ゲームマスター:田中ざくれろ
| ★★★ この夏は異様に暑い。 白熱の太陽光線が頭上から降り注ぎ、足元にくっきりと黒い影を焼きつける。 『オトギイズム王国』シューペイン領。 かつてジュディ・バーガー(PC0032)が随行した遍歴の老騎士『ドンデラ・オンド』公が静かに眠る土地。 青い麦畑が左右に広がる田舎道をモンスターバイクで駆け抜けながら、ジュディは懐かしき過去の記憶を思い浮かべていた。 神聖宗教の古風な教会に到着し、寺男として老騎士の菩提を弔い続ける『サンチョ・パンサ』を彼女は訪ねる。 再会を喜び、手土産を渡してから、お墓参りという意図を伝えた。 急用でもない限り、シューペイン領の近くまで来た際にはなるべく立ち寄ろうと心掛けている。 賑やかに咲き誇る花束を墓碑に捧げ、十字を切って黙祷。 多分、神聖宗教とは作法が異なるがきっとグランパなら笑って許してくれるだろう。 暑い風が吹いた。 軽くサンチョと世間話を交わし、次の来訪を約束しながら笑顔で立ち去った。 バイクのバックミラーから小さくなって消え去る教会の尖塔。 珍しい事に、ほろ苦さの混じったセンチメンタルな気分。 何処までも澄み切った青空が眼にしみた。 やがてジュディのバイクは王都『パルテノン』に帰ってきた。 王都の冒険者ギルドは、建物自体の規模が大きくサービスも充実している。 ジュディは二階の酒場が目的だったのだが、なんとなく途中の大掲示板に気を惹かれてしまった。 「ワッツ?」 彼女の野生の勘が何かを告げている。 「『連続自殺事件』の真相究明。……フムン、自分へのご褒美はしばらくお預けになるカモ?」 彼女は自分の心に素直に従い、興味を惹かれたクエストを受けた。 ――捜査中の事件に冒険者が割り込めば、感情的に面白いわけがないだろう。 実質的な事件の担当責任者だろう探偵『西城喜姫(さいじょう・きき)』に筋を通そうと、彼女を捜す。 ジュディの人当たりのよさなら波風を立てずに捜査に加われる――それは確信だった。 ★★★ 映画喫茶『シネマパラダイス』での五番目の連続自殺事件を知ったマニフィカ・ストラサローネ(PC0034)は、現場となったシネマパラダイスを弔問した。 TPOに合わせ、日頃の白い貫頭衣ではなく、喪服として黒いドレスを着用する。 被害者である『崎山多吉(さきやま・たきち)』とは面識がなかった。劇作家である彼のもう一つの顔『内臓ヶ埼切作(ないぞうがさき・きりさく)』としても同様だ。 オトギイズム世界に転移してきた経緯もあり、羅李朋学園の生徒達には家族と生き別れで身寄りがないケースが多い。崎山も例外ではないだろう。 いずれにせよ常連客の一人として、お悔やみを店主に伝えた。 現場を見やる。 この個室のドアの向こうで、犠牲者(?)は死んだのか。 ふと彼女に天啓が閃き『故事ことわざ辞典』を取り出す。 愛読書を紐解けば『お前が長く深淵を覗くならば、深淵もまた等しくお前を見返すのだ』という記述。 意味深げな警告に驚きつつ、再び頁をめくると『怪物と闘う者は、その過程で自らが怪物と化さぬよう心せよ』という警句が眼に入る。 ――是非に及ばず。 ――恐らく、これもノブレス・オブリージュに含まれるだろう。 天啓に、最も深き海底で微睡む母なる海神の導きを感じたマニフィカは、それに従って最寄りの冒険者ギルドへ赴く。 ――やはりだ。 そこに『ターキッシュ・ザッハトルテ』による連続自殺事件の真相究明依頼を見つけ、一も二もなく受諾する。 後は、安楽椅子探偵の如く、冒険者ギルドに集まる関連情報を精査するだけだ。 ★★★ いわゆる倦怠期を乗り越え、レッサーキマイラとの関係性を改善させたビリー・クェンデス(PC0096)は、相棒が住み着くパルテノン中央公園でボランティア活動に励んでいた。 ふと見上げれば、公園の片隅に建立された真新しい老騎士の銅像。 実は親友ジュディに頼まれ、ビリーはドンデラ公の記念碑を定期的に清掃していた。 「まあ、騎士の爺ちゃんとは知らん仲ちゃうし。徳を積むと思えば、これも修行の一環ちゅうわけやな」 空中浮遊やテレポート等、スキルやアイテムに恵まれたビリーは高所作業でも容易に手が届く。つまり面倒な足場や梯子が不用だ。 銅像をピカピカに磨き上げ、周囲の雑草もむしり終え、無意識に額の汗を拭う。 渇いた喉を『打ち出の小槌F&D専用』からの冷えた麦茶で潤しながら、ちょっとした充実感に浸る。 さて、まだ夕飯には早い時間帯。 暇潰しという感覚で、合成魔獣の相棒と冒険者ギルドに顔を出してみる事にする。 さて。 ギルドホールの大掲示板に貼られた大量のクエストから、とある一枚に眼がとまる。 連続自殺事件の真相究明。 「依頼主……ターキッシュ・ザッハトルテ?」 その高名な作家である彼とは、以前にも別のクエストを受け、面識があった。 「兄ぃ。その依頼を受けるんでっか。そんなのより早く公園へ戻って冷えたスイカ食べましょうや」 「うっさいわ。旧知の友が困ってるんや。見過ごすわけにいかんやろ」 ビリーは相棒の名も契約書類に丁寧に書き込むと、冒険者ギルドを後にした。 ザッハトルテの家を直接訪れ、更に詳しく事情を訊き出すのだ。 ついでに健康相談をするのもいいだろう。 ザッハトルテ自身が、小説執筆がまたスランプに陥っていると聞いている。 この依頼は、彼のスランプ脱出の為の取材なのではないか、とビリーも思った。 著述家や芸術家といったクリエイティブな分野に従事する人が自殺する場合、スランプを起因とするケースが多い。アイディア枯渇、精神的な忌避感、作業環境の悪化……いずれにせよ、スランプに陥る事はクリエイターの宿痾に等しい。 依頼主ザッハトルテも例外ではないだろう。ストレス軽減の為に、スキル&アイテムを用いた疲労回復やメンタルケアを施術してみよう。 「あれぇ。ビリーもこの依頼に興味をもったんですかぁ」 ギルドの玄関を出たところで、リュリュミア(PC0015)に出会った。 彼女もこのクエストに興味を持ち、依頼を受けたのだ。 「ターキッシュって、おはなしを聞きに来たひとですよねぇ。またなにか、おはなししたほうがいいんですかねぇ」 マイペース気味にこの依頼を独自解釈している彼女に、ビリーは面食らいながらも同行をお願いする。 リュリュミア。彼女には常識では計れない『何か』があるのだ。 まあ最低限、ザッハトルテから事情を訊き出せればいいのだ。そんなに難しい事ではない。 ――と思っていた彼らが思いがけない扱いをザッハトルテ自身から受けるのは、小説家の家に着いてからの事である。 ★★★ マニフィカは連続自殺事件に共通する特定の異常現象に対して、専門家の見解を聞く事にした。 魔術オカルト分野の視点から真相に迫ろうとしたのだが、この時点で同じくオカルト方面からアプローチしようとしていたジュディと合流する事になった。 ジュディは先日の酒場での醜態を『劇山冠(ジュウ・シャンガン)』に謝り、オカルトに強い狂科研部員の紹介を頼みたかったのだが、反オカルトたる科学の使徒である狂科研部員にオカルトとの二足の草鞋を履く者はなかなか見つからなかった。 最終的には何とか見つかったが、そんなに知識があると思えない人間にアドバイス料として大金をふっかけられる羽目となった。 すっかり財布が軽くなったジュディとマニフィカだが、二人して何とか事件の真相にアプローチしようと頑張る。 冒険者ギルドを根城にして、情報を集めようとする二人。 ジュディは探偵・西城喜姫を呼び出して彼女から捜査情報を訊き出す事にする。 シャーロック・ホームズの様な狩猟服を着たピンクフレームの眼鏡の彼女は、常に虫眼鏡を手放さない。 実質的な専任捜査官であろう喜姫が唇を曲げる。 「私に何か用なのかしら」 「ハイ、西城女史に質問!」ジュディは社交辞令や牽制は望まない。「プロデューサーであるメリッサ仁藤(メリッサ・にとう)についての捜査はどうなってるカシラ。重要参考人としてアリバイは完璧? 犯人である証拠もなさそうだけど、探偵の心証は真っ黒カナ?」 無遠慮に質問を並べたジュディに、探偵部所属の職業探偵は顔を曇らせる。 「私に訊くより仁藤に直接訊ねた方がいいと思うんだけど……現場不在証明は完璧よ。連続自殺が行われたと思しき日時には、仁藤は現場から離れた場所にいたわ。それはいつも違う人間に目撃されてるわ。連続自殺によって必ず利益を得ていた人間としては、心証は限りなく黒に近い灰色だけど、犯人だと決めつけるわけにはいかないわ。可能性を排除していって残ったものが真実に違いないけど、証拠が足りないのよ」 喜姫の表情は不満そう。 次いでマニフィカが、鑑識役をやっている『駅作純作(えきさく・じゅんさく)』と面会して話を聞く事にする。 三十代のずんぐりむっくりとした黒ジャージの駅作は、一人で冒険者ギルドにやってきた。 羅李朋学園鑑識研究会&鉄道部として、有志の鑑識としては唯一、全ての事件調査に関わっている男だ。 「これらの事件には二つの異常な物がありますわ」マニフィカは掌の二本の指を立てた。「まず凶器となった謎の拳銃。……有機物みたいな外見。自殺者の手に食い込む小さな触手。まさに異様ですわ。五つもサンプルがあれば、既に内部構造や材質を調査したはずですけれども、どうなっているかしら」 「拳銃は、拳銃の形と機能を備えた有機的な硬キチン質の『何か』としか言えないですな。細部は毎回違っていて、弾丸は内部に残っていません。口径も毎回違っていますが、頭部を吹き飛ばせるだけの威力はあります。触手がある事からも解る通り、半分生物の様な物ですが、回収された時には『死んだ』状態でしたな。触手は……何というか被害者と一体化する為に食い込んでいるかの様です」 「生物という事はDNA鑑定が出来るのではないですか」 「鑑定済みです。それぞれ自殺した者と同じDNAが検出されましたな」 生物銃か。マニフィカはうすら寒いものを覚えた。 「次に腹部の裂傷ですが、巨大な女性器という形状はあくまでも形成外科的なイミテーションでしょうか。それともきちんと機能を備えた本物でございますか?」 「外科手術でこしらえた物とは違うようですな。どうもいずれも自然発生した感じで、機能的には本物の女性器とは同じです。手についていた粘液の感じからして、拳銃はその女性器の中から取り出されたみたいですな」 駅作はそこまで説明して、持参のミネラルウォーターに口をつけた。 不気味な証言も喜姫には既知情報だったようで顔色一つ変わらない。 マニフィカは戸惑っていた。 ――男女を問わず事件の被害者全員がクリエイターと呼ばれる人種。 ――女性器とは、新たな生命を誕生させる源であり、生命の始まりを象徴する。 ――彼らは自殺という代償で『会心の一作』を生み出し、謎の拳銃は、文字通りトリガーとなった。 そんなシンボリックな魔術儀式を連想していたのだが、女性器が見たての為に人工的に作られたものではなく、自然発生した本物と聞くと儀式の為のお膳立てとは違うように思えてくる。 戸惑うマニフィカを心配そうに見やるジュディの脇で、喜姫は厚い手帳をめくった。 「駅作さん。あなたとメリッサ仁藤プロデューサーが交際関係にある事は、調べがついているんですけど……」 探偵の質問を聞いた駅作が突然顔を真っ赤にした。 「何だ!? そんな事は知らんですな!」 「しかし証言が複数とれているんですが」 「そんな馬鹿な! 個人のプライバシーだ! 大体、事件とは関係ない!」 駅作は飲んでいたミネラルウォーターの蓋を閉めて、携えていたショルダーバッグに詰め込むとテーブルから立ち上がった。 腹を立てた駅作が帰っていくのを見送るマニフィカとジュディ。 とりあえず集められた情報から、事件の真相を推理する事しか今は出来ないだろう。 ★★★ 銀色の夏。 泡立つようにセミが鳴く。 ターキッシュからの依頼を受けて独自に調べていたアンナ・ラクシミリア(PC0046)は、彼の家の前でリュリュミア、ビリー、レッサーキマイラと合流した。 アンナはここに着く前にプロデューサー・メリッサ仁藤を調査し、高級ビジネススーツを着た彼女本人からも話を訊いていた。 切作氏を含めた被害者が全員契約していたらしいメリッサが鍵を握っている、とアンナは思っていた。 特に気になるのは各被害者がいつ仁藤氏と契約したのか、どのような内容の契約を結んでいたか、だ。 「契約にあたって何か特別な物を渡しませんでしたか」 アンナはそうメリッサに訊いた。 どうも話だけを聞いていると、物語に出てくる悪魔の契約に似た感じを受ける。 創作活動に悩む人物につけこんでいる。そんな気がする。 「特別な物?」メリッサは首を傾げた。「質問の意味が解りかねますわ。創作のチャンス、という意味でなければ、菓子折りなどの差し入れ以外の何かでしょうか」 「思い当たる物がなければ特にいいですわ」 アンナの質問は空振りに終わった。 もっとももしメリッサに何かやましい事があったら、本人に直接訊いてそれを話してもらえるだろうか。 アンナは連続自殺事件の原因を明らかにして、新たな犠牲者を生み出さないようにしたいと考えている。 その為にも情報は集めたい。 既に、メリッサが鑑識の駅作純作の恋人であるという情報も入手している。彼女達がその仲を表には伏せているという事も。 「アンナさんはとりあえず経過情報をザッハトルテさんに伝えに来たんやな」 ビリーはザッハトルテ家の呼び鈴を押す段になって、アンナに確認した。 皆、情報を共有する仲間達だ。 「ええ。先程話した通り、自殺した被害者がメリッサ仁藤と契約を交わしたのが自殺する二週間前位から。契約の内容は、創作に対するバックアップを約束する代わりに、それから最初に創った創作物の一切の権利をメリッサ仁藤に譲渡する事。その契約は本人が死しても有効。……心証は真っ黒ですわね」 アンナは苦苦しく告げながら。視界の隅にリュリュミアの姿を入れていた。 「あまーいぷらむとか用意してきましたからぁ、冷やしてみんなでたべましょうねぇ」 リュリュミアは果物を入れた籠を下げている。 アンナは、眼前の立派なドアを自分の眼で確認した。 呼び鈴を押し、現れた使用人に案内されるままに三人と一頭は家の奥へと入っていった。 書斎にザッハトルテが椅子に座っていた。 高級そうな寝間着に小太りの身体を包んだ男は、口髭の先をワックスで尖らせている。 眠れないでいるのだろうか、眼がらんらんと輝いている。 久しぶりにザッハトルテに会った者達は、その眼の輝きにちょっと怖気を覚えた。とてもじゃないが精神的な不健康さが表れている。 「まいど! お久しぶりやねん、ザッハトルテさん。どや、眠れとるか」 ビリーは負けじと明るく振舞った。自分の、蓄積したストレスを心理系の状態異常と捉え『催眠療法』で回復、更に『指圧神術』と『針灸セット』の組み合せで体調を改善する『心身治療フルコース』によるボディ&ブレインの完全リフレッシュは、前回体験させたはずだ。今回も「是非ともお願いしたい!」と猫まっしぐらで向こうからとびついてくるのは間違いない、と自信を持って言える気持ちよさだ。 だが、その有頂天は、文豪の機嫌悪そうなギョロ眼に撃墜された。 「……何だ、お前達は。どうしてお前達がここにいるんだ! 何故こいつらを奥へ通した!? さっさと追い出せ!」 ザッハトルテの理不尽な言葉が場の空気をかき乱した。 使用人にあたるザッハトルテに、皆はたじたじとなる。 冒険者に依頼したのは彼ではないか。 なのに何故、怒鳴ってまで追い返そうとする。 「なんやなんや、無事に本を書きたくてボクらに依頼したんじゃないんか……!」 「リュリュミアは本とか読まないですけどぉ、おはなししたり聞いたりするのは好きですよぉ」リュリュミアは空気を読まずにザッハトルテに語りかける。「きりさくってひとのこときかせてもらえますかぁ。さいきんおはなししたりしてましたかぁ」 「そや。内臓ヶ崎切作が自殺とは思えない理由って……!」 「うるさい! とっとと帰れ!」 ザッハトルテは大きなテーブルの上にあったハードカバーの分厚い事典を投げつけた。 リュリュミアから伸びたツタが、それを彼女の顔の前で受け止める。 テーブルの上の原稿用紙が舞い散った。白紙の上には羽ペンによる文字が踊っている。執筆途中の小説らしかった。 アンナは重ねられて山になった未筆の原稿用紙の陰に、小さな古いテレビを見つけた。DVD世代の彼女がかろうじて知識としてだけ知っている、ブラウン管式のビデオ一体型テレビだ。 「こいつらを追い出せ!」 冒険者達は使用人によって部屋の外まで誘導された。 重い木のドアが閉まると、心苦しそうな使用人が「すみません。ご主人様は最近すっかりあのような調子で……」と謝ってきた。 アンナ達はザッハトルテの家から出るしかなかった。 「あらまあぁ。ずいぶんと虫のいどころが悪かったみたいねぇ。害虫ははやく退治したほうがいいのよねぇ」 「依頼したのはザッハトルテさんやないか。なんであんなに不機嫌なんや」 納得がいってなさそうな二人に、アンナは自分が見かけたテレビの事を話した。 夏の暑い陽射しが街並に黒い影を落としていた。 ★★★ 「「……『ヴィデオストーム』!?」」 「ええ。最近のその手のマニアの間では有名ですよ」 マニフィカとジュディが雇ったオカルト嗜好の狂科研部員が、バケツサイズのアイスクリームを大きなスプーンでたっぷりすくい取りながらアドバイスを与えた。 詳細は知られていない、謎の不可解な映画だ。一説にはその不条理な幻想めいた映像は観た者に多大なるインスピレーションを与えると言われている。 「都市伝説ではないかと疑われていますがね、どうやら本当に存在するらしいんですよ」彼はバニラの匂いの息を吐く。「狂った映画監督が制作したとも言われていますが、映画製作、上映の記録はなく、いきなりビデオテープの形で存在したと言われています」 最初の犠牲者、いや自殺者『獏田一成(ばくだ・かずなり)』が崎山と同じ様な状況で死んだのはもう六か月も前になる。 密室。 ビデオを観ながらの拳銃自殺。 不可解な謎の拳銃。 室内からビデオテープは発見されず。 全員いわゆるクリエイターと呼ばれる人間だった。 それがこの五人目の崎山までの共通項だった。 一人目『獏田一成』四二歳。『映画監督』。 二人目『相原美枝(あいはら・みえ)』三六歳。『BL推理作家』。 三人目『権藤太郎兵衛(ごんどう・たろうべえ)』二九歳。『ゲームデザイナー』。 四人目『ピエール斎藤(ぴえーる・さいとう)』三三歳。『漫画家』。 五人目『崎山多吉』二七歳。『劇作家』。 皆サブカルチャーに興味津津の自殺者だった。 「内容の詳細は解りませんが、その不可解な恐怖映像は観た者に類まれなるインスピレーションを与えるとも言われています。……そして観た者を発狂させるとも」 「獏田が制作者なのかしら」 「それは解りませんが、獏田が如何にも好みそうな映画であるのは確かだと言われています。ホラームービーですね」狂科研部員は制服から剥き出しになった太鼓腹を叩いた。「スナッフムービー、実際に行われた殺人を記録した実録映画だとも」 マニフィカとジュディは冒険者ギルド二階の酒場で、彼の言葉を聞きながムゥと唸った。周囲では話を聞かされている立場にある他の冒険者達が嫌そうな顔をしている。 このアドバイザーは眉唾物の知識が多い。言葉を一言一句、正確なものとして受け取るわけにはいかない。 「あ。二人ともここにいたのね」その時、探偵コスチュームを着た喜姫が階段を上って、酒場へとやってきた。手には数枚の書類コピーを持っている。「崎山の脳サンプルから腫瘍が発見されたわ。残念だけど、これまでの犠牲者の脳サンプルはないから、他に症例があるか解らないけど」 「キャンサー、腫瘍?」 「どれくらいの大きさなのですか?」 ジュディとマニフィカは驚いて、思わず喜姫に聞き返していた。 「かなりの大きさね。検視医に訊くと、二週間ほどで急速に成長した痕跡があるというのよ」 「ヴィデオストームだ……」狂科研部員はげっぷをしながら蒼い顔をした。「観た者に脳腫瘍を発生させると言われている……」 ジュディとマニフィカは素直に信じるわけにいかないと解っていても、その真剣な表情に戦慄した。 ★★★ |