ゲームマスター:田中ざくれろ
| ★★★ 最近は、気怠き夏もすっかり猛暑に彩られた、王都『パルテノン』。 図書館に似た、落ち着いた雰囲気が漂う喫茶店で、優雅にアフタヌーンティーを楽しむ人魚族の王女マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)の姿がそのテーブルに見受けられた。 芳醇な茶葉の香りと冷えた味わいに微笑みが浮かぶ彼女であった。 だが、習慣的に『故事ことわざ辞典』を紐解いたところで『好奇心は猫を殺す』という一文が眼に入る。 (――??????) 戸惑いを覚え、再び頁をめくると『吾輩は猫である』の記述。 ――さっぱり意味が解らない。 指した言葉が必ずしも意味を持つわけではない、と頭では理解する。しながらも、自らの霊感の働きに鈍りを覚えたかという当惑を抱きつつマニフィカは冒険者ギルドに足を向けた。 すると早速、玄関ホールが騒がしい。 覗けば、そこにいたのは珍しい訪問者達の御一行。 (子供達――?) 社会見学だろうか。パルテノンの私塾である寺小屋の子供達一行は冒険者ギルドを訪れ、そこにいる冒険者達を捕まえては遠慮ない質問を浴びせている様である。 その向学心は申し分ない、とマニフィカは好意的に受け止めたが、どうやら風向きがおかしい。質問の内容をはっきり聞き取れるほど近くはないが、質問された大人は皆一様に戸惑い、赤面している。答える者もいたが、からかい半分の態度に子供達が怒りだしている。 一体、何が起こっているのだろう。 興味を持ったマニフィカに近づいてくれればよかったが、彼らはモヒカン女に質問をしたのを最後に、一階の者に見切りをつけ、酒場となっている二階への階段を上がっていってしまった。 後を追うのは格好悪いなどと自嘲している暇もなく、興味が尽きないマニフィカはその小柄な背を追跡し。階段を上がる。 酒場は勿論の如く、酒の濃香と煙草の紫煙が渦を巻く、子供の健康には甚だしく具合が悪い場所だ。 そんな場所で子供達の眼を惹いたのは身の丈二m超の大女だったのは、極めて自然だったというべきかもしれない。 「やい! 俺達の依頼を受けろ!」恐れを知らぬ年長のガキの無遠慮な指さし確認。「赤ちゃんは何処から来るのか、俺達に教えやがれ!」 いつものように冒険者ギルド2Fの酒場でジョッキを傾けていたジュディ・バーガー(PC0032)は、子供達から唐突な質問を受け、派手にビールを噴き出した。比喩的な表現ではなく、まるで漫画やアニメみたいなオーバーアクションを披露する。歌でいうなら『カサブ▽ンカ・ダンディ』、ドラマでいうなら『探□物語』のOPである。 「OOPS、おっぷす!?」 トラトラトラ、と連打されてしまいそうな奇襲を受けた心境で赤面するジュディ。 「あア、ご褒美のビヤーがァ……」 しまった、と半分以下まで中身が軽くなったジョッキを眺め、天井に大きな溜息を吐いてから子供達に向き直る。 適当な対応で誤魔化すという手もあったけど、なんとなくそれは違う気がした。 対する子供達は、この一見怖そうなこの女性を、一瞬で覚悟完了にしてしまった自分達の質問の威力をうすうす勘づき始めていた。 この分なら天下獲れるんじゃね? 子供達がどうも何か勘違いした自尊心を抱き始めている時、マニフィカも全く予想外だった質問内容に赤面の士となっている。今度ははっきり聞こえたのだ。 さて、どう回答すべきか。 いささかの後れはとったものの子供達の真剣な質問をはぐらかすという考えは、ジュディとマニフィカにはなかった。 年長者としては子供達を失望させるという選択肢はない。不退転! 二人はプレッシャーを感じながら、慎重に言葉を紡ぎ出そうとする。 何か勘違いしているようで、子供達のリーダー、ガキ大将は胸の前で腕を組んで大胆不敵な態度を見ている。不遜な笑顔さえ浮かべていた。 「さあさ、答えてもらおうじゃねえか! カモン、カモン、カモンカモンカモンッ!」 勘違いしたドヤ顔を浮かべるガキ大将へ、背を屈めたジュディはぬぅ〜と顔を近づけた。 近い! 思わずガキ大将は顔を遠のけ、のけぞる。 ふふん、と鼻で笑うジュディ。 さて、何処まで説明すべきかを悩み、なるべくシンプルに伝えようとする。 そもそもジュディは両親を知らない。常人離れした能力から『遺伝子操作の申し子』や『アメコミ主人公の親戚』等という噂も市井に立った事もあったが真相は不明である。 血の繋がらぬ祖父母から深い愛情を注がれながら育ったので、あまり当人は気にしていない。ちょっぴり寂しさを感じる時期もあったけど、すっかり今は慣れてしまった。 大袈裟かと思われるが、試験管から生まれた『デザイン・チャイルド』という可能性すら彼女には実在するのだ。 勿論それはレアケースに相当し、いわゆる一般的な人間の生誕ではない。 だから出生の秘密に絡むと、それらの複雑な思いが回答を悩ませる。……ほんの一瞬だけ。 真面目な話、他の大人達が具体的な説明を避けようとする気持ちに彼女は共感する。 子供達の年齢を考えると、まだ性教育は早すぎるだろう。 とはいえ、彼らの好奇心も理解出来る子供時代を送ってきた。 誤魔化したくはない。でも具体的な説明は駄目。 そこでジュディは心を決めた。 「赤ちゃんは何処から来るのカ?」大袈裟に顎を捻ってみせた。「……やわらかい光は、ある日、小さな種になりマシタ。ライド・ザ・ウインド、風に乗って、おとうさんとおかあさんの心にそっと降り立ちマシタ。ふたりが愛を込めて育てると、種はゆっくりと眼を覚まし、ぬくもりの中ですくすく育っていきマス」 彼女は心を穏やかにし、らしからぬ物語を語り始めた。 まるで一人の聖母の如く。 「……時が流れ、芽は輝きを増し、世界に飛び出す準備が整いマシタ。アンド、優しい風が吹き、芽はそっと殻を破って、光の中に生まれマシタ。おとうさんとおかあさんは、その小さな命を抱きしめ『神様からの大切な贈り物だね』と微笑みマシタ。こうして、ライフ・グロウンズ・ストロング・イン・ザ・エムブレイス・オブ・ラブ、命は愛の中ですくすく育ち、やがて新しい旅に出るのデシタ」 メデタシメデタシの調子で言葉を締めくくったジュディ。 話は、子供の頃に教会で聞いた説教からの借用だ。 高齢な聖職者は神の愛を説いた。 そう、赤ちゃんは愛によって生み出され、お母さんのお腹の中で育まれるもの。 たとえ抽象的な表現になっても構わない。 生命とは愛の結晶。 生命の誕生とは奇跡に等しく、だから赤ちゃんは尊い。 それを子供達に伝えたい。 「ユーノウ?」 精一杯の聖なる笑みで子供達に微笑みかけるジュディ。 だが。 「BOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」 ジュディが子供達から浴びせかけられたのは容赦のないブーイング。 率先して舌を突き出しているのは件のガキ大将だ。 「そういうのは聞き飽きてんだよ! もっと具体的な答が聞きてえんだ!」 さすがに顔が強張った親友を見て、マニフィカはその場に子供達の背後から現れた。 非常にセンシティブな質問である。だがマニフィカは子供達の好奇心を拒みたくない。 なるべくアカデミックに説明しようとジュディの敵討ちを試みる。 「――赤ちゃんは何処から来るのでしょうか」 子供達の視線が、今度は新登場の彼女に集まる。 マニフィカは異世界出身の人魚姫だ。そもそも一般的な人間とは生態が異なり、いわゆる繁殖方法もその例外ではない。 あくまでも医学書から得た文献知識を説明する事にする。 「――種族によって繁殖方法は異なります。生き物はそれぞれ違った方法で子孫を残します。赤ちゃんをお腹の中で育てて産む『胎生』もあれば、卵から孵る『卵生』もあり、はたまた一人で子供を作る『単為生殖』だったり、まさに多種多様でございます。貴方達の質問は、おそらく一般的な人間のケースに該当するはずです」 まるで白衣を着た理系女教師の様にマニフィカは説明した。 子供達は迫力に押されている。 「――人間の場合は、まず肉体的な成熟、すなわち大人になっているのが前提条件です。次にお父さんの身体の中で作られる精子と、お母さんの身体の中で育つ卵細胞が出会い、体内受精で一つになって新しい命が始まります。赤ちゃんはお母さんのお腹の中の子宮で胎児として充分に発育し、準備が出来ると母体である妊婦から出産されます。――赤ちゃんの誕生。こうして、赤ちゃんがこの世界に生まれてくるのです」 マニフィカの説明は、専門書を読むように具体的だった。 子供達が気圧された態度になっているのは、具体的であると同時に、専門用語に臆しているからもあるだろう。 このムードに今まで子供達の無遠慮さの前に引き下がっていた冒険者達が、胸のすく思いなのだろう、うんうんと頷き顔をしながら子供達を厚く囲んだ。 その中から久しぶりの顔がまた一人。 メイドの格好をした冒険者、アンナ・ラクシミリア(PC0046)の登場である。 「赤ちゃんが何処から来るか、ですか」 アンナも子供達が冒険者ギルドにかちこんできたのに気がついて、その後を追ってきた一人であった。彼女も子供達の好奇心に満足たる回答を与えたい大人となっている。 「みなさんは虫や魚、鳥が何から生まれるか知っていますか」 アンナの回答は子供達への問いかけであった。 彼女の問いかけにツギハギのエプロンドレスを着た少女が「タマゴ!」と手を挙げる。 「そう、卵から生まれますよね。――そして卵はそれぞれのお母さんが産んでいるのを知っているでしょうか」 母親が、鳥みたいに卵を産むという説明に、子供達の大多数が戸惑った。 それぞれに顔を見合わせる。 そんなの見た事ない。そういう声が次次と挙がる。 「基本は人間や動物も同じで、お母さんが産んでくれるのです。少し違うのは人間や動物は卵を産まないですよね。実はお母さんのお腹の中で卵が孵って、赤ちゃんになってから生まれてくるんです」 アンナは愛嬌の様に、柔和な笑みを振りまく。 「だからお母さんには感謝しないとだめですよ。産んでくれてありがとうって」 ほお、とガキ大将の口が大きな丸になる。 子供達も今度こそ納得したようだ。 アンナの答は、ジュディとマニフィカとのちょうどよい簡素な折衷案になった模様である。 最後にフォローが入ったのも高得点だろう。 ★★★ たったかったったたー。行進だ。 『パルテノン中央公園』で今日もお笑い芸人の厳しい修業を積む人工魔獣『レッサーキマイラ』の所にも、子供達の群が押し寄せていた。 折しも時刻は冒険者ギルドが子供達の質問テロが起こっていたのと同じ頃。 「何や何や何や!」 ビリー・クェンデス(PC0096)は『笑いの千本ノック』と称して、何の捻りもなく本物の千本ノックでレッサーキマイラに血と汗と泥のスポコン特訓を施していた。だが、その最中の子供達来襲に、一柱と一匹は為す術もなくバックを取られた格闘家と化していた、 太陽の角度から、子供達のシルエットの中で冷や汗をたらすビリーとレッサーキマイラ。 思うところがあり、しばらく相棒のレッサーキマイラと別行動だったビリーは、久しぶりに彼(彼ら?)の棲家であるパルテノン中央公園を訪れてみた。 ちなみに別行動を選んだ理由は、当人にもよく分からない。 浮気とか倦怠期みたいな動機とも違う。 気まぐれに近いかもしれない。 「何や兄ぃ。しばらく見ない内にすっかり頭が尖りましたなー。空気抵抗でも減らしたいんでっか」 どんな言い訳をすべきか悩んでいたビリーは、あっけらかんとしたレッサーキマイラの言動に拍子抜けした。 いや、ある意味では大物なスタンスと言えるだろう。悩んだだけ損をした。 ほんのちょっぴり敬意を抱いてしまうが、でもレッサーキマイラの下手なギャグを聞いた途端にそれも打ち消されてしまう。 「うん、気の迷いだったわ」 「え、あ、へえ」 そんなやりとりもあったのに、今は子供達に囲まれて金縛りにあっている。 その子供たちが口口に言うのだ。 「赤ちゃんは何処から来るのか教えてくれ!」と。 しかもビリーに訊いているのではない。 よりによって、レッサーキマイラにだ。 「兄ぃ。これは一体どういう事でっしゃろか」 「ちょうどええ。これも修行や。答えてみいや」 壁際に追い詰められた体であるレッサーキマイラに、ビリーは冷たく言い放った。いつのまにか当人は質問を投げかける子供達の輪に加わっている。 そんなぁ……という顔をする獅子頭を前にし、ビリーは不敵に親指で顎をしゃくる。 ――赤ちゃんは何処から来るのだろうか? 素朴な疑問でありながらも、実に哲学的な命題とも言えよう。 それに魔獣がどう答えるかは、とても興味深い。 そういえば、すっかりオスと思い込んでいたが、合成魔獣に性別はあるのだろうか。 獅子頭は立派なたてがみを持ち、山羊頭の大ぶりな角はオスの特徴だろう。唯一、解らないのが尾の蛇頭だ。喋った事があるような気がするが、だとしたら記憶に残らなかったのだから恐らくオスだったのだろう。 獅子頭も山羊頭も元元野太い男の声ではないか。 ちなみにビリーには性別がない。男の子っぽい性格であるけれども。 「がんばってくださいねぇ。れっさーきまいらさぁん」 ところで、いつのまにかちゃっかり子供達の列に合流しているリュリュミア(PC0015)はどうしたものだろう。すっかり馴染んでいるし。 ここでビリーは、レッサーキマイラが助けを求めて眼をうるうるとして視線を送っているのに気づく。 仕方がないな、とビリーは助け舟を出そうとした。 思ったが、よく考えれば。 「えーと。あんさん達みたく一般的な人間は、お母さんから産まれるらしい。後は……」指をクルクルと空中で回す。「詳しい内容は、ちゃんと大人に成長してからや」 ぶっちゃけビリーもそんな知識だけだった。 子供達にもみくちゃにされそうなレッサーキマイラが叫ぶ。 「みーんな政府の陰謀でげすよ!」 一体何のどういう所がどういう風に陰謀なのかを語らぬ、苦し紛れの逃げ口上。 勿論これらの言葉に満足するはずもなく、ただ子供達の圧は強くなる。 「赤ちゃんがどこからくるかですかぁ。リュリュミアは植物のことは詳しいけど動物のことはよくわからないからしりたいですぅ」 突然リュリュミアは存在感を示した。 子供達は自分達にまぎれていた緑色の淑女に注目を送る。 「赤ちゃんがキャベツ畑で採れるっていうのは違いますよぉ。本当だったらリュリュミアはいまごろ子だくさんですからぁ」 リュリュミアは懐から取り出した生の丸ごとキャベツをレッサーキマイラに放り投げる。 受け取ったレッサーキマイラが山羊頭でそれにむしゃぶりついた。大玉が一口で半分になる。 「キャベツ畑で採れるのはあおむしくらいですよぉ」 植物系の彼女が言う事にどれだけの信憑性があるのかを知らない子供達は、ほあーんとした彼女を半ば真剣に見やる、 「木の股から生まれるって話もどうですかねぇ」リュリュミアはワンピースの裾をひらひらと持ち上げる。「リュリュミアからは何も出てきたことがないですからぁ」 「そやそやそやそやぁ」突然、レッサーキマイラに天啓が降りてきた。「赤ちゃんはどこから来るのか? それは……永い事待ってたら、コウノトリの宅配サービスで届くんやぁ!」 「……つまんなぁい」 ツギハギの人形を引きずる男の子の不満げな声の直後、小石やら煉瓦のかけらやら様様な物が人工魔獣めがけて飛んできた。 それからも子供達は皆でやいのやいの言っていたが、結局は「レッサーキマイラは何も知らない」という結論に落ち着いたようだ。 「売れないお笑い芸人は何も知らないなぁ」 「芸人が何も知らないんじゃなくて、こいつがとびきりアホなだけだぞ」 「フォローのやり方さえ知らない」 「やっぱりレッサーキマイラはつまらないなぁ」 遠慮のない子供の言いたい放題にさらされ、レッサーキマイラが泣きながらハンカチの端を噛む。 ビリーもリュリュミアも口を出さず、無邪気な言葉による精神的修練に耐える合成魔獣をただ長い眼で見守るしか出来なかった。 ★★★ 舞台は再び冒険者ギルドに戻る。 赤ちゃんは何処から来るのか?という疑問に満足のいく答をもらった子供達は、今度は二問目に移っていた。 曰く。 「空は何故、青いのさ?」 子供達の無敵の好奇心は、無遠慮な質問の刃を冒険者達に向ける。 多くの大人が答えるのを尻込みする中で、逆襲の狼煙を上げたのもまたマニフィカからであった。 彼女は読書によって会得した知識を披露する。 「日光の拡散現象によって空は青く見えます」とまた白衣が似合いそうな素振りで答えるマニフィカ。「具体的には、太陽の光には色色な色が混ざっていますけれど、太陽の放つ光が大気を通過する際に空気中の分子とぶつかって散乱するのです。――波長の短い青い光が強く散乱され、空の上には沢山の空気があって空全体に広がりますから青く見えるのです。つまり結論を言えば、太陽によって空は青いのです」 子供達は並べられる専門用語の前に反撃出来ない。 ガキ大将は解ったような顔でうーんと唸るだけである。 「ちなみに夕陽が赤く染まるのも、波長が長い赤やオレンジの光による同様な拡散現象でございますわ」 ビシッと決まったマニフィカの台詞に子供達の反論はない。 ちなみにギルド内の他の冒険者達も、並べられた理屈の前に「はーん」とか「ほー」等と唸るばかりである。 ただ一人、アンナだけが、マニフィカの理屈に補足を施した。 「皆さんは虹を見た事はありますか。――虹は色色な色が見えますけど、元は一つの太陽の光が分かれてあんな風に見えるのです。実は太陽の光には『沢山の色』が混ざっているのです。でも普段はそれが全部一緒にくっついているから、眼には見えないのですよ」 アンナは子供達の眼線の高さに合わせ、説明を始めた。 「雨の雫や特別なガラスに光が通ると、そのくっついていた色達がバラバラになって、赤・オレンジ・黄色・緑・青・藍・紫って、奇麗な並びになります。空も一緒で、太陽の光が空を通って来ると『青い光』が特に沢山広がるので青く見えるのです。だからよく見てみると同じ青でも太陽の位置によって濃い青色の時もあれば水色に見える時もあります。――朝や夕方であれば赤く見える時もありますよね。夕方になると、太陽の光はもっと遠くの空気を通らなければいけないのです。すると今度は『赤やオレンジの光』が広がりやすくなって、空が赤く染まるのです」 最後にアンナは、一番小さな男の子の前で屈んだ。」 「だから朝や昼は青い空、夕方は赤い空になるのですわ。勉強をするというのはそういう事を教わったり自分で見つけたりする事なので、皆さんももっと勉強しましょうね」 子供達の中から「はーい」とか「ふわーい」といった賛同の声が挙がる。 どうも最後にフォローがあるアンナの答の方が、子供達の受けがいい様だ。 子供達からマニフィカとアンナとジュディの三人に、依頼報酬の半分である、ささやかながら一〇○○イズムずつが手渡された。 ――何故、報酬の半分か。 それは子供達が更なる質問を隠していたからなのであった。 ★★★ 時同じくして、パルテノン中央公園。 「空はどうして青いんだ?」 レッサーキマイラは子供達による二問目の質問にさらされていた。 「それは……えーと、えーと……空のファッションセンスがクール系だからやん!」 人工魔獣の答は、公園の空気を冷たく冷えつかせる、 「えーと……空はなんで青いか? それは……青い絵の具をこぼした巨人がいるからじゃい!」 「えーと……空はなんで青いか? 実はこの世界は大きな水族館で、大空はそのガラスだからや!」 「…………………………………………」 獅子頭、山羊頭、蛇頭によるギャグのジェットストリームアタックをもってしても、子供達の冷えついた空気を温め直す事は出来ない。蛇頭は何も喋っていない気がするが。 例によって、レッサーキマイラは師匠のビリーに救済を懇願する眼線を送るが、今回もビリーは確固たる答を持っているわけではなかった。 「……あー、あれや。お空が青いのは多分、海が青いのと同じ理由や」 光の屈折がどうとか、そんな話を聞いた事もある気がするが、そういうロマンに欠ける理屈は座敷童子にはどうでもよかった。 個人的には「夕陽の赤が綺麗に映えるから」という真相でも別によさそうに思える。 ビリーは、リュリュミアにウインクで目配せするが、彼女は今度もピッタリくる答を用意しているわけではない。 「……空がどうして青いかもしりませんけどぉ、空が青いとこぉごぉせぇがはかどるんですよねぇ」 「高校生?」 「光合成(こぉごぉせぇ)」 全然駄目である。 状況に飽きた子供達がレッサーキマイラのたてがみやら髭やらを引っ張り出した時、リュリュミアはパチンと手を打った。 「あぁお腹がすいてきましたねぇ。キャベツがたくさんあるからみんなでろぉるきゃべつでも食べましょうかぁ」 ワンピースの袖の中から、キャベツが後から後から湧いて出る。 「みんな好きなものをキャベツに巻いて煮込みましょうぅ」 「ロールキャベツもええけど、こういう時は芸人のソウルフードはどや!」 ビリーは十八番の『打ち出の小槌F&D専用』を取り出した。それを振ると舟皿に乗った熱熱のたこ焼きがドンドコドンドコ湧いて出る。 正直なところ、いわゆる『豪華な料理』は喰い飽きていた。 豪華を食い飽きるとは何たる贅沢の極み! ここは反省すべき点を反省するとして、今こそ原点に回帰せんと欲する時である。 十八番の打ち出の小槌F&D専用を使い、ソウルフードであるたこ焼きを食べ放題。 当然ながら子供達にも配って、みんなでB級グルメを楽しむのだ。 「喜びを分かち合う。これが大切なんや」 公園でタコパが始まった。 回答を得られなかった子供を料理で懐柔する、 言ってしまえば元も子もないが結果オーライで子供達は満足している。 タコパと言ってもロールキャベツに巻かれたたこ焼きやキャラメルやら飴玉などなかなかカオスな宴だ。 全て腹がくちくなって有耶無耶になってしまえ、という作戦は結果的には上手くいった。 こうして公園での質問大会が一応の区切りを見せたが、子供達は満足たる答を得られなかったとして、ビリー、リュリュミア、レッサーキマイラには依頼報酬は渡されなかった。 そして子供達はタコパでさんざん腹を満たした後、隠していた続きの質問をさらに突きつけたのだった。 ★★★ 『冒険者ギルド』と『中央公園』という離れた場所で、全く同じく三つの新たな質問が同時に回答者に突きつけられた。 子供達の新たな質問。それは……。 ―― 「海の水は何故しょっぱいか!?」 ―― 「何故、人を殺してはいけないのか!?」 ―― 「赤ちゃんはどうやって作るのか!?」 ―― この三つである。 「明日、また来るだでな。今度も満足が行く解答を準備して出迎えてくれや」 ガキ大将はそう言って、子供達のしんがりを勤め去っていった。 大人達は輪をかけた厄介な質問に頭を抱える事になったのである。 ★★★ |