『……の残照……』  〜ムーア世界への階段 

出演:出演:トリスティア
ムーア世界の人々
異世界の仲間たち

 小柄な少女が気づくと階段の上に立っていた。
「えーっと。ここ、どこかな?」
 無機質な空間に浮かぶ階段の上でも、明るい声を響かせる少女はトリスティア。深く青い瞳で辺りを見渡すと、自分の立つ階段は直線的に進んでは曲がりくねり、さらに踊り場から四方に伸びて続いてゆくのが見える。
 その時、闇の中に響き渡る音がある。
 ドォン……ドォン……
 響きは、トリスティアに「何か」を思い出させていた。
 それは、平和を祝う祭りの花火と祝砲。
 
 その音を聞きながら、この階段に立つトリスティアは思う。
「皆がムーアに訪れた平和を喜んでいる祝砲だといいよね!」
 かつてトリスティアが訪れていたムーア世界。その世界において英雄であったトリスティアは今も心をムーア世界に向けていたのだ。そんなトリスティアは音の方向に向かって歩き始める。
 上に、下に、右に、左に。
 長く続く階段を、音の響く方向を選んで進んでゆく。

 やがて辿り着く場所。
 階段の消えるその先は、さらに深い闇の中に紅色の光の射す空間だった。
 トリスティアは、迷わず紅色の光の射す闇の中へと飛び込んでゆく。
 階段の続く先には何かがある確信が、トリスティアにはあったのだ。
 消え行くトリスティアの姿の後も、響き渡る音にまぎれて囁く声が、ある。
「スベテハオモイノママニ……」
 そうして、階段の空間は何も変わることなくそこに存在していた。

 トリスティアが向かった“紅色の闇”の向こう。
 そこには、さらに明るく輝く光のシャワーが待ち受けていた。
 夜空を明るく染め上げる色とりどりの炎の花。
 その一つ一つはそれほど大きなものではなかったが、途切れることなく咲き誇る。
 その花々の下で、陽気な人々の歓声が上がっていた。
「トリスティア様だ! 『ムーアの砦』、トリステイア様だぞ!!」
 トリスティアの姿を知らぬ者のないムーア世界。突然湧き上がる歓声に包まれて、トリスティアが一瞬戸惑うものの、すぐに英雄然と構えてみせる。
「あ、と……今日のこの日を共に祝えるのは、ボクも最高に嬉しい気分だよ!」
 トリスティアの声でさらに歓声が大きくなる中、トリスティアは素早く辺りの状況を把握する。
『えっと……ここは東トーバとロスティの間の開墾した場所だよね』
 トリスティアの立つ場所からは、しっかりと根付いた深い緑の息吹が香る。
『よかった! 開墾もうまく進んでいるみたいだね!』
 そんなトリスティアの傍に、長衣姿の神官たちに囲まれた初老の男性が近づく。
「どうやら新たな記憶の合成がなされたようですね。……ご気分は落ち着かれましたか?」
「あ! ラハ! えっと、今はムーア神官主、のはずだよね! 元気だった!?」
 つい先まで一緒にいたトリスティアに問われて、元東トーバ神官長にして現ムーア神官主であるラハが苦笑する。
「はい。おかげさまで。記憶合成の成されたばかりのトリスティア様には思い出せないかもしれませんが、わたくしたちは折に触れてお会いしておりますよ。そしてトリスティア様を含めて異世界の皆様のお力添えでムーア世界に平和が訪れたのです」
 ラハの言葉で、トリスティアはムーア世界にはびこった魔物を駆逐してきた経緯を思い出す。
「えっと、……リクナビ情報のおかげと、異世界の仲間の協力と……もちろんムーアの人々の努力で、すっごく早く各街を開放できたんだよね!」
「はい。その中心となられたのがトリスティア様ですよ」
 ラハにそう言われて照れつつも、トリスティアははっきりと言う。
「そんなのボク一人じゃ、絶対できなかったと思うよ! 今日があるのは、みんなの力だよ!」
 そうして訪れた平和を喜ぶ『ムーア解放記念祭』。その祭典のただ中に、全ての経緯を思い出したトリスティアが飛び込んでゆく。
「そっか!! よかった!!! 今夜はようやくムーアに訪れた平和を皆と一緒に思いっきり祝っちゃおう!!」
 闇の階段の中にあったトリスティアが出会いたいと思った、東トーバやロスティの住人など。そのムーアに住む人々には、食料不足や魔物の恐怖の影はもはや微塵もなかった。人々の歓声の中、握手を求める人々には『ムーアに平和を取り戻した英雄の1人』としてトリスティアは接する。
「んー、よかったよね!! ボクも嬉しいよ!」
 相手の手を握り返して、トリスティアがこぼれるほどの笑顔を見せた。そして、高台ではなく皆と同じ場所に立って、トリスティアが祝砲に聞き入り、ムーア特製の花火を心行くまで鑑賞する。そんなトリスティアの耳に、「ありがとう、ムーア!」と叫ぶ仲間たちの声も届けられる。
「うん、うん。本当、に……よかったよね!」
 思わず涙目になるトリスティアの姿が、ムーアの人々にさらなる開拓への力を与えていた。

 やがて、夜空に輝く花々が終わりの時を告げる頃、集った人々と一緒に、「ようやくムーアに訪れた平和を、みんなで一緒に守っていこう」と誓い合うトリスティアの姿があったのだった。


【世界共通取得アイテム】

ムーア花火:二層式の小筒に入った10連発の打ち上げ花火。連発される花火の玉を打ち出す間も、華やかな火花を吹き上げる。


【マスターより】

 秋芳シナリオ『紅の扉』、そのムーア世界への来訪感謝です! 秋芳もとても楽しかったです♪♪

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