ゲームマスター:田中ざくれろ
【シナリオ参加募集案内】(第1回/全3回)
★★★ オトギイズム王国の王都『パルテノン』。 深夜に灯るかがり火が並ぶ、比較的裕福な人達が住まう大通りから一つ外れて、煌煌とした明かりに照らされてその『冒険者ギルド』は都の建立の時からそこにあった。 閉じられた玄関の扉を開けると、この夜分には人がいない広い受付ホールにまで既に声が聞こえてくる。下りる階段を通って、地下の酒場から盛れ出ずる酔客のざわめきだ。 地下酒場は利用客の顔に影を落とす薄暗さが総じてそこにある。 酒や煙草やら正体不明のデザイナーズ・ブランドの薬物やら甘い香りが漂う空気。薬物は禁制の品ではない。さすがに強烈なその類は取り締まられるが、それよりも軽く、依存性がなく、煙草や酒よりは確実に浮世の憂さを晴らしてくれる物が出回っている。尤もそれも明日には取り締まりの対象になるかもしれないが。 半裸の棘だらけの鎧の女戦士。 刺青と生傷で全身を覆った魔術デザイナー。 ネズミの様な顔の深いフードの暗殺者らしき男。 ホラーメイクの美少女尼僧。 テーブルについて、それらの相手をするセクシーなホスト、ホステス。 質がいいと感じるか、悪いと感じるかは人格次第。 一段高くなったステージ。薄暗い酒場の中央、酒宴のテーブルと散在する椅子に囲まれて、ピンク色のスポットライトに照らされた舞台がある。 軟体動物の様にぬるりと動く、全裸の女性の姿態。いや全裸ではない。大事な局部はかろうじてアクセサリーがあてがわれている。かろうじて、だが。 彼女が履いた『毛皮のシューズ』のみが唯一の『衣』だ。 耳を聾するほどの大音響の舞台音楽は激しいビートから艶光りのするバラードへ。 グラマラスな肢体が波打つ。 手首や足首に着いた鈴が鳴る。 舞台の上で煽情的なダンスによって踊り子のシルエットが形を変える度、酒場の周囲から口笛やジョッキをテーブルで打ち鳴らす音が聞こえる。 踊りのさなかで猫の伸びの如く、上半身を床に這わせて、ヒップを高く。 脚を開いてポールに寄り添い、美しいY字バランス。 床に仰向けに、脚をまっすぐ伸ばして観客にてVの字を魅せつける。 そして、さりげないジョジョ立ち。 一瞬を停止させるポーズを決める度、一斉の拍手を浴びる。惜しげのない賛美。 やがて舞踏はクライマックスを迎え、汗が桃色を反射する飛沫となる。 糸の切れたマリオネットの様に彼女が床に伏し、それと同時にピンクのスポットライトが消える。 闇が訪れた舞台に観客達の拍手が怒涛の如く、降り注いだ。しばらくは鳴り止まない。 この闇に紛れ、踊り子は退場し、酒客質の席の間を走り抜けて、控え室と急ぐ。その彼女と入れ替わって、新たなる半裸の踊り子の群が明るい音楽をBGMにして次に舞台へと。 今、控室へと続くドアを開けて、裏の通路に走り込んだ踊り子。 彼女の名前は『シンデレラ』という。 ★★★ シンデレラはパルテノン周縁部の家より通う、踊り子だった。 昼は家の家事を任されているという。 気立てのいい娘だと近所でも酒場でも評判の彼女。幼い時に実母と死に別れ、やがて父が二人の姉を連れた継母と再婚したが、父が死んでから義母と義姉は彼女に家事の一切を押しつける様になった。 彼女はいびられるみたいに働いた。昼はかまどの灰を浴びて甲斐甲斐しく働き、やがて、夜も義母の勧めで冒険者ギルドの地下酒場で踊る様に。 「裸で踊るのはつらくない?」 酒場の酒宴の席に呼ばれ、度度、その様に訊かれる事もあったが。 「私は裸で踊るのが好きだし得意だし、ここでは綺麗なお化粧だってさせてくれるし。それで観てくれる酒場のお客さん達が気持ちよくなってくれるなら、嬉しいもん。義母、義姉? ううん、恨んじゃいないわ」笑顔でそう答えるシンデレラだった。「でも、いつかハートノエース王子様の前で、この靴を履いて踊ってみたいな」彼女は自分の履いている毛皮の靴を見下ろす。それは実母の唯一の形見だという。 『ハートノエース・トンデモハット』王子。 オトギイズム王国第一王子。 未婚の美形だが、恋多く、数多くの恋人がいるというのが公然の王子だ。腕の確かなナンパ師、と国民に呼ばれ、当人もそれを知り、悪びれる様子はない。 そのハートノエース王子が主催する舞踏会が来週、王城であるというふれが国民に宣伝されている。 真夜中まで続けられる大舞踏会。直接語られてはいないが、実はハートノエース王子の妻にふさわしき女性を探すイベントだというのは、国民全ての暗黙の了解だ。 尤も王子は婚約者ではなく、また恋人を増やすだけだろうというのも暗黙の了解だが。 「私も舞踏会で踊りたいけど、お城で踊る様なドレスもないしな。一応、誰でも参加可能っていうけど、御者付きの馬車で乗り入れられる様な人じゃないと相手にされないよね。私、お化粧を落とすとそんなに美人じゃないし」 噂によるとシンデレラの義母も二人の義姉も舞踏会に乗り込むという。その為に高価なドレスを用意したと服飾ギルド界隈から情報が流れてきている。 妖艶で美しいという評判の義母『ブランカ・アーバーグ』と二人の義姉『ロゼ・アーバーグ』『フラウ・アーバーグ』。全員が王子の真の恋人、つまり妻の座を狙っているというのがもっぱらの評判だ。 その美しいと評判のシンデレラの義母達はシンデレラが夜の仕事をしている時間には、何故かパルテノンにはいないという。あくまでも噂だ。妬まれるほどブランカもロゼもフラウも美しかった。 「全然、哀しくなんかないよ。私はここで踊れれば、皆も喜んでくれるし、幸せだし」 そう言って、シンデレラは自分の毛皮の靴を見つめた。 化粧を落とした彼女の器量は義母にも義姉にも到底、及ぶところではない。 そんなシンデレラの話は都市という境界を越えて、冒険者達の口伝いでオトギイズム王国のあちこちへとささやかに伝わっていった。 彼女を助けようという冒険者はいるか? 当然、そんなものは冒険者の為の依頼になったりはしないはず。 けなげな娘を助けようなどという殊勝な依頼は、どのギルドの受付ホールにも貼り出される事はなかった。 シンデレラ自身がそんな依頼を出す事もない。そも彼女には冒険者達に払う報酬も用意出来ない。 ★★★ 現在、この舞踏会の話で盛り上がるパルテノン近辺では、それと同じ様に皆に語られる不穏な噂があった。 男性の連続怪死事件。独身男性が夜の内に生命力を搾り取られた様に、ミイラ同然の姿で寝台で枯死しているのが発見されるのだ。 その犯人や現場を目撃した人間はいない。 ★★★ そして舞踏会当日の夜が来た……。 ★★★ |
【アクション案内】
z1.シンデレラに関わる。 z2.シンデレラの義母、義姉に関わる。 z3.舞踏会に参加する z4.その他 |
【マスターより】
ふと冒険者ギルドの地下酒場の様子を描写したくて、このオープニングを書いてみました。 『シンデレラ』をテーマにしたシナリオです。 オトギイズム王国第一王子『ハートノエース・トンデモハット』もとうとう登場します。 皆様によき冒険があります様に。 と言っても今回は冒険依頼などは出てきてませんね。 舞踏会に踊る側で参加するのもいいかもしれませんね。 ではでは。 |