「AI=愛をさがせ!」 第2回

ゲームマスター:

 AI関連企業の社長令嬢ラーシィ・コパーは、双子の探偵ジェークとリータに、かわいがっていたAIの捜索を依頼した。
 時を同じくして、町外れの森林公園で謎のロボットが暴れるという事件が発生したが、そのロボットは、マッドサイエンティストのドクター・ディバーに強化パーツをつけられたラーシィのAI、イオであった。
 ディバーは、リータとラーシィを人質にとり、巨大な獣の姿となったイオをけしかける。

Scene.1
「ははははははは! 美しい! 私のメカは美しいのだっ」
 ドクター・ディバーは、両腕を広げて勝ち誇るように笑った。
「どうして、こんなことするんですかぁ? 人質をとったり、無理やりいうことをきかせるのは悪いことですよねぇ」
 リュリュミアは、首をかしげて、高笑うディバーにたずねる。タンポポ色の幅広帽子と、ダークグリーンの髪が、都市のドームの中にさしこむ日光を反射した。
「決まっているだろうっ」
 ディバーは、おおげさな身振りでリュリュミアを指さした。
 幻想界の騎士であるフレア・マナが、反射的に両手剣をかまえ、一歩前に進みでる。しかし、ディバーは、フレアが心配したようにメカを操作したりはしなかった。
「私のこの美しいメカを、世の中のやつらにみせつけるためだ!」
 ディバーは拳をにぎりしめ、高々と掲げる。
「それだけなら、人質をとる必要なんかないじゃないか」
 トリスティアが、ディープブルーの瞳に強い光をたたえ、ディバーをにらみつける。
「愚か者どもめ……これは当然のことなのだ!」
「うーん、だから、どうしてなんですかぁ?」
 舌打ちするディバーに、リュリュミアが疑問を投げかける。
「人質は、悪の美学だからだ!」
 こたえた瞬間、ディバーの背後で雷鳴がとどろき、稲光が閃いた。そういう効果のあるメカを使ったのである。
「……こんなやつ、説得には応じないよ」
 眉間を指で押さえ、頭痛をこらえつつ、フレアはリュリュミアの肩に手をのせる。
「そうですねぇ。じゃあ、なんとかしないとぉ」
 リュリュミアはあごに手をあてて考えはじめた。



「こいつは、父さんとは関係ないみたいだな」
 ジェークが、イオの背中の上で笑うディバーをみすえながらつぶやく。
「それって、行方不明のお父さんのこと?」
 トリスティアが、ディバーたちに注意しつつ、ジェークにたずねる。
「ああ、オレたちは、行方不明の父さんをさがすために探偵をしてるんだ。母さんはオレとリータが7歳のときに死んじゃったから、リータはああいうふうにお金にうるさいやつになっちゃったんだけど……」
「そうか、苦労してるんだね」
 そういったフレアも、騎士団長であった父を亡くしている。生まれ育った世界は違えど、どこか境遇の近さのようなものを感じるフレアだった。
「お金にうるさいってどういうことよ! よけいなこといわなくていいの!」
 カプセルの中からリータがわめく。
「よし、絶対にリータとラーシィを助けよう!」
トリスティアの言葉に、フレアとリュリュミア、ジェークは大きくうなずいた。



「また、私を無視しているな! ならば、考えがあるぞ!」
 ディバーは、手元の機械を操作しようと手を動かす。しかしそのとき、緑色の長いものが伸びてきて、ディバーの腕にからみついた。
「な、なんだこれはっ」
 暴れるディバーの胴体にも、同じものがからみつく。
 リュリュミアが、森林公園の木々にからまる蔦を伸ばして、ディバーの動きを封じたのだった。
「さあ、いまのうちですぅ」
 リュリュミアは蔦をあやつり、ディバーの身体をイオの背中から持ち上げ、宙につりさげてしまう。
「こらっ、ライオン型AI、なにをしているのだ! さっさと攻撃しろ!」
 ディバーの言葉に、イオはうなり声をあげ、リュリュミアにむかって地響きをたてて歩みはじめる。
 その前に、フレアが両手を広げて立ちふさがった。
=なんだよ、おまえも踏んづけちゃうぞ=
「いいや、こわくなんかないよ。イオ、君は強くなんかなってない!」
 フレアは、イオの目を正面からみすえた。
=なんだと、俺様は強くなったんだ! このボディなら、むかうところてきなし、のはずなんだぞ!=
 イオは金属の牙をむきだして反論する。そして、巨大な鉤爪を、フレアにむかってふりおろした。
 フレアは、すばやく跳躍し、鉤爪をよける。地面に、大きくえぐられた跡がついた。
「フレア、あぶない!」
 思わず声をあげるトリスティアに、フレアは大丈夫だ、と合図した。
「強化パーツかなんだかしらないけど、そんなものにふりまわされて、本当に強くなったっていえるの」
 フレアの言葉に、イオの動きが一瞬止まる。
=うう、でも、力も強くなったし、身体も大きくなったんだ=
 イオは自分をいいきかせるようにして、攻撃をしかけるが、フレアには当たらない。
「でも、ディバーのいいなりになってるだけじゃないか。本当に強いというのなら、自分自身の力で強さをみせてみなよ」
 フレアは、挑発するように、イオにいいはなつ。
「なにをしている、はやく攻撃しろ!」
 ディバーの命令に反応して、イオの身体が動きはじめる。だが、みるからにぎこちない。
=本当の強さ、俺様にはあるんだ! あんなやつのいうことはきかない!=
 イオの身体中の関節がきしむ音が響きわたる。ディバーの操作に、イオが対抗しているのだ。
 フレアとトリスティアが、イオの脚部を攻撃しようとみがまえる。イオの頭脳を破壊せずに、行動不能にしよう、という考えからである。
=俺様の、きょうかぱーつは、背中にあるんだ! 背中がコア部分なんだ!=
 そうさけびながら、イオはフレアにむかって突進する。
 次の瞬間、イオの身体は斜めに傾いていた。
 リュリュミアが地面に草を茂らせ、イオを転ばせたのである。
「ひっさああつ! 流星きーいぃっく!」
 空中に飛び上がったトリスティアが、建物をも破壊する「流星キック」を、イオの背中に炸裂させる。
 轟音がとどろき、イオの身体は、ばらばらに分解した。
=うわーっ!=
 小型犬くらいの大きさの、メタリックなボディにぬいぐるみのようなたてがみが生えたライオンが、空中に飛び出してきた。
「おおっと」
 フレアが、本来の姿に戻ったイオを無事キャッチする。
 ラーシィとリータの入ったカプセルも空中に放り出されたが、こちらはリュリュミアが蔦を伸ばして、地面にぶつからないようにささえた。
「見事な連係プレーですねぇ」
「だね」
 リュリュミアの言葉に、イオを抱いたフレアは笑顔でこたえる。トリスティアは、瓦礫と化した強化パーツの上で、Vサインした。
「こ、こんなことが……」
 ディバーは顎をかくんと落として、瓦礫の山をみつめた。
「オレ、あんな威力の飛び蹴りをくらってたのか……」
 ジェークは、別の意味で戦慄していた。

Scene.2
「よし、ディバーの尋問は後回しだ。リータとラーシィを助けよう」
 フレアがいい、一同はカプセルに入ったままのリータとラーシィにかけよる。
 フレアは両手剣「炎帝剣・改」を使ってラーシィのカプセルを壊そうと試み、トリスティアは、炎の力が宿った「ヒートナイフ」で、リータのカプセルを焼き切ろうとする。
 しかし、カプセルは頑丈にできており、なかなか壊すことができない。
=なにやってんだよ、はやくラーシィを助けろよ=
 ラーシィの側にかけよってきたイオが、フレアに文句をいう。
「僕だってがんばってるんだよ。イオ、反省してるの?」
=あたりまえじゃねえか。ハンセイしてるからいってるんだろ=
 イオは、小さなメタリックイエローの胸を張りこたえる。フレアのこめかみのあたりで「ピシッ」という音がした。
「まぁまぁ〜」
 リュリュミアが、フレアをなだめる。
「ところで、ラーシィにききたいことがあるんだけどぉ」
 リュリュミアは、カプセルの中のラーシィに問いかける。
「はい、なんでしょう」
 ラーシィは、透明なガラスのようなものの内側からこたえる。
「メカアームとか、強化パーツとかは、ラーシィのお父さんの会社ではつくってないんですかぁ?」
 リュリュミアの言葉に、ラーシィは少し考えこんだ。
「そうですね……。コパー・グループはAIに関わるものを幅広く扱っていますから、強化パーツなどもつくっているかもしれませんが、こんな物騒なものはないはずです」
「そうですかぁ〜」
 リュリュミアは首をかしげた。



 一方、トリスティアとジェークは、リータをカプセルから助けだそうとしていた。
「あのさ、ジェーク。さっきは飛び蹴りしてホントごめん!」
 トリスティアはジェークに頭を下げる。
「ああ、オレは大丈夫だ。……さっきみたいな威力じゃなくてほんとよか……あ、いや」
 ジェークは正直な感想をもらしつつも、笑顔でこたえる。
「うん、でも、鼻血も出させちゃったし……」
 トリスティアはハンカチで、ジェークの顔を拭おうとする。
「大丈夫だって。もう止まったし。きれいなハンカチなのに、汚れちゃうだろ」
 ジェークは、トリスティアの手をとって押しとどめる。
「ありがとう。……でも」
「でも?」
 下をむくトリスティアの顔を、ジェークがのぞきこむ。
「ボクは、パンツをみたことはゆるさないからねっ!」
 地獄の底から響くような声で、トリスティアがいう。
「え、そ、それは……」
 たじろぐジェークの両肩を、トリスティアは強くつかんだ。
「みたよね。みたんだよね?」
「は、はい。みました。ほんとにごめんな……」
 冷や汗を流しながら、ジェークは正直にこたえる。
「あー、やっぱりみてたんじゃないか!」
 トリスティアは、思いきりジェークの顔を平手打ちした。
「ぐはぁっ」
 まともにくらったジェークはのけぞり、再び鼻血を噴きだしてふっとんだ。
「信じてたのにっ。でも、これで許してあげるよ」
「ぜんぜん信じてなかっただろー!」
 倒れて顔を押さえつつも、ジェークはトリスティアにつっこみをいれる。
「あー、もう、そんなことやってないで、はやく助けてよ!」
 リータの言葉に、トリスティアとジェークはあわててカプセルを切断する作業を再開した。

Scene.3
 リュリュミアの蔦につかまったままのディバーは、低い声で笑いはじめた。
「なにがおかしいんだ。たしかに、今のトリスティアとジェークはおかしかったけど」
 フレアの問いに、ディバーは高笑いでこたえる。
「ははははははは! こういうことだ!」
 ディバーは、手元の小さなスイッチを押した。
 すると、はげしい音とともに、地面が割れ、中から巨大なロボットが二体出現した。
 一方はムカデ型、もう片方はナメクジ型であった。二体とも、金属でできていることがわかる以外は、まるで本物を巨大化させたかのようである。
 一同が呆然としていると、ムカデ型はラーシィの、ナメクジ型はリータの入ったカプセルを奪い、暴れはじめた。
「きゃああああっ」
「い、いやあああああああっ」
 ラーシィとリータが悲鳴をあげる。
「ははははは! どうだ、私のリアルなメカは美しいだろう!」
 ディバーはつかまったままだが、余裕たっぷりに笑う。
 そのとき、サイレンが鳴り響き、たくさんのパトカーが到着した。
 パトカーのひとつから、身なりのよい小太りの男性が飛びだす。
「ラーシィ!」
「お父様!」
 真っ青になっている男性の呼びかけに、ムカデ型メカの上からラーシィがこたえる。
「どうしてかわいいラーシィがこんな目に……。そうか、そうだな、イオのせいなのだな!」
 ラーシィの父、AI関連企業社長のブレッド・コパーは、フレアの側にいたイオをにらみつけた。
「お父様、ちがうの、イオは……!」
 ラーシィがカプセルの内側を強くたたくと、ムカデ型メカが、近くにあった街灯に尻尾をぶつけた。
 街灯は根元から吹き飛ぶ。
「うわーん、なめくじこわいよー。おにいちゃーん、たすけてよう〜」
 リータは泣きながら、カプセルの中で暴れた。すると、ナメクジ型メカも身をくねらせ、地面をえぐり、森林公園の一角を破壊する。
「な、なんか、キャラが変わってないか?」
 トリスティアの言葉に、ジェークは冷や汗を流してこたえる。
「このままじゃリータがやばい。あいつは、ものすごいナメクジ嫌いなんだ……」
 そういっているあいだにも、泣きわめくリータの捕まっているナメクジ型メカと、懸命にイオのことを説明しようとするラーシィのムカデ型メカは暴れつづける。
「ここは危険です、さがってください!」
「なにをいっている、わたしのラーシィが……!」
 ブレッドは警官にむりやりパトカーの中に引き戻された。
 警察は、近隣の人々の避難誘導でせいいっぱいであり、とても巨大ロボットと戦える状況ではなさそうであった。
「ははははは! やはりロボットは心など持っていないほうが扱いやすいな。私のリアルな動物型メカが、おまえたちなどにやられるものか!」
 ディバーは、蔦に絡みつかれたまま高笑いする。

 強化パーツでディバーにあやつられていたイオを助けたものの、今度はリータがナメクジ型メカに、ラーシィがムカデ型メカに捕まってしまった。
 警察には、巨大ロボットと戦えるような力はなさそうである。
 ディバーの「リアルな動物型メカ」を倒し、リータとラーシィを救うことはできるのか。

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