ゲームマスター:夜神鉱刃
もくじ ★第五章 サード基地にて大決戦 ★第五章 サード基地にて大決戦 ・第一節 TM残党戦 サード・インパクトと対峙(たいじ)する飛空艇ナポレオン号のデッキには、二人の魔術師が中央に立っていた。ひとりは、眼帯で漆黒衣装の魔術師サイレンス・ドロンズ(NPC)、TMのリーダーである。もうひとりは、ピグテイルでフレイマーズ風魔術師のスライス・ウィンドショット(NPC)、サブリーダーである。 続いて、デッキの方へ、下から階段で上がって来たのは四人と捕虜二人。 「へへへ。拳銃構えて扉を開けたら、ご丁寧に中央で待っていてくれてんじゃん? なかなか堂々としていてあっぱれだぜ!」 イースタの萌え魔導士・トムロウ・モエギガオカ(NPC)は二丁拳銃を構えながら、にやりと笑った。 「だが、僕たちもここで負けるわけにはいかない! 全力でいかせてもらうからね!」 トムロウに続くのは、錬金術師・トーマス・マックナイト(NPC)だ。 「ほら、ちゃんと……歩こうよ! 君らの仲間たちはもう……いるみたいだね?」 ぐるぐる巻きになった捕虜のジェームス・ゴーストソン(NPC)とドニー・メタファーマン(NPC)は、風紀副委員長コーテス・ローゼンベルク(NPC)に連れられて、のそのそとデッキ上までやってきた。 「なあ、コーテスさん? こいつら、柱に縛り付けておいた方がええんちゃう? 飛空艇、戦闘中なんで揺れるやろ? いくら捕虜と言えども、振り落とされてお陀仏はかわいそうやんけ?」 最後尾にいるのは、キューピーな座敷童子であるビリー・クェンデス(PC0096)だ。コーテスから「ぜひそうして」という指示を受け、ビリーは「神足通」で即座に消えてしまった。次の瞬間には、デッキの人柱に捕虜二人を縛り付け直して、スタンバイ・オッケー。 「よし、全員そろったみたいだな? 行くぞ、いいな?」 「いいな?」 サイレンスとスライスが怒鳴り、戦闘開始を合図すると、二人はデッキの後方、柱後ろへ一目散に飛んで行った。 「待てや! あの白い拳銃、取り上げないとまずいで!」 ビリーが、「神足通」で後方へ飛ぶ! 続いて、トムロウとトーマスも続いた。 コーテスは、万が一に備えて、捕虜の前でバリアを張る。 「あれ? 気配ないやん?」 ビリーが柱の後ろへ回り込んだときには、二人はいなかった。 ばきゅううううううううううん!! ばきゅううううううううううん!! 一足、遅かった。 柱後ろへ回り込んだと見せかけて、スライスはサイレンスを連れて、柱上へ逃げた。 二人はそこで、魔力召喚機をキメていた! 「みんな、落ち着けや! あの魔道具が効いているのは3ターンや! 3ターン凌げ!!」 とっさに叫ぶビリーだったが、敵勢は猛攻を開始する! 「行くぜ! おらおらおらー!!」 サイレンスがナイフを両手で逆手に持ち、どこかにいるスライスの「転移」を駆使し、猛速度で突っ込んで来る! 「俺が引き受ける!!」 トムロウが二丁拳銃のグリップ部分を盾にして、白兵戦のナイフ連撃をひたすら防御する。 カン、カキン、キン、キン、カキイイイイイイイイイン!! 「援護するよ!!」 「サンドゴーレム」を召喚したトーマスは、サイレンスの背後から「ゴーレムパンチ」を打つ! そこで隠密魔術師は、ニヤリと不敵に笑う。 次の瞬間、サイレンスがいたところにトムロウがいた! そして、トムロウがいたところにサイレンスがいた! 「え!? うわ、ちょい、たんまー!!」 どがっ、ぐしゃり!! 「ゴーレムパンチ」が、トムロウに当たってしまった! トムロウは後方へはじけ飛んだが、受け身の姿勢で転がり、立て直した。 「わー!! トムロウ君、ごめーん!!」 「どんまい!」 トムロウは、トーマスを笑って許したが、次はないだろう。 もし、今の攻撃がとどめの一撃であるなら、トムロウはやられていたことだろう。 (恐ろしいやっちゃなあ……。でも、今のスキル、もらったで!!) ピピピ……!! ビリーは、スライスの「転移」と「交換転移」を「コピーイング」してしまった。 「次こそ、仕留める!!」 上空へ飛翔したサイレンス! 「ファイアボール」と「ダークボール」が放たれたが……。 火炎玉も暗黒玉も、転移魔術の影響を受け、変化球や消える魔球でびゅんびゅんとぐるぐる飛んでいる! 「うわー!! あれ当たったらアウトだ!!」 トーマスが逃げ惑う。 「相殺してやる!!」 トムロウが、がんがんと電気銃で火を噴くが、一向に相殺ができない! 「僕に任せて! あのスキルを無効にすれば!!」 コーテスが前に出ようとする……。 「コーテスさん! 捕虜が取られるで!! 前に出るな!! ボクに任せて欲しいねん!」 ビリーは、迫り来る火炎玉と暗黒玉に向かい、「転移」魔術を唱え、明後日の方へぶっ飛ばしてしまった! 「ははは! 座敷童子、やるじゃねえか! まずは、おまえから沈めてやる!!」 サイレンスが威力増しの「気配殺し」で接近! ビリーは、ナイフの毒牙で瞬殺されるのか!? 「うひゃー!! 逃げろー!!」 ビリーは、デッキの柱上へ「転移」した。 さすがに、獲物がどこに転移したかわからないサイレンスは、一度、ビリーを追うのをあきらめたようだ。デッキ下で、ナイフの連撃で暴れ出した! これにはトムロウとトーマスのコンビが応対する! コーテスは「サード・アイ」で敵魔術の無効化を図り、援護だ! 「あ、あんさんは!?」 デッキの柱上でビリーが出会った人物は、スライスだった! スライスは、もうひとつ隣の柱上で「転移」の操作をしていた。 「あ、見つかっちゃった!!」 スライスが慌てて「転移」しようしたが、ビリーはカプセルモンスターをカプセルごと投げつけた! 「逃がすかい!!」 ぱふん、ぱふん!! お化けハイランダケのリキマルと冬の精のキチョウが登場! 「べろべろべろおおおん!!」 リキマルはその場で暴れて、「胞子」をまき散らした。 だが、飛行はできないので、胞子放出後、デッキ下へ落下して退場。 「へいへい、てぃんくる、くるくる、萌え萌え、くるくる♪」 キチョウはパタパタと飛びながら、「ティンクルダンス改」を踊り出した! 麻痺と混乱の連続状態異常攻撃!! さすがのスライスであっても……。 「けふん、けふん! きゃー、なにこれー!! うひゃー!?」 「お次はこれや!!」 ビリーは、『革命老人闘争列伝』をぶん投げる! 空中で巨大ダイスが、ころり、と振られ……。 「6」が出た! 6割の魔力カットダメージ!! 「ううう……。力が……抜ける……。あ、やばい!! 召喚機の効き目、切れるよー!!」 スライスが、魔力召喚機を手にしたところ……。 「それ!!」 ビリーが「交換転移」の魔術を放った! ビリーの手元に魔力召喚機が握られていた。 スライスの手元にはおもちゃの拳銃が握られていた。 「観念せい!!」 ビリーがじりじりと迫ると、スライスは混乱の効果で、足を踏み外し……。 「きゃああああああああ!!」 「世話焼けるやっちゃなあ!」 ビリーも「神足通」で追っかけ、デッキの床ぎりぎりでキャッチ! ひとまず、スライスをロープでぐるぐる巻きにしておいた。 *** デッキではそろそろ決着がつく頃だ。 トーマスが既に倒され、トムロウが苦戦していた。 コーテスは捕虜を守るため、一歩も動けない。 サイレンスはスキを突いて、二発目の拳銃を撃っていたようだ。 未だに魔力が強大である。 「燃え尽きちまえよ!!」 サイレンスの手元から最大火力の「ファイアボール」が揺らめく! 「よっしゃあ、勝負だ!! 来いや!!」 トムロウが挑発する。 ビリーがスライスを倒した直後、やっかいなことになっていた! (えらいこっちゃ、助けんと!!) ビリーがコーテスの方を見ると、アイコンタクトで「いいから、大丈夫だよ!」と彼は言っていた。 どかああああああああああああああああああん!!!! 「うぎゃあああああああああああああ!!」 最強の火炎玉は、トムロウを爆撃し、燃やし尽くした。 火炎の威力は衰えず、その後ろにいるコーテスや捕虜たちをも襲う! 「決まれええええええええええ、スキルゥ・ブレイカアアアアアアアアアアアア!!」 コーテスは両手を前に出し、全力で火炎玉を相殺した。 しゅううううん、と効果音を立てて、マグマの勢いの火の玉は燃え尽きた。 「ははは! トムロウとやらも大したことねえな! 続いて行くぜ! 次で……!!」 「終わりは、てめえの方だぜ! 『変異体質』もとい、Hentaiをなめんなよ!」 サイレンスの背後で、トムロウが「スパイラル・激・電磁砲」をゼロ距離発射で直撃!! どかあああああん、どかどか、どっかああああああああああああああ!! サイレンスは、爆撃でぶっ飛び、燃え尽きて、ぶっ倒れた。 彼は倒される最後の瞬間、TMの仲間たちとの飲み会が脳裏をよぎった。 そう、TMが改めて結成された、あの夜の記念すべき飲み会だ。 (ふはは……。みんな、ごめん……。どんなにがんばっても、俺ら、三流の魔術師みたいだよ……。あの日、酒場でサード博士(NPC)と偶然出会い、魔力召喚機を渡され、みんなでTM結成して暴れたけれど、やっぱり、この様だぜ……。ずるして力を手に入れた結果なんて、せいぜいこんなもんか……。短い間だったけれど、楽しかったぜ……!!) 散って行くTMたちの事情なんて知るわけもなく、コーテスたちは互いの手を合わせて、勝利を祝っていた。 「トムロウ君もビリー君もさすがだったね!」 コーテスが賛辞を贈る。 「おう、ビリ●ン野郎、サイコーだぜ!」 トムロウも同意する。 「いやいや、ボクも意外とやるとき、やるで!」 ビリーが赤くなりながら笑う。 「ん? もう終わったのかい? は、ごめん、寝てたみたいだ!!」 トーマスは、今、起きたようだ。 ひとまず、飛空艇デッキでの戦闘チームは無事に勝利した。 ・第二節 サード・インパクト戦(前半) デッキでの戦闘が開始された頃……。 サード・インパクト対ナポレオン号の戦いも始まっていた。 「行くぜ、分子たち!! 俺たちの革命を見せてやれえええええ!!」 「あいあいさー!!」 科学的革命残党分子の指導者ヴァイス・フォイエルバッハ(NPC)は、操縦席で指揮を執る。分子の老人たちも掛け声をかけて、「バルカン」や「リニアレールガン」を撃ち込んだ! 飛空艇からは、「バルカン」の連続射撃や「リニアレールガン」の砲撃がサード・インパクトを襲うが……。 『それ、シールドですな!!』 ジジジジジジ……!! しゅうううううううううううん!! サード・インパクト、あるいは巨大な顔の黒い機体は透明のバリア・シールドを張り巡らせた! このシールドはインチキ科学の総力が結集されたもので、「バルカン」と「リニアレールガン」を無効化する! 『それ、お返しですな!!』 サード・インパクトは、「サード・ボム改」をぽんぽんと撃ち込んだ。 「ぬかるな、野郎ども!! 弾き返せ!!」 「あいあいさー!!」 キュイイイイイイイイイン、しゅうううううん!! サード博士のロボが放つ爆弾を、今度はナポレオン号が「サイエンティフィック・フィールド」で無効化した。こちらのシールドも科学力の先端を駆使して造られた頑丈なバリアだ。 操縦席の後ろでこの戦闘のやり取りを見ていたフランス令嬢のアンナ・ラクシミリア(PC0046)は……。 「ヴァイス!! どうやら機体の性能がお互いに互角みたいですので、なかなか勝負がつきませんわね! どうでしょう? 先ほども申し上げましたが、わたくしをサード・インパクトの元へ転送してもらえませんか? 考えがありますので……」 「おう! 今、やっているところだ! ぎりぎりまで奴の機体に近づくため、距離を詰めているんだ! もう少し近づいたら、転送してやる。で、転送先は奴の右肩だったか?」 「はい!!」 こうも会話している最中も、サード博士がレーザー攻撃を撃って来る。 これもナポレオン号がフィールドで防御。 分子の手下たちが、「グラビトン・ミサイル」を一発撃ち込むが、この大技ですら、サード・インパクトは物ともしなかったらしい……。 どうやら、攻防は白熱している。 「うむ。やはり内部から切り崩さねえとダメみたいだな!? おい、ザック(NPC)、そろそろ奴の機体に……」 『ははは!! そうはさせないですな!!』 サード・インパクトが、「サード・サーベル」を振りかぶって降ろした!! ガキィィィィィン!! ナポレオン号は、「サイエンティフィック・フィールド」で受け止めたが、今のでバリアの一部が破壊されてしまった! だが……。 「ちっ、気に入らねえ! でも、今の一撃で奴の懐に飛び込めた! 行け、アンナ!!」 ぷち、とヴァイスが転送ボタンを押した。 転送装置にいるアンナは、みるみると消えて行く。 「あ、ヴァイス! 最後に言い残すことが!」 「なんだ、早くしろ!」 「飛空艇にナポレオン号なんて名前をつけるあなたのセンス、面白いですわ!」 「うるせえ! 早く飛んで行っちまえ!!」 *** シュィィィィィン!! レッドクロス姿のスーパーヒロイン・アンナは、サード・インパクトの右肩上にいた。 腰元からは、するする、と愛用のモップを取り出す。 「このこのー!! 関節壊してやりますわー!!」 モップの連打撃を右肩関節に打ち込む! カキィィィン、ビリビリ……ぼふん、どっかあああああああん!! 右肩関節には、なかなかのダメージが決まったようだ。 どうやら、シールドが張られていないところはそこまで頑丈ではないようだ。 (正確には、サード・インパクトが外敵に向けて張っているシールドの内部に今、アンナはいるのであり、機体そのものにシールドが張られているわけではない) 「トレビアン!! もういっちょ、行きますわよー!」 アンナは、「小型フォースブラスター」を取り出して、ボムの射出口へ向けて撃つが……。 「くっ!! この世界、そういえば『サイ・フォース』が全然なかったんですわよね……。代わりにこれ、あげますわ、そーれ!!」 アンナは、「サクラ印の手裏剣」を複数取り出し、ボムの射出口へ投げ入れておいた。 後で撃つとき、誤爆することだろう……。 『おのれええええ!! 虫がいますなー! 悪い虫は退治してやりますなー!!』 サード・インパクトは、損傷した肩回りをぶんぶんと振り回して、アンナを振り落とそうとする! 一方、ヴァイスたちからの銃撃なりをシールドで防ぎ、大忙しだ。 「きゃあああああああああ!!」 (ふう、危ない、落ちるところでしたわ! 今からハッチがある頭部(顔の最深部)までは行けませんわね……。せめて、サーベルを振るう右手全体を無効化できれば……!!) 「それえー!!」 サード・インパクトの視界に、桜と雪の猛吹雪が渦巻いた! 『うお、なんですかな、これ!! おのれー、虫めー!!』 暴れるロボだが、右肩には既にアンナはいず……。 「『乱れ雪桜花』でもくらってくださいましね!! 参りますわよー!!」 アンナが複数の残像たちと共に、モップを振り回しながら、右手関節、右ひじ関節、右肩関節を往復しながら、ランダム連続打撃で、ロボの関節を滅多打ちにする!! ジジジ……、ぼふん、どっかああん、どかどかどかあああああん!! サード・インパクトの右手と右肩が上がらなくなり、サード・サーベルが真下へ落下してしまった! 「ふふふ、やりましたわ!!」 アンナが喜んでいたのも、束の間……。 『貴様!! よくもやってくれましたな!! 虫は叩き落とされて死ぬべし!!』 ばちこおおおおおおおおおおおおおおん!!!! サード・インパクトが左手でアンナを振り払い、叩き落とした! 「きゃああああああああああああああ!!」 レッドクロスのヒロインは、樹木が生い茂る森の方へ投げ飛ばされてしまった……。 ・第三節 風紀モブ解放戦 風紀モブを解放するべく、サード基地中央部へ転送されたスノウ委員長(NPC)たち。 一同は、突撃する前に、少し、様子を見てみることにした。 どうやら、怪人ドラネコ将軍(NPC)5体と魔導UFO改(NPC)10体が定期的に巡回しているようだ。 「さて、どうしたものかしら? 私たち五人で正面突破したら、ぎりぎり勝てるか勝てないかね。私たち救出班にも風紀モブたちにも負傷者が出るでしょうし、うかつに手を出せないわね……」 そこで、マニフィカが挙手する。 「スノウ委員長! 作戦がありますわ! 陽動部隊と救出部隊に分けては!? なんなら、陽動はわたくしがやりますわよ!」 他のメンバー、巨大目玉の萬智禽・サンチェック(PC0097)、医学少女のレイン・フォレスト(PC0099)、風の魔法少女の姫柳 未来(PC0023)も、頷いて同意した。 「火力がある人たちは、陽動でいいんじゃないかな? なんなら、わたしも陽動やるし」 未来も戦闘を志願した。 「私には救出を任せてくれ! 考えがあるのだ!」 萬智禽は救出に志願した。 「わたしは……。皆さんのサポートをします」 レインは、陽動と救出両方のサポートに回るようだ。 *** 「うふぅ〜ん!! ぴっちぴちのお魚ちゃんですわよお★ ぎょぴぎょぴのきゃぴきゃぴですわよ〜♪」 マニフィカが人魚モードで、魚の尾をくねくねしながらセクシーポーズを取っていた。 (注:人間基準のセクシーポーズではなく、ネコ基準の魚のセクシーポーズ) 「うっ……うにゃあ!! お魚ちゃんだにゃあ! 食べたいにゃあ!」 「おい、バカ! 行くなにゃあ! きっと罠だにゃあ!」 「お魚ちゃんを食べたらすぐ戻るにゃあ!」 「だから行くなにゃあ! どう見ても罠だにゃあ! あんなところにお魚ちゃんがいるわけないにゃあ!」 「じゃあ、お先に失礼にゃあ!」 「おまえ、行かないのかにゃあ?」 「罠だにゃ!……でも、まあ、ちょっとぐらいなら……」 「それ、行け、出遅れるにゃあ!!」 怪人ドラネコ将軍が3体、一斉に飛び出した!! 異常を感知したせいで、ついでに魔導UFO改も5体、すぐに急行だ!! 「ふん、バカなネコめ!! どう見てもこれ、罠でしょう!?」 未来は、二丁拳銃であるマギジック・レボルバーの火炎弾丸とイースタン・レボルバーの電気弾丸を即座に連撃する! ばばばばきゅううううん、どかどか、どっかああああああああああああああん!! 「ふにゃー!! やっぱり罠だったにゃー!」 「だから言ったのににゃー!!」 もちろん攻撃はこれで終わるわけがない。 「お次は、ネズミさんですよー!! ネコもUFOもたくさん食べてきてくださいねー!」 レインの手元からは「ネオ・ウォルターラット」が10匹、召喚され、突撃!! 「ちー、ちー、ちー!!」 「ちちち、ちー!!」 シャキン、グサグサグサグサ……ぐしゃり、ぐしゃああああああ!!!! 「痛いにゃー!!」 「ネコを噛(か)むネズミは苦手だにゃー!!」 カキィィィン!! どか、どか、どっかあああああん!! ドラネコ将軍のみならず、UFOたちも続いて爆発していった。 連続攻撃のチェーンはまだまだ終わらない!! 「シャー、シャ、シャ、シャー!! ボォワアアアアアアアアアアア!!!!」 萬智禽のカプセルモンスターであるサマエルが飛び出し、「ダークファイアブレス」の全体攻撃魔炎をネコやUFOにこれでもかと、浴びせる!! どっかあああああああん、どかどか、どっかああああああああああん!! 「にゃー!! そんなのなににゃー!!」 「燃え尽きるにゃー!!」 「ぷごおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」 さらに萬智禽のカプセルモンスターのマッハ・ハイノシシまで突進で登場!! 正面にいるドラネコ将軍たちを跳ね飛ばす! 「にゃー!! しまいにはこうなるにゃー!!」 「ばいばい、ばいきん、にゃー!!」 さて、トリは……。 「……現世に創出されし魔と闇の大渦よ……其の物たちの魔力を喰らい尽くし給え……レーヴェン!!」 最後尾にいるスノウの詠唱が完成した! 「ブラックホール・アブソーバー」……もとい闇の巨大な大渦が空中に召喚されて、怪人とUFOのHPやMPを容赦なく吸い出して行く……!! 「にゃー!! 力が抜けるにゃー!!」 「ピー、ゴロゴロ、どかあああん!」 詠唱を終えたスノウの隣から、萬智禽が浮遊して突っ走って来た! 「それ、ついでにこれでもくらえなのだ!」 巨大目玉は、『煙玉』を放ち、煙幕を張る! そして、すかさず、どこかへ逃げてしまった! 「増援だにゃー!! 侵入者皆殺しだにゃー!!」 「ピー、ピー、ハイジョシマス!!」 増援のドラネコ将軍1体とUFO3体がたどり着く前に、巨大目玉は姿を消していた。 一方、レインの姿もどこかへ消えていた。 煙が晴れた頃……。 罠にかかったドラネコ将軍2体とUFO4体は戦闘不能になっていた。 増援と足して、現在、ドラネコ将軍2体、UFO4体が残っている。 「おい、目玉と水色の髪の女がいないにゃ!! 探して殺すにゃ!」 将軍の1体が引き返そうとすると……。 すとん!! 魔石のナイフが、怪人の頭上から足元へ落ちて来た。 「ほら、相手はこっちだよー!! 向かってこないとやられちゃうよー!!」 未来が挑発すると、怪人はカッとなった。 「やってやるにゃー!! 皆殺しだにゃー!!」 もう一体の怪人は、マニフィカがトライデントを向ける。 「あなたの相手はわたくしですわよ! 怪人、勝負ですわ!!」 「にゃははは! おまえなんか刺身にして食べてやるにゃ!」 UFO4体も、じりじりとマニフィカと未来のもとへ集まって来た。 スノウはマニフィカと未来の後ろで詠唱のタイミングを計っている。 付近にいるサマエルとマッハ・ハイノシシも次の攻撃に備えているようだ……。 *** (ふうむ……。さすがに正面で派手にやらかしただけあって、見張りはあのUFO殿、1体だけであるか……。まあ、この程度なら……) 『魔導動物概論』(ネズミ編)で透明化している萬智禽は、処刑台の後方部に回り込んでいた。さて、残りの見張りをどうしたものか……。 「こいつで、照らすのだな……」 萬智禽はアイテム袋から『魔法封じのランタン』を取り出し、前方へ、ぴかぴか、と照らし出した……。 ぴかあああああ……。 ライトが照らし出された先で、UFOに光が当たり……。 「ピピピ!?」 どうやら、誤作動を起こし、その場で停止して落下した。 術者は、1、2秒、様子を見たが、どうやらUFOは動かなくなってしまったようだ。 「うむ。無駄な戦闘が省けて何よりだ。さあ、風紀モブ諸君を助けるのだ!!」 *** 風紀モブ火炎組のひとりは、最後まであがいていた。 なんとかして、レヴィゼル十字に巻かれた縄がほどけないかと、先ほどから何度も体や腕を動かしている。 なにやら、基地の前方が騒がしい。 おそらく、スノウ委員長たちが助けに来てくれたのだろう。 それならば、余計に何かしないと彼は気が済まなかった。 「ちっきしょう、サードめ!! 縄、ほどけろ!! 縄、縄……え!? あれ!?」 するり、とさっきまで頑丈にぐるぐる巻きにされていた縄があっさりと抜けた。 背後には、巨大目玉が立っていた。 「うわっ!!」 軽く驚いたモブであったが、念力で口が封じられた。もちろん、叫ばせないためにだ。 「こんばんは、なのだよ。私は、萬智禽・サンチェック。スノウ委員長の知人で風紀協力者なのだ! 助けに来たのだ! 今、縄がほどけたから、他の仲間の縄もほどくのだ! それと、絶対に静かにするのだぞ! まだ敵はいるかもしれないからな……」 「おう、ありがとよ! んじゃ、隣の仲間でも助けに行くぜ!」 萬智禽は、「念力」を駆使して、次々とモブを解放して行った。 目玉の救世主は、一人で50人全員を解放するのかと思うと、気が少し遠くなっていたようだ。でも、解放してあげたモブたちも手伝ってくれているので、作業は早い。そして、正面で陽動をがんばってくれている仲間たちのためにも、さっさとこの仕事は終えてしまいたいところだ。 「よし、じゃんじゃか行くのだぞ、モブたちよ!! 今、この戦場をより良い勝利へと導く可能性を持っているのは、まさにそなたたちなのだ!! 怯むな、行け、仲間を助けろ、明日をつかみ取れ!!」 「はい! がんばります!!」 萬智禽は、萌え本で数値が加算された『兵法』220パーセントの威力をもって、解放したモブたちひとりひとりに勇気を分け与えた。 勇敢になったモブたちは、張り切って仲間たちの救助へ当たって行く。 *** さて、萬智禽と共に姿を消したレイン。 彼女は、何をしていたのだろうか? 「アリスちゃん、これ食べてください!」 「ん? なにそれ、うまいの?」 「はい、うまいです!」 「わかった! 食べる♪」 レインは壊れたUFO1体をくすね、戦場から少し離れた場所で球体関節人形のアリスにICカードを移植していた。 レインの魔導機械工学の知識によれば、UFOから引き抜いたICカードをアリスに食べさせれば、「HP/MP吸収」の技能が身に付くはずなのだが……。 「さてと、正面では……陽動部隊ががんばってくれていますので……この辺で、モブを助けに行きましょう!!」 レインは、側面口には、見張りがいないことを確認すると、すぐに処刑台まで走った。 処刑台には、水組の女の子たちがいたが、数人、戦意を喪失して泣いていた。 「大丈夫ですよ!! 助けに来ました!!」 さすがにレインは風紀委員のひとりなので、彼女の存在に気が付くモブの子たちもいた。 「あ、本当に助けに来たんだ!! ありがとう!!」 「はい、今、このロープ……ほどきますね」 しゅるるるううう……。 ロープは簡単にほどけた。 どうやら特殊な魔術や科学の仕掛けは施されてなかったらしい。 サード博士たちも、ぐるぐる巻きにするときは急いでいたのだろう。 それでも助けた何人かは泣いているかぐったりしていた。 そこでレイン、閃いた! 「怖いの怖いの、飛んでいけー!! つらいのつらいの、飛んでいけー!!」 レインが泣いている水組の子の頭をなでると、不思議と泣き止み、元気になった! 「あれ? 今、なにやったの!?」 隣で見ていたモブの子がレインに質問する。 「今のは『幻術』です。恐怖を取り除いて、高揚感を付与したんです」 「へえー! すごーい!! 私にもやってよ!」 「あたしも!」 「僕も!」 「はいはい、順番ですねー! でも、元気になった人は……他の仲間たちを助けに行ってくださいねー!」 *** 優勢は長くは続くわけもなく……。 「にゃーははは!! こんなところにネズミならず目玉がいたにゃ!! 外が騒がしいと思っていたけれど、念のため、巡回を続けていて正解だったにゃ!! 目玉ごとおまえを食べてやるにゃ!!」 「ピー! ピー! シンニュウシャ、ハッケン!!」 怪人ドラネコ将軍の最後の1体と魔導UFO改の最後の2体がさささとやって来た。 しかもこのUFOのうち1体は、先ほど後方の入り口前で行動停止に陥れたUFOのようだ。「ランタン」で行動を停止できたのも一時的だったようだ。 「にゃっはっは!! 暴れてやるにゃ! 殺してやるにゃ!!」 ドラネコ将軍は、クロ―攻撃を連打して、萬智禽や助けられたモブたちを襲う! 「ぬおお!! やばいのだ!!」 「きゃー!! 助けて―!!」 巨大目玉と水組のモブたちが、連撃を受けて跳ね飛ばされた! 「ピー、ゴロゴロゴピー!!」 一方、UFOたちも、「HP/MP吸収」のレーザー攻撃を放ち出す! 「うぎゃあああ、力が抜けるうううう!!」 「所詮、モブとはやられ役なのかあああああ!?」 無属性組と土組のモブたちのHPとMPがみるみると吸われて行く……。 そこに、球体関節人形がとことことやって来て……。 (なんだ、あいつ!? 新手の敵の増援か!? くそぅ……。こんなときに!!) 焦って、汗がたらたら出る萬智禽だったが、これは敵の増援ではなく……。 「HPとMP、もらうねー!」 人形はレーザー攻撃を拡散させた!! ピーゴロゴロゴロ……!! 「ふにゃあ!? 力が抜けるにゃ!」 「ピー……。イジョウ、アリ!!」 人形から放たれたレーザーが敵勢を撃ち、HPとMPを奪い取った。そして、そのHPとMPがレーザー状のまま萬智禽や風紀モブたちを回復して行く……。 「ぬお!? これは!?」 巨大目玉が驚いていたところ、少し離れた場所でレインが手を振っていた。 「今のは、わたしたちです!! UFOを倒した後……ICカードを抜いて……人形のアリスちゃんに移植させました! そうしたら……こんなこと、できちゃいました!」 だが、怪人もUFOもまだ元気があるようで、態勢を立て直しているところ……。 「おらおらおらーー!! 解放だぜええええええええ! 行くぜええええ!!」 怪人の後方から、火炎の連続砲撃がかっ飛んで来た!! ちゅどおおおん、どかどか、どっかあああああああああああん!!!! 「にゃあ!! もう……だめにゃ……燃え尽きたにゃ……」 さらにUFO2体の側面から、今度は風の弾丸が連続でびゅんびゅん飛んで来た! 「もらったああああ、すきありいいいいいいいいい!!」 「いええええええええい、よろしくううううううう!!」 びゅん、びゅぅぅうん、どっかああああああああああん!! どっかああああああああああん!! UFOらは無惨にも破壊されてしまった。 「あ、そなたらは!?」 萬智禽が今先ほど助けたモブたちがそこにいた。 火炎砲撃、いや「フレアキャノン」を放ったのは火炎組のモブたちであった。 風の連弾、いや、「クイック」が付与された「ウィンドボール」を撃ったのは風組のモブたちであった。 「へへ、モブもやるときゃ、やるだろう?」 火炎組のモブ代表は、少し赤くなって照れている。 「ま、これぐらいのお礼はしなきゃね! えへへ!!」 風組のモブ代表は、けらけらと笑っていた。 *** 話は、時間が少し巻き戻る。 萬智禽やレインが風紀モブを救出していた頃……。 ぎゅういいいいいいいいいいいん!! 未来は、「サイコセーバー」を抜き出し、中段に構えた。 きらりん! 怪人ドラネコ将軍はクローを光らせた。 「勝負!! ファルコンの6連撃・コンボ、行っくよおおおおお!!」 「こっちは、ドラネコのロックだにゃー!!」 白兵戦は熾烈を極めた。 未来が振り落とした光の刃は、ドラネコ将軍のクローが弾き返した。 ロックな連続攻撃が未来に突撃されると、未来は連続斬撃で切り返し防いだ。 連撃は有限だ。 未来の6連撃目が怪人ののど元に突きつけられたとき、怪人は最後の2連撃で返り討つ。 未来の方が、1撃分、足りなかったのだ……。 「きゃあああああああ!!」 クローの鋭い一撃が未来の腹を殴打した! 未来は後方へはじけ飛ぶ! 「もらったわ!!」 未来の後方からスノウが詠唱を完成させる。 「セイント・アロー」の光の矢の一撃が、将軍の胸元を貫いた! しかも邪悪な敵には追加ダメージなんていう特典まであるようだ。 「にゃああああああああ!!」 怪人も胸元をえぐられ、吹き飛び、ぶっ倒れた。 未来は弾け飛ばされながらも、次の瞬間には「テレポート」して、スノウの前に降りた。 怪人は、やられながらも、奇声を発する。 「にゃーははは! 心が弱くなるにゃ! メンタル豆腐になるにゃ! やる気がなくなって死ぬにゃ!!」 『にゃーははは!! にゃーははは!! にゃーははは!!』 未来とスノウは頭が割れそうになり、その場でうずくまった。 悲惨なことに、UFOの残党2体がやって来て、「HP/MP吸収」で二人を苦しめる! 「ぷごおおおおおおおおおお!!」 マッハ・ハイノシシが突進して来た! 怪人にストライク・ヒット、跳ね飛ばした!! 「にゃおお!! イノシシが生意気にゃ! おまえなんて牡丹鍋で食ってやるにゃ!」 ひとまず、ハイノシシが時間稼ぎをしてくれているが……。 この後、すぐに倒されてしまった……。 *** マニフィカは、今、二人いる。 ひとりは本体。もうひとりはホムンクルスだ。 怪人の相手はホムンクルスに任せ、マニフィカは後方へ走り出した。 「待つにゃ!! おまえの相手は、この俺にゃ! それとお魚ちゃん食べたいにゃ!」 「待つのはあなたですわ、この下品なドラネコ!! わたくしが相手しますわよ!」 ともかく、ホムンクルスが「ブリンクス・ファルコン」などの連撃で攻めて来るものだから、怪人も相手をしないわけにはいかない。 サマエルも「ダークファイアブレス」を唱えて来るものだから、ネコは焼かれながらも、クロ―攻撃の連打で応戦した。UFO2体も加勢し、瞬く間にサマエルのHPとMPを吸い尽くしてしまった。 本体マニフィカは、戦場から少し離れ、合掌した。 『オンキリキリ、ソワカ……。千もの手を持つ大いなる仏、センジュカンノン様……。どうか、わたくしたちを、御仏の名の下、お導きくださいますようお願い申し上げます……。邪悪な者たちを浄化し、解放されんこと、お祈り申し上げます……』 ごろごろごろ……。 戦場の雲行きが荒くなった。 マニフィカが戦闘しているこの戦局の天から、ぴかりと雷が落ちる。 暗くうねる雲の中から、無数の手が降って来る!! 『サバキ、ジャ……』 『ジャアクナモノヨ……地へ還レ……』 『地獄へ落チルベシ……』 人魚姫本体は『センジュカンノン』の詠唱を完成させ、怪人やUFOたちが裁きを受ける! ばぎ、どが、ぼき、ばぎ、どが、どがっ!! 「ふにゃー!! どうかお許しを!!」 「やっぱり、こうなるにゃー!」 「ピー、ゴロゴロ……(もうすぐ戦闘不能です)!!」 『センジュカンノン』の射程では、敵勢1/3を全体攻撃する。 今、この場にいる敵数は、全体の戦局から見れば、1/3にも満たない。 怪人2体とUFO4体は、仏の拳に叩きのめされた。 *** 「未来さん、チャンスよ!」 「スノウ、援護お願い!!」 未来は、風のオーブのブースターで、五倍速で移動。 拳の打撃を受けてうなっている怪人の胴体をサイコセーバーで切り裂いて行った! 「アディオス!!(さらば!!)」 「にゃああああ、やられちまったにゃああああ!!」 どかどかどっかああああああああああああああん!! 「デフォルトだけれど……手負いのザコUFOには十分よ!!」 スノウのタクトからデフォルト魔弾の数発がUFO2体へ直撃! どかあああああああん! どっかあああああああああああん!! *** 「マニフィカ本体、とどめを刺しますわ!」 「もちろんですわ、ホムンクルス!!」 『ダブルゥゥゥ、ブリィィィンク・ファルコオオオオオオオオオオン!!』 人魚姫本体とホムンクルスの両者が「ブリンク・ファルコン」を同時に仕掛けた! 3連続攻撃×2人分が、怪人とUFOに猛攻撃の連続コンボ!! トライデントの鋭い連撃が冴えわたる!! 「にゃーははは!! お約束だにゃああああああああああ!!」 「ピー、ピー(戦闘不能です)」 どっかああああああん、どかどか、どっかあああああああああああああああん!!!! *** そもそも、陽動部隊の役目は、敵の陽動であるはずだったのだが……。 「ええと……。未来さん……。倒して、しまいましたわね? 時間を稼ぐつもりでしたが、別に倒してしまってもかまわなかったのですよね?」 「うん……。予定だと、このあと、萬智禽やレインやモブたちと残りの敵を倒すはずだったけれど……。でも、仕方ないよねえ……。倒しちゃったもんは……。まさか復活させるわけにもいかないし……」 二人がそう相談していた頃、風紀モブ全員の解放も終わったようだ。萬智禽とレインを先頭に、風紀モブたちがぞろぞろとやって来た。 一方、空中で繰り広げられているサード・インパクト戦は、未だに熾烈を極めているようだ。 さらに、そこにメッセンジャーまでやって来て……。 「てえへんだ、てえへんだ!! 誰か手が空いている人、助けてくれー!! ともかく大変なんですぜい!」 ワスプのバーテンダー・ナイト・ウィング(NPC)が血相を変えて走って来た。 いったい、何の騒ぎだろうか……!? ・第四節 魔神ブラスト戦 『きゃおおおおおおおおおおおおおお!!』 アメリカン・レディのジュディ・バーガー(PC0032)が魔神ブラスト(NPC)から200メートル離れた地点に転送されるや否や、巨大な魔神は叫び出した。 攻撃のための咆哮(ほうこう)ではなく、何かに苦しんでいるゆえに叫んでいる声だろうか。少なくとも、ジュディにはそう思えた。 「ブラスト……。ユーは、天才だけれど、確かに問題児ネ! ここは、ジュディがバーニング・ティーチャー(熱血教師)になって、ユーの根性を叩き直し、元に戻すネ!」 対するジュディの方は、ここ一番の勝負なので、服装はもちろんアメフトの防具で固めている。ヘルメットやユニフォームには、「ニューアラモ・ハイウェイスターズ」のロゴが刻まれている。 「陣形は、どうする? あたしはもちろん最後尾だけれど……」 ジュディの隣には、現代魔術研究所チームの三人が並んでいる。 隊長のシルフィー・ラビットフード(NPC)は全員に陣形の確認を取った。 「俺が先頭に立つぜ! 魔神なんか俺の魔剣でぶちのめしてやる!!」 大剣をぶんぶん振り回し、魔炎の精(NPC)は張り切っていた。 「いや、相手は魔神ですね。うかつに近寄らない方がいいでしょう。最低限、防御の対策はするべきです。魔炎の精みたいな筋肉バカが突っ込んで行っても返り討ちにあうのが関の山でしょうね……」 魔導ロボ・エリスは、冷静にそう切り返す。 「ジュディにアイデアがありマース! ジュディがシールドの役になりマース! ジュディは、防御手段を豊富に持っていマース! そこにシルフィーがマジックでさらに防御強化するデース! イイデスカ? ジュディが先頭。続いて魔炎の精にエリス。最後がシルフィーデース!」 ジュディに提案に全員が同意した。 シルフィーがまとめる。 「OKよ。じゃあ、さっそく、対魔神ってことで、『シャドウ・スパイダー』を召喚するから、全員、闇属性のダメージ防御をまとった上で、突撃ね!」 *** 「ハッ!! レディ・ゴー!!」 ジュディは、「7つのサプリ詰め合わせパック」に入っている、各属性の七粒七色のサプリを口に放り込み、ばりぼりと食べた。 そして、ヘルメットを被り直し、「魔石の盾」(研磨されたマギ・ジス産の魔石)を構え、スタートダッシュを切る! 属性効果には、闇の蜘蛛の加護がかかっているので、今のジュディの姿は暗褐色だ。 『うぎゃおおおおおおおおおおおおおお!!』 魔神は向かって来る侵入者たちに対して、さっそく「魔神の咆哮」で動きを止めようと試みるが……。 「ヘイ、その程度! スキル・ブレイク、ネ!!」 ジュディは両手を前方にかざし、咆哮の音波を遮る。 しゅうううううううううううん!! 咆哮の音声はスキル・ブレイクされ、木端微塵に霧散していった。 「ヘイヘイ、カモーン、魔人!! ジュディからのリターン、デース!!」 ばきゅううううううううううん!! ばばばばば、ばきゅううううううううううん!! ジュディは、二丁拳銃を乱射する! 光と火のミックス属性弾丸である「閃光炸裂弾」を繰り出し、魔神に爆撃! どっかあああああああああああああああん!!!! 「オウ、やったネ!?」 ジュディが喜んでいたのも束の間だった。 確かに、光属性に弱い魔神だが、今の魔神ブラストからしてみれば些細なダメージだ。 魔神は、空気をすう、と吸い込み、魔力を充満させる。 何かをしようしている……。 「させないネ! コード・ブレイク!!」 ジュディは、右手に付けた回線を引っ張り、「コード・ブレイカー」を発動させる! 魔神の魔術コードがぷっちり、と切られ、1回分の『魔神ブレス』が無効化された。 「おらおらおらー!! 援護するぜー!!」 ジュディの後方から魔炎の精が、「爆裂魔神剣」を連打する! 火と闇の魔神の力を借りた衝撃波動が魔神ブラストを襲う!! どかどかどか、どかあああああああああん!! 衝撃波が魔神の顔面で炸裂した! 「続いて、援護しますね!」 魔炎の精のさらに後ろから、エリスが「魔導ロケットランチャー」を撃ち込んできた! ひゅぅぅぅぅぅぅぅん! どっかあああああああああああ!! どかどかどっかあああああああああん!! ランチャーの砲弾は、魔神の心臓部で大爆発を起こした! 「やったか!?」 魔炎の精がそおっと近づこうとしたら……。 『きゃおおおおおおおおおおおおお!!』 「げげ、生きていやがった! ちっ、しまった、動きが!!」 ほぼ無傷の魔神は、突然咆哮を放つ! 魔炎の精とエリスは咆哮にはまり、動けなくなってしまった! ジュディは「スキル・ブレイカー」でMP吸収をしたので、なんとか防げた……。 *** 誰が何をどうやっても倒せない魔神。 焦るジュディたちだが、ここで逃げだすわけにもいかない。 動けるジュディは「ハイランダーズ・バリア」を張りながら、「シールド・ナックル」で肉弾戦を仕掛けることにした。 「タアアアアアアアア!!」 「きゃおおおおおおおおお!!」 ジュディの渾身の拳の一撃も、魔神は軽々と片手で弾き返してしまう。 魔神の弾き返した反動と衝撃で、ジュディ、魔炎の精、エリスは後方へ吹き飛ばされた! 「オー、ノー!!」 「うおおおおおおお!!」 「きゃああああああ!!」 ここで突然、戦局に異変が起こる……。 魔神が追って来ないのだ。 いや、彼は歩みを進めることができない。 彼の両足には、青いバラの蔦がピカピカと光りながら絡まっていた。 「こんな夜遅くにみんな集まって何してるんですかぁ! うるさくて全然眠れないですぅ。仕方ないから、ちょっとだけ手伝いますぅ」 天然植物系お姉さん・リュリュミア(PC0015)の登場だ! どうやら、最近、彼女はこの辺でキャンプをして暮らしていたらしい。 そして今、彼女の寝床が荒らされた危機により、魔神をこらしめに来たのである! 「びりびりとしながら倒れてくださいねぇ〜!!」 びりびりびり、ばち、ばちばちばち、どかあああああああああん!! 光のバラが発光し、熱と電気が流れた! 「うぎゃああああああああ!!」 さすがの魔神であっても、この攻撃には足をすくわれたようだ。巨体が地面に倒れ込み、尻もちをついてしまったようだ。 「ナイス、リュリュミア! チャンス、ネ!!」 ジュディ、魔炎の精、エリスが一斉に三方向から飛びかかった! シルフィーの光の精霊、「シューティング・スター」も星に乗って魔神の周辺をぐるぐると飛び回りかく乱している! リュリュミアも魔神の足元から、鞭を振るう! これではさすがの魔神もどこから攻撃が来るかわからない! 「きゃおおおおおおおおおおおお!!」 魔神は両手の拳を振り回してランダムに殴り始めた! これなら手当たり次第に片っ端である! 「ダークフレア・スマアアアアアアアアアアアシュ!!」 魔炎の精が上空から、上段で、魔剣を振り落とすが……。 ばちこおおおおおおおおおおおおん!! 「すまねえ! やられちまった!」 「ナゴヤアアアアアアアアア、シュウウウウウウウウウウウウティング!!」 らたたたたたたたたたたた!! エリスが魔導マシンガンで早撃ちの連続攻撃を放つが……。 ばちこおおおおおおおおおおおおん!! 「ごめんなさい! 無理でした!」 ついでに、ぱちこおおおおおおおおおん!! 「シューティング・スター」もぶっ飛ばされてしまった。 「このおぉ!! 大人しくやられなさいよぉ!!」 リュリュミアが光のバラの鞭をびゅんびゅん振り回すが……。 ばちこおおおおおおおおおおおおん!! 「あらぁ!? 魔神ってやっぱり強いのねぇ〜」 (ノー!! ソーリー、みんな! デモ、このゲームは、魔神を倒すことではないデース! ブラストを元に戻すことネ!!) ジュディは仲間たちが連続で飛びかかる瞬間、一緒に飛びかかるふりをして側面に回り込んでいた。 「ヘイ! ブラスト、カムバック(帰って来なさい)!!」 ジュディ、「賢者の石」をわずか数メートルの距離から、ぶん投げた! ぴかあああああああああああああああああああああ!! 「うぎゃあああああああああああああああああ!!」 魔神の右腹に「賢者の石」がヒットし、トロピカルに発色しながら、魔神の呪いがみるみると解けて行く……。 数秒後、ジュディの目の前には、あのブラスト・ゴールドブレイズの姿で、青年が倒れていた。 「ヘイ、ブラスト! ウェイクするね!(起きて!)」 「ん……んあ!? あれ、ジュディ!? なんで俺……!?」 どうやら、ブラストは魔神になった際の前後の記憶があやふやなようだ。 ジュディは、ブラストの気付のため、顔面を往復びんたした。 ばちばちばちばちばちーん!! 「いてえええええええ! わわ、ジュディ、いや、先生!! もう大丈夫です!! けっこうです! もう魔神にはなりません!!」 ブラストは、慌てふためいて抵抗する。 「オー、イエス!! 元に戻ったネ!! HAHAHA! このアンビシャス・ボーイ(野心に満ちた男の子)!」 ジュディは、ブラストのカムバックにニコニコしていた。 とことこと、背後からシルフィーがやって来た。 「終わったみたいだね……。じゃあ、あたしは部下二人とリュリュミアを『フェニックス』で生き返しておくね。それ終わったら、合流しよう。そろそろ他の戦局も決着がつく頃だろうし……」 ・第五節 UFO少女戦 UFO少女ドロシー(NPC)の200メートル付近には、三人が転送された。 探偵少女ヴィオレッタ・ベルチェ(PC0098)ではなく、怪盗黒兎が。 その付近には、ワスプのナイト・ウィングとティム・バトン(NPC)がいた。 「あれ!? ヴィオレッタさんは!? って、またあなた!?」 ティムは怪盗黒兎の登場にぎょっとした。 「おや!? 見慣れない顔ですぜい!?」 ナイトも突然現れた謎の人物を見て、きょとんとしていた。 「こほん! 実は、思うことがあって、ヴィオレッタは眠らせておいたわ! この戦い、なかなか興味深いのよ! 本国へレポートしたいから、あたしも参戦していいかしら!?」 状況が状況だ。 頼りにしていたヴィオレッタは眠らされたらしいし、他の戦局に援軍を求めるわけにもいかない。ナイトとティムだけでUFO少女と戦うのは、手に余ることだろう。 「いいですぜ! くれぐれもお互いに足を引っ張らないようにやりやしょう。あと、戦死しても自己責任ってことで了承頂けるなら、うちとしては、かまいやせん!」 ナイトが代表して、そう言うので、ティムは黙っていた。 怪盗黒兎も、「それでいいわ、よろしくね〜」と上機嫌だ。 「作戦があるわ! あたし、あのUFOの上に飛び乗りたいのよ! 援護してくれる!?」 特に戦略も秘策もあるわけではなく、ナイトとティムはひとまず怪盗黒兎の言う通りにしてあげることにした。 *** 「おらおらーー!! 行くぜ、UFO少女さんよお! ワスプ、突撃!!」 ナイトが「双子アリバイトリック」で分身して、二人になりながら、高速度で突っ走る! 「イエーイ!! ワスプ&黒兎、とつげええええええええき!!」 怪盗黒兎も楽しそうに、ナイトのすぐ後ろを走る。 「わーい! とつげきだあああああああああああ!!」 ティムも気分が乗ってきたようで、うきうきしながら最後尾で突っ走る。 『ピピピ……ピーゴロゴロゴロ!!』 もちろん、UFO少女としても、突然の奇襲に対処しないわけにもいかない! 「UFOビーム」で拡散攻撃!! ビーーーーーーー、ちゅどおおおおん! 「わー!! ナイトさーん!?」 ティムが突然叫ぶ。 ナイトがやられてしまったからだ! 「ははは! 心配無用! そっちはダミーですぜい!」 ナイトは「バラバラ殺人トリック」を使いながら、首なし死体になりながらも突っ走る! ビーーーーーーー、ちゅどおおおおん! 「うわっ、あぶね! こっち来たー!!」 ティムはレーザー攻撃を紙一重で避けた。 さすがにワスプ系のユニットは回避力が高い。 ビーーーーーーー、ちゅどおおおおん! 「あらよっと♪」 怪盗黒兎も難なくひらりとアクロバティックに回避。 威力の高い攻撃でも、くらわなければ問題はない。 「それ、飛び乗るわ☆」 「マジカルマジックハンド」でUFO少女を巻き付け、ぴょん、と怪盗が飛び乗った。 「ティム、パーツどれか取ってね!」 いきなりの指示が出て、ティムは即座に動く。 「とりゃあ! シーフ・ムーブ!!」 ティムは空中で回転しながら、UFO少女の甲板パーツをひとつ盗み取った。 しかし……。 「びびびいいいいいいいい!!」 UFO少女は急上昇して、甲板をつかんでいるティムを振るい落とした! 「怪盗さん、これ!!」 「はーい☆」 ティムがパーツをぶん投げ、怪盗が「マジカルマジックハンド」でキャッチ! ビーーーーーーー、ちゅどおおおおん! ビーーーーーーー、ちゅどおおおおん! UFO少女、ビームの連撃だ! 「うわああああ、いてえええええええええ!」 びびびびび!! どかああああああああああん!! ティムが直撃をくらい、感電しながら吹き飛んだ。 びびゅううううん!! びびびびいいいいいい!! 「ちっ、かすっちまったぜい!」 ナイトが足元にビーム攻撃を受けて、こけてしまった。 *** 怪盗黒兎はUFO少女の上に乗ることに成功した。 (多少の犠牲は出たが……) 一方のUFOは、怪盗を振り落としたいらしく、カクカクとムーブしている。 「ドロシーは仲間を助けたかったそうね。なら、少しくらいいいじゃない。あたしが誘導するわ☆」 何を思ったか怪盗黒兎、盗んできた「魔力召喚機」を手に取った! そして、自分のこめかみに銃口を当て、トリガーを引く! ばきゅううううううううううん!! ものすごい量の魔力が怪盗に充満し、燃え盛る! 「きゃっ!! なにこれ、すごすぎ!! すさまじい魔力が沸いてくるわ!!」 彼女は、ハイになるが、少し罪悪も感じるようだ。 「ま、まあ、ここは戦場だし、これは緊急手段よ! それに、あとでレポートにもなるし業務上の必要性からよ!」 怪盗黒兎は暴れているUFO少女の甲板に向かって、マギジック・レボルバーの火炎弾を撃ち込む! ばきゅううううん、どがどが、どっかああん、どっかああああああああああああああん!! すさまじい大爆発だ! 「魔力召喚機」で魔力が絶大にブーストされているので、マギジック・レボルバーの一発がこんなにも重く響くとは!? 特大級ダメージを受けて、UFO少女の動きが鈍った。 もはや素早くカクカク動けなくなり、直線状にふらふらと上方向へ飛んでいく! 「そっちじゃないわ! サード博士がいるあっちよ! それ、もう一発!」 ばきゅうううううううん!! ごおおおおおおおおおおおおおおおお!! 怪盗は、今度は、UFO少女に銃口を向けず、サード博士がいる逆方向に向かって、風の弾丸を撃った。 猛速度の風弾丸の反動を受け、UFO少女は、風圧に押され、サード・インパクト付近までぶっ飛ぶ!! どかかあああああああああああああああああん!! 『ぬおおおお!! なんですとおおおおおおお!!』 UFO少女とサード・インパクトが激突した! 怪盗黒兎は、爆発した反動で、上空へジャンプした! ちょうど今、サード・インパクトは、アンナを振るい落とした後、ナポレオン号と再戦していたところだ。ナポレオン号に気を取られている背後から、UFOの直撃を受けた! 「もう一発、ファイア!!」 怪盗黒兎、今度は自分がUFOへ落下する際に、ビーム噴射装置に向けて火炎弾を撃ち込んだ。 ばきゅうううううううん!! どがどがどが、どかあああん、どっかあああああああああああああああああん!! UFO噴射装置が爆発で破壊され、そのままビームがサード・インパクトへ向かって、直線状に誤って射出された!! びびびびびいいいいいいいいいい!! どかどか、どっかあああああああああああああああああん!! 「やったわ! これでサード・インパクトも相当なダメージよ!! それ、おまけの甲板パーツもあげるわ!」 怪盗黒兎は、先ほどティムが盗んだパーツを装甲部分のすき間めがけて投げておいた。これで爆発がさらに加速することだろう。 「さて、このまま爆風を利用して、ナポレオン号にでも飛び乗って、撤退しよ……え? あれ? なんか、ふらふらする……きゃああああああ!!」 「魔力召喚機」の後遺症がさっそく出たようだ。 怪盗はふらつき、付近の森へ落下してしまう……!! ・第六節 サード・インパクト戦(後半) 「てえへんだ、てえへんだ!! 誰か手が空いている人、助けてくれー!! ともかく大変なんですぜい!」 ナイトが血相を変えて、大急ぎで走って来た。 もっとも、足をケガしているようで、よろよろと走って来たのだが。 「ナイトさん!? どうされましたの!?」 マニフィカがナイトに駆け寄り、問い質すが……。 「おそらく、あれのことだね!?」 未来は、上空へ人差し指をさした。 上空では、ちょうど今、UFO少女とサード・インパクトが激突したりして、大爆発を起こしたところだ。怪盗らしき少女が魔銃を撃って誘導し、どこかへ飛んで行ってしまったようだが……。 「そう、そうなんすよ、未来ちゃん! ヴィオレッタの代わりに怪盗黒兎とかいう奴が現れてね……一緒に戦ってくれたんすが……。どうもこの様、我らワスプチーム、やられちまいやした!! すんません、これでUFO少女とサード・インパクトの二機を相手にすることになっちまったようですぜい!」 上空では、UFO少女とサード・インパクトが大勢を立て直していた。 UFO少女は自動回復機能があるので、みるみると再生していく。 一方のサード・インパクトは、それなりのダメージを受けたようだが、まだまだHPは尽きないようだ。 ナポレオン号は、威嚇射撃をして、距離を測っている。 「ナイトさん……。あなた負傷されていますし、空中戦は専門ではございませんでしょう。ここは、わたくしにお任せください!」 マニフィカが申し出た。 「わたしも行く! わたしとマニフィカであのUFOをなんとかする!!」 未来も進んで引き受けてくれたようだ。 「ああ、すんません、色々と。あ、これ、『賢者の石』、渡しときますよ。未来さんの方でいいですかい?」 未来は、ナイトから「賢者の石」を受け取った。 マニフィカが「魔竜翼」を備え付け、未来が「魔白翼」を背中に付けた。 *** 風のオーブで、猛速度で、魔法少女未来が突っ込んできた! 「UFO少女!! かんに〜ん!!」 現れるや否や、「ウィンドカッター」で速攻攻撃! UFO少女の周辺を、ブースト加速で、ぐるぐる回りながら、風の刃を撃ち込み続ける! びゅん、びゅんびゅん、かきいいいん、どっかああああああああん!! 「ピー、ゴロゴロゴピー、ビビビビビ!!」 UFO少女も抵抗し、「UFOビーム」を拡散しながら、未来を叩き落とそうとする! ばちばちばばち、びりびりびり、ごごおおおおおおおおおおお!! 下方から、「とあるイースタンの激・電磁砲」が撃ち込まれた。 電磁砲の直撃にUFOがクリーンヒット!! どっかあああああああああああああああああん!! 未来が下方を見ると、ジュディが両手を振っていた。 (ジュディ、サンクス! でも、マニフィカ!! 早く!! わたし、連戦で、もう魔力が!!) 未来は魔力切れになるぎりぎりの線まで変化球の飛行を続ける。 そろそろ尽きる頃……。 びゅううううううううううん、ちゅどおおおおおおおおおおおおおおん!! どかどかどか、どかあああああああああん!! 猛速度のハヤブサがUFO少女めがけて突撃し、突貫し、大穴をあけて飛んで行った! マニフィカである。 マニフィカが、「ブリンク・ファルコン70%(+ファルコンバッジ)」に加え、「リリのクッキー」で物理力2倍&「聖アスラバッジ」の魔術系スキル威力2倍&『魔導動物概論(魔牛編)』の特大物理ダメージ追加……の最強コンボ突撃攻撃を放ったのだ!! (マニフィカ、ナイス!! はあはあ……これで最後、がんばれ!! えい!!) 未来は、魔力が切れてふらふらと飛行する中、力尽きて落ちて行くUFO少女に向かって「賢者の石」を投げつけた。 石がUFOの甲板に、こつん、とぶつかると……。 ぴかあああああああああああああああああああああ!! トロピカルな光と共に、UFO少女は、魔導科学生のドロシーの姿へ戻って行く! だが、ここは上空だ!? びゅううううううううううううううん!! 空中を飛んで戻って来たマニフィカが、未来とドロシーを回収し、森へ無事着地した。 *** 未来たちがUFO少女を相手に戦っていた頃……。 サード・インパクトとナポレオン号の戦いも決着がつきかけていた。 『がはは! その程度ですか、科学的革命残党分子は! 次で、とどめですな!』 サード・インパクトもそれなりに損傷しているが、まだまだ余裕のようだ。 「ボスー!! やられちまいますよ!!」 「うるせえ! 負けるもんか! リペアキットの用意!」 「すんません、ボス、それさっき、使い切ってしまいやした!!」 「ああ、どうしよう、ボス!? 俺らもうおしまいだー!!」 対するナポレオン号はもうぼろぼろだ。 「サイエンティフィック・フィールド」も尽きた。 リペアキットもなくなってしまった。 分子の老人たちもメンタルが弱ってきた。 ところでこの操縦室、デッキでの戦闘が終わったビリーたちも一緒にいる。 ビリー、トムロウ、トーマス、コーテスが事の成り行きを見守っている。 サイレンスとスライスは負けたので捕虜になっている。 ジェームスとドニーも捕虜のままだ。 「なあ、こっちは捕虜が四人いるんだろう? だったら捕虜の解放を交換条件にサードに降参するよう言ったらどうだ?」 トムロウが提案すると、サイレンスは、わはは、と笑い出した。 「無理だな。博士は極悪非道な方だ。仮に俺たち捕虜を殺すと言っても、『あら、そうですか。では殺してくださいな。敗者は切り捨てますんで』とか言い出すだろう」 ヴァイスもニヤリとして相槌を打つ。 「わりいが、その通りだ。サードは外道に落ちたマッドサイエンティストだ。捕虜を見殺しにぐらいするだろう。それよりも、だ!! おい、誰か!! アイデアないか!! このままだと負けちまう! 死んじまう!!」 慌てふためいている革命老人たちをなだめるように、ビリーが恐る恐る挙手する。 「なあ、ヴァイスさんたち……。この船の最強の武器って、『グラビトン・ミサイル』やったな? あれ、まだあるかいな?」 突然の申し入れに驚いた革命老人たちだが……。 分子の老人が、指で2本を出した。 ヴァイスがビリーへ確認を促す。 「おう。最後の2発ならあるぜ。で、どうすんだ?」 「ここで『ビリー雷撃隊』をやるねん! 要は、ボクとボクに分身した異次元獣のジューベーの二人で、爆弾抱えて、テレポートして、敵の動力炉に爆撃するんや!」 操縦室が、ざわざわとうるさくなった。 「ちょっと待って、ビリー君!! そんなことしたら……もし、失敗したら……君は!!」 コーテスが焦って止めようとするが……。 「心配はご無用やで! 以前にもサウザンランドの沖で大タコ相手にやったことあるで! それに今、誰かがこの状況を変えんと、やられるのを待つだけになるで!」 船長であるヴァイスがうむ、と頷いた。 「すまんな、ビリー。では、それに賭けてみるぜ! おい、分子ども! 『グラビトン・ミサイル』の用意しろ! ビリー革命の始まりだ!!」 「あいあいさー!」 ヴァイスと分子たち一同は、座りながらビリーに敬礼した。 *** 『行っくでええええええええ!! ビリー雷撃隊、とつげええええええええええき、やんけええええええええええええええ!!』 『続いていくでえええええええええ、ほな、もうかりまっかああああああああああ!!』 オペレーション「ビリー革命」が開始された。 「グラビトン・ミサイル」2発に、それぞれビリーとジューベーが抱きかかえるかたちでセットされ、発射された! ナポレオン号が感知したレーダーによれば、敵の動力炉は顔型ロボットである顔の真ん中、ちょうど鼻の部分になる。そこをめがけて、2発の重力波爆弾が猛進する!! 『がはは! 無駄な抵抗ですな! 犬死だということを教えてやるですな! 『サード・ボム改』で爆死するですな!』 しかし……。 ぼふん、ちゅどおおおおおおおおおおおおおおん!! ボムの射出口が自爆した! 先ほどアンナが手裏剣で射出口に細工したのが効いたらしい! 怪盗黒兎がぶん投げたパーツも効いているだろう。 一方、ビリーたちは……。 機体の前には、シールドが張られているが……。 『そあらあああ! シールド、ぬけるでええええええ、神・足・通!!』 『ほな、続いていきまっせええええええええええええ!! 神・足・通!!』 びゅううん! 続いて、びゅうううん!! 二人が消え、サード・インパクトの鼻の真ん前に現れた!! 『ほな、さいなら!!』 『そら、かんにんな!!』 ぐぃいいいいいいいいいいいいいいん!! 重力波の鈍い波動が鼓動する! ひゅうううううん、どっかあああああああああああああああああん!! ちゅどおおおおおん、どかどか、どっかあああああああああああああああん!!!! 『グラビトン・ミサイル』がサード・インパクトの動力炉めがけて、2発同時に大爆発を起こした! 爆破が起こる瞬間、ビリーとジューベーは「神足通」でテレポートしたが……。 爆風があまりにもすさまじいので、テレポートの感覚と位置が狂い……。 「ぐはあ……。燃え尽きたねん……!!」 「ほな、こんなんでましたー!! おおきにー!!」 ビリーとジューベーは、付近の森の木にひっかかり、ショートオールが宙づりになってしまったようだ……。 *** 地上では、萬智禽率いる砲撃部隊が編制されていた。 基地の処刑台があった中央は、今や風紀モブたちが「中距離魔術攻撃砲車」の陣形を組み、最後の戦いの用意をしていた。 陣形の先頭には、土組の十人が「ゴーレム」を召喚し、防壁を造り上げた。 前線には、火炎組の十人が「フレアキャノン」を砲撃する準備を整えた。 火炎組の後ろには風組の十人がいる。風組は、「クイック」で攻撃速度を上げた上、「ウィンドボール」の連弾を撃つ手はずである。 風組の後ろには水組の十人がいる。この組は「ウォータボール」を撃つつもりだが、火力は弱い。そこで、水組の後方にいる無属性組の十人が「魔力アップ」で支援する。「魔力アップ」した「ウォータボール」を水組の十人が狙撃するのである。 最後尾には、萬智禽とスノウがいる。二人は指揮官だ。特に萬智禽の方は、『兵法』220%(数値修正済み)の実力を誇り、軍師としての実力も確かだ。 なお、モブたちの陣形は、一列につき十人の五列態勢で直線状に並んでいる。 さて、空中戦だが……。 現在、UFO少女が元に戻され撤退し、ビリー雷撃隊の「グラビトン・ミサイル」2発がサード・インパクトに撃ち込まれた時点だ。 サード博士は既に動力炉も破壊され、友軍も全員倒されたので、絶体絶命だ。 もはや、後がないはずだが……。 『くはは、ですな! いいですな、いいですな、クライマックス、ぞくぞくしますな! ですが、残念ながら、諸君の負けですな! このサード・インパクトには、とんでもない切り札があるのですな! これでお別れですな! 『サード・ジ・エンド』、発射ですな!!』 空中からは、全弾発射攻撃が、地上にいる萬智禽の軍勢を狙って飛んでくる!! 一方、軍師・萬智禽は、恐れるどころか平然とし、大声で怒鳴る。 『皆の者ー!! 脅しには乗るな!! 要は、攻撃を受ける前にこちらが撃って相殺し、やっつけてしまえば、勝ちである!! 先手必勝の法則なのだよ!! さあ、行け、我が勇敢なるモブ兵士たちよ!! オープン・ファイア! オール・ウェポンズ!』 スノウも指揮系統を補佐、叫ぶ。 『風紀委員長として命令します!! 全員、突撃、連撃、猛攻撃!! 作戦コードは、『攻撃しか知りません!!』』 スノウが「風紀委員長命令」の特殊スキルを放つと、モブたちが輝きだした! 全員の攻撃力が3倍増しになった! |
『オラオラオラ!! 土組のど根性見せてやれ!! 僕らの合わせたゴーレムで防ぎきれないもんなんてあってたまっかよー!! どりゅあああああああああああああ!!』 ゴゴゴゴゴゴゴオオオオオオオオ!! どかどか、どっかあああああああああああ!! 最前線の土組によるゴーレムの結界で、敵弾が次々と無力化されて行く! 『ファイアー!! 命ある限り、ファイアー!! 燃やせ、燃えろ、燃え尽くせ!! 俺ら、火力の火炎組、大爆発!!』 火炎組の「フレアキャノン」が空中のサード・インパクトと全弾攻撃めがけて、大爆発を起こす!! どかどかどか、どかあああああああああん!! ちゅどおおおおおん、どかどか、どおおおおおおおおおん!! 『火炎組に続けー!! あたしたち風組は速度で対抗!! 風の弾丸で全ての敵弾を撃ち落せー!! サードも撃ち落せー!!』 びゅんびゅんびゅん、びゅうおおおおおおおおおお!! どっかあああああああああああああああああん!! 『風組に続くわよー! 水組、魔力の上がった水弾で、流れ弾を相殺!! ついでに、サードも狙撃するわよー!!』 『水組を援護しろー!! 無属性組、全員、前方の仲間を『魔力アップ』だああああああ!!』 びゅるるるるるるる、ぴびゅううううううううううん、 どっかあああああああああああああああああん!! これだけ火力対火力の壮絶な応酬をしているものの、やはりサード・インパクトの方が火力は強い。 もっとも、そんなことは、萬智禽は計算済みだ。 「そういえば、萬智禽さん。ゴーレムや相殺も効いているんでしょうけれど……本当に敵の弾丸が当たってこないわね!?」 驚くスノウに向かって、巨大目玉は、上を見ろ、と目玉で促した。 「あ、これは!?」 そう、空中には、そこにないはずの「サード・シールド」が張り巡らされていた。 「ふはは! こんなこともあろうかと、先に設置しておいたのだよ。奴のシールドを『コピーイング』して、それを有効活用させてもらったのだ!」 *** サード・インパクトへの集中砲火を他の戦局の組が黙って見ているわけもない。 「おいおい、なんかすげえことになってね?」 ブラストは、科学対魔術による激しい攻防戦を見て、目を丸くした。 「よっしゃあ! 俺らも加勢するぞ!! 元魔神も植物姉さんもみんな手伝え! そりゃあ、『爆裂魔神剣』、行っくぜえええええええええええええええええ!!」 魔炎の精は、魔剣をぶんぶん振るいまわし、魔の衝撃波をサード・インパクトめがけて撃ち込んだ! 「まあ、魔炎の言い方は癪(しゃく)に障りますが、あのロボ、気にくわないので、やってやりましょう!」 エリスは、「魔導ロケットランチャー」を構えて、ランチャー砲撃を炸裂させる。 「うふふぅ。なんかみんなで楽しいわねぇ〜! ケセラセラァ〜!!」 リュリュミアは、「ブルーローズ」を爆弾仕様に組み替えて、青バラの爆弾をぶん投げた。サード・インパクトめがけて、バラの弾丸が何発も撃ち込まれる! 「ええと!? とりあえず、あれを撃てばいいんだな? だがよ、俺、消耗しているんで、デフォの攻撃しかできないが……」 「おい、元魔神!! いいからおまえも撃て!」 「わーったよ、マッチョの精! そらああああああああ、おらおらおらーー!!」 ブラストも何が何だかわからず、魔弾をタクトで撃ち込むことにした。 「あーあ。こんなことならあたしも火力のある精霊持って来ればよかった。ねえ、ジュディは撃たないの?」 シルフィーの問いかけに、ジュディは何かを考えていた。 「シューティングも、ナイス、ネ!! デモ、ジュディ、気になるコトが……」 そこにレインが走ってやって来た。 「皆さん、大変です! ひとつ、忘れていませんか!?」 シルフィーは、ジュディとレインの答えをうずうずと促した。 「そう、ジュディもそれ気にしていましたデース。サード博士ですヨ! サード・インパクトを倒したとして……サード博士はその後、どうするのデショウ?」 「そうです! 早く! 捕まえないと!! 例えば、飛行か転移の手段は……ありませんか!?」 焦る二人にシルフィーは、「カメレオン」を召喚してあげた。 「これに乗りなさい。この『カメレオン』は、空間移動はお手の物。いわゆるテレポートができるんだよ!」 「サンクス、シルフィー、レンタルするネ!」 「ありがとうございます、シルフィーさん!」 ジュディとレインは、「カメレオン」に乗って消えてしまった。 *** ナポレオン号の操縦室はにぎわっていた。 「よっしゃあ! ビリー、でかした! これでサードの野郎も大ダメージだ!!」 ヴァイスが喜んでいたところ……。 「げげ、ボス!! 大変ですで! サードの奴、やけになって全弾発射とかやりやがりますよ!! こっちにも弾丸が来ます!」 「もうフィールドもありませんぜ!」 ヴァイスは、眼光がぎらりと光った。 「大丈夫。新しいフィールド、あるぜ!!」 *** デッキ上では、コーテス、トムロウ、トーマスの三人が立っていた。 「おい、全弾発射、来るぞ!! 撃ち落せ!!」 トムロウが、「スパイラル・激・電磁砲」で応戦する。 トーマスも、ホムンクルスやゴーレムと共に、「ストーンボール」で追撃する。 だが、数が違い過ぎる……!! 『スキイイイイイイイイル・ブレエエエエエエエエエエエエイク!!』 コーテスが両手をかざし、迫り来る弾丸の集中攻撃を一撃でかき消した! 「ふう……。なんとか、凌げたようだね……」 コーテスが脱力する。 「よっしゃあ! さっすが、コーテス!! もう勝ったも同然!!」 気がはやるトーマスだったが、トムロウは戦場を凝視していた。 「おい、サードの野郎に向かって全員で集中砲撃しているみたいだぜ! 俺らもやるぜ!」 トムロウが二丁拳銃を構え、再びスパイラル状の電撃攻撃を放つ。 トーマスも続いて、ホムンクルスやゴーレムと黄金弾や土弾を撃ち続けた。 「それ、これでも投げておこう!」 コーテスは、スノウ委員長からもらった特大ダメージ「護符」をサード・インパクトへ向かって放り投げた。 デッキの下では、ナポレオン号が、「リニアレールガン」を何発も連撃していた。 *** ほぶん、ぶすん、どっかかああああああああん!! ばふん、ばふん、どかどかどか、どっかあああああああああああ!! どがどがどがどが、どっかああああああああああああああああああああああん!! サード・インパクトが集中砲火を受けて大爆発を起こした。 誰もが、サード博士を倒した……と、思ったその瞬間!! 『がーははは! 今回はロボがやられてしまいましたが、この勝負はお預けですなー!! さらばですなー!!』 サード博士は、コクピットをロケットにして、大爆発を起こすサード・インパクトから離脱し、空高くへ飛んで行った! 『ノー!! ユー・キャント!!(そうはさせないわ!!)』 上昇するコクピットの上方から、レールガンが電撃をうなりながら落ちて来た! どっかああああああああああああああん!! 『うぎゃああああああ!!』 破壊されるコクピットの中に、今度は、ネズミが沸いた! 「チー、チー、チー!!」 そしてネズミたちが爆発を起こした。 どっかああああああああああああああん!! 「ぐはあ……!! なんたること……死にますな!!」 燃え盛り、破壊されていくコクピット・ロケットの中へ、ジュディが乗り込んできた! すぐ近くには、レインが「カメレオン」を操縦して浮いている。 「ヘイ、フォニー・ドクター(インチキ博士)! 逮捕ネ! ポリスに引き渡されて、罪を償うネ!」 「ややや、嫌ですなー!! ワシは、まだまだ色んな悪事をやるんですぞー!!」 ジュディは、サード博士をぶん殴って気絶させた上で、「カメレオン」に連れ込んだ。 「ひとまず……黒幕確保で、一件落着ですね!」 レインもほっとため息をついた。 「フウ……。これで終わったヨ……。長い事件だったデース!!」 ジュディもぐったりしたサードを抱えながら、安堵して帰還するのであった。 ★最終章 「3番目の魔術師事件」に判決が下る ・第一節 学院長、判決を下す サード・インパクトが撃破され、サード博士の身柄も確保されたことにより、長いようで短かったこの戦いにも終止符が打たれた。 レインとジュディがサードを確保したと同時に、マギ・ジス警察がパトロール・ホウキに乗って現場へ現れた。正確には、警察はもう少し早い段階でサード基地には着いていたのだが、風紀委員会たちの作戦や戦闘を見守るかたちで待機していた。突入のときを待っていたのである。 サード博士は警察に引き渡された。後日のことだが、サード博士は今回の事件(魔力召喚機密輸罪・複製罪・使用罪・教唆及び内乱罪)と今までの余罪で告訴され、終身刑の懲役刑が下った。おそらく、風紀委員会たちは、もう二度とサード博士と表で遭遇することはないだろう。 決戦を終え、警察に現場の後処理を任せた後、風紀委員会と仲間たちはナポレオン号に乗り込み学院まで帰還した。TMの学生たちも警察に引き渡すかどうか議論が出たが、警察官によると、アスラ学院長の伝言で、「TMたちも学院へ連れてくるように」とのことだった。 一同が学院へ戻ると、学内の騒乱も決着がついていた。アスラ学院長(NPC)、マープル先生(NPC)、ウォルター先生(NPC)、バードマン先生(NPC)の四人で数十人もいた暴徒学生たちを鎮圧したらしい。(夜間学部や大学に残っていた先生たち他数名は、避難誘導のみを行った)暴れていた学生たちは、今回を機に、「魔力召喚機」など、ずるをして強くなる手段は賢明でないことを学んだ。そして、教員たちが本気を出した際の圧倒的な力を見せつけられたので、以後、悪だくみはしなくなったそうだ。 さて、物語は、関係者たちが深夜の体育館に集められたところから再開する。アスラ学院長は、体育館のステージ中央に上がり、判決を読み上げた。 『本件、仮に『3番目の魔術師事件』とでも呼んでおこう。風紀委員会をはじめとする各自の本件への対応、大変ご苦労であった。学院長として皆に礼を言おう。そして、『魔力召喚機』の入手にかこつけて暴れていた者たち、猛反省を求める。学院長として裁きを下したい。では、今から関係者全員に対して判決を下す。今、体育館にいる全員、しかりと聴くように! まず、事件を解決へと導いた風紀委員会。スノウ委員長、コーテス副委員長、トーマス委員、レイン委員をはじめとする風紀メンバー全員。そして、風紀協力者の高等部アンナ・ラクシミリアと姫柳 未来。教員のジュディ・バーガーと大学部のマニフィカ・ストラサローネ。さらに、外部からの戦力提供者たち。現代魔術研究所のシルフィー隊長並びに部下のビリー・クェンデス、萬智禽・サンチェック、魔炎の精、エリス。ワスプのナイト・ウィング、ティム・バトン、ヴィオレッタ・ベルチェ、ここにはいないが謎の怪盗。無所属のリュリュミア。イースタ大学の学部生トムロウ・モエギガオカ。科学的革命残党分子の指導者ヴァイス・フォイエルバッハと彼率いる分子一同。 学院長として、感謝の言葉が尽きないことをここで申し上げておく。ありがとう、君たちのおかげでこの学院の平和と風紀は守られた。この者たちには、学院を代表する者として、後に感謝状と報奨金を贈呈する。特に報奨金の方は、各自の働き分に応じて差額があることは了承すること。 次に、事件を起こした者たち。黒幕であるドライセン・サードは既に警察へ引き渡している。おそらく終身刑か死刑でもう外には出られないので私の方からあえて言うことは何もない。なお、彼が密輸して複製したと思われる『魔力召喚機』は警察へ証拠品として引き渡した。警察の方で封印し、厳重に保管するとのことだ。そして、サードに教唆されて事件を起こしたTMの学生たち。サイレンス・ドロンズ、スライス・ウィンドショット、ドロシー・ドレイナー、ドニ―・メタファーマン、ジェームス・ゴーストソン。TMに便乗して暴れたブラスト・ゴールドブレイズ。『魔力召喚機』を使用して夜の学院で暴れた夜間学部のジョン・マックスマン、ラリー・ジェフソン、アマンダ・タイタンフォール……以上30名。当時、学院での居残り勉強を抜け出して夜間学部の暴走に便乗した者たち。黒魔術学部のオリバー・ブルータス、赤魔術学部のセイラ・ラズウェル、魔導科学部のアラン・スターライト……以上20名。 これらの者は、本来であれば警察に引き渡され、罪を償うこととなる。だが、マギ・ジス少年法の特例によれば、学生である場合、所属学校の学長、すなわち本件では私、が学生たちの更生を司法に誓い、学校側で処罰と更生の対応を設けるのであれば、逮捕と裁判は免除になる。本件の場合、今、『事件を起こした者たち』で名前を出した学生全員に一か月の停学を命じる。なお、停学中は私とマープル先生指導のもと、更生するための強化合宿に強制参加すること。先ほどの学院での戦闘中にも同じようなことを言ったが、改めて言いたいことがある。『貴様ら、その程度で聖アスラの学徒か! 我が校の学生か! 貴様ら全員、根性も魔術も一から叩き直してやる!』以上がまず、処罰と更生について。 ところで、『魔力召喚機』は後遺症が深刻だが、現代の医療魔術も進歩しているので、寿命の削減について対応策がないわけでもない。『魔力召喚機』を使用した者全員、明日からマープル先生の治療を受けて、回復に努めること。そして、本日より三日後、早朝六時に学院の門前集合。強化合宿を学院内の合宿施設で開始する! それと、言い忘れてはならないことが他にもある。この事件は基本的に傷害事件だったとは言え、多数の負傷者を出してしまった。加害者側である学生諸君は、後日、謝罪の反省文を学院側と被害者たちに必ず提出すること。被害者たちの治療費などの補償は学院の財政で負担する。 最後に、教員たちの本件での関与についても述べておきたい。マープル先生とバードマン先生、ご苦労様。特にバードマン先生の方は、風紀を助けるため、事件中での幾度に渡る戦闘での関与、大変感謝する。この二人には私の方から後日、感謝状と報奨金を出そう。そして、ウォルター先生、貴殿に対しては今回の事件、私の方でも色々と思うことがある。だが、事件解決のため、先ほど、学内での騒乱を鎮圧するために戦ってくれた件は評価しよう。貴殿には感謝状と報奨金はない。逆に、学外追放などの重い処罰もない。一か月の停職を命ずる。停職中は、強化合宿に強制参加すること。強化合宿では、鍛え直す側の教員としてではなく、鍛え直される側の学生たちと同じ立場で参加すること。 もっとも、今回の事件を受けて、学院側には全く非がなかったと、うそぶくことは、私にはできない。本件が起こってしまったそもそもの原因は、学院側のシステムに問題があることは弁解しない。本件以後、明日より、学院は魔術偏差値至上主義の教育方針を改めることをここで約束しよう。例えば、魔術に関する各検定があるが、以後、検定結果の名前、順位、点数の公表は控えよう。検定結果も順位を競うのではなく、合格か不合格かの二択のシステムとなす。もちろん、自分の順位や点数を知りたい者たちには、学院は情報を隠すことなく開示する方針だ。また、魔術検定や学部成績の順位から優位に就職できるシステムも改めたい。本学の学生たちは魔術師が中心だが、学生たちひとりひとりの魅力は魔術の成績だけではないはずだ。以後、魔術以外の人間性なり仕事の適性なり将来性なりを考慮に入れて、就職活動の際の内定には気を配りたい。 以上が『3番目の魔術師事件』の判決である。では、これにて解散! また、明日から共に、学院で学びあおう!』 ・第二節 それぞれのエピローグ 学院長が判決を下し退場した後、体育館内で残った者たちがざわざわと話し始めた。 では、ここで風紀協力者たちのその後について、ちょっと触れておこう……。 *** 学院長退場後、とある教員が体育館へ入って来た。 彼の名は、ヘイスティング先生(NPC)。年配の高校教師だ。 「ええと……。姫柳さんとラクシミリアさんは!? あ、いた、いた!!」 「あら、先生ですわね!?」 「ん? なぜここに先生!?」 アンナと未来は、ホームルームの担任の先生の登場に驚いていた。 「よかった! 二人が無事でよかった! 今回、風紀の方で大変な事件が起こっていると聞いてね、実は、高等部の教員一同、心配していたんだよ!」 「あらら……。それはご心配おかけして申し訳ありませんわ。まさか、この事件、こんなに大規模で長引くものだと思っていなかったですから……」 アンナがペコリと頭を下げる。 「先生、心配かけてごめん! でも大丈夫! わたしたち無事だし、犯人も逮捕されたから!」 未来もアンナと共に謝る。 そこにスノウがやってきた。 「アンナさんと未来さんの高校での先生ですね? 風紀委員長のスノウ・ブロッサムです。こんな夜分遅くまで、お二人をお借りして申し訳ありませんでした。まさか私もこんな大変な事件になるとは当初、思っていませんでしたので。謝罪の言葉もございません」 スノウも先生に礼儀を尽くし、謝る。 「いえ、とんでもございません! 風紀委員会の皆さんがこうしてしっかりされていますから、我々教員も生徒たちを預けることができたのです! これからも姫柳さんとラクシミリアさんがお世話になることがあるかと思います。風紀委員会での経験は、二人の将来にとっても、プラスとなることでしょう。今後とも、よろしくお願いいたします!」 ヘイスティング先生もスノウへ礼のお辞儀をした後、アンナと未来を引き取り、体育館を去るのだった。 *** 「つーか、さ。わりい。悪かった!! すまん! コーテス、ジェームス、ジュディ先生、その他……。まじ、ごめん!」 意外にも、ブラストから謝り始めた。 もちろん、頭なんか下げない平謝りだが。 「いや、俺も悪かったぜ……。すまん! 皆さん、すんませんでした!」 ジェームスも平謝りだが、頭を下げた。 「その……。俺が一番悪い……。TMのリーダーだしな。特にその、コーテス……すまん!!」 サイレンスも平謝りっぽいが、この中では一番心がこもっているかもしれない。 「いや……。僕が……一番悪いさ。風紀委員会副委員長なんて大層な肩書を持っていながら……学院内で苦しんでいるみんなの声を……聴いてあげられていなかったんだから! みんな、ごめん! 僕も合宿、出るよ!」 コーテスが頭を下げて謝ったところで、このやり取りを見守っていたジュディが全員の手を取り合わせた。 「ヘイ、ここにいる全員、お互いにソーリー、ネ! みんなひとりひとりがバッド(悪い)! ジュディも、ティーチャーとして、ユーたちに向き合えなかったから、共にバッド(悪い)! デモ、これで和解するネ!! ジュディも合宿は、鍛える側として参加するデース!! みんなで一緒に合宿して、強くなって、本当の仲直りネ!!」 ともかく、このグループも、合宿明けには何かしら分かり合うことができそうだ……。 ちなみにトムロウだが、勝手に大学と異文化交流委員会を抜けてきたようで、かんかんに怒ったサクラ(NPC)に連れ戻されたようだ……。 *** そのやり取りを見ていたトーマスとドニ―は……。 「先輩……。その、今さら信じてもらえないかもしれないけれど……ごめんなさい!」 ドニーは、トーマスに頭を下げた。 「いいさ、ドニ―。君をTMにしてしまったのは、先輩である僕の責任でもある。よし、僕も一緒に合宿に出よう! 僕も実力的にまだまだだ!! 共に鍛え合おうよ!!」 トーマスは、にこりと返す。 ドニーは、にやりと笑った。 どうしても彼らは、こういう性格のようだ……。 なお、スライスとテレサ・イーグルアイ(NPC)も同学部の知人であるので、二人とも和解したようだ。ドロシーに関しては、ちょっと深刻に治療が必要なので、マープル先生が保健委員会のもとへ連れて行った。 *** 「ははは……!! この私が停職処分で強化合宿参加だと!! 学院長は何を考えているんだ!! この事件を解決したのは、私の推理があってこそのものだろう!!」 ウォルターは、退場していく学院長に向かって中指を立て、悪態をついていた。 「まあまあ、先生! 先生のご活躍は、バードマンはじめとする、魔導動物学研究室一同、存じ上げております! 気を取り直してください! 先生がいない間の一か月、私が学生たちを指導します! ついでに教授職も私がやっておきますから、安心して合宿へ行ってください!」 バードマンは、励ましているつもりだが、逆にウォルターは落ち込んだ。 「まあ、先生……。わたしが一番恐れていた放校処分にならなくて……よかったじゃないですか! 先生、合宿中、応援に行きます!! 先生の大好きな食用ネズミのサンドイッチを持って、駆けつけます!!」 レインの励ましは、ウォルターにクリティカルで効いたようだ。 「きゃっほい!! 食用ネズミのサンド、あれ、美味いんですよね〜!!」 浮かれているウォルターを陰に、バードマンが今度は落ち込んだ。 「いいなあ、ウォルター先生は……。レインさんがいて……。人気があって……。私なんか、誰もサンドイッチ作ってくれやしない! ちきしょう、この年で独身、彼女なし!! 研究命!!」 そこに天然人魚姫が、よくもわからず励ましの言葉をかける。 「バードマン先生、落ち込まないでください! わたくしが、白身魚のサンドイッチを作って差し上げますわ!」 「マ、マニフィカさん……!! あなたは、人魚天使だ!!」 バードマンは両目から滝のような涙を流して感謝したのであった。 *** ワスプチームは、もめていた。 「で、ヴィオレッタ!! どこに行っていたのか、説明してもらいやしょうか!?」 ナイトが、ヴィオレッタに詰め寄る。 「それ、僕も説明願いたいですね! ヴィオレッタさん、今回のみならず、度々、どこへ行っていたのですか!?」 ティムも詰め寄る。 「そ、それは……。怪盗と戦っていたのさ!! 現にボクは、二度も『魔力召喚機』を取り返したじゃないか! 証拠品を無事に取り返し、警察へ提出できただけでも、ボクの働きは十分じゃないか!!」 ヴィオレッタも真剣に弁解する。 「ま、一件落着しやしたけれどね……。そもそも、我ら、冒険者ギルド・ワスプというのは、働きバチの集団のごとく、チームワークの熱さで勝負するギルドですぜい! それなのに、あんたはなあ……!!」 ナイトのお説教は続きそうだ。 「あ、怪盗だ!!」 ヴィオレッタが、明後日の方向を指さして叫ぶ。 「え? どこですかい?」 「え? また来たか!?」 ナイトとティムがきょろきょろと探すが……。 「お先にー!!」 ヴィオレッタは、猛ダッシュで体育館外へ逃げた。 「こらー!! 説教終わってねえぞー!!」 「待てー!!」 ナイトとティムも猛ダッシュで走り出した。 *** 現代魔術研究所チームは、胴上げをやっていた。 「イエーイ、ビリー、目玉、やってくれるじゃねえか、この野郎!!」 魔炎の精が二人を持ち上げた。 「それー!! お祭りなのですよー! 大勝利なのです!!」 エリスも一緒になってロボ力で持ち上げる。 「うむ、二人ともよくやった! 胴上げのご褒美だよ!!」 シルフィーは、ゴーレムを召喚し、二人を持ち上げた。 「ひえー!! うれしいけれど、目回るやん、これ!!」 ビリーはぐるぐると空中で回転していた。 「うぎゃー!! おい、魔炎殿! 目玉部分が熱いのだよ! それと変なところ触るななのだ!!」 萬智禽もぐるぐるになって回転していた。 そこに風紀モブたちがやって来る。 それぞれ、火炎組、風組、水組、土組、無属性組の代表学生五人が前に出た。 『軍師・萬智禽先生に敬礼!! 感謝の気持ちを込めて、我々も胴上げに参戦する!!』 『おー!!』 モブたち五十人がそろい、みんなで巨大目玉と座敷童子を胴上げする祭りになった。 「ぬおー!! モブ殿ら、私をぐるぐる回して感謝って……他にやりようあるだろう!!」 「なんでやねーん!?」 ともかく、二人はしばらく、現代魔術研究所の英雄になった。 *** 「ま、今回は魔術勢力と少し仲良くし過ぎたかもしれんが……報奨金は、後日、もらっておこう。地獄の沙汰も何とやら、か……。さて、俺らも、けえるか!」 ヴァイスが分子たちに呼びかけ、全員で飛空艇までぞろぞろと歩いて行くと……。 「うわぁ〜ん! キャンプ場からだいぶ離れちゃったじゃないですかぁ〜!! おうちに帰りたいよぉ〜!! あ、ヴァイスゥ!! ねぇ、飛空艇、乗せてってぇ〜!!」 リュリュミアが泣きながら絡んできた。 「ああん!? 俺らを誰だと思っていやがるよ!? 俺らは、泣く子も黙る、科学の申し子。科学的革命残党分子だ!!」 ヴァイスと分子たちが決めセリフでポーズを決めているが、リュリュミアは余計に泣き出した。 「うえぇ〜ん!! じゃあ、わたしの住処で造った青バラ酒あげますからぁ〜!! マギプルギス山脈に戻してくださいよぉ〜!!」 ヴァイスの目がきらりと光った。 「うむ。お嬢さん、その、青バラ酒だったか? ぜひとも、ご厚意は受け取らせてもらおう! よし、おじさんがタクシーの運転手をやってやろう! ささ、飛空艇にお乗り! マギプルギス山脈までちょっと行ってみようか!?」 変わり身の早いヴァイスであった……。 リュリュミアもけろりと泣き止んだ。 *** これにて、「3番目の魔術師事件」完結。 ステージ・オールクリア。 判定は、大成功! 事件解決、おめでとうございます! <終わり> |