『赤ちゃんは何処から来るの!?』

第二回(最終回)

ゲームマスター:田中ざくれろ

★★★

 子供達は明日になったら答を聞きに来ると言って、去った。
 その前日、つまり最初の答を聞きに来た当日の夜である。
 王都『パルテノン』冒険者ギルド二階。ジュディ・バーガー(PC0032)は子供達へどう回答するかに悩んだ末に、現実逃避すべく暴飲暴食にふけっていた。
「がっでむ……もうどうにでもなぁ〜れ(キラリン♪)」
 暴飲暴食と自暴自棄の境界は非常に曖昧である、と言わんが為ではないだろうが、まるで魔女っ娘のふりをするしょぼーんな中年妖精の様に変身ポーズを決めた感じでジュディはジョッキのビールを浴びるように飲みまくっていた。……何か説明に奇妙なフレーズが紛れ込んでいる気がしないでもないが、彼女のやけくそさが十分の一でも伝わってくれれば満足です。
「チルドレン・ジーズ・デイズ・アー・プレコシャス、最近の子供はませてるネ! 可愛げ要素が足りない気がするケド!」
 酒のつまみのスモークチーズ黒胡椒付きを一塊、口の中に放り込んで咀嚼。
 追って、ビールを喉に流し込む。
「……でも、まあ相手は子供ダシ……大らかな気持ちデ、大目に見なきゃいけナイネ」
 酔客の眼がしばし静かに真面目な光を宿した。
 子供達が提示した三つの質問にどう答えるべきなのか、ちょっと再び向き合ってみる。
 ジュディの酔った脳内に『ジュディのなぜなに質問コーナー!?』のテーマ音楽が流れ始める。

※質問1:海の水は何故しょっぱいか?
「フム、良い質問ですネ」
 脳内でジュディのパペット人形が教鞭を手に、大きな木に掲げられた質問の看板を読み上げた。
「それは沢山の塩分が溶け込んでいるカラデス。
 ところで食塩には、大きく二つの生産法がありマス。
 それは岩塩採掘と、海水からの抽出。
 塩田を作ったり、煮詰めたり、効率的に抽出する手間は大変だけど、海水なら無尽蔵デス。
 海水より塩分が濃い湖も存在するらしいネ」
 最後は蛇足っぽかったな、と思いつつ、次の質問へ。

※質問2:なぜ人を殺してはいけないのか?
「OH、ナイスパンチが来たネ」
 パペット・ジュディは不敵な笑みを浮かべた。人形なのに。
「基本的に、殺人は悪いコトだから駄目!
 もちろん例外的な扱いもあるヨ。
 たとえば戦争中とか、正当防衛ならセーフデス」
 ここまで答えて、子供達に「何で戦争だと人を殺してもいいの?」と訊かれたらどうしようかとちょっと悩む。
 酔った頭で悩んでも答が出なかったので、次の質問へ。

※質問3:赤ちゃんはどうやって作るのか?
「はい、これは即アウト!」
 巨大なバッテン棒を突きつける。
「まだ子供は知らなくてもKO、じゃないOKネ。
 理由は早すぎるカラ。
 もちろん文句ナッシング!
 聞く耳は持たないヨ!」
 そんな事を言っていると、まだ彼女が幼少の頃、似たような質問で養父母を困らせてしまった記憶が蘇ってきた。
(そういえば、教会の神父様にも同じ事を……あうち、やっちまッタネ)
 ジュディは投げつけた手榴弾が、自分の方へ跳ね返ってきた感覚に捉われた。
 なにせジュディには、いわゆる出生の秘密があるはずだから。……さぞや心労を強いてしまった事だろう。
(ああ! 本当にゴメンなさい、グランパとグランマ!
 心から愛しテル――)

 脳内パペット劇場が『制作・著作:いいテレ』のテロップを流して終わった時、ジュディはジョッキの表面に濡れた瞳を映していた。
「やっぱり三番目の質問は答えられそうもないワ。……これは無理ネ。なんだか凄いストレスを感じちゃう……」
 そして彼女の真面目な面を映していたはずの鏡像がグニャリと歪む。
 その眼は見事に座っていた。
「こんな時は酒に限ル……さあ飲みまくるゾ! イピカイエー!」
 再び始まった強烈な酒宴に、周囲のテーブルが巻き込まれを警戒して酒杯を持ったまま距離を取る。
 そのおかげか、巻き込まれたのは一人ですんだ。
「スティーブったら久しぶりじゃナイ! 今日も白衣を着てるんだネ♪」
 その場に居合わせたのが不幸だった、狂科研の劇山冠(ジュウ・シャンガン)が白衣の首根っこを掴まれて、強制的にジュディのテーブルにマージェス、合流。
 持っていた小ジョッキにあふれるほど酒を注がれた劇が、憐れみを誘う眼でジュディを見上げるも――。
「え、なんだっテ? 大丈夫、全然酔ってないシ……ひっく♪ ところでサ、いつから三つ子になったんだっケ? WAHAHAHAHAHAHAッ!!」
 大怪獣ゴ▽ラは放射能火炎の代わりに酒臭い息を吐き、酒宴はこの夜の遅くまで永く続いたのだった。
 ……酔い潰れたジュディは、翌日の子供達への回答を欠席する羽目となったのである。

★★★

 次の日。午前中。
 朝方にさぁーと降った雨のおかげで随分過ごしやすくなった日中。
 マニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は図書館で調べ物をしている。
 『オトギイズム』世界に名高き王立パルテノン大図書館は膨大な蔵書群を抱える、まさに知の殿堂である。
 近年では『羅李朋学園』から協力を得たことにより、更なる文庫の充実を遂げたと言われる。
 そのとある閲覧室の片隅では、なにやら勉学には励む人魚姫の姿が見受けられた。
 革表紙の大きな分厚い本を真ん中から割って、書卓の天板に広げているマニフィカ。
 沈黙と静寂が貫かれている閲覧室の中。火が出る様な熱意で書を読んでいる彼女に近づいてきたのは、国王の助言役として王城で活躍している、単眼鏡をはめた知性化ペンギン『シルバー・筆先』だった。
「マニフィカ、何をしているのかペン」
「市井の子供達との勉強会で、子供達への回答を準備しているのでございますわ」
「ほお。それはそれは……ペン」
 尊大な態度での質問にマニフィカは答え、筆先がそれに対して小さな肩を器用にすくめてみせる。
 好奇心旺盛な彼等と誠実に向き合うことはノブレス・オブリージュ。そう思うからこそ彼女は子供達の質問を正面から受け止めるのだ。
「筆先様。あなたでしたら『何故、人を殺してはいけないのか?』という問いにどう答えますの」
「何故、人を殺してはいけないか……?」
 知性化ペンギンは少し天井を仰いだ。
「……人を殺すのが駄目と言われる理由なんて、法律とか倫理とか社会秩序とか、ありきたりな話がほとんどペンね。でもそんなのは結局『自分が困るから』という合理的な判断にすぎないペン。現実に殺せば捕まるし、社会的に終わるペン。自分の快適な生活が壊れるペン。だから、しないペン。つまり人を殺してはいけないのは、崇高な理念じゃなくて単に自分が損するからという話だペン」
 スラスラと滑らかに言葉を紡いだペンギンに感心しながらも、マニフィカは子供には聞かせられない話だと嘆息する。
 傍らから去っていく筆先の黒い背を眺めながら、『故事ことわざ辞典』を紐解くと『教うるは学ぶの半ば』の一文が目に入る。
 更に頁をめくれば『井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る』という記述。
「まだまだ学問は奥深いですわ」
 午後までまだ時間はある。
 子供達が冒険者ギルドを再訪する午後まで、褐色の人魚姫は勉強を粘り続ける事にした。

★★★

 午後になって日和が熱さを取り戻した頃、子供達が冒険者ギルド玄関ホールへやってきた。
 今度はマニフィカとアンナ・ラクシミリア(PC0046)は待ち受ける形となった。
「作麼生(そもさん)」とガキ大将が問う。
「説破(せっぱ)」と彼女達が受ける。
 ガキ大将が尊大な口を開いた。
「海の水は何でしょっぱいんだ?」
 マニフィカはなるべく簡潔に説明しようと努めるが、それゆえに専門用語の多用は致し方ない。アンナ嬢のフォローを願いたいところだ。
「塩分が溶け込んでいるからです」とまずマニフィカ。「遥かなる太古の昔、いわゆる天地創造の際に、火山活動で大量の塩素ガスが放出されました。その塩素ガスが塩酸の雨水として降り、溶けた岩石からミネラルが海に流れ込んで塩化ナトリウム、つまり塩分が海水に蓄積された……という仮説が最有力ですわ」
 厳しい女教師ばりにビシリと解答を突きつけると、その化学用語の多さに子供達は怯んだ。
 答を確かめようもない、または証拠も提出できない解答だが、その専門性の前に子供達は反論が出来ない。
「みなさんは地面に降った雨が集まって川になる事や、川が海まで流れている事は知っていますよね」
 怯んでいる子供達の緊張をほぐすように、アンナは柔和な笑みを子供達の眼線に合わせた。
「そうやって出来たのが海なので、土の中にあった成分が集まってしょっぱいのですよ。だから川にゴミとか捨てちゃダメですよ。海が汚れちゃいますから」
 なるほどそうかのレベルまで子供達の理解に合わせてきたアンナ。
 専門用語のマニフィカと解りやすく解説のアンナでは、明らかに後者の方が子供達の受けがいいようだ。

★★★

 同時刻。子供達の一派は中央公園のレッサーキマイラをも急襲していた。
 こちらでは、ビリー・クェンデス(PC0096)とリュリュミア(PC0015)も受ける形となる。
 事前に芸人らしく面白さ優先で回答すべしと相棒にアドバイスしていたビリー。自分も明後日の方向に脳味噌をフル回転させるつもりでいる。
 昨日はリュリュミアのロールキャベツとタコ焼きパーティーでごまかせたが、子供達の質問に答えられないようでは芸人失格である。
 むろんビリー当人も含め、大いに反省したいところだ。
 幸いながらリベンジする機会は与えられた。一見すれば容易そうな内容に思えたが、なかなか奥深い質問だ。
 ――さて、どうボケるべきか?
「質問その一、海の水は何故しょっぱいか?」
「だって海って、陸にフラれたんでげすよ」とレッサーキマイラの獅子頭。「ずっと寄せては返す片思い。そりゃ涙もしょっぱくなるってもんさ!」
「あるいは」と山羊頭。「……『塩対応のカニ』がいっぱいいるから、そのしょっぱさが広がっちゃったとか?」
「………………………………………………」
 また例の如く蛇頭は何も喋らないが、子供達は売れない芸人のつまらない答に不満そう。
「それは涙の味だからや」いたたまれなさも手伝って、ビリーは自分の回答を子供達に話し始めた。「世界中の人人が悲しみや喜び等で流した涙は、見えない川になって海に注ぎ込まれる。だから海水はしょっぱくなったんや」言って、しまった! 獅子頭の答となんか似とる、と内心焦る。「……海辺に立てば解るさ。沈む夕日に向かってバカヤローと叫びたくなるはずや(注:効果には個人差があります)」
 どや!と子供達を見やるビリーだが、子供達はつまらなそうに顔を曇らせている。
 その時、リュリュミアが自分の気持ちを口にした。
「海の水がしょっぱいとリュリュミアはしおれちゃうから困るんですよねぇ」彼女は質問に答えるというよりは、自分の感想を語る。「そおいえば、いしうすが海の底にあって海の水をしょっぱくしてるって話をきいたことがあるんですけどぉ。びりぃのこづちでどんどん砂糖を出して海の水を甘くはできませんかぁ」
 無茶を言うリュリュミアがウケて、子供達がどっと笑顔になる。
 勿論、海の水量を考えればそんな事は出来ないだろうが、子供達はそんな真面目な答えは求めていない。
「……メチャメチャ甘じょっぱい海になりそうやのぉ」
 レッサーキマイラのボヤキが今までで最高である子供達の笑い声を呼んだ。

★★★

「なぜ人を殺してはいけないのか?」
 ガキ大将はマニフィカとアンナに指を突きつけた。
 だがマニフィカはこれに対する答を既に調べ上げている。
「容認出来ない三つの理由があります」彼女は指を突き返した。「まず倫理的に、生命は尊重されるべきであり、他人の生命を奪うことは許されないという普遍的な価値観から。次に法的な観点では、殺人行為は重罪に規定されており、社会秩序を維持する為に厳しく罰せられるから。社会的には、殺人被害者だけですまされず、その家族や関係者を含めて社会全体に悪影響を残すから、でございますわ」
 女判事の調子でビシッと返したマニフィカに、ガキ大将以下子供達はたじたじになる。
 しかし今いち納得出来ない顔をしているのは、話や用語が難しすぎるからだろう。
 倫理的と法的と社会的との区別がついてない子もいるようだ。
「なぜ人を殺してはいけないかなんて悲しい事を聞かないでください」
 比べれば、アンナの声音は優しい説得だった。
「悪い人なら殺しても構わないと思いますか? あなたはイタズラをしたりウソをついてお父さんやお母さんに叱られた事はありませんか? もううちの子じゃないって言われていい子になるからって泣いて謝りませんでしたか?」彼女の言葉は幾人かの子供の内心を突いたようである。「……人は過ちや失敗もするけれど、反省してやり直す事も出来るんです。だから冗談でも殺すなんて言わないでくださいね」最後に笑みを付け加える。「ちょっと厳しい話をしましたが、大切な事なので」
 うーむ、とガキ大将は唸る。
 やはりマニフィカは基本的な構成を教え、アンナはフォローに回るというやり方はここでは鉄板的な強さを持っているようである。

★★★

「質問その二、なぜ人を殺してはいけないのか?」
 中央公園では二番目の質問が回答者に忍び寄る。
 レッサーキマイラ。
 ビリー。
 リュリュミア、
 子供達の容赦のない眼が射貫く。
「これはもう簡単じゃ」しかしレッサーキマイラの獅子頭がふんぞり返った。「殺すと人生ゲーム、一発退場だからじゃ!」
「人生ゲーム?」
「おうよ。人生はゲーム。一発博打じゃい」
「あるいは―― 」と山羊頭。「人を殺すと、P(ポイント)じゃなくてP(ポリス)がついてくるんよ! しかも実績も解除されない!」
 子供達が理解出来ないという顔で、首を捻った。ゲーム用語だとしても彼らが普段から親しんでいるものではない。そんな調子で。
「あのね、牢屋ってWi−Fi弱いらしいよ?」
「人殺したら人生ゲームで“職業:死神”になっちゃうやん。転職むずいわ?!」
 子供達は意味不明ギャグをたたみかけてくるレッサーキマイラを次第に鬱陶しく思ってきたらしい。
 泥団子や小石、煉瓦のかけらが投げつけられ始める中、ビリーは助け舟を出した、
「人を殺しちゃいけないなんて理由は実はないんや」
 座敷童子は精一杯のニヒルを演出して、人造魔獣と子供達の間に立つ。
「実は殺しちゃいけない理由なんかない。でも、普通は殺したりしない。……どうして?」
 ここでビリーは功夫達人のポーズをとる。いかにもジークンドーを究めていそうな奴をだ。
「……罪の意識が強すぎるから。 ……理屈じゃない。考えるな、感じろ!」
 銀幕の功夫スターになったようなポーズを決め、気障っぽく鼻を擦った。
 ここで妹の仇をとったような悲哀あるキメを見せようかとも思った時、リュリュミアがちょこなんと口を挟んだ。
「人って殺しちゃいけないんでしたっけぇ」
 緑色淑女が今までの日常から格段に離れた台詞を、さも当然の自然体で話したのに皆は呆気にとられた。
「リュリュミアは別にいいんじゃないかなっておもうんですけどぉ。でも殺しちゃったら、もうその人とは遊んだりおしゃべりしたりできなくなっちゃいますねぇ。やっぱりやめといたほうがいいかもしれませんねぇ」
 人を殺すのに罪悪感を感じない者がここにいる。
 子供達の表情が冷えた。
 小道の石を蹴飛ばすのと同レベルで殺人を語る彼女の言葉には、さすがのビリーもゾッとなった。
 レッサーキマイラなんか、小学校の卒業生が作ったトーテムポールの様になっている、
 ただ一人、リュリュミアは自分の意見の怖さには気づかぬ中で「あらやだぁ。なんかいきなり涼しくなったわねぇ」冷えた気温に夕涼みに似たすごしやすさを覚えている。

★★★

「最後の質問だ。赤ちゃんはどうやって作るのか?」
 ガキ大将の眼は真剣だ。もしかしたらこいつ感づいているのではなかろうか。
 興味津津の子供達の前に立ちはだかったのがマニフィカだ、
「まず精子と卵細胞が授精します」
 何かのスイッチを切り替えたようにきっぱりと言い切る。
「――子宮内で細胞分裂が進み、新しい生命が形成される。以上です」
 難しく始まった話も、子供達に肩透かしをくらわせるようにあっさり終わる。あっさりすぎて心の持っていきようがない。
 可愛いブーイングが上がる中、氷の美姫は表情を変えない、
「もっと詳しく教えろよー」
「更なる情報アクセス要求は年齢制限に抵触します」
「詳しくー」
「禁則事項だから」
 処女峰のように直立不動で取りつく島のないマニフィカに、少年少女の登頂アタックはことごとく退けられる。
 そんな彼らの前にアンナは身を屈める。
「赤ちゃんの作り方でしたっけ」
 笑みを浮かべる、
「この中でお兄さんやお姉さん、弟や妹がいる人はいますか。きっとあなた達のご両親は仲がいいでしょう」
 子供達が互いに顔を見合わせる、
 手を引っ張り合う二人、その幾組かがアンナの顔を真面目に見つめる。
「ご両親が一緒にいる時間が長いんじゃないですか。赤ちゃんはそういう家庭に生まれてくるんですよ。だから弟や妹が欲しいと思ったらいい子にして、お父さんとお母さんがけんかしないようにしてくださいね。……私達との約束ですよ」
 特に意味は解らなくても温かな気持ちにさせてくれる。
 果たして子供達はその回答に満足したのか。よく解っていなくても納得はしてくれたようだ。
 そしてやっぱりアンナの答の方が受けがいいようだ。
 不満そうにしているガキ大将の額を軽く小突いて、冒険者ギルドの午後は過ぎていく。

★★★

「質問その三、赤ちゃんはどうやって作るのか?」
 ビリーはいよいよ来るべき時が来たかと戦慄した。
「えっとなぁ……あれや、お父さんとお母さんの共同作業ちゅうやっちゃ。めしべとおしべがチョメチョメ……あきまへん、こっから先は言うたらアカン!」
 福の神見習いは手で口を隠して、恥ずかしがりながらもんどりうつ。
「ボクかて外見は九歳児やろ。王国から出禁でも喰ろうたらどないすんねん。ほんま堪忍やでぇ〜」
「臆しましたか、兄ぃ。こーゆー時は大上段からガッシーンと構えとったらええんやないすか」
 それに比べて異様に頼もしく出たのがレッサーキマイラだった。
 サングラスをかけて当社比一三〇%増しの頼もしさで、まるで無敗の帝王の如く見える。
「教えてやろうじゃないか! 生命の神秘! 赤ちゃんがどうやって出来るか、その過程を!」

……
 時は宇宙世紀っぽい何か、場所は謎の地球っぽい星。そこに現れたのは……『オトナ♂とオトナ♀のふたり!!』
 二人が眼を合わせた瞬間――。
 \ピカーンッ!!/「君のDNA、俺のゲノムとシンクロしてる…ッ!?」
 そして、二人は『愛という名の高エネルギー融合炉』に突入ッ!!
 その結果――
 ☆『メカ胚芽型アンドロ幼体МK−1』☆が生成ッ!
 最初は細胞という名のナノスライムがモゾモゾと分裂開始。なんとそれが一〇の九乗回くらい増殖して……気づけば『赤ん坊』という名の無限エネルギー体(夜泣き仕様)が完成!!
 最終的に、
 親「こ……これは……!? 何か……凄く尊い……!」
 医師「おめでとうございます、健康なギャグ生命体です」
 ナレーション「こうして、また一つ、宇宙に笑いが生まれたのだった」
……

「……つまんなーい!」
「わけわかんねーよ」
「え〜」
 観客の子供達から挙がる不満そうな声に、意外な焦りを浮かべたのは徹夜で描きあげてきた大紙芝居を披露していたレッサーキマイラだった。
「意味が不明〜」
「絵が下手〜」
「デッサンの勉強してこい」
「ぐっ! え〜い、これならどうや〜!」
 子供全員から挙がる不満の声に、ベレー帽をかぶった人造魔獣は焦りながら新しい紙芝居を取り出す。

……
 ある日の事――山田くん(小学生)が親に聞いた。「ねえ、お父さんとお母さんって、どうやってぼくを作ったの?」
 そのとたん――
 ドーン!! 後ろのふすまが開いて、現れた謎のキャラ!!
 \わしは『生殖博士・Drセイ』じゃァァ!!!/(※見た目はヒゲもじゃの怪しい中年。常に汗だく)
 ドクター「よいか少年!! 命の誕生とは、まさにコズミックな化学反応ッ! 父のスパムメールと母のエッグが……こう、ズバーン!と……」(※解りやすく図解しようとして逆に混乱する説明図)
 母「ちょ、ちょっとドクター、それ以上はいけませんッ!」
 父「番組的にアウトでしょソレ!」
 その瞬間、天井から降りてくる謎のマシン『生命創造装置くん』!!(※説明不能なレバーやダイヤルがたくさんついてるぞ!)
 山田くん「えっ……ぼくってこのマシンから出てきたの!?」
 ドクター「いや〜まあ、概ねそんな感じじゃ(雑)」
 ナレーション「こうして山田くんは、生命の神秘を八%くらい理解したのだった――」つづくかもしれない
……

 レッサーキマイラの全身は、子供達に投げつけられた石や煉瓦片の山に埋もれていた。
 ビリーは一瞬でもこいつを頼もしく思えた自分を恥ずかしく思った。
「これならどうじゃ! コウノトリが配達アプリで間違えて届けた荷物が赤ちゃんだった説!」
「ママとパパが『愛してる』って唱えながら、ラブ注入ボタンを押すと、赤ちゃんガチャが回るんや!」
 獅子頭と山羊頭が必死に抗弁しても、自分の身にかぶる石片の量を増やすだけだった。
 それなりに大人連中に訊いて勉強していたらしいが、結局付け焼刃以上の物になってない。
 そんな彼らを眺めながらリュリュミアはぽやぽや〜と呟く。
「ほんとに赤ちゃんってどうやって作るんでしょうねぇ」
 純粋な瞳が子供達と同じ目線で疑問を口にする。
「そおいえばれっさぁきまいらはどくたぁに作られたんですよねぇ。どくたぁにお願いしたら赤ちゃんも作ってもらえますかねぇ」
 彼女の言葉を聞いた子供達の眼の色が変わる。
 生命の神秘。
 レッサーキマイラがまさにそれそのものなのだ。
「おーい。自分がどうやって誕生したかを説明してくれよー」
「そしたらお前のつまらないギャグはゆるしてやるよ」
 かぶっている瓦礫を手で片づけながら、子供達はレッサーキマイラを掘り出してやる。
 そう言われたってレッサーキマイラの方は困るだけだ。どうやって自分が誕生したかを詳しく知らないのは、子供達と一緒なのだ。
「ドクターとかいうのにお願いして、赤ちゃんを作ってもらえないかどうか、お願いしてもらえないかなあ」
「えーい。黙って聞いてりゃ言いたい放題言いやがってぇ!」紙芝居の束を引きちぎる。「そんな下らん動機でDrトゥーランドットが動くと思ってん……動きそうやなあ」
 一時、いきりたった魔獣はあっさりと意気消沈する。
 ビリーはこの売れない芸人に場を任せていられるのはこれまでだ、と見切りをつけ、大食パーティの準備を始めた。
 前回のタコ焼きパーティに引き続き、十八番の『打ち出の小槌F&D専用』を使い、大阪B級グルメの双璧『お好み焼き』を提供するのだ。
 いずれにせよ、やはり美味しいは正義なり。
 全員、子供達と喜びを分かち合うべし、と準備を始めたビリーの向こうで、リュリュミアは座敷童子とは別の食事パーティの準備を始めていた。
「あ、みなさんすいかを食べませんかぁ」
 緑の大玉を育てているリュリュミアは子供達を引き寄せる。
 ほどなくして場は無限お好み焼きと冷えたスイカによる子供達の地べたパーティが始まった。
 口の周りをソースと青のりだらけ、赤い果汁だらけにして子供達は腹がはち切れそうなほどの美味を味わう。
「すいかの種はちゃんと口からとばしてくださいねぇ。うっかり飲み込んだらおへそから芽が出てくるかもしれませんよぉ」
「けっこう怖いやんな、それ……」
 リュリュミアの言葉に真剣にビビりを見せたレッサーキマイラを、子供達がアハハと笑う。
 結局、子供達は自分達が望む回答を得られたのか?
 有耶無耶にしたまま、パーティの時間がすぎてゆく。
 真面目な話、いつも答えがあるとは限らないし、そして答えが一つだけとも決まっていない。
 でも疑問を感じたら、それを疑問で終わらせない事が大切。
 そうなんとなく子供達に伝わったら幸いだ、とビリーはスイカの種をプププと飛ばした、。
「柄でもないわな」
 ビリーは一人、己をぼやく。
 子供達の笑顔の中で、暑い夏の二日がすぎていったのであった。

★★★