『カチカチマウンテン』

第二回

ゲームマスター:田中ざくれろ

★★★

 まず状況を整理しよう。
 今、五人の冒険者達の前にいる二人は、姿かたちがそっくり同じな白いバニーガールだ。
 嗜好から大別して『プレイガールUSA(あんころもち派)』と『プレイガールUSA(きなこもち派)』と呼ばれている。
 この内、一人が悪逆非道のタヌキ『タヌーキー・イン・UK』なのは間違いない。
 混沌の医者Drデストロイに改造されたタヌーキー・イン・UKが、自分を仕置きに来た仕事人プレイガールUSAを巻き込んで、冒険者達を『化かしの術』で撹乱するというとんでもなく迷惑な状況を作り出した。
 迷惑に迷惑を重ねるように、プレイガールUSAもこの状況を楽しんでいるのだから救いようがない。
 ふざけすぎな二人だが、実はタヌーキー・イン・UKにはそんなに時間が残されているわけではない。
 既に仕掛けられているかは解らないが、プレイガールUSAの時限爆弾がタヌーキー・イン・UKを吹っ飛ばすのが予知されているからだ。
 タヌキにお灸をすえるにしても、ウサギの悪だくみを止めるにしても、まずはどちらがタヌーキー・イン・UKかを明らかにしなければならないわけだ。
 用意はいいか? 準備は既に出来ている。

★★★

 この『オトギイズム王国』は、フィクションを少し歪ませながら現実化したような世界観で成立している。
 パロディやカリカチュア等の言葉が思い浮かぶが、またデザインが効力を発揮するという独特な世界法則も特筆すべきだ。
 いずれにせよ、この戯画的な世界は、実際に現地で過ごしてみると違和感はなく、かえって暮らしやすいくらいである。
 ……かく言う己も架空の登場人物ではないだろうか?と、ふと、そんな考えがマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)の脳裏をよぎった。
(まさかそんな事が)
 埒(らち)もない事を思いながら彼女は『故事ことわざ辞典』を紐解く。
 すると見開きを埋めたのは『類友』の大きな二文字。
 類は友を呼ぶ、その略語であろうが、これは『双子の星』という予知者イザベラの表現にも通じる。
 再び頁をめくると、今度は『同じ穴の狢』という一文が目に入った。
 狢。
 ムジナだ。
 動物学的にはムジナという生物は存在せず、タヌキと同じ巣穴に棲んでいたアナグマを猟師が見間違え、ムジナという架空の獣が出来上がったのだろうとされている。
 『同じ穴の狢』の一般的な意味は「一見関係なさそうに見えても、実は同類、仲間である事」だ。
 成程。まさしく類友。タヌーキー・イン・UKとプレイガールUSAがまったく同じ性格であるのを示していると読める。
 そこまでマニフィカは思考を巡らせ、眼の前でふざけて指で突つきあっているプレイガールUSAを見る眼を冷静にする。
 しかし、ムジナだ。
 結局は一人は偽者なのだ。偽のプレイガールUSAが架空の獣扱いされる類推もそこから考えを進めれば解る話だ。
 褐色の人魚姫は思い返す。
 彼女の脳裏に、今度は映画喫茶『シネマパラダイス』で開催された『二四時間耐久まんが日本昔ば○し』での体験が蘇る。
 あの時はすっかり脳細胞を酷使したが、今は時間経過と共に記憶や知識としてその体験が整理されている。
 少し歪んだフィクション。童話。寓話。説話。
 今回のクエストは、日本の民話『カチカチ山』との類似点が多い。
 神話『因幡(いなば)の白兎』にも関連性があるだろう。
 つまりまさしくオトギイズムの世界観に相応(ふさわ)しい出来事と言えるだろう。
 ここまで考え、マニフィカは話を整理する、
 ならば物語の全体を知る者の特性を活かして、メタ視点からクエストの問題解決に貢献出来るはずだ。
 考えてみれば日本の民話が成立した時代背景から、残酷な描写がそれに含まれるのは決して珍しくはない。
 カチカチ山も本来のストーリーでは、老婆を殺害したタヌキが、遺体を調理して老翁に食わせるという猟奇的な内容だった。
 しかし後世になると残酷なシーンの割愛や改変が為され、より民心に優しい展開になった。老婆は殺されずに重傷を負い、ウサギによる報復は命まで奪わず、改心したタヌキが悪事から足を洗う。
 そして「めでたしめでたし」だ。
 ――今回のクエストも同様に、物語としてハッピーエンドで終わらせるのは不可能ではないはずだ。
 マニフィカの決意が方向性を得た。
 無論『言うは易く、行うは難し』であるのは承知している。
 しかし断罪だけでは終わらせたくない、と彼女は赤い瞳に決意をこめた。
 どう上手に収拾させるか、アフターフォローも含め、それが肝心だろう。
 とにかくメタ視点からアドバイザー的に物語のハッピーエンドを補助するのだ。
 その為にはタヌーキー・イン・UKが、心から反省して改心し、更生する可能性をダメ元で願うしかない。
 全てはそこから始まるのだ。

★★★

 ジュディ・バーガー(PC0032)はステレオタイプな米国人に相応しくこよなくシンプルを愛し、合理主義者でもあった。
 いわゆる古典的なプラグマティズム(実用主義・実際主義)。理論や観念で真理を探求する伝統的な哲学に対し、それは効果や有用性を重視し、物事の価値を「行動の結果」や「実際に役立つか」で判断しようとする思想なのだ。
 浅薄・短絡的・利己的というネガティブなニュアンスを含め、即物的な行動基準かもしれない。
 それはしかたがない。彼女の欠点も、多面的な人格を構成する不可欠な要素なのだから。
 そんなジュディは眼の前で踊る二人のプレイガールUSAを見ながら思った。
 かえって面倒が減り、結果オーライと。
 そもそも暴走した彼女を止めるのが目的であるのだから、対象が二人に増えたところで大差はないのだ。
 まさしくプラグマティズム。ポジティブ・シンキングの発露である。
 そっくりなのは外見だけではなく、おそらく中身も同類であり、だから過去見のイザベルも『双子の星』と予知で表現した。
 つまり過度の配慮は不用だ。
 という訳で、ジュディは遠慮なく二人に肉体言語(暴力)を行使したいという所存である。
 考えるに最もシンプルにタヌキ爆殺を阻止する方法は、プレイガールUSA嬢から爆薬類を取り上げる事だ。
 手段を失えば、実行は困難になる。
 取り上げる為にどちらが本物か見分る必要はない。両者とも身柄を押さえてしまえば話は早い。
 ちょっと荒っぽくなるが、単純化された力技は時として非常に効果的。
 力isパワー。
 そして今はその時だ。

★★★

「ふたりともいきがぴったりですぅ。よっぽどあいしょうがいいんでしょうねぇ」
 まだ春が遠いこの季節で、やたらのんびりとしたさわやかな風を吹かしているのがリュリュミア(PC0015)だ。
 彼女の言葉を聞いた二人のプレイガールUSAが「いやぁそれほどでもぉ」と照れ隠しのテヘペロをデュオで出して、珍しくもしおらしい態度を醸し出している
「うさうさこんびをくんだらまちでにんきものになれるんじゃないかなぁ。リュリュミアはおうえんしますよぉ」
 彼女がそんな事を言うものだから、二人の不真面目バニーガールはますますつけあがる。
 鏡像反転のウサギのダンスで五人の冒険者をからかって、山の風景にコケティッシュな雰囲気が燃え立つ。
 そういえば、そろそろ山に夕陽が燃え上がる頃だ。
「ふたりのかどでにあんころもちときなこもちでおいわいしましょうぅ。がまのほでまっしろなすぅつをつくってぷれぜんとしますよぉ」
「「それは嬉しいな。フフン♪」」
 ジュディの両腕が二人を拉致ろうと不穏な動きを見せるのを、プレイガールUSA(あんころもち派)とプレイガールUSA(きなこもち派)がそれに気づいているのかいないのか、無防備な様で踊っている。
「やっぱりあんころもちよね」
「やっぱりきなこもちよね」
 ここはさすがに意見が分かれるが、状況をキャピキャピ楽しんでいるのは二人とも同じだ。
 それらを見やるビリー・クェンデス(PC0096)は「おいおい、ええかげんにせいよ。怒るでホンマに!」と心の声を口に出してしまう。
 頓智(とんち)の一休さんとして知られる臨済宗僧侶の『宗純禅師』は、生涯に様様な説話を残した。逸話は古くから童話や紙芝居の題材として用いられ、特に『屏風(びょうぶ)の虎退治』は有名である。知恵を絞り、さり気なく笑いを誘う。その柔軟な発想はユーモアの元祖といえる存在だろう。
 是非とも彼にあやかりたい、と思っていたビリーは先ほど声を荒げたのを反省する。
 そっくりな二人のプレイガールUSA嬢。
 間違いなく片方は、鏡写しの如くタヌーキー・イン・UKが変身した姿に違いない。
 まるで両者の見分けがつかず、いやはや、実に見事な変身術と賞賛したいほどだ。
 にしてもあんころもち派vsきなこもち派という想定外の対立軸が発覚。
 ネットミームとして有名な『きのこ・たけのこ戦争』と一緒やないか、という内心の声にうなずいてしまう。
 おそらく意図的な差異、現状を混乱させて楽しむ為の故意の味つけだろう。
 厄介な事に、本物のプレイガールUSAも現状を楽しんでいる節があり、どちら側も愉快犯的な傾向が顕著らしい。
 こうなったら二人を見分けるのが果たして必要だろうか?
「やはり二人を見分けるのは重要です」
 そう言って立ったのはアンナ・ラクシミリア(PC0046)だ。
 彼女は二人を区別し、なんとかタヌキが化けたウサギを見破って確保したいと考えている。
 その為には鍵となるのは、それぞれが好きなのはあんころもちか、きなこもちかの違いだ。
 人を化かす狸がぼた餅だと言って馬糞を食べさせるという昔話を彼女は聞いた事がある。
 ぼた餅、つまりあんころ餅が好きな方がタヌキが化けていると考えられるのだ。
「なので、こうです!」
 アンナの手元で戦闘用モップが一伸し、プレイガールUSA(あんころもち派)の肩を押さえつけて地面に制した。
「あんころもち派をタヌーキーとして拘束します。そしてお爺さんやお婆さんに謝罪させる為に連れて行きます。いくら否定してもタヌキが化けたウサギとして扱います!」
 強硬策に出たアンナ。
 果たして間違っていたらどうするつもりかという周囲の危惧もあるだろう。
 しかし彼女はそれに一歩先んじている。
「もし間違えていたとしても悪ふざけした時点で同罪として代わりに償ってもらいます」
 両成敗という策に出たアンナ。
 果たしてそれで合っているのだろうか。
「やーん。痛い痛い痛い」
 地面に押さえつけられたプレイガールUSA(あんころもち派)はこれでも結局正体を現さない。
 プレイガールUSA(きなこもち派)はやれやれ面白い事が始まったぞといった風で、己の鏡像が押さえつけられている様子を屈んで見やる。
 もしアンナの方が間違っていたのならば、タヌーキー・イン・UKの一人勝ちといった様相を呈していたが、正体を現わさない限りはどちらの勝ちかは評定出来ない。
 しばらくそう思われたが。
「やれやれ。要はあんころもち派が偽者かどうかを見極められればええんやろ」
 ここで助け舟を出したのがビリーだった。
 さて、今ここではどんな頓智が有効か。宗純禅師を見習い、ビリーも柔軟な発想を試してみる事にする。
 具体的にはスキル『コピーイング』を使った判別だ。
 コピーイング。敵のスキルをコピーして、出力する魔術系技能。
 通常は敵対存在のスキルだけをコピー出来るが、ビリーの場合は中立的な相手にも使える。
 伝承によれば、人を化かす存在としてはキツネ、タヌキ、ムジナが有名。タヌーキー・イン・UKの能力も勿論それ故だろう。
 逆に変身能力を有するウサギの話というものは聞いた事がない。
 つまりタヌキが化けた偽者のプレイガールUSAだけから、彼の能力である変身能力のコピーが可能なはずだ。
「てなわけでアンナが捕まえているそのプレイガールUSA(あんころもち派)から変身能力がコピーイング出来れば、そいつはタヌーキー・イン・UKという事に決定や」
 この結論に、プレイガールUSA(あんころもち派)の白い顔からさらに血の気が白くさっと引いたように感じられる。
「あんさんから『変身能力』をコピーイングや!」
「やーん!」
 早速ビリーは地面に屈服しているプレイガールUSA(あんころもち派)へコピーイングを実行した。
 すると速やかに白いバニーガールからの能力の移行が、自分の身に染みわたるように確かに感じられた。
「コピーイング成功。ちゅー事はあんころもち派、あんさんが本物のタヌーキー・イン・UKや!」
「……ばれちゃあ仕方がねえなあ」
 美少女の声音のまま口調がキザに変わったのはプレイガールUSA(あんころもち派)である。
 白いバニーガール、プレイガールUSAの姿のまま外見に似合わない力を奮い起こして、タヌーキー・イン・UKはアンナの屈服から抜け出してみせた。
「さて早速コピーイングした能力を試させてもらおかな」
 言ったビリーの姿が軽い「ぽんっ」という煙の音と共に、白いバニースーツの少女へと変わった。
 三人目のプレイガールUSAだ。
「うさうさうさとりおですねぇ。リュリュミアはおうえんしますよぉ」
 軽い口調で状況の感想を述べるリュリュミアの前で、ビリーは手鏡を出して自分の美少女っぷりにまんざらでもないポーズを決める。
 だが、ここでまだウサギ娘姿をしていたタヌーキー・イン・UKが自分と同じ姿のビリーに掴みかかった。
 二人のプレイガールUSAがそのまま、最後の本物のプレイガールUSAへともつれかかる。
 三人のプレイガールUSAがまるで円陣を組むようにぐるぐると回転して、皆の眼の前でシャッフルされる。
「ちょっと待ってください! どれが本物か、解らなくなってしまいました」
 焦りの声を挙げるアンナの前で、三人のプレイガールUSAが三様にコケティッシュなポーズをとる。
「「「さーて、誰が本物のプレイガールUSAでしょう」」」
「ビリー! あなたが混乱を助長してどうするのですか!」
 嘆いたアンナが声を荒立てる。
 それに構わず、三人のプレイガールUSAの中にまぎれたビリーはせっかく見分けがついた状況を振出しに戻して、わるびれる様子はない。
 なんだかんだ言っても面白ければそれで構わない。面白そうならばすかさず祭りをやる。福の神見習いに深い意味はない。そんな調子だ。
 プレイガールUSAのノリのよさが復活した。
 二人のウサギ娘が三人になり、混乱は元へ戻るどころか極みを増した。
 この状況をマニフィカがメタ視する。
 このままではハッピーエンドになりそうもない。
 一体、どうすればいいのだろう?
「イピカイエー!」
 その時、三人のプレイガールUSAがまとめてガバチョと抱えあげられた。
 混乱する状況に、とうとうジュディが暴力での介入を試みたのだ。
「ふざけすぎる三人のプレイガールUSAを改心させるべく、ジュディはブートキャンプを行いマス!」
 彼女は映画『フ▽メタル・ジャケット』の鬼教官『ハー△マン軍曹』みたいな台詞を浴びせ、三人に『再教育』という特訓を施し始めた。
「お前達の口から出る最初と最後の言葉は『サー』ダ!」
「「「サー! イエッサー!」」
 とにかく三人に重い荷物を背負わせて長距離走を開始する。
 夕陽の中を走る四人。
「ジュディは厳しいが公平ダ! ヒューマンもタヌキもウサギもカミサマチントも見下サン! 全て平等に価値がナイ!」
 ジュリーはふざけウサギに並走しながら大声で怒鳴り、明朗快活に笑顔を絶やさない。
 筋肉というピストンで作り上げられる笑顔は怖い気もする、
「カーたん達には内緒だゾー! ハイ」
「「「カーたん達には内緒だゾー!」」」
 教練というかドリルを開始した一人と三ウサが夕景を汗だくになりながら疾走する。
 夕陽の中のシルエットと化して走る者達。
「ちゃんとなおるんでしょうかぁ」
 リュリュミアが当然すぎる疑問を口に出しながら彼女達を見送った時、ストーリーの行く末の見当がついているマニフィカがポツリと呟いた。
「そろそろタイムリミットでしょうか」
 次の瞬間、爆発音と共に一人のプレイガールUSAが爆煙を上げて吹き飛んだ。
 それはズタボロのタヌーキー・イン・UKの正体を現し、背負子の破片と共にクルクルと夕焼けを飛んで、遠い地面にどさりと着地した。
 仕掛けられていた時限爆弾が爆発したのである。
(OOPS! 教練が楽しすぎて、爆薬を取り上げるのを忘れてマシタ!)
 ジュディが焦った時にはもう遅い。
 幸い、大火傷のタヌーキー・イン・UKの方は生きていた。
 彼に駆けよってきた皆を地べたに倒れながらキザに一瞥し、ボロボロになった派手な着物を肩に紐でからげて立ち上がる。
「……これは一体どうしたこったい……」
「このドッカーン山に棲むドッカーン鳥の仕業だよ」
 プレイガールUSAが堂堂と嘘をつく。
「カチカチ山ではないのですか……」
 呆気にとられたマニフィカは、自分が導こうとしたストーリーと違うのにちょっと戸惑う。
「大火傷だねぇ……でも大丈夫。いい塗り薬があるよ」
「おっと唐辛子味噌は塗らせはしませんよ」
 怪しげな練り物が入った壺を持ち出そうとしたプレイガールUSAを、マニフィカは制した。
 大火傷のタヌキに唐辛子味噌を塗る、これはカチカチ山のストーリー展開のはずだ、
「危ない危ない」
 言ったもう一人のプレイガールUSAが、ビリーの正体を現す。
 こうしてタヌーキー・イン・UKを爆殺から救助する冒険者達の計画は失敗に終わった。
 思ったより殺傷能力が低かったプレイガールUSAの爆弾だが、これでウサギ娘は爆発でとどめを刺すつもりはなかった事が明らかになった。
「やけどのぐあいがひどいわねぇ。このがまのほのすぅつをどうぞぉ」
 リュリュミアはモコモコの羊毛の様にこぼれ出る白いガマの穂で、タヌーキー・イン・UKの身体を包もうとした。
 けったいな代物を危ぶんで辞退したタヌーキー・イン・UKだったが、その光景を見ていたマニフィカの眼がキラリと光る。
(……もしかしたら彼女も日本神話のストーリーを知っているのかしら)
 赤い瞳は彼女も自分と同じかもという眼線で見つめたが、茫洋としたリュリュミアの表情から真意は解らない。まさかがあり得るのがリュリュミアという人物評だが、特に深い意味はないだろうとこの場は放っておく。もしかしたらイザベルの過去見を誰かに教えてもらったのかもしれないし。
 大火傷のタヌーキー・イン・UKの方は今以上に他人を近寄らせない慎重さを見せた。
 だが。
「……ドッカーン山のドッカーン鳥の仕業じゃ仕方がないねえ」
 そんなキザな言葉を、不敵な表情で呟いてもいた。
 しかしそんな彼にプレイガールUSAが人懐っこい笑顔を向ける。
「せっかく集めた柴をばらまいちゃったね♪ ねえ、ついでと言っては何だけどこれから湖に夜釣りに行かない?」

★★★

 すっかり暮れた紫紺の風景の中、冒険者を引き連れたプレイガールUSAとタヌーキー・イン・UKが辿り着いた湖には船が二艘、岸に繋がれている。
「じゃじゃじゃじゃ〜ん♪ ここがあたしの秘密にしている豊漁の釣り場所だよ」
「ほほぉ。ここは確かに釣れそうだねえ」
 ウサギ娘の言葉に、タヌキ男はキザに答える。
 その時、ビリーは遅まきながら、自分の持ち物にある『鱗型のアミュレット』が常に鳴らしている震動を止めたのに気がついた。
 自分の周囲で嘘がつかれれば震動を止める小物である。考えてみれば、嘘発見器代わりに使えば二人のプレイガールUSA騒ぎはもっと簡単にすんだはずだが、今となっては仕方がない。それよりも二人の会話の最中に震動を止めたのが重要に思えた。
「どちらの船がいいかしら。好きな方を選ばせてあげるわよ」
 白い手が、湖の岸を指し示す。
 プレイガールUSAが用意した二艘の船。
 一艘は小さな木の船である。一般にボートと呼ばれている小舟で、最小限の粗末な船だ。
 もう一艘はそれよりは大きな漁船であった。錦に飾られた帆を張り、一人で舵輪を操縦するのも可能だが、船全体が派手な布で隙間なく覆われていた。まるで誕生日のプレゼントの様なラッピングで、布には『タヌキ大明神』『豊漁祈願』『不沈艦』『大鑑巨砲主義』といった派手な筆文字が躍っている。
「ボロウサギ号と不沈艦あんころもち丸だよ」
「ほぉ。これは何から何まで僕好みだねえ」
 そう言って、茶色い毛に覆われた指をタヌーキー・イン・UKは一艘の船に向けた。
 果たして、彼が選んだ船は……。

★★★