マギ・ジス新作アイテム展示即売会(通称:マギケット)

第1回 一般参加編

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

●追加設定の補足

●アンナの一般参加編

●リュリュミアの一般参加編

●ジュディの一般参加編

●マニフィカの一般参加編

●ビリーの一般参加編

●萬智禽の一般参加編

●未来の一般参加編



●追加設定の補足


「リアクション」作成の便宜上、追加設定を補足しておきます。
マギケットに登場するAからGのセクションをフロア分けしました。

A(武器)セクション・・・1F東ホール。
B(オーブ)セクション・・・1F西ホール。
C(お守り)セクション・・・2F東ホール。
D(フード)セクション・・・2F西ホール。
E(同人誌)セクション・・・3F東ホール。
F(モンスター)セクション・・・3F西ホール。
G(その他)セクション・・・マギケット内部で点在。
例:G-1の風紀委員会ブースはエントランス付近に設置。G-3の聖アスラ学院現代魔術研究所所属植物園ブースは、マギケット外部の庭に設置。

 以上が追加設定の補足でした。
 では、本編をどうぞお楽しみください。


●アンナの一般参加編


 うららかな春祭りの一日が始まろうとしている。
 本日、マギ・ジスのビックリサイトにて、春一番のフェスティバル・マギケットが開催される!

 時刻は、そろそろ午前九時に差し掛かろうとしていた。
 サークル参加する者たちは、所狭しと、わんさわんさ、と準備に勤しんでいた。

 ここ、エントランス付近のマギケット風紀委員会ブースでも、開場前に最後の一仕事をしている者たちがいる。

「ほっ、それ、えい!! ……こんなもんですわね!!」

 フランス令嬢の学院生・アンナ・ラクシミリア(PC0046)は、風紀ブースのお掃除に精を出していた。設置前だが、何かとブース内や付近は散らかっている。モップ掛けや雑巾掛けをして、ほうきでさっさと掃いて、ちょこまかとお掃除を完成させていた。

「あら!? とてもきれいになったわね! アンナさん、朝早くからお掃除を手伝ってくれてありがとう! お陰様で風紀としても助かったわ!」

 アンナにそう礼を述べたのは、聖アスラ学院の風紀委員長であり、なおかつマギケットの風紀ブース責任者でもあるスノウ・ブロッサム(NPC)である。

「いえいえ。そういうお約束でしたし……。ところでわたくし、本日は朝からお買い物がありますの。そろそろ入場ゲートまで戻らないと、定刻通りに入場ができませんので、帰ってもよろしいでしょうか?」

 アンナは、今日のお祭りをすごく楽しみにしていたのだ。
 なので、定刻に遅れるわけにはいくまい!

「そう? 入場ゲートまで戻るのかしら? それだと手間がかかるわね。ささやかなお礼だけれど、サークル参加チケットを一枚、プレゼントするわ! これがあれば、わざわざ入場ゲートまで戻らなくても、午前九時の開場時刻になったら、すぐにお目当てのサークル・ブースへ行けるわよ?」

 スノウは、懐から貴重なサークル参加チケットを取り出し、アンナに手渡した。
 アンナもありがたそうに受け取るのであった。

「メルシーですわ! では、さっそくサークル・ブースへ、行って参ります!!」
「うん、アンナさん、がんばってね!」

 午前九時になると、開場のアナウンスと共に盛大なBGMが流れた。

『本日は、マギケットにお越し頂き誠にありがとうございます! それでは皆様、お祭りの成功と繁栄を祝って、拍手でご入場ください!! ちゃん、ちゃん、ちゃんちゃか、ちゃっちゃ、ちゃちゃ、ちゃん、ちゃん♪』

「トレビアーン!! 今日は存分にお買い物しますわよー!!」
 アンナも拍手と共に、やる気満々であった。

***

 開場一番、アンナがブースカタログを片手に、まず向かったのが、1F西ホールのオーブセクション(Bセクション)である。Bセクションには、様々なオーブの試作品や既存品が売られている。オーブマニアであり、魔法少女のアンナとしても、このチャンスは見逃すわけにはいかなかったのだ。

「ボンソワール!(おはようございますわ!) シルフィー、さっそく来ましたわ!!」

 アンナがまずたどり着いたのは、B−2の聖アスラ学院現代魔術研究所ブースである。ここには、既存品の四大元素オーブと陰陽オーブが所狭しと売られていた。しかも今回は、各オーブの技能拡張を可能にする指輪やミサンガまで売られているという。

「グーテンモルゲン!(おはよう!……と、アンナっぽく返す)アンナ、よく来たわね!」

 朝一番の出店で、知人のアンナを見かけてうれしくなった妖精隊長のシルフィー・ラビットフード(NPC)は、ちょっとおどけた様子で接客して来た。

「さてさて、魔法少女のお嬢さん! 本日は何に致しましょう? 最新作の指輪やミサンガなんて、どうかな〜?」

 シルフィーは、店頭でずらりと並べられている指輪やミサンガを勧めてみた。特に指輪は、それぞれ、炎のオーブのリングが赤、水のオーブのリングが青、風のオーブのリングが緑、大地のオーブのリングが黄色、陰陽のオーブのリングが黒と白……と、きらきらしている。色とりどりの指輪に、アンナはついついうっとりしてしまった。

「あら〜!! ゴージャスですわね、指輪!! わたくしの場合、大地のオーブ使いですので、黄色の指輪を頂きますわ!」

「はい、1万マギンね! どう? せっかくだからはめてみる?」

 アンナは財布から代金を支払い、受け取った指輪をさっそく右手の人差し指にはめてみた。すると、指輪が、黄金にぴかぴかと光り出した。

「あら? すてきですわね!!」

 思わず感動するアンナ。

「うん、よく似合っているよ! で、アンナ、ゴーレムはどんな奴を出すつもり? マッチョな怖いお兄さんとか!?」

 ほめられたのと、変な質問が出たので、アンナはちょっと赤くなって、考え込んでしまった。

「う〜ん……。ゴーレムですか……。やはりそこは、ジュディですわ! 強いと言えば、怪力ジュディ!! ぜひゴーレムをジュディの姿にして、敵を撃退しますの!!」

「あはは! いいね、それ!! 行け、使い魔ジュディよ!! みたいな感じで召喚するんだ!? くふふ……!!」

 シルフィーは、あまりにも面白かったらしく、その場で笑い転げてしまった。

「では、わたくしはこの辺で! サルー(さようなら)!! さて、お次は……」
「うん、またね! まいどありー!!」

 シルフィーの店をあとにして、アンナは次なる目的地へと移る。

***

 アンナが次に行きついたのは、すぐ隣のオーブ店、B−1のメイド服飾学院 めろめろデザイナーズである。

「いらっしゃいませー、お嬢様ー!!」
「あら? ご機嫌いかが? 実はわたくし、本物のフランスお嬢様ですのよ!」

 こちらのオーブ店は、マギ・ジスの服飾学院が提供しているオーブブースである。
 目玉商品は何といっても、メイドのオーブと執事のオーブである。
 店員である学院生たちは、皆、メイドか執事の恰好をしていた。
 また、アクセサリーの指輪やミサンガなんかも店頭販売されていた。

 アンナがメイドのエル・オーブ(たまゆら)の商品棚(オーブの隣に絵で服が表示)をじっくり見ていると、代表者が近寄って来た。

「お嬢様、今日はどんなメイド服に致しましょう? 私はここの代表、メイド長アリサ、よろしくね!」

「あら、よろしくですわ! そうですわねえ……。わたくしが探しているのは……。黒いクラシックなタイプのメイド服がいいですわ! でも、スカートが長すぎると、裾を汚してしまいそうなので……膝が隠れるくらいの長さにしたいのですけれど……。そういうのあります?」

「あるわ!!」

 アリサは、数あるオーブの中なら、アンナの好みに合ったオーブを取り出した。
 さすがに萌え属性なので、ピンク色のたまゆら(オーブ)だ。
 でも大丈夫。中身はしっかりメイド服!

「はい、これね! このデザインは、異世界ロンドンのヴィクトリアンタイプというの。まだまだマギ・ジスでは普及してないけれど、今後の流行の行方を考えると、押さえておくならまさに今! さあさあ、お嬢様、ぜひ試着しましょう!」

「はい、わざわざありがとうですわ!」

 ともかく、アンナは試着室の一部屋を借りて、着てみることにした。

「それ!! 行け、オーブよ!! 魔法少女メイドに変身ですわ!!」

 アンナはピンクのたまゆらを天井に向かって投げた。
 すると、萌えなピンクジェルが弾け、アンナに降りかかる!
 アンナ、またたく間に、ヴィクトリアン・メイドに変身!!

 試着室を出ると……。

「どうでしょう?」

 おそるおそる聞くアンナだが……。

「すごくお似合いよ! そうだわ! 追加のアクセサリーもあるんだけれど、どう? 特に猫耳が生えてくるリングなんて、可愛くておすすめよ!」

 アンナ、あることが閃いたので、ぜひ持ってきてもらった。

(ふふふ……。ネコになれば……!!)

 再び試着室で、アンナは、今度は左手の人差し指にピンク色のリングをはめてみた。
 ピンク色がぴかぴかと光り、魔法少女は、猫耳メイドに変身!!
 しかも強く念じると、猫のひげやら、猫の手も生えてくるようだ……。

(おおー!! 完璧ですわね!!)

「あらー!! 猫耳メイドもすてきよー!! ぜひ、レッツ・購入!!」

 メイド長に促され、アンナは服を着たまま、お会計のレジへ進んだ。
 ちゃりん♪
 本日、二度目のお買い物でアンナは4万5千マギンを消費した。

***

(ふにゃにゃにゃ!! やったにゃ! これで次のアレに行けるにゃ!)

 アンナ、なぜか語尾と思考までネコ化してしまったようだ。
 お次は、3F東ホールの同人誌セクション(Eセクション)へ移動!
 さすがにネコ姿のオーブらしく、ネコのようなしなやかな動きができるようだ。アンナは、にゃにゃっと、ささっと、人混みを避けて、Eセクションまで移動できた。

「へーい、よってらっしゃい、見てらっしゃい! 俺のブースでは、世にも不思議な萌え本が満載だよー! 魔法少女を研究した究極の萌え本あるぜー!(ただし、なぜか超うすいのは、ご愛嬌!)」

 E−1のHENTAI部では、萌え魔王・トムロウ・モエギガオカ(NPC)が萌え本を売っていた。どうやら、彼自身が出版した同人誌らしい。魔法少女のあんなことやそんなことなど下世話な情報が満載らしい。

「うむ。うひひ……実に(エロくて)いいのだな! トムロウ殿、一部、もらうのだ!」

「お? おまえはこのまえの修学旅行で会った目玉じゃねえか! よっしゃあ、萌え仲間! 一部ぜひ売るぜ!」

 巨大目玉が、念力で萌え本をぷかぷかと浮かせながら、萌え本を購入していた。
 何を隠そう、この目玉、萬智禽・サンチェック(PC0097)である。
 彼もマギケットを楽しみにしていたらしく、本日、参加しに来たのだ!

 アンナ、ピンチ!!
 トムロウにばれないように猫耳メイド姿になったがまさか萬智禽までいたなんて!
 しかし、楽しみにしていた『魔法少女研究序説』を買うべく、勇気を出して、一歩前進!

「こにゃにゃちは、だにゃ! わたくしにも一部、くださいにゃ!!」

 アンナ、猫耳メイド・コスプレイヤーという設定で、果敢に挑んだ!

「ん? お姉さん、猫耳メイドコスプレ、なかなかいいな? そうか、お姉さんも萌え仲間か? ならば、一部、買ってくれ! でもなあ……なんか、どっかで見たような……」

 トムロウがアンナをじっくりと見つめながら、考え込んでいた。

「ううむ? トムロウ殿! 実は私もこの猫耳メイドをどこかで見たと思うのだが……」

 萬智禽も目玉をぱちくりさせながら考え込んでいた。

「きっと、アニメで、ですわ! ほら、最近のアニメで、『ご注文は子猫ですか?』という、猫耳メイドのアニメ、やっていたじゃないですか? あのアニメの主人公のコスプレですわ!!」

 アンナ、必死に弁解する!

「うん、たぶん、そうだろう、な……。まあ、いいや。一冊、1万マギンな!」

「はい、1万ですわね!」

 アンナは1万マギンを渡して、店主から萌え本を受け取った。
 やっと買えてほっこり!
 さあ、退場、と思いきや。

「むむむ……。ううむ……。うう……」

 巨大目玉はまだ考えていたが、視神経に障るので、この辺にしておいた。

「うむ。きっと他人の空似なのだな。どこぞのフランス令嬢に似ていたが、おそらく他人だろう!」

 気づかれる前に、アンナ、ネコモードで、退散!

***

 さて、お買い物が一通り終わり、修羅場の一戦も終わったので、アンナは休憩をしたいと思った。
 最後に寄るのは、2Fの西ホールにあるフードセクション(Dセクション)である。

「ぬおお〜!! 萌えはいらんかー!! 萌え、萌え、あるぜー!!」

 怪しい萌えオヤジさんが、魔法少女萌え萌え委員会ブース(D-6)で、魔法少女の天然水を売りさばいていた。

「あ、それ、一本くださいですわ!!」

 アンナが頼むと、萌えオヤジは、冷えた天然水ボトルを冷蔵庫から取り出し、手渡してくれた。

「はいよ、魔法少女のお嬢さん! 4千マギンな!」

 アンナ、気づけば、メイドのエル・オーブ姿のままだ!
 そこは目ざとい萌えオヤジ、すぐに魔法少女だと感づいたらしい。

「はい、これ!!」
「まいど!」

 アンナは財布から4千マギンを渡し、さっそくブース付近にある休憩所へ向かった。

 アンナがボトルのふたを、きゅきゅっと開けると、萌えと魔力の不思議な冷気が漂った。
 魔法少女レヴィたちは、ボトルの表紙にて萌えポーズで微笑んでいる。
 アンナはなぜか、自分が微笑まれた気がした。

「ファイト一発、ごくりと一発ですわ!!」

 アンナはお祭りを回り、特に先ほどの一戦で緊張したので、のどが渇いていた。
 ちょっと、はしたないかも、と思いつつも、ボトルを開封すると、ごくごくとのどを潤す。

「う〜ん!! 美味しい! 魔法少女の味ですわね〜!!」

 魔力が限界超えで回復するという、萌えな味にアンナ、感激!!
 アンナはマギケットの初日を魔法少女な一日で楽しめたようだ。


●リュリュミアの一般参加編


 マギケットもお昼を過ぎ、だんだんと人気もすいてきた頃だ。
 春一番、快晴の本日、昼過ぎの太陽はおだやかに日差しを放っていた。

「うう〜ん……? 何か面白いものがありますかねぇ……。あ、あっちの方からいろんなにおいがしますよぉ?」

 食べ歩きの達人……もとい、天然植物由来のお姉さんことリュリュミア(PC0015)は、ふらふらとマギケットへやって来た!
 彼女は、カタログを見るよりも、美味しいにおいにつられて、気が付けばフードセクションに来ていた。しかもここのセクション、色んなフードショップが並んでいる。美味しそうなにおいがあちらこちらから香って来て、さすがのリュリュミアもたじたじである!

「わぁ、揚げたてのドーナッツですかぁ! おいしそうですぅ〜」

 彼女がたどり着いたブースは、D-3のスパイダーネスト出張所であった。ちょうど今、代表の蜘蛛男が、油の中で、カリカリとドーナッツを揚げていた。

「ん? お姉さん、おひとつどうかな?」

 蜘蛛男は、試食用のドーナッツの欠片(爪楊枝付き)を差し出した。

「わーい! ぱくぱくぅ……。う〜む、アンナじゃないけれどぉ、トレビアーン!!」

 リュリュミアは気に入ったようで、箱入りのエンジェル・ドーナッツ・ミックスを指さして、包んでもらった。

「はいよ! 千マギンね!」
「は〜い!」

 リュリュミアは財布から千マギンを取り出し、蜘蛛男の手下に支払った。
 ドーナッツ調理中の蜘蛛男に軽く会釈して、リュリュミアは休憩所へ去った。

***

 休憩場は、さすがにお昼のランチタイムなので、混んでいた。
 フードセクションで飲食物を購入した者たちが、所狭しと陣取って、ランチを楽しんでいた。

「飲み物は無料なんですかぁ。それじゃぁ、オレンジジュースを飲みながらぁ、ドーナッツをいただきますぅ!」

 リュリュミアは、ドリンクバーに並び、オレンジジュースをコップ一杯にもらった。
 そして、近場の空いている席に座り、ドーナッツの箱を開ける。
 彼女が箱を開けたとたん、幸せな香りがしたので、思わず、うっとりしてしまう。
 休憩所の天井は透明なガラスが敷かれている。青空がきれいに映し出され、太陽光もサンサンと輝いていた。

「それにしても、いい天気ですねぇ〜! ドーナッツのチョコも、いちごも、クリームもどれも美味しいわねぇ〜! ごくごくぅ……オレンジジュースも何気に果汁100%近いんじゃないかしらぁ〜。植物系人外の身としてはありがたいわねぇ〜」

 オレンジジュースを飲みながら、ドーナッツを頬張り、完食したリュリュミア。
 そろそろシメの冷たいものも欲しくなってきたようだ。

「かき氷はいらんかのう〜!? 北の魔女ドロシア様直々が作った、ノーザンランドのかき氷じゃー!」

 リュリュミアの席の付近に、中学生ルックスの魔女っ子が、かき氷屋台でやって来た!
 それにしてもドロシア(=中学生ルックスの魔女っ子)とは……。そういえば、北の魔女に特急便でも届けたことがあったわねぇ、とリュリュミアはかき氷屋の屋台をじいっと見ていた。

「ん? お姉さん、どうしたのじゃ? かき氷はどうかのう?」

 ドロシア本人が勧めてくれたので、リュリュミアも考えた。
 屋台の周囲では、いちご味のかき氷をさっそく食べている人たちなんかもいた。
 それにしても、天然の雪山の上に、いちごシロップがとろりと真っ赤で美味しそうではないか!

「あ、いちご味のかき氷くださぁい!」
「ほい、千マギンじゃ!」

 リュリュミア、入手したかき氷をさっそく食べ始める。

「うーん、シャクシャク冷たくておいしいですぅ〜」

 お姉さん、いちごがほんのり甘い、本格北国天然氷にご満悦のようだ。

「さてと、そういえばバラ関係で御用がありましたねぇ〜」

 リュリュミアは本来の目的を思い出したようで、完食後、席を立った。

***

「おやおやぁ〜!? またしても良いにおいがしますねぇ〜!!」

 フードセクションを去ろうとしていたリュリュミアだが、あるものを発見!

 それは、D-1、ティム&ジェニーのホットドッグだ!

 ティムとジェニー(NPCたち)のバトン兄妹が、健気にもホットドッグを焼いて売っていた。
 焼きたてのソーセージの香ばしいにおいが、リュリュミアのハートに火を点けた!

 おや?
 店頭ではティムが対応しているが、ブース奥で、ジェニーと先客がいるようだ。
 しかもその先客、どこかで見たことがある顔のようだ。

「あ、あなたはぁ!?」

「あら、リュリュミアさん!?」

 人魚姫・マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)がジェニーと談笑しながら、美味しそうにホットドッグを食べていたのだ。

「マニフィカだっけぇ? 何度か、マギ・ジスタンのミッションでご一緒しましたっけぇ〜? どうですかぁ〜? ホットドッグ、美味しいですかぁ〜?」

「もちろんですわ! リュリュミアさんもぜひ召し上がってみてくださいまし!」

 マニフィカに招かれて、リュリュミアもブース奥の従業員休憩席へ案内された。
 すれ違いざまに、リュリュミアはホットドッグ調理中のティムにも話しかけた。

「あれぇ、あなた、どこかで会いましたかねぇ? ……そうだ、ウマドラの卵料理でパーティーした時にいましたよねぇ。ホットドッグを作ってるんですかぁ、せっかくなのでひとつください!」

「ええ、先日はどうも! おかげで助かりました! はい、どうぞ!! 500マギンです!」

 リュリュミアは、500マギンをティムに渡し、ホットドッグを受け取り、奥の席へ向かった。
 ジェニーとも軽くあいさつをしたが、どうもリュリュミア、人を覚えるのは苦手で、うろ覚えらしかった。ジェニーの方はそれなりに覚えてくれていたのだが……。

「うんうん、冷えた体があたたまりますぅ」

 リュリュミアは、ホットドックにかぶりつき、ぱくぱくと平らげてしまった。

「あら? 冷えていましたの? 今日は春一番の日ですわよ?」

 マニフィカが心配してくれたが……。

「かき氷を食べたのよぉ〜! いちご味、美味しかったぁ〜」

 とまあ、ちょっとばかり談笑して、リュリュミア、あることが意識に浮かんだ。

「満足したからそろそろ帰ろうかなぁ。……思い出しましたぁ! バラの種が欲しくて来たのに、すっかり忘れてましたぁ!」

 リュリュミアは、マニフィカたちに別れを告げて、ちょっとだけ急いでバラの種売り場へ出向くのであった。

***

 バラの種売り場……。要するに、Gセクション(その他)にある聖アスラ学院現代魔術研究所所属植物園(G-3)のことである。
 先ほどの風紀ブース(G-1)がエントランス前にあったように、Gセクションの売り場は一定のところに固まっているわけではない。
 バラの種売り場は、なんと場外の庭で売られていた。
 リュリュミアは、カタログを改めて読み直し、庭へ急いだ。

 さて、ぱたぱた、と急ぎ足でやってきたリュリュミア。
 バラの種は買えるのだろうか。

 売り場には、光輝くバラの種、闇に包まれた暗黒のバラの種が、たっぷりとブースに並べられていた。

「はぁ〜い、リュリュミアちゃ〜ん! パフィンよ〜! このまえは、検品手伝ってくれてありがとう〜」

「はぁ〜い!(と、合わせておこぅ)パ、パフィン!? こんにちは〜! おかわりなくぅ〜」

 リュリュミアはやはり人を覚えるのは苦手らしく、うろ覚えだ。ひとまず、そうあいさつしておけば、大丈夫だろう。

 さあ、本来の目的を成し遂げるべく、リュリュミアはすぐに注文した。

「ええとぉ〜。その光のバラの種と闇のバラの種、くださぁ〜い!!」

「はいよ! セットで5千マギンね!」

 リュリュミアは、財布から5千マギンを抜き出し、パフィンに渡す。
 無事に種が買えて、お姉さん、ご満悦のようだ。

「うふふぅ。またお花の種類が増えてうれしいですぅ!」

 にこにこしているリュリュミアに、パフィンはある提案をする。

「よかったらここで使ってみなさいよ。そっちの光の種は、光らせてみて? で、闇の種の闇でもうひとつのバラの光を消してみて」

「はぁ〜い!」

 リュリュミア、光のバラの種を右手に構え、「ブルーローズ」を召喚!
 すると、手元から青いバラがにょきにょきと生えて来て、ぴかり! と光った。
 お次は、闇のバラの種を左手に構え、同じく召喚!
 今度は、手元の青いバラが暗黒色に染まり、闇をむくむくと吐き出した。

「それぇ!」

 リュリュミアは、左手の闇のバラを右手の光のバラにかぶせてみた。
 やがて、ぷしゅううう、と光が消え、闇も蒸発した。

「わぁ〜! 面白いわねぇ〜!!」
「でしょ? けっこう役立つのよ、このアイテム!!」

 最初は食べ歩きを満喫し、一時は目的を忘れホットドックを食べ、やはり目的を思い出してバラの種を買えたリュリュミアであった。
 植物お姉さんも、今日のマギケットはマイペースに満喫できたようだ。


●ジュディの一般参加編


 世の中には、マギケットのようなお祭りイベントは、開場開始時刻から参加する方がより楽しめると考える人たちもいるらしい。
 午前九時前、マギケット開場に合わせ、エントランス前は多数の来客で混雑していた。

(オオゥ! さすがにスネークの列デース!! オープンが待ち遠しいデース!!)

 大蛇の列の中の先頭付近では、巨体のアメリカンレディが、まさに今、突進するのではないか、というぐらいの形相で待機していた。
 この彼女こそ、あるときは聖アスラ学院の非常勤講師、別のときはフードファイター、実際に過去にアメフトのファイターだった、ジュディ・バーガー(PC0032)である。

 やがて午前九時になり、開場のアナウンスと共に盛大なBGMが流れた。

『本日は、マギケットにお越し頂き誠にありがとうございます! それでは皆様、お祭りの成功と繁栄を祝って、拍手でご入場ください!! ちゃん、ちゃん、ちゃんちゃか、ちゃっちゃ、ちゃちゃ、ちゃん、ちゃん♪』

 ついにゲートが開き、ジュディは他の客たちと共に、盛大な拍手を送るのであった。

『イエーイ!! オープン、デース!! イーハー!! 今日は、存分に改造したりフードファイトしたりして、遊び尽くしマース!!』

***

 ジュディは、カタログを頼りに、まず向かったのが、Aの武器セクションである。
 タグA-3には、シューティングマスター・スターダストがあり、ブース内には銃器が充実していた。
 店の代表として席に座っている大男は、ヘビーアームズのタンクという。
 マギ・ジスの銃器業界の界隈ではそれなりに名の知れた男だ。

「ヘイ、マスター!! ジュディのレボルバーやライフル、カスタムプリーズ!!」

 ジュディはアイテム袋から、銃器をじゃらじゃらと取り出し、店頭に広げた。
 出てきたのは……。
 マギジック・レボルバーの2丁拳銃。
 マギジック・ライフル1丁。
 イースタン・レボルバー(トムロウ式)1丁。

「おお、こいつは!? 姉ちゃん、なかなか銃器を使い込んでいると見た。それと姉ちゃん自身、見たところウェスタンな恰好だな? 出身世界はウェスタン系かい?」

 タンクの親し気な質問にジュディは笑顔で答えた。

「イエス! ジュディは、アメリカンな世界から来たデース!! ジュディの元いた世界では、憲法に『武装の自由』があったのと、世界が荒れていたので、銃撃戦なんかもあったデース!! マギ・ジスタンに来てからも、銃器はそれなりに使い込んで、ファイトして来たデース!!」

「だろうな。手練れと見た。で、どんな仕様で改造するんだ?」

 ううん、とジュディは考え込んでしまった。
 特に方針は決めていなかったのだ。

「アドヴァイス・プリーズ」

「おう、いいぜ! じゃあ、仕様の説明から始めるが…………」

 タンクによると、銃器は、光と闇の弾丸、ミックス属性弾丸、3連射改造、粘着ゴムの弾丸の4つのカスタムから2つまでを組み合わせて改造するようだ。

「ウウン……。では、まず2丁拳銃。これは、最強仕様がいいデース! 弾丸はどんな種類の弾丸でもシュートするパーフェクトな銃が欲しいデース!!」

「おう! ならば、2丁拳銃は、光と闇の弾丸&ミックス属性弾丸で改造しよう。従来の四大元素に光と闇が加わり、さらに属性をミックスできる。例えば、火と闇の弾丸ならば、魔炎の弾丸、火と土の弾丸ならマグマの弾丸、といった感じで撃てる」

「ナイス、ネ! そうするネ! そうそう、レボルバーだけでなく、ライフルでもそれできたらモット・ナイス! ライフルで長距離から、光の弾丸で閃光弾をシュートしマース、あるいはマグマで爆撃したら面白いデース!」

「よっしゃ、それもいいな! では、この3丁はそういう仕様で。で、イースタン系の方はどうする?」

 ジュディは、ううん、とまた考えた。
 そういえば、この銃、トムロウから戦利品で頂いた物である。
 トムロウみたいなトリッキーな銃にしてはどうか、とジュディは閃いた。

「粘着ゴムの弾丸&光と闇の弾丸にしマース! ピカとフラッシュしたら、ぐちゃり、とゴムのどろ沼デース!! 面白いデース!! ハハハ!」

「ハハハ! 確かに、そりゃあいいや! 関係ねえ話だが、この銃、面白い柄だな? なんつうの、こういうの、萌えって言うのか? 萌えな銃でその仕様、なかなかいいセンスだぜ! で、これで以上だな?」

 ジュディは、店頭に並んでいるライフル群を指さし、追加注文をした。

「もう2丁、ライフル売ってクダサーイ! 改造付きのライフルがもう2丁、マスト、デース!!」

「おういいぜ! ちょっと待ってな!」

 タンクは、ライフル置き場から、2丁、新調してくれた。

「で、こいつらをどうする?」

「1丁は、ミックス属性弾丸&3連射改造デース。もう1丁は、3連射改造×2デース。これでタンクのショップのカスタムはコンプリート、デース!」

「ぐはは、そりゃあ参ったぜ! でもありがとよ! じゃ、そういうことで、合計6丁の銃を改造するぜ! 値段は前払いでいいか? ライフル新規2丁で2万マギン。改造は1回分が各3千マギンなので、6丁×2つ改造なので、12回分改造として、3万6千マギン。合計は、5万6千マギンな!」

「OK! ところで、受け渡しはどうシマース? カスタムに時間かかるデース! それとたくさんの荷物大変デース!」

「おう、そいつは郵送するぜ! この申込書に、おまえさんの自宅か勤務先の住所を書いてくれ。改造が終わった後日、郵送する。郵送代金はうち持ちなんで安心してくれ!」

「サンクス、デース!! それでは、タノンマース!!」

 さて、ジュディが去ろうとしたそのとき、見慣れた顔と出くわした!

「オウ、ユーは!?」

「はろー!」

 マギジック・レボルバーをくるくると右手で回しながら、エスパー女子高生の姫柳 未来(PC0023)がそこにいた。ちなみに彼女、ジュディよりも入場時刻がやや遅かったので、このタイムラグである。

「お!? 新しい客か! さて、お嬢ちゃんは何を改造するんだい?」

「ええとね、このマギジック・レボルバーを……」

 ジュディは未来に、シーユーとあいさつし、次のブースへ移った。
 次も次でまた楽しみなことがあるのだ!

***

 ジュディが向かった先は、もちろん、フードセクション!
 彼女は、フードファイトが待ち遠しいのだ!

 まず寄るのは……。
 D-2のワスプ出張所。

 じゅじゅじゅ、じゅわああああああああ!!!!

 ワスプブースからは香ばしい鳥肉とタレのにおいが漂っている。
 ちょうど今、代表のナイト・ウィング(NPC)が、店頭でバッファロー・ウィングを、鉄板の上でじゅわじゅわと焼いているところなのだ。

 ぐるるるるうううううう!
 ジュディ、腹の虫が叫んでいる!

「ヘイ、ナイト! バッファロー・ウィング、10個、プリーズ」

「おう、ジュディさん! まいどあり!!」

 ナイトは、調理の手を一度止め、袋に名物ナイト・バッファロー・ウィングを詰めてくれた。この袋を合計10個用意してあげた。

 しかしワスプは人気ブースだ。
 次々と客がやってきて、注文しに来る。

「ジュディさん、わりいが、今、忙しいんで、立ち話もできませんぜ!! ……はい、お客様、ナイト・バッファロー・ウィングを3個ですね!?」

「オウノー、邪魔したデース!!」

 ジュディは、ワスプの店員に、10個分の1万マギンを支払った後、ナイトに会釈してその場を去った。

***

 次にジュディがやって来たのは、D−7のドロシアのしもべたちである。かき氷を売っているこのブースでは、氷かき機械がでんと店頭に居座り、天然氷が凍結魔術で保存されていて、各種シロップがずらりと並べられていた。

「ヘイ、ドロシア! いつぞやは、マジック・ブックのお届けぶりネ! かき氷、プリーズ!!」

「ん? お主は、あのときの一員!? うむ、かき氷じゃな? 味は?」

 ドロシアの方はうろ覚えかもしれないが、ともかく接客してくれた。

「ホット(辛い)な食べ物(バッファロー・ウィング)にはラッシーがいいデース! なので、ヨーグルト、プリーズ!!」

「よし来た! ヨーグルト味じゃな? 数は?」

「10個プリーズ」

 シャカ、シャカ、シャカ……。
 ドロシアは、かき氷の機械を動かし、氷菓子を作ってくれる。
 きらきら光る氷は、もちろん本物の天然氷。
 そこに、新鮮なヨーグルトの波が、とろとろと注がれた。

「ふう……。これで10個じゃな! ほれ、代金! 1万マギンじゃ!」

「OK! 1万、渡しマース!」

***

 バッファロー・ウィング10個と天然かき氷10個を買い占めたジュディ。
 彼女はいったい、今から何をやろうというのだろうか?

 休憩所のテーブルに、ジュディは、チキンとかき氷を並べた。
 そして、まずは、バッファロー・ウィングを袋から取り出し、むしゃりとかじりつく。

「ウウ〜ン! デリシャス! チキンの柔らかさと甘辛ソースが効きマース!!」

 次に、彼女は、ヨーグルト味のかき氷をスプーンですくって、パクりと食べた。

「イエーイ! コレもデリシャス! 天然氷の透き通る味にヨーグルトの酸味がプラスされ、口の中でじわじわ溶けマース! しかもバッファロー・ウィングの辛さをヨーグルト(ラッシーの代わり)が中和して、ブレンドがエクスレント(素晴らしい)!」

 さて、とジュディは試食が終わり、今度は、片っ端から本格的に大食いすることにした。

 むしゃ、むしゃ、むしゃ、じゃり、じゃり、じゃり、むしゃ、むしゃ……!!

「ウホオオオオオオオオオオオ!! これぞ、B級グルメ、デース!! アンビリーバボー、デリシャース! (信じられない、なんて美味しいの!)まさに炎と氷の饗宴デ〜ス! ナイトとドロシアにサンキュー・ベリー・マッチ、デース!!」

 この後、ジュディは感激しながら、一撃で食い終えてしまったとさ。
 ツワモノたちは夢のあとである……。

***

 信じられないかもしれないが、この後、ジュディはさらにフードセクションで買い物をするのだ。
 最初は、ナイトやドロシアも驚いていたが、どうやら今度は、おみやげで買いに来ただけであった。それぞれ10個ずつ買ったので、ジュディは2万マギンをさらに消費した。

 チキンの袋の手提げを右手に、かき氷パックの袋の手提げを左手に、ジュディはるんるん気分で次のブースへ向かう。

 お次は……。

「ふわぁ〜! 暇だ……。スノウ委員長……マギケットは……平和ですね? 事件らしい事件なんて、起きない……」

「こら、コーテス! ブース前でだらしないのは止めなさい! 大きな事件が起こらなくても、お年寄りや小さな子どもを助けたり、遺失物を一緒に探したり、何かとやることはあるわよ? なんなら、パトロール行ってくれるかしら?」

「いえ、スノウ委員長! 自分は、ブースの警備で……大変、多忙であります!!」

 風紀委員会ブースでは、スノウ・ブロッサム委員長とコーテス・ローゼンベルク副委員長(NPC)が、上記のようなやり取りをしていた。

 そこにジュディ、差し入れを持って行ってあげた!

「ヘイ、コーテス!! 警備デスカ!? がんばるデース!! そうそう、そろそろランチタイムの時間ネ! 差し入れデース! 風紀のみんなでイートしまーす!!」

「お、ジュディさん!? おや、これは!?」

 コーテスは渡されたビニール袋をじっくりと検証した。
 どうやら、ナイト・バッファロー・ウィング10個とノーザンランドの天然かき氷10個が入っているようだ。

「よっしゃあ!! サンキュー・ベリー・マッチ!! レッツ・ランチターイム!!」
「ふう、まったくコーテスは……!! でもジュディさん、ありがとう!」

 コーテスと他の風紀数名は、ブース奥の従業員スペースに集まり、差し入れをありがたく頂くことにした。

「ジュディもヘルプ、シマース!!」

 ブース奥へ行ってしまったコーテスに代わり、ブース店頭で待機しているスノウに向かってジュディは提案した。

「そうねえ……。コーテスたちが食べている間、一緒にブース前にいて欲しいんだけれど……」

「OKネ! コーテスの代わりデース!!」

 そうこう二人で話していると、今度は、未来がやって来た。

「こんにちは、スノウ! あ、またジュディも!? よかったら、わたしも風紀の手伝いするよー!」

「あら、未来さん! ちょうどいいところに! そうねえ……。そろそろパトロールをしたいんだけれど、今、コーテスたちがランチタイムなので、人手が減っているのよね……」

「そうなの、スノウ? だったら、わたしに任せて!」

「そうですネ! ジュディは、ブースの警備してマース! スノウは、ぜひ未来とパトロールするデース!」

「うん。そうしようかしら? じゃあ、ジュディさん、あとはよろしくね!」
「よし、行こう、スノウ!」

 未来とスノウは、一緒にマギケットのパトロールへ行くことになった。
 ブース店頭に取り残されたジュディは、ブース警備をするのであった。

 そこに一人の老人がやってくる。

「おお、すまんのう、お姉さん……。萌え本売り場はどこかね?」

「萌え本デスカー!? それなら、Eセクション、同人誌セクションでーす! ここが1Fのエントランス付近なので、マップによると……3F東ホールデース! E-1には、HENTAI部といったブースもあり、知人のトムロウがやっているようデース! たぶん、おすすめネ!」

「ぬほ!? そうかい、風紀のお姉さん! ありがとう、助かったわい! では、さらばじゃ!」

 この後も、パトロールが終わるまで、ジュディはブースの警備を続けたようだ。
 萌え本探しのおじいさん以後、もう数人、ジュディは案内してあげるのであった。

 さてさて、ジュディ。
 風紀ブースを手伝ったお礼に、最後にコーテスから、マギケット風紀委員会バッジをもらったそうだ。だが、ジュディ、決してアイテム目当てではない! これは人助けなのである。

 銃器の購入に改造、フードファイト、風紀の手伝い、とジュディはマルチな活躍の一日であった。フルパワーで動いた今日の一日は、とても充実した初日だったと言えよう。


●マニフィカの一般参加編


 午前九時の開場が過ぎてから数十分……。
 人魚姫のマニフィカ・ストラサローネは戦略的にマギケットへ現れた。

 初動の人波がすくことを計算して、ささっとEセクションへ突入。
 3F東ホールまで、割と苦労せずに来られたようだ。
 さて、怒涛の同人誌セクションのブースの山岳を観て、姫はこう思った。

「ふう……。宝の山ですわね! しかし、予算は潤沢に用意したものの、手当たり次第に買い漁るような真似は避けるべきですわね! ここは書籍コレクターとして、厳選に厳選を重ねた末、決めていた3冊を購入しましょう!」

 誰に言い聞かせるわけでもない言葉を口にし、決意を固め、人魚姫は、人波を泳いで行った。

 まず、彼女が向かったのは……。

 なんと、本が金ぴかだ!
 どかあああん!
 爆発は標準装備!
 もちろん、錬金術コーナーである。

 といっても、本日、マニフィカは魔法少女レヴィの錬金術本を買うのではない。
 列記とした聖アスラ学院錬金術学部教授アガサ・マープルの同人誌を買うのである。
 どうやらこの本、内容が過激すぎてマギ・ジス国家から規制された過去があるとか。
 それを先生は、本日、こっそりと同人誌で売るらしい。(現在は、規制は解除。しかし絶版)

 E-3ブースのマープルの錬金術書店では、老淑女のマープル先生がアームチェアをゆらしながら待ち構えていた。

「おやおや? マニフィカさんじゃありませんか? 本日は、私の本を買いに来てくださったのかしら?」

 過去に規制されたというその代物について、マニフィカは訪ねてみることにした。

「はい、もちろんですわ! 前回頂いた、『錬金術と格闘術』ですが、大変、面白く読ませて頂きましたわ。ところで先生。『錬金術と心霊科学』が本日、ここで販売されるという情報は本当ですの!? あの、伝説の絶版本が……」

 マープルは、にこりとして、静かに答えてくれた。

「ええ、ちゃんと売っていますよ。でもね、この本、貴重なので、10冊はないわね。でもマニフィカさんは私のアドヴァイザリーグループ(大学でのホームルームのような制度)の学生ですし、あなたが研究熱心なのはご承知ですから、ぜひあなたになら譲るわね」

 老教授から伝説の錬金術本を手渡された人魚姫は、代金の2万マギンを支払い、本を受け取った。

「しかし、実在したのですね、この本! たしか、精神体は一時的に肉体になれて、肉体は一時的に精神体になれるのですわよね? 錬金術における不老不死理論や霊魂理論が研究された果てに生まれたという最高レベルの魔術書……。ですが、この本を悪用する輩も出て来て、一時は販売禁止になり、気がついたときには絶版、古本屋では現在、数十万マギンで取引されているというレア本……。それが、今、こうして、わたくしの手元にあるなんて!! なんたる至福でしょうか!?」

 熱にうなされたマニフィカは、伝説の本をキッスしてしまい、ハグしてしまった。

「うふふ……。研究熱心なのは、いいけれど、ほどほどにね……。あなたの今後に期待しているわ……。それと、よかったら来学期も私の錬金術の講義に来てね」

「はい、もちろんですとも! では失礼いたします、マープル先生!」

***

 さて、まずはお目当ての一冊を手に入れたマニフィカ。
 お次は、隣のE-4ブース、バードマン魔導動物研究室有志一同のブースへ行くのであった。

 さすがに魔導動物研究室は活気があり、バードマン先生率いる学生有志たちでにぎわっていた。本もブース店頭に山積みである。

「お久しぶりですわね、バードマン先生! いつぞやの事件以来でしょうか。そうそう、先日、『魔導動物概論』(魔牛偏)を購入して読みましたわ。魔牛に関する魔術理論、大変興味深い考察でした」

 遠くにいるマニフィカから話しかけられると、バードマンは、ブース奥からぱたぱたとやって来た

「おお、マニフィカさんではありませんか! そうですか、私の魔牛の本を読んでくださったのですね。いやあ、研究熱心なあなたには毎度、頭が上がりません! ほら、私の学生たち、マニフィカさんを見習いなさい! この方は、魔術博物学部のトップですよ!!」

 照れているマニフィカをよそに、弟子の学生たちは、がくり、とうなだれた。

「バードマン先生、マニフィカさんと比べないで欲しいのです! 劣等生の集まりのあなたの研究室の学生が、魔術博物学部のトップレベルの学生に太刀打ちができようとは、百年早いのですよ!」

「こらおまえ、マギ・ジス語の文法がおかしいだろう! その使い方だと、自分で自分たちをバカにしてしまっているだろう!?」

 あはは、と研究室一同とマニフィカの間に笑いがこぼれた。

「さて、申し遅れました。私はリリアンという者なのです。いつぞやは、ウォルター先生がご迷惑をかけたときに、私に質問してくれましたね? 覚えていますか? まあ、それはそうと、私は学生有志の学生代表をしているのです。本日の目玉はあの『魔導動物概論』のスライムキング特集なのです。この本を使用すると、スライム化できるのですよ、けけけ。実はこれ、バードマン先生は一切書いていないのです。私たちで作った同人学術論文集を監修してもらったのです! さあ、ぜひ一冊、お手に!」

 リリアンから渡された魔術書をマニフィカは、ぱらぱらとめくって見てみた。
 どうやら、ざっと見たところ、スライムキングの生態やら能力やら分類やらがかなり詳しく載っていた。先ほど、リリアンたちはマニフィカに謙遜していたが、ここの研究室もかなりの学力の持主たちが集まっていることは確かだ。聖アスラ学院、ところどころに天才秀才がいるので恐るべし!

「ふうむ。なかなか読み応えがありそうですわね! 特にスライムキングになれる、という魔術発動スキルは大変興味深いですわ! ネズミ、魔牛、スライムキング……うふふ、わたくしのコレクター魂に炎が燃えましたわ! ぜひ一冊ください!」

「はい、1万5千マギンなのです! 毎度ですー」

 代金を支払い、リリアンから魔術書を手渡されたマニフィカは、にやにやしていた。
 そして、マープル先生の本と共に、大事そうに抱えるであった。

「マニフィカさん、いつもありがとう! またいつでも研究室に来てくださいね!」
「はい、ぜひ!」

 バードマン先生からうれしい一言をもらい、マニフィカはお辞儀して、ブースを去るのであった。

***

 マニフィカの書籍集めはまだまだ続く。
 お次は、E-5の科学的革命残党分子研究会である。
 今先ほど購入した二冊は魔術書であるが、今度の本は科学書である。
 マギ・ジスタン世界では、対極にあるタイプの本だ。

「うおおおおおおおお!! 科学的革命、ばんざあああああああああああい!!」
「いやっほおお、革命だあああああああああああああ!」

 革命老人たちが、毎度のごとくシュプレヒコールを上げていた。
 どうやら今回は、客引きのためのパフォーマンスらしい。

「こらあああああ、おまえら、静かにしろおおおお!!」
「ぬおおおおおおお、すんまへえええええええええん!!」

 どこからか現れた風紀たちに説教されて、じいさんたちは即座に謝った。
(退場が怖いからだ)
 ちなみにスノウたちではない。

 ともかく、マニフィカは本を買いたいので、指導者のヴァイスに声をかけた。

「お取り込み中、申し訳ありません。私、聖アスラ学院魔術博物学部2回生のマニフィカ・ストラサローネですわ。あなた方が唱える革命理論に関心がありますので、ご本を売って頂けないでしょうか? そうそう、これ、ジュディ・バーガーさんからの紹介状もありますわ!」

 マニフィカは、にらみながらも話を聞いてくれているヴァイスに、手紙を渡した。

「ああん? 手紙だあ? お? ジュディかよ? ふむふむ、マニフィカはとても研究熱心な子で、将来のために革命理論を学びたいと……つきましては、あなた方の聡明なるご本を購入させて、ぜひ彼女に啓蒙の光を与えてください、と……。なお、ビリー・クェンデス(PC0096)にも一冊、分け与えて欲しいと……。なぜなら、ビリーも妖精を脱皮し、神の領域へ近づくためには、あなた方の革命的知性で進化させる必要があるからして…………。うむ、いいだろう。売ろう!」

 実はマニフィカ、手紙の内容は知らなかったのだ。
 手紙の内容があまりにもトンデモだが、ヴァイスは真に受けて頷いていた。
 人魚姫、爆笑しないように、必死で笑いをこらえていたという。

 マニフィカは、『革命老人闘争列伝』を手渡され、二冊分の金額である4万マギンを支払った。

「うむ。姉ちゃん、将来のために俺らの革命理論が学びたいというのは、大変有意義なこと! そしてビリーの進化のためにも、ぜひあいつにも勉強してもらいたい! 青春の時間は短い。学生時代という貴重な時間で、ぜひ革命書を読み解き、世界の真実に気が付いてもらいたい……。魔術はインチキだ、聖アスラなんてペテンだ、信じられるものは、己の力と科学的革命のみ! かくかくしかじか……(延々と老人の説教が続く)」

 そして十数分が経過したところで、マニフィカはあることを思い出し、おそるおそる質問した。

「あのう……。お説教中、大変失礼かと存じますが……。質問をしてもよろしいでしょうか?」

「ああん? 今、いいところなんだよ! で、なんだ? 質問とは?」

「この本はどうやって使うのですか? いや、もちろん革命理論は勉強させて頂きますが、戦闘中、どういう効果があるのかと? 例えば、お嫌いかと思いますが、魔術書の場合、魔術が発動して敵を倒したりしますわよね?」

 ヴァイスは、ちっち、と舌を鳴らして、人差し指を振った。

「そこら辺の魔術書どもと一緒にしてもらっては困るぜ! 俺らの本は科学書! この本を敵に投げつければ、敵が魔術を使う奴である場合、敵の魔力を10%から80%、ランダムでカットできる仕組みになっているのさ! この本は学術書に見えて、実は魔術勢力相手に渡り合うときの秘密兵器なんだよ!」

「まあ、なんと!? そんな便利アイテムだったのですわね! そもそも魔術を否定して科学のみを志向するという発想自体とその経緯が非常に斬新に感じられますが……それ以上に、その本がちゃんとしたアイテムだったことにわたくしは驚きましたわ! おっしゃるとおり、敵が魔術師の場合、てきめんの効果を発揮する兵器ですわね!」

 目を輝かせながら熱弁するマニフィカに、ヴァイスはがくりときた。

「おい、姉ちゃん! ちゃんとしたアイテムじゃないみたいで悪かったな!! まあ、いいさ。いずれあんたも魔術連中とやりあうとき、この本が役立つことに気が付くはずだ。ぜひ有効活用してくれ!」

「はい! ぜひ使わせて頂きます! 内容もちゃんと読んでおきますわね!」

 マニフィカは、革命老人にぺこりとあいさつをして、ブースを立ち去った。

***

 さて、目的の同人誌を必要分買えたマニフィカだが。
 ほくほく顔で本を抱え、フードセクションへ移動することにした。
 会場の大時計は、お昼過ぎの時刻を指しているし、お腹も減る時間帯だ。

 フードセクションはけっこう混んでいた。
 もちろん、お昼時だからというのもある。
 ランチタイムには一番の賑わいをみせるスポットである。

 彼女のお目当ては……。
 D-1のホットドッグスタンド・ティム&ジェニー!
 文字通り、ティムとジェニーの兄妹が、ホットドックをがんばって販売しているブースである。

 しかし、ランチタイムの時間であるものの、来客は少ないようだ。
 それもそのはず、付近のワスプやらスパイダーネストやらの人気ブースに客を取られてしまっている。
 新参者のティムやジェニーには、ハードルの高い闘いなのかもしれない。

「こんにちは! ティムさん、ジェニーさん、お久しぶり! マニフィカですわよ、覚えていらして!」

 調理中のティムと素材をいじっていたジェニーは、人魚姫の存在に気が付いた。

「あ、マニフィカさん!! その節はどうもお世話になりまして……」
 ティムがぺこりと頭を下げる。

「わあ、マニフィカおねえさん! このまえは、おまつりでおやつくれてありがとうー!」
 ジェニーは、マニフィカに抱き着いて行った。

「うふふ。覚えてくれていてうれしいですわ。ぜひわたくしにも、その美味しそうなホットドックをくださいませんか? 三人前、買いますわよ!」
 マニフィカは、ジェニーに抱き着かれながらも、ティムにさっそく注文した。

「え? 僕たちのホットドックを買ってくれるんですか!? いやあ、実にうれしいなあ。見ての通り、お客さんが少なくてね……。そうだ、よかったら、ブース奥で一緒にランチしませんか? ほら、ジェニー、案内してあげて!!」

「はい、にいさん! いくわよ、マニフィカさん!」
「あ、あら、はい!!」

 ジェニーに手を引かれ、マニフィカはブース奥の従業員スペースへ案内された。
 ブース内には、小さなテーブルとイスがあり、そこに二人は座る。
 すると、数分もしないうちにティムがアツアツのホットドックを四人前も持って来てくれた。

「はい、マニフィカさんの三人前とジェニーの一人前。僕はまたあとで食べるのでお気兼ねなく。そうそう、マニフィカさん、このホットドック、心が温まるホットドックです! 見た目は、豚のソーセージに、野菜、チーズ、トマトソースたっぷりの普通のホットドックですが……。麻痺、凍結、恐怖といったバッドステータスを治し、HP小回復のすぐれもの! きっと冒険のお役に立つことでしょう!」

 ティムがセールスポイントを抜かりなく教えてくれた。
 マニフィカへのお礼も込めて。

「まあ、そうなのですの! ぜひ有効活用させて頂きますわ!」

 礼を述べ、では、いただこうとしたマニフィカだったが……。

「マニフィカさん、あーん!!」

 ジェニーのあーん、来たー!

「あ、あーん、ですわ! ほら、ジェニーさんも……!!」
「あーん!!」

 二人で同時にパクり!!

「あら、マニフィカさん、おくちのはしにトマトソース、ついているわ……」
「あらら? お恥ずかしい!」

 ジェニーは、ナフキンでマニフィカの口元を拭ってあげるのだった。

「うふふ……。ごちそうさまですわね! あら、ジェニーさんも口元、ソースだらけではありませんか! わたくしが拭いますわ……」

 などと、二人でやっているところ、ブースの方に来客が!

「あ、あなたはぁ!?」

「あら、リュリュミアさん!?」

 マニフィカがジェニーと談笑しながらホットドッグを食べていたそのとき、知人のリュリュミアが来店したのだ。

「マニフィカだっけぇ? 何度か、マギ・ジスタンのミッションでご一緒しましたっけぇ〜? どうですかぁ〜? ホットドッグ、美味しいですかぁ〜?」

「もちろんですわ! リュリュミアさんもぜひ召し上がってみてくださいまし!」

 マニフィカは、リュリュミアも招き、三人でブース奥の従業員休憩席で食事をするのであった。(*このときの団らんは、●リュリュミアの一般参加編をご参照ください)

 本日のマギケット、マニフィカにとっては収穫の多い一日であった。
 同人誌集めから始まり、マープル先生、バードマン先生と弟子たち、革命老人ヴァイス、といった濃いメンツたちから魔術書なり科学書なりを購入した。
 きっと研究熱心な彼女は、帰宅するや否や、速攻で、手に入れた同人誌を読破して行くことだろう。精神体になりながら、スライムキングになりながら、将来の革命家になりながら……。
 もちろん、夜食には、ティム&ジェニーのホットドックだ。
 マニフィカは、まるでティムとジェニーに応援されたかのような心の温かさを感じつつ、夜遅くまで勉学に励むのであった。


●ビリーの一般参加編


 マギケットのような同人即売会の定説として、午後からは人混みが緩和されるという説がある。どこかで定説を小耳にはさんだビリー・クェンデスは、王者のごとく、のしのしと会場へ向かい歩いていた。

 春の淡い日差しをきらきらと浴びて、座敷童子のサングラスがキラリと光った。

(ふふふ……。定説通りやねん! 人がすいておるわ! 今日は、ごっつ買い物しまっせー!!)

***

 まずビリーが訪れたのは……。

 武器セクションA-2のナイフマスター・スナフキンだ。
 さすらいのナイフ野郎スナフキンが、ブース内でナイフを研いでいた。
 ブース店頭にはたくさんのナイフやカスタムパーツが並んでいる。

「ん? いらっしゃい?」

 ナイフを研ぐ手つきを止めて、店主はビリーの方に向き直った。

「頼みたいことがあるんやけれど……」

「はい? 何なりと?」

「これなんやけれどな……」

 ビリーは懐から、サクラ印の手裏剣を取り出した。
 取り出した手裏剣を、今度はスナフキンへ渡す。

「ここの店って、手裏剣も改造できるんかいな? それとも文字通りのナイフのみやろか?」

 スナフキンは、手裏剣を四方八方から眺めてみた。
 そして、とんとん、と叩き、がしがし、と机にこすりつけてみた。
 最後には、特殊な虫眼鏡でじっくりと観察した。

「ふむ……、なるほど。うちは基本、ナイフが専門だけれど、手裏剣も刃物の一種と考えれば、扱いは可能だ。ただね、この手裏剣……イースタ仕込みだね? 東洋魔術の効果がかけてある……。例えばこの手裏剣、一発投げても、また新しい手裏剣が手元に再生するような魔術が仕掛けてあるね? 東洋魔術のコードを解析して外し、そこにうちの改造を施して、またコードを再コードして埋め込めば、改造は可能だ……。ただね、時間がかかるんで、改造後は郵送でいいかな? もちろん、郵送料はうちが出すから」

 どうやらこの手裏剣、改造にはなかなかの手間暇がかかるらしい。
 だがさすがにナイフ改造の専門家であるこの男は、心強い返事をくれた。

「ほう? いろいろと大変そうやな、改造というのは……。でも、できるんやな? だったらお願いするで!」

「うん。引き受けた。で、どういう改造にしたい? 毒とか塗る? それとも魔封じ、混乱、スタンとかそういった効果も付けられるよ。ただし、仕様上、付けられる改造は2つまでだ」

 そうやなあ……、とビリーは悩んだ。

「スタンをお願いしたいねん。スタン×2の重ね掛けで。そういうこともできるんかいな?」

 スナフキンは、きらりと笑った。

「もちろん! 1回分の改造費が3千マギンだから、2回分で6千マギンね。じゃあ、代金を前払いでお願い。あと、郵送先の住所をここに記載して……」

 ビリーは、財布から6千マギンを取り出して支払った。
 その後、郵送先の住所欄に現代魔術研究所の寝床のアドレスをさらさらと記載した。

「ほな、たのんまっせ!」
「うん、任せてくれ!」

 さて、手裏剣の問題も片付いたので、ビリーはのびのびと次のブースへ向かった。

***

 ビリーは3F西ホールのモンスター(F)セクションに来ていた。
 このセクションは魔物の販売所なので、ところどころから、キャオーとか、ギャースとか奇声が聞こえて来た。魔物を買ってさっそくもふもふしている人たちもいた。

 ビリーはまず、F-3のウォルター魔導動物研究室にやって来た。

「すんません! 魔物が欲しいねん!」

「ははは、いらっしゃい! 我が研究室へようこそ!」

 知る人ぞ知る、ハインリヒ・ウォルター教授の登場だ。
 かつて『聖アスラ学院のお化け退治作戦』で世間を騒がせた人物である。教職に復帰したウォルター先生は、かつての研究を有効利用しているらしい。
 もちろん、ビリーはその事件が起こった頃はマギ・ジスタン世界にはいなかったので、二人は全くの初対面である。

 ウォルターは、ブース店頭に並んでいるカプセルを二つ取り出した。

「こっちのカプセルに入っているのが、ウォルターラットさ。かつての私の研究だ!」

「ん? 出っ歯やねん? あ、今、消えたで!? ん、戻った!?」

「そう、魔石の八重歯を装備し、しかも瞬時に透明化したりする凶悪モンスターさ! こいつがいれば、潜伏させて、ぐさり、とかいう芸当でもできて戦闘が大助かり!」

「うむ! こいつ欲しいねん!」

「そして、こちらのカプセルにいるのが、アリ地獄モグラ改さ。赤い沙漠などでよく出没するモンスターを私が改造したのだ! もちろん国や大学の許可は取ってある!」

「ほう? そういや、見たことある魔物やな? このモグラ、ファイアバーンのおっちゃんの依頼で沙漠で戦闘したで! で、どういう改造なんや?」

「アリ地獄を沙漠でなくても起こせる! しかも沙漠じゃなくても異次元に潜伏できる! 敵の足止めにはもってこいの魔物さ!」

「おお! こいつももらうねん!」

「まいどあり!」

 ビリーは合計4万マギンを支払った。
 そして、さっそくカプセルから召喚した。

「チー!!」
 ウォルターラットが飼い主を確認し、忠誠の叫びをあげた。

「おし、あんさんの名は、トーキチや!」
「チチチー!!」

「もぐもぐ!!」
 アリ地獄モグラ改も、忠誠の声をあげる。

「ううむ。あんさんの名は、ゴローザや!」
「もぐー!!」

 どうやら命名を気に入ってくれたようだ。
 ビリーはその場で、新しい部下二匹と共にもふもふした!

***

 ビリーの魔物買いはまだまだ続く。
 お次は、F-4のウィッチクラフト地区精霊研究会だ。

 ブース店頭には、カプセルがころころと並んでいた。
 店主のワルラス老執事は、執事服で客を出迎えてくれた。

「いらっしゃいませ。おや、以前にお会いしましたね?」

「あ、あんときの執事さんやねん? ドロシアさんに接見したときはえらい目にあったなあ……」

「ほほほ、左様です。さて、お客様、ノーザンランドの魔物はいかがですかな? 私たちの研究班は、あの冬の精の人工飼育に成功しました!」

 ワルラスは、カプセルを手に取り、ビリーに差し出した。
 中には、萌えな精霊、冬の精が入っていた。

「おお! これはまさしく!! いやあ、『魔女の特急便』依頼のときの雪原での戦闘、ごっつ苦労したで! 特にこいつや、冬の精って厄介やったな! で、今度はこいつが仲間になるんかい!? そりゃあ、もうかりまっせ!」

「ははは、左様です。しかもこの冬の精、従来型よりパワーアップさせております。ブリザードブレスやティンクルダンスといった技能の改良版が標準装備です。ささ、おひとついかがですか? なんと、破格の2万マギンですよ!」

 ううむ、これは実に、大変良い買い物なのかもしれない。
 ビリーはかねてからシルフィーの精霊召喚をうらやましいと思っていた。ここでビリーも冬の精を召喚する機会を想像し、じゅるり、とよだれが出た。

「買うねん! こいつはお供に必要や!」
「はい、まいどです!」

 ビリーは手に入れた冬の精をさっそくカプセルから出してみた。

「いでよ、冬の精! 召喚や!!」

 もくもくもく……。
 ドライアイスと共に精霊が出て来た。

「冬の精なのよー! ん? あんたが主人?」
「そうや! ビリーやで! よろしくな!」

 ビリーは冬の精と握手してみた。
 う? この手の精霊は手が冷たいようだ。

「そやな……。名前は、キチョウにするねん!」
「わーい! あんがとー!」

 冬の精も命名を気に入ってくれたようだ。
 さすがにもふもふできないので、ここはビリー、頭を撫でて萌え萌えしておいた。

***

 ビリーはもう二匹ほど魔物が欲しいと思った。
 ビリー軍曹の異名を持つ彼は、カプセルモンスターを集めて、部隊を結成したいと考えている。

 最後に向かったのは、F-5の山と海と魔物の会だ。
 ここのブース、なんと店頭に出てきたのは、ワスプのビーハイブ厨房長だった。
 彼は経営者や料理人としても有名だが、魔物マニアとしても名が通っているらしい。

「お? ビリー君か!? 久しぶり! いつもうちの若い連中がお世話になっているな!」

「あ、ビーハイブさんやないかい? どうしたねん? 今日は、料理ではなく魔物を売っているんかいな?」

「まあな。魔物の愛好家として、ワスプのハイランダーズ支部やサウザンランド支部の連中も集めて、マギケットの三日間は魔物屋をやっているのさ!」

 ふむ、そういうことらしい。
 ビリーは、店頭に並んでいるカプセルを手に取ってみた。

 最初のカプセルは……。

「お? これ、ハイノシシやないかい? でもグリーンの奴ではないねん? 以前にウマドラの山で戦ったハイノシシは、緑色だったような気がするんやけれど?」

「ああ、こいつか! こいつは、マッハ・ハイノシシと言うんだ。グリーン・ハイノシシの変種でね。色も灰色だろう? マッハと名が付くように、音速で突撃したり衝撃波を出せたりするんだ。もちろん、強化版さ! いやあ、こいつを人工で飼育するの、けっこう大変だったんだよ……」

 ビーハイブの苦労話がちょっとだけ続く……。

「おし! こいつにするねん! このハイノシシを一匹買うねん!」
「はい、まいど! 2万マギンだよ!」

 ビリーはもう一歩のカプセルも手に取ってみた。
 中には、ブルーカモメらしき魔物がいた。

「お? こっちはブルーカモメかい!? サウザンランドの沖で戦った記憶あるで! こいつもこいつで、ちょこまかと厄介やったなあ……」

「そう、お察しのとおり、あのブルーカモメだよ。でもこいつは改良版さ。水鉄砲を連射できたり、突撃自爆なんかもできたりするんだ! これもまた育てたり改造したりするのが大変でね……」

 そうかいな、と相槌を打ちながら、ビリーは長話を聞いてあげた。

「で、いくら?」
「2万だね! さっきのハイノシシも買うなら、合計で4万マギン! お財布は大丈夫?」
「大丈夫やで!」

 ビリーは財布から4万マギンを取り出し、カプセルと引き換えた。
「大丈夫」と言ったものの、ビリーは今日のマギケットで10万マギン以上も使ってしまった。恐るべし、お祭りの魔力! 縁日で売っているミドリガメみたいに、魔物たちが翌日死なないことを祈っておこう。

 さあ、さっそく召喚だ!

「ぷごおおおおおおおお!!」

 マッハ・ハイノシシが勇ましく現れた!

「よっしゃ! あんさんは、ゴンロクや!」
「ぷぎいいいいい!!」

 続けて、召喚!

「みゃあああああああああ!!」

 ブルーカモメ改が、翼をはためかせて出現!

「おっし! あんさんは、マタザや!」
「みゅうううう!!」

 どうやら、新しい二匹も命名を気に入ってくれたようだ。
 ビリーは新しい部下たちを、さっそくもふもふしておいた。

***

 その日の夜……。
 ビリーは、現代魔術研究所の自室で、カプセルモンスターたちをすべて召喚していた。

「シャアアアア!!」
 サンドスネークのボーマル!

「べろろろろん!!」
 お化けハイランダケのリキマル!

「コケコケ!!」
 カプセルモンスターではないけれど、ペットの金の鶏のランマル!

「チー!!」
 ウォルターラットのトーキチ!

「もぐもぐー!!」
 アリ地獄モグラ改のゴローザ!

「萌えー!!」
 冬の精のキチョウ!

「ぷごおおお!!」
 マッハ・ハイノシシのゴンロク!

「みゃあああ!!」
 ブルーカモメ改のマタザ!

「よっしゃあ、全員そろったで! ボクら全員そろって、CM分隊・カプセルモンスター・スクワッドや!」

 ここにて、ビリー軍曹率いる、新部隊が結成されたのであった。
 だが、これだけたくさん部下がいて、ビリーは養っていけるのだろうか?

「そりゃあ!! それ、それ、それい!!」

 ビリーは、『打ち出の小槌F&D専用』を振り、それぞれの魔物にあったペットフードをたくさん召喚した。
 魔物たちは、さっそくエサにたかって来て、我先に、と自分の分を必死に確保していた。

「ふう……。小槌持っておいて、よかったで!!」

 新部隊隊長のビリー、なんとかみんなを養って、率いて行けそうだ!
 彼らの今後の活躍に期待しよう。


●萬智禽の一般参加編


 午前九時、マギケット開場時刻……。
 アナウンスやBGMと共に始まったこの戦場で、一匹の目玉が飛んでいた。

「ふははは! 私は浮遊できるので、長蛇の列には呑まれないのだな!」

 ぴゅううう、と飛んでいくこの巨大目玉こそ、萬智禽・サンチェックである。

 まず、彼が向かった先は……。

***

 2F東ホールにあるCのお守りセクションである!
 あらゆるタイプのお守りが並ぶこのセクションからは、お香だのお灸だのの宗教くさいにおいが漂っていた。現に舶来品や異教の神々のお守り販売など、様々なお店が出ている。

 萬智禽は、C-4のレヴィゼル教会出張所に現れた。
 ブース店頭では、教会公園でも有名な名物神父のバイエスがお守りやら聖書やらを売っていた。聖アスラバッジも置いてあるようだ。ちなみに、新年祭のときに萬智禽は、まだマギ・ジスタン世界にいなかったので、バイエスとは初対面になる。

「おはようなのだ! 神父殿、レヴィゼルとやらのお守りをおひとつ頼もう!」

「ほっほっほ……。おはようございます。異形のイビルアイですかな、あなたは? よいでしょう! あなたにもきっと神のご加護があるよう、お守りを授けましょう。本場ですので、大変ありがたいお守りです。あらゆる状態異常から主はあなたをお守りするでしょう! 2千マギンです」

「ええと? イビルアイではなく、ゾットスルー族なのだよ……。まあ、いいとしよう。便利そうなのでぜひ買おう! はい、2千マギン!」

 萬智禽は、お金を念力で渡し、さっそく銀細工の小さな「魔法の杖」(=お守り)を手に入れた。ぷかぷかと念力で浮かせ、しばらく頭上に乗せておくことにした。

 神父は代金を受け取ると、異形の化身(?)をしばらく拝んでいたようだ。

***

 ここで萬智禽、急に冷たい物が食べたくなった。
 Dのフードセクションでぷかぷかと天井付近を浮きながら、早歩き?で移動した。

 Dセクションは、お昼時が混む頃だろう。
 本格的なランチタイムが始まる前に、萬智禽は早く食べてしまおうと思った。

 向かった先は、D-7のドロシアとしもべたちだ。

 店頭では、北のろ、り……いや、魔女ドロシア本人が、しゃりしゃりと天然氷をかいていた。

「いらっしゃい! あれ、お主は?」

「お、久しぶりだな、ドロシア殿! いつぞやの魔術書を届けたとき以来だろうか?」

 実はこの二人、過去の依頼でちょっとだけ知り合いなのだ。
 接見のときは、散々な目に遭った萬智禽であったが……。

「さっそくだが、ノーザンランドの天然氷で作ったかき氷を食っていかんか? なかなかおすすめじゃ」

「そうなのだな……。宇治金時はあるだろうか?」

「もちろん! ちょっと待ってな。あ、先に代金をもらおうぞ! 千マギンな!」

 巨大目玉は、ぷかぷか、と念力で財布を出した。

「ほれ! 千マギン! では、頼むのだ!」

***

 見るからに煌びやかな宇治金時だ。
 きめ細かく透き通るような氷の山の上に、深い緑色のシロップが一面に降り注がれ、白玉と小豆もたっぷりと乗っていた。

 今、萬智禽はこの宇治金時を、客席にて、盛大に食べようとしていた。

「いただくのである!」

 萬智禽は大口を開け、牙を光らせ、ぐしゃり、とかき氷に?(か)みついた!

「キーン!! かき氷を食べて起こる『アイスクリーム頭痛』が!! 私は、全部目玉だから全身に起こるのである。痛〜!」

 まさにお約束の展開だ!
 だが萬智禽、新鮮な天然氷で作られた爽やかな宇治金時を、ぐしゃりぐしゃり、と最後まで味わって食べたようだ。

***

 冷たい物でのどを潤し、腹を満たした萬智禽。
(いや、目玉を潤し、目玉を満たした、であろうか?)

 お次に巨大目玉が向かった先は……。

 これまたお約束のEの同人誌セクションである。
 もちろん、お目当ては、E-1のHENTAI部だ!

「へーい、よってらっしゃい、見てらっしゃい! 俺のブースでは、世にも不思議な萌え本が満載だよー! 魔法少女を研究した究極の萌え本あるぜー!(ただし、なぜか超うすいのは、ご愛嬌!)」

 HENTAI部では、萌え魔王・トムロウ・モエギガオカが萌え本を売っていた。どうやら、彼自身が出版した同人誌らしい。魔法少女のあんなことやそんなことなど下世話な情報が満載らしい。

 萬智禽はさっそく立ち読みすることにした。ぷかぷかと同人誌を宙に浮かし、ぱらぱらと薄いページをめくり出す……。

「うむ。うひひ……実に(エロくて)いいのだな! トムロウ殿、一部、もらうのだ!」

「お? おまえはこのまえの修学旅行で会った目玉じゃねえか! よっしゃあ、萌え仲間! 一部ぜひ売るぜ!」

 ひとまず、巨大目玉は1万マギンを渡し、難なく目的物をゲット!
 ほくほくの萬智禽はニヤリとして、牙を光らせていた。

「こにゃにゃちは、だにゃ! わたくしにも一部、くださいにゃ!!」

 おや? 今度は、猫耳メイド・コスプレイヤーが買いに来た。

「ん? お姉さん、猫耳メイドコスプレ、なかなかいいな? そうか、お姉さんも萌え仲間か? ならば、一部、買ってくれ! でもなあ……なんか、どっかで見たような……」

 トムロウが彼女をじっくりと見つめながら、考え込んでいた。

「ううむ? トムロウ殿! 実は私もこの猫耳メイドをどこかで見たと思うのだが……」

 萬智禽も目玉をぱちくりさせながら考え込んでいた。

「きっと、アニメで、ですわ! ほら、最近のアニメで、『ご注文は子猫ですか?』という、猫耳メイドのアニメ、やっていたじゃないですか? あのアニメの主人公のコスプレですわ!!」

 メイドさん、必死に弁解する!
 弁解しつつも、何とかして彼女はトムロウから本を無事に購入。

「むむむ……。ううむ……。うう……」

 巨大目玉は必死に思い出してみたが、視神経に障るので、この辺にしておいた。

「うむ。きっと他人の空似なのだな。どこぞのフランス令嬢に似ていたが、おそらく他人だろう!」

 まあ、この手の即売会の萌え本コーナーでは、こういうエピソードもたまにあるようだ。

***

 最後に萬智禽は、3F西ホールのF・モンスターセクションに出向いた。
 聖アスラ学院現代魔術研究所 第二支部では、店頭で魔導ロボ・エリス(美少女仕様)が待ち構えていた。

「おや? あなたは先日の検品のときにいた目玉では!?」

 店頭で、調教グッズをじっと見ていた萬智禽に気が付き、エリスの方から声をかけてきた。

「うむ、いかにも。あの日の検品ではどうもなのだ。さて、サンドスネーク用の調教グッズがあると聞いてやって来たのだが……」

「はい、これね!」

 エリスは、太い注射器だが、針の部分が円状のスタンプになっている「調教グッズ」を取り出した。

「お? これをスネークにぶっ刺すと調教完了であろうか?」

「うん、もちろん! 至って簡単! いつでもどこでも誰でも、あのサンドスネークを調教できるのです! しかも、調教されたスネークは、巨大化したり、パッシブで砂場以外も高速移動できたり、新技能追加なのですよ!」

「よし、それをもらおう! いくらだろうか?」
「3千マギンよ!」

 萬智禽はさっそく財布から、念力で3千マギンを取り出し、支払った。
 引き換えに、大きな注射器をもらい、会場を後にしたのであった。

***

 さて、萬智禽は調教グッズの成果を試したいのだが、会場で巨大化させては周囲に迷惑がかかるので、ビックリサイトの広い庭までやって来た。
 庭では、露天販売をしている人たちや、憩いの場として利用している人たちがいた。
 一応、庭では、動物は放ってもいいらしい。

 ぽふん!
 カプセルからモンスターを召喚!
 萬智禽のサンドスネークこと、マン・スネークの登場だ。
「シャアアアアア!!」

「よし! まずは、調教するのだ! 注射をぺたり!!」
「シャア!?」

 主人は、念力を使い、配下の頭上に、ぷしゃり、と注射をスタンプしてあげた。
 しゅるしゅるしゅるうううう!!
 府抜けた効果音と共に、マン・スネークがぴかぴか光り、調教完了!

「では、今から特訓をするのだ! マン・スネーク、巨大化するのだ! ショー・タイム!」

 萬智禽が新技能・巨大化を命じると、マン・スネークはみるみると巨大化して行った。

(うはは、楽しみなのだな! 某アニメの巨大昆虫みたいに死ぬほどデカくなるのだろうか!?)

 あらら?
 マン・スネーク、主人が止めないので、マギケットの会場並みに大きくなった!

「ストップ! ストップなのだ、マン・スネークよ! 巨大すぎるのだ!」

『シャアアアアア!! シャ? しゃあああ……』

 大きくなったものの、力が出ないのか、ぺたり、とへばってしまった。
 ギャラリーはこの様子を見て、悲鳴を上げる者もいた。

「ふむ。巨大化すればするほどいいわけではないのか? あまり大きくなりすぎると、力なり魔力なりの消耗が激しく、つらいのであろう……。では、マン・スネーク、少し小さくなるのだ!」

『シャ!!』

 シュルシュルシュル、と今度は萬智禽がヘビの胴体に乗れるぐらいの大きさになった。

「シャー!!」

 今度は元気そうだ。

「よし、主を乗せるのだ、マン・スネークよ!」
「シャ!」

 マン・スネークは、主人をぐしゃりと食べ、放って、背に乗せた。

「うおおおお!? ちょいと乱暴なのだな!?」

 ひとまず乗れたので、よしとしよう!

「行け、マン・スネーク、出航なのだ!」
「シャアアアアアアアアアア!!」

 巨大目玉は、巨大ヘビに揺られて、銀河の果てまで飛んで行ったとさ……。
(実際には、庭をぐるぐると周回して楽しんだようだ……)


●未来の一般参加編


 午前九時、マギケットがいよいよ開場だ!
 盛大な拍手とBGMで豪快なオープニングが飾られた。

『本日は、マギケットにお越し頂き誠にありがとうございます! それでは皆様、お祭りの成功と繁栄を祝って、拍手でご入場ください!! ちゃん、ちゃん、ちゃんちゃか、ちゃっちゃ、ちゃちゃ、ちゃん、ちゃん♪』

 マギケットに並ぶ行列の最前列が動き出す。
 皆、我先に、我先に、とマギケットへ入場しようとして、押し合っている。
 係員はところどころで来客の注意や整理をしていた。

「さて、本日、わたし、聖アスラ学院広報部の姫柳 未来は、マギケットへやって来たよ! さっそく開場なんだけれど、この混雑でもう大変! さあ、わたしもこの様子を中継しながら、マギケットに入場するね〜!」

 そのように実況解説しているのは、セリフ通り、広報部の未来である。
 聖アスラ学院の制服の胸元には広報部バッジを光らせ、定番の超ミニスカートを着こなしている。現在、広報部から借りた小型ビデオカメラで取材に取り組んでいるところだ。

 ときに本日、未来は取材だけでなく、一般客としても参加する予定だ。
 それでは、未来と一緒にマギケット、VTRスタート!

***

 未来は入場後も律儀に取材しながら行列と一緒に歩いていたが、この満員電車状態に耐えきれなくなり、テレポートしてしまった。

 まず彼女がテレポートしたのは、1Fの東ホールである。ここは、Aセクションの武器売り場である。様々な武器が売られたり改造されたりする様子を、未来はさっそくビデオに収めた。

(おっと、行けない! わたしも改造屋に用があるんだったね……)

 取材の撮影はほどほどにして、未来は、A-3シューティングマスター・スターダストへ向かう。

 すると、どうやら先客がいたようだ。

「……おう、そいつは郵送するぜ! この申込書に、おまえさんの自宅か勤務先の住所を書いてくれ。改造が終わった後日、郵送する。郵送代金はうちもちなんで安心してくれ!」

「サンクス、デース!! それでは、タノンマース!!」

 そう、改造屋のごつい大男と銃器の依頼について会話をしているのは……。

「オウ、ユーは!?」

「はろー!」

 マギジック・レボルバーをくるくると右手で回しながら、未来は、ジュディにあいさつをした。

「お!? 新しい客か! さて、お嬢ちゃんは何を改造するんだい?」

「ええとね、このマギジック・レボルバーの改造をお願いしたいんだけれど……」

 さっそく未来は依頼の話を持ち掛けた。
 そして、去り行くジュディは……。

「オウ!? 未来もカスタマイズ、ネ! ジュディは行くところあるので、シーユー!」

「うん、シーユー!」

 二人は軽くあいさつを交わしてひとまず分かれた。
 それぞれやることがあるわけだし、また近いうちにどこかで再会することだろう……。

 それはそうと、タンクは、未来のマギジック・レボルバーを手に取りながら、にこにこしていた。

「なかなか使い込んでいるじゃねえか、お若いのに! そういや、うちの改造にはどんな種類があるか、知ってたか?」

 その辺のことは、未来はカタログで予習して来た。

「うん。3連射改造&粘着ゴムの弾丸でお願い!」

「おう、いいぜ! でもまあ、ご存知のとおり、さっきの大きな姉ちゃんの銃器もたくさん改造しねえといけねえ。ちょっと時間がかかりそうだぜ! 改造後、郵送するってことでいいか? もちろん、送料はうちが持つ」

「そうだねえ……。時間がかかるのは仕方ないかな……。まあ、送料もそっち持ちだし、じゃあ、銃器を預けるね!」

「おう! 値段は1回分の改造が3千マギンなんで、2回分改造するから6千マギンな! 前払いで頼むや!」

 未来は財布から6千マギンを抜き出して、タンクに手渡した。
 郵送先の住所もさらさらと記載した。
 さて、ここで帰ってもいいが、未来、取材のことも思い出した。
 かちゃり、とビデオカメラをタンクに向ける。

「さあ、タンク店主! 聖アスラ学院広報部のインタビューです! ずばり、マギケットに出た訳は?」

 最初は面食らったが、これもいい宣伝になるとでも思ったのか、タンクはニカリと笑って答えた。

『おう、そいつはもちろん、我が店スターダストの繁盛、そして大きくはマギ・ジスの銃文化の繁栄のためよ! 銃器は危ないと何かと批判されることもあるが、こいつは使い様、使い手の心次第ってもんだ! 今のマギ・ジスは銃器でてめえの身を守れねえと、死んでもおかしくはねえ世の中だ! 科学勢力と魔術勢力の大きな戦争は終わって久しいが、未だに小さな変な事件は日常的に絶えねえ! ぜひみんなも銃器を持って、改造して、強くなってくれ! あばよ!』

「はい、ありがとうございましたー!! タンク店主、いいインタビュー取れたよー!」

「うむ、またな!」

 改造の依頼が終わり、取材もできた未来は、お次のブースへ行くのであった。

***

 やはり未来は魔法少女でもある!
 次は、Bのオーブセクション、B-2の聖アスラ学院現代魔術研究所である。

 どうやら、シルフィー・ラビットフードが店番をしているようだ。
 ブースの奥では、研究所の所員たちが、オーブの出し入れをしている。

「やっほー、シルフィー! 未来だよ! 元気?」

 未来は、突然、驚かす感じで、シルフィーに話しかけた。

「わっ!? 未来じゃない!?」

 案の定、妖精隊長、驚いた。

「ええと……いらっしゃい! で、どうしようか? 未来はたしか、風のオーブ使いだよね? 今、ちょうど、風のオーブの指輪とかあるけど買ってく?」

 そう言いながら、シルフィーは、ブースに並んでいる緑色に輝く指輪を未来に差し出した。

「うん! ぜひ、これちょうだい! で、追加機能とかあるんだよね?」

「ええ、もちろん! ハリケーンのバリケードが出せるし、ストームブーストの出力調整に魔力カットなんかもあるよ!」

「わあ、すてきじゃない、それ!」

 未来は、シルフィーに代金の1万マギンを支払い、さっそく右手の人差し指にはめてみた。すると、緑色の光がきらきらと光り出した。

「似合っているよ、未来!」

「ありがとう、シルフィー! 試しに今、ハリケーン出していい?」

「それはダメ!」

 さて、未来はここで取材を思い出した。
 ビデオカメラをシルフィーに向けて、インタビュー・スタート!

「シルフィー! 学院広報部の取材に答えて! 現代魔術研究所ブースではいろいろなものを売っているね? シルフィーは、どんなアイテムがおすすめなの?」

 こほん、とせきをして、妖精隊長はブース代表として答える。

『おすすめのアイテム……は、店長としては、『全部』と言いたいね! どれもおすすめです、と! でも実際には、オーブとそのアクセサリーって個人差や使い手の性格の差なんかもあるんで、一概にこれがおすすめです、といは言えないんだよね。例えば、未来は、風のオーブの使い手だよね? それでアクセサリーも風の指輪を買ったわけだし。一方で、さっきお店に来てくれたアンナは大地のオーブの使い手で、アクセサリーも大地の指輪を買っていったわけだし。未来にとって良い物がアンナにとって良い物であると必ず言えるわけではないし、逆もそうだと思う。みんな、自分の好みなり得意なことや苦手なこともあるだろうから、自分に合ったオーブを身に着けているんだと思うよ! なので、ぜひ当ブースに来たら、自分好みのオーブやアクセサリーを見つけてみてね! あたしはコーディネーターもできるんで、魔法少女や魔法戦士になりたい人は必見、よろしくね!』

 ここで、カット!
 未来はよい映像が取れてご満悦だ。
 シルフィーもちゃんと答えられて満足そうだ。

「シルフィー、ありがとー! いい映像できたよー! 近日中にこのインタビュー、広報で流しておくねー!」

「うん、こちらこそありがとう! 宣伝助かるよ!」

 未来はシルフィーと握手して別れ、次のブースへ移ることにした。

***

 3つ目のブースとして、未来は、2F東ホールのCセクション、お守りセクションに向かった。ところどころに神仏やら悪魔やらのお守り屋さんが賑わっていた。お香などのにおいもぷんぷんにおう。未来はその様子もビデオカメラに収めた。

 未来としては、次はC-1のファルコン一門へ向かいたいのだが……。
 未来、ちょっと考えていることがあった。

 ところ変わって、ファルコンのブース。
 覆面レスラー姿のリーダー・ファルコンは、それなりに暇をしていた。
 彼のバッジを買えるのは、技能「ブリンク・ファルコン」習得者のみである。
 マギ・ジスタン内でも、難関である彼の講座をクリアし、技能を身に着けている者は少ないのだ。

「とう、ブリンク・ファルコン!!」

 未来、上空にワープし、三連続蹴り攻撃を繰り出す!
 超ミニスカートが怪しく揺れた!

「むむ、そこかー!! そりゃあ!!」

 ファルコン先生もカウンターで、三連続攻撃を全て弾き返した。

「ヘイ、未来! なんてことするよ!? 俺様は仮にでもおまえさんの元先生だぜ!?」

「えへへ、ごめんなさーい! 先生が暇をしていそうだったので、退屈しのぎに良い運動になると思ったんだよー!」

 未来、反省の色なし!!

「で、未来! 何の用だい!?」

「もちろん、連撃効果のバッジを買いに来たよー!」

 ファルコン先生は、ブース店頭にある、ぴかぴか輝くハヤブサのバッジを取り出し、未来に手渡した。

「5千マギンな!」
「はい!」

 未来も財布から5千マギンを取り出し、先生に渡した。

「ところで、先生。わたし、学院広報部の取材もやっているんだよ! よかったら、このビデオカメラの前で、答えて欲しいことがあるの! どうすればファルコン先生の技能がもっと伸びるか教えてー!」

 ファルコンは、キラリと眼光を光らせて、カメラの前でニカリと笑い、話し始めた。

『ふむ。アドヴァイスか。実は門下生を卒業した時点でもはや言うべきことはないのだが……。あえて言えば、常に技能を使うことじゃねえかな? 技能は使えば伸びる、だが使わないと伸びない。例えば……今、この会場でブリンク・ファルコンを使ってみてはどうか? もちろん、通行人や一般人を攻撃しろ、という意味ではなく、人混みをハヤブサのように素早く避けるとか、何かしら訓練の余地はあるはずだぜ? あとは、事後報告になったが、大タコをみじん斬りにして新しいブリンク・ファルコンを習得した奴や、空中戦の戦いからもブリンク・ファルコンを研さんした奴もいたな……。ま、まずは使い続けることだ! がんばれ!』

「わあ! 先生、ありがとー! さっそくやってみるよー!」
「おう! 取材もありがとうだぜ! 宣伝頼むな! 最近、門下生少ないんで!」

 未来はファルコン先生と握手をしてから、ブースを立ち去った。
 その後、言われたとおり、未来は「ブリンク・ファルコン」しながら、人混みをかきわけて、次のブースへ向かったという。

***

 未来が本日の最後にやって来たのは、エントランス付近にある風紀ブース(G-1)である。
 どうやら、風紀を手伝いに来たのは、未来が一番ではなく、既に先客がいたようだ。

「こんにちは、スノウ! あ、またジュディも!? よかったら、わたしも風紀の手伝いするよー!」

「あら、未来さん! ちょうどいいところに! そうねえ……。そろそろパトロールをしたいんだけれど、今、コーテスたちがランチタイムなので、人手が減っているのよね……」

「そうなの、スノウ? だったら、わたしに任せて!」

「そうですネ! ジュディは、ブースの警備してマース! スノウは、ぜひ未来とパトロールするデース!」

「うん。そうしようかしら? じゃあ、ジュディさん、あとはよろしくね!」
「よし、行こう、スノウ!」

 スノウと未来は、一緒にマギケットのパトロールへ行くことになった。
 ブース店頭に取り残されたジュディは、ブース警備をするのであった。

 さて、パトロール中、まず見つけたのは……。

「うえーん!! ママー!!」

 小さな男の子が迷子になっていた!

「どうしたの!? 大丈夫!」
 未来はすぐに駆け寄って、子どもを慰めた。

「迷子のようね? 場内アナウンスをした方が手っ取り早いかしら?」
 スノウが素早く判断を下した。

「じゃあ、わたしがアナウンスしに行くよ! テレポで行けばすぐだし! スノウはこの子を風紀ブースに一度、送り届けてくれる?」

「そうね! そうしましょう!」

 そうと決まり、未来はエントランス付近の放送室に入り、事情を説明し、アナウンスをした。

『ぴんぽんぱんぽん♪ マギケットにご来場の皆様、本日はお越しくださりありがとうございます。迷子のお知らせがあります。坊主頭で赤い服を着ている五歳ぐらいの男の子が1F東ホールで迷子だったところ、わたしたち、風紀委員会ブースが保護しました。現在、男の子は、風紀委員会ブースにいます。お心当たりがある保護者の方は、至急、エントランス付近の風紀ブースまで来てください。繰り返します……』

 こうして、未来のアナウンスのお陰で、親子はすぐに再会ができた!

「ふう、いいことするって気持ちいいねー!」
 未来は清々しく背伸びした。

「そうね! いつでも風紀委員会に入ってくれていいわよ、未来さん! ただし、正規の風紀委員になる際には、スカートの丈は調整してね!」

 スノウのそれとなくきつい一言に、未来は苦笑いしていた。
 やはりスノウはこういうところは生真面目だ。

 さあ、時間はまだあるので、パトロールの続きだ。

 今度は、お年寄りが重そうに荷物を運んでいた。
 どうやら、萌え本を買いすぎたらしい。

「えっほ、えっほ……。はあ、はあ……。重いわねえ……。女性向け萌え本100冊、死ぬまでには絶対読破してやるわ! ぬおお、これしき……」

 ばたり!
 萌え本の風呂敷を抱えていたおばあさんが、倒れた!

「おばあさん、大丈夫!」
 未来がすぐに駆け寄った。
 スノウも駆け寄り、散らばったおばあさんの荷物をまとめてあげた。
(萌え本ばかりなので、眉を傾げたスノウであったが……。)

「おお、すまんのう、若い人たち! 悪いが、手伝ってくれんかのう? エントランス付近にある配送センターに行きたいんじゃ! マギ・ジス郊外にあるワシの家まで、この荷物を送りたい。しかし、何分、この年じゃし、荷物が重くて、どうにもこうにも、こうコケてばかりでなあ……」

 ともかく、事情はちょっとあれだが、困っていることは確かだ。
 未来が萌え本を担いで運ぶことになった。
 幸い、エントランス付近の配送センターまで近いので、未来はテレポートを繰り返し、本を運んだ。スノウは、おばあさんの手を引いて、配送センターまで連れて行ってあげた。

***

「ふう……。今日は、特に風紀がんばったよねー! 迷子を助けたり、おばあさんを助けたり、ブース警備の手伝いしたり、コーテスがおやつを食べるのを代わってあげたり……」

 そろそろ日が暮れる時間帯であり、未来は、一日を振り返り、充実していた。

「まあ、最後のひとつとかは余計かもしれなかったけれど、半日ほど風紀の手伝いをしてくれてありがとう、未来さん! はい、これはお礼よ!」

 スノウは、未来の手元に、マギケット風紀委員バッジを渡した。

「わあーい! やったー! これ欲しかったんだー!」(へへへ、これで技能もアーップ!!)

 浮かれている未来を見てため息をつくスノウであったが……。

「まあ、いいわ……。実際、風紀は助かったわけだし……」

 そこで、きりり、と居直る未来!

「スノウ委員長、本日はお世話になりました! 今後も、わたしは、世のため、人のため、風紀のため、尽力する次第であります!」

 ちょっと口調がおかしいが、未来なりの決意と感謝(?)を示しておいた。
 もちろん、ブース撤収時には、取材も忘れなかった。
 未来は、今日一日、風紀で起こったことをスノウから聞き取り、ビデオカメラに収めた。
 銃器改造屋、現代魔術研究所、ファルコン一門、風紀委員会、といったブースを巡り、未来の忙しくも楽しい一日は終わろうとしていた。

***

 ここまでがマギケット初日のPC諸君の行動だ。
 次回、第2回目の2日目では、いよいよサークル参加編が解禁される!

 自分のアイテムを開発してサークル出店する者。
 既存サークルのブースを手伝う者。
 一般参加を続ける者。

 それぞれいるだろうが、明日もぜひお祭りを楽しんで行こう!
 初日に来た諸君も、2日目から参加の諸君も、マギケット一同はぜひお待ちしているぞ!

<続く>