「3番目の魔術師事件」第1回(調査編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ


★第一章 事件解明に向けて、作戦会議

・第一節 学院長の呼び出し

・第二節 作戦会議と役割分担

★第二章 3番目の魔術師を調査する

・第一節 ちゃちな事件を調査

・第二節 被害者コーテスの調査

・第三節 被害者コットンの調査

・第四節 被害者リリアンの調査

・第五節 容疑者トーマスの調査

・第六節 スノウと(を?)調査

・備考とヒント


★第一章 事件解明に向けて、作戦会議


・第一節 学院長の呼び出し


「こほん! 時に、スノウ委員長。あなたがなぜ、ここに呼び出されているのか、理由はお分かりかな?」

 咳払いをして厳しい視線を投げかける老人は、アスラ学院長本人である。
 聖アスラの末裔である現学院長は、緊迫した面持ちのスノウ・ブロッサム(NPC)が回答するのをじっと待っていた。

 そう、ここは聖アスラ学院の厳粛なる学院長室だ。
 本日の早朝、風紀の会議をするつもりで、スノウは早朝く登校した。
 ところが、朝一番にスノウは学院長室へ来るように、とアナウンスを頂いてしまったのだ。

 やがて、スノウは学院長と目を合わせて重い口を開く。

「呼び出された理由は……現在、学院で起こっている謎の事件のことですね?」

 ふう、とアスラ学院長はため息をついた。

「うむ。まさしくその通り。本来であれば、本校は学生の自主性を尊重し、職業訓練の場を与える校風なので、学院上層部が風紀委員会に口出しすることはない。だが、現状、どうだろう? 我が校の風紀は、謎の犯人による傷害事件の連続で、乱れておるではないか! 風紀は何をしている! なぜ、早期に事件解決に取り組まないのだ!」

「学院長!! お言葉ですが、我々、風紀委員会は、全力で事件解決に取り組んでいます!」

 声が荒げている学院長に対して、怒鳴り返すスノウ。
 しかし、これでは、余計に立場が悪くなるだけだ……。
 風紀の教員の一人であるアメリカン・レディことジュディ・バーガー(PC0032)は、巨体の両肩をアップダウンさせていた。

「ヘイ、スノウ! ストップ! ココで学院長相手にケンカしても何にもならないヨ! ここは社会人のジュディに任すネ!」

 スノウは、渋々と、交渉をジュディに任せることにした。

「学院長! この度は、風紀の不始末、誠に失礼存じ上げたデス! デスが、学院長もおっしゃる通り、本校は、スチューデントの自主性をリスペクトしマース! もし、ココで、今、学院上層部やポリスが介入シタラ、風紀は壊滅しマース!! どうか、スノウたちに、ワン・モア・チャンスをお願いデース!! もし、風紀が事件解決できなケレバ、責任は、教員のジュディが取りマス!」

 ジュディは、深々と頭を下げ、お辞儀の姿勢で、学院長に頼み込んだ。
 さすがに異世界人(客員)教員のジュディにまでこうも頼まれては、学院長も頭ごなしに説教する気が失せてきたようだ。

「うむ。ジュディ先生のおっしゃることも、もっともだ。だが、私個人としては、これ以上、学生たちに危険な目にあって欲しくないので、今すぐにでも風紀の活動停止を命じたいところだ。ううむ……では、苦渋の決断だがこうしよう。今日の現時点から数えて、明日の終わりまでに事件を完全に解明しなさい。それが学院上層部からの条件だ。もし、明日の終わりまでに事件が解決できなかった場合、学院上層部と警察が介入することに異議がないことを約束してもらおう。無論、そうなった際には、風紀委員会の解体と再編成を命じることになる。ジュディ先生もスノウ委員長も、問題はないね?」

(問題はないね……?)
 いや、ジュディもスノウも百パーセント頷ける条件ではないだろう。
 一方の学院長にしてもぎりぎりの譲歩であることは、二人は理解している。

「わかりました……。私は、その条件でかまいません」
「イエス! ジュディも、OKデス!」

 風紀の二人は深々と頭を下げて、学院長室を後にした。
 そして、風紀の仲間たちが待っている風紀委員室へと会議のため、急いだ。
 道中……。

「ジュディさん……。フォローありがとうございました。私だけだったら、さっき、かっとなってケンカになって、風紀が解体していたかもしれませんでした……」

「ドンマイ、スノウ! ジュディたち教員は、サポートのためにいるようなもんネ! それにしても、スノウ! ウォーターがくさいデース!! 事件開始の時点から、今回のことをジュディに教えてくれていたら、早期解決でしたネ!!」

「本当にすみませんでした、ジュディさん。連絡が昨日の夜遅くになってしまって……。見込みの甘かった私の責任です。それにコーテス(NPC)も負傷してしまったので、もう本当にどうしていいか、わからなくなって……」

「ジュディは、大変、アングリー!!(怒っている!!) コーテスの仇は取りマース!! 負傷した風紀や他の被害者の仇も取りマース!! では、教室についたら、レッツ・作戦会議ネ!」

「はい!」


・第二節 作戦会議と役割分担


 スノウとジュディが風紀委員室へ入室すると、仲間たちは既に待機していた。

「(スノウ、帰ってきませんわね……大丈夫でしょうか?)……スノウ! やっと来ましたわね! 学院長に呼び出されていたようですが、さては、こってりと絞られたのでしょうか?」

 ノートを開いて待機していたのは、本学高等部に所属するフランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)である。アンナも昨夜、スノウから電話をもらっていたので、大変心配していた。今朝もスノウがなかなか帰ってこないので、澄ました表情でも内心は穏やかではない。

「ぷんぷん、それにしても今回は卑劣な事件だよね、風紀のみんなや一般学院生を傷つけて……!! あ、スノウにジュディ!! 帰ってきたー、よかったー!! ん!? スノウ……説教されたみたいだね? でも元気そうで良かった!!」

 アンナの隣で、最初はぷんぷん、後半は、にこにこしながらそう言ったのは、同じく高等部の姫柳 未来(PC0023)である。ちなみに彼女の学院制服は超ミニスカであり、胸元には風紀と広報部の両方のバッジが光っている。さすがにスノウも、今、注意している余裕はないようだ……。

「心配かけて悪かったわね、アンナさんに未来さん!! ジュディさんが付き添いで来てくれたからよかったものの、あと一歩で風紀が解体するところだったわよ!! (はっ、しまった! 言ってしまったわ!)まあ……交渉の結果、明日の終わりまでに事件を解決できなかったら、本当に風紀は解体されるけれどね……」

 うふふ、と口に手を当てて笑ってしまったのは、大学部の人魚姫、マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)である。

「スノウ委員長、いつもの調子が戻りましたわね? 昨夜、お電話を頂いたときは、今にも泣きだしそうで声色が悪かったので、心配しておりましたわ。ですが、もう大丈夫! わたくしたち異世界人の風紀協力者チームがそろえば、怖いものなんてありませんわ! そして、今こそ、王族としてノブレス・オブリージュ(訳:高貴さは義務を強制する)を発揮するときですわ!! スノウさん、わたくしにできることがあれば、何でもおっしゃってくださいませ!!」

 モブの風紀員会たちも、そうだ、そうだ! と湧いた。
 風紀委員たちは、負傷したり、逃げだしたりで、既に数がけっこう減っている。だが、残っている有志たちは、異世界人の登場と共に希望を見出したようだ。

 がらがら!
 誰かが教室の扉を開けた。

「まいどー! もうかりまっか? 風紀の教室、ここやろな!?」

「うむ。間違いないだろう! スノウ殿がいるし、ジュディ殿やアンナ殿たちもそろっているし、ここが風紀の教室だな!」

 登場したのは、キューピーな座敷童子のビリー・クェンデス(PC0096)と、浮遊している巨大目玉の萬智禽・サンチェック(PC0097)である。

「え? ビリーさんに萬智禽さんまで!?」

 驚いているスノウに、ジュディが補足した。

「ジュディがヘルプを要請したデース!! きっと、現代魔術研究所のあの二人も役立ちマース!!」

 もちろん、仲間の援軍が増える分には、スノウには文句はない。
 特に、よく知っている二人であれば。

「がはは! 近頃、あんぱんとミルクが購買ではよく売れる……と聞いたのだ。風が吹けば桶屋が儲かるではないが、あんぱんとミルクが売れれば事件の張り込みが起こる、なんていう諺(ことわざ)を聞いたことがあるのだよ。それで興味津々だったところ、まさかのジュディ殿からの事件調査依頼だったのだ! ぜひ、そなたらに協力しよう!」

「そやな。念のため、うちの隊長に断り入れておいたで。しばらくボクら、研究所の方はお休みして、風紀に協力するんで、よろしくな!」

「うん。あなたたち、ありがとう! こちらこそ、よろしく頼むわ!」

 スノウや他の風紀たちが研究所から来た二人を歓迎していたところ、再び、ノックの後、扉が、ガラガラと開いた。

「あのー。すみませーん。ここ、風紀委員会の教室で合っているかな?」

 扉越しには、見慣れない人物がいた。
 服装は、ツバのない渋い帽子、黒いケープ、ジーンズズボンにブーツ。
 帽子からは、三つ編みになった金髪のロングウェーブが垂れていた。
 紅い伊達眼鏡をかけているが、奥にある瞳は、猫のような緑色の目をしている。
 整った顔立ちをしているスリムな美少女だ。

「あら、あなた! もしかして、ワスプの!?」

 スノウが、歓喜の声と共に、問いかける。

「うん、そうだよ。ワスプから派遣されて来た探偵のヴィオレッタ・ベルチェ(PC0098)だよ。よろしく! そちら、ブロッサム委員長?」

「はい! 私が、依頼をしたスノウです!」

 あれは誰だ?
 と風紀や異世界人たちが疑問に思っていたところ、スノウが改まって解説を入れた。

「こほん。ご存知の通り、現在、風紀委員が負傷したり逃亡したりで、数が激減しています。そこで、ワスプに極秘任務依頼を出しました。ナイト・ウィング(NPC)さん直属の部下であり、探偵としても活躍されているヴィオレッタさんも今回の事件に介入して頂くことになりました。なお、これは極秘任務なので、うちがワスプに救援を求めたという情報はどこにも流れていませんし、秘密にすることをお願いします!」

 スノウがそう説明し終えると、ヴィオレッタは、にっこりと笑ってお辞儀した。

「ま、そういうことなんで、よろしくね!」

 実は、この中にはヴィオレッタの知り合いは一人もいない。
 なので、すぐに歓迎します、というムードではないようだ。
 だが、現在、極秘で雇った見知らぬ探偵であるとしても、いてくれれば大助かりだ。
 今は、風紀の大ピンチには違いない。
 皆、異論なく、ヴィオレッタの介入を許可した。

 さて、風紀委員会のピンチに駆けつけた異世界人協力者に現代魔術研究所やワスプのメンツ。
 事件解決に向けて、さっそく会議が始まるのであった。

***

「…………と、いうことが、今回の事件のあらましね……」

 スノウは最初の数十分、昨日の事件や、ここ数日で起こったちゃちな事件までさかのぼり、皆に淡々と事実関係を報告するのだった。

 昨夜、ジュディやマニフィカなどはスノウから電話で簡単に説明を受けていたが、本日の会議冒頭でスノウは詳細に事件を説明した。

(*当シナリオ 募集案内 第1回で起こった経過の全てが説明されました)

 ここまでで誰も疑問も質問もない。
 スノウは、黒いマーカーを手にして、調査のグループ分けをボードに書いていこうと思った。

「では、さっそくだけれど。調査のグループを分けるにあたり、立候補などあれば、手を挙げて!」

 まず、ビリー、マニフィカ、ジュディが手を挙げた。

「ボクは……。コットンさんから聞き取り調査したいねん。被爆されたんやろ? きっと、心のケアが必要だと思うねん。ボクと配下の魔物たちで励ました方がええと思うんや……」

「わたくしは、魔導動物研究室が気になりますので、そちらへ向かいますわ! 知人たちですし、何かと聞き取り調査などがやりやすいかと存じます」

「ジュディは、もちろん、コーテスの聞き取りデース!! コーテスの見舞いもしてやりマース!! フードファイトのフレンドを大けがさせる犯人、成敗してやりマース!! そのためにも、コーテスから被害当時の話を聞いてきマース!」

「そうね。では、三人には、それぞれの被害者と犯行現場の調査をお願いしたいわ。皆も異論はないかしら?」

 特に異論はなかった。
 会議は続く。

 そこで、アンナと未来が同時に挙手した。

「はい、アンナさんと未来さん!」

 スノウが二人を指名すると、アンナが譲り、未来が話すことになった。

「あのさ……。言いにくいんだけれど……。今、トーマス(NPC)っている? 教室内を見渡した感じ、いないよね? 彼、何しているの?」

「同感ですわ。わたくしも、今、それを聞こうと思っていましたの」

 未来とアンナの質問を受け、スノウが淡々と返す。

「トーマス・マックナイト委員は、この会議から外したわ。彼は今、コットンさんが被害にあった音楽室で仲間の風紀たちと現場の見張りをやっているところよ。なんで?」

 スノウの回答に、アンナと未来は顔を合わせて、頷いた。

「その……。これも言いにくいことですが……わたくし、トーマスがかなり怪しいと思っているのですわ! トーマスって、いつも犯行現場にいましたのよね? それも毎回、負傷者が出る中、唯一、彼だけが無傷で生還されていますわ! 他にも、色々と思い当たるところがございまして……」

「まったくもって同感!」

 アンナのたどたどしい発言に、未来も頷いた。

「実は、私もトーマスが、この事件に何かしら関与していると推理しているわ。だからこの会議からトーマスを外したの。そう、まさに今、アンナさんと未来さんが言っているように、トーマスを容疑者として調査した方がいいと私自身、考えているわ。では、ちょうどその意見も出たことだし、トーマスの調査はアンナさんと未来さんに任せてもいいかしら?」

「もちろんですわ! トーマスを問い詰めてやりますわ!」
「うん、わたしも問題なし! むしろ、トーマスが白か黒かここではっきりさせたい!」

 トーマス容疑者の件で話がまとまった中、お次は、萬智禽が、目玉を挙げた。

「あの……。萬智禽さんは、何をしていらっしゃるのかしら?」

 スノウは、不可解な目玉の挙動に疑問を覚えた。

「手を挙げたいのであるよ……。だが、目玉しかないので、目玉を上向きにして、あっぷ、あっぷ、と挙げているところである!」

 ひとまず、スノウは、今度は彼に話をしてもらうことにした。

「ふむ。役割分担だが、肝心なことを忘れていないだろうか?」

 そうだったわね、とスノウは手をぽん、と叩いた。

「最初の頃のちゃちな事件のことね! 傷害事件が起こる以前にTMがいたずらしていたあの小さな事件の数々も調べた方がいいわね!」

「左様。ちゃちな事件に関しては、私が責任をもって調べよう! 事件というのは、案外、ああいう小さな事件を紐解くことで、大きな発見があるものだからな!」

 さて、役割はだんだんと決まって来た。

「では、ブラスト・ゴールドブレイズ(NPC)とサンダー・フロッグスタイル(NPC)といった残りの容疑者だけれど……。私が担当するわね。あ、ヴィオレッタさんの担当がまだ決まっていなかったわね? どうしましょう? 私に同行してくれる?」

 委員長の問いかけに、探偵少女の眼光がきらりと光った。

「うん。そうだね、ボクはスノウさんに同行しようかな……。改めてよろしく!」

 なお、残りのモブ風紀たちは、普段の風紀業務や三つの傷害事件犯行現場の見張り役に交代で回ることになった。

 さあ、役割分担が決まり、サイコロが振られた。
 異世界人たちを交えた風紀委員会の調査で、TMは捕まるのだろうか?


★第二章 3番目の魔術師を調査する


・第一節 ちゃちな事件を調査


 萬智禽は、ぷかぷかと浮遊しながら、講義棟1Fの男子トイレまでやって来た。
 スノウから聞いたところ、三日前、このトイレの壁にあった落書き「バカ野郎」に触れた男子学生が、落書きから怒鳴られたようだ。
 現在でも落書きがそのままだ。
 念のため、萬智禽が頭突きで落書きに触れてみたが、何も起こらなかった。

(ふむ。男性トイレに悪戯が仕掛けられたことからして、犯人は男性トイレに入っても違和感がない人物であるな。男子生徒か男子教員だろうか。もしくは女性でもトイレの清掃係とか。でも一般人だと魔術の罠は仕掛けられないので、一般人の清掃係は除外するのである……。いや、犯人複数説もあり得るのである。清掃係を含む、学院のスタッフたちが犯人だとしたら、どうであろうか? もしかしたら違うかもしれないが、間違っていると思われる対象をあえて検証して可能性を潰し、調査範囲から外せるようにするのも立派な調査である。さて、始めよう……)

 萬智禽は、マジックアイテム『過去視の水晶球』をアイテム袋から、ぷかぷかと取り出した。
 そして、ゾットスルー語で呪文を高速詠唱すると、水晶が青白く、ぴかぴかと、光りだす。

 水晶玉の中では、まるで映画のシーンみたいに、過去の映像が映し出された。
 萬智禽は、テープを巻き戻すかのように、現時点から三日前の午前零時に映像を巻き戻した。今度は、早送りをするかのように、水晶の中は数倍速の速さで、映像が進行する。

 最初の数分間の早送りでは、特に異常はなかった。
 午前零時から午前六時ぐらいまでは、学校に徹夜した学生や教員らが用を足しに来る映像が映っていた。たまに清掃係も掃除に来ていたが、別段、怪しいことはなかった。

 だが、午前七時過ぎ……。

(あ、こいつ!!)

 壁に落書きをしに来た男が現れた!
 青い髪を立てていて、黄色の目をしている。
 体格はマッチョで南国人風の服装をしている。
 若そうなので、おそらく学生であることだろう。

 そのマッチョな学生が、ポケットからマーカーを取り出し、壁に「バカ野郎」と書いた。
 その直後、ポケットから、今度は、白い拳銃のような器具を取り出した。
 男は、自分の右のこめかみに拳銃を突きつけ、トリガーを引いた!

(え!? うそ!! ここで自殺事件があったのか!?)

 目玉をひんむいている萬智禽だが、ここでの事件の一部終始を知るべきなので、引き続き、目を凝らして映像を見届ける。

 ばきゅん、と軽い銃声が響いたあと、男の体内から禍々しい闇属性のオーラが飛び出た。
 男の眼光がギラリと光る。

『オラアアア!!』

 男が右手をかざし、落書きがある壁に手を叩きつける。
 すると、落書きが一度、黒く光り、点滅し、闇を吸収した。
 その後、男は何もなかったかのように、トイレを去って行った。

(ふむ。こいつがトイレ事件の犯人とみて良いだろう。念のため、その後の経過も観てみよう……)

 水晶の中の映像は、再び、数倍速で早送りされた。
 午前九時頃、ひとりの男子学生が入って来た。
 見たところ、朝の授業に来た大学生だろう。
 置いてあったゴミ箱に足をつまずかせ、壁に書かれた「バカ野郎」の文字を両手で触れてしまった。

『バカ野郎!!』
『うぎゃあああああ!!』

 そして、天井の方から、TMの紙切れが落ちて来た。

(なるほど……。やはりこうなったか! よし、次へ行こう!)

 巨大目玉は、水晶を袋にしまい、次の現場へ向かった。

***

(ふむ。時系列で追うか……。スノウ殿の話では、同じく三日前に起こった事件で、食堂の方でガムを踏んだら爆竹になった事件もあったのだな? たしか、場所は……そうそう、食堂へ至るこの路上にガムが落ちていて……それが爆発したと。では、例のごとく水晶を照らしながら、順路を追い、見て行こう!)

 萬智禽は、食堂へ至る路上で、ゆっくりと浮きながら、水晶をかざした。
 水晶の中では、先ほどと同じく、三日前の映像が流れている。
 彼は、ここでも数倍速で早送りしてみた。

(むむ! ガム発見! 今、男子学生が、ぺっ、とガムを吐き捨てたのだ。あ、こいつ!! さっきの青髪マッチョ!! ええと、時刻は……午前十一時。ちょうど、ごはん時だな?)

 午前十一時の食堂への道は混んでいた。
 さっきの学生がガムを吐き捨てても、誰も彼の行動を注意しなかった。
 いや、道があまりにも混雑しているので、誰かがガムを捨てようが、視界に入らないのであろう。

 そこから、十分後……。

 今度は、とある女子学生が運動靴でガムを間違えて踏んづけたら……。

『どかん! ばち、ばち、ばち、どかん!!』
『きゃああああああああ!!』

(むむっ!! 今の映像、もう一度!!)

 萬智禽は、水晶の中のテープを巻き戻し、ガムが踏まれるその瞬間をスローで観た。

(うむ。間違いない。今、ガムが転移したのである! ガムが爆竹とすり替えられたのだ!! それにTMの紙切れも現れたのだ!!)

***

 それにしても、二回も連続登場した先ほどの怪しい青髪マッチョは何者であろうか?
 ガムの爆竹とのすり替えも彼がやったことなのだろうか?
 何かがひっかかる中、萬智禽は次の現場へ向かった。

(次は、時系列から言って、二日前の犯行現場に移ろう。先ほどの落書きとガムの件から翌日に起きた事件だな。たしか、この日の午前中に、運動場、植物園、図書館でちゃちな事件が起きたのだ。で、放課後にコットン殿が襲われ、夜にリリアン殿が襲われたあの日だな……)

 萬智禽が運動場(=校庭の走り場)まで来ると、ちょうど大学部の体育の時間だった。
 学生たちは、運動場の奥でバスケットボールをやっていた。
 萬智禽は、体育教員の許可を取り、運動場の犯行があったとされる一角を調査するのであった。

(ふむ……。ここでナメクジ殿が大量に降って来たと、と……。さて、水晶で観てみよう……)

 映像は、二日前の午前中の体育の時間を映し出した。
 時刻は、午前九時半頃。
 運動着を着ている学生たちが、元気よく走行していた。
 すると、突然、空中に大量のナメクジが沸いて、どかっと、落下!

『うおおおおおおおおおお!!』
『うぎゃああああああああ!!』
『ひいいいい、なめくじいいい!!』

 学生たちは、ナメクジまみれになって、べとべとになり、混乱して暴れていた。
 ついでに、空からは、TMの紙切れが落ちて来た。

(ああ無惨なのだ……。こうはなりたくないものだな……。それはさて置いて……。このナメクジ殿、突然、空から降って来たのだ。しかも百匹は、いるのでは、なかろうか? これもあの青髪マッチョの仕業であろうか?)

 何かが解せない萬智禽。
 彼は、犯行現場であった運動場を少し歩いてみることにした。
(実際には、歩けないので、ぷかぷかと浮遊しているのだが)

「おや、これは!!」

 念力で、落ちている「あるもの」を浮かばせる。
 その「もの」とは、ナメクジの死骸であった。

「うむ。これぞまさしく、犯行にあったナメクジ殿なのだな? よし、証拠品として取っておこう!」

 萬智禽は、鑑識が作業するかのように、じっくり取り組んだ。彼は、小さな真空パックのビニール袋をアイテム袋から取り出し、念力でナメクジの死骸を浮遊させ、大事にしまった。

***

 続いて萬智禽は、同じく二日前に起こったちゃちな事件である、植物園と図書館にも寄った。

 同じく、水晶を使って過去の犯行現場を観る作業を行った。
 すると、ここでも、あの青髪マッチョが登場!

 植物園の方では、午前八時に入園し、何食わぬ顔で魔界ラフレシアに細工した。
 細工のときも、あの白い拳銃で自分を撃ったあと、花に両手をかざした。
 もちろん、その後の美術の授業の午前十時過ぎには、花が笑い出したようだ。
 天井からは、TMの紙切れが落ちて来た。

 図書館の方でも、午前十一時に司書たちが本の整理をしている中、あの青髪マッチョが現れた。今度は、鞄から怪しい札を取り出し、本に貼って、何かを挟み、逃げて行った。もちろん、その後、その本を整理しに来た司書が、『呪いの魔術札』の札を本から剥がすと、黒光りして、ちょっとした事件になった。なお、TMの紙切れは、この本に挟まれていたようだ。

 萬智禽は、ちゃちな事件五件の調査が終わり、一度ここで、事件を整理してみることにした。

(ふうむ……。気になるなあ……。最初のちゃちな事件とその後に起こる傷害事件とは事件の質が違うような気がするのだ。さっきの水晶映像に映った青髪マッチョが全ての事件の犯人なのだろうか!? いや、待てよ……!!)

 萬智禽は、あることを思い出した。
 食堂の爆竹事件と運動場のナメクジ事件は、青髪マッチョが映っていなかった。
 いや、実行犯として映っていなかった。
 食堂付近でガムを捨てたのは彼だが、その後、「何者」かが爆竹にすり替えた。
 そう、転移魔術を使って。

(そう、そうなのだよ! 食堂の爆竹事件、運動場のナメクジ事件は、転移魔術なのだよ! 現に映像では、ガムと爆竹が転移していたではないか! ナメクジの死骸という物証が運動場に落ちていたではないか! だが、青髪マッチョが使った魔術はどうだろう? あの男が細工したのは、壁の落書き、植物園の花、図書館の本……どれも転移魔術ではなかった……いや、おそらく、幻覚系の魔術だろうな、あれは……。まあ、どういう仕掛けの幻覚なのかは、わからないであるし、あの白い拳銃も何なのかわからないのだが……)

 だがひとつ、萬智禽は確信したことがある。

(TMは、複数犯なのだ……。青髪マッチョが犯人の一味であることは疑いようがないとして……他にも、転移魔術を使う奴が仲間にいて……その後に起きた傷害事件も含めれば、まだまだ仲間はいるのだろう……。よし、スノウ殿に報告だ!!)


・第二節 被害者コーテスの調査


「ヘイ、コーテス!! ハウ・アー・ユー!?(元気!?) もう大丈夫なの!? お願い、目を覚まして! ウエイクアップ!!」

「シャー!! シャー!!(コーテス君、頼む、起きてくれ! ジュディのためにも!)」

「ん……ふわあ!! え!? なに!? 何の騒ぎ!?」

 ジュディと愛蛇ラッキーは、会議後、コーテスが入院している付属医学部病院の3F外科病棟の病室へ駆けつけた。昨夜、ジュディは、スノウから電話を受けたとき、すぐに病院へ駆けつけたものの……。コーテスが重症で意識不明の状態で集中治療中だったので、面会を謝絶されてしまったのだ。

 居ても立っても居られないジュディだった。だが、今、自分がここで冷静さを失い、コーテスの心配だけにかまけていては、何も救われないことは、大人としてわかっていた。風紀委員会は色んな意味で大ピンチだ。謎の強敵犯人TMが現れ、学院の風紀は乱れ、風紀委員たちも負傷したり逃亡したりで、半壊状態である。なので、せめて自分だけは冷静でいなくては……と、ジュディは怒りと悲しみを抑え、早朝、スノウと共に学院長と話し合うのであった。

 そして会議が終わった今……。
 コーテスが個室の病室で寝ていたところ、ジュディは愛蛇ラッキーと共に押し掛けたのだが……。
 どうやらコーテスは、意識は既に戻っていて、今は単にお昼寝をしていただけだった。

「ええと……。ひとまず……僕は、大丈夫です!! この通り、ぴんぴん、して……います……」

 ぎっくり、ぐしゃ!!

「あ、いたたた……」

 WAHAHA! と、ジュディとラッキーは思わず笑ってしまった。

「トモカク……。トウゲは越えたネ!?」

「ええ、まあ。伊達に不死身キャラは、……やって、いませんよ! それに実は、やられる前に……このお守り、持っていたんで……。ダメージ軽減、していたんですよね……」

 コーテスは、手元の机の引き出しから、ぼろぼろになった緑色の山岳風お守りを取り出した。
 どうやら、このお守りは、ダメージを受けた際に、徐々にHP回復するお守りのようだ。

「ワオ!? グッド・アミュレット(良いお守りね)! で、退院は、いつ!?」

「明日ですね。お医者様も、驚異的な回復能力だ……と驚いて、いました!」

 もしかして自分は心配し過ぎたのではないか、とジュディは、ため息をついた。
 お見舞いの品々を持ってきたのだが……。

「ん!? ジュディさん……その袋……なに!? いい匂い……するような……」

 せっかく持って来たのだし、ジュディは差し渡すことにした。

「お見舞いグッズ、デース!! ウマドラバーガーとウマドラスクランブルエッグ、がっつり食いマース! その後、ウマドランVをがっつり飲みマース! オール、オッケイ、回復パーフェクト、ネ!!」

「おお!! 僕の大好物……ウマドラバーガーにウマドラスクランブルエッグ……!! 懐かしい、です!! ジュディさんと、共に……フードファイト、しましたね!! しかも、元気爆発ウマドランVまで!! ワスプ特製ですよね、これ!! では、遠慮なく、いっただきまーす!!」

 がつがつがつがつ!!
 むしゃ、むしゃ、むしゃ!!
 ごく、ごく、ごく、ぷはー!!

 コーテスは、ケガ人とは思えない怒涛の勢いで、疾風のごとく一瞬で平らげてしまった。
 ジュディは、コーテスの笑顔と食いっぷりに満足してニヤリと笑った。
(さすがは……ジュディが見込んだボーイ、ネ!!)

「さて、コーテス。事件のストーリーでも、お話、シマス!?」

「うん。お願いします。僕がやられた後、どうなりました……!?」

 コーテスはこれでも風紀の副委員長だ。スノウから頼まれたわけではないが、ジュディは事の経過や現段階の調査について、事細かに説明するのであった。

「なるほど……。わかりました……。それにしても、風紀解体って……なかなかのピンチじゃないですか!」

 その後、コーテスは改まった表情で言葉を続けた。

「無論……僕は、今回の事件で……風紀という探偵の立場を兼ねる一方……被害者でも、あります……。ジュディさん……僕に、質問しに来たわけでも……あるのですね? なんでも、遠慮なく、どうぞ……。知っていることは、すべて、お話、しますよ……」

 真顔でコーテスがそう切り出すので、ジュディも真剣な顔をして、問うことにした。

「では、コーテス……。タイムラインを作成します!」

 ジュディは、ノートとペンを取り出して、筆記する用意をした。

「コーテスが、TMにやられた前後のことをお聞きシマス。ユーがやられたこの日の夜の警備……なぜ、ユーは、トーマス・マックナイトと組んだのデスカ!?」

「それは……。トーマスが、一緒に組んでくれ……と、誘って来たから、ですね」

 ふうむ、とジュディは頷く。

「では、その夜の警備、ユーとトーマスは、裏庭で、警備だったのデスネ!? それを決めたのは……スノウ? それとも、コーテス本人!?」

 コーテスは、首を横に振った。

「いいえ、委員長でも僕でも……ありません。トーマスです……」

「ワッツ!? トーマスって、ヒラでショウ!? 彼に権限ないデショウ!?」

「うん。トーマスは、ヒラです。ですが……彼は、去年から風紀にいるし、よく働くし、人が良いので……僕たち、けっこう重要な仕事を……彼に任せることがあります……。実際、彼の方から、自分がやります、って申し出てくれて……やる気、あるので……」

 これは、いよいよ怪しい、とジュディは質問を続けた。

「では、別の事件のときは……どうデシタ!? リリアンがUFOにやられた事件あったデース! あの日、チームメンバーやシフトや警備場所、決めたの、誰デース!!」

 コーテスは、ええと、と思い出しながら、答える。

「ううん……。たしか、全てトーマスが……決めていました。あの日も、トーマス……自分からやりますって、立候補、してくれたので……」

 ジュディは青くなって、さらに質問を続ける。

「ではでは、コットンがボムでやられて、ヘルプした風紀がファイアでやられたこと、あったデース! あの日、音楽室付近を警備していたメンバー、シフト、決めたのは……トーマス!?」

 今度は、コーテスは横に首を振った。

「いいえ。僕です。ですが……音楽室見回りの三日前、僕は……うかつにも、『東洋史(イースタ国家)研究講義』の授業で提出する予定だったレポートの存在を忘れていて……締め切りに間に合わない、単位を落とす、風紀の仕事がある、どうしよう……と悩んでいたら……トーマスが警備の番を変わってくれて……。それで、彼のご厚意に甘えるかたちで……メンバーを僕から彼にチェンジして……予定通り、放課後の警備ができた……っていう、ところです」

 一応、コーテスが決めたシフトやメンバーであったそうだが、ジュディは、ますますある人物が怪しいことを確信した。

「コーテス……。その警備のタイムシフト、持ってマスカ!?」

「え? タイムシフト……。ああ、そうか。アリバイね? ちょっと、待ってて、鞄の中に全部、あると、思うので……。あ、ごめん、僕が、外れてたコットン・ホワイトハートの……警備当時のシフトだけないや……他、二件の方は、あります……」

 コーテスは、トーマスが作ったという警備のタイムシフトの紙を渡してくれた。
 TMと決闘してコーテスがやられたあの日、そしてその前日のリリアンがUFOでやられた日のシフト情報を、ジュディは受け取った。

***

●TMと決闘してコーテスがやられた日の夜の警備シフト

・本日の現時点から数えて、一日前の出来事。

・スノウペアともう二組(モブ)が研究棟、実験棟、図書館、聖堂、体育館、大講堂、一般講義室などを回る。

・コーテスとトーマスのペア、そしてもう一組(モブ)は、食堂、裏庭、中庭、校庭などを回ることになった。

・この日、風紀は全部で十人いたので、二人一組に分かれ、五組で学院を見回ることにした。

・シフト、場所、警備メンバーを決めたのはトーマス。スノウとコーテスが承認。

・午後十時から警備開始。何もなければ午前零時まで警備を続ける予定であった。

・午後十一時頃、コーテスとトーマスペアがTMらしき敵と接触。トーマスが茂みで用を足していた数分の間、奇襲されたコーテスが、バリアを張ったものの、一瞬でやられる。(敵の姿は全く見えませんでした。本当に瞬殺でしたね。BYコーテス)事件直後、裏庭の犯行現場を風紀が封鎖。(したはずだと思う BYコーテス)

・他のペアは全く問題なし。(だったと思う BYコーテス)

***

●音楽室の被害後、リリアンがUFOでやられた日の夜の警備シフト

・本日の現時点から数えて、二日前の出来事。

・スノウの警備隊 → 図書館、聖堂、体育館、大講堂など。
・コーテスの警備隊 → 食堂、裏庭、中庭、校庭など。
・トーマスの警備隊 → 研究棟、実験棟、一般講義室など。
・モブ風紀たちの警備隊 → 大学の外回りなど。

・見回りに参加した風紀の数は、スノウとコーテスを入れて十六人。十六人体制でチームに分かれて見回りに当たることとなった。四人で一チーム、つまり四チームに分かれて学内の各地へ分散することとなった。

・シフト、場所、警備メンバーを決めたのはトーマス。スノウとコーテスが承認。

・リリアンがUFOに襲われた犯行時刻は、午後八時過ぎ頃。

・午後八時過ぎ、リリアンと風紀仲間が被害を受け、トーマスがバードマンに遭遇したり、スノウに連絡したりした。事件直後、風紀が魔導動物実験室を封鎖。

・トーマス班以外は、全く異常なし。

***

「って、ところですかね……」

 コーテスがくれたシフト表を見ながら、彼の説明を交えて聴いていたジュディだったが……。

「これは……もう、ノー・ダウト(疑いようがない)ネ! トーマス・マックナイト、犯人デスネ!?」

 明らかにトーマスが犯人に見えるようなシフトだったが、コーテスは首を横に振った。

「トーマスが犯人では……ありえませんね……」

「ホワイ!?(なぜ!?)」

 コーテスは、机に置いてある紅茶のペットボトルをずずっと飲んでから、言葉を続けた。

「まず……動機が、ありません。もし、トーマスが犯人だった、と、しましょう。では、なぜ、彼は……コットンさん、リリアンさん、そして僕を、襲ったのでしょう!? あと、風紀の仲間を傷つけたり……風紀委員会を半壊状態に陥れたりしたのでしょう!? トーマスは……僕の風紀委員会での、同期です……。去年からとてもよく知っている友達ですし……すごくいい奴で……そもそも、僕は……トーマスに、恨まれるようなことをした覚えは……全くない、です!」

 どうやら、コーテスはトーマスに良い感情を抱いていることがこの発言からわかる。
 だが、ジュディは、今の発言から引っかかることがあったので、質問を続ける。

「犯行のモチベーション(動機)なんて……いくらでも、こじつけられマース! ヘイ、コーテス! その推理でいくなら、エヴィデンス(証拠)を出すデース!!」

「そうですね……。もう少し、客観的に説明しましょうか……彼が犯人では、ありえない、という説を……。まず、僕が、やられた魔術でしたが……あれは明らかに火炎系魔術でした……。トーマスは、錬金術師で……属性は、『金属』……。火炎の魔術は一切使えないんです! 仮に彼が、火炎の魔術を何かしらの手段で出せたとしましょう……。それでも、僕は、彼の攻撃であれば……完璧に防ぎきれる自信が、あります! 以前に体育の授業で彼と模擬戦で勝負したことが……あります。お世辞にも……彼は、強いとは、言えない。失礼ですが、彼は魔術師として……並み程度なんです……」

 コーテスから得た意外な情報でジュディは目を丸くしていた。
 そういえば、その一件で、ジュディは気になることもあった。

「ヘイ、コーテス! 一度、推理、ストップ、ネ! その夜、ユーがやられたファイア系のマジック、何という名前のスキルだったか、わかりマス!?」

「うん、わかります。あの魔術名称は、『ファイアボール』です。火炎系魔術の中でも低位の魔術ですね……。でも、ぞっと、しますよ……。もし、高位の火炎系魔術をあの猛烈な魔力でくらっていたら……僕は、バラバラの焼死体にでも……なっていたで、しょうね……」

 たかが『ファイアボール』だけでコーテスを病院送りにできるほどの魔術師がいたとは……。ジュディも、ぞっとする思いで聞いていた。

「フウム。しかーし、なぜ、ファイアボール!? 犯人は、ファイアボール、オンリーで、俺、TUEEEぜ、って、誇示したのでショウカ!?」

「ですね。あるいは、僕のことなんて……バカにしていたのでしょうね……。『親愛なる愚鈍な風紀諸君』とか、変な手紙送って来たり……ナメクジを降らせたり……UFO出したり……本当にめちゃくちゃで、ふざけている!!」

 一度、話が脱線したが、ジュディが軽く咳払いして、質問を続けた。

「エエト、続けマース!! コーテス、なぜ、トーマスが犯人じゃないデース!?」

「客観的な状況証拠は……まだあります。最初の頃に起きたちゃちな事件にしても……ナメクジを召喚したり、植物を笑わせたりとか、あとトイレの落書きの件、食堂のガムの件、図書館の呪いの本の件も……全部、トーマスの魔術範囲から……外れています。第一の傷害事件、コットンさんに関して、トーマスは爆弾なんて……造れませんし。風紀仲間たちが一瞬でやられた火炎系魔術も……できないことは……さっき言った通りですし……。第二の傷害事件、リリアンさんのUFOに関しても、あれは明らかに魔導科学の技術です……。錬金術師のトーマスには、あんなUFO……造れるわけがないんです! つまり、トーマスは……今回、起こっている事件に関して……何ひとつ、犯行を行うことが……できないはずなんです!!」

 コーテスがそこまで言い切ると、ジュディは、本当にトーマスを疑うべきかどうか、迷った。

「ワカリマシタ。では、これでラストにしマース。コーテス、ちょっと、このスケッチ、ワッチ(見て)デース!」

 ジュディは、スケッチブックのページを開いた。
 そのスケッチブックには、コーテスが当時、裏庭でやられたときの犯行現場の模写が描かれていた。
 と言っても、ジュディに描画スキルはないので、簡単な図形の記号のみが記されている。

「書き込んでクダサーイ! コーテス、ユーは、当時、どこに立っていたデスカ!? トーマスは!? TMは!?」

「ああ、そういうことですか? ええと、僕は、たしか、この辺で……」

 コーテスから書き込んでもらい、ジュディはひとまず、聞きたいことは全て聞けた。

「サンクス、コーテス!! ひとまず、聞き取りは以上ネ!」

 病室を去ろうとしたジュディに、コーテスはあるものを手渡した。

「はい、これ」
「ワッツ!?」

「お守りですよ。攻撃を受けたら、HPが徐々に回復するお守り……。さっき見せたものと……同じものです。ちなみに、新品ですよ。これ持っていれば、今回の僕みたいに……いきなりやられても……即死判定にはならないと、思うんで、ぜひ……どうぞ」

「ワオ、サンクス、ベリーマッチね、コーテス!! ぜひ、ユースしマース!」

 ジュディは、ハイランダーズ国家の山岳ロゴが入っている新緑色のバッジを入手し、嬉しそうだ。即死判定は、やはり避けたいものだ。

***

 ジュディは、コーテスからの事情聴取後、犯行現場であった裏庭に向かった。
 コーテスの言った通り、裏庭は既に風紀委員会により封鎖されていた。
 見張りの風紀も二人、立哨(りっしょう)していた。

「おつかれデース!! ジュディ、今、風紀のヘルプしているところデース!! 現場検証したいデスが、OKデスネ!?」

「あ、ジュディ先生ですね! 先ほどは、会議でどうも! ええ、ぜひ現場検証してください。怪しい奴が来ないように、僕らはここで見張っていますので!」

 現場へ通されたジュディは、さっそく、スケッチブックを取り出した。
 そのノートにさっきコーテスが記してくれた場所を頼りに、ジュディは動いてみた。

(まずは、コーテスの立ち位置……。ふうむ、さすがコーテス、デスネ! 周囲の風景が、東西南北、死角なく、見えマース!! ただ、一点、あの茂みが盲点デース!!)

(では、盲点の茂みは……あれ!? トーマスが、ピーピー(小)をしていたスポットでは、ナクテ……。ここは、TMらしき犯人が飛び出して来たところデース!! それにしても……暗かったからでしょうか……なぜ、コーテスは、犯人の気配や姿に、全く、気が付かなったデース!?)

(さて、トーマスがピーピーをしていたスポットにも立つデース! ワッツ!? オーノー!! 丸見えデース!! この位置って、コーテスがこっちを見ていたら、ピーピーしているところ、モーレツに見えるデース!! ……やはり、トーマスは、ピーピーなんて、していなかった……あるいは、気にしない性格でショウカ……)

 ともかく、現場検証を終えたジュディ。
 ジュディは、コーテスの証言と現場検証を通して知り得た新事実をスノウへ報告に行くことにした。


・第三節 被害者コットンの調査


「ええと……。このあたりがコットンさんの病室やろか……!?」

 ビリーは、付属医学部病院の3F外科棟をうろうろしていた。
 途中でナースとぶつかり、案内され、コットンの病室へとたどり着いた。
 何とかの巨塔ではないが、ビリー先生の背後には、配下たち(カプセルモンスターたち)がぞろぞろと続いていた。

「まいど! もうかりまっか!?」

「え!? ええ、まいど、です! もうかっては……いませんね。私、学生ですので、商売はまだしていません……」

 銀髪の美少女コットン・ホワイトハートは、ベッドから起き上がり、ビリーにあいさつをした。
 被爆されたのが、二日前ではあるが、まだ体のあちこちが痛むらしい。
 もっとも、彼女も白魔術師なので、自身でも治癒系魔導具を使い、回復に励んでいるようだ。

「ボクは、ビリーやで! 浪速の座敷童子や! 風紀の仲間でもあってなあ、本日は、風紀代理でお見舞いに来たで! そら、配下もおるんや! あんさんら、あいさつせい!」

 ビリーは、自分がぺこりと頭を下げて自己紹介したあと、配下たちを紹介した。

「こいつは、ペットの金の鶏、ランマルや! 美味いで、でも食うたらあかん!」
「コケー!」

「暑い国の熱いサンドスネークのボーマルや」
「シャー!!」

「一応、食えて、土瓶蒸しに最適なお化けハイランダケのリキマルや」
「べろべろー!!」

「某教授の過ちから生まれたウォルターラットのトーキチや」
「チー!!」

「恥ずかしくなると穴に入るアリ地獄モグラ改のゴローザや」
「もぐもぐ!」

「紅一点、萌え担当の冬の精のキチョウや」
「もえもえ!」

「牡丹鍋にしたらええ味になる予定のマッハ・ハイノシシのゴンロクや」
「ぷご!」

「ブルーハワイみたいな味があるブルーカモメ改のマタザや」
「みゃー!」

「で、最後は、ポリゴンブロックなんで、椅子代わりの異次元獣のジューベーや」
「……」

『ボクら、全員そろって、CM分隊、カプセルモンスター・スクワッドや!!』
 集合ポーズ、ばっちり決まった!!

「わー!! ビリーちゃんたちすごーい!! おもしろいねー!!」

 つかみはOK!
 コットンは手を叩いて、喜んでいた。

「ふむ。被爆されたんやろ? 体も痛いやろうけれど、心も痛いと思うねん! アニマルセラピーを施すさかい! こいつら、どいつでも好きな奴ともふもふすると、ええんちゃう!?」

「え? いいの!? じゃあ、遠慮なくー!!」

***

 もふ、もふ、もふ!!(コットン)
 みゃー!!(マタザ)

 もふ、もふ!!(コットン)
 べろー!!(リキマル)
 がぶり!!(コットン)
 べべべ!!(リキマル)
 まあ、一口だけなら食うてええよ。(ビリー)

 ももも、もふもふ!!(コットン)
 ちー!!(トーキチ)

 もふもふもももふ!!(コットン)
 ぷごー!!(ゴンロク)
 がぶり!!(コットン)
 ぶぎ!?(ゴンロク)
 食うたら、あかんって!!(ビリー)

 萌え萌え!!(コットン)
 いやん!!(キチョウ)

 ももも、ふふふ!!(コットン)
 もぐー!!(ゴローザ)

 つるつるつる!!(コットン)
 シャー!!(ボーマル)

 がぶり!!(コットン)
 コケー!!(ランマル)
 食うたら、あかんって!!(ビリー)

***

「はあ、はあ、はあ……。あんさん、なかなかやりおるねん!! もうちょいで、イノシシと鶏が食われるところやったで……。キノコは、ええとして……。しかし、セラピー効果はあったやろうか!?」

「うん! ありがとう、ビリーちゃん!! 楽しかった!!」

 ともかく、コットンは楽しそうにしているので、少しは元気が戻ったのだろう。
 ビリーは一安心した。

「では、ここから、事情聴取とか、ええやろか?」
「うん、どうぞ」

 ビリーは、ノートを開いた。
 ノートには、今回の事件の容疑者と被害者の名前、そして顔写真が貼ってある。

「まず容疑者から。ブラスト・ゴールドブレイズ、サンダー・フロッグスタイル、トーマス・マックナイト……。この中で、知っている人は?」

 コットンは、うんとね、と考え込む。

「ブラストさんは……黒魔術学部のトップよね? 学部内だけではなく、学内でもよく何かの魔術試験とか試合で一番になったりしているみたいね。サンダー先輩は、ピエロみたいな人よね? よく変なトラップで、学内で騒ぎを起こす方よね?」

「知り合いかい?」

「ううん。直接は面識ないわね。ただ、あの二人は、学内でも有名人なんで、私ではなくても、うちの大学生であれば、誰でも知っていると思うよ」

「で、トーマスは?」

「え? この写真の三人目の人? ううん。知らない」

 あれ? と、ビリーは思った。
 トーマスは、コットンが被爆したとき、いたのでは?
 いや、トーマスは当時、扉の前で見張りをしていたそうなので、コットンは気に留めていなかったのかもしれない。
 ビリーは、疑問を感じつつも、被害者のページをめくった。

「次、被害者。リリアン・ピンクドルフィン、コーテス・ローゼンベルク……。知っておるかいな?」

「リリアンさんは……魔導動物学部でよく研究成果を挙げる方よね? このまえも、なんとかスライムの研究で賞を取って、今も何かすごい研究しているのよね? コーテスさんは……あ、風紀委員長でしょ? それと、このまえの補助魔術の学内試験一位でも有名よね?」

「この二人と面識は?」

「さっきと同じね。二人とも有名だから知っているというぐらいで、直接の知人ではないわね」

 ビリーは今、コットンが一点、間違えたことに気が付いた。
 彼女は、コーテスが「風紀委員長」だと言った。
 正確には、彼は「風紀副委員長」だ。
 おそらく、本当に面識がないから間違えたのだろう。

「最後は、この人たち。風紀のメンツなんやけれど、誰か知り合いおる?」

 ビリーはページをめくり、被害にあった風紀委員たちの顔写真と名前を見せた。
 これらの風紀委員たちは、コットンの傷害事件とリリアンの傷害事件で負傷した六人のモブ風紀たちだ。

「あ! この人たち、知っている!! 私を助けてくれた人よね! 退院したら、真っ先にお礼に行かなくちゃ! ううん、でも、こっちのページ(リリアンの事件の方)の風紀さんたちは知らないかな……」

 どうやら、モブ風紀たちとも以前からは全く面識がなかったようだ。
 しかし、ビリーは一点だけ、奇妙な点に気が付いた。
 それは、コットンが容疑者にしても被害者にしてもモブ風紀にしても、誰一人、全く接点がない、ということだ。
 コットンはウソをついているのだろうか?
 しかし、ついさっきまで一緒にアニマルたちとバカをやっていたコットンが、まるで二重人格かのようにウソを言っているようには……ビリーには思えなかった。

(いや……ウソは言っておらんのかもしれんな……。例えば、この事件が愉快犯の無差別事件とかであった場合……容疑者や被害者の接点が全くないとも考えられるねん……。しかし、コットンさんは、なぜ、狙われたのやろ? とてもええ子やないか? こんな子が恨みを買うとは思えんし……。あと、リリアンさんやコーテスさんとの連続性もわからん……)

「では、これにて事情聴取はおしまいや! おおきに! 大変参考になったで!」

「うん! こちらこそありがとうね! 楽しかったわ!」

 去り際に、コットンはビリーのアニマルたちと握手をして、惜しみ別れた。

「あ、ビリーちゃん! 手を出して!」
「おう、握手やな?」

「はい!」
「お!? なんやねん、これ!? ウサギの尻尾やないか?」

 コットンは、にこにこしながら、教えてくれた。

「白魔術のお守りよ。これを持っていると、攻撃を受けたとき、一回だけ、20パーセントの威力をセーブしてくれるの! 私はいつもこれ持っているんだ。被爆されたときも、このお守りがあったので、大事に至らなくて良かったわ! ちなみにそれ、新品よ!」

「おお、そげなたいそうなもん、くれるんかい! おおきに! きっと役立てるで! それと、きっと犯人、捕まえてやるわい!!」

 笑顔のコットンに見送られ、ビリーたちCM分隊は、行進しながら病院を去って行った。

***

 さてと……。
 事情聴取という一仕事を終えたビリーは、学院の音楽室へ向かった。
 そう、コットンが被爆された事件の犯行現場だ。
 現場には、風紀二人が立哨していた。

「おう、おつかれ! ぼちぼちでっかー!?」

「ぼちぼちですよー!」
「異常なし!」

 今朝の会議にいた風紀たちだ。
 ビリーのことも少し知っているらしい。

「あのさ、ちょいとここらで情報収集やってもええか?」
「何をやるんだい、ビリー君?」

「ビラ、作ったねん! 事件の情報を呼びかけるビラや!」
「おお、これは!?」

「で、俺たちも手伝うの? でもなあ、今、仕事中だし」
「ご心配無用やで! ここにおるのは、CM分隊! アニマルパワーのマンパワーで、みんなでビラばらまいて、情報ぎょうさん集めたるわい!」
「おお、それは頼もしいな!」

 ひとまず、風紀たちの許可を取ったので、ビリーは、CM分隊と共に、ビラをまきまくるのであった。

「二日前、ここの音楽室であった事件の情報、なんでもええから、教えてほしいでー!! お願いやー!!」

 ビラをもらった一人の男子学生が反応した。

「え? ああ、あの事件ね。俺も当時、放課後、この辺にいたんだよな。でも、怪しいやつなんて、来なかったよね」

 ビラをもらった別の女子学生たちも一緒に集まって来た。

「そうよね。放課後のこの辺って、音楽関係の学生か、それとも風紀が見回りに来るくらいで……特別なことは特に……」
「うん、うん。異常者とか変質者とかいたら、あたしらすぐに気づくわよね?」

 アニマルたちは、踊っていた。
 CM分隊たちは、ビラをまくスキルはないので、ひとまず踊ることにした。
 キチョウがノーザンランドの民謡を歌い、カモメも、ヘビも、モグラも、イノシシも、鶏も、その他もみんなで歌いながら踊っていた。
 そこで、人だかりができる。

 音楽教員がやって来た。

「君たち、静かに! ん? 情報提供……。そうだね。事件当時、異常はなかったはずだ。ここの音楽関係の校舎って小さいでしょ? だいたい、みんな顔見知りだし、もし部外者が来たら、入場の際にサインするでしょうね。もちろん、私も管理者のひとりなので、怪しい者がいたら、すぐにつまみ出すがね。それに放課後、この校舎に来るのは、音楽関係の学生と教員、そして見回りの風紀、守衛の警備に清掃業者のみ。さあ、もういいかい? 音楽校舎の許可を取らずにビラをまいたり、歌って踊ったりしてはならない……わかるね?」

「先生、おおきに。それと、騒いですまんかったな。では、ボクらは、帰るとしよう……」

 ビリーは、最後は半ば、追い出されたが、一点、確信を得た。

(今、ボクらが追い出されたように……放課後、何か怪しい奴がいたり、怪しいことが起こったりした場合、先生や学生らは、すぐに気が付いたはずや! せやのに、音楽関係の奴らか、風紀か、守衛に清掃業者ぐらいしかいなかった、というのは……。つまり、犯人はその中の誰かやないやろか? しかし、音楽関係の奴らか守衛や清掃であれば、風紀の奴らが入って行った音楽室で、風紀に怪しまれて入れないやろ? でも、例えば……風紀の一員であるなら……怪しまれずに、入場口からも音楽室にも入れたはずや……。たしか、当日の音楽校舎の見回りの風紀は……あ、トーマス・マックナイト!! あいつ、おったで!! あいつが、もし、手引きしたのであれば……そう、怪しい奴を怪しくせんように、できるやないか!! スノウ委員長に報告や!!)

 ビリーと配下たちは、急いでスノウ委員長のもとへ向かった。


・第四節 被害者リリアンの調査


 風紀の会議が終わり、付属医学部病院の内科棟へ向かおうとしていたマニフィカだったが、道中で呼び止められた。

「あ、すみません、マニフィカさんですか?」
「え、はい、そうですが!?」

 見慣れない男だ。
 腕に風紀の紋章があるので、風紀モブの一人だろう。

「これ、トーマス委員から、マニフィカさんへ渡すようにって……」
「え? トーマスさんが!? 彼、今、犯行現場の見張りへ行っているはずではありませんの?」

「いや、正確には、トーマスさんの友人という男からこの手紙を預かっています。今、トーマスさんは、現場を離れることができないそうです。それで、ご友人にまず手紙を託し、その手紙を僕(風紀委員)に託して、今、僕がマニフィカさんのところへ手紙を届けた、というわけです。ややこしくてすみません」

「あら? そうですの? わかりましたわ、お受け取り致します」
「では、僕はこれで! 普段の風紀業務がありますので!」

 マニフィカは、突然の手紙に驚いていた。
 トーマスは、なぜ、こんな回りくどいことをするのだろうか、と。
 しかし、内容が気になる。
 マニフィカは、女子トイレの個室に向かい、そこで手紙を開封することにした。

***

マニフィカ・ストラサローネ様へ

突然のお手紙すみません。
風紀委員のトーマス・マックナイトです。

マニフィカさんにどうしてもお伝えしたいことがあります。
本日、リリアンさんの調査が終わってからでかまいませんので、お会いできないでしょうか。

私は、今回のTMの事件のことで大変重要な手がかりを見つけました。
おそらくこの手掛かりでTMを確実に逮捕し、事件が解決できるはずです。

本来なら、スノウ委員長に言うべきでしょうが、どうしても委員長には言いづらいことがあります。
実のところ、スノウ委員長が犯行に関与している証拠を見つけました。

誠に遺憾なお願いかとは思いますが、もっとも頼りになりそうで頭脳明晰なマニフィカさんにしかお願いできないことなのです。

どうか、午後二時頃、私がマープルゼミの終わったあと、学院裏山でお会いできないでしょうか。
裏山の最初の分岐道でお待ちしております。

あと、もうひとつどうしてもお願いしたいのですが、必ず、一人で来てください。
どうしてもマニフィカさんと一対一でお会いしなければならない状況なのです。
もし、誰かを連れて来られた場合は、お話ができなくなってしまいます。
(その連れて来られた人物がTMあるいはTMの仲間かもしれませんので)

本当にお願いします、どうか風紀を助けてください。
TMの魔の手から、学院をお助けください。
私は、真っ当な風紀委員の一員として、今回の事件に大変心を痛めているのです。
ぜひ早期に事件を解決したいと心から願っています。

トーマス・マックナイトより

***

 マニフィカは、手紙を読み終えると、うぷぷ、と笑ってしまった。

(なかなか、おもしろい展開になってきたではございませんか……。このお手紙、ところどころ間違いだらけではありませんこと? 見てらっしゃい、真犯人TM!!)

***

 その後、マニフィカは、予定通り、リリアンがいる付属医学部病院の4F内科棟へ向かった。

「ええと、リリアンさんの病室は……あ、ナースセンターで聞いた方が早いですわね! すみませーん!!」

 マニフィカは、ナースに案内されて、リリアンの病室へ無事にたどり着けた。

「リリアンさん……ですよね? 風紀協力者のマニフィカ・ストラサローネと申します。あら、お勉強中だったのかしら?」

 ピンク色のお団子頭の少女は、ベッドで寝ているが、半身を起こして、読書をしているところだった。

「おや? 風紀の方ですか? いえ、本は後でまた読めるから大丈夫ですね。って、あなた、たしか、マギケットで以前にお会いしたのでは!?」

「え? リリアンさんって……。ああ、あのスライムキングの同人誌のリリアンさんでしたね?」

「そうなのです! 通称、スライム・リリアンなのですよ! いやあ、久しいですね。時にあの同人誌、読んでくれたですか?」

「もちろんですわ! 読んだ途端、スライムになって溶けてしまいましたの! まさに新感覚の魔術書でしたわ!」

「そうでしょう、そうでしょう!!」

 マニフィカとリリアンは、スライムキングの同人誌の話題で盛り上がり、楽しい語らいのひと時を過ごした。人魚姫は、思わぬ知人と再会し、「世界は広いが、世間は狭い」と思うのであった。

「……あら、すみません。わたくし、事件のお話をしに来たのに、すっかりスライムキングのお話になってしまいましたわね」

「いえいえ、よかですよ、それぐらい。そうですね、事件、そっちが大事です! 私もねえ、今回の事件に心底、怒っているのですよ! この私の実験の邪魔をしようなんざ、なんたるド畜生でしょうか!! 私を魔導動物学の期待のエース、スライム・リリアンと知っての狼藉(ろうぜき)でありましょうか!! 実にけしからん事件ですね!」

 どうやら、リリアンは犯人に対して大変ご立腹なようだ。
 しかし、これならば逆に事件の話がしやすくなったとも言えよう。

「では、リリアンさん。今からわたくしが、ノートを出しますわ。そのノートには、事件関係者の名前と写真が載っていますわ。そこで、その人物たちを見て、知っている人物については、お話を聞かせて頂いてよろしいかしら? 例えば、ご友人であるとか、ちょっとだけ知人であるとか、あるいはライバル関係にあるとか……」

「ええ、かまいませんよ。それで事件解決に寄与できるならば、ご協力致しましょう」

 まずは、マニフィカは、容疑者のページを開いた。

「ブラスト・ゴールドブレイズ、サンダー・フロッグスタイル、トーマス・マックナイト……この中にお知り合いは!?」

「ううんと……。ブラストとサンダー先輩は知っていますね。ブラストはいけ好かない性格をしたイケメンだそうですが、たしか、黒魔術学部で成績が一番です。サンダー先輩は、あまり勉強はできないみたいですが、魔導科学を使ったいたずらとか大道芸で有名ですね。そうそう、あの変なピエロ男ですね! でも、どちらも知人でも何でもありません。で、トーマス・マックナイトですか……。この人物だけ全く知りません」

 マニフィカは、一度、考えてみた。
 ブラストとサンダーは有名人なので知っているが、リリアンにとって面識のある人物ではない。
 そしてトーマスは、全く知らない、と。
 だが、少なくともトーマスに関してはウソではないだろう。
 なぜなら、スノウの報告によれば、トーマスは当時、リリアンの事件現場にいたものの、リリアンと遭遇していないからだ。
 トーマスが表で見張っている最中、リリアンが力尽き、続いて仲間の風紀たちも力尽きた。つまり、二人は、一度も現場で顔は合わせていないので、「知らない人」というわけか。

「では、次のページよろしくて? お次は、被害者ですわ。コットン・ホワイトハート、コーテス・ローゼンベルク、この二人はお知り合い!?」

「ええとですね……。コットンというのは、あの白魔術学部の天才児ですね。お嬢様なお家柄で、白魔術師の家系でしたね、たしか。美人で頭も良くて、人当たりも良いそうですね。でも、今、彼氏はいないとか。あ、すみません、ちょっと脱線。まあ、コットンは有名人なので、魔導動物学部でもたまに噂は聞きますね。でも、友人でも知人でもないです。それと、コーテス……これは言わずと知れた超有名人! 風紀委員会の副委員長で、補助魔術が上手いけれど、歴史が好きで文学部にいるんですよね? でも、このまえ、驚きましたよ。彼、文学部の学生なのに、補助魔術で一位の成績取ったんですよね? いやあ、防衛魔術学部とか、白魔術学部とか、赤魔術学部とか、その辺から嫉妬されますよね……。って、こちらも脱線失礼。そうそう、知り合いではないですね。ウォルター先生の例の事件のとき、うちの研究室は風紀に少しお世話になったので、それからですね、彼に関心を持ったのは。あ、でも、好きとかじゃないですよ、本当に!!」

(そう……。こちらも接点なしのようですわね……)

「リリアンさん、色々と教えてくださり助かりますわ。では、お次のページもご確認、よろしくて? お次は、風紀のメンバーですけれど……」

 マニフィカがページをめくると、今度は、スノウ委員長、第一の傷害事件で負傷したモブ風紀三人、第二の傷害事件で負傷したモブ風紀三人、計七人の風紀委員の名前と顔が出てきた。

「えっと……。あ、これ、スノウ委員長! 知っているです! 口がうるさいですよね、あの鬼女! 以前、魔導動物実験室に泊まりの許可を取るのを忘れて、そのまま泊まったとき、見回りに来たスノウ委員長に説教されましたね! いやあ、あのときは、こってり絞られました。まあ、こちらが悪いんですけれど、あんなにガミガミ言わなくてもね……。あとは、他にも、例のウォルター先生事件のときに、お世話になりました。それから、他の風紀たちですが、全く知りません、すみません」

 マニフィカは、ここでも一度、心の中で首を傾げた。
 リリアンとスノウは接点があった。
 だが、特に何かがある関係ではなく、リリアンが学校の風紀上、好ましくないことをして、スノウから職務的な注意を受けた、という話だろう。また、ウォルター先生事件のときに接触があったのも、当時の風紀委員会と魔導動物研究室の関係であれば、無理がある話ではない。
 そして、モブ風紀たち六人を一人も知らないというのもウソはないだろう。
 現に、リリアンが被害にあったとき、助けに入ったトーマス以外の三人の風紀が駆けつけたときには、リリアンは力尽きていたので、彼らを「知りようがない」のだ。
 逆に、このモブ風紀たち全員知っています、みたいなことをリリアンが言った場合、そのときこそリリアンは怪しいだろう。

(さて、困りましたわね……。思った以上に、人間関係がありませんわね! これでは、人物相関図なんて作っても、すかすかではございませんか! やはり、愉快犯の無差別的犯行なのかしら?)

「他には……。何かあるですか? 一応、知っていることは全部、答えましたよ」

「そうですわね! ありがとうございました。おかげさまで、一歩前進できましたわ! では、わたくしは、これでお暇(いとま)させて頂きすわ! ごきげんよう!」

「あ、待つです、マニフィカ!! これ、持って行くです!!」

 リリアンは、机をがらがらと引き出し、とあるカプセルをマニフィカに手渡した。

「これは!?」

「ふふふ。これは、『ベトベトスライムキング』というカプセルモンスターですね。私の最高傑作のひとつですね。いいですかマニフィカ、犯人と戦うときになったら、こいつを呼んでください。こいつは、敵全員を確率でベトベトにして動けなくするスライムのキングです。注意点は、召喚は1ターンのみ。1ターンで消えてしまうのですよ。ですが、その分、強力! ぜひ、犯人をぼこぼこにする際には、ご活用くださいね! 私からは以上!」

「あら、これ、カプセルモンスターでしたのね? では、ありがたく頂きますわ! きっと、あなたの仇は取りますわよ! この素敵なスライムの王様と一緒に、族を打倒してきますわ!」

 マニフィカは、燃えているリリアンと爽やかに別れた後、学院へ一度、戻ることにした。

***

 マニフィカには、他に寄るべきところがあった。
 それは、研究棟にあるバードマン研究室である。

 マニフィカは、研究室の扉を、こんこん、とノックした。

「バードマン先生(NPC)は、いらっしゃいますか?」

『はい、私です! いますよ、どうぞお入りください!』

 マニフィカが扉を開けると、バードマン准教授は、研究室の中で魔導書を読んでいた。
 ちなみに、魔導動物実験室の隣が魔導動物研究室。研究室は、半分がウォルター研究室であり、もう半分がバードマン研究室である。半分に分けた研究室であるが、扉越しで、どちらの研究室も行き来できる。(ちょっとしたトリビアでした!)

「バードマン先生、このたびは、事件による被害で、お心を察するところですわ。先ほどわたくし、リリアンさんのお見舞いへ参らせて頂きましたわ……」

「ふう、お察しされる通り、我が研究室は大変な苦難の道のりですよ。先日のウォルター先生の事件が起こってひと段落したかと思ったら、今度はうちのリリアンが狙われて傷害沙汰の事件ですか。実験室の方は今、封鎖されて使えないし、うちの不真面目な学生たちは、狙われるのが怖いとかで授業やゼミは休むし……まったくですよ」

 ちょっと塞がった口調のバードマンだったが、わはは、と笑い出した。
 マニフィカもつられて、うふふ、と笑ってしまった。

「それと、リリアンのお見舞い、ありがとうございました。リリアンのゼミの先生として、私からもマニフィカさんには感謝させて頂きます。まあ、昨日も、リリアンの様子を見に、私と、ウォルター先生と、学生有志一同でお見舞いに行きましたが、元気でしたね。ただ、まだ体が少しだるいようなので、もう数日、入院するようです。」

 バードマンは、手元にあるブラックコーヒーをすすり、カップを置いた。

「さて、マニフィカさん。ここに来たということは、私にも何か用ですね? 私でよければ、事件に関することは何でもご協力しますよ」

「では、単刀直入にお聞きしますわ。犯行現場の実験室へ入室する許可を頂けますか? 気になることがありますの」

 ううむ、とバードマンはうなった。

「いや、私としては、かまわないです。ウォルター先生もかまわないと思うし、教授にはあとから私が言っておけば済むことです。ただ、一点、気になるのは風紀側の意見。今、隣の実験室には、風紀の二人が立哨しています。彼らの許可が取れれば、かまいません」

 ひとまず、人魚姫と准教授は、退室し、実験室前へ移動した。

「おつかれさまです、風紀の方々。わたくし、風紀協力者のマニフィカ・ストラサローネですわ! ちょっと気になることがございまして、実験室へ入室したいのですが、かまわないでしょうか?」

「どうも、ご苦労さま。魔導動物研究室のバードマンです。うちとしては、かまいません。風紀委員会のご判断を伺ってもよろしいでしょうか?」

 風紀二人は、顔を合わせたあと、にこりとして、どいてくれた。

「いやいや、俺ら、風紀ですが、モブなんで、そんな気を遣って頂かなくても!! もちろん、マニフィカさんは風紀協力者ですので、犯行現場に入る権限はありますよ! バードマン先生もどうぞ!! もともと先生の実験室ですし!」

 ともかく、許可も取れ、バードマンが鍵を出し、犯行現場へはすぐに入れた。

***

 犯行現場であった実験室は、当時のままだ。
 リリアンが倒れた場所、風紀三人が倒れた場所は、チョークで人型が描かれていた。
 実験器具もそのままになっている。
 唯一、実験のスライムたちだけが、死んで腐るといけないので、片されていた。
 窓は、閉まっていた。

 まず、マニフィカは、魔術書『錬金術と心霊科学』をアイテム袋から取り出した。
 そして、本を開き、詠唱後、ゆらゆらと、肉体が精神体へと変化して行く……。

(残留思念を漁りましょう……。むむっ!! 肉眼では見えなかったものの、かなりの魔力が残存していますわね……。おそらく、例のUFO炸裂後、膨大な量の魔力が飛び散ったのでしょうね……。くっ、臭い! 汚染される!! これ以上は!!)

 人魚姫は術を解除した。
 彼女には、わかったことがある。
 それは、この実験室で犯行を仕掛けた犯人の魔力が圧倒的であり、腐っているということだ。
 魔力は、腐った心の持ち主が放つと、臭いにおいを放ち、人の心を痛めつけるのだ。

 さてマニフィカは、気を取り直して、ここで、「あるもの」を探した。
 だが、なかなか見つからない。
 そこで、不思議そうな顔をしているバードマンに聞いてみた。

「バードマン先生。ここに、UFOのような器具はございませんでしたか?」

「え!? UFO? ううんと、ここには、ないでしょうね。そもそもUFOなんて専門が違いますし。神秘学部とか魔導科学部じゃないですか、UFOを実験室に置いてあるの?」

 やはり……先を越されたか、とマニフィカは少し落胆した。

「では、質問を変えましょう。トーマス委員からまた聞きしたというスノウ委員長の報告によれば、犯行当時、怪しいUFOが作動して、リリアンさんや風紀の方たちを無力化させたそうですわね。つまり、わたくしは、その凶器を探していますの。UFOは現場から持ち出されるはずはないですわ! だって、この実験室、ずっと、封鎖されていたのでしょう?」

 バードマンはマニフィカの行動と質問の意図を理解し、真顔で返す。

「ですね。ずっと封鎖されていました。言うなれば、この実験室は、密室です。リリアンたちが被害にあった事件のあと以降、風紀によって封鎖されていました。さっきも風紀が立哨していたように、事件直後、風紀たちはずっとここの犯行現場を見張っていました。鍵もかかっているわけですが、鍵は私が持っているので、つまり、誰も入ることができなかったわけです。無論、凶器のUFOを持って行くなんて、できたはずがない……」

 バードマンの説明はもっともらしい。いや、もっともなことだ。
 だが、マニフィカは推理小説の知識を引き出し、推理を炸裂させる。

「いえ、密室は完璧ではありませんわ! 例えば……最初に実験室を密室にした人間は誰でしょうか? もし、犯人が最初に部屋を封鎖した人物であれば、密室にすきが生まれますわ。そう、犯人が密室を造るとき、密室が出来上がる直前に、部屋から凶器を持ち出せば……UFOを犯行現場から移動させることができますわ……。さあ、答えてくださいませんか、バードマン先生。最初に、この部屋を封鎖しようと言った人物、そしてその言葉の通り、実行に移せる権限を持っていた人物は、誰ですか?」

 バードマンはこのときになって、ようやく、はっとした。
 マニフィカの推理力には圧倒される思いであった。

「……そう、おっしゃる通りです、マニフィカさん……。たしかに、いましたよ、そういう人物! その男の名前は……トーマスさん……でしたっけ? あの人当たりが良さそうな風紀委員……。事件当時、忘れ物を取りにここまで来た私と鉢合わせになって、協力しながら、風紀の増援や保健委員会の救援を呼んだ人物……。そう、まさしく、トーマスさんです……実験室を風紀権限で封鎖しようとか言い出して……。スノウ委員長、他の風紀委員、保健委員会、私などが、事件対応に焦っている中、一人だけ冷静で……実験室を封鎖しに行った唯一の人物……。まさしく、トーマスさんが……!! しかし、なぜ!? うちのリリアンが、彼に何をした!! うちの研究室がどうしてトーマスさんに恨まれるんだ!?」

 半ば、怒りと猜疑心(さいぎしん)で沸騰してきたバードマン先生をなだめるように、マニフィカは問いかける。

「先生、落ち着いてください! たしかに、トーマスさんは、とてつもなく怪しいですわ! しかし、だからと言って、彼が真犯人とはまだ断定できませんわ! ところで、もう一件、お願いがありますの……」

 バードマンは、さすがに三十五歳過ぎの熟練教員なので、すぐに我を取り戻した。

「ええ、すみません、マニフィカさん。少し熱くなってしまいましたね。それで、お願いというのは…………」

備考:この「お願い」のお話は、次節、第二章 第五節 容疑者トーマスの調査 の後半に物語がつながります。お楽しみに。


・第五節 容疑者トーマスの調査



 風紀の会議後、アンナは急いでコットンの犯行現場へ向かった。
 もちろん、現在、そこで見張りをしているというトーマスに会うためだ。

 音楽校舎には、アンナが風紀の紋章を見せたら、わけなく入れた。
 犯行現場の教室前には、三人の風紀委員が立哨していた。
 うち一人は、トーマスである。

 アンナは、覚悟を決めて話しかける。

「立哨中の風紀の皆様、ご苦労様です。わたくし、風紀の協力者のアンナ・ラクシミリアですが、トーマスをお借りしてもよろしいでしょうか? わたくし、事件のことでトーマスとお話がありますの!」

 すぐにトーマスが応対した。

「うん、いいけれど。大事な話なんだね? あのさ、ちょっと抜けていい?」
「いいぞ、トーマス。俺らが見張っているから、アンナさんと事件の話してこいよ」

 ひとまず、トーマスを借りることができて、アンナは彼と一緒に隣の空教室へ入った。
 アンナが扉を閉めると、トーマスは、にこにこしながら、問いかけてきた。

「で、お話というのは!? 僕と二人にならないとできないようなデリケートな話かい?」

 トーマスは余裕の表情だ。
 もしかしたら、自分が容疑者だと疑われていることすら気づいていないのだろう。

「トーマス……。率直にお聞きしますが……あなた、二重人格か何かですか?」

 突然の問に、トーマスは、ぽかん、と口を開けていた。

「は!? 僕が!? いやいや、まさか!! なんで、そんな話するの!?」

 アンナは推理を展開する。

「トーマス、あなた、とてつもなく怪しいですわ! この学院でTMの傷害事件が起こるようになってからというものの、あなた、毎回、犯行現場に居合わせましたわね? しかも三件とも、あなたは奇襲を受けても無傷で生還されていますし、第一、アリバイが全くありませんわ!」

 ううん、とうなり、トーマスは頭をぽりぽり掻いていた。

「いやいや、それ偶然じゃないかな? 第一の事件、つまりここの犯行現場だけれど、そもそもシフトを決めたのは、コーテスさ! コーテスが当日の三日前になって、授業のレポートを書くのを忘れていたんで、急きょ、僕に見回りが変更になったんだよ。これって、偶然だよね? 第二の事件と第三の事件だって、確かに、シフトの基本情報を組んだのは僕だけれど、スノウ委員長とコーテス副委員長が承認しているよ。もし、怪しいことがあったのならば、そのときに否認されないかな? 少なくとも僕は、信頼されている風紀の一員、ということにならないかな? あとさ、三件とも無傷で生還しているけれど、僕、悪運には自信があるんだよね。風紀という危険な仕事は、僕ぐらい悪運が強くないと務まらないぐらいハードなんだよ……。アリバイは……仕方がないかな、なくても。でもさ、逆に考えて、さらに僕に鉄壁のアリバイが成立していたとかだったら、逆に怪しくないかな? むしろ、全く怪しくないからこそ、アリバイなんていらないんだよ……」

 トーマスは淡々と反論する。
 だが、アンナも負けてはいない。

「では、トーマス。見方を変えてみましょう。TMって、あなたのことですわね?」

「え? TMが僕? なんで?」

 アンナは、ふう、と一息ついた。

「TMとは、すなわち、Thomas=トーマスのこと。あるいは、ThoMasだから、TM! 違いますか?」

 トーマスは、ううん、と再びうなる。

「ちょっと待ってよ! 何の証拠があってそうなるの? もしね、TMが誰かの名前だったとしよう。そうしたら、Tim Macfly(ティム・マックフライ)とか、Tomrou Matsuoka(トムロウ・マツオカ)とか、ありえない? むりやり、ThoMasとか、こじつけなくても……」

 アンナは、めげずに推理を続ける。

「いいや、TMはThoMasですわ。TMとは、あなたの別人格のことですわ! トーマス、あなたは別人格TMが行っている犯行を止めようとして風紀でがんばっているのですわ! TMはあなたの狂暴な影の人格で、今、学院内でちゃちな事件から傷害事件まで起こして、TMというメッセージをばらまいていますの。そう、TMとは、HELPのメッセージ。あなたの心が発するSOS! 違いまして!?」

 くはは、とトーマスは、顔に手を当てて笑い出した。

「まさかね……!! 残念だけれど、僕は二重人格では決してないよ! なんなら、後で精神鑑定でも受けさせてみるかい? さて、お話はこの辺でいいかな? 僕は、ここの立哨が終わったら、講義に出なくちゃいけなんだ。一応、風紀特権で事件中は授業を休んでもいいんだけれど、僕は出るんだ。授業に毎回出席するのは、優等生の基本だからね! じゃ!」

 トーマスは、アンナが立ち塞がっている教室の扉を避け、もう一方の扉から遠回りして去って行った。

(くぅ……!! トーマスめ、逃げましたわね!! 見てらっしゃい、きっと暴いてやりますわ!)

***

 トーマスは立哨の番が終わったあと、急いで講義へ出かけた。
 本日、最初に受ける講義は『錬金術史研究講義』である。
 講義棟にある大教室で、錬金術の歴史について学ぶのだ。
 授業は至ってシンプルで、教授が講義をして、学生たちはそれを聴くだけ。
 討論やプレゼンもなければ、先生に指されることもない。
 最後にレポートを出せば単位がもらえる。
 学生たちの間では「楽勝科目」なんて言われていて、寝ている学生やさぼる学生も多い。
 そんな中、トーマスは、一番前の席で、老教授の話を、ノートを取りながら聴いていた。

『でえ、あるから、して〜。錬金術の歴史上、化学との相関関係は……大変、重要であります! 諸君もご存知の通り〜、錬金術は魔術! 化学は科学! 異世界では〜、錬金術は
化学の前史であるとか〜、別物扱いされておりますが〜、我々の世界では、両者は二つにして一つ! すなわち、錬金術という魔術が〜、化学という科学を〜、内包しておるのですな!』

 教授は、そう説明しながら、図式を板書した。
 錬金術という円の中に、化学という円を入れる。

 トーマスは、教授の言葉を一言も漏らさないようにノートに取り、教授が描いた板書の円もそっくりそのまま写した。

 しかし、トーマスは、先ほどから気にかかることがあった。
 それは、どこからか視線を感じるのだ。
 ノート写しがひと段落したところで、彼が教室後方を振り返ると……。

 アンナが受講生になりすまして、教室後方に座っていた!
 しかもトーマスをじっと見ている!!

(ふぅ……。視線の元は、アンナさんか……。僕、本当に疑われているんだな……)

***

『錬金術史研究講義』が終わり、トーマスは、次は『マープルゼミ』へ移動した。
『マープルゼミ』は二コマ連続の授業だ。
 終わる頃には、午後一時は軽く過ぎてしまう。
 でもトーマスは、一年生のときからこの先生のゼミが好きで出ているので、お昼ごはんの時間が少し過ぎてしまっても、苦にはならなかった。

 トーマスが、ゼミの教室(中程度の教室規模。参加学生は三十人ほど)をくぐると、後からアンナも一緒に入って来た!

「おいおい、アンナさん! そろそろいい加減にしてよ! ここはゼミ生しか入っちゃいけなんだよ!」

 トーマスは、そう叱るが、教員のマープル先生(NPC)は、にこにこしている。

「マープル先生ですね? わたくし、本学高等部のアンナ・ラクシミリアと申しわすわ! 後学のため、錬金術のゼミに出席してもよろしいでしょうか? 本日、一回限りでかまいませんので!」

 ため息をつくトーマスを横に、マープル老教授は、笑顔を崩さす応対する。

「ええ、かまいませんよ。高校生にとっても、勉強になるゼミだと思うわ。今日はね、ちょうどトーマスさんの発表なのよ。トーマスさんが、ゴールデン・ゴーレムについて調べてきた結果をプレゼンしてくださるのよ。ぜひ、お勉強していってね」

 トーマスは、指導教員にまでそう言われてしまっては、もはや反論ができない。
 やむを得ず、アンナの入室を許可した。

「いいかい、アンナさん? これは大事なゼミ発表なんだ! 悪さしないでくれよ?」

「悪さをするつもりなんて、最初からありませんわ! わたくしは、お勉強しに来たのですわ! あなたの方こそ、変なヘマはしないように頼みますわ!」

 ともかく、ゼミ生も集まって来たので、トーマスのプレゼンが始まった。

『ええと、では、本日のゼミ発表、始めさせて頂きます! 発表者は、本学錬金術学部二年、トーマス・マックナイトです! さて、本日、お話するゴールデン・ゴーレムですが、このゴーレムはあらゆるゴーレム召喚の中でも、上位の錬金術に位置し、召喚が大変難しいことでも有名です。一方、近年では、ワスプといった冒険者ギルド組織なんかが、ゴールデン・ゴーレムの生息地を調べ当て、捕獲する狩りなんかも盛んでして…………』

 ゼミの前半は、トーマスのプレゼンに時間が費やされた。
 後半は、質疑応答やディスカッション、先生のコメントなどで終止した。

 ゼミ中、トーマスは、普通にプレゼンやディスカッションをしていた。
 実際アンナ自身、トーマスに怪しい挙動は感じられなかった。
 むしろ、先ほどの講義の受講態度といい、今の理路整然としたよく調査されているプレゼンといい、トーマスの優等生的な人柄がとてもよく表れている。
 もし、今日が容疑者トーマスの調査という名目ではなく、普通に接している日であれば、アンナはトーマスにプラスの感情や尊敬の念を抱くことになるかもしれないほどだ。

(トーマスって、意外とまともですわね!? なんで彼があんな犯行を!? いや、もしかして、わたくしの勘違いだったのでは!? いやいや、これもTMの作戦なのかしら!?)

 ともかく、ゼミの時間が無事に終了し、トーマスは席を立った。
 アンナが追いかけた。

「トーマス!! 今度は、どちらへ行かれるのかしら!?」

「え!? まだいたの!? もう勘弁してよ〜! お腹がぺこぺこだから食堂へ行くのさ! もう遅い時間だから、早くしないと、エビフライなくなっちゃう、急げー!!」

 トーマスは、走り出した。
 アンナもつられて走り出す。
 アンナは念のため、風紀の紋章を取り出し、腕につけ、走り続けた。
(途中で別の風紀に注意されないために)

 だが、多くの学生たちも移動中の時間だったので、途中の人ごみでトーマスを見失ってしまった!

(しまったですわ! わたくしとしたことが!! でも、目的地は食堂ですわね? ならば、先回りしますわ!!)

***

 アンナと未来は事前に打ち合わせをしていた。
 アンナがトーマスに直に対応して心理戦を仕掛けることになっていた。
 仮に心理戦に失敗した場合、トーマスを付け回すことになっていた。

 なぜなら、未来は、トーマスがアンナに引き付けられているすきに、トーマスの身辺調査をする予定だからだ。

(さて、まずは、トーマスの部屋で証拠品でも探しちゃおー!)

 未来は一応、風紀の「家宅捜索令状」は持ってきている。
 風紀規則によれば、家宅捜査は通常の場合、令状がないとできない。
 緊急時であれば、「家宅捜査令状」(風紀発行)を携帯していれば、できることになる。未来はトーマスの部屋に来る前に、風紀から令状を発行してもらったのだ。

 もっとも、トーマスの部屋がある男子寮には、表から入らなかった。
 トーマスやTMらが何かしら罠を張っている場合もありうるからだ。
 そこで、男子寮の庭からトーマスの部屋へ「テレポート」した。

 トーマスの部屋は一人部屋である。
 部屋は、こじんまりとしている。
 男子の部屋にしては、かなりきれいに整理整頓されていた。
 本棚もマンガから難しい魔術書や学術書までびっちりある。
 だが、そんなトーマスの性格が裏目に出てしまったのであろうか。
 未来が探しに来た「証拠品」が、整理された勉強机の中央に、ぽつんと置かれていた!

(あ、これ、小型UFO! たしか、第二の傷害事件で、リリアンたちがやられたという……あの小型UFOがなぜ、ここに!?)

 これは罠かもしれなかった。
 あまりにもあからさまに証拠品が出てくるなんて……。

(でも、証拠品には違いないね! ひとまず差し押さえておこう! そして、推理バトルのときにトーマスを呼び出して、この証拠を突きつければ、一発で観念するかも!?)

 未来は風紀から借りた軍手をはめ、謎の小型UFOをアイテム袋にひとまずしまった。
 突然、作動したりとか、爆発したりとか、変なことは一切なかった。
 いとも簡単に、証拠品が押収できてしまった。

(まあ、いいや……。罠かどうかは、後でわかることだし……。さて、他にも、何かないかな〜?)

 未来は、本棚を調べることにした。
 すると……。

(あ! ここ変! 一か所、空間ができてる! しかも奥に、変なレバーまで!!)

 未来は、推理した。
 きっと、この奥に「最強の魔術書」があるのでは? と。
 もし、「最強の魔術書」があったとしよう。

 その場合、すべての犯行に説明がつくのではないか?
 例えば、ナメクジを大量に召喚したり、風紀三人を爆撃で仕留めたり、リリアンたちを倒したUFOを造ったり、コーテスを一撃で破ったりとか、すべてを可能にする「最強の魔術書」がここで出てくれば、間違いなくトーマスがTMではないか!

 未来は、ごくり、とツバを飲み、レバーを引いた。
 すると……。

 ゴゴゴゴゴゴゴ!!

 本棚が真っ二つに分かれ、奥からは「最強の魔術書」が出てきた!!

(やっぱり、わたしの推理通り!! トーマスがTMだね!!)

 未来は、「最強の魔術書」を押収するべく、手に取った。
 しかし……!!

「な、な、なんという……不潔な!!」

 純真な未来には耐えきれず、その「最強の魔術書」を、ぺしり、と床に投げ捨ててしまった。

「この、この、この!! 変態、死すべし!! 死ね、死ね!!」

 未来は、「最強の魔術書」の上に乗っかり、何度もジャンプして踏みつけて、蹴とばした。

 そう、その「最強の魔術書」の正体とは……!?
『魔法少女☆丸秘H大作戦』という書物だったのだ!
 ある意味で、最強クラスの「男の魔術書」ではあるが……。

「これは……見なかったことにしよう……」

 未来は、「最強の魔術書」を元あった場所に戻し、レバーを押して、ゴゴゴ、と復元した。
 他に特にめぼしい物はなかったので、家宅捜査はここまでにした。

***

 トーマスの追跡調査はアンナに任せていた。
 アンナは講義中もゼミ中もトーマスにべたりと貼りつくように追跡していた。
 とてもあらかさまに。
 だからトーマスの認識の中では、今、彼は「アンナにマークされている」ということになっている。
 つまり、「未来からのマーク」は認識に入っていない。

 未来は、マークは基本的にアンナに任せ、「テレポート」をまめにしながら、アンナの後を追うかたちで、トーマスを追っていた。

 未来は、大きな魔樹(まじゅ)の太い枝に乗り、外部から『マープルゼミ』を観ていた。
 盗聴はしていないので詳しい内容までわからないが、今日のゼミ内容は、トーマスのプレゼンらしい。
 トーマスが、スクリーン画面にゴーレムらしき魔物の姿を映しながら、解説をしているようだ。
 アンナのマークもやはりあからさまにわかるように、トーマスの隣の席だ。
 アンナは、質疑応答やディスカッションには加わらないようだが、まじめに話を聴いているらしい。

 やがてゼミが終わると、アンナがトーマスを追いかけ出した。
 何やらもめているようだが、トーマスが、「じゃ!」のポーズを手で取り、大急ぎで逃げるように教室を去って行った。

(さて、ここからは、本腰を入れて追跡しよう……)

 エスパー少女は、講義棟内部へ「テレポート」した。
 アンナがトーマスを追いかけまわしている死角から先回りするかたちで、トーマスを追跡!
 やがて人ごみに遭遇。
 アンナは、手間取っているが、「テレポート」が使える未来ならば、難なく突破。
 トーマスは、食堂の方向へ逃げて行った。
 だが、途中で、魔術師らしき学生に呼び止められ、空教室へ入っていた。

***

 未来は、トーマスが空教室へ入った瞬間、一緒に教室へ「テレポート」で飛んだ。
 そして、教壇の中側に隠れ、様子を見ることにした……。

「トーマス先輩、それで話なんですがね……」
「うん、なんだい、ドニー(NPC)!?」

「さっきのマープルゼミですが、先輩さすがですよね! 本当に頭がいいなー!」
「え? そうかい? いや、いや、別に大したことないよ!」

「でもね、僕、頭が悪いんで、ちょっとわからないところがありましてね。それで、改めて、マンツーマンで質問したいんですが、いいでしょうか?」
「あ、ごめん、わかりづらいプレゼンだったかな? 昼ごはん、急いでいたところだったけれど、そういうことならいいよ! でも、質問はひとつかふたつにしてね、エビフライ、なくなると困るから!」

「はい、ありがとうございます! 質問はひとつまでにします! で、先輩、質問なんですが……あ、すんません! 消しゴムを落としちゃいました! あれー? 変なところに入って取りづらいかも!? 先輩、すみません、ちょっと一緒に消しゴム探してもらえませんか?」
「ははは、しょうがないなー、ドニーは! いいよ、一緒に探そう!」

 トーマスが屈みながら、消しゴムを探している最中。
 そのドニーと呼ばれた坊ちゃん刈の不細工な魔術師風の男は、懐から白い拳銃を取り出した。

(危ない!! トーマスを撃つ気!? でも、今、わたしが出て行ったら、決定的瞬間が押さえられない! ……そうだ、発砲の瞬間、弾丸を「テレポート」させてしまえば、トーマスは被弾しないはず!!)

 そう身構えた未来だったが、事態は別の方向へ展開された。
 ドニーは、拳銃を自分の右こめかみに狙い定め、引き金を引く!

 ばきゅん!!
 ドニーの体内から、黄金の魔力が燃え盛り、眼光がぎらりと鋭くなった。

「ええと、消しゴム、消しゴム……!! ごめん、ドニー、見つからないよ!」

 トーマスが、顔をあげたその瞬間……。

『おい、トーマス!! こっちを見ろ!!』
「え?」

 ドニーの両目は、深紅色にぎらぎらと光っていた。
 ずきゅん!!
 術者の両目から怪しい魔術信号が流れ、トーマスの両目が邪悪な光を受信してしまった。

「うっ!? ぐはあ!!」

『トーマス、聞いているか!? 次の指令がある!』
「はい、ドニー様、なんなりと!」

『第四の犯行ターゲットだが、魔術博物学部の優等生、マニフィカ・ストラサローネに決めた。そこで、あいつを呼ぶ役目をおまえにやってもらおう』
「はい、仰せのままに!」

『既に偽の手紙をマニフィカへ渡してある。今日の午後二時にマニフィカは、本学の裏山の最初の分岐点でおまえに呼び出されて会うことになっている。で、おまえもこの偽の手紙を手にして、午後二時前までには約束場所へ向かってくれ』
「しかし、ドニー様。僕は今、風紀に疑われてマークされています。マニフィカを呼び出したとなれば、当然、今後の犯行に影響が出るのでは? そもそも僕が風紀に逮捕されてしまいますよ……」

「ははは、案ずるな。おまえに渡す手紙は、マニフィカから呼び出されたという内容の偽の手紙だ。疑われたら、この手紙を奴らに見せろ。そして、しらばっくれろ。自分も被害者だ、と」
「わかりました。そうします」

「当時刻に現場へ行けば、別の仲間も待機している。おまえは何もしなくていい。仲間がマニフィカを攻撃する際には、一目散に逃げろ。飽くまでおまえは、マニフィカをおびき出す役目だ。いいな?」
「御意!」

 シュウウウン!!
 そこまで会話が終わると、ドニーの両目もトーマスの両目も色が元通りに戻った。

「あ、なるほど、そういうことですか、先輩! ゴールデン・ゴーレムって、金塊でできたゴーレムだから、そういう名前なんですね! なるほど、さすが、すげー!!」
「え、ええと!? 何の話だっけ? ん? ゴーレム!? そう、そう、質問あったんだよね? 途中で眠くなって、聞き逃してたみたい、ごめん! 最近、睡眠不足でさ! でも、そう、わかったんだ! よかった! じゃあね、エビフライ、急いでいるんで!」

「先輩、ありがとうございました!!」
「うん、じゃ!」

 ドニーは「用件」が済むと、急いで、教室から走り去っていった。
 トーマスも、食堂に大事な用事があるので、急いで走り去る。

(なるほどね……。そういうことだったの……!? 早く、マニフィカへ知らせなきゃ!! それとアンナも連れて行こう!!)

***

 約束の午後二時……。
 トーマス・マックナイトは、手紙を片手に、裏山の最初の分岐点で待機していた。

(ふうむ……。しかし、マニフィカさんだっけ? 何の話かな? こんなところに呼び出して!?)

 数分もしないうちに、マニフィカが一人で現れた。

「トーマスさん……ですわね? 風紀の方でお話は聞いておりますが、お互いに初対面だと思いますので、ご確認よろしいでしょうか?」

「ええと、マニフィカさん!? 風紀協力者の? ええ、スノウ委員長から話は聞いていますよ! で、話って、何ですか? この手紙、もらいましたけれど?」

 マニフィカは、ニヤリと笑った。

「あら? 可笑しいですわね? わたくしもトーマスさんからお手紙をもらいましたのよ? TMの正体が証拠付きでわかったとか、スノウ委員長が犯行に関わっているとか、二人じゃないとどうしても話せないとか……。これ、トーマスさんがくださったお手紙ではなくって!?」

「あれ!? 変だな? 僕の手紙にも同じようなことが書かれているんですけれど!?」

 トーマスがそこまで会話を引き延ばしているその最中……。
 空中から、火炎の弾丸が連続で落下してくる!!

「え? うわー! 逃げろー!!」
 トーマスは、一目散に走り出した。

***

 未来は、学内ではぐれたアンナを必死に探していた。
 そして、やっと、午後二時の五分前にアンナと合流できた。

「アンナ!! 大変だよ! あのね…………」
「え!? それは大変ですわね!! 早くマニフィカを助けませんと!!」

「でも、今、マニフィカがどこにいるかわからないよ!!」
「ですわね! ならば、現場へ直行して合流すればよろしくて?」
「うん、一緒にテレポで急ごう!!」

***

 まさに今、空中から燃え盛る弾丸がマニフィカを直撃する最中だ。

 最悪のタイミングだった。
 ちょうど、まさにマニフィカが被弾するタイミングで、未来とアンナはテレポで到着した。

「マニフィカアアアアアアアアアアア!!」
 未来は、急いで、連続テレポでマニフィカのもとへ向かう。
 間に合うだろうか!?

「マニフィカ、逃げてえええええええ!!」
 アンナは何もできないが、せめてマニフィカが火炎弾に気づき、防御か回避できるように、注意を促すため叫んだ。

***

「オラオラオラアアアアアア!! これでもくらいやがれええええ!!」

 マニフィカが被弾するその直前、森の方から半獣半身の男が飛び出して来た。
 男の上半身は大鴉で、下半身が人間だ。
 そのマッチョな男は、両手から魔力の波動砲を放ち、火炎弾の連続攻撃を相殺した。

「よう、マニフィカ!! 間に合ったな! あぶねえところだったぜ!」

 ひとまず助かったが、人魚姫は、突然現れた謎の獣人の正体に疑問を抱いた。

「あの、あなたは!?」

 鴉の眼光がきらりと光った。

「バードマンの真の姿だぜ、よろしくぅ!!」

 説明しよう。バードマン准教授の正体は、半獣半身なのだ。『ザ・レイヴン』という魔導動物学の魔術で変身すると、上半身が大鴉のマッチョ男になり、魔力と戦闘能力が圧倒的に上昇するのである。いわゆる、変身ヒーローなのだ。しかし変身すると、人格が変わってしまうらしい。

 それと、追加の説明で申し訳ないが、マニフィカが前節で「お願い」したこととは、まさにこのことだ。もしものときのことを考えて、バードマン先生を伏兵として忍び込ませていたのである。トーマス、いや、背後にいるだろうTMは卑怯者なことがこれまでの事件ではわかっている。一人で来ようなんてものならば、第四の犠牲者にでもなりかねない。マニフィカにはそれがわかりきっていた。

「先生、ありがとうございました! え、そこにいるのは、未来さん!?」

 マニフィカは隣に未来が、「テレポート」で現れたことに気が付いた。
 木陰から、アンナも出てきて、手を振っている。

 トーマスは、呆然としていた。
 今、目の前で行われている事態が、何なのかさっぱりわからないからだ。
 そもそも、自分はさっきまで食堂へ向かって走っていたのではなかったか。
 すると、いきなり、「ここ」に飛んでいる。

「ト・オ・マ・ス!! やっぱり、あなたがTMだったのですわね! この犯行現場の現状が、動かぬ証拠ですわね!?」

「え!? アンナさん!? って、何のこと!? 僕はさ、この手紙で呼び出されたから、ここにいるのであって!!」

「問答無用ですわ!! トーマス、覚悟なさい!」
「うひゃあああああああああ!!」

 アンナはトーマスを追いかけ出した。
 すると、トーマスは、猛烈な勢いで走り出す。

 もちろん、謎の襲撃者は待ってくれるわけがない。
 次の連続火炎弾が襲って来た。

「懲りねえ奴だな!! そらよ!!」

 バードマンが、波動砲で迎撃すると、火炎弾は次々と消え去っていく。
 そして飛翔し、殴りかかる!

「マニフィカ、今のうちに逃げよう!!」
「でも、バードマン先生が!!」

「先生は強そう! 先生なら大丈夫! それよりもマニフィカ、今、TMに狙われているから、早く、逃げて!!」
「わかりましたわ。未来さん、ありがとうですわ!!」

 マニフィカは、未来の「テレポート」でひとまず、麓(ふもと)まで逃げ延びた。

***

 空中戦は拮抗していた。

 バードマンが殴り掛かっても、敵は簡単に消えてしまう。
 そもそもおかしいことに、敵の「気配」が全く感じられないのだが、攻撃だけは必ずどこからか飛んでくる。毎回、「ファイアボール」で。

(ちっ、すばしこい奴だな! 獣人状態になった俺の本能すら嗅ぎつけない気配とは、こいつ、なかなかやるぜ! ……二人いるな!? 一人は、今、対戦中で、気配殺しの闇魔術と火炎魔術を使う奴。もう一人は……え!? ウソだろう!? 1km先の森から、仲間を「転移」させているのか? ちっ、テレポーターか!?)

 思念がよぎる中、バードマンは、やっと、敵の気配を敏感に感じ取れた。

「すきあり!! もらったあああ!!」

 だが、渾身のクロー斬撃は、空中を切った。

(しまった!! 残像の気配だったか!?)

 敵対者は、既にバードマンの上空にいた。
 燃え盛る真っ赤な砲弾が真下にいる獣人へ何発も何発も落下する!!

 どかああああああああああん、どか、どかどか、どかあああああああああん!!!!

(ぐはあ!! やべえ!! 直撃だわ、こりゃ!!)

 火炎弾が爆裂し、バードマンは、森の方へ真っ逆さまに落下した。

(無念、ここまでか……!!)

***

 どかああああああああああん、どか、どかどか、どかあああああああああん!!!!

「きゃああああああああああ!! バードマンせんせえええええええええええ!!」

 マニフィカは、麓から、思わず絶叫してしまった。
 たった今、空中でバードマンが火炎弾に撃たれ、落下したからだ。

「え!? ウソでしょう!?」

 未来も目を疑った。
 あの強そうな獣人の先生が一撃でやられてしまったからだ。

「未来さん、助けに行きましょう!」
「うん、そうしたいけれど……。犯人はまだ現場にいるんじゃないかな……」

「そのときは……二人で戦いましょう! わたくしとあなた、二対一であれば、なんとかなりますでしょう!」
「そう願いたいね。でも危なくなったら戦線離脱だよ! 約束できるね?」

「ええ、わたくしが敵を引き付けているうちに、バードマン先生を逃がしてくださいますか?」
「わかった! そうしよう!」

***

 未来とマニフィカは、バードマンが落ちた森のあたりまで「テレポート」した。

「テレポート」で到着したそのとき、二人は恐る恐る、周囲を警戒したが、敵対者は既に去った後であった。
 そう、既に去った後……。
 もしかして、バードマンは……。
 嫌な想像が脳裏に過ったが、二人は、あきらめずにバードマンを探した。

 けれど、探すまでもなく、歩いて数歩で、バードマンが倒れていた。
 被弾したので、変身は解け、裸の上半身はあちこち火傷(やけど)していた。

「やあ、君たちか……。すみません、マニフィカさん……。やられちゃいましたね、あはは!!」

 陽気に笑うバードマンであったが、女性二人は笑える状況ではなかった。
 マニフィカは、「水のエル・オーブ」ですぐに魔法人魚に変身して、「クリアランス」の聖水でバードマンの火傷(状態異常)を癒すことに専念した。
 その最中、未来は、新たな敵襲が来ないように警戒していた。

「マニフィカさんに、そちらのお嬢さん、ありがとう……。おかげで助かりましたよ……」
「先生! しゃべっても大丈夫ですの!? 保健委員会を呼びましょうか?」

「いや、大丈夫です、このぐらいのケガなら。あとで、自分で保健委員のところへ行きますよ。それよりも、マニフィカさん……」

 バードマンは、渋い顔で、意味深に告げた。

「今回、風紀で追っている犯人ですが……本当に気を付けてください。対戦した敵は二人いました。一人は、闇魔術と火炎魔術の使い手。もう一人は転移などの空間魔術の使い手。1km離れた仲間を自由に転移させる魔術にも驚きましたが、それ以上に闇と火の魔術を使う輩の方がやばかったです。気配が全くなかった。獣人ですら感知できない気配殺しの魔術なんて、相当の大魔導士でしょうね。しかも、奴は遊んでいました。本気を出して攻撃する私に対して、火炎系魔術の低位である『ファイアボール』しか撃ってこなかったんですよ。なめられたものですな、ははは。しかし、魔力のレベルが本当に半端ない。うちの学院で言えば、学院長レベルの実力ですよ……。見慣れない奴ですし、おそらく部外者でしょうね。しかし、どうやって学院に入ったんだろう……。あ、いてて!! すみません、話はこれぐらいで!!」

「先生、無理はなさらないで!! やはり、わたくし、保健委員会へ付き添いますわね」
「わたしも付き添うよ! 先生、一緒にテレポしよう! そうしたら一瞬だし!」
「重ね重ねすみません、君たち。では、お願いしましょうか……」

***

 バードマンたちが戦闘している最中……。
 森の中で、アンナはローラースケート全開でトーマスを追跡していた。
 トーマスは、もともと体力を使う走行などは不得意なため、アンナにすぐに追いつかれてしまった。

 アンナは、あと少しの距離だが、森の障害物が多くて、あと少しが詰められない。
 アイテム袋から、「大地のエル・オーブ」を取り出した。

(たしか、このたまゆらって、野球ボールみたいに投げることもできましたわよね!)

 アンナは、黄色のたまゆらを、勢いよく、トーマスの足元に向かって投げつけた!

「うわあああああああ!!!!」

 案の定、トーマスは、足元が怪しくなり、コケてしまった。

「トーマス! 観念なさいな!」
「くっ……。いったい、僕が、何をした……!?」

 この期に及んで白を切るトーマスに、アンナは半ばあきれていた。

「あなたがTMでしょう! さっきの現行犯、もうあからさまじゃないですか!」
「わかったよ……。そこまで言うなら、白黒、はっきりさせようじゃないか! 僕は、やっていない! 僕は、TMじゃない! よし、今から、風紀と風紀協力者全員を風紀委員室に集めて、僕を尋問すればいいじゃないか! 探偵小説じゃないけれど、真相究明でも、『犯人はおまえだ!』でも、なんでもやればいいじゃないか!!」

 あきらかに犯行に関与しているはずなのに、必死で自分の無罪をまくしたてるトーマスの気迫に、アンナは気味の悪いものを感じていた。

 そして、トーマスは、鞄からタクトを取り出し、アンナに差し出した。

「僕の武器、タクトだ。預けておくよ。僕は、戦闘は得意じゃない。しかも、武器まで取り上げられたとなると、君の方が圧倒的に強いだろう。あと、このタクトは、マープルゼミで作った大事なタクトだ。君が持っていれば、僕が逃亡する心配もない。これでいいかな? さあ、早く風紀委員室へ向かい、スノウ委員長や仲間たちを集合させよう。やってやろうじゃないか、推理合戦でも弾丸論破でも!」

 アンナは、トーマスから、ゆっくりとタクトを受け取った。
 その後、トーマスは抵抗することも逃げることもなく、アンナと共に歩き出した……。


・第六節 スノウと(を?)調査


 風紀の会議が終わり、本日の調査が開始されるまさにそのとき……。
 ヴィオレッタは、アイテム袋から大きめのメモ帳を取り出した。
 そして、本日、同行予定のスノウへ手渡す。

「何かしら?」

「うん。事件調査をするにあたり、『心理テスト』がやりたくてね。スノウさんも、ボクの推理に協力して頂けないだろうか?」

 はてな、という顔をしつつも、スノウは頷いた。

「いいわよ? どうすればいいの?」

 ヴィオレッタは、メモ帳とペンをスノウに渡した。

「これまでに読んだ本の中で、印象に残っているフレーズを自己紹介の代わりに書いてほしい。本が好きなキミについて知るにはその方がいいだろうからね……」

「え? 印象に残った本のフレーズ!? 本好き? ええ、そうね、私は文学部だし……。ちょっと、待って……」

 スノウは、『レヴィゼル聖典』の詩編の一部をすらすらと書き写した。
 マギ・ジス文学の古代詩人でもあるダンカンマンの詩が、『レヴィゼル聖典』に収録されていることは、マギ・ジスタン世界では有名な話だ。
 スノウは、詩人が神へ祈る敬虔(けいけん)で悲しいフレーズを選んだ。

「これでいいかしら?」
「ありがとう。上出来だよ。これで推理がはかどることだろう……」

***

 スノウとヴィオレッタは、まずは、容疑者であるブラスト・ゴールドブレイズから調査することにした。スノウが調べたところ、本日、どうやら黒魔術学部では、全学部生参加の学力試験『黒魔術知識試験』の結果発表日だそうだ。
 午前九時には、黒魔術学部の研究棟の掲示板で発表されるらしい。

 そういうわけで、スノウとヴィオレッタは、午前九時前に現場へ着き、見張っていた。
 ブラストは、どんな試験でも試合でも、必ず上位の成績を出す。
 その男が、本日の試験発表の開始時にいないわけがないからだ。

 午前九時、少し前……。

「ヘイ、ヘイ、ブラック☆マジック☆野郎ども♪ 俺様、魔導科学のサンダー、参上♪ てめえらの、へたれた試験結果、しかと、じっくり、ぎっくり、鑑賞してやるぜ♪」

 サンダー・フロッグスタイル、現れた!
 ピエロの出で立ちで、赤い大玉に乗りながら、ラップを歌っている!

 どうやら、午前九時の発表を見越して、ここでパフォーマンスをやるようだ。

(スノウさん……。どうする? フロッグスタイル容疑者もどの道、尋問するんだよね?)

(尋問……というか、ちょっと捕まえて質問するだけよ。でも、今は、ブラストの方をマークするわね! 二人同時には、まずいから、惜しいけれど、サンダーは後回しで)

 そうこう話しているうちに、掲示板前には黒魔術学部の学生が集まって来た。
 掲示板の電子部分に、ぱっと、光が灯され、試験結果が発表!

 気になる試験結果は……。
 ブラスト・ゴールドブレイズが、『黒魔術知識試験』の全科目一位だ!

「ふはは! やはり、やはりね、こうなるよね! 俺って、なんて天才なんだろう! あはは、今日もまた、一段とすがすがしい一日になりそうだね、格下諸君!!」

 王子様みたいな恰好をしているブラストは、ふさふさの金髪をなびかせ、笑い出し、自慢し、他の受験者たちを侮辱し、有頂天だった。

 一方、試験結果は上位だけではなく、最下位まですべて発表していた。
 試験当日の欠席者を抜かせば、最下位にある名前は……。

 ジェームス・コースソン(NPC)という学生が、全科目最低の赤点で最下位だった。
 嫌味なブラストが、これを見逃すはずがない!!

「ぎゃははは! バカじゃねえ、ジェームス!! 全科目零点すれすれじゃねえかよ! がはは、片腹痛いわ、この聖アスラ学院の面汚しめ!! てめえみたいなサルレベルの頭しかない奴は、自主退学でもしとけよ!!」

 ブラストがそうはやし立てると、周囲の学生たちもバカ笑いし出した。
 ブラストみたいな上位の学生にはとても敵わない。
 だが、ジェームスみたいな最下位の学生は、簡単に見下せる。
 今のこのやり取りが、平均レベルだった学生たちの歪んだ自尊心を刺激し、笑いを誘った。

 しかも、止める者は誰もない。
 バカにされたジェームスは、泣きそうな表情でうつむいていた。
 聖アスラ学院はエリート校だ。
 力のある奴が力のない奴をバカにする光景は日常的にあり、バカにされた方はうつむき、泣き寝入るしかないケースがほとんだ。
 だが、ジェームスは……。

「おい、ブラスト!! いつも、いつも、ねちねちと、嫌味ったらしく、俺のことをバカにしやがって!! だがな、今日で最後だ! タイマンしろや、この野郎!!」

 ジェームスの怒声は、虚しくも笑い声でかき消された。
 万年劣等生のジェームスと学部常時トップのブラストでは、格の違いが圧倒的だからだ。
 ジェームスがどんなにがんばっても、ブラストを倒せるわけがない、と、皆は笑う。
 当然、ブラスト本人は爆笑していた。

「いいぜ。なんなら、誰がこの学部のトップかはっきりわかるように、この場でやり合おうぜ! みんな、手を出すな! 先生や風紀にも言いつけるなよ!」

 ブラストがそう怒鳴ると、掲示板周辺の学生たちは皆、二人を避け、円を造る。
 数メートルの距離で空いた円の中に、ブラストとジェームスの二人だけが残る。

(スノウさん……。事件とは直接関係ないことだけれど、この場合、風紀はケンカを止めた方がいいの?)

(そうね。行きましょう! 風紀委員会は、無益な争いを止めないといけないわね……)

 陰で観ていたスノウとヴィオレッタが出て行こうとした、そのとき……。

 ジェームスが、南国風の服装のポケットから、白い拳銃を取り出した。
 ギャラリーから悲鳴が上がった。

「おいおい、ジェームス!! いくら俺に勝てないからって、チャカ出すかよ、おまえ!? まあ、いいさ。科学兵器なんかにこの俺が負けるわけがないからな!」

「バカにしやがってええええええええ!!」

 ジェームスは、白い拳銃を自分の右のこめかみに当てた。

「おい、ブラスト! ジェームスは自殺する気では!」
「止めねえと、やばいぞ! 警察沙汰になるぞ!」

 とは、ギャラリーは言うものの、誰も止めに入らない。
 みんな、怖いからだ。

 スノウは、ぎゅうぎゅう詰めの人ごみを押し分けて、円の中に入ろうとするが……。

 ずきゅぅぅぅん!
 やっちまった……。
 誰もがそう思ったそのとき……。
 ジェームスの体内から禍々しい闇魔術のオーラが漂い、眼光がぎろりと紫に光った。

「なんだよ、それ!? って、おまえ!? いいさ、やってやるよ!!」

 ブラストは拳に黄金の魔力を宿らせた。

『見せてやる、我が天性の偉大なる魔力!! ゴールデン・ファイティング・コメットォォォォォ!!!!』

 天才黒魔術師は、流星のごとく凄まじいムーブで、距離を詰め寄る。
 右手に宿った神々しい黄金の魔手が、ジェームスの顔面を狙う!!

 直撃で決まった!
 誰もがそう思った瞬間……。

『バカめ! そっちは幻さ!! いくぜ、ブラスト!! 我が秘技、幻眠打破(げんみんだは)!!』

 ジェームスは、ブラストの背後に立っていた。
 そして、彼の両拳は拡大し、無数の猛烈な勢いのジャブがブラストを襲う!

 ブラストが振り返ったときには、既にノックアウトだった。
 優等生は、幻の拳の連続打に飲み込まれ、宙を舞い、無様に落下し、動かなくなった。

「きゃああああああああああああ!!」
「うわああああああああああああ!!」
「ひえええええええええええええ!!」

 たくさんの悲鳴が上がった。
 ひとつは、目の前の惨状の恐怖から。
 もうひとつは、最下位の劣等生に最上位の優等生が一撃で負けたから。

「オラア!! 次、やられたい奴はどいつだあああ!? さっき俺を笑ったよな!? ああん? てめえか? それとも、おめえか!?」

 怒り狂っているジェームスに制御なんてできるわけがない。
 暴漢は、さっきまで周辺にいた逃げ惑う他の黒魔術師学生たちを片っ端から殴り飛ばした。

「そこまでよ!! 風紀委員長のスノウ・ブロッサムよ! そこの青髪マッチョ、暴行を止めなさい! そして、今すぐ直ちに投降しなさい!」

「ああん? 風紀委員長だあ!? てめえ、やるか、こらあ!!」

 まさに、今、スノウがにらまれている最中……。

「ここだよー!! ここでケンカしてるよー、風紀のみなさーん!!」
「そこの青髪マッチョ!! スノウ委員長を殴ったら承知しねーぞ!!」

 ヴィオレッタは少しだけ別行動を取り、周辺にいる他の風紀委員たちを呼び集めていた。
 風紀は五人ほど集まり、いずれも強面の魔術師たちだ。

「ちっ、分がわりい。そろそろ『切れる』しな……」

 青髪マッチョは、拳をぶんぶん振ると、消えていなくなった。
 そして彼は、半ば崩れているギャラリーの円を超えて、一目散に走っていた。
 しかも道中、走行の障害となるサンダーの大道芸品を蹴り飛ばし、逃げて行った。

「ヘイ、ヘイ、ブルーヘアー・マッチョ♪ フロッグスタイル大先輩に、対して、てめえは、なんて・ざま・だぜ・おいおいおい♪」

 こんなときまで、ふざけたラップで現行犯にがん飛ばすサンダーは、ある意味で尊敬に値する。
 しかし、ジェームスは、サンダーのことなんて、どうでもいいかのように、無視して逃げ続ける。

「みんな、追って!! あの青髪マッチョを追って!! 暴行と暴行未遂の現行犯逮捕よ!!」

 スノウと風紀たちが走り出すと、サンダーは、突然、赤い大玉を召喚した。

「ヘイ、風紀ども♪ この大玉、いかすぜ、最速だ♪ 最大時速100km、ナイスな、ビッグ・ボール♪ 早く、犯人、捕まえな♪」

 サンダーから赤玉を渡され、スノウはともかく、玉に乗ってみた。

「あ、魔法のほうきみたいなアイテムね? サンダー、ありがとう! 借りていくわ!」

 スノウと風紀たちは、最速の赤玉に乗って、ジェームスを追っかける。
 ジェームスはその頃には、かなり遠くへ逃げていた。
 おそらく、学外の学生街へでも逃げ込むのだろう……。

 ヴィオレッタは、実は、このときを心待ちにしていた。

(よし、スノウさんと上手い具合にはぐれた……。では、今から、本当の調査をやろう……)

***

 ヴィオレッタは、風紀委員室の隣にある風紀資料室へ急いだ。
 ノックし、扉を開けると、資料室の番をしている一年生の女子風紀委員と出くわした。
 ヴィオレッタは、彼女に風紀の紋章を見せながら、問いかけた。

「やあ! 風紀協力者のヴィオレッタという者だけれど……。ちょっと参照したい証拠品があるんだけれど、いいかな?」

「どの証拠品でしょうか?」

「TM事件の。TMって人から、犯行メッセージの紙切れとか挑戦状みたいなの、あったよね? その手のメッセージ系の証拠を全て借りたいんだけれど、いいかな?」

「えっとお……スノウ委員長の許可がないと、閲覧はできないかと……」

 探偵の眼光がきらん、と光った。

「うん。実はね、そのブロッサム委員長からのお願いなんだ。委員長は今、大変、忙しくしていて、ここに来られない。それで代わりにボクが来たんだけれどね、証拠品の鑑定をやってもらいたい、とのことなんだよ。ダメかな?」

 探偵のはったりが炸裂!

 ううん……と、女子風紀員は悩んでいたが、スノウ委員長の許可があるならば、と言うことで、承諾した。

「あ、でも、『借りる』って、持ち出すってことですか?」

「いや、隣の風紀委員室で鑑定をやるだけだよ。終わったら、すぐに証拠品は返すから!」

「わかりました! そういうことならどうぞ!」

 ヴィオレッタは、女子風紀からTMメッセージの証拠品一覧のケースを受け取り、資料室を後にした。

***

(さて、拝借してきた証拠品。さっそく鑑定してみよう!)

 まず、挑戦状のファイルを開けてみた。
『親愛なる愚鈍な風紀……』で始まるあの手紙だ。

(あ、こりゃあ、筆跡がわかんないね! パソコンで打った文字だね……)

 次に、ほとんどの犯行現場で落ちていた「TM」と記された紙切れを並べてみた。

(よし、これは直筆みたいだね……。さて、これも広げよう)

 ヴィオレッタは、先ほど、スノウからメモ帳に書いてもらった「心理テスト」を取り出す。

(ええと……。要は、さきほど彼女に書いてもらったフレーズにTとMの文字がどこかにあれば、いいわけだけれど……。あった、TとM!! これを、犯行メッセージのTとMと比べれば…………)

 だが、ヴィオレッタには、「筆跡鑑定」の技能がなく、素人目には、上手く見分けられなかった。

(ううん……。たぶん、違う人間が書いたものだよね? 筆跡鑑定の専門家じゃないので、断定はできないけれど、なんとなく、TとMの文字の書き方のクセが違うと思う……)

 もっとも、ここでへこたれるヴィオレッタではない。
 今度は、アイテム袋から、「魔跡鑑定ルーペ」を取り出した。
 現代魔術研究所から購入してきた、魔力の跡を鑑定できる虫メガネである。

 探偵は、まず、スノウが書いた文字にルーペを照らして、覗き込む。
 ルーペは、文字から魔力を読み取った……。

(ぴぴぴ、と……。スノウさんの魔力の実力は……Aランク! スノウさんの属性は……無属性!)

 引き続き、探偵は、紙切れに記されたメッセージのTMを全て鑑定した。
 だが、驚くべき鑑定結果になってしまった!

(ええと……。この紙切れにあるTMのメッセージを書いた人は、すべて、同じ人だね? 属性が全て闇と火、というのもその裏付けになるだろうけれど……。それ以上に信じられないのが……魔力のレベルがFランク(最下位)だね!? あれ、ルーペ、壊れているのかな? もう一度、やってみよう!)

 もう一度、鑑定をやり直したが、同じ結果が出た。
 ヴィオレッタは大変、解せない。

 スノウの報告を聞く限り、犯人のTMは大魔導士レベルだ。
 特に火炎に関しては、爆撃でコットンの事件の風紀三人を一撃で倒した。コーテスの事件に関しては、コーテスを一撃で重症判定にしている。

(魔法使いスライムみたいだね……)

 ヴィオレッタは、この鑑定結果から、あることを思い出した。
 昔、彼女が元の世界にいた頃、とあるハゲオヤジからテレビゲームをプレゼントされた。
 そのゲームのタイトルは忘れたが、RPGであった。
 ゲームの前半で、「魔法使いスライム」というザコ敵キャラがいた。
 この「魔法使いスライム」は文字通りザコで、HPもMPも低く、魔法は低位の「ファイア」しか使えない。
 倒すのに全く苦労しない超ザコだ。

 そう、ヴィオレッタが鑑定した「TM」の魔力鑑定結果は、まさに「魔法使いスライム」のようなレベルだ。
 それなのに、いったい、TMは、どうやって、今回の事件で多数の人間たちを魔術で大けがさせることができたのだろうか?

 鑑定で何かを解明するつもりのヴィオレッタであったが、この鑑定でまた新しいミステリーが生まれてしまった。

(いや、待てよ……。TMの鑑定結果がスノウさんの偽装だとすれば!? スノウさんは、何かの理由があって、魔力を落としたり、属性を変えたりしていたのでは……!? そうか、危険ドラッグでも使ったんだよ!! だが、そうすると、一点、おかしな点がある。通常、ドーピングをするときって、実力を高く見せたいときにやるものじゃないかな? 今回の場合、実力を低く見せていったい、何がしたいんだろう!?)

 スノウのことで気になるヴィオレッタは、別の方向性での調査も思いついた。
 なお、借りてきた証拠品は、鑑定が済んだので、隣の部屋にいる風紀女子へすぐに返した。
 証拠品がすぐに返ってきたので、彼女もほっとしたようだ。

(さて、お次は……。事務室にでも行こう!)

***

 事務室の職員たちは忙しそうだった。
 ヴィオレッタは、呼び鈴をならし、事務員を呼んだ。

「すみません! 閲覧したい資料があるんだけれど……」

 事務のおじさんが、にこりと対応してくれた。

「どんな資料だい?」

「このまえの……。全学で行われた攻撃魔術の検定試験の結果って、閲覧できるかな?」

「ええと、どちら様で!? 学内の人間であれば、かまわないけれど……」

 ヴィオレッタは、風紀の紋章を見せた。

「風紀の者だよ! ちょっと今、学内で事件が起きていて、その調査をしているところなんだ。どうしても、その例の検定試験の資料がないと困るって、うちのブロッサム委員長も言っていてさ……」

 探偵は、再び、スノウネタを使って、はったりをかました!!

「あ、風紀の人だったんだね? そう、スノウ委員長がそう言っているのかい? じゃあ、閲覧してもいいけれど、閲覧は事務室の中でね! 外へ持って行ってはいけないよ。それでいいかな?」

「はい! ありがとうございます!」

***

(さて、検定試験の結果を改めて見てみよう……)

 ヴィオレッタは、攻撃魔術の検定試験結果を上から順番に見て行った。
 一位には、容疑者であるブラスト・ゴールドブレイズの名前が載っていた。
 それから、順位を段々と下って見て行ったが、さすがに部外者のヴィオレッタには、知っている名前が見当たらなかった。

 そして、十位に差し掛かったとき……。

『十位 スノウ・ブロッサム』

(あった! スノウさんのデータ! やはり、スノウさんは上位だった!!)

 しかし、学外の人間であり魔術が専門ではないヴィオレッタには、とあることが確認できない。そこで、隣にいる事務のおじさんに聞いてみた。

「質問、いいかな?」

「え? うん、いいけれど。なに?」

「ボクはこの試験、受けたことがないのでわからないけれど……。この検定で学内十位を取るって、大変なことなのかな? すごい努力が必要? あと才能もけっこう必要? 後学の参考までに教えてほしいのだけれど……」

 おじさんは、黄昏(たそがれ)た表情で語りだした。

「うん、すごく大変なことさ。凡人がこの検定で十位を取るには、恐ろしいぐらいの努力が必要だろうね。ほら、ここに載っているスノウさんだけれどね、彼女は大変な努力家だよ。専攻は文学部なのに、黒魔術の検定で十位を取るなんて、文学部としては、本当に何十年ぶりの快挙だろう? でもね、スノウさんには悪いけれど、十位までが限度だろうなあ……。必死の努力で通用するのが十位まで。九位以上は、才能の世界。特に三位と四位の差はかなりのもので、三位以上はもうSランク(最強ランク)の一握りの天才しか出せない順位だね……」

(そうなんだ……。スノウさんって、けっこうがんばり屋さんなんだね……)

 ヴィオレッタは、感心して聞いていた。
 おじさんは、渋そうに話を続ける。

「魔術師の世界なんて、最後は才能の世界だからなあ……。ところで君は、一年生かい? なんでみんな、こういう魔術の検定に必死なのか、知っているかい? ここの学生はね、卒業したら、将来は国や世界を担うぐらいの魔術師になるのさ。そのための競争が今の段階から起こっているってことだよ。魔術の能力や才能で、学内の人間関係の上下が決まるし、就職先の優劣も決まってしまうんだ……。おじさんもね、今こそ事務員やっているけれど、出身校はここなんだよ。でもなあ、攻撃魔術にしても補助魔術にしても、おじさんはどちらもなんとか百位以内程度しか取れなかったから、政府の機関に就職できず、滑り止めで受かった学院事務局の仕事をしているのさ……。おっと、みんなには内緒だぜ! おじさん、実は、今の生活もけっこう好きなんだよ、あはは……」

(へえ……。魔術師の世界も厳しいんだね……。ま、ボクは怪盗だから知らないけれど)

「事務員さん、ありがとうございました! おかげで調査がだいぶ進んだよ!」

「うん、風紀のお役に立てて何よりだ。スノウ委員長にもよろしくな!」

***

 ヴィオレッタは、一度、風紀委員室へ帰ることにした。
 推理をまとめてみるためだ。

(ボクは、スノウ委員長が一番怪しいと思った。なぜなら、今回の事件、あまりにも計画的にすべてのことが上手く行き過ぎていないだろうか? まるで誰かが示し合わせたかのようなタイミングで風紀の前で事件が起こっている。どうも風紀の指揮を管理できる人間が裏で手を引いているようにしか思えない事件なんだよ……。仮にボクが今回の事件の犯人だとしよう。ボクはきっと、風紀委員長だろうね。なぜなら、風紀の見回りのシフト、時間帯、誰が誰と組むとか、全部決められるからさ。例えば、コーテスさんを陥れた事件のときも、風紀委員長=TM(かその仲間)であれば、自作自演の演技や舞台設定なんてわけなくできるじゃないか。それに、風紀の管理者であれば、共犯者である風紀部外者を現場に招き入れることだって、たやすくできただろうし……)

 だけれど、と探偵は、思考を改める。

(さっきの証拠品の鑑定結果……。なんというデタラメな結果が出たことだろう! 仮に鑑定ルーペが壊れていなかったとしよう。TM=スノウさんという説は崩れる。スノウさんがTMの仲間であるという説も崩れる。なぜなら……)

 探偵は、メモ帳に図式を書いて整理した。

***

●TM=スノウさん説である場合

・TMの魔力は「魔法使いスライム」(Fランク)レベル。一方、スノウさんの魔力はAランク。

・TMの属性は、火と闇。スノウさんの属性は、無属性。

・TM=スノウさんである場合、スノウさんは、魔力を落とすためと属性を変えるためのドーピングをしたことになる。だが、ドーピングしたところでメリットはない。むしろ、魔力が落ちたら、風紀三人を一撃で倒し、コーテスさんに重症を負わせることができなくなる。デメリットの方が多い。

・スノウさんの魔力Aランクがウソである場合。これは、ありえない。なぜなら、先ほど、事務室で攻撃魔術検定試験の結果が十位(上位)であるという証拠を見せてもらったから。

・コーテスさんの事件で、スノウさんとコーテスさんが、やりあった、と考えるのは無理がある。そもそもスノウさんには、見回りをしていたアリバイがあるはず。仮にスノウさんがアリバイトリックを使って、やりあっていたとしても、検定の結果では、コーテスさんの方が上位(補助魔術検定一位)なので、バリアは破れないはず。(攻撃魔術検定と補助魔術検定は、順位に差があっても、基準が違うかもしれないけれど……)

・よって、TM=スノウさんではない。

***

●スノウさんがTMの仲間説である場合

・TMは間違いなく複数犯。そもそも挑戦状のメッセージで『一連の事件の犯人だ』と、まるで単独犯であることを強調していることが不自然。犯行パターンも、必ず風紀に関する何かであったことから、風紀内部に犯人の仲間がいると見て間違いないだろう。

・風紀の行動を完璧に掌握し自由に動かせる権限を持つのはスノウさん。スノウさんがTM本人ではないとしても、TMの協力者であることも考えられた。だが、スノウさんともあろう者が、魔法使いスライム程度(Fランク)のTMに協力するだろうか?

・スノウさんは、とても努力家でまじめな性格。事務室の人間によれば、文学部の学生で、攻撃魔術検定で十位を取るのは、かなり奇跡的な展開。だが、スノウさんは、いわゆる天才タイプではなく、秀才タイプ。Aランクの魔力を持ち、自分を磨くことを怠らず、文学部でありながら攻撃魔術検定で好成績を残したスノウさん……。彼女は、Fランクの魔力で人間性が腐っている犯行を続けるTMとは、真逆な存在。おそらくこの両者は、犬猿の仲というか、水と油とも言える。

・よって、スノウさんはTMの仲間になりえない。

***

(まあ、こんなところだろう。あと、怪しいのは、トーマス・マックナイトとコーテス・ローゼンベルクだね。コーテスさんは風紀副委員長でスノウさんに次ぐ権威者であるし、トーマスさんは今回の事件で風紀の仕事に可笑しいほど積極的だ。風紀内部にTMの協力者がいるとすれば、彼らも怪しい。だが、コーテスさんとトーマスさんに関しては、別の仲間たちが調査しているらしいから、今からボクが調査しに行くまでもないだろう……。さて、時間が少し余ったけれど、このままここで仲間たちの帰りを待つとしよう。全員分の調査情報が集まったときに推理合戦をやるだろうから、そのときに改めて、誰が犯人なのか解明すればいいだろう。……昼寝でもするか……)


・備考とヒント


●備考:今回の「リアクション」ですが、事件解明のヒントを出すために、アドリブが何か所か入っています。そのアドリブの中でも、最大のアドリブについて補足させて頂きます。

・第二章 第四節 被害者リリアンの調査
・第二章 第五節 容疑者トーマスの調査

この二節分のお話ですが、主な登場PCのひとりとして、マニフィカ・ストラサローネさんが出てきます。マスターは、ストーリー展開の必要上、マニフィカさんがTMから狙われるアドリブを通して、PLの皆様へヒントを出したかったのです。(狙ってしまって、本当、すみません……)

●ヒント1:

・コットン、リリアン、コーテス、マニフィカ。狙われたこの四人にある共通点とは?
(その共通点が、今回の犯人の犯行動機です)

●ヒント2:

・コーテスは狙われたけれど、スノウは狙われなかった。

(第二章第六節で、スノウがジェームスに遭遇したのは計画的ではないので、ノーカウントでお願いします。現に、当時、ジェームスの暴行事件の第一目的は、スノウを潰すことではありませんでした)

・マニフィカは狙われたけれど、ジュディは狙われなかった。

・ジェームスは、ブラストはボコボコにしたが、サンダーには無関心であった。

(コットンとリリアンは比較対象がいないので、ヒント省略)

なぜでしょう?

<第二回へ続く>