西ゴーテへ
機械文明のぬけがらだという西ゴーテ。
この鋼鉄に被われた大地へ間近に迫ったのは、4人の異世界の者たちだった。
「ようやく着くね! 早く東トーバ神官長ラハの親書を渡せる相手を探さようよ」
健康的な肌の色に、短い金色の髪をした少女トリスティアが漁船から身を乗り出す。
その隣でのんびりと応える少女は、アクア・マナ。
「こちらが西ゴーテですか〜、親書を渡す相手がみつかるとよいのですが〜」
腰までとどく長い金の髪を5つに束ねたアクア。そのアクアに頷いたのは、セミロングの黒髪を持つ少女リューナであった。
「……確かにこの様子だと、表面上は生き物はいないって感じよね」
背中に生まれつき黒い翼を持つリューナが、辺りを警戒しつつ飛び上がる。そのリユーナは、漁船に戻ると難しい顔となる。
「わたしは機械に関しては特に詳しいってわけじゃないけど、地下とかにシェルターやら機械化都市やら隠されている可能性はあるって気がするわ」
「なら、あたしの対物質検索機の出番だわ。とにかく西ゴーテで、人がいる場所などを探ることが大切よね。都市自立型防衛システムの可能性もあるし」
リューナに応えたのは、出身世界が機械に長じた文明であるリリエル・オーガナ。金色のロングヘアを後頭部でツインテールにしたリリエルの意見に、皆が賛成する。リリエルの調査によると、西南西に10Km、地下500m地点を中心に現在も稼動している機関があるという。
「……残念だけど生命反応はないわ……あとはそこから特定の周波数の音波が発信されているわね……」
そのリリエルがすぐ大地に向かうには数種の問題があった。
「まずは船を着岸させないと。ここら辺は海流がおかしいわ。原因はわかる?」
リリエルの声に応えたのは、今も海流を操るアクアであった。
「この辺りはもともと西ゴーテだったようです〜。何かの要因で海に沈んだのですね〜。海流が不規則なのは海面下にある無数の突起物の影響です〜」
アクアの声に、元来宇宙戦艦の副長であるリリエルは肩をすくめる。
「あたしも仕官だから、ファーストコンタクトの対応は学んでいるのだけど……今は船を守る方を優先した方がよさそうね」
ため息をつくリリエル。それはアクアも同様であった。
「そうですね〜。私もこのまま船を離れてしまっては、船自体が危険です〜……安全な停泊地まで移動しましょう〜」
帰路も確保する為に船に残らざるを得ないリリエルとアクア。二人の意志を確認したトリスティアとリューナが一足早く西ゴーテへと翼を向けていた。
不毛の大地、西ゴーテ
静寂の大地。
その大地に一番に降り立ったのは、アクアより親書を預かったトリスティアであった。
「稼動機関があるっていうのは、この下だね」
スポーティな姿のトリスティアは、折り重なって倒れる建物の一角に冷風が噴出す場所を見つける。
「多分、ここがリリエルの言っていた500mの地下につながる場所だね」
そこから地下をのぞいたトリスティアが地下へと呼びかける。
「あのー、誰かいませんかー? ボクは、東トーバから親書を預かって来ましたー」
しかし、トリスティアの声に反応する者は何もなかった。しかし、代わりに一つだけ、小さな明かりが地下に灯る。
「うーん、これって来い、ってことかな?」
そんなトリスティアの背後を警戒していたリューナが大地に降りる。どこか神秘的なリューナもにっこりと笑って言った。
「行ってみたら? わたしも関わった以上、最後まで見るつもりよ。……ただ、守護機械兵とか出てきそうな予感が……」
その言葉が終わらぬうちに壁面より可動を開始した機械兵が現れる。同時に、その手に持たれた銃器に光が集まる。
「攻撃? ……来いって言ってるのに?」
「とにかく戦うしかないってことよね」
一瞬困惑するトリスティア。そのトリスティアを守るべくリューナの火炎魔術が専制攻撃をしかける。そしてリューナの放つ炎は、一瞬にして機械兵の銃器を爆発させた。しかし兵の攻撃は阻止するものの、機械兵自体への決定打には至らなかった。
「火炎は機械に強くないから、覚悟はしてたけど……」
この時、目にも止まらぬ速さでトリスティアのヒートナイフが火炎の中心を貫いた。
「これなら、大丈夫だよね!」
ウィンクするトリスティア。リューナがそこへ火炎を集中させると、機械兵から放電が始まる。顔を見合わせたトリスティアとリューナが飛び上がった時、機械兵は爆発していた。
二人がたどり着いた先に、今も機能する西ゴーテの中枢はあったのだった。
西ゴーテの中枢。
そこには、今も機能する音波の発信源があった。稼動部分が点在する機械群。その一つがトリスティアとリューナとに呼びかける。
“……力アル者タチ……東トーバノ使者ト認メヨウ……”
この声に、まずは親書を指示された場所に収めたトリスティア。
「ボクの仲間のアクアも、リリエルも今のムーアを心配しているんだ。みんなここが自分の生まれた世界ではないけれど。今のままじゃいけないって思っているんだよ」
そのトリスティアがアクアから託された言葉を伝える。
「でも、今まで西トーバが沈黙しているのは理由があるはずだとアクアは言うんだ。もし、皆が力を貸すことで西トーバの問題が解決するなら、皆で何とかしたいって。本当はどうなのかな」
トリスティアの言葉にしばし沈黙が続いた後、再び機械から音声が流れ始める。
“我々はこれまで使者と共に援軍を送って来た……それが届いていない事は確認している……予備戦力はもう……ないのだ”
この言葉に疑問を抱いたのはリューナであった。
「それじゃ、西ゴーテに少年の夢魔がいるのは何故かしら? 《亜由香》は西ゴーテを反攻勢力と認めているじゃない?」
この地域に待機していた少年夢魔の存在理由をリューナは考えていた。一方、何事もあきらめないトリスティアは、新たな交渉を始める。
「援軍は無理でも、西ゴーテにはまだ文明の武器があるんじゃないかな。その武器を譲ってもらえたらいいんだけど。このままじゃ、ムーアそのものが崩壊してしまうよ」
トリスティアの要請を受けて、西ゴーテ文明のぬけがらは伝える。
“使者の能力で使用……移動も可能な武器……熱線銃……小型衝撃波砲……音波発生装置……電子活性弾……”
それらの破壊能力はいかなるものか。其々に1つづつしか渡す事ができないという西ゴーテ。トリスティアとリューナに選択権は委ねられていた。
漁船にて
西ゴーテの大地に漁船を無事着岸させたリリエルとアクア。大地への上陸を前に、リリエルはアクアより「精神防御壁」を伝授してもらっていた。
「……こんなカンジかしら?」
「上出来です〜。でも夢魔の少年を警戒するのもいいですが、こちらから手を出さない限り無害だと思うのですが〜」
そんな彼らの前に、夢魔の少年は再び現われたのだ。
「残念!」
笑いながら現われた少年。大地のいずこかに潜んでいたのであろう夢魔の少年は、背中に燃える炎の翼を一際大きくうならせる。
「ちょっと面倒な事になりそうだからね。この船は沈めさせてもらうよ。今までずいぶん機械兵の乗る船を沈めたけど、この船はどれくらい持つかな?」
始まる戦い。
しかしこの窮地に、漁船に現われる者がいた。
帰還を薦めに現われたのは『バウム』のウェイトレス、ロロ。
「ご自分の世界に帰りましょう! このムーアは……もうダメです……」
異世界の者たちが選ぶ結末。
それはまだわからない。
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