「レヴィゼル教会公園の新年祭に参加しよう!」

ゲームマスター:夜神鉱刃


もくじ


●リュリュミアの新年祭

●アンナの新年祭

●ミンタカの新年祭

●レイナルフの新年祭

●マニフィカの新年祭

●ジュディとコーテスの新年祭

●ビリーと革命じいさんたちの新年祭

●アリューシャとアルヴァートの新年祭




●リュリュミアの新年祭


 今宵、マギ・ジスタン世界は新年祭で一色に彩られている。
 特にマギ・ジスタン世界の中でもマギ・ジス国家はレヴィゼル教発祥の地だ。マギ・ジスの中心部に位置するレヴィゼル教会公園周辺は毎年の当シーズン、大変なお祭り騒ぎである。

 教会公園周辺には……お祭りならではの飲食屋台がいっぱい!
 他にも、景品がもらえる魔法の屋台も盛りだくさん!

 ふわ、ふわ、ふわ……。
 ゆらり、ゆらり、ゆらり……。

 現れたのは、女性らしい体つきで二十歳くらいの外見の美女。若草色のワンピースにタンポポ色の幅広帽子が特徴的だ。その正体は、暦の概念も帰る場所もない陰陽界の人外生命体。

 リュリュミア(PC0015)は美味しい匂いや楽しそうな雰囲気につられて……今日は、異世界からお祭り目当てに遊びに来ているのである。

「わー! 屋台がいっぱいあって迷うなぁ……。ふむふむ……ノーザンランド? へえ〜『北国の美味しい幸がいっぱい!』かぁ。植物系の美味しいものがあるといいなぁ〜」

 とあるノーザンランド系屋台広場。
 リュリュミアは、袋に詰め込まれて売られている色とりどりのわたあめを眺めていた。

(へえ……プレーン、チョコ、いちご、りんご、ぶどう……迷うわ……)

「へい、いらっしゃいお嬢さん! わたあめはいかがかな? ちょうど今、新しいわたあめを製造機で作るところだよ。お持ち帰りが良ければ、店頭前で吊るされている袋なんかもどうだい?」
 わたあめ屋台のおじさんは、にこにこしながら、リュリュミアに勧めてきた。

「そうねぇ……。甘いのがいいなぁ。甘いわたあめをさらに甘くするのはどれかしらぁ〜?」
 にこにこと質問するリュリュミア。

「それならチョコがおススメだね! チョコソースを練り込んだわたあめは極上に甘いよ!」
 おじさんは、チョコわたあめの袋を指差す。

「うん! それくださーい!」
「はいよ、500マギンね!」

***

 作りたてのチョコわたあめを手に入れたリュリュミア。
 食べようかなぁ……とも思ったが、席に着いて食べる前に、もう一品、欲しいところだ。

 わたあめの隣の屋台は……ノーザンランドりんご飴の屋台である。
『北国ノーザンランド産の新鮮りんごで作るりんご飴!』
 という、キャッチで売られている。

 確かに、店頭には、新鮮で美味しそうなりんご飴の数々がケースに入って並べられていた。

「おばさーん! りんご飴くださーい!」
 リュリュミアは、思わずりんご飴の明るい赤さにみとれてしまい、気がついたときには購入していた!

「はいよー! 300マギンね!」

***

 さて、食べ物の確保はこれくらいでいいだろう。
 飲み物も欲しいところだ。

 りんご飴の隣の屋台は……ドリンクショップだ。

『雪国ノーザンランド特製の熟成ワインが飲めるのはここだけ! 赤・白どちらも絶品!』

『雪国ノーザンランドは酒も良いが果実のジュースも最高! 新鮮なぶどうジュースが逸品! 子どもにもオススメ!!』

 ううむ……と、悩むリュリュミア。
 ワインかぶどうジュースか……。
 やはり、わたあめとりんご飴に合うのは酒よりジュースよねぇ、と思い至り、ぶどうジュースに決める。

「お兄さーん! ぶどうジュースくださーい!」
 巨大な銀製のタンクを指差して、ジュースを購入するリュリュミア。きっと、あのタンクには、フレッシュであま〜いぶどう果実が詰まっているのよねぁ、とワクワクしながら想像する。

「はい! 300マギンです!」
 お兄さんはお代を受け取った後、タンクのもとへ向かう。そして、ひねられた蛇口から、紫色の透き通るような汁が、プラスチックコップへ流れ、注がれて行く……。

***

 とりあえず三品も買ったので、ひとまずお買い物は終了。
 お祭りの実行委員会の方で用意されたテーブル席へ移る。
 ここで、レッツ飲食☆

「んふふ〜! どれから食べようかしらぁ」
 リュリュミアは、わたあめ袋から新鮮なチョコわたあめを取り出す。一方で、透明なビニールの袋からリンゴ飴も取り出す。

 わたあめをパクり。
 ん〜! チョコの甘さとわたあめ本来の甘さで口がいっぱい!

 りんご飴をパクり。
 ううん〜! 甘酸っぱくも新鮮なりんご味が口に広がる!

 パクり、パクり、パクり……。
 夢中で食べたら、あっという間になくなってしまった!

「シメはぶどうジュースよねぇ〜」
 一口、飲み始めると……赤ぶどうの苦くて甘い濃厚な味がして……止まらない!
 リュリュミアの脳内では、まるでノーザンランドのぶどう畑を駆け回っているかのようなイメージが描かれる……。

「う〜ん! 幸せぇ〜!」
 ぷはー、と幸せないっぱいを飲み干したリュリュミア。

***

 さて、景品系屋台も見たいなぁ、と場所を移動するリュリュミア。

 魔法系屋台が並んでいるところへやって来ると……。

 ヨーヨー、くじ引き、お面、射撃、魔法ボールすくい……。
 色々あって迷うなぁ……と彼女は首を傾げる。

 とことこと巡っていたら……面白い顔のお面にばったり遭遇!
 何かの特撮ものの怪人のお面みたいだ。

「あのぅ……お姉さん? そのお面、見てもいいかしらぁ?」
 リュリュミアは、怪人のお面に対して、白く細い指で指し示す。

「ん? これかい? これは特撮ものの『魔術仮面レヴィッツ』に登場した怪人牛男のお面さ。カッコいいだろう? これが欲しいのかい?」
 魔術師のローブに身を包んだお姉さんは、「怪人牛男」のお面を取って来てくれた。

「うん! これがいいわぁ! いくらぁ?」
 お面を受け取り、リュリュミアは、ちょっとはしゃぎ気味だ。

「1000マギンね!」
「はい、これぇ!」

「ふふ……このお面は魔術が込められている不思議なお面だよ。もしおまえさんが戦闘するときにでもなったらこのお面を着けてごらん。きっと面白いことが起こるさ」
 お姉さんは意味ありげな笑みを浮かべて、リュリュミアを見送ってくれた。

(ふぅん……。魔力のあるお面なのねぇ?)

***

 さて、屋台の方は一通り堪能できたリュリュミア。
 お次は……。

(そうねぇ! せっかくレヴィゼル教会公園に来たのだから……教会へ行ってみよう〜!)

 厳かで古めかしい世界最古の教会……レヴィゼル教会。
 建築様式はマギ・ジスタン・ゴシック。
 標高は約150メートルにも及ぶ壮大なる巨塔。

 今宵は神父様の説教や賛美歌の合唱もあり、教会は大変なにぎわいである。

 警備員たちが笛を吹いて、誘導棒を振りながら、交通の整理をしている。

 リュリュミアも参列に加わり、説教を聴くことにした。

***

 教会内の講堂で、神父様が講壇に上がる。
 がやがやと話をしていたギャラリーが一斉に静まり返る。
 神父様は、こほん、と咳をして、重たそうな口を開いた。

「本日は、レヴィゼル教会の説教にお越し頂き誠にありがとうございます。今宵、我らレヴィゼル教の神である魔術神レヴィゼルに対して改めて感謝を捧げるための祭典を取り仕切らせて頂きます、神父のバイエスです。よろしくお願い致します……」
 神父様が一通りのあいさつを済ますと、講堂に巨大スクリーンが天井から下りて来て……室内は徐々に暗くなって行った。

『本日は、マギ・ジスタン世界の始まりである『創世記』のお話をさせて頂きます。いわゆる我々の世界は、いかに始まったのか、という永遠のテーマですね……』

 神父様の声がマイクで響き渡り、巨大スクリーンには、広大な宇宙の光景が映し出された。

(ううん……楽しみぃ! いよいよ始まるのねぇ。わたしの世界とはどんなふうに違うのかなぁ?)

 リュリュミアは、わくわくしながら、スクリーンに映し出された宇宙の絵を見入っている。

『我々の世界はいかに始まったのか? 私たちレヴィゼル教徒は、魔術神レヴィゼルが世界を創世したものと古来より信じております。レヴィゼルが『はじめに魔術ありき』と唱え、大宇宙から私たちの世界の原型を創られたところから全てが始まっているのです……』

 次に神父様は、幻想的な楽園のスライドをスクリーンに映した。

『神が創造した世界は、当初、幻想と現実の区別がない楽園だったのです。そして神は楽園において創造した人間たちに魔術を与え、人々は魔術のご加護を得て暮らしていたのです。神の教えによるところ、魔術とは人間たちが幸せに暮らしていくための贈り物だったわけですね……』

(へえぇ。ここの世界って、最初はそんな幻想的なところだったんだぁ? でもなんで今は違うんだろうねぇ? )

 リュリュミアは不思議そうな顔で神父様の話に聴き入っていた。

 スライドは変わり、今度は人間たちが魔術で戦闘している場面へと移った。

『ではなぜ、世界は原初のままではいられなくなったのでしょうか? それは、人間たちが私利私欲のための争いごとを始め、魔術を使って互いを傷つけ合ったからでした。神は人間たちの幸福のために魔術を授けたはずなのに、人間たちが魔術を使ってお互いを陥れた行為に激怒し……ついには神罰を下し、人間たちを楽園から追放してしまったのです……』

(なるほどねぇ。魔術って、良い面ばかりではないのねぇ。魔術を使う使い手次第で悪いことも良いこともできるのねぇ。)

 リュリュミアは、感心しながら説教を楽しんでいる。

 その後、スクリーンには古代のマギ・ジスの光景が映し出された。そしてその映像内に映っている古代人たちは、何やら相談をしているようだ。

『やがて楽園を追放された人間たちは……気がついたとき、クレサント大陸にいたのです。今、私たちがいるこの大陸にですね。結局、人間たちは帰る手段もなく、この大陸に国家を築き、自分たちの新しい住処にすることにしたのです。なおこのスライドに映されている光景は、古代のマギ・ジスです。世界最初の国家マギ・ジスの原型となる場所ですね……今の世界はマギ・ジス国家から始まりましたので……この世界はマギ・ジスタンという名称になったわけです……』

(そういうことだったのねぇ。この世界も色々と大変そうだけれど、おもしろそうねぇ……)

 ひとつの世界の始まり方を学び、リュリュミアはまたひとつ賢くなれたわねぇ、と目が輝いていた。

『……以上が本日のお題『創世記』についてでした。ご清聴ありがとうございました……』

***

 説教を聴き終え、リュリュミアはスタッフや警備員に誘導され、教会の出入り口まで進んだ。

(そうねぇ……。せっかくだし、この世界のお守りでも買おうかしらぁ?)

 リュリュミアは、出入り口付近にある一階の売店を立ち寄ることにした。
 売店には、教会のグッズが盛りだくさん。

 特に目に付くものは……聖典、アロマ・キャンドル、お守りあたりだろうか。

「すみませーん! お守りをひとつ頂けますかぁ?」
 リュリュミアは、レヴィゼルのシンボルである「魔法の杖」をモチーフにした銀細工を手に取って、レジの店員に渡す。

「はい。1500マギンです!」

 そして、お守りを購入したリュリュミアは、そろそろ帰ろうとしたが……。

(あっ! 募金やっているわねぇ! わたしもこの世界に貢献しておこうかしらぁ?)

 リュリュミアは、募金箱に手持ちの残りである6400マギンをそっと入れておいた。

(ふふ……。楽しいお祭りだったなぁ……。マギ・ジスタンの人たち、みんな幸せになれるといいなぁ……)


●アンナの新年祭


 新年祭の出し物は、にぎやかな屋台や厳かな説教も良いが、他にも映画上映会という楽しみ方もあるのだ。

 ヘルメットにふわりとしたスカート姿が印象的な仏国の令嬢アンナ・ラクシミリア(PC0046)は、レヴィゼル教会公園の新年祭にやって来た。

(うふふ……。にぎやかなお祭りだこと。さあて、映画上映の広場を探しますわ! 劇場は、と……)

 人ごみに紛れ、アンナは映画上映の広場を目指して歩く。

***

 新年祭は、映画上映会もなかなかこっている。
 公園の中央広場は巨大なドーム一個分の大きさで広々としていた。
 空中から巨大なスクリーンが魔術仕掛けで吊るされて、これまた魔術仕掛けの映写機がじりじりと映像の試し映しをやっていた。

 本日の上映は……『魔法少女レヴィ』アニメ劇場版である。
 マギ・ジスタン世界で大人気の子ども向けアニメだ。
 魔法少女たちのゆるゆるとした日常を描く癒し系の作風が国民の多数に評価され、本日、新年祭でも映画上映が決まったのである。

(そうですわね……。映画が始まる前に、ポップコーンや飲み物が欲しいところですわ……)

 映画は無料で観られ、席も無料でどこにでも座れるので、ドーム一個分の広さといえども、かなりの混み具合だ。
 アンナは席を見つける前に、売店へ急ぐ。

***

 混雑が予想されたので、売店の方もかなりの数があった。
 ちょうど各国の名物屋台が並んでいるかのように、売店の屋台も出入り口付近でずらりと並んでいる。
 しかも、小さなカートを移動させながら、販売をしている業者たちもいた。

 アンナは、割と空いている売店に並び、お財布を取り出して、マギンを支払う用意をする。

「恐れ入りますわ。キャラメルポップコーンとホット紅茶のポットを頂けないかしら?」
 店頭に並んでいる美味しそうなこんがりとしたポップコーンに、魔法のポットに入った熱々の紅茶を指差すアンナ。

「はい! キャラメルポップコーンが500マギンで紅茶ポットが500マギンですから……合計1000マギンになります!」
 売店のお姉さんに1000マギンを渡して、アンナは品物を受け取った。

***

(さて、そろそろ上映時間の頃ですわ……。早めにどこかの席を取らないといけませんわね……)

 アンナは、なんとかして、広場の後ろの方の正面の席が取れた。ここの位置なら、映画が観やすいだろうし、首が痛くなるような心配はないだろう。

 既に時刻は夜になっているが、野外映画館は消灯をする必要が全くない。満天の星空を背景に、映画上映会はお約束のブザー音と共に始まった……。

『本日は、『魔法少女レヴィ』アニメ劇場版の上映会にお越し頂き誠にありがとうございます……』
 来場のごあいさつ、海賊版反対、違法録画禁止、映画上映中は騒いだりしない、などのおなじみの注意点が流れ……いよいよ、映画が始まる……。

(わー! 楽しみですわ! レッドクロスで戦う身としては、魔法少女の生き様は参考にしたいところですわ!)

 アンナは心を踊らせながら、スクリーンをじっと見つめていた……。

***

問題だらけで、じゃ、じゃ、じゃん♪
魔法少女のお通りだー♪

おてんば・おちゃめ・萌え萌え☆

魔法少女レヴィ、ただいま参上〜♪

ワン・ツー・スリー♪
どかーん♪
錬金術が爆発☆

***

(まあ、ファンキーなオープニング曲ですわね。テロップによると、歌っているのは、レヴィの役をやっている声優さんのようですわね……)

***

 とある日の朝の登校時。

 ツインテールの萌え魔法少女レヴィは、ほうきに乗って、登校を急ぐ。遅刻よ、遅刻! ダッシュー!!

 同じく、遅刻しそうな仲間たちに遭遇。

レヴィ「サニーじゃない?」

 元気爆発の明るい魔法少女サニーがいた。

サニー「遅刻だー! フルパワーで飛ばすぞ! アー・ユー・レディ?」

ファン「ラジャー! いつでもどこでも全力よ☆」

 不思議系の魔法少女ファンが突然現れる。

 三人は法定速度を無視して、本気で暴走。
 町の住民たちは吹き飛ばされ、色々な物がどかん、どかん☆

レヴィ「ぎりぎりセーフ!!」
サニー「よっしゃあ! もう目の前は学校だ!」
ファン「イエーイ! ナイス・ファイト☆」

 しかし……。
 きゃあああああああ、止まれなあああああああああい!
 と、壊れたほうきが暴走中♪

 結局……教室に突っ込んで行く三人!

 どかーん☆

 ホームルーム中のクラスに窓から突撃した三人。
 三人の下では、クラスメイトの委員長エメラルドが下敷きになっていた。

レヴィ「きゃあああ! エメラルド、本当にごめええええええん!」
サニー「おい、エメ! 起きてくれ! 死ぬなああああああ!」
ファン「誰かああああ! 人工呼吸をおおおおおおおお!」

***

(まあ……。異世界の魔法少女ものって、かなり過激ですわね! 登校時はほうきを暴走させて、ホームルーム最中に突撃し、クラスメイトを死なせてしまうのですか!?)

 アンナは目を丸くしながら、ポップコーンを食べる手の動作が止まっていた……。

***

 午前の授業……錬金術……。

先生「今日は、青いバラを創るための調合実習をする……今から手順を説明するので、よく聞いておくこと……」

 先生は黒板に図解をしながら、説明中。
 しかし、魔法少女たちは上の空☆

レヴィ「では、班分けだけれど……。私、サニー、ファン、エメラルドでいいね?」

サニー「うーっす! よろしくー!」

ファン「ばっちこーい!」

エメラルド「ちょい待ち! なんで私までこの班なのよ!」

サニー「エメ、それはだな。おまえが秀才だからだ。先生の話、あんまり聞いてなかったんであとは頼む!」

ファン「エメさん……あたしはもう逝きますので……あとは任せます……」

 結局、この四人で調合実習をすることになった。

 だが、結果はもちろん……。

 どかん、どかん、どかん☆
 どかーん、どかーん♪

レヴィ「ふう……マンドラゴラの調合ってかなりハードよね!」

サニー「よっしゃ! あともう一歩で石をプラチナにできるぞ!」

ファン「おいしいアイスクリーム……あとちょっとで完成よ!」

エメラルド「きゃあああああ! 何やっているのよ、もおおおおお! 私に貸しなさい、私がやるからああああああああ!」

***

(まあ、この世界の高校生は授業の錬金術でこんなことまでしていますの!? ハードな授業ですわね……)

 キャラメルの甘みを忘れるほどの驚異的な展開に、アンナはむしゃむしゃとポップコーンをかんでいた。

***

 そして、お昼になり、四人で仲良くランチタイム。
 その後、午後の授業は戦闘訓練になった。

先生「では、午後は魔法を使った戦闘訓練をやろう。校庭で実際に模擬戦をやるので、各自、ペアに分かれて戦うこと!」

 運動着に着替えて、校庭に出る魔法少女たち。
 四人の少女たちは、互いの顔をじろじろと見つめ合う。

レヴィ「エメラルド! 私と組もう! バランス派の主人公の私とあなたなら優勝は確実!」

サニー「エメ、僕にしよう! 僕の攻撃魔法とおまえの頭脳なら勝てる!!」

ファン「いやいや、何が起こるかわからない神秘魔法が使えるあたしの方が、人生がジェットコースターみたいで楽しいぞ☆」

エメラルド「せんせーい! この三人以外と組んでいいですかー?」

 結局、サニーとファンがケンカして暴れたので、先生が無理やり組み分けをしてしまう。

 対戦は、レヴィ&エメラルドチーム対サニー&ファンチームになった。

レヴィ「それー! ファイアボール!」
エメラルド「追撃! ウィンドカッター!」

 どかーん☆

サニー「ふん、サンダーボルト!」
ファン「ふふん、ゴーレム召喚☆」

 ゴゴゴゴゴォォォォォ…………。

 ファンは召喚魔法の手順を間違えて、ゴーレムどころか、恐怖の大魔王を召喚してしまった……!?

レヴィ「出たわね、魔王! 私たち魔法少女の出番ね!」

エメラルド「ファン、あなたって子は! ええい、仕方ない、私に貸しなさい! 私が倒すから!」

ファン「お助けいたすー! いでよ、神龍☆」

サニー「ファン! おまえはもう何もするな! 僕たちでやるから!」

レヴィ「こら、サニー! 四人で戦うのよ! 私たち、魔法少女はいつでも一緒って決めたじゃない!」

エメラルド「くるわ! 上級魔術を唱えるから、みんなは詠唱時間を稼いでくれる?」

サニー「おうよ! 任せろ!!」

ファン「あいあいさー!」

レヴィ「はい!」

魔王「わっはっは! 我が暗黒魔術で貴様らを地獄へ送ってやるうううううううう!」

先生「おい、魔王! 俺が相手だ! 俺の教え子に手を出すな!!」

 こうして、先生も乱入して、魔王は鎮圧されました、とさ。
 もちろん、魔法少女四人は、放課後は居残りで説教されたのである。

***

(なるほどですわ……。これが異世界で流行っているアニメの努力・友情・勝利の物語ですわね……。みんなで協力して巨大な敵と戦うところは……レッドクロスの仲間たちを思い出しますわ……)

 紅茶を、ずずず、と飲みながら、怒濤の展開を見守っていたアンナであった。

***

 そして、放課後の説教が終わり……。
 四人は解放され、パフェを食べに行くことにした。

レヴィ「んふふ、バナナパフェ、おいし〜!」

サニー「わはは、僕はイチゴジャンボパフェだ〜!」

エメラルド「なんのー! 私は抹茶&あずきよ!」

ファン「プリン☆アラモ〜ド!」

 それぞれのパフェをがつがつとハイエナのように食べる魔法少女たちであった。

レヴィ「ところで……。もうすぐ新年祭のシーズンよね。みんなでレヴィゼル教会公園のお祭りに行かない?」

他の三人「さんせーい!」

サニー「学校が冬休みになってからだな? お祭りでは何しようか?」

エメラルド「そうねえ……教会の説教、賛美歌、お守り購入は外せないわね……」

サニー「エメはまじめだね。僕は屋台巡りと花火鑑賞がいいなー」

レヴィ「年末のバイトをみんなでやるのもいいよね」

ファン「そうだ! みんなでチョコレート作ろうよ!」

他の三人「え? チョコ? なぜ?」

ファン「新年祭というのは、女の子が好きな人にチョコをあげるイベントでしょ!」

 ガーン……!!

他の三人「ファン! それ、違うイベント!」

ファン「その後、ハッピー・バースデー・トゥ・ユー♪ って、歌うの!!」

他の三人「ファン! さらに違うイベントになってる!!」

 行く手困難な魔法少女たちの戦いは続くのであった……。

 ちゃん、ちゃん♪
 END

***

(ふう……やっとエンディングまで行きましたわね、この変てこなアニメ……。新年祭って、アニメでも出ていたけれど……やはりこの世界ではメジャーなお祭りなのですわね……)

 アンナはポップコーンをかじりながら、どうにかしておかしな魔法少女アニメを最後まで鑑賞したのであった。

***

魔法少女は楽じゃなーい♪
いつも呪いで憂うつ♪

好きで魔法少女に生まれたわけでなく♪
好きで魔法学校へ行っているわけでもなく♪

毎日、魔法づけで、くったくた☆

でもみんなが大好きだからがんばれる♪
友達と一緒に乗り越えよう♪

目指せ、世界最強の萌え萌え魔女♪

きらり☆ミ

***

 ちょっと悲しめなクラシック調のエンディング曲が流れ、制作スタッフリストや教会公園への参加協力謝辞などもテロップに流れ……こうして『魔法少女レヴィ』のアニメ劇場版は幕を閉じたのであった。

(さてと……わたくしもそろそろ行きましょうか……。そういえば、もうすぐ花火が上がる頃ですわね……)

 アンナは移動しようかと思ったが、周囲の人たちはなぜか動き出さなかった。どうやら、付近にいる人々は、映画上映広場から花火を鑑賞するらしい。

(では、この場で鑑賞致しましょうか……)

 夜が更けて、冷えて来た頃なので……アンナは紅茶ポットを取り出した。
 かじかんだ手には、ほどよい温かさだ……。

 そしてポットを開けて、熱くて甘いストレート・ティーをすすり出す。

 紅茶のほんのりした甘さと温かさに心が揺れ動き……ちょっとホームシックな気持ちになるアンナ……。

 そんな彼女の心を知ってか知らずか、花火が空中に舞い上がり、弾け出す。

 ヒュ〜!
 どかん、どかん☆

 ヒュ〜、ヒュ〜、ヒュ〜!
 どか、どか、どか〜ん☆

 空中では色とりどりのキレイな光の花が咲き乱れる。
 アンナは新年祭で、今年最後の夜空を見届けた。

(ふう……そろそろ帰りたいですわね……。ん? あれは教会の人たちかしら? お掃除をしていますわ! むむ、わたくしも掃除が……掃除が……したくなってきましたわ!)

「どうした? お嬢ちゃん? 掃除を手伝ってくれるのかい?」
「はい! 聖アスラ学院・美化委員会のアンナ・ラクシミリア、お掃除のお手伝いをさせて頂きますわ!」

 こうして、更けて行く新年祭の夜、アンナは、ほうきとちり取りを手に取り、最後はボランティア活動に精を出すのであった。


●ミンタカの新年祭


 レヴィゼル教会公園の新年祭は、異世界から訪れた者たちの間でも人気が高いお祭りであるが……もちろんマギ・ジスタン世界の内部に住まう者たちの間でも毎年、欠かすことができないビッグ・イベントだ。

 マギ・ジスタン世界出身の魔術師青年・ミンタカ・グライアイ(PC0095)は、いよいよ待ちに待った新年祭の日……今年も最後まで無事に終えられるかどうか、とそわそわしていた。

(いやあ……。今年は色々あったなあ。ノーザンランドの実家を出て、聖アスラ学院に進学して……勉強も大変なところ……風紀委員会の手伝いなんかもやって……ネズミや教授相手にバトルもあったし……)

 ミンタカは、混雑してにぎわうレヴィゼル教会公園まで来ると、まっすぐに教会を目指した。
 異世界人であれば、大抵は屋台、映画、展望広場の方へ向かう傾向があるのだが……やはり彼はこの世界の出身者なので、信仰心を深める方向へとまず足が向いてしまうのだ。

 世界最古のレヴィゼル教会……。
 やはり世界的な文化遺産であるので、ミンタカも幼い頃、両親と一緒にマギ・ジスへ旅行した際には訪れた思い出がある。
 こうして今年、改めて自分から進んでこの教会を訪れ、何だかまた一歩、大人になれたような気がする彼であった。

 入場ゲートは予想した通り、混雑していた。
 交通整理をしている警備員の指示に従い、ミンタカは列に並んで、説教を聴きに行くことにした。

***

 教会内の講堂で、神父様が講壇に上がる。
 がやがやと話をしていたギャラリーが一斉に静まり返る。
 神父様は、こほん、と咳をして、重たそうな口を開いた。

「本日は、レヴィゼル教会の説教にお越し頂き誠にありがとうございます。今宵、我らレヴィゼル教の神である魔術神レヴィゼルに対して改めて感謝を捧げるための祭典を取り仕切らせて頂きます、神父のバイエスです。よろしくお願い致します……」
 神父様が一通りのあいさつを済ますと、講堂に巨大スクリーンが天井から下りて来て……室内は徐々に暗くなって行った。

『本日は、マギ・ジスタン世界の始まりである『創世記』のお話をさせて頂きます。いわゆる我々の世界は、いかに始まったのか、という永遠のテーマですね……』

 神父様の声がマイクで響き渡り、巨大スクリーンには、広大な宇宙の光景が映し出された。

(ふう……混んでいて来るのに苦労したけれど……やっと今年も説教が聴ける! ノーザンランドの方も信仰心の厚い国家だから、毎年説教を聴いていたけれど……本場で発祥の地でもあるレヴィゼル教会で聴くのは初めてだな……。本場は違うのだろうか?)

 ミンタカは、いよいよ始まる本場の説教に胸が躍る思いであった。

『我々の世界はいかに始まったのか? 私たちレヴィゼル教徒は、魔術神レヴィゼルが世界を創世したものと古来より信じております。レヴィゼルが『はじめに魔術ありき』と唱え、大宇宙から私たちの世界の原型を創られたところから全てが始まっているのです……』

 次に神父様は、幻想的な楽園のスライドをスクリーンに映した。

『神が創造した世界は、当初、幻想と現実の区別がない楽園だったのです。そして神は楽園において創造した人間たちに魔術を与え、人々は魔術のご加護を得て暮らしていたのです。神の教えによるところ、魔術とは人間たちが幸せに暮らしていくための贈り物だったわけですね……』

(なるほど……。やはり本場であっても、『創世記』は同じ聖典なので、話す内容は僕のところと一緒だな。でもさすがに巨大な講堂を使っているだけあって、スクリーンとか映像の演出、こっているね……)

 ミンタカは、もしかして本場の『創世記』は何かアレンジが加えられているのかもしれない、あるいは出だしが違うのかもしれない、とドキドキしていたが……。実際には、内容に変化はないようだ。今のところ……。

 スライドは変わり、今度は人間たちが魔術で戦闘している場面へと移った。

『ではなぜ、世界は原初のままではいられなくなったのでしょうか? それは、人間たちが私利私欲のための争いごとを始め、魔術を使って互いを傷つけ合ったからでした。神は人間たちの幸福のために魔術を授けたはずなのに、人間たちが魔術を使ってお互いを陥れた行為に激怒し……ついには神罰を下し、人間たちを楽園から追放してしまったのです……』

(うん、やっぱりこの内容だよね。それにしても、改めて聴くと、いい話だな。人間の原罪思想のようなものをこの『創世記』は戒めているよね。罪と罰……永遠のテーマだ……)

 ミンタカは、頷きながら、思わず説教に聴き入っていた。

 その後、スクリーンには古代のマギ・ジスの光景が映し出された。そしてその映像内に映っている古代人たちは、何やら相談をしているようだ。

『やがて楽園を追放された人間たちは……気がついたとき、クレサント大陸にいたのです。今、私たちがいるこの大陸にですね。結局、人間たちは帰る手段もなく、この大陸に国家を築き、自分たちの新しい住処にすることにしたのです。なおこのスライドに映されている光景は、古代のマギ・ジスです。世界最初の国家マギ・ジスの原型となる場所ですね……今の世界はマギ・ジス国家から始まりましたので……この世界はマギ・ジスタンという名称になったわけです……』

(そう。『創世記』の最後は、そうなるんだよね。罪を背負い、楽園を失った者たちがマギ・ジスの原型をつくるんだ。本当だと、この後、『建国記』に話が続くんだけれど、今日は『創世記』までだからこのへんでお説教は終わりかな?)

 ミンタカはさすがに子どもの頃から聴き慣れていることもあり、話の流れは簡単に予測ができるのである。しかし、それでも信仰心が深い彼は同じ内容を繰り返し聴くことを楽しんでいた。

『……以上が本日のお題『創世記』についてでした。ご清聴ありがとうございました……』

(ふうー! おもしろかったー! 今年も説教が聴けてよかった! やはりレヴィゼル教徒なので、『創世記』の内容を聴くと心が落ちつくね!)

***

 説教が終わり、神父様が退場をすると、今度は賛美歌隊の入場だ。
 神父様の退場に対しての盛大な拍手は、賛美歌隊への歓迎の拍手へと切り替わる。

 賛美歌隊は、皆、修道服をきっちりと着込んでいた。
 混声合唱で歌われるらしく、男性、女性、児童、とそれぞれのグループに10人ほどの歌い手たちがいる。全員で30人の賛美歌隊は定位置に着く。パイプオルガンの弾き手もゆっくりと楽器前に着席をした。

 指揮者が信者たちや異世界の者たちの前に立ち、お辞儀をしてあいさつをする。

『これより『創世記』の説教に続きまして、賛美歌第1番『レヴィゼル神曲』を合唱させて頂きます。指揮者のナハトと申します。今宵はどうぞよろしくお願い致します。
 さて、当曲は、ご存知の方も多いかとは思いますが、かつてレヴィゼル教徒たちが国家建国をした際に歌われた最も古き賛美歌でございます。伝承によりますと作詞作曲は、かの古代の吟遊詩人ニクスによるものと言われております。
 ご訪問頂いた皆様におきましては、賛美歌隊に合わせて歌われることも良いでしょうし、賛美歌隊の歌声をご鑑賞されるのも良いでしょう。どうぞ心ゆくままに聖夜の賛美歌をお楽しみくださいませ……』

 あいさつが終わり、指揮者が賛美歌隊やパイプオルガンの演奏者のもとへ向き、タクトを振るう。

 パイプオルガンからは創世の世界を彷彿とさせるような厳めしい雰囲気の音色が流れ出し……。賛美歌隊の者たちは、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4パートに分かれ、賛美歌をキレイに歌い出す……。

(よし、僕も歌おう!)

 曲名も歌い方も子どもの頃から知っているミンタカは、賛美歌隊に合わせて一緒に歌うことにした……。

***

我らの神の名は、レヴィゼル〜♪
我らは、魔術より来たりて、魔術へ還る〜♪
我らが教えは大宇宙の摂理〜♪

原始より創世されたし〜♪
今は亡き楽園〜♪

新しき年の今日の日に〜♪
我らはなぜ魔術を授けられ〜♪
我らはなぜ生かされる〜♪
心で考えてみよう〜♪

神への愛は我らの証〜♪
我らレヴィゼル教徒、魔術と創造の徒〜♪
進めどこまでも、神の祝福がある限り〜♪

***

 ミンタカは、信者らしく、心を込めて、元気よく歌った。
 変声期後期の少し不安定なテノールの声で発声し、最初から最後まで、歌詞と音程を間違えずに、キレイに歌いきれた。

(ふう……。我ながら、思わず熱唱してしまった!! でも全力で賛美歌を歌いきると、すっきりするね。心が浄化されたのかな?)

 賛美歌が終わり、指揮者がまた客席に向き直り、閉会のあいさつをする。

『ご清聴ありがとうございました。以上をもって、今宵の教会イベントを終了とさせて頂きます。なお、配布した楽譜ですが、どうぞお持ち帰りくださいませ。皆様が人生におきまして試練に直面される際には、ぜひ当夜の賛美歌を思い出し、声に出して歌い、難局を乗り切られることを切にお祈り申し上げます……。では、魔術神レヴィゼルに祈りを捧げ、黙祷致します……レーヴェン……』

(レーヴェン!!)

 ミンタカは他の信者たちと一緒に黙祷をした。
 その後、賛美歌隊が退場し、客席から盛大な拍手が送られた。

(あ、この楽譜、もらっていいんだ? まあ、僕は楽譜なしでもすらすら歌えたけれどね。でも『お持ち帰りアイテム』に適しているから、持って帰ろう!)

***

 説教、賛美歌とビックイベントが終わり、ミンタカは警備員の誘導と人の流れに乗って、売店の方まで歩いて来ていた。

(おっと、いけない! お守りを買わないと! 新しい一年がまたつつがなくあるように、アレは買っておこう)

 ミンタカは売店に入ると、「魔法の杖」をモチーフにした銀細工のお守りをひとつ手に取り、会計まで持って行く。

「すみませーん! お守りひとつ!」
「はい! 1500マギンです!」

 ミンタカはお財布からお守り代を取り出して、店員に手渡した。

(よし! お守りは買えた! これで来年も安泰……と、願いたい……)

***

(さて、教会イベントもこなし、お守りも買えたし……。あとは……名物の花火大会でも観るかなあ……)

 ミンタカは、レヴィゼル教会公園の新年祭で鑑賞できるという花火大会を以前から観たいと思っていた。
 彼の実家がある地方の方でも花火は上がるが、やはりそこは本場の発祥地の花火大会も経験しておきたいのだ。

『花火を鑑賞される方は教会の屋上へどうぞー! 屋上から観られる花火と夜景は絶景ですよー! ぜひ当夜の思い出にご利用をー!』

 エレベーター前の警備員たちは、利用者の交通整理をしながら、屋上への誘導もやっていた。

(よし。この上から花火を観てみよう……)

 ミンタカも屋上行きのエレベーターに並ぶことにした。

***

 ミンタカが屋上に着いた頃、花火大会は既に始まっていたようだ。
 鮮やかに光る七色の花びらが夜空で弾けていた。
 花火の砲火は終わることを知らないかのように、次々と空中を眩い光で彩る。

 ヒュ〜、ヒュ〜、ヒュ〜!
 どか、どか、どか〜ん☆

 ヒュ〜!
 どかん、どかん☆

 ヒュ〜、ヒュ〜!
 どどど、どかん☆

 ミンタカは夜空に輝く花々の光を浴び、今年が昨年に変わり、来年が今年に移り変わって行く瞬間を味わうべく……冷える中、コートの襟を正し……更けて行く花火大会の夜をしみじみと鑑賞していた……。

 今宵の最後に彼は、天にいるレヴィゼルへ向かって祈りを捧げる。

(怖いことは望みません。今年もなるたけ平穏な一年でありますように。乗り越えられなさそうな試練は、神様、与えないでください!)


●レイナルフの新年祭


 新年祭は世界的にも規模の大きなお祭りなので、どんちゃん騒ぎの裏側には、暗いところが少なからずあるのだ。

 例えば……教会イベントである説教や賛美歌の録音・録画を違法に行い、バラまく業者がいたり……。

 そういった違法行為への対応として、教会側は毎年、警備や法整備の強化対策に打って出ているのである。

***

 ここは教会内部にあるとある会議室……。

 エンジニア気質で筋肉質の大男、レイナルフ・モリシタ(PC0081)は「講習」を受けていた。

『……と、いうわけですので……本教会で行われている説教や賛美歌を録音・録画し、配布(有料・無料問わず)したい方は、お手元の資料にある契約書に同意の上、サインか印鑑の方をお願い致します……。
 皆様が手に入れられるレベニューシェアは10パーセント。例えば、本日のイベントの録画データを1、000マギンで販売し、10人の方が購入した場合、10、000マギンの儲けになりますが、レベニューシェアにより、お手元には1、000マギンが残ることとなります……』

(なるほどな! 印税率は10パーセントか……。世界最古の教会だからっつーんで、来たものの、あまり儲けは期待できないかもな……)

 契約書に同意し、サインをしたものの、考え込むレイナルフ。

(まあ、今日、教会に行きたかったけれど来られなかった奴らに1、000マギンで販売し、ネット販売も使って、どうにかして100人に売れば……印税は10、000マギンとなるかねえ……。ちょっとした年末年始のお小遣い稼ぎみてえなもんだな、うん)

 頭をかきむしりながら、素早く暗算した結果、やはりこの商売をやってみるか、と納得するレイナルフだった。

***

 レイナルフはその後、録画・録音の業者向けの席に招待された。
 ちょうど説教が行われる講堂の二階の席で、録音テープを構え、準備に取りかかる……。

(よし、準備完了! よっしゃあ、いつでも来やがれ!)

 とまあ、彼は小遣い稼ぎでワクワクしているというのもあるのだが……この世界を支配する者たちの心性がどんなものかを直に観て聴いてみるという面でも興味がわいていた。

(さあ、神父殿……心のエンジニアリング、しかと拝聴させて頂くぜ!)

***

 教会内の講堂で、神父様が講壇に上がる。
 がやがやと話をしていたギャラリーが一斉に静まり返る。
 神父様は、こほん、と咳をして、重たそうな口を開いた。

(録音開始!)

 レイナルフは、テープのボタンをぴぴっ、と動かし作動させた。

「本日は、レヴィゼル教会の説教にお越し頂き誠にありがとうございます。今宵、我らレヴィゼル教の神である魔術神レヴィゼルに対して改めて感謝を捧げるための祭典を取り仕切らせて頂きます、神父のバイエスです。よろしくお願い致します……」
 神父様が一通りのあいさつを済ますと、講堂に巨大スクリーンが天井から下りて来て……室内は徐々に暗くなって行った。

(よし……始まったな……最後まで見逃さずに録音だ!)

***

『やがて楽園を追放された人間たちは……気がついたとき、クレサント大陸にいたのです。今、私たちがいるこの大陸にですね。結局、人間たちは帰る手段もなく、この大陸に国家を築き、自分たちの新しい住処にすることにしたのです。なおこのスライドに映されている光景は、古代のマギ・ジスです。世界最初の国家マギ・ジスの原型となる場所ですね……今の世界はマギ・ジス国家から始まりましたので……この世界はマギ・ジスタンという名称になったわけです……』

(ふうー、一通り、説教は聴いてやったぜ! そうかい……やはりこの世界も罪の意識を聖典から植え付けて、幼少の頃から教育し、神の救済だの信仰だのを心身に叩き込んでおいて民衆を支配するのか……。どこの世界もやっていることは同じだな……)

 レイナルフは、仕事もちゃんとしていたが、聴いている最中、出身世界の故郷を思い出していた。宗教が機能する世界というのは、どこも窮屈なもんだぜ、とため息をつく。そんな非科学的な信仰心に抵抗するためもあって、もしかしたら自分は技術の道に進んだのかもしれない……とも、ふと考え込んでしまった。

『……以上が本日のお題『創世記』についてでした。ご清聴ありがとうございました……』

(録音終了!)

 ぴぴっと、機械を止めるレイナルフ。

 しかし彼は、まじめに聴いていたので色々と考えさせられたこともあり、また録音仕事に神経を研ぎすませていたこともあって……思わずちょっとした疲れが出てきた。

 ふわあ〜。
 とあくびはしたものの、今日はまだ仕事があるのだ。

 次は、賛美歌の録音を、と新しいテープの準備にかかる。

***

 説教が終わり、神父様が退場をすると、今度は賛美歌隊の入場だ。
 神父様の退場に対しての盛大な拍手は、賛美歌隊への歓迎の拍手へと切り替わる。

 賛美歌隊は、皆、修道服をきっちりと着込んでいた。
 混声合唱で歌われるらしく、男性、女性、児童、とそれぞれのグループに10人ほどの歌い手たちがいる。全員で30人の賛美歌隊は定位置に着く。パイプオルガンの弾き手もゆっくりと楽器前に着席をした。

 指揮者が信者たちや異世界の者たちの前に立ち、お辞儀をしてあいさつをする。

(よし、ここから録音だ!)

 レイナルフは、手元の録音機を、ぴぴっと、鳴らす。
 テープが回り出し、音声を拾い始める……。

『これより『創世記』の説教に続きまして、賛美歌第1番『レヴィゼル神曲』を合唱させて頂きます。指揮者のナハトと申します。今宵はどうぞよろしくお願い致します。
 さて、当曲は、ご存知の方も多いかとは思いますが、かつてレヴィゼル教徒たちが国家建国をした際に歌われた最も古き賛美歌でございます。伝承によりますと作詞作曲は、かの古代の吟遊詩人ニクスによるものと言われております。
 ご訪問頂いた皆様におきましては、賛美歌隊に合わせて歌われることも良いでしょうし、賛美歌隊の歌声をご鑑賞されるのも良いでしょう。どうぞ心ゆくままに聖夜の賛美歌をお楽しみくださいませ……』

 あいさつが終わり、指揮者が賛美歌隊やパイプオルガンの演奏者のもとへ向き、タクトを振るう。

 パイプオルガンからは創世の世界を彷彿とさせるような厳めしい雰囲気の音色が流れ出し……。賛美歌隊の者たちは、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4パートに分かれ、賛美歌をキレイに歌い出す……。

(さあ、マギ・ジスタンの民どものありがたい賛美歌でも聴かせてもらうぜ! 歌は、昔から強力な心性操作って言うもんだしな……)

 ややひねくれ態度で賛美歌を聴き入るものの……知らない世界の賛美歌を鑑賞するのは何気に楽しみなレイナルフであった。

***

 賛美歌が終わり、指揮者がまた客席に向き直り、閉会のあいさつをする。

『ご清聴ありがとうございました。以上をもって、今宵の教会イベントを終了とさせて頂きます。なお、配布した楽譜ですが、どうぞお持ち帰りくださいませ。皆様が人生におきまして試練に直面される際には、ぜひ当夜の賛美歌を思い出し、声に出して歌い、難局を乗り切られることを切にお祈り申し上げます……。では、魔術神レヴィゼルに祈りを捧げ、黙祷致します……レーヴェン……』

(よーし、録音は完璧! ん? レーヴェン? とある宗教のアーメンみたいなもんかね?)

 レイナルフも一応、かたちの上だけでも他の信者たちと一緒に黙祷をした。
 その後、賛美歌隊が退場し、客席から盛大な拍手が送られた。

(録音パートはこれで終わり、と。あとは……ライナーノートを作るため……聖典が欲しいところだな……)

 レイナルフは録音機をポケットにしまい、業者向け席を立った。
 警備員の誘導に乗り、売店へ急ぐことにした。

***

 やや並んで歩いたものの、レイナルフはやっと売店までたどり着くことができた。

(ええと、聖典、聖典は、と……)

 レイナルフは売店に入るや否や、『レヴィゼル聖典』を探し求める。
 すると、山積みになった聖典が店内のあちらこちらで簡単に見つかった。
 さすがに目玉商品なので、わかりやすいところに置いてあり、品切れになることもそうそうないほどの量だ。

 レイナルフは、レジに並び、……レジ前に積まれている本へ手を伸ばし、器用な手でさっと一冊、山からもぎ取った。

「おう、この聖典、一冊もらおうか?」
「はい、2000マギンです!」

 レイナルフは会計を済ませ、紙製のブックカバー付きの聖典が入っている手提げを受け取り、にんまりと笑う。

(へへへ、これで仕事道具は一式そろったぜ! ま、一仕事終わったところだから……あとは肉でも食って、一杯やって楽しもうかね!)

***

 肉肉しいものや美味いビールが欲しい……ということで、ハイランダーズ系の屋台まで、のそのそとやって来たレイナルフ。

 目の前の「ドラゴンカルビ」屋台からは、ドラゴンの肉を焼いている香ばしい匂いが広がっていた。

『ハイランダーズ産のドラゴンカルビはいかがかな!? 肉は、ハイランダーズで養殖された最強の味がするウマウマドラゴンの上質カルビ! さらに秘伝のタレで味付けし、炭火で焼いた美味さは絶品! 究極の一串をぜひご賞味あれ!!』
 と、デカい看板がドラゴンのイラスト付きで屋台前に立てかけられていた。

「おい、オヤジ! そのドラゴンカルビっつーのを、一串くれ!」
「はいよ、にーちゃん! 1000マギンだ!」

 レイナルフは財布から1000マギンを抜き取り、店のオヤジに差し出す。すると、オヤジの方も、ちょうど焼き上がった出来立てのドラゴンカルビ串焼きをレイナルフに渡してくれた。

「おう、あと酒も欲しいところだ! その手前にある缶ビール、一缶くれ!」
「はいよ、500マギン!」

 レイナルフは代金を支払い、缶ビールを受け取る。
 缶ビールのキャッチコピーには、『本場・ハイランダーズ高原のビール工場から直に出荷された新鮮なビールです。キレのある辛口は喉越しスッキリ! ドラゴン、ハイノシシ、ハイランダケなどの特産品と共にぜひご飲食ください!』とあった。

(ま、土地の食いもんにはその土地のビールが合うわな!)

 レイナルフは、串焼きと缶ビールを持って、近場のテーブル席へ向かった。

***

「さあて、どんなもんだろう?」
 レイナルフは串刺しになっているカルビ肉に、がぶりとかじりつく。
 こ、これは……!?

 口の中で広がる肉厚、肉汁、秘伝のタレ、香ばしい焦げめ……。
 牛肉よりも甘く……そしてかみごたえはあるものの……まったりととろける柔らかさ……。

 なんたる、ジューシー!
 恐るべし、ウマウマドラゴンのカルビ!

「うめー!」
 がつがつとかじりつくレイナルフ。
 そして、食べきる前に、ビールのことを思い出し、プルタブを急いで開けた。

 ぷっしゅ、と開いたビール缶を片手に持ち、一気にごくごくと飲み下すレイナルフ。

 むむ……この味は!?
 キャッチコピー通り……キレのある辛さが特徴的だ。
 炭酸も強い。
 これは特に肉系の料理に合う感じのキレ具合のようだ。
 喉越しもスッキリ行くので、思わずごくごくと飲み干したくなる爽快感!

「ぷはー! うめー! ハイランダーズ屋台、最高だぜ!」
 レイナルフは、異世界の屋台グルメに感激し、ものすごいスピードで肉を完食し、ビール缶を一瞬で空にしてしまった。

 と、彼が気分良く、くつろいでいたところ……。
 隣の席で酔っぱらい同士のケンカが始まる。

「おい、てめー、何、ビールぶっかけてんだよ!」
「は? おめーが先にやってきたんだろ!」

 殴り合いになる寸前で、警備員が来て、二人は取り押さえられた。
 端から見ていた酔ったレイナルフは、がはは、と笑っていた。

(祭りでケンカするなんざもったいない場所の使い方だねえ……。ま、来年もいい一年になるといいなっ!!)

 レイナルフは、ゴミ箱に串とビール缶を突っ込んで、にぎやかな祭りを後に、夜道へ消えて行った……。


●マニフィカの新年祭


 人魚姫マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、人魚の姿になって、聖アスラ学院の室内プールを泳いでいた。
 彼女が遊泳している横には、ペットのイルカであるフィリポス六世も一緒にすいすいと泳いでいた。

 水泳部に所属しているマニフィカは、だいたいいつでも学内にある温水プールを使用できる権限を持っているのである。

 マニフィカは、プールサイドに上半身だけ上がり、下半身の魚部分は水面下に沈めたまま、ペットが来るのを待った。やがて隣に来たフィリポス六世へ向かって、マニフィカは、彼の頭を優しくなでながら話しかける。

「もうすぐ新年祭ですわ。本当はフィルにもイベントを体験させてあげたいけれど、ちょっと無理そうね。でも、いつか魔術や科学の力で……」
 本来ならペット同伴で行きたいところだが、さすがにお祭りというイベントの性質上、難しいところもあるのだ。しかもフィルは陸上の移動はできないので、最初から厳しい話かもしれなかったのだが……。

「きゅー! きゅー!!」
 そんなマニフィカの心を知ってか知らずか、フィリポス六世は可愛い鳴き声を発して、主人に頭をこすりつけている。

「ともかく、わたくし、アカデミックな観点からも、ぜひお祭りには行ってみたいですわね! マギ・ジスタン世界最大のお祭りのひとつとして名高いレヴィゼル教会公園の新年祭は、一種の巨大な儀式として考えられますわ。魔術博物学における構造分析の視点からも大変興味深いフィールドワークになりそうですわ!」
 マニフィカは好奇心の塊のようなところがある。なので、明日に迫る新年祭のことを考え出すと、心が弾んでいてもたってもいられなかったのである。

***

 そして翌日の夜……。
 人間ヴァージョンの姿(貫頭衣と装身具に二本足)で、マニフィカはレヴィゼル教会公園へやって来たのである。

 残念ながらフィリポス六世は来られなかったので、今日の彼女はひとり行動である。
 本日のマニフィカは、この世界のお祭りで定評がある「ロマンチック・コース」という遊び場のルートへ、研究のために参加してみるつもりである。
 曰く、マギ・ジスの若いカップルは、新年祭のデートにおいて、まず教会へ立ち寄って教会イベントを満喫し、その後、巨大スクリーンがある広場で映画を観てラブラブになるそうだ。

 ひとりでそれを実践してみるのはちょっと気恥ずかし気もするのだが、そこは魔術博物学の研究の場でもある。神父様の「説教」と映画の「アニメ」を比較研究してみたいと思い至ったのだ。

 混雑している人ごみをかき分け、マニフィカは教会内部へと入って行く……。

 交通整理をしている警備員に誘導され、列に並び、説教が行われる講堂へと進むのであった。

***

 教会内の講堂で、神父様が講壇に上がる。
 がやがやと話をしていたギャラリーが一斉に静まり返る。
 神父様は、こほん、と咳をして、重たそうな口を開いた。

「本日は、レヴィゼル教会の説教にお越し頂き誠にありがとうございます。今宵、我らレヴィゼル教の神である魔術神レヴィゼルに対して改めて感謝を捧げるための祭典を取り仕切らせて頂きます、神父のバイエスです。よろしくお願い致します……」
 神父様が一通りのあいさつを済ますと、講堂に巨大スクリーンが天井から下りて来て……室内は徐々に暗くなって行った。

『本日は、マギ・ジスタン世界の始まりである『創世記』のお話をさせて頂きます。いわゆる我々の世界は、いかに始まったのか、という永遠のテーマですね……』

 神父様の声がマイクで響き渡り、巨大スクリーンには、広大な宇宙の光景が映し出された。

(さあ、いよいよ始まりますわね! 待ちに待った『創世記』! どんなお説教になるのかしら?)

 マニフィカは、ついにこの瞬間が来たのですわ、と言わんばかりに、爛々と目を輝せながら、神父様の話す姿を見つめていた。

『我々の世界はいかに始まったのか? 私たちレヴィゼル教徒は、魔術神レヴィゼルが世界を創世したものと古来より信じております。レヴィゼルが『はじめに魔術ありき』と唱え、大宇宙から私たちの世界の原型を創られたところから全てが始まっているのです……』

 次に神父様は、幻想的な楽園のスライドをスクリーンに映した。

『神が創造した世界は、当初、幻想と現実の区別がない楽園だったのです。そして神は楽園において創造した人間たちに魔術を与え、人々は魔術のご加護を得て暮らしていたのです。神の教えによるところ、魔術とは人間たちが幸せに暮らしていくための贈り物だったわけですね……』

(ふうむ……。マギ・ジスタン世界の原初状態は今とは全く別の姿でしたのね……。しかし、幻想と現実の区別のない世界とはそもそも『楽園』と言えるのでしょうか? 『楽園』の定義は説が分かれていそうですわね……)

 おもしろい話ではあるが、やや解せない点も感じつつ、マニフィカは頷きながら説教を聴いていた。

 スライドは変わり、今度は人間たちが魔術で戦闘している場面へと移った。

『ではなぜ、世界は原初のままではいられなくなったのでしょうか? それは、人間たちが私利私欲のための争いごとを始め、魔術を使って互いを傷つけ合ったからでした。神は人間たちの幸福のために魔術を授けたはずなのに、人間たちが魔術を使ってお互いを陥れた行為に激怒し……ついには神罰を下し、人間たちを楽園から追放してしまったのです……』

(出ましたわね、原罪思想! どこの世界の宗教にも必ずと言って良いほど登場する人間たちの罪の意識……。マギ・ジスタンの場合、やはり『魔術』が原罪のキーワードになるのですわね。はて、そもそも魔術は人間を幸福にすること自体ができたのかしら?)

 納得しつつも、学究の徒として、懐疑的な視点は捨てないマニフィカ。彼女の脳内は、今、魔術の定義を巡って、めまぐるしく、フル回転をしていた……。

 その後、スクリーンには古代のマギ・ジスの光景が映し出された。そしてその映像内に映っている古代人たちは、何やら相談をしているようだ。

『やがて楽園を追放された人間たちは……気がついたとき、クレサント大陸にいたのです。今、私たちがいるこの大陸にですね。結局、人間たちは帰る手段もなく、この大陸に国家を築き、自分たちの新しい住処にすることにしたのです。なおこのスライドに映されている光景は、古代のマギ・ジスです。世界最初の国家マギ・ジスの原型となる場所ですね……今の世界はマギ・ジス国家から始まりましたので……この世界はマギ・ジスタンという名称になったわけです……』

(なるほどねえ。『創世記』は、マギ・ジスタンの名称の由来、そしてマギ・ジス国家の始まりまで繋がるゆえに、この世界の人々にとって原点回帰みたいなお話でしたのね……。色々と勉強になるご説教でしたわ)

 マニフィカは、説教を通して、マギ・ジスタン世界や魔術博物学の知見がより一層深まったので、神父様に心の中で感謝していた。

『……以上が本日のお題『創世記』についてでした。ご清聴ありがとうございました……』

***

 説教が終わり、この後は賛美歌へ移るそうだが、マニフィカは他にやるべきことがあるので、講堂を後にした。

 彼女は、出入り口へ向かう列に並びながら、警備員の誘導を受けて、道中の売店へと寄った。

 売店に入ると、まず目に入って来たのが、『レヴィゼル聖典』である。売店の中央にあるテーブルの上に、山積みになって何冊も何冊も置かれているではないか!

(ありましたわ、聖典! これが欲しかったのですわ! しかも発祥地本場の聖典を! ふふふ……今日の研究ははかどりますわね……)

 思わず嬉しくなって、にこにこと笑いながら、マニフィカは一冊を抜き取って、会計へ持って行く。

「失礼致しますわ……この聖典を購入したいのですが?」
「はい、2000マギンです!」

 マニフィカは聖典を購入し、紙のブックカバーを付けてもらい、教会印の手提げ袋までもらってしまった。

(さあ、続いて研究ですわ!)

***

 その後、マニフィカは教会を出て、映画上映が行われる広場へと向かった。

 広場は巨大ドーム一個分ほどの大きさを誇り、魔術師仕掛けのスクリーンと映写機が空から吊るされていた。夜空には星々が煌めいている。

(まあ、素敵な映画館ですこと!)

 思わず感激するマニフィカ。

 本日の上映は……『魔法少女レヴィ』アニメ劇場版である。
 マギ・ジスタン世界で大人気の子ども向けアニメだ。
 魔法少女たちのゆるゆるとした日常を描く癒し系の作風が国民の多数に評価され、本日、新年祭でも映画上映が決まったのである。

***

 マニフィカは、早めに来ていたので、割と前の方の席が取れた。前の方なら、大迫力のスクリーンが目の前で観られて、なかなかの臨場感があることだろう。

 既に時刻は夜になっているので、野外映画館は消灯をする必要が全くない。満天の星空を背景に、映画上映会はお約束のブザー音と共に始まった……。

『本日は、『魔法少女レヴィ』アニメ劇場版の上映会にお越し頂き誠にありがとうございます……』
 来場のごあいさつ、海賊版反対、違法録画禁止、映画上映中は騒いだりしない、などのおなじみの注意点が流れ……いよいよ、映画が始まる……。

(さて、本日二本目の研究タイムですわね! さあ、『魔法少女レヴィ』はわたくしに何を教えてくれるのかしら?)

 子ども時代のときめきに近い思いを胸に、マニフィカの気持ちはスクリーンに向けて熱を発していた……。

***

問題だらけで、じゃ、じゃ、じゃん♪
魔法少女のお通りだー♪

おてんば・おちゃめ・萌え萌え☆

魔法少女レヴィ、ただいま参上〜♪

ワン・ツー・スリー♪
どかーん♪
錬金術が爆発☆

***

(ふふふ……にぎやかな雰囲気ですわね、この曲! へえ……レヴィの声優さんが歌っていらっしゃるの? こういう声を『萌え』と言うのでしょうか!?)

***

 とある日の朝の登校時。

 ツインテールの萌え魔法少女レヴィは、ほうきに乗って、登校を急ぐ。遅刻よ、遅刻! ダッシュー!!

 同じく、遅刻しそうな仲間たちに遭遇。

レヴィ「サニーじゃない?」

 元気爆発の明るい魔法少女サニーがいた。

サニー「遅刻だー! フルパワーで飛ばすぞ! アー・ユー・レディ?」

ファン「ラジャー! いつでもどこでも全力よ☆」

 不思議系の魔法少女ファンが突然現れる。

 三人は法定速度を無視して、本気で暴走。
 町の住民たちは吹き飛ばされ、色々な物がどかん、どかん☆

レヴィ「ぎりぎりセーフ!!」
サニー「よっしゃあ! もう目の前は学校だ!」
ファン「イエーイ! ナイス・ファイト☆」

 しかし……。
 きゃあああああああ、止まれなあああああああああい!
 と、壊れたほうきが暴走中♪

 結局……教室に突っ込んで行く三人!

 どかーん☆

 ホームルーム中のクラスに窓から突撃した三人。
 三人の下では、クラスメイトの委員長エメラルドが下敷きになっていた。

レヴィ「きゃあああ! エメラルド、本当にごめええええええん!」
サニー「おい、エメ! 起きてくれ! 死ぬなああああああ!」
ファン「誰かああああ! 人工呼吸をおおおおおおおお!」

***

(おやまあ……過激表現ですわね! そういえばこのアニメ、特にOVA版がR15指定になったこともあったと聞きましたわね……。しかし、今日のアニメは血で血を洗う展開が好まれているのでしょうか?)

 マニフィカは、暴走する魔法少女たちをスクリーン越しに見つめながら、アニメの規制について思いを巡らせていた。

***

 午前の授業……錬金術……。

先生「今日は、青いバラを創るための調合実習をする……今から手順を説明するので、よく聞いておくこと……」

 先生は黒板に図解をしながら、説明中。
 しかし、魔法少女たちは上の空☆

レヴィ「では、班分けだけれど……。私、サニー、ファン、エメラルドでいいね?」

サニー「うーっす! よろしくー!」

ファン「ばっちこーい!」

エメラルド「ちょい待ち! なんで私までこの班なのよ!」

サニー「エメ、それはだな。おまえが秀才だからだ。先生の話、あんまり聞いてなかったんであとは頼む!」

ファン「エメさん……あたしはもう逝きますので……あとは任せます……」

 結局、この四人で調合実習をすることになった。

 だが、結果はもちろん……。

 どかん、どかん、どかん☆
 どかーん、どかーん♪

レヴィ「ふう……マンドラゴラの調合ってかなりハードよね!」

サニー「よっしゃ! あともう一歩で石をプラチナにできるぞ!」

ファン「おいしいアイスクリーム……あとちょっとで完成よ!」

エメラルド「きゃあああああ! 何やっているのよ、もおおおおお! 私に貸しなさい、私がやるからああああああああ!」

***

(ふうむ……。この授業風景は、マギ・ジスタンの高校の授業がモデルになっているのかしら? そういえばこのアニメの校舎、どことなく聖アスラ学院の高等部に似ていますわ……まさか、わたくしが通っているあの学院がモデルなのかしら?)

 異世界のありえない授業の光景に驚きつつ、マニフィカはもしかすると、隠し設定を見つけてしまったのかもしれない……。

***

 そして、お昼になり、四人で仲良くランチタイム。
 その後、午後の授業は戦闘訓練になった。

先生「では、午後は魔法を使った戦闘訓練をやろう。校庭で実際に模擬戦をやるので、各自、ペアに分かれて戦うこと!」

 運動着に着替えて、校庭に出る魔法少女たち。
 四人の少女たちは、互いの顔をじろじろと見つめ合う。

レヴィ「エメラルド! 私と組もう! バランス派の主人公の私とあなたなら優勝は確実!」

サニー「エメ、僕にしよう! 僕の攻撃魔法とおまえの頭脳なら勝てる!!」

ファン「いやいや、何が起こるかわからない神秘魔法が使えるあたしの方が、人生がジェットコースターみたいで楽しいぞ☆」

エメラルド「せんせーい! この三人以外と組んでいいですかー?」

 結局、サニーとファンがケンカして暴れたので、先生が無理やり組み分けをしてしまう。

 対戦は、レヴィ&エメラルドチーム対サニー&ファンチームになった。

レヴィ「それー! ファイアボール!」
エメラルド「追撃! ウィンドカッター!」

 どかーん☆

サニー「ふん、サンダーボルト!」
ファン「ふふん、ゴーレム召喚☆」

 ゴゴゴゴゴォォォォォ…………。

 ファンは召喚魔法の手順を間違えて、ゴーレムどころか、恐怖の大魔王を召喚してしまった……!?

レヴィ「出たわね、魔王! 私たち魔法少女の出番ね!」

エメラルド「ファン、あなたって子は! ええい、仕方ない、私に貸しなさい! 私が倒すから!」

ファン「お助けいたすー! いでよ、神龍☆」

サニー「ファン! おまえはもう何もするな! 僕たちでやるから!」

レヴィ「こら、サニー! 四人で戦うのよ! 私たち、魔法少女はいつでも一緒って決めたじゃない!」

エメラルド「くるわ! 上級魔術を唱えるから、みんなは詠唱時間を稼いでくれる?」

サニー「おうよ! 任せろ!!」

ファン「あいあいさー!」

レヴィ「はい!」

魔王「わっはっは! 我が暗黒魔術で貴様らを地獄へ送ってやるうううううううう!」

先生「おい、魔王! 俺が相手だ! 俺の教え子に手を出すな!!」

 こうして、先生も乱入して、魔王は鎮圧されました、とさ。
 もちろん、魔法少女四人は、放課後は居残りで説教されたのである。

***

(ううん……良い話ですわね……。魔法少女はピンチのときも力を合わせて仲間たちと一緒に戦い、最後は勝つのね! でもこれ、ギャグ系のアニメなので、何かがちょっと違いますわね……)

 思わず、うぷぷと、笑ってしまいながら、このアニメのテーマについて考えるマニフィカであった。

***

 そして、放課後の説教が終わり……。
 四人は解放され、パフェを食べに行くことにした。

レヴィ「んふふ、バナナパフェ、おいし〜!」

サニー「わはは、僕はイチゴジャンボパフェだ〜!」

エメラルド「なんのー! 私は抹茶&あずきよ!」

ファン「プリン☆アラモ〜ド!」

 それぞれのパフェをがつがつとハイエナのように食べる魔法少女たちであった。

レヴィ「ところで……。もうすぐ新年祭のシーズンよね。みんなでレヴィゼル教会公園のお祭りに行かない?」

他の三人「さんせーい!」

サニー「学校が冬休みになってからだな? お祭りでは何しようか?」

エメラルド「そうねえ……教会の説教、賛美歌、お守り購入は外せないわね……」

サニー「エメはまじめだね。僕は屋台巡りと花火鑑賞がいいなー」

レヴィ「年末のバイトをみんなでやるのもいいよね」

ファン「そうだ! みんなでチョコレート作ろうよ!」

他の三人「え? チョコ? なぜ?」

ファン「新年祭というのは、女の子が好きな人にチョコをあげるイベントでしょ!」

 ガーン……!!

他の三人「ファン! それ、違うイベント!」

ファン「その後、ハッピー・バースデー・トゥ・ユー♪ って、歌うの!!」

他の三人「ファン! さらに違うイベントになってる!!」

 行く手困難な魔法少女たちの戦いは続くのであった……。

 ちゃん、ちゃん♪
 END

***

(ほっ! どうにかしてこのお転婆な子たち、物語の終わりまでがんばれましたわね! それにしても、レヴィゼル教会公園の新年祭の宣伝をアニメ内でやらなくてもようございませんか? むむ、商業主義の流れをここにも感じ取れますわね)

 マニフィカはアニメのエンディングに一応、感動はしたものの、その背景にある大人の事情についても、あれこれ考えていた。

***

魔法少女は楽じゃなーい♪
いつも呪いで憂うつ♪

好きで魔法少女に生まれたわけでなく♪
好きで魔法学校へ行っているわけでもなく♪

毎日、魔法づけで、くったくた☆

でもみんなが大好きだからがんばれる♪
友達と一緒に乗り越えよう♪

目指せ、世界最強の萌え萌え魔女♪

きらり☆ミ

***

 ちょっと悲しめなクラシック調のエンディング曲が流れ、制作スタッフリストや教会公園への参加協力謝辞などもテロップに流れ……こうして『魔法少女レヴィ』のアニメ劇場版は幕を閉じたのであった。

(さあて、おもしろい映画を観て気分がハッピーですわ☆ でもわたくし、もう一仕事ありましたわね!)

 マニフィカはルンルン気分で、劇場の売店へ向かった。
 売店はやや混んではいたが、映画終了後なので、終了前と比べれば割と難なく並べた。

「失礼致します。『魔法少女レヴィのガイドブック』を一冊、頂けませんか?」

「はいよ、お姉ちゃん、この本ね? 一冊、1000マギンだよ!」

 マニフィカは、お財布から1000マギンを取り出し、売店のおじさんに手渡した。その後、『ガイドブック』をおじさんから受け取り、先ほど教会でもらった手提げの中へ、ゆっくりとしまった。

(ふう……。今日は色々な経験ができましたし、学ぶことも多かったですわね!)

 マニフィカは研究の予定を全て遂行できたので、満足そうな表情で、ホームステイ先の自宅へと帰って行った。

***

 帰宅後、マニフィカは、今日、一日の記録をノートにつけている。
 彼女は、「説教」と「アニメ」からある「共通点」を見つけた。

 それは……。

 魔術神レヴィゼルは、どんなに時代が離れていても、何かしらの理由付けのもとに、必ず崇められる対象になっているということだ。

『創世記』では……世界を創り、人々に魔術を授け、裁きを下した畏敬の対象として―。

『魔法少女レヴィ』では……神を擬人化した魔法少女(レヴィ=レヴィゼル神)がコミカルに描かれ、萌えの対象として―。


●ジュディとコーテスの新年祭


「食欲を満たすことは人生の幸福の三分の一である」という言葉がある。一言で言えば、「美味しいは正義!」ということだ。

 今宵、怪力ヤンキー乙女のジュディ・バーガー(PC0032)は、新年祭という各国の名物屋台が集結するこのバトルフィールドで、フードファイトを開始する……。
 ちなみに、彼女の首には愛蛇ラッキーちゃんが襟巻きのようにくるまっている。まさにフットボール選手どころか、プロレスラーのようだ。

***

 ジュディは、すさまじい勢いでマギ・ジス系屋台の各飲食物を平らげていた。

 マギ・ジスやきそば(ソース味)を一口で食べきり。
 マギ・ジスお好み焼きを一瞬で完食し。
 マギ・ジスピザ(ペパロニ味)は飲み込むように食べ。
 マギ・ジス産ビールを一気飲みして、マギ・ジスサイダーも続けて一気に飲み干した。

「ぷはー! まだまだ足りんデース! うおおおおおお、今日という今日は徹底的にフードファイト、シマース!!」

 ジュディはたった今、これだけの量を食べて飲んだはずなのに、未だに腹ぺこで仕方がない。
 特に誰と戦っているわけでもないフードファイト。
 あえて言えば彼女は自分自身の限界と闘っているのだ。

「いやー! ねえちゃん、いい食いっぷりだね! マギ・ジス系屋台を経営するオヤジとして、おじさん、泣くほど嬉しいよ! わはは!」
 ジュディの食いっぷりに思わず感激した屋台主は、豪快に笑っていた。

 マギ・ジス系屋台を制覇したジュディは、次はハイランダーズ系屋台へと向かう。

 ジュディは屋台に入ると、まずはハイランダーズ高原ビールを購入し、ごくごくと飲んでいた。

 すると、よく知った男とばったり遭遇した。
 聖アスラ学院・風紀委員会副委員長であるコーテス・ローゼンベルクは、ハイランダケのバター焼きを買いに来たところだったようだ。

「ヘイ、そこに居るのは副委員長殿じゃアリませんカ? もしやユーも屋台制覇に挑戦中?」
 ジュディは、缶ビール片手に、ハローと手でポーズし、コーテスに話しかける。

「お? ジュディさん? いやー、お久しぶり……です! 学院の『お化け事件』のとき以来……ですね? ええ、まあ、友人たちとお祭りに来たのですか……はぐれてしまって……いや、屋台を制覇していたわけでは……」
 久しぶりの再会ににこにこしていたコーテスだったが、ちょっと酔い始めているジュディが気にかかっていた。

「そう……制覇……ならば同志ネ! オウ我が心の友ヨ、つまりトゥルーフレンド! 太っ腹なオネーサンが奢ってアゲルから、遠慮なくイート&ドリンクするデス……ドゥユーアンダスタン? ちっとも酔ってないから全然OK! ノープロブレム! ワッハハハハハ〜♪」
 そう言うと、ジュディは缶ビールをもう一缶購入し、コーテスへ勧めた。
 いや、だから制覇ではないんです……と言いたいコーテスだったが、時、既に遅し!
 二人は、屋台制覇の旅に出ることになってしまった。

「オヤジさーん! ハイノシシのホルモン焼き、ハイランダケのバター焼き、ドラゴンカルビ串焼き、ハイランダーズ高原麦茶、をそれぞれオフタツずつで、プリーズ!!」
 ジュディは豪快に注文すると、財布から大量のマギンを抜き出し、店頭のおじさんに支払った。

「はいよ、ありがとう! 6、500マギンね!」

「あ、あの……ジュディさん……すみません……おごって頂いて……でも、お金、大丈夫ですか?」

「ワハハ!! 年末のケービインバイトで儲けたから、今のジュディはリッチ、デース!!」

 ハイランダーズ系の屋台から一通りの飲食物を買い占め、二人は付近にある飲食テーブルへ移る。

 着席するや否や……。

「うおおおおおおおおお! レッツ、イート&ドリンク!! オール・オーケー!!」
 ジュディは凄まじい気合いで食を平らげる。

「ううむ……。コリコリとグッド・テイスト、ナイス・ホルモン!」
「わお! バターとマッシュルーム味がマウスに広がりマース!」
「がっでむ! 甘く、やわらかく、パンチの効いたドラゴンビーフ!」
「オーノー! ディープな麦テイスト!」

 ジュディが完食する頃、コーテスは必死に食べていた。

「ふう、ふう……。ハイランダケ……完食! ホルモンは……あと少し! ドラゴンカルビは……あと一口! 麦茶は、最後まで取っておく……ビールは……あと一口!」
 さすがにジュディのペースとまでは行かないが、コーテスもそれなりのペースで完食を目指していた。

「はあ……美味しかった……。でも故郷の味なので……もう少し、じっくり味わいたかったなあ……」
 コーテスが完食するのを見るや否や、ジュディはゴミをゴミ箱に捨て、彼の手を引っ張り、走り出そうとする。

「え? ちょっと……まさか……まだ食べるんですか!?」
 青ざめるコーテス。
 ニヤリと笑うジュディ。

「オブ・コース!(当然よ!)」

***

 ノーザンランド系屋台……。

 ジュディの暴走は止まらなかった。

 わたあめ屋台では……。
「ワハハ! ワタアメ、プレーン、デス! ふわふわスイート!!」

 カキ氷屋台では……。
「カキ氷、ストロベリー食べマース! わお、舌がレッド!!」

 りんご飴屋台では……。
「うふふ、りんご飴、サワー&スィート!!」

 ワイン&ジュース屋台では……。
「おう? 地元のワイン? 赤も白も一気デース!!」
「むむ? ぶどうジュースも頂きマース! わお、スーパー・スィート!!」

 とりあえず、もう食べられないので、赤ワインだけおごってもらったコーテスは、目を丸くしてジュディのフードファイトを応援していた。

「ジュディさん!! がんばれー!!」

***

 フレイマーズ系屋台……。

 ジュディの快食は留まることを知るものか!!

 ケバブ屋台では……。
「スーパー・ホットのケバブ……チキン、サラダ、ハバネロ、どれもパーフェクト!!」

 カレー屋台では……。
「スーパー・ホットカレーライス……ルー、ライス、ビーフ、どれもグレート!!」

 スナック屋台では……。
「ハバネロ・スナックね!? むしゃ、むしゃ……そろそろ……辛さが限界デース!!」

 焼酎屋台では……。
「なんの……火炎殺し、行きマース! ごくごく……ぷはー! アルコールが体内で火炎吹いてマース!!」

 健康飲料屋台では……。
「トドメのカプサイシンドリンク、デース!! ごくごく……うはー! 口の中がああああああああああああ!」

 ジュディは吐くことはなかったものの、辛さが限界を超えてしまったので、口から火を噴いた。

 火炎を吹くジュディに対して、コーテスは急いでバケツの水をぶっかけて消火活動を行う。

「ジュディさん……大丈夫でしたか?」
「オー、サンクス! ただ、フェイスが水ビタシなので……お店でタオル、借りマース!」

***

 サウザンランド系屋台……。

 ジュディは先ほどの屋台でこりたのだろう、と思ったコーテスであったが、それは全くもって彼の誤算だった。

 ジュディは、こりたどころか、逆に加速してしまったのだ。

 たこ焼き屋台では……。
「わーお! 南国の巨大タコの焼きデスね! ナイス歯ごたえ!」

 いか焼き屋台では……。
「オーノー、巨大イカ!! 固いケド、全部味わってイートしマース! これもグレートな食べ応え!」

 たい焼き屋台では……。
「むむ? リアル・鯛が入っているたい焼きデース! フィッシュの味がデンジャラス!」

 ドリンク屋台では……。
「わはは! トロピカルシェイクにトロピカルジュース!! 南国フルーツミックスのリゾート気分でホロ酔いデース!!」

 コーテスは、そろそろアルコールもきつくなってきたので、トロピカルジュースをおごってもらい、飲んでいた。

 しかし、ジュディの加速した食べっぷりを目撃し、思わずジュースを、ぶっ、と吹き出すコーテス。

「ジュディさん……あなたの胃袋は……底なしですか!!!」

***

 イースタ系屋台……。

 泣いても笑っても飲食系屋台の種類はこれで最後だ。
 コーテスは、もし、ジュディがここでも満足しなかったらどうしよう……と内心、ヒヤヒヤしていた。

 おでん屋台では……。
「うーむ! 和のテイスト、デース! おでん、かつおダシがサイコー、デース!」

 ラーメン屋台では……。
「ぷはー! トンコツ・ショーユー・ラーメンはヌードルもスープもダイナマイト・テイスト、デース!」

 寿司屋台では……。
「スシですか!? フィッシュ、クラブ(かに)、シェルフィッシュ(貝)、そして酢メシ、どれもデリッシャス!!」

 芋焼酎屋台では……。
「スィートポテトの焼酎ですカ!? ごくごく……ぷはー、ヘヴィ、デスね……そしてボディがベリーホット!! ゴゾウロップに何とヤラ!!」

 緑茶屋台では……。
「トリは、グリーンティー、デスネ! コールドなティーがクールダウン、デース! このシブミ、まさに和デスヨ!!」

 と、いった具合に、ジュディは、本当に飲食系屋台を制覇してしまったのであった。

「ジュディさん……おめでとうございます! 僕、風紀委員会副委員長として……友人として……死ぬほど嬉しいです!!」
 コーテスは、決してあきれていたわけではなかった。
 それどころか、今は感動して泣いている。

 そして、彼は、ジュディの本気のフードファイトを直に目撃できたことに対して、レヴィゼル神に感謝をしていたほどだ。

 感激していたのはコーテスだけでなく、屋台の主たちや、ギャラリーとして集まって来た一般客たちも同じ思いであった。

「いいぞ、ねーちゃん、サイコーの食いっぷりだ!」

「ありがとー! 新年祭ですんごいパフォーマンス観られたわ!」

「またやってくれよ! フードファイトの達人!」

 と、いった具合に、ジュディに向けて次々と賛辞が送られたのであった。

***

 一応、完食はしたはずなのだが……。

「コーテス! まだ行っていない……屋台へ……ゴー、デス! ひっく!!」
「え? ちょっと……待ってください! もうないでしょう?」

 ちっち、ち舌をならして、人差し指を振るジュディ。

「ゲームしまーす! へへへ」
「あ、なるほど……ヨーヨーとか射撃ですね?」

 しかし、さすがに食べ過ぎて飲み過ぎたジュディは……ゲームなんてできるのだろうか? と、やや不安なコーテスである。

「コーテス!! ジュディ……酔ってない……デース!」
 本人はそう言っているが、本人でそう言うときは、大抵、酔っているときであることをコーテスは経験上、知っている。

「わかりましたよ……。ほら、肩を貸します……。ゲーム……くじ引きやお面など簡単なものなら……それ終わったら、解散ですよ? いいですね?」
 コーテスは、右肩でジュディの左腕を担ぐと……隣にラッキーちゃんもいてぬるぬるするのだが……重たいな、と思いつつも、がんばって歩き出す。

 がっちりと肩を組むジュディは、いきなり、がははと笑い出す。
 どうやら酒が回って笑い下戸になっているようだ。

***

 魔法系屋台……。

 コーテスとジュディは、お面が並ぶ屋台前に来ていた。
 ありとあらゆる変なお面の数々でにぎわう屋台だ。

「むー。変なマスク、デース! コーテス、コレにするデース!」
「え? これ?」

 ジュディが指差したのは、「怪人二千面相」のお面だった。
 確かコレ……推理小説が原作で映画になった怪人もののお話……。
 と、記憶をたぐるコーテス。

「すみません……このお面を頂けますか?」
 コーテスが代わりに屋台主に注文をする。

「はいよ、二千面相ね。1、000マギンさ。まいど!」

 コーテスは、今日は散々おごってもらったので、この辺で何か返さないとまずいな、と思い立った。そして、自分の財布から1、000マギンを抜き取って支払った。

「おう!? コーテス! いっつ、オーケー!(全然いいのに!)」
 酔いながらも少し戸惑っていたジュディ。

「いいですよ、これくらい……。さっき色んなものをおごってもらったお礼です……」

 続けて二人は、隣のくじ引き屋台にも立ち寄る。
 屋台前には、色々な魔法グッズの景品が並んでいた。

「コーテス! くじ、引くデース!」
「そうですね。おじさん、くじ二回分……お願いします!」
「はいよ、2、000マギンね!」

 ここでもコーテスはお礼のつもりで、2、000マギンを自分の財布から抜き出し、店員に渡した。

 魔術仕掛けなのだろうか……透明で巨大な箱の中をぐるぐると回って飛び交う紙のハトたちがいた。コーテスは腕を伸ばして、一匹を捕まえた。コーテスの番が終わると、ジュディも続いて、腕を入れて、ハトを捕まえる。

「うわああああ! 残念賞!!」
 コーテスは、がっくりと肩を落とす。

「ちりん、ちりん♪ おめでとう! 残念賞のポケットティッシュだよ!」

「うえええええん!! 商店街の福引きですか……ここは!?」

 悲壮感でいっぱいのコーテスを背に、ジュディは、くじを開けてみた……。

 すると……。

「おう! 3等賞デース!!」

「ちりん、ちりん♪ おめでとう! 3等賞の絵本『召喚☆バカムートくん』だよ!」

「わっつ!?(何それ!?)」

 店主は、景品の絵本を、瞬きしているジュディに手渡した。

「これは魔法の絵本だよ。本を開くと、バカムートくんというドラゴンが飛び出して、バカ騒ぎしてくれるよ!」

 解説を聞いて、隣で見ていたコーテスは考え込む。

(むむ……戦闘用のアイテムだろうか? 戦闘中にバカな芸でもして……全員スタンになる、とか!?)

***

 展望広場まで来て、休憩しているジュディとコーテス……。

「さあ、ジュディさん……。休み終わったら……そろそろお開きにしますよ……」
 コーテスは、今日半日、ジュディに連れ回されてけっこう疲れている。当のジュディもさすがにちゃんぽんが激しく効いているらしく、酔いでゲラゲラと笑っていた。

「コーテス! ノー、ノー、デス! 空中魔法テーブルにライドし……花火しマース!」
 上空100メートルほどで回っているテーブルらを指差し、自分もあれに乗りたいとせがむジュディ。

「ジュディさん! 無茶でしょう、それは! 酔っている上に……あんなのに乗ったら……吐きますよ! 具合が……悪くなりますよ!!」
 さすがのコーテスもついつい叱ってしまったが、ジュディは、舌を、べーと出して、走って行ってしまった。

「え、 ちょっと……待って!!」
 追いかけ出すコーテス。

 ジュディは酔った勢いで、停車していた空中魔法テーブルに乗り込んでしまう。

「お客さん! お代!!」
「へへへ☆」

「ジュディさん! 待って!!」

 乗り込むジュディ、代金を請求する店主、ジュディを止めに来るために一緒に乗り出したコーテス。

 すると……。
 コーテスが乗り込む際に、変なボタンが、がくん、と作動し……。

 店主を置いて、ジュディとコーテスを連れて、空中魔法テーブルは上昇中☆

「わわ!! 動いちゃった!? ジュディさん……止めましょう! これを止めて、店主に……テーブルを返さないと!!」
 コーテスは、操作方法がわからず、あれやこれや、と戸惑う。

「ヘイ、このボタン、ネ!!」
 ぷち、と謎のボタンを押すジュディ。

 その途端……。

 空中魔法テーブルは、上空でぐるぐると猛回転☆
 まるで遊園地のコーヒーカップのノリである!!

「うわあああああああああああああ!」
 絶叫するコーテス。

「ワッハッハッハッハ!!」
 バカ笑いするジュディ。

 そこで花火が、次々と上がり……。

 ヒュ〜!
 どかん、どかん☆

 ジュディとコーテスは、花火を鑑賞するどころか、花火そのものになってしまいそうな勢いであった。

 二人は無事に、新年を迎えられるのであろうか?


●ビリーと革命じいさんたちの新年祭


 マギ・ジスタンの人々の大半が新年祭を楽しんでいる頃……。
 この年末の末日において、とある男たちは山奥の洞窟で革命集会を行っていた。

『聖アスラ、はんたーい!!』
『魔術、てっぱーい!!』
『レヴィゼル神は、死んだー!!』
『科学、サイコー!!』

 シュプレヒコールを上げる謎の老人たち。

「おい、おまえら! まだまだ気合いが足りねえぞ! もう一度、やり直し!!」
 ボスらしき男は、手下たちを怒鳴って叱りつける。

『科学的革命ばんざーい!!』
『聖アスラ像、ほうかーい!!』
『マギ・ジスの壁、さいかーい!!』
『聖アスラ学院、ばくはーつ!!』

「よし、この辺で一休みをしよう。やはりテロリストの基本は、シュプレヒコールだ! どれだけ良いコールを叫べたかで、俺たちは歴史に残るか残らないかが決まると覚えておけよ!!」

『はい、ボス!!』

 長い説明はもはや必要のないことだろう。

 彼らは、言わずと知れた……。
『聖アスラ学院のお化け事件』に登場したモブキャラ中のモブキャラである『科学的革命残党分子』の老人たち五人である。

 名前は、ボスがヴァイス。
 部下四人のうち……。
 のっぽな老人がケント。
 太った老人がザック。
 インテリメガネの老人がトミー。
 小さな老人がジョニーである。

「しかし、ボス……。世間はお祭り騒ぎだと言うのに……俺らは、毎年、革命集会だなんて……」
 ザックはしょぼくれて、ぐちる。

 実は毎年、彼らはこうしていたのだ。
 反レヴィゼル・反魔術・反聖アスラの彼らは、プライドを貫くため、来る年も、来る年も、祭りには絶対に参加せず、革命集会を決行していたのであった。

 だが、晩年になり……。
 そろそろお祭り騒ぎみたいなこともやりたくなっていた分子たちもいたのだ。
 いわゆる、年を取って、丸くなったというものであろうか。

「バカもん! 俺らがレヴィゼルを祝う祭りなんかやってどうするんだ! ここでこうして革命の闘志に燃えることこそ、我らが仕事!!」
 ヴァイスはザックを怒鳴りつけるが、他の分子たちも、もはやあまり乗り気ではない。

「ボス……我々の青春は、既に終わっていたのかもしれませんな……」
 トミーはメガネをかけ直しながら、ぼそり、と言葉をもらす。

 ジョニーとケントも、よっこらしょ、と座り込んでしまった。

 焚き火の炎だけが熱く燃え……心と気力が冷えてきた分子たち……。

 俺たちの革命ももはやここまでか!?
 と、誰もがあきらめかけていた、そのとき……。

 焚き火の前で、金色のオーラが爆発を起こす!!

「呼ばれって飛び出てジャジャジャジャ〜ン! ようやく真打の登場や! なあ、驚いた? こう見えてもボクは神様やねんで、ありがたいこっちゃホンマに。まだまだ見習いやけどな、えへへ!」

 現れたのは、小槌を抱えるキューピー姿の子ども、ビリー・クェンデス(PC NO:申請中)だ。

 唖然呆然とする老人たち……。

「ん? なんや、めっちゃ暗いやんか。どないしたん? 銭がない? そら、しゃーないわ。天下の回りモンちゅーくらいやからな。よっしゃ! このボクにドーンと任しとき!」

 ビリーは、腹を叩きながら、けらけらと笑っていた。

「おい、いきなりなんだ、おまえ!! ここは『科学的革命残党分子』の年末革命集会会場だぞ! それをわかっているのか!?」
 ヴァイスは、ボスらしく、現れた謎の子どもに対して怒鳴りつける。

「まあまあ、ボス。相手は子どもじゃないですか? まずはこの子の話も聞いてあげましょうよ?」
 横からジョニーがなだめた。

「おおきに! ここが分子のじーちゃんらの集会場つーのは、わかっとるねん! 実はボク、救済から外れてしもうた者たちを救うべくやってきた座敷童子やねん! レヴィゼル神も完璧でないのでな!」

 怪しい関西弁でぺらぺらと自分が来た理由を説明し出すビリー。
 老人たちは、ふーん、と頷きながら話を聞いていた。

「そうかい? あんた、神の一種か!? なあ、俺らの気持ちも察してくれ! 俺たちは魔術や魔術神の類いに反対するからこそ、こうして年末年始の休暇も惜しまず革命集会をやっているんだよ!」
 怒りっぽいヴァイスはまた叫んでしまう。

「まあ、ボス……。座敷童子というのは、厳密には魔術領域の者ではないかもしれませんぜ?」
 ヴァイスの後ろから、ケントも穏便な態度で確認をする。

「ところで、坊や……名は何と言ったかな? それと……君が救済してくれると言うのであれば、何かやってくれないかい?」
 トミーはメガネを光らせながら、ビリーに問いかけた。

「ボクはビリー! ビリーと呼んでくれや。そうやなあ……では、ボクが『奇跡』を起こしたら信じてもらえますかいな?」
 ビリーは打ち出の小槌を、ぽんぽん、と手に馴染ませ、分子たちに問いかける。

「あん? 『奇跡』? それって『魔術』の一種じゃねえ?」
 機嫌が悪そうな表情で聞くヴァイス。

「ううむ……ボクが思うに……『奇跡』と『魔術』は別物やねん。じーちゃんらは、科学的合理主義を信じているんやろ? なら、利用できるもんは活用すべしっつー、合理的な考え方からすれば……使えるもんなら『奇跡』でもええやろな?」
 ビリー独特の屁理屈が炸裂すると……分子の老人たちは、もしかするとそうかもしれない、うん、たぶんそうだろう、いや、きっとそうに違いない、と相づちを打ってくれた。

「ああ……そうだな……ビリーとやら、座敷童子というなら、なんか一発、面白い芸をやってみてくれるか?」
 ヴァイスは、とりあえず相手を試してみることにした。

 ビリーは、どこからか取り出したのか『宴会部長』と書かれたタスキを肩から斜めに垂らし、「打ち出の小槌F&D専用」を振りかぶる。
 そして、彼は思念を飛ばして、空中に浮遊させて……、小槌で、ぽん、ぽん、と叩きつける……。

 すると……。

 ぽん☆
 鍋ものが出て来た!

 ぽん☆
 ビールが出て来た!

「え? なんだよ、それ? おい、小僧、どうやった?」
 慌てるヴァイス。

「鍋やねん! あとビールやねん! これでボクら、宴会するねん!!」
 奇跡を起こし、にこにこと笑うビリー。

「ボス……。考えがあります。ここはビリー君の提案に乗りましょう! 年末に鍋の宴会をして英気を養うことも、今後の革命予定には必要でしょう!」
 と、まじめに言っているザックの視界には、鍋と酒だけがある。
 他の分子たちも、ぜひここはひとつ、宴会をするふりだけでもして、話に乗ってあげるのも革命的な発想です、とボスを説得する。

「よーし、俺も男だ! ビリーとやら、おまえをとりあえず認める! みんな、鍋をやるぞ! 今日の集会の内容は、今から鍋に切り替える!!」
 ヴァイスが決断を宣言すると、分子の老人たちは、やっふー、と大騒ぎだ。

「ケセラセラやねん! 鍋は冷えた心を救うねん!!」
 ビリーは満足そうに、宴会の準備を手伝い出した。

『よっしゃ! かんぱーい!!』

 ビールで盛大に乾杯する老人たち。

 そして、ぐつぐつ煮え立つ鍋の中には……。
 ジューシーな牛肉。
 あぶらの乗った豚肉。
 旬の緑黄色野菜。
 歯ごたえがある新鮮なもやし、人参、しいたけ。
 とろけるような湯豆腐。
 などが、ところせましとにぎわっている。

 老人たちは、鍋の中の具をはしで取り、ゆずポン酢のタレに付け、ふー、ふー、と冷ましながら、好きなだけ食べまくったのだ。鍋物と一緒に飲む冷えたビールも絶品であった。

 この夜、分子のじいさんたちは、鍋とビールで、飲めや歌えや、の楽しい騒ぎをしたのであった。

***

 宴会も後半になった頃……。

 新年祭を楽しんでいる者たちは、そろそろ花火大会の頃であろう。

 老人たちは、できれば花火も楽しみたかったなあ、と不覚にも思い至り、洞窟の外へ出て言った。

 五人とビリーは並びながら、花火が打ち上がる様を遠方から眺めていた。

「なんやねん? 花火、観たいちゃうか? いいねん! ボクが飛行艇を出してあげるねん!」
 ビリーは、ポケットから、「空荷の宝船」をぬっ、と取り出して……小さな飛行艇は、みるみると大きくなって行った……。

「おい、ビリー!! なんだ、それは!?」
 ヴァイスは目玉が飛び出しそうだ。

「飛行艇やねん! これに乗って、夜空を航海して、花火を鑑賞するねん!」
 ビリーが飛行艇のゲートを開け、老人たちに搭乗を促した。

***

 標高100メートル程度まで上昇した飛行艇……。
 花火が夜空で大爆発をする中、分子たちはデッキで旗を振っていた。

『聖アスラ、はんたーい!!』
『魔術、てっぱーい!!』
『レヴィゼル神は、死んだー!!』
『科学的革命ばんざーい!!』
『マギ・ジスの壁、さいかーい!!』

 それぞれの老人たちは、思い思いにシュプレヒコールを大声で叫ぶ。
 その掛け声はもはや、魔術神を祝う花火に対抗するかのようだ。

「なあ、ビリー……。今日は、俺たちなんかに救済の手を差し伸べてくれて本当にありがとう。これは俺たちからの感謝の印だ! 受け取ってくれ!!」
 ヴァイスは代表して、ビリーに、とある旗を渡した。

「なんやねん、これ?」
 旗を広げると、中央に『分子』のロゴが刻まれていて、『科学的革命残党分子見参!!』のキャッチフレーズが旗一面に広がっていた。

「この旗を一振りすれば、たちまち革命青年の心が宿り、いつまでも色あせることのない熱い気持ちでいられるはずだ! ビリー、おまえも色々と大変だろうが、いざとなったらこの旗を一振りしてくれ! 俺たちの熱きハートはいつまでも一緒だ!」
 ヴァイスが熱い言葉をかけると、ビリーは泣きついてきた。

「おおきに、ほんまおおきに! ボク、分子のじーちゃんらのことは、一生、忘れんさかいに!!」

 こうして、分子たち五人とビリーは、デッキで一緒に旗を振って集会をすることにした。

 ビリーは旗を掲げて、夜空の宇宙に向かい、大声で叫ぶ。

『このロクでもない素晴らしき世界が、ボクは大好きなんや!!』


●アリューシャとアルヴァートの新年祭

 レヴィゼル教会公園で新年祭が開催される十二月末日の夕べ。
 とある街中の喫茶店で、二人のカップルはお茶をしていた。

「へえ……。魔術師専門職養成の学校……聖アスラ学院ですかぁ? アルバさん、今度はこの学校へ進学するんですねぇ?」
 猫人間の美少女アリューシャ・カプラート(PC0055)は、コーヒーをすすりながら、聖アスラ学院のパンフレットを眺めていた。

「うん……。魔術をもっと本格的に学ぶには、良い学校だと思ってね! それにしてもアリューシャ、今日はありがとう! オレの学校の下見に着いて来てくれて!」
 音楽家の好青年アルヴァート・シルバーフェーダ(PC0052)は、テーブルに並べていたパンフレットや願書をまとめ出した。

「なあ、アリューシャ……。オレと一緒にこの世界で住まないか? 考えるにはまだ時間があるし、そもそも入試に受かるかどうかもわからないけれど……オレはマギ・ジスタン世界へ留学するつもりだから、しばらく会えなくなるとつらいし……」
 進学したい気持ちもあるが、アリューシャとも離ればなれにはなりたくないアルヴァート。

「はい……! 喜んで!! 婚約者ですから、全力でアルバさんをバックアップするですよぉ!!」
 アリューシャは、照れた表情で、アルヴァートの手を握る。

「うん、ありがとう! オレ、がんばるよ!」
 若い二人には、輝かしい未来の希望が見えているようだ。

 そろそろ店を出よう、としていた頃……。
 表通りが今日はやけに騒がしいな、と気になる二人。

 アルヴァートは、ウェイトレスに訪ねる。
「今日、街が忙しそうだけれど、何かあるの?」

 ウェイトレスは、にこりとして答えを返す。
「はい。今日はレヴィゼル教会公園で新年祭をやっています。ところで、お二人は恋人同士ですか? ならば、ぜひ行ってみてくださいね。新年祭は、ここの世界で、デートスポットとしてもよく使われるんですよ!」

 へえー、と感心した声を出す二人。

「アルバさん、ぜひ行きましょー!」

「うん! 教会公園のお祭りだから賛美歌を歌ったりもするのだろうか? ふふ……腕がなるぜ! オレたちの出番だな!」

***

 二人が教会公園にあるレヴィゼル教会へ到着する頃には、夜になっていた。

 街中も混雑していたし、公園に来てからも、教会へ入ってからも、どこも人ごみの中、窮屈な道を進んで来たのだ。

 ちょうど説教が終わる頃、二人は講堂の中へ進めた。

 説教が終わる同時に、神父様が退場をして……。
 代わりに賛美歌隊の入場が始まる。

 神父様の退場に対しての盛大な拍手は、賛美歌隊への歓迎の拍手へと切り替わった。

 賛美歌隊は、皆、修道服をきっちりと着込んでいた。
 混声合唱で歌われるらしく、男性、女性、児童、とそれぞれのグループに10人ほどの歌い手たちがいる。全員で30人の賛美歌隊は定位置に着く。パイプオルガンの弾き手もゆっくりと楽器前に着席をした。

(お、けっこう本格的な賛美歌隊がいるみたいだね、アリューシャ?)
(そうねぇ、アルバさん! 楽しみぃ!)

 指揮者が信者たちや異世界の者たちの前に立ち、お辞儀をしてあいさつをする。

『これより『創世記』の説教に続きまして、賛美歌第1番『レヴィゼル神曲』を合唱させて頂きます。指揮者のナハトと申します。今宵はどうぞよろしくお願い致します。
 さて、当曲は、ご存知の方も多いかとは思いますが、かつてレヴィゼル教徒たちが国家建国をした際に歌われた最も古き賛美歌でございます。伝承によりますと作詞作曲は、かの古代の吟遊詩人ニクスによるものと言われております。
 ご訪問頂いた皆様におきましては、賛美歌隊に合わせて歌われることも良いでしょうし、賛美歌隊の歌声をご鑑賞されるのも良いでしょう。どうぞ心ゆくままに聖夜の賛美歌をお楽しみくださいませ……』

(ほぉ。この世界の最初の賛美歌か! ますます歌いたくなるな!)
(ですね、アルバさん! でも飛び入り参加で大丈夫?)
(まあね! 音楽が生業だから何とかしてみせるさ!)

 あいさつが終わり、指揮者が賛美歌隊やパイプオルガンの演奏者のもとへ向き、タクトを振るう。

 パイプオルガンからは創世の世界を彷彿とさせるような厳めしい雰囲気の音色が流れ出し……。賛美歌隊の者たちは、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4パートに分かれ、賛美歌をキレイに歌い出す……。

(よし、オレたちも歌おう!)
(はい!!)

 曲名は初めて知り、歌い方もぶっつけ本番である二人。アリューシャとアルヴァートは、席に配布されていた楽譜を頼りに、賛美歌隊に合わせて一緒に歌うことにした……。

***

我らの神の名は、レヴィゼル〜♪
我らは、魔術より来たりて、魔術へ還る〜♪
我らが教えは大宇宙の摂理〜♪

原始より創世されたし〜♪
今は亡き楽園〜♪

新しき年の今日の日に〜♪
我らはなぜ魔術を授けられ〜♪
我らはなぜ生かされる〜♪
心で考えてみよう〜♪

神への愛は我らの証〜♪
我らレヴィゼル教徒、魔術と創造の徒〜♪
進めどこまでも、神の祝福がある限り〜♪

***

 アルヴァートは、流れ出る楽曲を絶対音楽から把握して、よく通るテノールの美声を発声し、賛美歌隊に合わせて歌っていた。

 初めて聴く曲調なので、歌い出しにはやや手こずったものの……。
 だが、彼の出身世界の宗教音楽にも似たところがややあったので、厳かな曲調に合わせて、歌詞も音程も外さずに最後まで歌いきれた。

 一方、アリューシャの方も、歌姫見習いをやっているだけあり、曲調の把握も早い。初めて聴く曲であれども、心を込めて歌う歌い方は異世界でも同じである……という思いと共に、ソプラノの美声で歌いきった。

 賛美歌が終わり、指揮者がまた客席に向き直り、閉会のあいさつをする。

『ご清聴ありがとうございました。以上をもって、今宵の教会イベントを終了とさせて頂きます。なお、配布した楽譜ですが、どうぞお持ち帰りくださいませ。皆様が人生におきまして試練に直面される際には、ぜひ当夜の賛美歌を思い出し、声に出して歌い、難局を乗り切られることを切にお祈り申し上げます……。では、魔術神レヴィゼルに祈りを捧げ、黙祷致します……レーヴェン……』

(ええと、レーヴェン?)
(アルバさん、ここは信者の皆さんと合わせましょう!)

(うん、レーヴェン!)
(レーヴェン!)

 アルヴァートとアリューシャは、信者たちと一緒に黙祷をした。
 その後、賛美歌隊が退場し、客席から盛大な拍手が送られた。

「ふう……。なんとか歌いきれたな! でもこの曲、歌うとなんかすっきりするよな? 異世界であれども、賛美歌はいいもんだ!」

「ですね、アルバさん! 賛美歌は心が洗われますよねぇ! ところで、この楽譜、もらって帰っていいのかしらぁ?」

「うん。指揮者が今、そう言っていたし、いいでしょ? デートの記念になるし、ぜひもらっておこう!」

「はい!」

***

 警備員に誘導され、長蛇の列を歩き、二人は教会の外へと出た。

「アルバさん、次はどうされますぅ?」
 アリューシャは、にこやかに予定を聞く。

「花火が観たいな!」
 アルヴァートは、恋人同士で夜空の花火を鑑賞すれば、さらに盛り上がること請け合いだろう、とにやにやする。

「すると……展望広場ですかぁ? 空中魔法テーブルに乗りますぅ?」
 アリューシャ、目の前の電光掲示板の案内を見ながら、話している。

「ううん……。でも、テーブルを借りるのに持ち合わせがあまりないし……。『比翼の腕輪』を使って、管理棟の上まで行かないか?」
 我ながら名案を思いついたと思い、腕輪を持ち出して、恋人に見せるアルヴァート。

「はい! でも花火を観ながら……お菓子やジュースがあるといいですよねぇ……」
 人差し指を口元に当て、上目遣いのアリューシャ。

「そうだな! そこらの屋台で買い物をしてから行こう!」
 アルヴァートは、アリューシャの手を引っ張って、元気よく屋台へと向かうのであった。

***

 買い物を済ませ、『比翼の腕輪』で空中をふわふわと浮遊するアルヴァートとアリューシャ。

「アリューシャ、管理棟の屋根の上に降りよう!」
「はい!」

 二人は、標高100メートルほどもある管理棟の屋根の上……それも真っ平らの楕円状のコンクリートの上に降りた。

 夜が深まり、やや冷える気温の中……二人は、屋根の上に座り込み、肩を寄せ合い、花火が上がるのを待つ。

 さすがに標高100メートルから見渡せるマギ・ジスの夜景は絶景だ。レヴィゼル教会公園はちょうど市街地の真ん中にある。なので、遠方の市街地は色とりどりの電光版みたいにライトアップされている。

 ヒュ〜!
 どかん、どかん☆

 ヒュ〜、ヒュ〜、ヒュ〜!
 どか、どか、どか〜ん☆

「お、花火がじゃんじゃん上がってくるね?」
 夜空で炸裂する無数の光の花びらに彩られ、アルヴァートの姿は七色に照らされて行く。

「ふふ……始まりましたねぇ……」
 次々と勢いよく上がって行く花火の爆発を笑顔で見つめながら、アリューシャは頭をアルヴァートの肩に寄せる。

「ところで、アルバさん! さっき売店で買った『お菓子セット』ですが、食べますぅ?」
 アリューシャは、がさがさ、と袋を漁り出す。
 すると、「恋占いクッキー」というお菓子が中から飛び出した。
 一方、ドリンクの方は、「ホットミルクセーキ」がストロー付きで出て来た。

「お? 美味しそうなクッキーに……ミルクセーキもまたいいな! なあ、アリューシャ。そのクッキー、占いができるんだろう? やってみないか?」
 アルヴァートは、三角錐のかたちをしているこんがり焼けた色のクッキーを指差して、にやにやしている。

「はい! 占いましょうかぁ!? では……」
 パカっ、とアリューシャがクッキーを真っ二つにすると……。
 占い結果の紙が飛び出て来た。

『二人の恋が真っ二つに割れないように、恋占いクッキーをたくさん食べて愛を育もう! 二人の恋に当たりが出たらもう一個!』

「おお……これは……すごい占い結果が出て来たもんだな……。二人の恋が続きたいのであれば、さらにクッキーを買ってくれという商業主義の何とやら。そして、当たり券は物理的に入っていなくて、当たりかどうかは当事者の主観で決めてくれ、と……?」
 占い結果に焦るアルヴァート。

「ううんと……。アルバさん、とりあえず……クッキー、二人で分けて食べましょうー! そして、コレは当たりだったことに決定ですぅ! うん、いいですよねぇ!!」
 アリューシャ的には、『当たり』ということになったので、特に反対意見があるわけでもなく、アルヴァートも『当たり』ということにしておいた。

 二人は、半分こに分けたクッキーを、ぱりぽり、とかじりながら、きっと『当たり』だ、と心に念じる。

「アルバさん、ミルクセーキ、一緒に飲みますぅ?」
 アリューシャは、ホットミルクセーキを取り出し、ストローをアルヴァートに手渡した。

「うん、ありがとう! って、ストローが一本しかないけれど……」
 もともとこの『お菓子セット』はアリューシャのものであるし、ストローが一本しかないのであれば、彼女に譲るべきだ、と考え至るアルヴァート。

「アルバさん……このストロー、よく見てもらえますぅ? このストロー、一本だけれど、先が二本に枝分かれしていて……使い方次第では、二人で飲めるみたいですねぇ……」
 アリューシャが手渡してくれたストローの先をよく見ると、どうやら魔法の透明テープで封をされているようだ。そして、アルヴァートが封を開けると、ストローの先は、見事に二本に分岐した。

「おお……なんたる芸の細かさ! ふふ、いいぜ、アリューシャ! ミルクセーキを一緒に二人で飲もう!」
 アルヴァートは、ミルクセーキの瓶を開けて、ストローを差し込む。
 そして、二人同時に、ちゅーっと、温かくて優しい味のするミルクセーキを飲み出す……。

(うふふ……アルバさんと一緒に飲むミルクセーキ……アルバさんの味もする……)

(おお……アリューシャとの距離……すげえ近い……アリューリャの甘い匂いとミルクセーキの甘い味……どちらも最高だぜ!!)

 二人が飲み終えると、今度はアルヴァートの方が袋を取り出す。

「オレは、イースタ屋台でおでんを買ってきたよ。魔法のポットに入っているおでんだから、冷めることはないぜ! 夜も冷えてきたことだし、熱いおでんを、ふー、ふー、して食べようか?」
 アルヴァートは、魔法のポットを開封し、中に入っているおでんの串を二本、取り出す。

 串には、こんにゃく、大根、ちくわが刺さっていた。

「わあ! アルバさん、ありがとうございますぅ! でも、このおでん、串が二本ありますから、さっきみたいに分け合って食べることはできませんねぇ?」
 彼氏がおでんを分けてくれたので嬉しいアリューシャであったが、さっきみたいな熱いシチュエーションがないのかと思うと、ちょっとがっかりである。

「ならば……アリューシャがオレの串のおでんを食べて、オレがアリューシャの串のおでんを食べるというのは?」
 どうだ、ナイス・アイデアだろう、と言わんばかりに笑顔が眩しいアルヴァート。

「いいですねぇ……。では、アルバさん……あーんしてぇー……!」
「あーん……」

 アリューシャは、おでん串の先端に刺さっているこんにゃくをアルヴァートの口へ運ぶ。
 大きく口を開けたアルヴァートは、パクり、とこんにゃくにかぶりついた。
 彼の大口を開けたかぶりつきの威勢の良さに、思わず笑いが溢れるアリューシャ。

「じゃあ、次は、アリューシャの番な! はい、あーん……!」
「えへへ、あーん……」

 こうして二人は、おでんの熱さに負けないくらいに、熱々でラブラブな方法でおでん二串を平らげてしまったのだ。

 ところで、花火大会は今も続いている。
 しかし、二人の間で時間と空間は止まってしまっていたので、夜空に鳴り響く花火の音も光も二人を干渉することができなかったのである。

 やがて、花火大会の存在を思い出した二人は、管理棟の屋根に立ち並び、遠方で展開される花火のオンパレードをじっくりと鑑賞することにした。


 ヒュ〜、ヒュ〜、ヒュ〜!
 どか、どか、どか〜ん☆

 ヒュ〜!
 どかん、どかん☆

 ヒュ〜、ヒュ〜!
 どどど、どかん☆

「アルバさん……花火って、本当にキレイですよねぇ!」
 花火の眩く儚い光を浴びながら、アリューシャは、恋人の瞳を見つめていた。

 花火は威力も音量も増し、次々と夜空で弾け飛ぶ。そんな花火にも負けず、アルヴァートは、キメたセリフを思いっきり叫ぶ。

『花火は確かにキレイだ! だが、君の方がさらにキレイだ!!』

 七色の光に照らされながら、顔を赤らめ、嬉しそうに笑うアリューシャ。

「来年も、再来年も、どこで何をしているとしても……ずっと一緒にいようね、アリューシャ……!!」
 アルヴァートは、アリューシャの耳元でそうささやき、額に軽くキスをした。

「はい! アルバさん! 来年も、再来年も、それから先も、ずっと一緒ですぅ!!」
 アリューシャは、涙の一滴が頬までつたい……泣いた顔をアルヴァートの厚い胸にうずめてしまうのであった。

<終わり>