は焼かれ、反撃に雪玉を投げて来るが、『フェンリル』付きの彼は回復してしまう!

「そら、そらー!」

 たまに『リーフカッター』も襲って来るが、土属性は吸収できないので、剣の斬撃で叩き落としながら、魔剣士は進んで行く。

「ファイアー!!」

 ジュディも同じく、雪玉に当たって回復しながら、2丁拳銃を撃って行く。
 ジニアスが北方向のツリーを焼き払い、ジュディが南方向のツリーを焼き払う。
 2人は、たまに葉っぱ攻撃を相殺し、がんがんと突き進むのである。

 前衛たちの猛攻に負けまいと、人面ツリーたちは強硬手段に出た!
 南北どちらのツリーも、『ブリザードブレス』を口元から噴射する。
 氷の吹雪が巻き起こり、前衛班を襲う!

「あはは! ありがとう、人面ツリー! これで魔力は全快だ!」
「サンクス、ネ! キャハー、フィールス・グッド!!(いい気持ち!)」

 巻き起こる氷の嵐を、前衛班がぐんぐんと吸収し、魔力に変えて行くのであった。


C−4 中衛1班、北側(左端)の人面ツリーと交戦


「きゃー、雪合戦、この、このー!」
 雪を顔面に浴び、喜ぶ未来。
 それは、魔力を吸収できるからである。

「うふふぅ〜。雪玉を投げるなんて悪い子ねぇ〜!」
 とは言うものの、リュリュミアも雪玉を浴びながら気分良く回復している。

 上空のラサ、そして前衛の2人が、向かい来るツリーの葉っぱを全て焼いてくれたので、中衛班に『リーフカッター』が当たる心配はない。むしろ、雪玉攻撃ばかり来るので、魔力回復に持って来いだ。

「きゃー! 氷の吹雪ー!」
「うふふぅ〜。きれいな景色ねぇ〜!」

 中衛班の女性2人は、前衛班を通り越した氷の息吹に打たれているのである。
 だが、『フェンリル』効果があるので、ダメージはない。
 むしろ大回復だ!


C−5 中衛2班、南側(右端)の人面ツリーと交戦


 中衛2班は、マニフィカが上空へ抜けたものの、リシェルとアンナで行軍している。
 この班にしても、既にラサや前衛たちが木々の葉を焼いたので、『リーフカッター』を受けることはない。

「へへ、雪玉をくらうってのも、たまにはいいもんだな!」
「うふふ、意外と楽しいですわね!」

 リシェルとアンナは、ルート2の前半戦はシールドを張って大変だったが、今ではほとんどやることがない。ひたすら、敵の攻撃を受けては、『フェンリル』効果で次々と回復し、好調だ。

「きゃあ、吹雪ですわ!」
「よっしゃあ、大回復!」

 前衛班を越えて来た『ブリザードブレス』は、またもや中衛2班の回復手段になるのであった。


C−6 後衛班の行軍


「隊長、ほんま平気かいな? ルート1でもルート2でも、魔力、使い過ぎちゃう?」
「うん、なんとか。ビリーが回復してくれたお陰で、少しは持つかな?」

 中衛班が進む後、後衛班も続いて行軍。
 既に葉っぱを使い切ったツリーは、雪玉と氷の吹雪しか攻撃手段を持たない。
 多少の疲れで少しよれているシルフィーを支えながら、ビリーは30cm上空を靴で飛行しつつ、移動する。

 途中で当たる雪玉や吹雪の残りは、後衛班の疲れた魔力を癒してくれた。
 ビリーも先ほどの小づちや鍼で多少の魔力は使ったので、魔力回復はありがたい。
『フェンリル』はやはりこういった場面で最も役立つ精霊なのだろう。

 シルフィーを支えながら進むものの、ビリーは前方の仲間たちの動きに注意していた。
 何が起きても、いつでも仲間を回復できるようにするためである。
 だが、彼の心配は、ゴール付近まで、杞憂に終わったようだ。


C−7 ルート2は突破できるか!?


「うむ。ラサ殿。いい感じに木々は丸坊主なのだな?」
「うん。だいたいこんなもんじゃない?」

 上空にいる2人は、下方の人面スノウツリーの葉っぱを焼いていた。
『ストームブースト』のおかげで、空中移動はけっこう自在に動き回れた。
 ラサのライフルで、ルート2内にいるほぼ全てのツリーの頭が丸焼きだ。
(ゴール付近の北南のツリーのみまだ手が回っていない)

 たまに下方から、上空の魔術書を狙い、攻撃が来る。
『リーフカッター』だったり、『スノーボール』だったり……。
 だが、下方で飛んでいるマニフィカが槍で弾いてくれるし、ラサが風の弾丸で撃ち落としてくれるので、萬智禽の空の旅は快適であった。

***

「さて、いよいよボスの氷壁魔物のところへ来たのであるな?」
「うん。予定通り、簡単に飛び越えよう!」

 と、2人が上空で氷の壁の上を通りかかったとき……。

 氷の弾丸が下方から次々と発射!
『アイスボール』の大群が魔術書と運送係たちを狙う!

「それ、えい、やあ!」
 下方では、飛行中のマニフィカが、槍を振り回し、何発か落としてくれた。

「ふふん、私は全く平気なのだ!」
「じゃあ、ボクは隠れるね!」

 ラサは、萬智禽の頭上でしゃがんだ。
 そして、氷の弾丸は巨大目玉をことごとく襲うのだが……。
 すべて「反射」し、弾丸は1発も当たることがなかった。

「『コピーイング』はさすがなのだな……」
「OK! これで通過だね!」

 萬智禽、ラサ、マニフィカは、戦闘することなく、氷壁魔物をちょうど飛び越して行ったのである。

***

 上空の班3人が氷壁を通り越して行くまで、地上班は待機していた。
 先に運送係たちを無事に行かせたいからだ。

 氷壁付近の最後の人面ツリーは、北南どちらもまだ葉がある。
『リーフカッター』が調査部隊を狙う!

「お仕置きよぉ〜! 悪い子は腐ってようねぇ〜!」

 未来の『テレポート』に運ばれ、リュリュミアはまず北の人面ツリーの真ん前に来た。
 そして、木に手を当てて、みるみると木を腐らせて行く!

 それが終わると、再び、『テレポート』の運送で、南の人面ツリーのところへやって来る。
 ここでも、『腐食循環』を発動し、一瞬で木を土へ返してしまった。

 木を始末し終えた2人は、再び、基本陣形に復帰した。

***

 氷壁魔物へ近づく度に、抵抗のためか、氷の弾丸が何発も連続で射撃される。
 だが、地上班全員が『フェンリル』の加護を受けているので、いくら氷の弾丸が当たっても、回復手段にしかならない。

「よし! 運送係たちは通過! 俺たちも行くぞ!」
「ラジャ!」

 ジニアスは「魔黄翼」の高度を上げ、ひょい、と厚く高い氷壁を飛び越していく。
 ジュディは、飛行しないので、氷壁魔物の前で、仲間たちの誘導をしていた。

 中衛1班もやすやすと飛び越えて行く。
 未来は、『テレポート』で難なく通過。
 リュリュミアは、アイテム「しゃぼんだま」に乗って、ぷかぷかと上空を通過して行った。

 中衛2班も問題はない。
 リシェルは、「魔白翼」を出して、氷の壁をひとっ跳び。
 アンナは、ローラーを仕込んでいた靴で、氷壁を駆け上がり、スケートして通過。
 なお、氷壁魔物はカウンターで氷攻撃をしてきたが……。
『フェンリル』付きのアンナは回復するだけであり、阻害される心配は一切なかった。

 あとは……。

 後衛班のビリー、シルフィー、誘導していたジュディが残った。

「隊長、どないしましょ? その羽、飛べるかいな?」
「うん、あたしは、ぱたぱたと空から行こう!」

 とりあえず、シルフィーは飛べるらしく、背中の羽をぱたぱたとはためかせて、氷壁魔物を通過して行った。

「ええと……。ジュディさん、ボクの『神足通』で一気にテレポ通過しまっせ!」
「プリーズ、ネ! 頼りにしてマース!!」

 ともかく、ビリーのテレポート運送により、ジュディも一緒に無事、通過できたようだ。
 調査部隊はルート2でボス戦を経由することなく、飛び越してクリアしてしまったのであった。


●パートD ルート3攻略編


参考画像D



D−1 全班の合流、陣形再編成


 ルート3に入り、調査部隊たちは、地上で合流することにした。
 ここで、今一度、基本陣形を整え直した。

 まず、萬智禽の上にいたラサは、ひょこりと降りて、ジニアスのオーブにあるフードの中に入った。つまり、定位置に戻ったのである。

 そして、運送係の萬智禽は陣形の真ん中に復帰し、マニフィカは中衛2班の位置へ復帰した。

 他のメンバーたちは変わりなく、そのままの陣形を保っている。
 なお未来のみ、ここで魔法少女(風のエル・オーブ)へ変身して攻撃パターンを変更した。
 その他、マニフィカは「クリアランス」のボトル一式を、サポート役のビリーへ預けることにした。

***

「さて、どうしたものか? 事前の情報によると、このルートにいる敵は、8体はいるらしいね。しかも魔法陣付近は敵の魔力に有利だし……。なんとかして、敵を魔法陣から引き離せないかな?」

 前衛班のジニアスが遠方の敵を凝視しながら、皆に相談を持ちかけた。
 すると、ジュディが答える。

「では、ガンやライフルでシュートして、おびき寄せるというアイデアは、どうデース?」

 いや、と萬智禽が即答する。

「その必要はないのだ。私が持っているこの魔術書は魔物を寄せるのだ。ただ持っているだけで、魔物たちは頼んでもいないのに、勝手にこっちを攻撃してくるのだ。ほら、精霊殿たちがすぐそこまでお出迎えなのだよ?」

 前衛班が前方へ注意を向けると、すぐそこまで、氷の精と雪の精たちの群れが迫っていた。


D−2 前衛班VS精霊たち


「よくもここまで来たね、おまえたち! その魔術書を寄越し!」
「そうなのです! 氷の精様にその本を渡して、ここから立ち去るのです!」
「そうだ、そうだ!」
 以下、同文。

 出迎えたのは、氷の精(ボス)と雪の精たちだ。
 萌えな敵キャラたちが本をくれ、と催促して来た。

「渡すわけがないだろう! 俺たちはこの本を配達しに来たんだ!」
「やだ、渡さないよ!」
「ザッツ、ライト!(その通り!)ユーたちにマジックブックはあげまセーン!」

 ジニアス、ラサ、ジュディの否定の即答に対して、精霊たちが聞き分けるわけがなく、さっそく戦闘開始になった。
 前衛班は、氷の精と付近の雪の精2体を相手にすることに!

 氷の精は、『アイスソード』を召喚し、さっそく飛行して飛び掛かってくる!

 ガキィィィン!!

『アイスソード』と、ジニアスの「サンダーソード」が刃渡りでぶつかり合った。
 腕力ではジニアスの方が上だが、小回りの利く速度は、氷の精の方が上である。
 精霊は、何度も金属音を立てて、攻撃を繰り返してくる。

(くっ、俺の「サンダーソード」の動きについて来るなんて……なんという速度!?)

「そこだね!!」
 ラサが銃撃を仕掛けるが……。
「甘いわ!!」
 氷の精は、難なく回避……。

 敵のスキを見て、たまにラサが、ジニアスのフードから銃撃を放つ。
 だが、ラサの風の弾丸すらも、『アイスバレット』(氷の弾丸)で全て相殺。
 この精霊は、剣・銃どちらもかなりの腕前のようだ。

(うっ……。外見はカワイイけれど、意外と強い……)

 ジニアスたちが、つばぜり合いをする一方……。
 雪の精2体とジュディは銃撃戦を繰り広げていた。

「撃つです、撃つです、撃つです!!」
「ばれっとぉー!!」

「ヘイ、ファイア!!」

 雪の精たちは、氷の弾丸である『アイシクル』を左右から連射してジュディを狙う。
 ジュディも負けまいと、2丁拳銃で、風の弾丸を連射する。
「称号」の力も発動し、2体の敵相手に、次々と弾丸攻撃を相殺!


D−3 中衛1班VS精霊たち


 中衛1班には、2体の雪の精たちが襲い掛かって来ていた。

「くっ、なにこの萌えな子?」
「ぬぬっ、萌えで負けるものかです!」

 精霊たちは、未来にがん飛ばしていた。
 萌えで負けるか、と。

「ならば、萌え勝負!」

 未来は、萌葱色のミニスカの裾を片手でひょいと持ち上げた。
 もう片方の手では、太ももに巻いているフォルスターから銃を取り出す。
「マギジック・レボルバー」を刺し抜いて、敵に銃口を向け、乱射!

 風の弾丸が勢いよく放たれ、雪の精霊たちを撃ち抜く!

「きゃあ! なにそれ、危ないじゃない!」
「くふふ、ならばこっちも萌えで返すのですね!」

「ちゃらりら、ちゃらりら、ちゃらららん♪」
「てぃんくる、てぃんくる、精霊さん♪」

 精霊たちは『ティンクルダンス』を炸裂し、アニソンの振り付けみたいに、色っぽく踊り始める!

「まずい! あの踊りにやられたら、大変!」
 未来は慌てて、風の弾丸で射撃するが、精霊たちにはなかなか当たらない!

 一方、リュリュミアは……。

「むにゃむにゃ……。眠いぃ〜……。みなさ〜ん、がんばってねぇ……」

 どうやらルート2までの戦いで疲れ果てたようで、居眠りしていた。
 しかも「しゃぼんだま」に乗って、気持ちよさそうだ。

「てぃんくる、じゃ、じゃじゃん☆ うはうは〜☆」
「うふふん、うふふ、私たち、雪の精〜♪」

『ティンクルダンス』が完成し、未来もハマり、一緒に錯乱して踊り出した。

「うふふ、わたし、未来、魔法少女♪ 萌えダンス、萌え、萌え☆」

 同じく、「ダンス」の効果を浴び、居眠りしていたリュリュミアまで。

「わたしぃ、天然植物のお姉さん〜、リュ・リュ・ミ・ア、リュ、リュ、リュ♪」

 中衛1班は混乱の渦に呑まれてしまった……。


D−4 中衛2班VS精霊たち


 中衛2班は、3体の雪の精と戦闘になった。
 この班はちょうど1対1の戦いが3組となった。

「ブリザードビィィィム!! ブリブリー!!」
 雪の精は、手元から、氷結のビームレーザーを出して、アンナを襲う!

「なんの、その程度!!」
 機敏な動きで、ローラー仕込みの魔牛靴を雪原でターンし、無事に回避。

 その後も、『アイシクル』の弾丸を撃つものの、素早いアンナは回避し続けた。

「ふう、ふう、やるじゃない……。ならば、萌えで勝負!」
「望むところですわ!」

「てぃんくる、てぃんくる、雪の精霊たん☆ びびび、と、ブリザード、ぶるる♪」

(待っていましたわ、この瞬間! これで仕留めます!)

 アンナは、『コピーイング』スキルを発動し、敵のダンスを寸分の狂いもなくコピーして、踊り出す。

「てぃんくる、てぃんくる、雪の精霊たん☆ びびび、と、ブリザード、ぶるる♪」

 だが……。

「やーい、かかったわね! 私はもともと『萌え』属性だから、その攻撃は吸収しちゃうのよ!」

 現に、精霊は、アンナのコピーダンスの萌え攻撃を魔力へと吸収してしまった。
 恐るべし、萌えパッシブ。

 一方、アンナは……。

「わたくし、フランス令嬢の萌えキャラ、萌えアンナ☆ クリーンナップですわ、うふふ♪」

 混乱の渦に呑まれ、てぃんくる、てぃんくると、ダンスを踊り出してしまった。

(なんてね、そのふりですわ。「レヴィゼルのお守り」がありますから、無効化ですわ……)

 敵が油断しているその隙に、アンナは、『ゴーレムパンチ』を繰り出す!
 右ストレートの一撃で、雪の精を叩きのめしたのだった。(『ゴーレムパンチ』は魔術攻撃でもあるので、魔術的生命体にもダメージはある)

***

 アンナが戦闘を開始したと同時。
 リシェルと雪の精がにらみ合っていた。

 にらみ合いが終わると同時に、精霊は踊り出す。

「萌え、萌え、うふふ、ひたすら萌え☆ 雪のダンス、きらきら、りん♪」

『ティンクルダンス』の猛攻がリシェルを襲う!
 しかし、ダンス攻撃を受けた側は何ともなかった。

「ふん、その程度、無効化済み!!」

「レヴィゼルのお守り」がリシェルを守ってくれていたおかげで、全く何ともない。
 シールド魔法を駆使し、魔力のこもった素手で、リシェルは殴りつけた。
 ダメージを受けた、精霊は一度、後退。

「な・ら・ば☆ ブリザードビィィィム、ブリブリー!!」
 精霊の諸手から、冷凍光線の直撃が入る!

 だが、リシェルは……。
「おら、反射!」

『スキル・ブレイカー』の反射魔術により、ブリザードビームはあらぬ方向へと反射して行ってしまった。

「おい、どうした? もう終わりか?」

「むむむ、格なる上は、これで決まりよん☆」

 お次は、『アイシクル』の弾丸がリシェルを襲おう。
 盾の魔術師の方も、『スキル・ブレイカー』で反射させ、弾き返す。

(ちっ、魔術的生命体か……。厄介な奴め。こっちの魔力が尽きる前に敵の魔力をカラにしねえといけねえから、だりいな……)

***

 戦闘開始と同時期、マニフィカは、雪の精の最後の1体とにらみ合っていた。

(相手は精霊……。下手な動きをすると命取りですわね……。さて、どうしたものでしょう?)

 マニフィカの焦りを察知したのか、雪の精はいきなり、踊り出した。

(むっ!? 『ティンクルダンス』ですわね! ならば!!)

 人魚姫は「トライデント」を振り回し、阻止にかかる。
 ダメージは与えられなくても、威嚇ならば、と。

 だが、精霊は意外な行動に出た。

「吹雪よ〜! 吹き荒れるのです〜! ブリザードするのです〜!」

 雪乞(ゆきご)いの踊りを、まるでこんこんと降り注ぐ牡丹雪(ぼたんゆき)そのもののように……精霊は舞うのだった。

 天候は、吹雪へと「天候変換」され、雪の風圧と量が増加して来る!

(その手で来ましたか……ならば、わたくしも!)

「今ですわ、ウネお姉さま!」

「ラジャよ〜!」

 マニフィカの影から、水の精霊であるウネお姉さまが出現!
 お姉さまは、ウネウネと踊り出し、「天候操作」を唱える。
 一瞬にして、「吹雪」は「晴れ」になってしまった。

「やったわね! ならば……!」
 雪の精霊は、再び、天候を「吹雪」にして……。

「それならば、こちらも……!」
 マニフィカとウネが、再び、「吹雪」を「晴れ」にする……。

「もういっちょ!」
 そして、「晴れ」が「吹雪」になるが……。

「聖アスラバッジですわ!」
 マニフィカの胸元でバッジがキラリと光り、ウネに魔力が注入!
 ウネは強烈な「天候操作」により、「晴れ」どころか、「快晴」にしてしまった。

「ふう……。もういいわ。普通に戦うです!」
 あきらめた雪の精は、『アイシクル』をマニフィカに撃って来た。
 人魚姫も、槍を回転させて、氷の弾丸を弾き返した。


D−5 後衛班の援護


 他の班が敵をすべて引き受けてしまっているので、後衛班は敵対する相手がいなかった。
 なので、必然的に全部の班の援護に回ることになる。

 最初は戦況を見守っていたが……。
 まず、中衛1班が不利になったようだ。
 未来とリュリュミアがダンスにやられてしまい、敵と一緒に踊っていた。

「お助けに来たやで〜!!」

『神足通』で颯爽と登場したキューピーさん!
 座敷童子は、マニフィカから預かっていた「クリアランス」ボトルを、未来とリュリュミアにぶちまけた。

 すると、2人は即座に正気を取り戻す……。

「あれ、わたし、今、何を!?」
「ん? どうかしたのかしらぁ〜」

「ちっ、このままだと面白かったのに……」
「ちっ、つまんない……」
 精霊2体は舌打ちをしていた。

「我が土の精霊、ノームよ……。この愚かな精どもに、大地の制裁を!!」

 シルフィーの詠唱、『ノーム』が完成した。
 地中から、にょろにょろした細長いお化けたちが登場!
 頭上の精霊たちを目がけて、集中的に爆裂の連続攻撃!

「きゃあ、お化け!」
「やだー、なにこれ!」

 雪の精たちは、一度、体勢を崩した。

「ありがとう、シルフィー! ここはわたしたちが!」
「さてぇ、もうひとがんばりしますかねぇ〜」

 未来は魔法の拳銃を構え、リュリュミアは茨の鞭(むち)を構えた。
 ひとまず、厳しい戦いながら、再戦だ。

***

 次にピンチなのは、前衛班であった。

 ジニアスとラサの2人掛かりであったが、ボスの氷の精に押されていた。
 氷の精は、『アイスバレット』を本気で連射した後、転がってしまったジニアスとラサのスキを突いて、キラリと歌い出す。

「くーる、くる、くる、くる、ぱー☆ 私が、氷の精、びゅーてークィーンなの〜♪ ら・ら・らん☆」

 射撃攻撃で負傷し、気を取られていた2人……。
(魔術攻撃でもあるので、ラサにもダメージがある)

 気が付いたときは、『くーるびゅーてぃそんぐ』の射程内に冒険者たちは入っていた。

「うわー、凍結だー!?」

 ジニアスは、状態異常を受けた……。
 と、思ったが、「レヴィゼルのお守り」が機能し、彼を守ってくれた。

 だが、ラサはカチコチに凍ってしまった。

「うっ……。ラサ、しっかりしろ!!」

 と、パニックになっているところで。

「お助けしまっせ!」

 ビリーが現れ、「クリアランス」のボトルをラサにぶっかけて、異常を解除。
 一方、負傷しているジニアスの肩の秘孔に鍼をチクリ!

「ふう、助かったけれど……」

 ジニアスとラサは敵の接近にじりじりと後退する。

「そう、助かったけれど、こちらの優勢に変わりはないわ!」

 氷の精霊は冷たく笑っていた。

***

 ジュディは雪の精霊2体相手に、ずっと射撃攻撃の攻防を繰り返していた。
 先ほどのルート2で、魔力はだいぶ回復したものの、それでも2体相手に、射撃の連続攻撃はそろそろ堪えて来た。

(むむっ……。MPが尽きたら、やられてしまいマース!)

 ジュディが拳銃をリロードしていると同時に、精霊たちも踊り出していた。
 そこに、白いお化けが地中から連続爆破!

「オーマイガッド!! オウ、アレは……!?」

 シルフィーの『ノーム』がキレイに決まり、地中からの爆撃に精霊たちが吹き飛んだ。

「サンクス、シルフィー。バット(だが)、そろそろヤバいネ……」

***

 中衛2班もそれなりにピンチだった。

 アンナは『ゴーレムパンチ』の一撃で敵を仕留めたと思ったものの……。
 雪の精は、倒された直後、ひょっこりと起き上がった。

「アイス、行っきま〜す☆」

 お次は、『アイシクル』の連続射撃でアンナを襲う。
 魔法少女は、『グランドクロス』を展開し、防いだものの、ジリ貧だ。

 一方、リシェルとマニフィカも気がついたときは、背合せに戦っていた。
 リシェルは、シールド魔法で攻防を何度も繰り広げても、精霊は弱らない。
 マニフィカの方も、天候の操作なり変換なりの戦いはひとまず終わったものの、もともと水属性の人魚姫には攻撃手段が通じ難い相手だ。

 そこに、ビリーとシルフィー登場!

「もうかりまっか!」
 ビリーは、鍼を射撃し、アンナ、リシェル、マニフィカに素早く刺して行った。
 秘孔が刺激され、一時的に体力と魔力が微量、回復した。

「行け、我が、地中の僕(しもべ)たちよ!」
 シルフィーの『ノーム』が炸裂し、精霊3体は、同時に、瞬時に、爆風で吹き飛ばされた。
 もちろん、吹き飛ばされただけで、終わったわけではない。

「あのさ、そろそろ決着つけないと、各班、デッドエンドね?」
 シルフィーは、体勢を整え直している中衛2班の全員に話しかける。

「ああ……。そろそろ俺たちの魔力が切れてやられる頃だな……。なあ、シルフィー……。俺に考えがある……それと萬智禽、ちょっとこっち来い!」

「むっ!? そろそろ真打の登場であるな!?」

 実は萬智禽、陣形の真ん中で守られていたので、このルートの戦闘には未だ参加していないので、無傷だ。各班の戦闘中も、ひたすら魔術書を鞄で抱えて、守っていたのだ。本来ならば、敵たちは真っ先に萬智禽を狙ったのだろう。しかし、精霊たちは各班との熾烈(しれつ)な戦闘になり、巨大目玉と魔術書を襲うまでに気が回っていないようだ。

 さて、リシェルたちが立てた最後の作戦とは……!?


D−6 精霊戦の最終決戦


「やーい! 精霊ども! こっちへ来るのだ、べろべろばー!!」

 萬智禽は、大口を開けて、巨大なベロを出し、精霊たちを挑発している!
『モンストロギア』の魔力も健在で、妖しい瘴気と共に、精霊たちを感化する!

「む、本はあそこね! みんな、作戦変更! 今から全員であいつから本を奪うわ!」

 氷の精は、「統率」のスキルを発動し、その場にいる精霊全員に命令を出した。
 全部で8体の精霊は、一斉に、萬智禽を目指し、すっ飛んでくる!

「そらあ、こっちなのだよー!」

 萬智禽は、マントをひらり、と翻し、風の出力を高め……。
 5倍速の速度で、北西方角へぶっ飛んだ。

「逃がすものか! 者ども、追え、捕らえろ、本を奪え〜!」(氷の精の号令)
「こら〜! 待て、待て、待て〜!!」(雪の精たち)
 以下、同文。

 精霊たちも、速度でなかなか追いつけず、飛び道具を使って来る。
 氷の精は、『アイスバレット』を乱れ撃ち、雪の精は、『アイシクル』を乱射する。

「ぎゃー! 危ないのだねー!!」(と、言いつつ、耐性『コピーイング』済みなので反射なのだ! ……うぎゃっ、50%の出力だったので、今、1発、当たったのだな!?)

 追われている方は、やがて出力を6倍、7倍、と上げ……。
 猛速度を出しつつ、雪原ルート3の北西端(いわゆる画面左上端)まで追い込まれた。

「うふふ。観念するのね、目玉! もう逃げ場はないわ!」
 氷の精が『アイスソード』をぎらりと抜き、萬智禽へ迫る。

「いつでも撃てるですよ! みんなで撃ったら、おまえは死ぬです!!」
 雪の精たちも、各自、武器を取り、集中砲火できる用意だ。

「あはは! かかったであるな! 観念するのは精霊殿たちなのだな!」
 余裕で笑う萬智禽の姿に、あっけにとられた精霊たち。
 そういえば、本と運送係に気を取られていたが、巨大目玉には仲間たちもいた……。
 何かが、おかしい……。

 などと、気がついた頃はもはや後の祭りというやつだろう。

「……我が精霊との盟約により、シルフィー・ラビットフードが闇の精霊へ命ずる。漆黒の悪魔、イビルアイよ、この愚か者どもを闇の恐怖で喰らい尽くし給え!」

 萬智禽の付近へ集まっている精霊8体の背後に、妖精たちが現れた。
『神足通』(テレポート)のスキルを発動したビリーに抱えられ、シルフィーが突如出現。
 しかも、彼女の胸元には、リシェルから貸してもらった「聖アスラバッジ」が輝いている。これの意味するところは、敵に恐怖&スタンを与える「2ターン」の術が、2倍の「4ターン」の強さで行動不能に陥れるということだ。

 漆黒の悪魔は巨大な眼球でにらみを利かせ、半径10メートル以内にいるすべての精霊の心を闇の恐怖で蝕(むしば)んだ。

「きゃー、なにこれ!?」
「わー、心が真っ暗!?」
 以下、同文。

 雪の精たちが、心の闇に呑まれ、その場で倒れてもがきだした。

「くっ……、うつだわ……」

 氷の精も心が恐怖で麻痺し、憂うつになり、ばたりと倒れた。

 だが、撃ち漏らした雪の精も2体いて……。

「ふう、危なかった。よそ見しててよかった!」
「この野郎ですね! 仕返ししてやるです!」

 そこに今度は、未来の『テレポート』に抱えられて、ジニアスが上空から参上!

「そうはさせるか! あんたたちも倒れてろ!!」

 魔剣士は、「サンダーソード」から雷撃を下方に、おもいっきり叩き落とす。
 落雷の連打を受けた精霊たちは、状態異常「恐怖」と「スタン」に加えて、さらに電撃による「麻痺」も付与された。
 これで軽く5ターンは動けないことだろう。
 そして、撃ち漏らした精霊のうち1体を、雷撃で束縛し、行動不能(麻痺)へ陥れた。

「ふはは! 逃げ延びた奴は私が成敗してやるのである!」

 実は萬智禽、『イビルアイ』発動と同時に、『ストームブースト』10倍速で、射程範囲より逃げていた。ちょうど今、彼はビリーとシルフィーの隣にいるのである。

 萬智禽は、巨大なランタンを召喚し、前方直線距離を仄暗い灯りでぴかぴか、と何度も点滅しながら照射した。
 これぞ、ゾットスルー族の秘儀、『魔法封じのランタン』である。
 ランタンは、前方で逃走しようとしていた最後の精霊を捉えて……仄暗い光に呑まれた精霊は、チカチカと点滅していた。
 もともと魔術を無効化するスキルであるので、魔術的生命体には効果てき面だ。
 雪の精は、点滅したまま動けなくなった。

「さあ、長居は無用! 精霊たちが動けないうちに逃げるであるな!」

 巨大目玉は、『ストームブースト』を5倍速に上げ、アイスバーン付近の魔法陣まで猛速度で移動した。

「よし、こんなもんだろう! 未来、またお願い!」
「うん、テレポで逃げよう!」

 ジニアスは再び、未来に抱えられ、『テレポート』で瞬時に魔法陣へ。

「ビリー、頼むわ!」
「あいあいさー、やで!」

 シルフィーももう一度、ビリーに抱えられて、『神足通』で一気に魔法陣へ。

***

 魔法陣付近では、仲間たちが既に待機していた。

「でかした、俺の仲間たち! 俺が最後まで見張っていてやるから、みんな、転送しろ!」
 リシェルは魔法陣のあたりで誘導係をしていた。

「よし、ゴールなのだ! リシェル殿、ありがとう!」
 萬智禽が魔法陣に触れると、彼は無事に転送され、ウィッチクラフト地区の街へ消えてしまった。

「サンキュー、リシェル! 俺たちも続こう!」
「うん!」
 ジニアス、未来も続いて転送。

 シルフィーは責任者なので、誘導係のリシェルと同時に入ることにした。
 だが、お役目フリーになったビリーは……。

「ほな、先に行ってまっせ! おおきに!」

 座敷童子も魔法陣に触れ、一気に転送。

 このあと、ラサ、アンナ、リュリュミア、ジュディ、マニフィカ……と、続き、無事に転送した。

 最後に、リシェルとシルフィーが転送され、ルート3も無事に通過できたのであった。
 精霊たちは、最後まで状態異常でへばっていたようだ。

 さあ、次回は、依頼人である北の魔女ドロシアとご対面。
 無事に特急便を渡した後は、いよいよ報酬の温泉旅館貸し切りだ。
 調査部隊たちは、北国の温泉で、いかなる骨休みを体験するのだろうか?

<続く>