家庭教師大作戦

ゲームマスター:烏谷コウ

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 あれやこれやと形代氷雪に注意や何やをした後、フロストはやっと出かけて行った。それだけ普段アンジェリカに苦労させられているのだろう、多分。

・・・・・

「あーあ、こーんないい天気なのに部屋でちまちま勉強なんて、やってらんないわ!」
 勉強を開始して数分後、アンジェリカ姫が椅子の上で伸びをした。机には開いた時そのままのまっさらなノート。家庭教師を引き受けたものの、勉強する気ゼロキログラムのアンジェリカに、さすがの氷雪も手を焼いていた。
「今日すべき事をすれば解放される。諦めてさっさと終わらせた方が得だと思うが?」

 嫌がるアンジェリカを説得し再度机に向かわせるが、やはり勉強に身が入ってはいないようだ。そこで得意の策略を使い、姫の興味を引く話題を例題にしつつ、駆け引きをしながらゲーム感覚で勉強を教えることにした。

「これはとある独善的な正義の味方を名乗る者と戦った時の話なんだが……」
「正義の味方?それって勇者ってこと?ね、それってどんな話??」
 氷雪の話にアンジェリカも興味を持ったようだ。話にそれとなく問題を織り交ぜる。

「その正義の味方の剣はxメートルを切り裂くことができたが、私の組織はyトンの攻撃を防ぐ防護壁を完成させていた。例えば剣の威力をaキログラム、一回の攻撃にb秒がかかるとした時、どれくらいで彼は防護壁を突破できだろうか?」
「ええと……威力がaキログラムあるんでしょ?そうね、それだったら……」
 上手くいったようだ。会話の一環と思ってか、氷雪の言葉に宿題を押し付けられていた時のような嫌悪感も示さない。これなら何事もなくこのアルバイトも終わるかもしれない。

・・・・・

 どうにか今日の予定の勉強が半分ほど進み、氷雪がアンジェリカから少し目を離したその時。ドアの閉まる音で振り向くと、アンジェリカは既に部屋から逃げ出してしまった後だった。

「やはりな、そろそろかと思っていた」
 得意の策略でアンジェリカの行動パターンを読んでいた氷雪は落ち着いていた。事前にアンジェリカの逃走するであろう経路も調べてある。超能力のテレポーテーションで、逃げ出したアンジェリカが通るであろう場所に瞬間移動する。

「どこへ行くつもりだ?アンジェリカくん」
 城の中庭を駆け抜けようとしたアンジェリカに声をかける。氷雪からまんまと逃げ切ったと思っていたのか、驚愕するアンジェリカ。

「げげっ!抜け出せたと思ったのにっ!!ていうかどこからわいて出たのよ!?」
「それは企業秘密だ」
 (企業じゃないけど)きっぱりと言い切り、アンジェリカの首根っこを捕まえる。アンジェリカはほっぺたを膨らませ、氷雪を睨みつけた。
「何よ!もう今日はいつもの十倍は勉強したわよ!そろそろ遊びに行ってもいいじゃないの!!」
「ダメだ」
 アンジェリカの抗議をばっさり切り捨てる。
「……というかこれで十倍なら、普段どれだけ怠けてるんだ?」
 少しだけ、この国の先行きが不安になるが、まあ臨時の家庭教師がそこまで気にすることではないのだろう。遊びに行くなら今日の分の勉強を終わらせてからだとアンジェリカに告げ、部屋へと戻ることにした。

「まあ、逃げたいと思うなら何度逃げても良いが逃走経路は事前に全て押さえてある。さあ、部屋に戻るぞ」
 淡々とした氷雪の言葉に逃げ場なしと思ったのか、アンジェリカはがっくりと肩を落としたのだった。

・・・・・

 こりずに脱走を企てるアンジェリカのせいで度々中断されたが、すっかり日も暮れた頃には本日の分の勉強をどうにか終わらせることができた。

「ううう……脱走をここまで阻止されたのは初めてよ」
 アンジェリカはぐったりと机に突っ伏している。

「そりゃ、56回も逃げ出そうとすれば体力も消耗するだろう。最初から大人しく机に向かっていれば半分以下の時間で終わる予定だったんだがな」
「もう!あなたのせいで全然外に出られなかったじゃない!」
 氷雪の言葉につっかかるアンジェリカだが、外に出られなかったのは脱走を企てた本人が悪いのだが。自業自得である。

「私の話が面白くなかったならその時そう言えばいい。そもそも、知識は学ぶ意欲のないものには身に付かないものだ」
「別に勉強が嫌で嫌で仕方ないってわけじゃないわ。人に私の行動を決められるのが嫌いなだけ。……ま、今日のあなたの話は面白かったわよ。それは認めてあげる」
 脱走未遂続きでアンジェリカの頭に内容が入っているかどうかはともかく、氷雪の授業は気に入ってもらえたようだ。

「ね、フロストの代わりに私の家庭教師にならない?あなたを雇ってもらえるよう、父様と母様に頼んであげるから」
 アンジェリカの誘いに、考えておく、と答える。毎日がこれでは少々苦労しそうだなとも思いつつ。

 こうして形代氷雪の長い一日は、どうにか無事に終わったのだった。

 後日、脱走の名人・アンジェリカ姫の脱走を見事な手腕で阻止した勇者としてユート・ピアでその名が語り継がれることになるが、それはまた別のおはなし。

(終わり)

◆獲得アイテム
「アンジェリカ姫の名教師」称号
1000シルバー
銘菓魔王城クッキー(フロストのお土産。あたりさわりのないクッキー。12枚入り)

【制作担当者一覧】
*イラストをクリックすると新画面に音声(MP3形式)がダウンロードされます。
本文制作・執筆:烏谷コウ シーンイラスト:真向十琉
形代氷雪cv・サウンドディレクター:彗 アンジェリカ姫cv:かやこ ナレーター:四里
グランドプロデューサー:秋芳美希


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