「皇都太照機導帖」

ゲームマスター:飛鳥つばさ

【これまでの経過】 
NPCイラスト紹介:立花真由(たちばな・まゆ)◇  ◇世界紹介◇ ◇第壱回予告時導入部◇ ◇第壱回
第弐回予告◇ ◇第弐回◇   ◇第参回予告◇ ◇第参回新着分

【シナリオ参加募集案内】
導入:「亜梨沙とアリス」(第四回/全六回)

 ……立花科学技術研究所から、亜梨沙の姿が消えた。
 先日の七色鯨狩りの一件で、結局鯨捕獲に至らなかったことで、真由はそのも とになった亜梨沙を激しく責め、口の滑るまま親友をひどく傷つける言葉を言い 放ってしまった。
 亜梨沙はそれにひどく衝撃を受け、真由のもとから逃げ去り、そして戻ってこ なかった。
 真由は自分のやってしまったことをひどく後悔し、深く落ちこむ日々を送って いる。
「真由、亜梨沙を探しに行こう。そして謝ろうよ」
 励ましの言葉にも、発明少女はだだっ子のように首を振る。
「だめよ、あたしにそんな資格はない。あなたも聞いたでしょ? きれいごと言 ってたって、あれがあたしの本心だったんだ。あたし、あの子をうらやんで、馬 鹿にして、気持ち悪がってた……」
「それはさ、自分にない力を持ってたら、誰だってうらやむし、気持ち悪くも思 うよ。真由にだって、誰にも真似できない発明の才能があるじゃない」
「なによぉ、こんなもの」
 真由は力なくレンチを放った。かあんと空しい音が響く。
「こんな道具をいくら造ったって、人の気持ちが分からなきゃなんにもならない わよ。あたし、やっぱり発明なんて向いてないんだ。周りの人の気持ちなんか考 えずに、自分だけ満足してた……」
 これは相当重症だ。そう簡単には治りそうにない。
 例によって借金の取り立てに来たおみつも、珍しく歯切れの悪い口調で煙管を 吹かした。
「あの小娘に落ちこまれちゃ、あたしらもなんだが気が抜けちまうんだよ。毎度 毎度噛みついて来るのが、今となっちゃ楽しかった、ってか」
 それだけ言うと、おみつはそそくさと身をひるがえし、有造と無造の凸凹組を 促して立ち去って行った。
 そして、三人組と入れ替わるかのように、待ち望んでいた亜梨沙が帰って来た 。
 ……いや。
 確かに、背格好も波打つ髪の長さもそっくりだ。けれども今目の前に現れた少 女は、髪の色は銀色で、目は燃えるような紅をしている。亜梨沙は金色の髪で、 瞳は深い碧だった。
「キミは、誰?」
 とっさの問いにも亜梨沙にそっくりな少女は何も答えず、きれいにトリスティ アを無視して、一目散に研究所の中に駆けこむ。着ているものは随分と装飾過剰 な洋服だが、ずいぶんとほこりにまみれていた。
 正体不明の少女は初めて足を踏み入れる、発明品やらその部品やら失敗作やら が混沌と積み重なる研究所内を迷う様子もなく一気に駆け抜け、奥の作業場にう ずくまっている真由に、ほとんど飛びかかるように抱きついた。
 真由がその衝撃で鈍く顔を上げ、亜梨沙にそっくりな少女の顔をしばし見つめ る。
「アリサ? ……違う、そんなわけないかぁ」
「追われてるの。助けて」
 亜梨沙にそっくりな少女が、亜梨沙にそっくりな声で訴える。
「ちょっと、追われてるって、誰に?」
 静かに肩に手を置こうとしたが、少女はおびえたように震えて伸ばされた手か ら逃れた。子犬のように震えながら、ただ真由にしがみついている。
「アリサじゃない、あなた、誰?」
 助けを求める少女を拒むでもなく、突き放すでもなく、ただ無気力に尋ねた真 由に、少女はか細い声で一言だけ答えた。
「……アリス」
 何を恐れているのか、震える少女の胸に、血のように赤く宝石がきらめいてい た。

「養女、ですか」
 横羽外国人居留地。問い返す声に、館の主人であるサーペントは珈琲をくゆら せながら、鷹揚にうなずいた。
「先日、ふとした行き違いで喧嘩になってしまってね。そのまま、家から飛び出 してしまった」
 サーペントは一口珈琲をすすり、言葉を継ぐ。
「あの娘が外で妙な事を覚えたり、滅多な目に遭ったりしたらと思うと夜も眠れ ない。かといって顔見知りの女召では、気付かれて逃げられてしまう。一刻も早 く、養娘を連れ戻して来て欲しい」
 サーペントは一方的に告げると、懐から写真を取り出した。
「名前は『アリス』と言う。これが写真だ」
 白黒写真に着彩された少女の姿は、髪が銀色、瞳が紅であることを除けば、亜 梨沙にそっくりだった。
 ……やがて人が去り、静かになった部屋で、西欧軍人の富豪はひとり小さくつ ぶやく。
「『素材』も結局手に入らず、ようやく『片割れ』を手に入れたと思えば可愛い 娘には逃げられ……。うまく行かないものだな、世の中は」
 珈琲の湯気がかすかに揺れ、サーペントの唇に薄い笑みが浮かんだ。
「しかし、だからこそ世の中は面白い。君もそうは思わないかね?」
 鋭い視線の先では、少女が悲しい夢に涙を流しながら、深い眠りについていた 。


【アクション案内】

T1.亜梨沙の行方を探す
T2.落ち込んだ真由を励ます
T3.謎の少女「アリス」に関わる
T4.この機会に三人組を改心させる
T5.サーペントの養女捜索依頼を受ける
T6.その他の行動


【マスターより】

 リアクション完成が遅れてしまい、申し訳ありません。9月末から10月頭に かけて、色々なことが一度に起こりすぎて許容量オーバーしてしまった飛鳥つば さです。まだまだ修業が足りません。
「皇都太照機導帖」も前半参回を終え、次回からいよいよ本格的な話に入って行 きます。今回はのんびり鯨狩り……と思っていたら急展開。戻ってこない亜梨沙 の行方は? そして「アリス」と名のる謎の少女の正体は?
 あ、いや、プレイヤーの皆様にはおおかたお分かりでしょうが、キャラクター には分からない情報もある、ということで。皆様その前提で行動して下さいませ 。
 さて、恒例となりつつある、アクションのアドバイスを。
「皇都太照機導帖」はこれまで一回完結の話で、キャラクターの行動も「瞬間的 なインパクト」に優れるものが活躍につながる傾向がありました。
 しかし、後半からは連続した話の流れになります。このように数話に渡って続 くストーリーでは、単発のアピール度もさることながら、話の流れを見据えた、 長期的な視野に立ったアクションが重要になって来ます。
 自分の行動が、最終的にどんな結果をもたらすのか。それを考えながらプレイ されると、PCの活躍の場も広がるでしょう。
 蛇足ながら、これから皆様が参加されるシナリオが、「一話完結型」なのか「連続ストーリ ー型」なのかをとらえ、それに合ったアクションを考えて行かれるといいでしょ う。

 ここで別件のお知らせ。
 すでにご存じの方がおられるかも知れませんが、先日、私飛鳥つばさは(株) メディアワークス様「電撃萌王」誌主催の「萌王大賞」読者参加企画部門にて、 佳作受賞の栄誉を賜りました。
 応募作(受賞作)は未熟な点も多く、望外の高評価を得たことは嬉しさと共に 、なにやら申し訳ないような気持ちもあります。
 ともかく、今回の受賞を励みに今後ともより一層創作活動に精進して行く所存 です。

 それでは、次回も風雲急を告げる「皇都太照機導帖」にて皆様とお会いできれ ば幸いです。

【スケジュール】
2006年9月15日 飛鳥つばさマスターの担当降板降板が確定致しました。
今後、別の形で「皇都太照機導帖」シナリオが進められる状況になりましたら、お知らせさせていただきます。