「花咲く季節」

ゲームマスター:高村志生子


  【シナリオ参加募集案内】(第1回/全4回)

 ドンガラガッシャーン。派手な音とともに人が橋から落ちてきた。橋の下でテ ントつきの露店を開いていた主人は、テントがたわみ落ちてきた人が並べてあっ た品の上に転がるのにぎょっとしていた。
「あいたた……」
「ちょっと大丈夫かい。ってファリッド坊ちゃんじゃないか。なんでまた落っこ ちてきたんだい」
「やあ、おじさん。驚かせてごめんよ。ちょっと不幸な事故で」
 橋の上からはがらがらと馬車が通り過ぎる音が聞こえてくる。接触でもしたの だろうか。それにしても橋桁を乗り越えて落ちてくるなどよほどでなくてはあり えまい。しかしファリッドは荷物の中から体を起こすと、軽く体をはたき、何事 もなかったかのようにめちゃくちゃになった店を直し始めた。
「ああ、そんなことはいいけどね。怪我はないのかい」
「大丈夫、大丈夫。幸いテントが受け止めてくれたからね。助かったよ。でも店 をめちゃくちゃにしてしまったな。すまない」
「馬車にでもぶつかりそうになったのかい」
「そんなところ。ま、不運な事故って奴だよ」
「不運な事故ですか」
 そこへ冷ややかな声がかけられた。主人と一緒に店の片づけをしていたファリ ッドは、柔らかそうな金の髪を軽く揺らして首をすくめた。気まずそうな視線を 向けた先では、ファリッドよりやや背の高い銀髪の青年がじっとこちらを見つめ ていた。ファリッドはしばらく言葉を探していたが、やがて平静を装った声であ っさり告げた。
「そう、不運な事故。それだけさ」
「この間も同じようなことを言って、泥だらけで帰ってきましたよね。さらにそ の前にも同じようなことがありましたね」
 アルティは言っても無駄と知りつつ、怒りをこらえた声で問いつめた。ファリ ッドは苦笑いを浮かべた。店の主人が驚いたようにファリッドを見上げた。
「本当ですかい、ファリッド坊ちゃん。今度、館で領主様の誕生パーティーがあ るんでしょう。祭りも近いし、こんな大事なときに大けがなんかしたら大変なこ っちゃ」
「やだなあ。アルティが大げさなだけだよ。よし、これで全部かな。迷惑かけて 悪かったね」 「ああ、ありがとう。パーティには品物を納めさせてもらうつもりで楽しみにし ているんだよ。無茶はしないようにしてくださいよ」
「わかってるよ。ありがとう。じゃあ」
 店を後にし、すかさず町はずれに向かってファリッドが歩いていく。その後を アルティが慌てて追いかけた。
「なにがあったんですか」
「ちょっと馬車にひかれそうになって、よけたら橋から落ちただけだよ」
「それって……」
 言いかけたアルティの言葉を、ファリッドが視線でとどめた。
 ここサナテルは、四方を山に囲まれた風光明媚な土地柄で、観光客が多い。そ れ目当ての店や芸人たちで町はにぎわっていた。特に今は秋の豊穣祭を控え、興 奮がいっそうの喧噪を醸し出していた。領主カシードの長男であるファリッドは 、身分にこだわることのない人柄で町人に人気があった。今も人並みをひょいひ ょいかき分けていく姿は町に溶けこんでいて、ともすれば見失いそうになる。乳 兄弟で世話役のアルティは、そうはすまいと必死に付いて行っていた。
「冗談抜きで。最近あなたの言うところの「不運な事故」が多くありませんか」
 ようやくファリッドの腕をつかんだアルティが、眉間にしわをよせつつ問う。 ファリッドは軽く目をそらしていた。
「だから気のせいだって。祭りのせいで人出が多くなってるだろ。きっとそのせ いさ」
「……祭りと言えば、もうじきダンスパーティーですね。参加する気ですか」
「もちろん。チルルやミルルも楽しみにしてるだろう。せっかくの豊穣祭、楽し まなくてどうするって言うんだ」
「楽しむだけが目的ではないでしょう。わかってらっしゃるくせに。それにダン スパーティーの後には、旦那様の誕生祝いのパーティーが控えているんです。も しものことがあったら」
「もしもってなんだい。言ったろ、「不運な事故」なんだよ、これらは」
「えーえーそうでしょう。石が落ちてくるのも湖にはまりかけたのも馬車にひか れそうになったのも、全部「不運な事故」なんですよね」
 あきらめたようにアルティが投げやりな声を出す。ファリッドはあいまいな笑 みを浮かべていた。
 その様子を物陰からうかがっている姿があった。背丈が高く、筋肉質の姿はた くましい。茶髪をオールバックになでつけた姿は、体格の割にはあまり目立たず ひっそりとたたずんでいた。その男はファリッドたちの会話を耳にした後、人混 みの中に消えていった。
 なおも町で遊ぼうとしていたファリッドをアルティが引きずって帰ると、ぼろ ぼろの姿を目にした双子の妹・チルルとミルルが驚きの声を上げた。
「あらあら、お兄様ったら」
「今度は何をしでかしたの!?」
「ミルル、しでかしたはないだろう。ちょっと橋から落っこちただけだよ」
「ちょっとぉ?」
 ショートヘアを逆立てそうな怒気のこもった声を立てたミルルを、姉のチルル がなだめた。
「まあ、怪我はしていないようだし。そんなに怒らないで」
 おっとりと首をかしげるチルルに、ミルルがかみついた。
「最近こんなのばっかりじゃない。って、兄様!」
「説教なら聞くつもりはないよ」
 さっさと自室に戻るファリッドを見送り、アルティがため息をつく。ミルルは やり場のない怒りをアルティに向けた。
「本当のところはどうなの!」
「「不運な事故」だそうです」
 アルティはぼそりと答えた。それ以上はなにも答えようとせずにアルティも去 ってしまう。取り残されたミルルは、隣でため息をついたチルルを見やった。
「素直に信じていいと思う?」
「最近、お兄様になにかと災難が降りかかってるのはわかっているわ。けれどお 兄様はああ見えても頑固ですもの。素直に私たちに愚痴をこぼしたりなさらない でしょう」
「そりゃそうだけど」
「とりあえずはダンスパーティーが無事に終わることを祈るだけだわ」
 おっとりと言いながらも心配はしているのだろう。背にさらりと髪を流したチ ルルの表情もどこかすぐれない。そこへ少しきつめの女性の声がかかった。
「なんの騒ぎなの」
「お義母様。お兄様が今度は橋から落ちたんですって」
「まあ。で、怪我は?大丈夫だったの」
 3兄妹の義理の母親であるマーヤは、柳眉をわずかにひそめて聞いてきた。チ ルルがにっこり笑った。
「怪我はないようですわ、お義母様」
「……そう。ならいいけれど。あの子も落ち着かないわね。お父様が心配なさる のも無理ないわ」
「お父様がなんですって?」
 ミルルの問いに、マーヤがはっとした顔になる。とりつくろったように笑って 、チルルとミルルを促した。
「お父様にもいろいろお考えがあるということよ。それよりダンスパーティーの 衣装が上がってきているわ。あわせてご覧なさいな」
「んー、ちょっと面倒かなあ」
 堅苦しい正装が苦手なミルルが顔をしかめる。チルルがその背中を押した。
「もう17なんだし、たまには女の子らしい格好もいいでしょう。さあ、行きま しょう」
「あん、わかったわよ」
 すねたようなミルルに、チルルが笑い声を上げた。
 末っ子でマーヤの唯一の息子であるローダーは、踊り場でこっそり階下の騒ぎ を聞いていた。居間の方に母娘が去ると、ようやく立ち上がり、きびすを返した 。とたんにメイドのサクヤとぶつかりそうになった。
「きゃ。ローダーぼっちゃま?そんなところでなにをなさってらしたんですか」
「んー、なんでもないよ。ちょっと兄様のことでまたなにかあったみたいだから さ」
 母親譲りの黒髪に囲まれた顔は、13歳という歳に似合わずどことなく大人び た表情を見せている。しかしそういう表情を知っているのは専属メイドであるサ クヤだけだった。20歳を少し越えたくらいのサクヤだったが、それゆえローダ ーのことは人目につかないところではあまり子ども扱いしなかった。ローダーの 表情にサクヤもつられて言葉を低くした。
「ファリッド様になにか」
「なにかがあるのは確かだね。今のところ大事には至ってないようだけど」
 その言葉にふとサクヤが目をしばたかせた。それには気づかずにローダーが言 葉を続けた。
「父上は早く兄様に跡を継がせたいようだけど……」
「ああ、今度の誕生パーティーも、それは口実で、本当はお見合いさせたいんで すよね」
「うん?まあ、兄様のことだからそれくらいわかっていると思うけれどね。ダン スパーティーに参加するのだって、ようやく積極的に相手を見つける気になった からだろうし」
「そうなんですか」
「確かに町にはよく出かけるけどさ。そういう場にはあまり乗り気じゃなかった じゃないか。今年はちゃんと長男の立場を重んじて出るみたいだよ」
「ローダー様も出られるのでしょう?」
「僕は気楽でいいんだよ。誰の思惑がどうであれ、僕は僕の思うように生きたい からね」
 思わせぶりな言葉にサクヤがきょとんとする。ローダーは含み笑いをサクヤに 見せた。
「兄様がことを大げさにしたくない気持ちもわかるんだけどね」
「ローダー様?」
 そこへマーヤが戻ってきた。立ち話をしているローダーを見ると、ほほえみを 浮かべた。
「ローダー、おまえもパーティーの衣装を選びなさい」
「はあい」
 がらっと雰囲気を変えて、ローダーが無邪気な声を出す。階段を下りていくロ ーダーを見送っていたサクヤと、マーヤの視線が微妙に絡み合った。

【アクション案内】

S1.ダンスパーティーに参加する。
S2.各NPCに関わる(名前を明記のこと)。
S3.大道芸を披露する。
S4.商売をする(飲食業およびサナテルで仕入可能な品目のみ扱い可)。
S5.ファリッドの身辺を探る。
S6.その他

【マスターより】

 こんにちは、高村です。今回の目標はずばり「恋人募集!」です(笑)
 お祭り がありますので、NPCゲットするも良し、PCで気になる相手を見つけるも良 しです。見事お相手ゲットの方にはちょっとしたプレゼントもあるかも。
 もちろんただ騒ぐだけでなく裏事情も用意してますので、謎解きもできると思 います。そして友情をはぐくんで下さい。
 ともあれ回数は短いですがよろしくおつきあい下さいね。