「3番目の魔術師事件」第3回(偽装戦闘演習編)

ゲームマスター:夜神鉱刃

もくじ

★第四章 ウォルター先生の偽装戦闘演習

・第一節 ウォルター戦 前半戦

・第二節 ブラスト戦 前半戦

・第三節 仮面の蜘蛛男戦 前半戦

・第四節 ジェームス戦 前半戦

・第五節 ドニー戦 前半戦

・第六節 ブラスト戦 後半戦

・第七節 ジェームス戦 後半戦

・第八節 ドニー戦 後半戦

・第九節 仮面の蜘蛛男戦 後半戦

・第十節 ウォルター戦 後半戦

・第十一節 決着



★第四章 ウォルター先生の偽装戦闘演習


・第一節 ウォルター戦 前半戦


「では、これにて特別演習、開始!! さあ、行きますよ、風紀の皆さん! 我が魔導動物学の脅威で全員、地獄行きですがね、ははは!」

 開口一番、ウォルター教授(NPC)は、タクトをぶんぶんと振り出した。
 タクトからは、ダークボールとストーンボールの連続魔弾が飛び散る!

「なんのその程度!!」

 土属性の魔法少女・アンナ・ラクシミリア(PC0046)は、オーブの魔術「グランドクロス」を発動させ、鉄壁の土壁が魔弾を弾き返す!

「ちょっと……待ってください!! 皆さん、話し合いましょうよ! このままだと……本当に教授が学外追放になってしまいます!」

 戦闘開始直後にそう叫んだのは、風紀委員の萌えナース・レイン・フォレスト(PC0099)だ。
 彼女の茶色がかった濃いピンクの瞳は真剣に和平を訴えている。
 今にも泣き出しそうだ。

「うん、気持ちはわかる! 教授はTMに操られているだけで悪くはないと思うよ! でもね、もう開戦しちゃったよね? 教授を撃破して説得するしかないでしょう!?」

 風属性の魔法少女・姫柳 未来(PC0023)は、オーブ・リングの魔術「ハリケーン・バリケード」を張り巡らせ、レインへ向けられた魔弾を防いでくれた。

「ははは! 戦闘開始直後、統率が取れていないとは、風紀の皆さんもまだまだですね! さあ、仲間割れしている場合ではありません! 行け、魔導ネズミたちよ! 愚かな風紀どもを滅ぼすのだ!!」

 ウォルター教授は、お家芸の魔導ネズミである「ネオ・ウォルターラット」を一気に20匹、召喚し、解き放つ!!

「ちー、ちー、ちー!!」
「うきゅきゅきゅきゅー!!」

「ネズミはわたくしが防ぎますわ!! さあ、早くご決断を!!」

 アンナは迫りくるネズミたちを土壁で遮るが、何分、数が多い。
 途中で、未来も風のバリケードで応戦し、何とか、1ターン分の攻撃には耐えた。

「わたしに考えがあります!! どうか教授は……わたしに任せてください!!」

 レインの真剣な訴えをスノウ委員長(NPC)は無碍(むげ)にはできないと判断し、こう諭す。

「わかったわ! ウォルター先生の手下の魔導動物たちは私、未来さん、アンナさんで引き受けるわ! その代わり、レインさんが教授と一騎打ちをするのよ? いいわね?」

「はい! もちろんです!!」

 土と風のバリケードを突破し、レインは一直線にウォルターへ向かって走り出す。

***

「アンナ、そろそろ反撃しようか?」
「ですわね、未来! いつまでも防衛戦はしていられませんわ! スノウ、アシスト頼みますわ!」
「ええ、任せて!」

 未来とアンナが前衛に立ち、スノウが後衛に回ることになった。

「さあ、不潔なネズミどもは一斉にお掃除してやりますわ!!」

 アンナは背中にさしていたモップを抜き出し、頭上で回転させながら、迫りくるネズミたちへ向かって行った。

「ちー、ちー、ちちちー!!」
「うきゅー!!」

 バチバチバチ、と回転するモップに弾かれて、ネズミが数匹、消し飛んだ。

「こっちもがんがん行くからねー!!」

 未来は、腰元にさしていたマギジック・レボルバーとイースタン・レボルバー(トムロウ式)を引き抜き、二丁で連撃開始!!

「ちちちちちー!!」
「うきゅー!!」

 ネズミたちの迎撃も容赦ないが……!!

 土属性のネズミたちが苦手とする火炎の弾丸を一方に、もう一方は属性が近い電撃の弾丸で、大群を撃ち抜く!!

 どかああああん、どかどか、どかあああん!!

 火炎弾と電気弾が炸裂し、ネズミの大群はまた数匹、数が削がれた。

「うふふ、頃合いね! 行くわよ、魔力全快、黒魔術の十八番、お約束の大爆発、フレアキャノン!!」

 スノウは詠唱を完成させ、未来とアンナの数メートル背後から、火炎の爆撃を放つ!

 ばきゅううう、ばきゅううん、ずきゅううん、どかががががあああああん!!

 炸裂した爆撃魔弾はネズミたちを跡形もなく吹き飛ばした。
 ひとまず、ネズミの脅威は去ったようだ。

***

「ウォルター先生、操られているなんてウソですよね? だって……大天才のブラスト(NPC)さんがこんな三流の落ちこぼれの魔術で操られるなんておかしいし……二人とも、操られたってことにして暴れているんじゃ……!?」

 魔導ネズミの大群を突破したレインは、教授のもとへ駆け寄るなり、説得を続ける。

「ははは! レインさん、君は可笑しな子だ。そう、私は今、操られているのさ! だからこれはドニーさん(NPC)のせいであり、仕方がないことなんだよ! 決して、操られているふりなんかじゃないんだ……。よし、君は私が特別レッスンをして差し上げよう! 今から一騎打ちの訓練をしよう!」

 ウォルターはタクトを数回振り、ダークボールの連弾をレインへ放つ!

 レインは、魔弾の連撃をぎりぎり避け、床に転がりながらも、ウォルターにまた近づく。

「……いえ、先生を責めているわけではないんです。こういうことになったのは先生の研究室に入ったわたしの責任でもありますから。だって……風紀委員を恨むのは、あの事件以降の教授としての日々に納得がいかないからですよね?」

 必死の説得を受け、ウォルターはとうとう堪忍袋の緒が切れた。

「ははは! 君に何がわかる! そうさ、聖アスラ像のあの事件で私は学内でも学会でも失脚したのさ! 未だにお情けでここの学院で教授をやらせてもらっているが、そんなの楽しくも何ともない! 周囲の教員や学生にはバカにされるし、研究は制限付きだらけでまともな研究すらできやしない! そう、風紀が悪い! 全て悪い! 風紀なんて滅ぼしてやる!!」

 ウォルターは本気でストーンボールの連弾を撃ってきた。
 フォークボール、カーブボール、消える魔球……。
 もはや、学生相手に大人気がないぐらいの本気の連続攻撃を放つ。

「きゃあああああああああ!!」

 さすがにこの連撃の全てをレインは避けきれなかったようだ。
 レインはストーンボールの一球に足をすくわれ、次の二球目、三球目が体にクリーンヒットして、その場で倒れた。

 だが、レインはあきらめきれず……。
 這いながら、ウォルターのもとへ向かう。

「せん、せい……!!」

 ウォルターも距離を詰め寄った。

「最初に私は言ったはずだ。今日は何人殺してしまうかわからない、と。教え子を手にかけるのは悪党のやることだが、何分、今の私は悪の教授を目指していてね……。悪いが、君にはその布石になってもらう!!」


・第二節 ブラスト戦 前半戦


「よっしゃあ! 開戦か! ははは、コーテス(NPC)、やる気になったみてえだな? んじゃ、ウォームアップから行こうか!」

 黒魔術の天才、ブラスト・ゴールドブレイズはタクトを神速度で振りながら、四色の魔弾を召喚し、連撃する。
 それぞれ、赤い火炎弾、緑の風弾、青の水弾、茶色の土弾が、コーテスたちを襲う。

「ヘイ、カモーン!! 全部撃ち落としてやりマース!」

 ウェスタン姿のアメリカン・レディであるジュディ・バーガー(PC0032)は、腰元から二丁拳銃を抜き出し、素早く連射して魔弾を相殺する!
 称号「ガンファイター・ジュディ」も発動し、射撃速度はブラストの引けを取らない。

 赤い魔弾には火炎の弾丸を。
 緑の魔弾には風の弾丸を。
 青い魔弾には水の弾丸を。
 茶色の魔弾には土の弾丸を。

 空中で四色に輝く魔弾や弾丸たちが互いに相殺し、消滅して行った。

「それぐらい……朝飯前!!」

 一方のコーテスは、「ハイランダーズ・バリア改」を展開し、緑色のシールドが彼の全身を覆う。
 ブラストが放った魔弾らは、コーテスのバリアに触れると、跡形もなく消滅した。

 敵の対応が上々の出来だったので、ブラストは思わずニヤリとした。

「だよな! これぐらいは、やってもらわねえと。 さあ、行くぜ!! 恐れ見よ愚民ども、我が天性の偉大なる魔力!! 『ゴールデン・ファイティング・コメットォォォォォ!!』」

 凄まじい魔力をまといながら、ブラストは流星の如く速度で突っ込んで来る!

「ならば……こっちは、『パワームーブ』!!」

 コーテスの方も高速詠唱し、自身のステータスアップ3ランク付きで、応戦!
 拳には、「ハイランダーズ・バリア改」のシールド・ナックルを宿らせた。

 ブラストとコーテスは、拳と拳の猛速度で殴り合いの白兵戦を繰り広げる。

「トリャアアア!!」

 ジュディも加わり、殴り掛かるが……。

「ゴッドベア・ナックルの一撃、くらうネ!!」

「そらよ!」

 ブラストはわざと顔面で直撃を受けたが、何ともなかった。

「ははは! 俺は今、『エーテル体』なんでね! 攻撃が通り難いのさ! お返しだ!」

 今度はブラストが流星のような打撃ストレートを放つが、これにはジュディ、「猿の鉢巻」の軽業でひょいと回避した。

(くっ……!! なんてことだ!! こっちにはジュディさんもいて、二対一で戦っているはずなのに……。互角どころか……押されている! それに、『パワームーブ』で全ステータスが上がっているはずなのに……避けるので精一杯!! まずい……3ターンが……切れる!!)

「ヘイ、コーテス!! こんなに早くギブアップはノー、デース!!」

 ジュディは、「スキル・ブレイカー」を発動させ、ブラストの拳を受け止めた。
 すると、しゅううううんと、しょげた音がして、「ゴールデン・ファイティング・コメット」が無力化された。

 もちろん、コーテスはこの瞬間を見逃さない!

「目を覚ませ、ブラスト!!」

 シールド・ナックルの一撃が、ブラストの顔面を殴打する!

「ぐはっ!! いてえよ……。なんてな! 言っただろう? 『エーテル体』の俺にはそんなの効かねえんだよ!」

 ブラストはお返しにコーテスの顔面をぶん殴った。

「うわっ!!」

 コーテスは後方へはじけ飛び、ブラストは転移して間合いを取った。

 どうやらブラストはまだまだ遊んでいる感じだ。
 お次は、魔導科学の大剣「ネオ・アストラルセイバー」を召喚し、斬りかかって来る!

「おらあ、ジュディ・センコー!! まずはてめえから沈め!!」

 ブラストがハイ・ジャンプして、上段の魔剣がジュディに振り落とされる!

 カキィィィィン!!

 ジュディは二丁拳銃のグリップ部分で真剣白刃取りをした。

「WAHAHA! ブラスト、ユーの気持ち、実はジュディもわかりマース! 実力を持て余していて、暴れる場を求めるその野性、嫌いではないデース! ならば、ジュディも、教師と学生の枠を超えて、ジュディ個人として、全力で相手してやりますヨ!」

 ブラストは、つばぜり合いをした後、後方へ転移した。
 ジュディは、すかさず全力で二丁拳銃を連射し、すきを見逃さない!

「おらあああ!!」

 ブラストも魔剣で魔弾を全て弾き返した!

「もらったあああ!」

『パワームーブ』をもう一度かけて、背後に回ったコーテス。
「スキル・ブレイカー」で「エーテル体」を狙うが……!!

「甘いんだよ!!」
 コーテスの「スキル・ブレイカー」は、ブラストの「スキル・ブレイカー」で無効化されてしまった!

「おらあ、雑魚が!!」

 ブラストは、コーテスの腹を全力で蹴り飛ばす!

「ぐはっ!!」

 コーテスは防御の体制を崩し、その場で倒れた。

「そらよっと! その魔銃、もらうわ!」

 ブラストの両手には、マギジック・レボルバーが生成された。
 そして、連続魔弾攻撃がコーテスとジュディを襲う!

「ワイ(なぜ)!? オーノー、さては、『コピーイング』ですカ!?」

 もちろんジュディも黙って見てはいず、反撃する。
 だが、驚いたため反応速度が一コンマ数秒遅れ、ブラストの連射で右手の拳銃を落としてしまった!
 コーテスの方は、転げていて、バリアが間に合わず、魔弾を被弾してしまう!

(ノー!! ピンチ、ネ!!)

「ふはは! この勝負、もらったな!! 死ねや、ジュディにコーテス!!」

「ふはは、だね、それ! 悪いけれど、やられているふりして、『エーテル体』、既に『コピーイング』したんだよ……。くらえ、ブラスト!!」

 足元にいたコーテスがブラストの両足をつかみ、「スキル・ブレイカー」を放つ!

「ぬおっ!! てめえ、よくも!!」

 さて、「エーテル体」が無効化されたブラスト。
 彼を襲う不幸はそれだけではなかった。

 ひゅううううううん、ちゅどおおおおん、どかかああああああああああああん!!!!

 突然の襲撃が起こり、コーテスもジュディも唖然とする。

「とどめを刺すのですわ!!」

 どこかから人魚姫・マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)の声が響いた。

「迷っている暇は……ない! 終わりにしてやるよ、ブラスト!!」

 コーテスは、「スノウの護符」を解き放ち、被爆しているブラストに強化魔弾の直撃を浴びせる。

「援護しマース!!」

 一方のジュディは、「激・電磁砲」のチャージが終わり、東洋の電気拳銃から全力のレールガンが解き放たれ、ブラストを容赦なく襲う!!

 どがどかどか、どか、どか、どか、どかかかあああああああああああああああああん!!!!

 大きなスモッグを上げて、ブラストは生身で最大出力の攻撃を三回連続で浴びた。
 これにはさすがのブラストも……。

「ぐはっ……!!」

 黒焦げでぼろぼろになり、血を吐いて、床にぶっ倒れた。

***

 マニフィカは最近、兵法の研究にハマっていた。
 先日も大学図書館から借りてきた『マギ・ジス兵法学入門』という本を読んでいた。
 その本では、「遊軍」の重要性が説かれていた。
 遊軍とは、すなわち投入の機会を狙って待機する予備戦力のことである。
 不利な戦況を挽回するための定石でもあり、その機動力を活かした柔軟な対応が求められる戦い方だ。
「なるほど、わたくしは『遊軍』の役目を果たすべきですわ!」とマニフィカは、この本から多くを学んだという……。

 そして本日の戦闘演習。
 黒魔術の天才のブラスト相手にコーテスとジュディだけでは不利に思えた。
 そこで、マニフィカは隠れ、機会を狙い、奇襲に出た。

 やるからには、もちろん、一撃で仕留めなくてはならない。
 いつも愛用している「トライデント」から「魔竜の槍(+カスタムパーツ)」に持ち替え、『魔導動物概論(ネズミ編)』で透明化を図った。その後、姿を消したまま「魔竜翼」で空中に上がり、最大の攻撃力を積算すべく「ブリンク・ファルコン70パーセント(+ファルコンバッジ)」の空中奇襲攻撃に「リリのクッキー」で物理力2倍、「聖アスラバッジ」の魔術系スキル威力2倍、『魔導動物概論(魔牛編)』の特大物理ダメージを加える。

 これは死ぬほど猛烈に強烈な一撃だ。
 さすがの黒魔術の天才であっても、この一撃で突っ込まれ、爆撃を起こされて無事なわけがないだろう。
 さらなるコーテスとジュディの追い打ちまでも、とどめとして加わる。

 勝負は決まったようなものだ……。


・第三節 仮面の蜘蛛男戦 前半戦


「トムロウ殿(NPC)、ここは私が引き受けるのだ!! アレを!!」
「おうよ、目玉!!」

 戦闘が始まるや否や、巨大目玉の萬智禽・サンチェック(PC0097)は、相棒にアイコンタクトをして、走らせた。

 トムロウは全力でクライミングウォールに向かって走って行く!

「何を企んでいるのか知らんが……。させるか!!」

 仮面の蜘蛛男(NPC)は、天井からナイフを連射する。

「させないのだ!!」

 萬智禽は、マギジック・レボルバーを念力で撃ち、ナイフを弾き落とす。
 そして、乾いた弾奏を響かせ、天井の蜘蛛めがけて射撃した。

「オタクの心、萌え心! 大切なトム・スリーの心を守る、大目ダーマッ! である」

 大目玉、大見えを切って、蜘蛛男に宣戦布告した!

 狙撃されている蜘蛛男も黙ってはいない。
 蜘蛛の糸をロープのように張り巡らせ、ひょいひょいと飛び、萬智禽に迫る!

「ははは、来たのだな!! やーい、こっちなのだー! 目玉ぺんぺーん!!」

 萬智禽は、緑のマントを翻し、全力で加速し、逃げ回る。

「風のエル・オーブ」の技能が発動し、10倍速度で体育館内の上空をびゅんびゅんと飛び回る。
 蜘蛛男も、蜘蛛の糸にたどりながら、全力速度で追ってくる。

「それ、『ニンジャキラー』発動なのだよ!!」

 萬智禽の称号が発動し、黒い闇が蜘蛛男を包み込んだ。

「ぬお? なんだこれは!!」

 蜘蛛男の敏捷性が1ランク低下し、遅くなる。

 一方の萬智禽は、10倍速度のまま飛び回るが、何分、10倍は「風のエル・オーブ」の最高速度なので、魔力のコントロールがやりづらい!

(ぬおお!! 意外と使い勝手が悪いのだな、この10倍速は!! だが、負けん!!)

 萬智禽は蜘蛛男の周囲をぐるぐる回転しながら、魔銃を連射!
 風の弾丸が四方八方から高速度で撃ち込まれる!

(それ!! 仮面を外すのだ!! きっと仮面がなくなったら奴は撤退するはず!!)

 猛速度の回転銃撃はコントロールと魔力の扱いが難しく、なかなか仮面には当たらない!

 ずきゅうううん!!

「うおっ!!」

 一発が蜘蛛男の左腕にヒットし、標的はずるずると落下した。

「やったのだ!」

 と、喜んでいたのも束の間。
 気が付いたとき、萬智禽は蜘蛛の巣だらけでぐるぐるに巻かれていた。

「しまったのだ!! ハメられたのだ!!」

 時は既に遅かった。
 蜘蛛男がするする、と天井まで上がって来て……。

「さて、反撃でもするか……!!」

 蜘蛛男は巨大目玉周辺の糸をしゅるしゅると回収し、ジャイアント・スイングを決めるかのように、絡まった萬智禽をぐるぐると回す。

 ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる……!!
 ひゅん、ずどおおおおおおおおおおおおおん!!

 ぐるぐるに回転させられた後、投げられ、萬智禽が体育館の壁に激突した!

(ぐおお!! 痛いのだな、これ!! だが!!)

「どうした目玉? もう終わりか!?」

 蜘蛛男がしゅるしゅると糸をたどって近寄って来た。
 ナイフでとどめの一撃を刺すところで……。

「いや、終わりはてめえの方だよ!」

 天井に貼り付いているトムロウが電気銃を蜘蛛男へ向け、全力発射!
「スパイラル・激・電磁砲」の拡散電気砲撃が、次々と蜘蛛男を襲う!!

 ちゅどどどどん、どかどかどか、どかあああああああああああん!!!!

 空中で大爆発し、蜘蛛男は地面へ落下した……。

(ふはは! たまやー、なのだ! いいぞ、トムロウ殿! 私の『兵法』通りの動き、見事なのだ! さて、疲れたので一杯やるか……)

 壁にめり込んで負傷している萬智禽は、『魔法少女の天然水』を念力で取り出した。そして、ぐびぐびと目玉から魔力補給をするのであった……。


・第四節 ジェームス戦 前半戦


「ま、小僧ごとき、魔力召喚機を出すまでもねえか……。おらあ、これで沈め!!」

 開戦直後、ジェームス・ゴーストソン(NPC)は拳に闇魔術をまとわせるダークパンチでシーフのティム・バトン(NPC)に殴り掛かって来た。

「そら、それぐらい!!」

 シーフ少年は、二丁ブーメランで拳を受け止め、軽々と弾き返す。

「がはは! 一発受け止められたぐらいで調子になんなよ! 連続攻撃ならどうだ!!」

 シュ、シュ、シュ……!!
 カキン、カキン、カキン!!

「遅い!! 動きに無駄がありすぎる! しかもパワーが勝っているわけでもない! じゃ、次はこっちから行くね!」

 ティムはびゅんびゅんと動き回り、ジェームスを包囲し、ブーメランを両手で投擲(とうてき)する。

「ぬおお! いて、いてて!! ならば、『幻覚魔術だ』!!」

 ジェームスは怪しい幻覚をまとい、どろん、と姿を消した。
 次の瞬間、ティムの後ろにいて拳を振り落とす。

「それ、そのやる気、もらったあああ!!」

 ティムは、拳を避け、くねくねとダンスして、ふにゃふにゃした顔で、ごろろろん、と寝転がった。

「うおっ!? なんだ、そのやる気がなくなる……奇抜なムーブは!?」

 ジェームスは「やる気」を盗まれ、思わず呆然としていた。

「それ☆ もらったよ〜!!」

 どこからか、少女の声と共に謎のマジックハンドが飛んで来た。
 レースの付いた黒いマジックハンドは、ジェームスが腰に巻いていた魔力召喚機を奪ってしまった!

 ジェームスとティムの二人が頭上の窓際を見上げると、仮面を付けている黒いゴスロリ・バニーコスチュームの怪盗が、きゃははは、と笑っていた。

「か、怪盗!! あれ、そういえば、ヴィオレッタさん(ヴィオレッタ・ベルチェ(PC0098))は!?」

 ティムは焦った。
 さっきまで一緒にいた探偵少女の姿がなく、その上、怪盗まで現れて、ジェームスの魔力召喚機を奪って行った。
 しかも、今まで姿がなかったことから、何かの魔術か手品で姿を消していたのだろう。
 そして、ジェームスがティムに気を取られているすきに、横から魔力召喚機を横取りしたのだ。

「ちょっと、怪盗さん! その拳銃、返してください!! ちょうど今、僕がこいつから取り上げようと思っていたんです!!」

「てか、それ俺の!! 返せよ!!」

 怪盗は、二人の怒声を涼しい顔で遮り、二階の窓からひょい、と降りて来た。

「ヴィオレッタには眠ってもらったわ。あなた、シーフなんでしょ? ここはシーフと怪盗で共同戦線を張るべきよ! あたしに考えがあるの! この拳銃、今だけ預からせてくれない? 悪いようにはしないから!!」

「ま、まあ……。同じような種類のワル同士、わからなくはないけれど……。わかった! じゃあ、ちょっとだけ預かっていてもらえます? でも戦いが終わったら、スノウさんたちにちゃんと渡してくださいよ? それが共闘の条件です」

「いいわ!」

「よくねえよ! 俺の拳銃返せ、この盗人!!」

 ジェームスは幻覚魔術を駆使して、怪盗黒兎の五感を欺き、空中にダークパンチを仕掛ける。

「きゃあああ!」

 打撃の衝撃で、怪盗は思わず拳銃を落としてしまう!

「それ、『武器を盗む』だ!! ナイス・キャッチ!!」

 落ちた拳銃をティムが絶妙なタイミングで拾った。(盗んだ?)

「おい、坊主! それ、こっちに寄越せよ!」

「やなこった!!」

 ティムは拳銃を持ちながら体育館を走り回ることにした。
 怪盗黒兎も一緒になってティムの横で走る。
 ジェームスも追わないわけにはいかないので、全力で疾走する。

 体育館を走っていれば、当然、他の戦闘グループにも出くわす。
 はぐれた魔導ネズミが一匹、転がって来た。

「ちー!?」
「うわ、ネズミ!!」
「それ、ネズミでも食べてなさい☆」

 ティムがネズミの上をジャンプし、怪盗黒兎がそのネズミを捕まえ、ジェームスに投げた!

「ぐは!! うぐぐぐ!!」

 ネズミがジェームスの口の中に入り、大暴れ!!
 ぺっ、と吐き出すジェームス。
「てめえ、やりやがったな!!」

 走行はまだまだ続く。
 今度は、魔銃などで銃撃戦をしている組とぶつかる。

「うひゃあ! こえー!!」
 ティムは、しゃがんで銃撃を避けた。

「青髪マッチョ、被弾しなさい☆」
 怪盗黒兎はアクロバティックな動きで回避し、弾丸はジェームスに直撃する!

 ちゅどおおおん!!

「うおっ!! いてえ、すげえいてえ、これ!! もう許さん!!」

 ジェームスは速度をさらに上げて怒って向かって来る。
 だが、シーフと怪盗が本気で走っている速度には全然追いつかない!

 やがて、走っているうちに、今度は蜘蛛の巣が何重にも張り巡らされているトラップに出くわした。

「それよっと!」
 ティムは身軽な動きで、難なく、蜘蛛の巣トラップをひょいひょい避ける。

「はい、今度は蜘蛛の巣にでも引っかかってね☆」
 怪盗黒兎はティムが飛び越えた蜘蛛の巣を一度切り、足に引っ掛けるトラップとして作り直す。

「はあはあ、ぜえぜえ……。くそお……逃げ足が速い奴らだ……。ん、ぬお、うおおおお!!」

 ジェームスは、怪盗黒兎が仕掛け直した蜘蛛の巣トラップにはまり、足をすくわれ、ずっこけ、しかも糸がぐるぐるに絡まってしまった!

「では、本日はこのあたりで、ショータイムは終わりね! 予告状を書いてる時間がなかったけど、これ、もらって行くわ! ばっははーい☆」

 怪盗黒兎は魔力召喚機を手元に据えて、全力で体育館の出入り口を駆け抜けて行った。

「え!? あれ!? ウソ!? さっき取った拳銃が盗まれた!?」

 ティムは真っ青だ。
 まさか一緒に走っている最中、盗まれていたとは!

「おい、てめえ……。ここまで俺をこけにしやがって……落とし前つけろよ!」

 蜘蛛の巣からやっと出てきたジェームスは、改めてティムに殴り掛かって来る。

「やれやれ……。ヴィオレッタさんはいないし、怪盗黒兎は野外へ逃げたし……。仕方ない、こいつの相手は僕がやろう!!」

 ティムは二丁ブーメランを構えなおし、応戦するため、敵の元へ走り出した。


・第五節 ドニー戦 前半戦


 開戦するや否や、トーマス・マックナイト(NPC)とドニー・メタファーマン(NPC)は互いにタクトを向けて、にらみ合っていた。
 他の組は既に戦闘が開始されているが、この組は、どちらも一歩も譲らず動かない。

(ん? ドニーの背後にいるのは? ビリー君!?(ビリー・クェンデス PC0096) え? なに? あ! そうか、そういうことね!)

「えい!」

 トーマスは、タクトを振るい、ゴールデンボールを素早く射撃する!

***

 一方、ビリーは開戦直後、ドニーの背後を狙っていた。
 トーマスとドニーがにらみ合っている最中、背後から奇襲をかけて、『サクラ印の手裏剣』(スタン効果付き)でチクリと一発、やる気であった。
 敵が動けなくなれば、もうこっちのものだからだ。

「そら!!」

 ビリーがドニーの背中に手裏剣を刺すその瞬間……。

「ほらよっと!」

 ドニーがいきなり、しゃがんだ。
 トーマスが撃ったゴールデンボールは、ビリーの顔面に直撃!

 がちこーん!!

「ぬお!?」

 金属魔弾の攻撃を受け、ビリーが背後にぶっ飛ばされた。

「え? うそ!? わああ、ビリー君、ごめん!!」

 トーマスはその場で慌てて、手を合わせて謝る。

「ふはは! トーマスもキューピーもまだまだだな! 僕は悪知恵だけは一流でね。きっとこうなると思っていたのさ。さあ、反撃に出るぞ!」

 ばきゅうううううん!!

 ドニーは、魔力召喚機を自分の眉間に撃った。
 そして、目が赤くなり、己に暗示を掛けるや否や、巨体のマッチョ化した。

「うぐおおおおおおおおおお!!」

 まるでゴリラのようになったドニーは叫び、両手で両胸をばんばんと叩き出す。

 最初の奇襲攻撃は失敗した。
 だが、ビリーとしても、手をこまねいているわけではない!

「行け、マタザ!! あいつを爆撃するんや!!」

 ビリーの手元からは、ブルーカモメ改のマタザが召喚された。

「みゅうううううう!!」

 マタザ、上空へ飛び上がり、斜め45度の急降下攻撃!!

 ちゅどおおおおおおおおおおん、どかどか、どかあああああああん!!!!

 マタザは、ビリー万歳! と言わんばかりに、ドニーに向かって大自爆を起こした。
 この捨て身の攻撃により、周辺はスモークが立ち上がり、マタザは退場。

 やがて、スモークが晴れる頃……。

「ふはは! バカなカモメだ! その程度の一撃、暗示がかかっている僕には何ともないんだよね! さあ、終わりにしてやろう! ん? そこにいるのは!?」

「わわわ! あかん! 見つかってしもうたやないか!?」

 慌てて逃げるビリー。
 そこに追い打ちをかける。

「うらあああ! そこ!!」

 ドニーはタクトを勢いよく振り、ゴールデンボールを撃ち、ビリーへ直撃!

「うぎゃあああ!!」

 ビリーが一撃でのされて、消えてしまった。

「ドニー!! すきあり!! もらったあああ!!」

 ドニーの背後には、サンドゴーレムを召喚済みのトーマスがいる。
 トーマスはゴーレムの肩に乗っていた。
 ゴーレムからは、「ゴーレムパンチ」が繰り出されるが……。

「うりゃあああ! その程度!!」

 ドニーのパンチがゴーレムのパンチを相殺し、砂の巨人は崩れ果てた。
 トーマスは巨人から落下する!

「うわあああああ!!」

 ドニーはこの瞬間を見逃さなかった!

「死ねよ、トーマス!!」
「ぎゃあああ!!」

 ゴールデンボールが落下中のトーマスを直撃し、ノックアウトだ。


・第六節 ブラスト戦 後半戦


 ブラストは倒された。
 いや、倒されたはずだった。
 それなのに……。

 むくっと、起き上がり、肩をぱきぽき鳴らし、ニタニタしていた。

「いやあー、なかなかいい攻撃だったんじゃん、今の? これでやっとこっちも本気が出したくなったものだぜ!」

 コーテス、ジュディ、マニフィカは青ざめずにはいられなかった。
 三人の全力の攻撃で完全に撃破したと思った相手が、無傷で立ち上がったからだ。

「ブラスト……!! 今度は、どんな手品を……使ったんだ!?」

 コーテス副委員長は確認せずにはいられない。

「ま、冥途の土産にもいいかもしれないんで、教えてやるよ。それは、こいつだ!」

 ブラストの右手の手元にはカブトムシみたいな甲虫がいた。
 甲虫は、ブラストが手を開くと、踊り出した。

「これ、俺のペットだ。いや、正確には、魔導動物学の魔道具さ。代行虫っていうんだよ。こいつを使うとさ、俺が戦闘不能になったとき、仲間の誰かと戦闘不能を代行してくれるんだよな。ほら、さっきさ、ジェームスっていただろう? 彼、今、何してると思う?」

 友軍の三人がちらり、と横斜めを窺うと……。

 ジェームスがぼろぼろになって床に倒れていた。
 しかも血まみれで、体の変な部分が曲がっている。
 ティムも何が起きたかさっぱりわからず、戸惑っているようだ。

「あはは! 今のダメージ、全部、ジェームスが受けてくれたんだよね。いやあ、持つべきものは友だよな、うはは!」

 このやり口にコーテスは、思わずかっとなった。

「ブラスト……。ぼろぼろに倒れる覚悟は……いいね? 次は、その虫ごと……君を倒す!!」
「へっ、やれるもんならやってみろ、出来損ないの副委員長!! 俺も次から本気出す!!」

 ブラストは、分身した。
 ブラストの影から、もう三人のブラストが出てきた。
「ホムンクルスの召喚」だ。
 召喚されたホムンクルスたちは、「ネオ・アストラルセイバー」を召喚し、魔剣を構え、かかって行く!
 しかも本体は、「ゴールデン・ファイティング・コメット」を構え、流星の如く飛んで来た!

 一方、コーテスは、『パワームーブ』をもう一度、かけた。
『ハイランダーズ・バリア改』をナックルとして両拳にまとわせ、再び出陣!

 ジュディは、愛蛇ラッキーと合体して、ナーガに変身した。
 下半身が蛇になった巨体のレディは、ゴッドベア・ナックルをハメ直し、うねうねと高速度で移動しながら、撃破へ向かう!

 マニフィカは、相棒のいるか・フィルを召喚!
 フィルを体育館の異次元のどこかへ忍ばせた。
 そして、「魔竜の槍」を構え直し、向かって来るブラスト・ホムンクルスに応戦する!

 カキィィィィン!!
 カキ、カキ、カキィィィン!!
 カン、カン、カキィィィン!!

 互いの武器が何度も交差し、金属音が何度も体育館に響き渡る。

 コーテスがバリア・ナックルでブラスト・ホムンクルスの魔剣を受け止めた。
 ジュディがゴッドベア・ナックルで、ブラスト・ホムンクルスの籠手(こて)を弾いた。
 マニフィカが魔竜の槍で、ブラスト・ホムンクルスの突きを突き返した。

 三対三の互角な白兵戦が繰り広げられる中、本体のブラストはコーテスの背後に回る。

「くらえ、コーテス!! 終わりだ!!」

 ブラストは、流星群が流れる勢いで無数の拳を連打する。
 コーテスは、二対一になっても、必死でバリアを張るが、同時攻撃には耐えられなかった。

「うわっ!! しまった!! うわあああああああああああ!!」

 彼は、『エーテル体』の『コピーイング』効果も薄れ、ほぼ生身で連打撃と連斬撃をくらうはめになる。

「よっしゃあ! コーテス撃破!! 続いて行くぜ!!」

「ヘイ、コーテス!!」

 本体ブラストは詠唱し、ホムンクルスの方は突然叫んだジュディへ向かう!

「よお、ジュディ!! おまえの相手は俺だ!!」
「いや、俺だろう!!」

 ジュディが二対一でホムンクルスの相手をしていた頃……。

「うきゅうううう、うきゃきゃあああああああ!!」

 天井からフィルが奇襲に来た!

「うぎゃああああ!」
「耳いてえええ!!」

 いるかが超音波攻撃を放ち、ホムンクルスたちは耳を傷めたが、混乱はしなかった。
 なぜなら、「サウザンランド・レッドアミュレット」の魔術があったからだ。

 ジュディはこの瞬間を見逃すことはなく……。

「スキル・ブレイク、ネ!!」

 ジュディの両手が一体ずつ触れ、しゅうううううん、と消えて行く。
 しかもジュディは、MPまで吸い取ったので、魔力が全快した。

 カキン、カキン、カキン!!
 キン、キン、キン!!

 マニフィカはホムンクルスと激しい白兵戦を繰り広げていた。
 どちらも一歩も引かない激戦だ。
 そろそろ3ターンが経つ。

(くっ……。なんという強さのホムンクルス!! きっとブラストさんは相当修行されているのですわね! こんなバカなこと早く止めさせませんと!!)

 やがて、ブラスト本体の詠唱が完成する。

「ははは! 風紀ども、ちょっと数多くね? 俺が削ってやるさ!! 我が天性の悪魔なる魔力よ……冥府の国から召喚された萌え美少女アリスのもとに……変死せよ!!」

 天井に、ゴスロリ服が真っ黒い白人の少女が出現した。
 体育館の明るい照明が一瞬、真っ暗になる。
 少女が『萌え死!!』と唱えた直後、仲間たちに異変が……。

***

 天井から真っ黒な魔力がダウンしているコーテスを襲う!
 コーテスは、もうふらふらで動くことができない。
 ましてや、「スキル・ブレイカー」で無効化することもできない。

(終わりか……!? 僕は……負けたんだ……)

「コーテス!! ヘルプするヨ!! 生きるネ!!」

 ジュディが「スキル・ブレイカー」で漆黒の魔力を25パーセントの威力で反射させた。
 もっとも、反射攻撃が主眼ではなかったので、ブラストに反射は届かなかったが……。
 コーテスは……無事だ!!

 その直後……。

「うりゃあああ!!」

 猛速度で突っ込んで来たブラスト本体の流星連打撃をジュディが浴びてしまう!

「ノオオオオオオオオオオ!!」

 ジュディは、打撃の衝撃で後方へ飛ばされ、壁へ叩きつけられた。

「へえ、コーテス、まだ生きてたのか? とどめ刺すわ、いいな!?」

***

『冥界の国のアリス』の猛威は凄まじかった。

 コーテスはジュディの助けで何とか助かったものの……。
 今の即死攻撃で、スノウが、トムロウが、ティムが、トーマスが倒れた。

***

 とうとう3ターンが終わった。
 人魚姫と互角に戦闘していたホムンクルスは消えていなくなった。

 ブラスト戦の舞台には、今、マニフィカとブラストだけが立っている。

「ブラストさん……。戦えなくなったコーテスさんではなく、わたくしがお相手致しますわ!」

「よお、人魚。さっきの奇襲、なかなか痛かったぜ? 礼はさせてもらう!!」

「あなたねえ……。コーテスさんやジュディさんをここまで痛めつけて、ただで済むと思わない方がいいですわよ! いざ!!」

 魔剣と魔槍の一騎打ちが激闘!!
 軍配が上がるのは、どちらに!?


・第七節 ジェームス戦 後半戦


 ジェームスとティムの戦いは互角だった。
 ダークパンチとブーメランの小競り合いは白熱していた。
 どちらも一歩も譲らない。

 しかし……。

「うおおおおおおおおおお、ぐはっ……!!」

 突然、ジェームスがぼろぼろになり、大量出血し、床に倒れた。

「え!? なにこれ!?」

 ティムは焦った。
 そのとき、斜め横で戦っているコーテス、ジュディ、マニフィカと目が合った。
 ブラストがニタニタしている。
 おそらく、ブラストが何かしたことだけは、ティムは理解ができた。

(ど、どうしよう!? でも、ジェームスが倒れたということは、僕の仕事は終わりだ……。そうだ、怪盗黒兎を探しに行こう! あの銃、返してもらわないと! さて、あの怪盗がさっき出現したところや、一緒に走った通路をたどって、手掛かりでも落ちていないか探そう……)

 ティムは、戦闘から離脱して怪盗を追うことにした。
 調査を行っているあるときに……。

 謎のゴスロリ少女が天井に現れ、真っ黒い魔力を放ち……。

「うっ……。なんだこれ……ぐはああああああ!!」

 ティムは、その場で倒れて、戦闘不能になった。


・第八節 ドニー戦 後半戦


「ふはは! バカな奴らめ! 大したことなかったじゃないか!!」

 ドニーは、3ターンが経過し、元に戻っていた。
 しかも安心しきっていた。
 なぜなら、3ターンの「最強」自己暗示モードのときに、敵二人を倒したからだ。

「いや、バカで大したことがないのは、君の方だよ、ドニー!! 成敗!!」

 ドニーの背後にはトーマスが立っていた。
 トーマスがタクトに魔力を込め、超至近距離で金属魔弾を放つ!

 ごちぃぃぃん!!

「うぐ……ぬおお……」

 ドニーの頭にクリーンヒット!
 彼は脳震盪(のうしんとう)を起こして、その場に倒れた。

「ま、こんなもんやろ。でもよかったな、トーマスさん。これでケジメついたやろ?」
「ありがとう、ビリー君。おかげさまで、ちょっとすっきりしたかな……」

 なぜ、ビリーとトーマスが生きているのか?
 実は、先ほどの前半戦でドニーが倒したと思ったビリーとトーマスは偽者だったのだ。

 ビリーの方は、異次元獣(ジューベー)がビリーに変身した姿であった。
 トーマスの方は、ホムンクルスがトーマスに変身した姿だったのだ。
 つまり、ドニーはおとりを倒して勝ったつもりになっていたという……。

「さて、この銃は回収しておこう。あとは、そうだな……。ビリー君、ロープある? ドニーをロープでぐるぐる巻きにして、捕虜にしよう。あとでTMたちが彼を取り返しに来たとき、交渉の材料として使えるしね!」

「せやな! ほい、『小槌』でロープ出したで! ほな、しばきや」

***

 拳銃を回収し終え、気絶しているドニーをぐるぐる巻きにしたトーマスとビリー。
 戦況を見渡すと、ブラスト戦の組が一番不利なようだ。

「では、ビリー君。ブラスト戦に助けに入ろうか?」
「せやな」

 と、二人で話している最中……。

 謎のゴスロリ少女が天井に現れ。
 真っ黒な魔力が拡散し……。

「うお!? ぐっ……ぐはあっ!!」

 その場で、トーマスが崩れ、床に倒れた。

「おい、トーマスさん! どないしたねん!? しっかりせい!?」


・第九節 仮面の蜘蛛男戦 後半戦


「よっ、目玉! なかなか大層なお姿じゃねえか……。ほら、目玉を貸せ! 俺が起こしてやる!」

「う、うむ。ぬ、ぬおおおおお! はあ、はあ……。すまないのだ、トムロウ殿」

 トムロウは、壁にハマっている萬智禽を起こしてあげた。
 巨大目玉は、蜘蛛の巣だらけであるが、ダメージは瀕死ほどではない。

「あ、トムロウ殿、あの蜘蛛男は!?」
「あいつなら、下でのびている……」

 しゅるるるる、と蜘蛛男が上がって来た。
 同時に、無数のスパイダーネストがトムロウと萬智禽を捕縛する!

「ぬお!? しまったのだ!! まだいたとは!?」
 慌てる萬智禽。

「ちっ、油断したぜ! でも銃撃ならできるぜ!!」
 トムロウは銃口を蜘蛛男に狙い定めた。

 だが、蜘蛛男は追撃せず……。

「イースタの銃士に巨大目玉、今日はありがとう。久しぶりにいい戦いができた。残念なお知らせがあるが、時間が来たのでこの勝負はお預けとなる。依頼主のジェームスが倒れた時点で契約は終了するので、私は撤退する。さらばだ!!」

 言い終えた蜘蛛男は、無数の糸をランダムに巻き散らかして、姿を消してしまった。

「ぬぬぬ……。さすがにぬめぬめするのだな、この糸……。おい、トムロウ殿、変なところ触るな、なのだ!」

「うぐぐ……。蜘蛛の巣とか、絡まるものって苦手なんだよな、俺……。って、萬智禽、おまえの方こそ俺のトランクス、牙で引っ張らないでくれよ!」

 ともかく、萌えコンビの二人は、担当分が終わったようだ……。

***

 なんとか、蜘蛛の糸を解除できて……。

「ふう、勝ったものの、ひでえ目にあったぜ!」
「私たちは、勝ったのであろうか!? まあ、撤退したならしたで、追うまでもないが……」

 さて、これからどうしたものか、と二人は周囲を見回した。
 どうやらブラスト組が大変苦戦しているらしい。

「よお、目玉! あのブラストって奴、けっこー強えな? あいつ、やっちまおうか?」
「そうであるな。ブラストを倒せば、もうこの戦は勝ったようなものだろう」

 と、相談しているとき……。

 天井にゴスロリ少女が突如、出現し……。
 どす黒い魔力が、拡散し、うち一撃がトムロウを襲う!!

「うお!? ぐはっ!?」

 トムロウは、その場でぶっ倒れてしまった。

「おい、トムロウ殿!? 大丈夫か!? しっかりするのだ!?」

 萬智禽は念力で、トムロウを揺すってみるが……。

「ぜえぜえ、はあはあ、あはん♪ なんてな! ま、冗談はともかく、今のは、戦闘不能へ追い込む魔術みてえだな? 俺は『変異体質』なんで、やられてもHP1で10回も復活できるから、今ぐらいのは朝飯目だ。で、だ。なんかヤバくね!? コーテスやられてね? ジュディもやられてね? マニフィカがやられちまう前に助けに入るぞ!」

「了解なのだ!」


・第十節 ウォルター戦 後半戦


 魔導ネズミの次にウォルターが召喚した手下は、メカウマウマドラゴンであった。
 魔法少女たちと委員長は、機械仕掛けの恐竜に苦戦していた。

「ウマウマウマウマウマウマ!!」

 と、いうのも、この怪光線だ。
 この光線は本家と違い、スパイラル状に拡散しながら敵対者複数を襲う。
 しかもメカの尻尾攻撃もぶんぶんと何発も容赦なく打って来る。

 アンナの「グランドクロス」と未来の「ハリケーン・バリケード」で防御しつつ、背後からスノウが魔弾で応戦し、じりじりと距離を詰めて行った。

「アンナ、次の攻撃が出るタイミングで、一斉に仕掛けるよ!」
「ですわね! 魔法少女同士、息を合わせましょう!」
「二人ともお願いね! 私は後ろから援護するわ!」

「ウマウマウマウマ……」
「そこ!!」

 メカウマドラが光線を出す瞬間、スノウが「強化魔弾」を放ち、拡散型ウマウマビームの元である口元を爆撃した!

 どかあああああああん!!!!

 光線と魔弾が相殺する。

「魔法少女たる者、ハヤブサの如し〜!! ファルコン、六連撃!!」

「ストームブースト」で加速しながら、未来はサイコセーバーを構える。
 爆撃で戸惑っているメカウマドラの頭上から腹にかけて、斬撃の嵐が発動。
「ブリンク・ファルコン」の六回連続斬撃で、ビームの刃が残響と共に舞う!

「魔法少女たる者、桜の如し!! 桜吹雪の最後の一撃!!」

 未来の連撃をくらい、オーバーヒートしてうずくまっているメカウマドラの頭上にアンナ出現!
『乱れ雪桜花』のランダム急角度攻撃が、モップの硬い先端が、ウマドラの脳天を砕く!

 どかどかどかああああああああああん、どっかあああああああああん!!!!

 メカウマドラは魔法少女たちの共闘攻撃によりあえなく敗れた。

「本物のウマウマドラゴンはこんなに弱くなかったよ!」
「ですわね!」

 未来の感想にアンナが頷いた。

***

 メカウマドラを倒して、一息つくまでもなく、次の魔導動物が召喚された。
 お次は、アリ地獄モグラMk-2である!

「もぐもぐもぐ、うきゅきゅ!!」

 三匹のモグラたちは、出現するや否や、異次元の地面へ潜った。

「未来、どうしましょう! どう戦えば!?」

 アンナの質問に未来は、手をぽんと叩いて答えた。

「わかった! モグラ叩きだよ、これ!! モグラが来たら、叩いて引っ込めればいいの!」

 アンナも府が落ちたようで、パンチの構えをした。

「なるほど! 『ゴーレムパンチ』の一撃でモグラをのせばいいのですわね!」

 スノウはちょっと困っていた。

「ええと? そういうことなの!?」

 さて、コントをやっている余裕はなかったようだ。

 どかあああああああん!!!!

 モグラたちが地面から飛び出した、

 直撃は避けたが、反動で未来とアンナがこけてしまった。

「それ!!」

 スノウはすかさず魔弾を放ったが、逃げられてしまった。

「アンナ、シールド!! わたしたちで防御して、スノウに攻撃してもらおう!」
「その方がよろしいみたいですわね! では!!」

 未来が北側で、アンナが南側で、それぞれの魔術シールドを展開する。
 その真ん中にスノウが入り、タクトを構えるが……。

 ずきゅうううん!!

 頭上から、ファンネル攻撃が来た!

「しまった!! 上でしたか!?」

「相殺!!」

 未来が二丁拳銃で応戦する。
 頭上のレーザー光線を電気と火炎の弾丸で弾き返した。

 その後も、神出鬼没のモグラたちの動きに魔法少女たちと委員長は応戦がしづらかった。
 まず、敵がどこから現れるのかが見当がつかない。
 そして、攻撃も必ずしも一定の場所から攻撃してこない。
 しかも、敵が去るタイミングもいつも突然だ。

 と、三人が苦戦している最中……。

 怪しいゴスロリ少女が天井に現れ……。
 暗黒の魔術を放ち、その黒い魔力がスノウを狙い撃つ!

「なんの、シールドですわ!」
「バリケエエエエド!!」

 アンナの「グランドクロス」と未来の「ハリケーン・バリケード」でスノウを守ったものの……。
 黒い魔力は、防御壁を通過し、スノウを直撃!

「きゃああああ!! う……ぐはっ……!!」

 委員長は、その場で、ばたりと倒れた。

「何、今の!?」

 未来は驚きを隠せない。

「おそらく敵勢の誰かが撃ったMAP兵器でしょう! それより未来、委員長がやられてしまいましたわ!! どうしましょう!?」

 モグラたちの爆撃は止むことがない。
 戦闘不能のスノウを守るかたちで、魔法少女たちはじりじりと押される。

 魔法少女たちはピンチに陥った。
 所詮、魔法少女は死ぬ定めだと言うのだろうか!?

「アンナ……。魔法少女の切り札を使おう!」
「はい、どうしろと!?」

「二人の魔力を合わせて、心眼を発揮し、敵を一撃で倒す!」
「なるほど! 合体必殺技というやつですわね!」

 魔法少女たちは手と手を取り合った。
 魔力を同調し、輝きだす。
 アンナは土色に。
 未来は萌葱色に。

『魔法少女、いざ、開眼!!』
 未来とアンナの眼光がかっと、見開いた。

 すると、二人の視界の世界では、モグラたちがスローモーションで見えた。
 異次元でかくれんぼしていたモグラたちだが、奴らのルートが手に取るようにわかる!

「ゴオレエエエエエエエエム、パアアアアアアアアアアアアアアンチ!!」

 アンナの腕がゴーレムの腕になり、真下の異次元穴に落とされる!

 ばちこおおおおおおおん!!
 どかああああああああああん!!
 一匹、撃破!

「そこだあああああああああああああ!!」

 未来は魔石のナイフを投擲(とうてき)した。
 ただ今の命中率、100パーセント!!

 壁から出てくるモグラの顔面に一発、ストライク!
 もう一発は、ファンネルになって突っ込んで来る直前のモグラの顔面にアウト!

 どっかあああああん、どっかあああああああああん!!
 二匹、撃破!

 撃破直後、心眼の効果が切れた。

「ふう……。何とか、倒せましたわね! それにしても、未来、今の力は!?」
「魔法少女だけの秘密の力だよ!」

***

 ウォルターは斜め下で倒れているレインに向かって、タクトをびしっと、差し向けた。
 次の魔弾でこの学生との戦いを終わらせるつもりだ。

 レインは、ぼろぼろになりながらも、がんばって声を出す。

「先生のお力になれず……申し訳ありません! 研究室を離れがちだったことを……後悔しています。ウォルター先生に……殺されるなら不満はありません。ただ、一つだけ心残りなことが……。どうせ殺されるなら、こんな形ではなくて……実験動物として扱われたかったです……。先生の研究のお役に……立ちたかったです……」

 ふはは、とウォルターは不敵に笑いだした。

「いやあ、君は本当に愉快な学生だね。よおし、ならば魔弾の最大出力で殺してあげよう!」

 ウォルターは、魔力を貯めだし……。

(ふふふ……。先生、すきあり☆)

 レインは、ナース服のポケットから、素早く注射器を取り出す。
 そして、斜め上にいるウォルターの顔に向かって、注射のビームをビビビと放つ!

「うわっ!! なんだこれは!?」

 突然の抵抗にウォルターはパニックになった。

「『ユーザネイシャー』ですよ、先生! 少しだけ、言うことを聞いてもらいましょうか……」

***

 ウォルター魔導動物研究室での時間は参加する全員に対して楽しいひと時であった。
 本日のゼミでは、魔導ウサギの臨床実験がある。

 レインは、特殊な魔術手袋を使い、魔導ウサギの目玉をくり抜いていた。
 動物を使う実習は医学部でもやったが、この魔導ウサギは格別だ。
 麻酔がかかっているとはいえ、魔力の流れを上手くくみ取らないと、目玉をくりっと、取り出せない。
 さらに取り出した後は、魔導ウサギが失明しないように、くりっと、上手に目玉をハメてあげなければならない。

 レインは、実習がなかなか上手くいかず、必死だった。
 そこにウォルターが背後からやってきて、手を添えてくれる。

「そう、そこだよ、レインさん! 魔力の流れを緩やかにして、眼球を触る手、腕、肩は力を抜く……。ほら、できるでしょう?」

 くりっ!
 目玉が飛び出した。

「きゃっ!! なにこれ、すごい! わあ、先生! わたし、できました!!」
「ははは、上手い上手い!! もう二、三回やれば、自信がつくと思うよ」

 思い出の中で、ウォルターもレインも共に笑い合っていた……。

***

「うおおおおおおおおおお、ぬおおおおおおおおお、やめろおおおおおおおお!!」

 ウォルターは乱心していた。
「ユーザネイシャー」が教授の精神に変調をきたしたようだ。

「ぐおおおおおおお、私は……私は……悪の教授になるんだああああああ!! こんな、ところで、ましてや、教え子になんか、やられて、たまるかああああああああああ!!」

 びゅん、びゅん、びゅん、びゅん…………!!
 乱心しているウォルターは、四方八方にダークボールとストーンボールをまき散らした。

「きゃああああああああああ!!」

 闇の魔弾と土の魔弾の連続拡散攻撃の一部がレインに容赦なく浴びせられた。
 レインは魔弾の連続被弾により、ついにHPが尽きて、動かくなってしまった。

 ウォルターが正気に戻ったとき、ぼろぼろで血だらけになったレインが床でぐったりしていた。もちろん、動く気配なんて全くない。

 ウォルターは、レインの前でひざまずいた。
 そして、男泣きをする。

「うううっ……。私は……何ということをしてしまったのだ……!! 教え子を手にかけてしまったとは……!! すまない、レインさん、こんな先生を許して欲しい……!!」

 ちょうど、モグラたちとの戦闘を終えた未来とアンナがやってきた。

「うわ、なにこのひどいありさま!! レインがぼろぼろ!!」

 未来があまりにもの惨状に驚きを隠せない。

「ウォルター教授、覚悟!!」

 ことを把握したアンナは、拳闘の姿勢を構える。

 一方のウォルターは、もはや戦意を失せていた。

「降参します……。それよりも、レインさんの手当てをしないといけない……。今さらこんなこと言える筋合いはないかもしれないですが、彼女の回復を優先させてもらえないでしょうか? 戦闘から降りれば、魔導動物のスキルセットを組み直せます。今、私は自分自身を回復させる『春の精』しか持っていない。だが、スキルセットを組み直せば、他者を戦闘不能から回復させる魔物も持っていますので……」

「どうします、未来?」
「ま、教授も元に戻ったみたいだし、行かせてあげたら? このままだとレイン、本当に死んじゃうし……」

 ともかく、ウォルター戦は風紀組の勝利で終わった。


・第十一節 決着


 ブラスト戦以外の全ての戦闘の決着がついた。

 ブラスト対マニフィカの戦いは白熱していたが、人魚姫側がやや押されていた。

「そらよ!!」

 ブラストが魔力と腕力を込めて、素早い剣さばきを繰り出すと、マニフィカの槍が弾かれた。槍は、弾かれた衝動で明後日の方向へ飛んで行ってしまった。

「俺の勝ちだな!」
 ニヤリと笑うブラスト。

「ノー! ユー・ルーズ!!(あなたの負けよ!!)」

 有頂天のブラストの後方から、強力なレールガンが突っ込んで来る!

「なに!? うわっ!!」

 電磁砲の最大出力攻撃を被弾し、ブラストは弾け飛んだ。

「ジュディさん、生きていらして!?」

 マニフィカが歓喜の声をあげた。

「アッタリメエ、デース!! 『コーテスのお守り』あったデース!! こいつがあれば、ジワジワと復活デース!!」

 それはそうと、この一撃をもってしても、ブラストは倒せなかった。
 次の瞬間、彼は転移して戻って来た。

「へっ、まだいたか、ジュディ!! いいさ、マニフィカもジュディもまとめてやっつけてやるよ!」

 ブラストの宣告をとある男が遮る。

「そうは、させるか!! もう一戦やろうか、ブラスト!? 最後の一戦で!!」

 コーテスが立ち直っていた。コーテスは戦闘不能ぎりぎりであったが、「スターライトヒール」を使い、持ち直していた。回復魔術の天才の彼を見くびってもらっては困るのだ。

 さらに別の声も遮る。

「いや、まとめてやっつけられるのは、てめえの方さ、ブラスト!!」

 トムロウが銃口をブラストへ向けていた。

「だな! そなたの方が圧倒的に不利である!」

 萬智禽も念力でマギジック・レボルバーを浮かして、狙いを定めている。

「とう! 魔法少女、未来参上! 悪い魔法使いをやっつけに来たよ!」
「同じく、魔法少女、アンナ参上! 助太刀致しますわ!」

 未来とアンナも魔術を撃つポーズで参戦を宣告する。

「ほう。八対一か。もちろん一の方があんさんや。いくらあんさんが黒魔術の天才と言えども、八人相手だと、今の手負いの状態で戦は無理やな?」

 最後にビリーもひょっこりと現れた。
 ビリーの手元には魔力召喚機が握られている。

 絶体絶命のブラスト。
 黒魔術師は、不敵に笑いだす。

「くはは……!! 可笑しいぜ、実に可笑しい!」

 ライバルの気が動転したのかと思い、コーテスが問い正す。

「何がだよ!? もう君の負けだよ、ブラスト!! 負けを認めろ! 悪いようにはしないから!」

 ぎろり、とブラストがコーテスをにらむ。

「いや、だからさ。実はこの演習、勝ちとか負けとかじゃなくてね……。つまり、こういうことさ!!」

 言うや否や、ブラストは転移し、ビリーをぶん殴った。

「ぎゃ!!」
「そらよっと!」

 殴られた反動でビリーが魔力召喚機を手放してしまったすぐ傍で、ブラストが拳銃をキャッチ。黒魔術師は、バスケットゴールの上へ再び転移した。

「俺さ、TMやウォルターの都合とか、どうでもよかったんだよね。要はさ、この拳銃が欲しかったんだわ。この拳銃を複製できる奴がバックにいるってことなら、黒幕は大物の科学者なわけだろう? 俺さ、そいつにも会いたいんだよ。でな、この拳銃とそいつの科学力を使ってさ、俺は神になるんだ! 俺は、こんなくだらない学院の優等生やっているの飽きちまったんだよね。どうせならさ、神に等しい絶対な力を手にしたいぜ! ま、そういうわけで、もめているTMや風紀の様子を探るために、今回の演習を仕掛けて参加したわけだ。そうそう、コーテス、おまえとの勝負はお預けだ。じゃ!」

 次に転移するときは、ブラストはもう体育館内にはいなかった。
 どこか遠くへ逃げてしまったようだ。

 倒れた委員長に代わり、コーテス副委員長が仕切る。

「ええと……。とりあえず、皆さん、お疲れ様です。演習は僕たちが勝利しました……というのは、今のブラストのセリフからしても……おかしな言い方だけれど……。ひとまず、奪われた魔力召喚機は後ほど取り返します。たぶん、このあと、ヴァイスさん(NPC)が……サード博士(NPC)の居場所を教えてくれるから……そこでブラストと再会することになると思うので……そのときに拳銃は返してもらいましょう。それよりも今は……戦闘不能になった人やケガ人の手当てをします。各自、治療ができる人は……分担を決めて、全員を復活させましょう……」

 殴られたビリーが、血が出た口元を拭いて、コーテスの前に来た。

「すまん! ボクのせいで……魔力召喚機が奪われてしもうた!」

 コーテスは、首を横に振った。

「いや、ビリー君のせいではないよ……。まさかブラストが……あんなタイミングで召喚機に向かって……奇襲すると思わなかったので……。油断していた僕のせいだよ……」

 そこで、萬智禽があることに気がついた。

「あれ? 奪われた召喚機は、一機だけであろうか? もう一機は?」

 アンナも頷く。そして、思い出したかのように言う。

「たしか、もう一機は、ティム対ジェームス組の方にあったはずですわね?」

 そこで、いなくなっていた探偵少女が入って来た。

「ここにあるよ!」

 ヴィオレッタ探偵の登場だ!
 残っている者たちは、驚きの表情と声を隠せなかった!

「ちょっと、あなた!! 今までどこに行ってたの!?」

 未来が詰め寄る。

「この拳銃を怪盗から取り返していたんだよ。ボクの推理では、この体育館から怪盗が魔力召喚機を奪って逃げると考え、待ち伏せして捕まえたのさ! 残念ながら怪盗には逃げられたけれど、ほら、魔力召喚機は無事に奪い返したよ!」

 ひとまず、戦果はあったとのことなので、この際、彼女が体育館にいなかったことは不問になった。

「さあ、早く手当をしよう! みんな、苦しんでいるから!!」

 コーテスが、ぱんぱん、と手を叩き、その後、全員で負傷者たちの治療に当たった。

***

 コーテスたちが治療を終える頃……。

 どかあああああああああん!!
 どかどかどか、どっかあああああああああああああん!!
 どっかあああああああん、どっかあああああああああああん!!!!

「な、なんの騒ぎかしら!?」

 復活したスノウは、体育館が当然の強襲と地震に遭い、驚きを隠せなかった。
 さらに驚いたことに……。

「たい、へん、です……。委員長……。風紀が……全滅しました……」

 風紀隠密のテレサ・イーグルアイ(NPC)が転移して体育館に入って来た。
 テレサは、全身がぼろぼろで頭から血を流していた。

「どうしたの、テレサ!? しっかりして!!」
「大丈夫!? 今、手当するから!!」

 スノウとコーテスがテレサのもとへ歩み寄るが……。
 テレサは、がくり、と倒れてしまった。

 その上、体育館の出入り口には……。

「おい、みんな、風紀どもがいたぞ!」
「風紀どもは手負いだ! やるなら今がチャンスだ!」
「よっしゃあ、風紀潰すぜ!!」

 魔術師の学生たちは、手に魔力召喚機を持っていた。
 まさかのTMの新手か!?

『アスラン、ストラアアアアアアアアアアアッシュウウウウウウウ!!』

 どかどかどかああああああああああああああああああああん!!!!

 出入り口は、さらなる何者かの乱入により、破壊され、新手のTMらしき学生たちは吹き飛ばされた。

「風紀委員会の皆の者、無事か!?」

 爆撃後の煙の中から現れたのは、聖剣を携えているアスラ学院長(NPC)だった。
 彼の隣にはマープル先生(NPC)もいた。

「最後の最後まで手は出さないつもりでいたが……。現在、学院内は騒乱状態になっている。おそらく、TMの黒幕の差し金であることは間違いない。こうなった今、私たち教員も介入せざるを得ない。だが、安心してくれ。私は今回の風紀委員会の活動は認めている。引き続き、君たちはTMや黒幕を追ってくれ。学院の騒乱は私たち教員が引き受けよう」

***

 ウォルター先生の偽装戦闘演習をどうにかクリアした風紀委員会と仲間たち。
 これでまた一歩進めたかと思ったら、今度は学内が騒乱状態になっていた。
 しかも新手のTMらしき学生たちの手には、あの魔力召喚機が握られていた。

 次回、「3番目の魔術師事件」最終回。
 いよいよ次回でサード博士やブラストやTMの残りたちとの最後の戦いとなる。
 風紀委員会と仲間たちは、無事に事件を解決することができるのだろうか!?

<第4回へ続く>