『Velle Historia・第3章〜固き地の意志』

ゲームマスター:碧野早希子

【シナリオ参加募集案内】(第2回/第3章全6回)

 新暦(A.H.)25年9月。
 ヴェレスティア共和国の首都ヴェレシティにある中央行政府。その中央に大統領官邸――別名『グロウヴネスト』(小さな森の巣)がある。
 大統領ワイト・シュリーヴがSDSに拉致されてから慌しくなっている中、外務特別顧問官ツァイト・マグネシア・ヴェレが、グロウヴネストの第3会議室に設置されているSDS特別対策本部に入り到着早々今までの経過を聞いてくる。
 ヴェレスティア副大統領のマクシミリアン・フィンスタインが、最初の犯行声明以降、SDSからの連絡は無い事を即座に返答する。
 梨須野ちとせが犯行声明が記録されているビデオメールの解析を進める中、シエラ・シルバーテイルは担当のSPが当時何をしていたのかを問う。
 マクシミリアンの話によると、SPは公務やこの大統領官邸しかシュリーヴ大統領の護衛につかない事、個人的な事に関してはワイト本人が護衛を遠慮しているらしい事が明かされた。
更に真偽の程は定かではないが、大統領の知り合いでもある八賢者の一人が護衛についているらしいものの、見た事がない事も判明される。
 知り合いで八賢者といえば、水の賢者ナーガ・アクアマーレ・ミズノエを真っ先に思い浮かべるが、彼はどちらかといえばツァイトについて行くほうだ。
 もう一人思い浮かぶのはワイトの妻であり医師でもある風の賢者ウィンディア・シュリーヴ。だが、休日にはSPの代わりに護衛をするのだろうか。彼女も医師としての仕事もあるなのだが。
 ツァイトは「彼と仲が良い賢者は他にいる……『地の賢者』だ」という事を口にする。
 シエラは元より、周囲の皆が初耳である。その者はこの事態を把握しているのだろうか。
「知っている筈だ。だが、現時点では『動かん』だろう」
 ツァイトの台詞は、まるで放っているかのように聞こえる。もしかしたら様子を見ている最中なのかもしれないが。
 何故そう言い切れるのかをシエラが問うと、ツァイトは「本来、八賢者の監督は俺だからだ」という答えが返ってきた。
 皇帝直属じゃなかったのかというちとせの問いに、ツァイトは全世界――全宇宙に権力を誇示する為の表向き説明である事と、皇帝が全員の監督責任が務まる事がなく、興味あるのは一人だけだという返答をする。
 あいつ――ヴェレ王国最後の皇帝、ティーマ・マギステリウム・ヴェレの興味対象はナーガだけだ。
 重い空気が流れるのを感じて、話を変えるようにちとせが地の賢者の居場所を聞いてみる。
 が、ツァイトは「極秘扱い」と言うだけで教えてくれなかった。その本人の意思を尊重している為、自ら現れるまで黙秘するつもりでいる。或いはSDSがこちらの動向をどのくらい把握しているのか分からないとの理由もある。どちらにしろ、覚られたくはないのだろう。
「護衛しているんなら、その賢者はアジトまで当然ついて行っているって事?」
「どうだろう。もしかしたら、向こうが動向を把握した上で煙に巻かれた恐れもある……どちらにしろ、失態である事は間違いないな。一応車には最低限のセキュリティ機能等が搭載されているが、最終的な判断は人間の考える事だ。それに、地の賢者の事もな」
 因みに、ワイトが私邸を持つ理由は、月に一度だけ官邸から離れてのんびりしたい事と、引退後の住まい確保の為であるという。その私邸にはウィンディアが主に住んでおり、急患が運び込まれる際に病院にいち早く駆けつけたい理由からでもある。
「副大統領は八賢者をご覧になった事はありますか?」
 ちとせがマクシミリアンに問うと、意外な答えが返ってきた。
「昔の事ですけどね。仮面をつけていらっしゃいましたが、あった事はあります」
 八賢者は決して素顔を見せない。それが暗黙の了解でもある。一部の者以外、誰も見た事がない。
「いつビデオメールが届くか分からん。一応の万全体制をとらねばならんな。無論、ワイトの居場所もSDSの事も」
 ツァイトがマクシミリアンにそう伝えるのだった。



 数分後。データバンクルームの一室にて、リーフェ・シャルマールがマクシミリアンに個人情報の閲覧許可を求めている。
 理由はSDSに関係する者がいるかどうかを調べたいのだ。
 要求内容から察するに、天空階級の人間とはいえ政治的素人に実権を握らせる訳がない。
 ここに至るまでの状況の迅速さから、SDSでの『大統領候補』は政府中枢に近しき者――政治家や高級官僚――か、ナーガ周辺の人物と推察しているのだ。
 ツァイトの知り合いなら許可は出すものの、一部プロテクトがかかっている事を告げるマクシミリアン。
 本人の立会いの下、本人の指紋や声紋、網膜パターン、そして設定したパスワードが必要である事を。全国民のデータが収録されているが、中にはホームレス等何らかの都合で未登録の方もいるようだとも。
 因みに、芸能関係者は家族構成や年齢が非公開が多い。新聞等で暴露されたら人権侵害だと訴えられる事もある。エスカレートすれば裁判沙汰に発展しかねない事態も起きうる。とはいえ、自業自得な点になる事もあるが。
 人というものはスキャンダラスな事が好きなんだなという事を、改めて認識させられる。
 表向き……一般人には見られても大丈夫なものは良しって事を理解し、リーフェは気の遠くなりそうな作業に取り掛かる事にした。
 別に芸能関係者を調べるのではない。政治関連ならば、公式に経歴や家族構成、交友関係が載っている筈だ。
 ツァイトの他に交渉官ラウリウム・イグニスや探偵のエスト・ルークス、ワイトから次期大統領候補者の調査を依頼されている二人の秘書官、エンジュ・ケストレルとマイ・スペルビアも閲覧対象に含めて。
 ツァイトの閲覧に取り掛かった時、表示されない箇所を見つける。ヴェレ王国時以前のほうなのだが、何故かそれがない。
(データが失われている? そんな訳無いわよね。ヴェレ王国時代のは見せたくないって事かしら)
 リーフェにかける低い声がし、ビクリとして後ろを振り返ると、いつの間にかツァイトがいた。
 自分の個人情報が表示されているのを見て、ツァイトは腕を組みながら、「俺のを見たって面白いのはないぞ」と生真面目に告げる。
 人間の記憶というものは未知の部分であり、蓄積するにも限度がある。新しいものを覚えていく度に、古いものは忘れ去られてしまうのだろう。事故等の衝撃で記憶をなくす事もある。
 リーフェがプロテクト部分の内容を閲覧したいと申し出、ツァイトが「見てもつまらんぞ。それでも良ければだが」と言いながらもプロテクト欄にパスワードを入力し、両手と両眼を別モニタへかざす。
 男性のような機械音が流れ、指紋及び網膜パターン照合、声紋チェックをする。
 数秒後、再び機械音が流れ、プロテクトを解除した。
 すぐに多くの情報量が表示された……が、アスール語ではなくソラリス語で書かれていた。これもある意味プロテクトな感じがする。
 リーフェはソラリス語は読めなかったので、ツァイトは仕方がないなとため息をつき、代わりに読む。因みに、プロテクトされた部分はコピーする事は出来ない事をリーフェに告げる。
 ツァイトは再びプロテクトを施して踵を返すが、何かを思い出して忠告を付け加える。
「この個人情報データの内容だが、自己申告制で正直に情報を公開しているところもあれば虚無もある。信じるかどうかはお前次第だが」
「そういうツァイトのは?」
「今更嘘を載せて何になる……余程載せなければならない情報以外は、私情の問題もあるからな。他の人間では、それがきっかけで精神に不安を来した人間も少なからずいるそうだ」
 ツァイトが部屋を出ると、リーフェは再び画面に向き直って政治家の個人情報の閲覧を始めた。
 その結果、政治家や官僚、軍事関係者約60人にデータ不足が見られ、とりあえずブラックリストを作成する。
(証拠は見つかってないけど、誰もが金持ちっていうのも嫌な感じよね。これも天空階級だからなのかしら)
 リーフェは更に、短い文章を打って、ある場所へと転送した。



 情報分析室――IAR。いかなる緊急事態にも情報を把握できるように、大統領官邸の中に設置している。
 そこへ着くまでの間、シエラはツァイトに要望を告げる。
「ここは、マスコミには公表の上、報道自粛と協力を呼びかけるのが上策ではないかしら」
 ツァイトは考える素振りをする。
「もしかして、マスコミを悪戯に世論を騒がせている煩わしい存在だと思ってる? 記者クラブみたいなのもこの世界にはあるんでしょ? ゴシップ記者と違ってそういう人達は頭の良い人達だって分かってる筈よ。誠意を持って話せば、掛かる国難にきっと力になってくれるわ」
 足を止め、考えるツァイト。
「それは分かっている。だが、その中にスパイの真似事でもしている奴が混ざっている可能性も否定できない」
「リスクは覚悟の上でやるべきじゃなくて? それと先程も言ったけど、責任は誰が取るの?」
 皆一斉にツァイトを見る。心配そうなナーガ。
「……俺が全責任を取る。それでなくとも、既に行動を起こしていそうな奴がいるがな」
 リーフェが何かやるらしい……と言いかけて、あえて黙っておく事にするツァイト。
「……では、解析後に会見を行う事にしよう。無論、シエラの要望に応えてな」



 情報分析室では、耳を側立てて聞いていたちとせ。
「本当に音声は雑音が入り混じっていて、大統領と犯行声明を行っている人の声以外は入っていなさそうですね」
 特定されないように、わざと粗悪な録音装置を使用しているのだろうか。そんな疑問が頭によぎる。
 大統領とは違う、別の男の声だというのは何となく分かるが……少し野太いというか、力のこもっている声と言うか。
 何度聴きなおしても同じだった。ちとせがため息をつくと同時に、ツァイト達が入ってきた。
「残念そうな表情を見ると、あまり芳しくないな」
 とはいえ、犯人は男性だという事までは特定できたようだ。
 推定年齢30〜40代。20代でもおかしくない感じで、少し威圧感が漂っていそうな声質という予測を打ち出すちとせ。
「大統領は目隠しされていませんね。でも、まっすぐ前を向いているところを見ると、そこに犯人がいるのは間違いありません」
「しかしよ、目を細めてはいるみてえだけどな」
 グラント・ウィンクラックが指摘する。まるで暗いところで見ているかのようなワイトの表情。或いは、目の前が暗い場所である可能性も。
 大統領は何処で消息を絶ったか、ちとせが問う。
「その日はもう一つの自宅……私邸へ行く日だったから、そことこの官邸の間という事になる。消息地点を探すには難しいところだな」
 目を細めて見続けるちとせに、ツァイトが「視力が悪くなるぞ」と言おうとした矢先、
「何か……別の人が半透明で映っているような気がするのですが」
 小さい手で大まかな輪郭をなぞってみるちとせ。薄っすらとではあるが、確かに人の形が見える。
 シエラが指す箇所を見ると、薄っすらとではあるが、確かに明らかに別のものが映りこんでいるのが見える。どうやらマジックミラーらしきものに映りこんでいる事が分かった。大統領の足の部分をよく見ると、人物の一部が見えるらしい。しかも、少なくとも3人ぐらい確認できる。
 そのうち一人は何かゴツイ気がする事を、グラントが言う。声の主もこいつのような気がする。
 ただし顔までは分からずじまいであり、あとの二人がどういうのかも不明のままだ。新たなビデオメールが来れば、より詳しい事がわかるかもしれないのだが。
 会見の事を忘れてないか、念を押すように告げるシエラ。無論、ツァイトは忘れていない。
「時間はかかるが、ある程度の資料と準備はしたい。そうだな……明日の午前4時前後に」
 何故明日、しかも夜明け前なのか……首を傾げるナーガ。
「新聞配達の時間に合わせたい」と言うツァイトの言葉が。いまいち良く分からなかったが、何かあるという事だけは何となく分かった。



 ラウリウムとエストは、姫柳未来とシェリル・フォガティと共に情報収集を行っている。
 未来は大統領官邸に行き、彼女の持つ超能力の一つ、リーディングで犯行当時の事を少し読み取ってみたという。
 それから得た情報では、犯行当時、ワイトは夜11時ごろまで仕事をしていた事、彼が一人で車に乗り込んで私邸へ向かっていった事、そして、その後を追う車があったのだが、それはSPであった事がわかった。
 どうやら、SPを断っていただろう事が伺える。何故ならば、数十分後に戻ってきたSPはため息をつき、頭を抱えていたからだ。
 残念ながら、犯行時の現場や手口までは掴める事はできなかったが。
「乗ってた車が何処にあるかが問題なんだよね。途中で乗り捨てられていれば、犯行がある程度分かるんだけどね」
 シェリルが心強い相棒である闇の精霊ザイダークに、ビデオメールから情報を読み取れるかどうかを頼んでいる。
「映像から読み取れるかどうかが心配ね。大統領府のほうも同じように調査が進められているけれど……」
 一応複製の上転送してもらったものを見たが、ザイダークの表情は芳しくないようだ。
「ビデオメールでは、はっきりいって負や感情を読み取るのは難しい。実物の人物を読み取るわけではないからな。あるのは電波……いや、別の力か?」
「もしかしてマグナエネルギーの事かしら。この惑星アスールを含めたソラリス太陽系では、それの他に恒星ソラリスからもたらされる太陽エネルギーとかあるから。それを感じ取ったんじゃないかな」
 残念がるシェリル。ラウリウムが大統領官邸に連絡を取ると、向こうからの情報――犯行声明を出した男性の予想する特徴と二人の共犯者がいるらしい事を伝えられる。
「体を鍛えていそうな人が捜す際のポイントね。でもいっぱいいると思うし……探すの大変よ」
 ため息をつくシェリル。
「それと車。ナンバーって分かる?」
 未来から問われ、ラウリウムが車体とナンバーのデータを表示させて見せる。
 黒いスポーツカーっぽい車で、ナンバーは『V-00001-03884』が表示される。
 はっきりいって憶えづらい。未来の表情は苦笑いしている。
「L・Iインダストリー製の車よ。5年前、大統領の為に特注したもので、実はカメレオン・エフェクトが内蔵されているの」
「カメレオン……って、外見の色が変化するっていう事?」
 頷くラウリウム。
 製品名は『アノール』。トカゲの一種というか、カメレオンの仲間から名付けられている。量産はされておらず、全宇宙中では3台しかない。
 アノールというトカゲは、温度と光量とによって皮膚の色を変える事ができるという。それをヒントに、この車は生産されている。
 その一つが大統領のだとして、残り二つはレイアイル邸にある事を、エストが答える。
 最初に作られた『プロト・アノール』は碧緑で、表面上はナガヒサ・レイアイル所有だが、本来はナーガの所有物である。もう一つはワイト所有のと共に作られた『テスト・アノール』で、深みのある赤をしている。これは、ツァイトに送られたものなのだが、赤のほうは色の問題なのだろうか、理由は不明だが彼本人は殆ど乗っていないという。
「じゃあ、性能は同じ?」
「微妙に違うみたいよ。何があるかは家族でも知り合いでも企業秘密だって教えてくれないから。技術が盗まれでもしたら大変だって言ってたわね」
 だが、ワイト行方不明の今、そうも言ってられないだろう。ラウリウムは考える素振りをする。
「車のほうと犯人の特徴を持ってる人の調査、二つに分けて捜索したほうがいいのかもしれないわね……」
 因みに、暫くして司法公安局からの連絡によって車は発見された。私邸より遥かに遠い、ワイトにとっては立ち寄った事のない極東区域の空き地でポツンと一台だけ取り残されたように。
 幸いにも、荒らされた形跡はなく、機能は働いている様にも見えるのだが……ワイト発見には至らなかった。



 天空遺跡(ヴァーヌスヴェレ・ルイン)、胎児育成施設では、シャル・ヴァルナードが今日もここで調査を行っている。
 ナガヒサはシャルに頼まれたもの持ってきた。
 それは、ツァイトから聞いた情報を基にした図。プリントアウトしたものだ。だが、彼本人も知らない隠された空間も多くあるといい、それはティーマや関係者にしか知らない所だろうと告げられている。
 本当は天空遺跡の見取り図か、それに近いようなものを手にしたかったシャル。
 あまりにも広い浮遊大陸の成れの果ての中身、どのような配置がなされているのだろうか。
「新たに発見された場所は、ここに書いておくといいでしょう。でも、書き込めるスペースがどのくらい必要かは、その時になってみないとわかりませんね」
 この区域は地下6〜9階にある事が分かり、今まで調査していたのは9階である事も把握した。階数を表すような表示物が見当たらないのだから仕方がない。
 更に奥深い地下は何階まであるのだろうか……シャルはますます興味を抱く。
「地下格納施設も調査したほうがいいと、ツァイトから言われてはいるんですけどね……大統領の許可が正式に下りない限りは手が出せません」
 文字通り、武器とか戦闘機の類。場所は同じ地下だが、かなり下になる。つまり、底にあたるものとみてとれる。これから起こり得る事象を予測し、自衛できるものの参照になるものは調査すべきだと。
 大型だろうが小型だろうが、すぐにでも地上へ投下できるもの、或いは一般市民たる天空階級の住民に事態を悟られぬよう配慮した位置らしい事を、ナガヒサは告げる。
「これから起こり得る事象――って、戦争ですか? もしかして、ノヴス・キャエサルはそんな事も考えているとでもいうのですか?」
 不安そうなシャルに、ナガヒサは首を振る。
「それは分かりません。ただ、ティーマだったら、そう考えているのも有りではないのだろうかと。ツァイトはそう思っていますね」
「時間をかけている場合ではないかもしれない気がしてきましたよ……でも、未だ未知の部分が多いんですよね。八賢者や皇帝の事……特に後者に関しては」
 ため息をつくシャル。ティーマに関するものが必ずある筈だと信じ、すぐに調査再開したのだった。



 次の日、午前4時。
 ツァイトの予告どおり、大統領官邸で非公開会見を始めた。
 案の定、不満げに質問する記者たち。カメラは一応許可を出しても、録画は許可しない。動きや音声ではダイレクトに伝わるので、事件が公になるのを良しとしない。マクシミリアンは申し訳なさそうに、マグネシア特別顧問官の要望である事を告げる。
「ワイト・シュリーヴ大統領不在ではあるが、それと関係がある事件が発生した。一部の天空階級が騒ぎを起こしている事件が多発しているが……その関係する組織により拉致された。犯行声明も来ている」
 ざわつく記者達。誰がやったのかを問うと、
「まず、一部の天空階級の大型組織の名称を発表していなかったが……ノヴス・キャエサルと名乗っている。大地革命後に発足され、再びヴェレ王国を復興させようとするのが目的だ。ノヴス・キャエサルの名称の件に関しては、今後も控えて欲しい。混乱させたくないからな。情報通信局も同様に守ってもらう」
 国営である情報通信局にも知らされていない、『新しき皇帝』の意を持つ組織名。皇帝復活を連想させる理由もあるが、実際、ティーマは健在している事を知るのは数少ない。ティーマ本人も自身の存在を知らしめる意思があるかは現時点で不明だ。
 だが、ツァイトは実兄の意思や行動――存在も含めて――によって苦しめられた者が多くいる事を知っている。同じ身であるナーガも然り。
「その組織が大統領を拉致した――?」
 今一つ理解し難いように問う記者。
「そのグループの一つらしく、犯人は自ら『SDS』と名乗っている。素性は現在調査中だ」
「あれ? SDSって言葉は確か……新聞の広告欄に載ってなかったか?」
 別の記者が口走る。各新聞社が各々自社の新聞を広げ、広告欄の内容を探した結果、殆ど掲載されている。
「誰かが情報を掴んで、先に広告として掲載させたとしか考えられんぞ」
 記事の内容は、「To SDS 当方交渉の準備有、連絡求む」というものだった。
「新聞配達の時間に合わせたいと言ったのは、そういう事だったのね……」
 眉をしかめる様に考え込むシエラ。だが納得はしていないようだ。
「誰だ? こういうのを載せた奴」
 グラントも見当がつかない表情。
「犯人側への連絡方法が取れないから、このような方法を取ったまでだ。私が許可をしたから、正式なものと思って構わない」
 ツァイトはちらと奥にいるリーフェを見る。目が合った途端に無理やり笑みを作るが、行動がばれたような気がして少し引きつっているようにも見えなくはない。
 実は、リーフェが短い文章を送った先がヴェレスティア国内の有力新聞社数社であり、内容は広告欄の文そのままだったのだ。
 会見は短めに済ませ、ツァイトが奥へ戻ると、リーフェに声をかける。
「例え出したとて、相手が出すかどうかは怪しい。何らかの理由で読んでいない可能性もあるからな」
「読んでもらえる事を期待するわ」
 次の犯行声明が来れば、その内容によっては読んだかどうかわかる筈。
 しかし、この日はビデオメールは来なかった。



「ねえ、調査どころじゃないと思うんだけど」
 マイは頬杖をつきながら、エンジュに話しかける。
「確かにそうだけど……でも、あたし達が出来るのは次期候補者の調査――大統領の命令なんだから、仕方がないわよ」
「秘書官って、会議の準備したりとか、スケジュール管理とかするわけじゃない。調査をしつつ、私達も手伝っちゃわない?」
「マイの言い分も分かるんだけど……お邪魔にならない?」
 秘書官が悩んでいるところに声をかけてきたのは、政府高官のタバル・ポンピドーだ。
「大統領不在の今だ、海外の政府には健康上の理由で休暇中と伝えてはいるが……事実が伝わるのは時間の問題だな」
「さすが総合情報局の初代長官。一高官のままでは惜しいわね」
 タバルはツァイトに用があるみたいらしく、二人に手を上げて御礼を示して去っていく。
「……ポンピドーも次期候補者に入れる? 大統領よりも上だし」
 とりあえずマイはタバルの名を記入する。
「そういえばマグネシア顧問官も年上よね……幾つだっけ?」
 エンジュの問いに、マイはこんな事を言ってのける。
「外見からして40代じゃないの? あーでもそれだと大地革命の頃が10代になっちゃうか……やっぱり50〜60代じゃないかな。もしかしたら今流行のアンチエイジングなんてしてるかもよ」
 手が止まり呆れるエンジュ。
「……見た目は気にしてなさそうな気がするけど」
「いいじゃない。やっぱり次期候補にピッタリなのは、やっぱり顧問官しかいないわよ」
 何かツァイトに対して執着を持っているような気がする。声は低いし顔は怖いが、中身は別だ。マイはああいうタイプが好みなのかと、エンジュは更にそう思いながら呆れた。



「何か用があってきたのだろう?」
 問うツァイト。
「大統領の車が発見されたのは良いですが、手がかりになるようなのが残ってると良いのですがね」
「それなら大丈夫でしょう。あのアノールには防犯カメラとか設置している筈ですから」
 ナーガの発言に、意外そうにタバルが目を丸くする。
「……お前さんがL・Iの、しかも市場に出回っていない車に詳しいとは思わなんだ」
「え……あ、今ナガヒサさんの家にお世話になってますし、車も見させてもらってるので……」
 慌てて誤魔化すナーガ。L・Iインダストリーの元社長がこんな若い姿になっているなんて、自分の口からはとても言えないし、相手にとって知らないほうが良い部分もある。
「なるほどね……それで、殿下。民放は元より情報通信局にも規制をかけるとは、余程の事がない限り、いつ反発するところが出るかもしれませんよ」
「殿下はやめろと言っているだろう……とにかく、お前にも頼みたい。総合情報局及び司法公安局に情報漏えいの監視を命じて欲しい。できるだろう?」
「国内外問わずか?」
「そういう事だが……できればヴェレスティア内で治まる事を望むよ」
 これはヴェレスティアの問題。もし国外にワイトが拉致されているのならば、ある意味国際問題になりそうな気がしてくる。
 ツァイトはそれが気がかりでもあった。そして、もう一つ。
(ナーガの問題もある……ノヴス・キャエサルはこの一件、何処まで把握しているのだ?)

【アクション案内】

o1.ラウリウムやエストと共に更に情報収集
o2.犯人の一人であるごつい体格の人物を探す
o3.大統領官邸で犯行声明メール等の解析
o4.天空遺跡で調査(場所を明記。王宮の場合は階数も)
o5.その他

【マスターより】

 2ヶ月ぶりで最初が肝心なのに、かなり遅くなってしまいましてすみません。
 元々体調が芳しくなく、頭痛に加えて風邪を引いてしまいました。でも、その分時間をかけて執筆しました。やっぱり長くて読み難かったり理解不能な点も出てしまったらすみません。
 因みに、次期大統領候補者の調査のアクションはその他を選択して下さい(この選択欄は以降アクションの選択欄に載せませんので)。
 次回ももしかしたら遅くなりそうな気がしますが、宜しくです。