『タイガーストライプの饗宴』

第三回(最終回)

ゲームマスター:田中ざくれろ

★★★

 現在『羅李朋学園自治領』冒険者ギルド内では、虎縞ビキニパンツを顔に食い込ませた白ブリーフ男『ヤンケ・ソーダ』がまるで台風の如く荒ぶっている。まさしく筋肉モリモリマッチョマンの変態だ。もっとも姿は透明化しているが。
 速やかに引き取ってもらうべく、組みついて挟んで捨てようとする冒険者有志は大勢いるが、彼より二回りも大きな戦士さえ襤褸の如く振り回されている。
 その彼に真正面から殴りかかったのがジュディ・バーガー(PC0032)だった。
 学園自治領の一角は瓦礫と化してしまったが、どうにか電気怪獣『デンキング』捕獲組は任務に成功していたらしい。
 本家ウルティマン=キリと巨大化した仲間達も加わっての大乱闘を繰り広げた末、あわや時間切れという大ピンチ。そこにチュール星人を連れたリュリュミア(PC0015)が帰還し『イップ』を怪獣の頭頂に寄生させて沈静化に成功する。この流れは「お見事デ−ス!」という他ない。
「リマインド・レボリューションッ! ストライク・バック・アゲインッ!」
 少年ジャ△プ風にヤンケ・ソーダと肉体言語で交流せんとする意思を見せたジュディは、まるで張り手相撲の様に真正面から拳をしならせる。
 そもそも後先を考えず、街中にカプセル怪獣を解き放ったヤンケ・ソーダが悪いのだ。おそらく当人に悪意はなく、脳筋すぎる人格の弊害だろうが、絶滅危惧種の怪獣を勝手に持ち出したり、傍若無人ここに極まれりだ。
 殴りかかったジュディにとっては、実は同族嫌悪の感想もあった。
 しかし勝負は一方的だった。身体を透明化させたヤンケの肉体に今三つくらい拳は届かない。
 それでも間合いからは逃さない。離れればステルスが完璧に有効になってしまう。
 汗と血が風に散り、金属塊をぶつけあう様な武骨な音が冒険者ギルドの玄関ホールに響く。
 相手の拳が自分の肉体を打つ、ビシ! バシ!という音を聴きながらジュディの脳裏に思考が閃く。
 ヤンケが好き勝手出来る要因は『光学迷彩』&『音響迷彩』というステルス技術の恩恵が大きい。
 腕時計に似た装置を奪ったり壊してしまえば、真っ向勝負に持ち込めるだろう。
 今現在、殴り合うヤンケの手首に眼を凝らしてもその装置の輪郭は発見出来ない。
 手首にはめていないとすれば、今それは何処だ!?
 ――その時、ギルド外にまで放送されていた、ジュディとヤンケの実況放送を聴いていたアンナ・ラクシミリア(PC0046)が玄関ホールに駆けつけた。
 勿論、彼女も暴れるヤンケを大人しくさせる為にギルドへ来たのだ。
 到着が少少遅れたのは、煮え湯を沸騰させて入れていた桶の準備に手間取ったから。
「ヤンケが強いのは虎縞パンティを被っているから! 力技で脱がせるのが難しいなら、自分で脱ぐように仕向けるまで!」
 アンナの叫びを聞いたヤンケの動きが一瞬ストップしたのを、ジュディは逃さなかった。
 下腹部、透明化している白ブリーフの上から思い切りナックルスパートを入れる。
 ステルス機具狙いの一撃に、ヤンケの動きが止まる。
 その瞬間、静止したヤンケにアンナが熱く煮えた湯に浸したモップを顔めがけて突き出す。
 股間を押さえて悶え苦しむヤンケが被った虎縞パンティは、熱き湯気を噴くほどたっぷりと熱湯を含んだモップによってぐっしょりと濡らされた。こうなると熱湯でびしょびしょにされた熱さと息苦しさでパンティを脱がずにはいられない。実際、たまらん勢いで脱いだ。
 ジュディの拳によって破壊された光学迷彩&音響迷彩は、彼の赤く染まった肉体をつまびらかにしてしまう。その上でもう一つのパワーアップ・アイテムであるパンティを剥がされたのだからたまらない。
 ――ジュディの『オラオラッシュ』開始。
「ORaORaORaORaORaORaORaORaORaORaORaORa……ッッ!!」
 ダイヤモンドの様な拳の連打が、筋肉に拳跡をつけていく。
 張り手相撲の攻守が完全に入れ替わった。
 ドッギャーン!という効果音と共に吹っ飛んだヤンケが、玄関ホールに置かれていた机を背で叩き割って、ぐったりと床でのびた。
 ヤンケ・ソーダ:再起不能(リタイア)。

★★★

 アンナとジュディによってヤンケは拘束された。
 白ブリーフの裸漢を荒縄でグルグル巻きにしたのだから、いかがわしい事この上ない。
「この私を縛り上げてどうするつもりだ! そういう嗜好の輩の愛蔵版写真集になる趣味は生憎私にはないぞ!」
「そんなマニアックなフォトグラフ・ムックを作る趣味など、もとよりジュディにありマセーン!」
 縛り終えて手の埃を払うジュディは、結び目を瞬間接着剤で固めるアンナと一緒に褪めた眼をヤンケに向けた。
 こうして迷惑者ヤンケが無事に捕まり、話題の中心は冒険者ギルドに集まってきたウルティマン達に移る事になったが、それでも問題は山積みとなっている。
「宇宙パトロール隊員として過去に侵略行動を行おうとしたチュール星人の存在は看過出来ない。速やかにこの星を退去する気がなければ実力行使に移させてもらう」
「こちらも宇宙パトロール隊などという自主運営組織に協力する気はない。あくまでも旧知の友との友情に応えて行った行為。そちらが手を出す気ならばこの怪獣の支配義務を放棄する」
 懲りずに同じ主張を延延と繰り返す二人の宇宙人。
 チュール星人のイップ。
 そしてキリ・オーチュネを母体とするウルティマン。
 ここまで犬猿の仲というものもないではないか、と思えるほど二人の相性は最悪に悪い。
 ビリー・クェンデス(PC0096)は考える。思えば、羅李朋学園自治領の市街地で大暴れしたカプセル怪獣デンキング。とある宇宙世紀の「戦いは数だよ兄貴!」という名言に従い、巨大化したヒーロー達がウルティマン・パワーで取り押さえようと試みたが、絶滅危惧種なデンキングも伊達ではなかった。
 ウルティマンに変身した者達のタイムアップが先か?
 それともデンキングのエネルギー消耗が先か?
 まさに我慢比べの持久戦を僅差でデンキングが耐え抜き、あわやというタイミングで、戦線を離脱していたウルティマン=リュリュミアが帰還。チュール星人が寄生した一頭の牛の力で大金星を勝ち得たという展開に、嗚呼、まさに特撮の世界が現実化した光景、円谷AG先生もご照覧あれ!などと考えていたビリーもこの番外戦には辟易していた。
 とりあえずチュール星人のイップが寄生した、暴れ疲れたデンキングは、羅李朋学園自治領の瓦礫の中で穏やかに眠っている。
 そんな姿を眺めていると、ビリーはなんとなく愛嬌や可愛いらしさを感じてしまう。
「世の中には、言葉は通じるけど会話が成立しない相手もいマス。……フォー・イグザンプル、たとえばヴァルカン星人みたいな存在。……やはり暴力! バイオレンス・イズ・オール・OK! 暴力が全てを解決スル!!」
 タイミング悪く、思わず物騒な事を口走ってしまったジュディだったが、勘違いをされそうな自分の独言にコホンと空咳を打つ。「……ジョーキング・アサイド、冗談はさておき……」
 親友であるマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は勿論、彼女の真意を理解していた。
 ジュディは、ヤンケの事を言っているのだ。
 ヤンケの放ったデンキングによって、まるで特撮用ジオラマの如く、学園自治領の一部が瓦礫と化してしまった。
 後始末を考えるだけでも頭が痛い。
 雷鬼族の貴族というヤンケ・ソーダの実家に、弁償代や復興費用の負担を請求すべきだろうか……。
 ……と、ちょっと現実逃避していたマニフィカは、ウルティマンとイップが言い争っている事実に思いを返した。
 どうやら両者は犬猿の仲らしい。
 まだ侃侃諤諤と議論は続いている。
 だが。うん、成程。双方の立場を考えてみれば、どちらの言い分も理解可能だ。
 『故事ことわざ辞典』を紐解いてみれば『小を捨てて大に就く』の記述。「些細な事は棚上げにし、より重要な事に集中せよ」という意味らしい。
 大いに納得しながら再び頁をめくると、今度は『呉越同舟』の四文字が目に入った。
 さもありなん。
「あの、こういうのはどうでしょうか……」マニフィカは双方の立場に配慮しながら仲介すべく、二人の宇宙人に『共通の利益』という妥協案を示した。「双方の主張は理解出来ますが、このまま平行線の議論を続けても埒が明きません。……今回のケースにおいては、絶滅危惧種であるデンキングの保護こそが双方に相応しい利益と思われます。捕獲中のデンキングを故郷の星にまで無事に戻す、いわゆる『一時的な休戦』という形で双方に協力を求めたいのですが、いかがなものでしょうか」
 ここで求められているのは外交官としての自分の資質だと、人魚姫は最大限の笑顔を浮かべる。
 少なくとも宇宙人同士の言い争いにくさびを打つ程度には、彼女の淑女スマイルは役立つのに成功した。おそらくウルティマンもイップも妥協案に応じてくれるだろう。円満解決の目途が立ったのには深遠に座する女神に感謝しなければならない。
「ウルティマンさんはわがままですよぉ」
 ここでリュリュミアがさりげなくも口を挟んできたのには、マニフィカは正直ゾッとした。
 せっかく結ばれつつあった紳士協定が台無しになると思われたからだ。植物系の彼女の事だ。チュール星人の肩を持つのは考えられる。
「イップさんは今回もわざわざ連れ去られた怪獣を捜しに来たんですよぉ。表彰されてもいいと思いますぅ」
 やっぱりだ。
 リュリュミアはそのまま童女の様な微笑みをイップに向ける。
「あ、新しい星の植物のはなしとかきかせてほしいですぅ。ほんとうは種とか標本があったらうれしいんですけどぉ」
「……そういうのはバイオハザードの心配があるから持ってこれなかったんだ。うっかりこの星に適応してしまったら生態系を壊してしまう恐れがあるからな」
 リュリュミアに対するイップの返答に、ウルティマンがそうそう、と相槌を打つ動作をする。
 こういう事に関しては二人の宇宙人の認識は共通らしい。
「怪獣が捕まえられたのもウルティマンが協力してくれたおかげですねぇ。……誰かが欠けてもうまくいかなかったと思いますぅ」
 ウルティマンの相槌がそのまま自分を肯定する動作へとつながった時、マニフィカはリュリュミアの作った言葉のパズルに、イップの存在がピタッとはまったのに気がついた。
 イップの顔色とも言うべき、花弁の色がさっと変わった。
 二人の宇宙人の存在を、互いが肯定したのに皆が気づいた瞬間だった。
 マニフィカはこの機を逃すつもりはなかった。
「どうでしょう。今回の二人の共闘に、わたくしから記念品をお贈りしたいと思いますわ」
 彼女は自分の持っていた袋から真珠の首飾りを二つ取り出した。こんな事もあろうかと思って、作っておいたものだ。存分に目立つ大粒の真珠はメイド・オブ・マニフィカ、彼女が自前で作り上げた逸品だった。
 突然のその記念品に対して二人の宇宙人が見せた態度は正直微妙だった。
 チューリップの花が本体であるイップ星人は首飾りという文化がないらしく、またウルティマンも光子結晶が本体である為に同じ様な背景らしい。双方とも美しさは認めても、真珠の価値を計りかねている。戸惑いが手に取るように解る。
 ただキリが素直にマニフィカの首飾りを受け取った事で、イップも続いて受け取り、海の宝珠をその濃緑の茎にまとわせた。二人とも記念品的な意味は理解したのだ。
 イップとウルティマンの大人な態度に、マニフィカは率直なリスペクトを示す。
 ここにいる者達の拍手が、二種の宇宙人が選択した平和を祝福した。
「リュリュミアが育てたハバネロとにんにくでぺぺろんちーのを作るのでみんなで食べましょうよぉ」植物系淑女がこの祝いの場に、自分の育てた食材での会食を提案した。「むらさき姫もどうですかぁ」
 くぅ〜、という腹の虫の囁きがはしたなくも場に鳴り渡った。
 途端、ヤンケが捜し回っていたむらさき姫が、ステルス技術で隠蔽していた虎縞ビキニ姿をその場に現した。
 辛い物好きという彼女の心理は、好物の前にあっけなく屈したのだった。

★★★

「美味だっちゃ」
 皿一杯に盛られたペペロンチーノをフォークに絡めながら、むらさき姫は美少女らしからぬ食欲を見せた。
 縛られたヤンケのみを蚊帳の外にし、辛味料理の会食は進む。
 もっともリュリュミアの育てたハバネロは辛すぎて、大概がリタイア気味だったが。
「こういうしつこい男は逃げてもずっと追ってくるので、それだけでは解決しません」少量ずつ食べるアンナはこの機会にむらさき姫にヤンケ対策をアドバイスする。「面と向かってしっかりふらないといけません。それが重要です」
「イエス。エンゲージメント・キャンセレーション、婚約解消すべきヨ!」辛味のスパゲッティをものともせずジュディは食べ進める。「ヤンケの悪行を口実に、親御さんを説得すベシ! 雷鬼族の王族や貴族なら世間体が大切なハズ。ケジメは必要ヨ!」
 マニフィカは、会食の番外地に追いやられたヤンケを尻目に、二人の意見を拝聴しているむらさき姫をずっと眺めていた。渋渋とでも互いを認めた異星人達に比べれば、道理の通じないヤンケはなんと真逆なのだろう。
 きちんと敬意を表すのは礼儀作法の原点だ。
 むらさき姫によれば、ヤンケは親が決めた正式な婚約者らしく、それが嫌で出奔したという。
 妻となる相手の容姿や名前すらも憶えられぬような婚約者など論外! むらさき姫に共感せざるを得ない、とジュディは思う。
「そうだっちゃね……」猛烈に辛いぺペロンチーノをすすりながら、むらさき姫は意を決し、ヤンケを見つめて叫んだ。「うちはお前の事なんか大嫌いだっちゃ! たとえ親が決めた間柄だとしてもうちはそんなの認めないっちゃ! 父様、母様に言ってお前との婚約は破棄してもらうっちゃ!」
「つれない事を言うな、なんちゃら姫! お前ももっと私の事を知れば、きっと評価が変わってくる! 私はお前の事を知る為に努力してやる! だから婚約破棄なんかとか言わないでくれ!」
 今更に努力してもこれなんでしょ、とむらさき姫を始め、ここにいる者達はヤンケのあまりにも厚顔な態度に頭を抱えた。
 盛大な溜息の理由を、当のヤンケは少しも理解していないようであった。

★★★

 陽も随分と傾いている。
 眠り続けるデンキングを眺める。
 絶滅危惧種は保護すべき対象である。生け捕りに成功したのだから、このまま故郷の星に戻してあげたい、とビリーは思う。
 問題点があるとすれば、巨大怪獣の運搬手段だろう。犬猿の仲とはいえ、ウルティマンとイップが言い争う本当の理由も、自力だけでは困難な為と思われる、と推測した。もしも運搬可能であれば、独断専行で解決に導くはず。
「ヤンケは電気怪獣を不法に持ち出したんですよね。それなら元の星に戻すという事でカプセルごと取り上げてしまっていいんですよね」
 推測を重ねるビリーに対し、アンナの決断は早かった。
 というわけでヤンケはウルティマンに、カプセル怪獣はイップに引き渡す事が決まった。
 理屈から考えると、電気怪獣はカプセル怪獣として勝手に持ち出されたのだから、同様の手段で元の場所に戻せるはずである。
 捕獲した怪獣をカプセル怪獣化する技術を後始末の一環として雷鬼族に協力要請出来ないだろうか。
 今回のケースなら、むらさき姫がヤンケの一族に恩を着せる事が出来て、何かと優位に立てるだろう。
「これで婚約破棄も通せそうだっちゃね」
 むらさき姫もそう言って、今日は帰っていった。
 馬耳東風。
 今のヤンケを表す四文字熟語はこれだろう。
 わがままな子供みたいで思い込みも強そうな言動から、ヤンケに何を言っても馬耳東風と思われる。
 今こそ自分の鉄拳が真価を問われている、とジュディは思う。
「いずれにせよ、きっちり後始末と責任を取らせるベシ!」
 ジュディのオラオラッシュが再度炸裂した。
 縛り上げられたヤンケが鉄拳制裁によってボコボコにされる。
「ツケの領収証ヨ」
 ヤンケの罪状が書き連ねられたメモの切れ端が風に吹かれて、彼の元へと運ばれていった。

★★★

 後日。
 カプセルに収められたデンキングが、チュール星人全員の赤い群に運ばれて空高く昇っていった。
 青い流星も空へと上がっていく。こちらはトラクタービームで牽引する形で、ヤンケのUFOを連れていた。
 ウルティマンからの依頼報酬『四五万イズム』は、五人の冒険者で一人九〇〇〇〇イズムに均等に分けられた。
 むらさき姫は今日もオトギイズム王国に居ついているようである。

★★★