『機械仕掛けの……』 第4回

ゲームマスター:

 「グレート・マザー」に立てこもっていたドクター・ランドルゥは、説得に応じ、小さなライオン型AIイオをラーシィ・コパーのもとに返した。そして、AIと人間が仲良く暮らせる社会を作りたいと申し出る。
 一方、ドクター・ディバーが暴れさせていた、巨大なドクター・ウィルの像は、ジェークとリータの母の姿を模したミーティア型パワードスーツによってたおされた。しかし、ディバーは、巨大バラ型メカに乗って、「グレート・マザー」につっこんでくる。
 ディバーは、非AIロボットを製造する企業の社長、ギールウィン・ビーズの命令で、AIの暴走事件を仕組んだこと、ウィル像を暴れさせたことを暴露した。
 ジェークは、「俊足ブーツ」を起動させ、姿を消したビーズを追いかけていった。

Scene.1
 ウィルポリスの生活環境を管理する巨大な漆黒の塔「グレート・マザー」がそびえる公園では、ドクター・ディバーの巨大バラ型メカが蔦をのたうちまわらせていた。
 「グレート・マザー」のコントロールルームで、ラーシィ・コパーとイオに、一面花野原の広がる世界からやってきた庭師のリュリュミアが話しかける。
 「ウィルポリスにバラがふりそそぐ光景はきれいですけどぉ、町が破壊されたりしたらダメですねぇ。リュリュミアは外をなんとかしてきますからぁ、ラーシィはイオと一緒に、ランドルゥに協力してくださいねぇ」
 「はい、わかりました。わたしにできることをやろうと思います」
 ラーシィはイオを抱きしめ、リュリュミアの、若葉のようなライトグリーンの瞳をみつめてうなずく。リュリュミアは、相手をほっとさせるような笑みをうかべた。
 武術家のグラント・ウィンクラックも、決意の表情で、ラーシィにむきあう。
 「とらわれのお姫様ならぬライオンも助けたことだし……それじゃあちょっくら中からあのバラバカのメカ叩き潰してくるぜ。中からじゃ外の様子がわからねぇから、悪いけどこいつで教えてくれや」
 グラントは、近距離にいる相手に意志を伝えられる「意志の実」を、ラーシィに手渡した。
 「中からって、グラントさん、なにをするつもりなんですか」
 ラーシィは、心配そうな表情でグラントをみつめる。
 「まあ、みてなって。あと、こいつもちょっと預かっておいてくれ」
 グラントは、いたずらっぽく笑うと、全長1メートル程度の東洋龍、飛紅をラーシィの肩に乗せる。飛紅は、グラントが出身世界である幻想界と陰陽界の影響を受けた中華風世界から連れてきた、天龍の子どもである。
 「それとイオ、俺はここ離れるから、小さいバラからはお前がラーシィを守ってやってくれや。……まあ、釈迦に説法ってやつかもしれんが」
 =おう、いわれるまでもないぜ! ラーシィを守るのが俺様の仕事だ=
 イオは、ラーシィの腕から飛び降りると、四本の脚をふんばって、グラントをみあげる。
 =グラントは、なかなかみどころがあるからな。がんばってこいよ=
 「無茶はしないでくださいね」
 ラーシィは、飛紅をえりまきのように巻きつかせながら、グラントに気遣わしげな視線をおくった。
 「おう、まあ、命に別状はないと思うぜ!」
 「それじゃあ、いってきますねぇ」
 グラントとリュリュミアは手を振って、コントロールルームを後にした。
 一方、騎士の少女フレア・マナは、コントロールルームの片隅で、ドクター・ランドルゥにウィル像を修復する箱型機械の説明を受けていた。
 「で、あるからして、高速増殖ナノマシンにより、ウィル像の自己修復機能を活性化させ、しかるのちにハイパー・ソーラーエネルギーシステムを……」
 「うーん、えーと」
 幻想界出身であるフレアには、聞いたこともないような単語を、ランドルゥは連発する。もっとも、ウィルポリスの人間が同じ説明を受けても、理解できるかどうかは非常に疑わしい雰囲気であった。
 グラントとリュリュミアが外に出ていくのをみて、フレアはあわててランドルゥの言葉をさえぎる。
 「ドクター、いそがなきゃいけないから、僕はもう行くね」
 「む、まだ説明がおわっていないぞ。しかし、我輩の発明したものだ。とりつければたちどころに効果を発揮するだろう」
 胸を張るランドルゥに気づかれないよう、フレアはこっそりイオに声をかける。
 「イオ、あとでナビをしてくれないかな」
 =ああ、いいぞ。みんな、俺様がいないとダメみたいだな!=
  イオは無邪気にいう。フレアは、金色のポニーテイルをゆらしながら、「グレート・マザー」の外にむかって駆けだしていった。



 「はははははは! 私の美しい巨大バラ型メカに注目するがいい!」
 ドクター・ディバーは、深紅の巨大バラ型メカのてっぺんで、黒づくめの服につつまれた両腕を広げてみせた。
 そこに、ミーティア型パワードスーツが立ちはだかる。
 「こっちだってすごいぞ。なにしろ、ジェークとリータのお母さんそっくりなんだから」
 「そんなこと、みんなにきこえるようにいわなくていいのっ!」
 幻想界出身の、黒い猫の耳としっぽがある種族の少年、アルフランツ・カプラートの声が、ミーティア型パワードスーツから響きわたる。あわてるリータの声も、あたり一面にきこえた。
 アルフランツは、ウィル像をたおしたトリスティアから、ミーティア型パワードスーツを引き継ぎ、リータとともに搭乗していた。
 「あー、私、やっぱり、乗らなきゃよかったかも……」
 ぼやくリータに、アルフランツは首をかしげる。
 「どうして? だって、生身で外に残ってたら危険だし、ランドルゥとミーティアさんの子どもであるリータでなきゃ作動しない装置があるかもしれないじゃないか」
 「そ、そんなのが用意されてたら余計に恥ずかしいわよっ」
 「うーん、面白いと思うけどなあ。じゃあ、こういうのを操縦するのははじめてだし、準備運動ということで……」
 操縦席の前に座っているアルフランツは、目の前にあるスイッチを端から順番に押していった。
 ミーティア型パワードスーツから、弦楽器の音が流れはじめる。
 「こ、これは?」
 ディバーが思わずたじろぐ。
 「この華やかな音色は……ラブソング?」
 アルフランツの言葉どおり、情熱的なラブソングとともに、赤いストレートロングの髪と、グラマーな体形が特徴的なミーティア型パワードスーツが新体操をはじめた。
 「いったい、なんのためにあるのよ、この機能はーっ!」
 操縦席の後ろに座ったリータが、顔を真っ赤にしてさけぶ。
 公園を優雅に舞うミーティア型パワードスーツを、ディバーは呆然とみつめる。
 「……ふふふ。このような美しい機能をつけるとは、なかなかやるな。しかし、私のメカのほうがもっと美しい! いけ! 小型バラ型メカよ!」
 ディバーの命令とともに、空中にうかんでいた小型バラ型メカが、刃でできた花びらを回転させながら、ミーティア型パワードスーツに飛んでくる。
 同時に、巨大バラ型メカから、町中にむかって、小型バラ型メカが発射された。
 「町を破壊するのはダメですよぉ〜」
 空中を移動できる大きな「しゃぼん玉」に乗って、「グレート・マザー」から飛んできたリュリュミアが、本物のバラの種を、ばらまいていく。
 町中に飛び散ったバラの種は、あっというまに成長し、刃の花びらをくいこませようとする小型バラ型メカをからめとる。
 「バラにはバラですよぉ。バラ型メカも、町を破壊せずに咲いてるだけならきれいですからねぇ」
 本物のバラとバラ型メカの競演に、リュリュミアはにっこりと微笑んだ。
 アルフランツは、新体操の動きで、小型バラ型メカの攻撃をかわしていく。
 しかし、慎重に操縦しているため、巨大バラ型メカになかなかダメージをあたえられない。しだいに、ミーティア型パワードスーツは後退させられていった。
 「おらあ! バラバカ、この俺が相手だ!」
 「光翼鎧」に身をつつんだグラントが飛びだし、空中からディバーを挑発する。
 「バカではないっ、私は天才だ!」
 ディバーは、小型バラ型メカをグラントにむけて発射し、巨大バラ型メカの蔦をふりまわした。
 「破軍刀」で、グラントは小型バラ型メカを次々に両断していく。
 「この程度かよ……まだランドルゥのAIたちのほうが強かったぜ……大口叩いてもてめぇがランドルゥに遠くおよばないってことを腕が証明してるな!」
 「くっ、すぐに叩き落してくれるわっ!」
 鋭いトゲのついた蔦が、グラントの鼻先をかすめる。ディバーは、完全にグラントの挑発に乗っていた。
 「……今がチャンスよ」
 ぷちん、となにかが切れる音とともに、リータが低い声でつぶやく。
 「え」
 アルフランツが後ろの操縦席をふりかえると、リータは、眼鏡を怪しく光らせ、ボタンを連打していた。
 ミーティア型パワードスーツの両目から、ビームが何度も発射され、爆炎がおこる。宙にうかんでいた小型バラ型メカが、跡形もなく消し飛んでいった。
 「おらおらおらあっ!」
 「うーん、いろんな意味ですごいけど……。グラントもまきこまれちゃってる気がするし、エネルギー切れを起こしたらどうしよう」
 目がすわっているリータに、アルフランツのつぶやきは届かなかった。
 「よし、いまのうちに……」
 フレアは、ウィル像に箱型機械をとりつける。箱型機械が光りだし、ウィル像全体も青緑色の光につつまれた。

Scene.2
 そのころ、幻想界出身のジャグラー、トリスティアは、「魔白翼」を使って、上空からギールウィン・ビーズを追っていた。
 「ビーズのやつ、絶対とっちめてやらなきゃ!」
 右手に「とりもちランチャー」、左手に釘バットを持ち、ハニーブロンドのショートカットの少女は、ビーズが逃げたと思われる公園の外の方向にむかって飛んでいく。
 公園の中央、「グレート・マザー」の近くから、派手な爆音がきこえてくるが、トリスティアは後ろをふりむかないことにした。
 木々の緑が濃い、遊歩道の上を飛んでいると、人がたおれているのがみえる。トリスティアのみなれた赤毛の少年だった。
 「ジェーク!」
 トリスティアは。あわてて急降下する。名前を呼ばれたジェークは、うめきつつ、空をみあげた。
 「し、白い翼……天使……じゃなくて、銃みたいなのと、く、釘バット? ま、まちがったヴァルキリーかっ!?」
 トリスティアは地面に降り立ち、ジェークを助け起こす。
 「ジェーク、いったい、どうしたんだ!」
 「わりい、ビーズには逃げられたんだ……。あいつ、スタンガンでオレを……」
 「ひどいっ! 許せないよ!」
 トリスティアは、思わず両手に持っていたものを強くにぎって、ジェークを抱きしめる。
 次の瞬間、トリスティアとジェークの視界を、白いものがおおった。「とりもちランチャー」の暴発であった。
 「う、うわー、なんだこりゃー!」
 「くっついちゃってとれないよー!」
 「い、痛っ、オレの背中にトゲトゲしたものがあたってるんだけど……」
 「ごめん、ジェーク! 釘バットもいっしょにくっついちゃったよう!」
 「だから、なんで釘バットなんだー!」
 「ちょ、ちょっと、どこさわってるのっ?」
 「ごめんっ、手が、はなれないっ……」
 「ビーズめー! よくもボクたちにこんなおそろしい罠をっ」
 しばらくして、トリスティアとジェークはとりもちから脱出し、真っ白な世界で密着することから解放された。
 「ビーズは、『グレート・マザー』のコントロールルームにいくっていってたんだ……」
 顔を赤くして、肩で息をしながら、ジェークは、トリスティアの手を借りて立ちあがり、いった。
 「コントロールルームって、ランドルゥさんたちがいるところ?」
 トリスティアの問いに、ジェークは首を左右にふる。
 「いや、最上階にもうひとつのコントロールルームがあるらしいんだ」
 トリスティアとジェークは、公園の中央にそびえる「グレート・マザー」をみつめた。

Scene.3
 フレアが箱型機械をとりつけたウィル像は、破損した部分も元通りとなり、再び大地に立った。
 威風堂々とした白髪白髯の老科学者の像の肩に、フレアはよじのぼる。
 「イオ、どうやって動かせばいいの?」
 通信機にむかってフレアが話しかけると、イオの声がきこえてきた。
 =大事なのはハートだ。ハートで動かすんだっ! そうすれば、フレアが思ったとおりに動くぞっ!=
 「え、それって具体的にはどうすればいいんだよ」
 =考えるな、感じるんだっ! フレアも、心の強さが大切だって教えてくれたじゃないか=
 「いや、たしかにハートは大切だけど、それとこれとは違うんじゃ……」
 そんな会話をしていると、ビームの爆炎から逃れたディバーが、巨大バラ型メカをウィル像にむかって前進させてくる。
 「よく、こんな短時間で復活できたな。しかし、しょせんはこの私の美しいバラ型メカにはかなわないということを証明してやろう!」
 ミーティア型パワードスーツは、もうビームを発射するエネルギーはなくなっていたが、アルフランツは「音声入力」と書かれている別のボタンを押した。操縦席に、キーワードが立体映像でうかびあがってくる。
 「リータ、一緒に入力しないとダメみたいだよ」
 「あああ、もう、なんだっていいわよっ!」
 「グレイト・ビューティフル・ミーティア・ロケット・パーーーーーンチ!」
 だんだん楽しくなってきているアルフランツと、ヤケになったリータのさけび声が重なる。
 ディバーの死角から、ミーティア型パワードスーツの左右の拳が飛んでいき、巨大バラ型メカに命中した。
 「よっしゃあ!」
 その隙に、もうもうとまきおこる煙から飛びだしてきたグラントが、巨大バラ型メカにむかう。
 「デカ物は中枢を潰すにかぎるってね……それにこいつを壊せば他の小さいのも止まるだろ」
 いうなり、グラントは「破軍刀」を大きくふりまわし、巨大バラ型メカに投げつけた。
 「剛剣術・破軍流星!」
 轟音とともに、「破軍刀」が突き刺さり、巨大バラ型メカに大きな穴が開く。グラントは、その中につっこんでいき、さらに内部の装甲を攻撃する。
 「ううう、お、おのれっ」
 ディバーは、よろよろと立ちあがり、周囲をにらみつける。
 「ディバー! おまえの相手はこっちだ!」
 フレアが、ウィル像の上からさけぶ。
 ウィル像は、言葉に出して命じることで、イオのいうとおり、フレアの思いどおりに動かすことができた。
 フレアは、ウィル像をディバーにみせつけるように前進する。
 「このウィル像をみろっ。美しいだろう! ウィル像が、そんなラフレシア型メカなんかに負けるわけない! くやしかったら、そのポンコツでかかってこいよ!」
 ディバーがウィル像をあやつっていたときの言葉をそのまま返し、フレアはディバーを挑発する。
 「ラフレシアだとっ! これは美しいバラ型メカだっ! 私の芸術的センスをバカにするとは許さんぞっ」
 「芸術的センス〜? そんなのぜんぜん感じられないね。だいたい、そんな暑苦しい黒づくめの服着てるなんて、ダサいったらないよ」
 「なにいいいっ! この私の美しさがわからないとはっ! 全力で成敗してくれるわっ!」
 フレアの挑発に乗ったディバーは、小型バラ型メカをすべて発射すると、ウィル像にむかって巨大バラ型メカを突進させる。
 「そのバラも、みんなきれいに咲かせましょぉ〜」
 リュリュミアは、「しゃぼん玉」からさらにバラの種をまき、町中に飛び散った小型バラ型メカを、壁や地面にかざりつけていく。
 フレアは、公園の広くて人気のない場所にウィル像を走らせ、巨大バラ型メカを誘導する。
 ウィル像が突撃していくと、巨大バラ型メカは、蔦をウィル像にからませはじめた。
 「ふふふふふ。これでもう動けまいっ」
 「おまえもなっ」
 勝ち誇るディバーに、不敵な笑みを返すと、フレアはウィル像で巨大バラ型メカを押さえつけていく。
 「愚かなっ! 力比べでは私のほうが断然有利だ!」
 ウィル像と巨大バラ型メカは、蔦と四肢をからませ、くんずほぐれつ戦いつづける。
 やがて、蔦がからまっていき、動きが鈍くなったところを、アルフランツとリータのミーティア型パワードスーツが押さえつける。
 「ど、どういうことだっ」
 ようやく様子がおかしいことに気がついたディバーが、フレアをにらみつけた。
 「よし、これでおわりだっ!」
 フレアが強く念じると、ウィル像の四肢がロックされる。
 そして、ウィル像の長いヒゲが伸びて、巨大バラ型メカにつきささった。
 「なんだそりゃーっ!?」
 ディバーとリータのさけびが、ミーティア型パワードスーツの目からはじめてビームが発射されたときのように、重なる。
 「すごい技術だなあ……」
 アルフランツは、あいかわらず感心していた。
 巨大バラ型メカが完全に逃げられなくなると、ディバーを捕らえるため、フレアは巨大バラ型メカに飛びうつろうとする。
 「破軍流星!」
 その瞬間、グラントの気合とともに、巨大バラ型メカのジェネレーターが破壊され、花びらをつきやぶって、グラントが飛びだしてくる。
 巨大バラ型メカが爆発し、ウィル像も、ミーティア型パワードスーツも吹き飛ぶ。
 間一髪、フレアは身体を低くしてウィル像にしがみつき、爆風から逃れた。
 ディバーは、大きく空に放りだされ、半裸で吹っ飛んでいく。
 「ははははははっ! これで私のメカは打ち止めだっ! 一文無しになってしまったが、それでも私はこれほどまでに美しいっ!」
 捨て台詞とともに、ディバーは空の星となった。
 「さすがにもう、襲ってこれないよな……」
 フレアは、大きく息をつくと、黒焦げになり、爆発で長かったヒゲがもげてしまった、ウィル像をみあげる。
 「そうだな。しかし、妙ちきりんなやつだったな」
 グラントが、「破軍刀」で身体をささえながらこたえる。
 「ウィル像は、この町のシンボルなのよね……。あとで、修理費を請求されたらどうしよう……」
 気が緩んだリータがつぶやく。フレアは苦笑する。
 「また、ランドルゥに修理してもらえばいいじゃない。それか、このミーティア型パワードスーツをかわりに建てておいたら?」
 「それだけは絶対にイヤ!」
 アルフランツの提案を、リータは力いっぱい拒絶した。
 そこに、突然、警報が鳴りひびく。

Scene.4
 トリスティアが、ジェークの身体をかかえて、フレアたちのところへ「魔白翼」で戻ってきたとき、ビーズの声がウィルポリス全体に響きわたった。
 「私は、ビーズ社社長のギールウィン・ビーズだ。これより、ウィルポリスを占拠する。『グレート・マザー』のコントロールルームは私が確保した」
 「グレート・マザー」外部のモニターに映しだされたビーズの宣言とともに、町中のAIと、ビーズ社の非AIが、人々を威嚇しはじめた。ランドルゥの連れていたAIたちも、同じように動いている。
 「ビーズは、最上階のコントロールルームにいるんだ!」
 トリスティアが息を切らして、仲間たちに伝える。
 「グラントさん!」
 グラントの頭に、ラーシィの声が届く。「意志の実」で交信してきたのである。
 「そっちは大丈夫か? どういうことだ、なんでAIたちが人間をおどかしてるんだ?」
 「はい、今はまだ平気です……。ランドルゥさんがいうには、ビーズさんが『グレート・マザー』から電波を発信して、AIたちを操ってるんだそうです。このままでは、町の人たちが……」
 グラントの問いに、ラーシィがあせりをあらわにしながらこたえる。
 「イオ、そっちはどうなってる?」
 =俺様たちは無事だぜっ=
 「我輩にかわれっ」
 フレアが通信機にむかって話すと、イオが元気な声でこたえた。途中で、ランドルゥの声が混じる。
 「まずいことになった。ビーズから、コントロールをこちらに奪わねばならない」
 「どうすればいいんだ?」
 「イオと、一番心を通わせているラーシィの同調エネルギーを使うのだ。心の同調エネルギーにはサポートがあるとさらにいい。君たちも来てくれ」
 フレアにこたえるランドルゥは、ラーシィよりは落ちついているようだった。
 「ラーシィ、イオ、がんばって心を通わせてくださいねぇ。リュリュミアたちも協力しますからぁ」
 「ビーズのやつをぶっとばすまで、がんばっててくれ」
 リュリュミアは通信機で、グラントは「意志の実」で、ラーシィとイオをはげます。
 「はい、やってみます。……えっと、ランドルゥさん、このヘルメットは?」
 =おい、変なアンテナのついた機械を、ラーシィの頭にかぶせるんじゃねぇよ!=
 「これが同調に必要な機械なのだっ! こ、こら、イオ、ひっかくんじゃないっ!」
 ラーシィの困惑する声と、イオとランドルゥが暴れる音が、通信機からきこえてきた。
 「な、なんだか不安だな……」
 通信機に声が入らないよう、フレアがぼそりとつぶやく。
 そこに、ラーシィの父でAI関連企業社長の、ブレッド・コパーがあらわれた。
 「事後のフォローはわたしにまかせてくれ。企業家として、できるかぎりのことをしよう。今は、君たちにまかせるほかない。どうか、娘を、ラーシィをよろしくたのんだよ……」
 「オレたちが、きっとなんとかしてみせるよ」
 アルフランツが、ジェークとリータとともに、力強くうなずいた。
 通信機から、ランドルゥの声がきこえてくる。
 「むう、レーダーに、最上階からいくつも反応がある。ビーズめ、非AIロボットを我輩たちのところにむかわせてきているようだ」
 町中からも、ビーズ社の非AIが、「グレート・マザー」にむかって、続々と集まってきていた。

 ドクター・ディバーと、バラ型メカをたおすことには成功した。
 しかし、真の黒幕である非AIロボット企業社長のギールウィン・ビーズが、「グレート・マザー」最上階のコントロールルームから、ウィルポリスの占拠を宣言する。
 ビーズを止めるには、「グレート・マザー」のコントロールを、ラーシィとイオの同調で奪わねばならない。
 ビーズをたおし、ウィルポリスに本当の平和をもたらすことはできるのか?  

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