| 暗闇の軍事都市ゼネン ムーア北方最大の軍事都市ゼネンに捕らえられている者たちもいる。死体をも兵として動いている城塞ゼネンは、何故か高度な物質文明の産物であるらしい。そのエネルギー中枢は、異世界人である鷲塚拓哉(わしづかたくや)によって破壊される。 すべての光源を失って、漆黒の闇となる城内。そのゼネン領主は、三つの目を持つ『人』ではないものだとという。“神官の力”や“珍しい力”を欲しているらしい領主。ゼネンの戦いはこれからであった。 突然訪れた暗闇。この都市に囚われた青年ディック・プラトックは、その原因はわからないものの、この好機を逃す気はなかった。同じく囚われている子供たちの気配を察して彼らに小声で伝える。 「風術で弱い風を起こして、あたりの壁や通路を探るんだ。そこに壁があれば多少ながら風が戻ってくるし、そこが通路ならば風が通り行けるはずだからな」 「わかった!」 子供たちが微かな風を起こして脱出口を探す。 「! お兄ちゃん、あったよ!」「この左奥! どこかにつながってる!」「でもちっさくてお兄ちゃんは入れないよ!」 それは城を貫く通風孔であるらしかった。 「俺なら大丈夫だ。後から行くよ。とにかくおまえたちは、先にここから逃げるんだ」 一緒には逃げないというディックに不安がる子供たち。その頭を『癒しのハイタッチ』の技でなで、安心させたディックは言う。 「よし、いいか? もし、城から出たら商人にリクナビ使って自分達がどこにいるかっていうことを広めるんだ。そしたらそれに気づいた仲間が迎えに来るからなっ! もう俺がいなくても大丈夫だ! 頑張れよ!」 背中を叩いて子供たちを通風孔から脱出させるディック。子供たちの気配が遠のく時、城の中の明かりが一つ二つと灯り始めていた。 この真っ暗闇を作った拓哉は、自身が身に付けたフォースの流れと新式対物質検索機のデータを頼りに城内を移動していた。 「城の構造の大体の把握は出来ている以上、領主のいる場所は限られてくる……この通路を道なりに行けば方向的にはよいだろう」 いかにディックたちが検索不能箇所にいるとはいえ、いずれは合流できる確信が拓哉にはあった。容易に領主達の所に連れて行かれたと想像はつく拓哉は、細心の注意を払って進む。その進路には数多くの兵がいたのだが、拓哉の予測通り暗視に長けた者はいないようであった。 「この暗闇。城の中枢にはどうせ予備電源なり自動修復装置なりがあるだろうし、闇に包まれている時間は短いはず。追っ手を差し向けられる事も考えて迅速に行動しなければ」 そんな拓哉は、兵の途切れる隙と壁際の突起物を確認するなり、フォトンセイバーで壁に穴をうがっていた。 軍事都市ゼネン脱出 明かりが灯る時、ディックの前には満面に笑みをたたえたゼネン領主が立っていた。 「なるほど。そんな技もお持ちでしたか。ありがたくいただかせてもらいましょう。子供たちと、この城に入り込んだ虫の捕獲はいずれまた」 暗闇の中でも領主の持つ第三の目は、ディックの行動を“見”てしまったらしい。 「その技は……こんな技ですね」 領主が操る技。その冷たい手に触れられたディックは、理由のわからぬ心の癒しを感じてしまう。と同時に自分から力が抜け落ちてゆく感覚に襲われる。その様子を眺める領主は言いつのる。 「次はあなたの棒術を、見せてもらいましょうか?」 領主の言葉に、何故か逆らう気にはなれなくなってしまったディック。必死に気力をふりしぼって言葉を作る。 「そんなに力つけてどうするんだよ? もう……あんた十分強くないか?」 ディックのこの言葉は、自尊心の高い領主の気に入ったらしい。 「ほお、この状態でわたしを強者と認めるとは大したものですね」 「……そんなあんたが敬愛するって言うくらいだから、その人の事聞かせてもらいたいな」 ディックの周到な誘導に乗った領主が、ひょろりとした背をそらせる。 「では教えてあげてもいいでしょう……あの方とは、いと深き魔界の貴族……上級魔族とも称される一族におわす方です。その力、世界をもくだく力を持ちながら深き魔界の繁栄を望まれ、一介の魔物の地位に身をやつすこともいとわぬお方なのです」 領主の説明を聞くディックは、思いつくままに聞いてみる。 「その人ってのは……どこにいるんだ?」 「汚らわしい小娘の、側ですよ」 その事自体がいまいましいらしい領主。領主の言う“汚らわしい小娘”が亜由香だとわかるディックは思う。 『汚らわしい小娘って……一応ムーアの一番偉い人だけど。何でそんなこといえるんだ? この領主は亜由香の下に付く者じゃないのか?』 その時、ディックのいる部屋の天井が大音響と共に落下する。落下するそこには、光剣を手にした青年拓哉がいた。 「ディック、脱出しろ! 子供たちの後を追うぞ!」 けれど力が抜けていて思うように動けないディック。その体を支えて、拓哉が居室の扉をフォースの力を込めたフォトンセイバーで切り裂く。その派手な登場と手際の良さに、ゼネン領主が騒ぎ立てるまでしばしの時は稼げた拓哉であった。 「な、何をしているのです! 早くあの者たちを捕らえるのです! それに……あの光る剣とその力……何としても手に入れなくては!」 兵をヒステリックにせきたてるゼネン領主。新たな力を得たいと思うゼネン領主は、城内に分散する下僕たちの目を通して、ディックと拓哉の行方を探す。けれど、あらかじめ天井に入る際には、ダミーの穴を壁に作って来た拓哉である。その姿をゼネン領主が探し当てるのは、彼らが城を脱出してからであった。 |
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