「AI=愛をさがせ!」 第3回
ゲームマスター:
AI関連企業社長令嬢ラーシィ・コパーのライオン型AIイオを救出し、マッドサイエンティストのドクター・ディバーを捕まえることは成功した。しかし、ラーシィと双子探偵の妹リータは、カプセルに入れられ、ディバーのメカに捕まってしまう。 ラーシィの父ブレッド・コパーは、こうなったのはイオのせいだと責めるのだった。 Scene.1 「うわーん、なめくじこわいよー。おにいちゃん、たすけてよう〜」 泣きわめくリータの身体の動きにあわせて、巨大なナメクジ型メカが暴れる。ディバーがいうとおり、見た目はとてもリアルであった。 「リータが、こわれてる……」 ともに探偵業を営む兄であるジェークをバカ呼ばわりしたり、釘バットを振り回していた姿からは考えられない様子をみて、幻想界のジャグラーの少女トリスティアはつぶやいた。 「あいつ、ほんとにナメクジ嫌いなんだよなあ」 ジェークが、冷や汗を流しながら、ナメクジ型メカの上にとりつけられたカプセルの中のリータをみつめる。 「お父様、イオは悪くないんです、お父様!」 一方、ラーシィはムカデ型メカのカプセルの中から必死に父ブレッドに呼びかけていた。 ラーシィが両手でカプセルの内側を叩くと、ムカデ型メカが足を動かして、道に並ぶ街灯を次々に破壊する。 「はははははは! なんとすばらしい光景だ」 ディバーは、その身体を、一面花畑の世界からやってきた庭師リュリュミアの蔦で絡めとられて動けない状態であったが、勝ち誇って笑った。 「あのー、ききたいことがあるんですけどぉ」 リュリュミアが、宙にぶらさげられた状態のディバーを見上げてたずねる。 「なんだ、私のあのすばらしいメカたちのことが知りたいのか」 リュリュミアの若葉のようなライトグリーンの瞳を、ディバーは口の端をゆがめてみすえる。 「はい、あの足がいっぱいあったり、なかったりする変わったメカのことが知りたいですぅ。リュリュミアは本物を知らないんですけどぉ、これってどういうふうにリアルなんですかぁ?」 首をかしげるリュリュミアに、ディバーは口が裂けるほどにたりと笑い、こたえる。 「ふふふ、このメカたちは見た目だけがリアルなのではないぞ。動き方も性質も、本物をそっくりまねてつくってあるのだ。いや、逆に本物が私のメカをまねてつくられているといっても過言ではない」 「すごいですねぇ〜。それで、これはどぉゆぅメカなんですかねぇ。もっとくわしくおしえてほしいですぅ」 自分のメカに興味を持たれたので機嫌がよくなったディバーは、さらにまくしたてた。 「ははははは! このメカたちは、AIなどと違って心を持たないのだ。だから、私のいうがまま行動し、けして逆らったりなどしないのだ。だが、それだけならば動物型にする意味などない。この私の美しいメカたちは、殺虫剤に弱いし、ナメクジ型のほうは塩をかければとけてしまう。天才である私だから可能な技術だがな」 「じゃあ、おもいっきり戦っていいってことだね」 ディバーの話をきいた幻想界出身の騎士の少女フレア・マナは、両手剣「炎帝剣・改」の柄を握りしめた。 「そうか、塩をかけるのは有効だったのか。でも、ここにナメクジ型メカを倒せるだけの大量の塩はないだろうし、殺虫剤は人間や森林公園にも被害を出しそうだからなあ」 トリスティアは少し考えこんだあと、決意の表情を浮かべ、ジェークに目配せした。ジェークは、トリスティアに何か考えがあることを察知し、うなずく。 「おい、ディバー! よくきけ! お前には足りないものが二つある!」 トリスティアは蔦で吊り下げられたディバーの前に進み出ると、ビシッと指をつきつけた。 「な、なんだと。この美しい私に足りないものなど……」 「いいや、あるね!」 顔を赤くして反論するディバーに、トリスティアはたたみかける。 「お前には、ライバルである正義のヒーローがいないじゃないか。ライバルもいないのに、悪の美学だなんて、ちゃんちゃらおかしいよ」 トリスティアは、ディープブルーの瞳をまっすぐ向けて、ディバーを挑発する。 「くやしかったら、ボクみたいな強いライバルをみつけるんだね」 「な、な、なにをいうか! 貴様など、私の美しいメカにやられてしまうがよいわ!」 逆上したディバーは、トリスティアをにらみつけてさけんだ。 ○ フレアは、腰をかがめて小型犬程度の大きさのイオと視線をあわせ、緑色の瞳に真剣な光をたたえてたずねる。 「イオは、ラーシィのことが好きか?」 イオは、小さな胸をせいいっぱい張ってこたえる。 =あたりまえじゃねえか。俺様はラーシィが大好きだ! 今、俺様にできることならなんだってするぜ= 「よし、よくいった」 フレアは大きくうなずくと、イオの茶色のたてがみでおおわれたメタリックイエローの小さな耳に近づき、作戦を伝えた。 Scene.2 フレアは時間を指定して爆発させることができる、魔力を練成してつくりだした珠「爆炎珠・改」を、ムカデ形メカのまわりにばらまいた。「爆炎珠・改」は、赤い光を発して爆発する。 爆風で、フレアの腰まである金色のポニーテイルがゆれる。一瞬動きの止まったムカデ型メカの足の関節に、フレアは「炎帝剣・改」を何度も叩きつけた。金属のこすれる嫌な音がして、ムカデ型メカの足がちぎれ飛ぶ。 「ムカデはこっちにまかせて!」 「じゃあ、ボクはナメクジをひきつけるよ」 フレアの言葉に、トリスティアは「魔白翼」を広げて飛び立ち、ナメクジ型メカの周りを旋回する。 「ジェーク、ナメクジに水を! 考えがあるんだ」 「ああ、わかった!」 上空からのトリスティアの言葉に、ジェークはうなずき、自動車と同じスピードが出る「俊足ブーツ」で、猛スピードで走りだした。 「いやあああ、なめくじこわいよう〜」 「お父様! イオは悪くないんですっ」 リータとラーシィは恐慌状態で、カプセルの中を叩いている。それにあわせて、巨大メカたちも暴れていた。 「ええっとぉ、二人とも落ちついてくださぁい」 リュリュミアが呼びかけるが、リータにもラーシィにもまったくきこえていない。 「うーん、しかたないですねぇ」 そういってリュリュミアが何か念じると、ラベンダーやジャスミンの花が、リータとラーシィが閉じこめられているカプセルの周りに咲き乱れた。そして、中にいる二人の視界をふさぐ。 心を安らかにする花の香りが、カプセルを包む。ラーシィが叫ぶのをやめると、ムカデ型メカの動きもおとなしくなった。 「あ、わたし……」 「ラーシィ、大丈夫ですかぁ」 リュリュミアに、ラーシィはだいぶ落ちついた声で返す。 「はい、平気です。どこも怪我していませんし」 「よし、今がチャンスだ」 フレアは、さらにムカデ型メカの間接部分を狙って攻撃する。しかし、反撃は先ほどまでとは違い、はげしくはなかった。 「わたしが、このメカを暴れさせてしまっていたんですね。どうしましょう……」 「気にすることないですよぉ」 花におおわれたカプセルの中からきこえるラーシィの声に、リュリュミアがこたえる。 「いえ、なんとか責任をとらなくては。わたし、自分でなんとかしようと思いますっ」 その言葉とともに、ムカデ型メカが大きく尻尾をふりまわした。 「うわっ」 ムカデ型メカの腹部の間接を攻撃していたフレアは、あわてて飛びのく。 「ええと、こっちのボタンじゃないみたいですね。あ、あら?」 ムカデ型メカは、今度は頭をはげしく動かした。ムカデ型メカは近くの建物にぶつかり、轟音とともに破壊する。 「し、しなくていいから! ラーシィはなにもしないでじっとしてて!」 フレアがあわててさけぶ。 「え、でも、それじゃ……」 ラーシィが困惑してこたえるが、フレアは懇願する。 「いや、ほんとにたのむからじっとしててほしいんだ」 「そうですか?」 ラーシィが勝手に機械を操作するのをやめたので、フレアは安堵の息をついた。 そして、すぐに気持ちを切り替えると、さらにムカデ型メカを攻撃する。いまや、ムカデ型メカはかなりダメージを受けており、動きも鈍くなっていた。 =ラーシィ! 助けに来たぜっ= 「イオ!」 カプセルのそばでイオの声が響く。イオは、ムカデ型メカをフレアがひきつけているあいだに、ムカデ型メカにとりついてラーシィのところまでたどりついたのである。 =こんな『ぱすわーど』なんかっ= 鋭い電子音とともに、ラーシィのカプセルが開いた。イオがロックを解除したのだ。 「よし、えらいぞ、イオ!」 フレアはもうほとんど動かないムカデ型メカの背中をかけあがり、ラーシィの身体を抱きささえた。 「こ、こんなことがっ! しかし、まだナメクジ型メカがあるっ」 ディバーは歯ぎしりする。 ○ 一方、リータは、まだ泣きわめいていた。 「わーん、なめくじがー、なめくじがー。ぬるぬるするよう、こわいようー」 「うーん、花の香りでも落ちつかないんですかぁ。そんなに、あの生き物はこわいんですかねぇ」 「人にもよる、かな……」 「魔白翼」で空を舞うトリスティアは苦笑して、リュリュミアにこたえる。 「おにいちゃああああん、たすけてええぇ〜」 カプセルをおおう花の隙間からジェークの姿をみつけたリータは、ジェークにむかって、ナメクジ型メカを突撃させた。 「な、なんだか二重の意味でこわいぞ、リータ……!」 そういいながら、ジェークはあわてて道端の消火栓を操作した。ホースをナメクジ型メカに向け、水を噴射する。 ナメクジ型メカは、大量の水を浴びて、さらにぬめぬめした感じが強調された。 「よし、いまだ、トリスティア!」 「な、なんだかやな感じになってるけど、わかった!」 トリスティアはナメクジ型メカに向けて上空から刃に触れたものを凍結させる「コールドナイフ」を投げ、同時に水氷魔術を繰り出す。 水を浴びたナメクジ型メカは、リータの入っているカプセルの部分を残して、あっというまに凍りついた。 「ひっさあああああつ、流星キーック!」 トリスティアの渾身の力をこめた「流星キック」がボディに炸裂し、ナメクジ型メカはこなごなに砕け散った。 「よし、やった!」 ガッツポーズするジェークにたいして、トリスティアは笑顔でVサインする。 「うわーん、なめくじがこなごなになっちゃったよう〜」 「リータ、もう平気ですよぉ」 カプセルにまだ閉じこめられたままのリータに駆けより、リュリュミアがなだめる。 「なめくじの破片がいっぱいだよお〜。小さいなめくじでいっぱいになっちゃうよう〜」 リータはカプセルの中にしゃがみこみ、いやいやするように頭を振った。 「そういうものなんですかぁ?」 「う……。もしそうだったらイヤかも……」 リュリュミアの問いに、トリスティアは顔をしかめる。 「い、いや、ならないから。そういう生物じゃないし」 ジェークも顔を引きつらせながらいい、確認するようにディバーのほうをみた。 ○ 「く……、おのれぇっ」 ディバーが手元のスイッチを再び押すと、突如、爆発が起こり、蔦に捕まっていたディバーの姿を隠した。爆煙が消えた後、そこにディバーの姿はなかった。 「ふははははははっ!」 一同が周囲を見回すと、巨大な、とげの生えた蔓を持つ赤い花の上に立つディバーの姿があった。 「こんなこともあろうかと、バラ形メカを用意していたのだ。バラの花こそは悪の美学! さらばだっ」 ディバーは黒いコートを脱ぎ捨てる。巨大バラ形メカは、蔓を動かしてものすごい勢いで前進していった。 半裸になったディバーは、赤いバラの花をまきちらしながら去っていった。 「変態だ……」 フレアはこめかみに手をあてて、頭痛をこらえる。 「よし、これで悪役として足りないもの二つのうちのもう一つ、やられたときのお約束リアクションが一応できたから、まあ、よしとしよう」 トリスティアが訳知り顔でうなずく。 「逃げられちゃったんでしょうかぁ」 「うーん、そうだね……」 リュリュミアに、フレアは苦笑しながらこたえた。 「うわーん、こわかったよう〜」 「あー、もう大丈夫だから、泣くな、泣くな」 リータは、ジェークに抱きついて幼いこどものように泣きじゃくる。 Scene.3 イオは、無事地面に降り立ったラーシィに飛びついた。 =ラーシィ、俺様はやったぜ!= ラーシィは、おだやかな笑みをうかべてこたえる。 「そうね。わたしは、ありのままのイオが好きよ。助けてくれて、どうもありがとう」 ラーシィは、イオを抱きしめた。 「これからも、ラーシィのことを守るんだぞ」 フレアも笑顔をうかべて、イオにいう。 =おう、いわれるまでもないぜっ= イオは元気よくこたえた。 「ラーシィが無事に戻ってきたのは本当に君たちのおかげだ。ありがとう」 ブレッドは人のよさそうな顔に満面の笑みをうかべて、フレアたちに頭を下げる。 「これで、イオのことを認めてくれるよね」 「ああ、ラーシィの命の恩人だからね。わたしはどうも、自社のAIに誇りを持ちすぎて、石頭になっていたらしい」 フレアの言葉にブレッドはうなずき、頭をかいた。 「それにしても、すごい被害ですねぇ〜」 リュリュミアが、破壊された周囲を見回してつぶやく。警察官や消防士たちが、後片付けに走りまわっていた。 「今回のことはわたしにも責任がある。復興のための資金はわたしがすべてだそう。……そうだ、君たちにもお礼をしなければ」 「お礼!?」 ジェークに抱きついて泣き続けていたリータは、ブレッドたちからかなりはなれた場所にいたのだが、その言葉を聞き逃すことはなかった。 「そうよ、ラーシィさんの依頼を果たしたんだから……って」 リータは、目の前のジェークと顔を見合わせ、首をかしげた。ジェークの顔にも、疑問符が浮かぶ。 「なに抱きついてんのよ、バカ兄貴! 変態!」 次の瞬間、リータの右ストレートがジェークの顔面に炸裂し、ジェークは鼻血を噴いて吹っ飛んだ。 「ぐはあっ」 地面に叩きつけられたジェークには目もくれず、リータはブレッドのほうに走っていった。 「だ、大丈夫?」 トリスティアがあわててジェークに駆けより、助け起こす。 「も、もういやだ、こんな生活……」 そう言い残して、ジェークは気絶した。 そんなことには気づかずに仲良く笑うラーシィとイオをみて、リュリュミアがいう。 「よかったですねぇ〜」 こうして、ウィルポリスに平和が戻ってきた。 晴れわたった空の青さと、雲の白さ、鼻血の赤がまぶしい。 |
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