『カチカチマウンテン』

第一回

ゲームマスター:田中ざくれろ

★★★

 ザ・超女ジュディ・バーガー(PC0032)の故郷は、ひたすら内戦を繰り返す分断国家アメリカだ。予測困難な社会的混乱が常態化する中をそれでも人人は力強く生き続けていた。
 そんな中で泥沼に咲く蓮華の如く、戦禍から新しい文化が芽吹いていく。媚態なバニーガールを表紙に掲げる世俗的な写真雑誌『プレイガール』もその一つだ。
 とんでもなくアダルティな雑誌だが、当時フットボールのスター選手だったジュディもそのグラビアガールにと、熱心なスカウトを受けた事がある。あまりにも露骨で失礼なアプローチに、スカウトマンには肉体言語(つまり暴力)でご退室を願ったが、満更でもない気分を抱いていたのは私的な秘密だ。
 そういえば過去にバニースーツで地下酒場に勤務した事もあった。今となればまっこと良き思い出だ。
 そんなステレオタイプな米国人であるジュディの関心が、シンプルに『混沌の仕事人プレイガールUSA』という自称に惹かれたのもさぞむべなるかな。
 驚くべき偶然ではあるがかつて全く同じタイトルの西部劇がTV放映され、ジュディも幼少期に好んで視聴していたのだ。
 不運にも出演者のスキャンダル発覚やスポンサーの倒産等の悪条件が重なり、ごく短期間で番組が打ち切られてしまったが知る人ぞ知る幻の名作と言ってさしつかえない。風の噂によれば、激しい市街戦に巻き込まれて、放送局や製作スタジオと共に貴重なマスターテープは失われてしまったらしいが。
「ジャスト・メイビー、プレイガールUSA嬢も同じ世界の出身者ナノネ!?」
 冒険者ギルドの受付ホール大掲示板の前で、思い出に耽っていたジュディはふと叫んだ。
 思うととんでもない勘違いかもしれないが、その時の彼女は幼き頃の思い出で心がいっぱいだった。
 悪を懲らしめることが己の仕事と彼女――プレイガールUSAは言った。
 スーパーヒーローに憧れるジュディは、その言葉に強い共感を覚える。
 援護したい、と一瞬思った。
 しかし現実を直視すれば『正義の反対は悪ではなく、また別の正義』というケースも多い。
 もちろん仕置きされる側である『タヌーキー・イン・UK』の悪質行為を正義とは思わないけど、さすがに爆弾による爆殺はオーバーキル、過剰だろう。
 いずれにせよ、プレイガールUSAの過剰対応を放置出来ない。
 爆殺を止めるべくの説得手段は何だ?
 もちろん得意な肉体言語(暴力)だ!
 ジュディはプレイガールUSAの非道を止める為、混沌の仕置き人たる彼女を懲らしめるべくの依頼に挑戦したのだった。
 受付ホールを去る彼女の広い背中は、傍観者と化した他の冒険者達によって見送られた。

★★★

 とある用事を『羅李朋学園自治領』ですませたマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、久しぶりに映画喫茶店『シネマパラダイス』を訪れた。
 例の連続自殺事件で弔問した以来となる。いまだに犯人と思しき男女は逃亡中であるが、彼らの選択肢は限られており、もはや考慮の埒外だ。
 それよりもイメージダウンによる経営不振を心配していたが、徐徐に常連客が戻っていると聞いて安堵した。
 ちょうど『二四時間耐久・まんが日本昔ば○し』というイベント上映が開催されており、成り行きからマニフィカも参戦する羽目に。
 このようなイベントの常として、当然ながらイベント終了後は眼も虚ろ。まるで動く死体ゾンビーの如く動作が鈍い。
 脳裏でOP曲の幻聴がリフレインしている。頭を左右に傾ける度、視界の隅でアニメのキャラがチラッチラッと閃く。
 ――。
 冒険者ギルド五階の宿屋でようやく爆睡から眼醒めたマニフィカは、起き抜けに『故事ことわざ辞典』を紐解いた。
 すると『暗中飛躍』の四字熟語が眼に飛び込む。
(……これは警告か?)
 首を捻りながら再び頁をめくれば『噂をすれば影がさす』という一文が目に入る。
(ああ。……これはよし〇と新喜劇の基本パターンだな)
 まだ眠気が完全に醒めやらず、おかしな発想に気持ちが行く彼女。
 学園自治領の冒険者ギルドに立ち寄ったマニフィカは、何気なく大掲示板の前で立ち止まった。
 そして貼り出された作曲家『タヌキダ・タロー』からのクエストに注目した。
 依頼文によると、彼の兄は謎の白衣の男に改造されたらしい。
(まさに『Drデストロイ』の仕業では!?)
 依頼文を印刷したポスターの前でマニフィカは戦慄する。
 Drデストロイ。
 過去に幾つもの事件を引き起こした黒幕的な天才医師。被験者の肉体と精神を改造し、ある種の超人に作り変えてしまう狂気の確信犯。
 典型的なマッドサイエンティストと言えるだろう。
 しばらく音沙汰がなく、潜伏したまま表舞台から消え去ったと思われたが、とうとう活動を再開したらしい。
 放置しておくには危険すぎる人物だ。
(とにかく彼を追跡し、可能であればその身柄を拘束すべき!)
 その想いを身に充実させていると、見知った知り合いが自分と同じクエストのポスターに注目しているのに気がついた。
「わたくしもタローの依頼を受けようと思います」
 いつもと同じくピンクの衣装を着たアンナ・ラクシミリア(PC0046)は、マニフィカの視線に気づくなり彼女にそう答えた。
 凛とした瞳は、タヌキ人間のイラストを写像として映している。
「その為にはまだ解らない事が多すぎます。……そもそも何故タローの兄は改造される事になったのか経緯が解りませんし……何か命に関わるような怪我や病気をしたのか、それともいきなりさらわれて改造されたのか――改造される事を本人は望んでいたのかどうか。何であれ、狙われているのであれば探し出して保護する必要がありますね」
 マニフィカはむ、と唸る。
 確かにDrデストロイの被害者としては、タヌキダ・タローの兄には解らない事が多い。
 わたくしも慎重にならないといけないな、と真剣なアンナの面持ちを見て、自戒の念を発動した。
「もっとも本人がやらかした悪事や悪ふざけは、反省して謝罪して回るべきだと思います」とアンナ。
 足跡を辿り、被害を受けた人がいれば悪行の数数を記録して後を追う、その気持ちだ。
 こうして二人はこのタローの兄を救いに行く依頼を受ける事を正式に表明した。
 マニフィカはDrデストロイが動きだした事を念の為、王家にも通報しておく事にした。
 『オトギイズム王国』の『トンデモハット』王家から返った念書は意訳すれば「好きにやってくれ」という事である。一見無責任にも見えるがDrデストロイ退治について、王国は一切の邪魔をしないという意味にとれる。言わば自由行動のお墨付きをもらえたのだ。
 アンナとマニフィカは依頼を受け、タローの兄を調べ、救い出す冒険へと出発したのだった。

★★★

 パルテノン中央公園の片隅では、座敷童子と合成魔獣に飽食の時代が到来していた。
 地球の日本三大珍味として有名な、越前の塩うに、肥前野母の唐墨、三河や能登産このわた。
 無性にアルコール類が欲しくなるラインナップ。全て濃厚な旨味と独特の食感が特徴である。
「この世の全ての美食は食べ慣れてしまったんやな」
 と福の神見習いのビリー・クェンデス(PC0096)は言う。豪語か。そうかもしれない。
 あえて言おう。罰当たりであると。
 贅沢を極めた豪華な料理は彼らは喰い飽きてしまったらしく、彼らは今はいわゆる珍味やゲテモノ料理の類に傾倒している。
 昆虫や両生類の唐揚げは、ゲテモノ料理の入門編としてハードルが低い。
 物珍しさはあったが、どこか物足りなさを覚えてしまう。
 舌が肥えすぎてしまった弊害かもしれない。
 先入観のなさそうなレッサーキマイラがたぶん平然と食してしまうだろう。美味に感じるかは別の問題としても。
「いやそうでもないでっせ」とレッサーキマイラ。「ムカデの素揚げだけはどうにも食べる気にならなかったでげす」
「ほお」
「素材の勝利というか大ムカデが生きてる時の質感そのまんまで、あれはどうにも恐怖の方が先に立ちやす。同じ路線で行くならスズメバチの酒漬けもあきまへんな」
「語るやないか」
「両生類もカエルならいいでげすがイモリはいけません。あれは毒がありやす。昔はイモリの惚れ薬なんて物もあったようでげすが、実はあれヤモリの誤訳だって知ってましたか。中国の文献を訳した時に間違ったんですが、知らずに惚れ薬を飲んだ者は死屍累累でげすな」
 何処まで本当かは解らないが、今日の人工魔獣は舌が回った。
 どんな珍味やゲテモノ料理にチャレンジすべきか、まことに極楽トンボな会話を交わす一柱と三匹(?)。
 と、不意にビリーは空を見上げる。
 遠くの雷雲で稲妻が光り、何故か急に顔色を悪くする。
 トラウマでも刺激されたのか。どうも『雨宿りの館』から帰って以来、雨と稲光には腰が引けがちだ。
「こらアカンわ……えっと、あんじょうリフレッシュでけた事やし! ぼちぼち社会貢献を再開せんとな!」
 言い訳じみた台詞を棒読みしてから、慌てふためきつつレッサーキマイラを先導して冒険者ギルドに駆け込んだ。
 古き劇詩は告げている。
 神は天に居まし、全て世は事もなし。
 ――。
 意外にもビリーと臨時パーティを組みたがる冒険者は多い。
 『打ち出の小槌F&D専用』というアイテムを持っているビリーと組むと道中は食費が浮くし、美味を楽しめるからだ。
 『過去見のイザベル』に五万イズムを支払った男もその一人だった。
「なになに……。タヌーキー・イン・UKをどうにかしてほしい? 双子の星?」
 最近の冒険者ギルドをざわつかせている依頼に興味を持ったビリーは彼から話を聞き、作曲家タローの依頼を受ける事を検討する。
「なんかちょっと厄介そうなクエストやな。けど、これも人助けか」
 その考えで首を突っ込むビリー。
 こうして福の神見習いはタヌーキー・イン・UKとプレイガールUSAが関係する依頼に参加する事になったのだが……あんなややこしい事になっているとは今の彼には知る由もないのだった。

★★★

 『オトギイズム王国』東方の牧歌的な東洋風世界『アシガラ』地方。
 ここに集まった五人はタヌーキー・イン・UKを救おうという方向性を見せていた。
 ビリー。
 ジュディ。
 リュリュミア(PC0015)。
 丹念にタヌーキー・イン・UKの過去の足取りを追っていたアンナとマニフィカは最後に合流する。
「どうもそれまでは普通のタヌキとして生きていたのですが、猟師の罠にかかっていたところを?rデストロイに助けられたようですね。それ以降、改造されてから今の生活になっています」アンナは調べた結果を綴じたメモを見ながら説明した。「改造されたのは彼の本意ではなかったようですが、特に気にしている風には見えません」
 Drデストロイの痕跡を追えなかったのはマニフィカの無念だが、メモにはこれまでタヌーキー・イン・UKが各地で行ってきた悪行の数数が羅列されている。
 彼の弱者をいじめて悪戯をして喜んでいた記録は方方に残っていた。
 どうもDrデストロイに改造されて以来の事らしいので、それが彼の性格に影響を与えたという可能性は捨てきれない。
 しかし、それだけで赦せるとはちょっと思えない調査結果だった。
 ――優しい兄の消息を探し出して止めてくれ。悪ふざけがすぎて仕事人に命を狙われている。
 依頼者タローの言葉だが、悪ふざけがすぎるにも程があるだろうというのが率直な感想だ。
 果たしてタヌーキー・イン・UKをこのまま愚直に救うべきだろうか。
 それはそれとしてもプレイガールUSAの蛮行を止めなければいけないが、彼と彼女を追ってきた者達は自分達が今相対している現状に混乱していた。
 今、皆は山の入り口である森にいる。
「うさぎといえばおもちとおだんごですよねぇ。つきにかわっておしおきのおてつだいしますから、おもちをひとつリュリュミアにくださいなぁ」
 リュリュミアはけなげとも言える口調で、二人のプレイガールUSAに話しかけている。
 二人?
 そう。二人だ。
 予言の映像に先回りして、爆弾が仕掛けられる前のタヌーキー・イン・UKとプレイガールUSAに会いに来た冒険者達は、眼の前にいる二人の白いバニーガールを前にして混乱の状況に追いやられていた。
「双子の星ってこういう事かい!?」
 叫ぶビリーを尻目に、寸分違わない二人のプレイガールUSAというややこしさは双方のテヘペロではすみそうにない。
 どちらかがタヌーキー・イン・UKが化けた、偽者のプレイガールUSAという事になる。化けられるとはタヌキの面目躍如というところだが、会いに来ていきなりこれという状況は迷惑この上ない。
「どっちがタヌーキー・イン・UKなんデスカ!?」
「「こっちです!」」
 ジュディの誰何に、二人のプレイガールUSAが同時に互いを指さす。
 ビリーはただの悪戯としては本当に迷惑でしかないタヌーキー・イン・UKの所業に、とんがり頭の髪の毛を掻きむしる。
「ああもう! 何でこういう事を始めるんや! 話が本題に行く前にややこしいだけやろ!」
 何でこういう事を始めたかという心当たりに、タヌーキー・イン・UKが悪戯が大好きだからという彼の趣味的な事以外、皆は思い当たらない。
 しかし、そういう事に便乗するのがプレイガールUSAの悪い癖だというのがこれではっきりと解ってしまう。
 一言で言えば、皆ふざけすぎなのだ。
 だが、この現状に一つの解決法を提示したのがリュリュミアの言い分だった。
「ほんもののうさぎさんならおもちかおだんごをもっているはずですぅ」
 おいおい、それは違うんじゃないか、と皆のエアつっこみが入った現状だったが、それに対して二人のプレイガールUSAがそれぞれにお餅を懐から出して見せた。
 片手に載ったぷっくりとした白いお餅はつやつやとして異常に美味しそうだ。
「ちょっと待ってください! どちらかはタヌーキー・イン・UKが出した偽物ではないでしょうか!」
 待ったをかけたアンナの言葉。
 タヌーキー・イン・UKならさもありなんという推測だが、そうなると話は振り出しに戻ってしまう。
 皆は化かされたまま時間が経っていく。
「フィッチ・ワン・イズ・ザ・ラクーン? どっちがタヌキナノ……?」
 ジュディは焦っていた。眼を離せば今にもプレイガールUSAによってタヌーキー・イン・UKに時限爆弾が仕掛けられそうである。爆殺を止めるべく肉体言語で説得を試みるつもりでいたが、このままでは埒が明かない。 
 ああ厄介なり、双子の星。
「……どっちかが偽物だという事がはっきり解ればええんやな……」
 ビリーは、野生のタヌキは雑食性で糖度の高い果実や野菜を好む、という事を思い出していた。
 水晶球の映像では、餅を焼く匂いに誘われてタヌーキー・イン・UKが姿を現した。
 つまり『打ち出の小槌F&D専用』で誘き出せるはずだ。
「ならば、リンゴ、ニンジン、パパイヤ、マンゴー! ついでに季節外れの熟したスイカでどや!」
 小槌を振ったビリーの前に色とりどりの新鮮な果実、根菜が山積みになった。
 タヌキでなくとも飛びついてしまうだろうゴージャスさ。さすがすぎるビリーの美味につられて、タヌーキー・イン・UKが正体を現すのも時間の問題かと思われた。
 しかし誤算があった。
 果実や野菜を好むのはウサギも同じなのだ。
 かくしてニンジンに飛びついた二人のプレイガールUSAが次次に齧りだすという光景に、五人の冒険者は呆れ顔を新たにするしかない。
「「ふう。食った食った」」腹をふくらませた二人のプレイガールUSAが食べ散らかした果菜のクズを前にして、地べたに寝そべる。「「これだけ食べてもまだ物足りないですね。さっきの餅でも食いましょうか。……でもただの餅だと今や味気ないしなぁ」」
「小豆と大豆ならありますよぉ」リュリュミアが両手から沢山の小豆と大豆をこぼしてみせる。「あんころもちときなこもちのどちらがおすきですかぁ」
「あんころもち!」
「きなこもち!」
 二人のプレイガールUSAが『プレイガールUSA(あんころもち派)』と『プレイガールUSA(きなこもち派)』に奇麗に分かれた。
「これで傾向ははっきりしましたけれども……これからどう見分けましょう……」
 嘆いてみせるマニフィカを前に、二人のバニーガールは白い餅を手にフフフンと笑う。
 過去見のイザベラの予知が確かならば、プレイガールUSAはこれからタヌーキー・イン・UKに時限爆弾を仕掛けるはずである。
 あるいはもう仕掛けているのかも。
 果たしてどちらがタヌーキー・イン・UKなのか。
 プレイガールUSA(あんころもち派)か?
 プレイガールUSA(きなこもち派)か?
 山の入り口にあたる森の中。
 双方の丸い尻を見比べてもさすがにタヌキの尻尾は見当たらなかった。
 ふざけすぎの二人をこれから一体どうしよう――?

★★★