『機械仕掛けの……』 第1回

ゲームマスター:

 心を持ったロボット、AIと、人間が平和に暮らす都市、ウィルポリス。ここ最近になって、AIの暴走事件が多発し、AIの「心の回路」に問題があるのでは、と、非AIロボット製造企業社長のギールウィン・ビーズは主張していた。それに賛同する人も増え、AI関連企業最大手である、コパー・グループ社長のブレッド・コパーは窮地に立たされている。
 そんななか、15年前に行方不明になっていた「心の回路」の発明者、ドクター・ランドルゥを名乗る人物が、AIを率いて町中で暴れはじめた。双子の少年少女探偵ジェークとリータは、ずっと探していた父、ランドルゥの姿を、TVの中継でみて愕然とするのだった。

Scene.1
 AI関連大企業、コパー・グループの社長令嬢、ラーシィ・コパーは、客人用のティーカップにお茶をそそぐ。ラーシィは、自宅の庭で、ライオン型AIイオの家出事件のとき助けてくれた、リュリュミアと再会していた。
「ラーシィが誘ってくれたから遊びに来ちゃいましたぁ」
 一面花畑の世界からやってきた、庭師のリュリュミアは、相手の気持ちまでふんわりとさせるような笑みをうかべた。
「ラーシィのおうちのお庭、とてもきれいですねぇ」
 太陽の光を浴びて、庭の花々や、草木があざやかな色を競いつつ、風にゆれている。リュリュミアのウェーブがかかったダークグリーンのロングヘアも、庭の緑に応じるようになびいた。
「ありがとうございます」
 ラーシィは、どこか遠くをみつめているようだったが、リュリュミアの言葉に微笑んでこたえた。
「ほら、この前ラーシィにもらった模様のついた紙でいいものつくったんですよぉ」
 リュリュミアは、紙でできた手提げバッグをテーブルの上においてみせた。
「とってもかわいいでしょぉ。こうみえても、リュリュミアは手先が器用なんですよぉ」
 胸を張って、うれしそうにリュリュミアがいう。
 リュリュミアのいう、ラーシィにもらった模様のついた紙、というのは、以前イオの捜索の報酬として、ラーシィがわたしたお金のことである。リュリュミアは使い道がわからなかったので、手提げバッグにしてしまったのだった。
「わあ、とてもきれいですね。喜んでもらえたようで、よかったです」
 ラーシィは、お札製手提げバッグを手にとって、無邪気な笑みをうかべた。
「事情はよく知らないけど、なんだかすごい光景だなあ」
 大金を前に天然な態度をとるリュリュミアとラーシィをみて、アルフランツ・カプラートは苦笑する。
 幻想界出身の、猫耳としっぽを持つ種族のアルフランツは、この世界のことを知るためもかねて、AI暴走事件の調査をしたいと思っていた。調査のためAIを借りたいと思っていたので、同じく異世界からの来訪者であるリュリュミアについて、ラーシィの家に来たのである。
「うーん、でも今日はなんだか元気がないですねぇ。どうしたんですかぁ?」
 リュリュミアは、ライトグリーンの瞳で、日に焼けていないラーシィの顔をのぞきこむ。
=ラーシィの父ちゃんが、今、大変なことになってるんだ=
 小型犬程度の大きさの護衛用AIのイオが、椅子に座っているラーシィのひざに飛び乗りながらいった。
=『心の回路』にモンダイがある、とかいうやつらがいて、ラーシィの父ちゃんを責めてやがるんだ=
「そうなんです。AIたちが、突然、職務放棄をしたり、物を盗んだり……。どうしてこんなことになったんでしょう」
 ラーシィは、イオを抱きしめ、顔を伏せた。
「そうだったんですかぁ。でも、暴走するのはお父さんの会社で作ってるAIだけじゃないですよねぇ。AIの中身がわかったり修理できる人はいないんですかぁ? その人に聞いてみるのが一番だと思うんですけどぉ」
「オレも、この事件を調査したいと思ってるんだけど、もしよければ、AIを貸してくれないかな。事件が起きた現場に連れて行って、なにか変化がないか、調べてみたいんだ」
 リュリュミアは、ラーシィの手をとって、はげますようにいう。アルフランツも、身をのりだして、ラーシィに協力をたのんだ。
「わかりました。わたしも、なにかできることがしたいです。リュリュミアさん、いっしょに父の会社のエンジニアさんのところに行きましょう」
 ラーシィは、自分をふるいたたせるように、イオを抱いて立ち上がった。
=俺様もいっしょに行くぜっ=
 当然のことであるかのように、イオがいう。
「アルフランツさんは、わたしの家の執事AIを連れて行ってください。きっと、暴走したりはしないと思いますが……万一のときは、止めてあげてください」
「わかった。もしものときは、できるだけ傷つかないように取り押さえるよ」
 ラーシィの真摯な表情に、アルフランツも力強くうなずく。
「それじゃあ、さっそく行きましょぉ〜」
 こうして、リュリュミア、ラーシィ、イオはコパー社のエンジニアのところへ、アルフランツは、単身調査にむかった。



 コパー・グループのAI開発室は、AI暴走事件の対応に追われていた。エンジニアたちはパソコンの前にむかい、しきりと頭をひねっている。
 そんななか、訪ねてきたラーシィの顔をみて、エンジニアたちは顔をほころばせ、歓迎してくれた。
「お嬢様、よくおいでくださいました。ただ、今はちょっと忙しいんですよ。ろくにおかまいもできませんが」
「いえ、大丈夫です。それよりも……」
 部下にお茶菓子をあわてて用意させようとする開発主任の中年男性の言葉をさえぎり、ラーシィはリュリュミアに視線を送る。
「暴走しているAIについて、詳しく知りたいんですぅ。どういうAIが暴走してるとか、そういうのはあるんですかぁ?」
「うーん、そうだなあ。やっぱり、我がコパー・グループのAIが一番多いね。ただ、AIを一番多く製造してるのもウチだからなあ。他社のAIが暴走する事件も、起こっているよ」
 リュリュミアの質問に、首をひねりながら、開発主任がこたえる。
「あなたは、AIの中身がわかったり、修理したりできるんですよねぇ。原因とか、直し方とかは、わからないんですかぁ?」
「暴走の原因は、総力をあげて調査中だよ。でも、まだ、つきとめられていないんだ。暴走したAIの修理方法だが、現在の対処法としては、捕まえて、閉じこめておくしかないなあ。なにしろ、どこが異常なのかすら、わからないからね」
 開発主任は、つらそうに、視線を落とす。リュリュミアは、この人たちも、AIのことがとても好きなのだな、と感じた。
「うーん、AIって、そもそも、誰が作ったんでしたっけ?」
 リュリュミアの問いに、ラーシィがこたえる。
「ドクター・ランドルゥです。町中で暴れているとのことですが……。直接きいてみたら、この事件のことが何かわかるかもしれません」
=よし、ドクター・ランドルゥに話を聞きに行こうぜ!=
 ラーシィ、イオ、リュリュミアは、ドクター・ランドルゥが暴れている現場にむかうことにした。

Scene.2
 アルフランツは、ラーシィに貸してもらった執事AIをつれて、図書館で被害状況を調べていた。図書館といっても、ウィルポリスでは紙媒体の書籍のほかにパソコンなどの情報機器が多数ある。
 自力で知らない機械を操作するのは限界があったので、執事AIや図書館司書にも手伝ってもらいつつ、アルフランツは新聞などに載っているAI暴走事件の被害状況を調べた。
「事件が起こった場所の分布に、法則性はないみたいだな……。いろんなところで起こってる。実際の被害は、職務放棄、商店からの窃盗事件……」
 そして、暴走しているのは、コパー・グループのAIたちが一番多い。
 アルフランツは、警備AIが職務放棄して持ち場を離れてしまったビルの前に行ってみることにした。



 ビルの前は普通に人通りがあり、事件後に特別な変化が起こったりはしていないようだった。
 アルフランツの、銀色の猫っ毛無造作ショートから生える猫耳としっぽを、通行人たちが時々珍しそうにみながら通りすぎる。
「ねえ、おかしな感じはしないか? 身体が変な感じになったりとか」
=いえ、特にはございませんが=
 アルフランツにたずねられた執事AIは、首をかしげてこたえる。特に変化は起こっていない様子だった。
「そうか……。うん、そのほうがいいんだけどね」
 アルフランツがそういったとき、けたたましいサイレンの音がきこえてきた。しばらくすると、パトカーが、何台も道路を走っていく。
「なにが起こったんだ?」
 アルフランツは、現場にむかうことにした。

Scene.3
 時間は少し巻き戻る。
 雑居ビルの一室にある「ジェーク&リータ探偵事務所」を飛び出し、ジェークとリータとともに、トリスティアは、ランドルゥのもとにむかう。
 幻想界出身の大道芸人の少女トリスティアは、イオ捜索の事件で双子の探偵ジェークとリータと仲良くなり、探偵事務所にいつもいりびたっていたのだった。
「これさえあれば、どんな危険でも大丈夫って気がするよ!」
 ホームラン予告するバッターのように釘バットをかまえて、トリスティアがいう。
「なにしろ、私の直伝だからね。どんな相手だって……。ふふふふふ」
 釘バットに頬ずりしながら、リータが低い声で笑う。
「ああ、なんだか、トリスティアが変な文化に染まっている気がする……」
 物騒な得物を構える少女二人をみて、冷や汗を流しながら、ジェークがぼそりとつぶやく。
 現場に到着すると、ランドルゥに率いられたAIたちが、街灯を倒したり、駐車されている車をひっくり返したりしながら、町中を行進していた。
「繰り返す! 我輩はドクター・ランドルゥである! この社会は間違った方向に進んでいるのだ!」
 スピーカーの耳をつんざく音とともに、ランドルゥがわめきたてる。
「父さん! どうしてこんなことを!」
「父さん! こんなことして何になるの?」
 ジェークとリータが、ランドルゥの乗っている、大きなクモのような形の乗り物の前にたちはだかる。
「ジェークとリータを悲しませないで!」
 トリスティアも、ジェークとリータに続く。
 大小さまざまな形のAIたちと、ランドルゥが、いっせいにジェークたちをみる。
「我輩は、間違ったことはしていない! 我輩は人間社会、この文明に絶望したのだ! おまえたちは何者だ! 邪魔をする気なら、容赦しないぞ!」
 スピーカーの耳障りな音とともに、ランドルゥがこたえる。AIたちは、武器を構えたり、戦闘態勢をとったりしている。
「父さん!」
 ジェークとリータが必死に訴えかけるが、ランドルゥの耳には届かない。AIたちの間接が駆動する音が響く。
「どうやら、話を聞く気はないみたいだね……」
 幻想界出身の、騎士の少女フレア・マナが現れ、ジェークたちを制止する。
「僕に考えがあるんだ。トリスティアたちは、AIたちをひきつけておいて」
「うん、わかったよ」
 フレアの言葉にトリスティアはうなずくと、釘バットを地面に置いてファイティングポーズをとった。
 襲いかかるAIたちを、トリスティアは、ビルをも砕く『流星キック』で次々と粉砕する。しかし、『心の回路』を傷つけることのないよう、細心の注意を払いながら無力化していた。
「この子たちだって、イオと同じように心があるんだ。あとで、ラーシィに頼んで修理してもらうからね!」
「むうっ、我輩のAIたちがっ」
 ランドルゥは、13歳の小柄な少女であるトリスティアの、見た目からは創造できない戦闘能力に、驚いていた。
「こうなったら容赦はせんぞ!」
 人間型、乗り物型、動物型など、さまざまなAIたちが、次々とトリスティアに襲いかかる。
「よし、今のうちだ」
 フレアは、AIたちから離れて、ビルの陰に隠れた。
「オレもいるぜっ。父さん、目を覚ましてくれよっ」
 自動車と同じくらいのスピードで走れる『俊足ブーツ』を起動させたジェークが、AIたちを翻弄する。ジェークも、AIたちをできるだけ傷つけないように努力していた。
=ドクター・ランドルゥにさからう、フハイした文明の人間め!=
 警備用らしい、大柄な人型AIが、ジェークに警棒を振り下ろす。
「たぁあっ!」
 トリスティアは、気合をこめた回し蹴りを、警備AIにお見舞いし……ようとして、ジェークの顔面を蹴り飛ばした。
「がふっ!」
 ジェークは鼻血を噴いて吹っ飛び、結果的に警備AIの振り下ろした警棒から逃れることができた。
「ああっ、ごめん、ジェーク! わ、わざとじゃないんだ! ほんとだよっ」
 トリスティアはあわててジェークにかけよる。
「うう……。わ、わかってる。もう、なれたから、平気、だ……」
 それだけいうと、ジェークは気絶した。
「ああ、もう、使えないんだから!」
 何が起きたかわからず、ぼんやり立ちすくんでいる警備AIの前から、リータはジェークをずるずるとひきずって、後方にさがっていった。
 トリスティアは、ジェークを心配しながらも、戦いながらふと気がついた。
「このAIたち、操られてるっていう感じがしない。もしかして、意志があるんじゃ……」



 幻想界と陰陽界の影響を受けた中華風世界出身の武術家、グラント ウィンクラックは、見慣れない世界の道路を一人歩いていた。
「なんか、石造りの塔ばっかりの変な世界だぜ……。ま、どんな世界でも、強いやつがいれば文句はないんだけどな……」
 そう独りごちながら歩くグラントに、通行人たちは驚いたような視線を送る。グラントが肩に担いでいる「破軍刀」は、2メートルを超える大きさであり、とても常人が持ち上げられるようなものではない。童顔で女顔、優男のグラントには、不釣合いに思えるような武器であった。
「お母さん、あのお兄ちゃん、AIなの?」
「しっ、みちゃいけません!」
 などといった会話が聞こえてくる。
 そこに、騒がしい音がきこえてきた。金属が叩きつけられるような音と、中年男性のわめき声である。
 瞬間的に戦闘が起こっていると判断したグラントは、現場にむかい、走り出した。
「えーと、こいつらは?」
 戦うドクター・ランドルゥとAIたち、トリスティア、ジェーク、リータたちを見回し、グラントは首をひねる。
「こっちは、むさい親父と、アイアンゴーレムの軍団……。で、こっちが、女子どもの集団か……」
 トリスティアたちのほうをみて、グラントは、ジェークが鼻血を出して気絶しているのを発見した。
「なるほど……剛剣術・破軍流星!」
 グラントは「破軍刀」を大きく振り回し、AIたちが密集している場所に投げこんだ。衝撃で、AIたちは吹っ飛んでいく。
「いい年こいて女子どもいじめてるようなおっさんが正義なわけないからな。事情は知らないが、助太刀してやるぜ。……そこそこ歯ごたえもありそうだしな」
「な、なんだ、お前は! 我輩は間違っておらん!」
「悪人はみんなそういうんだよ!」
 突然のことに驚くランドルゥの言葉を無視して、グラントは、どれだけはなれていてもリボンをつけたものを呼び戻せる腕輪「召武環」で、「破軍刀」を手に戻し、気孔で全身を強化する。
「AIには心があるんだ! 『心の回路』を傷つけないで!」
 トリスティアが、あわててさけぶ。
「そうなのか? とりあえず、頭とか壊さなきゃいいみてえだな。行くぜぇっ!」
 グラントは嬉々としてAIたちにつっこんでいき、次々と薙ぎ払っていく。
「おらおら! 歯ごたえがたりねぇぞてめえら! もっと俺を楽しませやがれ!」
「や、やめろ! 我輩のかわいいAIたちがっ」
 戦闘不能になるAIたちをみて、ランドルゥはうろたえる。
 AIたちは、なんとかグラントを止めようと、密集陣形を組んで戦う。多勢に無勢で、AIたちが少しずつ押し返していた。
「よし。アンタたち、後ろにさがってろよ!」
 トリスティアたちが後方にいることを確認して、グラントは「破軍刀」地面に突き刺し、上空に飛び上がる。
「剛剣術・破軍爆華!」
 グラントは空中で、「召武環」を使い「破軍刀」を手に取ると、地面に急降下し、地面を叩いて後方以外の全方位に、石や土、砕けたアスファルトを撒き散らした。
 近くにいたAIたちは、ひとたまりもなく戦闘不能になる。
「な、なんということだ……」
 ランドルゥは、呆然として、あたりをみまわす。
「そこまでだ!」
 ビルの陰に隠れていたフレアは、「バーナーロケット」で、空を飛び、乗り物の上にいるランドルゥの背後から飛びかかって、両腕を押さえつけた。
「これ以上暴れると、オヤジさんがどうなってもしらないぞ」
 フレアは、AIたちをにらみつける。AIたちは、どよめき、両手を上げたり、武器を捨てたりして、おとなしくなった。
=お父さんをはなせ!=
=ひきょうだぞ!=
 AIたちは口々にフレアをののしる。その態度に、フレアは、AIたちの「自分自身の意志」を感じた。
「おい、これはどういう事情なんだ?」
 ランドルゥをのぞけば、一番年長であるフレアに、グラントがたずねる。
「しらなかったの!? なんか、よけい被害が大きくなった気がするんだけど……」
 大きくえぐれてしまった道路をみて、フレアはジト目でグラントをみつめる。
「こまかいことは気にするな」
「こまかくないだろっ」
 明るく笑うグラントに、フレアがつっこむ。
「えっと、とりあえず、あとで説明するから……」
 こめかみに手を当て、ずり落ちた眼鏡を直しながら頭痛をこらえて、グラントにリータがいう。
「ああ、これも私たちのせいにされたらどうしよう……道路の修理費っていくらかかるのよ」
「まあ、元気だせ、な?」
「ううう」
 グラントに肩をぽんぽんと叩かれ、リータは泣くのをこらえた。
「そうだ、こんなことやってる場合じゃない。あなたには、社会がどうとかいう前に、会わなきゃならない人がいるんだ」
 フレアは、ランドルゥの身体を、ジェークとリータのほうにむけさせる。
「あの二人はいったいなんなのだ? さっきから我輩のことを『父さん』などといっているが。AIではなくて、人間だろう?」
 ランドルゥは、いぶかしげな表情で、ジェークとリータをみた。
「何いってるんだよ、オレたちは、父さんの子どもの、ジェークとリータだよ!」
 気絶から復活した、ジェークがさけぶ。
「我輩には、子どもはおらん!」
 その場にいた者は、全員沈黙した。
「そういえば、母さんは、父さんが行方不明になったあと、私たちを身ごもってることに気づいたっていってたような……」
 リータの言葉に、どよめきが走る。
「でも、たしかに子どもなんでしょ?」
 トリスティアの言葉に、ジェークはぶんぶんとうなずく。
「ああ、まちがいない。 オレたちは、たしかに、父さんの、ドクター・ランドルゥの子どもなんだ! 母さんの名前はミーティア。オレたちは双子の兄妹なんだよ!」
「そんなこと、信じられるか! ミーティアの名を騙りおって。だいたい、男女の双子など、確率的に珍しすぎるだろう!」
 ジェークの必死の言葉にも、ランドルゥは反論する。
「そんなことよりも、我輩にはやらねばならんことがある!」
 そうさけぶなり、ランドルゥは手元のボタンを押した。
「しまっ……」
 危険を感じたフレアがとっさに身をかわすと、爆発が起こり、ランドルゥは拘束から逃れる。
 爆発で服装がさらにぼろぼろに、髪はアフロになってしまったランドルゥは、別のメカに乗って、AIに再び威嚇を命じる。
「我輩の邪魔はさせんぞ!」
 AIたちは、まだたくさん残っていた。

Scene.4
 けたたましいサイレンの音を響かせながら、パトカーが何台もかけつけてきた。それを追ってきたアルフランツと、ランドルゥに会うためにやってきたラーシィとイオ、リュリュミアも到着する。
「AIたちを包囲しろ! あの人物を捕まえるんだ!」
 警官の命令に、警官AIと、パトカー型AIは沈黙する。
「どうした、なぜ従わない?」
=お父さんと戦うことは、できません=
 警官の質問に、警察のAIたちはつらそうにこたえる。
「何をいってるんだ?」
=できないんです。ドクター・ランドルゥは、私たちの、お父さんです=
 そこに、連絡が入り、別の警官がそれにこたえる。
「現在、別の場所で、AIの暴走事件が起きているとのことです!」
「ええっ」
 フレアが、ランドルゥの表情をうかがうと、ランドルゥは唇をかみしめていた。
 連絡を受けた警官が続ける。
「さらに、非AIである、ビーズ社のロボットを使ってドクター・ランドルゥとAIたちを鎮圧する提案が、ビーズ社のギールウィン・ビーズ社長からきております。上層部は承諾、非AIを現場にむかわせてくれているとのことです」
「そうか、やむをえないな……。おまえたち、さがるんだ」
 AIを指揮していた警官は複雑な表情で、AIたちをさがらせた。
 ビーズ社の非AIがすぐに到着すると、ランドルゥと従うAIたちに対峙し、戦闘態勢をみせる。
「くっ、おまえたちなどに……」
 ランドルゥがAIたちに攻撃命令しようとしたとき、ラーシィとイオが割って入った。
「やめてください! 戦いなんて、むなしいだけじゃないですか」
=おい、おっさん! ラーシィが悲しむようなことは、俺様が許さないぞ!=
「お、おまえは!」
 ランドルゥは、イオをみてひどく驚いた顔をし、あわてて手元の機械を操作した。
 メカアームが伸びて、イオを捕らえる。
=わー、なにするんだよっ! やめろーっ=
「ひとまず、さらばだっ!」
 ランドルゥは、イオを透明なガラスのようなものでできたカプセルにつめこむと、非AIたちに何か投げつけてきた。たちまち煙幕が巻き起こり、煙が晴れたときには、ランドルゥとイオの姿はなかった。



 いそいで事務所に戻ったリータは、物置の奥のほうから、大きめの電子手帳のようなものをみつけた。
「なんなの、それは?」
「父さんの日記兼開発記録……だと思う。親子であることの証拠が何かないかと思って探したんだけど……。暗号だらけで読めないのよ」
 トリスティアの問いに、リータは、肩を落としてこたえる。
「でも、なんとかして解読しなきゃ。今はこれが唯一の証拠かもしれないし」
 リータは、ランドルゥの開発記録を、しっかりと抱きかかえた。
「オレが父さんのかわりに、AIを守らなきゃ……。ビーズさんを説得しないと」
 ジェークは、拳を握りしめた。
「イオを助けないと……。わたし、ランドルゥさんを追いかけます」
 ラーシィも、決意の表情で、事務所の窓の外をみる。

 AIを率いて暴れるドクター・ランドルゥは、双子の探偵ジェークとリータを子どもだと認めなかった。
 そして、ビーズ社の非AIとの戦闘を止めに入ったライオン型AIイオをさらって逃走してしまう。
 親子の絆を取り戻し、ウィルポリスを平和にすることはできるのか?

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