『Velle Historia・第3章〜固き地の意志』

ゲームマスター:碧野早希子

【シナリオ参加募集案内】(第1回/第3章全6回)

 新暦25年9月。ヴェレスティア共和国の首都ヴェレシティ。
 ヴェレ王国(ヴァーヌスヴェレ王朝)最後の皇帝、ティーマ・マギステリウム・ヴェレが現れてから約2ヶ月。
 世界は不気味なくらい落ち着いていた。極些細な事件や事故は相変わらずであったが。
 ティーマはその後姿を現さず、何処かで楽しみながら事象を見守っているかのようだ。

 レイアイル邸。
 水の賢者ナーガ・アクアマーレ・ミズノエが秘書検定を受ける為に勉強をしている。
 遺跡はアンドロイドのナガヒサ・レイアイルがやってくれている為、若くなった自分が出来る事といえば、修行の師匠を務める事とこれしかない。
 惑星キャエルムの外務長官からヴェレスティアの特別顧問官となったツァイト・マグネシア・ヴェレの秘書となるべく、勉強を始めたのだ。
「腕が痛いのだが……いつまでこうさせる気だ」
 面と向かっているツァイトの右手はナーガの左頬に触れている――というより、ナーガのお願いにより、渋々こうしているのであった。
「何か落ち着くんですよね」
「普通こういうのは特別な関係の人間しか出来ん筈だ。詳しい事は聞くなよ。頭を撫でるより余計に気を使う」
「頭を撫でてもらうより、こっちのほうが――」
「お前は子供か」
「ぼくもなでてー」
 にぱにぱ笑うアホ……もとい、犬のジョリィを見て、ツァイトは呆れる。
「季候が過ごし易くなったとはいえ、暑くないか?」
「じちゅは……あちゅいのらー……くるくる〜」
 ふーとため息をつき、毛で覆われた身体を冷やすべく、ゴロゴロ転がりながら日陰に移るジョリィ。
 ナーガの頬を当てていた手を離し、ツァイトは話を戻す。
「ナーガの勉強を見ている時間が無いんだが。こっちだって来年度の教科書に採用予定の文章を見なければならん」
 因みに、ヴェレスティアの場合は9月から来年の8月までを年度の区切りとしている。一年先に販売する教科書の文章チェックなぞ、出版社の人間や担当の官僚がすべき仕事なのだが、ヴェレ王国の歴代国王の通称名は必ずツァイトとワイト・シュリーヴ大統領が加わっている。
「大統領と毎年チェックを入れてますよね。何か不都合な事でも?」
「今のところ、嫌な事を思い起こさせるような事は書かれていない。皇帝の場合も名前ではなく通称名で書かれているかどうかチェックをするだけだ」
 とはいえ、誰も本名など知らない。ただ分かるのは数字と皇帝で表されるもの、そして姓が『ヴェレ』と付く事だけのみ。
「あの皇帝陛下が現れてから2ヶ月……今のところ、姿を現していませんね」
「忘れた頃にやってくるからな、あの『覇落王』(はらくおう)は」
 ヴェレスティアの教科書や歴史関連の書物では、ティーマの事をこう書かれている。
「そういえば、『終焉王』とか『虚志王』(きょしおう)を呼称する案は結局使わずじまいですか」
「覇落王のほうが、あいつに相応しい通称名だと思うが」



 一方、グロウヴネストこと大統領官邸。
 政府は極秘裏に議会を招集していた。一部の天空階級による組織『ノヴス・キャエサル』の件で頭を悩ませている。
 というのも、ヴェレスティアだけでなく世界中――いや、宇宙中にもいるかもしれない。ともかく、最近この組織が挑発でもするかのように事件を起こしてくるのだ。組織名を出してくるわけでもないが、大よそ見当はつく。
 議員の中にも天空階級の者が多い。とはいえ、その多くが反天空組織『インフルエンティア』の元メンバーであり関係者でもあったからだ。ノヴス・キャエサルの関係者も少なからずいるが、知らぬ存ぜぬの一点張りであった。
「本当にあの組織には更に多くのグループが存在する……とでもいうのか?」
 思案するかの表情をするワイトは、考えても仕方がないと別の事に切り替える。
 2人の女性秘書官を呼ぶワイト。一人は有翼人種のソイル人、エンジュ・ケストレル。
 もう一人はアフロヘアが特徴の女性、マイ・スペルビア。
「この人物が次期大統領に相応しいかどうかを調査してほしい」
 候補に挙げたのは二人。一人は37歳の副大統領、マクシミリアン・フィンスタイン。
 もう一人はツァイトであった。
 多分後者は本人が断固拒否するのは分かっているが、念の為にと候補に入れた。
「もしも官僚内で候補に挙げられそうな方がいたらどうしますか?」
「お前達の判断に任せる。その際は即知らせてほしい」
「でもどうせ大統領が続ける事になるんでしょ? 毎回やっても同じような気が――」
「マイ、大統領は次の世代に役目を継がせる為に調査をお願いしてるのよ。無駄かもしれないけど、調査してみる価値はあるわ」
「そんなものかしらねー」
「それぞれの仕事があるのにすまないな、二人とも。私はこれで家に戻るが、緊急の際は呼んでくれ」



 夜。再びレイアイル邸。
 電話が鳴り、交渉官のラウリウム・イグニスが受け取る。
「長官、ウィンディア医師からです」
 風の賢者である医師のウィンディア・シュリーヴからのテレビ電話。ツァイトが不審に思いながらも出る。
「俺だ。もしかしてワイトの事か? 生憎こっちには寄っていないが、どうした?」
 困惑した表情を隠せないウィンディア。ワイトに何かあったらしい事は想像つく。
「やはり『あれ』は本当だったのですね」
「一体どうしたんですか?」
 ナーガが割り込む。少し考える素振りをするウィンディア。
「これから言う事はマスコミが盗聴している可能性がある為、極秘扱いです」
 画面下部に『COMMUNICATION OVERRIDE - EMARGENCY - TOP SEACRET』と表示された。
 通信タイプが緊急事態に切り替わった証拠だ。
「ワイトに何かあったのか?」
「――拉致されたらしいのです」
「拉致って……本当ですか? 誰の仕業かわかっていますか?」
「約1時間前、犯行声明が来ました。私も最初疑ったのですが……ご覧になります?」
 ツァイトが頷くと、右下に小さい画面が表示され、別の映像――ビデオメールが流れた。
 そこに映っていたのは、手を後ろに縛られ、俯いているワイトの姿だった。周囲には誰もいないが、多分映らないところにいるのだろう。
 雑音交じりの音声が流れ始める。
「我々は『SDS』……ノヴス・キャエサルの一つだ。インフルエンティアの英雄だったワイト・シュリーヴ大統領を預かっている」
「私は英雄ではない……共に戦った者等が英雄だ」
「黙れ、人質の分際で。さて……我々の要求だが、こいつをすぐにでも辞退させろ。革命から25年間、独裁政治を行ってきた。我々天空階級は、これ以上地上階級の者にやらせても無意味と判断する。我々と通ずる天空階級に大統領職を継がせろ。要求を呑まなければ、こいつの命は無いと思え」
 まだ今期の任期は3年ほど残っている。もしも階級に関係なく、ヴェレスティアや世界中、否、宇宙中の為に職務を全うする者がいれば、ワイトは喜んでその者に継がせるだろう。
 ビデオメールが終わり、ツァイトは険しい表情をする。
「独裁政治だ? 勝手な事を言いおって……誰も大統領職に就く者が見つからなかったから、ワイトが続けてきただけだ。それにしてもSDS……知ってるか?」
 ナーガはツァイトに問われるが、首を横に振る。
「私も存じません。大地革命後にできた組織なのは何となく分かるのですが……最近なのでしょうね」
 明らかに政治絡みの件。考えても仕方が無い。
「一体幾つあるんでしょうね……関連組織は」
「知るか。ともかく、国の頂点に立つ者がいないのでは、機能しない官庁も出てくるだろうな」
「それでしたら、副大統領が犯行声明後にすぐ議会を緊急招集しました。もうすぐ特別対策本部を設置する予定です」
「俺も特別顧問官として行くべきだな。事態が収拾するまでの間、そっちへ泊り掛けになるのは覚悟の上だ。そこに副大統領はいるか?」
「はい、おりますが」
 プラチナブロンドの男性が出る。職務に厳しいような外見だ。
「フィンスタイン副大統領、これから俺もそちらへ向かう。本来ならば、俺は部外者だろうが――」
「いえ、貴方は昔からヴェレスティアの関係者でしたから。来てくだされば有難いです」
「そうか、それは助かる。で、この件に関してはマスコミには何て知らせるのだ?」
「極秘裏に情報を収集し、救出したいと思っておりますが……いつニュースで取り上げられるか不安です。大統領に対して敵対心を持つ者もおりますから、知ったらどのような行動をとるか予測できません。特別顧問官、それではお待ちしております」
 通話が終了する。
 いつかは何処かでマスコミが掴むか分からない。ツァイトはもとより、マクシミリアンも懸念している。
「ラウリウム、多分司法公安局もこの件を把握している筈だ。何らかの形でお前にも連絡が来るかもしれん」
「交渉しろと言われればしますが、聞いてくれる相手かどうか……第一、姿も見せなかったのでしょう?」
「何なら、私が調べてやってもいいわよ。手伝う人も何人か欲しいわね」
 女探偵エスト・ルークスはやる気満々。
「それは有難いが……こいつはどうする」
 ジョリィを指差すツァイト。面倒は大抵エストがやっている。 
「ナガヒサやテツトに任せちゃおうかな」
「テツトは仕事で忙しいと思いますが、私は構いませんよ。遺跡調査に連れて行くのも良いですが、もしそのSDSっていうのに出くわしたらどうしましょうかね」
 前足を掴んで揉むナガヒサ。「うっとりうっとり〜」と言いながら気持ち良さそうにするジョリィ。
「それは大丈夫でしょう。あの目的は大統領を降ろす事だけのようですから」
 ニコリとナーガが答える。
 しかしツァイトは「そうかな」と疑問を投げる。
「ノヴス・キャエサルの一組織だ、ナーガにも目をつける恐れがある。ともかく、まずは情報収集からだ」
 数時間後、この件を『ヴェレスティア大統領誘拐事件』と呼称する事にした。犯人側の思惑は何なのだろうか。
 果たして、ワイトは無事に戻ってこられるのだろうか。

【アクション案内】

o1.ラウリウムやエストと共に情報収集
o2.大統領官邸で行動
o3.次期大統領候補者の調査
o4.天空遺跡で調査(場所を明記。王宮の場合は階数も)
o5.その他

【マスターより】

 久しぶりに長き物語の第3章が始まります。でも今回はいきなりワイト大統領が拉致されてしまうという……どうなるかは最後まで怪しいです。
 アクションの補足ですが、ラウリウムやエストと一緒に情報収集の場合は外での行動になります。国内で探し回るのは至難の業です。逆に大統領官邸では中での活動が主になりますが、もしかしたら犯行声明のビデオメールが届くかもしれません。最後の天空遺跡調査は毎度の事ですね。上記二つのはちょっと出来ないなあとか遺跡調査命(?)という方はこちらをどうぞ。
 では今章も最後まで宜しくお願いします。

碧野マスタートップP