『機械仕掛けの……』 第3回

ゲームマスター:

 ラーシィ・コパーと暮らす小さな護衛用ライオン型AIのイオは、ドクター・ランドルゥが最初に作ったAIである。そして、イオと心を同調させた者は、ウィルポリスのすべての環境を司る「グレート・マザー」をコントロールできるのだという。
 ジェークは、AIを守るため、非AIロボットたちを撤退するよう、ギールウィン・ビーズを説得に行ったが、断られてしまった。かわりに、ランドルゥとビーズ、ジェークとリータの母ミーティアが昔の知り合いであったこと、ランドルゥとビーズがライバルであったことを知る。
 ランドルゥは、イオを連れて「グレート・マザー」に立てこもる。しかし、イオと心を通わすことができず、「グレート・マザー」のコントロールをすることはできない。
 そんななか、突然、「グレート・マザー」のある公園に建てられていたドクター・ウィルの像が暴れはじめた。リータが思わず取り落としたランドルゥの日記兼開発記録から、「パワードスーツ」という文字が浮かびあがり、「われらの愛のために」というメモと、若き日のミーティアの写真が飛び出してきた。
 リータは、パワードスーツをさがして、ウィル像に対抗することを決意する。ジェークは、「俊足ブーツ」の力で、ウィル像をくいとめる、という。

Scene.1
 
 ウィルポリスの中心にある、巨大な塔「グレート・マザー」をとりかこむ大きな公園では、ドクター・ウィルの像が暴れだし、大騒ぎになっていた。
 ドクター・ランドルゥを追い詰めるために、「グレート・マザー」をビーズ社の非AIロボットたちが取り囲んでいたが、突然のことに、非AIの指揮官であるビーズ社員は呆然としている。
 「緊急事態だ。ロボット部隊は一時撤退だ」
 ブランド物のスーツを着た体格のよい男、ギールウィン・ビーズがあらわれ、自ら命令を下す。鶴の一声で、非AIたちは撤退しはじめた。
 警察は、公園にいる一般人の避難誘導をおこなっている。とても、ウィル像をなんとかできそうな感じはしなかった。
 「オレが、あいつをひきつけてるから、リータたちは、はやくパワードスーツを探しにいってくれ」
 赤毛の探偵少年、ジェークが、双子の妹リータたちにいう。
 「うん。兄貴、気をつけてね」
 リータは、眼鏡の奥の緑色の瞳に、いつもとは違う真剣な光を宿らせてうなずく。
 「オレも、パワードスーツをさがすのに協力するよ。ドクター・ランドルゥの日記兼開発記録に、まだヒントが隠されてるかもしれない」
 幻想界出身の、黒いネコ耳としっぽのある種族の少年、アルフランツ・カプラートがいう。
 「ボクは、みつけだしたパワードスーツをあやつってウィル像と戦うよ。……ジェーク、それまでがんばってね」
 幻想界出身のジャグラーの少女、トリスティアは、心配そうに、ジェークに視線をおくった。
 「じゃあ、僕たちは、『グレート・マザー』に入って、ドクター・ランドルゥとイオのところに行くから、後はまかせたよ」
 幻想界出身の騎士の少女、フレア・マナが、仲間をみわたしていう。
 「えっ、みんな行っちゃうんだ?」
 ジェークは、少し驚いた顔でみんなの顔をみるが、この場に残るのはジェークだけである。ジェークの顔と手のひらから噴出す汗が、増えているようにみえた。
 「ボクはジェークを信じてるから……。すぐに戻ってくるからね!」
 トリスティアが、ジェークの手を握りしめる。
 「ああ、オレもトリスティアたちを信じてるぜ。『俊足ブーツ』があれば、あんなやつに捕まりっこないさ」
 ジェークは、トリスティアのディープブルーの瞳をみすえていう。言葉の後半は、自分自身にも向けられているようであった。
 自動車と同じくらいのスピードで走れるアイテム、「俊足ブーツ」を起動させて、ウィル像にむかって走りだすジェークの背中を見送り、トリスティアもリータとアルフランツとともに駆けだした。



 一面花野原が広がる世界からやってきた庭師のリュリュミアは、ブレッド・コパーを説得していた。
 「ラーシィもイオのところに行きたいっていってますしぃ、わたしたちもついてるから大丈夫ですよぉ。それに、イオはラーシィの友達でボディーガードですからぁ」
 「しかし、『グレート・マザー』に入った人間はいままでいないのだよ。セキュリティも強力なものだときいているし、かわいいラーシィを危険な場所に行かせるわけにはいかない」
 ブレッドは、娘のラーシィ・コパーを抱きしめたまま、首を横にふる。ラーシィは、父を見上げて懇願する。
 「イオは、私にとってかけがえのない存在なんです。お願いします、行かせてください!」
 「しかし……」
 「俺たちがついてるから、大丈夫だ。アンタの娘がこんなに真剣にいってるんだぜ。行かせてやれよ」
 ブレッドの前に、グラント・ウィンクラックが進み出る。グラントは、幻想界と陰陽界両方の影響を受けた中華風世界出身の武術家である。
 「君たちがとても強いのはよくわかっている。今回も、きっと事件を解決してくれると信じているよ。だが、ラーシィを連れて行くというのは……」
 「それじゃダメなんだよ!」
 ブレッドの言葉を、グラントが大声でさえぎる。
 グラントの迫力にひるむブレッドに、リュリュミアがたたみかける。
 「ほら、グラントもフレアも、リュリュミアも、ラーシィを守りますからぁ」
 グラントは、ラーシィの腕をつかむと、強引にひっぱっていく。
 「ま、待ちたまえ!」
 追いかけようとするブレッドを、フレアが制止する。
 「ブレッドさんにとって、ラーシィがとても大切な存在であるのと同じように、ラーシィにとっても、イオは大切なんです。僕たちが全力で守りますから」
 フレアが、礼儀正しくブレッドに一礼する。腰まで届く金色のポニーテイルがゆれた。
 「……たのんだよ」
 ブレッドは、大きく息をついて、グラントに手を引かれるラーシィの背中をみつめた。
 「どうもありがとうございます。一緒に行ってくださって」
 ラーシィは、グラントの顔を見上げ、お礼をいう。
 「気にするな。俺は、アンタのまっすぐなところを気に入ったからな」
 豪放磊落な性格と対照的に、幼く女性的にみえる顔に、グラントは楽しそうな笑みをうかべた。



 「うーん。さっき、ちらっと見えた影が気になりますねぇ」
 「グレート・マザー」の入り口に向かいながら、リュリュミアはウィル像の肩のあたりを見上げていた。
 「えいっ」
 リュリュミアは植物の蔦をあやつり、長く伸ばして、ウィル像の肩のところまで届かせる。
 「うぎゃあああっ」
 悲鳴のようなものが聞こえてきたが、蔦からは手ごたえがなくなってしまった。
 「今の声、どこかで聞いたような気がしますねぇ」
 リュリュミアが首をかしげていると、フレアが声をかける。
 「なにしてるんだ、リュリュミア。はやく、『グレート・マザー』に入らないと」
 「はーい」
 リュリュミアは、急いでフレアの後を追う。
 「……でも、僕も聞いたことがあるような気がするなあ。あの声」
 フレアも、ぼそりとつぶやいた。
 


 「グレート・マザー」の入り口は、金属の扉で閉ざされている。押しても引いても、開く様子はなかった。
 グラントが、体内の気を集め、一点突破を主眼に置いた「放神の構え」をとる。
 「破城穿貫ッ!」
 2メートルを超える巨大な刀剣、「破軍刀」を振り下ろすと、対城用奥義・中伝「破城穿貫」が炸裂する。瓦礫の崩れ落ちる轟音とともに、分厚い扉には大きな穴が開いた。
 グラントは、傍らのラーシィに視線をおくり、AIの意志を確認するための作戦を決行したときのことを思い出していた。
 (この程度の平手、千発食らったって痛くも痒くもないけど……心にはずんとくるものがあったな。外のでかぶつゴーレムの相手も面白いかと思ったが、切り開いてやるか、あいつの友達のところへと続く道を……俺の剛剣術で……)


Scene.2
 アルフランツは、ランドルゥの日記兼開発記録、特にミーティアとのラブラブな生活を綴った部分を丁寧に読み返していた。
 「『パワードスーツ』の文字が表示されたときに、ミーティアさんの写真とメモが飛び出てきたのがヒントだと思うんだよね。でも、ドクター・ランドルゥとミーティアさん、ほんとにラブラブだなあ。青春って感じがするね」
 思わず感心するアルフランツに、リータが少し複雑な表情をする。
 「必要なこととはいえ、両親の恋愛話を読むことになるなんて……」
 「それで、パワードスーツのありそうな場所は?」
 日記をのぞきこむトリスティアに、アルフランツが文章を指し示してみせる。
 「デートに行った場所として、何回も出てくる丘があるよ。町全体がみわたせて、二人っきりになれる場所なんだって。プロポーズもここでしたみたいだね」
 「じゃあ、そこにある可能性はかなり高いんだね!」
 トリスティアの言葉にアルフランツはうなずく。
 「うん。でも、この丘がどこにあるのかはまだわからないんだ」
 アルフランツは、若き日のミーティアが写っている写真をまじまじとながめた。背景から、場所を割り出すためである。
 写真には、穏やかな笑みを浮かべるミーティアと、丈の低い草の生えた地面、遠くに広がるビルの町が写っている。
 「リータ、この場所に見覚えはない?」
 アルフランツの問いに、リータは首をかしげる。
 「うーん、これだけじゃ、ちょっと……」
 「そうか。じゃあ、小さいころに、お母さんと一緒によく遊びに行った場所とか覚えてないかな」
 リータは、写真をみつめながら、言葉をつむぐ。
 「母さんと、兄貴と、遊びに行った場所……近所の公園が一番多いけど、そこじゃないと思うのよね。そういえば、たまに、遠くに遊びに行ったことがあったかも。晴れた日に、お弁当を持って、景色がきれいな場所に。……!」
 「そこが、どこか思い出せるかな」
 アルフランツが、ネコ耳をぴんと立てて、リータの顔をみつめる。
 「……うん。町外れにあるあの丘が、きっとこの写真の場所よ!」
 アルフランツたちは、急いで駆けだした。



 静かな丘の上からは、ウィルポリス全体が見渡せた。アルフランツの銀色の猫っ毛ショートを、心地よい風がなでていく。
 「ここに来たとき、母さんはいつもどおり楽しそうだったけど、でも、なんとなくさびしそうだった気がする」
 リータは、町を眺めながらつぶやいた。
 町の中心部で起こっていることが嘘のように、穏やかな空気が満ちている。遠くで、鳥の鳴き声がきこえていた。
 写真と同じ角度の場所をさがそうと、景色と写真を交互にみながら、アルフランツが歩く。
 ちょうど、写真と同じ場所に立ったときであった。突然、アルフランツの持っていた日記兼開発記録が光りはじめた。
 低い音が響き、地面が二つに割れる。アルフランツたちは、思わずひざをつく。
 地面からせりあがってきたのは、大きな人型の機械であった。
 「こ、これは……」
 「すごい……」
 トリスティアとアルフランツが、息をのむ。
 そして、リータは絶句していた。
 人型の機械は、写真に写るミーティアの姿そっくりだったからである。
 ドクター・ウィルの像のミーティア版というほど、よくできていた。しかも、こちらはフルカラーである。
 「親父……何考えてるの……」
 リアルなミーティア型パワードスーツに、リータは口をぽかんと開けたまま、脱力する。
 「あのさ、ボク、コレに乗るんだよね?」
 トリスティアに、アルフランツは親指を立ててこたえる。
 「がんばれ」
 「背に腹はかえられないね……」
 トリスティアは、ひきつった笑みをうかべた。

Scene.3
 「グレート・マザー」の内部は、漆黒の金属のようなものでできていた。ウィルポリスの中でも、フレアやグラントの世界でも、みたことのない素材であった。
 「中はAIたちでいっぱいかと思っていたんだけどな。こう静まりかえってると、かえって不気味だね……」
 フレアが、誰もいない通路の奥をみながらつぶやく。
 「殺気も感じねえな。本当にいないのか?」
 グラントが一歩前に踏み出すと、突如、サイレンが鳴りひびいた。
 =セキュリティシステム作動。コントロールキー、イオと、キー所有者以外の侵入は禁じられています。速やかに退出してください=
 無機質な声とともに、通路の奥から、シャッターが閉まっていく。そして、金属でできたアームが、フレアたちにせまってきた。
 「そうか、イオとドクター・ランドルゥ以外は入れないってことなんだな」
 巨大な両手剣「炎帝剣・改」をかまえながら、フレアがいう。
 「AIもいないってことか。それなら、かえって話が簡単だぜ!」
 グラントが「破軍刀」をふるい、「破城穿貫」を繰り出す。
 金属のアームが吹き飛び、シャッターに大きな穴が開いた。
 「イオ! 聞こえてるんだろう!」
 ラーシィをかばいつつ、通路を走りながら、フレアがさけぶ。
 「ラーシィのところに帰りたいなら、こんなところで負けちゃダメだ!」
 「グレート・マザー」内部は、ランドルゥのいるコントロールルームでモニターされていると考えたフレアは、ランドルゥとイオが心を同調させてしまわないよう、呼びかけていた。
 「イオは、本当の強さがなんなのか、知ってるよね! 無理やりいうことを聞かせようとするドクター・ランドルゥなんかに負けないはずだ!」
 「イオ! 今行くから、待っていてね!」
 ラーシィも、必死に呼びかける。
 「よし、最短距離を行くぞ」
 気を集中させたグラントは、「破軍刀」を天井に叩きつける。漆黒の破片が飛び散り、かなり上の階まで、縦長の穴ができた。
 「光翼鎧」の翼を展開させ、グラントが身体を浮かび上がらせる。
 フレアは「バーナーロケット」、リュリュミアは「しゃぼんだま」の力で、飛び上がる。
 グラントは、ラーシィを左手で小脇にかかえると、軽々と持ち上げた。
 「『破軍刀』にくらべりゃ軽いもんだ。行くぞ」
 「きゃっ」
 「光翼鎧」の力で、グラントは上階へと飛び移る。ラーシィは、突然のことに、驚きの声をあげる。
 再び通路へと降り立ったとき、ラーシィが口を開いた。
 「あの、グラントさん、ごめんなさい……」
 「なにを謝ってるんだ?」
 首をかしげるグラントに、ラーシィが続ける。
 「グラントさんがAIと戦っていたとき、わたし、誤解して、叩いたりしてしまって……。そのとき、きちんと謝りませんでしたから」
 グラントは吹き出し、大きな声で笑った。
 「えっ、なにがおかしいんですか?」
 怪訝な顔をするラーシィに、グラントがこたえる。
 「ははは、なんつーか、アンタ、テンポがずれてるっていうか……面白いな」
 「面白い? テンポがずれてる? ……あ、今は、運んでいただいて、『ありがとう』をいうときでしたね!」
 はたと気がついたようにいうラーシィをみて、グラントはさらに笑った。



 さらに天井をいくつも破り、上へ上へと進んでいくと、いかにも頑丈そうな扉が目の前にあらわれた。
 後方からせまってくるアームをみて、グラントが宣言する。
 「まだまだ暴れたりねぇ。俺は、アレを相手にもう一暴れしてくるぜ」
 セキュリティは、奥に行くほど強力になっていた。食い止めるため、「破軍刀」を片手に、グラントは突撃する。
 扉にはTVモニターが取りつけられており、ランドルゥとイオが映しだされた。
 「イオ!」
 ラーシィがさけび、フレアが扉に「炎帝剣・改」を振り下ろそうとするが、見えない壁に阻まれ、扉に近づくことができない。
 =フレア! 応援してくれてありがとうな。俺様はこんなおっさんのいいなりになんか、絶対ならないぜ!=
 カプセルに入れられたイオが、元気よく語りかける。
 「この部屋には、我輩の許可なくしては、何人たりとも入ることはできん。……しかし、イオはなぜこんなに強情に育ったのだ!」
 ランドルゥは、顔や腕がひっかき傷だらけになっていた。イオをカプセルから出したときに、やられたらしい。
 「イオ、よくがんばったな」
 フレアは、見えない壁にさわりながら、イオをねぎらう。
 「このままでは埒があかない。ラーシィをこちらにひきわたせ」
 しかめっ面でいうランドルゥに、リュリュミアが話しかける。
 「ランドルゥは、『グレート・マザー』をコントロールして、町をどうしたいんですかぁ? ちゃんと話してくれたら協力できるかもしれないですよぉ」
 「むむ……」
 「だって、イオがいうこときかないと操作できないんですよねぇ? 町を壊さずにやりたいことができたほうがいいですよねぇ」
 リュリュミアの言葉に、ランドルゥはしばらく沈黙し、そして、口を開いた。
 「この町は、このままではビーズにめちゃくちゃにされてしまうのだ。我輩を15年前にウィルポリスから追放したのもそのためだろう」
 「15年前に追放?」
 フレアがききかえす。
 「ビーズは、AIを作ること自体に反対していたが、我輩が『心の回路』を発明すると、我輩をウィルポリスの外に追い出し、社会的に抹殺したのだ! 戻ろうとするとガードロボットで追い立てた。それを突破できるだけの戦力が整うまで、我輩は荒野で暮らさねばならなかった」
 「ええと、ビーズは、なんでそんなことをしたんですかぁ?」
 リュリュミアの問いに、ランドルゥは首をふる。
 「ろくでもないことを企んでいるからだ。ビーズは、我輩の目指している、AIと人間が仲良く暮らす社会が気に入らないようだからな」
 「AIと人間が仲良くって……」
 フレアは、イオのほうををみる。イオは、カプセルに入れられてはいるものの、傷らしいものはまったくつけられていない。また、おかしな機械などもとりつけられている様子はなかった。
 「じゃあ、イオをラーシィのところに返してよ。それが、イオにとっての幸せなんだから」
 「お願いします!」
 フレアとラーシィの言葉に、ランドルゥは反論する。
 「イオは、元は我輩が作ったAIだ。本来の家族は我輩だ」
 =だから、俺様は、おっさんのことなんか知らねーっていってんだろ!=
 イオが怒鳴る。
 ランドルゥは、ラーシィとイオをみて、一瞬、つらそうな表情をみせた。
 「とにかく、ラーシィをこちらにひきわたせ。我輩は、『グレート・マザー』を正しく用いて、人間が人間らしく、AIと仲良く暮らしていけるような町にしたいのだ。それができたら、イオを返そう」
 「本当ですかぁ? ラーシィだって、イオを返してくれて町も壊さないんだったら、ランドルゥに協力してもいいですよねぇ?」
 リュリュミアの言葉に、ラーシィはうつむいて考えこむ。しばらくの沈黙の後、ラーシィはこたえた。
 「わかりました。わたし、ランドルゥさんを信じます。イオに怪我をさせられても、イオのことは傷つけないでくれたんですから」
 「うむ。……ありがとう」
 ランドルゥが壁のキーを操作すると、見えない壁がなくなり、コントロールルームの扉が開いた。カプセルから飛び出したイオが、ラーシィに飛びつく。ラーシィは、イオを抱きしめた。

Scene.4
 トリスティアの操縦するミーティア型パワードスーツが、ウィルポリスの街を駆けぬける。遠くからみると、巨大な女性が、ジオラマの中を走っているようであった。
 「鬼さんこちら! つかまえてみろよっ」
 「俊足ブーツ」の効果で、レーシングカー並みのスピードで走りまわるジェークを、ウィル像が追いかけている。
 警察はすでに、一般人の避難を完了させていた。
 「ジェーク!」
 トリスティアのミーティア型パワードスーツが躍り出る。ウィル像は立ち止まり、身構えた。
 「えっ、なんだこれ? か、母さん!?」
 ミーティア型パワードスーツをみて、目が点になっているジェークに、トリスティアは駆けよっていった。
 「ジェーク、無事でよかった!」
 トリスティアはジェークを抱きしめる。……ミーティア型パワードスーツに乗ったままで。
 「ぐ、は……」
 締め上げられ、ジェークは、きゅう、と気絶してしまった。
 「ご、ごめん、ジェーク〜! またやっちゃったよお!」
 ミーティア型パワードスーツの両手でジェークの身体をつかみ、トリスティアはがくがくとゆさぶる。
 「またしてもこの私を無視してそんなことをしているとはな!」
 トリスティアは、聞き覚えのある声で我に返った。
 「お、おまえは!」
 ウィル像の肩には、黒ずくめの男、ドクター・ディバーがいた。イオに強化パーツを取りつけて、暴れさせたことがある人物である。以前と同じく高慢な口調だったが、今はリュリュミアの蔦でぐるぐる巻きになっていた。
 「なんで、そんなカッコしてるの?」
 きょとんとするトリスティアに、ディバーはわめく。
 「うるさい、いろいろと事情があるのだ! 今は私ではなく、このウィル像をみろっ。美しいだろう!」
 「そうか、ウィル像を暴れさせたのはディバーのしわざだったんだな!」
 「知り合いなのか?」
 追いついてきたアルフランツが、トリスティアにきく。
 「うん、残念ながら……」
 「残念とはなんだ! それに、ウィル像だけが、私の美しい芸術作品ではないぞ」
 「ウィル像だけじゃないって?」
 トリスティアの問いに、ディバーは自信たっぷりに笑う。
 「ふふふ。ビーズ社長の命令でAIを暴走させたのも、この私だ! ドクター・ランドルゥに恨みがあるらしいが、私の力を借りるとは、ビーズ社長も目が高い。しかし、巨大メカというのは実によいものだな!」
 「なんだって!?」
 トリスティアとアルフランツが、同時にさけぶ。ディバーは高笑いすると、ウィル像をミーティア型パワードスーツにむかって突撃させた。
 「このっ、絶対許さないからね!」
 トリスティアは、「必殺技」と書かれているボタンを押す。ミーティア型パワードスーツの両目が光る。
 目から虹色のビームが射出され、ウィル像の両足を攻撃した。
 「なんだそりゃーっ!?」
 今度は、ディバーとリータの声がハモる。ウィル像は、地響きをたてて転倒した。
 「すごい技術だなあ……」
 「いや、そうなんだけどっ! か、母さんの目からビームって……」
 感心するアルフランツに、リータがわめく。
 「とうっ」
 トリスティアは、ミーティア型パワードスーツを空高くジャンプさせる。
 「流星きぃぃーーーーっく!」
 全体重を一点に集中させた飛び蹴り「流星キック」が、ウィル像のボディに命中し、一撃で粉砕した。
 ディバーは、捨て台詞をさけびながら吹っ飛んでいく。
 「これで終わったと思うな! 新たなメカを起動してやる!」
 「正義は、勝つ!」
 トリスティアがミーティア型パワードスーツにポーズを決めさせると、後方で花火が爆発した。

Scene.5
 「ジェーク、1人で足止めしててくれてどうもありがとう……」
 「ううーん……はっ!」
 トリスティアの膝枕で介抱されていたジェークは、あわてて起き上がった。
 「オ、オレ、どうしたんだ?」
 「え、えーと、気絶しちゃって」
 いいにくそうにするトリスティアに、ジェークはうなずく。
 「そっか……。ありがとう」
 ジェークは、顔を赤くして、トリスティアにお礼をいう。
 「それにしても、トリスティアの声がしたと思ったら、巨大な母さんに抱きしめられて……すごくヘンな夢だった……」
 「そ、そうなんだ」
 ジェークの言葉に、トリスティアは苦笑する。
 「はーっはっはっはっはっは!」
 高笑いがしたほうを、アルフランツがみると、巨大なバラが、蔦をのたくらせてこちらに向かってきていた。
 ディバーが、巨大バラ型メカに乗って、あらわれたのだ。
 「『グレート・マザー』は、私のように美しいものにこそふさわしい! ウィルポリスに、この私のバラ型メカをふりそそがせてやろう! もう、ビーズとの契約は終わりだ!」
 ディバーの声が、拡声器を通して、周囲に響きわたる。
 はなれた場所で、非AIを指揮していたビーズは、舌打ちをすると、きびすを返した。
 「え、どういうことだよ?」
 ジェークは混乱したが、アルフランツたちから話をきき、怒りをあらわにする。
 「あいつ、絶対ゆるさねえ!」
 ジェークは、ビーズが去っていったほうにむかって駆け出していく。「俊足ブーツ」を起動させ、ジェークの姿はあっというまにみえなくなった。



 「グレート・マザー」のコントロールルームでは、ランドルゥが、フレアたちに箱型の機械をさしだしていた。
 「外の騒ぎをおさめるのに、これが役に立つだろう」
 「これは?」
 「ウィル像を直して、戦えるようにするためのものだ。とりつけるだけで、修復機能が起動して、すぐ動かせえるようになる」
 フレアの問いに、ランドルゥがこたえる。
 「どうやら、休んでもいられないようだな」
 セキュリティを相手に、全身傷だらけになったグラントが、「破軍刀」を杖に立ち上がる。言葉とは裏腹に、どこか楽しそうにみえた。
 


 「小型バラ型メカ、展開ーーーっ!」
 ディバーのさけびとともに、たくさんの小さなバラ型メカが、空中に浮かぶ。
 「ははははは! このまま『グレート・マザー』につっこんでやるぞ!」
 巨大バラ型メカが、「グレート・マザー」にせまる。
 「また、アレを使うしかないよね……」
 リータが、げっそりした表情で、ミーティア型パワードスーツに視線をおくる。

 ドクター・ランドルゥは、説得に応じ、イオをラーシィ・コパーの元へと返した。かわりに、ラーシィは、ランドルゥのめざす、AIと人間が仲良く暮らせる社会を実現するための協力を約束する。
 ウィル像をあやつっていたドクター・ディバーは、ギールウィン・ビーズに命令されて、AI暴走事件を仕組んだことを暴露した。
 ビーズは、姿をくらまし、ジェークはビーズを追いかけていってしまう。
 ディバーは、ビーズとの契約を破棄し、巨大バラ型メカを「グレート・マザー」に突撃させるのだった。
 混乱をきわめるウィルポリスに、平和はおとずれるのか?

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